(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B61L 3/08 20060101AFI20221122BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B61L3/08 A
B61L3/08 Z
B60L15/40 D
(21)【出願番号】P 2018148088
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】恩田 義行
(72)【発明者】
【氏名】幼方 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】今枝 篤志
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 貢
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-002416(JP,A)
【文献】特開2006-067262(JP,A)
【文献】特開2012-076661(JP,A)
【文献】特開2007-099040(JP,A)
【文献】特開2008-137485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 3/08
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道に沿って設置されたLCXケーブルと、
前記LCXケーブルに接続され、LCXケーブルを介して前記鉄道軌道の上を走行する車両側の装置との間でデータを送受信可能な無線通信手段を有する地上側装置と、
前記鉄道軌道の上を走行する車両に搭載され前記LCXケーブルを介して前記地上側装置との間でデータを送受信可能な無線通信手段を有する車上装置と、
鉄道軌道の沿線に設置された1又は2以上の環境監視装置と、
前記1又は2以上の環境監視装置からの情報に基づいて制限速度および速度規制範囲を複数設定可能な列車運行管理システムと、
を備えた列車制御システムであって、
前記車上装置は、自列車の位置を算出する演算手段を備え、前記無線通信手段により自己の車両位置を示す情報を前記地上側装置へ送信可能に構成され、
前記地上側装置は、
前記車上装置から送信された車両位置情報を受信し、車両の位置と前記列車運行管理システムからの情報とに応じて走行制御情報を生成し前記無線通信手段により前記LCXケーブルを介して送信可能であり、
前記環境監視装置からの情報に基づいて速度規制が必要となった場合に、前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲を示す情報に基づき、前記速度規制範囲をキロ程を単位として設定するとともに、
前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲が所定数以上ある場合には、所定数を超える範囲の列車から遠い側の制限速度および速度規制範囲を最も規制の強い情報に統合して送信するように構成されていることを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
前記車上装置は、
前記地上側装置から送信された制限速度および速度規制範囲を示す走行制御情報を受信し、受信した走行制御情報に応じてブレーキ制御装置への制御信号を生成する速度制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記速度制御手段は、複数の走行制御情報を受信した場合には前記複数の走行制御情報が示す制限速度のうち最も規制の強い速度となるように前記制御信号を生成することを特徴とする請求項2に記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記地上側装置は、前記走行制御情報を音声通話のデータと共に前記無線通信手段により前記LCXケーブルを介して送信可能に構成されていることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を用いた列車制御システムおよび車上装置に関し、特にLCX(Leaky Coaxial Cable;漏洩同軸ケーブル)を使用した列車無線を利用した列車制御システムおよび車上装置に適用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の列車制御システムには、軌道上を走行する列車の位置を軌道回路の信号を用いて地上側の設備で把握し、後続の列車が先行列車に接近した場合には、レールを通して停止位置情報を後続の列車へ送信して、車上側の装置では速度照査パターンと列車位置とから許容速度を算出し、列車速度と比較しながら最適なブレーキ力を算出してブレーキをかけるATC制御を行うものがある。かかるATC制御を行う列車制御システムに関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
