(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】練り込み用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20221122BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20221122BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20221122BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20221122BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/14
A21D2/16
A21D13/00
A23D7/00 506
(21)【出願番号】P 2019117508
(22)【出願日】2019-06-25
(62)【分割の表示】P 2014266221の分割
【原出願日】2014-12-26
【審査請求日】2019-06-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2013270410
(32)【優先日】2013-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】桑田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 和明
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】植前 充司
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/062113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A21D 2/14
A21D 2/16
A21D 13/00
A23D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成品の生地を作製する際に練り込んで使用される練り込み用油脂組成物であって、
全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上であるラウリン系油脂(A1)5質量%以上30質量%未満と、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)70質量%超95質量%以下とのエステル交換油脂(A)と、
構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1~25質量%である油脂(B)と、
を含有し、
エステル交換油脂(A)のトリグリセリドの全構成脂肪酸中、ラウリン酸量のステアリン酸量に対する質量比(ラウリン酸量/ステアリン酸量)が0.2~1.4であり、かつ、エステル交換油脂(A)のヨウ素価が20~40であり、
エステル交換油脂(A)の含有量が油脂全量に対して5~65質量%であり、油脂(B)の含有量が35~95質量%であり、
かつ以下の(i)から(iii)の全てを満足する練り込み用油脂組成物。
(i) 構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドと、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を3個含む3飽和トリグリセリドとの合計割合が油脂全量に対して30~65質量%
(ii) 2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.1~1.5
(iii) 構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリドの割合が油脂全量に対して5.0~30質量%
【請求項2】
エステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が7~20質量%である請求項1に記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項3】
エステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数18の不飽和脂肪酸の含有量が18~40質量%である請求項1又は2に記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項4】
エステル交換油脂(A)は、ラウリン系油脂(A1)のヨウ素価が2以下である請求項1から3のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項5】
エステル交換油脂(A)は、パーム系油脂(A2)のヨウ素価が30~55である請求項1から4のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項6】
油脂(B)は、ヨウ素価45~65のパーム系油脂、パーム分別軟質油のエステル交換油脂、及びラードから選ばれる少なくとも1種の油脂を含有する請求項1から5のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項7】
更に液状油(C)及び極度硬化油(D)から選ばれる少なくとも1種を含む油脂を含有する請求項1から6のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項8】
更にパーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及びパーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1から7のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物。
【請求項9】
油脂成分として、請求項1から8のいずれかに記載の練り込み用油脂組成物のみを含有する可塑性油脂。
【請求項10】
請求項9に記載の可塑性油脂を含有する焼成品用の生地。
【請求項11】
請求項10に記載の生地を焼成して得られる焼成品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンや菓子等の焼成品の生地に練り込んで使用される練り込み用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品に関する。
【背景技術】
【0002】
パンや菓子等の焼成品の生地に練り込んで使用されるマーガリン等の可塑性油脂には、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができること、焼成品の口溶けが良いこと、風味としてフレーバーリリースが良好であることが求められる。また、トランス型脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、原料油脂にはトランス酸量が少ないことが望まれている。
【0003】
また、製造から使用までに際しては、高温や経時による2不飽和トリグリセリド、3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油の染みだしが少ないこと、長期保存しても硬さ変化が少ないことも求められる。
【0004】
従来、練り込み用油脂組成物として、トリグリセリド組成等を規定した油脂組成物が提案され、その配合成分としてラウリン系油脂を含む油脂配合物をランダムエステル交換反応したエステル交換油脂が使用されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-291168号公報
【文献】特開2008-278833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術は、エステル交換油脂におけるラウリン系油脂の含有量が多く、ラウリン酸を多く含有するため、口溶けは良くなる傾向にあるものの、保存安定性が悪くなりやすく、特に、高温や経時によって、液状油が染みだすという問題があった。
【0007】
