(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
H01B7/04
(21)【出願番号】P 2019094371
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月10日にタツタ電線株式会社が光昭株式会社に販売
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 翔太
(72)【発明者】
【氏名】門田 悠佑
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-259583(JP,A)
【文献】特開2018-129119(JP,A)
【文献】特開2012-227088(JP,A)
【文献】特表2012-500452(JP,A)
【文献】特開2018-97967(JP,A)
【文献】特開2008-166251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 5/08
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体を被覆する被覆材とを備えた電線であって、
前記導体は、中心線と、該中心線の外側に三層以上の層を形成するように撚りかけられた撚り線とを有し、
前記中心線及び前記撚り線のそれぞれは、線径が1.5~2.7mmの単一の素線であり、
前記中心線に接する撚り線が形成する前記層を第1層とし、前記第1層の外側に接する撚り線が形成する前記層を第2層としたときに、少なくとも第2層から最外層までの前記層を形成する撚り線は、撚り方向が同方向であり且つ互いに平行するように撚りかけられ、
前記第1層を形成する撚り線が、前記第2層から最外層までの前記層を形成する撚り線とは逆方向に撚りかけられており、
前記層を形成する撚り線の撚り角度が、6~15°である、電線。
【請求項2】
前記導体が、同心撚りの導体である、請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記導体の断面積が、100mm
2以上である、請求項1又は2に記載の電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線として、引込線や屋内配線のように屋内外において固定されて用いられる電線が知られている。電線は、固定される際、高所や狭所での施工作業が必要となるため、人の力により変形可能な可撓性を有していることが好ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、導体と、該導体を被覆する被覆材とを備えた電線であって、前記導体が中心線と該中心線の外側に複数の層を形成するように撚りかけられた撚り線とを有する電線が記載されている。かかる構成によれば、導体が、複数の層を形成するように撚りかけられた撚り線によって細分化されているため、可撓性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された電線は、可撓性が未だ不十分であり、特に、導体の断面積が比較的大きい場合、人の力では変形させることが困難であり、上記のような電線には適さないという問題点を有する。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、比較的可撓性に優れた電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術の導体は、変形時、撚り線が中心から見て外側に膨らむことによって、それ自体はある程度の可撓性を有している。しかしながら、本願発明者らは、そのような導体が被覆材で拘束されると、導体の外側に膨らもうとする力が「かたさ」となって電線に現れ、電線の可撓性が低下する原因となることを発見し、本発明を見出すに至った。
【0008】
本発明に係る電線は、
導体と、該導体を被覆する被覆材とを備えた電線であって、
前記導体は、中心線と、該中心線の外側に三層以上の層を形成するように撚りかけられた撚り線とを有し、
前記中心線に接する撚り線が形成する前記層を第1層とし、前記第1層の外側に接する撚り線が形成する前記層を第2層としたときに、少なくとも前記第2層から最外層までの前記層を形成する撚り線は、撚り方向が同方向であり且つ互いに平行するように撚りかけられている。
【0009】
斯かる構成によれば、導体の少なくとも第2層から最外層を形成する撚り線が、同じ撚り方向であり且つ互いに平行するように撚りかけられていることによって、屈曲のような変形時、撚り線が中心線から離れて中心から見て外側に膨らむことが抑制される。このため、導体が被覆材で覆われることによって拘束された場合であっても、電線は曲げ易く、すなわち、比較的可撓性が優れたものとなる。
