IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

特許7181087粘着剤組成物、粘着テープ及び半導体デバイスの保護方法
<>
  • 特許-粘着剤組成物、粘着テープ及び半導体デバイスの保護方法 図1
  • 特許-粘着剤組成物、粘着テープ及び半導体デバイスの保護方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着テープ及び半導体デバイスの保護方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20221122BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20221122BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20221122BHJP
   H01L 21/301 20060101ALN20221122BHJP
   H01L 21/683 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
H01L21/304 631
H01L21/78 M
H01L21/68 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018546907
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018030981
(87)【国際公開番号】W WO2019044623
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2017164630
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】利根川 亨
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141749(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119884(WO,A1)
【文献】特開2011-074380(JP,A)
【文献】国際公開第2009/037990(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/036209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
H01L21/301;21/304;21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着ポリマー及び架橋剤から構成される架橋粘着ポリマーを含み、
ゲル膨潤率が500%以上であり、ゲル分率が87%以上であり、
タック測定機で測定した垂直剥離力が12~42N/cm であり、かつ、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度が600~1400%であり、
前記粘着ポリマーの分子量分布Mw/Mnが4.1以下であり、
前記粘着ポリマーはアクリル系ポリマーであり、
半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して半導体デバイスを保護するために用いられる、
粘着剤組成物。
【請求項2】
粘着ポリマーの重量平均分子量が30万以上である、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
粘着剤組成物はブリード剤を更に含む、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープ。
【請求項5】
粘着剤層は、タック測定機で測定した垂直剥離力が12~42N/cmである、請求項4に記載の粘着テープ。
【請求項6】
半導体デバイスを保護する方法であって、
半導体デバイスのバンプが形成された面に粘着剤組成物を塗工する工程又は半導体デバイスのバンプが形成された面に粘着テープを貼付する工程を有し、
前記粘着テープは前記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有し、
前記粘着剤組成物は粘着ポリマー及び架橋剤から構成される架橋粘着ポリマーを含み、
ゲル膨潤率が500%以上であり、ゲル分率が87%以上であり、
タック測定機で測定した垂直剥離力が12~42N/cm であり、かつ、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度が600~1400%であり、
前記粘着ポリマーの分子量分布Mw/Mnが4.1以下であり、
前記粘着ポリマーはアクリル系ポリマーである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、粘着テープ及び半導体デバイスの保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、加工時に取扱いを容易にし、破損したりしないようにするために、粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープを貼付して保護することが行われる(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-32946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の半導体デバイスでは、電気接続の信頼性を向上させるためにバンプ接続が使われており、そのバンプ高さが100~200μm程度にまで達する半導体デバイスも用いられるようになっている。このようなバンプを有する半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための粘着剤組成物には、半導体デバイスの加工時に剥離してしまわない粘着力が求められる。
【0005】
