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特許7180881鶏糞のメタン発酵方法及び鶏糞肥料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】鶏糞のメタン発酵方法及び鶏糞肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20221122BHJP
   C05F 3/00 20060101ALI20221122BHJP
   B09B 3/65 20220101ALI20221122BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
C05F3/00
B09B3/65
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019137456
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021020152
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】598156826
【氏名又は名称】株式会社インターファーム
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正之
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-159946(JP,A)
【文献】特開2018-008204(JP,A)
【文献】特開2008-253870(JP,A)
【文献】特開平11-028445(JP,A)
【文献】特開2002-361200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-20
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-10
C05B 1/00-21/00
C05C 1/00-13/00
C05D 1/00-11/00
C05F 1/00-17/993
C05G 1/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横型メタン発酵槽の横方向の一端部から鶏糞原料を投入し、投入した鶏糞原料を前記横型メタン発酵槽の内部で横方向に移動させながら該鶏糞原料をメタン発酵させ、メタン発酵残渣を前記横型メタン発酵槽の横方向の他端部から排出する鶏糞のメタン発酵方法であって、
前記横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度が、8,390mg/kgから11,000mg/kgの範囲となるように前記鶏糞原料の前記横型メタン発酵槽への投入間隔と投入量とを調整することを特徴とする鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項2】
前記鶏糞原料が生鶏糞であることを特徴とする請求項1に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項3】
前記横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣のpHを測定し、測定されたpHから前記横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項4】
前記横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度が前記範囲となる鶏糞原料の投入間隔と投入量を予め測定しておき、測定した投入間隔と投入量で鶏糞原料を前記横型メタン発酵槽に投入することを特徴とする請求項1又は2に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項5】
前記横型メタン発酵槽に投入する鶏糞をこれと略同量の水によって希釈することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項6】
鶏糞原料のメタン発酵によって発生するバイオガスを前記横型メタン発酵槽の上部から排出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項7】