また、特許文献2には、走行する列車への停止位置情報を、LCXケーブルを介して送信するようにした列車制御システムに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-351369号公報
【文献】特開平09-193805号公報
【文献】特開2004-359020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や2に記載されている列車制御システムにおけるATC制御は、列車の位置を軌道回路の信号を用いて地上側の設備で把握して行うようにしているため、列車の停止制御を軌道回路の単位でしか行えない、すなわち1つの軌道回路内には1つの列車しか在線させないという制御であるため、1つの軌道回路の長さが例えば1kmのように比較的長い区間では特に列車運転間隔が長くなるという課題がある。
また、特許文献1に記載されている列車制御システムのように、レールを伝送路として停止位置情報の伝送を行うデータ伝送方式の場合、降雨等の環境からの影響で伝送信号レベルが変動してしまい安定な通信が行えないという課題がある。
【0005】
一方、列車の位置を軌道回路の信号を用いて地上側の設備で把握し、レールを通して速度制限情報を列車へ送信する従来のレール伝送方式の列車制御システムには、線路周囲の風等の影響を考慮して臨時の速度制限情報を送信するようにしているものがある。なお、かかる臨時速度制御を行う列車制御装置は例えば特許文献3に記載されている。
しかしながら、従来の列車制御システムにおける速度規制は、軌道回路単位で速度規制範囲を決定せざるを得ないため、必要以上に長い区間を対象として速度規制を行なってしまい、無駄な列車遅延を招くという課題がある。
【0006】
具体的には、例えば1つの軌道回路の長さが1キロメートルあるような区間で、2つの軌道回路にまたがる500メートルの範囲に速度規制をかけたい場合、従来の方式では2キロメートルの区間が速度規制の対象となってしまっていた。
また、レール伝送方式の現行の列車制御では、送信する制御情報量の制約から、数段階の臨時速度を設定して地上側から全ての列車の車上装置へ一律に速度制限情報を送信して速度規制を行なっており、細やかな速度規制を実施することができないという課題があった。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、無線通信で列車位置情報および制御情報を送信することで、列車遅延を最小化した運転を行うことができるATC制御を行うことができる列車制御システムおよび車上装置を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、臨時に速度制限をしたいような場合に、必要以上に長い区間を対象として速度規制を行うことのない列車制御システムおよび車上装置を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、臨時に速度制限をする場合に、個々の列車毎に制御情報を送信して細やかな速度規制を実施することができる列車制御システムおよび車上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本出願に係る発明は、
鉄道軌道に沿って設置されたLCXケーブルと、
前記LCXケーブルに接続され、LCXケーブルを介して前記鉄道軌道の上を走行する車両側の装置との間でデータを送受信可能な無線通信手段を有する地上側装置と、
前記鉄道軌道の上を走行する車両に搭載され前記LCXケーブルを介して前記地上側装置との間でデータを送受信可能な無線通信手段を有する車上装置と、
鉄道軌道の沿線に設置された1又は2以上の環境監視装置と、
前記1又は2以上の環境監視装置からの情報に基づいて制限速度および速度規制範囲を複数設定可能な列車運行管理システムと、
を備えた列車制御システムにおいて、
前記車上装置は、自列車の位置を算出する演算手段を備え、前記無線通信手段により自己の車両位置を示す情報を前記地上側装置へ送信可能に構成され、
前記地上側装置は、
前記車上装置から送信された車両位置情報を受信し、車両の位置と前記列車運行管理システムからの情報とに応じて走行制御情報を生成し前記無線通信手段により前記LCXケーブルを介して送信可能であり、
前記環境監視装置からの情報に基づいて速度規制が必要となった場合に、前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲を示す情報に基づき、前記速度規制範囲をキロ程を単位として設定するとともに、
前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲が所定数以上ある場合には、所定数を超える範囲の列車から遠い側の制限速度および速度規制範囲を最も規制の強い情報に統合して送信するように構成したものである。
【0009】
