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特許7181161触媒、反応装置、及び、炭化水素を製造する方法
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  • 特許-触媒、反応装置、及び、炭化水素を製造する方法 図1
  • 特許-触媒、反応装置、及び、炭化水素を製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】触媒、反応装置、及び、炭化水素を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/80 20060101AFI20221122BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20221122BHJP
   C07C 9/14 20060101ALI20221122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
B01J23/80 Z
C07C1/12
C07C9/14
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019124449
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021010848
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 一則
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109169(JP,A)
【文献】特開2011-045874(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103769241(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0045903(US,A1)
【文献】特開2014-012267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 1/12
C07C 9/14
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属銅酸化銅のうち少なくとも一方からなる銅成分を含有する銅系触媒体と、
酸化鉄のうち少なくとも一方からなる鉄成分と添加金属とを含有する鉄系触媒体と、
を含み、
前記添加金属が、アルカリ金属とアルカリ土類金属とのうち少なくとも一方からなり、
二酸化炭素一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから炭化水素を生成させるために用いられる、触媒。
【請求項2】
前記添加金属がナトリウム、カリウム、及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記銅系触媒体が酸化亜鉛を更に含有する、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
当該触媒が、前記銅系触媒体を含む第一の触媒層と、前記鉄系触媒体を含む第二の触媒層と、を有し、
前記第一の触媒層と前記第二の触媒層が積層されている、
求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記銅系触媒体が、粒状であり、
前記鉄系触媒体が、粒状であり、
前記銅系触媒体と前記鉄系触媒体とが互いに混じり合っている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記銅系触媒体が、粉体であり、
前記鉄系触媒体が、粉体であり、
前記銅系触媒体の粉体と前記鉄系触媒体の粉体とが互いに混じり合っている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
前記銅系触媒体が、粉体であり、
前記鉄系触媒体が、粉体であり、
前記銅系触媒体の粉体と前記鉄系触媒体の粉体とを含む粉体混合物によって粒状の成形体が形成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
酸化炭素と一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素を含む原料ガスから炭化水素を生成させるために用いられる、反応装置であって、
反応容器と、
前記反応容器内に設けられた、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒と、
を備え、
前記反応容器内に前記原料ガスを流通させることができる、反応装置
【請求項9】
前記反応容器が、ガス入口とガス出口と、を有
前記ガス入口側から導入された前記原料ガスを、前記ガス入口から前記ガス出口に向けて前記反応容器内を流通させることができ、
記反応容器内で前記ガス入口側から前記銅系触媒体及び前記鉄系触媒体の順に設けられている、請求項8に記載の反応装置。
【請求項10】
前記銅系触媒体が、粒状であり、
前記鉄系触媒体が、粒状であり、
前記銅系触媒体と前記鉄系触媒体とが互いに混じり合っている、請求項8に記載の反応装置。
【請求項11】
前記銅系触媒体が、粉体であり、
前記鉄系触媒体が、粉体であり、
前記銅系触媒体の粉体と前記鉄系触媒体の粉体とが互いに混じり合っている、
請求項8に記載の反応装置。
【請求項12】
前記銅系触媒体が、粉体であり、
前記鉄系触媒体が、粉体であり、