しかしながら、高粘着力の粘着剤組成物は、剥離時に半導体デバイスの表面に糊残りしてしまうことがあるという問題がある。例えば、バンプを有する半導体デバイスの両面に粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープが貼り付けられている場合、バンプが形成された面と反対側の面に接着した粘着剤を剥離させると、バンプが形成された面側にも大きな負荷がかかるため、バンプ側に貼り付けた粘着テープも剥離しやすくなってしまう。しかし、このような意図しない剥離を防止するために高粘着力の粘着剤組成物を用いた場合、剥離時に半導体デバイスの表面に糊残りが発生してしまう。とりわけ、半導体デバイスに高温処理を施す場合、熱によって粘着剤組成物が接着昂進を起こすため、より糊残りが発生しやすくなる。また、半導体デバイスが高いバンプを有する場合は、バンプの凹凸形状に粘着剤組成物からなる粘着剤層が噛みこんでしまうため、更に糊残りの発生が顕著となる。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープ及び該粘着剤組成物又は該粘着テープを用いた半導体デバイスの保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様においては、粘着ポリマー及び架橋剤から構成される架橋粘着ポリマーを含み、ゲル膨潤率が500%以上であり、ゲル分率が87%以上である、粘着剤組成物が提供される。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明により、被着体、特に半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに、高い粘着力と、剥離時における糊残りが抑制された優れた剥離性とを両立できる。
【0009】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、粘着ポリマー及び架橋剤から構成される架橋粘着ポリマーを含む。
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、後述するゲル膨潤率及びゲル分率を満たす必要がある。
【0010】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、ゲル膨潤率が500%以上である。
粘着剤組成物のゲル膨潤率が上記範囲であることで、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層が高い粘着力を発揮しながらも糊残りを防止することができる。高い粘着力と糊残り低減とをさらに両立させる観点から、上記ゲル膨潤率の好ましい下限は550%、より好ましい下限は580%、更に好ましい下限は600%、特に好ましい下限は650%、とりわけ好ましい下限値は700%である。上記ゲル膨潤率の上限は特に限定されないが、好ましくは2000%(例えば2000%程度)、より好ましくは1500%(例えば1500%程度)である。
なお、本発明の一実施態様である粘着剤組成物が粘着テープの形態で用いられた場合、ゲル膨潤率は以下の方法で測定することができる。
粘着テープから粘着剤組成物のみを0.1gこそぎ取って酢酸エチル50ml中に浸漬し、振とう機で温度23度、200rpmの条件で24時間振とうする。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、酢酸エチルと酢酸エチルを吸収し膨潤した粘着剤組成物を分離する。酢酸エチルを吸収して膨潤した粘着剤組成物の金属メッシュを含む重量を測定し、その後110℃の条件下で1時間乾燥させる。乾燥後の粘着剤組成物の金属メッシュを含む重量を測定し、下記式を用いてゲル膨潤率を算出する。
ゲル膨潤率(%)=((V-V)/(V-V)×100
(V:膨潤後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量、V:金属メッシュの初期重量、V:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量)
【0011】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、ゲル分率が87%以上である。
粘着剤組成物のゲル分率が87%以上であることで、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層が高い粘着力を発揮しながらも糊残りを防止することができる。高い粘着力と糊残り低減とをさらに両立させる観点から、上記ゲル分率の好ましい下限は88%、より好ましい下限は88.5%、更に好ましい下限は89%、特に好ましい下限は90%である。上記ゲル分率の上限は特に限定されないが、好ましくは100%、より好ましくは99%程度である。なお、本発明の一実施態様である粘着剤組成物が上記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープの形態で用いられた場合、ゲル分率は、以下の方法により測定することができる。
粘着テープから粘着剤組成物のみを0.1gこそぎ取って酢酸エチル50ml中に浸漬し、振とう機で温度23度、200rpmの条件で24時間振とうする。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、酢酸エチルと酢酸エチルを吸収し膨潤した粘着剤組成物を分離する。分離後の粘着剤組成物を110℃の条件下で1時間乾燥させる。乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物の重量を測定し、下記式を用いてゲル分率を算出する。
ゲル分率(重量%)=100×(W-W)/W
(W:初期粘着剤組成物重量、W:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量、W:金属メッシュの初期重量)
なお、本発明においては、粘着剤組成物中に無機フィラー等の無機化合物が含まれる場合においても上記方法により、ゲル膨潤率及びゲル分率を測定する。
【0012】
上記架橋粘着ポリマーはゲル膨潤率が500%以上であることが好ましい。
架橋粘着ポリマーのゲル膨潤率が上記範囲であることで、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層が高い粘着力を発揮しながらも糊残りを防止することができる。高い粘着力と糊残り低減とをさらに両立させる観点から、上記ゲル膨潤率のより好ましい下限は550%、更に好ましい下限は580%、特に好ましい下限は600%、とりわけ好ましい下限は650%、非常に好ましい下限値は700%である。上記ゲル膨潤率の上限は特に限定されないが、好ましくは2000%(例えば2000%程度)、より好ましくは1500%(例えば1500%程度)である。
なお、本発明の一実施態様である粘着剤組成物が粘着テープの形態で用いられた場合、上記架橋粘着ポリマーのゲル膨潤率は、上記粘着剤組成物のゲル膨潤率と同様の方法で測定することができる。
【0013】
上記架橋粘着ポリマーはゲル分率が87%以上であることが好ましい。
架橋粘着ポリマーのゲル分率が87%以上であることで、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層が高い粘着力を発揮しながらも糊残りを防止することができる。高い粘着力と糊残り低減とをさらに両立させる観点から、上記ゲル分率のより好ましい下限は88%、更に好ましい下限は88.5%、特に好ましい下限は89%、とりわけ好ましい下限は90%である。上記ゲル分率の上限は特に限定されないが、好ましくは100%、より好ましくは99%程度である。なお、本発明の一実施態様である粘着剤組成物が上記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープの形態で用いられた場合、上記架橋粘着ポリマーのゲル分率は上記粘着剤組成物のゲル分率と同様の方法で測定することができる。