また特許文献1に記載の技術は、ラウリン系油脂を含むエステル交換油脂のヨウ素価が低いために、他の油脂との相溶性が悪くなり、そのため前記したような各種の物性、食感、風味の特性に相溶性の悪さが影響する懸念があり、例えば、生地への分散性や、焼成品の口溶けが悪くなりやすいという問題があった。
【0008】
そして、前記したような各種の物性、食感、風味の特性を全体的に満足するものは得られていなかった。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性に優れた、練り込み用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の練り込み用油脂組成物は、焼成品の生地を作製する際に練り込んで使用される練り込み用油脂組成物であって
全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上であるラウリン系油脂(A1)5質量%以上30質量%未満と、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)70質量%超95質量%以下とのエステル交換油脂(A)と、
構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1~25質量%である油脂(B)と、
を含有し、
エステル交換油脂(A)のトリグリセリドの全構成脂肪酸中、ラウリン酸量のステアリン酸量に対する質量比(ラウリン酸量/ステアリン酸量)が0.2~1.4であり、かつ、エステル交換油脂(A)のヨウ素価が20~40であり、
エステル交換油脂(A)の含有量が油脂全量に対して5~65質量%であり、油脂(B)の含有量が35~95質量%であり、
かつ以下の(i)から(iii)の全てを満足することを特徴としている。
(i) 構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドと、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を3個含む3飽和トリグリセリドとの合計割合が油脂全量に対して30~65質量%
(ii) 2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.1~1.5
(iii) 構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリドの割合が油脂全量に対して5.0~30質量%
【0011】
本発明の可塑性油脂は、油脂成分として前記の練り込み用油脂組成物のみを含有する。
【0012】
本発明の焼成品用の生地は、前記の可塑性油脂を含有する。
【0013】
本発明の焼成品は、前記の生地を焼成して得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
1.練り込み用油脂組成物
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
【0016】
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
【0017】
飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0018】
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
【0019】
不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エルカ酸(22:1)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0020】
本発明の練り込み用油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドを含み、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリドを含み、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドを含む。
【0021】
本発明の練り込み用油脂組成物は、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドと、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を3個含む3飽和トリグリセリドとの合計割合が油脂全量に対して30~65質量%であり、好ましくは30~60質量%、より好ましくは35~60質量%、更に好ましくは35~55質量%である。この範囲内であると、これを用いた可塑性油脂は、高温や経時によって液状油が染みだすことを抑制でき、かつ生地への分散性も良い。この合計割合が30質量%以上であると、可塑性油脂は、液状油の染みだしを抑制でき、焼成品はボリュームがあり食感がソフトで、特にネチャツキが強くなることを抑制できる。この合計割合が65質量%以下であると、可塑性油脂は、生地への分散性が良く、ボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができる。
【0022】
本発明の練り込み用油脂組成物は、2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.1~1.5、好ましくは0.1~1.2、より好ましくは0.1~1.0である。この範囲内であると、可塑性油脂を製造したときに長期保存しても硬さ変化が少なく、かつ生地への分散性が良く、焼成後に一度油脂が融解しても、相溶性が良く固液分離することがない。この質量比が0.1以上であると、可塑性油脂を製造するときに結晶の析出が速過ぎて、製造機で練られ過ぎ、軟らかくなり過ぎることが抑制されて生地への分散性が良好となる。この質量比が1.5以下であると、可塑性油脂を製造したときに経時的に硬くなることが抑制され、かつ生地への分散性が良く、焼成品のボリュームが得られやすくなる。更に可塑性油脂をビスケットやクッキーなどに練り込んだ場合、焼成時に、一度油脂が融解し、徐冷下で冷却されても固液分離せず、ビスケットやクッキーなどの表面をチョコレートなどで被覆した複合菓子において、練り込んだ油脂の液状油がチョコレート側に移行し、被覆した部分が白色化することを抑制できる。
【0023】
本発明の練り込み用油脂組成物は、構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリドの割合が油脂全量に対して5.0~30質量%、好ましくは5.0~25質量%、より好ましくは7.0~20質量%である。この範囲内であると、これを用いた焼成品の口溶けとフレーバーリリースが良好で、かつ生地への分散性が良好となる。この割合が5.0質量%以上であると口溶けとフレーバーリリースが良く、30質量%以下であると、ラウリン酸量の増加等に起因して可塑性油脂が硬くなることが抑制され、生地への分散性が良い。
【0024】
そして本発明の練り込み用油脂組成物は、後述のラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂であるエステル交換油脂(A)を含む油脂を含有することを特徴としている。このエステル交換油脂(A)を原料に用いて他の油脂と混合し、油脂のトリグリセリド組成を前記の範囲内に調整することにより、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性にも優れている。このエステル交換油脂(A)を原料に用いて得られた本発明の練り込み用油脂組成物は、低温から高温までの広温度域において可塑性を有する可塑性油脂を調製することができ、そして特に、他の油脂との相溶性が良いため前記したような各種の物性、食感、風味の特性が向上し、例えば硬い油脂だけで固まることが抑制され、高温や経時による染みだしや長期保存時における硬さ変化の少ない安定性に優れた可塑性油脂を調製することができる。
【0025】
トランス型脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の練り込み用油脂組成物は、トランス酸量が油脂全量に対して0.1~5質量%であることが好ましい。
【0026】
