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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】レーダ装置および物標検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/60 20060101AFI20221122BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20221122BHJP
【FI】
G01S13/60 202
G01S13/931
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018111083
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019215178
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤津 聖也
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸也
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-341025(JP,A)
【文献】特開2018-063130(JP,A)
【文献】特開2018-059873(JP,A)
【文献】特開2013-178206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出部と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て部と
を備え、
前記割り当て部は、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるように構成され、
前記補正は、
前記瞬時データが有する速度の方向に対して直交する方向に、前記補正の対象となる速度ベクトルの先端を移動させて前記所定の方向に合わせるように構成された、
レーダ装置。
【請求項2】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出部と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て部と
を備え、
前記割り当て部は、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるように構成されるとともに、
前記瞬時データの相対速度の方向を、前記所定の方向とし、前記予測データの速度に対して前記補正を行うように構成された、
レーダ装置。
【請求項3】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出部と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て部と
を備え、
前記割り当て部は、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるように構成されるとともに、
前記瞬時データの相対速度の方向を、前記所定の方向とし、前記予測データの速度に対して前記補正を行うように構成され、
前記補正は、
前記瞬時データが有する速度の方向に対して直交する方向に、前記補正の対象となる速度ベクトルの先端を移動させて前記所定の方向に合わせるように構成された、
レーダ装置。
【請求項4】
前記割り当て部は、
前記物標の種類に応じて、少なくとも位置情報に対する割り当て可能範囲を設定し、 前記瞬時データの位置情報と、前記予測データの位置情報と、前記割り当て可能範囲と、に基づき、前記割り当て可能範囲内に前記瞬時データが存在するかを評価し、前記評価結果にも基づき、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるように構成された、
請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出工程と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て工程と
を含み、
前記割り当て工程では、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当て、
前記補正では、
前記瞬時データが有する速度の方向に対して直交する方向に、前記補正の対象となる速度ベクトルの先端を移動させて前記所定の方向に合わせる、
物標検出方法。
【請求項6】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出工程と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て工程と
を含み、
前記割り当て工程では、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるとともに、
前記瞬時データの相対速度の方向を、前記所定の方向とし、前記予測データの速度に対して前記補正を行う、
物標検出方法。
【請求項7】
物標に対して電波を送信し、前記物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する検出工程と、
前記瞬時データを前記物標の予測データに割り当てて前記物標の連続性をとる割り当て工程と
を含み、
前記割り当て工程では、
前記瞬時データの速度と、前記予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせた速度としてそれぞれ補正し、前記補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、前記瞬時データを前記予測データに割り当てるとともに、