上記のように構成された列車制御システムによれば、走行制御情報を、LCXケーブルを介した無線通信で送信可能であるため、レール伝送方式でデータを送信する場合に比べて、降雨等の環境条件の影響を受けにくく、確実に走行制御情報を車両側へ送信することができる。また、車上装置は車両位置を示す情報を地上側装置へ送信するため、地上側装置において列車位置を正確に把握して走行制御情報を生成することができ、安定した運転を行うことができる。さらに、臨時に速度制限をする場合に、個々の列車毎に制御情報を送信することで細やかな速度規制を実施することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、鉄道軌道の沿線に設置された1又は2以上の環境監視装置を備え、
前記地上側装置は、前記環境監視装置からの情報に基づいて速度規制が必要となった場合に、前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲を示す情報に基づき、前記速度規制範囲はキロ程を単位として設定するようにする。
かかる構成によれば、軌道回路単位ではなく例えば10mのような短い距離を単位として速度規制範囲を設定することができ、列車遅延を最小化した運転を行うことができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記列車運行管理システムは、複数の前記環境監視装置からの情報に基づいて複数の制限速度および速度規制範囲を設定し、
前記地上側装置は、前記列車運行管理システムにより設定された複数の制限速度および速度規制範囲に基づいて生成した前記走行制御情報を前記無線通信手段により送信するように構成する。
かかる構成によれば、複数の制限速度および速度規制範囲を含む走行制御情報を車両側へ送信し、車上装置にて重ね合わせて制御を行うことで、きめ細やかな速度規制を実施することができる。また、列車運行管理システムにより設定された複数の制限速度および速度規制範囲には、指令用端末から必要により手動で設定したものを含めても良い。
【0012】
さらに、望ましくは、前記地上側装置は、前記列車運行管理システムにより設定された制限速度および速度規制範囲が所定数以上ある場合には、所定数を超える範囲の列車から遠い側の制限速度および速度規制範囲を最も規制の強い情報に統合して前記無線通信手段により送信するように構成する。
かかる構成によれば、所定数を超える範囲の列車から遠い側の制限速度情報および速度規制範囲情報を最も規制の強い情報に統合して送信するため、所定数を超える制限速度及び速度規制範囲が設定されたとしても、より適切な速度制御を実施することができる。
【0013】
また、本出願に係る他の発明は、鉄道軌道又は道路の上を走行する車両に搭載され、鉄道軌道又は道路に沿って設置されたケーブル型アンテナを介して地上側装置との間でデータを送受信可能な無線通信手段を有する車上装置であって、
自己の車両位置を算出する演算手段を備え、前記無線通信手段により自己の車両位置を示す情報を前記地上側装置へ送信可能に構成され、
前記地上側装置から送信された制限速度および速度規制範囲を示す走行制御情報と音声通話情報と含むデータを受信し、受信したデータから前記走行制御情報を抽出して、当該走行制御情報に応じてブレーキ制御装置への制御信号を生成する速度制御手段を備え、
前記速度制御手段は、複数の走行制御情報を受信した場合には前記複数の走行制御情報が示す制限速度のうち最も規制の強い速度となるように前記制御信号を生成するように構成したものである。
【0014】
上記のように構成された車上装置によれば、複数の走行制御情報を受信した場合には複数の走行制御情報が示す制限速度のうち最も規制の強い速度となるように、ブレーキ制御装置に対する制御信号を生成するため、車両の走行の安全性を保障しつつ複数の走行制御情報に対応した細やかな速度規制を実施することができ、速度規制を行なった場合における車両の遅延を少なくすることができるとともに、車両側では先々の速度規制情報を前もって知ることができるため、車両毎の性能に応じたより適切な速度制御を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る列車制御システムによれば、無線通信で列車位置情報および制御情報を送信することで安定した運転を行うことができるATC制御を行うことができる。また、本発明によれば、臨時に速度制限をしたいような場合に、必要以上に長い区間を対象として速度規制を行うことなく列車遅延を最小化した運転を行うことが可能な列車制御システムおよび車上装置を実現することができる。さらに、臨時に速度制限をする場合に、個々の列車毎に制御情報を送信して細やかな速度規制を実施することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る列車制御システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
【
図2】実施形態の列車制御システムを構成する車上装置の具体例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態の列車制御システムにおいて、制御対象の列車の前方に複数の風速計や雨量計等が配置されている区間の例を示す模式図である。