以上のような構成を有する本発明の練り込み用油脂組成物は、3飽和トリグリセリドの割合が油脂全量に対して5~45質量%であることが好ましく、2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計量と、3飽和トリグリセリドとの質量比(2飽和トリグリセリド+3飽和トリグリセリド/3飽和トリグリセリド)が1.2~7であることが好ましく、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの質量比(2飽和トリグリセリド/3飽和トリグリセリド)が0.5~4.5であることが好ましい。
【0027】
(エステル交換油脂(A))
本発明の練り込み用油脂組成物に原料として使用されるエステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上であるラウリン系油脂(A1)と、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂である。
【0028】
そしてエステル交換油脂(A)は、ラウリン系油脂(A1)5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂(A2)70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られたものである。好ましくはラウリン系油脂(A1)10質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂(A2)70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られたものであり、より好ましくは、ラウリン系油脂(A1)10~28質量%と、パーム系油脂(A2)72~90質量%とをエステル交換反応して得られたものである。ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)をこの質量範囲で使用することで、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性にも優れている。特に、ラウリン系油脂(A1)の添加量を30質量%未満にすると、高温や経時によって液状油が染みだすことを抑制でき、安定性に優れている。
【0029】
特に、高温や経時によって液状油が染みだすことを抑制できる点を考慮し、かつ前記したような各種の物性、食感、風味の特性を得ることができる点も考慮すると、エステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が7~20質量%であることが好ましい。また、全構成脂肪酸中の炭素数18の不飽和脂肪酸の含有量が18~40質量%であることが好ましい。
【0030】
またエステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が好ましくは40~60質量%である。
【0031】
そしてエステル交換油脂(A)は、ヨウ素価が20~45であることが好ましい。この範囲内であると、他の油脂との相溶性が良く、そして他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができるため、前記したような各種の物性、食感、風味の特性が向上し、例えば、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存時における硬さ変化の少ない安定性に優れたものを調製することができる。ヨウ素価が20以上であると、他の油脂との相溶性が良く、前記したような各種の物性、食感、風味の特性が向上し、例えば硬い油脂だけで固まることが抑制され、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存時における硬さ変化を抑制できる。ヨウ素価が45以下であると、他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができるため、前記したような各種の物性、食感、風味の特性が向上し、例えば高温や経時による液状油の染みだしや長期保存時における硬さ変化を抑制できる。
【0032】
以上の他に、前記したような各種の物性、食感、風味の特性が良好となる点を考慮すると、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とを前記の質量範囲でエステル交換反応して得られるエステル交換油脂(A)は、次のものが好ましい。
【0033】
エステル交換油脂(A)は、構成脂肪酸の総炭素数が40~46であるトリグリセリドの組成物中の割合が5~40質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~35質量%であることがさらに好ましい。これらの範囲内であると、他の油脂との相溶性が良く、焼成品の口溶けも良い。
【0034】
エステル交換油脂(A)は、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称トリグリセリド(SUS)と非対称トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.45~0.55であることが好ましい。これにより結晶性が良くなるため、他の油脂と混合した際に相溶性が良く、可塑性油脂としたときに可塑性が良好であり、高温や経時によって液状油が染みだすことも抑制できる。
【0035】
エステル交換油脂(A)は、トリグリセリドの全構成脂肪酸中、ラウリン酸量のステアリン酸量に対する質量比(ラウリン酸量/ステアリン酸量)が好ましくは0.2~0.7、より好ましくは0.4~0.6であり、かつ炭素数18の不飽和脂肪酸量の炭素数18の飽和脂肪酸量に対する比率(C18の不飽和脂肪酸量/C18の飽和脂肪酸量)が好ましくは0.5~4.0、より好ましくは1.0~2.0である。この範囲内であると、可塑性油脂の保型性が良好となる。
【0036】
エステル交換油脂(A)は、5℃におけるSFCが55~80%であることが好ましい。この範囲内であると、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存時における硬さ変化を抑制でき、安定性に優れている。また35℃におけるSFCが15%以上であることが好ましく、15~30%であることがより好ましい。この範囲内であると、可塑性油脂の保型性が良好となる。なお、5℃及び35℃のSFCは、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)」により測定することができる。
【0037】
(ラウリン系油脂(A1))
以上のようなエステル交換油脂(A)の原料であるラウリン系油脂(A1)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40~55質量%、より好ましくは45~50質量%である。このようなラウリン系油脂(A1)としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂(A)を容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油及びその分別油や硬化油が好ましい。硬化油の場合、水素添加量によってトランス酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には部分硬化油、低温硬化油、あるいは完全水素添加した極度硬化油から適宜に選択することが好ましい。
【0038】
ラウリン系油脂(A1)は、ヨウ素価が2以下であることが好ましい。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂(A1)を用いると、エステル交換油脂(A)を他の油脂と混合する際に結晶核となり固化し易く、高温や経時による液状油の染みだしが抑制される。またトランス酸の生成の虞も少ない。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂(A1)としては、極度硬化油を用いることができる。
【0039】
(パーム系油脂(A2))
全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油、エステル交換油脂等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等を用いることができる。パーム系油脂(A2)として硬化油を使用する場合、部分硬化油、低温硬化油、極度硬化油等を用いることができるが、中でも極度硬化油が好ましい。
