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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】衣服、導電性複合糸、及び使い切り衣服
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/256 20210101AFI20221122BHJP
【FI】
A61B5/256 210
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021087839
(22)【出願日】2021-05-25
(62)【分割の表示】P 2017203641の分割
【原出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2021121353
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-05-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年6月23日 日本経済新聞地域経済面にて公開 平成29年6月29日 日経産業新聞第13面にて公開 平成29年7月7日 ウェブサイトの掲載 平成29年10月6日 ウェブサイトの掲載 平成29年10月6日 第3回 国際 生地・素材展 春 テキスタイル東京にて公開 平成29年10月10日 繊維ニュース第3面にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】593021286
【氏名又は名称】ミツフジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三寺 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】雨堤 宏二
(72)【発明者】
【氏名】住吉 右次
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121442(JP,A)
【文献】特開2017-110307(JP,A)
【文献】特開2017-089052(JP,A)
【文献】特開2011-015817(JP,A)
【文献】山崎義一,ストレッチ素材について,織消誌,2004年,Vol.45 No.8,pp.60-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気を絶縁する絶縁性繊維を編んで形成される絶縁領域と、
周囲に前記絶縁領域が隣接している領域であって、非導電性繊維に導電性物質を付加してなる導電性繊維を含む糸のみを、前記絶縁領域と段差がないように編み込んで形成される電極領域と、
を有し、
前記導電性繊維を含む前記糸は、伸縮率が少なくとも50%以上である弾性繊維に、前記導電性繊維を巻きつけた導電性複合糸であり、
前記絶縁性繊維は、前記弾性繊維に前記非導電性繊維を直接巻きつけた絶縁性複合糸であり、
前記電極領域は、着用時に生体電位を検出可能なように着用者の身体に接触する位置に設けられている衣服。
【請求項2】
前記絶縁性複合糸における非導電性繊維の巻数又はピッチが、前記導電性複合糸における前記導電性繊維の巻数又はピッチと同じである
ことを特徴とする請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
前記電極領域は、前記絶縁領域によって隔てられた2箇所に設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衣服。
【請求項4】
2箇所に設けられた前記電極領域のそれぞれが検出した前記生体電位を受信する受信機を備え、
前記各電極領域からそれぞれ伸びる配線と、
前記配線のそれぞれの端部に設けられて、前記受信機と接続する、2つの端子部と、
2つの前記端子部を結ぶ線上から離れて配置され、前記受信機を前記絶縁領域に固定する固定部と、
を有することを特徴とする請求項3に記載の衣服。
【請求項5】
