(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】異種金属接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 364
B23K20/12 344
(21)【出願番号】P 2019021369
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 孝生
(72)【発明者】
【氏名】村松 良崇
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓也
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-269367(JP,A)
【文献】特開2007-098439(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1716959(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属材と当該第1金属材を構成する金属よりも融点の低い金属からなる第2金属材とを重ね合わせて、それらを摩擦攪拌点接合する異種金属接合方法で、かつ、クランプと、前記クランプの上側部材に回転自在かつ軸方向変位自在に支持される筒状の工具本体と、前記工具本体の内孔に回転自在かつ軸方向変位自在に挿入されるピン部材と、を有する溶接装置が用いられる前記異種金属接合方法であって、
前記第2金属材へ向けて変位させるように駆動することにより、前記ピン部材の先端面を前記第2金属材の非重ね合わせ面の所定位置に当接させる準備工程と、
前記ピン部材の回転および変位を継続する一方で、前記工具本体を回転させながら当該工具本体の先端面を前記第2金属材から離す向きに変位させるように駆動する加工工程と、を含み、
前記加工工程では、前記ピン部材で前記第2金属材に貫通孔を形成し、それに伴い前記第2金属材の金属が塑性流動することによって前記ピン部材の外周と、前記工具本体の先端面と、前記クランプの上側部材の内周と、によって形成される環状空間に集められてから当該ピン部材の先端を第1金属材の所定深さ位置にまで食い込ませる
ようにし、
前記加工工程において、前記ピン部材を回転させるための駆動源にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きくなったときに前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させる、ことを特徴とする異種金属接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の異種金属接合方法は、前記加工工程において前記ピン部材を回転させるための駆動源にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きくなったときに前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止してから、前記ピン部材を前記第1金属材から離すように変位させて、前記工具本体を前記第1金属材へ向けて変位させる接合工程を含むことを特徴とする異種金属接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、アルミニウム板材と鋼板とを重ね合わせ、前記アルミニウム板材側から軸回りに回転せしめられる回転工具のショルダ部材の先端に同軸的に位置せしめたプローブを回転させつつ、その先端が前記鋼板の直上の所定位置に達するように差し込み、摩擦攪拌して前記アルミニウム板材と前記鋼板とを点接合する方法に関する発明が開示されている。
【0003】
この特許文献1では、前記プローブの先端を前記鋼板の直上の所定位置(10μm以上、アルミニウム板材の厚さの20%以下)にまで下降させて、当該位置で摩擦攪拌させて、前記プローブを上昇させる一方で前記ショルダ部材を下降させることにより、前記プローブの引き抜きによって生じるプローブ穴を材料の流動によって埋め込むことにより、前記アルミニウム板材と前記鋼板とを点接合させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4602796号(特開2006-239720号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、前記プローブを前記アルミニウム板材に差し込み前記鋼板に到達する手前で前記プローブを停止させるようにしているが、当該プローブの下降を停止させるタイミングについて、仮に前記プローブの下降量が所定値になった時点にすると、前記アルミニウム板材や前記鋼板の各板厚寸法にばらつきが存在している場合には、前記プローブを前記鋼板の直上の所定位置で正確に停止させることができなくなる。ここに改良の余地がある。