【0010】
また、本発明に係る電線は、
前記第1層を形成する撚り線が、前記第2層から最外層までの前記層を形成する撚り線とは逆方向に撚りかけられていてもよい。
【0011】
斯かる構成によれば、第1層を形成する撚り線の撚り方向が、第2層から最外層を形成する撚り線の撚り方向とは逆方向に撚りかけられていることによって、製造時、導体を構成する単一の素線がたわみにくくなるため、取り扱い易くなる。すなわち、電線が比較的容易に製造され得る。
【0012】
また、本発明に係る電線は、前記導体が、同心撚りの導体であってもよい。同心撚りの導体には円形圧縮されていない丸撚りの導体と丸撚りの導体を円形圧縮させた円形圧縮導体が含まれるが、円形圧縮導体が好ましい。
【0013】
斯かる構成によれば、同心撚りの導体、特に、円形圧縮導体であっても優れた可撓性を発揮し得る。
【0014】
また、本発明に係る電線は、前記導体の断面積が100mm2以上であってもよい。
【0015】
斯かる構成によれば、導体の断面積が100mm2以上の比較的大きい場合であっても、優れた可撓性を発揮し得る。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、比較的可撓性に優れた電線が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電線の斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る導体における撚り線の撚り方向を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る撚り線の、電線の長さ方向に対する傾きを示す模式図である。
【
図4】
図4は、撚り線の撚り角度を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実験例で使用した圧縮試験機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、一実施形態に係る電線について説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る電線1は、断面が円形状であり、電線1の中心部に配された導体10と、導体10を被覆する被覆材20とを備えている。被覆材20は、導体10の外側に接するように配された絶縁体22と、絶縁体22の外側に接するように配されたシース24とを有している。
【0020】
本実施形態の電線1は、電柱又は建物に固定された状態で用いられる。電線1は、600V用の低圧配線であり、特に住宅の引込線や屋内配線として好適に使用され得る。このような電線1は、固定される際、高所や狭所での施工作業が必要となるため、人の力によって変形可能な可撓性を有していることが好適である。
また、電線1は、所望の固定形状に変形させた際に、特に固定具等を使用せずとも、変形させた状態を保持する形状保持性を有していることが好適である。このため、電線1は、曲げ荷重(N)が190N以下であれば人の力で十分屈曲可能であるうえ、通常70N以上、好ましくは100N以上、さらに好ましくは150N以上であれば、いずれの場合も変形させた状態を保持し得る形状保持性を有しているため、好ましい電線と言える。
【0021】
導体10は、導体10の中心部に配された単一の銅素線からなる中心線12と、中心線12の外側に撚りかけられた複数の撚り線14とを有する。
【0022】
本実施形態では、導体10を形成する単一の銅素線は、線径が通常0.4~3.6mm、好ましくは1.5~2.7mm、さらに好ましくは1.8~2.0mmである。
【0023】
撚り線14は、中心線12の外側に複数の層を形成するように撚りかけられている。言い換えれば、導体10を断面から見たときに、撚り線14は、同心円状の複数の層を形成するように撚りかけられている。本実施形態では、撚り線14は、四層を形成するように撚りかけられている。また、各層の撚り線14は、各層ごとに圧縮されて撚られている。すなわち、本実施形態の導体10は、同心撚りの導体のうち、円形圧縮導体である。
【0024】
