(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】老齢動物の食肉軟化剤及び老齢動物の食肉の軟化方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/70 20160101AFI20221122BHJP
【FI】
A23L13/70
(21)【出願番号】P 2017236823
(22)【出願日】2017-12-11
【審査請求日】2020-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://www.musashino.com/product/name/softaste/pdf/pdf_002.pdf 掲載日 2017年8月23日 公開者 株式会社武蔵野化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390022301
【氏名又は名称】株式会社武蔵野化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 麻美
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-060492(JP,A)
【文献】特開2007-312771(JP,A)
【文献】国際公開第2005/032279(WO,A1)
【文献】特開昭62-220139(JP,A)
【文献】国際公開第2003/032747(WO,A1)
【文献】実開平07-002287(JP,U)
【文献】特開平03-224464(JP,A)
【文献】特開2005-253312(JP,A)
【文献】特開2007-319166(JP,A)
【文献】特開2010-154799(JP,A)
【文献】特開平06-169729(JP,A)
【文献】特開平07-322855(JP,A)
【文献】ジャパンフードサイエンス, 2012, Vol.51, p.31-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤及び糖アルコールを、アルカリ剤100質量部に対し糖アルコールを90~200000質量部の割合で含む、
3カ月齢以上の鶏肉の食肉軟化剤。
【請求項2】
糖アルコールがソルビトールである、請求項1に記載の食肉軟化剤。
【請求項3】
アルカリ剤及び糖アルコールに
3カ月齢以上の鶏肉を接触させておく工程
を含む、
3カ月齢以上の鶏肉を軟化する方法であって、アルカリ剤100質量部に対する糖アルコールの配合割合が90~200000質量部である、方法。
【請求項4】
アルカリ剤及び糖アルコールに
3カ月齢以上の鶏肉を接触させておく工程が、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液で
該鶏肉を処理することにより行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
糖アルコールがソルビトールである、請求項3又は4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉軟化剤及び軟化方法、特に、ナトリウム塩、カリウム塩、クエン酸塩等のアルカリ剤を使用した食肉軟化剤及び軟化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロイラー肉の親鶏であるいわゆる種鶏、産卵用のニワトリの鶏肉であるいわゆる廃鶏等の老齢動物は、肉自体の旨味は強いものの、肉、皮共に非常に硬いという、食肉としての欠点を有する。特に、皮部分には、肉部分と異なり、硬い線維状のたんぱく質であるコラーゲンが多く存在するため、皮部分はゴムのようで全く噛み切ることができない。
【0003】
食品分野においては、食肉を軟化するためのパパイン、フィシン、プロメリン等の酵素剤を用いることが知られている。しかし、酵素剤を用いた場合、肉が十分に軟化した後も酵素反応が進んでしまうため、肉が過度に分解され、むしろ食肉の品質を損なってしまうこと、また適切な軟らかさで酵素反応を止めることが難しく、品質管理が困難であるという欠点がある。
【0004】