前記電極領域は、前記着用者の胸部と腹部との間の皮膚に接触する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電位を検出可能な衣服、導電性複合糸、及び使い切り衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服に電極を設けて着用者の生体電位を検出するシステムが開発されている。特許文献1には、伸縮性を有する生地のうち電極の設置場所の周辺部を伸ばした状態で固定して、その電極を生体に密着させる密着手段を備えた生体電気信号モニタ用衣類が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-100673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、生体電極を生地の所定領域に設置するため、厚みの分だけ生地の表面よりも生体電極の表面が生体に近い。つまり、特許文献1に記載された生体電気信号モニタ用衣類は、生体電極が設置された領域とそれ以外の領域とで段差が生じ得る構成である。さらに、特許文献1の技術では、生体電極を密着手段により生体に密着させるため、上述した段差の角等がこすれて不快感を生じさせ易い。
【0005】
本発明は、着用者に不快感を与え難い生体電位検出可能な衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る衣服は、電気を絶縁する絶縁性繊維を編んで形成される絶縁領域と、非導電性繊維に導電性物質を付加してなる導電性繊維を含む糸を、前記絶縁領域と段差がないように編み込んで形成される電極領域と、を有し、前記電極領域は、着用時に生体電位を検出可能なように着用者の身体に接触する位置に設けられている衣服である。
【0007】
本発明の請求項2に係る衣服は、請求項1に記載の態様において、前記導電性繊維を含む前記糸は、伸縮率が少なくとも50%以上である弾性繊維に、前記導電性繊維を巻きつけた導電性複合糸であることを特徴とする衣服である。
【0008】
本発明の請求項3に係る衣服は、請求項2に記載の態様において、前記絶縁性繊維は、前記弾性繊維に前記非導電性繊維を巻きつけた絶縁性複合糸であることを特徴とする衣服である。
【0009】
本発明の請求項4に係る衣服は、請求項3に記載の態様において、前記絶縁性複合糸における非導電性繊維の巻数が、前記導電性複合糸における前記導電性繊維の巻数と同じであることを特徴とする衣服である。
【0010】
本発明の請求項5に係る衣服は、請求項1から4のいずれか1項に記載の態様において、前記電極領域は、前記絶縁領域によって隔てられた2箇所に設けられていることを特徴とする衣服である。
【0011】
本発明の請求項6に係る衣服は、請求項5に記載の態様において、2箇所に設けられた前記電極領域のそれぞれが検出した前記生体電位を受信する受信機を備え、前記各電極領域からそれぞれ伸びる配線と、前記配線のそれぞれの端部に設けられて、前記受信機と接続する、2つの端子部と、2つの前記端子部を結ぶ線上から離れて配置され、前記受信機を前記絶縁領域に固定する固定部と、を有することを特徴とする衣服である。
【0012】
本発明の請求項7に係る衣服は、請求項1から6のいずれか1項に記載の態様において、前記電極領域は、前記着用者の胸部と腹部との間の皮膚に接触する位置に設けられていることを特徴とする衣服である。
【0013】
本発明の請求項8に係る導電性複合糸は、非導電性繊維に銀を付加してなる導電性繊維を、伸縮率が少なくとも50%以上である弾性繊維に巻きつけて形成される導電性複合糸である。
【0014】
本発明の請求項9に係る導電性複合糸は、請求項8に記載の態様において、前記非導電性繊維はナイロンであり、前記弾性繊維はポリウレタンであることを特徴とする導電性複合糸である。
【0015】
本発明の請求項10に係る使い切り衣服は、ポケットと開口部とを有する不織布と、請求項8又は9に記載の導電性複合糸で形成された電極であって、前記不織布に接着される電極と、前記ポケットに収納される受信機と、前記電極から前記受信機までを接続する配線と、を有し、前記不織布の前記電極が接着された側を着用者の身体の前面に向け、前記開口部から該着用者の頭部を通して着用されることを特徴とする使い切り衣服である。
【0016】
本発明の請求項11に係る使い切り衣服は、請求項10に記載の態様において、前記ポケットは、前記着用者に着用されたときに前記前面の左側に配置されることを特徴とする使い切り衣服である。
【0017】
本発明の請求項12に係る使い切り衣服は、請求項10又は11に記載の態様において、前記ポケットは、前記着用者に着用されたときに裾側に入口を有し、前記受信機は、前記入口から前記ポケットに収納されることを特徴とする使い切り衣服である。
【発明の効果】
【0018】
本願に係る発明によれば、着用者に不快感を与え難い生体電位検出可能な衣服が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る検出システム9の例を示す図。
図2】送受信機2の構成を示す図。
図3】送受信機2の外観を示す図。
図4】端末3の構成の例を示す図。
図5】衣服1の検出領域を正面から見た図。
図6】衣服1の検出領域の断面図。
