(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】スピニング加工装置、スピニング加工方法、加工ローラ
(51)【国際特許分類】
B21D 22/16 20060101AFI20221122BHJP
B21D 41/04 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B21D22/16 H
B21D41/04 B
(21)【出願番号】P 2018242186
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 孝二
(72)【発明者】
【氏名】岸野 純治
(72)【発明者】
【氏名】中尾 剛士
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-058077(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017213(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/073258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/16
B21D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピニング加工装置において、
筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面と、前記端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面と、を有する加工ローラ
と、
筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ローラとを備え、
前記加工ローラで前記筒状部材を縮径後に、
前記溝入れ処理ローラで筒状部材の外周面に溝を形成すると同時に前記加工ローラで筒状部材を端面押しすることを特徴とする、スピニング加工装置。
【請求項2】
スピニング加工装置において、
筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ローラと、
筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面を有する加工ローラと、を備え、
前記加工ローラの回転軸は、前記筒状部材の回転軸と略垂直に配置されることを特徴とする、スピニング加工装置。
【請求項3】
前記加工ローラは、回転軸方向に縮径するテーパ部を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のスピニング加工装置。
【請求項4】
スピニング加工装置に使用する加工ローラであって、筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面と、前記端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面を有
し、前記縮径処理と、前記端面押し処理を別の工程で行うことを特徴とする、加工ローラ。
【請求項5】
スピニング加工方法において、
筒状部材の端部を縮径する縮径処理ステップと、
前記端部の面を押圧する端面押し処理ステップと、
筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ステップと、を備え、
前記縮径処理ステップ及び前記端面押し処理ステップを一つのローラにより行
い、
前記縮径ステップで前記筒状部材を縮径後に、
前記溝入れ処理ステップで筒状部材の外周面に溝を形成すると同時に前記端面押し処理ステップで筒状部材を端面押しすることを特徴とする、スピニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工装置及びスピニング加工方法に関するものである。更に詳しくは、筒状部材の端部の形状を加工するためのスピニング加工装置及びスピニング加工方法に関するものである。また、本発明は、スピニング加工装置及びスピニング加工方法に使用する加工ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキピストンの製造方法において、有底筒状の素材の開口側端部に溝部を加工する際に、スピニング加工装置を使用している。例えば、特許文献1に示すように、まず、鍛造によって有底筒状の素材の開口端部を胴部より小径とし、次に、凸部を有する押圧ローラをこの素材の周部に押し付けて、周部に溝部を形成するスピニング加工方法が知られている。