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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】液中プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/48 20060101AFI20221122BHJP
   A61L 2/14 20060101ALI20221122BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C02F1/48 B
A61L2/14
H05H1/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021542588
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020025987
(87)【国際公開番号】W WO2021039112
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019153276
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】猪原 哲
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-119347(JP,A)
【文献】特開2014-113526(JP,A)
【文献】特開2007-289898(JP,A)
【文献】特開2014-79743(JP,A)
【文献】特開2015-223528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46-48、72-78
A61L 2/14
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理水中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、当該処理水を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、
前記処理水の水流方向に沿って内径が拡開する管路形状を有するテーパー管路と、
前記テーパー管路の内径の拡開開始前の位置に配設され、絶縁体で被覆された一の電極と他の電極とからなり、当該一及び他の各電極を被覆する絶縁体を相互に接触させて整列させて、当該一及び他の各電極を被覆する絶縁体の内側先端を、各々前記処理水の水流方向に対して対向する端面で当該絶縁体から開放される対向電極を備えることを特徴とする
液中プラズマ発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液中プラズマ発生装置において、
前記絶縁体から開放された対向電極の表面が、平滑面から構成されることを特徴とする
液中プラズマ発生装置。
【請求項5】
請求項1または4に記載の液中プラズマ発生装置において、
前記対向電極間の間隔が、前記処理水の水流により前記対向電極に発生する気泡の直径よりも大きいことを特徴とする
液中プラズマ発生装置。
【請求項6】
請求項1、4または5のいずれかに記載の液中プラズマ発生装置において、
前記対向電極が配設された部分の水流方向に対する断面積が、前記処理水の水路の水流方向に対する断面積に対し、0.4未満の比率であることを特徴とする
液中プラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電プラズマを発生させるプラズマ発生装置に関し、特に、液中において放電プラズマを発生させる液中プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを発生させて対象物の殺菌を行うプラズマ殺菌は、その用途が多岐にわたっており、その適用分野は拡大の一途を辿っている。このような適用分野として、浄水処理が挙げられる。特にプラズマによって、殺菌対象の処理水に含有される有機物等を分解できるプラズマ発生装置が期待されている。
【0003】
従来の浄水処理では、次亜塩素酸などの薬剤処理が行われている。しかし、薬剤処理は、安価ではあるものの、浄水処理後の残留性の問題があり、人体の健康に与える影響が問題視されている。また、薬剤耐性菌・微生物の発生の可能性も示唆されており、その殺菌効果は永続的なものとは言い切れない。
【0004】
この点、処理水に対するプラズマ殺菌を可能とする液中プラズマ発生装置が実現されれば、プラズマの高い反応性により発生するOHラジカルによる殺菌力によって、処理水を強力に殺菌することができると共に、薬剤のような残留性は無い。そのため、浄水処理に液中プラズマ発生装置が適用できれば、無毒な浄水処理であることから、その実現が切望されている。
【0005】
しかし、液中プラズマ発生装置の実現に向けては、本質的に技術的な課題がある。それは、液中でプラズマを発生させるのは、困難であるという点である。液中の電極に対して非常に高い電圧を印加するというのも現実的ではない。そのため、従来から、液中で簡易に効率よくプラズマを発生できる手法の開発が取り組まれている。