前記横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣の一部を戻して鶏糞原料と共に前記横型メタン発酵槽に投入することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の鶏糞のメタン発酵方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の鶏糞のメタン発酵方法により前記横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣を乾燥させて固形の鶏糞肥料とすることを特徴とする鶏糞肥料の製造方法。
【請求項9】
前記鶏糞のメタン発酵方法により発生するバイオガスを用いて発電し、発電によって発生する排熱の一部によって前記メタン発酵残渣を乾燥させることを特徴とする請求項8に記載の鶏糞肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵菌の働きによって鶏糞を発酵させる鶏糞のメタン発酵方法とこのメタン発酵方法において生成されるメタン発酵残渣から鶏糞肥料を製造する鶏糞肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏糞は、一部で特殊肥料化や燃焼させて処理されているが、その多くは産業廃棄物として処理されているため、その処理コストが大きな負担となっている。
【0003】
そこで、鶏糞をメタン発酵させ、このメタン発酵により発生するバイオガスを発電などのエネルギー源として利用するとともに、メタン発酵残渣から鶏糞肥料を製造することが考えられる。
【0004】
ところが、鶏糞には高濃度の尿酸が含まれており、この尿酸から発生するアンモニア性窒素の濃度が高いと、メタン発酵を安定して行うことができないという問題がある。このため、鶏糞のメタン発酵を安定して行うためには、鶏糞を水などによって高い倍率(4倍程度)で希釈し、鶏糞に含まれる尿酸から発生するアンモニア性窒素の濃度を低く抑える必要がある。
【0005】
ところで、例えば特許文献1には、生ゴミや畜産糞尿などの有機性廃棄物をメタン発酵させて生成されるメタン発酵汚泥を原料とする肥料製造方法が提案されており、この製造方法においては、メタン発酵汚泥に含まれるアンモニア性窒素を硝化菌の作用によって硝酸性窒素に改質させることが行われている。
【0006】
また、特許文献2には、生ゴミや家畜糞尿などの有機性廃棄物のメタン発酵によって得られるメタン発酵液に含まれるアンモニアガスをアンモニア放散塔などのアンモニア除去装置によって除去するようにしたメタン発酵システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-099366号公報
【文献】特許第5491046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2において提案された脱窒素処理や脱アンモニア処理を行うには、設備の大型化と複雑化及び高コスト化を招くとともに、多くの工数と時間を要するという問題がある。
【0009】
また、脱窒素処理されたメタン発酵残渣から肥料を製造すると、この肥料には重要な肥料成分である窒素成分が不足するという問題が発生する。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、脱窒素処理と脱アンモニア処理を要することなく、簡単な設備で効率良く鶏糞のメタン発酵を安定的に継続して行うことができる鶏糞のメタン発酵方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明は、製造プロセスと製造設備の簡素化を図りつつ、鶏糞のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣から必要な成分を含む鶏糞肥料を低コストで製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明によれば、横型メタン発酵槽の横方向の一端部から鶏糞原料を投入し、投入した鶏糞原料を横型メタン発酵槽の内部で横方向に移動させながらこの鶏糞原料をメタン発酵させ、メタン発酵残渣を横型メタン発酵槽の横方向の他端部から排出する鶏糞のメタン発酵方法であって、横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度が所定値以下となるように鶏糞原料の横型メタン発酵槽への投入間隔と投入量とを調整する。
【0013】
