(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電気音響変換器用振動板
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
H04R7/02 A
(21)【出願番号】P 2018195578
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(74)【代理人】
【識別番号】100081259
【氏名又は名称】高山 道夫
(72)【発明者】
【氏名】梶原 久美
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008347(WO,A1)
【文献】特開平05-300586(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011903(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/068834(WO,A1)
【文献】特開2018-152740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/26
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを主とした繊維材料で構成された基材の表層に、当該繊維材料とマイカとセルロースナノファイバとが混在した混在層が形成され
、前記混在層の表面は前記セルロースナノファイバの一部で覆われており、前記表面を覆う前記セルロースナノファイバと前記繊維材料との水素結合により前記マイカが前記基材の表層に固着されていることを特徴とする電気音響変換器用振動板。
【請求項2】
前記マイカの粒度は10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気音響変換器用振動板。
【請求項3】
前記マイカは酸化チタンで被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気音響変換器用振動板。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバの繊維長は50μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気音響変換器用振動板。
【請求項5】
前記混在層は、前記基材の一方の面側から吸引脱水しながら、前記基材の他方の面に前記マイカと前記セルロースナノファイバとを含有した懸濁液を噴霧することで形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気音響変換器用振動板。
【請求項6】
車載用スピーカ用であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電気音響変換器用振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカやマイクロホン等に用いられる電気音響変換器用振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換器用振動板では、一般的に低密度、高ヤング率、適度な内部損失等を有することが求められ、スピーカやマイクロホンの用途に応じ最適な物性を有する材料が適宜選択される。振動板の材料としては種々のものが存在するが、性能面、コスト面などから現在でも天然繊維(セルロース)が多く用いられているが、所望の剛性が得られない場合がある。
【0003】
そこで、スピーカ用の振動板として、複数の繊維の抄紙体で構成された基材層と、複数のセルロースファイバを含んだ中間層と、複数の無機微粒子で構成された無機紛を含んだコーティング層との三層構造からなる振動板が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、天然繊維よりも密度の高いセルロースファイバを含む中間層を形成し、当該中間層の表面にコーティング層を形成することで、コーティング層の厚みの均一化を図っている。このように、コーティング層の厚みのばらつきを低減することで、振動板の剛性や音速の向上を図っている。また、コーティング層にマイカ等の無機微粒子を含むことで、さらなる剛性や音圧の向上、耐湿性や防湿性の向上も図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイカ等の無機微粒子は繊維との親和性が低いため、特許文献1の振動板のように、コーティング層において熱可塑性樹脂等のコーティング材を用いて無機微粒子を振動板から離れ落ちるのを抑制する場合があるが、樹脂や接着剤等のコーティング材を用いると、振動板の質量が増加して、音圧が低下するという問題がある。また、コーティング材の厚みを均一化するには特許文献1のように中間層を形成する等、工程を追加する必要が生じるため、製造工程が煩雑になるおそれがある。
