IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • -ブレーキディスク 図1
  • -ブレーキディスク 図2
  • -ブレーキディスク 図3
  • -ブレーキディスク 図4A
  • -ブレーキディスク 図4B
  • -ブレーキディスク 図5
  • -ブレーキディスク 図6
  • -ブレーキディスク 図7
  • -ブレーキディスク 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20221122BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F16D65/12 P
F16D65/12 U
B61H5/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019016092
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020122553
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】谷田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚紀
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-178239(JP,U)
【文献】国際公開第2015/122148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、
上記板部の裏面に互いに間隔を空けて放射状に突設され、長手方向中間に設けたボルト挿通孔に締結部材を挿通して車輪に締結される複数の放射状フィン部と、
上記板部の裏面に、上記放射状フィン部の円周方向両側に角度をもってそれぞれ突設された傾斜フィン部とを備え、
上記傾斜フィン部は、上記放射状フィン部に対して30°以上50°以下の角度をもって一体に連結されている
ことを特徴とするブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などの車両に用いるブレーキディスクに関し、特に、制動中の摩擦熱によって生じる熱エネルギーを分散させ、熱エネルギーによって生じる応力を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車、航空機などの制動に用いられるディスクブレーキは、車軸や車輪とともに回転するブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けて制動力を発生させ、これにより車軸又は車輪の回転を制動して車両の速度を制御することが知られている。
【0003】
新幹線などの高速鉄道車両は、高速化が推進されて時速300kmを超える速度での運転が行われている。鉄道車両の高速化には、車両の重量低減が必須であり、摺動面となる板部を車輪に対して直接締結する摺動面締結型のブレーキディスクが適することが知られている。
【0004】
高速での走行時には空力音と称される騒音を誘発するため、環境への配慮から空力音の低減が必要とされる。特許文献1では、隣り合う放射状フィン部同士の間に、円周方向に沿ってリブを追加し、このリブによって空気の流れを抑制したブレーキディスクが開示されている。
【0005】
特許文献2のブレーキディスクは、制動中の摩擦熱によって発生する反りなどの変形を低減する目的で、被締結部材(車輪など)に設けた凸部と嵌合する凹部を、その締結面に有している。
【0006】
また、特許文献3のブレーキディスクでは、締結部と非締結部の合計体積の比を規定し、一部にひずみが集中するのを防いで、反りやうねりを抑制するようにしている。
【0007】
特許文献4では、ブレーキディスクの内外周における車輪との接触位置と締結孔との位置関係を適正化することにより、ボルトへの曲げ負荷を低減し、ボルトの耐久性を確保するようにしている。
【0008】
また、特許文献5のブレーキディスクでは、その表面側を摺動面とするドーナツ形の円板部と、この円板部の裏面に放射状に突設された複数の放射状フィン部と、円板部及び放射状フィン部を貫通するボルト孔とを設け、ボルト孔に挿通されたボルトによる締結により、放射状フィン部が車輪の板部に圧接した状態で円板部が車輪に取り付けられるようにしている。この放射状フィン部には、ボルト孔を間に挟む径方向の内周側の領域と外周側の領域に、円周方向に沿って溝を形成することにより、制動時の冷却性能を向上させ、締結用ボルトを含めたブレーキディスクの耐久性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5158209号公報
【文献】特開2001-311441号公報
【文献】特開2005-321091号公報
【文献】特開2006-9862号公報
【文献】特許第5924413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、特許文献1のようなブレーキディスクによれば、空力音を所望のレベルまで低減することができるが、リブによるガス流れの抑制に伴い、制動時にブレーキディスクの冷却性能が低下するという問題が顕在化する。また、高速走行状態から非常ブレーキをかける場合においては、ブレーキディスクの熱膨張に伴う変形、及びそれによる締結用ボルトへの応力負荷が増大し、ブレーキディスク及びボルトの耐久性を確保することが難しくなる。
【0011】
このように、上記特許文献1~5のブレーキディスクでは、発生する熱応力に対処する方法が明記されているが、発生する応力を低減することは十分にできておらず、未だ発生する熱エネルギーを十分に分散させる余地がある。
【0012】
本発明は、上記の問題に着目し、制動時における熱分散性能を向上させ、かつ制動中の摩擦熱によるブレーキディスクに発生する応力を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、この発明では、摩擦熱によって発生するブレーキディスクに発生する応力を抑制するようにした。
【0014】
具体的には、第1の発明では、
表面側を摺動面とするドーナツ形円板状の板部と、
上記板部の裏面に互いに間隔を空けて放射状に突設され、長手方向中間に設けたボルト挿通孔に締結部材を挿通して車輪に締結される複数の放射状フィン部と、
上記板部の裏面に、上記放射状フィン部の円周方向両側に角度をもってそれぞれ設けられた傾斜フィン部とを備え、
上記傾斜フィン部は、上記放射状フィン部に対して30°以上50°以下の角度をもって一体に連結される構成とする。
【0015】