図7】導電性複合糸111の構成を示す図。
図8】導電性複合糸111を編んで形成される電極領域11の一例を示す図。
図9】着用者Pに触れる面に段差が生じる衣服8を示す図。
図10】変形例に係る使い切り衣服4を有する検出システム9aの例を示す図。
図11】使い切り衣服4の形状を示す図。
図12】使い切り衣服4における検出領域の断面図。
図13】段差がないように形成された使い切り衣服4の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
<検出システムの構成>
以下の説明で衣服1等の「内側」とは、着用者Pの身体に近い側であり、「外側」とは、着用者Pの身体から遠い側である。
【0021】
図1は、本実施形態に係る検出システム9の例を示す図である。図1に示す通り、検出システム9は、衣服1、送受信機2、及び端末3を有する。本実施形態に係る検出システム9は、衣服1の着用者Pから生体電位を検出し、この生体電位を示す生体情報を端末3にて利用者に知らせるシステムである。
【0022】
生体情報は、検出した生体電位から得られる情報であり、例えば、心電、心拍、呼吸、脈波、体温、筋電、脳波、眼球電位、血圧、発汗量、血糖値、湿度等が挙げられるが、着用者Pの身体が電極領域に触れることで得られる情報であれば何でもよい。以下の説明で生体情報は心電である。
【0023】
衣服1は、着用者Pが着用する衣服であって、電気を絶縁する絶縁性繊維を編んで形成される絶縁領域10と、着用者Pの生体電位を検出するための電極領域11と、が設けられた衣服である。電極領域11は、着用時に生体電位を検出可能なように着用者Pの身体に接触する位置に設けられている。
【0024】
本実施形態において、検出の目的とする生体情報は心電であるため、筋電位はノイズになる。例えば、大胸筋や腹直筋等に近い部位に電極領域11を設けると、筋電位が影響して心電を測定し難い。そのため本実施形態において電極領域11は、着用者Pの胸部と腹部との間であって、大胸筋及び腹直筋等の筋電位に影響を受け難い部位に設けられる。すなわち、電極領域11は、着用者Pの胸部と腹部との間の皮膚に接触する位置に設けられている。以下、着用者Pの胸部と腹部との間の領域を「検出領域」と呼ぶ。
【0025】
電極領域11は、検出領域の左右にそれぞれ1箇所ずつ設けられ、それらに挟まれた位置、つまり着用者Pのみぞおちに相当する部位には、送受信機2を取り付ける領域が設けられる。
【0026】
送受信機2は、電極領域11により検出された着用者Pの生体情報を受信して、その生体情報に応じた信号(生体信号)を端末3に送信するデバイスである。送受信機2は、例えば、IEEE802.15.1規格に準じた近距離無線通信を用いて生体信号を端末3に送信する。
【0027】
端末3は、例えばスマートフォンやタブレットPC等であり、送受信機2から受信した信号に基づいて着用者Pの生体情報を利用者に知らせるデバイスである。
【0028】
端末3が通信回線5を介して送受信機2と接続する場合、検出システム9は通信回線5を含んでもよい。通信回線5とは、送受信機2と端末3との情報の遣り取りを仲介する回線であり、例えばインターネットである。送受信機2から送信される生体信号は、通信回線5に接続されたクラウドシステム等の情報処理装置群に記憶され、これらの情報処理装置群から端末3に提供されてもよい。
【0029】
<送受信機の構成>
図2は、送受信機2の構成を示す図である。制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有し、CPUがROM及び記憶部22に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を読み出して実行することにより送受信機2の各部を制御する。
【0030】
記憶部22は、ソリッドステートドライブ等の記憶手段であり、制御部21のCPUに読み込まれる各種のプログラムを記憶する。
【0031】
通信部23は、無線により端末3に接続する通信回路である。送受信機2は、通信部23により端末3に、衣服1で検出された生体情報を示す生体信号を送信する。
【0032】
端子部26は、後述する衣服1の電極領域11から引かれた配線12と接続する端子である。端子部26は、例えば凹部を有したホックである。送受信機2は、端子部26を介して衣服1から生体情報を受信し、受信した生体情報を示す生体信号を、通信部23を介して端末3に送信する。
【0033】
図3は、送受信機2の外観を示す図である。送受信機2を着用者Pの右側から見た図が図3(a)であり、着用者Pの左側から見た図が図3(c)である。また、送受信機2を着用者Pの正面(外側)から見た図が図3(b)であり、着用者Pの身体の側(内側)から見た図が図3(d)であり、送受信機2を着用者Pの下側から見た図が図3(e)である。
