(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】循環機構、移動体及び移送機構
(51)【国際特許分類】
B62D 57/024 20060101AFI20221122BHJP
B62D 55/247 20060101ALI20221122BHJP
F22B 37/02 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
B62D57/024 L
B62D55/247
F22B37/02 F
(21)【出願番号】P 2018163587
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】多田隈 建二郎
(72)【発明者】
【氏名】林 聡輔
(72)【発明者】
【氏名】田所 諭
(72)【発明者】
【氏名】大野 和則
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳都
(72)【発明者】
【氏名】長井 弘明
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-069787(JP,A)
【文献】特表2016-515016(JP,A)
【文献】特開2014-083985(JP,A)
【文献】米国特許第04715668(US,A)
【文献】特開2020-032865(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0045716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 57/024
B62D 55/247
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内膜と外膜とによる二層構造の柔剛切り替え式膨縮パッドにより対象物を捕捉する捕捉部を備え、前記対象物と前記捕捉部との間で相対的な移動動作を付与する
と共に、
前記内膜と前記外膜との間に粉体が封入され、前記内膜と前記外膜との間と前記内膜の内側とにそれぞれ流体の流入と排出が可能である循環機構。
【請求項2】
前記内膜と前記外膜は、いずれも、可撓性材料からなる
請求項1に記載の循環機構。
【請求項3】
前記柔剛切り替え式膨縮パッドを複数備える
請求項1又は請求項2に記載の循環機構。
【請求項4】
前記柔剛切り替え式膨縮パッドの剛性の柔モードと剛モードとを切り替える制御を行う制御部を備える
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の循環機構。
【請求項5】
前記柔剛切り替え式膨縮パッドの剛性を切り替える駆動部を備え、
前記制御部は、前記駆動部を制御して、所定の条件に応じて前記柔剛切り替え式膨縮パッドの柔モードと剛モードとを切り替える制御を行う
請求項4に記載の循環機構。
【請求項6】
前記制御部は、前記柔剛切り替え式膨縮パッドの柔モードと剛モードとを含む複数のモードを順番に切り替える制御を行う
請求項4又は請求項5に記載の循環機構。
【請求項7】
前記柔剛切り替え式膨縮パッドの柔モードと剛モードとを含む複数のモードを切り替える複段シリンジ機構を備える
請求項6に記載の循環機構。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の循環機構を備える移動体。
【請求項9】
前記循環機構を前記対象物側に押し付ける押しつけ力付与機構を備える
請求項8に記載の移動体。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の循環機構を備える移送機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環機構、移動体及び移送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
循環機構は、対象物と当該循環機構との間で相対的な移動動作を付与する機構であり、この性質を利用して、移動面に対して移動力を発生させる移動体や、対象物を移送させる移送機構に利用されている。
【0003】
そして、このような循環機構を備える移動体は、通常の路面とは異なる、より走行が困難な環境での移動の要請がある。
例えば、運転に伴い摩耗による減肉や破損、燃え殻の付着による隆起等が生じる火力発電用ボイラの火炉内壁の検査において、火炉内壁の移動に使用が検討されている。
【0004】
火炉内壁の検査は、定期的に行う必要性があるが、人手を用いて検査する場合には、足場を組み、内壁全体を検査する必要があることから、コストや作業負担が大きくなる。このため、近年は、このような検査には、いわゆるドローンのような無人航空機の使用が提案されている(例えば、非特許文献1~3参照)。
また、永久磁石を用いて火炉内壁に吸着しながら過度な着脱力を必要としない移動体であるIBM(Internally Balanced Magnetic Unit)クローラ式吸着移動ロボットシステムが提案されている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Janosch Nikolic、“A UAV system for inspection af industrial facilities”inAerospace Conference、IEEE、2013年、p.1-8
【文献】Shinya Kita、“The proposal of swarm type wall climbing robot system”Anchor Climber”the design and examination of adhering mobile unit” in Intelligent Robots and Systems, 2005.(IROS 2005). 2005 IEEE/RSJ International Conference on、IEEE、2013年、p.475-480
【文献】Akio Yamamoto. Takumi Nakashima、Toshiro Higuchi、“Wall climbing mechanisms using clectrostatic attraction generated by flexible electrodes”in Micro Nano Mechatronics and Human Science, 2007. MHS'07. International Symposium on、IEEE、2007年、p.389-394
【文献】小澤将生、多田隈建二郎、岡田佳都、田所諭、“内部力補償型磁気吸着クローラ機構”第18回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会、2017年、p.1078-1080