撚り線14が形成する層の数は、三層以上であることが好ましくは、四層以上であることがより好ましい。また、撚り線14が形成する層の数は、通常六層以下である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態では、撚り線14が形成する層のうち、中心線12に接する層を第1層L1、絶縁体22に外側が接する層を第4層L4、第1層L1と第4層L4との間の層を内側から順に第2層L2及び第3層L3とする。各層を形成する撚り線14の本数(撚り本数)は、第1層L1において6本、第2層L2において12本、第3層L3において18本、第4層L4において24本である。このように、本実施形態の導体10は、撚り線14が四層を形成しており、1本の中心線12に計60本の撚り線14を加えた合計61本の単一の銅素線を有している(以下、61本撚りと称する)。これに対して、撚り線14が三層を形成している場合、導体10は、1本の中心線に計36本の撚り線14を加えた合計37本の単一の銅素線を有することとなる(以下、37本撚りと称する)。
【0026】
撚り線14のうち、少なくとも第2層L2から最外層たる第4層L4を形成する撚り線14は、撚り方向が同方向になるように撚りかけられている。
図2に示すように、本実施形態では、第2層L2、第3層L3及び第4層L4を形成する撚り線14は、撚り方向がS撚りとなるように撚りかけられている。一方、本実施形態では、第1層L1を形成する撚り線14は、撚り方向がZ撚りとなるように撚りかけられているが、これに限定されず、S撚りとなるように撚りかけられていてもよい。
【0027】
また、撚り線14のうち、少なくとも第2層L2から最外層たる第4層L4を形成する撚り線14は、互いに平行するように撚りかけられている。言い換えれば、
図3に示すように、第2層L2、第3層L3及び第4層L4を形成する撚り線142、撚り線143及び撚り線144それぞれが、電線1の長さ方向に対してなす角度を撚り角度θ
2、θ
3及びθ
4としたときに、後述する実験例1の通りθ
2=θ
3=θ
4となるように撚りかけられている。そして、θ
2=θ
3=θ
4である場合、第2層L2から第4層L4を形成する撚り線14が、互いに同角度で平行しているものとする。
また、後述する実験例2や実験例3は、θ
3=θ
4となるように撚りかけられている。この場合、第3層L3から第4層L4を形成する撚り線14が、互いに同角度で平行しているものとする。なお、この場合において、θ
2≠θ
3、θ
2≠θ
4、すなわち互いに同角度ではないものの、これらの角度の差が3~8°の範囲内であれば、撚り線14が、互いに平行しているものとする。すなわち、実験例2や実験例3は、第2層L2から第4層L4を形成する撚り線14が、互いに平行しているものとする。
尚、撚り角度は、下記の式(1)に基づいて算出される(
図4も参照)。また、撚り角度は、平均角度として算出された値とする。すなわち、各層12本の撚り線を任意に抽出した後、合計12本(4層×3本)の撚り線の撚り角度を算出し、その算術平均値を撚り角度とする。また、撚り角度は、小数第二位を四捨五入した値とする。
θ
2~θ
4=tan
-1 (導体外径×π)/(撚りピッチ倍数)・・・(1)
【0028】
撚り角度θ2、θ3及びθ4は、通常6~18°、好ましくは8~18°に設定されている。
【0029】
撚り本数は、上記のように、第1層L1(6本)<第2層L2(12本)<第3層L3(18本)<第4層L4(24本)であり、撚り本数が多い程可撓性へ与える影響が大きくなる。よって、可撓性が優れた電線とするためには、撚り角度は、通常θ3=θ4、好ましくはθ2=θ3=θ4とし、角度の範囲はいずれの場合も±1°に設定される。本実施形態では、当該設定範囲内において、θ2=θ3=θ4とする。
【0030】
撚り線14の撚りピッチ倍数は、通常10~30、好ましくは11~27に設定されている。撚りピッチ倍数を大きくするほど可撓性は向上し、撚りピッチ倍数を10倍以下に設定すると、可撓性が低下する。また、撚りピッチ倍数を30倍以上に設定すると、可撓性が低下するだけではなく、電線を切断した場合、導体がバラけて、実運用上に不具合が発生する。
【0031】
本実施形態のように、第1層L1を形成する撚り線141は、第2層L2から最外層たる第4層L4を形成する撚り線142~144とは逆方向に撚りかけられていることが好ましい。この場合、電線1の長さ方向に対する撚り線141がなす角度を撚り角度θ1としたときに、θ1は、通常6~18°、好ましくは6~15°に設定されている。
尚、θ1は、上記θ2~θ4と同様に前述の式(1)に基づいて算出され得る平均角度とする。
【0032】
上記のように構成された導体10は、断面積が、通常1.25~1000mm2、好ましくは14~150mm2、より好ましくは60~150mm2であり、さらに好ましくは100~150mm2である。
【0033】
導体10の断面積が60~150mm2、特に100~150mm2である場合、撚り線14が形成する層の数は、三層以上又は四層以上であることが好ましく、導体10は、37本撚り又は61本撚りであることが好ましい。
【0034】
