(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】室内環境調整システム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20221122BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20221122BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20221122BHJP
E06B 5/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G02B5/00 Z
G02B5/08 Z
E04B1/76 100C
E06B5/00 D
(21)【出願番号】P 2018034197
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大西 豊
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 充隆
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178739(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003970(WO,A1)
【文献】特開2016-071123(JP,A)
【文献】特開2016-069825(JP,A)
【文献】特開平07-229375(JP,A)
【文献】実開昭60-010007(JP,U)
【文献】特開2011-163065(JP,A)
【文献】中国実用新案第202810109(CN,U)
【文献】特開2013-007187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00- 5/136
E04B 1/62- 1/99
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に露出した躯体を併設する部屋の床を太陽光により加温する室内環境調整システムであって、
太陽光を通過させる
透過性面材からなる通過性部材と、
前記透過性面材のうち前記部屋側の面に貼られて太陽光を屈折させる採光フィルムからなる、入射した太陽光の出射角度を変化させる
ための採光部材とを備え、
前記通過性部材は、
前記躯体を介して部屋から離れた位置となる、躯体の外方端に設けられる手摺に設置されると共に、
前記採光部材は、
下向きで入射する太陽光がより緩やかに下向きに出射するように10°~20°屈折させて、前記部屋の床を太陽光
が照射するように前記通過性部材に配設される
ことを特徴とする室内環境調整システム。
【請求項2】
前記室内環境調整システムは、
更に、前記部屋の床に配設された太陽光の熱を蓄熱するための潜熱蓄熱材を含み、
前記採光部材は、
前記潜熱蓄熱材に対して、
太陽光が経時的に照射するように前記通過性部材に配設される
ことを特徴とする請求項1に記載の室内環境調整システム。
【請求項3】
外部に露出した躯体を併設する部屋の床を太陽光により加温する室内環境調整システムであって、
羽板を開閉自在に配置したルーバー部材
からなる通過性部材と、
前記羽板のうち前記部屋側の面に張られた太陽光を反射させるための反射部材
からなる採光部材とを備え、
前記通過性部材は、前記躯体を介して部屋から離れた位置となる、躯体の外方端に設けられる手摺に設置されると共に、
前記採光部材は、下向きで入射する太陽光がより緩やかに下向きに出射するように10°~20°屈折させて、前記部屋の床を太陽光が照射するように前記通過性部材に配設された室内環境調整システムを用いて、室内の環境を調整する方法であって、
前記反射部材により、部屋の床に到達しない入射角度で前記通過性部材に照射される太陽光の出射角度を変化させることにより、
前記部屋の床に到達する太陽光の照射量を増加させる
ことを特徴とする室内環境調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギーを有効活用して室内環境を調整するシステムに関し、詳細には、住宅等のベランダ、バルコニー、又はテラス(以下、「ベランダ等」ともいう。)に設置する手摺で太陽光を有効活用する室内環境調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光の有効活用が図られており、例えば、窓ガラスに採光フィルムを貼り、窓ガラスから入射する太陽光を採光フィルムで上向きに屈折させて天井に導くことにより、太陽光を室内の間接照明として利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、季節や地域に応じて角度の異なる太陽光を室内に取り込む手摺が提案されている(例えば、特許文献2)。具体的には、複数の水平材が所定間隔で上下に並べて設けられた手摺壁(第一手摺壁B)であって、上側の水平材の背面部の下端部と下側の水平材の背面部の上端部との間の高さ(H)と、水平材の正面部と背面部との間の厚さ(T)とが、冬至及び夏至の南中時における太陽角度を考慮して調整されたものである(
図7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-040021号公報