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1~3に示すドローンのような無人航空機は、質量の大きなセンサを用いた高精度の網羅的点検が困難であった。
一方、非特許文献4に示すクローラ式吸着移動ロボットシステムは、火炉内壁のように、凹凸を有する壁面に対して循環機構であるクローラが密着状態を維持することが難しく、壁面を移動することが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、凹凸を有する対象物に対して相対的な移動動作を付与する循環機構、移動体及び移送機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る循環機構は、内膜と外膜とによる二層構造の柔剛切り替え式膨縮パッドにより対象物を捕捉する捕捉部を備え、前記対象物を前記捕捉部により相対的な移動動作を付与すると共に、
前記内膜と前記外膜との間に粉体が封入され、前記内膜と前記外膜との間と前記内膜の内側とにそれぞれ流体の流入と排出が可能である構成である。
【0009】
本発明に係る移動体は、上記循環機構を備える構成である。
【0010】
本発明に係る移送機構は、上記循環機構を備える構成である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹凸を有する対象物に対して相対的な移動動作を良好に付与する循環機構、移動体及び移送機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】発明の実施形態である無限軌道型の移動体としてのクローラ機構の概略構成図である。
【
図2】
図1におけるクローラ機構のV-V線に沿った断面図である。
【
図3】クローラ機構1が有する循環機構の斜視図である。
【
図5】
図5(A)~
図5(D)は変化する膨縮パッドの四つの態様を変化の順番で示した断面図である。
【
図6】
図6(A)は
図5(C)におけるZ部分の拡大図、
図6(B)は
図5(B)におけるZ部分の拡大図を示している。
【
図7】
図7(A)~
図7(C)は複段シリンジ機構の断面図であって、膨縮パッドに対する作動圧の供給動作を示している。
【
図8】移動力付与機構を押し付け力付与機構として機能させる例を示すクローラ機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の概略]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は無限軌道型の移動体としてのクローラ機構1の概略構成図、
図2は
図1におけるV-V線に沿った断面図、
図3はクローラ機構1が有する循環機構10の斜視図、
図4は循環機構10の側面図である。
図4における矢印Fは循環機構10の進行方向を示している。
【0014】
クローラ機構1は、図示しないセンサ等の検査装置を搭載し、火炉内壁Wに沿って移動を行いながら当該火炉内壁Wの状態を検査する作業用ロボットとして機能する。
このクローラ機構1は、対象物としての火炉内壁Wに沿って移動を行う循環機構10と、循環機構10の火炉内壁Wに沿った移動動作を付与する移動力付与機構100とを備えている。
【0015】
[循環機構]
循環機構10は、柔剛切り替え式膨縮パッド20(以下、膨縮パッド20とする)によって対象物としての火炉内壁Wを捕捉する捕捉部30を備える複数の膨縮ユニット40と、複数の膨縮ユニット40をチェーン12で連結した履帯14と、履帯14を循環運動可能に保持するスプロケット16と、後述する捕捉部30の操作ロッド56(
図7(A)~
図7(C)参照)を操作するカムプレート18とを備える。
さらに、循環機構10は、スプロケット16を回転自在に支持し、かつ、カムプレート18を固定的に支持する装置フレーム19とを備える。
【0016】
クローラ機構1を備える循環機構10は、履帯14を構成する膨縮ユニット40の柔剛切り替え式膨縮パッド20が履帯14の搬送によって循環移動を行う際に、対象物である火炉内壁Wを捕捉することで、凹凸のある火炉内壁Wに対して姿勢を崩すことなく履帯14を密着させ、高いホールド性で良好な壁面移動を実現する。
かかるクローラ機構1の各部について詳細に説明する。
【0017】
[履帯]
履帯14は、複数の膨縮ユニット40を左右一対のチェーン12によって無端環状に連結して構成される。
膨縮ユニット40は、履帯14の幅方向に長い略直方体形状を有し、複数の膨縮ユニット40の長手方向の両端が左右2つのチェーン12にそれぞれ接続されている。なお、本実施形態において、左右とは、走行面に平行でかつ履帯14の推進方向に直交する方向と定義する。
複数の膨縮ユニット40は、チェーン12の長手方向に等間隔に接続され、また、各膨縮ユニット40は、膨縮パッド20が履帯14の外周側に向けて突出するように保持し、操作ロッド56を内周側に向けて接続されている。
【0018】
[膨縮ユニット]
膨縮ユニット40は、左右方向に並んだ三つの捕捉部30を備えている。なお、捕捉部30の数は、三つに限定されず、一つ又は複数であれば良い。
各捕捉部30は、膨縮パッド20と、当該膨縮パッド20の剛性を切り替える複段シリンジ機構50とを備えている。
【0019】
[膨縮パッド]
図5(A)~
図5(D)は変化する膨縮パッド20の四つの態様を変化の順番で示した断面図である。
膨縮パッド20は、後述した参考文献[1],[2]に示す粉体ジャミング転移を利用したグリッパの技術を応用している。また、この膨縮パッド20は、参考文献[4]~[6]のグリッパ、袋構造を応用したものである。
この膨縮パッド20は、内膜21と外膜22による二層構造となっており、内膜21と外膜22の隙間空間には粉体23が封入されている。また、内膜21と外膜22は、保持部材24により保持されている。
【0020】
内膜21は、膨縮可能な可撓性材料からなる袋状の部材であり、気密性又は水密性を備えている。そして、内膜21は、保持部材24により内部空間が密閉された状態で保持されている。
外膜22は、膨縮可能な可撓性材料からなる袋状の部材であり、気密性又は水密性を備え、内膜21を内包している。そして、外膜22は、保持部材24により内部空間(厳密には、外膜22と内膜21の隙間空間)が密閉された状態で保持されている。
また、内膜21及び外膜22は、膨張状態で図示のように半球状となる。なお、膨張時の形状については、半球状に限定されず、円錐状、角錐状、半長球状、円柱状、その他のように、一方に膨出した形状であれば良い。
なお、内膜21及び外膜22は、前述した履帯14の外周側に向けて膨出するように膨縮ユニット40が支持されている。
【0021】
