(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】列車自動運転システム
(51)【国際特許分類】
B61L 27/40 20220101AFI20221122BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20221122BHJP
B61L 23/16 20060101ALI20221122BHJP
B61L 3/16 20060101ALI20221122BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B61L27/40
B60L15/40 D
B61L23/16 Z
B61L3/16 Z
B61L3/12 Z
B60L15/40 J
(21)【出願番号】P 2018196297
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健爾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 博亨
(72)【発明者】
【氏名】土原 茂之
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135018(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109830(WO,A1)
【文献】特開2011-031697(JP,A)
【文献】特開2014-069620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0051761(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/40
B60L 15/40
B61L 23/16
B61L 3/16
B61L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動装置およびブレーキ装置を制御することで走行パターンに従って列車を走行させる機能を有する車上装置と、前記車上装置が搭載されている列車の位置およびデータベースに格納されているダイヤ情報に基づいて前記車上装置へ走行制御のための情報を提供可能な運行管理装置と、軌道上を走行している列車の在線位置を検出するとともに、検出した列車の在線位置情報を前記運行管理装置へ提供可能な地上装置と、を備えた列車自動運転システムであって、
前記車上装置は、自列車の位置を把握する位置把握手段と、前記地上装置との間で情報を送受信可能な情報送受信手段と、前記運行管理装置と通信可能な無線通信手段と、所定の位置を停止点として設定し当該停止点を終点とする走行パターンを生成する走行パターン生成手段と、前記走行パターンに従って走行駆動装置およびブレーキ装置を制御して列車走行速度を制御する制御手段と、を備え、
前記地上装置は、走行中の列車の位置を検出可能な列車位置検出手段と、前記列車位置検出手段により検出した在線位置情報を前記運行管理装置へ送信可能な通信手段と、を備え、
前記運行管理装置は、
前記地上装置からの前記在線位置情報を受信可能な通信手段と、
前記車上装置へ走行制御のための情報を送信可能な無線通信手段と、
を備え、前記地上装置からの前記在線位置情報に基づいて前記車上装置を搭載した列車の進行方向前方に通常の条件にて走行パターンを生成できない特定区間もしくは特定箇所が存在すると判断した場合に、少なくとも前記特定区間もしくは特定箇所の位置を示す情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した情報を反映して走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御
し、
前記地上装置は、前記情報送受信手段により前記車上装置から列車番号の要求を受けると、前記通信手段により列車番号の要求を車両識別情報および位置情報と共に前記運行管理装置へ送信し、
前記運行管理装置は、前記地上装置からの前記列車番号の要求を受信すると、当該要求に付随している位置情報に基づいて前記データベースに格納されているダイヤ情報を参照して列車番号を読み出し、前記地上装置を介して対応する車上装置へ送信するように構成されていることを特徴とする列車自動運転システム。
【請求項2】
前記特定区間は、列車が走行する軌道沿線の環境の変化に起因して設定される臨時速度制限区間であり、
前記運行管理装置は、対象の列車の進行方向前方に臨時速度制限区間が設定されていると判断した場合に、前記臨時速度制限区間の開始位置および終了位置を示す情報および制限速度情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した位置情報および制限速度情報を反映した走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御することを特徴とする請求項1に記載の列車自動運転システム。
【請求項3】
前記特定箇所は、平面交差が発生する平面交差支障箇所であり、
前記運行管理装置は、対象の列車の進行方向前方に平面交差支障箇所があると判断した場合に、平面交差支障が解消する前であっても前記平面交差支障が解消する予測時刻を含む所定の情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した情報を反映して当該平面交差支障箇所の手前を停止点とする走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御することを特徴とする請求項1に記載の列車自動運転システム。
【請求項4】
前記車上装置は、走行パターンを生成した際に、当該走行パターンに従って走行した場合に停止点に到着すると予測される時刻情報を前記運行管理装置へ送信し、