ここで、有底筒状の素材の開口端部と胴部をほぼ同径とした場合には、押圧ローラの凸部を素材へ進入させた際に、凸部に押された素材が凸部の両側に流れ、溝部がテーパ状となる。そして、凸部の両側に流れて余った素材は、溝部の両側の外周面にあまり部分を形成し、最終製品の溝部の形状に不具合を発生する。一方、特許文献1に示すように、予め鍛造により有底筒状の素材の開口端部を胴部より小径とした場合には、素材の凸部の両側への流れを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒状部材の端部に溝部を形成するスピニング加工において、最終形状として開口側端部の内径を胴部の内径よりも小さくする(大きな段差を形成する)必要がある場合には、筒状部材の端部を予め縮径しておき、開口端部を胴部より小径とした筒状部材を用いて溝部を形成する。そのため、予め鍛造により筒状部材の端部を縮径する縮径処理と、筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理の2つの処理が必要となっている。
【0005】
本発明の課題は、筒状部材の端部を加工する塑性加工において、複数の処理を簡潔に施すことが可能なスピニング加工装置及びスピニング加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、筒状部材の端部を縮径する加工ローラの回転軸を、筒状部材の回転軸と略垂直に配置することにより、筒状部材の端部を縮径する縮径処理と、筒状部材の端部の面を押圧する端面押し処理を一つの加工ローラを用いて処理することが可能であることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のスピニング加工装置、スピニング加工方法、加工ローラである。
【0007】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工装置は、筒状部材の端部を塑性加工するスピニング加工装置において、筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面と、前記端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面と、を有する加工ローラを備えることを特徴とするものである。
このスピニング加工装置によれば、筒状部材の端部を縮径する縮径処理と、筒状部材の端部の面を押圧する端面押し処理を一つの加工ローラで処理することが可能となる。そのため、筒状部材の端部を加工する塑性加工において、簡素化されたスピニング加工装置及びスピニング加工方法を提供することができる。
【0008】
また、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ローラを備えることを特徴とするものである。
上記特徴によれば、縮径処理と端面押し処理を行うための加工ローラと、溝入れ処理を行うための溝入れ処理ローラを備えるため、縮径処理、溝入れ処理及び端面押し処理の工程を、1つの塑性加工で処理することが可能となる。
【0009】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工装置は、筒状部材の端部を塑性加工するスピニング加工装置において、筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ローラと、筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面を有する加工ローラと、を備え、前記加工ローラの回転軸は、前記筒状部材の回転軸と略垂直に配置されることを特徴とするものである。
本発明のスピニング加工装置によれば、加工ローラの回転軸が筒状部材の回転軸と略垂直に配置されるため、加工ローラに、筒状部材の端部を縮径する縮径処理と、筒状部材の端部の面を押圧する端面押し処理の作用を付すことが可能となる。よって、本発明のスピニング加工装置によれば、縮径処理、溝入れ処理及び端面押し処理の3種類の塑性加工のうち、縮径処理と端面押し処理を1つのローラによる連続した動作で短時間に行えるので、実質は2種類の塑性加工で処理することが可能となる。
【0010】
また、本発明のスピニング加工装置の一実施態様としては、加工ローラは、回転軸方向に縮径するテーパ部を有することを特徴とするものである。
この特徴によれば、加工ローラを回転軸方向に向かって移動させて、筒状部材の外周面を押圧して縮径処理を行う際に、筒状部材の外周面は、テーパ部に沿って縮径されるため、押圧する力の作用が分散して、安定した縮径処理を実施することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の加工ローラは、スピニング加工装置に使用する加工ローラであって、筒状部材の端部の縮径処理に使用する縮径処理面と、前記端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面を有する加工ローラを備えることを特徴とするものである。