粉体23は、内膜21の外面と外膜22の内面との間の隙間空間において、内膜21の外面全体に行き渡るように敷き詰められている。
この粉体23は、強磁性体からなる磁石粉末が利用されている。前述したように、循環機構10は、火炉内壁Wに沿って移動することを目的としており、火炉内壁Wは鉛直上下方向に沿った複数の鉄製の金属パイプを左右に並べて連接した壁面構造からなる。
従って、粉体23を磁石粉末とすることにより、循環機構10の移動時に、各膨縮パッド20が磁力によって当該循環機構10を火炉内壁W側に押し付ける押しつけ力付与機構として機能することとなる。
なお、粉体23を磁石粉末とする替わりに、前述した内膜21又は外膜22のいずれか一方又は両方を、可撓性を有するマグネットシートで構成してもよい。
或いは、内膜21の内側面に複数のマグネットを敷き詰めるように設けてもよい。
また、他の押しつけ力付与機構を備える場合には、粉体23は、磁石粉末ではなくとも良い。但し、粉体23は、粉体ジャミング転移を実現するためには、先鋭形であること、粒形・サイズが均一でないこと等が望ましい。粉体23の材料としては、セラミックを挙げることが出来るが、他の材料でも良い。
【0022】
また、保持部材24は、内膜21の内部空間に対する作動流体の流入・排出が行われる第一の入出口241と、内膜21の外面と外膜22の内面との間の隙間空間に対する作動流体の流入・排出が行われる第二の入出口242とが形成されている。
なお、上記作動流体は気体、液体いずれでも良いが、本実施形態ではエアー(大気)を例示する。
【0023】
そして、上記粉体23が、粉体ジャミング転移の対象となる。粉体は、粉体を構成する個々の粒子間に気体や液体等の流体が入り込んで粉体の密度が低い状態では液体のような高い流動性を生じる状態となり、流体が除去されて粒子間が密になって粉体の密度が一定以上となると、固体のように剛性を有する状態となる。粉体のこれらの切り替わり現象を粉体ジャミング転移という。
従って、内膜21と外膜22の間の隙間空間内の粉体23中に流体が適度に存在した状態では、内膜21及び外膜22は、その可撓性により自在に膨縮し変形する。そして、内膜21と外膜22の間の隙間空間内の粉体23中から流体が除去されると、粉体23に剛性が生じ、内膜21及び外膜22は流体が除去される直前の形状で固められる。
【0024】
膨縮パッド20は、
図5(A)~
図5(D)に示すように、四つのモードを段階的に実行することで粉体ジャミング転移を発生させる。
図6(A)は
図5(C)におけるZ部分の拡大図、
図6(B)は
図5(B)におけるZ部分の拡大図である。
まず、
図5(A)に示すように、内膜21と外膜22の隙間空間内には適度にエアーを供給した状態であり、内膜21の内部空間にもエアーを供給する膨張モードとする。これにより、粉体23の密度は低下し、内膜21及び外膜22は変形が容易な状態となる。そして、内膜21の内部空間へのエアー供給により、例えば、膨縮パッド20がその時に当接している火炉内壁Wの形状に合致する形状で外側に膨らんだ状態となる。
【0025】
次に、
図5(B)に示すように、内膜21と外膜22の隙間空間内のエアーが排気される剛モードとする。これにより、
図6(B)に示すように、粉体23の密度が上昇し、内膜21及び外膜22がその時に当接している火炉内壁Wの形状に合致する形状を維持したまま固くなり、膨縮パッド20は高い剛性を示す状態となる。
【0026】
次に、
図5(C)に示すように、内膜21と外膜22の隙間空間内にエアーが供給される柔モードとする。これにより、
図6(A)に示すように、粉体23の密度が低下し、内膜21及び外膜22が軟化した状態となる。
【0027】
次に、
図5(D)に示すように、内膜21の内部空間内のエアーが排気される収縮モードとする。これにより、膨縮パッド20全体が収縮した状態となる。
【0028】
火炉内壁Wに沿って移動を行う場合に、上記四つのモードを適正なタイミングで順番に切り替えることで、良好な走行を実現する。
つまり、膨縮パッド20が火炉内壁Wに接する際に膨張モードとすることで、凹凸の多い火炉内壁Wの壁面形状に応じて膨縮パッド20の内膜21及び外膜22が変形する。
そして、剛モードに切り替わると、膨縮パッド20は火炉内壁Wの壁面形状に倣った形状で固くなる。これにより、対象物としての火炉内壁Wは、膨縮パッド20に密着された状態で捕捉される。そして、履帯14が膨縮ユニット40を搬送すると、当該搬送方向とは逆方向に循環機構10の移動が行われる。そして、膨縮パッド20は火炉内壁Wの壁面形状に倣って変形硬化しているので、火炉内壁Wを強固に捕捉することができ、循環機構10の良好な移動が実現される。
そして、膨縮パッド20が火炉内壁Wから離れる際に柔モードに切り替えられ、火炉内壁Wに密着した状態から容易に離隔状態に移行する。
さらに、膨縮パッド20は収縮モードに切り替えられることで収縮し、再び、火炉内壁Wに接する際にその形状に倣って膨らませることが出来る状態で待機する。
【0029】
なお、内膜21と外膜22の隙間空間は、隔壁により複数のエリアに分割することで、粉体23の偏りを防ぐ構造としても良い。その場合、隔壁は、エアー等の作動流体を通し、粉体は通過しにくい材質又は構造とすることが望ましい。
また、
図2に示すように、膨縮ユニット40は、左右方向に膨縮パッド20が三つ並んだ状態で配置されるが、三つの膨縮パッド20の内膜21と三つの膨縮パッド20の外膜22とを、それぞれ一枚のシートから形成しても良い。その場合、二枚のシートから形成される三つの膨縮パッド20は、内膜21と外膜22の隙間空間は作動流体が個別に入出されるように三つに仕切っても良い。
また、三つの膨縮パッド20のそれぞれの隙間空間に対して一括的に作動流体が入出されるように、作動流体の流通を許容する構造としても良い。
【0030】
[複段シリンジ機構]
図7(A)~
図7(C)は複段シリンジ機構50の断面図であって、膨縮パッド20に対する作動圧の供給動作を示している。
この複段シリンジ機構50は膨縮パッド20と同数設けられ、それぞれが一対一で膨縮パッド20に接続されているが、左右に並んだ三つの膨縮パッド20に対して一つの複段シリンジ機構50で作動圧を供給する構成としても良い。
【0031】
複段シリンジ機構50は、作動流体であるエアーの排出・吸入を行うメインシリンジ51及びサブシリンジ52と、サブシリンジ52内のピストン53と、サブシリンジ52内でピストン53を片側に加圧する弾性体としての加圧ばね54とを備えている。
【0032】
メインシリンジ51は、円筒状であって、一端部が広く開口し、他端部が閉塞すると共に流路を介して膨縮パッド20の保持部材24の第一の入出口241に接続されている。
サブシリンジ52は、円筒状であって、両端部が閉塞すると共に片側の端部は流路を介して膨縮パッド20の保持部材24の第二の入出口242に接続されている。