【0034】
図3に示す通り、送受信機2には、2つの端子部26に加えて固定部27が設けられている。固定部27は、2つの端子部26を結ぶ線上から離れて配置されている。固定部27は、送受信機2を衣服1に固定するための構成であり、例えば凹部を有したホックである。
【0035】
<端末の構成>
図4は、端末3の構成の例を示す図である。端末3は、制御部31、記憶部32、通信部33、表示部34、及び操作部35を有する。
【0036】
制御部31は、CPU、ROM、RAMを有し、CPUがROM及び記憶部32に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより端末3の各部を制御する。
【0037】
記憶部32は、ソリッドステートドライブ等の記憶手段であり、制御部31のCPUに読み込まれる各種のプログラムを記憶する。
【0038】
通信部33は、無線により送受信機2に接続する通信回路である。端末3は、通信部33により送受信機2から、衣服1で検出された生体情報を示す生体信号を受信する。
【0039】
操作部35は、各種の指示をするための操作ボタン等の操作子を備えており、利用者による操作を受付けてその操作内容に応じた信号を制御部31に供給する。操作部35は、利用者の指又はスタイラスペン等の操作体を検知するタッチパネルを有してもよい。
【0040】
表示部34は、液晶ディスプレイ等の表示画面を有しており、制御部31の制御の下、画像を表示する。表示画面の上には、操作部35の透明のタッチパネルが重ねて配置されてもよい。
【0041】
表示部34は、制御部31の制御の下、生体情報に応じた画像を表示する。例えば、表示部34は、送受信機2から得た心電を示す生体情報に基づいて、心電図、心電波形を表示する。また、表示部34は、心拍の変動時系列データであるRRI(R-R Interval)や心拍数を文字により表示してもよい。
【0042】
なお、端末3が生体情報を利用者に知らせる方法は表示部34による表示に限られない。例えば、端末3は、音を出力して生体情報を知らせるスピーカー等の放音装置を有していてもよい。
【0043】
<衣服の構成>
図5は、衣服1の検出領域を正面から見た図である。検出領域には左右のそれぞれに絶縁領域10によって隔てられた電極領域11が設けられている。これら2箇所に設けられた電極領域11からは、それぞれ配線12が伸びている。
【0044】
電極領域11及び配線12は、外側に露出させると、導電性の物体に触れることによって短絡する場合がある。この短絡を防ぐため、電極領域11及び配線12は、外側を絶縁部材14によって覆われる。絶縁部材14は、例えば加熱及び加圧することにより接着されるウレタンシート等であり、衣服1の電極領域11及びその周囲の絶縁領域10に接着される。
【0045】
2本の配線12のそれぞれの端部には端子部13が設けられている。この端子部13は、絶縁部材14を貫通して外部に露出している。端子部13は、送受信機2に信号を送るために端子部26と接続して通信経路を構成する端子である。例えば端子部26が凹部を有したホックである場合、端子部13は、この凹部にはめ込まれる形状の凸部を有したホックである。
【0046】
固定部15は、送受信機2を衣服1に固定するための構成であり、絶縁部材14の上に縫合等により固定されている。例えば送受信機2の固定部27が凹部を有したホックである場合、固定部15は、この凹部にはめ込まれる形状の凸部を有したホックである。
【0047】
図5に示す通り固定部15は、2つの端子部13を結ぶ線Lの上から離れて配置される。これは、線Lの延長線上に固定部15を設けると、線Lを中心軸として送受信機2が回転するため、送受信機2が衣服1に安定して固定され難くなるからである。固定部15は、線Lから離れて配置されることにより、送受信機2を衣服1の絶縁領域10に固定する。
【0048】
図6は、衣服1の検出領域の断面図である。絶縁領域10は、厚みt10を有する布帛であり、着用者Pの皮膚に接触する接触面100を有する。電極領域11は、厚みt11を有する布帛であり、着用者Pの皮膚に接触する接触面110を有する。
【0049】
電極領域11は、非導電性の繊維(非導電性繊維という)に銀、銅、ステンレス、ニッケル、アルミ等の金属の導電性物質や、カーボン、導電性高分子等の非金属の導電性物質を付加してなる導電性繊維を含む糸を、絶縁領域10と段差がないように編み込んで形成される。このため、図6に示す通り、接触面100と接触面110とには段差がないから、接触面100及び接触面110の境界部分が着用者Pの皮膚にこすれることがほぼなくなり、着用者Pに不快感を与え難い。