前記運行管理装置は、管理下にある列車に搭載されている前記車上装置から受信した前記時刻情報を予測ダイヤに反映し、当該予測ダイヤの情報に基づいてそれぞれの列車に対する走行制御情報を生成して対応する車上装置へ送信可能に構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の列車自動運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車自動運転システムに関し、特にデジタル無線およびATC地上子からの情報を利用した自動運転制御に利用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の自動運転システムは、乗務員行路を記憶したICカードから運転速度条件を自動的に読み込んで、予め車上の記憶装置に保有している走行パターンの中から運転速度条件にあったものを選択し、選択した走行パターンに従って走行するものが一般的である(例えば特許文献1)。
また、ATC制御をモニタしながら自動運転を実行するようにした自動運転システムに関する発明がある(例えば特許文献2)。特許文献2には、臨時速度制限区間が生じた場合における自動運転制御についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-036505号公報
【文献】特開昭61-236310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現行の自動運転システムは、先行列車の位置や走行速度、遅延時間などの情報を後続の列車へ知らせることをしていないため、先行列車の位置等を考慮した運転制御が行えず、平面交差支障が発生したり先行列車への異常接近による機外停止(信号機の現示によらない停止)が発生したりするおそれがあるという課題がある。
また、特許文献1に記載されている自動運転システムは、強風等の理由で臨時速度制限区間が生じた場合に、区間の直前で急ブレーキがかかって乗り心地やエネルギ効率を低下させてしまうことがあるとともに、前後の区間で列車速度を上げることで駅間の所要走行時間の増加を極力抑えた運転制御のような柔軟な走行に対応できないという課題がある。さらに、従来の自動運転システムは、列車の走行中に何らかの原因で予定時刻からの遅れが発生すると、自動的に遅延回復を行うことができないという課題がある。
【0005】
また、従来の鉄道システムは、管轄区内を走行している列車の位置や駅発着時刻を管理する運行管理システムと、ダイヤ情報に基づいて各列車の進路を設定したり軌道回路の情報に基づいて走行している列車が先行列車に近づき過ぎないように地上側から制御するATC地上装置を含む保安システムとから構成されているが、運行管理システムは列車番号で各列車の位置把握と管理を行なっているのに対し、保安システムは車両ID(識別番号)で各列車の位置把握と制御を行なっている。一方、車上の制御システムは、電源立ち上げ時に運転台から列車番号を入力して設定し、走行中は列車番号で制御状態を把握、管理しており、列車無線による運行管理システムとの情報のやり取りも列車番号を介在して実施することで情報を共有しているものの、保安システムとの間の情報伝達には列車番号を使用していない。
上記のように、従来の鉄道システムは、運行管理システムと保安システムと車上制御システムとの間の連携が充分に取れていない(情報がリンクしていない)ため、上述したような柔軟な自動運転制御の実現が困難になっているという課題があることを見出した。
さらに、従来の運行管理システムは、各列車の位置をリアルタイムで把握することで計画ダイヤからの遅れ等を把握して実施ダイヤに反映する機能を有するものの、各列車の走行速度や予定走行パターンまでは把握していないため、他列車の位置を予測した運行管理を行うようなことはできなかった。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、走行条件を考慮した柔軟な自動運転制御を行うことができ、それによって臨時速度制限区間が生じたような場合にも、乗り心地やエネルギ効率の低下を防止するとともに駅間の所要走行時間の増加を極力抑えることができる列車自動運転システムを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、列車の走行速度や予定走行パターンを把握して予測ダイヤを作成し、他列車の位置を予測した運行管理を行うことができる列車自動運転システムを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、予定時刻からの遅れが発生した場合に、遅延回復運転を行うことができる列車自動運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本出願に係る発明は、
走行駆動装置およびブレーキ装置を制御することで走行パターンに従って列車を走行させる機能を有する車上装置と、前記車上装置が搭載されている列車の位置およびデータベースに格納されているダイヤ情報に基づいて前記車上装置へ走行制御のための情報を提供可能な運行管理装置と、軌道上を走行している列車の在線位置を検出するとともに、検出した列車の在線位置情報を前記運行管理装置へ提供可能な地上装置と、を備えた列車自動運転システムにおいて、
前記車上装置は、自列車の位置を把握する位置把握手段と、前記地上装置との間で情報を送受信可能な情報送受信手段と、前記運行管理装置と通信可能な無線通信手段と、所定の位置を停止点として設定し当該停止点を終点とする走行パターンを生成する走行パターン生成手段と、前記走行パターンに従って走行駆動装置およびブレーキ装置を制御して列車走行速度を制御する制御手段と、を備え、
前記地上装置は、走行中の列車の位置を検出可能な列車位置検出手段と、前記列車位置検出手段により検出した在線位置情報を前記運行管理装置へ送信可能な通信手段と、を備え、
前記運行管理装置は、
前記地上装置からの前記在線位置情報を受信可能な通信手段と、
前記車上装置へ走行制御のための情報を送信可能な無線通信手段と、