前記銅系触媒体の粉体と前記鉄系触媒体の粉体とを含む粉体混合物によって粒状の成形体が形成されている、請求項8に記載の反応装置。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の触媒の存在下で、二酸化炭素一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから炭化水素を生成させることを含む、炭化水素を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、反応装置、及び、炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス等に含まれる二酸化炭素を有効利用する方法として、二酸化炭素と水素から、エネルギー密度の高い液状の炭化水素を触媒の存在下で生成させることが検討されている(例えば特許文献1)。また、一酸化炭素と水素とを含む原料ガスから液状の炭化水素を生成させる方法として、Fischer Tropsch(FT)反応が用いられることがある(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-80309号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Energy & Fuels, Vol. 23, 4195(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FT反応で通常用いられるコバルト系触媒は、二酸化炭素から選択的にメタンを生成させる。そのため、二酸化炭素を含む原料を用いると、メタンが生成し、液状の炭化水素を高い収率で得ることができなかった。
【0006】
本発明は、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから液状の炭化水素を高い収率で生成させることのできる触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、銅又は酸化銅のうち少なくとも一方を含有する銅系触媒体と、鉄又は酸化鉄のうち少なくとも一方とアルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一方からなる添加金属とを含有する鉄系触媒体と、を含む触媒に関する。この触媒は、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから炭化水素を生成させるために用いられる。
【0008】
また、本発明は、上記触媒を含む触媒層を備え、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素と含む原料ガスから炭化水素を生成させるために用いられる、反応装置に関する。
【0009】
更に本発明は、上記触媒の存在下で、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから炭化水素を生成させることを含む、炭化水素を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから液状の炭化水素を高い収率で生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】反応装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】反応装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
一実施形態に係る触媒は、銅系触媒体と、銅系触媒体とは別の固体物質として鉄系触媒体とを含む。各触媒体の形態は、特に限定されず、例えば粉体であってもよく、粉体の凝集体からなる粒状の成形体であることが好ましい。粒状の成形体である触媒体の形状は、特に制限されず、例えば円柱状、角柱状、球状又は不定形が好ましい。粒状の成形体の粒径(最大幅)は、1mm以上50mm以下であってもよい。触媒体の粉体の粒径(最大幅)は、1μm以上1000μm未満であってもよい。
【0014】
銅系触媒体は、金属銅、酸化銅又はこれらの両方を含む銅成分を含有する。銅系触媒体が触媒として機能する間、通常、銅系触媒体は少なくとも金属銅を含む。そのため、触媒は、通常、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の銅系触媒体は、酸化銅(CuO)を含むことが多い。
【0015】
銅系触媒体における銅成分の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算したときに、銅系触媒体全体の質量を基準として、20~100質量%であることが好ましい。
【0016】
銅系触媒体は、酸化亜鉛(ZnO)を更に含有していてもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有することにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。銅系触媒体に含まれる銅元素の量を全て酸化銅(CuO)の量に換算したときに、酸化亜鉛の量の割合が、酸化銅と酸化亜鉛の合計量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
銅系触媒体は、銅成分を担持する担体を更に含有してもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有する場合、通常、酸化亜鉛も担体に担持される。担体は、例えばγ-アルミナ等のアルミナであることが好ましい。銅系触媒体における担体の含有量は、銅の含有量、酸化亜鉛の含有量とアルミナの含有量の合計を基準として、例えば5~60質量%であり、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。ここでの銅の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算した量を意味する。
