(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】改変型DNAポリメラーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20221122BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221122BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221122BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221122BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221122BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20221122BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221122BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20221122BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/12
C12N15/63 Z
C12Q1/6844 Z
(21)【出願番号】P 2022523570
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048076
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020216600
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135162
【氏名又は名称】株式会社ニッポンジーン
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 志津子
(72)【発明者】
【氏名】國谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 恭孝
(72)【発明者】
【氏名】牧 文典
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 真樹
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐康
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-156858(JP,A)
【文献】特開2009-136188(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/54
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 9/12
C12N 15/63
C12Q 1/6844
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg
2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方がリジン、アルギニンおよびヒスチジンから選択される正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含み、
位置744のアミノ酸置換がE744K、E744RまたはE744Hであり、
位置745のアミノ酸置換がA745K、A745RまたはA745Hである、
DNAポリメラーゼ。
【請求項2】
配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745
のみにアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg
2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、
位置744のアミノ酸置換がE744K、E744RまたはE744Hであり、
位置745のアミノ酸置換がA745K、A745RまたはA745Hである、
DNAポリメラーゼ。
【請求項3】
配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745
のみにアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg
2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、
位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、
位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである、
DNAポリメラーゼ。
【請求項4】
配列番号5に記載のアミノ酸配列の
さらに位置683にアミノ酸置換を有し、位置683のアミノ酸置換がE683K、E683LまたはE683Yである、請求項1から3のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項5】
位置683のアミノ酸置換がE683Kである、請求項4に記載のDNAポリメラーゼ。
【請求項6】
(a)核酸鋳型、請求項1から5のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼおよびMg
2+を含む反応液を用意すること、および
(b)前記(a)の反応液を温度サイクルに供して前記核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させること
を含む、核酸増幅方法。
【請求項7】
前記(a)において、前記反応液が他の熱安定性DNAポリメラーゼをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることをさらに含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
核酸増幅反応がワンステップRT-PCRである、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼを含む、核酸増幅のための組成物。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼおよびMg
2+を含む、核酸増幅のためのキット。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼをコードする核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸を含む、発現ベクターまたは宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月25日出願の特願2020-216600の優先権を主張し、その全記載は、本明細書に特に開示として援用される。
本発明は、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む、DNAポリメラーゼに関する。さらに、本発明は、当該DNAポリメラーゼを用いる、核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、逆転写反応によりRNAからcDNAを合成し、次にDNAポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりcDNAからDNA断片を増幅する反応である。RT-PCRは、発現遺伝子の検出、クローニングやシーケンシングのためのcDNAテンプレート作成などのほか、RNAウイルスの検出(例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診断のためのPCR検査)に利用されている。RT-PCRは、典型的には、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応を別々の反応系で実施し、RNAからcDNA合成(逆転写)をまず行い、そのcDNAの一部を別のチューブに取り、PCRによって増幅する。ワンステップRT-PCRでは、RNAからcDNA合成(逆転写)とその後のPCRが同一の反応チューブ中で進行する。ワンステップRT-PCRの利点の一つは、操作手順の簡略化によるばらつきの低減とコンタミネーションの抑制である。
【0003】
ワンステップRT-PCRには、1酵素型と2酵素型が開発されている。2酵素型では、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応をそれぞれ別の酵素が担い、例えばレトロウイルス由来の逆転写酵素(RT)と熱安定性DNAポリメラーゼの混合物が用いられる(WO1994/008032および特許第5191041号公報、これらの文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)。
【0004】
1酵素型では、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応を1つの酵素が担う。1酵素型では、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応の両方に優れた性能を発揮する酵素の選択や開発に課題がある。例えば、最も汎用されている熱安定性DNAポリメラーゼであるTaqポリメラーゼは、逆転写活性が弱く、その改変体でも逆転写活性が十分ではない例が多い。Taqポリメラーゼと同じく熱安定性DNAポリメラーゼであるTthポリメラーゼは、逆転写活性を持ち、その逆転写活性はMn2+存在下で強く、DNAポリメラーゼ連鎖反応活性はMg2+存在下で強いという特徴がある(T. W. Myers and D. H. Gelfand, Biochem., 30: 7661-7666(1991) この文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)。Myers et al. 1991は、Tth DNAポリメラーゼを用いて、逆転写反応をMn2+存在下で行い、逆転写反応後にMg2+存在下でDNAポリメラーゼ連鎖反応を実施するRT-PCRを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
逆転写活性を有する熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Tth DNAポリメラーゼ)を、ワンステップRT-PCRに用いる場合、反応液中に含まれる2価カチオンの種類により、逆転写活性またはDNAポリメラーゼ連鎖反応活性のいずれかが十分に発揮されないため、例えば、逆転写反応の後に、PCRのためにMg2+を含む反応液を添加するという工程が必要である。操作手順をより簡略化するためには、逆転写活性およびDNAポリメラーゼ連鎖反応活性を同じ種類の2価カチオン存在下で発揮する熱安定性DNAポリメラーゼやMg2+の存在下で逆転写活性を発揮する熱安定性DNAポリメラーゼが求められていた。
よって、本発明の課題は、逆転写活性を有する新規の熱安定性DNAポリメラーゼ改変体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、野生型Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列の位置744および745に変異導入して作成した改変型熱安定性DNAポリメラーゼが、Mg2+存在下で逆転写活性を有することを見出した。さらに、Mg2+存在下の核酸増幅反応において、本発明の改変型熱安定性DNAポリメラーゼが、RNA鋳型およびDNA鋳型から、それぞれ良好に核酸を増幅することを見出した。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む、DNAポリメラーゼ。
[2] 位置744のアミノ酸置換がE744K、E744RまたはE744Hであり、
位置745のアミノ酸置換がA745K、A745RまたはA745Hである、
[1]に記載のDNAポリメラーゼ。
[3] 配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、
