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特許7181083FeCo合金、FeSi合金またはFeシートもしくはストリップおよびその製造方法、前記シートまたはストリップから製造された磁気変圧器コア、ならびにそれを備える変圧器
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  • 特許-FeCo合金、FeSi合金またはFeシートもしくはストリップおよびその製造方法、前記シートまたはストリップから製造された磁気変圧器コア、ならびにそれを備える変圧器 図1
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  • 特許-FeCo合金、FeSi合金またはFeシートもしくはストリップおよびその製造方法、前記シートまたはストリップから製造された磁気変圧器コア、ならびにそれを備える変圧器 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】FeCo合金、FeSi合金またはFeシートもしくはストリップおよびその製造方法、前記シートまたはストリップから製造された磁気変圧器コア、ならびにそれを備える変圧器
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221122BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20221122BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C21D8/12 F
H01F1/147 183
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2018504237
(86)(22)【出願日】2016-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2016068172
(87)【国際公開番号】W WO2017017256
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-07-01
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/067443
(32)【優先日】2015-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512072614
【氏名又は名称】アペラム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・ワエッカール
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・ボーダン
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ-ロール・エルベール
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ユベール
(72)【発明者】
【氏名】レミ・バトネ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-084761(JP,A)
【文献】特開2015-061941(JP,A)
【文献】特開2005-060811(JP,A)
【文献】特開昭48-097726(JP,A)
【文献】特開平08-203718(JP,A)
【文献】国際公開第2013/087939(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/199211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/12
C21D 9/46
H01F 1/14 - 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延および焼なましされた鉄系合金のシートまたはストリップ(1)であって、
その組成が、重量百分率で以下から成り、
微量≦C≦0.2%;
微量≦Co≦40%;
Co≧35%である場合には、微量≦Si≦1.0%;
微量≦Co<35%である場合には、微量≦Si≦3.5%;
微量≦Co<35%である場合には、Si+0.6%Al≦4.5-0.1%Co;
微量≦Cr≦10%;
微量≦V+W+Mo+Ni≦4%;
微量≦Mn≦4%;
微量≦Al≦3%;
微量≦S≦0.005%;
微量≦P≦0.007%;
微量≦Ni≦3%;
微量≦Cu≦0.5%;
微量≦Nb≦0.1%;
微量≦Zr≦0.1%;
微量≦Ti≦0.2%;
微量≦N≦0.01%;
微量≦Ca≦0.01%;
微量≦Mg≦0.01%;
微量≦Ta≦0.01%;
微量≦B≦0.005%;
微量≦O≦0.01%;
残部が鉄および調製由来の不純物であり、1.8Tの誘導に対して、その長手側が、前記シートまたはストリップの圧延方向(DL)に平行、前記シートまたはストリップの横方向(DT)に平行、および前記圧延方向(DL)と前記横方向(DT)と45°の角度をなす方向に平行である、前記シートまたはストリップの3つの長方形サンプル(2、3、4)に対する、印加された磁場(Ha)に平行(λ//H)、および印加された磁場(Ha)に垂直(λ┴H)に測定された磁歪変形の大きさλの間の最大差(MaxΔλ)が、最大25ppmであり、その再結晶率が80から100%であり、
前記シートまたはストリップは、{hkl}<uvw>集合組織成分を30%以下含み、集合組織成分は、定義された結晶方位{h}<u>から15°未満のずれによって定義されることを特徴とする、シートまたはストリップ。
【請求項2】
10%≦Co≦35%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項3】
微量≦C≦0.05%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項4】
微量≦C≦0.015%であることを特徴とする、請求項3に記載のシートまたはストリップ。
【請求項5】
微量≦Co<35%である場合には、Si+0.6%Al≦3.5-0.1%Coであることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項6】
微量≦V+W+Mo+Ni≦2%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項7】
微量≦Mn≦2%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項8】
微量≦Al≦1%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項9】
微量≦Ni≦0.3%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項10】
微量≦Cu≦0.05%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項11】
微量≦Nb≦0.01%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項12】
微量≦Zr≦0.01%であることを特徴とする、請求項1に記載のシートまたはストリップ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の鉄系合金のシートまたはストリップ(1)の製造方法であって、
組成が請求項1から12のいずれか一項に記載されたものである鉄系合金が調製され、
インゴットまたは連続鋳造半製品の形態で鋳造され、
前記インゴットまたは連続鋳造半製品が、2から5mm厚のストリップまたはシートの形態に熱成形され、
各々が50から80%の圧延率を有する、前記ストリップまたはシートの少なくとも2つの冷間圧延作業が実施され、その温度は以下の通りであり:
前記合金が3.5-0.1%Co≦Si+0.6%Al≦4.5-0.1%CoおよびCo<35%であるようなSi含有量を有する場合または前記合金がCo≧35%およびSi≦1%を含む場合、および前記冷間圧延の前に、400℃と同等またはそれ未満の温度で1hから10hの間、再加熱が行われる場合には、周囲温度から350℃であり、
その他の場合には、周囲温度から100℃であり、
前記冷間圧延は、少なくとも650℃の温度、最高で以下の温度で、1分間から24時間の間での、合金のフェライト領域における静的または連続焼なましによって、各々が分離され、
前記合金のSi含有量が(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cであり、
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、少なくとも5%の水素、および合計1%未満の前記合金の気体酸化種を含み、かつ+20℃未満の露点を有する雰囲気下で行われ、
80から100%の前記ストリップまたはシートの再結晶率を得るために、最終静的または連続再結晶焼なましが、1分間から48時間、650から(900±2%Co)℃の温度で、前記合金のフェライト領域において実行され、
前記最終静的または連続再結晶焼なましの前に、2000℃/hと同等またはそれ未満の速度で実施される加熱が行われ、
前記最終静的または連続再結晶焼なましの後に、2000℃/hと同等またはそれ未満の速度で実施される冷却が行われることを特徴とする、製造方法。
【請求項14】
前記冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、2分間から1時間の期間を有することを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、少なくとも750℃、最高で、以下の温度で実施されることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法:
前記合金のSi含有量が(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cである。
【請求項16】
前記インゴットまたは連続鋳造半製品が、2から3.5mm厚のストリップまたはシートの形態に熱成形されることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
各々が60から75%の圧延比を有する前記ストリップまたはシートの少なくとも2つの冷間圧延作業が実施され、その温度は以下の通りであり:
前記合金が3.5-0.1%Co≦Si+0.6%Al≦4.5-0.1%CoおよびCo<35%であるようなSi含有量を有する場合または前記合金がCo≧35%およびSi≦1%を含む場合、および前記冷間圧延の前に、400℃と同等またはそれ未満の温度で1hから10hの間、再加熱が行われる場合には、周囲温度から350℃であり、
その他の場合には、周囲温度から100℃であり、
前記冷間圧延は、少なくとも650℃の温度、最高で以下の温度で、1分間から24時間の間での、合金のフェライト領域における静的または連続焼なましによって、各々が分離され、
前記合金のSi含有量が(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cであり、
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、少なくとも5%の水素、および合計1%未満の前記合金の気体酸化種を含み、かつ+20℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、合計1%未満の前記合金の気体酸化種を含む水素雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、少なくとも5%の水素、および合計100ppm未満の前記合金の気体酸化種を含む雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、0℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項21】
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、-40℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、-60℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項20に記載の製造方法。
【請求項23】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、真空下、または前記合金の非酸化雰囲気下、または水素化雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項24】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、少なくとも5%の水素、および合計1%未満の前記合金の気体酸化種を含み、かつ+20℃未満の露点を有する雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、100%水素を含む雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、合計100ppm未満の前記合金の気体酸化種を含む雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項24に記載の製造方法。