一方、食肉の軟化方法としてはアルカリ剤を用いる方法が知られており、かかる方法は、食肉の過度の分解は生じ難いという利点を有する。しかし、前述した老齢動物は、肉および皮の部分が非常に硬いため、従来のアルカリ剤型の食肉軟化剤では、軟化剤に由来する望まれない風味は抑えつつ、これを十分に軟化させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、老齢動物の硬い食肉を、従来のアルカリ剤型軟化剤よりも軟らかくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況の下、本発明者は、鋭意研究した結果、アルカリ剤及び糖アルコールを食肉軟化剤において、従来食肉軟化が知られていなかった糖アルコールの配合割合を一定以上とすることにより、老齢動物の食肉を、従来のアルカリ剤型軟化剤(例えば、アルカリ剤と糖アルコールとを質量比で約1:1含むアルカリ剤軟化剤)よりも軟らかくできることを見出した。本発明は、かかる新規の知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.アルカリ剤及び糖アルコールを、アルカリ剤100質量部に対し糖アルコールを90~200000質量部の割合で含む、老齢動物の食肉軟化剤。
【0009】
項2.糖アルコールがソルビトールである、項1に記載の食肉軟化剤。
【0010】
項3.アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておく工程
を含む、老齢動物の食肉を軟化する方法であって、アルカリ剤100質量部に対する糖アルコールの配合割合が90~200000質量部である、方法。
【0011】
項4.アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておく工程が、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液で老齢動物の食肉を処理することにより行われる、項3に記載の方法。
【0012】
項5.糖アルコールがソルビトールである、項3又は4に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軟化剤に由来する望まれない風味は抑えつつ、老齢動物の硬い食肉を、従来のアルカリ剤型軟化剤よりも軟らかくすることである。本発明が属する技術分野において、糖アルコールは、甘味付与以外の効果としては、保水効果等が知られているに過ぎず、食肉を軟らかくすることは全く知られていなかった。従って、糖アルコールを高い配合割合で用いることにより老齢動物を軟らかくできるという本願発明の効果は従来技術からは予想し得ないものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
食肉軟化剤
本発明は、アルカリ剤及び糖アルコールを、アルカリ剤100質量部に対し糖アルコールを90~200000質量部の割合で含む、老齢動物の食肉軟化剤を提供する。
【0015】
アルカリ剤としては、常温、常圧下で、純水(pH約7)が大気中の二酸化炭素と平衡状態に達した水(pH約5.6の弱酸性の水)100gに対し、アルカリ剤を5g溶解した場合(アルカリ剤が完全溶解しない場合、懸濁状態でもよい)のpHが6~14、好ましくはpHが7~14、より好ましくはpH8~13となるものが挙げられ、本発明の属する食肉加工の分野において用いられているものを広く使用することができる。本発明において、アルカリ剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マグネシウム等の金属と弱酸との塩等が挙げられる。アルカリ剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のナトリウム塩;炭酸カリウム、炭酸水素カリウムクエン酸三カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウム、コハク酸二カリウム、酒石酸カリウム、水酸化カリウム、ピロリン酸四カリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム等のカリウム塩等;炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等が挙げられ、カリウム塩、ナトリウム塩等が好ましい。より具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム等が好ましい。これらのアルカリ剤は一種単独で、又は2種以上を組みわせて用いることができる。アルカリ剤がナトリウム塩及び/又はカリウム塩を含む場合、その配合割合は特に限定されないが、アルカリ剤の100質量部中、ナトリウム塩及びカリウム塩の合計量が、例えば、50質量部以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、上記のように、アルカリ剤としては、これらのナトリウム、カリウム等のカチオンの炭酸水素塩、炭酸塩、クエン酸塩等が挙げられ、炭酸水素塩、炭酸塩が好ましい。アルカリ剤が炭酸水素塩及び/又は炭酸塩を含む場合、その配合割合は特に限定されないが、アルカリ剤の100質量部中、炭酸水素塩及び炭酸塩の合計量が、例えば、50質量部以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。これらのアルカリ剤は一種単独で、又は2種以上を組みわせて用いることができる。