位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、
位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである、
DNAポリメラーゼ。
[4] 配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683にアミノ酸置換を有する、[1]から[3]のいずれか一に記載のDNAポリメラーゼ。
[5] 位置683のアミノ酸置換がE683K、E683LまたはE683Yである、[4]に記載のDNAポリメラーゼ。
[6] (a)核酸鋳型、[1]から[5]のいずれか一に記載のDNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用意すること、および
(b)前記(a)の反応液を温度サイクルに供して前記核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させること
を含む、核酸増幅方法。
[7] 前記(a)において、前記反応液が他の熱安定性DNAポリメラーゼをさらに含む、[6]に記載の方法。
[8] (c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることをさらに含む、[6]または[7]に記載の方法。
[9] 核酸増幅反応がワンステップRT-PCRである、[6]から[8]のいずれか一に記載の方法。
[10] [1]から[5]のいずれか一に記載のDNAポリメラーゼを含む、組成物。
[11] [1]から[5]のいずれか一に記載のDNAポリメラーゼおよびMg2+を含む、キット。
[12] [1]から[5]のいずれか一に記載のDNAポリメラーゼをコードする核酸。
[13] [12]に記載の核酸を含む、発現ベクターまたは宿主細胞。
[14] Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、位置683がリジン、ロイシンまたはチロシンに置換され、かつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む、DNAポリメラーゼ。
[15] 位置683のアミノ酸置換がE683K、E683LまたはE683Yであり、位置744のアミノ酸置換がE744K、E744RまたはE744Hであり、位置745のアミノ酸置換がA745K、A745RまたはA745Hである、
[14]に記載のDNAポリメラーゼ。
[16] 配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683、744および745にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、
位置683のアミノ酸置換がE683Kであり、
位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、
位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである、
DNAポリメラーゼ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、野生型Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列(配列番号5)を示す。実施例1で変異を導入したアミノ酸配列の位置744と745のアミノ酸残基EAを太字と囲み線で示す。さらに、実施例7で変異を導入したアミノ酸配列の位置683のアミノ酸残基Eを太字と囲み線で示す。
【
図2】
図2は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(EA)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)を用いて、MgCl
2を添加した場合と、MnCl
2を添加した場合の、λDNAの一部520bpを増幅させたPCRの結果を示す。図中の番号は、野生型および改変型ポリメラーゼの種類を表す。1:EA(野生型)、2:RA、3:ER、4:RR、5:KK。ラダーマーカーは、100bpごとのDNAラダーである。
【
図3A】
図3Aは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(EA)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)を用いて、MgCl
2またはMnCl
2存在下で、β-actinの一部734bpを増幅させたRT-PCRの結果を示す。図中の番号は、野生型および改変型ポリメラーゼの種類を表す。1:EA(野生型)、2:RA、3:ER、4:RR、5:KK。ラダーマーカーは、100bpごとのDNAラダーである。
【
図3B】
図3Bは、抗体を添加しない場合(抗体なし)と、添加しない場合(抗体あり)における、増幅の違いを示す。酵素は、改変型RRと野生型Tth DNAポリメラーゼの組合せ(RR+WT)、改変型KKと野生型Tth DNAポリメラーゼの組合せ(KK+WT)および改変型KKのTth DNAポリメラーゼ(KK)を用いた。鋳型の量は、酵素ごとに、左側レーンから0.1ng、1ng、10ngおよび100ngである。
【
図4-1】
図4-1から4-6は、実施例4のSARS-CoV-2検出系での、各Tth DNAポリメラーゼを用いた、MgCl
2存在下、抗Taq抗体存在下のリアルタイムPCRの増幅曲線および検量線である。
図4-1は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたリアルタイムPCRの増幅曲線である。
【
図4-2】
図4-2は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムPCRの増幅曲線である。
【
図4-3】
図4-3は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムPCRの増幅曲線である。
【
図4-4】
図4-4は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたリアルタイムPCRデータの検量線である。
【
図4-5】
図4-5は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムPCRデータの検量線である。
【
図4-6】
図4-6は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムPCRデータの検量線である。
【
図5-1】
図5-1から5-5は、実施例5のSARS-CoV-2検出系での、各Tth DNAポリメラーゼを用いた、MgCl
2存在下のOne Step RT-qPCRの増幅曲線および検量線である。
図5-1は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図5-2】
図5-2は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図5-3】
図5-3は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図5-4】
図5-4は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRデータの検量線である。
【
図5-5】
図5-5は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRデータの検量線である。
【
図6-1】
図6-1から6-3は、実施例5のSARS-CoV-2検出系での、各Tth DNAポリメラーゼを用いた、MnCl
2存在下のOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
図6-1は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図6-2】
図6-2は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図6-3】
図6-3は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図7-1】
図7-1から7-5は、実施例6のSARS-CoV-2検出系での、各Tth DNAポリメラーゼを用いた、MgCl
2存在下、抗Taq抗体存在下のOne Step RT-qPCRの増幅曲線および検量線である。
図7-1は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図7-2】
図7-2は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図7-3】
図7-3は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図7-4】
図7-4は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRデータの検量線である。
【
図7-5】
図7-5は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRデータの検量線である。
【
図8-1】
図8-1から8-3は、実施例6のSARS-CoV-2検出系での、各Tth DNAポリメラーゼを用いた、MnCl
2存在下、抗Taq抗体存在下のOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
図8-1は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)を用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図8-2】
図8-2は、改変型KKのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図8-3】
図8-3は、改変型RRのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRの増幅曲線である。
【
図9】
図9は、MgCl
2存在下、SARS-CoV-2検出系のRT-PCRの結果を示す。鋳型の増幅鎖長は67bpである。用いたDNAポリメラーゼは、以下の通りである。KK:改変型KKのTth DNAポリメラーゼ、KK+WT:改変型KKのTth DNAポリメラーゼと野生型Tth DNAポリメラーゼの組合せ、KKK+WT:改変型KKKのTth DNAポリメラーゼと野生型Tth DNAポリメラーゼの組合せ。図中、NTCは陰性対照を、Posiは鋳型としてスパイクサンプルからの抽出した精製RNAを用いたことを、MはpUC19/MspI digestを意味する。
【
図10】
図10は、MgCl
2存在下、β-actinの一部734bpを増幅させたRT-PCRの結果を示す。KKK:改変型KKKのTth DNAポリメラーゼを単独で用いた場合(-)、および改変型KKKのTth DNAポリメラーゼと野生型Tth DNAポリメラーゼとの組合せ(+)。LKK:改変型LKKのTth DNAポリメラーゼを単独で用いた場合(-)、および改変型LKKのTth DNAポリメラーゼと野生型Tth DNAポリメラーゼとの組合せ(+)。YKK:改変型YKKのTth DNAポリメラーゼを単独で用いた場合(-)、および改変型YKKのTth DNAポリメラーゼと野生型Tth DNAポリメラーゼとの組合せ(+)。ラダーマーカーは、100bpごとのDNAラダーである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
<改変型DNAポリメラーゼ>
(位置744および745におけるアミノ酸置換)
本発明のDNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性(逆転写活性)を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む。
【0011】