を備え、前記地上装置からの前記在線位置情報に基づいて前記車上装置を搭載した列車の進行方向前方に通常の条件にて走行パターンを生成できない特定区間もしくは特定箇所が存在すると判断した場合に、少なくとも前記特定区間もしくは特定箇所の位置を示す情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した情報を反映して走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御し、
前記地上装置は、前記情報送受信手段により前記車上装置から列車番号の要求を受けると、前記通信手段により列車番号の要求を車両識別情報および位置情報と共に前記運行管理装置へ送信し、
前記運行管理装置は、前記地上装置からの前記列車番号の要求を受信すると、当該要求に付随している位置情報に基づいて前記データベースに格納されているダイヤ情報を参照して列車番号を読み出し、前記地上装置を介して対応する車上装置へ送信するように構成したものである。
【0008】
上記のように構成された列車自動運転システムによれば、進行方向前方に通常の条件にて走行パターンを生成できない特定区間もしくは特定箇所が存在する場合に、その位置情報を反映して走行パターンを生成して走行するので、環境あるいは他の列車の位置や速度を考慮した柔軟な自動運転制御を行うことができ、それによって乗り心地やエネルギ効率の低下を防止するとともに駅間の所要走行時間の増加を極力抑えることができる。
また、運行管理装置と地上装置と車上装置とを有する列車自動運転システムにおいて、走行する各列車に実施ダイヤ情報に基づく列車番号を付与し、運行管理装置と地上装置と車上装置がそれぞれ各列車の列車番号を把握するので、各装置間で送信データを列車番号でリンクさせてデータを共有することができ、それによって車上装置から運行管理装置へ走行制御情報を直接要求することができるとともに、取得した走行制御情報に応じた自動運転制御を実施することができ、先行列車の位置や走行速度を考慮した柔軟な自動運転制御を行うことができる。
【0009】
ここで、望ましくは、前記特定区間は、列車が走行する軌道沿線の環境の変化に起因して設定される臨時速度制限区間であり、
前記運行管理装置は、対象の列車の進行方向前方に臨時速度制限区間が設定されていると判断した場合に、前記臨時速度制限区間の開始位置および終了位置を示す情報および制限速度情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した位置情報および制限速度情報を反映した走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御するように構成する。
かかる構成によれば、臨時速度制限区間が生じた場合に、車上装置は、受信した区間の位置情報および制限速度情報を反映した走行パターンを生成し、その走行パターンに従って走行制御するため、走行環境や条件に対応した安全な走行を実施することができることができる。
【0010】
さらに、望ましくは、前記特定箇所は、平面交差が発生する平面交差支障箇所であり、
前記運行管理装置は、対象の列車の進行方向前方に平面交差支障箇所があると判断した場合に、平面交差支障が解消する前であっても前記平面交差支障が解消する予測時刻を含む所定の情報を前記車上装置へ送信し、
前記車上装置は、受信した位置情報を反映して当該平面交差支障箇所の手前を停止点とする走行パターンを生成し、生成された走行パターンに従った走行速度となるように走行駆動装置およびブレーキ装置を制御するように構成する。
かかる構成によれば、列車の進行方向前方に平面交差支障箇所がある場合に、車上装置は、受信した予測時刻等の情報に基づいて支障箇所の位置の手前を停止点とする走行パターンを生成し、その走行パターンに従って走行制御するため、安全な走行を実施することができるとともに、ATC制御による急停止を回避して乗り心地やエネルギ効率の低下を防止する。
【0011】
また、望ましくは、前記車上装置は、走行パターンを生成した際に、当該走行パターンに従って走行した場合に停止点に到着すると予測される時刻情報を前記運行管理装置へ送信し、
前記運行管理装置は、管理下にある列車に搭載されている前記車上装置から受信した前記時刻情報を予測ダイヤに反映し、当該予測ダイヤの情報に基づいてそれぞれの列車に対する走行制御情報を生成して対応する車上装置へ送信可能に構成する。
上記のような構成によれば、車上装置が生成した走行パターンに基づく停止点(次駅を含む)への到着時刻等の時刻情報を運行管理装置へ送信して予測ダイヤに反映し、その予測ダイヤの情報に基づいて他の列車の制御情報を生成して送信可能であるため、他の列車の運行状態に応じて走行パターンを修正させることができ、先行列車の位置や走行速度を考慮した柔軟な自動運転制御や平面交差支障が解消したような場合に待機時間を短縮したり遅延回復運転を実行したりすることができる。
【0014】
さらに、前記車上装置は、前記地上装置から受信したATC情報に基づいて生成された速度照査パターンを生成し、当該速度照査パターンに従って走行速度を制御するATC制御手段を備え、前記走行パターン生成手段は、前記速度照査パターンを越えることがない走行パターンを生成し、列車走行速度が速度照査パターンに到着すると前記ATC制御手段がブレーキ装置を制御するように構成しても良い。
かかる構成によれば、既設のATC地上子からの情報に基づくATC制御による安全性を担保しつつ列車の自動運転制御を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る列車自動運転システムによれば、走行条件を考慮した柔軟な自動運転制御を行うことができ、それによって臨時速度制限区間が生じたような場合にも、乗り心地やエネルギ効率の低下を防止するとともに駅間の所要走行時間の増加を極力抑えることができる。また、列車の走行速度や予定走行パターンを把握して予測ダイヤを作成し、他列車の位置を予測した運行管理を行うことができる。さらに、予定時刻からの遅れが発生した場合に、遅延回復運転を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る列車自動運転システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