【0016】
糖アルコールとしては、本発明の属する食肉加工の分野において用いられているものを広く使用することができるが、例えば、ソルビトール、マルチトール、トレハロース、及びエリスリトールが挙げられ、ソルビトール等が好ましい。これらの糖アルコールは一種単独で、又は2種以上を組みわせて用いることができる。
【0017】
本発明にかかる軟化剤は、アルカリ剤及び糖アルコールを、アルカリ剤100質量部に対し糖アルコールを90質量部以上の割合で含むことを特徴とし、100質量部以上が好ましく、130質量部以上がより好ましい。また、本発明にかかる軟化剤は、アルカリ剤及び糖アルコールを、アルカリ剤100質量部に対し糖アルコールを200000質量部以下の割合で含むことを特徴とし、5000質量部以下が好ましい。アルカリ剤と糖アルコールとの配合割合を上記範囲とすることにより、アルカリ剤及び糖アルコールに起因する収斂味等の望まれない風味を抑えつつ老齢動物の食肉を軟化することができるため好ましい。また、アルカリ剤と糖アルコールとの配合割合を上記範囲とすることは、加熱もしくは保存中の歩留まり低下の抑制;経時的な食感、食味の劣化抑制;冷蔵・冷凍もしくは室温保存と冷蔵・冷凍の繰り返しによる食感や食味の劣化抑制等の観点からも好ましい。
【0018】
本発明の食肉軟化剤の対象となる老齢動物としては、例えば、老齢の脊椎動物が挙げられ、より具体的には、恒温動物である脊椎動物(例えば、老齢鶏等の鳥類;老齢牛、老齢豚、老齢羊等の哺乳動物等)等が挙げられる。食肉部分としては、皮部分も皮以外の肉部分でも、これらを共に含む部分でもよい。例えば、老齢鶏の場合、スリージョイント、ムネ肉、手羽先、手羽元、もも肉等が挙げられる。本発明によれば、肉部分よりも硬い皮部分も大幅に軟化することができるため皮及び皮を含む部位に用いることが好ましい。また、老齢動物の食肉は、未処理の場合、ミンチした場合でも歯ごたえがでてしまうため、これを軟化することは有用である。従って、本発明の食肉軟化剤の処理に供される食肉としては、典型的には塊状にカットした肉等が挙げられるが、ミンチ肉(つくね等も含む)、結着肉等の畜肉加工品の製造においても使用することができる。前述のように、本発明は、皮部分を大幅に軟化しつつ、一方で酵素剤系軟化剤のように肉部分を過度に分解してしまうことがなく、適度に軟化させることができる。従って、本発明は、肉部分の軟化にも有用である。
【0019】
本発明において、老齢鶏としては、ブロイラー鶏の一般的な飼育期間(約1~2カ月)を超えた3カ月齢以上、5カ月齢以上のものが挙げられる。典型的な実施形態において、本発明の食肉軟化剤は、400日齢以上、例えば、廃鶏(採卵鶏)のように450日齢以上、種鶏のように750日齢以上、飼育した老齢鶏でも、硬い皮部分も含め軟化することができる。長期間飼育した鶏は旨味成分の含有量が多いため、好ましい。
【0020】
本発明において、老齢牛としては、乳用牛、小取り用めす牛、種牛等が挙げられる。例えば、老齢牛としては、29カ月齢以上、30カ月齢以上の牛等が挙げられ、乳用牛のように5~6年齢頃またはそれ以上 飼育したものも含まれる。
【0021】
本発明において、老齢豚としては、食肉用豚の一般的な飼育期間(約25週間)を超えた、30週齢以上、例えば、40週齢以上の豚等が挙げられる。
【0022】
本発明において、老齢羊としては、マトン(ホゲット含む)と呼ばれる13カ月齢以上、例えば、24カ月齢以上の羊等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の食肉軟化剤には、本発明の効果が得られる範囲で、アルカリ剤及び糖アルコール以外の成分を配合してもよい。かかる成分としては、アラニン、イソロイシン、アスパラギン酸ナトリウム等のアミノ酸;乳酸ナトリウム、乳酸カリウム等の有機酸塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩;アラビアガム、プルラン、カラギーナン等の多糖類;砂糖、黒糖、和三盆等の糖類;粉末油脂等の油脂類等が挙げられる。これらのその他成分は一種単独で、又は2種以上を組みわせて用いることができる。尚、本発明の食肉軟化剤は、クエン酸ナトリウムを含んでいてもよいが、クエン酸ナトリウムを配合しなくても老齢動物の食肉の軟化をすることができる。
【0024】