【0040】
パーム系油脂(A2)は、ヨウ素価が30~55であることが好ましく、30~40であることがより好ましい。この範囲内であると、口溶けが低下することなく高温や経時による液状油の染みだしが抑制される。
【0041】
パーム系油脂(A2)は、極度硬化油を5~45質量%で含有することが好ましく、20~45質量%で含有することがより好ましい。極度硬化油をこの範囲内で含有すると、長期保存時における可塑性油脂の硬さ変化を抑制でき、また高温や経時による液状油の染みだしが抑制される。
【0042】
ラウリン系油脂(A1)と、パーム系油脂(A2)とのエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウム等が用いられ、酵素触媒としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属等のリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(A)中における質量比(SUS/SSU)が0.45~0.55の範囲内となる。
【0043】
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05~0.15質量%添加し、減圧下で80~120℃に加熱し、0.5~1.0時間攪拌することでラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01~10質量%添加し、40~80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭等の精製を行うことができる。
【0044】
ラウリン系油脂(A1)における全構成脂肪酸中のラウリン酸の割合、パーム系油脂(A2)における全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量、エステル交換反応の終了は、ガスクロマトグラフ法により確認することができる。
【0045】
(油脂(B))
本発明の練り込み用油脂組成物は、特に、以上に説明したようなエステル交換油脂(A)と、構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1~25質量%である油脂(B)とを含有することが好ましい。
【0046】
これらの特定のエステル交換油脂(A)と油脂(B)とを混合し、練り込み用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することにより、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性にも優れている。構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1~25質量%である油脂(B)を使用すると、エステル交換油脂(A)を用いて練り込み用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することが容易であり、かつ、エステル交換油脂(A)との相溶性が良いため、前記したような各種の物性、食感、風味の特性が向上し、例えば、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存時における可塑性油脂の硬さ変化の少ない安定性に優れたものを得ることができる。
【0047】
油脂(B)は、飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.1~2.5であることが好ましい。この範囲内であると、エステル交換油脂(A)と混合して得られる練り込み用油脂組成物における、前述の対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)を0.1~1.5に調整することができる。
【0048】
油脂(B)としては、パーム系油脂、パーム分別軟質油のエステル交換油脂、ラード、乳脂、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、部分硬化油、菜種部分硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、パーム系油脂、パーム分別軟質油のエステル交換油脂、及びラードから選ばれる少なくとも1種の油脂を用いることが好ましい。
【0049】
パーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部(パームステアリン等)、軟質部(パームオレイン、パームダブルオレイン等)、中融点部等を用いることができる。
【0050】
パーム系油脂は、特に相溶性と口溶けの点から、ヨウ素価45~65のパーム系油脂を使用することが好ましく、このようなパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別軟質油(パームオレイン)、パーム分別中融点油等が挙げられる。
【0051】
その中でも、相溶性が特に良い点から、ヨウ素価45~65のパーム系油脂と共に、パーム分別軟質油のエステル交換油脂を使用し、パーム分別軟質油のエステル交換油脂とパーム系油脂との比率を質量比で1:0.1~5とすること、ヨウ素価45~65のパーム系油脂と共に、ラードを使用し、ラードとパーム系油脂との比率を質量比で1:0.05~5とすること、ヨウ素価45~65のパーム系油脂と共に、パーム分別軟質油のエステル交換油脂及びラードを使用し、パーム分別軟質油のエステル交換油脂とラードとパーム系油脂との比率を質量比で1:0.1~7:0.1~12とすることが好ましい。各油脂の比率をこの範囲内にすると油脂(B)自体の相溶性も良好で、練り込み用油脂組成物全体としての相溶性も特に良好である。
【0052】
本発明の練り込み用油脂組成物は、油脂全量に対してエステル交換油脂(A)の添加量が5~65質量%、油脂(B)の添加量が35~95質量%であることが好ましい。
【0053】
(液状油(C)及び極度硬化油(D))
本発明の練り込み用油脂組成物は、エステル交換油脂(A)を必須成分として、液状油(C)を混合して得ることもできる。液状油(C)は、エステル交換油脂(A)及び油脂(B)と共に使用することで、練り込み用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することができる。また、エステル交換油脂(A)を使用することで、液状油(C)に由来する2不飽和トリグリセリド、3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドを含む液状油が、高温や経時によって染みだすことを抑制することができる。
【0054】
液状油(C)は、5℃で流動状を呈する油脂であり、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
液状油(C)の添加量は、油脂全量に対して5~40質量%が好ましい。
【0056】
本発明の練り込み用油脂組成物は、エステル交換油脂(A)を必須成分として、植物油脂の極度硬化油(D)を混合して得ることもできる。植物油脂の極度硬化油(D)は、エステル交換油脂(A)及び油脂(B)等と共に使用することで、油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することができる。
【0057】
極度硬化油(D)としては、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0058】
極度硬化油(D)の添加量は、油脂全量に対して30質量%以下が好ましい。特に融点が50℃以上の極度硬化油を用いる場合は、油脂全量に対し、5質量%以下であると口溶けが良好となることから好ましい。また液状油(C)と併用する場合には、練り込み用油脂組成物全量に対して液状油(C)及び極度硬化油(D)の合計で50質量%以下が好ましい。
【0059】
以上において、本発明の練り込み用油脂組成物に使用される油脂の分別、硬化反応、エステル交換反応は、次のような方法によって行うことができる。
【0060】