【0014】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、タック測定機で測定した垂直剥離力の下限が12N/cm、上限が42N/cmであることが好ましい。
上記垂直剥離力をこの範囲内に調整することにより、上記粘着剤組成物を半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層が該面を充分に保護できる優れた粘着力と、剥離時における糊残りが抑制された優れた剥離性とを両立できる。上記垂直剥離力が12N/cm以上であると、粘着剤組成物からなる粘着剤層が被着体から更に剥離しにくくなり、42N/cm以下であると、粘着剤組成物からなる粘着剤層を含む粘着テープが不要となった後の剥離が容易となり、糊残りが更に抑制される。被着体からの剥離を抑制する観点から、上記垂直剥離力のより好ましい下限は13N/cm、更に好ましい下限は14N/cm、特に好ましい下限は15N/cmである。また、半導体デバイスからの剥離時における易剥離性及び糊残り抑制の観点から、より好ましい上限は40N/cm、更に好ましい上限は38N/cm、特に好ましい上限は35N/cmである。
なお、本明細書において粘着剤組成物に関する垂直剥離力とは、タックテスターを用いて、SUSプローブを、粘着剤組成物からなる粘着剤層に押し付け、垂直方向に引き剥がしたときの剥離力を意味する。具体的には、プローブ径Φ5.8mm、先端R2.9に加工したSUSプローブを、粘着剤組成物からなる粘着剤層(厚み:40μm)に対して垂直方向から荷重10000gf/cmで1秒間押し付けた後、垂直方向に0.8m/sの速度で引き剥がしたときの剥離力を意味する。タックテスターとしては、例えば、ユービーエム社製、タックテスターTA-500等を用いることができる。
【0015】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度の下限が600%、上限が1400%であることが好ましい。上記破断伸度が600%以上であると、粘着剤組成物が脆くなり難く、剥離時における粘着剤組成物からなる粘着剤層の千切れが抑えられ、糊残りが抑制される。上記破断伸度が1400%以下であると、剥離時に伸びすぎた粘着剤組成物からなる粘着剤層の千切れが抑えられ、糊残りを抑制できる。上記破断伸度が上記範囲内に調整された場合、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに剥離時の糊残りが抑制された優れた剥離性を発揮することができる。糊残りをさらに抑制する観点から、上記破断伸度のより好ましい下限は630%、より好ましい上限は1300%であり、更に好ましい下限は650%、更に好ましい上限は1250%、特に好ましい下限は700%、特に好ましい上限は1200%である。
なお、本明細書において破断伸度とは、厚み350μm、幅5mmの試験片を、引張試験機を用いて、サンプルのチャック間距離50mmにし、速度300mm/minで引張試験を行った際のサンプルの破断したときの伸びにより測定されるものである。例えば、破断伸びが500mmである場合、50mmのサンプルが500mmに伸びた時には破断伸度は1000%である。
【0016】
上記粘着ポリマーは、分子量分布Mw/Mnが4.1以下であることが好ましい。
粘着ポリマーの分子量分布を4.1以下とすることで、粘着剤組成物及び架橋粘着ポリマーのゲル膨潤率及びゲル分率を上記範囲に調節しやすくなる。上記分子量分布のより好ましい上限は3.5、更に好ましい上限は3、特に好ましい上限は2.5である。上記分子量分布の下限は特に限定されないが、好ましくは1.1、より好ましくは1.2、更に好ましくは1.3程度である。
なお、分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である。
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によりポリスチレン換算分子量として測定される。具体的には、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、粘着ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)によって50倍希釈して得られた希釈液をフィルターで濾過し、得られた濾液を用いてGPC法によりポリスチレン換算分子量として測定される。GPC法では、例えば、2690 Separations Model(Waters社製)等を使用できる。
【0017】
上記粘着ポリマーは、重量平均分子量が30万以上であることが好ましい。
粘着ポリマーの重量平均分子量が30万以上であることで、より粘着力に優れた粘着剤組成物とすることができる。上記重量平均分子量のより好ましい下限は35万、更に好ましい下限は40万、特に好ましい下限は45万である。なお、粘着ポリマーの重量平均分子量の上限は特に限定されないが、例えば500万以下、好ましくは300万以下、より好ましくは150万以下である。
【0018】
上記粘着ポリマーの製造方法は特に限定されず、例えば、リビングラジカル重合、エマルジョン重合、懸濁重合、配位重合、UV重合等の種々の方法により得ることができる。また、本発明の好適な実施態様においては、リビングラジカル重合と滴下重合とを組み合わせて上記粘着ポリマーを製造することで、粘着ポリマー鎖中の各モノマーの均一性を高めることができるため、架橋粘着ポリマーにおける架橋の均一性を向上させることができ、ゲル膨潤率を上記範囲に制御し易い。本発明の一実施態様においては、上記粘着ポリマーは、アクリル系ポリマーであることが好ましく、またリビングラジカル重合又はリビングラジカル重合と滴下重合との組み合わせによって得られる粘着ポリマーであることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーとは、(メタ)アクリル系モノマーから構成されるポリマーを意味する。更に、上記粘着ポリマーは、架橋性官能基を有することが好ましく、なかでも、リビングラジカル重合(特に、リビングラジカル重合と滴下重合との組み合わせ)により得られた、架橋性官能基を有するアクリル系ポリマー(以下、単に「リビングラジカル重合アクリル系ポリマー」ともいう)を含有することがより好ましい。