すなわち、放射状フィンに対して30°よりも小さい角度で連結すると、傾斜フィン部を放射状フィン部と連結することが困難であり、50°よりも大きくすると、熱容量及び表面積が応力低減させる領域までにならないが、上記の構成によると、傾斜フィン部が放熱フィン部に対して適度な角度で連結されているので、適切な表面積を確保でき、更なる熱分散を期待できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ブレーキディスクの板部に突設する傾斜フィン部を締結部材が挿通される放射状フィン部に対して30°以上50°以下の角度をもって連結したことにより、制動時における熱分散性能を向上させ、かつ制動中の摩擦熱によるブレーキディスクに発生する応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図4AのI部拡大正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るブレーキディスクが締結された車輪を示す正面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4A】本発明の実施形態に係るブレーキディスクの裏面を示す背面図である。
図4B】本発明の実施形態に係るブレーキディスクの裏面を示す斜視図である。
図5】斜め角度を変化させたときの実施例と比較例に係る温度解析結果を示す図である。
図6】斜め角度を変化させたときの実施例と比較例に係る応力解析結果を示す図である。
図7】フィン太さを変化させたときの実施例と比較例に係る温度解析結果を示す図である。
図8】傾斜フィン部の板部の外周端からの距離を変化させたときの実施例と比較例に係る温度解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1図4Bは、本発明の実施形態に係る鉄道車両用のブレーキディスク1を示し、このブレーキディスク1は、鉄道車両の車輪20の板部20aの表裏両面に、例えば締結部材としての締結用ボルト21と締結用ナット22とによってそれぞれ着脱可能に取り付けられるものである。ブレーキディスク1は、例えば、鋳鋼よりなる。
【0020】
ブレーキディスク1は、表面側(外側面側)を摺動面とする、中央に円形開口が設けられたドーナツ形板状の板部1aを備えている。この板部1aの裏面(内側面)には、互いに間隔を空けて複数の放射状フィン部2が一体に突設されている。各放射状フィン部2の長手方向中間に設けたボルト挿通孔2aに締結ボルト21を挿通して締結することで、ブレーキディスク1が車輪20に締結されるようになっている。本実施形態では、放射状フィン部2は、板部20aの各側面に中心角30°の間隔を空けて12本設けられている。なお、この本数は、12本に必ずしも限定されず、多くても少なくてもよい。
【0021】
本実施形態では、一対の放射状フィン部2の間に例えば3本の補助フィン部3が放射状に延びるように板部20aに一体に突設されている。補助フィン部3の太さは、放射状フィン部2の太さよりも細くなっているが、その本数は必ずしも限定されず、多くても少なくてもよい。
【0022】
そして、板部20aの裏面には、放射状フィン部2の円周方向両側に所定の傾斜角度θをもって傾斜フィン部4がそれぞれ突設されている。詳しくは後述するが、この傾斜角度θは、30°以上50°以下となっている(30°≦θ≦50°)。本実施形態では、傾斜フィン部4の一端が放射状フィン部2に連結され、中間部が1本の補助フィン部3に連結されると共に、他端が真ん中の補助フィン部3に連結されている。隣り合う放射状フィン部2の傾斜フィン部4は、この真ん中の補助フィン部3の半径方向(長手方向)位置が同じ(外周端からの距離Yが同じ)位置において連結されている。
【0023】
そして、一対のブレーキディスク1は、車輪20の板部20aを、その厚さ方向両側から挟み込んだ状態で、ボルト挿通孔2aに挿通した締結用ボルト21に締結用ナット22を締結することで、車輪20に脱着可能に固定されるようになっている。
【0024】
-実施例-
上記のようなブレーキディスク1では、ブレーキディスク1の外周側に適度な熱容量をもたせることで制動時に発生する熱エネルギーを分散させ、発生する熱を分散させてブレーキディスク1に発生する応力を低減可能であることが分かった。
【0025】
上記のようなブレーキディスク1において、ディスクの熱分散性能効果を確認するために、FEM解析の非定常伝熱及び応力解析を行った。
【0026】
付与した熱流速は車輪径860mmで300km/hの高速車両を想定した条件とした。図5に、その結果を示す。図5における項目の「表面」とは外側面側の摺動面のことを指し、「裏面」とは摺動面と反対側(内側面側)で放射状フィン部2、補助フィン部3及び傾斜フィン部4が存在しない箇所を示している。表中の数値は、温度(℃)を示す。図5図8の( )内数字は比較例に対する低下率を示す。
【0027】
熱分散の効果の確認と共に、ブレーキディスク1の摺動面に発生する応力の変化を確認した。その結果を図6に示す。斜め角度30°以上50°以下において、発生する応力が比較例よりも小さい値であることが確認できた。このように、表面に発生する応力が抑制されることから、熱分散によって熱き裂の発生抑制に寄与していることが確認できた。
【0028】
また、傾斜フィン部4の角度θ以外にも太さXが影響することが考えられる。そこで、角度θが30°の場合において、傾斜フィン部4の太さXを変化させてブレーキディスク1の摺動面に発生する応力を確認した。その結果を図7に示す。ここでは、太さXは、応力に影響がほとんどないことを確認できた。
【0029】
さらに、傾斜フィン部4の角度θ以外に傾斜フィン部4の終点又は始点位置が影響することが考えられる。そこで、傾斜フィン部4の角度θが30°の場合において、傾斜フィン部4の外周端からの距離Yを変化させてブレーキディスク1の摺動面に発生する応力を確認した。その結果を図8に示す。これを見ても分かるように、外周端からの距離Yは応力にほとんど影響を及ぼさないことを確認できた。
【0030】
以上説明したように、放射状フィン部2に対して30°よりも小さい角度で連結すると、傾斜フィン部4は補助フィン部3を一体に放射状フィン部2と連結することが困難である。また、50°よりも大きくすると、熱容量及び表面積が応力低減させる領域までにならない。しかし、上記実施形態によると、傾斜フィン部4が放熱フィン部2に対して適度な角度で連結されているので、適切な表面積を確保でき、更なる熱分散を期待できる。
【0031】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 ブレーキディスク
1a 板部
2 放射状フィン部
2a ボルト挿通孔
3 補助フィン部
4 傾斜フィン部
20 車輪
20a 板部
21 締結用ボルト(締結部材)
22 締結用ナット(締結部材)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8