【0007】
一方、コーティング材を用いずに無機微粒子を抄紙上に付加するには、繊維と無機粒子との結着力が小さいため、無機粒子が振動板から脱落するおそれがある。また、コーティング材を用いずに、基材に無機粒子を混ぜて抄紙(混抄)することも行われるが、このような場合、比較的高価な無機粒子の使用量が多くなり、コストが増加する。
【0008】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、コストの増加や製造工程の複雑化を抑制しつつ、振動板としての物性及び音響特性を向上させることができる電気音響変換器用振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係る電気音響変換器用振動板は、セルロースを主とした繊維材料で構成された基材の表層に、当該繊維材料とマイカとセルロースナノファイバとが混在した混在層が形成され、前記混在層の表面は前記セルロースナノファイバの一部で覆われており、前記表面を覆う前記セルロースナノファイバと前記繊維材料との水素結合により前記マイカが前記基材の表層に固着されていることを特徴とする。
【0010】
上記電気音響変換器用振動板において、前記マイカの粒度は10μm以上500μm以下であってもよい。
【0011】
また、上記電気音響変換器用振動板において、前記マイカは酸化チタンで被覆されていてもよい。
【0012】
また、上記電気音響変換器用振動板において、前記セルロースナノファイバの繊維長は50μm以下であってもよい。
【0013】
また、上記電気音響変換器用振動板において、前記混在層は、前記基材の一方の面側から吸引脱水しながら、前記基材の他方の面に前記マイカと前記セルロースナノファイバとを含有した懸濁液を噴霧することで形成されてもよい。
【0014】
また、上記電気音響変換器用振動板は、車載用スピーカ用であるとよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、コストの増加や製造工程の複雑化を抑制しつつ、振動板としての物性及び音響特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)本発明の実施形態に係る電気音響変換器用振動板の斜視図、及び(b)断面図である。
【
図3】振動板断面の200倍の光学顕微鏡写真である。
【
図4】(a)基材表面のパルプとマイカと極短繊維のセルロースナノファイバとが混在した混在層を有する振動板の100倍の走査型電子顕微鏡写真、(b)1000倍の走査型電子顕微鏡写真、(c)10000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】(a)基材表面のパルプとマイカと極長繊維のセルロースナノファイバとが混在した混在層を有する振動板の100倍の走査型電子顕微鏡写真、(b)1000倍の走査型電子顕微鏡写真、(c)5000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電気音響変換器用振動板について説明する。
【0018】
図1の(a)は本発明の実施形態に係る電気音響変換器用振動板の斜視図であり、(b)はその断面図であり、
図2は振動板断面の模式図であり、
図3は振動板断面の光学顕微鏡写真であり、
図4の(a)は基材表面のパルプとマイカと極短繊維のセルロースナノファイバとが混在した混在層を有する振動板の100倍の走査型電子顕微鏡写真、(b)は1000倍の走査型電子顕微鏡写真、(c)は10000倍の走査型電子顕微鏡写真であり、
図5の(a)は基材表面のパルプとマイカと極長繊維のセルロースナノファイバとが混在した混在層を有する振動板の100倍の走査型電子顕微鏡写真、(b)は1000倍の走査型電子顕微鏡写真、(c)は5000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
【0019】
図1(a)(b)に示す振動板1(電気音響変換器用振動板)は、スピーカ用の振動板でありコーン状(円錐台状)をなしている。当該振動板1は径の小さい開口側が図示しないボイスコイル等のスピーカの振動源に取り付けられる。この振動板1の円錐部分の内面が音の放射面(前面)となり、外部から視認可能な面となる。一方、振動板1の円錐部分の外面(背面)側には図示しないスピーカの各種装置が配置される。
【0020】
振動板1は、セルロースを主とした繊維材料で構成された基材10の前面側表層に、当該繊維材料とマイカとセルロースナノファイバ(CNF)とが混在した混在層11が形成されている。