粘着ポリマーとして、架橋性官能基を有する粘着ポリマー(特にリビングラジカル重合アクリル系ポリマー)を用いることで、粘着剤組成物及び架橋粘着ポリマーのゲル膨潤率及びゲル分率を上記範囲に調節しやすくなる。上記リビングラジカル重合アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルや(メタ)アクリル酸等のアクリル系モノマーを原料として、リビングラジカル重合、好ましくは有機テルル重合開始剤を用いたリビングラジカル重合により得られたアクリル系ポリマーである。リビングラジカル重合は、重合反応が停止反応又は連鎖移動反応等の副反応で妨げられることなく分子鎖が生長していく重合である。リビングラジカル重合によれば、例えばフリーラジカル重合等と比較してより均一な分子量及び組成を有するポリマーが得られ、低分子量成分等の生成を抑えることができるため、高温下でも粘着剤組成物からなる粘着剤層が更に剥がれにくくなる。
【0019】
上記リビングラジカル重合においては、種々の重合方式を採用してもよい。例えば、鉄、ルテニウムや銅触媒及びハロゲン系開始剤を用いてよく(ATRP)、TEMPOを用いてよく、有機テルル重合開始剤を用いてよい。なかでも、有機テルル重合開始剤を用いることが好ましい。有機テルル重合開始剤を用いたリビングラジカル重合は、他のリビングラジカル重合とは異なり、水酸基やカルボキシル基のような極性官能基を有するラジカル重合性モノマーをいずれも保護することなく、同一の開始剤で重合して均一な分子量及び組成を有するポリマーを得ることができる。このため、極性官能基を有するラジカル重合性モノマーを容易に共重合することができる。
【0020】
上記有機テルル重合開始剤は、リビングラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、有機テルル化合物、有機テルリド化合物等が挙げられる。
上記有機テルル化合物として、例えば、(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-クロロ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-アミノ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-シアノ-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(メチルテラニル-メチル)ベンゼン、1-クロロ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-アミノ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-シアノ-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(1-メチルテラニル-エチル)ベンゼン、1-クロロ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-ヒドロキシ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-アミノ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-ニトロ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-シアノ-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メチルカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-フェニルカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-メトキシカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-フェノキシカルボニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-スルホニル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-(2-メチルテラニル-プロピル)ベンゼン、2-(メチルテラニル-メチル)ピリジン、2-(1-メチルテラニル-エチル)ピリジン、2-(2-メチルテラニル-プロピル)ピリジン、2-メチルテラニル-エタン酸メチル、2-メチルテラニル-プロピオン酸メチル、2-メチルテラニル-2-メチルプロピオン酸メチル、2-メチルテラニル-エタン酸エチル、2-メチルテラニル-プロピオン酸エチル、2-メチルテラニル-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メチルテラニルアセトニトリル、2-メチルテラニルプロピオニトリル、2-メチル-2-メチルテラニルプロピオニトリル等が挙げられる。これらの有機テルル化合物中のメチルテラニル基は、エチルテラニル基、n-プロピルテラニル基、イソプロピルテラニル基、n-ブチルテラニル基、イソブチルテラニル基、t-ブチルテラニル基、フェニルテラニル基等であってもよく、また、これらの有機テルル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記有機テルリド化合物として、例えば、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ-n-プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ-n-ブチルジテルリド、ジ-sec-ブチルジテルリド、ジ-tert-ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス-(p-メトキシフェニル)ジテルリド、ビス-(p-アミノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-ニトロフェニル)ジテルリド、ビス-(p-シアノフェニル)ジテルリド、ビス-(p-スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等が挙げられる。これらの有機テルリド化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ-n-プロピルジテルリド、ジ-n-ブチルジテルリド、ジフェニルジテルリドが好ましい。
【0022】
なお、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記有機テルル重合開始剤に加えて、重合速度の促進を目的として重合開始剤としてアゾ化合物を用いてもよい。
上記アゾ化合物は、ラジカル重合に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル-1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記粘着ポリマーが架橋性官能基を含有する場合、重合するモノマーとして、架橋性官能基を有するモノマーを配合する。