【0006】
例えば、従来の液中プラズマ発生装置としては、キャビテーション気泡を発生させるキャビテーションの後段近傍に対向させて設けた対電極間に高電圧を印加して放電プラズマを発生させることにより、浄水処理を行うものであって、キャビテーション発生部内部の通水管路の内面に沿って、管路表面上に沿面放電を形成するように対電極を配置したものが知られている(特許文献1)。
【0007】
また、従来の液中プラズマ発生装置は、通水管路、ノズル、および放電部を形成する高圧側電極と接地側電極を備えるリアクターと、高圧側電極と接地側電極に接続した高電圧電源を有し、被処理水を一定の圧力で送給し微小キャビテーション気泡を発生させこれに放電プラズマを形成させて、被処理水中に含有する有機物等の被処理物質の分解や合成等の処理を行うもので、リアクターのノズルの後段に、高圧側電極と接地側電極をそれぞれ逆方向から中心部に向けて挿入し、一定間隔をおいて平行に設置するとともに、各々の電極の先端部を管路断面の中心部まで突出させて配置する構成にしたものが知られている(特許文献2)。
【0008】
また、従来の液中プラズマ発生装置は、上記ノズルに代替する方法として、電極近傍に気体を送り、気泡を発生させる方法が知られている(特許文献3~6)。
【0009】
また、従来の液中プラズマ発生装置は、気体を含む液体が流れる流路と、その流路内に設けられ、液体中で放電を生じさせる一対の電極と、それら一対の電極の間の液体中に乱流を発生させる乱流発生部とを備えるものが知られている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-119347号公報
【文献】特開2011-41914号公報
【文献】特開2005-58887号公報
【文献】特開2005-13858号公報
【文献】特開2015-223528号公報
【文献】特表平9-507428号公報
【文献】特開2014-79743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の液中プラズマ発生装置は、液中に気体を形成させる目的で、例えば、上記の各特許文献に示されるように、液中に乱流を人工的に発生させる部材を設けること(特許文献1および2)や、電極近傍に気体を送り、気泡を発生させること(特許文献3~6)や、キャビテーション気泡を人工的に発生させる部材を設けること(特許文献7)によって、液中であってもプラズマが発生するように工夫されたものである。
【0012】
しかし、従来の液中プラズマ発生装置は、液中で乱流や気泡を強制的に発生させるための部材が別体で必要となることから、製造コストや維持管理コストが嵩むものとなっている。また、従来の液中プラズマ発生装置は、外部から液中に強制的に気体を送り込むものもあるが、そのような場合でも、液中に溶存する気泡は時間経過と共に液体から消失してしまうため、均一で高濃度のプラズマを安定的に維持させることは極めて困難である。
【0013】
本発明は、前記課題を解消するためになされたものであり、液中で均一で高濃度のプラズマを安定的に維持させることができ、容易にスケールアップ可能であり、大規模の処理水に対しても適用可能な液中プラズマ発生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る液中プラズマ発生装置は、処理水中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、当該処理水を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、前記処理水の水流方向と同方向に対向して並列される対向電極を備えるものである。
【0015】
このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、処理水中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、当該処理水を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、前記処理水の水流方向と同方向に対向して並列される対向電極1を備えることから、当該対向電極が、水流に対して障害物として存在することにより、水流が当該対向電極表面に衝突することによって、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細な気泡(キャビテーション気泡)が生じ、当該キャビテーション気泡が当該対向電極表面に高密度で生じることから、当該キャビテーション気泡を媒体として液中で安定で均一な高密度のプラズマ放電が生じることとなり、当該高密度のプラズマ放電によって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、必要に応じて、前記処理水の水流方向に沿って内径が拡開する管路形状を有するテーパー管路を備え、前記対向電極が、前記テーパー管路の内径の拡開開始前の位置に配設されるものである。
【0017】
このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、前記対向電極が、前記テーパー管路の内径の拡開開始前の位置に配設されることから、キャビテーション気泡が量的にも最適に発生しやすい状況が形成されることとなり、当該最適に発生したキャビテーション気泡を媒体として液中で安定で均一な高密度のプラズマ放電が生じることとなり、当該高密度のプラズマ放電によって、処理水を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、必要に応じて、前記対向電極が、各々絶縁体で被覆されると共に、各々対向する端面が当該絶縁体から開放されるものである。このように、前記対向電極が、各々絶縁体で被覆されると共に、各々対向する端面が当該絶縁体から開放されることから、当該対向電極近傍に発生したキャビテーション気泡が当該対向電極を包摂することとなり、さらに安定で均一な高密度のプラズマ放電が発生し、当該高密度のプラズマ放電によって、処理水を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、必要に応じて、前記絶縁体から開放された対向電極の表面が、平滑面から構成されるものである。このように、前記絶縁体から開放された対向電極の表面に、平滑面から構成されることから、前記対向電極の表面に鋭角な突起部分(エッジ)が存在しないこととなり、鋭角な突起部分(エッジ)での放電による放電の不安定化を抑止することができ、円滑な放電が得られると共に対向電極の電蝕を防止することができる。
【0020】
また、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、必要に応じて、前記対向電極間の間隔が、前記処理水の水流により前記対向電極に発生する気泡の直径よりも大きいものである。このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、前記対向電極間の間隔が、前記処理水の水流により前記対向電極に発生する気泡の直径よりも大きいことから、プラズマ放電を最適に発生しやすい状況が形成されることとなり、より安定で均一な高密度のプラズマ放電が発生し、当該高密度のプラズマ放電によって、処理水を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、必要に応じて、前記対向電極が配設された部分の水流方向に対する断面積が、前記処理水の水路の水流方向に対する断面積に対し、0.4未満の比率であるものである。このように、前記対向電極が配設された部分の水流方向に対する断面積が、前記処理水の水路の水流方向に対する断面積に対し、0.4未満の比率であることから、前記処理水の水流が前記対向電極に衝突して生成される気泡が、液中プラズマ発生に最適なサイズ及び気泡量で生成されることとなり、液中で効率的にプラズマを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の構成図を示す。
図2】本発明の第1の実施形態に係る液中プラズマ発生装置のプラズマ生成の説明図を示す。
図3】本発明の第1の実施形態に係る液中プラズマ発生装置のプラズマ生成の説明図を示す。
図4】本発明の第2の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の構成図を示す。
図5】本発明の第2の実施形態に係る液中プラズマ発生装置のプラズマ生成の説明図を示す。
図6】本発明の第2の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の電極構成の変形例を示す。
図7】本発明の第3の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の構成図を示す。
図8】本発明の第3の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の構成図を示す。
図9】本発明の第3の実施形態に係る液中プラズマ発生装置のプラズマ生成の説明図を示す。
図10】本発明の第4の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の電極構成の一例を説明する正面図、側面図、底面図を示す。
図11】本発明の第4の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の電極構成の一例を説明する説明図を示す。
図12】本発明の第5の実施形態に係る液中プラズマ発生装置の電極構成を示す。
図13】本発明の実施例に係る液中プラズマ発生装置の(a)電極構成および(b)プラズマ生成写真を示す。
図14】本発明の実施例に係る液中プラズマ発生装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、図1に示すように、処理水100中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、この処理水100を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、この処理水100の水流方向Aと同方向に対向して並列される電極1aおよび電極1bから構成される対向電極1を備えるものである。