そして、サブシリンジ52は、その外径がメインシリンジ51の内径に略一致し、当該サブシリンジ52をメインシリンジ51に挿入してピストンとして機能させることが出来る。
【0033】
サブシリンジ52は、メインシリンジ51の開放側の端部から挿入され、挿入深度方向に沿った移動によりメインシリンジ51内のエアーの排出・吸入を行うことができる。以下、サブシリンジ52がメインシリンジ51の閉塞端面511側に移動する方向を押し込み方向Sとし、サブシリンジ52がメインシリンジ51の開放端部側に移動する方向を引っ張り方向Pとする。
メインシリンジ51は、サブシリンジ52が押し込み方向Sに向かって移動すると、内部のエアーが排出され、サブシリンジ52が引っ張り方向Pに向かって移動すると、内部にエアーを吸引する。
なお、サブシリンジ52の外周面とメインシリンジ51の内周面との間にはOリング512が介挿され、これらの相互間は高いシール性が確保されている。
【0034】
また、メインシリンジ51の閉塞端面511には、サブシリンジ52の押し込み方向Sへの最大押し込み位置を調節するストッパー55が設けられている。このストッパー55は、ネジ式であり、回転操作によりその先端部の押し込み方向Sにおける位置が変動する。サブシリンジ52は、メインシリンジ51内で押し込み方向Sに移動すると、ストッパー55の先端に当接し、それ以上の押し込み方向Sへの移動が制止される。
この構造により、ストッパー55はメインシリンジ51からの作動流体の排出量を調節することができる。
また、複段シリンジ機構50は、ストッパー55にサブシリンジ52が当接すると、ピストン53の移動が開始される構造のため、ストッパー55の回転操作により、メインシリンジ51からの作動流体の排出とサブシリンジ52による作動流体の吸引の切り替えタイミングを調節することができる。
【0035】
ピストン53は、その外径がサブシリンジ52の内径に略一致し、当該サブシリンジ52内において、前述したサブシリンジ52の移動方向に対して平行に移動して、サブシリンジ52内のエアーの排出・吸入を行うことができる。
サブシリンジ52の引っ張り方向P側の閉塞端面521には、内部のピストン53に連結された操作ロッド56を通す挿通孔522が形成されている。
【0036】
なお、ピストン53の外周面とサブシリンジ52の内周面との間にはOリング523が介挿され、これらの相互間は高いシール性が確保されている。
また、同様に、ピストン53に連結された操作ロッド56の外周面とサブシリンジ52の挿通孔522の内周面との間にもOリング524が介挿され、これらの相互間も高いシール性が確保されている。
【0037】
サブシリンジ52の内部は、ピストン53により二分されており、当該ピストン53の引っ張り方向P側(サブシリンジ52における吸引方向)の内部空間が前述した膨縮パッド20の保持部材24の第二の入出口242に接続されている。
そして、サブシリンジ52は、当該サブシリンジ52に対してピストン53が押し込み方向Sに向かって移動すると、内部にエアーを吸引し、ピストン53が引っ張り方向Pに向かって移動すると、外部にエアーを排出する。
つまり、サブシリンジ52が排出を行う移動方向及び吸引を行う移動方向とピストン53が排出を行う移動方向及び吸引を行う移動方向は、互いに逆向きとなっている。
【0038】
サブシリンジ52内には、ピストン53を引っ張り方向P側に加圧する加圧ばね54が設けられている。この加圧ばね54は、一端部がピストン53に、他端部がサブシリンジ52に連結された圧縮ばねである。
この加圧ばね54は、サブシリンジ52内でピストン53を引っ張り方向P側に押圧する機能と、ピストン53を介して操作ロッド56から入力される押し込み方向S側への押圧力を当該サブシリンジ52に伝達する機能とを有している。
【0039】
上記加圧ばね54のバネ定数をk、操作ロッド56を押し込み方向S側に押し込むときに入力する力をF、
図7(A)の状態で加圧ばね54がピストン53を引っ張り方向P側に押圧する力をF
1とすると、次式(1)及び(2)が成立する。
0≦F≦F
1 …(1) 但し、d=0、k=0
0≦F
1≦F …(2) 但し、d≠0、k=定数
【0040】
上記複段シリンジ機構50は、当初は、
図7(A)に示す状態、即ち、メインシリンジ51に対してサブシリンジ52が最大限に引っ張り方向P側に位置し、サブシリンジ52に対してピストン53が最大限に引っ張り方向P側に位置する状態にあるとする。
そして、初期押圧力F
1よりも小さい力Fで操作ロッド56が押し込み方向S側に押し込まれると、
図7(B)に示すように、ピストン53とサブシリンジ52とは相対的な位置関係を維持したままの状態でサブシリンジ52がストッパー55によって制止される位置まで押し込み方向S側に押し込まれる。
この過程において、メインシリンジ51からはエアーが排出され、メインシリンジ51に接続された膨縮パッド20の内膜21の内部空間にエアーが供給されて膨張モードとなる(
図5(A)参照)。
【0041】
そして、
図7(B)の状態から、さらに、初期押圧力F
1よりも大きな力Fで操作ロッド56が押し込み方向S側に押し込まれると、加圧ばね54が収縮しながらサブシリンジ52に対してピストン53が押し込み方向S側に移動を開始する。
そして、
図7(C)に示すように、ピストン53とサブシリンジ52内で押し込み方向S側の端部近傍まで押し込まれる。
この過程において、サブシリンジ52内にエアーが吸引され、サブシリンジ52に接続された膨縮パッド20の内膜21と外膜22との隙間空間内のエアーが排気されて剛モードとなる(
図5(B)参照)。
【0042】
そして、
図7(C)の状態から、操作ロッド56を引っ張り方向P側に引っ張ると、サブシリンジ52に対してピストン53が引っ張り方向P側に移動を開始する。このとき、サブシリンジ52は、加圧ばね54により、押し込み方向S側に押圧されているので、メインシリンジ51に対して移動が行われない。
そして、
図7(B)に示すように、サブシリンジ52内でピストン53が引っ張り方向P側の端部近傍まで移動する。
この過程において、サブシリンジ52内のエアーが排出され、サブシリンジ52に接続された膨縮パッド20の内膜21と外膜22との隙間空間内にエアーが供給されて柔モードとなる(
図5(C)参照)。
【0043】
そして、
図7(B)に示す状態から、さらに、操作ロッド56が引っ張り方向P側に引っ張られると、
図7(A)に示すように、ピストン53とサブシリンジ52とは相対的な位置関係を維持したままの状態でサブシリンジ52がメインシリンジ51における引っ張り方向P側の端部まで移動する。
この過程において、メインシリンジ51内にエアーが吸引され、メインシリンジ51に接続された膨縮パッド20の内膜21の内部空間内のエアーが排出されて収縮モードとなる(
図5(D)参照)。
【0044】