【0021】
詳しくは、基材10は叩解度10°SR以上50°SR以下で叩解したパルプ20(繊維材料)を調液し、振動板形状に抄紙したものである。本実施形態のパルプ20は、針葉樹を原料としたパルプと、ケナフを原料としたパルプとを混合したものである。この他にも、パルプ20として、木材パルプ又は非木材パルプ等のパルプを用いることができ、その他の木材パルプと非木材パルプとの混合したもの、木材パルプ単体や非木材パルプ単体を用いてもよい。また、パルプ20の平均繊維径(最大幅)は5μm以上90μm以下が好ましい。なお、パルプ20の繊維長は特に限定されるものではなく、一般的な抄紙に用いられる繊維長のものを適宜選択できる。
【0022】
基材10の表層に形成された混在層11では、
図2に詳しく示すように、パルプ20とセルロースナノファイバ21とが互いにセルロースを有するため、セルロース同士の水素結合が生じて、基材10の表面(前面)をセルロースナノファイバ21が覆っている。なお、一部のセルロースナノファイバ21は、パルプ20間の隙間にも入り込んでおり、
図2の模式図に示す例では、基材10の最表面から深さ方向にパルプ20の1~3つ分まで至っている。
【0023】
マイカ22はセルロースナノファイバ21同士の水素結合によりセルロースナノファイバ21で覆われており、さらにこの表面を覆うセルロースナノファイバ21と基材10のパルプ20との水素結合により基材10の表層に固着されている。また、例えば、
図2に示すように一部のマイカ22はパルプ20同士の隙間にも入り込んだ上で、セルロースナノファイバ21に覆われている。なお、マイカ22を覆うセルロースナノファイバ21の厚みは十分に薄いので、外観からセルロールナノファイバ21を通してマイカ22を容易に識別することが可能である。
【0024】
なお、
図2は振動板1の表層のイメージ図であり、
図2ではパルプ20、セルロースナノファイバ21、及びマイカ22の関係をわかりやすくするために各要素を実際の寸法よりも誇張して示しているが、実際は
図3に示すように基材10の厚みが平均0.2mm以上0.3mm以下であるのに対し、混在層11の厚みは基材10の10%程度の平均0.02mm以上0.04mm以下である。なお、
図3では、基材10の混在層11を識別しやすくするため、基材10のパルプ20は染色せずに、セルロースナノファイバ21のみを黒色で染色している。
【0025】
また、
図4(a)~(c)、
図5(a)~(c)に示すように、基材10表面全域に亘ってセルロースナノファイバ21が堆積しており、その中にマイカ22が点在している。また、
図4(b)、(c)、
図5(b)、(c)に示すように、マイカ22の表面にはセルロースナノファイバ21が堆積し、マイカ22の表面はセルロールナノファイバ21で覆われている。さらに、基材10の表面のパルプ20同士の隙間は、マイカ22とセルロースナノファイバ21とにより覆われている。
【0026】
混在層11は、抄紙された基材10の背面(一方の面)側から吸引脱水しながら、基材10の表面(他方の面)に、例えばスプレー塗布法によってマイカ22とセルロースナノファイバ21とを含有した懸濁液を噴霧することで、基材10の表層にマイカ22とセルロースナノファイバ21とを浸透させて(入り込ませて)形成すればよく、その後、熱プレス等による成形・乾燥工程を経て、混在層11を有する振動板1が作製される。このように基材10の背面側から吸引脱水された状態で、基材10の前面にマイカ22とセルロースナノファイバ21との懸濁液が噴霧されて基材10に塗布されることで、基材10のパルプ20同士の配列を懸濁液の水分により乱すことなく、基材10の表層にマイカ22とセルロースナノファイバ21とを円滑に着地させ、パルプ20とマイカ22とセルロースナノファイバ21とが混在する混在層11を薄く均一に形成することができる。これにより、多量のマイカ22により層を形成することなく、振動板1におけるマイカ22の含有量を少なくすることができ、振動板1の質量の増加を抑制することができる。また、マイカ22とセルロースナノファイバ21の一部をパルプ20同士の隙間に入り込ませることができるので、基材10とマイカ22との密着性を高めてマイカ22を基材10に強固に固着できる。
【0027】
