(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】全一次燃焼式バーナ
(51)【国際特許分類】
F23D 14/02 20060101AFI20221122BHJP
F23D 14/16 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
F23D14/02 B
F23D14/16 A
(21)【出願番号】P 2019031678
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴大
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-035621(JP,A)
【文献】特開平09-229314(JP,A)
【文献】特開2002-162028(JP,A)
【文献】特開2019-020045(JP,A)
【文献】実開昭52-021437(JP,U)
【文献】特開2014-009838(JP,A)
【文献】特公昭50-018214(JP,B1)
【文献】欧州特許出願公開第02876369(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23D 14/02
F23D 14/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気が噴出する燃焼板部を備える全一次燃焼式バーナであって、燃焼板部は、金属繊維製の多孔質体と、多孔質体の混合気の流れ方向上流側の面である裏面に重ねて配置される、多数の分布孔が形成された分布板とを有し、混合気が分布孔と多孔質体とを介して噴出するように構成されるものにおいて、
多孔質体は、金属繊維をフェルト状に積層した不織布で構成され、この不織布の混合気の流れ方向下流側の面である表面を金属製の網状シートで覆
い、この網状シートのメッシュサイズは、燃焼板部から噴出する混合気の消炎距離以下であることを特徴とする全一次燃焼式バーナ。
【請求項2】
請求項1記載の全一次燃焼式バーナであって、前記分布板に、前記分布孔を形成しない無孔部が帯状に設けられるものにおいて、前記不織布の厚さを1~5mmとすることを特徴とする全一次燃焼式バーナ。
【請求項3】
前記網状シートは、複数本の金属繊維を束ねて形成される線材を網状に編成して成るものであることを特徴とする請求項1又は2記載の全一次燃焼式バーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気が噴出する燃焼板部を備える全一次燃焼式バーナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の全一次燃焼式バーナにおいて、燃焼板部を、金属繊維製の多孔質体と、多孔質体の混合気の流れ方向上流側の面である裏面に重ねて配置される、多数の分布孔が形成された分布板とを有するものとし、混合気が分布孔と多孔質体とを介して噴出するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、上記従来例のものでは、多孔質体を、金属繊維をニット状に編成した織布で構成している。然し、このような織布を編成するには、編機の編針の折損を防止する上で、金属繊維を極細にすることが必要になる。そして、このような極細の金属繊維を製造するにはコストがかかるため、多孔質体を金属繊維製のニット状織布で構成する従来例のものは高価になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、金属繊維製の多孔質体を用いる全一次燃焼式バーナであって、低コストのものを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、混合気が噴出する燃焼板部を備える全一次燃焼式バーナであって、燃焼板部は、金属繊維製の多孔質体と、多孔質体の混合気の流れ方向上流側の面である裏面に重ねて配置される、多数の分布孔が形成された分布板とを有し、混合気が分布孔と多孔質体とを介して噴出するように構成されるものにおいて、多孔質体は、金属繊維をフェルト状に積層した不織布で構成され、この不織布の混合気の流れ方向下流側の面である表面を金属製の網状シートで覆い、この網状シートのメッシュサイズは、燃焼板部から噴出する混合気の消炎距離以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、多孔質体を金属繊維の不織布で構成するため、ニット状織布で必要になる極細の金属繊維が不要となり、多孔質体のコストを安くすることができる。そして、網状シートを付加するとしても、従来例のものに比しコストダウンを図ることができる。尚、不織布だけでは、使用中に金属繊維がほつれて脱落してしまうが、本発明の如く不織布の表面を網状シートで覆えば、不織布から金属繊維が脱落することを防止できる。
【0008】
ところで、分布板に、分布孔を形成しない無孔部を帯状に設け、燃焼板部から噴出する混合気を無孔部に対応する領域で還流させて、燃焼の安定性を向上させることが知られている。然し、不織布の厚さが5mmを超えると、不織布内部での混合気の分散により、無孔部に対応する領域からも混合気が大量に噴出するようになり、混合気を無孔部に対応する領域でうまく還流させられなくなる。また、不織布の厚さが1mm未満になると、分布孔に対応する領域で通気抵抗が低くなりすぎて、その分、無孔部に対応する領域で保炎を形成することができなくなり、火炎リフトを生じやすくなる。そのため、不織布の厚さは1~5mmとすることが望ましい。