【0018】
銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体は、例えば、銅と亜鉛を含む沈殿物を共沈法により生成させることと、生成した沈殿物を焼成することとを含む方法によって得ることができる。沈殿物は、例えば、銅と亜鉛の水酸化物、炭酸塩又はこれらの複合塩を含む。銅と亜鉛を含む沈殿物を担体(例えばアルミナ)を含む溶液からの共沈法によって生成させることにより、銅成分、酸化亜鉛と担体を含有する銅系触媒体を得ることができる。
【0019】
焼成によって形成された、銅成分と酸化亜鉛を含有する焼成体を、粉体化してもよく、更に粉体を成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形と錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0020】
鉄系触媒体は、金属鉄、酸化鉄又はこれらの両方を含む鉄成分と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のうち少なくとも一方からなる添加金属とを含有する。鉄系触媒体が触媒として機能する間、通常、鉄系触媒体は少なくとも金属鉄を含む。そのため、触媒は、通常、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の鉄系触媒体は、通常、酸化鉄(例えばFe)を含む。
【0021】
鉄系触媒体における鉄成分の含有量は、鉄系触媒体に含まれる鉄成分の量を全て金属鉄の量に換算したときに、鉄系触媒体全体の質量を基準として、20~100質量%であることが好ましい。
【0022】
添加金属は、アルカリ金属とアルカリ土類金属から任意に選択される1種以上を含む。例えば、添加金属が、ナトリウム、カリウムとセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。添加金属が、ナトリウム、カリウム、又はセシウムを含むことにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。
【0023】
鉄系触媒体における添加金属の含有量は、鉄系触媒体のうち添加金属以外の部分の量を基準として、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。添加金属がナトリウムを含む場合、鉄系触媒体におけるナトリウムの含有量が、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。添加金属がカリウム、セシウム又はこれらの組み合わせを含む場合、鉄系触媒体におけるカリウムとセシウムの合計の含有量が、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。添加金属の含有量が上記範囲内であると、二酸化炭素又は一酸化炭素の転化率がより向上する傾向がある。
【0024】
鉄系触媒体は、例えば、Fe3+とFe2+を含有する水溶液から三価の鉄と二価の鉄を含む鉄化合物の沈殿物を生成させることと、沈殿物を加温して酸化鉄を含有する加温体を形成することと、加温体に添加金属を含む水溶液を付着させ、次いで添加金属を含む水溶液を乾燥させることとを含む方法によって、得ることができる。
【0025】
酸化鉄を含有する加温体を、粉体化してもよく、更に粉体を成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形及び錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0026】
炭化水素を製造する方法の一実施形態は、上述の実施形態に係る触媒の存在下で、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから炭化水素を生成させることを含む。銅系触媒体と鉄系触媒体の組み合わせを含む触媒は、例えば銅と鉄を含む複合酸化物とアルカリ金属とを含有する触媒体と比較して、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスから高い収率で液状の炭化水素を生成させることができる。二酸化炭素と一酸化炭素を含む原料ガスは、例えば、二酸化炭素の一部を電気化学反応又は通常の化学反応で一酸化炭素に転換して得られたガスであってもよい。
【0027】
本実施形態に係る触媒は、例えば、炭化水素を製造するための反応装置に設けられる触媒層を形成するために用いることができる。図1は、反応装置の一実施形態を示す模式図である。図1に示される反応装置1は、円筒状の反応管である反応容器3と、反応容器3内に固定された触媒層10とを備える固定床式反応装置である。反応容器3は一方の端部に設けられたガス入口3Aと、他方の端部に設けられたガス出口3Bとを有する。ガス入口3A側から、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスが導入される。原料ガスが反応容器3内をガス入口3Aからガス出口3Bに向けて流通する間に、触媒層10の存在下で、液状の炭化水素を含む生成物が生成する。生成物は、通常、ガス出口3Bから排出される。
【0028】
図1の反応装置1に設けられた触媒層10は、銅系触媒体を含む第一の触媒層11と、鉄系触媒体を含む第二の触媒層12とを有する。ガス入口3A側から、第一の触媒層11及び第二の触媒層12の順に積層されている。第一の触媒層11は、例えば、複数の粒状の銅系触媒体を反応容器3内に充填することによって形成される。第二の触媒層12は、例えば、複数の粒状の鉄系触媒体を反応容器3内に充填することによって形成される。
【0029】