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明は、異種金属接合方法において、第1、第2金属材の各板厚寸法にばらつきに関係なく、第1金属材と第2金属材とを高い品質で接合可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1金属材と当該第1金属材を構成する金属よりも融点の低い金属からなる第2金属材とを重ね合わせて、それらを摩擦攪拌点接合する異種金属接合方法で、かつ、クランプと、前記クランプの上側部材に回転自在かつ軸方向変位自在に支持される筒状の工具本体と、前記工具本体の内孔に回転自在かつ軸方向変位自在に挿入されるピン部材と、を有する溶接装置が用いられる前記異種金属接合方法であって、前記第2金属材へ向けて変位させるように駆動することにより、前記ピン部材の先端面を前記第2金属材の非重ね合わせ面の所定位置に当接させる準備工程と、前記ピン部材の回転および変位を継続する一方で、前記工具本体を回転させながら当該工具本体の先端面を前記第2金属材から離す向きに変位させるように駆動する加工工程と、を含み、前記加工工程では、前記ピン部材で前記第2金属材に貫通孔を形成し、それに伴い前記第2金属材の金属が塑性流動することによって前記ピン部材の外周と、前記工具本体の先端面と、前記クランプの上側部材の内周と、によって形成される環状空間に集められてから当該ピン部材の先端を第1金属材の所定深さ位置にまで食い込ませるようにし、前記加工工程において、前記ピン部材を回転させるための駆動源にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きくなったときに前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させる、ことを特徴としている。
【0009】
この構成によれば、第1金属材に前記ピン部材を食い込ませると、前記第1金属材の新生面が露呈されることになり、この新生面に前記塑性流動する分および前記食い込みにより除去された分が固相接合されることになるので、第1金属材と第2金属材とを高い品質で接合することが可能になる。
【0010】
しかも、前記第1金属材と前記第2金属材とが異質金属であるから、前記加工工程において、前記ピン部材で前記第2金属材に貫通孔を形成するときの負荷と、前記ピン部材を前記第1金属材に食い込ませるときの負荷とが異なることが明らかである。
【0011】
なお、前記負荷とは、前記ピン部材の回転方向の駆動負荷と変位方向の駆動負荷との少なくともいずれか一方のことである。この負荷の変化は、前記ピン部材を回転させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方を監視することにより認識できる。
【0012】
このことからすると、前記第1金属材に前記ピン部材が食い込んだことを検出した時点または当該検出時点から所定時間遅延した時点で前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させることができる。
【0013】
これにより、仮に、第1、第2金属材の各板厚寸法にばらつきが存在している場合であっても、前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させるタイミングを簡単かつ正確に管理できるようになる。その結果、第1、第2金属材の各板厚寸法のばらつきに関係なく、第1金属材と第2金属材とを安定的に高い品質で接合することが可能になる。
【0014】
ところで、上記加工工程において、前記ピン部材を回転させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きくなったときに前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させる、という構成を採用しているので、下記するような作用、効果が得られる。
【0015】
この構成によれば、前記ピン部材で前記第2金属材に貫通孔を形成する過程において、当該ピン部材の先端面を前記第1金属材に所定量食い込ませた位置で前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止させることが可能になる。
【0016】
つまり、前記ピン部材により前記第2金属材に貫通孔を形成した後で当該ピン部材が前記第1金属材に食い込むと、前記各駆動源(モータ)の負荷が前記第2金属材に貫通孔を形成していたときに比べて急増することになるとともに、当該各駆動源(モータ)にかかる電流が急増することになる。
【0017】
これにより、前記両方の駆動源(モータ)の少なくともいずれか一方にかかる電流の変化を調べることによって前記ピン部材が第1金属材に食い込んだことを簡単かつ正確に認識することが可能になるから、前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止するタイミングを簡単かつ正確に把握できるようになるのである。
【0018】
このことから、仮に前記第1、第2金属材の各板厚寸法にばらつきが存在している場合においても、そのことに関係なく、前記第1金属材への前記ピン部材の食い込み量つまり第1金属材の加工量を簡単かつ正確に管理することが可能になる。
【0019】