上記架橋性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、グリジシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基等が挙げられる。なかでも、上記粘着剤組成物及び架橋粘着ポリマーのゲル分率の調整が容易であることから、水酸基又はカルボキシル基が好ましく、水酸基がより好ましい。
【0024】
上記粘着ポリマーがリビングラジカル重合アクリル系ポリマーである場合、水酸基を有するモノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
グリシジル基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アミド基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
ニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0025】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いた場合、その含有量は特に限定されないが、上記リビングラジカル重合において重合するラジカル重合性モノマー中の好ましい上限は30重量%である。上記含有量が30重量%以下であると、上記粘着剤組成物及び架橋粘着ポリマーのゲル分率が高くなりすぎず、粘着剤組成物からなる粘着剤層の剥がれが抑制され、耐熱接着性を向上させることができる。
【0026】
上記カルボキシル基を有するアクリル系モノマーを用いる場合、その含有量は特に限定されないが、上記リビングラジカル重合において重合するラジカル重合性モノマー中の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。上記含有量が0.1重量%以上であると、上記架橋粘着ポリマーが柔らかくなりすぎず、耐熱接着性の低下を抑制することができる。上記含有量が10重量%以下であると、上記架橋粘着ポリマーが硬くなりすぎず、粘着剤組成物からなる粘着剤層の剥がれを抑制することができる。
【0027】
上記リビングラジカル重合において重合するアクリル系モノマーは、架橋性官能基を有するアクリル系モノマー以外の他のラジカル重合性モノマーを用いてもよい。上記他のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、他の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、アミノ基、アミド基及びニトリル基等の他の極性官能基を有するアクリル系モノマーも用いることができる。更に、上記アクリル系モノマーに加えて、ビニル化合物をモノマーとして用いてもよい。
【0028】
上記他の(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記ビニル化合物は特に限定されず、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-アクリロイルモルフォリン、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。これらのビニル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記リビングラジカル重合において重合するアクリル系モノマーが(メタ)アクリル酸を含む場合、粘着力を高め、架橋粘着ポリマーの架橋点を均一化させる観点から、全モノマー100重量部における(メタ)アクリル酸は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上である。また、全モノマー100重量部における(メタ)アクリル酸は、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0031】
上記リビングラジカル重合においては、分散安定剤を用いてもよい。上記分散安定剤として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
上記リビングラジカル重合の方法として、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
上記リビングラジカル重合において重合溶媒を用いる場合、該重合溶媒は特に限定されない。上記重合溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒や、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができる。これらの重合溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、重合温度は、重合速度の観点から0~110℃が好ましい。
【0032】
上記架橋剤は特に限定されず、架橋基に応じて、これらを架橋可能な架橋剤を適宜選択する。
上記架橋剤は、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。なかでも、基材に対する密着安定性に優れるため、イソシアネート系架橋剤及びエポキシ系架橋剤が好ましい。上記架橋剤は、単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の好適な実施態様において、粘着ポリマーを構成するモノマーとして(メタ)アクリル酸を用いた場合、架橋粘着ポリマーの均一なネットワークを形成し易くし、ゲル膨潤率の制御を容易にする観点から、エポキシ系架橋剤が好ましい。
上記イソシアネート系架橋剤として、例えば、コロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)、コロネートL(日本ポリウレタン工業社製)、マイテックNY260A(三菱化学社製)等が挙げられる。上記エポキシ系架橋剤としては、例えば、E-5XM(綜研化学社製)、E-AX(総研化学社製)等が挙げられる。
【0033】
上記架橋剤の配合量の含有量は、上記粘着ポリマー(例えばリビングラジカル重合アクリル系ポリマー)100重量部に対して好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が5重量部である。
上記架橋剤の種類又は量を適宜調整することによって、上記粘着剤組成物及び架橋粘着ポリマーのゲル膨潤率及びゲル分率を調整することができる。
【0034】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、ブリード剤を含有することが好ましい。