【
図4】実施形態の列車制御システムの構成する車上装置において実行される列車位置送信処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態の列車制御システムの構成する車上装置において実行される列車速度制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る列車制御システムの一実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る列車制御システムをLCX方式の列車無線通信システムに適用した場合のシステム全体の構成例を示すシステム構成図である。
LCX方式の列車無線通信システムは、
図1に示すように、軌道10に沿って敷設された信号伝送路兼送受信アンテナとしてのLCXケーブル11A、11Bと、軌道10上を走行する列車12に搭載されている車上装置20と、所定駅の機器室などに設置されLCXケーブル11A、11Bを介して列車12の車上装置20との間でデータの送受信を行う地上側装置30とにより構成される。
【0018】
車上装置20は、上記LCXケーブル11A、11Bとの間で無線によるデータの送受信を行う無線通信部(移動局)21と、受信したデータを処理したり自列車の位置などの情報を送信するための処理および車上側システムの制御を行なったりするATC車上制御装置22と、ディスクブレーキなどを制御するブレーキ制御装置23等を備える。なお、図示しないが、ATC車上制御装置22は、速度照査パターンを記憶した記憶装置を備えており、停止位置情報(制御情報)を受信すると記憶装置から速度照査パターンを読み出し、速度照査パターンとそのときの列車の位置や走行速度に基づいて許容速度を算出し列車速度と比較しながら最適なブレーキ力を算出しブレーキ制御装置23へ制御信号を出力するように構成されている。
【0019】
地上側装置30は、上記LCXケーブル11A、11Bをアンテナとして無線によるデータの送受信を行う無線通信部(基地局)31と、列車停止位置の算出や車上からの列車位置情報等を管理するATC論理部32などから構成される。図示しないが、地上側装置30の無線通信部(基地局)31には、指令室の列車無線操作卓のマイクからの音声信号が供給され、列車との間の音声通話のためのデジタルデータ送受信が行えるように構成されている。
また、地上側装置30には中継装置33を介してLCXケーブル11A、11Bが接続されており、無線通信部(基地局)31は、LCXケーブル11A、11Bへ音声信号とともに列車制御情報を含む信号を送信し続ける。なお、地上側装置30の無線通信部(基地局)31は、無線通信のための変復調機能を有している。地上側装置30のATC論理部32は、CPU(中央演算処理装置)等の演算処理装置や、ROM(リードオンリメモリ)やRAM(ランダムアクセスメモリ)等のデータ記憶装置などから構成される。
【0020】
本実施形態においては、上記地上側装置30に、列車ダイヤなどの情報を記憶し走行中の全列車の位置を把握し列車の運行を管理するサーバや該サーバに接続された指令用端末などからなる列車運行管理システム40が伝送路もしくは通信網を介して接続されている。
また、列車運行管理システム40は、鉄道の沿線に設置されている風速計や雨量計などの環境監視装置50からの情報(接点情報)がCIC(集中監視装置)等を介して入力され、臨時速度規制のための情報を生成する機能を有している。具体的には、列車運行管理システム40のサーバは、環境監視装置50から強風の情報や大雨の情報を受けると、走行速度の規制のための規制速度及び規制区間を含む臨時速度制限情報を生成して指令用端末へ提案し、指令用端末から承認を受けると対応する地上側装置30のATC論理部32へ臨時速度制限情報を送信する。この承認は自動化してもよい。また、送信する臨時速度制限情報には、指令用端末から必要により手動で設定したものを含めても良い。
【0021】
なお、上記列車運行管理システム40としては、在来線や新幹線(登録商標)等で既に導入されているシステムを利用することができる。
また、列車運行管理システム40は、駅ごとに設置され駅ごとの情報を集積する駅装置と、各駅装置からの情報を集積する中央装置等で構成される。駅装置は軌道回路等から列車の在線情報を取得しており、中央装置は各駅装置からの情報を集積することで線区全体の在線状況を把握しているので、列車運行管理システム40はリアルタイム性のある列車位置情報を取得して指令用端末に表示することができる。
【0022】
図2には、車上装置20の詳細な構成が示されている。