【0050】
なお、接触面100と接触面110とには、着用者Pに感知される段差がなければよく、例えば、数ミリメートル程度の着用者Pに感知されない段差があってもよい。電極領域11を、絶縁領域10と一体に編み込む手段には、例えば、コンピュータにより制御される無縫製横編機等が用いられる。
【0051】
<導電性複合糸の構成>
上述した通り、絶縁領域10は、電気を絶縁する絶縁性繊維を編んで形成される。そして、電極領域11は、導電性繊維を含む糸を、絶縁領域10を形成する絶縁性繊維とともに編み込んで、絶縁領域10と段差がないように形成される。ここでは、導電性繊維を含む糸の例として導電性複合糸111を説明する。
【0052】
図7は、導電性複合糸111の構成を示す図である。導電性複合糸111は、弾性繊維1110に導電性繊維1111を巻きつけて形成される複合糸である。弾性繊維1110は、伸縮率が少なくとも50%以上である繊維であり、例えばポリウレタンである。導電性繊維1111は、非導電性繊維に導電性物質を付加してなる繊維であり、例えば、ナイロンに銀をメッキした糸である。生体電位を安定して検出するため、ナイロンに対する銀の比率は10重量パーセント以上であればよいが、30重量パーセント以上であることがより望ましい。
【0053】
なお、弾性繊維1110は、ポリウレタンに限られず、例えば、弾性を有するポリエステル、天然ゴム繊維、熱収縮させたナイロン等であってもよい。また、非導電性繊維はナイロンに限られず、導電性が決められた閾値を下回る繊維であれば、セルロースや生糸等の天然繊維や他の合成繊維であってもよい。非導電性繊維に天然繊維を用いることにより、衣服1は、着用者Pが合成繊維にアレルギーがある場合でも着用可能となる。
【0054】
また、非導電性繊維に導電性物質を付加する方法はメッキに限られず、例えば、蒸着、スパッタリング、金属泊の接着、含浸等であってもよい。導電性繊維1111は、例えば、アクリル繊維に硫化銅を含浸させて形成されてもよい。
【0055】
導電性複合糸111は、弾性繊維1110を芯糸としてその周囲に二重に導電性繊維1111を巻きつけて形成される。すなわち、導電性複合糸111は、ダブルカバードヤーンにより形成される。
【0056】
導電性複合糸111は、まず、弾性繊維1110には導電性繊維1111である下巻糸1111aをピッチαで巻きつけ、その上に逆方向に導電性繊維1111である上巻糸1111bをピッチαで巻きつけて形成される。これにより直径D1で、ピッチαの導電性複合糸111が形成される。ピッチαとは、単位長さ当たりにおける導電性繊維1111の巻きつける回数(以下、巻数ともいう)である。
【0057】
図8は、導電性複合糸111を編んで形成される電極領域11の一例を示す図である。例えば、電極領域11は、導電性複合糸111を図8に示すパターンで編み込むことにより布帛状に形成される。導電性複合糸111は、芯糸に伸縮率が少なくとも50%以上である弾性繊維1110を用いているため、電極領域11は、それ自体が伸縮し易く、着用者Pの皮膚に沿って密着し易い。
【0058】
また、電極領域11に隣接して形成される絶縁領域10は、絶縁性繊維を編んで形成されるが、この絶縁性繊維は、弾性繊維1110に非導電性繊維を巻きつけて形成される絶縁性複合糸であってもよい。
【0059】
この場合、絶縁領域10を形成する絶縁性複合糸は、図7に示した導電性複合糸111と同じ直径D1となるように、非導電性繊維を弾性繊維1110に巻きつけて形成されてもよい。絶縁性複合糸は、導電性複合糸111において弾性繊維1110に導電性繊維1111を巻きつける回数と同じ回数で、弾性繊維1110に非導電性繊維をピッチαで巻きつけて形成されてもよい。つまり、絶縁性複合糸における弾性繊維に対する非導電性繊維の巻数は、導電性複合糸における弾性繊維に対する導電性繊維の巻数と同じであってもよい。
【0060】
絶縁領域10を形成する絶縁性複合糸と、電極領域11を形成する導電性複合糸111とで巻数やピッチが同じに揃えられることにより、絶縁領域10と電極領域11との境界の段差は、着用者Pに感じられ難くなる。また、絶縁性複合糸は、導電性複合糸111と同様に、シングルカバードヤーンではなく、ダブルカバードヤーンにより形成されることが望ましい。なお、絶縁性複合糸は、導電性複合糸111がシングルカバードヤーンにより形成されている場合に、導電性複合糸111と形成方法が一致するように、シングルカバードヤーンにより形成されてもよい。
【0061】