【請求項27】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、0℃未満の露点を有する雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項24に記載の製造方法。
【請求項28】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、-40℃未満の露点を有する雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
前記最終静的または連続再結晶焼なましが、-60℃未満の露点を有する雰囲気下で実行されることを特徴とする、請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
第1の冷間圧延の前に、1分間から24時間、少なくとも650℃、最高で以下の温度で、前記合金のフェライト領域における静的または連続焼なましが行われ、
前記合金のSi含有量が、(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cであり、
前記第1の冷間圧延の前の前記合金のフェライト領域における前記静的または連続焼なましが、少なくとも5%の水素、および合計1%未満の前記合金の気体酸化種を含み、+20℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項31】
第1の冷間圧延の前に、2分間から10時間、前記合金のフェライト領域における静的または連続焼なましが行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
第1の冷間圧延の前に、少なくとも700℃の温度で、前記合金のフェライト領域における静的または連続焼なましが行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項33】
前記第1の冷間圧延の前の前記合金のフェライト領域における前記静的または連続焼なましが、100%水素を含む雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項34】
前記第1の冷間圧延の前の前記合金のフェライト領域における前記静的または連続焼なましが、0℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項35】
前記第1の冷間圧延の前の前記合金のフェライト領域における前記静的または連続焼なましが、-40℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項36】
前記第1の冷間圧延の前の前記合金のフェライト領域における前記静的または連続焼なましが、-60℃未満の露点を有する雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項30に記載の製造方法。
【請求項37】
前記最終静的または連続再結晶焼なましの後に、600℃/hと同等またはそれ未満の速度で実施される冷却が行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項38】
前記最終静的または連続再結晶焼なましの前に、600℃/hと同等またはそれ未満の速度での加熱が行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項39】
前記最終静的または連続再結晶焼なましの後、400から700℃の間の温度で、前記シートまたはストリップの表面上に0.5から10μmの厚さの絶縁酸化層を得るために十分な時間で、酸化焼なましが行われることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項40】
前記最終静的または連続再結晶焼なましの後、400から550℃の間の温度で、前記シートまたはストリップの表面上に0.5から10μmの厚さの絶縁酸化層を得るために十分な時間で、酸化焼なましが行われることを特徴とする、請求項39に記載の製造方法。
【請求項41】
請求項1から12のいずれか一項に記載のシートまたはストリップからその少なくとも一部が調製された積層または巻シートから構成されることを特徴とする、変圧器の磁気コア。
【請求項42】
前記コアが請求項41に記載されたタイプのものであることを特徴とする磁気コアを備える変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄およびコバルトの合金、特に10から35%程度の含有量のCoと、純鉄と、3%のSi含有量を有する鉄及びケイ素の合金とを含む合金に関する。これらの材料は、特に航空機の変圧器コアなどの磁性部品を形成するために使用される。
【背景技術】
【0002】
航空機搭載の低周波変圧器(≦1kHz)は、構造制約に従って成層、積層または巻型軟磁石磁性コアと、一次および二次巻線(銅)とから主に構成される。一次供給電流は経時的、周期的に可変であるが、必ずしも純正弦波ではなく、変圧器の要求を基本的に変更しない。
これらの変圧器に対する制約は複数ある。
【0003】
変圧器は、体積または質量電力密度が可能な限り高くなるように、可能な限り小さい体積および/または質量(通常両者は緊密に関連する)を有さなければならない。動作周波数が低いほど、このヨークの磁気ヨークおよび体積(すなわち質量)が大きくなければならず、低周波数の応用のために小型化する重要性が高まる。基本周波数は多くの場合に必須条件であるため、搭載質量の低減によって質量電力をさらに増加させるために、可能な限り高い磁束を得るかまたは、供給される電力が必須である場合、磁束の通過部分(したがって材料の質量)を可能な限り低減するということになる。
【0004】
変圧器は、利益を生むために十分な寿命(用途に応じて少なくとも10から20年)を有さなければならない。したがって、熱作動体制は、変圧器の経年変化を考慮しなければならない。典型的に、200℃で100,000時間の最短寿命が望ましい。
【0005】
変圧器は、特に、変圧器が付勢されるとき、または電磁アクチュエータが突然起動されるとき、ある瞬間から次の瞬間まで、最大60%まで過渡的に変化し得る出力rms電圧を有する大部分が正弦波周波数の電力供給ネットワークで作動しなければならない。これは、磁気コアの非線形磁化曲線を通る変圧器の一次側への電流突入の結果を有する。変圧器の要素(絶縁体および電子部品)は、いわゆる「突入効果」と呼ばれるこの突入電流の大きな変動に、損傷することなく耐性を有さなければならない。
【0006】
この突入効果は、式In=2.Bt+Br-Bsatで計算される「突入指数」(In)によって定量化され得、式中Btは変圧器の磁気コアの公称作動誘導であり、Bsatはコアの飽和誘導であり、Brは残留誘導である。
【0007】
電磁力および磁歪に起因して変圧器が放出するノイズは、現行の基準に準拠するかまたはユーザもしくは変圧器付近に配置された人員の要件を満たす程度に十分低くなければならない。操縦士および副操縦士は、ヘッドフォンを必要とせずに直接通信できることをますます望んでいる。
【0008】
変圧器の熱効率は、内部動作温度、ならびに例えば巻線およびヨークの両方を取り囲み、必要な寸法を有するオイルポンプを伴うオイルによって除去しなければならない熱流を決定するため、非常に重要である。熱源は主に、一次および二次巻線からのジュール損失、ならびに磁性材料における経時的磁束変化による磁気損失の形態である。産業的実施において、取り出される体積熱出力は、オイルポンプのサイズおよび出力、ならびに変圧器の内部動作限界温度によって定められる特定の閾値に制限される。
【0009】
最後に、変圧器のコストは、材料のコスト、設計、製造およびメンテナンスと、変圧器の熱形態を考慮することによる装置の電力密度(質量または体積)の最適化との間の最良の技術的‐経済的譲歩を確保するために可能な限り低くなければならない。
【0010】
一般的に、可能な限り高い質量/体積電力密度を求めることが有利である。考慮すべき基準は、主に飽和磁化Jsおよび800A/mB800での磁気誘導である。
現在、航空機搭載低周波数変圧器を製造するために2つの技術が使用されている。
【0011】
これらの技術の1つ目(「巻鉄心」と呼ばれる)によると、変圧器は、電源が単相である場合には巻型磁気回路を備える。電源が三相の場合には、変圧器のコアの構造は、2つのトロイダルコアの周りに「8」を形成する3つ目の巻トロイドによって囲まれる2つのトロイダルコアを備える。実際には、この形態の回路は、薄い厚さの磁気シート(典型的に0.1mm)を必要とする。実際、この技術は、誘導電流を考慮して、供給周波数がこの厚さのストリップを必要とする場合のみ、すなわち典型的に数百Hzの周波数に対して使用される。
【0012】
これらの技術の2つ目(「成層積層鉄心」と呼ばれる)によると、磁気シートの厚さにかかわらず積層された磁気回路が使用される。したがって、この技術は、数kHz未満の任意の周波数に対して有効である。しかしながら、寄生エアギャップを低減し(したがって皮相電力を最適化する)、シート間で生じる電流を制限するために、ばり取り、並置、シートの電気的絶縁において特定の配慮が必要である。
【0013】
これらの技術のいずれにおいても、あらゆるストリップの厚さが想定される機内搭載電源変圧器において、透磁性の高い軟磁性材料が使用される。これらの材料の2つの群は、0.35mmから0.1mmまたは0.05mmの厚さで存在し、化学組成によって明確に区別される:
‐Fe-3%Si合金(明細書を通して合金の組成は重量%で示される)であって、その脆性および電気抵抗は主にSi含有量によって制御され、磁気損失は非常に低い(N.O.無方向性粒子合金)から低く(O.G.方向性粒子合金)、飽和磁化Jsは高く(2T程度)、コストは非常に安価である合金であり;その一方または他方が機内搭載変圧器コア技術に使用される2つのFe-3%Si下位群が存在する:
巻型の機内搭載変圧器構造に使用される方向性粒子(O.G.)を有するFe-3%Siであって、その高い透磁性(B800=1.8~1.9T)は非常に明白な{110}<001>集合組織に関連するものであり、これらの合金は高価でなく、形成が容易であり、透磁性が高いという利点を有するが、飽和は2Tまでに限られ、非常に著しい高調波を生じさせ得る非常に明白な非線形磁化曲線を有する;
積層型機内搭載変圧器構造に使用される無方向性粒子(N.O.)Fe-3%Siであって、透磁性が低減される一方で飽和磁化はO.G.と同等である;
‐Fe-48%Co-2%V合金であって、その脆性および電気抵抗は主にバナジウムによって制御され、物理特性(weak K1)だけでなく、K1を非常に低い値に設定する最終焼なまし後の冷却にも起因する高い透磁性を有するが、その脆弱性のために、これらの合金は(切断、スタンピング、折り畳み等によって)硬化状態に成形されなければならず、最終形状(回転機の回転子または固定子、変圧器のEまたはI形状)を得ると材料は次いで最終段階において焼なましされ、さらに、Vが存在するため、酸化を防ぐために焼なまし雰囲気の品質は完全に制御されなければならず、最後に、非常に高価である(Fe-3%Si-O.G.の20から50倍)この材料の価格は、Coの存在に関連し、Co含有量にほぼ比例するものであるが、より低いレベルのCo(典型的に18または27%)を有するFe-Co合金もまた存在し、Co含有量がより少ないため前述のものよりも安価である利点を有する一方で前述のFeCo48V2合金と同程度かまたはそれよりわずかに高い場合もある飽和磁化を提供する。しかしながらFeCo48V2合金の透磁性および磁気損失はFeCo等原子合金よりも著しく高い。
これらの2つの群の高透磁性材料のみが現在機内搭載電力変圧器に使用されている。
【0014】
FeCo等原子合金を除くと、高飽和材料(純Fe、Fe-Siまたは40%未満のCoを含むFe-Co)は、数十kJ/mの結晶磁気異方性を有し、最終結晶方位の不規則分布の場合には高い透磁性を有することができない。中周波機内搭載変圧器用の40%未満のCoを含む磁気プレートの場合には、各粒子における<100>軸が圧延方向と非常に近いことを特徴とする鋭い集合組織に成功の可能性が必然的に依存することが長く知られてきた。二次再結晶化によってFe-Siに得られる{110}<001>いわゆる「ゴス」集合組織は適当な例である。しかしながら、これらの参照研究によると、シートはコバルトを含むべきではない。
【0015】
より最近では、文献(US3.881.967)において、4から6%のCoおよび1から1.5%のSiを添加し、二次再結晶:B800≒1.98T、すなわち最良の現在のFe3%SiO.G.シート(B10≒1.90T)と比較して800A/mでの0.02T/%のCoの増加によって、高透磁性が得られ得ることが示された。しかしながら、B800の4%のみの増加では変圧器を著しく軽量化するためには十分でないことが明らかである。比較のために、変圧のために最適化されたFe-48%Co-2%V合金は、およそ2.15T±0.05TのB800を有し、2500A/mで略15%、5000A/mで略16%の、同一のヨーク部分に対して800A/mで13%±3%の磁束の増加が可能である。