本発明は、逆転写活性を持つ熱安定性DNAポリメラーゼに関する。逆転写活性を持つ熱安定性DNAポリメラーゼの例としては、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8由来のDNAポリメラーゼ、Thermus thermophilus HB27由来のDNAポリメラーゼ、後記する実施例に記載のT.thermophilus OM72株由来のDNAポリメラーゼやThermus sp.Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)などが挙げられるがこれらに限定されない。T.thermophilusの逆転写活性を持つ熱安定性DNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、GenBankにおいて、以下のaccession番号で提供されている:HB8株 BAA06033.1またはHB27株 AAS81038.1。これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列は、GenBankにおいて、以下のaccession番号で提供されている:HB8株 D28878.1およびHB27株 AE017221.1(671122~673626)。逆転写活性を持つ熱安定性DNAポリメラーゼは、好ましくはThermus thermophilus由来の熱安定性DNAポリメラーゼ(本明細書中、Tth DNAポリメラーゼと記載する)である。野生型Tth DNAポリメラーゼの逆転写活性はMn2+存在下で強く、DNAポリメラーゼ連鎖反応活性はMg2+存在下で強い。Tth DNAポリメラーゼは、3’から5’のエキソヌクレオチド分解性プルーフリーディング活性を欠く。
【0012】
上記の通り、野生型Tth DNAポリメラーゼの逆転写活性はマンガンイオン存在下で強く、DNAポリメラーゼ連鎖反応活性はマグネシウムイオン存在下で強い。後記する実施例3に示すように、野生型Tth DNAポリメラーゼを使用して実施したRT-PCRでは、マグネシウムイオンを含む反応液とマンガンイオンを含む反応液のいずれを用いても、核酸増幅反応産物のバンドは確認できなかった。これは、マグネシウムイオンを含む反応液中ではRNA依存性逆転写反応がほとんど起こらなかったためであると考えられる。また、マグネシウムイオンを含む反応液中では、逆転写反応によりcDNAが合成されていても、cDNAからDNAの増幅がほとんど起こっておらず、バンドとして見えるレベルまで増幅されていないためと考えられる。一方、本発明者らは、驚くべきことに、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する改変型DNAポリメラーゼを使用して、マグネシウムイオンを含む反応液中で行ったRT-PCRにより、バンドとして確認可能な増幅産物が生じること、すなわちRNA鋳型からDNAを増幅できることを見出した。これは、上記の改変型Tth DNAポリメラーゼが、マグネシウムイオンを含む反応液において、逆転写活性とDNAポリメラーゼ活性の両方を有するためであると考えられる。
【0013】
本明細書中、「Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し」という記載は、マグネシウムイオンを含む反応液中で、DNAポリメラーゼが逆転写反応を触媒し、RNA鋳型からcDNAが合成されることを意味する。前記反応液はマンガンイオンを実質的に含まず、逆転写反応はマグネシウムイオンの作用に依ることが意図される。DNAポリメラーゼがMg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有することは、例えば20mM Tris-HCl(pH8.8)、50mM KCl、0.1% Tween 20、0.1mg/mL Acetylated BSA、0.5% DMSO、1mM DTT、500mM Trehalose、2mM MgCl2の組成下で、トリチウム化チミジンを用いて、ポリアデニル酸を鋳型としてペンタデカチミジル酸をプライマーとして、ヒートブロックなどにより65℃、10分間の等温反応を実施し、ポリチミジル酸の合成を液体シンチレーションシステムLSC-6101(アロカ株式会社)を用いて検出することにより検証することができる。あるいは、実施例3の条件で、2mMのMgCl2存在下、例えばマウスβアクチンをマウスの腎臓から抽出精製したトータルRNAを鋳型としてマウスβアクチン増幅用プライマー(配列番号16および17)を用いて、サーマルサイクラーによりRT-PCRを実施し、反応終了後反応液の一部をゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的DNA断片の増幅の有無を確認することにより検証することができる。本発明のDNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有する。本発明のDNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で野生型と同程度のDNAポリメラーゼ活性を有していてもよいし、野生型と比較して低下したDNAポリメラーゼ活性を有していてもよい。あるいは、少なくともMg2+存在下では、DNAポリメラーゼ活性を失っていてもよい。
【0014】
本発明のDNAポリメラーゼは、(i)配列番号5に記載のアミノ酸配列または(ii)配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列の位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換された改変型DNAポリメラーゼである。(ii)配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列において、欠失や挿入によりアミノ酸残基の位置にずれが生じる場合は、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745に対応する位置の2つのアミノ酸残基の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換された改変型DNAポリメラーゼである。本明細書に記載の配列番号5のアミノ酸配列は、HB27株のDNAポリメラーゼGenBank accession番号AAS81038.1と同一である。配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列には、例えばThermus thermophilus HB8由来の熱安定性DNAポリメラーゼやThermus sp.Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)が含まれる。
【0015】
配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質の位置744および745は、配列番号5のアミノ酸配列のN末端からそれぞれ744番目および745番目のアミノ酸である。配列番号5に記載のアミノ酸配列において、744番目および745番目の改変前(野生型)のアミノ酸はそれぞれグルタミン酸(E、Glu)およびアラニン(A、Ala)である。改変前のアミノ酸をアミノ酸の位置を示す数字の左側(頭)に記載して、E744およびA745と表記することができる。正電荷を持つアミノ酸は、例えば、アルギニン(R、Arg)、リジン(K、Lys)、ヒスチジン(H、His)である。
【0016】
本発明の実施態様の一つでは、改変型DNAポリメラーゼは、位置744のアミノ酸置換がE744K、E744RまたはE744Hであり、位置745のアミノ酸置換がA745K、A745RまたはA745Hである。E744K、E744RおよびE744Hという記載は、配列番号5のアミノ酸配列のN末端から744番目のグルタミン酸が、それぞれリジン、アルギニンおよびヒスチジンに置換されていることを表す。同様に、A745K、A745RおよびA745Hという記載は、配列番号5のアミノ酸配列のN末端から745番目のアラニンが、それぞれリジン、アルギニンおよびヒスチジンに置換されていることを表す。これは、改変前のアミノ酸をアミノ酸の位置を示す数字の左側(頭)に記載し、改変後のアミノ酸をアミノ酸の位置を示す数字の右側(後ろ)に記載したものである。配列番号5のアミノ酸配列の位置744および745におけるアミノ酸置換は、E744KおよびA745K、E744KおよびA745R、E744KおよびA745H、E744RおよびA745K、E744RおよびA745R、E744RおよびA745H、E744HおよびA745K、E744HおよびA745R、またはE744HおよびA745Hのいずれかを選択することができる。配列番号5のアミノ酸配列の位置744および745におけるアミノ酸置換は、E744KおよびA745K、E744KおよびA745R、E744RおよびA745K、またはE744RおよびA745Rのいずれかを選択することが好ましく、E744KおよびA745KまたはE744RおよびA745Rのいずれかを選択することがより好ましい。
【0017】
本発明のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有する限り、配列番号5のアミノ酸配列の位置744および745におけるアミノ酸置換のほかにも、配列番号5に記載のアミノ酸配列と比較して変異を有していてもよく、そのような変異は人工的に導入された改変であってもよいし、または改変型DNAポリメラーゼが由来する野生型DNAポリメラーゼがThermus thermophilus HB27とは異なる種や株に由来することに起因する変異であってもよい。本発明のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有する限り、配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して任意のアミノ酸配列同一性を有することができるが、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。アミノ酸配列同一性の値は、位置744および745における置換を含めて計算することができる。置換アミノ酸配列同一性は、比較する2本のアミノ酸配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならばギャップを導入した後、2本のアミノ酸配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセントとして定義される。アミノ酸配列同一性は、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより決定することができる。
【0018】
本発明のDNAポリメラーゼに追加で導入可能な変異や修飾としては、限定されないが、例えば、Thermus thermophilus由来のDNAポリメラーゼのN末端領域を欠損させ、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を失活させる変異(Arakawa et al., DNA Research 3, 87-92, 1996. この文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)や、シングルストランドDNAバインディングプロテイン、例えばRB69SSBをリンカーでDNAポリメラーゼに連結する修飾(Sun et al., Proteins 2006 Oct 1;65(1):231-8, doi: 10.1002/prot.21088. この文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)、ダブルストランドDNAバインディングプロテイン、例えばSso7dをDNAポリメラーゼに連結し、ポリメラーゼがDNA鎖から滑り落ちないようにし、連続的な合成能を向上させる修飾(Wang et al., Nucleic Acids Research, 2004, Vol. 32, No. 3 1197-1207, DOI: 10.1093/nar/gkh271, この文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)などを挙げることができる。
【0019】