本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法によれば、鶏糞原料の横型メタン発酵槽への投入間隔と投入量を調整することによって、鶏糞原料に含まれる尿酸から発生するアンモニア性窒素濃度を所定値以下に抑えるようにしたため、アンモニア性窒素によって鶏糞のメタン発酵が阻害されることがなく、所要のメタン発酵を長期間継続して安定的に行うことができる。このため、脱窒素処理や脱アンモニア処理を行う必要がなく、そのための設備が不要となるため、設備の大型化と複雑化及び高コスト化を招くことがなく、メタン発酵のプロセスが簡素化されて工数と時間が削減されるとともに、省力化が図られる。
【0014】
アンモニア性窒素濃度の所定値は、11,000mg/kgであることが好ましい。
【0015】
横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣のpHを測定し、測定されたpHから横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度を推定することも好ましい。
【0016】
横型メタン発酵槽内のアンモニア性窒素濃度が所定値以下となる鶏糞原料の投入間隔と投入量とを予め測定しておき、測定した投入間隔と投入量とで鶏糞原料を横型メタン発酵槽に投入することも好ましい。
【0017】
横型メタン発酵槽に投入する鶏糞をこれと略同量の水によって希釈することも好ましい。
【0018】
上述のように横型メタン発酵槽に投入する鶏糞をこれと略同量の水によって2倍程度に希釈することによって、鶏糞原料の固形物濃度(TS値)を20~24%程度と比較的高い値に保つことができる。このように鶏糞原料の固形物濃度(TS値)を比較的高い値に保つことによって、固液分離装置等の設備を要することなく、鶏糞のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣から鶏糞肥料を簡単なプロセスを経て低コストで製造することができる。なお、鶏糞を希釈する水としては、メタン発酵を阻害するカルキを含まない井戸水が望ましい。
【0019】
また、鶏糞原料のメタン発酵によって発生するバイオガスを横型メタン発酵槽の上部から排出するようにしてもよい。この場合、バイオガスに含まれるメタンガス(CH)などの大部分のガスは空気よりも軽いため、バイオガスを横型メタン発酵槽の上部から容易に排出することができる。
【0020】
また、横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣の一部を戻して鶏糞原料と共に横型メタン発酵槽に投入することも好ましい。
【0021】
上述のように、メタン発酵菌を豊富に含んでいるメタン発酵残渣の一部をメタン発酵菌の菌床として戻して鶏糞原料と共に横型メタン発酵槽に投入すると、横型メタン発酵槽の内部のメタン発酵菌の量を一定に保つことができ、このメタン発酵菌によって鶏糞原料の安定したメタン発酵が可能となる。
【0022】
本発明に係る鶏糞肥料の製造方法は、上述の鶏糞のメタン発酵方法により横型メタン発酵槽から排出されるメタン発酵残渣を乾燥させて固形の鶏糞肥料としている。
【0023】
本発明に係る鶏糞肥料の製造方法によれば、脱窒素処理や脱アンモニア処理を行うための設備や、固液分離設備を要することなく、メタン発酵残渣を乾燥させて固形の鶏糞肥料を製造することができるため、製造プロセスと製造設備の簡素化を図ることができ、鶏糞肥料を効率良く低コストで安定して製造することができる。また、原料となるメタン発酵残渣には脱窒素処理や脱アンモニア処理が施されていないため、このメタン発酵残渣には栄養素の1つである窒素(N)成分が特に豊富に含まれており、製造される肥料に窒素(N)の成分が不足することがない。また、横型メタン発酵槽に投入する鶏糞をこれと略同量の水で2倍程度に希釈することによって、鶏糞原料の固形物濃度(TS値)を20~24%程度と比較的高い値に保つようにしたため、固液分離装置などの設備を要することなく、鶏糞原料のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣から鶏糞肥料を簡単なプロセスで容易に製造することができる。
【0024】
また、上述の鶏糞肥料の製造方法において、鶏糞のメタン発酵で発生するバイオガスを用いて発電し、発電で発生する排熱の一部によってメタン発酵残渣を乾燥させるようにしてもよい。
【0025】