セルロースナノファイバ21は、繊維径がナノレベルの繊維であり、パルプ20よりも繊維径が小さい。セルロースナノファイバ21は例えば針葉樹由来であり、平均繊維長が50μm以下で、平均繊維径が10nm以上50nm以下のものを用いるのが好ましい。なお、セルロースナノファイバ21は針葉樹由来の繊維に限られず、その他のセルロースを含む繊維が用いられる。セルロースナノファイバ21は繊維長が短くなるほど、パルプ20からなる基材10の表層やマイカ22の表面にてセルロースナノファイバ21を高密度で薄く且つ均一に堆積させることができる。これにより基材10とマイカ22との密着性を高めマイカ22をより確実に基材10に固着することができる。また、セルロースナノファイバ21の繊維長が短いほど、基材10やマイカ22の表面を薄く覆うことができ、セルロースナノファイバ21の使用量を抑えてコストを削減できる。さらにセルロースナノファイバ21の繊維長が短いほど、平滑で均一、高密度の混在層11を形成できる。
【0028】
マイカ22は、小さすぎるとマイカ22を識別し難くなり、大きすぎると質感が粗くなり振動板1の意匠性を悪化させるおそれがあるため、粒度10μm以上500μm以下が好ましい。なお、マイカ22は天然マイカでも、合成マイカでもよい。さらにマイカ22は、酸化チタンや酸化鉄等で被覆され光沢を有するものが、振動板1の意匠性を向上させるのに好ましい。
【0029】
マイカ22とセルロースナノファイバ21との質量に基づく配合比(マイカ含有割合/セルロースナノファイバ含有割合)は2/98以上20/80以下が好ましく、5/95以上10/90以下がより好ましい。マイカ22とセルロースナノファイバ21との配合比を2/98以上20/80以下とすることで、セルロースナノファイバ21によりマイカ22の表面を均一に覆った状態で基材10の表層にマイカ22とセルロースナノファイバ21とを薄く堆積できる。したがって、マイカ22とセルロールナノファイバ21の使用量を少なくできる。そして、薄く形成された混在層11により、振動板1のヤング率を上昇させ、振動板1の音速を上昇できるとともに、振動板1全体の内部損失(tanδ)の低下を抑制できる。さらに好適には、マイカ22とセルロースナノファイバ21との配合比を5/95以上10/90以下とすることで、振動板1の物性及び音響性能を向上できるとともに、振動板1の前面にマイカ22を均一に点在させることができ、振動板1の外観意匠性を向上できる。
【0030】
また、基材10を構成するパルプ20と、マイカ22及びセルロースナノファイバ21との質量に基づく配合比(パルプ含有割合/マイカ及びセルロースナノファイバ含有割合)は1/99以上8/92以下が好ましく、さらに2/98以上5/95以下とすることがより好ましい。配合比を1/99以上8/92以下とすることで、振動板1のヤング率を向上させるとともに、内部損失の低下を抑制でき、物性及び音響性能に優れた振動板1を形成できる。さらに2/98以上5/95以下にすることで、ヤング率と内部損失とのバランスに優れた振動板1を形成できる。
【0031】
また、振動板1は、基材10の表層のパルプ20間の隙間がマイカ22及びセルロースナノファイバ21により埋められることで通気性を低減できるので、振動板1の音圧の向上、さらに耐水性の向上を図ることができる。また、この振動板1を用いたスピーカは、水分が振動板1を通じてスピーカ内部に浸入することを防止できる。したがって、振動板1は、車載用スピーカ用として好適に使用できる。なお、混在層11はパルプ20同士の隙間がマイカ22とセルロールナノファイバ21とにより埋められており、密度が高くなっているため、マイカ22とセルロースナノファイバ21との懸濁液中にエマルジョン系フッ素の撥水剤等の防水剤を混合した場合に、混在層11に防水剤が定着しやすい。このため、防水剤により振動板1の前面において水分を弾くことができ、高い防水効果が得られる。さらに、基材10の抄紙の際にパルプ20と防水剤とを混合し、基材10に防水処理を施すこともでき、この場合にはより高い防水効果が得られる。
【0032】
このように構成された振動板1は、樹脂や接着剤等のコーティング材を使用することなく、マイカ22の表面をセルロールナノファイバ21で覆い、セルロールナノファイバ21同士の水素結合と、基材10のパルプ20とセルロースナノファイバ21との水素結合とにより、マイカを基材10に固着している。セルロースナノファイバ21はコーティング材よりも比重が軽いため、コーティング材によりマイカ22を固着するよりも質量の増加を抑えることができ、繊維との親和性が低いマイカ22を確実に基材10に固着した振動板1を形成できる。また、特に中間層等を形成する必要なく、基材10にマイカ22とセルロースナノファイバ21との懸濁液を噴霧する容易な工程のみで製造することができる。そして、マイカ22が基材10の表面に固着されることで、振動板1の物性及び音響性能を向上させることができる。
【0033】
以上のことから、本実施形態に係る振動板1は、コストの増加や製造工程の複雑化を抑制しつつ、振動板としての製品品質及び音響特性を向上させることができる。
【0034】
(実施例)