油脂の分別は、乾式分別、溶剤分別、又は界面活性剤(乳化)分別によって行うことができ、これらを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0061】
乾式分別では、高融点と低融点のトリグリセリドの融点差を利用して、完全に溶解した油脂を徐々に冷却し、生成した結晶部分と液体部分とをろ別して分離し得ることができる。また乾式分別では、温度を段階的に低下させる一段分別、二段分別、又は多段分別により分別油を得ることができる。
【0062】
溶剤分別では、アセトンやヘキサンなどの溶剤に対する溶解度差を利用して、油脂を溶剤に溶解し、冷却することで、溶剤に対して溶解度の低い高融点部、次いで中融点部の順に結晶を析出させる。結晶を十分成長させた後、結晶部分と液油部分とに分離し、溶媒を留去して、液油部分を分別油として得ることができる。
【0063】
界面活性剤(乳化)分別では、油脂を溶解し、冷却して結晶化後、界面活性剤(乳化剤)の水溶液を添加して結晶部分に混在している液体部を大きな液滴とし、液状油、固体脂と水溶液の懸濁液、過剰の水溶液の三層に分離し分別油を得ることができる。
【0064】
油脂の硬化反応は、常法にしたがって、ニッケル触媒等の触媒を用いて油脂に水素添加し、加温、攪拌しながら反応を進め、トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸の二重結合部分に水素を結合させ飽和化することによって行うことができる。この際、圧力、温度、時間、触媒を制御することにより、求める硬さの油脂を得ることができる。
【0065】
油脂のエステル交換反応は、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドのグリセロールに結合している脂肪酸の位置や脂肪酸の種類を組みかえる操作であり、常法にしたがって、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる化学的エステル交換反応や、リパーゼ等を触媒として用いた酵素的エステル交換反応等によって行うことができる。
【0066】
(ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明の練り込み用油脂組成物は、好ましい態様において、更にパーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及びパーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0067】
これらのソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルは、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上、好ましくは1.5℃以上、より好ましくは2.0~4.0℃上昇させる。
【0068】
このようなソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を用いることで、本発明の練り込み用油脂組成物を用いた可塑性油脂の製造時における急冷条件において、油脂の結晶化が促進される。そのため、製造機中でよく練られ、更に可塑性が向上し、生地への分散性が向上する。
【0069】
上記パーム油の固化開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。固化開始温度の測定には、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いることができる。より詳細には、パーム油100質量部にソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、80℃から毎分10℃の速度で冷却し、固化開始温度を測定することができる。
【0070】
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、全構成脂肪酸中の好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上がパルミチン酸とステアリン酸である。また、パルミチン酸とステアリン酸の質量比は、好ましくは0.3:1.0~1.0:1.0であり、より好ましくは0.5:1.0~0.8:1.0である。パルミチン酸とステアリン酸の質量比がこの範囲程度であれば、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させることができる。
【0071】
ここでパルミチン酸とステアリン酸の質量比は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)により測定することができる。
【0072】
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは3.5~5.5であり、より好ましくは4.0~5.5である。HLB値がこの範囲であると、パーム油の固化開始温度を上昇させるのに適している。
【0073】
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
【0074】
本発明においては、上記ソルビタン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、理研ビタミン(株)製のS-320YN、ポエムS-60V、及びソルマンS-300V等が挙げられる。
【0075】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは1~7であり、より好ましくは1~6である。HLB値がこの範囲であると、パーム油の固化開始温度を上昇させるのに適している。
【0076】
本発明においては、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、阪本薬品工業(株)製のSYグリスターPS-3S、SYグリスターPS-5S、SYグリスターTHL-50、SYグリスターHB―750、SYグリスターDDB-750、三菱化学フーズ株式会社製のリョートーポリグリエステルB-70D等が挙げられる。
【0077】
上記ソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.05~6.0質量%であり、より好ましくは0.1~5.0質量%であり、更に好ましくは0.2~4.0質量%である。上記ソルビタン脂肪酸エステルと上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを併用する場合には、これらの合計量としてこの範囲内であることが好ましい。この含有量がこの範囲内にあれば、生地への分散性が向上し、かつ、乳化剤による雑味を感じることなく、フレーバーリリースの良好な製菓製パンを得ることができる。
【0078】
2.可塑性油脂
本発明の練り込み用油脂組成物は、油相中に本発明の練り込み用油脂組成物を含有する可塑性油脂を調製し、これを原材料とする生地を用いて焼成品を得ることができる。
【0079】
この可塑性油脂は、油相中に本発明の練り込み用油脂組成物を含有するものである。
【0080】
可塑性油脂における本発明の練り込み用油脂組成物の含有量としては、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%である。
【0081】
この可塑性油脂は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60~99.4質量%、より好ましくは65~98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6~40質量%、より好ましくは2~35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、マーガリンが挙げられる。
【0082】
また水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「実質的に含有しない」とは日本農林規格のショートニングに該当する、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下のことである。
【0083】