ブリード剤を含有することで、粘着剤組成物からなる粘着剤層の表面にブリード剤がブリードアウトし、半導体デバイスからの剥離を容易にすることができる。上記ブリード剤は特に限定されず、粘着剤に用いられる公知のブリード剤を用いることができる。なかでも、耐熱性が高いことからシリコーン系ブリード剤が好ましい。特に上記粘着ポリマーが上記リビングラジカル重合アクリル系ポリマーである場合、架橋粘着ポリマーとの相溶性が高いことから、アクリル部位を有するブリード剤を用いることが好ましい。
【0035】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物がブリード剤を含有する場合、接着力制御の観点から、上記ブリード剤の含有量は、上記粘着ポリマー(例えばリビングラジカル重合アクリル系ポリマー)100重量部に対して下限が0重量部、上限が10重量部であることが好ましい。上記ブリード剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部、特に好ましい下限は0.3重量部、特に好ましい上限は2重量部である。
【0036】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、無機フィラーを含有してもよい。
上記無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン等の金属の水酸化物や酸化物、亜鉛等の金属粉末や、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛等の金属の炭酸塩や、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩や、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩や、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル等が挙げられる。ただし、酸触媒として強酸を使用する場合、金属粉末、炭酸塩は、ポットライフの調整に影響がない範囲で添加する必要がある。これらの無機フィラーは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0037】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物が無機フィラーを含有する場合、上記無機フィラーの含有量は、弾性率制御の観点から、上記粘着ポリマー(例えばリビングラジカル重合アクリル系ポリマー)100重量部に対して好ましい下限が0重量部、好ましい上限が20重量部、より好ましい下限が3重量部、より好ましい上限が15重量部である。
【0038】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物の用途は特に限定されないが、粘着性能と糊残りの抑制性能に優れることから、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護する用途に特に好適に用いることができる。
【0039】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物を用いて、粘着テープを製造することができる。
このような本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープもまた、本発明の1つである。
上記粘着テープは、基材の一方の面又は両面に上記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有するサポートテープであってもよく、基材を有しないノンサポートテープであってもよい。
【0040】
上記粘着テープがサポートテープである場合、上記基材は、例えば、アクリル、オレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等が挙げられる。
【0041】
上記基材の厚さは特に限定されないが、好ましい下限が25μm、より好ましい下限が50μm、好ましい上限が250μm、より好ましい上限が125μmである。上記基材層がこの範囲であることで取り扱い性に優れるとともに粘着テープをロール状に加工しやすくすることができる。
【0042】
上記基材は、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、耐候剤、結晶核剤等の添加剤や、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エラストマー等の樹脂改質剤等を含有してもよい
【0043】
上記粘着テープは、タック測定機で測定した垂直剥離力が12~42N/cmであることが好ましい。
上記粘着テープの垂直剥離力が上記範囲であることで、上記粘着テープを半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに、上記粘着剤層が該面を充分に保護できる優れた粘着力と、剥離時における糊残りが抑制された優れた剥離性とを両立できる。本明細書において上記粘着テープの垂直剥離力とは、タックテスターを用いて、SUSプローブを粘着テープの粘着剤層に押し付け、垂直方向に引き剥がしたときの剥離力を意味する。具体的には、プローブ径Φ5.8mm、先端R2.9に加工したSUSプローブを、粘着テープの粘着剤層に対して垂直方向から荷重10000gf/cmで1秒間押し付けた後、垂直方向に0.8m/sの速度で引き剥がしたときの剥離力を意味する。タックテスターとしては、例えば、ユービーエム社製、タックテスターTA-500等を用いることができる。
なお、上記粘着剤組成物の垂直剥離力は、粘着剤組成物を厚さ40μmの粘着剤層に成形して測定を行うが、上記粘着テープの垂直剥離力は粘着テープの粘着剤層の厚さに関わらずそのまま測定を行う。
【0044】
上記粘着剤層の厚みは、半導体デバイスのバンプを十分に保護できる観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上である。また、粘着テープのロール形態時におけるブロッキングを抑制する観点から、上記粘着剤層の厚みは、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下、とりわけ好ましくは100μm以下、非常に好ましくは75μm以下である。
【0045】
上記粘着テープの製造方法は特に限定されず、例えば、粘着剤組成物を含む粘着剤溶液を、離型処理したPETフィルムに塗工した後、乾燥させて粘着剤層を形成し、得られた粘着剤層を基材の片面又は両面に転着させる方法が挙げられる。また、上記基材に直接粘着剤溶液を塗工した後、乾燥させる方法が挙げられる。粘着剤溶液を離型処理したPETフィルムに塗工した後、乾燥させて形成した粘着剤層を、基材なしでそのままノンサポートタイプの両面粘着テープとしてもよい。
【0046】
上記粘着テープに対して、事前UV処理を行ってよい。