【0024】
この処理水100は、殺菌対象となる水溶液であればその種類や流量は問わない。この処理水100の種類や流量に応じて、本実施形態に係る液中プラズマ発生装置は、例えば、家庭用の浄水器として使用することもでき、また、業務用の大規模な下水処理にも適用可能である。
【0025】
この電極1aおよび電極1bは、各々、通常の電極材料を用いることができ、例えば、ステンレスを用いて、棒状のステンレス鋼棒(stainless steel rod)として構成することができる。この他にも、タングステン(W)等の超硬金属や銅タングステン(CuW)等も好適であり、このような材質を用いることにより、より電蝕を抑制することが可能となる。電極サイズは、特に限定されない。用途に応じて様々なサイズを適用可能であり、例えば、約1mm程度の直径の棒状のものを用いることができる。
【0026】
この対向電極1は、この処理水100の水流方向Aと同方向に対向して並列される。すなわち、この対向電極1は、水流方向Aの流れ方向に沿って、電極1aおよび電極1bが対向して並列される構成、すなわち、電極1aおよび電極1bが積層される構成(電極1aおよび電極1bの積層方向が水流方向Aと同じ)である。このような構成によって、この対向電極1は、単に電極としての機能のみならず、この処理水100の水流に対して衝突する障害物としても機能することとなる。
【0027】
本実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、この対向電極1を用いたプラズマ放電で処理水100を循環させて殺菌することができる。
【0028】
例えば、図1に示すように、この対向電極1を固定する電極固定部11と、この処理水100を貯留するリザーバー20と、このリザーバー20で貯留された処理水100をこの液中プラズマ発生装置10に送り込む送水ポンプ30と、を備えることが可能である。この構成により、この対向電極1を用いたプラズマ放電で循環的に殺菌できることとなり、より殺菌効率を高めることができる。
【0029】
本実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、以下のようにキャビテーション気泡を発生させる。
【0030】
先ず、図2(a)に示すように、電極1aおよび電極1bが水流方向Aで流れている処理水100と衝突する。その際、図2(b)に示すように、対向電極1のうち、水流に対して背面となる電極1aの背面側(領域N)において、液中で最も大きい圧力差が生じることとなり、液中に溶存する気体から、気泡径が微細なキャビテーション気泡100aが生じる。このキャビテーション気泡100aは、その気泡サイズとしてナノバブル、マイクロナノバブル、マイクロバブルを含み得るものである。
【0031】
次に、図2(c)に示すように、対向電極1間(領域M)は、処理水100の液中で周囲に比べて負圧となっている。このキャビテーション気泡100aは、この対向電極1間(領域M)に向かって、電極1aの側面を伝って(上記水流方向Aと逆方向の水流方向A’に沿って)、渦流(例えばカルマン渦様)を形成しながら誘引される。
【0032】
この誘引によって、図2(d)に示すように、対向電極1間(領域M)と電極1aの背面側(領域N)全体を広範囲に覆う高密度なキャビテーション気泡100aが生成する。特に、対向電極1間(領域M)においてキャビテーション気泡100aが充満することから、対向電極1での高密度なプラズマ放電が容易に引き起こされる。
【0033】
このように対向電極1間(領域M)において発生するキャビテーション気泡100aが、多数充満することがより好ましいことから、対向電極1間(領域M)の間隔が、処理水100の水流により対向電極1に発生する気泡の直径よりも大きいことがより好ましく、この場合には、対向電極1間に複数個のキャビテーション気泡100aが動的に連続して発生し続けることとなり、活発に高密度のプラズマ放電を発生させ続けることができる。
【0034】
この処理水100の流速と、この処理水100の水流方向Aに衝突する対向電極1の面積とを最適に制御することによって、このようなキャビテーション気泡100aを効率的に生成することが可能となる。すなわち、この処理水100の流速が穏やかな層流のように遅すぎるとキャビテーション気泡100a自体が発生し難いものとなる。また、強い乱流のように流速が早すぎたりするとキャビテーション気泡100aが微細な気泡径としては発生し難いものとなる。また、水流方向Aに衝突する対向電極1の面積が小さ過ぎると、気泡を発生する電極への衝突割合が小さくなって気泡自体が発生し難いものとなる。また、当該面積が大き過ぎると、気泡の粒径が大きくなる傾向となる。
【0035】
本実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、以下のようにプラズマ放電を発生させる。
【0036】