【文献】特開2008-150858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、発明者等は季節に応じて太陽光を床の加温に活用するためにベランダ等の手摺を介して室内に照射する発想にたどり着いた。ベランダ等の手摺は部屋の窓際から離れたところに設置されているため、冬季のような太陽光の角度が緩い時期であれば、手摺を介して太陽光の角度がさらに緩くなるように変化させることで、太陽光が部屋の奥側に導かれるはずだからである。
【0006】
上述した発明者等の発想に対し、特許文献1では、窓ガラスに入射する太陽光の角度を採光フィルムで緩くなるように(下向きになるように)屈折させて室内の床に導くことは開示されていない。通常、窓ガラスに対して太陽光は下向きに入射するため、採光フィルムで太陽光を下向きに屈折させる必要はないため、特許文献1に基づき、太陽光の角度を変更させて室内の床の加温に活用する発想にたどり着くのは容易ではない。
【0007】
特許文献2には、手摺に入射する太陽光の角度を水平材で緩くなるように反射させて室内の床に導くことは開示されていない。特許文献2では、下側の水平材の上面部の傾斜角が冬至の南中時の太陽光の入射角より小さいため、太陽光が上下の水平材同士の間を通過しているに過ぎない(段落「0023」参照)。したがって、特許文献2に基づき、太陽光の角度を変更させて室内の床の加温に活用する発想にたどり着くのは容易ではない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、季節に応じて太陽光の角度を手摺を介して変化させて室内に導くことで太陽光を床の加温に活用する室内環境調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明による室内環境調整システムは、部屋に併設され外部に露出した躯体の端に設けられる手摺に設置されて太陽光を通過させる通過性部材と、上記通過性部材に配設されて上記太陽光の進行方向を変化させる採光部材とを備え、上記採光部材は、上記部屋の床に対して上記太陽光を経時的に照射することを特徴とする。
【0010】
上記部屋の床には、上記太陽光の熱を蓄熱する潜熱蓄熱材が配設されることが望ましい。
【0011】
上記通過性部材が、上記太陽光を透過させる透過性面材であり、上記採光部材が、上記過性面材のうち上記部屋側の面に張られて上記太陽光を屈折させる採光フィルムであることが望ましい。
【0012】
上記通過性部材が、羽板を開閉自在に配置したルーバー部材であり、上記採光部材が、上記羽板のうち上記部屋側の面に張られて上記太陽光を反射させる反射部材であることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による室内環境調整システムによれば、季節に応じて太陽光の角度を手摺を介して変化させて室内に導くことで、太陽光を床の加温に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)本発明の一実施形態における室内環境調整システムを備えたベランダの外観図と、(b)ベランダを備えた部屋の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における通過性部材と採光部材の例を示す図である。
【
図3】本発明の他の実施形態における通過性部材と採光部材の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1を参照しつつ、本発明の一実施形態における室内環境調整システム(以下、「本室内環境調整システム」ともいう。)の構造及び使用方法について説明する。
なお、これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。
【0016】
図1に示すように、室内環境調整システムは、部屋Rに併設され外部に露出した躯体Cの端に設けられる手摺1に設置されて太陽光L1を通過させる通過性部材11と、通過性部材11に配設されて太陽光L1の進行方向を変化させる採光部材12とを備えている。採光部材12は、部屋Rの床2に対して太陽光L1を経時的に照射する。
このような構成により、採光部材12は、通過性部材11に配設されて太陽光L1の進行方向を変化させるため、部屋Rの床2に対して太陽光L1を経時的に照射するので、例えば、冬季のように角度の緩い太陽光L1を床の加温に活用することができる。
【0017】
「部屋R」は、例えば、集合住宅又は戸建住宅の居室や商業用施設のテナントが該当し、ベランダ等への出入口に窓ガラスWが設けられ、窓ガラスWを介して日中に太陽光が部屋Rに入る方向を向いている。「部屋Rに併設され外部に露出した躯体C」は、ベランダ等を意味する。「手摺1」は、通過性部材11を設置するためのフレーム製やコンクリート躯体製の外枠を少なくとも備えたものが該当する。「経時的」とは、常時ではないことを意味し、例えば、冬季などの特定の季節や夕方等の特定の時間が該当する。「通過性部材11」は手摺1の外側に位置し、「採光部材12」は手摺1の内側(部屋R側)に位置する。「太陽光の進行方向」とは、手摺1の外側から内側に向かう太陽光L1が通過性部材11を通過する前の角度αと、角度αに対して太陽光が通過性部材11を通過した後の角度βが該当する。角度αとは、太陽高度を意味し、冬至の南中時は[90°-計測地の緯度-23.4°]、夏至の南中時は[90°-計測地の緯度+23.4°(地軸度)]で算定でき、東京(緯度≒35度)の冬至の南中時は31.6°、夏至の南中時は78.4°となる。角度βは、冬至では角度αに対して10°~20°、好ましくは14°~16°緩くなる。10°より小さいと太陽光が部屋Rに届かず、20°より大きいと太陽光が部屋Rの床2を越えてしまうからである。