前記瞬時データの相対速度の方向を、前記所定の方向とし、前記予測データの速度に対して前記補正を行い、
前記補正では、
前記瞬時データが有する速度の方向に対して直交する方向に、前記補正の対象となる速度ベクトルの先端を移動させて前記所定の方向に合わせる、
物標検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、レーダ装置および物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信波と送信波が反射された反射波とに基づいて瞬時データの相対速度を算出し、算出した瞬時データの相対速度に基づいて物標を検出するレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-14165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーダ装置では、同一の物標から得られた瞬時データであっても、反射点の位置が異なる場合には、瞬時データの相対速度が異なるため、同一の物標であっても、瞬時データの相対速度が予測される物標の相対速度から乖離するおそれがある。そのため、従来のレーダ装置は、瞬時データが予測される物標データに割り当てられず、物標に対する追従性が低下するおそれがある。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、物標に対する追従性を向上させるレーダ装置および物標検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係るレーダ装置は、検出部と、割り当て部とを備える。検出部は、物標に対して電波を送信し、物標において反射された電波を受信して瞬時データを検出する。割り当て部は、瞬時データを物標の予測データに割り当てて物標の連続性をとる。また、割り当て部は、瞬時データの速度と、予測データの速度とを、基準とする所定の方向に合わせたとしてそれぞれ補正し、補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、瞬時データを予測データに割り当てる。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、物標に対する追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。
図2図2は、実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、信号処理部の前段処理から生成部におけるピーク抽出処理までの処理説明図である。
図4A図4Aは、角度推定処理の処理説明図である。
図4B図4Bは、ペアリング処理の処理説明図(その1)である。
図4C図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その2)である。
図5A図5Aは、速度補正を説明する図である(その1)。
図5B図5Bは、速度補正を説明する図である(その2)。
図6図6は、図5Bに示す粒子群データの速度ベクトルについて所定の基底系でベクトル分解した図である。
図7図7は、基準方向を瞬時データの速度ベクトルの方向に一致させた場合の速度補正を説明する図である。
図8図8は、基準方向を粒子群データの速度ベクトルの方向に一致させた場合の速度補正を説明する図である。
図9図9は、物標データ生成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検出方法を説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下では、レーダ装置1がFM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式である場合を例に挙げて説明するが、レーダ装置1は、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式といった他の方式であってもよい。
【0010】
レーダ装置1は、例えば、自車両MCに搭載され、自車両MCの周囲に存在する物標(例えば、先行車や、自転車や、人、ガードレールなどの静止物等)を検出する。なお、レーダ装置1は、車載レーダ装置以外の各種用途(例えば、飛行機や船舶の監視等)に用いられてもよい。
【0011】
まず、図1を参照し、実施形態に係る物標検出方法の概要について説明する。図1は、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。図1では、自車両MCの周囲に存在する追尾対象の物標として、自車両MCに並走する他車両LCを一例として示す。
【0012】
レーダ装置1は、送信波と受信波とに基づき、物標において送信波が反射された反射点の位置や相対速度といった情報を持つ瞬時データを検出する(S10)。また、レーダ装置1は、過去の物標データから現測定時刻における物標の位置や速度を予測した予測データを生成する。図1では、予測データを「〇」で示し、予測データが他車両LCの右側面の前方付近に予測されたものとする。また、図1では、瞬時データを「△」で示し、他車両LCの右側面の中央付近に瞬時データが検出されたものとする。
【0013】
予測データは、所定の処理によって前回の周期(スキャン)で生成された物標データの移動先が予測された値である。予測データは、レーダ装置1に対する相対的な位置関係や、速度などを有する。相対的な位置関係は、レーダ装置1との距離と方位で表現されることもある。図1では、予測データの速度Vpの方向が、Vx軸に平行であるものとする。
【0014】