特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E744KおよびA745Kを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E744KおよびA745Rを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E744RおよびA745Kを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。これらの態様において、位置744および745以外の位置のアミノ酸残基は、配列番号5に記載のアミノ酸配列のネイティブのアミノ酸残基であってもよい。
【0020】
(位置683におけるアミノ酸置換)
別の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683に更なるアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含むことができる。配列番号5のアミノ酸配列からなるタンパク質の位置683は、配列番号5のアミノ酸配列のN末端から683番目のアミノ酸である。配列番号5に記載のアミノ酸配列において、683番目の改変前(野生型)のアミノ酸はグルタミン酸(E、Glu)である。位置683のアミノ酸残基は、位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼの逆転写反応に影響を与えないアミノ酸残基で置換され得る。また、この置換は、位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写活性を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼのDNAポリメラーゼ連鎖活性を低下させるものであってもよい。位置683グルタミン酸を、例えば、リジン(K、Lys)、ロイシン(L、Leu)、チロシン(Y、Tyr)に置換することができるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明者らは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683における更なるアミノ酸置換が、本発明の位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼのDNAポリメラーゼ連鎖活性を低下させることを見出した。配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683における更なるアミノ酸置換に有する本発明のDNAポリメラーゼは、他の熱安定性DNAポリメラーゼと組み合わせて使用することができる。他の熱安定性DNAポリメラーゼは、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないか、または逆転写活性が低い酵素を選択することができる。他の熱安定性DNAポリメラーゼは、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないTth DNAポリメラーゼ(例えば、野生型Tth DNAポリメラーゼやMg2+存在下での逆転写活性を有しない組換えTth DNAポリメラーゼなど)またはそれらの組合せから選択することができる。他の熱安定性DNAポリメラーゼと組み合わせることで、より精度よく標的を検出することができる。
【0022】
本発明のDNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性(逆転写活性)を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置683がリジン、ロイシンまたはチロシンに置換され、かつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む。本発明のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列は、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有する限り、配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して任意のアミノ酸配列同一性を有することができるが、好ましくは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。アミノ酸配列同一性の値は、位置683、744および745における置換を含めて計算することができる。
【0023】
本発明の実施態様の一つでは、改変型DNAポリメラーゼは、位置683のアミノ酸置換がE683K、E683LまたはE683Yである。E683K、E683LまたはE683Yという記載は、配列番号5のアミノ酸配列のN末端から683番目のグルタミン酸が、それぞれリジン、ロイシンおよびチロシンに置換されていることを表す。これは、改変前のアミノ酸をアミノ酸の位置を示す数字の左側(頭)に記載し、改変後のアミノ酸をアミノ酸の位置を示す数字の右側(後ろ)に記載したものである。配列番号5のアミノ酸配列の位置683は、位置744および745におけるアミノ酸置換と組み合わせて、例えばE683K/E744K/A745K、E683K/E744K/A745R、E683K/E744K/A745H、E683K/E744R/A745K、E683K/E744R/A745R、E683K/E744R/A745H、E683K/E744H/A745K、E683K/E744H/A745R、E683K/E744H/A745H、E683L/E744K/A745K、E683L/E744K/A745R、E683L/E744K/A745H、E683L/E744R/A745K、E683L/E744R/A745R、E683L/E744R/A745H、E683L/E744H/A745K、E683L/E744H/A745R、E683L/E744H/A745H、E683Y/E744K/A745K、E683Y/E744K/A745R、E683Y/E744K/A745H、E683Y/E744R/A745K、E683Y/E744R/A745R、E683Y/E744R/A745H、E683Y/E744H/A745K、E683Y/E744H/A745R、またはE683Y/E744H/A745Hのいずれかから選択することができる。なお、例えば「E683K/E744K/A745K」の「/」は、「および」を意味し、具体的には「E683KおよびE744KおよびA745K」である。配列番号5のアミノ酸配列の位置683、744および745におけるアミノ酸置換は、E683K/E744K/A745K、E683K/E744K/A745R、E683K/E744R/A745K、またはE683K/E744R/A745Rのいずれかを選択することが好ましく、E683K/E744K/A745KまたはE683K/E744R/A745Rのいずれかを選択することがより好ましい。
【0024】
特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置683、744および745にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼであって、位置683のアミノ酸置換がE683Kであり、位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E683K、E744KおよびA745Kを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E683K、E744KおよびA745Rを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。特定の実施態様において、本発明のDNAポリメラーゼは、配列番号5に記載のアミノ酸配列にアミノ酸置換E683K、E744RおよびA745Kを有するアミノ酸配列を含む、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有するDNAポリメラーゼである。これらの態様において、位置683、744および745以外の位置のアミノ酸残基は、配列番号5に記載のアミノ酸配列のネイティブのアミノ酸残基であってもよい。
【0025】
本発明の改変型DNAポリメラーゼを使用した核酸増幅反応の効率は、標準的なサンプルを用いて、希釈系列実験を実施することにより評価することができる。例えば検量線の傾きから増幅効率値(PCR効率)を求めることができる。PCR効率は、段階希釈した核酸量をX軸、核酸量に対応するCt値をY軸として、結果をプロットした検量線の傾き(slope)より、以下の式1により求めることができる。
(式1)
PCR効率(%)=(10[-1/Slope]-1)×100
PCR効率は、80~120%が適正範囲とされ、良好な反応では90から100%になる。検量線の直線性は、相関係数(R2値)で評価され、その値が0.98以上であることが望ましい。
【0026】
本発明は、上記の改変DNAポリメラーゼまたはその機能的断片をコードする核酸を提供する。本発明の改変型DNAポリメラーゼに関して機能的断片とは、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有する断片である。さらに、本発明は、改変DNAポリメラーゼまたはその機能的断片をコードする核酸を含む、発現ベクターまたは宿主細胞を提供する。
【0027】
本発明の改変型DNAポリメラーゼをコードするDNAは、限定されないが、例えばサーマス属の熱安定性DNAポリメラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号4)に、部位特異的変異誘発法等の公知の方法を用いて人為的に変異を導入することにより得ることができる。サーマス属の熱安定性DNAポリメラーゼをコードするDNAは、例えば、Thermus thermophilusのHB8株やHB27株、もしくは天然から単離されてサーマス属に属すると同定された株から抽出したゲノムDNAを鋳型に、既知のTth DNAポリメラーゼのヌクレオチド配列に基づいて合成したプライマーを用いてTth DNAポリメラーゼ遺伝子をPCR増幅することにより得ることができる。別の方法では、Thermus thermophilusのHB8株やHB27株、もしくは天然から単離されてサーマス属に属すると同定された株から抽出したmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、既知のTth DNAポリメラーゼのヌクレオチド配列に基づいて合成したプローブを用いて、cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングすることにより得ることができる。
【0028】
本発明の改変DNAポリメラーゼおよびその断片は、公知の方法を用いて、改変DNAポリメラーゼまたはその断片をコードするDNAを発現させることにより製造することができる。発現ベクターは、使用する宿主細胞にあわせて適宜選択することができる。これらの発現ベクターには、公知の方法(制限酵素を利用する方法等)で、本発明の改変DNAポリメラーゼおよびその断片をコードする核酸を挿入することができる。本発明に係る発現ベクターは、さらに、ポリメラーゼ遺伝子の発現を調節するプロモーター、複製起点、選択マーカー遺伝子等を含むことができる。プロモーターおよび複製起点は、宿主細胞とベクターの種類によって適宜選択することができる。発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができ、プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322(例えば、実施例で使用しているpET15bなど)、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)を使用することができる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌などの原核細胞や、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞(サッカロミセス属、アスペルギルス属等)といった真核細胞を用いることができる。宿主生物としては、例えば、動物個体、植物個体、カイコを用いることができる。