特に、絶縁性複合糸と導電性複合糸111とにそれぞれ用いる弾性繊維及び非導電性繊維を同一素材、同一径で揃えることが望ましい。これにより、絶縁性複合糸と導電性複合糸111との差は、非導電性繊維に導電性物質を付加したか否かに過ぎなくなり、体積への影響はほぼなくなる。このように構成された絶縁性複合糸と導電性複合糸111とを一体に編み込むことにより、絶縁領域10と電極領域11とはシームレスに繋がり、衣服1には段差がなくなる。
【0062】
なお、同じ巻数とは、着用者Pにとって感知し得ないのであれば、厳密に同じ巻数でなくてもよい。例えば、導電性複合糸111において弾性繊維1110に導電性繊維1111を巻きつける巻数と、絶縁性複合糸において弾性繊維1110に非導電性繊維を巻きつける巻数との比率は、例えば±20%の範囲、好ましくは±5%の範囲に入っていればよい。
【0063】
図9は、着用者Pに触れる面に段差が生じる衣服8を示す図である。衣服8は、絶縁領域80、電極領域81、配線82、端子部83、及び絶縁部材84を有する。電極領域81は、例えば、導電性繊維を含む糸を絶縁領域80とともに編み込んで形成されるが、絶縁領域80を形成する糸と、電極領域81を形成する糸とで、糸の構成(単一の繊維であるか複合糸であるか)、直径、巻数、ピッチ等を揃えていない。そのため、電極領域81が着用者Pの皮膚に接触する接触面810と、絶縁領域80が着用者Pの皮膚に接触する接触面800とには、着用者Pに感知される程度の段差δが生じている。
【0064】
この構成の場合、絶縁領域80と電極領域81との境界が着用者Pの皮膚にこすれて着用者Pに不快感を与えることがある。また、電極領域81が着用者Pの皮膚から離れやすいため、生体電位の検出が不安定になる。
【0065】
上述した通り、本実施形態における衣服1は、絶縁領域10と電極領域11とに、着用者Pが感知し得る程度の段差がないように形成されるため、着用者Pに不快感を与え難く、生体電位の検出が不安定になり難い。
【0066】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組合せてもよい。
【0067】
<変形例1>
上述した実施形態において、衣服1は、絶縁領域10が絶縁性複合糸を編んで形成されていたが、不織布で形成されていてもよい。不織布は比較的安価で大量生産が可能であるため、絶縁領域を不織布で形成した衣服は、使い切りの衣服として用いてもよい。
【0068】
図10は、変形例に係る使い切り衣服4を有する検出システム9aの例を示す図である。検出システム9aは、送受信機2、端末3に加えて、上述した実施形態の衣服1の代わりに使い切り衣服4を有する。
【0069】
使い切り衣服4は、不織布で形成される絶縁領域40と、上述した導電性複合糸111で形成された電極であって、不織布に接着される電極領域41とを有する。着用者Pの左右の側面には面ファスナー46が設けられている。この面ファスナー46は、一枚の不織布の異なる部分を貼り付けて固定し、使い切り衣服4を形成するのに用いられる。面ファスナー46によって使い切り衣服4が形成されることにより、着用者Pの皮膚に負担がかかり難く、着脱が容易であり、複数回にわたる着用にも耐久可能となる。
【0070】
絶縁領域40には、入口470を有するポケット47が設けられる。ポケット47が設けられる位置は、使い切り衣服4の外側に設けられるのであればどこであってもよいが、着用者Pの身体の前面が望ましい。また、ポケット47は、使い切り衣服4が着用者Pに着用されたときに、前面のうち特に左側に配置されることが望ましい。使い切り衣服4が着用者Pに着用されたときに、ポケット47が身体の前面の左側に配置されることで、着用者Pが例えば寝返りをしたときに負担が少ない。特に、着用者Pが胃の方向を重力が働く方向に揃えるように、右側を下にして睡眠を取っている場合、ポケット47が前面の左側に配置されていれば、ポケット47が着用者Pの身体の下に移動することが少ない。
【0071】
ポケット47は、例えば絶縁領域40を形成する不織布の上に矩形に切り取られた不織布の3辺を縫い付けて形成される。ポケット47が縫い付けられる辺は、着用者Pから見て上、右、左の3辺であり、下側の1辺は縫い付けずに開口されて、入口470を形成する。すなわち、ポケット47は、着用者Pに着用されたときに裾側に入口470を有する。送受信機2は、入口470から上に向けてポケット47の中に収納される。裾側に入口470を有するため、着用者Pがポケット47から間違えて送受信機2を取り外す可能性が抑制される。
【0072】
電極領域41から送受信機2までは配線42によって接続されている。これにより、電極領域41で検出された着用者Pの生体電位に基づく生体情報は、配線42を経由して送受信機2に受信され、送受信機2から端末3に送信される。
【0073】