本発明の食肉軟化剤は、上記成分を含む粉末状製剤であっても、これを水に溶解した水溶液でもよい。また、上記成分を全て含む1つの製剤の形態でも、上記成分のうち少なくとも一部を含む製剤と、その他の部分を含む製剤との複数の製剤の組み合わせの形態であってもよい。本発明の食肉軟化剤に配合する固形成分中、アルカリ剤の配合割合は特に限定されないが、例えば、本発明の食肉軟化剤に配合する固形成分の合計量100質量部にアルカリ剤が0.1~60質量部、好ましくは1~55質量部含まれるよう配合することができる。本発明の食肉軟化剤に配合する固形成分中、糖アルコールの配合割合は特に限定されないが、例えば、本発明の食肉軟化剤に配合する固形成分の合計量100質量部に糖アルコールが0.1~99質量部、好ましくは1~99質量部含まれるよう配合することができる。本発明の軟化剤は、下記方法に用いることができる。
【0025】
食肉軟化方法
本発明は、アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておく工程
を含む、老齢動物の食肉を軟化する方法であって、アルカリ剤100質量部に対する糖アルコールの配合割合が90~200000質量部である、方法を提供する。
【0026】
本発明において、アルカリ剤及び糖アルコールの種類、アルカリ剤に対する糖アルコールの使用割合等は、本発明の食肉軟化剤の説明において前述した通りである。
【0027】
食肉に対するアルカリ剤の使用割合の下限は、上記範囲内であれば特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1以上の範囲で設定できる。食肉に対するアルカリ剤の使用割合の上限は、上記範囲内であれば特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、40質量部以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0028】
食肉に対する糖アルコールの使用割合の下限は、上記範囲内であれば特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、好ましくは0.45質量部以上、より好ましくは0.5以上の範囲で設定できる。食肉に対する糖アルコールの使用割合の上限は、上記範囲内であれば特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、200000質量部以下が好ましく、5000以下がより好ましい。
【0029】
また、食肉に対するアルカリ剤及び糖アルコールの合計使用割合は、アルカリ剤及び糖アルコールそれぞれの使用量が上記範囲内であれば特に限定されない食肉に対し、アルカリ剤及び糖アルコールを上記範囲内で配合することにより、アルカリ剤、糖アルコールに由来する望まれない風味を抑えつつ、老齢動物の硬い食肉を、従来のアルカリ剤型軟化剤よりも軟らかくすることができるため好ましい。
【0030】
本発明の方法においては、アルカリ剤及び糖アルコールと共に、アルカリ剤及び糖アルコール以外の成分を老齢動物の食肉に接触させてもよい。アルカリ剤及び糖アルコール以外の成分としては、本発明の食肉軟化剤の説明において前述したものを同様に使用することができる。尚、本発明の方法は、クエン酸ナトリウムを用いてもよいが、クエン酸ナトリウムを用いなくても老齢動物の食肉の軟化をすることができる。
【0031】
アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておく工程における温度は、食肉を当該温度環境下に保持することが適当である限り、特に限定されないが、例えば、-10~50℃、好ましくは-3~25℃、より好ましくは2~15℃の範囲で適宜設定できる。また、当該工程において、アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておく時間は特に限定されないが、例えば、15分~72時間、好ましくは3~24時間の範囲で適宜設定できる。
【0032】
本発明において、アルカリ剤及び糖アルコールに老齢動物の食肉を接触させておくとは、アルカリ剤及び糖アルコールで老齢動物の食肉を処理すると言い換えることができる。本発明において「処理」とは、浸漬、揉み込み(タンブリング)、混合、コーティング、インジェクション、練りこみ、ふりかけ、まぶしつけ等の操作をいう。本発明においては、これらの処理は、1種類のみ行っても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明においては、アルカリ剤及び糖アルコールは、これらを含む水溶液、ペースト、粉末等の状態で用いることができる。本発明においては、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液を用いる方法が好ましい。従って、本発明は、好ましい一実施形態において、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液で老齢動物の食肉を処理する工程を含む、老齢動物の食肉を軟化する方法であって、アルカリ剤100質量部に対する糖アルコールの配合割合が90~200000質量部である、方法を提供する。
