(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20221122BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20221122BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221122BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20221122BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221122BHJP
B62D 133/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
B62D133:00
(21)【出願番号】P 2018195597
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】立入 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇志
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-240399(JP,A)
【文献】特開2016-164017(JP,A)
【文献】特開2017-024623(JP,A)
【文献】特開2014-133521(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054253(WO,A1)
【文献】特開2015-123864(JP,A)
【文献】特開2001-171543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
B62D 119/00
B62D 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵機構と転舵機構とが機械的に分離し、電気的に接続されたステアバイワイヤシステムの車両用操舵装置であって、
車両速度(V)を含む車両状態を検出する車両状態検出装置(50)を備えた車両に適用され、
操舵輪(21)の操舵角(θs)を検出する操舵角センサ(22)と、
転舵輪(48)の転舵角(θt)を検出する転舵角センサ(42)と、
操舵角に応じた転舵角を発生させるように制御される転舵アクチュエータ(43)と、
前記操舵輪と機械的に接続され、操舵角に応じて操舵方向と反対方向の反力トルクを前記操舵輪に付与するように制御される操舵アクチュエータ(23)と、
前記転舵アクチュエータ及び前記操舵アクチュエータの駆動を制御する制御部(30)と、
を備え、
操舵中に転舵角が所定の限界角度(θ
LIM)に達した時、
前記制御部は、転舵角が前記限界角度を超えないように前記転舵アクチュエータを制御し、且つ、前記反力トルクの絶対値を大きくしてドライバによる操舵を妨げるように前記操舵アクチュエータを制御
し、
前記制御部は、前記車両状態検出装置が検出した車両速度に応じて、
車両速度が所定速度(V1)以下の領域では前記限界角度が一定であり、車両速度が前記所定速度を超えると、車両速度の増加に伴って前記限界角度が低下するように前記限界角度を変化させる車両用操舵装置。
【請求項2】
前記車両状態検出装置は、車両が走行している路面の状況をさらに検出可能であり、
前記制御部は、前記車両状態検出装置が検出した路面状況に応じて前記限界角度を変化させる請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
転舵角の絶対値を所定の上限角度(θ
MECH_LIM)以下に機械的に制限する転舵角制限装置(46)を備えた車両に適用され、
前記限界角度の絶対値は、前記転舵角制限装置の前記上限角度の絶対値よりも小さく設定されている請求項1
または2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
転舵角が前記限界角度に達した時、