【0009】
また、低負荷燃焼時には、混合気が網状シートの近傍で燃焼し、網状シートが赤熱する。網状シートが金属の単線を網状に編んだ金網で構成されていると、低負荷燃焼時の赤熱で網状シートが熱膨張して、不織布の表面から網状シートが浮き上がり、網状シートの裏側の不織布と間の隙間で混合気が燃焼して、耐久性が損なわれてしまう。そのため、網状シートは、複数本の金属繊維を束ねて形成される線材を網状に編成して成るものであることが望ましい。これによれば、金属繊維を束ねて形成される線材が柔軟であるため、赤熱による熱膨張が線材の撓みで吸収され、不織布の表面からの網状シートの浮き上がりを防止できる。
【0010】
また、本発明において、網状シートのメッシュサイズは、上記の如く燃焼板部から噴出する混合気の消炎距離以下であるため、網状シートが不織布の表面から浮き上がるようなことがあっても、火炎が網状シートの裏側の不織布との間の隙間に引き込まれることはなく、この隙間での混合気の燃焼で耐久性が悪化することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の全一次燃焼式バーナを具備する燃焼装置の斜視図。
【
図5】実施形態の全一次燃焼式バーナの燃焼板部の分解状態の斜視図。
【
図7】実施形態の全一次燃焼式バーナの燃焼板部で用いられる網状シートの一部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図4に示す燃焼装置は、内部に混合気(燃料ガスと一次空気との混合ガス)が供給されるバーナボディ11と、バーナボディ11の下向きの開放面111を覆う燃焼板部12とを備える本発明の実施形態の全一次燃焼式バーナ1と、バーナボディ11の開放面111を囲うボディフランジ部112にビス21で締結される上端の筐フランジ部22を有する燃焼筐2とを備えている。燃焼筐2の内部には、給湯用の熱交換器3が収納されている。
【0013】
熱交換器3は、多数のフィン31とこれらフィン31を貫通する複数の吸熱管32とを備えるフィンチューブ型熱交換器で構成されている。燃焼筐2の横方向一側と他側の側板23,24の外面には、隣り合う2本の吸熱管32,32の接続路を各側板23,24との間に画成する接続蓋33が複数取付けられており、全ての吸熱管32が直列に接続される。また、上流端の吸熱管32に接続される接続路を横方向他側の側板24との間に画成する接続蓋33には入水口34が設けられている。
【0014】
また、燃焼筐2の後側の側板25の熱交換器3より上方の部分の内側には、管から成る上下3本の第1水路5
1が側板25に接するように配置され、燃焼筐2の前側の側板26の熱交換器3より上方の部分の内側にも、管から成る上下3本の第3水路5
3が側板26に接するように配置されている。また、燃焼筐2の横方向一側の側板23の外面には、上下3本の第1水路5
1と熱交換器3の下流端の吸熱管32との接続路を側板23との間に画成する流入側ヘッダ蓋51と、上下3本の第3水路5
3の接続路を側板23との間に画成する流出側ヘッダ蓋52とを取付け、流出側ヘッダ蓋52に出湯口53を設けている。更に、燃焼筐2の横方向他側の側板24には、
図2、
図3に示す如く、後側の第1水路5
1と前側の第3水路5
3とを接続する第2水路5
2が設けられている。第2水路5
2は、側板24に形成した横方向内方への窪みとこの窪みを覆うように側板24の外面に取付けた蓋54とで構成されている。そして、入水口34から供給される水が熱交換器3で加熱され、加熱された水が流入側ヘッダ蓋51内の接続路と第1水路5
1と第2水路5
2と第3水路5
3と流出側ヘッダ蓋52内の接続路とを介して出湯口53から出湯されるようにしている。また、燃焼筐2の横方向一側の側板23には、流出側ヘッダ蓋52内の接続路の上部から後方にのびる、側板23に形成した横方向内方への窪みとこの窪みを覆う流出側ヘッダ蓋52に一体の蓋52aとで構成される第4水路5
4が設けられている。そして、これら第1乃至第4水路5
1~5
4に流れる水により燃焼筐2の各側板23~26が冷却されるようにしている。
【0015】
また、燃焼筐2の前側の側板26には、上方から1番目と2番目の2本の第3水路53,53の間の側板部分を貫通して燃焼筐2内に突出する点火電極61と接地電極62とフレームロッド63とを有する電極部品6が装着されている。尚、電極部品6には、燃焼筐2内を視認できる覗き窓64が付設されている。
【0016】
次に、全一次燃焼式バーナ1について詳述する。バーナボディ11には、混合気を供給するファン4を接続する流入口113が開設されている。流入口113には、ファン4停止時にバーナボディ11内に残留する混合気がファン4側に逆流することを阻止する逆止弁13が装着されている。逆止弁13は、流入口113に嵌め込まれる樹脂製の弁筐131と、バーナボディ11内を向く弁筐131の開口部に開閉自在に軸着された樹脂製の弁板132とで構成されている。
【0017】
図5、