【0016】
二次再結晶化に起因してFe3%Si‐O.G.中に存在する粗粒子、および明らかに0より大きな磁歪係数λ100の存在と合わせて、1.9TのB800を可能にする結晶間の非常に小さなずれに留意すべきである。これにより、この材料は搭載および動作拘束に対して非常に敏感になり、略1.8Tでの機内搭載変圧器の作動によって、Fe3%SiO.G.のB800を産業的実施に戻す。これもまた、文献(US-A-3881967)の合金の場合である。さらに、Fe-48%Co-2%Vは、Fe-3%Siよりも4から5倍高い磁歪係数、結晶方位の不規則分布、および小さな平均粒径(数十ミクロン)を有し、それにより、特に磁化特性J(H)およびひいてはB(H)の非常に強い変動を引き起こす弱い拘束に対して非常に敏感となる。これらの変動は、拘束が一方向性であり収縮である場合には向上する傾向にあり、拘束が一方向性であり圧縮である場合には低下する傾向にある。
【0017】
作動中、磁化および飽和磁気誘導の増加に起因して、Fe3%SiO.GをFe-48%Co-2%Vに代えることで、800から5000A/mの磁場強度に対して機内搭載変圧器の一定区間磁束を20から25%程度増加させる、すなわちCoの%あたり磁束が略0.5%増加することを考慮すべきである。文献(US-A-3.881.967)の合金は、1%Co当たり1%の磁束の増加を可能にするが、先に述べたように、この合計増加(4%)は、この材料の発達を判断するには弱すぎると考えられる。
【0018】
特に文献(US-A-3.843.424)において、2%未満のCrおよび3%未満のSiを有し、一次再結晶化および正常結晶粒成長によって得られるゴス集合組織を有するFe-5-35%Co合金を使用することが提案された。Fe-27%Co-0.6%CrまたはFe-18%Co-0.6%Crの組成は、800A/mで2.08Tおよび8000A/mで2.3Tを得ることを可能にすることが記載されている。作動中、および800A/mで1.8Tおよび5000A/mで1.95Tで作動するFe-3%Si-O.G.シートと比較して、これらの値は、800A/mで16%および5000A/mで18%のヨーク部における磁束の増加を可能とし得るため、変圧器の体積または質量を低減させ得る。したがって、Fe-低Co合金(合金化元素の可能性のある追加を含む)のいくつかの組成および製造プロセスが提案されており、一般的にそれによりFe-48%Co-2%V商用合金で得られるものに近い10Oeでの磁気誘導を得ることが可能となるが、Coレベル(ひいてはコスト)は著しく低い(18から25%)。
【0019】
しかしながら、これらの全ての材料は、通常のプロセスによって入手および処理した場合には、少なくともいくつかの方向(例えば参照として圧延方向DL)に対して高い磁歪を表すことが示されている。励磁の方向は磁気回路の一つの場所から別の場所まで大きく変化し得るため、たとえ一つの方向において磁歪が弱くても、異なる方向による磁歪の均一性の欠如は非常に著しい磁歪ノイズの生成に非常によくつながり得る。
【0020】
積層型コア技術を使用した航空機の変圧器にFeNi合金が使用されることは知られていない。実際には、これらの材料は、前述のFe-Si(2T)またはFe-Co(>2.3T)よりもずっと低い飽和磁化Js(Fe-Ni50で最大1.6T)を有し、さらに、FeNi50ではλ111=7ppmおよびλ100=27ppmの磁歪係数を有する。このことは、無方向性型(すなわち明白な集合組織を有さない)のFe-Ni50多結晶材料の見掛けの飽和磁歪がλsat=27ppmという結果をもたらす。このレベルの磁歪は、高いノイズを生成し、飽和磁化Jsが非常に中程度であることも加わり、この材料が使用されない理由を説明している。
【0021】
要するに、航空機変圧器設計者が直面する様々な問題が生じ得る。
磁歪に起因するノイズに対する強い要件がない場合には、低い突入効果、変圧器の高質量密度、高効率および低磁気損失に対する要件の間での譲歩により、Fe-SiO.G.、Fe-Co、または鉄系非晶質材料を使用した巻型磁気コアの解決策、またはFe-SiN.O.もしくはFe-Coを使用した積層型磁気コアを含む解決策が使用される。
【0022】
後者の場合、FeSiN.O.もしくはO.G.電気鋼またはFe49Co49V2などのFeCo合金のE形またはI形積層型コアが頻繁に使用される。しかしながら、これらの材料は大きな磁歪を有し、磁化方向はE構造において同一の結晶方向を常に維持するわけではないため、これらの変圧器構造は、寸法設計が通常の作用誘導レベル(Jsの略70%)で行われた場合には、大きく変形し、著しいノイズを放出し得る。ノイズの放出を低減するために、以下のことが必要である:
‐操作誘導(working induction)を低減するが、同一の電力が伝送されるように、同じ比率でコア部、つまりその体積および質量を増加させる;
‐または、変圧器を音響的に遮蔽し、それにより追加のコストが生じ、変圧器の質量および体積が増加する。
【0023】
これらの条件下で、仕様の重量およびノイズ制約を同時に満たす変圧器を常に設計することはできない。
低ノイズ磁歪に対する要件が次第に広がってきたが、同一の磁束を維持するために、平均操作誘導Btを低減し、したがってコア部および総質量を増加させる以外にはノイズを低減する方法が知られていないため、変圧器の体積および質量を増加させる以外には前述の技術を使用してそれらの要件を満たすことができない。B1は、ノイズ要件の存在しないFe-SiまたはFe-Coでの1.4から1.7Tの代わりに略1Tまで低減しなければならない。しばしば変圧器に詰物を加えることもまた必要であり、重量および大きさを増加させる。
【0024】
現在の解決策よりも高い操作誘導を有する限り、磁歪がゼロの材料のみが問題を解決することができる。略0.75Tの飽和磁気誘導Jsを有し、ナノ結晶のJsが略1.26TであるFe-80%Ni合金のみがそのように低い磁歪を有する。しかし、Fe-80%Ni合金は、従来の変圧器より軽い変圧器を提供するためには操作誘導Btが低すぎる。ナノ結晶のみが、非常に低いノイズが必要とされるこの軽量化を可能にする。ノイズの低減に対する必要性がそれほど大きくない場合、ナノ結晶は比較的沈黙した解決策とみなされるが、従来の方法において操作誘導を低下させる方法と比較して大きすぎる増量および/または変圧器への詰物を必要とする。
【0025】
しかし、ナノ結晶は、「機内搭載変圧器」の解決策の場合に主要な問題を提起する。それらの厚さは略20μmであり、ナノ結晶化をもたらす熱処理を通してトロイドの形状が維持されるように、剛性支持体の周りに非晶質軟質状態でトロイドに巻かれている。この支持体は、トロイドの形状を永久に保持するために、また、前述の巻型回路の技術を使用することによって、変圧器を小型化するためにトロイドはしばしば半分に切断されるため、熱処理後に除去されない場合もある。巻型コアに樹脂を含浸することによってのみ、樹脂の硬化後に除去される支持体なしで同一の形状を維持することができる。しかしながら、含浸および硬化されたナノ結晶C切断の後、巻線が挿入されると閉鎖トロイドを再構築するために2つの部材をぴったり対向して配置することを妨げるCの変形が生じ得る。変圧器内でCを固定する制約もまたその変形をもたらし得る。したがって、支持体を維持することが好ましいが、その場合変圧器の重量を増加させる。さらに、ナノ結晶は、他の軟質材料(鉄、FeSi3%、Fe-Ni50%、FeCo、非晶質鉄系合金)よりも明らかに低い飽和磁化Jsを有し、磁気コア部の増大はJsによって課される操作誘導の降下を補填しなければならないため、変圧器の重量の著しい増加につながる。さらに、「ナノ結晶」解決策は、求められる最大ノイズレベルが低く、別の軽量化およびノイズの少ない解決策が利用できない場合に最後の手段として使用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】米国特許出願公開第3881967号明細書
【文献】米国特許出願公開第3843424号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、強力な操作誘導にさらされたときにも非常に低い磁歪を有する変圧器コアを構成する材料を提案することにあり、大きすぎる質量の磁気コアを使用することはできないため、高い質量(または体積)密度を有する変圧器を提供することにある。こうして得られる変圧器は、ユーザの快適性のために低い磁歪ノイズが有利である航空機コックピットなどの環境において有利に使用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的を達成するために、本発明の主題は、冷間圧延および焼なましされた鉄系合金のシートまたはストリップであって、その組成が重量百分率で以下から成り、
微量≦C≦0.2%、好ましくは微量≦C≦0.05%、より好ましくは微量≦C≦0.015%;
微量≦Co≦40%;
Co≧35%である場合には、微量≦Si≦1.0%;
微量≦Co<35%である場合には、微量≦Si≦3.5%;
微量≦Co<35%である場合には、Si+0.6%Al≦4.5-0.1%Co、好ましくはSi+0.6%Al≦3.5-0.1%Co;
微量≦Cr≦10%;
微量≦V+W+Mo+Ni≦4%、好ましくは≦2%;
微量≦Mn≦4%、好ましくは≦2%;
微量≦Al≦3%、好ましくは≦1%;
微量≦S≦0.005%;
微量≦P≦0.007%;
微量≦Ni≦3%、好ましくは≦0.3%;
微量≦Cu≦0.5%、好ましくは≦0.05%;
微量≦Nb≦0.1%、好ましくは≦0.01%;
微量≦Zr≦0.1%、好ましくは≦0.01%;
微量≦Ti≦0.2%;
微量≦N≦0.01%;
微量≦Ca≦0.01%;
微量≦Mg≦0.01%;
微量≦Ta≦0.01%;
微量≦B≦0.005%;
微量≦O≦0.01%;
残部が鉄および調製由来の不純物であり、1.8Tの誘導に対して、その長手側が、前記シートまたはストリップの圧延方向(DL)に平行、前記シートまたはストリップの横方向(DT)に平行、および前記圧延方向(DL)と前記横方向(DT)と45°の角度をなす方向に平行である、前記シートまたはストリップの3つの長方形サンプル(2、3、4)に対する、印加された磁場(Ha)に平行(λ/H)、および印加された磁場(Ha)に垂直(λ┴H)に測定された磁歪変形の大きさλの間の最大差(MaxΔλ)が、最大25ppmであり、その再結晶率が80から100%であることを特徴とする。
【0029】
本発明の別の形態によると、10%≦Co≦35%である。
好ましくは、ストリップまたはシートは、定義された結晶方位{h}<u>から15°未満のずれによって定義される{hkl}<uvw>集合組織成分を30%以下含む。
【0030】
本発明はまた、上述のタイプの鉄系合金ストリップまたはシートの製造方法に関し、以下の特徴を有する:
組成が以下からなる鉄系合金が調製され、
微量≦C≦0.2%,好ましくは微量≦C≦0.05%、より好ましくは微量≦C≦0.015%;
微量≦Co≦40%;
Co≧35%である場合には、微量≦Si≦1.0%;
微量≦Co<35%である場合には、微量≦Si≦3.5%;
微量≦Co<35%である場合には、Si+0.6%Al≦4.5-0.1%Co、好ましくはSi+0.6%Al≦3.5-0.1%Co;
微量≦Cr≦10%;
微量≦V+W+Mo+Ni≦4%、好ましくは≦2%;
微量≦Mn≦4%、好ましくは≦2%;
微量≦Al≦3%、好ましくは≦1%;
微量≦S≦0.005%;
微量≦P≦0.007%;
微量≦Ni≦3%、好ましくは≦0.3%;
微量≦Cu≦0.5%、好ましくは≦0.05%;
微量≦NbまたはZr≦0.1%、好ましくは<0.01%
微量≦Ni≦3%、好ましくは≦0.3%;
微量≦Cu≦0.5%、好ましくは≦0.05%;
微量≦Nb≦0.1%、好ましくは≦0.01%;
微量≦Zr≦0.1%、好ましくは≦0.01%;
微量≦Ti≦0.2%;
微量≦N≦0.01%;
微量≦Ca≦0.01%;
微量≦Mg≦0.01%;
微量≦Ta≦0.01%;
微量≦B≦0.005%;
微量≦O≦0.01%;
残部が鉄および調製由来の不純物であり、
インゴットまたは連続鋳造半製品の形態で鋳造され、
前記インゴットまたは連続鋳造半製品が、2から5mm厚、好ましくは2から2.5mm厚のストリップまたはシートの形態に熱成形され、
各々が50から80%、好ましくは60から75%の圧延率を有する、前記ストリップまたはシートの少なくとも2つの冷間圧延作業が実施され、その温度は以下の通りであり:
前記合金が3.5-0.1%Co≦Si+0.6%Al≦4.5-0.1%CoおよびCo<35%であるようなSi含有量を有する場合または前記合金がCo≧35%およびSi≦1%を含む場合、および前記冷間圧延の前に、最高400℃の温度で1時間から10時間の間、再加熱、好ましくは焼付けが行われる場合には、周囲温度から350℃であり、
その他の場合には、外気温から100℃であり、
前記冷間圧延は、少なくとも650℃、好ましくは少なくとも750℃の温度、最高で以下の温度で、1分間から24時間、好ましくは2分間から1時間の間での、合金のフェライト領域における静的または連続焼なましによって、各々が分離され、
前記合金のSi含有量が(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cであり、