図2に示すように、車上装置20は、送信データで送信波を変調したりアンテナATで受信した信号を復調したりする変復調部21Aおよび受信データの分離や送受信データの合成を行う分離・合成部21Bを備えた無線通信部(移動局)21と、ATC車上制御装置22と、ブレーキ制御装置23と、軌道上に設置されている地上子との間でデータの送受信を行う車上子24aを備えた送受信器(以下、車上子と略す)24と、車軸に設けられた速度発電機25を有する。無線通信部(移動局)21の分離・合成部21Bは、受信信号に含まれる通話音声データと制御データ(停止位置情報や臨時速度制限情報等)を分離したり、送信側の通話音声データと列車位置データなどのデータを合成したりする機能を備え、分離・合成部21Bで分離された通話音声データは、乗務員席に設けられている列車無線通話器26へ伝送される。
【0023】
ATC車上制御装置22は、速度発電機25からの信号に基づいて車軸回転数と車輪径との積から走行距離を算出して自列車の位置を演算するとともに、地上子を通過する際に車上子24aによって受信した情報に基づいて自列車の位置を修正する機能を備える。そして、自列車の位置情報は、無線通信部(移動局)21によって地上側装置(基地局)30へ送信される。車上子24aが地上子から受信する情報は、地上子自身の設置位置情報(キロ程)や指定区間の残距離でも良いし、地上子の識別コードでも良い。受信する情報が地上子の識別コードの場合には、地上子の識別コードと設置位置情報との対応表を車上の記憶装置に予め格納しておいて、この対応表を参照することで自列車の位置を修正することができる。
【0024】
また、ATC車上制御装置22は、CPU等の演算処理装置や、ROMやRAM等のデータ記憶装置などから構成されており、停止位置情報や臨時速度制限情報を受信すると記憶装置から速度照査パターンを読み出し、速度照査パターンと自列車の速度情報、自列車位置情報を比較しながらブレーキ制御信号を生成する。なお、図示しないが、ATC車上制御装置22には、運転席のブレーキノッチからの信号も入力され、ブレーキノッチ信号に応じたブレーキ力を算出しブレーキ制御装置23へ制御信号を出力する。
【0025】
次に、本実施形態の列車制御システムにおける臨時速度制御の特徴について説明する。
従来の列車制御システムにおける速度規制は、軌道回路の信号を用いて列車位置を把握して臨時速度制限情報を生成し送信するものであり、軌道回路単位(数百m~数キロm)で速度規制範囲を指定していた。また、数段階(5段階)の臨時速度を設定して、地上側から全ての列車の車上装置へ一律に速度制限情報を送信して速度規制を行なっていた。これに対し、本実施形態では、鉄道で使用されているキロ程と呼ばれる距離単位(例えば10m単位)で速度規制範囲を指定するとともに、例えば0~400km/hの範囲において、例えば5km/h、10km/h、15km/h……395km/h、400km/hのように、5km/hおきの制限速度を列車毎に決定して、速度制限情報を作成し送信するようにした。
【0026】
なお、上記速度制限情報(制御データ)は、既に設けられているデジタル列車無線システムにおいて、音声と別のチャンネルで送信することができる。
また、列車毎に速度制限情報を作成して送信する機能は、地上側装置30が、列車運行管理システム40が記憶している運行ダイヤ情報を取得して走行中の列車の編成情報(車種等)を認識し、自己の記憶装置に記憶されている列車の特徴(車体断面積等)や性能(ブレーキ特性等)を参照して決定することで実現できる。
【0027】
また、本実施形態においては、軌道に沿って設けられる複数の環境監視装置(風速計や雨量計等)からの情報に基づいて、地上側装置30のATC論理部32が生成する臨時速度制限情報や、指令用端末から指令員が入力する臨時速度制限情報として、
図3に示すように、#1,#2,#3,#4,#5……#11,#12……が設けられている場合、制御対象列車の進行方向の所定範囲(例えば26km先まで)にある所定数(例えば12個)の臨時速度制限情報を送信する。そして、車上装置20のATC車上制御装置22は、受信した臨時速度制限情報と自列車の位置、走行速度に基づいて許容運転速度を算出しブレーキ制御装置23を制御する。
【0028】
なお、複数の臨時速度制限情報の規制範囲が重なる場合には、それらの情報を解析して複数の速度規制のうち最も強い速度規制(最も低い制限速度)に従って許容運転速度を算出する。また、ATC論理部32は、送信する臨時速度制限情報が所定数(12個)を超える場合には、所定数目(12個目)よりも先にある臨時速度制限情報#12,#13……の情報を、最も強い速度規制(最も低い制限速度かつ広い制限区間)に統合する処理を行なって12番目の仮想臨時速度制限情報#12の情報として送信するように構成しても良い。
【0029】
次に、本実施形態の列車制御システムにおける臨時速度制御の具体的な手順について、
図4および
図5を用いて説明する。このうち
図4は車上装置20のATC車上制御装置22における自列車の位置を算出して地上側装置30へ送信する列車位置送信処理の手順を示すフローチャート、
図5はATC車上制御装置22における列車速度の制御手順を示すフローチャートである。
図4の列車位置送信処理は、例えばタイマ割込みで所定時間毎に実行するように構成することができる。
【0030】