このようにバイオガスを用いた発電によって発生する排熱の一部によってメタン発酵残渣を乾燥させることによって、鶏糞が有するエネルギーを有効に利用することができ、製造システム全体のエネルギー効率を高めて鶏糞肥料を低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法によれば、脱窒素処理と脱アンモニア処理を要することなく、簡単な設備で効率良く鶏糞のメタン発酵を安定的に継続して行うことができる。
【0027】
また、本発明に係る鶏糞肥料の製造方法によれば、製造プロセスと製造設備の簡素化を図りつつ、鶏糞のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣から必要な成分を含む鶏糞肥料を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】鶏糞のメタン発酵システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明に係るメタン発酵方法に使用される横型メタン発酵槽の構成を模式的に示す側断面図である。
図3】鶏糞のメタン発酵システムにおける物質収支を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0030】
[鶏糞のメタン発酵システム]
図1は鶏糞のメタン発酵システムの構成を示すブロック図であり、図示のメタン発酵システム1において本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法と鶏糞肥料の製造方法が実施される。
【0031】
図1に示す鶏糞のメタン発酵システム1は、より詳細には密閉系嫌気性メタン発酵システムであって、鶏糞の処理とエネルギーの回収、さらにはメタン発酵残渣から高付加価値有機肥料としての鶏糞肥料を製造するシステムである。
【0032】
具体的には、このメタン発酵システム1においては、鶏舎10から排出される鶏糞を横型メタン発酵槽20においてメタン発酵させ、このメタン発酵によって発生するバイオガスをエネルギー源としてバイオガス発電機30を駆動して発電するとともに、バイオガス発電機30の排熱を排熱回収器40によって回収することが行われる。そして、鶏糞のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣は、横型メタン発酵槽20から排出されて乾燥設備40へと供給され、この乾燥設備40において、排熱回収器40で回収された排熱の一部でメタン発酵残渣が乾燥されることによって鶏糞肥料が製造される。
【0033】
ここで、横型メタン発酵槽20の構成を図2に示すが、図示の横型メタン発酵槽20は、横方向(図2の左右)に配置された円筒状もしくは角筒状のほぼ密閉されたケーシング21を備えており、このケーシング21は、嫌気性槽として機能する。そして、このケーシング21の内部のほぼ中心部には、駆動源である不図示のモータによって回転駆動される回転軸22が横方向(図2の左右方向)に沿って水平に配置されており、この回転軸22には、複数枚(図示例では、7枚)の攪拌フィン23が軸方向(図2の左右方向)に沿って適当な間隔で設けられている。
【0034】
また、上記ケーシング21の横方向一端(図2の左端)には、上方に向かって開口する投入口21aが形成されており、同ケーシング21の横方向他端(図2の右端)には、横方向に向かって開口する排出口21bが形成されている。そして、ケーシング21の横方向他端側の上部には、上方に向かって開口する排気口21cが形成されており、この排気口21cの近傍には、排気口21cを開閉するための不図示のバルブが設けられている。なお、図示しないが、この横型メタン発酵槽20には、内部を所定温度に加熱するためのヒーターと、排出口21bからメタン発酵残渣を吸引して排出するためのポンプが設けられている。
【0035】
ここで、本実施形態では、横型メタン発酵槽20として、ルッケルト式メタン発酵槽を使用している。このルッケルト式メタン発酵槽は、完全嫌気性のみでなく半嫌気性発酵も可能であって、その仕様は以下の通りである。
【0036】
外径寸法 :1,760mm(長さ)×1,320mm(幅)×1,500mm(高さ)
重量 :640kg
電力 :単相100V、15A
消費電力 :最大1,250W
発酵槽容量 :250L(有効容量150L)
処理能力 :5L/日
攪拌駆動力 :0.2kW
温水量 :120L
ヒーター能力:700W
ポンプ動力 :70/90W