2つの冷間圧延作業を分離する前記焼なましが、少なくとも5%の水素、好ましくは100%の水素および合計1%未満、好ましくは100ppm未満の前記合金の気体酸化種を含み、かつ+20℃未満、好ましくは0℃未満、より好ましくは-40℃未満、最適には-60℃未満の露点を有する雰囲気下で行われ、
80から100%の前記ストリップまたはシートの再結晶率を得るために、最終静的または連続再結晶焼なましが、1分間から48時間、650から(900±2%Co)℃の温度で、前記合金のフェライト領域において実行されることを特徴とする。
【0031】
最終再結晶焼なましは、真空下、前記合金の非酸化雰囲気下、または水素化雰囲気下で実行され得る。
【0032】
前記最終再結晶焼なましは、少なくとも5%の水素、好ましくは100%の水素および合計1%未満、好ましくは100ppm未満の前記合金の気体酸化種を含み、かつ+20℃未満、好ましくは0℃未満、より好ましくは-40℃未満、最適には-60℃未満の露点を有する雰囲気下で実行され得る。
【0033】
第1の冷間圧延の前に、1分間から24時間、好ましくは2分間から10時間、少なくとも650℃、好ましくは少なくとも700℃、最高で以下の温度で、前記合金のフェライト領域における静的または連続焼なましが行われ得、
前記合金のSi含有量が、(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cと同等またはそれより多い場合には、1400℃であり、
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合には、Tα-lim=T+k%Siであり、式中T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cであり、
前記焼なましが、少なくとも5%の水素、好ましくは100%の水素、および合計1%未満、好ましくは100ppm未満の前記合金の気体酸化種を含み、+20℃未満、好ましくは0℃未満、より好ましくは-40℃未満、最適には-60℃未満の露点を有する雰囲気下で行われる。
【0034】
最終再結晶焼なましの後に、2000℃/hと同等またはそれ未満、好ましくは600℃/hと同等またはそれ未満の速度で実施される冷却が行われ得る。
最終再結晶焼なましの前に、2000℃/hと同等またはそれ未満、好ましくは600℃/hと同等またはそれ未満の速度で実施される加熱が行われ得る。
【0035】
最終再結晶焼なましの後、400から700℃の間、好ましくは400から550℃の間の温度で、シートまたはストリップの表面上に1から10μmの厚さの絶縁酸化層を得るために十分な時間で、酸化焼なましを行うことができる。
【0036】
本発明はまた、前述のタイプのシートまたはストリップからその少なくとも一部が製造された積層または巻シートから構成されることを特徴とする変圧器磁気コアも関する。
本発明の主題は、前記コアが前述のタイプのものであることを特徴とする磁気コアを備える変圧器である。
【0037】
本発明は、鉄‐コバルトまたは鉄‐ケイ素または鉄‐ケイ素‐アルミニウム合金の形態であり、熱処理が全て合金のフェライト領域にある定義された熱および機械処理が行われた、変圧器コアの要素などの磁気部品を構成することが意図された材料の使用に基づくものである。純粋な、または非常にわずかに合金化された鉄の使用もまた想定される。
【0038】
予想に反して、かつ現在のところ発明者らが十分な根拠を持って説明することができないが、その結果は、例えば最大1.5または1.8Tに達し得る高強度の磁場においてさえ非常に低い磁歪である。FeCo合金は長い間通常は高い磁歪を有することが知られてきたため、この結果は、特に、本発明によって影響を受けるFeCoタイプの材料の場合には驚くべきものである。
【0039】
しかし、特に予想外であったのは、これらの高い磁場に対してもこの磁歪が著しい等方性を表すことであった。実際、圧延方向および横方向(圧延方向に垂直)、ならびにこれらの2つの方向と45°の角度をなす方向の全てにおいて、少なくとも1Tの周囲磁場まで、ほぼゼロを維持する。1Tを超えても、これらの3方向において観察される磁歪の差は、少なくとも1.8Tまたは2Tの磁場まで、顕著に低減されたままである。
【0040】
このように、コアを構成するシートの全ての方向において低い磁歪ノイズを有し、したがって特に低い全体磁歪ノイズを有する変圧器が得られ、これは、乗員間の直接の会話を妨げずにコックピット内に配置され得る特に航空機用機内搭載変圧器を構成するのに適する。
【0041】
本発明は、添付の図面を参照して以下の説明を用いることでより深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明および参照試験による試験において使用されたシートサンプルのサンプリングおよび試験の方法を示す。
図2】本発明に従わない方法によって得られたFeCo27合金のサンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図3】本発明に従わない方法によって得られたFeCo27合金のサンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図4】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図5】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図6】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図7】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図8】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図9】本発明による方法によって得られたFeCo27合金サンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図10】本発明に従わない方法によって得られたFeCo27合金のサンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図11】本発明に従わない方法によって得られたFeCo27合金のサンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
図12】本発明に従わない方法によって得られたFeCo27合金のサンプルの様々な方向における磁場の強度に対する磁歪曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明が適用される金属および合金は、鉄ならびに調製由来の不純物および残留元素に加えて以下の化学元素を含む、フェライト組織を有する鉄および鉄系合金である。全ての割合は重量百分率である。
【0044】
所与の元素の含有量範囲の下限を定義するために「微量」という場合、冶金技術者には普通であるように、対象の元素が、材料の性質に影響を与えないが、常に厳密にゼロであると確実に断言され得ない、最大でも非常に低レベルで存在することを意味するものと理解すべきである。一般的に、使用されるいくつかの原材料中のほぼ不可避の存在に起因して、または液体金属の調製の間に導入される汚染に起因して、少量の対象元素が分析機器によって最終合金中に検出される。この汚染は、例えば、容器(溶解炉、レードル、等)を被覆し、その中で液体金属が鋳造される、特にマグネシアおよび/またはアルミナおよび/またはシリカを含む耐火材料の摩耗に起因し得る。また、液体金属と雰囲気との接触により、窒素、およびほとんどの脱酸素元素(Al、Si、Mn、Ti、Zr、等)と結合されて非金属介在物を形成し得、そのいくらかが最終金属中に残留し得る酸素の吸収がもたらされ得る。検出用分析機器の精度および対象元素の含有量の測定もまた考慮しなければならない。一般的に、元素が「微量」の形態で存在することができるといわれる場合、その含有量が単に制御されていない、すなわち調製の間にその元素が意図的に添加されたものではなく、特定の限度を超えてこの含有量を維持しなくてよいあらゆる場合を含むものと考えられる。特に、元素が発明において使用される合金の定義において明確に言及されていない場合、その考えられる存在が定義されたように「微量」に限定されるものと考えられるべきである。
【0045】
「微量」レベルと定義された上限との間の含有量で存在するといわれる元素では、その限度が、
‐この限度を超えると合金のある性能が不足し得るため、原材料を慎重に選択し、および/または調製の間に可能な限り液体金属の汚染を避けることによって、および/または必要であり可能であれば調製の間に不純物の含有量を低下させるための作業(脱硫、脱リン等)を実行することによって、前記不純物がこの限度を超過しないようにしなければならない、超過すべきでない不純物レベルの上限、
‐または最終合金に有利な特性を与えるために、対象元素を意図的に添加する上限であって、この添加が任意選択的である、上限、
のいずれかであることを意味する。
【0046】
試験した様々な合金の組成を示す表において、含有量が「~未満」であると記載されている場合、元素が本当に全く存在しないか、または存在するが表に与えられた下限より低レベルであるか、分析機器が非常に確実に判断することができず、対象元素が上記の意味で微量の形態でのみ存在するという意味に等しいと理解すべきである。
【0047】
本発明によるシートまたはストリップを構成する合金は、原材料にCが添加されていない調製由来の微量から0.2%の間、好ましくは微量から0.05%の間、より好ましくは微量から0.015%の間の含有量でCを含む。
【0048】
本発明の特定の可能な変形例は、合金の機械または磁気特性に関する理由のために最終生成物がこれらのC含有量を有するように故意に意図するよりも液体金属の脱酸素条件に由来する(特に真空下で実施されるステップの間の液体金属内でのCOの形成)、典型的に0.005から0.15%のC含有量を有する、FeCo27およびFeSi3型の合金に属する。
【0049】
実際には、0.05から0.2%の間であり得る閾値を超えると、磁性特性が劣化する傾向にある炭化物の析出が観察され得るため、この理由からいかなる場合でも0.2%を超える含有量は許容されないため、本発明において使用される最終合金中に非常に多量のC含有量を見出すことは望ましくない。さらに、Cが0.01%を超えると、外気温を超える温度で数ヶ月または数年間変圧器を作動させた後に、Cの塊の時効析出が観察され得ることが知られている。磁性特性(磁性損失、透磁率、等)は、影響を受け得る。これらの理由から、上述の最適限度内にC含有量を維持することが好ましい。
【0050】
合金は、微量から40%の間のCoを含む。最大である40%は、熱処理の間に規則‐不規則の転移が急速かつ激しく生じないように決定される。これは、熱間圧延後の複数の焼なましを防ぎ、本発明を実施するために、冷間圧延の前または後に2つの、好ましくは3つの焼なましが必要であることが見られる。巻コア変圧器に使用される特に優れたストリップを得ることが望ましい場合には、中間焼なましに相当する冷間圧延をより多く実施することもまた可能である。
【0051】
Coは、調製由来の微量の状態でのみ、すなわち意図的に添加されていない、限定された量で存在し得るが、Co<35%である場合、Si+0.6%Al≦4.5‐0.1%CoおよびSi≦3.5%でなければならない。したがって、例えば、コバルトが存在しない場合、本発明の範囲内を維持するために、3.5%の微量含有量のSiおよび微量から1%のAlの微量含有量が必要である。それは、鉄‐ケイ素もしくは鉄‐ケイ素‐アルミニウム合金、または純粋なもしくは非常にわずかに合金化された鉄の場合である合金であり、本発明に適合し得る。
【0052】
純粋な鉄‐コバルト合金(3.5%未満のSiを含有する)の場合、10から35%のCo含有量が好ましい。
【0053】
本発明は最も典型的に、略27%のCoを含む従来型のFe-Co合金、および略3%のSiを含むFe-Si合金に適合する。
【0054】
本発明が適合する合金は、以下のSi含有量を有する:
‐Co含有量が少なくとも35%である場合には、微量から1.0%であり、
‐Co含有量が35%未満である場合には、Si+0.6%Al≦3.5-0.1%Coである。
【0055】
しかしながら、圧延が、厳密に冷間ではないが、「温間」すなわち最大350℃の温度で実施される場合、Si+0.6%Al≦4.5-0.1%Coである含有量が許容されてよく、この圧延温度は好ましくは焼付け、すなわち低温での静的チャンバ内での加熱によって得られるものである。外気温またはその付近の温度で実施される圧延と比較して、この温間圧延(本願明細書における冷間圧延と完全に同等であると許容されるものであり、その作業の温度が詳細に示されていない場合には、「冷間圧延」との用語は、最高350℃の温間圧延もまた含むものと理解すべきである。これは冶金技術者に知られている、数百度またはさらには1000℃を超える著しく高温で実施される温間圧延に相対する)は、材料をよりよく圧延することを可能にし、圧延の間により延性を有し、亀裂しにくい傾向にある。熱間圧延されたストリップおよび熱間圧延されたシートをオーブン内で静的加熱することにより、巻線またはシートを所望の温度で数時間維持することが可能となるため、温間圧延が実施される前に材料全体で温度が均一となる。焼なまし炉は一般的にそのような低温での作業のために寸法形成されていないため、この目的ではオーブンより適さない。この焼付けは、空気中で実施され得、最大所望温度は、以降の水素化雰囲気での焼なましで改善できないストリップまたはシートの表面の強力酸化を引き起こすほど通常は高くない。