瞬時データも同様に、反射点とレーダ装置1に対する相対的な位置関係や、相対速度などを有する。相対的な位置関係は、レーダ装置1との距離と方位で表現されることもある。なお、瞬時データは、観測値と呼ばれることもある。図1では、瞬時データの方位を水平面内の角度θ1として表す。「θ1」は、自車両MCの進行方向に平行なVx軸と、瞬時データとレーダ装置1とを結ぶ線との間の角度である。また、瞬時データの相対速度Vr1の方向は、レーダ装置1への向きであり、瞬時データの相対速度Vr1の角度は、「θ1」である。
【0015】
レーダ装置1は、瞬時データの速度と、予測データの速度とを、基準とする所定の方向E(以下、「基準方向」と称する。)に合わせた速度としてそれぞれ補正する(S11)。レーダ装置1は、瞬時データが有する速度の方向に対して直交する方向に、補正の対象となる速度ベクトルの先端を移動させて基準方向Eに合わせる補正を行う。
【0016】
例えば、レーダ装置1は、瞬時データの相対速度Vr1の方向を基準方向Eとし、予測データの速度Vpに対して補正を行い、基準方向Eにおける補正後の予測データの速度Vp’を算出する。レーダ装置1は、予測データの速度Vp、および瞬時データの角度θ1を用いて、補正後の予測データの速度Vp’(|Vp’|=|Vp|cosθ1)を算出する。
【0017】
レーダ装置1は、補正を行ったそれぞれの速度の大きさに少なくとも基づいて、瞬時データを予測データに割り当てる(S12)。
【0018】
例えば、レーダ装置1は、補正後の予測データの速度Vp’の大きさと、瞬時データの相対速度Vr1の大きさとに基づいて、他車両LCに対応する瞬時データを予測データに割り当てる。
【0019】
レーダ装置1は、補正後の予測データの速度Vp’の大きさと、瞬時データの相対速度Vr1の大きさとの差が小さい瞬時データを予測データに割り当てる。なお、レーダ装置1は、速度の大きさの差の他に、瞬時データと予測データとの距離などに基づいて瞬時データを予測データに割り当てる。
【0020】
従来の物標検出方法では、予測データの速度Vpの相対速度Vr2の方向を、レーダ装置1への向きとし、予測データの相対速度Vr2(=Vpcosθ2)が算出されている。図1では、自車両MCの進行方向に平行なVx軸と、予測データとレーダ装置1とを結ぶ線との間の角度を「θ2」とする。そして、従来の物標検出方法では、予測データの相対速度Vr2の大きさと、瞬時データの相対速度Vr1の大きさとの差に基づいて瞬時データを予測データに割り当てている。
【0021】
そのため、他車両LCにおいて、予測データと瞬時データとの位置が離れている場合には、予測データの相対速度Vr2の大きさと瞬時データの相対速度Vr1の大きさとの差が大きくなる。例えば、反射波の反射地点が他車両LC内で変化した場合、いわゆる反射点移動が生じた場合には、予測データの相対速度Vr2の大きさと瞬時データの相対速度Vr1の大きさとの差が大きくなる。
【0022】
これにより、他車両LCの瞬時データである場合であっても、瞬時データが予測データに割り当てられないおそれがある。すなわち、従来の物標検出方法を用いたレーダ装置は、物標の連続性をとることができないおそれがある。
【0023】
これに対し、実施形態に係るレーダ装置1は、瞬時データの相対速度Vr1と、予測データの速度Vpとを、基準方向Eに合わせた速度として補正する。そして、レーダ装置1は、補正後の速度の大きさに少なくとも基づいて、瞬時データを予測データに割り当てる。
【0024】
そのため、レーダ装置1は、他車両LCの瞬時データと予測データとの速度の大きさの差が大きくなることを抑制し、他車両LCから検出された瞬時データを予測データに割り当てることができる。すなわち、レーダ装置1は、物標の連続性をとることができ、物標の追尾性を向上させることができる。
【0025】
次に、図2を参照して、実施形態に係るレーダ装置1の構成について詳細に説明する。図2は、実施形態に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。なお、図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素を中心に機能ブロックで表しており、一般的な構成要素については記載を省略しているものもある。
【0026】
換言すれば、図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0027】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。レーダ装置1は、自車両MC(図1参照)の挙動を制御する車両制御装置2に接続される。
【0028】
車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。
【0029】
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11は、後述する送受信制御部31の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器12は、信号生成部11によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成し、送信アンテナ13へ出力する。なお、図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
【0030】
送信アンテナ13は、発振器12からの送信信号を送信波へ変換し、送信波を自車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波は、三角波で周波数変調された連続波である。送信アンテナ13から自車両MCの外部、たとえば前方へ送信された送信波は、他車両LC等の物標で反射されて反射波となる。
【0031】
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
【0032】