【
図2】実施形態の列車自動運転システムを構成する車上側の自動運転装置(車上システム)の具体例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態の列車自動運転システムにおけるATO車上装置(自動運転制御装置)への列車番号の設定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の列車自動運転システムの第1の特徴であるATO車上装置によるATO中央装置からの臨時速度制限情報の取得、反映手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】第1の特徴である臨時速度制限がある場合におけるATCパターンおよび走行パターン(ATOパターン)の例を示す速度パターン説明図である。
【
図6】本発明の第2の特徴である前方走行区間内に平面交差支障がある場合の路線の具体例を示す路線説明図である。
【
図7】第2の特徴である前方走行区間内に平面交差支障がある場合のATO車上装置によるATO中央装置からの運行管理情報の取得、反映手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第2の特徴である走行区間内に平面交差支障がある場合におけるATCパターンおよび走行パターンの例を示す速度パターン説明図である。
【
図9】第3の特徴である車上システムが算出した次駅到着予測時刻等を運行管理システムへ送信して予測ダイヤに反映し運行制御に利用する場合の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第3の特徴を説明するための速度パターン説明図であり、(A)は平面交差支障箇所に到着する前に折返し列車が平面交差支障箇所を通過した場合におけるATCパターンおよび走行パターンの例を示す速度パターン説明図、(B)はATO車上装置に回復運転指令が与えられた場合におけるATCパターンおよび走行パターンの例を示す速度パターン説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る列車自動運転システムの一実施形態について説明する。
図1は本発明に係る列車自動運転システム全体の一実施形態を示すシステム構成図、
図2は該システムを構成する鉄道車両(列車)に搭載される車上装置の構成例を示すブロック図、
図3は実施形態の列車自動運転システムにおける車上装置(車上システム)への列車番号の設定の仕方の一例を示すフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る列車自動運転システムは、走行している列車が先行列車に近づき過ぎないように地上側から制御するATC地上装置を含む駅保安システム10と、車両に搭載された自動運転制御機能を有する車上システム20と、列車の位置や進路を把握しダイヤに従って走行しているか監視して駅保安システム10へ進路情報を出力する運行管理システム30とによって構成されている。
このうち、車上システム20は、車両の運転台に設けられたスイッチ装置(運転台SW)21と、駅保安システム10のATC地上装置からの停止位置情報に基づいてブレーキ装置を制御するATC車上装置22と、ATC地上装置13からの次駅停車時刻等の情報に基づいて走行パターン(ATOパターン)を生成し駆動装置(モータ)およびブレーキ装置を制御して走行パターンに従って走行させるATO車上装置23と、ATO車上装置23と外部装置との間の信号のやり取りを行う車両インタフェース(車両I/F)24などを備える。図示しないが、ATC車上装置22には、車両IDを記憶した記憶装置が設けられている。
【0019】
駅保安システム10は、レール間に電流を流して所定区間毎に列車の在線を検出する軌道回路設備11と、軌道回路設備11からの在線情報に基づいて信号機の現示を制御したり信号機と転てつ機を関連づけて全体的な保安機能を実現して列車を安全に走行させるための連動設備12と、軌道回路設備11からの在線情報や連動設備12からの転てつ機状態情報に基づいて車上システム20へ列車の進路や停止ブロック(軌道回路単位の停止位置)等の情報を送信するATC地上装置13などを備える。
【0020】
ATC地上装置13は、軌道の所定位置に設けられた地上子を介して情報を送信する形態のものでも良いし、軌道回路の電流に乗せた信号で情報を送信する形態のものでも良い。また、進路情報や列車在線位置情報から演算した停止限界点を無線通信によって送信する形態のものであっても良い。
上記軌道回路設備11と連動設備12とATC地上装置13は、伝送線などで構成された通信ネットワーク14を介してデータ送受信可能に接続されている。また、軌道には所定間隔をおいて位置補正用のATCトランスポンダ地上子15が配設されている。
【0021】
運行管理システム30は、列車番号毎に「各駅出発時刻と次駅到着時刻、次駅到着時刻と予定時刻からの遅延時間に関する情報を含む実施ダイヤ情報」を格納したデータベースを備え、転てつ機状態や列車在線位置の情報に基づいてデータベース内の実施ダイヤ情報を参照して列車番号ごとに在線位置と時刻に応じた進路を設定し連動設備12へ出力するダイヤ管理装置31と、連動設備12からの転てつ機状態や列車在線位置の情報とダイヤ管理装置31内の実施ダイヤ情報に基づいて管轄内の全列車の位置を列車番号と紐づけて把握し表示装置へ表示させる機能を有する運行管理中央装置32を備える。計画ダイヤは予め計画された予定の時刻情報を記載したもの、実施ダイヤは制御当日に実際に実施している時刻情報を記載したものである。
【0022】
本実施形態の運行管理システム30は、さらに、デジタル無線を経由してATO車上装置23が把握している列車位置(キロ程)を軌道回路の在線位置に変換して当該在線位置情報を車両識別番号(車両ID)および列車番号と紐づけて把握するATO中央装置33を備える。デジタル無線には、漏洩同軸ケーブル方式(LCX方式)や空間波無線方式の無線など既存のデジタル列車無線を利用することができる。上記ダイヤ管理装置31と運行管理中央装置32とATO中央装置33は、伝送線などで構成された通信ネットワーク34を介してデータ送受信可能に接続されており、ATO中央装置33が把握した在線位置情報はダイヤ管理装置31および運行管理中央装置32へ伝送され、記憶される。