【0056】
再加熱温度は、加熱プラントと圧延プラントとの間の輸送の間にストリップまたはシートが受ける予想される冷却に応じて決定すべきである。再加熱温度は、温間圧延時にストリップまたはシートが目的の温度となるために十分でなければならないが、再加熱の間またはプラントへの輸送の間に材料が著しく酸化することを防ぐために、400℃を超えてはならない。
当然ながら、焼付けまたは一般的に再加熱の間に中性または還元雰囲気を使用することは除外されない。
【0057】
Coの含有量を考慮したAl含有量に関連したSi含有量の限定は、材料の優れた冷間、または外気温より著しく高いが非常に高くはない温度での(温間圧延に関しては最大350℃、上記参照)圧延性能を維持することへの配慮に起因するものである。
Si含有量はまた、材料の製造の間にフェライト組織を持続的に維持するという要求に基づいて管理され、これは本願が基づく低く等方性の磁歪を得るために重要である。
【0058】
本発明者らは、本発明によるシートの磁歪の顕著な等方性に対する説明を、熱処理および冷間圧延の間の集合組織の「由来」または「継承」が完全であり、フェライトドメイン中に必ず残り続けるという事実に見出すことが可能であると考える。
【0059】
集合組織の「由来」または「継承」との用語を使用する際には、冶金作業の間に材料の集合組織のゆるやかな変形を自然にもたらす現象を指す。本発明の場合には、この変形が処理の間に生じ得る相転移によって妨げられず、熱間圧延の前に材料における初期集合組織の「記憶」が維持されることが重量であり得ることがわかる。このことが、発明者らに全ての処理を完全に合金のフェライト領域において実施する動機を与える。理論的観点にかかわらず驚くべきことに、本発明による方法は、実施例において見られるように、材料の弱いテクスチャ形成をもたらすのであるが、この集合組織の由来は、本発明の特徴である低い磁歪および磁歪等方性を得るために重要なようである。
【0060】
Cr含有量は、微量から10%の範囲であり得る。Crの添加は、Feの積層欠陥エネルギーを非常にわずかしか修正しないため、本発明によって実施される処理の間に集合組織の由来が著しく変更されない。それは飽和磁化Jsatを低下させるが、この理由から10%を超える量を添加することは望ましくない。一方で、Siと同様に、電気抵抗を著しく増加させるため、有利には磁気損失を低下させる。しかしながら、変圧器の冷却によりより多くの磁気損失が許容されるが、この場合には低含有量または微量のCrが許容され得る。
【0061】
V、W、MoおよびNiの総含有量は、微量から4%の間、好ましくは微量から2%の間である。これらの元素は電気抵抗を増加させるが、飽和磁化を低下させ、このことは通常望ましくない。
【0062】
Mn含有量は、微量から4%の間、好ましくは微量から2%の間である。この比較的低い最大含有量の理由は、MnがFeCoの主な寄与の1つである飽和磁化を低減することにある。Mnはわずかしか電気抵抗を増加させない。特に、Mnはガンマ生成元素であり、フェライト系焼なましを許容する温度範囲を低下させる。フェライト微細組織の継承に関する問題に関して、処理の間にフェライト領域から出ることは望ましくないが、過剰なMnの存在は、そのような逸脱のリスクを高める。Al含有量は、微量から3%の間、好ましくは微量から1%の間である。Alは飽和磁化を低下させ、電気抵抗を増加させる点でSiまたはCrよりもずっと非効率的である。しかしながら、Alは、前述のように、ケイ素添加の限界に達したときに高合金FeCo等級の冷間圧延性能の範囲を拡張するために使用され得る。
【0063】
S含有量は、微量から0.005%の間である。実際には、Sは、マンガンを含む硫化物およびCaおよびMgを含むオキシ硫化物を形成する傾向にあり、それは磁気性能、特に磁気損失を強く劣化させる。
P含有量は、微量から0.007%の間である。実際には、Pは、磁気性能および微細組織の調製に有害である金属元素のリン化物を形成し得る。
【0064】
Ni含有量は、微量から3%の間、好ましくは0.5%未満である。実際には、Niは、電気抵抗を増加させず、一方で飽和磁化を低下させ、そのため変圧器の電力密度および電気効率を低下させる。したがってNiの添加は必要でない。
Cu含有量は、微量から0.5%の間、好ましくは0.05%未満である。Cuは、Fe、Fe-SiまたはFe-Coにおける混和性が非常に乏しく、そのため材料の磁性性能を著しく劣化させると同時にその微細組織の発達を妨げる銅リッチな非磁性相を形成する。
【0065】
NbおよびZrは粒子成長の強力阻害剤として知られており、本発明によって得られる優れた結果の起源として考えられる集合組織の由来の冶金機構に強く悪影響を及ぼすため、NbおよびZrの含有量は各々微量から0.1%の間、好ましくは0.01%未満である。
Ti含有量は、磁性性能を著しく低下させ(損失の増加)、圧延‐焼なましの間の変態機構に悪影響を及ぼし得る窒化物の有害な形成を制限するために、微量から0.2%の間である。
N含有量は、あらゆる種の窒化物の過剰な形成を避けるために、微量から0.01%の間である。
【0066】
Ca含有量は、Ti窒化物と同じ理由で有害であり得る酸化物およびオキシ硫化物の形成を回避するために、微量から0.01%の間である。
Mg含有量は、Caと同じ理由のため微量から0.01%の間である。
【0067】
Ta含有量は、粒子の成長を強力に阻害するため、微量から0.01%の間である。
B含有量は、Tiの窒化物と同じ効果を有する窒化ホウ素の形成を避けるため、微量から0.005%の間である。
O含有量は、窒化物と同じ悪影響を有する過量の酸化介在物の形成を防ぐために、微量から0.01%の間である。
【0068】
S、P、Ni、Cu、Nb、Zr、Ti、N、Ca、Mg、Ta、B、Oのこれらの最大量は、多くの場合、合金の調製に由来し、本発明に係るFe-CoおよびFe-Si型合金に共通に存在する、単なる不純物に相当するものである。必要であれば、原材料の厳しい選択および慎重な調製により達成することが可能である。
【0069】
本発明による製品をもたらす製造プロセスに関しては、以下の通りである。
上述の組成を有するインゴットまたは連続鋳造半製品が調製される。この目的のため、この組成を得る調製および鋳造のあらゆる方法が使用され得る。インゴットを得ることが意図される場合、スラグ下アーク溶解、スラグ下または真空下誘導溶解(VIM:真空誘導溶解)などの方法が推奨される。これらの方法は、好ましくは、二次インゴットを得るための再溶解が後に続く。本発明の好ましい応用のために最適な純度およびわずかな析出物を有する合金を得るために、特に、ESR(エレクトロスラグ再溶解)またはVAR(真空アーク再溶解)タイプのプロセスが特に適切である。
【0070】
非平行六面体形状のインゴットを得る最も一般的なケースでは、六面体形状を与える鍛造または圧延(ブルーミング)による第1の熱間成形が慣習的に実施される。こうして得られるインゴットは、しばしば10cm程度の厚さを有する。
【0071】
先に成形されたインゴットまたは連続鋳造製品は、2から5mm厚、好ましくは2から3.5mm厚、例えば2.5mm程度の厚さを有するシートまたはストリップが得られるまで、通常の方法で熱間圧延され得る。したがって、この熱間圧延は、本発明による方法の熱間成形の最後の段階(または唯一の段階)である。
【0072】
ついで、好ましくは、フェライト領域で、すなわち650℃、好ましくは700℃から純フェライト領域から出ないことが保証される温度、つまり合金の組成に依存する温度までの範囲の温度で、1分から10時間の間、前記シートまたはストリップの静的または連続焼なましが実施される。
【0073】
Si含有量が、CoおよびCの含有量に依存する言及された限度(%Si)α-limと同等またはそれを超える場合、この焼なまし熱処理の温度Ttthは最大1400℃となり得る。
この限度は、(%Si)α-lim=1.92+0.07%Co+58%Cである。
【0074】
Si含有量が(%Si)α-lim未満である場合、この焼なましの熱処理の温度Ttthは、Ttth<Tα-limがフェライトの存在の上限温度であるものであり、
α-lim=T+k%Si、式中、T=900+2%Co-2833%Cおよびk=112-1250%Cである。
これらの条件は、様々な他の合金元素を含むFe-Co合金の相図に対して本発明者らによって行われた研究の結果得られたものである。
【0075】
この焼なましは、乾燥水素化雰囲気下で実施されなければならない。雰囲気は、5%から理想的には100%の間の水素を含まなければならず、その残部はアルゴンまたは窒素などの中性ガスの1つまたは複数である。このような雰囲気は、分解アンモニアの使用から得られ得る。合金の気体酸化種(酸素、CO、水蒸気、等)が最大で合計1%、好ましくは100ppm未満存在し得る。雰囲気の露点は、最高で+20℃、好ましくは最高で0℃、より好ましくは最高で-40℃、最も好ましくは最高で-60℃である。
【0076】
この水素化された、つまり還元された雰囲気は、単に中性、さらには酸化性であり得る雰囲気と比較して、以下の通り効果的に作用する。
‐シートまたはストリップの表面および粒界の酸化を防ぐ。そのような粒界の酸化は集合組織の継承に非常に望ましくなく、本発明の成功の理由の1つが熱処理および冷間圧延の間のこの非常に優れた集合組織継承にあることが確認された場合、これは本発明を実施するための重要な条件となり得る。
‐特に連続的に実施される場合に、焼なましの間の良好な熱伝達を確保する。Hは、最良の熱伝達ガスであり、規則化範囲(500から700℃の間)において焼なましされたストリップからの効果的な熱の抽出に起因して、規則化の弱化を回避することによって、焼なましの出口での破損のリスクのない冷間圧延ストリップを得ることが可能となる。
【0077】
この任意選択的であるが好ましい焼なましの後、ストリップの過度の脆化を回避する条件下でシートまたはストリップの自然または強制冷却が実施される。20%を超えるCo含有量の場合には、この冷却速度は少なくとも1000℃/hでなければならない。20%またはそれ未満のCo含有量の場合には、つまり本発明に係る型のFeSi合金を含む場合、最小冷却速度を設定する必要はない。
【0078】
プロセスは、50から80%、好ましくは60から75%の圧延率、および室温(例えば20℃)から350℃の間の温度での第1の冷間圧延に続く(上記の任意選択的な焼なましの後または熱間圧延の後のいずれか)。上限の350℃は、好ましくはSiが比較的豊富な合金の焼付けによって加熱が行われる、「温間」圧延が実施される場合に相当する。最も一般的には、冷間圧延の温度は、外気温から100℃の間である。
【0079】
少なくとも1つの冷間または「温間」圧延における低すぎる圧延率(50%未満)では、これから見られるように、求められる低く、等方性の磁歪が得られない。高すぎる圧延率(80%超)は、磁歪が低下する程に材料の集合組織を修飾する傾向にある。
【0080】
次いで、熱間圧延の後、任意選択的な焼なましについて記載した条件と同様の条件下で同様の理由で実施される冷却の前に、任意選択的な焼なましに関する理由で、650から930℃の間、好ましくは800から900℃の間の温度プラトーで、1分間から24時間、好ましくは2分間から1時間、上記で定義したように乾燥水素化雰囲気(部分的または完全に)で、静的または連続焼なましが行われる。
次いで、第1の冷間圧延に対して先に記載されたものと同様の範囲の特性の第2の冷間圧延が行われる。
【0081】
最後に、前述の焼なましの雰囲気のような好ましくは水素化雰囲気(部分的または完全に)下で静的または連続最終再結晶焼なましが行われる。しかしながら、この最終焼なましはまた、真空下、中性ガス(例えばアルゴン)下、または空気中で、フェライト領域において、650から[900+(2×%Co)]℃の温度で、1分間から48時間の期間で実施され得る。この段階で、特に切断がすでに行われて後のスタックの片に最終形状および寸法を与えている場合、特に厚さまたはその周囲の点で、金属はその最終寸法にすでに到達しているため、この最終焼なましには水素化雰囲気は必ずしも必要ではない。この場合には、水素の欠乏によりこの再結晶焼なましの間に金属の脆化がもたらされるとしても、やるべきことが片を積層してコアを形成するだけである場合には重要でない。
【0082】
最終焼なましが長すぎると、Fe-Co合金では900~930℃ですでに、磁気損失が低下し得る金属表面で粒界の空洞化、および同様の影響を及ぼし得る、還元および乾燥雰囲気の場合でも粒界での酸化が生じ得る。これらの条件下で、磁気損失が低下し、本発明の目的である低く等方性の磁歪もまた低下し得る。100%の最終再結晶率が望ましいが、90%の再結晶率が低く等方性の磁歪の点で満足な結果が得られる程度であり得る例において見られるように、必要不可欠ではないが求められる最小の再結晶率は80%であると予測される。
【0083】
所与の組成および厚さの材料でこのような再結晶の実現を可能にするこの最終焼なましを実施するための詳細な条件は、試験を繰り返すことによって当業者が実験的に決定することができる。昇温速度が連続焼なましより低く、より長く続く静的焼なましは、連続焼なましよりもフェライト粒子を拡張する利点を有し、これは低い磁気損失を得るために好ましい。