【0029】
DNAポリメラーゼを、公知の方法に基づいて、宿主細胞または宿主生物を、各細胞や生物に適した条件で培養し、産生させることができる。宿主細胞として大腸菌を用いる場合には、DNAポリメラーゼ発現プラスミドを用いて大腸菌を形質転換し、寒天培地に播種し、生じたコロニーをLBにアンピシリンとクロラムフェニコールを添加した液体培地で600nmにおける吸光度が約0.5になるまで37℃で培養し、IPTGを終濃度1mMになるように添加し、さらに4時間培養し、Tth DNAポリメラーゼを産生させることができる。菌体を50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、1% Triton X-100、20mM イミダゾールに懸濁し、酵素的または物理的に(例えば超音波により)破砕し、遠心分離後、上清を80℃で熱処理した後、遠心分離し、HisTrap HPカラム(Cytiva 17524802)、HiTrap Qカラム(Cytiva 17115401)、HiTrap Heparinカラム(Cytiva 17040701)を用いて精製し、最後に保存緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)、300mM KCl,0.1mM EDTA、1 mM DTT、0.095% Triton X-100、50% Glycerol)に置換し、Tth DNAポリメラーゼを得ることができる。
【0030】
<核酸増幅方法>
本発明の核酸増幅方法は、以下の工程を含む。
(a)核酸鋳型、上記の改変型DNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用意すること、および
(b)前記(a)の反応液を温度サイクルに供して前記核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させること。
【0031】
本発明の核酸増幅方法で使用するDNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性(逆転写活性)を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼであり、上記の<改変型DNAポリメラーゼ>の項に記載のものを使用することができる。
【0032】
本発明の改変型DNAポリメラーゼは、Mg2+存在下で、RNA依存性逆転写活性によりRNA鋳型からcDNA合成し、次にDNA依存性DNAポリメラーゼ活性によりDNAを増幅することができるので、本発明の核酸増幅方法は、RNAを鋳型とする場合に、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応とを一つの反応系(すなわち、同一の反応液内で)行うことができる。本発明の核酸増幅方法は、PCR法、またはRT-PCR法であり、好ましくはワンステップRT-PCR法である。本発明の核酸増幅方法は、定性または定量的結果を得るために使用することができる。核酸鋳型は、DNA鋳型、RNA鋳型またはそれらの混合物である。
【0033】
「(a)核酸鋳型、上記の改変型DNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用意すること」により、核酸鋳型と本発明のDNAポリメラーゼがMg2+の存在下で互いに接触可能な状態になればよく、例えば、反応チューブに入れられたMg2+含有反応液に核酸鋳型とDNAポリメラーゼを添加することにより実施することができるが、これに限定されない。反応液は、核酸増幅反応に必要な試薬を含むことができ、そのような試薬の例は、核酸鋳型と本発明のDNAポリメラーゼのほかに、dNTP、プライマー、プローブ、2価カチオン、1価イオンおよび緩衝液であり、具体的には、2価カチオンはマグネシウムイオンであり、1価のイオンはアンモニウムイオン、カリウムイオンまたはそれらの混合物である。反応液は、必要に応じて、トレハロースなどの糖類、BSA、Tween20(登録商標)やBrij35のような非イオン界面活性剤、抗DNAポリメラーゼ抗体(抗Taq抗体または抗Tth抗体など)を更に含むことができる。抗DNAポリメラーゼ抗体を反応液に添加することにより、特異性や感度の向上という効果が得られると考えられる(特開2008-17787号公報, この文献の全記載は、参照により本明細書に援用される。)。
【0034】
反応液はマンガンイオンを実質的に含まないことが好ましい。特定の理論に限定されるものではないが、マンガンイオンがマグネシウムイオンと競合し、逆転写活性が阻害される可能性があるためである。マンガンイオンを実質的に含まないとは、マンガンイオンを全く含まないか、または極微量のマンガンイオンを含んでいてもよいことを意味する。
【0035】
上記反応液はマグネシウムイオン源として、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなどを含むことができる。反応液中のマグネシウムイオン濃度は、0.1~100mMまたは0.5~50mMの範囲であり、好ましくは1~10mMの範囲であり、より好ましくは1~8mMの範囲であり、さらにより好ましくは2~6mMの範囲である。マグネシウムイオン濃度が上記の範囲のいずれかであれば、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応が生じると考えられるが、特に2~6mMの範囲であれば、逆転写反応とDNAポリメラーゼ連鎖反応が良好に生じる。
【0036】
プライマーは、RT-PCRを実施する場合は、RNA鋳型の一部または全部を増幅するように設計されたアンチセンス配列を有するプライマー(アンチセンスプライマー)と、配列特異的なセンスプライマーの組合せである。アンチセンスプライマーは、逆転写反応によるcDNA合成のプライマーとなり、鋳型配列に特異的なプライマー、mRNAのポリAテイルに結合するオリゴdTプライマー、またはランダムヘキサマープライマーなどのランダムプライマーなどを用いることができる。cDNA合成の後に続くDNAポリメラーゼ連鎖反応では、配列特異的センスプライマーがフォワードプライマーとして働き、リバースプライマーは、逆転写反応で使われたアンチセンスプライマーが使用されるか、またはアンチセンスプライマーの結合部位から上流に位置する配列にハイブリダイズする別のアンチセンスプライマーが使用される。プライマーは、PCRを実施する場合は、これに限定されないが、例えば核酸鋳型の一部または全部を増幅するように設計された配列特異的センスプライマーやアンチセンスプライマーであってもよい。
【0037】
「(b)前記(a)の反応液を温度サイクルに供して前記核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させること」は、例えば、核酸鋳型、改変型DNAポリメラーゼおよびRT-PCRに必要な試薬を含む反応液を、逆転写反応およびDNAポリメラーゼ連鎖反応に適した温度サイクルに供して、プライマーにより核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させることである。核酸増幅に適した温度サイクルの条件は、鋳型となる核酸の種類や塩基配列の特性、増幅する長さ、プライマー配列等によって変わるが、当業者は条件を適宜設定することができる。核酸増幅方法がRT-PCR法であるとき、例えば、温度サイクルは、(1)逆転写反応のためのインキュベーション、および(2)PCRのための温度サイクルを含むことができる。(1)逆転写反応のためのインキュベーションは、少なくとも初回のcDNAの合成が起こるための温度と時間で行えばよく、例えば、1~100℃の範囲のいずれかの温度で1秒以上インキュベーションすればよい。より詳細には、10~90℃、20~90℃、30~90℃、40~90℃、45~85℃、50~80℃、55~75℃または60~70℃の範囲のいずれかの温度において、1秒以上120分以下、または1秒以上60分以下の範囲の任意の時間、実施することができる。なお、逆転写反応のためのインキュベーションは必ずしも必要ではないと考えられる。本発明者らは、実験的に逆転写時間を0秒(設定しない)でもワンステップRTリアルタイムPCRで増幅が認められることを確認している。これは、次に記載するPCRのための温度サイクルの間に、例えば第二の温度の段階で逆転写反応が起こるためであると考えられる。(2)PCRのための温度サイクルは、例えば、90℃~97℃の変性温度および50℃~70℃の第二の温度の2段階の温度変化(ラウンド)を、20~50回(サイクル)行うことができる。場合により、PCRのための温度サイクルは、伸長温度(60~75℃)を加えた3段階の温度変化で実施することもできる。3段階の温度変化で実施する場合は、一般的には、伸長温度を第二の温度よりも高温に設定する。当業者は、各ラウンドの保持時間を適宜設定することができる。各ラウンドの保持時間は例えば、1秒以上5分以下、1秒以上3分以下、または1秒以上60秒以下の範囲の任意の時間に設定することができる。核酸増幅方法がPCR法であるとき、上記の(2)PCRのための温度サイクルを実施することができ、必要であれば、PCRのための温度サイクルに先立って、変性のためのプレインキュベーションを、例えば90~97℃で、10秒から15分行うことができる。
【0038】
本発明の実施態様の一つにおいて、RT-PCR法は、上記の改変型DNAポリメラーゼは、他の熱安定性DNAポリメラーゼと組み合わせて使用することができる。他の熱安定性DNAポリメラーゼは、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないか、または逆転写活性が低い酵素を選択することができる。他の熱安定性DNAポリメラーゼは、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないTth DNAポリメラーゼ(例えば、野生型Tth DNAポリメラーゼやMg2+存在下での逆転写活性を有しない組換えTth DNAポリメラーゼなど)またはそれらの組合せから選択することができる。Pfu DNAポリメラーゼは5’→3’エキソ活性がないので、単一酵素では、プローブ法で使用はできないが、一般的なPCRにおいてはTaq DNAポリメラーゼのようなファミリーAタイプとPfu DNAポリメラーゼ等のファミリーBタイプを混ぜることで長鎖DNAを増幅出来たり、感度が向上したりするといわれており、RNAを鋳型としたワンステップRT-PCRでも同様の効果が期待できる。
【0039】
すなわち、本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む核酸増幅方法を提供する。
(a)核酸鋳型、改変型DNAポリメラーゼ、他の熱安定性DNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用意すること、および
(b)前記(a)の反応液を温度サイクルに供して前記核酸鋳型の一部または全部に対して相補的なDNA分子を増幅させることを含み、
ここで、他の熱安定性DNAポリメラーゼは、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないTth DNAポリメラーゼまたはそれらの組合せから選択され、好ましくは核酸増幅方法がRT-PCR法である。
【0040】
本発明の核酸増幅方法は、(c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることをさらに含むことができる。「(c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすること」は、限定されないが、例えば、インターカレーション法(例えば、SYBR Green I色素を用いる)、ハイブリダイゼーション法(例えば、Fretプローブ法、TaqManプローブ法など)、Luxプライマー法などを用いて実施することができる。ハイブリダイゼーション法では、蛍光色素が結合したオリゴヌクレオチドプローブを含む反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることができる。オリゴヌクレオチドプローブは、例えば5’末端にはレポーター蛍光色素がおよび3’末端にはクエンチャー色素がそれぞれ結合した構造を有するものを使用することができ、例えば、TaqMan(登録商標)プローブ(Invitrogen(登録商標)TAMRA(登録商標)色素をクエンチャー色素として含むTaqMan(登録商標)プローブや、Applied Biosystems(登録商標)TaqMan(登録商標)MGBプローブ)を利用することができる。