なお、このルッケルト式メタン発酵槽には、ガスモニター(Geotechnical Instruments(UK)Ltd社製 BIOGAS 5000 Gas Analyzer)とpH測定器(株式会社佐藤計量器製作所社製 SK-620PH II)が設けられている。
【0037】
また、図1に示す鶏糞のメタン発酵システム1には、横型メタン発酵槽20から排出されるバイオガスを一時的に溜めておくためのガスホルダー60と、乾燥設備50において乾燥したメタン発酵残渣から肥料を製造するための肥料製造設備70が設けられている。なお、バイオガス発電機30は、駆動源としてガスエンジン31を備えている。
【0038】
ところで、前述のように、本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法と鶏糞肥料の製造方法は、以上のように構成された鶏糞のメタン発酵システム1によって実施されるが、先ず、鶏糞のメタン発酵方法について説明する。
【0039】
[鶏糞のメタン発酵方法]
本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法においては、図1に示すように、鶏舎10から排出される鶏糞(一次発酵鶏糞又は生鶏糞)とこれと同量の井戸水が鶏糞原料として横型メタン発酵槽20の投入口21aからこのメタン発酵槽20内に投入される。つまり、鶏糞が井戸水によって2倍に希釈されて横型メタン発酵槽20へと投入される。ここで、鶏糞の希釈には、水道水よりも井戸水が好ましい。その理由は、水道水には、殺菌のためにカルキが含まれており、このカルキは、メタン発酵を阻害する可能性があるためであり、従って、鶏糞の希釈には、カルキなどの消毒剤を使用していない井戸水が好ましい。
【0040】
ところで、一次発酵鶏糞は、好気性菌で一次発酵しているため、発酵熱で温度が70~80℃となっており、これに含まれる雑草種子や雑菌が死滅している。このため、後述のようにメタン発酵残渣を鶏糞肥料にするには好都合である。また、この一次発酵鶏糞は、高温による殺菌状態が保たれているため、鶏糞に最初から含まれていた嫌気性菌も死滅しており、横型メタン発酵槽20内の嫌気性菌であるメタン発酵菌の活動が阻害されることがない。これに対して、生鶏糞は、鶏舎10内で3日程度蓄積されたものである。
【0041】
前述のように、横型メタン発酵槽20に投入される原料としての鶏糞を同量の井戸水で2倍(鶏糞:井戸水=1:1)に希釈すると、鶏糞原料の固形物濃度(TS値)は、20~24%程度と比較的高い値を示す。
【0042】
鶏糞は、他の畜糞に比べて窒素含有率が高いため、この鶏糞のメタン発酵を行う際には、アンモニア性窒素によるメタン発酵の阻害要因を低減するために固形物濃度(TS値)が10%未満にまで鶏糞を希釈するのが一般的である。しかし、本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法において生成されるメタン発酵残渣から本発明方法によって鶏糞肥料を製造する際、メタン発酵残渣の固形物濃度(TS値)が高いほど鶏糞肥料を製造し易いため、本実施形態では、井戸水で希釈された鶏糞原料の固形物濃度(TS値)を20~24%と比較的高い値に設定している。
【0043】
前述のように鶏糞をこれと同量の井戸水によって希釈して成る鶏糞原料が横型メタン発酵槽20内に投入口21aから投入されると、横型メタン発酵槽20内の温度が40℃程度に保たれた状態で不図示のモータが起動されて回転軸22とこれに設けられた複数枚(本実施形態では、7枚)の攪拌フィン23が回転駆動される。ここで、横型メタン発酵槽20内の温度は、鶏糞原料のメタン発酵を活性化するために40℃程度に保たれるが、本実施形態では、後述のようにバイオガス発電機30から排熱回収器40によって回収される排熱の一部によって横型メタン発酵槽20内が加熱され、その内部の温度が40℃程度に保たれる。
【0044】
すると、横型メタン発酵槽20内において、鶏糞原料がこれに含まれるメタン発酵菌の働き(嫌気な微生物分解)によってメタン発酵し、この鶏糞原料のメタン発酵によってバイオガスが発生するとともに、メタン発酵残渣が生成される。なお、本実施形態では、横型メタン発酵槽20に鶏糞原料を投入する際、後述のようにメタン発酵菌を豊富に含んでいるメタン発酵残渣の一部を戻して鶏糞原料に混ぜるようにしている。また、横型メタン発酵槽20に投入する鶏糞原料の水分については、鶏糞原料のメタン発酵を阻害することのない範囲で可能な限り少なく抑えるために、この鶏糞原料の固形物濃度(TS値)が20%となるように調整した。
【0045】