図11は、使い切り衣服4を形成する不織布を示す図である。使い切り衣服4は、ポケット47と開口部48とを有する一枚の不織布に、電極領域41、配線42、及び端子部43(図11において省略)を付加して形成される。図11(a)には、使い切り衣服4として用いられるときに外側となる不織布の面が示されている。また、図11(b)には、使い切り衣服4として用いられるときに内側となる不織布の面が示されている。図11(b)に示すように、不織布の内側には、着用者Pの胸部と腹部との間の検出領域に電極領域41が2箇所設けられている。
【0074】
図11において、開口部48の中心線Oから右側が着用者Pの正面側であり、中心線Oから左側が着用者Pの背面側である。図11(a)に示す不織布を中心線Oが山折になるように折り、開口部48から着用者Pの頭部を通し、面ファスナー46を接着することで、使い切り衣服4は着用者Pに着用される。このように、一枚の不織布を一度折り、2箇所の側面で面ファスナーを接着させるだけで、この不織布は使い切り衣服4として着用可能となるため、縫製等の工程が不要であり、製造コストが抑制される。
【0075】
図12は、使い切り衣服4における検出領域の断面図である。端子部43は、実施形態における端子部13と共通の構成であり、端子部26と接続する。絶縁領域40は、厚みt40を有する布帛であり、着用者Pの皮膚に接触する接触面400を有する。電極領域41は、厚みt41を有する布帛であり、着用者Pの皮膚に接触する接触面410を有する。
【0076】
電極領域41は、絶縁領域40である不織布に接着されている。そのため、接触面410は、接触面400よりも、電極領域41の厚みt41だけ着用者Pに近い。この場合、この段差が着用者Pに認識されることがある。しかし、絶縁領域40は、不織布で形成されるため、圧縮により変形され易い。したがって、不織布の変形によって上述した段差が吸収されることがある。
【0077】
また、絶縁領域40は、予め加工されてもよい。図13は、絶縁領域40と電極領域41とで段差がないように形成された使い切り衣服4の断面図である。絶縁領域40には、電極領域41を設ける部位に、深さが厚みt41にほぼ同じになるように、予め凹部401が形成されている。この凹部401は、例えば、カッター等で不織布の一部を削り取ることなどによって形成される。この凹部401に厚みt41を有する電極領域41をはめ込み、接着することで、接触面400と接触面410との段差がほぼなくなる。
【0078】
<変形例2>
上述した実施形態において、送受信機2は、無線通信により端末3と接続して端末3に生体情報を送信していたが、送信機能がない、受信機であってもよい。例えば、送受信機2は、受信した生体情報を記憶部22に記憶するデータロガーであってもよい。
【0079】
<変形例3>
上述した実施形態において、絶縁性複合糸は、導電性複合糸111と同じ直径D1となるように、非導電性繊維を弾性繊維1110に巻きつけて形成されていたが、絶縁領域10と電極領域11とに段差がないように衣服1が形成されるのであれば、絶縁性複合糸と導電性複合糸111とは、直径が異なっていてもよい。
【0080】
また、絶縁性複合糸は、導電性複合糸111において弾性繊維1110に導電性繊維1111を巻きつける回数と異なる回数で、弾性繊維1110に非導電性繊維を巻きつけて形成されてもよい。例えば、絶縁性複合糸に、導電性複合糸111と異なる巻数のものを用いたとしても、編み方のパターン等を電極領域11と変えることにより、絶縁領域10と電極領域11とに段差がないようにすればよい。
【符号の説明】
【0081】
1…衣服、10…絶縁領域、100…接触面、11…電極領域、110…接触面、111…導電性複合糸、1110…弾性繊維、1111…導電性繊維、1111a…下巻糸、1111b…上巻糸、12…配線、13…端子部、14…絶縁部材、15…固定部、2…送受信機、21…制御部、22…記憶部、23…通信部、26…端子部、27…固定部、3…端末、31…制御部、32…記憶部、33…通信部、34…表示部、35…操作部、4…使い切り衣服、40…絶縁領域、400…接触面、401…凹部、41…電極領域、410…接触面、42…配線、43…端子部、46…面ファスナー、47…ポケット、470…入口、48…開口部、5…通信回線、8…衣服、80…絶縁領域、800…接触面、81…電極領域、810…接触面、82…配線、83…端子部、84…絶縁部材、9…検出システム、9a…検出システム、D1…直径、L…線、O…中心線、P…着用者。
図1
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図10
図11
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図13