先ず、図3(a)に示すように、電極1aおよび電極1bが水流方向Aで流れている処理水100と衝突し、図3(b)に示すように、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細なキャビテーション気泡100aが生じる。このキャビテーション気泡100aは、気泡サイズとしてナノバブル、マイクロナノバブル、マイクロバブルを含み得るものである。特に、図3(c)に示すように、このキャビテーション気泡100aが電極1aおよび電極1bの表面に高密度で生じることとなる。
【0037】
図3(d)に示すように、この高密度で生じたキャビテーション気泡100aが媒体となって、電極1aおよび電極1bの表面に均一な高密度のプラズマBが生じる。このプラズマBの発生に伴って、キャビテーション気泡100aの気泡径のさらなる微細化も同時に進行する。また、キャビテーション気泡100aは液中での低い浮上速度により滞留時間が長期化することから、処理水100との接触時間および接触体積が増大することとなり、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。このように、高密度のプラズマ放電が生成されることによって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0038】
このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、処理水100中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、この処理水100を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、前記処理水の水流方向と同方向に対向して並列される対向電極1を備えることから、この対向電極1が、水流に対して障害物として存在することにより、水流がこの対向電極1表面に衝突することで、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細な気泡(キャビテーション気泡100a)が生じ、このキャビテーション気泡100aがこの対向電極1表面に高密度で生じることから、このキャビテーション気泡100aを媒体として液中で安定で均一な高密度のプラズマ放電が生じることとなり、この高密度のプラズマ放電によって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0039】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、図4に示すように、本発明の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1を備え、この対向電極1が、複数配設されるものである。図4では、その一例として、この1組の対向電極1同士が、対向して配設される構成を示す。
【0040】
この複数の対向電極1は、各々、この処理水100の水流方向Aと同方向に対向して並列される。このような構成によって、この対向電極1は、上述したように、単に電極としての機能のみならず、この処理水100の水流に対して衝突面積の大きい障害物としても機能することとなる。
【0041】
本発明の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、本発明の第1の実施形態と同様に、この複数の対向電極1を用いたプラズマ放電で処理水100を循環させて殺菌する装置として、例えば、図4に示すように、前記電極固定部11と、前記リザーバー20と、前記送水ポンプ30と、を備えることが可能である。この構成により、この対向電極1を用いたプラズマ放電で循環的に殺菌できることとなり、より殺菌効率を高めることができる。
【0042】
本発明の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、以下のようにプラズマ放電を発生させる。
【0043】
先ず、図5(a)に示すように、2組の対向電極1が水流方向Aで流れている処理水100と衝突し、図5(b)に示すように、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細なキャビテーション気泡100aが生じる。特に、図5(c)に示すように、このキャビテーション気泡100aが2組の対向電極1の表面に高密度で生じることとなる。
【0044】
図5(d)に示すように、この高密度で生じたキャビテーション気泡100aが媒体となって、2組の対向電極1の表面に均一な高密度のプラズマBが生じる。このように、高密度のプラズマ放電が生成されることによって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0045】
このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置は、処理水100中に配設された電極間で電圧印加により生成させるプラズマによって、この処理水100を殺菌する液中プラズマ発生装置であって、前記処理水の水流方向と同方向に対向して並列される対向電極1を備えることから、この対向電極1が、水流に対して障害物として存在することにより、水流がこの対向電極1表面に衝突することで、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細な気泡(キャビテーション気泡100a)が生じ、このキャビテーション気泡100aがこの対向電極1表面に高密度で生じることから、このキャビテーション気泡100aを媒体として液中で安定で均一な高密度のプラズマ放電が生じることとなり、この高密度のプラズマ放電によって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0046】