前記制御部は、転舵角が前記限界角度に達したことを、警報装置(60)によりドライバに通知することを請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したステアバイワイヤシステムにおいて、転舵限界におけるラックエンドへの衝突を防止する装置が知られている。例えば特許文献1に開示された車両用操舵制御装置は、転舵輪を転舵可能な限界の転舵角である最大転舵角付近の角度を上限角度とし、転舵指令角演算値が上限角度よりも小さい制限開始角度を超えているとき、転舵指令角演算値の変化率を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の従来技術では、ラックエンド付近で実転舵角の変化速度を緩やかにし、実転舵角がラックエンド角に達することを防止する。しかし、転舵角を制限した結果、操舵角と転舵角との関係が変化し、転舵角が中立側に戻ったとき、操舵角と転舵角との関係が正規の状態に戻らなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、ステアバイワイヤシステムにおいて、操舵角と転舵角との関係を維持しつつ、転舵角の上限を適切に制限する車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離し、電気的に接続されたステアバイワイヤシステムの車両用操舵装置であって、車両速度(V)を含む車両状態を検出する車両状態検出装置(50)を備えた車両に適用される。この車両用操舵装置は、操舵角センサ(22)と、転舵角センサ(42)と、転舵アクチュエータ(43)と、操舵アクチュエータ(23)と、制御部(30)と、を備える。
【0007】
操舵角センサは、操舵輪(21)の操舵角(θs)を検出する。転舵角センサは、転舵輪(48)の転舵角(θt)を検出する。転舵アクチュエータは、操舵角に応じた転舵角を発生させるように制御される。操舵アクチュエータは、操舵輪と機械的に接続され、操舵角に応じて操舵方向と反対方向の反力トルクを操舵輪に付与するように制御される。制御部は、転舵アクチュエータ及び操舵アクチュエータの駆動を制御する。操舵中に転舵角が所定の限界角度(θ
LIM
)に達した時、制御部は、転舵角が限界角度を超えないように転舵アクチュエータを制御し、且つ、反力トルクの絶対値を大きくしてドライバによる操舵を妨げるように操舵アクチュエータを制御する。
【0008】
制御部は、車両状態検出装置が検出した車両速度に応じて、車両速度が所定速度(V1)以下の領域では限界角度が一定であり、車両速度が所定速度を超えると、車両速度の増加に伴って限界角度が低下するように限界角度を変化させる。
【0009】
本発明の車両用操舵装置は、転舵アクチュエータを制御して転舵角を制限するとともに、操舵アクチュエータを制御して操舵角を制限する。したがって、この車両用操舵装置は、操舵角と転舵角との関係を維持しつつ、転舵角の上限を適切に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】一実施形態による転舵角制限処理のタイムチャート。
【
図3】車両状態に応じて限界角度を変化させる処理を示すタイムチャート。
【
図4】車両速度と限界角度との関係を規定するマップ。
【
図5】一実施形態による転舵角制限処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(一実施形態)
以下、車両用操舵装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の車両用操舵装置は、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離し、電気的に接続されたステアバイワイヤシステムに適用される。最初に
図1を参照し、一実施形態による車両用操舵装置の構成について説明する。車両用操舵装置10は、操舵角センサ22、操舵アクチュエータ23、制御部30、転舵角センサ42、転舵アクチュエータ43等を備える。
【0012】
図1においてブロック間の実線は機械的接続を示し、破線は電気的接続を示す。操舵角センサ22及び操舵アクチュエータ23は操舵輪(ステア)21と機械的に接続され、操舵機構20を構成する。転舵角センサ42及び転舵アクチュエータ43は、ラック軸47を介して転舵輪(タイヤ)48と機械的に接続され、転舵機構40を構成する。操舵機構20と転舵機構40とは、制御部30を介して電気的に接続されている。したがって、操舵輪21は、制御部30を介して転舵輪48と電気的に接続されている。
【0013】
操舵角センサ22は、操舵輪21の操舵角θsを検出して制御部30に出力する。転舵角センサ42は、転舵輪48の転舵角θtを検出して制御部30に出力する。転舵アクチュエータ43は、操舵角θsに応じた転舵角θtを発生させるように制御される。操舵アクチュエータ23は、操舵角θsに応じて操舵方向と反対方向の反力トルクTrを操舵輪21に付与するように制御される。制御部30は、転舵アクチュエータ43及び操舵アクチュエータ23の駆動を制御する。