本発明の加工ローラによれば、縮径処理と共に端面押し処理も可能であるため、縮径処理及び端面押し処理の工程を、1つの塑性加工で処理することが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明のスピニング加工方法は、筒状部材の端部を塑性加工するスピニング加工方法において、筒状部材の端部を縮径する縮径処理ステップと、前記端部の面を押圧する端面押し処理ステップと、を備え、前記縮径処理ステップ及び前記端面押し処理ステップを一つのローラにより行うことを特徴とするものである。
このスピニング加工方法によれば、一つの加工ローラを用いて、筒状部材の端部を縮径する縮径処理と、筒状部材の端部の面を押圧する端面押し処理を施すことが可能となるため、筒状部材の端部を加工する塑性加工を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、筒状部材の端部を加工する塑性加工において、複数の処理を簡潔に施すことが可能なスピニング加工装置及びスピニング加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施態様のスピニング加工装置の構造を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様のスピニング加工装置の構造を示す概略説明図である。(A)縮径処理ステップを示す概略説明図である。(B)溝入れ処理ステップ及び端面押し処理ステップを示す概略説明図である。
【
図3】本発明の加工ローラの他の態様を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の加工ローラの他の態様を示す概略説明図である。
【
図5】
図2(B)の破線枠の領域を拡大した図であり、本発明の第1の実施態様のスピニング加工装置の加工ローラの作用を説明する概略説明図である。
【
図6】本発明の第1の実施態様のスピニング加工装置の加工ローラの斜視図、正面図、左側面図、右側面図を示す図面である。なお、背面図、天面図及び底面図は、正面図と同一の形状であるため省略する。
【
図7】本発明の第2の実施態様のスピニング加工装置の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るスピニング加工装置、スピニング加工方法及び加工ローラの実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載するスピニング加工装置、スピニング加工方法及び加工ローラについては、本発明に係るスピニング加工装置、スピニング加工方法及び加工ローラを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0016】
スピニング加工とは、回転する板状や筒状の部材をローラやへらで押し付けて成形する塑性加工の一手法である。例えば、ブレーキ部品(ディスクブレーキ用のブレーキピストン等)、エンジン部品、タイヤホイール、家庭用容器、装飾工芸品、照明器具、通信機器、ボイラ、タンク、ノズルなどの部品・製品の製造に利用されるものである。
【0017】
本発明のスピニング加工装置及びスピニング加工方法は、筒状部材の端部の塑性加工のために利用することができる。より具体的には、筒状部材の端部の縮径処理のために利用するものであり、さらには、筒状部材の端部の縮径処理と、端部の面を押圧する端面押し処理を行う塑性加工に好適に利用するものである。
特に、筒状部材の端部に溝部を形成するスピニング加工において、最終形状として開口側端部の内径を胴部の内径よりも小さくする(大きな段差を形成する)必要がある場合に好適に利用することができる。
【0018】
〔第1の実施態様〕
(スピニング加工装置)
図1は、本発明の第1の実施態様におけるスピニング加工装置1Aの構造を示す概略説明図である。本発明の第1の実施態様におけるスピニング加工装置1Aは、
図1に示すように、筒状部材Tの端部に縮径処理と端面押し処理を行うための加工ローラ2A、筒状部材Tの外周面に溝部を形成するための溝入れ処理ローラ3を備えるものである。
【0019】
このスピニング加工装置1Aは、回転軸R1を軸として回転する回転機構(不図示)と、この回転機構に連結された主軸5と、その主軸5の先端に筒状部材Tを固定するための固定手段4Aを備える。筒状部材Tは、固定手段4Aにより主軸5の先端に固定され、回転軸R1を中心に回転するように取り付けられる。