この可塑性油脂には、水以外に、従来の公知の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、乳、乳製品、蛋白質、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、着色成分、香料、乳化剤等が挙げられる。乳としては、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、多糖類等が挙げられる、抗酸化剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチン等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。乳化剤としては、前述したソルビタン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルの他、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0084】
この可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、本発明の練り込み用油脂組成物を含む油相と水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、本発明の練り込み用油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機により急冷捏和後には、必要に応じて熟成(テンパリング)してもよい。
【0085】
3.生地及び焼成品
本発明の練り込み用油脂組成物は、可塑性油脂としてパンや菓子等の焼成品の生地に練り込んで使用することができる。本発明の練り込み用油脂組成物を含有する生地を焼成することによってパンや菓子等の焼成品が得られる。生地への本発明の練り込み用油脂組成物の練り込みや、焼成は、例えば公知の条件及び方法に従って行うことができる。
【0086】
生地は穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられる。
【0087】
生地における本発明の練り込み用油脂組成物の配合量は、焼成品の種類によっても異なり特に限定されないが、生地に配合される穀粉100質量部に対して、可塑性油脂量として好ましくは2~40質量部であり、より好ましくは2~30質量部である。
【0088】
生地には、穀粉と本発明の練り込み用油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水や、前記したような乳、乳製品、蛋白質、糖質の他、卵、卵加工品、澱粉、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、香料等が挙げられる。
【0089】
焼成品のパンや菓子としては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなどのパン類、シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなどのイースト菓子、デニッシュ、クロワッサン、パイなどのペストリー、バターケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなどのケーキ等が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(1)測定方法
(油脂組成物)
2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合、3飽和トリグリセリドの含有量、2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計量と3飽和トリグリセリドとの質量比、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの質量比は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「暫7-2003 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0091】
対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「暫7-2003 2位脂肪酸組成」)により求めたSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量より算出した。
【0092】
構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.6.1-1996 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)」)により測定した。
【0093】
表9~表14に示す1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)と1,2-ジパルミトイル-3-オレオイルグリセリン(PPO)との質量比(POP/PPO)は、上記と同様の方法で測定した。
【0094】
トランス酸量はガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。
(エステル交換油脂(A))
ヨウ素価は基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」で測定した。
【0095】
全構成脂肪酸中の炭素数14~16の飽和脂肪酸の割合、炭素数16~18の飽和脂肪酸の割合、炭素数18の不飽和脂肪酸の割合、全構成脂肪酸中のラウリン酸のステアリン酸に対する比率(ラウリン酸量/ステアリン酸量)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。
【0096】
構成脂肪酸の総炭素数が40~46であるトリグリセリド含有量は、前記の油脂組成物における構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリド含有量と同様の方法で測定した。
【0097】
(油脂(B))
ヨウ素価は前記のエステル交換油脂(A)における測定方法と同様の方法で測定した。
【0098】
構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合は、前記の油脂組成物における構成脂肪酸の総炭素数が40~48であるトリグリセリド含有量と同様の方法で測定した。
【0099】
(2)油脂組成物の調製
(エステル交換油脂1~8)
エステル交換油脂1~5は次の方法で調製した。表1に示す割合でラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とを混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂を得た。
【0100】
エステル交換油脂6~8は、エステル交換油脂1~5の製法に準じて調製した。なお、エステル交換油脂7は、表1の質量比で混合してエステル交換反応を行い、水洗、脱水した後、水素添加を行い、その後精製してエステル交換油脂を得た。
【0101】
エステル交換反応に用いたラウリン系油脂(A1)、パーム系油脂(A2)を以下に示す。
ラウリン系油脂(A1)
パーム核極度硬化油:ラウリン酸含有量45.7質量%(ヨウ素価2)
パーム核油:ラウリン酸含有量45.7質量%(ヨウ素価18)
パーム核オレイン:ラウリン酸含有量39.0質量%(ヨウ素価24)
パーム系油脂(A2)
パーム油:C16以上の脂肪酸含有量97.9質量%(ヨウ素価53)
パーム極度硬化油:C16以上の脂肪酸含有量97.9質量%(ヨウ素価2)
パーム硬質油:C16以上の脂肪酸含有量98.8質量%(ヨウ素価32)
パーム軟質油:C16以上の脂肪酸含有量97.7質量%(ヨウ素価61)
【0102】
得られたエステル交換油脂1~8の分析結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
(ソルビタン脂肪酸エステル1、2及びポリグリセリン脂肪酸エステル1、2)
練り込み用油脂組成物に添加したソルビタン脂肪酸エステル1、2及びポリグリセリン脂肪酸エステル1、2の詳細は、表2に示すとおりである。
【0105】
ソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。