図4の列車位置送信処理においては、先ず出発地点(駅)の位置(キロ程)は予め分かっているとして、速度発電機25からの速度信号を読み込む(ステップS1)。続いて、自列車の速度と時間とから移動距離を算出して、出発地点(駅)の位置(キロ程)を加算することで、現時点での列車位置を算出する(ステップS2)。
次に、ATC車上制御装置22は、走行中に地上子からのデータの受信(ステップS3)を行い、受信した地上子情報がある場合(ステップS4:Yes)にはその情報に基づいて、列車位置を修正する(ステップS5)。そして、ATC車上制御装置22は、所定時間ごとにステップS5で算出した列車位置情報を地上側装置30へ送信し(ステップS6)、上記ステップS1~S6を繰り返し実行する。
【0031】
一方、受信した地上子情報がない場合(ステップS4:No)には、ステップS5を飛ばしてステップS6へ移行して、ステップS2で算出した列車位置情報を地上側装置30へ送信する。
なお、ステップS3で受信した地上子データが位置情報でなく、識別コードのようなデータであった場合には、記憶装置に格納されている地上子の識別コードと位置情報との対応表を参照して列車位置を修正するように構成することができる。また、上記ステップS3~S5は、ステップS1の前に行うようにしても良い。
【0032】
図5の列車速度制御処理においては、ATC車上制御装置22は、先ず、無線通信部(移動局)21がLCXケーブルからのデータを受信したか否か判定する(ステップS11)。そして、LCXデータを受信した(Yes)と判定した場合は、ステップS12へ進んで、自己宛てのデータを取り込む。
次に、ATC車上制御装置22は、ステップS13へ進んで、受信データに含まれる停止位置情報に基づき記憶装置から対応する速度照査パターンを読み込むとともに、ステップS14にて臨時速度制限情報に基づき車内で演算した速度照査パターン2を作成し、ステップS15にて速度照査パターン1と2を重ねあわせ、ステップS15にて低位側の速度照査パターンを作成する。
【0033】
その後、ステップS16にて、
図4の列車位置送信処理で算出した列車位置情報と列車速度を読み込んで、パターンに沿ったブレーキ力を算出して制御信号を生成し制御信号をブレーキ制御装置23に出力し、ステップS11へ戻る。
上記のような手順に従った制御によれば、LCXケーブルからの列車無線データに含まれる制御情報に基づいた停止制御情報や臨時速度制限情報に従ったATC制御を実行することができる。また、複数の速度規制区間がある場合に、それぞれの区間に対応した臨時速度制限情報を送信するので、細やかな速度制御を実施することができるようになる。
【0034】
なお、上記実施例では、12個を超える臨時速度制限情報がある場合には、12個を超えた分の臨時速度制限情報を統合した情報として送信するようにしているが、統合する情報は12個を超えた分に限定されず、任意の数を超えた臨時速度制限情報を統合するようにしても良い。
図3の例の場合、臨時速度制限情報#1の規制範囲を列車が通過し終えると、12番目の臨時速度制限情報#12が単独の情報として送信され、臨時速度制限情報#13以降の制限情報は統合されて送信されることとなる。
また、制御情報を受信したATC車上制御装置22は、複数の走行制御情報を受信した場合には複数の走行制御情報が示す制限速度のうち最も規制の強い速度となるように、ブレーキ制御装置23への制御信号を生成するように構成しても良い。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上記実施形態では、環境監視装置50の例として風速計や雨量計を挙げて説明したが、環境監視装置50は風速計や雨量計に限定されず、例えば積雪量を検出する積雪深計等であっても良い。また、上記実施形態では、車上子24aを有する送受信器24が地上子からデータの受信を行う機能を有すると説明したが、地上子との間でデータを送受信する機能を有するものであっても良い。
【0036】
また、車上装置(移動局)は、列車の車軸に設けられている速度発電機からの信号に基づいて演算した走距離情報から自身の位置を算出しているが、列車に搭載したGPS(全地球測位システム)装置からの情報に基づいて自列車位置を把握しその位置情報を地上側装置へ送信するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、LCX方式の列車無線通信システムに適用した場合について説明したが、他の通信方式の列車無線通信システムに適用することも可能である。
さらに、本発明は列車無線通信システムに限定されず、専用路線を有するバスなどの移動体との間の通信を行う無線通信システムにも利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 軌道
11A、11B LCXケーブル
12 列車(車両)
20 車上装置
21 無線通信部(移動局)
22 ATC車上制御装置(位置算出演算手段、速度制御手段)
23 ブレーキ制御装置
24a 車上子
24 送受信器
25 速度発電機
30 地上側装置
31 無線通信部(基地局)
32 ATC論理部
40 列車運行管理システム
50 環境監視装置(風速計、雨量計など)