【0034】
当該実施形態においては、老齢動物の食肉を処理する水溶液は、アルカリ剤及び糖アルコール、ならびに任意選択でその他成分を水に溶解して調製することができる。当該水溶液を調製するのに用いる水の使用割合は、特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、水を1質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上の範囲で設定できる。食肉に対する水の使用割合の上限は特に限定されないが、例えば、食肉100質量部に対し、水を200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下の範囲で設定できる。水の使用量を上記範囲とすることにより、水溶液中にアルカリ剤及び糖アルコールが一定濃度で含まれるため、水に溶解したアルカリ剤及び糖アルコールが食肉内に浸透して所望の軟化効果が得られるため好ましい。また、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液を用いる実施形態において、当該水溶液のpHは特に限定されないが、例えば、pH6~12が好ましく、pH7~10がより好ましい。当該水溶液は、アルカリ剤及び糖アルコール以外に、調味液を添加して使用することもできる。かかる調味液を含む水溶液の場合は、例えば、pH5~12としてもよい。
【0035】
本発明において、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液への老齢動物の食肉の浸漬を行う場合、当該浸漬は、例えば、適当な容器に、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液及び老齢動物の食肉を入れて放置することにより行うことができる。また、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液での老齢動物の食肉の処理は、例えば、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液及び老齢動物の食肉を機械に入れて、機械中でこれらを回すタンブリング;アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液及び老齢動物の食肉を袋に入れて揉みこむこと等によってもできる。これらの工程は、適宜組み合わせてもよい。
【0036】
尚、タンブリング(揉みこみ)を行う実施形態においては、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液を調製するのに用いる水の使用割合としては、食肉100質量部に対し、水1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。当該実施形態において、水の使用割合としては、食肉100質量部に対し、水70質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0037】
尚、インジェクションを行う実施形態においては、アルカリ剤及び糖アルコールを含む水溶液を調製するのに用いる水の使用割合としては、食肉100質量部に対し、水1質量部以上が好ましく、5以上がより好ましい。当該実施形態において、水の使用割合としては、食肉100質量部に対し、水50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。
【0038】
上記のように、本発明によれば、アルカリ剤及び糖アルコールを一定の割合で用いることにより、軟化剤に由来する望まれない風味は抑えつつ、老齢動物の硬い食肉を、従来のアルカリ剤型軟化剤よりも軟らかくすることができる。また、前述したように老齢動物の皮部分は、通常、全く噛み切ることができないほどに硬いが、本発明を用いることにより、皮部分も好適な程度まで軟らかくすることができる。ここで、本発明はアルカリ剤型軟化剤であり、タンパク質の分解が止まらず肉を過度に分解する酵素剤型の軟化剤と異なって、軟化が一定の程度まで進むとそれ以上はほとんど軟化されなくなる。従って、硬い肉部分と当該肉部分よりもさらに固い皮部分とを共に有する老齢動物の皮付き肉を本発明により軟化した場合、肉部分が過度に分解されることなく皮部分が十分に軟化されるため好ましい。
【0039】
アルカリ剤及び糖アルコールに接触させた後の老齢動物の食肉は、任意選択で、自体公知の方法により、その周囲に付着したアルカリ剤及び糖アルコールを含む粉末又は水溶液を除去してもよい。本発明の方法に供した老齢動物の食肉はその後、所望の調味料を添加し、調理することにより、老齢動物特有の濃厚な旨味を有し、かつ従来のアルカリ剤型軟化剤で処理したものよりも軟らかい肉料理が得られる。