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0033】
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
【0034】
ビート信号は、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、図示しない同期部によって受信アンテナ21同士でタイミングを合わせた上でA/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
【0035】
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、生成部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。
【0036】
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が実行する一連の信号処理における物標データの履歴や、瞬時データの履歴を含む情報である。
【0037】
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポートなどを含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0038】
マイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31および信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31および信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することもできる。
【0039】
送受信制御部31は、信号生成部11を含む送信部10、および、受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理を周期的に実行する。つづいて信号処理部32の各構成要素について説明する。
【0040】
生成部32aは、瞬時データを生成する。具体的には、生成部32aは、周波数解析処理と、ピーク抽出処理と、瞬時データ生成処理とを行うことで、瞬時データを生成する。
【0041】
周波数解析処理では、各A/D変換部23から入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理(以下、「FFT処理」と記載する)を行う。FFT処理の結果は、ビート信号の周波数スペクトルであり、ビート信号の周波数ごと(周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごと)のパワー値(信号レベル)である。
【0042】
ピーク抽出処理では、周波数解析処理によるFFT処理の結果においてピークとなるピーク周波数を抽出する。なお、ピーク抽出処理では、後述するビート信号の「UP区間」および「DN区間」のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
【0043】
瞬時データ生成処理では、ピーク抽出処理において抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とそのパワー値を算出する角度推定処理を実行する。なお、角度推定処理の実行時点で、到来角度は、物標が存在すると推定される角度である。以下では到来角度を単に「角度」と記載する場合がある。
【0044】
また、瞬時データ生成処理では、算出した角度とパワー値との算出結果に基づいて「UP区間」および「DN区間」それぞれのピーク周波数の正しい組み合わせを判定するペアリング処理を実行する。
【0045】
また、瞬時データ生成処理では、判定した組み合わせ結果から各物標のレーダ装置1に対する距離およびレーダ装置1への向きの相対速度を算出する。また、瞬時データ処理では、算出した各物標の角度、距離および相対速度を、最新周期(最新スキャン)分の瞬時データとしてフィルタ処理部32bへ出力するとともに、記憶部33の履歴データ33aとして記憶する。
【0046】
説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるここまでの処理の流れを図3図4Cに示す。図3は、信号処理部32の前段処理から生成部32aにおけるピーク抽出処理までの処理説明図である。
【0047】
また、図4Aは、角度推定処理の処理説明図である。また、図4Bおよび図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、図3は、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られている。以下では、各領域を順に、上段、中段、下段と記載する。
【0048】
図3の上段に示すように、送信信号fs(t)は、送信アンテナ13から送信波として送出された後、物標において反射されて反射波として到来し、受信アンテナ21において受信信号fr(t)として受信される。
【0049】
このとき、図3の上段に示すように、受信信号fr(t)は、自車両MCと物標との距離に応じて、送信信号fs(t)に対して時間差Tだけ遅延している。この時間差Tと、自車両MCおよび物標の相対速度に基づくドップラー効果とにより、ビート信号は、周波数が上昇する「UP区間」の周波数fupと、周波数が下降する「DN区間」の周波数fdnとが繰り返される信号として得られる(図3の中段参照)。
【0050】
図3の下段には、ビート信号を周波数解析処理においてFFT処理した結果を、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて模式的に示している。
【0051】