【0020】
スピニング加工装置1Aは、加工ローラ2Aを取り付けるための加工ローラホルダ6を備える。加工ローラ2Aは、加工ローラホルダ6に取り付けられ、回転軸R2を軸として回転する。なお、回転軸R2は、筒状部材Tの回転軸R1と略垂直となるように設置されている。
【0021】
スピニング加工装置1Aは、溝入れ処理ローラ3を取り付けるための溝入れ処理ローラホルダ7を備える。溝入れ処理ローラ3は、溝入れ処理ローラホルダ7に取り付けられ、回転軸R3を軸として回転する。なお、回転軸R3は、筒状部材Tの回転軸R1と略平行となるように設置されている。
【0022】
以下に、各部材について、詳細に説明する。
<固定手段>
固定手段4Aは、回転機構に連結された主軸5の先端に、筒状部材Tを固定するための手段である。第一の実施態様の固定手段4Aは、主軸5に設けられ、筒状部材Tの外周面を挟持して固定するチャックである。
また、固定手段4Aは、どのような固定手段でもよく、上記チャックの他にも、例えば、筒状部材Tの内部に挿入し、筒状部材Tの底部から押し当てることにより、主軸5の先端に筒状部材Tを固定する芯棒などが挙げられる。
【0023】
筒状部材Tは、塑性加工に適した材料で形成された筒状の部材であればよく、例えば、有底のものであってもよい。また、筒状の形状は、特に制限されず、円筒形状、楕円筒形状、多角筒形状でもよい。安定した回転を実現するという観点から、円筒形状であることが好ましい。また、塑性加工に適した材料は、特に制限されないが、鋼材が挙げられる。第一の実施態様の筒状部材Tは、鍛造により得られた有底円筒形状の筒状部材である。なお、筒状部材Tは、端部が縮径されていないものであっても、縮径したものであってもよい。
【0024】
<加工ローラ>
加工ローラ2Aは、筒状部材の端部を縮径する縮径処理に使用する縮径処理面と、前記端部の面を押圧する端面押し処理に使用する端面押し処理面を有するローラであって、筒状部材Tの端部の外周面を押圧する縮径処理と、筒状部材Tの端部の面に押圧する端面押し処理を施すためのローラである。
図2(A)、
図2(B)に示すように、加工ローラ2Aの回転軸R2は、筒状部材Tの回転軸R1と略垂直に配置されており、回転軸R2の軸方向及び回転軸R1の軸と平行な方向へ移動可能に設計されている(加工ローラ2Aの移動方向は、図中の黒塗り矢印に示す。)。なお、回転軸R1と回転軸R2との配置において、「略垂直」とは、装置の設計技術において、常識的な範囲内で垂直からずれが生じる場合を含むものである。また、回転軸R1と回転軸R2が同一の平面上で垂直に交差する場合の他にも、異なる平面上で垂直となる場合(いわゆる「ねじれの位置」の場合)も含む。
【0025】
図2(A)に示すように、加工ローラ2Aは、円柱状の加工ローラ本体23aと、加工ローラ本体23より小径の円柱状の端面押部22aを有しており、加工ローラ本体23aと端面押部22aの間には、回転軸R2方向に縮径するテーパ部21aが形成されている。
【0026】
加工ローラ本体23aは、回転軸R2を中心に回転可能な構造物である。形状としては、どのような形状でもよく、円柱状のほかにも、円盤状、楕円柱状、多角柱状などでもよい。安定して回転するという観点から、円柱状や円盤状であることが好ましい。
【0027】
端面押部22aは、加工ローラ本体23aから突設した構造であり、加工ローラ本体23aと同軸に回転するものである。端面押部22aが回転することにより描かれる周面は、筒状部材Tの端面を押圧するための端面押し処理面25aであり、この端面押し処理面25aを筒状部材Tの端面に押圧することにより、端面押し処理を行なう。端面押部22aの形状は、筒状部材Tの端面の形状によって適宜設定することができる。例えば、加工ローラ本体23aから縮径又は拡径する円錐台状や、外周面にリム部を有する円柱状などが挙げられる。
【0028】
テーパ部21aは、加工ローラ本体23aと端面押部22aの間に形成される構造であり、加工ローラ本体23a及び端面押部22aと同軸に回転するものである。また、回転軸R2方向に、加工ローラ本体23aから端面押部22aに向かって縮径する形状を有する。テーパ部21の形状は、加工ローラ本体23aから端面押部22aに向かって縮径する形状であればよく、例えば、テーパ部の断面が加工ローラ本体から端面押部に向かって直線形状となるものや、テーパ部の断面が加工ローラ本体から端面押部に向かって曲線形状となるものであってもよい。テーパ部21aが回転することにより描かれる周面は、筒状部材Tの外周面を押圧するための縮径処理面24aであり、この縮径処理面24aを筒状部材Tの外周面に押圧することにより、縮径処理を行なう。テーパ部の断面が直線形状となるものは、縮径処理時に、加工ローラから筒状部材Tの外周面に一定の力が作用するため、安定した塑性加工を行うことができる。