【0106】
次に、同様にして、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。
【0107】
ソルビタン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度とソルビタン脂肪酸エステルポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とした。固化開始温度(℃)の上昇値=(ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)-(ソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度)固化開始温度(℃)の上昇値=(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)-(ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度)
【0108】
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から-40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
【0109】
【0110】
(油脂組成物)
表3~表8に示す配合比にてエステル交換油脂を含む各油脂を混合し、実施例及び比較例の油脂組成物を得た。実施例15~18、実施例23~24、実施例34~37、実施例42~43は、ソルビタン脂肪酸エステル1、2及びポリグリセリン脂肪酸エステル1、2のいずれかを油脂組成物に添加して油脂組成物を得た。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
(3)評価
実施例及び比較例の各試料について次の評価を行った。なお表3~表14において実施例1~18、実施例25~37、比較例1~19は油脂組成物を用いてマーガリンを製造し評価を行い、実施例19~24、実施例38~43は油脂組成物を用いてショートニングを製造し評価を行った(表中のMはマーガリン、Sはショートニングを示す)。
【0118】
(マーガリンの製造)
表3~8に示す、実施例1~18、実施例25~37及び比較例1~19の油脂組成物82質量部にモノグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部添加し、70℃に調温して油相とした。一方、水16.2質量部に脱脂粉乳1.5質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。
【0119】
次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後にバターフレーバーを0.1質量部添加し、コンビネーターによって急冷捏和し、下記の配合割合のマーガリンを得た。
〈マーガリンの配合〉
油脂組成物 82質量部
モノグリセリン脂肪酸エステル 0.2質量部
水 16.2質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
バターフレーバー 0.1質量部
【0120】
(ショートニングの製造)
表4及び表7に示す、実施例19~24、実施例38~43の油脂組成物を70℃に調温した後、バターフレーバーを添加し、コンビネーターによって急冷捏和してショートニングを得た。
〈ショートニングの配合〉
油脂組成物 99.9質量部
バターフレーバー 0.1質量部
【0121】
上記マーガリン及びショートニングを10℃で5日保存した後、下記の評価を行った。
[染みだし]
マーガリン又はショーニングを3×3×3cm角にカットし、35℃の恒温槽にて3日保存したときの液状油の染みだしを目視にて以下の基準で評価した。
評価基準
◎:全く染みだしがない。
○:若干染みだしがある。
△:染みだしがある。
×:染みだしが多くある。
【0122】
[組織]
20℃に調温したマーガリン又はショートニング5gをスパテラに取り、ステンレス製の板に塗布し、組織を目視にて以下の基準で評価した。
評価基準
◎:表面にツヤがあり、滑らかに延びる。
○:表面にややツヤがあり、滑らかに延びる。
△:表面に若干ザラツキがあり、滑らかに延びる。
×:表面にザラツキ又は粒があり、延びが悪い。
【0123】
[硬さの経時変化]
マーガリン又はショートニングを円柱状の容器に入れ、表面が平らになるように、スパテラでカットし15℃で2日、30日保存したときの硬さをペネトロメーターを用いて測定した。AOCS公定法Cc16-60の円錐型コーンアダプターの先端をマーガリン又はショートニングを表面に接触する位置にセットし、5秒間落下させたときの進入距離(mm)の10倍をペネトロ値とし、硬さの指標とした。30日目と2日目とのペネトロ値の変化率((|30日目のペネトロ値-2日目のペネトロ値|)/2日目のペネトロ値×100)により硬さの変化を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:15%未満
○:15%以上25%未満
△:25以上35%未満
×:35%以上
【0124】
[トランス酸量]
油脂組成物のトランス酸含有量を前記の方法で測定し、次の基準により評価した。
評価基準
○:トランス酸量が0.1~5質量%
×:トランス酸量が5質量%超
【0125】
上記の評価結果を表9~表14に示す。
【0126】
表9~表14より、ラウリン系油脂(A1)の添加量が5質量%以上30質量%未満である、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂(A)を使用し、かつ2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合を油脂全量に対して30~65質量%、SUS/SSUを0.1~1.5、C40~C48のトリグリセリドの割合を油脂全量に対して5.0~30質量%とした油脂組成物を用いた実施例1~24では、液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく、高温や経時に対する安定性に優れるものであった。また実施例1~24の油脂組成物は、組織が良好で相溶性が良いことが確認された。そして実施例25~43においても液状油の染みだしは抑制された。
また、実施例の油脂組成物はトランス酸量も少ないものであった。
【0127】
特に、エステル交換油脂(A)のヨウ素価を20~45にすると、高温や経時による液状油の染みだしや長期保存による硬さの変化の少ない安定性に優れた可塑性油脂を調製することができた。
【0128】
(パンの製造)
表3~表5に示す実施例1~24及び比較例1~10の油脂組成物により製造したマーガリン又はショートニングを用いて食パンを製造した。
【0129】
イーストを分散させた水、イーストフード、および強力粉をミキサーボールに投入しフックを使用して、下記条件にてミキシング、発酵を行い、中種生地を得た。
【0130】
その後、本捏配合のマーガリン又はショートニング以外の全材料および中種生地を添加し低速3分、中低速3分でミキシングした後、マーガリン又はショートニングを投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングしパン生地を得た。捏上温度は28℃であった。
【0131】
その後、20分のフロアータイムをとった後、生地を分割し、再度20分のベンチタイムをとった。生地の成型は、モルダーで5mmに延ばし、ロール型に成型後、ワンローフ型に入れ、38℃、湿度80%で45分間のホイロをとり、その後200℃で30分焼成した。
〈食パンの配合〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
マーガリン又はショートニング 5質量部
水 25質量部
【0132】
上記食パンについて下記の評価を行った。
[生地への分散性]
パン作製時にマーガリン又はショートニングを生地に添加したときのマーガリン又はショートニングの塊がなくなる時間を目視により評価した。
評価基準
◎+:1分超~1分30秒以内で分散した。
◎ :1分30秒超~2分以内で分散した。
○ :2分超~2分30秒以内で分散した。
△ :2分30秒超~3分以内で分散した。