【0023】
さらに、本実施形態の列車自動運転システムにおいては、車両の発車前の電源投入時に、運行管理システム30の運行管理中央装置32から取得した列車番号を、駅保安システム10のATC地上装置13からATO車上装置23へ送信して設定させることで、従来は駅保安システム10と車上装置との間において車両IDで情報を共有していたものを、車両IDに列車番号を紐づけることで、駅保安システム10と車上システム20との間はもちろん車上システム20と運行管理システム30との間でも情報を共有できるように構成されている。これにより、従来はリンクしていなかった3つのシステムの情報が列車番号によってリンクされることとなる。
【0024】
次に、本実施形態における車上システム20のより具体的な構成例を説明する。
図2に示すように、車上システム20は、運転台スイッチ装置(運転台SW)21、ATC車上装置22、ATO車上装置としての自動運転制御装置23、車両I/F24の他、走行速度および走行距離を算出するために車輪の回転数を検出する速度発電機25、ブレーキディスクやブレーキパッドおよび駆動手段などを有するブレーキ装置26を備える。
ATC車上装置22は、デジタル無線やATCトランスポンダ地上子もしくは軌道回路を介して送信される情報(ATC情報)を受信するATC通信装置22Aと、受信したATC情報に基づいてATCパターンを生成しATCパターンに従ってブレーキ装置26を制御するATC制御装置22Bとによって構成されている。
【0025】
また、車上システム20は、ATC制御装置22B、軌道に沿って設けられているATCトランスポンダ地上子15からの情報(ATC電文)を受信するATCトランスポンダ車上子27Aを備え、ATC通信装置22AがATCトランスポンダ車上子27Aを介してATCトランスポンダ地上子15との間のデータの送受信を行う。また、ATC通信装置22Aにはアンテナ27Bが接続されており、ATO中央装置33(
図1)との間の無線通信が可能に構成されている。
さらに、車上システム20は、車輪を回転駆動するモータなどからなる走行駆動装置28を備えており、自動運転制御装置(ATO車上装置)23が、速度発電機25からの信号に基づいて算出した走行速度を参照しながら、走行パターン(ATOパターン)に従って走行駆動装置28およびブレーキ装置26を制御するノッチ指令を出力して自動運転を行う。
【0026】
自動運転制御装置(ATO車上装置)23は、マイクロプロセッサ(MPU)とMPUが実行するプログラムや速度照査パターンを記憶するROMのような不揮発性記憶装置と、RAMのような読み出し書き込み可能な記憶装置とから構成される。記憶装置には、走行区間の各駅間ごとに基準となる走行パターンが記憶されており、自動運転制御装置(ATO車上装置)23は、次駅到着予定時刻等に応じて記憶装置から基準となる駅間走行パターンを読み出し、当該走行パターンとそのときの列車の位置や走行速度に基づいて力行に必要なノッチ指令を走行駆動装置28へ出力したり最適なブレーキ力を算出してブレーキ装置26へノッチ指令を出力したりするとともに、先行列車の在線位置等に応じて走行パターンを切り替えることができるように構成されている。
【0027】
また、自動運転制御装置(ATO車上装置)23には、車両の運転台に設けられているマスタコントローラや自動運転用の出発許可スイッチなどを備えたスイッチ装置(運転台SW)21からの信号が入力され、スイッチ信号に応じて力行許可判定やATOパターンの生成などの内部処理を実行する。
ATC制御装置22BによるATC制御では、列車の車上装置20は、ATC通信装置22Aにより列車が停止すべき軌道回路の情報を受けるとATCパターンと呼ばれる速度照査パターンを生成して、自己の速度と該パターンとを比較しながらブレーキ装置26を作動させて車両速度を落とし列車を停止させる制御を実行する。
【0028】
本実施形態においては、ATC通信装置22Aにより受信した情報は、ATC制御装置22Bおよび自動運転制御装置(ATO車上装置)23へ供給され、自動運転制御に反映される。なお、各列車からATC地上装置13へ送信される位置情報は、例えば当該列車の車上装置(22,23)が速度発電機25等からの信号に基づいて把握している位置情報(キロ程)である。この位置情報は、ATCトランスポンダ車上子27Aにより受信した情報に含まれる位置補正情報により補正される。ATCトランスポンダ車上子27AからATCトランスポンダ地上子15へ送信されるデータには、当該列車の車両ID(識別コード)と車上装置(22,23)が把握している自列車の位置情報(キロ程)が含まれる。
【0029】
ここで、車上装置(車上システム)20への列車番号の具体的な設定方法の一例について、
図3を用いて説明する。
車両の運転台スイッチ装置にある電源スイッチが投入されると、ATO車上装置23が起動される(ステップS0)。すると、車両I/F24を介してATO車上装置23へ信号が送られて、列車番号要求もしくは列車番号変更要求のコマンド(以下、列車番号要求コマンド)がATC車上装置22へ送信される(ステップS1)。ATC車上装置22においては、送信データ(列車番号要求コマンド)に、車両IDとATC制御装置22Bが把握している列車位置情報(キロ程)と運行方向情報(上り/下り)が格納されたヘッダが付加され、ATC地上装置13へ送信される(ステップS2)。なお、ヘッダには、要求時刻を格納しても良い。また、ヘッダはATO車上装置23において付加しても良い。
【0030】