このように、複段シリンジ機構50は、操作ロッド56及びピストン53が1ストローク分の往復動作を行うことにより、二つの異なる対象に対して、流体の供給と回収とを各対象ごとに個別に行うことができる。
また、二つの異なる対象に対して二つのシリンジ機構を用いる場合に比べて、装置の小型化及び軽量化を実現することが可能となる。
【0045】
ここで、上記捕捉部30の膨縮パッド20の内膜21と外膜22との隙間空間とサブシリンジ52との間に圧力計を設け、複段シリンジ機構50の操作ロッド56に往復動作を入力して、膨縮パッド20の膨張モード、剛モード、柔モード、収縮モードを順番に切り替えたときの、膨縮パッド20の内膜21と外膜22との隙間空間とサブシリンジ52との間の圧力変化の計測を行ったときの計測結果を示す。
【0046】
まず、膨張モードに到る手前の段階、即ち、膨縮パッド20の内膜21の内部空間にエーが供給されて、膨縮パッド20が半球状に膨らみつつも、まだ、最大圧力に達していない状態では(
図7(A)から
図7(B)に到る途中の状態)、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、初期圧力である0.1[kPa]であった。
そして、
図7(B)に示す、サブシリンジ52がメインシリンジ51の押し込み方向S側に最大限に押し込まれた状態(膨張モード)でも、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、0.11[kPa]に保たれていた。
そして、
図7(C)に示す、ピストン53がサブシリンジ52内で押し込み方向S側に最大限に押し込まれた状態(剛モード)では、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、-2.11[kPa]まで減圧された。
次いで、
図7(B)に示すように、ピストン53がサブシリンジ52内で引っ張り方向P側の端部まで操作ロッド56が戻されると、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、3.31[kPa]まで上昇した。
その後、
図7(B)から
図7(A)に到る途中のサブシリンジ52が引っ張り方向P側に最大限移動する手前の状態では、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、初期圧力である0.11[kPa]まで低下した。
さらに、
図7(A)に示すように、サブシリンジ52が引っ張り方向P側に最大限移動したが、内膜21と外膜22との隙間空間の内部圧力は、初期圧力である0.11[kPa]がそのまま維持された。
【0047】
このように、複段シリンジ機構50は、膨縮パッド20を四つのモードに切り替える際の操作ロッド56及びピストン53の1ストローク分の往復移動動作の過程で、膨縮パッド20をそれぞれのモードに適した作動圧で内膜21と外膜22との隙間空間に対してエアーの供給及び回収を行っていることが計測により示された。
【0048】
なお、上述した複段シリンジ機構50は、流体により作動圧を供給すべき二つの対象に対して加圧と減圧を個別に行う他のあらゆる用途にも使用することができる。
【0049】
また、複段シリンジ機構50は、操作ロッド56の一往復で、加圧-減圧-加圧―減圧のサイクルを実行する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、加圧-加圧-減圧―減圧のサイクルを実行する構成としても良い。
【0050】
また、加圧ばね54のバネ圧を調整して、上記四つのサイクルの内の二つずつのサイクルが同時に進行する構成としても良い。
また、複段シリンジ機構50は、メインシリンジ51の内側にサブシリンジ52が入り、その内側にピストン53が入る構成だが、サブシリンジの内側に入る別のサブシリンジを新たに設ける等によりシリンジ数を増やして段数を増やすことで、操作ロッド56の一往復で、より多くのサイクルを実行する構成としても良い。
【0051】
[スプロケット]
スプロケット16は、スプロケット軸17を介して装置フレーム19に回転自在に支持されている。スプロケット16は、左右方向に沿って配設されたスプロケット軸17の両端部にそれぞれ設けられている。また、スプロケット軸17は、循環機構10の進行方向の前側端部と後側端部とにそれぞれ設けられている。
本実施形態のクローラ機構1は、循環機構10の外側に設けられた移動力付与機構100によって推進力を得る構成となっているが、循環機構10内部に駆動源を設け、スプロケット軸17を介して各スプロケット16の回転駆動を行う構成としても良い。
【0052】
[カムプレート]
膨縮ユニット40の捕捉部30は、複段シリンジ機構50を備え、当該複段シリンジ機構50の操作ロッド56に1ストローク分の往復動作を入力することにより、捕捉部30の膨縮パッド20を膨張モード、剛モード、柔モード、収縮モードに切り替えることが可能である。
そして、循環機構10が火炉内壁Wを移動する際、各膨縮ユニット40の捕捉部30の膨縮パッド20が適正なタイミングで上記各モード切替を行うように操作ロッド56を操作することで、火炉内壁Wの凹凸に対応して循環機構10を火炉内壁Wから離脱させることなく安定的に移動し続けることができる。
本実施形態のクローラ機構1は、操作ロッド56を介して各膨縮パッド20の四つのモードを切り替える制御を行う制御部として、循環機構10の移動に合わせて他の動力なしに上記制御を行うカムプレート18を備えている。
なお、このカムプレート18は、参考文献[3]に示すカム機構を応用したものである。
【0053】
カムプレート18は、循環機構10の各膨縮ユニット40が、循環機構10の片面側(火炉内壁Wとの対向側)を通過する場合であって、循環機構10の進行方向前側のスプロケット16からチェーン12が離れる位置を通過する前後のタイミング(火炉内壁Wに接するタイミング)で、各膨縮パッド20を膨張モードと剛モードとに順番に切り替える。
また、各膨縮ユニット40が、循環機構10の片面側(火炉内壁Wとの対向側)を通過する場合であって、循環機構10の進行方向後側のスプロケット16にチェーン12が差し掛かる位置を通過する前後のタイミング(火炉内壁Wから離れるタイミング)で、各膨縮パッド20を柔モードと収縮モードとに順番に切り替える。
【0054】
前述した捕捉部30の複段シリンジ機構50の操作ロッド56は、外部に突出した先端部にカムの従節となるコロ561が回転可能に装備されている。
カムプレート18は、各捕捉部30の操作ロッド56に設けられたコロ561を通過させると共に操作ロッド56に進退移動をさせるようにコロ561を誘導するカム溝181が形成されている。
【0055】