【0084】
好ましくは、この最終焼なましは、空気中での自然冷却、または放射による熱損失を制限するためにフードまたは他の装置の下での冷却など、比較的遅い冷却によって完結する。2000℃/hと同等またはそれ未満、好ましくは600℃/hと同等またはそれ未満の速度が典型的に推奨される。より速い冷却は、材料中に熱勾配を形成することによって内部応力がもたらされ得、それにより磁気損失が低下し得る。
【0085】
十分に遅い冷却を保証するこれらの条件は、特に最終焼なましが静的焼なましである場合、すなわち真空下で実施され、材料が冷却の間に処理チャンバ内に単に残される場合に最も容易に満たされる。
【0086】
最終焼なまし以外の焼なまし後の冷却は、低速で実際される特別な利点を有さない。低速すぎる冷却は、次のステップにおける材料の圧延性を低減し得る。
この比較的低速の冷却は、好ましくは2000℃/hと同等またはそれ未満、より好ましくは600℃/hと同等またはそれ未満である焼なましの昇温速度と対になる。
【0087】
さらに、一般的に、本発明者らは、過度に著しいゴスまたは他の集合組織を得ないが、集合組織の優れた継承を得るために、最終焼なましの昇温速度およびこの最終焼なましに続く冷却の速度は、合金の組成および冷間または温間圧延および焼なましの間の熱処理および熱機械処理の条件に加えて、本発明において使用される合金の低く等方性の磁歪の点で所望の目的を実現するために使用され得るパラメータの間にあると考える。
【0088】
本発明者らは、30%以下のゴス集合組織成分または{111}<110>集合組織成分(これらは本発明のシートまたはストリップ中に最も多く存在する方位である)、および一般的に30%以下の任意の顕著な{hkl}<uvw>集合組織成分、すなわち特定の{h}<u>方位から15°未満のずれを有する{hkl}<uvw>方位を有する材料の粒子の体積比率が最大で30%であることを特徴とする成分を最終製品に得ることが好ましいと考える。
【0089】
材料の最終的な磁気特性を得ることを可能にする最終再結晶焼なましの後、粒界酸化はより高い温度で起こることが知られているため、そのリスクを有さずに少なくとも1つの面に対する強力であるが材料の表面の酸化を可能にする、400から700℃の間、好ましくは400から550℃の間の温度での材料の補足の酸化焼なましが追加され得る。この酸化層は、0.5から10μmの厚さを有し、変圧器磁気コアの積層された部品間の電気的絶縁を保証し、誘導電流、ひいては変圧器の磁気損失の実質的な低減を可能にする。この酸化層を得るための詳細な条件は、材料の詳細な組成およびこの材料に対して選択された処理雰囲気(空気、純酸素、酸素‐中性ガス混合物、等)に応じて、慣習的な実験を行うことによって当業者が容易に決定できる。酸化層の組成およびその厚さの慣習的な分析により、所望の酸化層が得られ得る材料の処理条件(温度、期間、雰囲気)を決定することができる。
【0090】
2つの冷間圧延ステップおよび2つまたは3つの焼なましステップを含む製造方法について記載した。しかしながら、本発明の範囲にしたがって、記載されたステップと同様であり、記載された第1の必須の焼なましと同様の中間焼なましによって区切られ得るより多くの冷間圧延ステップを実施することができる。
【0091】
先に言及した50から80%、好ましくは60から75%の圧延率での冷間圧延の各々は、段階的に、中間焼なましによって区切られないいくつかの連続した工程において実施され得ることを理解すべきである。
【0092】
最終結果は、磁気損失を制限するために、典型的に0.05から0.3mm、好ましくは最大0.25mm、より好ましくは最大0.22mmの厚さの冷間圧延および焼なましされたシートまたはストリップであり、1.2Tから1.8Tの異なる誘導に対して、印加される磁場の方向に平行および垂直の両方で測定された、3つの方向DL(圧延方向)、DT(横方向)および45°(DLとDTとの間の中間方向)において非常に低い磁歪λ、および特に測定された磁歪の最高と最低との間の非常に小さな差を示す特性を有する。これらの誘導は、Fe-CoまたはFe-Siコアを使用した航空機搭載変圧器を作動し、低い磁歪および低い突入効果に加えて、可能な限り低減された変圧器質量を得るためにしばしば望ましいものである。特に1.8Tは、可能な限り軽く、静かな変圧器を得るために興味深い誘導である。
【0093】
変圧器の低い磁歪ノイズを得るためには、他の方向においては比較的強い磁歪を保持しつつ、圧延の方向および磁場の方向に対して定義され得る1つのまたは特定の方向においてのみ低い磁歪を得ることはほぼ有用でないことが理解される。したがって、ユーザの要望を充足する基準は、図1に表される、同一の材料からの3種類のサンプルに対する測定の間に観察される磁歪の大きさの間の最大偏差「MaxΔλ」である。以下の実施例は、この評価方法に基づくものである。
【0094】
これらのサンプルは、実施例に基づいて、本発明によってまたは参照方法によって調製されたストリップ1から採取される。その圧延方向DL、横方向DTおよび中間方向45°が矢印で表される。これらのタイプのサンプルは、磁歪試験を行うためにシート1から採取される。
【0095】
タイプ1:サンプル2の長手方向がDLと平行になるように切断された長尺長方形サンプル2(例えば120×15mm)。サンプル2の長手方向と同一の軸を有する励磁コイルによる、つまりサンプル2の長手方向における変形測定の間に磁場Haが印加される。磁場の方向(λH//DL e//H)およびそれに垂直な方向(λH//DL e//H)の両方において、λH//DLと称される変形測定εが実施され、タイプ1のサンプル2に対して2つの磁歪値が得られる。
【0096】
タイプ2:サンプル3の長手方向がDLおよびDTの45°軸と平行になるように切断された長尺長方形サンプル3(例えば120×15mm)。サンプル3の長手方向と同一の軸上にある励磁コイルによる、つまりサンプル3の長手方向における変形測定の間に磁場Haが印加される。磁場の方向(λH//45° e//H)およびそれに垂直な方向(λH//45° e┴H)の両方において、λH//45°と称される変形測定が実施され、タイプ2のサンプル3に対して2つの磁歪値が得られる。
【0097】
タイプ3:サンプル4の長手方向がDLと平行になるように切断された長尺長方形サンプル4(例えば120×15mm)。サンプル4の長手方向と同一の軸を有する励磁コイルによる、つまりサンプル4の長手方向における変形測定の間に磁場Haが印加される。磁場の方向(λH//DT e//H)およびそれに垂直な方向(λH//DT e┴H)の両方において、λH//DTと称される変形測定εが実施され、タイプ3のサンプル4に対して2つの磁歪値が得られる。
【0098】
このように、3つのサンプルタイプの各々の(測定された)誘導値Bで、合計6の異なる変形測定が行われる。材料の磁歪挙動を見出すために、サンプルコレクションの3つの方向(タイプ)(DL、DT、ならびにDLおよびDTと45°の角度をなす方向)だけでなく、例えば1T、1.5T、1.8Tなどのいくつかのレベルもまた使用される。
【0099】
材料において誘導の大きさBに対して測定され、MaxΔλ(B)とも称される値MaxΔλは、磁歪の等方性を表す。したがって、図1に示されるように材料の同一のストリップ1に由来するサンプル2、3、4で測定されたλのこれらの6つの値の中の最高値および最低値を考慮することによって、計算される。これは、上述の磁歪測定の可能な対の各々の間の代数差の6つの絶対値中に見出され得る最高値である。言い換えると、以下の通りである。
【0100】
【数1】
【0101】
本発明に従って表されるシートまたはストリップでは、1.8Tの誘導に対して測定される最大値MaxΔλは最大25ppmでなければならないと考えられる。
【0102】
その詳細な組成について以降に表示される特にFeCo27タイプのサンプルに対して、記載される10の試験が行われた。しかしながら、非常に低いがゼロではないテクスチャ形成がこれまで確認されていないが、変圧器コアにおいて知られ、一般的に使用されるこのカテゴリの合金の全てに対してほぼ同等に本発明が適用可能であることがわかる。表1は、試験において使用された本発明による様々な合金および参照合金の組成を示す。
【0103】
特に、試験結果を直接比較できるように、異なる鋳造由来であるが非常に類似の組成を有する2つのFeCo27合金に対して試験が行われた。合金Aは、参照試験1および2に使用され、合金Bは本発明による試験3から9および参照試験10から12に使用された。
【0104】
【表1】
【0105】
合金AおよびBのサンプルは以下の通り調製した。
合金は、真空誘導炉内で調製し、12cmから15cmの直径および20から30cmの高さを有する30から50kgの円錐台インゴットの形態で鋳造した。次いで、80mmの厚さまで粗圧延機上で圧延し、略1000℃の温度で2.5mmの厚さまで熱間圧延した。
【0106】
次いで、これらの熱間圧延製品に、以下の条件下で100℃未満での低温焼なましおよび冷間圧延(LAF)を施した:
‐サンプル1:圧延率84%でのLAF1;1100℃で3分間の連続焼なまし1;圧延率50%でのLAF2;900℃で1時間の静的焼なまし2
‐サンプル2:圧延率84%でのLAF1;1100℃で3分間の連続焼なまし1;圧延率50%でのLAF2;700℃で1時間の静的焼なまし2
‐サンプル3:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;660℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル4:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;680℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル5:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;700℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル6:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;720℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル7:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;750℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル8:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;810℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル9:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;900℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル10:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;1100℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル11:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率80%でのLAF1;900℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率40%でのLAF2;700℃で1時間の静的焼なまし3
‐サンプル12:900℃で8分間の連続焼なまし1;圧延率70%でのLAF1;1100℃で8分間の連続焼なまし2;圧延率70%でのLAF2;700℃で1時間の静的焼なまし3
【0107】
全てのサンプルに対して、調製の最後の静的焼なましの前には速度300℃/sでの昇温、後には単に焼なまし炉内にサンプルを放置することによって200℃/h程度の速度での冷却を実施した。したがって、最終焼なまし前の昇温および最終焼なまし後の冷却の速度は、比較的ゆるやかであり、表2にみられるように、全てのケースにおいて、比較的集合組織の少ない最終製品を得ることに寄与した。本発明によるサンプルおよび参照サンプルに対して観察された磁歪および等方性の相違は、他の因子、特に参照サンプルでは焼なましの間にオーステナイト領域を通過したことによるものであり得る。
【0108】
別の静的オーブンにおける、水素雰囲気下で、本明細書に記載された試験のパラメータと同等のパラメータであるが最終焼なまし後の冷却速度がより低い(60℃/h)、850℃で3時間行われた最終焼なまし試験では、磁歪および等方性の程度に関して非常に類似した結果が得られたことに留意すべきである。したがって、最終焼なまし後の冷却は、不利益なく特に遅くてもよい。
【0109】
全てのサンプルの全ての焼なましは、-40℃未満の露点を有する純粋な乾燥水素雰囲気下で行った。いかなる他の気体種も3ppmを超えて存在しなかった。
【0110】