なお、上記では、複数の対向電極1を、2つの対向電極1として例示したが、この態様に限定されない。例えば、図6(a)に示すように、3つの対向電極1から構成されることも可能である。例えば、図6(a)に示すように、対向電極1の1つの電極あたりの面積をS’とすると、流路管の断面積Sに対する3つの対向電極1の総面積3S’との面積比は3S’/Sとなる。この対向電極1の面積比(3S’/S)と、この処理水100の流速とを最適に制御することによって、キャビテーション気泡100aを効率的に(微細粒径かつ多数個)生成することが可能となり、高密度のプラズマ発生を安定的に引き起こすことが可能となる。
【0047】
また、図6(b)に示すように、4つの対向電極1から構成されることも可能である。また、図6(c)に示すように、管路を正方形とすることも可能であり、4つの対向電極1が設置し易い形状とできる。また、図6(d)に示すように、8つの対向電極1から構成されることも可能である。このように、複数の対向電極1を、様々なバリエーションで容易に構成することができ、用途に応じたプラズマ発生量に合わせて簡易に装置設計することができる。
【0048】
また、上記図6(a)及び(b)で示されたような円管を用いて、この円管の直径7.6mm(水流方向に対する断面積45mm)として、この円管内で、対向電極1が水流方向に対して縦1.2mm×横3mm(水流方向に対する断面積3.6mm)の長方形状で突出した形状の対向電極1の配設数を増減させて気泡発生量を目視で確認した。気泡発生量は、対向電極1の配設数が1の場合(1組の対向電極1の場合)の気泡発生量を基準値100[%]とした相対量として算出し、その気泡発生量に対応するプラズマ生成量(◎:多い、△:少ない)と共に、得られた結果を以下の表に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
得られた結果から、対向電極1の配設数が5(水流方向に対する断面積18mm)より多い場合よりも、図6(e)で示すように、対向電極1の配設数が4(水流方向に対する断面積14.4mm)より少ないほうが、液中でのプラズマ生成により好適な気泡発生が確認された。
【0051】
ここで、対向電極1の流路に占める断面積の比率を算出すると、上記の表に示されたように、対向電極1の配設数が4の場合(4組の対向電極1の場合)には、対向電極1が配設された部分の水流方向に対する断面積(14.4mm)は、処理水100の水路の水流方向に対する断面積(45mm)に対する比率が0.32と算出された。また、上記の表に示されたように、対向電極1の配設数が5の場合(5組の対向電極1の場合)には、対向電極1が配設された部分の水流方向に対する断面積(18mm)は、処理水100の水路の水流方向に対する断面積(45mm)に対する比率が0.4と算出された。
【0052】
このことから、対向電極1が配設された部分の水流方向に対する断面積が、処理水100の水路の水流方向に対する断面積に対し、0.4未満の比率である場合には、液中プラズマ発生に最適なサイズ及び気泡量で気泡が生成され、液中で効率的にプラズマを生成でき、より好適であることが確認された。また、この比率が0.4以上である場合には、液中で発生する気泡量は減少したことが確認された。
【0053】
また、図6(f)で示すように、対向電極1の流路に占める縦の長さn[mm]、横の長さm[mm]の場合、この流路の直径M[mm]に対して、この対向電極1の流路に占める断面積の比率は、n×m/(π×M/4)により算出される。対向電極1の縦の長さnを固定として、対向電極1の流路への突き出し長さを単に増減(横の長さmを増減)させることによって、この断面積の比率が好適には0.4未満の比率内として、装置サイズや殺菌量等の目的に応じて簡易且つ自在に液中で発生する気泡量の増減が制御可能となり、プラズマ生成量の増減が簡易且つ自在に制御可能となる。
【0054】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、図7に示すように、本発明の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1を備え、さらに、図7に示すように、この処理水100の水流方向Aに沿って、内径が拡開する管路形状を有するテーパー管路10bを備え、この対向電極1が、このテーパー管路10bの内径の拡開開始前の位置に配設されるものである。
【0055】
このテーパー管路10bは、一定の管路径を有する平行管路10aに連接され、管路径が、この処理水100の水流方向Aに沿って、拡大する形状を有する。
【0056】