前述のように、図2に示す横型メタン発酵槽20の内部で鶏糞原料のメタン発酵によって発生するバイオガスは、回転する攪拌フィン23によって排気口21c側(図2の右側)へと送られ、不図示のバルブが開かれると、図1に矢印aにて示すように、横型メタン発酵槽20の上部に開口する排気口21cから外部へと排出され、図1に示すガスホルダー60に一時的に貯留される。ここで、バイオガスには、約60%のメタンガス(CH)と約40%の二酸化炭素(CO)の他、微量の酸素(O)、水素(H)、硫化水素(HS)が含まれ、その成分は、不図示のガスモニターによって分析される。このようにバイオガスには、メタンガス(CH)などの空気よりも軽いガスが多く含まれているため、横型メタン発酵槽20の上部に開口する排気口21cからバイオガスを容易に排出してガスホルダー60に溜めておくことができる。
【0046】
ところで、鶏糞原料のメタン発酵を長期間継続的に安定して行うためには、横型メタン発酵槽20内の鶏糞に含まれる尿酸から発生するアンモニア性窒素の濃度を所定値の11,000mg/kg以下に保つ必要がある。
【0047】
実際に、本実施形態の横型メタン発酵槽20を用い、一次発酵鶏糞(一次鶏糞)及び生鶏糞を原料として、それぞれメタン発酵実験を行った。表1は、一次発酵鶏糞でメタン発酵実験を行った場合の原料投入から6日目~32日目までのアンモニア性窒素の濃度の測定値と、生鶏糞でメタン発酵実験を行った場合の原料投入から5日目~34日目までのアンモニア性窒素の濃度の測定値とを示している。一次発酵鶏糞(一次鶏糞)及び生鶏糞いずれの場合も、メタン発酵が長期間継続的に安定して行われたが、一次発酵鶏糞の16日目~26日目では、メタンガス発生量が低下しメタン発酵が阻害されたため、原料の投入及び発酵残渣の排出を中止した。これは、尿酸の分解によるアンモニア性窒素濃度の増加によるものと考えられる。その場合のアンモニア性窒素濃度は10,300mg/kg~12,500mg/kgであった。その後、原料の再投入及び発酵残渣の排出を行ったところ、アンモニア性窒素濃度は10,000mg/kg以下となり、メタン発酵が継続的に安定して行われた。一方、生鶏糞の場合、メタン発酵が長期間継続的に安定して行われ、その場合のアンモニア性窒素濃度は11,000mg/kg以下であった。
【0048】
【表1】
【0049】
アンモニア性窒素濃度を所定値の11,000mg/kg以下に保つ方法には、横型メタン発酵槽20内のアンモニア性窒素濃度が所定値(11,000mg/kg)以下となるように鶏糞原料の投入間隔と投入量を予め測定(キャリブレーション)しておき、測定した投入間隔と投入量で鶏糞原料を横型メタン発酵槽20に投入する方法がある。この場合、後述のように横型メタン発酵槽20から排出されるメタン発酵残渣のpHを不図示のpH測定器によって測定し、測定されたpHから横型メタン発酵層20内のアンモニア性窒素濃度を推定するようにしてもよい。
【0050】
なお、メタン発酵残渣のpHが8.4を超えると、アンモニア性窒素濃度は11,000mg/kgを超える。上述したメタン発酵実験において、一次発酵鶏糞の16日目においては、アンモニア性窒素濃度が10,300mg/kgであったが、その時のpHは8.4であった。
【0051】
以上のように横型メタン発酵層20内のアンモニア性窒素濃度を所定値の11,000mg/kg以下に保つことによって、鶏糞に含まれる尿酸から発生するアンモニア性窒素によって鶏糞原料のメタン発酵が阻害されることがなく、鶏糞原料のメタン発酵が長期間に亘って安定的になされる。
【0052】
ところで、横型メタン発酵槽20内においては、鶏糞原料のメタン発酵によってメタン発酵残渣が生成されるが、このメタン発酵残渣は、図1に矢印bにて示すように、横型メタン発酵槽20の横方向の他端部(図2の右端部)に開口する排出口21bから外部へと排出され、図1に示す乾燥設備50へと供給されて乾燥される。
【0053】
ここで、本実施形態では、メタン発酵残渣は、横型メタン発酵槽20への鶏糞原料の投入量よりも多くが排出され、その一部は、図1に矢印cにて示すように、横型メタン発酵槽20の投入口21aへと戻され、鶏糞原料と共に投入口21aから横型メタン発酵槽20内に投入される。本実施形態では、メタン発酵残渣の量の10%が横型メタン発酵槽20へと戻され、残りの90%(投入される鶏糞原料と同量)のメタン発酵残渣が横型メタン発酵槽20から排出される。
【0054】