【0014】
また、本実施形態が搭載される車両は、転舵角制限装置46、車両状態検出装置50及び警報装置60を備えている。転舵角制限装置46は、例えば(a)又は(b)等の位置に設けられ、転舵角θtの絶対値を所定の上限角度θMECH_LIM以下に機械的に制限するストッパである。
【0015】
車両状態検出装置50は、車両速度、加速度等の車両状態を検出する。制御部30は、車両状態検出装置50が検出した車両状態の情報を取得する。警報装置60は、インストルメントパネルに設けられるインジケータランプやブザー、操舵輪21に配置される振動素子等によって構成され、制御部30からの指令により警報を出力する。
【0016】
次に、本実施形態の作用効果を説明する前に、ステアバイワイヤシステムにおいて転舵限界を制限する技術の背景について説明する。従来の代表的な車両用操舵装置である電動パワーステアリング装置(以下「EPS」)では、操舵輪(ステア)と転舵輪(タイヤ)とが機械的に接続され、ドライバの操舵をアシストするようにアクチュエータが設置されている。これに対し、近年、操舵輪と転舵輪とが機械的に分離し、電気的に接続されたステアバイワイヤシステムが量産開始され、今後、自動運転の実用化や車両電動化に伴って増えていくと考えられる。
【0017】
車両用操舵装置の課題の一つに「転舵限界(例えばラックエンド)での衝突による機械的強度の確保」がある。つまり、転舵輪の転舵量には構造的限界があるため、操舵時に限界に近づいた時、転舵を止める制限装置(ストッパ)が必要である。この制限装置は強い衝撃が何度も加わることが想定されるため、材料、重量、サイズを考慮し一般に高強度に設計される。EPSの場合、アクチュエータのアシストトルクが加わるため、より大きな力がかかる。
【0018】
そのためEPSにおいては、特許2826687号公報や特開2006-160076号公報に開示されているように、転舵限界へ近づくにつれて操舵と反対方向にアクチュエータを駆動させ、制限装置にかかる負荷を低減する技術が開発されている。しかし、この技術では操舵と反対方向に力を発生させているため、道路の落下物や轍等の凹凸等による外乱により、ドライバの意図に反して転舵輪が中心方向へ戻りやすくなってしまう。
【0019】
一方、操舵輪と転舵輪とが電気的に接続されたステアバイワイヤシステムでは、操舵角と転舵角との比や操舵力と転舵力との比を自在に変化させることができる。この特徴を活かし、転舵角が転舵限界に近づいた時、転舵用アクチュエータがそれ以上転舵されないように電気的に制御することで、機械的なストッパにかかる負荷を低減することができると考えられる。
【0020】
ところで、特許文献1(特開2014-133521号公報)の従来技術は、ステアバイワイヤシステムにおいて、ラックエンド付近で実転舵角の変化速度を緩やかにし、実転舵角がラックエンド角に達することを防止するものである。しかし、転舵角を制限した結果、操舵角と転舵角との関係が変化し、転舵角が中立側に戻ったとき、操舵角と転舵角との関係が正規の状態に戻らなくなるおそれがある。
【0021】
そこで本実施形態の車両用操舵装置10は、ステアバイワイヤシステムにおいて、操舵角と転舵角との関係に影響を及ぼすことなく、転舵角の上限を適切に制限することを目的とする。そのために制御部30は、操舵中に転舵角θtが所定の限界角度θLIMに達した時、転舵角θtが限界角度θLIMを超えないように転舵アクチュエータ43を制御する。且つ、制御部30は、反力トルクTrの絶対値を大きくしてドライバによる操舵を妨げるように操舵アクチュエータ23を制御する。
【0022】
続いて
図2のタイムチャートを参照し、転舵角θtを限界角度θ
LIM以下に制限する具体的な処理例を説明する。
図2の横軸は時間軸であり、縦軸には、操舵角θs、転舵角θt、反力トルクTr及び警報装置フラグの変化を示す。また、記号(*1)、(*2)は、説明中で引用される箇所を示す。
【0023】
ここで、操舵角θs及び転舵角θtは、操舵輪21又は転舵輪48の回転方向に応じて正負の値を取る。また操舵角θsを正方向に増加させる向きに作用する操舵トルクが正、操舵角θsを負方向に増加させる向きに作用する操舵トルクが負と定義される。ただし、正負の特性は基本的に対称であるため、
図2には、操舵角θs及び転舵角θtが正の場合のみを記す。このとき、反力トルクTrは負方向に発生する。
【0024】