絶縁体22は、電線1が適度な可撓性を有する限り特に材質は限定されないが、架橋ポリエチレン、非架橋ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ゴム等の樹脂製であり、これらの中でも架橋ポリエチレン製であることが好ましい。また、絶縁体22は、厚みが通常0.8~3.5mm、好ましくは1.0~2.0mm、さらに好ましくは1.5~2.0mmに設定されている。
【0035】
シース24は、電線1が適度な可撓性を有する限り特に材質は限定されないが、塩化ビニル、ポリエチレン等の樹脂製である。シース24は、厚みが通常1.5~3.3mm、好ましくは1.5~2.6mm、さらに好ましくは1.5~2.0mmに設定されている。
【0036】
上記のように、本実施形態の電線1は、少なくとも第2層L2から第4層L4を形成する撚り線14の撚り方向が同方向であり且つ互いに平行するように撚りかけられていることによって、屈曲のような変形時、撚り線14が中心線12から離れて、中心から見て外側に膨らむことが抑制される。このため、導体10が被覆材20で覆われることによって拘束された場合であっても、電線1は曲がり易くなっている。特に、導体10の断面積が60~150mm2のように比較的大きい場合であっても、電線1は優れた可撓性を発揮し得る。
【0037】
また、電線1は、同心撚りの導体であることによって、導体10(最外層L4における各素線の間)への絶縁体22の食い込みが低減されるため、より優れた可撓性を発揮し得る。
【0038】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る電線は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る電線は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る電線は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0040】
[実験例]
撚り線を下記表1に示す撚り方向に撚り、撚りピッチ、撚り角度θをなすように、実験例1~4の電線を製造した。また、各電線の導体の断面積は150mm2とした。具体的には、線径1.8mmの銅素線を用い、1本の中心線に6本の撚り線を撚りかけ、ダイヤモンド製の円孔ダイスで圧縮することにより第1層L1を形成した。同様にして、12本、18本及び24本の素線を用い、それぞれ第2層L2、第3層L3及び第4層L4を形成し、同心撚りの導体を製造した。ここでダイヤモンド製の円孔ダイスとして、第1層L1では穴径:4.9mm、第2層L2では穴径:8.1mm、第3層L3では穴径:11.3mm、第4層L4では穴径:14.5mmのものを用いた。この導体を厚み2.0mmの架橋ポリエチレン製の絶縁体により被覆し、さらに該絶縁体の外側から厚み1.5mmのビニル製のシースを被覆し、電線を製造した。
【0041】
また、従来品の電線(タツタ電線株式会社製600V、CV、1×150SQ)を参考例1として評価した。尚、参考例1の電線は、導体が37本撚りであり、導体の断面積が150mm2であり、撚り線が形成する層の数は三層である。また、被覆材は、架橋ポリエチレン製の絶縁体とビニル製のシースである。
【0042】
[評価方法]
上記で製造した電線について可撓性を評価した。具体的には、
図5に示すような圧縮試験機を用いて、圧縮試験を実施することにより評価した。結果を表2に示した。
【0043】
【0044】
【0045】
表2に示したように、実験例1の電線は、第2層L2から第4層L4を形成する撚り線の撚り方向が同方向であり且つ互いに平行するように撚りかけられていることによって、他の電線と比較して曲げ荷重(N)が小さく、最も優れた可撓性を有することが認められた。また、実験例1の電線は、曲げ荷重(N)が190N以下であり、190Nを十分に下回っていることが認められ、人の力で十分屈曲可能であり、且つ、曲げ荷重(N)が150N以上であるため変形させた状態を保持する形状保持性を有していた。
また、実験例2や実験例3の電線も実験例1の電線ほどではないものの、参考例1の電線に比べて、優れた可撓性を有することが認められた。上記のように、曲げ荷重(N)が190N以下であり、190Nを十分に下回っていることが認められ、人の力で十分屈曲可能であり、且つ、150N以上であるため変形させた状態を保持する形状保持性を有していた。
一方、実験例4の電線では、従来品である参考例1の電線よりも可撓性が劣ることが認められた。
【符号の説明】
【0046】
1:電線、
10:導体、12:中心線、14:撚り線、
20:被覆材、22:絶縁体、24:シース、
L1:第1層、L2:第2層、L3:第3層、L4:第4層