次に、ATC地上装置13においてヘッダが付加された列車番号要求コマンドが、通信ネットワーク14,34を介してATO中央装置33へ送信され(ステップS3)、ATO中央装置33において列車位置情報(キロ程)が軌道回路の在線情報に変換されて運行管理中央装置32へ転送される(ステップS4)。すると、運行管理中央装置32は、ダイヤ管理装置31のデータベース内の実施ダイヤを参照して、要求受信時刻と列車在線位置に応じた列車番号を検索して読み出し(ステップS5)、列車番号を指定した応答(レスポンス)をATO中央装置33へ送信する(ステップS6)。
【0031】
その後、ATO中央装置33から列車番号設定コマンドがATC地上装置13へ送信され(ステップS7)、ATC地上装置13からATC車上装置22へ列車番号設定コマンドが送信され(ステップS8)、ATC地上装置13から車両I/F24を介してATO車上装置23へ列車番号設定コマンドが転送される(ステップS9)。すると、ATO車上装置23において列車番号が設定され(ステップS10)、一連の列車番号設定処理が終了する。なお、ATO中央装置33から列車番号設定コマンドを受け取ったATC地上装置13は、列車番号と車両IDと列車位置情報を紐付けて記憶した後に、当該コマンドをATO車上装置23へ送信する。
【0032】
そのため、駅保安システム10と車上システム20と運行管理システム30との間で、データが列車番号によってリンク可能となる。また、従来のシステムにおいては、運行管理システム30が把握している列車位置が軌道回路の在線情報であるのに対し、駅保安システム10と車上システム20が把握している位置はキロ程情報であり、位置情報に齟齬が生じていたが、本実施形態においては、車上システム20からATC地上装置13を介して転送されてきた列車位置情報を、ATO中央装置33が軌道回路の在線情報に変換しているため、運行管理中央装置32からATC地上装置13に対して適切な指令が行なえる。なお、列車位置情報の変換(読み替え)はATC地上装置13において実行するようにしても良い。
以上、車上システムの起動時における列車番号の設定手順について説明したが、列車番号を変更したい場合には、設定要求コマンドの代わりに変更要求コマンドが車上システム20から運行管理システム30へ送信される点で異なるが、手順は上記と同じである。
【0033】
次に、本実施形態の列車自動運転システムにおける新規な機能の主な特徴について説明する。第1の特徴は、天候の悪化等の原因で地上側のシステムにおいて臨時速度制限が発生した場合に、運行管理システム30から車上システム20へ臨時速度制限情報を送信して走行パターン(以下、ATOパターンと称する)に反映させる点である。第2の特徴は、平面交差支障が発生する区間で支障解消予測をATOパターンに反映させて走行制御を行う点である。第3の特徴は、車上システム20が生成したATOパターンに基づく次駅到着予定時刻を運行管理システム30へ送信して、運行管理中央装置32が予測ダイヤに反映して運行制御に利用する点である。
以下、上記第1~第3の特徴について順を追って具体的に説明する。
【0034】
先ず、第1の特徴について、
図4のフローチャートおよび
図5の速度パターン図を用いて説明する。
第1の特徴は、臨時速度制限が発生した場合に、臨時速度制限情報をATO車上装置23のATOパターンに反映させるもので、本実施形態においては、軌道周辺に配設されている風速計や雨量計などの環境監視装置からの信号に基づいて臨時速度制限を実施すべきか否かや、臨時速度制限を実施する場合の区間および制限速度等を設定する機能を、ATC地上装置13が有しているものとする。
【0035】
この機能による処理は、例えばATO中央装置33が定期的にATC地上装置13へ臨時速度制限情報の要求コマンドを送信することで開始される(ステップS21)。ATC地上装置13が要求コマンドを受けると、そのとき設定されている臨時速度制限に関する情報(制限区間および制限速度)をATO中央装置33へ返す(ステップS22)。すると、ATO中央装置33は、受信した臨時速度制限に関する情報を、運行管理中央装置32を介してダイヤ管理装置31へ転送し(ステップS23)、ダイヤ管理装置31がこの情報を受けると実施ダイヤを更新する(ステップS24)。なお、臨時速度制限を実施すべき条件が成立した際に、ATC地上装置13からATO中央装置33へ割り込みで送信臨時速度制限に関する情報を送信するようしても良い。
【0036】
一方、ATO車上装置23を搭載した列車は、次駅への出発前に、ATC通信装置22AによってATO中央装置33に対して運行管理情報の送信要求を行う(ステップS25)。本実施形態においては、この要求は、デジタル無線を介して行われる。
運行管理情報の送信要求を受けたATO中央装置33は、ダイヤ管理装置31に対して列車番号に対応した最新の実施ダイヤ情報を要求し(ステップS26)、取得した実施ダイヤから発車時刻と次駅到着時刻、臨時速度制限区間および制限速度情報を読み取って車上装置(車上システム20)へ送信する(ステップS28)。
【0037】
すると、車上装置(車上システム20)は、ATO中央装置33からの情報をATC通信装置22Aによって受信し、臨時速度制限区間および制限速度情報が含まれる場合、ATC制御装置22Bによって、
図5に示すように、B駅を停止点SPとし臨時速度制限領域LAを回避するようなATCパターンPT1を生成する。そして、ATO車上装置23によって、ATCパターンPT1を越えないようにATOパターンPT2を生成し(ステップS29)、そのATOパターンPT2に従って自動運転制御を実施する(ステップS30)。
【0038】
なお、上記ATCパターンPT1は当該列車の最大ブレーキ性能に応じて設定されるのに対し、ATOパターンPT2はATCパターンPT1よりも緩やかに走行速度が変化するように設定されるため、急加速および急ブレーキを回避し乗り心地の改善を図ることができる。
また、上記フローチャートでは次駅Bまでに臨時速度制限区間がある場合について説明したが、次次駅までの区間に臨時速度制限区間がある場合にも、上記と同様な処理を適用することで乗り心地の改善を図ることができる。
【0039】
次に、本実施形態の列車自動運転システムの新規機能の第2の特徴について、
図6の路線説明図、
図7のフローチャートおよび