時刻ts以前は直進状態であり、操舵輪21及び転舵輪48は中立位置にある。時刻tsにドライバが操舵を開始すると、操舵角センサ22が検出する操舵角θsが徐々に増加する。すると、転舵アクチュエータ43は、操舵角θs対し一定の比で転舵角θtを発生させるように制御され、転舵角θtが増加する。
【0025】
また、操舵角θsの増加に伴って操舵アクチュエータ23の駆動により反力トルクTrの絶対値が増加する。ステアバイワイヤシステムでは、ドライバは操舵に対する反力を直接感知することができないため、操舵アクチュエータ23が、操舵方向と反対方向の反力トルクを付与するように操舵輪21を回転させることで、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。
【0026】
転舵角θtの限界角度θLIMの絶対値は、転舵角制限装置46の上限角度θMECH_LIMの絶対値よりも小さく予め設定されている。時刻teに転舵角θtが限界角度θLIMに達すると、制御部30は、操舵角θsに対する転舵角θtの角度比特性を変化させる。そして制御部30は、転舵角θtが限界角度θLIMに固定されるように転舵アクチュエータ43を制御し、且つ、反力トルクTrの絶対値を大きくするように操舵アクチュエータ23を制御する。
【0027】
このとき反力トルクTrは、ブロック矢印で示すようにTreからTrxまで急激に変化する(*1)。Trxの値は、ドライバがそれ以上操舵できないように操舵を妨げる値に設定されているため、操舵角θsは時刻teにおける値θsxで固定される(*2)。以下、この値θsxを固定角度という。その結果、時刻te以後の転舵角θt及び操舵角θsは、それぞれ限界角度θLIM及び固定角度θsxで一定値に維持されることになる。すなわち、操舵角θsと転舵角θtとの関係が維持される。
【0028】
操舵角θsが固定されると、ドライバは、操舵輪21を握った手の感覚から転舵限界に達したことを直感的に感知することができる。この感覚は、EPSと同様の感覚である。さらに、転舵角θtが限界角度θLIMに達した時刻teに警報装置フラグがOFFからONになり、制御部30は、転舵角θtが限界角度θLIMに達したことを、警報装置60によりドライバに通知する。したがってドライバは、転舵限界に達したことを、視覚や聴覚等により確実に感知することができる。
【0029】
次に
図3、
図4を参照し、車両状態に応じて限界角度θ
LIMを変化させる構成について説明する。
図3の記号(*3)、(*4)は、説明中で引用される箇所を示す。転舵角θtの限界角度θ
LIMは車両の構造的限界によるものだけでなく、車両状態や路面状況によって、「それ以上タイヤを転舵させるとスリップが発生する」という角度に設定することが考えられる。
【0030】
「車両状態」には、車両速度、加速度に基づく急加速または急停止状態、登板または降板状態、シフトポジション等が含まれる。「路面状況」には、路面の摩擦係数(μ)等が含まれる。なお、「車両が走行している路面の状態」を広く「車両状態」に含めて考えてもよい。本実施形態では、車両状態検出装置50は車両自体の動作状態を検出するとともに、車両が走行している路面の状況を検出可能であることを想定する。
【0031】
そこで
図3に示すように、制御部30は、車両状態検出装置50から取得した車両状態がそれまでの車両状態から変化したとき、限界角度を変更前の値θ
LIM1(破線)から変更後の値θ
LIM2(実線)に変化させる。例えば低速走行から高速走行に移行した場合、或いは、雨や雪が降り始め、路面が乾燥した状態から濡れた状態や凍った状態に変化した場合等に限界角度θ
LIMは小さくする方向に変更される(*3)。
【0032】
図4に、車両速度Vと限界角度θ
LIMとの関係を規定するマップの例を示す。車両速度Vが速度V1以下の領域では限界角度θ
LIMは一定であり、速度V1を超えると、車両速度Vの増加に伴って限界角度θ
LIMは低下する。
【0033】
図3に戻り、限界角度がθ
LIM1からθ
LIM2に変更されると、転舵角θtが限界角度θ
LIMに到達するタイミングが時刻te1から時刻te2に早められる。それにより、反力トルクTrの絶対値を大きくするタイミングが早くなり、操舵角θsの固定角度θsxがθsx1からθsx2に低下する(*4)。つまり、限界角度θ
LIMの変化に追従して、操舵角θsの固定角度θsxも変化する。
【0034】
次に、