× :3分超で分散した。
【0133】
[パンのボリューム]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存後に菜種置換法により、比容積を求め以下のように評価した。
【0134】
比容積(ml/g)= 食パンの体積(ml)/食パンの重量(g)
評価基準
◎:4.8以上
○:4.65以上4.8未満
△:4.5以上4.65未満
×:4.5未満
【0135】
[パンのソフトさ]
焼成した食パンを20℃で2日保存した後、パネル10名により食パンのソフトさを以下のように評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7~5名が良好であると評価した。
△:10名中4~3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0136】
[パンのフレーバーリリース]
焼成した食パンを20℃で2日保存した後、パネル10名により食パンのバターフレーバーリリースを以下の基準で評価し、その平均点により評価した。
評価基準
点数
4点:フレーバーリリースが非常に速く、風味を強く感じる。
3点:フレーバーリリースが速く、風味を強く感じる。
2点:フレーバーリリースがやや遅く、風味が若干薄れる。
1点:フレーバーリリースが遅く、風味が弱い。
平均点
◎:平均点が3.5以上
〇:平均点が3以上3.5未満
△:平均点が2以上3未満
×:平均点が2未満
【0137】
上記の評価結果を表9~表11に示す。また油脂組成物の組成等も併せてこれらの表に示した。
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
表9~表11より、ラウリン系油脂(A1)の添加量が30質量%未満である、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂(A)を使用し、かつ2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合を油脂全量に対して30~65質量%、SUS/SSUを0.1~1.5、C40~C48のトリグリセリドの割合を油脂全量に対して5.0~30質量%とした油脂組成物を用いた実施例1~24では、生地への分散性が良好でボリュームやソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の風味も良く、かつ液状油の染みだしや可塑性油脂の硬さ変化が少なく高温や経時に対する安定性に優れるものであった。
【0142】
一方、ラウリン系油脂(A1)の添加量が多いエステル交換油脂6~8を用いると、比較例1、7~10にも示されるように、上記のような結果は得られなかった。またトリグリセリド組成が上記の範囲外であると、比較例2~6、8、9にも示されるように、上記のような結果は得られなかった。
【0143】
(パウンドケーキの製造)
表6~表8に示す実施例25~43及び比較例11~19の油脂組成物より製造したマーガリン又はショートニングを用いてパウンドケーキを製造した。
・ミキシング
シュガーバッター法で行った。マーガリン又はショートニングと上白糖をすり合わせホイップし、比重を0.75とした。その後、全卵を徐々に加え合わせ、最後に薄力粉とベーキングパウダーを加え合わせ、最終比重を0.8~0.85とした。
・目付
パウンド型に350g目付けした。
・焼成
165℃で35分間焼成した。
〈パウンドケーキの配合〉
薄力粉 100質量部
上白糖 100質量部
マーガリン又はショートニング 100質量部
全卵 100質量部
ベーキングパウダー 2質量部
【0144】
上記ケーキについて下記の評価を行った。
[分散性]
上記シュガーバッター法においてマーガリン又はショートニングと上白糖をすり合わせる際にマーガリン又はショートニングの塊がなくなる時間を目視により評価した。
評価基準
◎+:15秒以内で分散した。
◎ :15秒超~25秒以内で分散した。
○ :25秒超~35秒以内で分散した。
△ :35秒超~45秒以内で分散した。
× :45秒超で分散した。
【0145】
[ケーキのソフトさ]
焼成したケーキを20℃で2日保存した後、パネル10名によりケーキのソフトさを以下の基準で評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7~5名が良好であると評価した。
△:10名中4~3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0146】
[ケーキの口溶け]
焼成したケーキを20℃で2日保存した後、パネル10名によりケーキの口溶けを以下の基準で評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7~5名が良好であると評価した。
△:10名中4~3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0147】
[ケーキのフレーバーリリース]
焼成したケーキを20℃で2日保存した後、パネル10名によりケーキのバターフレーバーリリースを以下の基準で評価し、その平均点により評価した。
評価基準
点数
4点:フレーバーリリースが非常に速く、風味を強く感じる。
3点:フレーバーリリースが速く、風味を強く感じる。
2点:フレーバーリリースがやや遅く、風味が若干薄れる。
1点:フレーバーリリースが遅く、風味が弱い。
平均点
◎:平均点が3.5以上
〇:平均点が3以上3.5未満
△:平均点が2以上3未満
×:平均点が2未満
【0148】
(クッキーの製造)
表6~表8に示す実施例25~43及び比較例11~19の油脂組成物より製造したマーガリン、ショートニングを用いてクッキーを製造した。
【0149】
ミキサーにマーガリン又はショートニング、粉糖、脱脂粉乳、食塩をビーターで十分にすり合わせた後、全卵を3回に分けてすり合わせ、薄力粉とコーンスターチ、ベーキングパウダーを混ぜ合わせ、クッキー生地を得た。クッキー生地を冷蔵庫に入れ、リタードをとった後、生地をもみまとめ、5mmに圧延し55×55mmの型で抜き、180℃のオーブンで11分焼成しクッキーを得た。
【0150】
クッキーをテンパリングしたチョコレートでコーティングした後、室温で1時間放置し、チョコレートを固化させ、チョコレートコーティングクッキーを得た。
〈クッキーの配合〉
薄力粉 100質量部
マーガリン又はショートニング 35質量部
粉糖 50質量部
脱脂粉乳 2質量部
食塩 1.5質量部
全卵 20質量部
ベーキングパウダー 1.5質量部
コーンスターチ 10質量部
【0151】
上記チョコレートコーティングクッキーについて下記の評価を行った。
[白色化テスト]
チョコレートコーティングクッキーを20℃の恒温槽で60日保存したときの表面の白色化(白い斑点の有無)の状態を以下のように評価した。
評価基準
◎:白い斑点は全くみられない。
〇:若干白い斑点がみられる。
△:部分的に白い斑点がみられる。
×:全体的に白い斑点が多い。
【0152】
上記の評価結果を表12~表14に示す。また油脂組成物の組成等も併せてこれらの表に示した。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
表12~表14より、ラウリン系油脂(A1)の添加量が30質量%未満である、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂(A)を使用し、かつ2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合を油脂全量に対して30~65質量%、SUS/SSUを0.1~1.5、C40~C48のトリグリセリドの割合を油脂全量に対して5.0~30質量%とした油脂組成物を用いた実施例1~24では、生地への分散性が良好でソフトな食感のある焼成品を得ることができ、焼成品の口溶けや風味も良く、かつ液状油の染みだしが少なく高温や経時に対する安定性に優れるものであった。
【0157】
一方、ラウリン系油脂(A1)の添加量が多いエステル交換油脂6~8を用いると、比較例11、16~19にも示されるように、上記のような結果は得られなかった。またトリグリセリド組成が上記の範囲外であると、比較例12~15、17、18にも示されるように、上記のような結果は得られなかった。