この他、上記異種金属接合方法は、前記加工工程において前記ピン部材を回転させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量と、前記ピン部材を軸方向に変位させるための駆動源(モータ)にかかる電流の変化量との少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きくなったときに前記ピン部材および前記工具本体の変位を停止してから、前記ピン部材を前記第1金属材から離すように変位させて、前記工具本体を前記第1金属材へ向けて変位させる接合工程、を含む。
【0020】
この接合工程では、要するに、前記加工工程において前記環状空間に集めた前記塑性流動分および第1金属材への前記ピン部材の食い込みにより除去された分を前記貫通孔内に戻すことになり、それに伴い、当該塑性流動分である第2金属材が、前記第1金属材の食い込み部位(新生面)に固相接合されることになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る異種金属接合方法によれば、第1、第2金属材の各板厚寸法のばらつきに関係なく、第1金属材と第2金属材とを高い品質で接合することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る異種金属接合方法を実行する接合装置の一実施形態を示す概略構成図で、第1、第2金属材をクランプした状態を示している。
【
図2】
図1の接合装置により実行する異種金属接合方法の概要を説明するためのフローチャートを示す図である。
【
図3】
図2の加工工程の詳細を説明するためのフローチャートを示す図である。
【
図6】ピン部材の先端(下端)の形状を示す斜視図である。
【
図7】ピン部材の先端(下端)の形状の他例を示す斜視図である。
【
図8】
図1の接合装置を装備した多関節ロボットの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1から
図8に本発明の一実施形態を示している。ここで、本発明にかかる異種金属接合方法を実行するための接合装置の説明に先立ち、当該接合装置の使用例を
図8に示して説明する。
図8において、1は多関節ロボット、2は接合装置である。
【0025】
図8に示すように、接合装置2は、多関節ロボット1のアーム1aの先端に装備されている。
【0026】
この接合装置2は、第1金属材3とそれとは異種の第2金属材4を摩擦攪拌点接合することに用いられるものであって、クランプ5、加工工具6、第1駆動部7、第2駆動部8、制御部9、等を備えている。
【0027】
第1金属材3は、例えば鋼(鉄系金属)製の板材とされ、第2金属材4は前記鋼よりも融点の低いアルミニウム合金製の板材とされる。
【0028】
なお、接合対象となる第1、第2金属材3,4の組み合わせは上記に限定されるものではなく、例えば鋼とマグネシウム合金等のように一方の融点と他方の融点との間に一定の開きがあれば適用可能である。
【0029】
また、本実施形態に係る異種材接合方法は、板材同士の接合のみでなく板状の部分が設けられている種々の部材同士の接合にも適用可能である。
【0030】
クランプ5は、多関節ロボット1のアーム1a先端に取り付けられており、板状の第1金属材3の上に板状の第2金属材4を重ね合わせてなるワークを当該重ね合わせ方向から挟む形態で保持する。
【0031】
加工工具6は、工具本体(ショルダとも言う)61と、ピン部材(プローブとも言う)62と、を有している。
【0032】
工具本体61は、例えば円筒形に形成されており、クランプ5の上側部材(符号省略)にその中心軸線周りに回転自在かつ中心軸線に沿って変位自在に支持されている。このように、クランプ5の上側部材(符号省略)は、工具本体61を回転自在かつ軸方向変位自在に支持する支持部材としても機能する。
【0033】
ピン部材62は、例えば円柱形状に形成されており、工具本体61の内孔にその中心軸線周りに回転自在かつ中心軸線に沿って変位自在に挿入されている。
【0034】
このピン部材62の先端面(下端面)62aは、例えば
図6に示すように平坦面とされているが、例えば
図7に示すように凸条部62bを設けた形状とすることができる。
【0035】
ところで、ピン部材62については、第1金属材3の表面に自然に形成される表面酸化膜および鋼製の第1金属材3を切削可能な超硬材料とされている。
【0036】
第1駆動部7は、詳細に図示していないが、工具本体61を回転させるための駆動源(モータ)および減速機等や、工具本体61を昇降変位させるための駆動源(モータ)および動力変換機構等を有している。
【0037】
第2駆動部8は、詳細に図示していないが、ピン部材62を回転させるための駆動源(モータ)および減速機等や、ピン部材62を昇降変位させるための駆動源(モータ)および動力変換機構等を有している。
【0038】
制御部9は、接合の実行要求に応答して
図2および
図3に示すフローチャートに従い第1、第2駆動部8を制御することにより摩擦攪拌点接合方法を実行する。
【0039】
この制御部9は、一般に公知のElectronic Control Unit(ECU)と呼ばれるものであって、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)、不揮発性記憶装置(Read Only Memory:ROM)、一時記憶装置(Random Access Memory:RAM)等を備えている。