図4に示すように、カムプレート18のカム溝181は、各捕捉部30の操作ロッド56がその往復移動方向について位置変化を生じない第一区間K1、変化を生じる第二区間K2、変化を生じない第三区間K3、変化を生じる第四区間K4、変化を生じない第五区間K5が循環移動方向に順番に連なるように形成されている。
【0056】
上記第一区間K1は、各膨縮ユニット40の捕捉部30が、循環機構10の火炉内壁Wとの対向側であって、進行方向前側のスプロケット16からチェーン12が離れる位置よりも幾分上流側を通過する際に、操作ロッド56のコロ561が通過する区間である。
この第一区間K1は、カム溝の形状がスプロケット軸17を中心とする円弧状であり、当該第一区間K1内を通過している間、スプロケット軸17の周囲を周回移動するコロ561は、操作ロッド56の往復移動方向について位置変化を生じない。
また、この第一区間K1を通過しているときの操作ロッド56の往復移動方向におけるコロ561の位置は、操作ロッド56をその往復移動範囲内の最も引っ張り方向P側にする位置(
図7(A)の位置)となっている。
【0057】
上記第二区間K2は、第一区間K1の下流側に連なっている。そして、第二区間K2は、各膨縮ユニット40の捕捉部30が、循環機構10の火炉内壁Wとの対向側であって、進行方向前側のスプロケット16からチェーン12が離れる位置を含むその前後を通過する際に、操作ロッド56のコロ561が通過する区間である。
この第二区間K2は、カム溝の形状が循環機構10の進行方向に対して傾斜しており、当該第二区間K2内を通過している間、コロ561は、火炉内壁W側に徐々に接近する方向に移動して、操作ロッド56を押し込み方向S側に移動させる。第二区間K2の全域をコロ561が通過するまでに、操作ロッド56を押し込み方向S側に移動する移動量は、ピストン53が最も押し込み方向S側に達する移動量である。つまり、コロ561が第二区間K2を通過することにより、複段シリンジ機構50が、収縮モードであった膨縮パッド20(
図7(A)の状態)を膨張モード(
図7(B)の状態)を経て剛モード(
図7(C)の状態)にまで切り替えることができる。
【0058】
上記第三区間K3は、第二区間K2の下流側に連なっている。そして、第三区間K3は、各膨縮ユニット40の捕捉部30が、循環機構10の火炉内壁Wとの対向側であって、進行方向前側のスプロケット16からチェーン12が離れる位置を通過してから進行方向後側のスプロケット16にチェーン12が差し掛かる位置より幾分手前の位置に到達するまでの間、操作ロッド56のコロ561が通過する区間である。
この第三区間K3は、カム溝181の形状が循環機構10の進行方向に平行であり、当該第三区間K3内を通過している間、コロ561は位置変化を生じないので、ピストン53が最も押し込み方向S側に位置した状態を維持し、膨縮パッド20は剛モード(
図7(C)の状態)を維持し続ける。
【0059】
上記第四区間K4は、第三区間K3の下流側に連なっている。そして、第四区間K4は、各膨縮ユニット40の捕捉部30が、循環機構10の火炉内壁Wとの対向側であって、進行方向後側のスプロケット16にチェーン12が差し掛かる位置を含むその前後を通過する際に、操作ロッド56のコロ561が通過する区間である。
この第四区間K4は、カム溝181の形状が循環機構10の進行方向に対して傾斜しており、当該第四区間K4内を通過している間、コロ561は、火炉内壁W側から徐々に離隔する方向に移動して、操作ロッド56を引っ張り方向P側に移動させる。第四区間K4の全域をコロ561が通過するまでに、操作ロッド56を引っ張り方向P側に移動する移動量は、ピストン53が最も引っ張り方向P側に達する移動量である。つまり、コロ561が第四区間K4を通過することにより、複段シリンジ機構50が、剛モード(
図7(C)の状態)であった膨縮パッド20を柔モード(
図7(B)の状態)を経て収縮モード(
図7(A)の状態)にまで切り替えることができる。
【0060】
上記第五区間K5は、第四区間K4の下流側に連なっている。第五区間K5は、各膨縮ユニット40の捕捉部30が、循環機構10の火炉内壁Wとの対向側であって、進行方向後側のスプロケット16にチェーン12が差し掛かる位置よりも幾分下流側を通過する際に、操作ロッド56のコロ561が通過する区間である。
この第五区間K5は、カム溝の形状がスプロケット軸17を中心とする円弧状であり、当該第五区間K5内を通過している間、スプロケット軸17の周囲を周回移動するコロ561は、操作ロッド56の往復移動方向について位置変化を生じない。
また、この第五区間K5を通過しているときの操作ロッド56の往復移動方向におけるコロ561の位置は、操作ロッド56をその往復移動範囲内の最も引っ張り方向P側にする位置(
図7(A)の位置)となっている。
つまり、各膨縮ユニット40の捕捉部30は、操作ロッド56を最も引っ張り方向P側の位置(収縮モード)でカムプレート18のカム溝181から排出され、チェーン12によって周回して、再び、カムプレート18のカム溝181の第一区間K1に到達するまで、その状態を維持する。
【0061】
なお、各膨縮ユニット40において捕捉部30は左右方向に三つ並んで設けられている。
従って、カムプレート18を各捕捉部30に対応して三つ並べて設けても良いが、左右に三つ並んだ捕捉部30のそれぞれの操作ロッド56を連結して、一つの操作ロッド56のコロ561のみがカムプレート18のカム溝181に係合し、他の二つの操作ロッド56は、これに連動させる構成としても良い。
【0062】
[移動力付与機構]
移動力付与機構100は、
図1に示すように、循環機構10の前端部に一端部が連結されたワイヤー103の他端部を巻き取るドラム101と、火炉の天井に設けられた滑車102と、図示しないドラム101の巻き取り駆動源からなるウィンチである。
ワイヤー103は、上方の滑車102を介してドラム101で巻き取られ、循環機構10を上方に向かって牽引する。
従って、循環機構10は、火炉内壁Wに沿って上方に移動する移動力が付与される。
【0063】
[クローラ機構の動作]
図1に示すように、クローラ機構1の循環機構10は、火炉内壁Wに対して片面側が接するように移動力付与機構100により吊下される。
そして、ワイヤー103を介して循環機構10の牽引が行われると、履帯14に沿って並んだ膨縮ユニット40がチェーン12に沿って周回移動を開始する。
そして、周回移動によって火炉内壁Wに接近した膨縮ユニット40の捕捉部30では、膨縮パッド20が磁力を有するので、火炉内壁Wに対して吸着力が生じ、循環機構10が火炉内壁W側に押し付けられた状態となる。
さらに、当該捕捉部30の操作ロッド56のコロ561がカムプレート18のカム溝181に侵入し、第一区間K1を経て第二区間K2に沿って移動する。
これにより、捕捉部30では、複段シリンジ機構50が操作され、膨縮パッド20は、収縮モードから膨張モード、剛モードに順番に移行する。