【0029】
図3、
図4に、本発明の加工ローラの他の態様を示す。なお、各例において、同一の形状の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
図3(A)、
図4(A)に図示する加工ローラ2B、2Dは、円盤状の加工ローラ本体23b、断面が曲線形状となるテーパ部21bを備え、テーパ部21bの周面は、曲線形状の縮径処理面24bを有するものである。
図3(B)に図示する加工ローラ2Cは、円柱状の加工ローラ本体23aの端面の内部領域から円錐台状のテーパ部21cを突設したものである。テーパ部21cの周面は、直線状に縮径処理面24cを形成する。
図4(A)に図示する加工ローラ2Dは、加工ローラ本体23bから縮径する円錐台状の端面押部22bを有するものである。端面押部22bの周面は、傾斜した端面押し処理面25bを形成する。
図4(B)に図示する加工ローラ2Eは、外周面にリム部26を有する円柱状の端面押部22cを有するものである。端面押部22cの周面は、円弧状の端面押し処理面25cを形成する。
【0030】
縮径処理時には、加工ローラ2Aは、回転軸R2の軸方向に移動し、筒状部材Tの端部を外周面から押圧する。加工ローラ2Aに押圧されて筒状部材Tの端部の縮径が生じると、筒状部材Tの端部の外周面は、加工ローラ2Aのテーパ部21aに沿って縮径する。このとき、筒状部材の厚み(外径と内径の差)を大きく変えずに、筒状部材の軸心側に径を収縮する。
縮径処理後の筒状部材Tの端部の外周面の位置(筒状部材Tの端部の外径)は、テーパ部21aの小径側の端面の位置によって決められる。よって、縮径処理後の筒状部材Tの端部の外周面の直径は、加工ローラ2Aの回転軸R2の軸方向への移動距離を調整することにより設定することができる。
【0031】
端面押し処理時には、加工ローラ2Aは、回転軸R1の軸と平行な方向と回転軸R2に平行な方向を合成した方向に移動し、筒状部材Tの端部の面を加工ローラ2Aの端面押部22aで押圧すると共に、筒状部材Tの外周面の溝部よりも開口側の範囲を内径側に押圧する。筒状部材Tの端部の面を押圧することにより、溝入れ処理等において、筒状部材Tの素材が回転軸R1方向へ流れることを抑制することができる。さらに、端部の面を押圧することにより、筒状部材Tの端部の形状を平面化することができる。また、筒状部材Tの外周面の溝部よりも開口側の範囲を内径側に押圧することにより、筒状部材Tの開口側の端部の外径を所定の範囲に設定することができる。
なお、端面押し処理時における加工ローラ2Aの移動方向は、回転軸R1の軸と平行な方向にのみ移動してもよい。
【0032】
<溝入れ処理ローラ>
溝入れ処理ローラ3は、筒状部材Tの外周面に溝部を形成する溝入れ処理を施すためのローラである。
図2(B)に示すように、溝入れ処理ローラ3の回転軸R3は、筒状部材Tの回転軸R1と平行に配置されており、回転軸R3の軸を回転軸R1の軸へ近接するように移動可能に設計されている。(溝入れ処理ローラの移動方向は、図中の黒塗り矢印に示す。)
なお、溝入れ処理ローラ3の回転軸R3の方向は、特に制限されず、筒状部材Tの回転軸R1と非平行に傾斜して配置してもよい。
【0033】
図2(A)に示すように、溝入れ処理ローラ3は、円柱状の溝入れ処理ローラ本体32と、溝入れ処理ローラ本体32の外周面に突設した溝形成部31を有している。溝形成部31の形状や幅は、筒状部材Tの外周面に形成する溝部の形状や幅に応じて適宜設計することができる。
【0034】
溝入れ処理時には、溝入れ処理ローラ3は、回転軸R3の軸を回転軸R1の軸へ近接するように移動し、溝部形成部31により筒状部材Tの外周面を押圧する。溝形成部31により押圧することにより、筒状部材Tの外周面に溝部が形成される。
【0035】
溝入れ処理ローラ3による溝入れ処理と、加工ローラ2Aの端面押部22aによる端面押し処理は、同時に施すことが好ましい。溝入れ処理時に端面押し処理を行なうことにより、溝部の肉厚をより一層確保することができる。
【0036】
図5には、
図2(B)の破線枠の領域を拡大した図を示す。
図5の加工ローラ2Aは、縮径処理が終了した時点の配置を示している。
図5に示すように、縮径処理により筒状部材Tの外周面は、テーパ部21aに沿って縮径する(縮径した領域を「縮径領域D」という。)。縮径領域Dに溝部Gを形成することにより、溝入れ処理時に生じる筒状部材Tの素材が溝形成部31aの両側に流れるという問題の発生を抑制することができる。よって、筒状部材の端部に溝部を形成するスピニング加工において、最終形状として開口側端部の内径を胴部の内径よりも小さくする(大きな段差を形成する)必要がある場合に好適に利用することができる。