図3の下段に示すように、FFT処理後には、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれの周波数領域における波形が得られる。ピーク抽出処理では、波形においてピークとなるピーク周波数を抽出する。
【0052】
たとえば、図3の下段に示した例の場合、ピーク抽出閾値が用いられ、「UP区間」側においては、ピークPu1~Pu3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fu1~fu3がそれぞれ抽出される。
【0053】
また、「DN区間」側においては、同じくピーク抽出閾値により、ピークPd1~Pd3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fd1~fd3がそれぞれ抽出される。
【0054】
ここで、ピーク抽出処理により抽出した各ピーク周波数の周波数成分には、複数の物標からの反射波が混成している場合がある。そこで、瞬時データ生成処理では、各ピーク周波数のそれぞれについて方位演算する角度推定処理を行い、ピーク周波数ごとに対応する物標の存在を解析する。
【0055】
なお、瞬時データ生成処理における方位演算は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。
【0056】
図4Aは、瞬時データ生成処理の方位演算結果を模式的に示すものである。瞬時データ生成処理では、方位演算結果の各ピークPu1~Pu3から、これらピークPu1~Pu3にそれぞれ対応する各物標(各反射点)の角度を算出する。また、各ピークPu1~Pu3の大きさがパワー値となる。瞬時データ生成処理では、図4Bに示すように、角度推定処理を「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて行う。
【0057】
そして、瞬時データ生成処理では、方位演算結果において、角度およびパワー値の近い各ピークを組み合わせるペアリング処理を行う。また、その組み合わせ結果から、瞬時データ生成処理では、各ピークの組み合わせに対応する各物標(各反射点)の距離および自車両MCへの向きの相対速度を算出する。
【0058】
距離は、「距離∝(fup+fdn)」の関係に基づいて算出することができる。相対速度は、「速度∝(fup-fdn)」の関係に基づいて算出することができる。その結果、図4Cに示すように、自車両MCに対する、各反射点RPの角度、距離および相対速度の瞬時データを示すペアリング処理結果が得られる。
【0059】
図2に戻って、フィルタ処理部32bについて説明する。図2に示すように、フィルタ処理部32bは、予測部321bと、割り当て部322bと、重み付け部323bと、リサンプリング部324bと、物標データ生成部325bとを備える。
【0060】
フィルタ処理部32bは、所定数の粒子を所定の状態空間にプロットするとともに、状態空間における位置関係を解析するパーティクルフィルタを施すことによって、物標データを生成する。パーティクルフィルタでは、物標の真の状態に対して複数の仮説を立てて解析を行う。仮説とは例えば位置や速度などの物標の状態に対する1つの仮定値である。例えば位置空間では、仮説は所定の分布で散布され、移動していく1つの粒子のように見えるため、仮説は粒子とも呼ばれる。また、所定数の粒子をまとめて1つの仮説とした粒子群データを併せて用いる。例えば粒子群データは粒子の状態の平均値などであり、所定数の粒子の分布において最もあり得る1つの仮説ともいえる。
【0061】
予測部321bは、パーティクルフィルタにおけるサンプル点である粒子ならびに粒子群データの予測処理を行う。具体的には、予測部321bは、最新の周期を時刻tとし、時刻tにおける粒子ならびに粒子群データの状態を、前回の周期の時刻t-1の粒子ならびに粒子群データを基に予測する。例えば速度、位置といった粒子ならびに粒子群データの状態を基に、運動モデルと、測定周期ΔTによって予測する手法などがある。つまり、予測部321bは、予測処理において、過去の粒子ならびに粒子群データの状態から時刻tにおける粒子ならびに粒子群データの状態を予測する。
【0062】
割り当て部322bは、瞬時データを粒子群データに割り当てる割り当て処理を行う。割り当て部322bは、最新の周期における瞬時データを予測部321bの予測結果である粒子群データ(予測データ)へ割り当てる。
【0063】
具体的には、割り当て部322bは、粒子群データと瞬時データとの関係性に基づいて、瞬時データが粒子群データに割り当てられるか判断する。割り当て部322bは、割り当てには、関係性に基づいたコスト関数を基に評価値、すなわちコストを算出し、算出したコストに基づいて瞬時データを粒子群データに割り当てる。
【0064】
コストは、粒子群データの位置情報、速度情報、および瞬時データの位置情報、速度情報などに基づいて算出される。コスト関数は、例えば、上記それぞれの値の差を正規化し、二乗和をとったものなどを用いることができる。割り当て部322bは、コストが小さい瞬時データを粒子群データに割り当てる。ここでは、コストが小さいことは、瞬時データと粒子群データとの類似度が高いことを示す。すなわち、コストが小さいことは、瞬時データが粒子群データに対してペアとして割り当てられる可能性が高いことを示す。
【0065】
割り当て部322bは、コストが最小となる瞬時データを粒子群データに割り当てる。なお、割り当て部322bは、全ての粒子群データについて全体のコストが最小となるように瞬時データを粒子群データに割り当ててもよい。また、割り当て部322bは、複数の瞬時データを粒子群データに割り当ててもよい。
【0066】
また、ここでは、割り当て部322bが、ともにコストが小さいものを割り当てる一例を説明したが、これとは逆に、割り当て部322bは、コストが大きいものが割当たるようにコスト関数を基にコストを算出し、瞬時データを粒子群データに割り当ててもよい。
【0067】