以下、本発明に係る音響変換器用振動板の実施例と従来の振動板からなる比較例との物性比較結果及び通気性比較結果について表1、表2を参照しつつ説明する。
【0035】
比較例はパルプからなる基材のみの振動板試料を用い、実施例1~4は基材の表層に基材のパルプとマイカ(Mica)とセルロースナノファイバ(CNF)とが混在した混在層を形成した振動板試料を用いている。
【0036】
各振動板試料は寸法が長さ40mm、幅5mmで、試料全体質量(坪量)が一定(±2%以内)となるように作製した。具体的には、実施例1~4の振動板試料は、抄紙網で基材繊維を抄紙後、基材の背面側から吸引脱水しながら、基材の前面にマイカとセルロースナノファイバとの懸濁液を噴霧し、その後130℃に加熱した金型によりプレス圧力350kgfでプレスして乾燥成形し、平抄紙シートを作成し、試料サイズにカットしたものである。
【0037】
比較例及び実施例1~4の基材は、パルプとしてNUKP50%とケナフ50%を混合し、叩解度20°SRで叩解したものを用いた。
【0038】
実施例1、2のセルロースナノファイバは極短繊維セルロースナノファイバ(株式会社スギノマシン製のBiNFi‐s FMa10010)を使用し、実施例3、4のセルロースナノファイバは極長繊維セルロースナノファイバ(株式会社スギノマシン製のBiNFi‐s IMa10005)を使用した。なお、極短繊維セルロールナノファイバ及び極長繊維セルロースナノファイバは、いずれも平均繊維径が10nm~50nmである。また、これらのセルロールナノファイバについて光学顕微鏡で観察したところ、極短繊維セルロースナノファイバの平均繊維長が1μm以下であり、極長繊維セルロースナノファイバの平均繊維長が50μm以下であった。また、実施例1~4のマイカは、粒度が20μm~100μmのもので、天然マイカを基盤として酸化チタン、酸化鉄を被覆して光沢を付与したもの(日本光研工業株式会社製のMS‐100R)を使用した。実施例1~4において、マイカとセルロースナノファイバとの質量に基づく配合比はいずれもマイカ5:セルロースナノファイバ95である。
【0039】
基材(パルプ)とマイカ及びセルロースナノファイバとの質量に基づく配合比は、実施例1、3が98:2であり、実施例2、4が95:5である。
【0040】
これらの比較例及び実施例1~4の振動板試料を振動リード法により測定した物性(ヤング率、音速、比曲げ剛性、内部損失)を下記表1に示す。
【表1】
【0041】
表1から明らかなように、実施例1~4は、基材表面にマイカを固着することで、比較例と比べてヤング率が顕著に上昇している。一方で、内部損失(tanδ)の減少量は抑制されている。具体的には、比較例に対して、実施例1はヤング率が約10%上昇したのに対して内部損失の減少量は約3%に抑えられている。同じく、実施例2はヤング率が約18%上昇したのに対して内部損失は約4%減少し、実施例3はヤング率が約13%上昇したのに対して内部損失は約2%減少し、実施例4はヤング率が約22%上昇したのに対して内部損失は約4%減少している。
【0042】
音速に関しても、比較例に対して、実施例1は約3%、実施例2は約7%、実施例3は約6%、実施例4は約9%、それぞれ上昇している。比曲げ剛性に関しては、比較例に対して、実施例1は約0.5%、実施例2、3は約4%、実施例4は約6%、それぞれ上昇している。
【0043】
次に、比較例及び実施例1~4の振動板試料をガーレ式通気度試験機にて通気度を測定した結果を下記表2に示す。なお、通気度は100ccの空気が一定の圧力で試料を通過する通気時間である。
【表2】
【0044】
表2から明らかなように、実施例1~4は基材表面をマイカとセルロースナノファイバが覆い、マイカが固着されていることで、比較例と比べて通気度が上昇、即ち通気しにくくなっている。この効果は、極短繊維のセルロースナノファイバよりも極長繊維のセルロースナノファイバを用いた場合の方が顕著であり、且つ基材のパルプに対するマイカ及びセルロースナノファイバの配合比(質量比)が高いほど通気度は上昇する傾向にある。つまり、基材のパルプ間の隙間をマイカとセルロースナノファイバが埋めることで通気しにくくなり、振動板の耐水性を向上させることができる。
【0045】
以上で本発明の実施形態及び実施例の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0046】
上記実施形態及び実施例では、振動板1の形状をコーン状としていたが、振動板の形状はその他の形状のものであってもよい。また、基材の前面側だけでなく背面側に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 電気音響変換器用振動板
10 基材
11 混在層
20 パルプ(繊維材料)
21 セルロースナノファイバ
22 マイカ