上述のように、メタン発酵菌を豊富に含んでいるメタン発酵残渣の一部をメタン発酵菌の菌床として戻して鶏糞原料と共に横型メタン発酵槽20に投入することによって、横型メタン発酵槽20の内部のメタン発酵菌の量を一定に保つことができ、このメタン発酵菌によって鶏糞原料の安定したメタン発酵が可能となる。
【0055】
以上のように、本発明に係る鶏糞のメタン発酵方法によれば、鶏糞原料の横型メタン発酵槽20への投入間隔と投入量を調整することによって、この鶏糞原料に含まれる尿酸から発生するアンモニア性窒素濃度を所定値の11,000mg/kg以下に抑えるようにしたため、アンモニア性窒素によって鶏糞原料のメタン発酵が阻害されることがなく、所要のメタン発酵を長期間継続して安定的に行うことができる。このため、脱窒素処理や脱アンモニア処理を行う必要がなく、そのための設備が不要となるため、設備の大型化と複雑化及び高コスト化を招くことがなく、メタン発酵のプロセスが簡素化されて工数と時間が削減されるとともに、省力化が図られる。
【0056】
次に、本発明に係る鶏糞肥料の製造方法について説明する。
【0057】
[鶏糞肥料の製造方法]
本発明に係る鶏糞肥料の製造方法は、横型メタン発酵槽20において鶏糞原料のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣を乾燥させ、この乾燥させたメタン発酵残渣から窒素、リン酸、カリを含む粒状の鶏糞肥料を製造するものである。単なる一例であるが、本発明に係る鶏糞肥料の製造方法によれば、生鶏糞を約30日で高付加価値有機肥料とすることができる。
【0058】
即ち、前述のように横型メタン発酵槽20から排出されるメタン発酵残渣は、図1に矢印bにて示すように乾燥設備50に供給されて乾燥されるが、横型メタン発酵槽20から排出されてガスホルダー60に貯留されているバイオガスは、図1に矢印dにて示すように、バイオガス発電機30に供給されてガスエンジン31の燃料として使用される。このようにバイオガスによってガスエンジン31が駆動されると、バイオガス発電機30によって発電がなされ、この発電によって得られる電力の一部は、図1に矢印eにて示すように鶏舎10に供給されて該鶏舎10の節電に供されるとともに、他の一部は、図1に矢印fにて示すように横型メタン発酵槽20に供給され、回転軸22(図2参照)を回転駆動するための不図示のモータの駆動や操作盤の動作などの電源として使用される。
【0059】
また、バイオガス発電機30からの排熱(ガスエンジン31の排気熱など)は、図1に矢印gにて示すように排熱回収器40によって回収される。そして、排熱回収器40によって回収された排熱の一部は、図1に矢印hにて示すように、乾燥設備50におけるメタン発光残渣の乾燥に供され、他の一部は、図1に矢印iにて示すように、横型メタン発酵槽20の保温に使用される。
【0060】
乾燥設備50においては、図1に矢印hにて示すように排熱回収器40から供給される排熱によってメタン発酵残渣が乾燥されるが、乾燥したメタン発酵残渣には、有機質100%の窒素(N)、リン酸(P)及びカリ(K)が含まれている。このように、栄養素(N,P,K)を含むメタン発酵残渣は、図1に矢印jにて示すように肥料製造設備70へと送られ、この肥料製造設備70において、図1に矢印kにて示すように粒状の鶏糞肥料として製造される。なお、本実施形態においては、粒状の鶏糞肥料には、窒素(N):8%、リン酸(P):5%、カリ(K):4%が100%有機質の栄養成分として含まれている。
【0061】
以上のように、本発明に係る鶏糞肥料の製造方法によれば、脱窒素処理や脱アンモニア処理を行うための設備や固液分離設備を要することなく、メタン発酵残渣を乾燥させて固形の鶏糞肥料を製造することができるため、製造プロセスと製造設備の簡素化を図ることができ、鶏糞肥料を効率良く低コストで安定して製造することができる。また、原料となるメタン発酵残渣には脱窒素処理や脱アンモニア処理が施されていないため、このメタン発酵残渣には栄養素の1つである窒素(N)が特に豊富に含まれており、製造される肥料に窒素(N)の成分が不足することがない。
【0062】
さらに、横型メタン発酵槽20に投入する鶏糞をこれと同量の井戸水で2倍程度に希釈することによって、鶏糞原料の固形物濃度(TS値)を20~24%程度と比較的高い値に保つようにしたため、固液分離装置などの設備を要することなく、鶏糞原料のメタン発酵によって生成されるメタン発酵残渣から粒状の鶏糞肥料を簡単な製造プロセスと製造設備によって容易に製造することができる。
【0063】