【0041】
「(c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすること」は、核酸増幅反応の任意の時点で、反応液の蛍光強度を測定し、増幅した核酸量に依存して蛍光強度が増加(あるいは減少)するため、取得した蛍光強度をサイクル数に対してプロットすることで、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることである。「(c)核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすること」により、標的核酸を迅速に検出することができ、増幅率に基づいて試料中に含まれる標的核酸を定量することができる。
【0042】
特定の実施態様では、本発明は、DNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用いる核酸増幅方法であって、前記DNAポリメラーゼが配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列である、方法を提供する。特定の実施態様では、本発明は、DNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用いる核酸増幅方法であって、前記DNAポリメラーゼが配列番号5に記載のアミノ酸配列の位置744および745の両方にアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含み、位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rである、方法を提供する。これらの実施態様において、核酸増幅反応がPCRまたはワンステップRT-PCRであってもよい。
【0043】
特定の実施態様では、本発明は、2種以上のDNAポリメラーゼおよびMg2+を含む反応液を用いる核酸増幅方法であって、前記2種以上のDNAポリメラーゼが、少なくとも配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置683がリジン、ロイシンまたはチロシンに置換され、かつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼ、および他の熱安定性DNAポリメラーゼである、方法が提供される。さらに特定の実施態様では、位置683のアミノ酸置換がE683Kであり、位置744のアミノ酸置換がE744KまたはE744Rであり、位置745のアミノ酸置換がA745KまたはA745Rであることが好ましい。これらの実施態様において、核酸増幅反応がPCRまたはワンステップRT-PCRであってもよい。
【0044】
本発明は、上記の改変型DNAポリメラーゼを含む、組成物を提供する。本発明の組成物は、PCR、またはRT-PCR、好ましくはワンステップRT-PCRを実施するための組成物であってもよい。本発明の組成物は、上記の改変型DNAポリメラーゼのほか、緩衝液、糖類、EDTA、非イオン界面活性剤、グリセロール等を含むことができる。さらに、本発明の組成物は、他の熱安定性DNAポリメラーゼを更に含むことができ、本発明の組成物は、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないTth DNAポリメラーゼまたはそれらの組合せから選択することができる。
【0045】
本発明は、上記改変型のDNAポリメラーゼおよびMg2+を含む、キットを提供する。本発明のキットは、PCR、またはRT-PCR、好ましくはワンステップRT-PCRを実施するためのキットであってもよい。さらに、本発明のキットは、他の熱安定性DNAポリメラーゼを更に含むことができ、本発明のキットは、例えば、Taq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Mg2+存在下での逆転写活性を有しないTth DNAポリメラーゼまたはそれらの組合せから選択することができる。本発明のキットは、水、核酸反応実施のための試薬(例えば、dNTP、プライマー、プローブ、1価イオン(カリウムイオン、アンモニウムイオン)、緩衝液、糖類、BSA、非イオン界面活性剤、抗DNAポリメラーゼ抗体(抗Tth抗体または抗Taq抗体)、核酸反応実施のための指示書、容器、パッケージなどを含むことができる。
【実施例】
【0046】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
(試薬と機器)
実施例では、以下の試薬を用いた。
ベクターpET15b(メルクミリポア、69661)
大腸菌JM109株(ニッポンジーン、317-06241)
Rosetta(DE3)pLysS(メルクミリポア、70956)
LB培地用試薬
Bacto tryptone(BD、211705)
Bacto yeast extract(BD、212750)
NaCl(富士フイルム和光純薬、018-01675)
アンピシリン(富士フイルム和光純薬、014-23302)
クロラムフェニコール(富士フイルム和光純薬、030-19452)
IPTG(富士フイルム和光純薬、092-05324)
イミダゾール(富士フイルム和光純薬、095-00015)
λDNA(ニッポンジーン、318-00414)
MgCl2(ニッポンジーン、310-90361)
MnCl2(富士フイルム和光純薬、133-00725)
dNTPs(ニッポンジーン)
0.1×ROX Passive Reference(ニッポンジーン)
抗Taq抗体(ニッポンジーン、311-08221)
なお、抗Taq抗体は、抗原はTaq DNAポリメラーゼであるが、スクリーニングの過程でTth DNAポリメラーゼへの結合も加味して選抜しており、Tth DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性も抑制することを確認している。
実施例で使用したプライマーは、ニッポンジーンマテリアルに依頼して合成したものを使用した。
【0048】
実施例では、以下の機器を用いた。
サーマルサイクラー:2720 Thermal Cycler (ThermoFisher Scientific)
リアルタイムPCR装置:Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR System(ThermoFisher Scientific)のRun Mode:Fast 7500
【0049】
(実施例1)
発現ベクターの改変
市販のベクターpET15bのNde1サイトに人工合成したオリゴDNAを挿入し、改変pET15b2(配列番号1)を作製した。
Tth DNAポリメラーゼクローニング
東京薬科大学が大分県内の温泉水より単離したThermus thermophilus OM72株由来のゲノムDNAを鋳型に、T.thermophilus HB8の配列を基に設計した配列番号2および配列番号3のプライマー(表1)を用いてTth DNAポリメラーゼ遺伝子をPCR増幅し、上記の改変pET15b2のNde1、Sal1サイトにクローニングした。クローニングしたTth DNAポリメラーゼ遺伝子のシークエンスを確認すると、T.thermophilus OM72株由来のTth DNAポリメラーゼの塩基配列は、T.thermophilus HB27株のTth DNAポリメラーゼの塩基配列と一致した(配列番号4)。
【表1】
ただし、設計したプライマー(配列番号3)はT.thermophilus HB8の配列を基にしているため、配列番号4に記載のアミノ酸配列の2502番目の塩基配列はHB27株ではなくHB8株と同じであった。発現する野生型Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列(配列番号5)を
図1に示す。
【0050】
改変型Tth DNAポリメラーゼの作製
作製した野生型Tth DNAポリメラーゼ発現プラスミドを鋳型に、配列番号6~13のプライマー(表2)を用いて部位特異的変異導入を行った。
【表2】
【0051】
変異導入プラスミドを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、生じたコロニーから変異プラスミドを調製し、塩基配列を調べることにより、変異が導入されていることを確認した。変異導入の結果、配列番号5のアミノ酸配列の744番目と745番目のアミノ酸残基EAがそれぞれER、RA、RR、KKになった改変型Tth DNAポリメラーゼ発現プラスミドが得られた。
【0052】
Tth DNAポリメラーゼの精製
野生型Tth DNAポリメラーゼ発現プラスミドおよび各改変型Tth DNAポリメラーゼ発現プラスミドを用いて大腸菌Rosetta(DE3)pLysSを形質転換した。生じたコロニーをLBにアンピシリンとクロラムフェニコールを添加した液体培地で600nmにおける吸光度が約0.5になるまで37℃で培養し、IPTGを終濃度1mMになるように添加し、さらに4時間培養し、Tth DNAポリメラーゼを産生させた。菌体を50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.5M NaCl、1% Triton X-100、20mM イミダゾールに懸濁し、超音波破砕を行った。遠心分離後、上清を80℃で熱処理した後、遠心分離し、HisTrap HPカラム(Cytiva 17524802)、HiTrap Qカラム(Cytiva 17115401)、HiTrap Heparinカラム(Cytiva 17040701)を用いて精製し、最後に保存緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)、300mM KCl,0.1mM EDTA、1 mM DTT、0.095% Triton X-100、50% Glycerol)に置換し、各種Tth DNAポリメラーゼを得た。
【0053】
(実施例2)
MgCl
2
またはMnCl
2
存在下でTth DNAポリメラーゼを用いたPCR
実施例1で作製した野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)を用いて、MgCl2またはMnCl2存在下で、λDNA 520bpを増幅させるPCRを実施した。PCRは、20mM Tris-HCl(pH8.0)、50mM KCl、0.1% Tween 20、0.1mg/mL Acetylated BSA、0.5% DMSO、1mM DTT、500mM Trehalose、2mM MgCl2または2mM MnCl2、0.2mM dNTPs、λDNA 520bpを増幅する0.4μMのプライマー(配列番号14および15)、60ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(ER)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)、0.25μgの抗Taq抗体を含む反応液25μLに、10ngになるようにλDNAを添加し、95℃、2分の熱変性後、95℃、30秒→55℃、30秒→72℃、30秒を30サイクル繰り返し、最後に72℃、5分の伸長反応を行うPCR条件で、サーマルサイクラーを用いて行った。
【0054】
【表3】
反応終了後、8.3μLの反応液について2%アガロース/TAEゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的DNA断片の増幅の有無を確認した。
【0055】
図2に結果を示す。MgCl
2を添加した場合、すべてのTth DNAポリメラーゼでバンドが確認できた。一方、MnCl
2を添加した場合、すべてのTth DNAポリメラーゼでバンドが確認されなかった。このことから、実施例1で作成した改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)は、野生型(WT)と同様、MgCl