【0064】
火炉内壁Wは、前述したように、上下方向に沿った鉄製のパイプが連接する構造のため、火炉内壁Wの断面は、
図2に示すように、左右方向に一定の間隔で溝W1が生じて凹凸が連続した形状となっている。これに加えて、摩耗による減肉や破損、燃え殻の付着による隆起等、不規則な凹凸も数多く存在している。
【0065】
火炉内壁Wの上記の凹凸に対して、捕捉部30の膨縮パッド20が、火炉内壁Wに接触を開始するタイミングで収縮モードから膨張モードに移行することで、膨縮パッド20は凹凸形状に応じて膨張する。そして、剛モードに移行することで、膨縮パッド20は火炉内壁Wの凹凸形状に合致した形状で剛性が高められる。その結果、捕捉部30は膨縮パッド20の形状が火炉内壁Wの表面になじみ、当該火炉内壁Wを強固に捕捉することができる。
【0066】
そして、膨縮ユニット40がチェーン12に沿って周回し、操作ロッド56のコロ561はカム溝181の第三区間K3を通過している間は、膨縮パッド20の剛モードを維持する。
さらに、膨縮ユニット40が、火炉内壁Wから離隔する位置に近づくと、操作ロッド56のコロ561はカム溝181の第四区間K4と第五区間K5を順番に通過する。
これにより、捕捉部30では、膨縮パッド20が柔モード、収縮モードに順番に移行する。従って、膨縮パッド20は、剛性が低下して変形し易くなり、収縮する。
そして、膨縮パッド20は、火炉内壁Wから離れ、再び、火炉内壁に接近するまで収縮状態を維持する
【0067】
循環機構10では、火炉内壁Wの凹凸に拘わらず、履帯14の各膨縮パッド20が柔軟に変形し、変形後の形状を維持して進行するので、火炉内壁Wの凹凸に機体が大きく振動したり傾いたりすることが抑制され、安定した走行が行われる。そして、安定走行状態で機体に搭載された検査装置により火炉内壁Wに対する検査を行うことができる。
【0068】
[発明の実施形態の技術的効果]
クローラ機構1の循環機構10は、膨縮パッド20により火炉内壁Wを捕捉する捕捉部30を備え、移動力付与機構100により火炉内壁Wと捕捉部30との間で相対的な移動動作が付与されて移動を行う。
このため、膨縮パッド20が火炉内壁Wの凹凸形状に応じて変形し、火炉内壁Wを適正に捕捉して、火炉内壁Wと捕捉部30との間で相対的な移動動作を良好に行うことが可能となる。
また、膨縮パッド20により、火炉内壁Wに対する接触する表面積が大きくなり、凹凸の壁面に対してなじみ性が向上する。
さらに、膨縮パッド20は変形後、剛性を高めることができるので、対象物である火炉内壁Wに対する摩擦力が向上し、捕捉能力を向上させることが可能となる。
これらによって、循環機構10によるより安定的な移動を行うことが可能となる。
【0069】
また、循環機構10は、膨縮パッド20を複数備えているので、幅方向に複数備える場合には、幅全体に渡って火炉内壁Wを適正に捕捉して、火炉内壁Wと捕捉部30との間で相対的な移動動作を良好に行うことが可能となる。
また、膨縮パッド20を循環方向に沿って複数備える場合には、循環動作中、連続的に火炉内壁Wを適正に捕捉して、火炉内壁Wと捕捉部30との間で相対的な移動動作を継続的に良好に行うことが可能となる。
【0070】
また、循環機構10は、膨縮パッド20の剛性の柔モードと剛モードとを含む複数のモードを切り替える制御を行う制御部としてのカムプレート18を備えているので、火炉内壁Wに対する移動動作において、適正なタイミングで膨縮パッド20のモード切り替え制御を実現することが可能となる。
特に、制御部としてのカムプレート18は、膨縮パッド20の柔モードと剛モードとを含む複数のモードを順番に切り替える制御を行うので、膨縮パッド20は細やかに状態変化を生じて、より適正に火炉内壁Wを捕捉することが可能となる。
【0071】
また、循環機構10は、複段シリンジ機構50によって膨縮パッド20の柔モードと剛モードとを含む複数のモードを切り替えるので、複段シリンジ機構50の操作ロッドに対して、一ストローク分の往復動作を入力するだけで、三つ以上のモードを適正に実行することが可能となる。
従って、膨縮パッド20の制御をより簡易に実現することが可能となる。また、シリンジ機構を二基以上設ける必要がなくなり、装置の小型化や軽量化を図ることが可能となる。
【0072】
移動体としてのクローラ機構1は、上記循環機構10を備えるので、火炉内壁Wのように凹凸が多く、凹凸が複雑な場所であっても、安定的に良好な移動動作を実現することが可能である。
また、循環機構10を対象物側に押し付ける押しつけ力付与機構として膨縮パッド20やその粉体23が機能するので、循環機構10を載置することができない向きの面に対しても、当該面に沿って適正に移動動作を行うことが可能となる。
【0073】
[押しつけ力付与機構の他の例]
循環機構を対象物としての火炉内壁W側に押し付ける押し付け力付与機構として、前述した循環機構10では、膨縮パッド20に磁石を利用する構成を例示したが、これに限定されない。
例えば、循環機構10の片面側に負圧を発生させる負圧発生装置を設け、負圧により循環機構10を火炉内壁W側に吸着させる構成としても良い。
【0074】
また、例えば、
図8に示すように、前述した移動力付与機構100の滑車102をより火炉内壁Wに近づける配置とすることにより、循環機構10の片面を火炉内壁Wに圧接した状態とすることができる。
つまり、移動力付与機構100を押し付け力付与機構としても機能させることが可能である。
【0075】
[制御部の他の例]
上記実施形態では、制御部として、捕捉部30の複段シリンジ機構50を機械的に制御するカムプレート18を例示したが、制御信号に基づいて電気的に捕捉部30を制御しても良い。
図9は制御信号を用いた制御部の例を示す構成図である。
図示のように、この構成では、膨縮パッド20が火炉内壁Wのような対象物に当接したことや膨縮パッド20が対象物から離隔したことを検出するセンサ62と、複段シリンジ機構50の操作ロッド56の入力動作を行う駆動部としてのアクチュエーター61と、センサ62の検出信号が示す所定の条件に基づいてアクチュエーター61を制御し、膨縮パッド20の各モード切替を実行する制御部としてのコントローラ60とを備えている。
なお、循環機構10では、膨縮パッド20を複数備えているが、一つのコントローラ60によって、複数の膨縮パッド20のアクチュエーター61を集中的に制御しても良いし、複数のコントローラ60が各アクチュエーター61の制御を行ってもよい。
【0076】
センサは、例えば、膨縮パッド20の内膜21の内側空間内に設けられ、当該内側空間の内部圧力を検出する圧力センサとしても良い。圧力上昇から膨縮パッド20が火炉内壁Wに当接したことを検出し、圧力低下から膨縮パッド20が火炉内壁Wから離隔したことを検出する。