【0040】
前記ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。前記CPUは、前記ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。前記RAMは、前記CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。
【0041】
次に、上述した接合装置2による摩擦攪拌点接合方法を詳細に説明する。
【0042】
接合装置2の制御部9は、摩擦攪拌点接合方法として、
図2に示すように、ステップS1の準備工程と、ステップS2の加工工程と、ステップS3の接合工程と、をこの記載順に実行し、前記接合工程の後、
図2に示すフローチャートを終了する。
【0043】
具体的に、前記準備工程では、第1、第2駆動部7,8により工具本体61およびピン部材62の各先端面(下端面)61a,62aを面一にして共に回転させながら下降させるように駆動することにより、前記両先端面61a,62aを、第1金属材3の上に重ね合わせた第2金属材4の上面(非重ね合わせ面)の所定位置に当接させる。なお、前記した工具本体61の回転の方向とピン部材62の回転の方向とは、この実施形態において同じにしている。
【0044】
ちなみに、ピン部材62の各先端面(下端面)61a,62aが第2金属材4の上面に当接すると、第2駆動部8においてピン部材62を回転させるための前記駆動源(モータ)にかかる電流値と、第1駆動部7において工具本体61を回転させるための前記駆動源(モータ)にかかる電流値との両方が、前記当接前の電流値よりも大きくなる。このことから、第2駆動部8においてピン部材62を回転させるための前記駆動源(モータ)にかかる電流値と、第1駆動部7において工具本体61を回転させるための前記駆動源(モータ)にかかる電流値との少なくともいずれか一方を監視することにより、前記当接した時点を制御部9が認識することができる。
【0045】
また、前記加工工程では、上記準備工程においてピン部材62の先端面(下端面)62aが第2金属材4の上面に当接したことを検出した後、第2駆動部8によるピン部材62の回転および下降を継続する一方で、第1駆動部7による工具本体61の回転を継続しながら当該工具本体61の下降を一旦停止させてから上昇させるように駆動する。
【0046】
これにより、第2金属材4はピン部材62との摩擦による摩擦熱ならびにピン部材62による攪拌作用でもって軟化し、第2金属材4が塑性流動することによって、
図4に示すように、第2金属材4に貫通孔41が形成されるとともに、前記塑性流動する分(以下、塑性流動分と言う)42が、ピン部材62の外周と工具本体61の先端面(下端面)61aとクランプ5の上側部材(符号省略)の内周とで作る環状空間10に集められることになる。
【0047】
そして、前記ピン部材62の下降は、その先端面62aを第1金属材3の上面から所定深さに食い込ませるまで継続させるようにし、この食い込み後に第2駆動部8によるピン部材62の下降および第1駆動部7による工具本体61の上昇を停止させる。
【0048】
なお、前記食い込みは、ピン部材62が第1金属材3を切削することによって実現することができ、当該食い込み量は、任意であるが、例えば0.1~0.5mmに設定することができる。この食い込みを行うと、第1金属材3において表面から所定深さ位置の素材が新生面31(
図4参照)として露呈されることになる。この新生面31とは、第1金属材3の素材そのものであって、表面に酸化膜が形成されていない面のことである。
【0049】
さらに、前記接合工程では、第2駆動部8によりピン部材62を回転させながら上昇させる一方で、第1駆動部7により工具本体61を回転させながら下降させる。
【0050】
これにより、前記環状空間10に集められた塑性流動分42ならびに前記食い込みにより除去された分が前記貫通孔41に戻されることになって、
図5に示すように、第2金属材4の前記塑性流動分42が第1金属材3の新生面31(
図4参照)に固相接合されることになる。
図5では、前記固相接合部を太線で示し、符号43を付している。
【0051】
次に、上述した加工工程の詳細について、
図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0052】
前記準備工程から前記加工工程に移行すると、まず、ステップS21において、第2駆動部8によるピン部材62の回転および下降を継続するとともに、第1駆動部7による工具本体61の回転を継続しながら当該工具本体61の下降を一旦停止させてから上昇させるように駆動する。
【0053】
そして、ステップS22において、ピン部材62の下降および工具本体61の上昇を停止するタイミングを監視する。
【0054】
具体的に、このステップS22では、第2駆動部8においてピン部材62を回転させるための前記駆動源(モータ)と、第2駆動部8においてピン部材62を昇降変位させるための前記駆動源(モータ)の少なくともいずれか一方にかかる電流の変化量ΔIが所定の閾値Xよりも大きくなったか否かを判定する。