【0037】
溝部Gの形成における縮径領域Dの作用効果を鑑みると、縮径処理時における加工ローラ2Aの配置は、溝部Gの形成される範囲にテーパ部21aが配置されることが好ましい。なお、
図5に示した例では、溝部Gの形成される領域の範囲内に、縮径領域Dがすべて含まれるように加工ローラ2Aを配置した例であるが、溝部Gの形成される領域に縮径領域Dが一部重複していればよい。
【0038】
縮径領域Dの上端は、溝部Gの上方に配置することが好ましい。縮径領域Dの上端を溝部Gの上方に配置することにより、溝部Gと縮径領域Dの重複する領域を大きくすることができる。
【0039】
縮径領域Dの下端から溝部Gの下端までの距離d1は、端面押し処理時における端面押し処理面24aの回転軸R1と平行な方向に移動する距離d2よりも大きいことが好ましい。これにより、端面押し処理時において、端面押し処理面24aが回転軸R1と平行な方向に移動した際に、テーパ部21aが筒状部材Tの外周面に当接して縮径処理が生じてしまうことを抑制することができる。
【0040】
次に、
図2、
図5を参照して、縮径処理、溝入れ処理について説明する。
縮径処理では、
図2(A)及び
図5に示すように、筒状部材Tの端部の外周面を、加工ローラ2Aのテーパ部21aの小径側端部の面と、テーパ部21aの周面からなる縮径処理面24aで押圧して、筒状部材Tの端部を縮径する。筒状部材Tの端部の縮径した状態を、
図5の筒状部材Tの破線により示す。
図5に示すように、縮径処理の終了時には、筒状部材Tの外周面は、加工ローラ2Aの縮径処理面24aに接した状態となる。また、縮径処理では、筒状部材の厚み(外径と内径の差)を大きく変えずに、筒状部材の軸心側に径を収縮した状態となる。
【0041】
縮径処理は、最終製品の開口端部の外径より大きい位置で停止することが好ましい。最終製品の開口端部の外径となるまでの残りの縮径処理は、端面押し処理時又は端面押し処理後に実施する。なお、残りの縮径処理の詳細については、端面押し処理と共に後述する。
【0042】
溝入れ処理では、
図2(B)及び
図5に示すように、縮径領域Dの位置に、溝入れ処理ローラ3の溝形成部31を筒状部材Tの外周面に進入させつつ、加工ローラ2Aの端面押部22aで筒状部材の端部の面を押圧する。縮径領域Dに溝入れ処理を行うため、筒状部材Tの素材が、溝部Gの両側の外周面に流れることを抑制し、筒状部材Tの外周面に不具合による凸部の発生を抑制することができる。また、端面押し処理により、溝部Gの形成時における回転軸R1方向への素材の流れを抑制することができるため、溝部Gの肉厚を確保することができる。
【0043】
また、端面押し処理の際、
図5に示すように、加工ローラ2Aは、回転軸R2の軸方向に向かって移動して、残りの縮径処理を行なう。溝入れ処理時や端面押し処理時には、筒状部材Tの開口端部の意図しない縮径が生じる場合があり、最終製品の開口端部の外径が不揃いになる恐れがある。しかし、最後の処理として、縮径処理を行なうことにより、筒状部材Tの開口端部の外径を所定の大きさに調整することができる。
【0044】
端面押し処理時における加工ローラ2Aの移動は、回転軸R1の軸と平行な方向と回転軸R2に平行な方向を合成した方向に斜めに移動してもよいし、回転軸R1の軸と平行な方向への移動と回転軸R2に平行な方向への移動を別々に行ってもよい。
なお、回転軸R1の軸と平行な方向への移動と回転軸R2に平行な方向への移動を別々に行う場合には、最後に筒状部材Tの開口端部の外径を調整するという観点から、回転軸R2に平行な方向への移動を最後に停止することが好ましい。
【0045】
(スピニング加工方法)
本発明のスピニング加工方法は、筒状部材の端部を塑性加工するスピニング加工方法において、筒状部材の端部を縮径する縮径処理ステップと、前記端部の面を押圧する端面押し処理ステップと、を備え、前記縮径処理ステップ及び前記端面押し処理ステップを一つのローラにより行うことを特徴とするものである。
また、本発明のスピニング加工方法は、筒状部材の外周面に溝部を形成する溝入れ処理ステップを備えてもよい。
【0046】
各処理ステップの順は、最初に縮径処理ステップを行い、次いで、溝入れ処理ステップと端面押し処理ステップを行う。なお、溝入れ処理ステップと端面押し処理ステップは、同時に処理しても、別々に処理してもよい。
【0047】