【実施例】
【0040】
本実施例おいては、国産ムネ肉(皮付き肉)を使用した。具体的には、国産の廃鶏(約450日生育)又は親鳥(約750日生育)のムネ肉(皮付き肉)を用いた。また、表中、肉、水、アルカリ剤、及び糖アルコールの数値は、グラム(g)を意味する。
【0041】
比較例1~6
冷凍の廃鶏ムネ肉を解凍し、以下の表1に示す組成の水溶液に一晩浸漬した。浸漬後、溶液をきり、ホットプレートで焼成後、官能評価の供試サンプルとした。官能評価の供試サンプルをパネラー10名に提示し、評価を行った。評点は下記の7段階のうちいずれかを選び平均値を示した。
食感は、軟らかさ(肉)、軟らかさ(皮)、アルカリ味について評価を行った。
軟らかさの評価基準は、以下の通りとする:
7点:かなり軟らかい、6点:軟らかい、5点:少し軟らかい、4点:普通、3点:少しかたい、2点:かたい、1点:かなりかたい
尚、歯ごたえを感じないほど柔らかいものは食肉に適さないため、評価対象外とする。
アルカリ味がでるものに関しては、アルカリ特有の収れん味があるかどうかの評価を行った。
アルカリ味の評価基準は、
○:アルカリ味なし、×:アルカリ味あり
【0042】
【0043】
糖アルコールを用いない場合、いずれの供試サンプルも、皮の軟化効果が不充分であった。
【0044】
比較例7~14
表2に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
アルカリ剤を用いない場合、いずれの供試サンプルも、肉、皮ともに軟化効果が不充分であった。また、ソルビトールの添加量が10質量部以上の場合、強い甘味を感じた。
【0047】
比較例15、実施例1~6
表3に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0048】
【0049】
上記に示されるように、炭酸水素ナトリウムに対するソルビトールの質量比を1:1~50の範囲とすることにより収れん味を抑えつつ、廃鶏の肉及び皮を軟化することができた。炭酸水素ナトリウムに対するソルビトールの質量比を200000倍より大きくした場合でも軟化効果は上がらず、焦げやすい、極端に強い甘味を感じるなどの問題が発生した。
【0050】
比較例16~18、実施例7~12
表4に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。尚、炭酸水素Naの溶解度から水50gに4g以上の溶解することが困難であること、炭酸水素Naの配合割合が多いとアルカリ味が出ることから、炭酸水素Naの量を3.0gとした。
【0051】
【0052】
アルカリ剤に対し一定量以上の糖アルコールを配合することにより、肉も皮も非常に軟らかくすることができた。しかし、いずれの場合も、酵素剤で肉が過度に分解されたときのように食肉の品質が損なわれることはなかった。
【0053】
比較例19~21、実施例13~18
表5に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表5に示す。
【0054】
【0055】
アルカリ剤に対し一定量以上の糖アルコールを配合することにより、肉も皮も非常に軟らかくすることができた。しかし、いずれの場合も、酵素剤で肉が過度に分解されたときのように食肉の品質が損なわれることはなかった。
【0056】
実施例19~22
表6に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表6に示す。
【0057】
【0058】
上記に示すように、糖アルコールに、炭酸塩以外のアルカリ剤を組みわせた場合も、軟化効果が得られた。しかし、いずれの場合も、酵素剤で肉が過度に分解されたときのように食肉の品質が損なわれることはなかった。
【0059】
実施例23~26
表7に示す組成の水溶液を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表7に示す。
【0060】
【0061】
上記に示すように、アルカリ剤に、ソルビトール以外の糖アルコールを組みわせた場合も、軟化効果が得られた。ただし、ソルビトールを用いた場合が最も効果が高かった。尚、いずれの場合も、酵素剤で肉が過度に分解されたときのように食肉の品質が損なわれることはなかった。
【0062】
比較例22~24、実施例27~32
表8に示す組成の水溶液を用い、廃鶏に代えて種鶏ムネ肉を用いる以外、比較例1と同様にして、浸漬処理、調理及び評価を行った。結果を表8に示す。
【0063】
【0064】
上記に示すように、廃鶏よりも硬い種鶏に対しても、本発明の食肉軟化剤が有効であることが分かる。尚、いずれの場合も、酵素剤で肉が過度に分解されたときのように食肉の品質が損なわれることはなかった。