2存在下でDNAポリメラーゼ活性を持つことが確認された。
【0056】
(実施例3)
MgCl
2
またはMnCl
2
存在下でTth DNAポリメラーゼを用いたRT-PCR
実施例1で作製した野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNA ポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)を用いて、MgCl2またはMnCl2存在下で、マウスβ-actin遺伝子の一部領域734bpを増幅させるRT-PCRを実施した。RT-PCRは、マウスの腎臓から抽出精製した100ngのトータルRNA、20mM Tris-HCl(pH8.8)、50mM KCl、0.1% Tween 20、0.1mg/mL Acetylated BSA、0.5% DMSO、1mM DTT、500mM Trehalose、2mM MgCl2または2mM MnCl2、0.2mM dNTPs、マウスβ-actin遺伝子の一部領域734bpを増幅する0.4μMのプライマー(配列番号16および17)、60ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(ER)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)、0.25μgの抗Taq抗体を含む反応液25μLに、100ngになるようにマウスKidney total RNAを添加し、65℃、30分の逆転写反応後、95℃、2分の熱変性を行い、さらに95℃、30秒→60℃、30秒→72℃、30秒を35サイクル繰り返し、最後に72℃、5分の伸長反応を行うPCR条件で、サーマルサイクラーを用いて行った。
【0057】
【表4】
反応終了後、8.3μLの反応液について2%アガロース/TAEゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的DNA断片の増幅の有無を確認した。
【0058】
図3は野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER、RR、KK)を用いて、MgCl
2またはMnCl
2存在下で734bpを増幅させたRT-PCRの結果を示す。MgCl
2を添加した場合、2つのアミノ酸に変異を入れた改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR、KK)のみバンドが確認できた。一方、MnCl
2を添加した場合、すべてのTth DNAポリメラーゼでバンドが確認されなかった。これは野生型Tth DNAポリメラーゼはMn
2+存在下で逆転写活性が働くが、ポリメラーゼ活性はMg
2+存在下でないと働かないため、cDNAからDNAの増幅が起こっておらず、バンドとして見えるレベルまで増幅されていない状態であると考えられる。
【0059】
これらの結果から、野生型Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列の744番目と745番目のアミノ酸残基を両方置換した改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR、KK)は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT、アミノ酸残基EA)にはない、MgCl2存在下での逆転写活性を有していることが確認された。また、744番目と745番目のアミノ酸のどちらか一方を置換した改変型Tth DNAポリメラーゼ(RA、ER)ではバンドが確認されなかったことから、MgCl2存在下での逆転写活性は、744番目と745番目のアミノ酸を両方置換することで得られた機能であると推察される。
【0060】
なお、実施例2および3のPCRおよびRT-PCR反応は、抗Taq抗体を添加して行っている。抗Taq抗体は、特異性や感度の向上を期待して添加したものである。発明者らは、抗Taq抗体を添加しない場合も、実施例2および3と同様の結果が得られたことを確認している。
HeLa細胞total RNA 0.1ng~100ngを鋳型に、One-step RT-PCR(MgCl
2存在下)でβ-actin遺伝子の一部領域295bpを増幅した。RT-PCRは、20mM Tris-HCl(pH8.8)、50mM KCl、0.1% Tween 20、0.1mg/mL Acetylated BSA、0.5% DMSO、1mM DTT、500mM Trehalose、2mM MgCl
2、0.2mM dNTPs、ヒトβ-actin遺伝子の一部領域295bbpを増幅する0.4μMのプライマー(5’-TCACCCACACTGTGCCCATCTACGA-3’(配列番号23)および5’-CAGCGGAACCGCTCATTGCCAATGG-3’(配列番号24))、60ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または65ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)または60ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)(WT+RRおよびWT+KKは1:1で混合)、0.5μgの抗Taq抗体を含む反応液25μLに、0.1、1、10、100ngになるようにHeLa細胞のtotal RNAを添加し、65℃、10分の逆転写反応後、95℃、2分の熱変性を行い、さらに95℃、30秒→60℃、60秒を40サイクル繰り返すPCR条件で、サーマルサイクラーを用いて行った。その結果、
図3Bに示すように、反応液に抗体を添加すると、添加しない場合に比べて、鋳型が少なくても、増幅できることが示された。PCR時の活性が強いWTを添加することで、抗体無しでは若干感度が上昇する。一方、抗体を添加するとWT添加による効果は明確には認められなくなる。
【0061】
(実施例4)
Tth DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムPCR
実施例1で作製した野生型Tth DNAポリメラーゼおよび改変型Tth DNA ポリメラーゼを用いて、SARS-CoV-2を検出する検出系(国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1 より NセットNo.2(N2セット))によるリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRは、10mM Tris-HCl(pH9.0)、100mM KCl、0.025% TritonX-100、250mM Trehalose、2mM MgCl2、0.2mM dNTPs、0.1×ROX Passive Reference(ニッポンジーン)、0.5μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_F2(配列番号18)、0.7μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_R2(配列番号19)、NIID_2019-nCOV_N_P2(配列番号20)の5’末端をFAM、3’末端をTAMRAでそれぞれラベルした0.2μM TaqManプローブ、46ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または15ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)または25.6ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)、0.1μgの抗Taq抗体を含む反応液20μLに、TE(pH8.0)およびNセットNo.2の標的配列を含むプラスミドDNA(配列番号21)をSspIおよびEcoO109Iで制限酵素処理した陽性コントロールDNA(N2セット用)を、50コピー、500コピー、5000コピー、50000コピーになるように添加し、95℃、20秒の熱変性を行い、さらに95℃、3秒→60℃、30秒を45サイクル繰り返すPCR条件で、Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR SystemのRun Mode:Fast 7500を用いて行った。抗Taq抗体を添加することにより、特異性や感度の向上という効果が得られると期待できる(特開2008-17787号公報)。
【0062】
【0063】
反応終了後、Threshold Line:0.5、Baseline:3cycle-15cycleで解析を行い、Ct値を算出した。各Tth DNAポリメラーゼの添加量は、あらかじめコントロールDNA 500コピーを増幅させるリアルタイムPCRを行い、各Tth DNAポリメラーゼを添加した反応系が同じCt値になるTth DNAポリメラーゼの量(WT:46ng、KK:15ng、RR:25.6ng)を添加した。
【0064】
図4に、MgCl
2存在下、抗Taq抗体存在下のリアルタイムPCRの増幅曲線の検量線を示す。
表6はそれぞれのCt値およびPCR効率をまとめた結果を示す。
【表6】
DNA鋳型を段階希釈して作成した検量線からPCR増幅効率を計算した。PCR増幅効率は80から120%が適正範囲とされるが、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)と改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)はともに、適正範囲内のPCR増幅効率を有することが確認された。DNAを鋳型としたPCRでは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)と、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)との間に、Ct値やPCR効率に大きな差は認められなかった。
【0065】
(実施例5)
MgCl
2
またはMnCl
2
存在下でのTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCR
実施例1で作製した野生型Tth DNAポリメラーゼおよび改変型Tth DNAポリメラーゼを用いて、MgCl2またはMnCl2存在かつ抗Taq抗体を添加しない条件で、SARS-CoV-2を検出する検出系(国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1 より NセットNo.2(N2セット))によるOne Step RT-qPCRを行った。One Step RT-qPCRは、10mM Tris-HCl(pH9.0)、100mM KCl、0.025% TritonX-100、250mM Trehalose、2mM MgCl2または2mM MnCl2、0.2mM dNTPs、0.1×ROX Passive Reference(ニッポンジーン)、0.5μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_F2(配列番号18)、0.7μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_R2(配列番号19)、NIID_2019-nCOV_N_P2(配列番号20)の5’末端をFAM、3‘末端をTAMRAでそれぞれラベルした0.2μM TaqManプローブ、46ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または15ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)または25.6ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)を含む反応液20μLに、DWおよびNセットNo.2の標的配列を含む陽性コントロールRNA(配列番号22)を50コピー、500コピー、5000コピーになるように添加し、65℃、10分の逆転写反応後、95℃、20秒の熱変性を行い、さらに95℃、3秒→60℃、30秒を45サイクル繰り返すPCR条件で、Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR SystemのRun Mode:Fast 7500を用いて行った。反応終了後、Threshold Line:0.5、Baseline:3cycle-15cycleで解析を行い、Ct値を算出した。