割り当て部322bは、瞬時データや、粒子群データの速度を補正し、補正した速度を用いてコストを算出する。割り当て部322bは、瞬時データの速度と、粒子群データの速度とを基準方向Eに合わせた速度としてそれぞれ補正する。
【0068】
割り当て部322bは、まず、瞬時データの相対速度Vr1(以下、「速度ベクトルVr1」と称する場合がある。)の方向と、粒子群データの速度Vp(以下、「速度ベクトルVp」と称する場合がある。)の方向とを合わせるための基準方向Eを設定する。なお、基準方向Eは、例えば、レーダ装置1の表面に直交する方向である。なお、基準方向Eは、瞬時データの相対速度Vr1と直交しない方向である。
【0069】
割り当て部322bは、次に、図5Aに示すように、瞬時データの速度ベクトルVr1、および粒子群データの速度ベクトルVpを、基準方向E上の同一点を基点とするように移動させる。図5Aは、速度補正を説明する図である(その1)。図5Aでは、粒子群データを「○」で示し、瞬時データを「△」で示す。以下で用いる図においても同様である。また、図5Aでは、移動前の瞬時データの速度ベクトルVr1、および移動前の粒子群データの速度ベクトルVpを破線で示し、移動後の瞬時データの速度ベクトルVr1、および移動後の粒子群データの速度ベクトルVpを実線で示す。
【0070】
そして、割り当て部322bは、図5Bに示すように、瞬時データの速度ベクトルVr1の方向に直交する方向Epに沿って、瞬時データの速度ベクトルVr1の先端を動かし、基準方向Eに合わせて瞬時データの相対速度Vr1を補正し、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’を算出する。また、割り当て部322bは、同様に、粒子群データの速度ベクトルVpの先端を動かし、基準方向Eに合わせて粒子群データの速度Vpを補正し、補正後の粒子群データの速度Vp’を算出する。図5Bは、速度補正を説明する図である(その2)。図5Bでは、基準方向Eに合わせた補正後の瞬時データの速度ベクトルVr1’、および基準方向Eに合わせた補正後の粒子群データの速度ベクトルVp’を一点鎖線で示す。また、図5では、説明のため、補正後の瞬時データの速度ベクトルVr1’、および補正後の粒子群データの速度ベクトルVp’を基準方向Eからわずかにずらして記載している。
【0071】
上記した補正は、詳しく説明すると、補正対象の速度を、所定の基底系(E,Ep)でベクトル分解することを意味する。つまり、上記した補正は、例えば、図6に示すように、補正前の粒子群データの速度ベクトルVpに対し、Vp=αEv+βEpvとなるα、βを求める処理である。「Ev」は、基準方向Eにおける単位ベクトルである。「Epv」は、瞬時データの速度ベクトルVr1に直交する方向、すなわちEpにおける単位ベクトルである。図6は、図5Bに示す粒子群データの速度ベクトルVpについて所定の基底系でベクトル分解した図である。このようなベクトル分解によると、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさは、「α|Ev|」である。
【0072】
上記のように所定の基底系が正規基底系(|Ev|=|Epv|=1)である場合には、補正後、すなわち基準方向Eに合わせた粒子群データの速度Vp’の大きさは「α」となる。なお、「α」、および「β」は、連立方程式を解くなど、種々公知の手法を用いることで算出することができる。
【0073】
このように、割り当て部322bは、瞬時値データの相対速度Vr1、および粒子群データの速度Vpを基準方向Eに合わせて補正し、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’、および補正後の粒子群データの速度Vp’を算出する。
【0074】
ここで、割り当て部322bにおける速度の補正方法の変形例について説明する。割り当て部322bは、上記方法の他に以下の方法によって速度を補正してもよい。
【0075】
割り当て部322bは、図7に示すように、基準方向Eを瞬時データの速度ベクトルVr1の方向と平行、例えば、一致するように設定してもよい。図7は、基準方向Eを瞬時データの速度ベクトルVr1の方向に一致させた場合の速度補正を説明する図である。図7では、説明のため、瞬時データの速度ベクトルVr1を基準方向Eからわずかにずらして記載している。
【0076】
この場合、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさは、次の式で示すことができる。
【0077】
|Vp’|=Vr1・Vp/|Vr1|=|Vp|cosθ
【0078】
「・」は、ベクトルの内積を示す。「θ」は、瞬時データの速度ベクトルVr1と、補正前の粒子群データの速度ベクトルVpとの成す角である。図7では、補正前の瞬時データの速度ベクトルVpの角度を「θ1」とし、補正前の粒子群データの速度ベクトルVpの角度を「θ2」とする。なお、「θ1」、および「θ2」は、Vx軸に対する角度である。
【0079】
基準方向Eを瞬時データの相対速度Vr1の方向に合わせた場合には、補正前の瞬時データの相対速度Vr1と、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’とは等しく、補正の前後で瞬時データの相対速度Vr1は不変となる。そのため、割り当て部322bは、瞬時データの相対速度Vr1については、(1)補正後の瞬時データの相対速度Vr1’を算出しなくてもよく、(2)補正後の瞬時データの相対速度Vr1’を算出して補正前の瞬時データの相対速度Vr1を用いてもよく、(3)補正後の瞬時データの相対速度Vr1’を算出して補正後の瞬時データの相対速度Vr1’を用いてもよい。
【0080】