また、縮径処理は、2回以上に分割して行ってもよい。特に、溝入れ処理の前に行う最初の縮径処理ステップと、残りの縮径処理を行う最後の縮径処理ステップに分けることが好ましい。最初の縮径処理ステップは、溝入れ処理時における筒状部材の素材が、溝部の両側の外周面に流れることを抑制することを目的とするものである。最後の縮径処理ステップは、最終製品の開口端部の外径を調整することを目的とするものである。溝入れ処理や端面押し処理を行なうと、最終製品の開口端部の外径に多少の変化を生じる恐れがあることから、最後の縮径処理ステップは、すべての処理の最後に停止することが好ましい。
【0048】
なお、縮径処理ステップだけでなく、溝入れ処理ステップ、端面押し処理ステップについても、必要に応じて2回以上に分割してもよい。
【0049】
(加工ローラの形状)
図6に、本発明の加工ローラ2Aの斜視図、正面図、左側面図、右側面図を示す。なお、背面図、天面図及び底面図は、正面図と同一の形状である。本発明の加工ローラ2Aは、鋼材などの素材の塑性加工において、スピニング加工装置に取り付けて使用するための物品であり、筒状部材の端面を縮径するための縮径処理と、筒状部材の端部の面を押圧する端面押し処理を行うものである。
【0050】
加工ローラ2Aは、
図6の正面図に示すように、加工ローラ本体23a、端面押部22a、テーパ部21aを有する。縮径処理は、円錐台状からなるテーパ部21aのテーパ周面と、テーパ部21aの小径側端部の面により実施され、端面押し処理は、円柱形状からなる端面押部の周面により実施される。すなわち、本発明の加工ローラ2Aの形状の要部は、テーパ部21aのテーパ周面から、端面押部22aの周面にまでの領域(
図6の正面図に示す矢印の間の領域)である。
【0051】
〔第2の実施態様〕
図7は、本発明の第2の実施態様におけるスピニング加工装置1Bの構造を示す概略説明図である。本発明の第2の実施態様におけるスピニング加工装置1Bは、
図7に示すように、筒状部材Tを主軸5の先端に固定するための固定手段として、チャックからなる固定手段4Aに加え、芯棒からなる固定手段4Bを備えるものである。なお、その他の構成については、第1の実施態様のスピニング加工装置1Aを同じである。
【0052】
芯棒は、筒状部材Tの内径より小径の円柱状の部材であり、芯棒の一端は、筒状部材Tの内部に挿入し、筒状部材Tの底部を主軸5の先端に押し当てることにより、筒状部材Tを主軸5の先端に固定する。また、芯棒の外径を大きく設計することにより、加工された筒状部材Tの溝部の内周面を芯棒の周面により押圧することもできる。なお、芯棒の他端は、従動機構(不図示)に固定されており、芯棒は、筒状部材Tの回転と共に回転する。
【0053】
この第2のスピニング加工装置1Bによれば、芯棒からなる固定手段4Bにより筒状部材Tの回転軸R1方向への固定が安定化する。そのため、端面押し処理により形成される筒状部材Tの端面の形状が平面化し、端面の形状の仕上がりに優れた製品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のスピニング加工装置及びスピニング加工方法は、筒状部材の端部の塑性加工のために利用することができる。より具体的には、筒状部材の端部の縮径処理のために利用することができる。例えば、ブレーキ部品(ディスクブレーキ用のブレーキピストン等)、エンジン部品、タイヤホイール、家庭用容器、装飾工芸品、照明器具、通信機器、ボイラ、タンク、ノズルなどの部品・製品の製造に利用することができる。
【0055】
また、本発明のスピニング加工装置及びスピニング加工方法は、1つの加工ローラを用いて、筒状部材の端部の端面押し処理も可能であるため、縮径処理と端面押し処理を行う塑性加工において、より好適に利用することができる。
【0056】
本発明の加工ローラは、スピニング加工装置に適用して、筒状部材の端部の縮径処理のために利用することができる。さらに、本発明の加工ローラは、筒状部材の端部の端面押し処理も可能であるため、縮径処理と端面押し処理を行う塑性加工において、より好適に利用することができる。
【0057】
また、本発明の加工ローラは、既設のスピニング加工装置に適用することにより、縮径処理と端面押し処理をそれぞれ別のローラで行っているスピニング加工装置を、縮径処理と端面押し処理を1つの加工ローラで行うことが可能なスピニング加工装置に簡単に変更することができる。
【符号の説明】
【0058】
1A,1B…スピニング加工装置、2A,2B,2C,2D,2E…加工ローラ、21a,21b,21c…テーパ部、22a,22b,22c…端面押部、23a,23b…加工ローラ本体、24a,24b…縮径処理面、25a,25b,25c…端面押し処理面、26…リム部、3…溝入れ処理ローラ、31…溝形成部、32…溝入れ処理ローラ本体、4A,4B…固定手段、5…主軸、6…加工ローラホルダ、7…溝入れ処理ローラホルダ、T…筒状部材、R1…筒状部材の回転軸、R2…加工ローラの回転軸、R3…溝入れ処理ローラの回転軸、溝部…G、縮径領域…D