図5のフローチャートを参照し、本実施形態による転舵角制限処理を説明する。フローチャートの記号「S」はステップを意味する。制御部30は、S1で、車両状態検出装置50が検出した車両状態の情報を取得し、S2で、車両状態に応じて転舵角θtの限界角度θ
LIMを設定する。
【0035】
S3では、操舵角の絶対値|θs|が閾値θs_th以上であるか判断される。操舵角の絶対値|θs|が閾値θs_th未満でありS3でNOの場合、S1の前に戻る。操舵角の絶対値|θs|が閾値θs_th以上でありS3でYESの場合、S4に移行する。なお、閾値θs_thは、転舵角θtの限界角度θ
LIMを操舵角θsと転舵角θtとの角度比で換算した値であり、
図2、
図3の固定角度θsxに置き換え可能である。
【0036】
制御部30は、S4で、操舵角θsに対する転舵角θtの特性を変化させ、S5で、操舵トルクTsを反力方向に大きくする。また制御部30は、S6で、転舵角θtが限界角度θLIMに達したことを、警報装置60によりドライバに通知する。
【0037】
S7では、操舵角の絶対値|θs|が閾値θs_th以上であるか再び判断される。S7でNOの場合、制限状態から一旦脱していることを意味する。この場合、S1の前に戻り、その時点での車両状態に基づいて、あらためて限界角度θLIMが設定される。S7でYESの場合、S4の前に戻り、制限状態が継続される。このルーチンは、例えばイグニションスイッチがオフされるまで繰り返される。
【0038】
(効果)
(1)本実施形態の車両用操舵装置10は、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離し、電気的に接続されたステアバイワイヤシステムにおいて、転舵角θtが限界角度θLIMに達したとき、それ以上転舵されないように転舵アクチュエータ43が制御される。したがって、転舵限界近くで操舵と反対方向に力を発生する技術に比べ、外乱により、ドライバの意図に反して転舵角が変化することが防止される。
【0039】
また、転舵角θtが限界角度θLIMに達した時、制御部30は、操舵方向と反対方向の反力トルクTrの絶対値を大きくしてドライバによる操舵を妨げるように操舵アクチュエータ23を制御する。これにより、ドライバに転舵限界を直感的に伝えることができる。また、転舵アクチュエータのみを制御する特許文献1(特開2014-133521号公報)の技術に対し、操舵角θsと転舵角θtとの関係を維持しつつ、転舵角θtの上限を適切に制限することができる。
【0040】
(2)機械的な転舵角制限装置46は、転舵アクチュエータ43が発生するトルク以上の外乱により転舵された場合等のバックアップとして備えられることが好ましい。ここで、転舵角θtの限界角度θLIMの絶対値は、転舵角制限装置46の上限角度θMECH_LIMの絶対値よりも小さく設定されている。これにより、機械的な転舵制限の前に、転舵アクチュエータ43による電気的な制限が先にかかるため、転舵角制限装置46には衝突しない、又は、衝突しても衝撃が相当量減少する。したがって、転舵角制限装置46の疲労を抑制し、また、強度や疲労に関する機械的要求仕様を緩和することができる。
【0041】
(3)また、制御部30は、車両状態や路面状況に基づき、例えば高速走行時や濡れた路面、凍った路面等の走行時には、限界角度θLIMは小さくする方向に変更される。このように、スリップしやすい車両状態では限界角度θLIMを小さくし、それ以上転舵されないようにすることで、安定した車両運転を促すことができる。
【0042】
(4)さらに制御部30は、転舵角θtが限界角度θLIMに達したことを、インジケータランプやブザー、振動素子等の警報装置60によりドライバに通知する。したがってドライバは、操舵輪21を握った手の感覚に加え、視覚や聴覚等により、転舵限界に達したことを確実に感知することができる。
【0043】
(その他の実施形態)
本発明の車両用操舵装置10は、機械的な転舵角制限装置46、車両状態検出装置50又は警報装置60を備えない車両に適用されてもよい。例外的に大きな外乱が発生する場合を除けば、機械的な転舵角制限装置46は無くてもよい。例えば車両状態検出装置50に代えて、降雨又は降雪の走行時等にドライバが手動で限界角度θLIMを切り替えられるようにしてもよい。
【0044】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
10・・・車両用操舵装置、
21・・・操舵輪、22・・・操舵角センサ、23・・・操舵アクチュエータ、
30・・・制御部、
42・・・転舵角センサ、43・・・転舵アクチュエータ、48・・・転舵輪。