そして、鶏糞肥料の製造方法においては、鶏糞のメタン発酵方法において発生するバイオガスを用いた発電で発生する排熱の一部によってメタン発酵残渣を乾燥させるようにしたため、鶏糞が有するエネルギーを有効に利用することができ、製造システム全体のエネルギー効率を高めて鶏糞肥料を低コストで製造することができるという効果が得られる。乾燥させたメタン発酵残渣には、窒素8%、リン酸5%、カリ4%の成分比率となる非常に優れた有機肥料であり、市場価格が200円/20kg程度の従来の発酵鶏糞と比較して、5~10倍程度の市場価格を設定できるので、安定した事業性を確保することができる。表2は、本実施形態において製造した乾燥したメタン発酵残渣の比量成分を示している。
【0064】
【表2】
【0065】
[鶏糞のメタン発酵システムの物質収支]
次に、本実施形態における鶏糞のメタン発酵システム1の物質収支を図3に基づいて以下に説明する。なお、図3に示す数値は一例であって、これらの数値は図示に値に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0066】
本実施形態に係る鶏糞のメタン発酵システム1においては、メタン発酵槽20に投入する鶏糞原料は、15トンの一次発酵鶏糞が同量(15トン)の井戸水(希釈水)によって希釈される。この場合、一次発酵鶏糞の水分含有率の平均値が52%程度であるため、メタン発酵槽20に投入される鶏糞原料の固形物濃度(TS値)は24%となる。
【0067】
上記鶏糞原料を容量900mのメタン発酵槽20に1日に30MTの割合で投入し、この鶏糞原料を温度40℃で約30日間発酵させると、2,116Nm/日の量のバイオガスが発生する。
【0068】
即ち、30MT/日の鶏糞原料の固形物濃度(TS値)は24%であるため、この鶏糞原料の固形分は、
30MT×0.24=7.2MT
となる。ここで、固形分1MT当たりのガス発生量は293.9L/kg(実測値)であるため、1日に発生するバイオガスの量は、
7.2MT×293.9L/kg=2,116Nm
となる。
【0069】
ここで、バイオガスに含まれるメタンガス(CH)の割合を50%、発電効率を41.1%とすると、メタンガスの発熱量は35.8MJ/Nmであるため、バイオガス発電機30での発電量は、4,324.4kWh/日となる。この発電量4,324.4kWh/日のうち、180kWh/日がメタン発酵槽20において使用され、残りの4,144.4kWh/日が余剰電力として鶏舎10における節電に使用される。
【0070】
また、バイオガス発電機30における排熱は、排熱回収器40によって回収されるが、バイオガスに含まれるメタンガス(CH)の割合を50%、メタンガスの発熱量を35.8MJ/Nm、熱回収率を42.6%とすると、バイオガス発電機30からの排熱回収量は、
2,116Nm/日×0.5×35.8MJ/Nm×0.426
=1,6136MJ/日
となる。この排熱回収量1,6136MJ/日のうち、7,056MJ/日の排熱がメタン発酵槽20において使用され、残りの9,080MJ/日の量の排熱が後述のメタン発酵残渣の乾燥に供されるとともに、鶏舎10の暖房や洗浄用温水や蒸気生成などに供される。
【0071】
他方、メタン発酵槽20からは27.81MT/日の量のメタン発酵残渣(水分含有率:83.93%(平均値))が排出されるが、このメタン発酵残渣は、前述のようにバイオガス発電機30から回収された9,080MJ/日の量の排熱によって乾燥設備(連続式伝導熱乾燥機)50において乾燥される。このように乾燥されたメタン発酵残渣は、100%有機質の窒素、リン酸、カリを含んでおり、肥料製造設備70(図1参照)によって粒状の鶏糞肥料(高付加価値誘起肥料)が生成される。
【0072】
ここで、鶏糞肥料の1日の製造量は、1日の鶏糞原料投入量を30MT/日、期間内のメタン発酵残渣の総排出量を407.4kg、期間内の原料総投入量を439.5kg、期間内のメタン発酵残渣の水分含有率の平均値を83.93%とすると、
30MT×(439.5/407.4)×(1-0.8393)=4.46MT
となる。
【0073】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 メタン発酵システム
10 鶏舎
20 横型メタン発酵槽
21 ケーシング
21a 投入口
21b 排出口
21c 排気口
22 回転軸
23 攪拌フィン
30 バイオガス発電機
31 ガスエンジン
40 排熱回収器
50 乾燥設備
60 ガスホルダー
70 肥料製造設備
図1
図2
図3