割り当て部322bでは、瞬時データの相対速度Vr1については、上記(1)~(3)の手法が適宜設定可能である。通常、上記(1)の手法が用いられることが多いが、多数のデータに対して処理をまとめて行う並列実行が行われる場合には、上記(1)よりも、上記(2)、または(3)を実行する方が有利であることもある。
【0081】
特に、パーティクルフィルタを用いた追尾処理は、並列実行に適した処理構造であるため、上記(2)、または(3)を実行することも有効である。
【0082】
また、割り当て部322bは、図8に示すように、基準方向Eを粒子群データの速度ベクトルVpの方向と平行、例えば、一致するように設定してもよい。図8は、基準方向Eを粒子群データの速度ベクトルVpの方向に一致させた場合の速度補正を説明する図である。図8では、説明のため、粒子群データの速度ベクトルVpを基準方向Eからわずかにずらして記載している。
【0083】
この場合、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさは、次の式で示すことができる。
【0084】
|Vr1’|=|Vr1|×|Vp|/(Vr1・Vp)=|Vr1|/cosθ
【0085】
なお、この場合、補正前の粒子群データの速度Vpと、補正後の粒子群データの速度Vp’とは等しく、補正の前後で粒子群データの速度Vpは不変となる。そのため、割り当て部322bは、補正の前後で瞬時データの相対速度Vr1が不変となる場合と同様に、補正前の粒子群データの速度Vpや、補正後の粒子群データの速度Vp’を用いることができる。
【0086】
また、割り当て部322bは、|E|、|Ep|を「1」とはしない非正規非直交基底系を用いてもよい。
【0087】
また、ここでは、平面における2次元を一例として説明したが、速度の補正は、3次元で行われてもよい。例えば、割り当て部322bは、3次元の基底系(E,Ep1,Ep2)に対するベクトル分解を行い、速度を補正してもよい。例えば、3次元における速度補正は、補正前の粒子群データの速度Vpに対し、Vp=αEv+βEp1v+γEp2vとなるα、β、γを求める処理である。この場合も、2次元と同様に、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさは、「α|Ev|」となる。なお、「Ep1」と、瞬時データの相対速度Vr1の方向は直交であり、「Ep2」と瞬時データの相対速度Vr1の方向は直交であり、かつ「Ep1」と「Ep2」とは平行ではない。
【0088】
補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさと、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさとは、検出時や、予測時など、内部・外部起因問わず誤差が無い理想的な場合には、単一の速度で移動する同一の物標であれば、たとえ反射点が異なる場合でも一致する。また、誤差がある場合であっても、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさと、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさとの差は、小さいため、割り当て部322bは、物標の連続性をとることができる。
【0089】
そのため、割り当て部322bは、例えば、反射点移動が生じた場合であっても、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさと、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさとの差を小さくすることができ、物標の連続性をとることができる。
【0090】
このように、割り当て部322bは、物標に対する追尾性能を向上させることができる。
【0091】
なお、割り当て部322bは、いずれの粒子群データにも割り当てられない瞬時データがあった場合には、かかる瞬時データを新規物標として扱う。新規物標は所定の処理を行った後、粒子群データが生成され、同時に粒子も付与される。所定の処理は、測定周期をまたぐことも可能であり、例えば、新規物標に対して、簡易的に数周期の間連続性を評価して、ノイズなどで単発的に発生したものでないと確認した後に、粒子群データを生成し、粒子を付与することもできる。
【0092】
図2に戻り、重み付け部323bは、今回の粒子それぞれに対して重み付けを行う。以降、粒子が属する粒子群データに割り当てられている瞬時データを対応瞬時データと呼ぶ。重み付け部323bは、今回の粒子のうち、対応瞬時データに類似する粒子の重みを大きくし、対応瞬時データとは類似しない粒子の重みを小さくする。なお、ここでいう「類似」度合は、粒子と対応瞬時データとの一つの関係性の指標であり、例えば位置差や速度差などを基に記述されるコスト関数の評価値などを指す。これは割り当て部322bで使用したコスト関数と概念的には同様のものであり、コスト関数の記述自体も共通のものであったり、異なるものであったりとすることもできる。重みにはコスト関数の評価値そのものを使用することもできれば、評価値を加工したものを使用することもできる。
【0093】
次に、リサンプリング部324bは、粒子それぞれの重みに基づいて粒子を再配置(リサンプリング)する。具体的には、リサンプリング部324bは、重みが小さい粒子を対応瞬時データの近くへ移動させる。
【0094】
物標データ生成部325bは、リサンプリング部324bによって再配置された今回の粒子に基づいて物標データを生成する。なお、物標データ生成部325bは、粒子の分布から確率密度関数を生成し、その重心に基づいて物標データを生成したり、シンプルに粒子の平均に基づいて物標データを生成したりしてもよい。
【0095】
また、物標データ生成部325bは、新規物標については、付与された粒子に基づいて物標データを生成する。
【0096】