参照サンプル1および2には、熱処理後に直接冷間圧延を行い、その後オーステナイト領域において高温焼なまし(1100℃)を行い、第2の冷間圧延を行い、最後にフェライト領域において900℃(試験1)または700℃(試験2)で最終焼なましを行った。
【0111】
本発明によるサンプル3から9には、熱処理後、900℃での焼なまし、次いで第1の冷間圧延、次いで900℃での第2の焼なまし、次いで第2の冷間圧延、次いで冷間圧延、および試験によって660から900℃の可変温度で最終焼なましを行った。このように、本発明によるフェライト領域において行われた全ての焼なましは、最初の2つの参照サンプル1および2の2回に対して、3回であった。全ての冷間圧延は、圧延率70%で行った。
【0112】
参照サンプル10は、本発明によるサンプルと同様に、また他の2つの参照サンプルとは異なって900℃のフェライト領域において第1の焼なましを行い、次に第1の冷間圧延、次いで900℃で、つまりフェライト領域における中間焼なまし、次いで第2の冷間圧延、次いで1100℃で、すなわちオーステナイト領域における最終焼なましを行った。このように、参照サンプル10には、最終焼なましをオーステナイト領域で行うこと以外は、本発明によるサンプル3から9と同等の処理を施した。本発明によるサンプルと同様に、全ての冷間圧延は圧延率70%で行った。
【0113】
参照サンプル11は、熱処理後に、900℃で焼なましを行い、次いでサンプル3から10の全ての70%の代わりに80%(本発明に従う)で第1の冷間圧延を施し、次いで900℃での第2の焼なまし、次いでサンプル3から10の全ての70%の代わりに40%で、つまり本発明に従わない第2の冷間圧延、ついで700℃の温度、すなわちフェライト領域での最終焼なましを行った。
【0114】
参照サンプル12は、オーステナイト領域を通過することに起因してサンプル10と非常に類似しているが、それが処理の別の段階で行われる。最初に、本発明によるサンプルと同様であり最初の2つの参照サンプルとは異なって、900℃でのフェライト焼なましを行い、次いで第1の冷間圧延、次いで1100℃でのオーステナイト領域における、つまり本発明に従わない中間焼なまし、次いで第2の冷間圧延、次いで700℃の温度で、つまりフェライト領域における最終焼なましを行った。このように、中間焼なましがオーステナイト領域において行われることを除いて、本発明によるサンプル3から9と同等の処理を施した。本発明によるサンプルと同様に、全ての冷間圧延は圧延率70%で行った。
【0115】
こうして得られた異なるサンプルの特性を、X線で測定されるゴスまたは{111}<110>集合組織の存在、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって特徴付けられるサンプルの画像分析によって測定される粒子の平均径、およびEBSD法によって表面で測定され、表面分率が容量分率であると推定した再結晶率の点から表2にまとめる。
【0116】
【表2】
【0117】
適用された様々な範囲の冶金処理は、参照と本発明による試験との間で実質的に同一の最終粒子サイズ、すなわち略300から15μmをもたらし、より詳細には本発明による試験では、すなわち全ての焼なましがフェライト領域で行われた場合には16から95μm、参照試験では、すなわちプロセスの少なくとも1つのステップがフェライト領域を超える場合には15から285μmをもたらした。したがって、粒子サイズ範囲は同様であり、得られた低い磁歪との関連はなかったことがわかる。しかしながら、最終焼なましが700℃で実施された試験2は、参照試験1および10ならびに本発明による試験9よりも著しく低く、700℃の領域の温度で実施された本発明による試験3から8と同じ桁数の粒子サイズをもたらした。一般的に、本発明による試験の冶金範囲は、参照試験に比較的近い粒子サイズ(試験によると16から95μmの間)を提供し、いずれの場合においても、特に最終焼なましの条件を考慮すると、経験的に予測され得るものと一致する。本発明による試験および参照試験10において第1の冷間圧延の前に900℃での焼なましを行うことは、それ自体は、熱間圧延したサンプルに直接冷間圧延を実施した参照試験1および2と比較して、全プロセスの結果として得られる粒子のサイズには実質的に影響しないことに留意すべきである。
【0118】
より驚くべきことは、異なる試験の処理範囲の間の大きな相違は、ゴス集合組織の比率および{111}<110>集合組織の比率の点から材料の最終集合組織に著しい相違をもたらさなかった。
【0119】
次に、図1に示されるように(言及される方向は、長方形サンプルの長手側が配置されるシートの方向である)異なる方向DL、DT、およびDLとDTの45°による様々な切断サンプル1から3、5、7から12の磁歪(ppmで測定)を、サンプルの長手側と平行(すなわち印加される磁場および生成された誘導Bの磁束の方向と平行)であり、「//H」と記される、またはすなわちサンプルの長手側と垂直(すなわち印加される磁場および生成された誘導Bの磁束の方向と垂直)であり、「┴H」と記される方向において観察および測定した。測定は、広範囲のBにわたって連続的に行い、3つの大きさのB磁気誘導:1.2T、1.5Tおよび1.8Tに対して的確に利用した。結果は表3にまとめられており、表中、異なるサンプルは組成AまたはBによって、および最終焼なましの温度によって示されている。サンプル4および6に対する測定は行わなかったが、それらに近い最終焼なまし温度で処理された本発明によるサンプルの結果と非常に類似することが確実である。
【0120】
【表3】
【0121】
第1の焼なましがオーステナイト領域で行われた参照試験1、2と、参照試験1および2では行われていない第1の冷間圧延の前の任意選択的な焼なましを含めて全ての焼なましがフェライト領域で行われた本発明による試験3から9との間で、絶対値および等方性の点で磁歪測定において非常に大きな相違がある。
【0122】
試験10によると、第1の冷間圧延の前にフェライト焼なましが実施されているが、オーステナイト領域において実施される最終焼なましを通るプロセスの最後にフェライト相へと出るだけでは、低く等方性の磁歪が得られないことがわかる。
【0123】
参照試験11は、冷間圧延の1つが低い圧延率で実施される場合には、たとえ全ての焼なましがフェライト領域で行われたとしても、低く等方性の磁歪が得られないことを示す。
【0124】
参照試験12は、3つの焼なましの2番目がオーステナイト領域で実施される場合には、低く等方性の磁歪が得られないことを示す。参照例1および2は、第1の冷間圧延の後の処理の開始時にオーステナイト焼なましが実施される一方で、参照例10は処理の最後にオーステナイト焼なましが実施される。したがって、例12は、処理中の位置にかかわらず、オーステナイト焼なましの有害性の実証をもたらす。
【0125】
図2から12はこれらの差異を強調する。
図2は、参照試験1の間に観察された磁歪結果を示す。たとえ絶対値において0.5T程度の低い誘導に対しても、DTによる磁歪は大きくなり始め、誘導とともに非常に急速に増加することが見られ得る。DL、およびDTとDLに対して45°方向では、略1Tから実質的および急速に磁歪が増加し始める。これは、2T程度の誘導に対して特定方向において最大数十ppmの著しい磁歪変形、およびこれらの変形の強い異方性をもたらし、全て本発明の好ましい応用には強すぎる磁歪ノイズの形成の方向である。
【0126】
図3は、参照試験2の間に観察された磁歪結果を示す。試験1と比較して、磁歪の等方性がわずかに向上し、磁歪の極値はわずかに減少することが観察される。しかしながら、1Tの誘導からは、検討した3つの方向において磁歪が大きくなり始める。したがって、こうして得られた材料は、いずれも本発明の好ましい応用には適さないであろう。したがって、試験1のサンプルと比較して試験2のサンプルの著しく小さい粒子サイズは、磁歪結果を実質的に向上させなかった。
【0127】
図4は、本発明による試験3の間に観察された磁歪結果を示す。このケースでは、曲線の形状が完全に変化する。一方では、1Tをわずかに超える誘導値まで、検討した方向の全てにおいて事実上ゼロを維持する磁歪が観察される。より高い磁場でこの磁歪が増加し始めるときにも、その値は参照試験1および2よりも著しく低いままである。さらに、高い磁場であっても、異なる方向間での磁歪の差は比較的小さいままである。2または-2Tでは、15ppmまたは-10ppmに到達しない磁歪を有し、このことは検討した方向の全てのケースに当てはまる。したがって、これらの結果は、参照試験よりも著しく優れており、こうして調製された材料は、特に低ノイズ航空機変圧器のコアを構成することが可能となる。
【0128】
図5は、本発明による試験7の間に観察された磁歪結果を示す。定性的に試験3(図4)と非常に類似しており、加えて、少なくとも±1.5Tの誘導に対してのみ大きくなり始める磁歪を有する磁歪曲線が見られる。±2Tでは、磁歪は5ppm未満であり、決して10ppmを超えない。このように、最終焼なましの温度が660℃ではなく750℃であることだけが試験3と異なり、それにより試験3においては90%であったのに対して完全再結晶がもたらされたこの試験では、優れた結果が得られた。
【0129】
図6は、810℃の最終焼なましの温度を有する本発明による試験8の間に観察された磁歪結果を示す。定性的に試験3(図4)および試験7(図5)と非常に類似した磁歪曲線が見られる。定量的に、±2Tの誘導に対しても磁歪の最大値が±10ppm程度を維持し、1.8TまでMaxΔλが15ppmであり、結果は良好である。
【0130】
図7から9は、本発明による試験5および9に対して記録された磁歪測定を比較する。図7は、方向DLに従って実施された試験を示し、図8は方向45°において実施された試験を示し、図9は方向DTに従って実施された試験を示す。結果は非常に類似しており、±1.8Tの誘導までDLおよびDT方向による2つの試験の結果は優秀である。45°方向では、試験5では1.8T辺りから磁歪が無視できない程度になり始め、試験9では2Tを超えても非常に低い値を維持する。一般的に、900℃の最終焼なまし温度は700℃での最終焼なましよりも優れた磁歪の結果をもたらす。しかしながら、700℃ですでに、1.8Tでの磁歪が測定の3方向において±5ppmを超えず、これは磁歪の絶対値およびその等方性の両方において、参照試験よりも著しく優れている。
【0131】
試験9の結果は、低い磁歪の値およびその等方性の両方において、1.8Tまたはそれをわずかに超える高い誘導で特に優れている。
【0132】
図10は、最終焼なましが1100℃、すなわちオーステナイト領域で行われ、一方で、本発明による試験の焼なまし1および2の全てが900℃で行われたように、前の2つの焼なまし1および2はフェライト領域で行われた参照試験10の結果を示す。様々な方向において、図3および4に見られるように、他の参照試験1および2と定性的および定量的に同等の磁歪曲線が見られる。焼なましの1つの間に、合金がオーステナイト領域を通ると、たとえそれが処理の最後のみであったとしても、低く等方性の磁歪を得るための非常に重大な失敗因子を構成すると結論付けられ得る。
【0133】
第2の冷間圧延が40%の圧延率で行われた試験11は、図11によると、誘導に応じて従来の放物線状のわずかに等方性の磁歪挙動、つまり例えば1.5Tで35ppm超、1.8Tで60ppm付近のDLによる磁歪を有し、本発明の範囲外の挙動を示す。冷間圧延の圧延率によって調整される集合組織の継承は、冷間圧延の間の集合組織変形によって実際に制御されると結論付けられ得、発明を特定の圧延率範囲に制限する。
【0134】
図12は、中間焼なましが1100℃で、つまりオーステナイト領域で行われ、一方で焼なまし1および3の両方は本発明による試験の全ての焼なまし1および3と同様に900℃で、つまりフェライト領域で行われた参照試験の結果を示す。様々な方向における磁歪曲線が、図3、4および10に見られるように他の参照試験1、2および10と同等であるが、わずかに大きな磁歪の等方性を有する。しかしながら、比較的低い誘導に対しても磁歪のレベルは高すぎる。試験10とあわせて、焼なましのいずれかの間に合金がオーステナイト領域を通ることは、低く等方性の両方を備える磁歪を得るための非常に重大な失敗因子であると結論付けられ得る。
【0135】
驚くべきことに、異なる誘導(1、1.2および1.5T)に対して400Hzの磁気損失は、本発明によって得られる材料では、粒子が無方向性の参照材料よりも著しく低かった。本発明による例は、完全に再結晶化されていない組織(試験3および4)または微細な粒子微細組織のいずれかに起因して、許容できない誘導磁束損失を示すと考えられていた。しかしならが、表4に示す結果はその逆を実証する。これらは、DLに沿って切断され、400Hzの基本周波数磁場に浸漬され、磁気誘導を時間的に正弦波形状に形成することによって、0.2mm厚、100mm長、および20mm幅のサンプル上で得られたものである。測定は、1、1.2、1.5または1.8Tと同等の強度の誘導Bの最大大きさに対して行った。磁気損失はW/kgで表す。
【0136】
【表4】
【0137】