なお、部屋Rや躯体Cに関する寸法は本技術分野の技術常識の範囲でよく、例えば、部屋Rに対する躯体C(ベランダ等)の出幅寸法dは1000mm~3000mm、手摺1の高さ寸法hは1100mm以上でよい。
【0018】
部屋Rの床2には、太陽光L1の熱を蓄熱する潜熱蓄熱材が配設されている。潜熱蓄熱材(Phase Change Material:PCM)は、例えば、日中に床2に照射される太陽光の熱が25°より高いの場合、25°より高い熱を25°の熱に変えて貯蔵し、貯蔵した25°の熱を夜間に放出する機能を有するものである。潜熱蓄熱材は、面状で、床下に設置されるものである。
このような構成により、採光部材6により取り込んだ太陽光の熱が日中に蓄熱され、夜間に放熱されるようにできるので、冬季でも昼夜問わず所望の室温に維持することができることから、電力使用量の軽減等の省エネ効果も期待できる。
なお、潜熱蓄熱材で蓄熱した熱は、温水床暖パネルの温度維持に活用されてもよい。
【0019】
ここで、本室内環境調整システムの使用方法の一例を説明する。
なお、太陽高度(角度α)は31.6°(冬至の南中時)、ベランダ等の出幅寸法dは2000mm、手摺1の高さ寸法hは1100mmとする。
【0020】
本室内環境調整システムは、太陽高度が低く、暖房器具により室温がコントロールされる季節に最も効果を発揮する。日中、太陽光L2は、ベランダ等の屋根(部屋Rの上層階のベランダ等)と手摺1との間を通って部屋Rの床2に照射する。一方、太陽光L1は、手摺1の通過性部材11に入射すると、採光部材12で進行方向が15°緩くなるように変更されて出射する。このため、太陽光L1は、太陽光L2よりも奥まで部屋Rの床2を照射する。このとき、部屋Rの床2に対する太陽光L2の照射量は、最大で太陽光L1の照射量の約50%分に相当する。太陽光L1及びL2の熱は、潜熱蓄熱材に蓄えられ、夜間等の室温低下時に放熱される。
このような使用方法によれば、従来から部屋Rの床2に照射していた太陽光L2に従来はベランダ等に照射していた太陽光L1が加わるため、太陽光による部屋Rの床2からの暖房効果の向上が期待できると共に、潜熱蓄熱材にて室温を所望の状態にコントロールすることができる。
【0021】
次に、
図2及び
図3を参照しつつ、本発明の一実施形態における別の室内環境調整システムについて説明する。
なお、
図1で示した部品または部位と同等又は関連するものは、参照を容易にする等のため、
図2及び
図3では
図1において一律100~200を加えた番号にしている。
【0022】
図2に示すように、通過性部材は、太陽光L100aを透過させる透過性面材111であり、採光部材12が、透過性面材111のうち部屋側の面に貼られて太陽光L100aを屈折させる採光フィルム112である。
このような構成により、手摺が面状に形成されるため、薄化を期待できる。透過性面材111がグラデーションカラーの場合、外側から美感の向上も期待できる。
【0023】
透過性面材111は、ガラス又は合成樹脂製の透明パネルが該当する。採光フィルム112は、透過性面材111の部屋側を向いている面に接着剤で貼られている。採光フィルム112は、合成樹脂製の単層又は複数層で形成されている。採光フィルム112は、透過性面材111を通過した太陽光L100aが入ってくる入射面(符番しない)と、進行方向が変化された太陽光L100bが出ていく出射面(符番しない)とを有する。採光フィルム112が単層の場合、太陽光L100aを屈折させて太陽光L100bにするように形成される。一方、採光フィルム112が複数層の場合、入射面及び出射面に直交するように各層が積層されて、太陽光L100aを所定の層に衝突させて屈折させることで太陽光L100bにするように形成される。
なお、透過性面材111及び採光フィルム112に関する原料、原料の比率、厚み寸法、及び製造方法は、本技術分野の技術常識の範囲でよく、限定されない。
【0024】
図3に示すように、通過性部材が、羽板211aを開閉自在に配置したルーバー部材211であり、採光部材が、羽板211aのうち部屋側の面に貼られて太陽光L200aを反射させる反射部材212であってもよい。
このような構成により、手摺がルーバー状に形成されるため、風通しの向上及び季節に応じた遮光性の向上が期待できると共に、面状より高い強度設計が期待できる。
【0025】
ルーバー部材211は、手摺201に設置されている。ルーバー部材211には、縦方向に羽板211aが複数個設けられている。羽板211aは、外側に倒れるように回動すると開放され、その逆に回動すると閉鎖される。羽板211aの各々は、金属製又は合成樹脂製の細長い板状で形成されており、閉鎖時に部屋側を向いている面に接着剤で貼られた反射部材212を有する。反射部材212は、合成樹脂製の単層又は複数層で形成されている。反射部材212は、羽板211aの開放時に入ってきた太陽光L200aを反射させて太陽光L200bにするように形成される。
なお、反射部材212に関する原料、原料の比率、厚み寸法、及び製造方法は、本技術分野の技術常識の範囲でよく、限定されない。
【0026】
本発明は、以上に述べた実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成又は実施形態を取ることができる。
【符号の説明】
【0027】
1、201 手摺
11 通過性部材(111 透過性面材、211 ルーバー部材、211a 羽板)
12 採光部材(112 採光フィルム、212 反射部材)
2 床
C コンクリート躯体(ベランダ等)
R 部屋
W 窓ガラス
L1、L2、L100a、L100b、L200a、L200b 太陽光