事前UV処理とは、被着体に貼付する前又は後の上記粘着テープの粘着剤層に紫外線を照射する処理を意味する。事前UV処理により、粘着テープの各種物性を調整することができ、例えば破断伸度を制御することができる。
上記事前UV処理は、具体的には例えば、上記粘着テープの粘着剤層に、UVランプを用いて、波長300~450nmの紫外線を、照度10~100mW/cmで積算照射量3000mJ/cmの条件で照射することにより行うことができる。上記UVランプとしては、例えば、高圧水銀ランプ等を用いることができる。
本発明の一実施態様において、上記粘着剤組成物及び粘着テープは、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するために用いることができる。
【0047】
半導体デバイスを保護する方法であって、半導体デバイスのバンプが形成された面に粘着剤組成物を塗工する工程又は半導体デバイスのバンプが形成された面に粘着テープを貼付する工程を有し、前記粘着テープは前記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有し、前記粘着剤組成物は粘着ポリマー及び架橋剤から構成される架橋粘着ポリマーを含み、ゲル膨潤率が500%以上であり、ゲル分率が87%以上である、方法もまた本発明の1つである。この使用方法によれば、粘着テープが高い粘着力を有するとともに、剥離の際の糊残りを抑制することができる。
【0048】
上記半導体デバイスは、バンプを有する半導体デバイスであれば特に限定されない。なかでも、本発明の粘着剤組成物及び粘着テープは粘着力と糊残り抑制性能に優れることから、バンプの高さが100~200μm程度まで達するような高いバンプを有する半導体デバイスの保護において特に高い効果を発揮する。
【0049】
上記粘着テープとしては、例えば、半導体デバイスのバンプが形成された面に、本発明の一実施態様である粘着剤組成物を直接塗工して粘着剤層としたものや、上記粘着剤組成物からなる粘着剤層からなるノンサポートテープ、基材の一方の面に上記粘着剤組成物からなる粘着剤層を有するサポートテープ等が挙げられる。上記貼付には上記粘着剤組成物を直接塗工して粘着剤層を形成する行為も含まれる。
【0050】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなる粘着剤層により半導体デバイスのバンプが形成された面を保護する場合、上記粘着剤層の厚みは、糊残りを更に抑制することができる観点から、半導体デバイスのバンプの高さに対して70%以下であることが好ましい。なお、上記粘着剤層の厚みは通常、半導体デバイスのバンプの高さに対して0%より高い。
【0051】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープにより、半導体デバイスのバンプが形成された面が保護された状態を模式的に示した断面図を図1に示す。半導体デバイス1は、一方の面にバンプ12が形成されており、該バンプ12側の面に、基材3の一方の面に上記粘着剤組成物からなる粘着剤層2が積層されたサポートテープを貼付することにより保護される。なお、半導体デバイス1のバンプ12が形成されていない側の面は、仮固定用粘着剤組成物からなる層4を介して支持板5が貼付されて、当該面側が保護されている。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープ及び該粘着剤組成物又は該粘着テープを用いた半導体デバイスの保護方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープにより、半導体デバイスのバンプが形成された面が保護された状態を模式的に示した断面図である。
図2】実施例の耐熱評価で使用されるSUS420製の冶具Aの全体図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
(樹脂Aの合成)
Tellurium(40メッシュ、金属テルル、アルドリッチ社製)6.38g(50mmol)をテトラヒドロフラン(THF)50mLに懸濁させ、これに1.6mol/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(アルドリッチ社製)34.4mL(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで攪拌した。この反応溶液に、エチル-2-ブロモイソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間攪拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物の2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルを得た。
【0056】
アルゴン置換したグローブボックス内で、反応容器中に、得られた2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチル0.026mL、V-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)0.007g、酢酸エチル1mLを投入した後、反応容器を密閉し、反応容器をグローブボックスから取り出した。続いて、反応容器にアルゴンガスを流入しながら、反応容器内に、重合溶媒として酢酸エチル50gを投入し、60℃とした。その後、表1に示す混合モノマーの合計100g及び、重合溶媒として酢酸エチル50gの混合物を0.5g/分の速度で滴下投入し、60℃で20時間重合反応を行い、リビングラジカル重合された樹脂A(粘着ポリマー)含有溶液を得た。
次いで、得られた粘着ポリマー含有溶液をテトラヒドロフラン(THF)によって50倍に希釈した。得られた希釈液をフィルターで濾過し、濾液をゲルパミエーションクロマトグラフに供給して、サンプル流量1ミリリットル/min、カラム温度40℃の条件でGPC測定を行い、ポリマーのポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。なお、ゲルパミエーションクロマトグラフは、Waters社製、2690 Separations Modelを用いた。フィルターは、ポリテトラフルオロエチレン製、ポア径0.2μmのものを用いた。カラムとしてはGPC KF-806L(昭和電工社製)を用い、検出器としては示差屈折計を用いた。
【0057】
(樹脂B~Eの合成)
2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルの仕込み量、V-60(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬工業社製)の仕込み量、及び、混合モノマーの組成を表1の通りに変更した。それ以外の点については、樹脂Aの合成と同様にして樹脂B~E(粘着ポリマー)含有溶液を得て、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0058】