また、センサは、膨縮パッド20又はその周辺の部材の歪みを検出する歪みゲージ等のセンサとしても良い。歪みゲージは異なる場所に複数設けてもよい。各歪みゲージの検出する歪みの大小から膨縮パッド20が火炉内壁Wに当接したことや膨縮パッド20が火炉内壁Wから離隔したことを検出する。
【0077】
アクチュエーターは、操作ロッド56をその操作方向に沿って任意に或いは複数の位置に移動させることが可能なものが使用される。
例えば、直動式のアクチュエーターであるボイスコイルモーター、リニアモーター、ソレノイド等が挙げられる。また、回転式のアクチュエーターであるモーターと回転動作を直動動作に変換する変換機構(ピニオン-ラック機構、ボールネジ機構)とを組み合わせても良い。
【0078】
コントローラ60は、CPU等を内蔵したコンピューターである。
このコントローラ60は、センサの検出信号から、膨縮パッド20の火炉内壁Wへの当接や膨縮パッド20の火炉内壁Wからの離隔の発生を判定する。
膨縮パッド20の火炉内壁Wへの当接を検出した場合には、コントローラ60は、アクチュエーター61が複段シリンジ機構50の操作ロッド56を押し込み方向Sに移動させるように制御して膨縮パッド20を膨張モード、剛モードに順番に切り替える。
膨縮パッド20の火炉内壁Wからの離隔を検出した場合には、コントローラ60は、アクチュエーター61が複段シリンジ機構50の操作ロッド56を引っ張り方向P側に移動させるように制御して膨縮パッド20を柔モード、収縮モードに順番に切り替える。
【0079】
このように、電気信号を用いた制御部を使用した場合でも、循環機構10を適正に動作させることが可能である。
【0080】
[循環機構による移送機構の利用]
上記実施形態では、循環機構10が対象物である火炉内壁Wに沿って移動する移動体に使用する場合を例示したが、循環機構10が、他の対象物を捕捉部30により捕捉して、当該対象物を循環方向に沿って移送する移送機構に使用する構成としても良い。
例えば、
図3に示す循環機構10の片面(火炉内壁W側に向けられていた面)を上に向けた状態で各膨縮ユニット40が循環移動可能な状態で土台などにより支持し、上に向けられた循環機構10の片面上に移送すべき対象物を載置して、循環方向に向かって移送させるコンベア機構として使用しても良い。
【0081】
また、循環機構10の各膨縮パッド20を他の機械要素、例えば、歯車やホイールなどに係合させて、これらに回転力を付与する機構としても使用可能である。
【0082】
[その他]
上記実施形態に示す膨縮パッド20は、粉体ジャミング現象を応用したものだが、これ限らず、例えば、参考文献[7]に示す対切創性ジャミング袋を膨縮パッド20として利用しても良い。
【0083】
移動体としてのクローラ機構1は、火炉内壁Wのように上下方向に立設された壁面を移動する場合を例示したが、水平面や傾斜面、その他、オーバーハングとなる傾斜面を移動する構成としても良い。
また、膨縮パッド20のサイズは、対象物の凹凸の大きさに合わせなくとも良い。例えば、対象物の凹凸よりも小さい膨縮パッド20が変形して凹凸に対応する構成としても良いし、対象物の凹凸よりも大きい膨縮パッド20が変形して凹凸に対応する構成としても良い。
【0084】
上記実施形態では、膨縮パッド20の複数のモードを複段シリンジ機構50によって切り替える構成を例示したがこれに限定されない。例えば、一つの膨縮パッド20に対して、単シリンジからなるシリンジ機構を複数使用して、各モードの切り替えを行う構成としても良い。
また、膨縮パッド20の複数の供給先に対して、流体の供給と排出が可能であればシリンジ機構でなくともよい。例えば、常に正圧状態の流体のタンクや正圧ポンプのような正圧源と、常に負圧を生じる排気ポンプやインジェクターのような負圧源とを、切り替えバルブを用いて、膨縮パッド20の内膜21の内部領域や内膜21と外膜22の隙間領域に対して切り替え接続するような構成としても良い。
【0085】
[参考文献]
[1]G. Bancon and B. Huber, Depression and grippers with their possible applications, 12th ISIR, Paris (1982), pp.321-329.
[2]Brown, Eric, et al. "Universal robotic gripper based on the jamming of granular material." Proceedings of the National Academy of Sciences 107.44 (2010): 18809-18814.
[3]Ge, Dingxin, et al. "Guide rail design for a passive suction cup based wall-climbing robot." Intelligent Robots and Systems (IROS), 2016 IEEE/RSJ International Conference on. IEEE, 2016.
[4]藤田政宏,高根英里,野村陽人,小松洋音,多田隈建二郎,昆陽雅司,田所諭.内体積可変メカニズムを有するトーラス袋状グリッパ機構-全方向なじみグリッパにおける大型対象物の把持性の向上-.第34回日本ロボット学会学術講演会,2G1-07RSJ, 2016.
[5]Hirose, Shigeo, and Yoji Umetani. "The development of soft gripper for the versatile robot hand." Mechanism and machine theory 13.3 (1978):351-359.
[6]多田隈建二郎,多田隈理一郎,勅使河原誠一,溝口義智,長谷川浩章,寺田一貴,高山俊男,小俣透,明愛国,下条誠.全方向包括式なじみグリッパ-基本概念の提案と機械モデルの第一次試作.第26回日本ロボット学会学術講演会予稿集,11-01,2008.
[7]科学技術振興機構,プレスリリース(2018),「刃物のようにとがった物体でもつかめる柔軟ロボットハンドを開発」(参照2018-6-14)https://www.jst.go.jp/impact/sympo/trc6/images/trc6_doc3_1.pdf
【符号の説明】
【0086】
1 クローラ機構(移動体)
10 循環機構
12 チェーン
14 履帯
18 カムプレート(制御部)
181 カム溝
20 柔剛切り替え式膨縮パッド
21 内膜
22 外膜
23 粉体
24 保持部材
30 捕捉部
40 膨縮ユニット
50 複段シリンジ機構
51 メインシリンジ
52 サブシリンジ
53 ピストン
55 ストッパー
56 操作ロッド
561 コロ
60 コントローラ(制御部)
100 移動力付与機構
103 ワイヤー
P 引っ張り方向
S 押し込み方向
W 火炉内壁(対象物)