【0066】
MnCl
2存在下でのOne Step RT-qPCRでは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)のいずれも増幅曲線が立ち上がらなかった(
図6)。MgCl
2存在下でのOne Step RT-qPCRでは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)では増幅曲線が立ち上がらず、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)では50コピーまで検出された(
図5)。
【0067】
表7は、SARS-CoV-2検出系における、One Step RT-qPCR(MgCl
2存在下)について、Ct値およびPCR効率をまとめた結果を示す。この結果より、改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR、KK)は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)にはない、MgCl
2存在下での逆転写活性を有しており、MgCl
2を含む反応液中でOne Step RT-qPCRに利用できることが確認された。
【表7】
RNA鋳型を段階希釈して作成した検量線からPCR増幅効率を計算した。PCR増幅効率は80から120%が適正範囲とされるが、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)は、適正範囲内のPCR増幅効率を有することが確認された。
【0068】
(実施例6)
抗Taq抗体を添加した条件でのMgCl
2
またはMnCl
2
存在下でTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCR
本実施例では、実施例5と同じ鋳型およびプライマー並びにTth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCRを行ったが、抗Taq抗体を反応液に添加した点が実施例5とは異なる。
実施例1で作製した野生型Tth DNAポリメラーゼおよび改変型Tth DNAポリメラーゼを用いて、MgCl2またはMnCl2存在下で、SARS-CoV-2を検出する検出系(国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1に記載のNセットNo.2(N2セット))によるOne Step RT-qPCRを行った。One Step RT-qPCRは、10mM Tris-HCl(pH9.0)、100mM KCl、0.025% TritonX-100、250mM Trehalose、2mM MgCl2または2mM MnCl2、0.2mM dNTPs、0.1×ROX Passive Reference(ニッポンジーン)、0.5μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_F2(配列番号18)、0.7μMのプライマーNIID_2019-nCOV_N_R2(配列番号19)、NIID_2019-nCOV_N_P2(配列番号20)の5’末端をFAM、3‘末端をTAMRAでそれぞれラベルした0.2μM TaqManプローブ、46ngの野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)または15ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK)または25.6ngの改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR)、0.1μgの抗Taq抗体を含む反応液20μLに、DWおよびNセットNo.2の標的配列を含む陽性コントロールRNA(配列番号22)を50コピー、500コピー、5000コピー、50000コピーになるように添加し、65℃、10分の逆転写反応後、95℃、20秒の熱変性を行い、さらに95℃、3秒→60℃、30秒を45サイクル繰り返すPCR条件で、Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR SystemのRun Mode:Fast 7500を用いて行った。反応終了後、Threshold Line:0.5、Baseline:3cycle-15cycleで解析を行い、Ct値を算出した。
【0069】
MnCl
2存在下でのOne Step RT-qPCRでは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)のいずれも増幅曲線が立ち上がらなかった(
図8)。MgCl
2存在下でのOne Step RT-qPCRでは、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)では増幅曲線が立ち上がらず、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)では50コピーまで検出された(
図7)。
【0070】
表8は、SARS-CoV-2検出系における、One Step RT-qPCR(MgCl
2存在下)について、Ct値およびPCR効率をまとめた結果を示す。この結果より、改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR、KK)は、野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)にはない、MgCl
2存在下での逆転写活性を有しており、MgCl
2を含む反応液中でOne Step RT-qPCRに利用できることが確認された。
【表8】
RNA鋳型を段階希釈して作成した検量線からPCR増幅効率を計算した。PCR増幅効率は80から120%が適正範囲とされるが、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、RR)は、適正範囲内のPCR増幅効率を有することが確認された。
抗Taq抗体を添加した条件でも、実施例5と同等の結果が得られたので、改変型Tth DNAポリメラーゼ(RR、KK)が持つMgCl
2存在下での逆転写活性は、抗Taq抗体の有無に影響されないことが確認された。
【0071】
(実施例7)
位置683に更なるアミノ酸置換を有する改変型Tth DNAポリメラーゼを用いたOne Step RT-qPCR
配列番号5のアミノ酸配列の744番目と745番目のアミノ酸残基EAのKKへの置換に加えて、683番目に更に置換を有する改変型Tth DNAポリメラーゼを作成し、精製した。KKK、YKK、LKK発現ベクターは、東洋紡のキット(KOD-Plus-Mutagenesis Kit)を使って作製した。発現ベクターの作成は、キットの製造元の説明書に従って行い、サイクル数は5サイクルに変更し、プライマーは表9に記載のものを用いた。精製は、実施例1に記載のとおりに行った。
【表9】
以下において、683番目の置換がK、L、Yの改変型Tth DNAポリメラーゼをそれぞれKKK、LKK、YKKという。
【0072】
野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(KK、KKK)を用いて、MgCl
2存在下で、SARS-CoV-2を検出する検出系(国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1に記載のNセットNo.2(N2セット))によるOne Step RT-qPCRを行った。装置は、ProFlex
TM PCR System(Thermo Fisher scientific)を用いた。
反応液の組成(終濃度)は、10mM Tris-HCl(pH9.0)、100mM KCl、0025% Triton X-100、250mM トレハロース、0.2mM dNTPs、2mM MgCl
2、0.1xROX Reference Dye、Tth DNAポリメラーゼ1ng/ml(KK:1ng/ml 改変型Tth(KK);KK+WT:0.5ng/ml 改変型Tth(KK)+0.5ng/ml 野生型Tth;KKK+WT:0.5ng/ml 改変型Tth(KKK+0.5ng/ml 野生型Tth)を含む。鋳型は、不活化コロナウイルスを唾液で1000倍希釈したサンプルから、ISOSPIN Viral RNAを用いて抽出した精製RNAを用いた。
表10に示すプライマーを用いた。
【表10】
PCR反応液の組成およびPCRサイクルは以下のとおりである。
反応終了後、反応液について3%アガロース S/TAEゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的DNA断片の増幅の有無を確認した。
【0073】
図9に結果を示す。野生型Tth DNAポリメラーゼ(WT)および改変型Tth DNAポリメラーゼ(KKK)を組み合わせて用いた場合(WT+KKK)には、ゲル電気泳動で鋳型の増幅サイズ67bpにバンドが確認された。夾雑核酸を多く含む試料(例えば、唾液由来試料から抽出したRNAなど)では、特異性の低下が認められる場合があったが、WT+KKKでは、ゲル電気泳動で非特異的増幅バンドが出現せず、目的の鋳型が増幅された。これは、改変型Tth DNAポリメラーゼ(KKK)では、MgCl
2存在下での逆転写活性が維持されているが、DNAポリメラーゼ活性が低下していることにより、非特異的核酸の増幅が抑制されたためであると考えられる。
【0074】
さらに、改変型KKK、LKKおよびYKKのTth DNAポリメラーゼを用いて、マウス腎臓から抽出したトータルRNAから、β-actinの一部734bpを増幅させた。用いたプライマーおよびサイクルは実施例3と同じである。RT-PCR反応は、20μLでおこなった。Buffer組成(終濃度)は、以下のとおりである:10mM Tris-HCl(pH9.0)、100mM KCl、0.05% Tween20、0.05mg/mL BSA、1.5mM MgCl
2、0.5M トレハロース、dNTP:各0.2mM。用いた酵素量は、40ngである。
図10は、β-actinの一部734bpを増幅させたRT-PCRの結果を示す。結果として、いずれの改変体も、PCR活性が弱まっていることを確認した。改変体KKのE683変異により、逆転写活性を維持したままPCR活性が弱まるという特徴を持つ酵素になったことが示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0075】
配列番号1:改変pET15b2
配列番号2および3:Tth DNAポリメラーゼのクローニングに用いたプライマー
配列番号4:Tth DNAポリメラーゼの塩基配列
配列番号5:Tth DNAポリメラーゼのアミノ酸配列
配列番号6から13:改変型Tth DNAポリメラーゼの作製に用いたプライマー
配列番号14および15:λDNA増幅用プライマー
配列番号16および17:マウスβ-actin遺伝子の一部領域を増幅するためのプライマー
配列番号18から20:SARS-CoV-2を検出する検出系のプライマー
配列番号21:NセットNo.2の標的配列を含むプラスミドDNA
配列番号22:NセットNo.2の標的配列を含む陽性コントロールRNA
配列番号23および24:ヒトβ-actin遺伝子の一部領域を増幅するためのプライマー
配列番号25から28:改変型Tth DNAポリメラーゼの作製に用いたプライマー
配列番号29および30:SARS-CoV-2を検出する検出系のプライマー
【要約】
本発明の課題は、逆転写活性を有する新規熱安定性DNAポリメラーゼ改変体を提供することである。本発明によれば、Mg2+存在下で逆転写反応を触媒する活性を有し、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有しかつ位置744および745の両方が正電荷を持つアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む、DNAポリメラーゼが提供される。
【配列表】