表からわかるように、本発明によって作製され、低減されたサイズの粒子および完全に再結晶化されていない(試験3および4)組織または700℃以上での最終焼なましにより完全に再結晶化された組織を有するサンプルの磁気損失は、特に高くなく、参照サンプルで得られた結果と匹敵するものである。とりわけ、100%再結晶化され、720℃以上(810℃まで、試験8または900℃、試験9)での最終焼なましで作製された本発明によるサンプルは、大きな粒子サイズおよび100%再結晶組織を有する試験1を含む、参照サンプルと比較して著しく優れた磁気損失を有する。磁気損失に関するこの利点は、現在のところ発明者らによって明確には説明されていない。磁気損失は誘導の2乗に従って変化するため、1.8Tなどのように、1.5Tより高い誘導で作動するときに一層顕著である(表4参照)。これは、その寸法設計が様々な損失(ジュールおよび磁気効果)の排除に強く関連する航空機搭載変圧器に使用する場合の利点である。
【0138】
驚くべきことに、参照試験10の大きな粒子サイズは最も低い磁気損失を得る方向において先験的なものであったが、最も低い磁気損失を有するのは本発明による試験9であった。
一般的に、結果は、最終フェライト焼なまし温度が高いほど、磁気損失の点でより一層好ましく、最良の結果は900℃で焼なましが行われた試験9のサンプルで得られた。
【0139】
磁歪に関して、800から900℃の間のフェライト焼なまし温度は、わずかから非常にわずかに明白な変形異方性およびいかなる場合にも1.5Tで6ppm、1.8Tで15ppmを超えない磁歪MaxΔλ、したがって参照試験サンプルよりも著しく優れた結果を示す。
【0140】
一般的に、本発明は、特に、全ての焼なましを650℃の最低温度、合金の有効組成を考慮して純粋なフェライト領域に入る最高温度で、フェライトの少なくとも一部のオーステナイトへの変形が起こらないフェライト領域で行わなければならないことによって定義される。この最高温度が合金のSi、CoおよびCの含有量に応じて決定されることが見られた。
【0141】
本発明によって得られるストリップは、先に定義したように積層型および巻型の変圧器の両方の変圧器コアを形成するために使用され得る。後者の場合には、巻線を実現するために例えば0.1から0.05mm厚程度の非常に薄いストリップを使用することが必要である。
【0142】
先に述べたように、第1の冷間圧延の前に実施される焼なましは、好ましくは本発明の範囲内で行われる。しかしならが、この焼なましは、特に熱間圧延されたストリップがその自然冷却の間長期間巻き状態にあった場合には、必要不可欠ではない。この場合、巻線温度はしばしば850~900℃程度であり、持続時間は、この段階で、第1の冷間圧延の前の任意選択的な焼なましに与えられた条件下でフェライト領域で実施した実際の焼なましによって提供され得るものと同等の効果がストリップの微細組織で得られるのに十分な期間である。
【0143】
表5は、前述の試験1および9において得られた磁歪の等方性および1.5T、400Hzでの磁気損失の結果を再認し、本発明の方法による処理が施される前のサンプルの冷間または温間圧延に対する適合性および最終製品の飽和磁化Jsの情報を加える。これらの結果を、本発明の条件を満たす(13から19および23、24)または満たさない(20から22)組成の合金が試験された試験13から24において得られた結果と比較する。これらの新たな合金の組成もまた、試験1および9とともに記載される。試験21および22のサンプルKおよびLは冷間または温間圧延に適さない(ストリップの中間から始まり縁部に向かう脆性に起因した破損)と証明され、これらの試験は圧延の試みを越えて継続されなかったため、これらの結果は表5に記載されていない。
これらのサンプルの全ては、最終厚さが0.2mmである。
【0144】
【表5】
【0145】
これまでに見られたように、サンプルA(試験1)には、前焼なましを行わずに、圧延率84%でLAF1、次いで1100℃で3分間の連続焼なましR1、ついで圧延率50%でLAF2、次いで900℃で1時間の静的焼なましR2を実施した。
【0146】
サンプルBからH(試験2から18)には、900℃で8分間の連続焼なましR1、次いで圧延率70%でLAF1、続いて900℃で8分間の焼なましR2、次いで圧延率70%でLAF2、次いで表5に示したように異なる温度および時間での静的焼なましR3を実施した。
【0147】
サンプルI(試験19)には、900℃で8分間の焼なましR1、続いて圧延率70%、150℃で温間圧延1、続いて900℃で8分間の焼なましR2、次いで圧延率70%、150℃で温間圧延2、および850℃で30分間の静的焼なましR3を実施した。
【0148】
サンプルJ(試験20)には、935℃で1時間の静的焼なましR1、次いで圧延率70%でLAF1、続いて900℃で8分間のR2焼なまし、続いて圧延率70%でLAF 2、次いで880℃で1時間のR3静的焼なましを実施した。
【0149】
これまでに見られたように、FeCo27合金Aに行われた参照試験1は、観測されたMaxΔλの高い値を見ると、磁歪の等方性の観点から十分な結果を与えなかった。このことは、焼なまし(R1)の1つがオーステナイト領域に位置する高温(1100℃)で行われたことに明らかに関連する。
その一方で、FeCo27である合金Bに対して実施され、全ての焼なましがフェライト領域で行われた本発明による試験9は、優れた磁歪の等方性をもたらした。
【0150】
この優れた磁歪の等方性は、Co含有量が27%未満であり、ぞれぞれ略18%および10%であり、その組成および処理が本発明の他の要件に従うFeCo合金に関する試験13および14で見られる。例13は、比較的多いレベルのSi、Cr、Al、Ca、Taを示す。例14は、著しいSi、VおよびTi含有量を示す。しかしならが、これらの含有量の全ては本発明で定義された範囲内にとどまるものである。
【0151】
同様に、39%付近、すなわち27%より実質的に高いが本発明で設定された最大である40%の範囲内であるCo含有量、および著しい量であるが冷間または温間圧延に対する適合性を損なうほど高くはないSi含有量を有する、FeCo合金に関する試験23において、良好な磁歪の等方性が見られた。磁気損失および飽和磁化は、本発明によって処理された他のサンプルと同程度である。
【0152】
試験24は、15%Co合金であり、Crを含めて著しいレベルの他の合金化元素を含まない合金に関する。それはまた、特に低く等方性の磁歪を有する。磁気損失および飽和磁化は、本発明によって処理された他のサンプルと同程度である。特に、試験13と比較すると、試験24ではCrが存在せず、これは飽和磁化を増大させる傾向にあるが、このことは飽和磁化を低減させる傾向にあるCoの含有量がわずかに少ないことによって相殺される。同様に、試験24においてCrが存在しないことは、試験13と比較して磁気損失の増大の傾向を有するが、試験24においてCo含有量がより少ないことは磁気損失の低減の傾向を有する。したがって、試験13と24の間の合金の組成の相違は、磁気損失およびJsの観点から互いに相殺される傾向にある。
【0153】
参照試験20に関しては、49%のCo、すなわち本発明で許容される上限の40%を超えるFeCo合金に対して行った。その焼なましの全てはフェライト領域で行われた。磁気損失は、非常に許容できるものであるが、磁歪は所望の等方性を示さない。先に述べたように、これらの高すぎるレベルのCoでは、熱処理の間の秩序無秩序転移がおそらく速すぎ、また鋭すぎ、本発明に必要な焼なましの回数がこの合金の組成と適合しない。0.04%のNbの存在は、本発明によって許容される上限を依然として下回るが、本発明による方法を適用する場合に観察される磁歪の等方性に対する説明であると言われた集合組織継承機構の阻害に寄与し得る。
【0154】
参照試験21に関しては、Si含有量がCo含有量に対して高すぎ、本発明に必要である条件「Co<35%である場合には、Si+0.6%Al≦4.5-0.1%Co」が満たされない。前述の通り、その結果は、経験が確認するように合金が冷間または温間圧延に適さないというものである。
【0155】
参照試験22に関しては、Coが35%以上であり、優れた冷間圧延または温間圧延性能を確保するために、本発明に従ってSiが1%を超えてはならないケースである。しかしながら、この試験におけるSi含有量は1.53%であり、特定の組成条件の下でのみ優れた冷間または温間圧延性が得られることが確認され、これは本発明の定義に組み込まれなければならない。
【0156】
本発明による試験15は、比較的低いCo含有量(4.21%)は、SiおよびAlの含有量が十分に低い場合、所望の優れた磁歪等方性の獲得に矛盾しないことを示す。0.005%のNbの存在は、所望の結果の実現を阻害しない。
本発明による試験16は、非常に低含有量のCを有するFe-Si-Al合金に関する。この場合、所望の等方性磁歪が低い磁気損失とともに得られる。
【0157】
本発明による試験17は、比較的低いMn、Ca、Mg含有量を有する実際に99%純粋なFeである合金に関する。磁歪の等方性は、本発明による他の試験よりも低いが、それにもかかわらず、本発明によるシートまたはストリップに必要とされるように1.8TでのMaxΔλが25ppm以下にとどまるため、絶対値が非常に優れている。磁気損失は本発明による他の試験よりもわずかに高いが、良いレベルを維持し、参照試験1で得られたものよりも低い。
【0158】
本発明による試験18は、高いCr含有量(6%)、Mn(0.81%)、ならびにいくらかのMoおよびBを含むFeCo27合金に関する。優れた磁歪の等方性が確認され、Bが7ppm存在するにもかかわらず、磁気損失は試験16と同程度に低い。Cr、MnおよびMoの含有量は飽和磁化を不必要に低下させるほど高くないため、飽和磁化は他の試験で観測されたものと同程度である。
【0159】
本発明による試験19は、3.5%のSiを含み、Alを含まないFe-Si合金に関するものであり、本発明によるプロセスの条件が、所望の磁歪等方性を得るためにこのタイプのFeSi合金に有利に適用可能であることを示す。さらに、この例は、特に低い磁気損失を有する。
【0160】
表6は、処理条件、処理された合金の組成、およびサンプルの最終厚さを変更することによって得られる実験結果を示す。前述の試験1および9の結果が再掲され、表5において説明された組成B(FeCo27)、I(FeSi3)およびC(FeCo18)を有する合金に対して新たな試験25から31が行われた。
【0161】
【表6】
【0162】
同一組成のサンプルにおいて実施された本発明による異なる試験の結果を比較すると、LAFパラメータを変更し、本発明の定義の範囲内で焼なましを行う場合、全てのケースにおいて著しく優れた磁歪の等方性が得られる。
【0163】
(FeSi3タイプの)合金Iに関して、試験19および30を比較すると、試験30における最終焼なましR3の温度および時間の増加により等方性がいくらか低下するが、それにもかかわらず、定められた目標の限度内を維持すると推測することができる。この低下は、試験においてゴス集合組織成分がおそらくより強く、好ましい上限の30%に近いことに関連し、また熱間圧延プロセスに起因すると考えられる。
【0164】
合金C(FeCo18タイプ)に関して、理想的な最終焼なましR3の条件下で、最終R3焼なましの前に0.5mmの最終厚さが得られると、磁歪の等方性の低下につながる(試験31参照)ことにも留意すべきである。これは、この厚さに対して、本発明の定義によって定められた範囲内に留めつつ、最終焼なましの時間および/または温度を増加することによって改善され得る。
【0165】
一般的に、従来技術においてしばしば見られてきたことに反して、実施された様々な試験から、サンプルの磁気特性(特に磁気損失および磁歪)が最終焼なましの詳細な条件には比較的わずかしか依存しないことがわかる。完全でなければ、非常に強く再結晶化された最終製品を得ることと組み合わせて、各圧延の間に中間焼なましを含む複数の圧延、および最後の冷間圧延の後に最終焼なまし(最終焼なましの前には単一の冷間圧延ではない)を使用することは、製造条件における広い許容範囲に貢献する因子の1つとなり得、これは明らかに非常に有利である。本発明による方法によって得ることが可能となるゴス集合組織および{111}<110>集合組織(または一般的に、定義された結晶方位{h}<u>から15°未満のずれによって定義される30%未満の集合組織成分{hkl}<uvw>)の少なくともわずかな部分の製造過程にわたる持続性もまた、この結果に寄与し得る。しかしながら、発明者らは、現在のところ、本発明のプロセスから得られる磁歪の等方性および磁気特性に関して得られる顕著な特性を説明する仮説段階にある。
【0166】
本発明によるストリップまたはシートによって、特に、切断後、一般的に使用されるタイプのコアの一般的な設計を変更する必要がなく、積層または巻シートから構成される変圧器コアを製造することが可能となる。したがって、これらのシートの特性を利用して、類似の設計および寸法の既存の変圧器と比較して低い磁歪ノイズを生成する変圧器を製造することが可能である。コックピットに搭載されることが意図された航空機用の変圧器は、本発明の典型的な応用である。これらのシートはまた、磁歪ノイズを許容範囲内に維持しつつ、より高質量の変圧器のコア、すなわち特に高出力の変圧器に意図されたコアを形成するために使用され得る。本発明による変圧器コアは、本発明によるストリップまたはシートから作製されたシートのみから、または他の材料との組み合わせが技術的または財政的に有利であると考えられ得る場合には部分的にのみ構成され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12