図8の速度パターン図を用いて説明する。
第2の特徴は、平面交差支障が発生することがある区間で支障解消予測をATOパターンに反映させて走行制御を行うものである。平面交差支障は、例えば
図6に示すように、A駅を出発して上り線ULを走行してB駅へ向う列車TR1を自列車とすると、次駅Bの上り線ホームに停車している列車TR2が折り返して分岐点DPを通過して下り線DLへ入線して走行するような際に発生する。かかる状況においては、次駅Bの列車TR2が分岐点DPを通過して下り線DLへ入線する前に列車TR1が駅構内へ進入すると衝突が起きるため、列車TR1の進路を開通させないようなATC制御が行われる。
【0040】
従来の自動運転システムにおいては、上記のような平面交差支障が発生する状況においては、次駅Bの折返し列車TR2が分岐点DPを通過して下り線DLへ入線したことを確認して、A駅の列車TR1に発車許可を与えるような制御が行われていた。
これに対し、本実施形態の列車自動運転システムにおいては、実施ダイヤ(または予測ダイヤ)の情報を基にして、列車TR2が分岐点DPを通過し終える時刻を予測し、その予測時刻(または予測時刻+余裕時間)を場内進路到着時刻として、列車TR1に対して発車条件と共に与えることで、次駅Bに停車中の列車TR2が分岐点DPを通過する前(B駅出発前を含む)に列車TR1がA駅を出発できるようにしている。
【0041】
以下、上記のような制御を可能にするための手順の一例が
図7に示されている。
この制御は、例えば駅停車中の列車(TR1)のATO車上装置23がATO中央装置33へ発車条件の要求コマンドを送信することで開始される(ステップS31)。本実施形態においては、この要求は、デジタル無線を介して行われる。ATO中央装置33がこの要求コマンドを受けると、ダイヤ管理装置31に対して列車番号に対応した最新の実施ダイヤ情報を要求して、実施ダイヤ情報を取得する(ステップS32)。そして、取得した実施ダイヤから進行方向(上りまたは下り)の情報や発車時刻、次駅到着時刻、次駅に停車中の列車(TR2)の停車ホームと進行方向(上りまたは下り)の情報、発車時刻を読み取って平面交差支障が発生するか否か判定する(ステップS33)。
【0042】
ステップS33で平面交差支障が発生しない(No)と判定すると通常の処理S40へ進む。一方、ステップS33で平面交差支障が発生する(Yes)と判定するとステップS34へ移行して、ATO中央装置33は、実施ダイヤ(または予測ダイヤ)の情報から列車TR2が分岐点DPを通過し終える時刻+余裕時間を演算によって算出し、算出した時刻を場内進路入口到着時刻として発車条件を停止位置及び到着予定時刻の情報と共に列車TR1のATO車上装置23へ送信する(ステップS35)。すると、ATO車上装置23は、平面交差支障箇所である分岐点DPの直前の位置SP1を停止点とし、その位置SP1に受信した場内進路入口到着時刻に到着するような走行パターン(ATOパターン)PT11(
図8参照)を生成し(ステップS36)、その走行パターンPT11に従って走行制御を実行する(ステップS37)。
【0043】
なお、列車TR1のA駅出発時点でのATCパターンは、
図8にPT21で示されているようなカーブである。その後、列車TR1が分岐点DPの直前の位置SP1に停止した時点で、次駅Bを出発した列車TR2が分岐点DPを通過し終えていると、
図8に太線PT22で示されているようなATCパターンが引かれるため、ATO車上装置23は、B駅到着予定時刻とB駅を停止位置SP2とする新たな走行パターンPT12を生成し(ステップS38)、その走行パターンPT12に従って走行制御を実行する(ステップS39)。
【0044】
また、ATO車上装置23は、列車TR1が分岐点DPの直前の位置SP1に停止した時点で、次駅Bの列車TR2が分岐点DPを通過し終えていない場合には、ATCトランスポンダ地上子15とATC車上装置22との通信で
図8のATCパターンP22が引かれた時点で、B駅到着予定時刻を計算し直してB駅を停止位置とする新たな走行パターンPT12を生成し、その走行パターンPT12に従って走行を開始することとなる。なお、
図8においては、走行パターンPT11が平坦すなわち等速走行するように描かれているが、途中にカーブ区間があるような駅間では、カーブ区間で速度を落として走行するようなパターンが生成される。
【0045】
上記のような手順の制御に従うと、次駅Bの折返し列車TR2が分岐点DPを通過して下り線DLへ入線したことを確認する前に、実施ダイヤ(または予測ダイヤ)の情報を基にして場内進路入口到着時刻と発車の認可を列車TR1に対して与え、列車TR1がA駅を出発することができるため、時間間隔の短いダイヤの作成が可能になり輸送力を向上させることができるとともに、遅延が発生した場合における後続列車の到着遅れ時間を短縮することができるようになる。
なお、上記フローチャートでは次駅Bまでに平面交差支障がある場合について説明したが、次次駅の手前に平面交差支障がある場合にも、上記と同様な処理を適用することで輸送力の向上を図ることができる。
【0046】
次に、本実施形態の列車自動運転システムの新規機能の第3の特徴について、
図9のフローチャートおよび
図10(A),(B)の速度パターン図を用いて説明する。
第3の特徴は、ATO中央装置33がATO車上装置23からATO車上装置23が作成した走行制御情報(次駅到着予定時刻等)を取得し、取得した情報を予測ダイヤに反映させ、該予測ダイヤに基づいて他の列車の運行制御(走行パターンの修正)を行うというものである。
【0047】
また、ATO中央装置33がATO車上装置23から取得する走行制御情報には、次駅到着予定時刻の他、ATOパターンや、運転台のスイッチ装置21により入力された一部ブレーキ装置の故障に伴うブレーキ軸割割合不足低減設定、レール表面への雪や落ち葉の付着によるブレーキ性能の低下を考慮した低減運転の実施設定などが含まれる。ATO中央装置33は、これらの情報をATO車上装置23から取得すると、それらの情報(予定時刻、実施区間等)を反映した予測ダイヤを作成する。さらに、作成した予測ダイヤに基づいた情報を各列車のATO車上装置23へ送信して運行制御を実施させるようにしても良い。