次に、実施形態に係る物標データ生成処理について図9を参照し説明する。図9は、物標データ生成処理を示すフローチャートである。
【0097】
レーダ装置1は、周波数解析処理、ピーク抽出処理、および瞬時データ生成処理を行うことで、瞬時データを生成する(S100)。レーダ装置1は、予測処理を行い、粒子ならびに粒子群データの状態を予測する(S101)。
【0098】
レーダ装置1は、割り当て処理を行い、瞬時データを粒子群データに割り当てる(S102)。レーダ装置1は、瞬時データの相対速度Vr1の方向と、粒子群データの速度Vpの方向とを合わせて、例えば、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’と、補正後の粒子群データの速度Vp’とを算出する。そして、レーダ装置1は、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさと、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさとに基づいて瞬時データを粒子群データに割り当てる。
【0099】
レーダ装置1は、瞬時データが新規物標に対応するデータであるか否かを判定する(S103)。なお、レーダ装置1は、瞬時データ毎に判定を行い、以下の処理を行う。
【0100】
レーダ装置1は、瞬時データが新規物標に対応するデータである場合には(S103:Yes)、所定の処理を行った後に、新規物標に対応する粒子群データを生成する(S104)。
【0101】
レーダ装置1は、瞬時データが新規物標に対応するデータではない場合(S103:No)、今回の粒子に対する重み付けを行う(S105)。
【0102】
レーダ装置1は、重み付けに基づいて粒子のリサンプリングを行う(S106)。レーダ装置1は、リサンプリングされた今回の粒子に基づいて物標データを生成する(S107)。なお、レーダ装置1は、新規物標については、付与された粒子に基づいて物標データとして生成する。
【0103】
レーダ装置1は、瞬時データの相対速度Vr1と、粒子群データの速度Vpとを基準方向Eに合わせた速度としてそれぞれ補正する。具体的には、レーダ装置1は、瞬時データの相対速度Vr1の方向に対して直交する方向に瞬時データの速度ベクトルVr1と、粒子群データの速度ベクトルVpとの先端を移動させて、瞬時データの相対速度Vr1と、粒子群データの速度Vpとを基準方向Eに合わせて補正する。そして、レーダ装置1は、補正後の瞬時データの相対速度Vr1’の大きさと、補正後の粒子群データの速度Vp’の大きさとに少なくとも基づいて、瞬時データを粒子群データに割り当てる。
【0104】
これにより、レーダ装置1は、追尾対象である物標の瞬時データを、粒子群データに正確に割り当てることができ、物標の連続性をとることができ、追尾性能を向上させることができる。例えば、レーダ装置1は、物標内で反射点移動が生じた場合であっても、物標の連続性をとることができ、追尾性能を向上させることができる。
【0105】
変形例に係るレーダ装置1は、物標の種類に応じて割り当て可能範囲を設定してもよい。変形例に係るレーダ装置1は、例えば、ピーク周波数におけるパワー値や、物標の速度などに基づいて物標の種類を判定し、物標の種類に応じて割り当て可能範囲を設定する。具体的は、変形例に係るレーダ装置1は、物標が車両である場合には、物標が人である場合よりも割り当て可能範囲を広くする。ここで、割り当て可能範囲外では、コストにかかわらず割り当てが行われない。つまり、割り当て可能範囲とは、瞬時データが現れうる最大の状態の範囲ともいえる。
【0106】
変形例に係るレーダ装置1は、瞬時データと粒子群データとの縦位置差、および横位置差の上限を割り当て可能範囲に基づいて設定する。ここでは位置差について割り当て範囲を設定したが、その限りではない。速度差などほかの状態についても設定することができる。
【0107】
そして、変形例に係るレーダ装置1は、粒子群データと瞬時データに対してコストを評価する。次に、変形例に係るレーダ装置1は、瞬時データの位置情報と粒子群データの位置情報とに基づいて割り当て可能範囲内に瞬時データが存在するかを判定し、評価する。変形例に係るレーダ装置1は、割り当て可能範囲内に瞬時データが存在し、かつコスト評価結果から割り当てられる場合に、瞬時データを粒子群データに割り当てる。つまり、割り当て可能範囲は、コストと併せて瞬時データが粒子群データに割り当てられるかの評価指標の一つともいえる。上記の例ではコストを計算し、割り当て範囲を判断する流れとしたが、その順序は逆としてもいい。また別個の処理ではなく、割り当て範囲の判定をコストに織り込むことも可能である。例えば、割り当て範囲を外れる場合にコストにペナルティ値を加算して、割り当て範囲外ではコストが高くなり、割り当てが起こらないような処理としてもいい。
【0108】
これにより、変形例に係るレーダ装置1は、割り当て可能範囲外の瞬時データが粒子群データに割り当てられることを防止し、異なる物標の瞬時データが粒子群データに割り当てられることを抑制することができる。すなわち、変形例に係るレーダ装置1は、物標の追従性を向上させることができる。
【0109】
上記実施形態に係るレーダ装置1は、パーティクルフィルタを用いて物標データを生成し、物標の追尾を行ったが、これに限られることはない。変形例に係るレーダ装置1は、指数移動平均フィルタ、カルマンフィルタ、例えば、拡張カルマンフィルタや、無香カルマンフィルタを用いて物標データを生成し、物標の追尾を行ってもよい。
【0110】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 レーダ装置
30 処理部
32 信号処理部
32b フィルタ処理部
321b 予測部
322b 割り当て部
325b 物標データ生成部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9