より具体的な構成としては、図8に示すように、2組の対向電極1の電極固定部11から連接するプラスチックパイプ300と、このプラスチックパイプ300と電極固定部11間を被覆するチューブ継手301と、このプラスチックパイプ300に接続された一の対向電極1に電源を供給する高圧電源200と、他の対向電極1に電源を供給する高圧電源400と、この高圧電源400を制御するためにこの高圧電源400とに接続された高圧プローブ401と、同じくこの高圧電源400とに接続された電流プローブ402とを備える構成とすることができる。この高圧プローブ401および電流プローブ402を用いて電圧v(t)、電流i(t)を経時的に制御することができる。
【0057】
この高圧電源200および高圧電源400は、1kVの出力が可能な高電圧トランス(ネオン)を用いることができる。
【0058】
本発明の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、以下のようにプラズマ放電を発生させる。
【0059】
先ず、図9(a)に示すように、2組の対向電極1が水流方向Aで流れている処理水100と衝突し、図9(b)に示すように、乱流が発生すると共に、液中に溶存する気体から気泡径が微細なキャビテーション気泡100aが生じる。特に、図9(c)に示すように、このキャビテーション気泡100aが2組の対向電極1の表面に高密度で生じることとなる。
【0060】
図9(d)に示すように、この高密度で生じたキャビテーション気泡100aが媒体となって、この対向電極1の表面に均一な高密度のプラズマBが生じる。このように、高密度のプラズマ放電が生成されることによって、ノズルを用いることや外部から強制的に気体を導入することなく、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0061】
事実、この対向電極1が、このテーパー管路10bの内径の拡開開始前の位置に配設されることによって、気泡発生効率が向上し、液中でプラズマ発生を容易に発生できることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0062】
このように、本実施形態に係る液中プラズマ発生装置は、この対向電極1が、このテーパー管路10bの内径の拡開開始前の位置に配設されることから、キャビテーション気泡100aが量的にも最適に発生しやすい状況が形成されることとなり、この最適に発生したキャビテーション気泡100aを媒体として処理水100の液中で安定で均一な高密度のプラズマ放電が生じることとなり、この高密度のプラズマ放電によって、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0063】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、本発明の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1を備え、さらに、図10に示すように、この対向電極1としての電極1aおよび1bを構成する電極材12aおよび12bが、各々絶縁体11aおよび11bで被覆されると共に、各々対向する端面13aおよび13bで、この電極材12aおよび12bが、この絶縁体11aおよび11bから開放されるものである。
【0064】
このように、この対向電極1が、各々絶縁体11aおよび11bで被覆されると共に、各々対向する端面13aおよび13bがこの絶縁体から開放される。すなわち、電極材12aおよび12bは、この対向電極1の電極先端まで全体にわたってこの絶縁体で被覆されており、この対向電極1の電極先端の互いに対向する部分のみがこの絶縁体から露出した構成である。
【0065】
この構成から、図10(b)に示すように、この対向電極1近傍に発生したキャビテーション気泡100aがこの対向電極1を包摂することとなり、対向する端面13aおよび13bから形成される狭い領域に、効率よくプラズマBを生成することができる。このように、さらに安定で均一な高密度のプラズマ放電が発生し、この高密度のプラズマ放電によって、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0066】
また、この電極材12aおよび12bは、絶縁体から開放されている対向する端面13aおよび13bにおける表面形状は、特に限定されないが、図11(a)に示すように、平滑面から構成されることが好適であり、平滑な球面形状とすることができるが、この他にも平滑面から構成される形状であれば球面形状に限定されない。この平滑面は、この開放された電極材12aおよび12bの起伏を切削する等の加工により鋭角な突起部分(エッジ)を除去して形成することが可能である。
【0067】
このように、この絶縁体から開放された対向電極1の表面が平滑面から構成されることから、この対向電極1の表面上に鋭角な突起部分(エッジ)が存在しないこととなり、鋭角な突起部分(エッジ)の表面から引き起こされる散乱した不安定な放電を抑止することができ、円滑な放電が得られると共に対向電極の電蝕を防止することができる。
【0068】