【0055】
このステップS22において、ΔI≦Xであると判定した場合にはステップS21に戻る。
【0056】
一方、ステップS22において、ΔI>Xが成立したと判定した場合には、続くステップS23において、第2駆動部8によりピン部材62の下降を停止させるとともに、第1駆動部7により工具本体61の上昇を停止させる。このステップS23の後、
図3に示すフローチャートを抜けて
図2のステップS3に移行(リターン)する。
【0057】
ところで、上記加工工程において、ピン部材62により第2金属材4に貫通孔41を形成した後で当該ピン部材62が第1金属材3に食い込むと、ピン部材62を回転させるための駆動源(モータ)の負荷とピン部材62を昇降変位させるための前記駆動源(モータ)の負荷とが第2金属材4を加工していたときの前記各負荷に比べて急増することになり、当該各駆動源(モータ)にかかる電流の変化量が急増することになる。
【0058】
この現象に着目し、上記ステップS23において、ピン部材62を回転させるための駆動源(モータ)にかかる電流と、ピン部材62を昇降変位させるための前記駆動源(モータ)にかかる電流とが急増する現象の発生の有無を判定するようにしているのである。
【0059】
このような判定の形態によれば、ピン部材62が第1金属材3に食い込んだ初期段階においてピン部材62の下降および工具本体61の上昇を停止させることが可能になる。
【0060】
このように、上記加工工程において、ピン部材62の下降および工具本体61の上昇を停止するタイミングを簡単かつ正確に把握できるようになるので、第1金属材3へのピン部材62の食い込み量を所定範囲内に収めるように簡単かつ正確に管理することが可能になる。
【0061】
ところで、上記摩擦攪拌点接合方法において、第1、第2駆動部7,8による工具本体61およびピン部材62の回転数および昇降速度については制御部9により予め設定された調整値に基づいて管理することができる。
【0062】
以上説明したように本発明を適用した実施形態によれば、第1金属材3と当該第1金属材を構成する金属よりも融点の低い金属からなる第2金属材4とを高い品質で接合することが可能になる。
【0063】
しかも、上記実施形態によれば、仮に第1、第2金属材3,4の各板厚寸法にばらつきが存在している場合であっても、そのことに関係なく、前記加工工程において第1金属材3へのピン部材62の食い込み量つまり第1金属材3の加工量を簡単かつ正確に管理することが可能になる。その結果、第1、第2金属材3,4の各板厚寸法のばらつきに関係なく、第1金属材3と第2金属材4とを安定的に高い品質で接合することが可能になる。
【0064】
ちなみに、図示していないが、上記第2金属材4を例えば車両におけるアルミダイキャスト製のサスペンションタワーにして、上記第1金属材3を例えば車両における鋼製のフロントサイドメンバとすることが可能である。
【0065】
従来では、前記サスペンションタワー(アルミニウムダイキャスト製の板材)と前記フロントサイドメンバ(鋼製の板材)とを結合するにあたって、セルフピアスリベット(SPR)が用いられているが、このような異種金属材の結合に本発明に係る異種金属接合方法を適用すれば、前記セルフピアスリベットを採用する場合に必須となる熱処理、つまり前記リベットおよび前記サスペンションタワーの結合部分の熱処理を省くことが可能になる等、コスト削減を図るうえで有利になる。
【0066】
また、従来のように、例えば鋼(鉄系金属)製の第1金属材に、ピン部材を接触させずにアルミニウム合金製の第2金属材の塑性流動だけで前記第1金属材の新生面を露出させる場合には、前記第1金属材の表面にメッキ膜(例えばGA:合金化溶融亜鉛メッキ等)を形成する必要があるが、上記実施形態の場合には、前記のようなメッキ膜を形成する必要が無い。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0068】
(1)上記実施形態では、第1金属材3の上に第2金属材4を重ね合わせて、工具本体61およびピン部材62を回転させながら昇降変位させる形態にした例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0069】
例えば第1金属材3と第2金属材4とを左右横向きに重ね合わせて、工具本体61およびピン部材62を回転させながら左右方向に変位させる形態にすることが可能であり、また、その他の向きにすることが可能である。このような形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、第1金属材と当該第1金属材を構成する金属よりも融点の低い金属からなる第2金属材とを重ね合わせて、それらを摩擦攪拌点接合する異種金属接合方法に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 多関節ロボット
1a アーム
2 接合装置
3 第1金属材
31 新生面
4 第2金属材
41 貫通孔
42 塑性流動分
43 固相接合部
5 クランプ
6 加工工具
61 工具本体
61a 先端面
62 ピン部材
62a 先端面
7 第1駆動部
8 第2駆動部
9 制御部
10 環状空間