図6も参照して、燃焼板部12は、額縁状のバーナ枠121と、バーナ枠121で囲われる開口部122をバーナボディ11側(上方)から覆うように設けられる金属繊維製の多孔質体123と、多孔質体123の混合気の流れ方向上流側の面である裏面(上面)に重ねて配置される、多数の分布孔124aが形成された分布板124とを有している。そして、バーナボディ11内に供給された混合気が分布孔124aと多孔質体123とを介して開口部122から噴出し、全一次燃焼(二次空気が不要な燃焼)する。尚、開口部122は、前後方向に沿う断面形状が円弧状に湾曲しており、同様に多孔質体123及び分布板124も前後方向に沿う断面形状が円弧状に湾曲している。
【0018】
バーナ枠121は、開口部122と同一面上に位置する開口周縁部121aと、開口周縁部121aからバーナボディ11側(上方)に屈曲した側板部121bと、側板部121bの上端から外方に張出す枠フランジ部121cとを有している。そして、枠フランジ部121cをボディフランジ部112と筐フランジ部22との間に挟み込み、更に、枠フランジ部121cとボディフランジ部112との間にパッキン7を介設して、シール性を確保している。また、枠フランジ部121cの下面に断熱材8を装着している。
【0019】
多孔質体123は、耐熱鋼等の金属繊維をフェルト状に積層した不織布で構成されている。この不織布123の混合気の流れ方向下流側の面である表面(下面)は、金属製の網状シート125で覆われている。不織布123を構成する金属繊維の太さは35~100μm程度とすることができる。そのため、金属繊維をニット状に編成した織布で多孔質体を構成する上記従来例の如き極細の金属繊維が不要となり、多孔質体123のコストを安くすることができる。そして、網状シート125を付加するとしても、従来例のものに比しコストダウンを図ることができる。また、不織布123だけでは、使用中に金属繊維がほつれて脱落してしまうが、本実施形態の如く不織布123の表面を網状シート125で覆えば、不織布123から金属繊維が脱落することを防止できる。
【0020】
尚、燃焼板部12の組み立てに際しては、先ず、不織布123と網状シート125との密着性を高めるために、不織布123の表面に網状シート125を重ねた状態で圧縮する。その後、不織布123の裏面に分布板124を重ねた状態でこれらの周縁部をバーナ枠121の開口周縁部121aに一定間隔でスポット溶接する。
【0021】
分布板124には、
図5に
一点鎖線で示したように、分布孔124aを形成しない無孔部124bが帯状、例えば、縦横に交差する格子模様の帯状に設けられている。これにより、燃焼板部12から噴出する混合気を無孔部124bに対応する領域で還流させて、燃焼の安定性を向上させることができる。然し、不織布123の厚さが5mmを超えると、不織布123内部での混合気の分散により、無孔部124bに対応する領域からも混合気が大量に噴出するようになり、混合気を無孔部124bに対応する領域でうまく還流させられなくなる。また、不織布123の厚さが1mm未満になると、分布孔124aに対応する領域で通気抵抗が低くなりすぎて、その分、無孔部124bに対応する領域で保炎を形成することができなくなり、火炎リフトを生じやすくなる。そのため、不織布123の厚さは1~5mmとすることが望ましい。
【0022】
また、低負荷燃焼時には、混合気が網状シート125の近傍で燃焼し、網状シート125が赤熱する。網状シート125が金属の単線を網状に編んだ金網で構成されていると、低負荷燃焼時の赤熱で網状シート125が熱膨張して、不織布123の表面から網状シート125が浮き上がり、網状シート125の裏側の不織布123と間の隙間で混合気が燃焼して、耐久性が損なわれてしまう。
【0023】
そこで、本実施形態では、網状シート125を、
図7に示す如く、耐熱鋼等の金属繊維125a(太さ100μm程度)の複数本を束ねて形成される線材125bを網状に編成して成るものとしている。これによれば、金属繊維125aを束ねて形成される線材125bが柔軟であるため、赤熱による熱膨張が線材125bの撓みで吸収され、不織布123の表面からの網状シート12
5の浮き上がりを防止できる。
【0024】
更に、本実施形態では、網状シート125のメッシュサイズ(網目の最大幅)Wを、燃焼板部12から噴出する混合気の消炎距離以下にしている。例えば燃料ガスの種類が13Aで、空気過剰率が1.3の混合気を噴出する場合、消炎距離は2mmであり、メッシュサイズWを2mm以下にする。これによれば、網状シート125が不織布123の表面から浮き上がるようなことがあっても、火炎が網状シート125の裏側の不織布123との間の隙間に引き込まれることはなく、この隙間での混合気の燃焼で耐久性が悪化することを防止できる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態の全一次燃焼式バーナは、バーナボディ11の開放面111が下を向くように配置されているが、この開放面111が上を向くように配置する全一次燃焼式バーナにも同様に本発明を適用できる。また、上記実施形態では、バーナ枠121の開口部122を覆うように多孔質体123を設けているが、多孔質体及び分布板を円筒状とし、この円筒状の内部空間に供給された混合気が分布板の分布孔と多孔質体とを介して外方に噴出するようにした全一次燃焼式バーナにも同様に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1…全一次燃焼式バーナ、12…燃焼板部、123…多孔質体,不織布、124…分布板、124a…分布孔、124b…無孔部、125…網状シート、125a…金属繊維、125b…線材。