また、図11(a)及び(b)に示すように、この電極材12aおよび12bが、各々対向する端面13aおよび13bで絶縁体から開放(露出)されている割合r/(R+r)は、この開放された電極材12aおよび12bが放電可能に対向していれば特に限定されないが、好ましくは、1/5~4/5(20%~80%)であり、より好ましくは、1/3~3/4(33%~75%)であり、図11(c)に示すように、対向する端面13aおよび13bで開放された電極材12aおよび12b間でより効率的に放電を発生させて効率的にプラズマBを生成することができる。
【0069】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る液中プラズマ発生装置10は、本発明の第1の実施形態と同様に、前記対向電極1を備え、図12に示すように、さらに、この対向電極1間の間隔Lが、この処理水100の水流方向Aの水流によりこの対向電極に発生する気泡の直径lよりも大きいものである。
【0070】
この対向電極1間の間隔Lが、気泡の直径lよりも大きいことにより、電極間のスペース内で各気泡の自由な発生、移動、および消滅が繰り返し生じることとなり、アーク放電の発生を抑制し、プラズマが効率的に発生しやすい状況が形成される。
【0071】
このように、本発明に係る液中プラズマ発生装置10は、この対向電極1間の間隔Lが、この処理水100の水流によりこの対向電極1に発生する気泡の直径lよりも大きいことから、プラズマ放電を最適に発生しやすい状況が形成されることとなり、より安定で均一な高密度のプラズマ放電が発生し、この高密度のプラズマ放電によって、処理水100を効率的に殺菌処理することが可能となる。
【0072】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0073】
(実施例)
図8に示した上記実施形態3の装置構成の液中プラズマ発生装置にて、2組の対向電極1を対向させて用いて、テーパー管路10bを有する管路内に処理水100を流して乱流を生じる水流を発生させると共に、これらの対向電極1間に電圧を印加した。
【0074】
この対向電極1については、図13(a)で示すような上記第4の実施形態の構成で、各々絶縁体11aおよび11bで被覆されると共に、各々対向する端面13aおよび13bがこの絶縁体11aおよび11bから開放されるものを使用した。また、この対向電極1の電極固定部から連接するプラスチックパイプ300を配設した。
【0075】
端面13aおよび13bの間隔は、0.9mmとした。この電極1aおよび電極1bは、直径0.8mmの棒状のステンレス鋼棒(stainless steel rod)を芯体として、その周囲を0.4mmの厚みのセラミック(ceramic tube)からなる絶縁体11aおよび11bで被覆した。この対向電極に対して、プラズマ発生用の高圧電源として、高電圧トランス(ネオン)を用いて1kVの電圧を印加した。
【0076】
また、平行管路10aの内径の拡開開始前の位置に対向電極1を設置すると共に、比較例としてテーパー管路10b側にも対向電極を設置した。
【0077】
図13(b)の左図の写真で示されるように、乱流を生じる流速によって処理水100中に白濁した領域で示されるキャビテーション気泡100aが発生した。さらに、図13(b)の右図の写真で示されるように、平行管路10aの内径の拡開開始前の位置に配設された対向電極1の電極間には、鋭い放電により、液中でプラズマBが発生しているのが確認された。これに対して、比較例としてのテーパー管路10b側の対向電極では、同じ水流条件においてもプラズマは発生しないことも確認された。
【0078】
上記を模式的に説明するために、図13(b)で示された実験結果の写真を模式化した図を図14に示す。図14(a)に示されるように、平行管路10aの内径の拡開開始前の位置(Y側)に対向電極1を設置すると共に、比較例としてテーパー管路10b側(X側)に対向電極1が設置される構成である。
【0079】
この構成下で、乱流を生じる流速によって処理水100中に白濁した領域で示されるキャビテーション気泡100aが発生した。さらに、図14(b)で示されるように、平行管路10aの内径の拡開開始前の位置(Y側)に配設された対向電極1の電極間には、鋭い放電により、液中でプラズマBが発生しているのが確認された。これに対して、比較例としてのテーパー管路10b側(X側)の対向電極では、プラズマは発生しないことも確認された。このことから、この対向電極1が、このテーパー管路10bの内径の拡開開始前の位置(Y側)に配設されることにより、液中である処理水100中でも均一なプラズマを安定的かつ確実に発生することができることが確認された。
【符号の説明】
【0080】
1 対向電極
10 液中プラズマ発生装置
10a 平行管路
10b テーパー管路
11 電極固定部
1a 対向電極
11a 絶縁体
12a 電極材
13a 端面
1b 対向電極
11b 絶縁体
12b 電極材
13b 端面
20 リザーバー
30 送水ポンプ
100 処理水
100a キャビテーション気泡
200 高圧電源
300 プラスチックパイプ
301 チューブ継手
400 高圧電源
401 高圧プローブ
402 電流プローブ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14