(樹脂Fの合成)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして2-エチルヘキシルアクリレート85重量部、官能基含有モノマーとしてメタクリル酸ヒドロキシエチル10重量部、アクリル酸5重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部と、酢酸エチル80重量部を加えた。この反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、粘着ポリマーの酢酸エチル溶液を得た。樹脂Aの合成と同様にして、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた結果、Mwは59.3万、Mw/Mnは8.2であった。
【0059】
(実施例1)
(1)粘着剤組成物及び粘着テープの製造
得られた樹脂A含有溶液に、その不揮発分100重量部に対して酢酸エチルを加えて攪拌し、表2に示した種類及び配合量でブリード剤とエポキシ系架橋剤とを添加して攪拌し、不揮発分30重量%の架橋粘着ポリマーを含む粘着剤組成物(以下単に粘着剤組成物という)の酢酸エチル溶液を得た。
得られた粘着剤組成物の酢酸エチル溶液を、片面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンナフタレートフィルムのコロナ処理面上に、乾燥皮膜の厚さが40μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。その後、40℃、3日間静置養生を行い、粘着テープを得た。
なお、エポキシ系架橋剤としては綜研化学社製、E-5XMを用いた。ブリード剤としては、ダイセルオルネクス社製、EBECRYL350を用いた。無機フィラーとしては、トクヤマ社製、MT-10を用いた。
【0060】
(2)ゲル膨潤率の測定
得られた粘着テープから粘着剤組成物のみを0.1gこそぎ取って酢酸エチル50ml中に浸漬し、振とう機で温度23度、200rpmの条件で24時間振とうした。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、酢酸エチルと酢酸エチルを吸収し膨潤した粘着剤組成物を分離した。酢酸エチルを吸収して膨潤した粘着剤組成物の金属メッシュを含む重量を測定し、110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の粘着剤組成物の金属メッシュを含む重量を測定し、下記式を用いてゲル膨潤率を算出した。結果を表2に示した。
ゲル膨潤率(%)=((V-V)/(V-V))×100
(V:膨潤後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量、V:金属メッシュの初期重量、V:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量)
【0061】
(3)ゲル分率の測定
得られた粘着テープから粘着剤組成物のみを0.1gこそぎ取って酢酸エチル50ml中に浸漬し、振とう機で温度23度、200rpmの条件で24時間振とうした。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、酢酸エチルと酢酸エチルを吸収し膨潤した粘着剤組成物を分離した。分離後の粘着剤組成物を110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物の重量を測定し、下記式を用いてゲル分率を算出した。結果を表2に示した。
ゲル分率(重量%)=100×(W-W)/W
(W:初期粘着剤組成物重量、W:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤組成物重量、W:金属メッシュの初期重量)
【0062】
(4)垂直剥離力の測定
得られた粘着テープの粘着剤層について、タックテスターを用いて、プローブ径Φ5.8mm、先端R2.9に加工したSUSプローブを、粘着剤組成物に対して垂直方向から荷重10000gf/cmで1秒間押し付けた後、垂直方向に0.8m/sの速度で引き剥がしたときの剥離力を測定した。9点測定のうち、中央値5点の平均値を垂直剥離力とした。結果を表2に示した。
タックテスターとしては、ユービーエム社製、タックテスターTA-500を用いた。
【0063】
(5)破断伸度の測定
破断伸度は、厚み350μm、幅5mmの試験片を、引張試験機において、サンプルのチャック間距離50mmにし、速度300mm/minで引張試験を行った際の試験片が破断したときの伸びを測定することにより決定した。結果を表2に示した。
【0064】
(実施例2~14、比較例1~4)
樹脂の種類、ブリード剤及び無機フィラーの配合量、架橋剤の種類及び配合量を表2、3に示したようにした以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物及び粘着テープを得た。得られた粘着剤組成物について、実施例1と同様方法によりゲル膨潤率、ゲル分率、垂直剥離力及び破断伸度を測定した。結果を表2、3に示した。なお、イソシアネート系架橋剤としては、日本ポリウレタン工業社製、コロネートL-45を用いた。
【0065】
(評価)
実施例及び比較例で得た粘着剤組成物について、以下の方法により耐熱評価を行った。結果を表2、3に示した。
【0066】
耐熱評価は、図2に示されるSUS420製の冶具Aの中央部にバンプ付きチップ(ウォルツ社製、WALTS-TEG FC150SCJY LF(PI) TypeA)を置き、2kgローラーを用いて、速度10mm/secで縦40mm、横40mmの大きさに切断した粘着テープを貼り、15分間常温で養生した。
その後、オーブンにて180℃、6時間、ホットプレートにて250℃、10分間の熱処理工程を行った。目視により観察して、以下の基準により耐熱評価を行った。
A:工程中に剥離することなく、かつ、剥離時に糊残りも認められなかった。
B:工程中に一部剥離してしまったが(面積で10%未満)、剥離時の糊残りは認められなかった。
C:工程中に剥離はしなかったが、剥離時に糊残りが認められた。洗浄によっても糊残りを取り除くことができなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着層を有する粘着テープ及び該粘着剤組成物又は該粘着テープを用いた半導体デバイスの保護方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 半導体デバイス
12 バンプ
2 粘着剤組成物からなる粘着剤層
3 基材
4 仮固定用粘着剤組成物からなる層
5 支持板
図1
図2