【0048】
ATO中央装置33がATO車上装置23から走行制御情報を取得する方法としては、定期的な通信あるいはATO車上装置23がATOパターンを新たに生成もしくは修正したタイミングで送信することが考えられる。
上記予測ダイヤにより、先行列車による機外停止の発生回数を減らしたり、平面交差支障の発生を抑制したりして乗り心地を改善することが可能となる。また、予測ダイヤを、車両事故や停電等によって大幅な遅延が発生した際の運用変更に利用することができるようになる。
【0049】
以下、平面交差支障の発生の抑制を例にとって具体的に第3の特徴について説明する。
図9には、第3の特徴を使用して平面交差支障の抑制制御を可能にするための手順の一例が示されている。
図9の制御手順は、ステップS31からS36まで
図7のフローチャートと同じである。
図9のフローチャートにおいては、ステップS36の次に、駅発車予定時刻、次駅到着予定時刻、遅延時間、ブレーキ軸割割合不足低減設定、低減運転の実施設定などの情報を、ATO車上装置23からATO中央装置33へ送信するステップS41と、これらの情報をATO中央装置33が受信するステップS42と、ATO中央装置33が受信情報を予測ダイヤに反映するステップS43が設けられている。予測ダイヤは、ダイヤ管理装置31の管理下にあっても良い。
【0050】
なお、上記ステップS42の処理には、次駅に停車中の列車TR2から送信された次駅到着予定時刻、走行パターン等他の列車からの情報の受信が含まれており、ステップS43においてはそれらの情報も予測ダイヤに反映される。そこで、ATO中央装置33は予測ダイヤの情報に基づいて平面交差支障が解消する予測時刻を演算によって算出し、列車TR1へ送信する(ステップS44)。すると、列車TR1のATO車上装置23は、その時刻情報に基づいて走行パターンを修正し(ステップS45)、修正した走行パターンに従って走行制御を実施する(ステップS39)。
【0051】
その結果、列車TR1は、
図10(A)に示すように、平面交差支障が発生する分岐点DPの直前の位置SP1に停止することなくB駅まで走行して停止位置SP2で停止することができ、駅間での停止を回避して乗り心地を改善することができる。また、ステップS45では、ATO車上装置23が修正した走行パターンをATO中央装置33へ送信するようにしても良い。これにより、その情報がATO中央装置33によって予測ダイヤに反映され、それに応じて他の列車の走行制御を修正することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態においては、上述したように、ATO中央装置33が、各列車のATO車上装置23から駅発車予定時刻、次駅到着予定時刻、遅延時間などの情報を取得して予測ダイヤに反映する。そのため、例えば同一進行方向の先行列車が次駅Bに停車中に、A駅を後続列車が発車した後、先行列車が予想よりも早くB駅を出発し、その情報が予測ダイヤに反映されたような場合に、ATO中央装置33は後続列車へ遅延回復指令コマンド(変更後の次駅到着時刻を含む)を送信するように構成しても良い。
【0053】
そして、後続列車はそのコマンドを受けることによって、
図10(B)に示すように、ATC制御の速度照査パターンP23を越えない範囲内で、破線PT13で示す走行パターンを実線PT14で示すようなパターンに変更することで、当初設定した走行パターンの速度よりも速い速度で走行して遅延を回復する回復運転制御を実行することができる。また、後続列車が回復運転制御を実行することを決定した場合、その決定によって変わる次駅到着予定時刻をATO中央装置33へ送信して、予測ダイヤに反映させるように構成することができる。
なお、ATO中央装置33から後続列車への上記遅延回復指令コマンドの送信は、指令担当による端末への回復指令入力があったことを条件にして実行するようにしても良い。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上記実施形態は、前述した3つの特徴を有する自動運転制御システムについて説明したが、第2の特徴は第1の特徴と独立して適用することができる。また、第3の特徴も、第1の特徴や第2の特徴と独立して適用することができる。
また、上記実施形態では、車上装置20は、列車の車軸に設けられている速度発電機25からの信号に基づいて演算した走行距離から自身の位置を算出しているが、列車に搭載したGPS(全地球測位システム)の信号受信装置からの情報に基づいて自列車位置を把握するようにしても良い。
さらに、上記実施形態の列車自動運転システムは、新幹線(登録商標)は勿論のこと在来線にも適用することができる。
【0055】
なお、上記実施形態のように、ATC地上装置13とATC車上装置22との間の通信をATCトランスポンダ地上子15とATCトランスポンダ車上子27Aを介した方式とした場合、立ち上げ時に行う列車番号要求の際に、車上システム20からATO中央装置33へ自列車位置情報を送信するのを省略して、通信をしたATCトランスポンダ地上子15から把握できる軌道回路の位置情報を列車番号要求コマンドに付加してATC地上装置13から運行管理システム30へ送信するようにしても良い。これにより、列車位置情報を軌道回路の位置情報に変換する読み替え処理が不要となる。
【符号の説明】
【0056】
10 駅保安システム
11 軌道回路設備
12 連動設備
13 ATC地上装置
14 通信ネットワーク
15 ATCトランスポンダ地上子
20 車上システム
21 スイッチ装置(運転台SW)
22 ATC車上装置
23 自動運転制御装置(ATO車上装置)
24 車両インタフェース(I/F)
25 速度発電機
26 ブレーキ装置
27A ATCトランスポンダ車上子
28 走行駆動装置
30 運行管理システム(運行管理装置)
31 ダイヤ管理装置
32 運行管理中央装置
33 ATO中央装置
34 通信ネットワーク