図2は、反応装置の他の一実施形態を示す模式図である。図2に示される反応装置1の場合、銅系触媒体と鉄系触媒体を含む単一の触媒層10が設けられている。触媒層10において、複数の粒状の銅系触媒体と複数の粒状の鉄系触媒体とが互いに混じり合っている。触媒層10は、銅系触媒体の粉体と鉄系触媒体の粉体を含み、これらが互いに混じり合っていてもよく、銅系触媒体の粉体と鉄系触媒体の粉体とを含む粉体混合物の成形によって形成された粒状の成形体を含んでいてもよい。
【0030】
触媒層10において、鉄系触媒体の量が、銅系触媒体の量よりも多いことが好ましい。例えば、銅系触媒体の量に対する鉄系触媒体の量の質量比が、0.5~20であることが好ましく、1.0~10であることがより好ましい。銅系触媒体の量に対する鉄系触媒体の量の質量比が上記範囲内にあると、二酸化炭素又は一酸化炭素の転化率がより向上する傾向がある。
【0031】
図1図2に例示される反応装置を用いて炭化水素を製造する方法は、触媒層10に含まれる触媒を還元処理することと、反応容器3内に、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち少なくとも一方と水素とを含む原料ガスを、ガス入口3Aからガス出口3Bに向けて流通させ、それにより原料ガスから炭化水素を生成させることとを含んでいてもよい。原料ガスにおける二酸化炭素と水素との比率は、反応の化学量論比等を考慮して調整される。原料ガスにおいて、二酸化炭素:水素(モル比)が1:0.5~1:5であることが好ましい。
【0032】
触媒は、例えば、水素を含む還元性ガスを反応管内に流通させることにより、還元処理される。還元処理の間、触媒層10を加熱してもよい。還元処理のための加熱温度は、例えば100~400℃である。
【0033】
原料ガスから炭化水素を生成する反応を進行させる間、触媒層10を加熱してもよい。反応のための加熱温度は、例えば200~400℃である。
【0034】
原料ガスは、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち一方のみを含んでいてもよいし、二酸化炭素と一酸化炭素を含む混合ガスであってもよい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
1.触媒の準備
銅系触媒体の調製
γ-アルミナ(住友化学工業社製、BK-105)5.0gを、ホモミキサーで攪拌することによって純水1.0L中に懸濁させた。形成された懸濁液に、硝酸銅水和物(ナカライ試薬社製)31.7gと硝酸亜鉛水和物(ナカライ試薬社製)38.1gを含む水溶液300mLを室温で素早く加え、次いで室温で懸濁液を更に1時間攪拌した。その後、ホモミキサーによる攪拌を続けながら、炭酸ナトリウム(和光純薬試薬社製)35.0gを含む水溶液300mLを、ローラーポンプを用いて室温にて5mL/分の滴下速度で滴下した。滴下により生成した沈殿物を含む懸濁液を、35℃で24時間放置することにより熟成させた。熟成後の懸濁液から、デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を再び水で希釈した。このデキャントと希釈の操作を4回繰り返した。その後、吸引濾過によって沈殿物を取り出し、これを再び純水中に懸濁させてから吸引濾過により沈殿物を取り出す操作を4回繰り返し、それにより沈殿物を十分に水洗した。得られた沈殿物を120℃で24時間の加熱により乾燥させた。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で、150℃で1時間、200℃で1時間、250℃で1時間、300℃で1時間、350℃で1時間、400℃で4時間の順で加熱することにより、焼成した。焼成により、銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体である黒色粉体を得た。この黒色粉体を乳鉢で微粉化し、微粉体を40MPaの圧力で成形することにより、直径2mm、高さ2mmの円柱状の成形体である銅系触媒体を得た。
【0037】
鉄系触媒体の調製
三塩化鉄・六水和物(和光純薬製)15.8gと二塩化鉄・四水和物(和光純薬製)6.3gを、純水75mLと35%塩酸2.5mLの混合溶液に、60℃で撹拌しながら溶解させた。溶解後の溶液に、温度を60℃に保ったまま、5%アンモニア水336mLを滴下し、次いで溶液を1時間撹拌した。溶液中に沈殿物が生成した。デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を400mLの純水で洗浄しながら濾過した。得られた沈殿物を70℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた黒色粉体を乳鉢で微粉化した。微粉体を40MPaの圧力で成形して、Feを含む直径2mm、高さ2mmの円柱状の成形体を得た。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)0.17gと純水4.63gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させて、鉄系触媒(NaFe)を含有する成形体である鉄系触媒体を得た。Feに対するナトリウムの割合は約1質量%と計算される。
【0038】
2.評価
触媒の還元処理
内径1.27cmの固定床式反応管に、銅系触媒体0.5g、鉄系触媒体3.5gを順次充填し、反応管のガス入口側(上流側)から銅系触媒体、鉄系触媒体の順で配置した。続いて、大気圧下、1容量%の水素と窒素からなる流通ガスを、反応管内に200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒の温度を室温から1時間かけて150℃まで昇温した。150℃に保ったまま、流通ガスに含まれる水素の濃度を2容量%、10容量%、20容量%、50容量%、及び100容量%の順に変更した。水素濃度100容量%の流通ガス(水素ガス)に変更してから、流通の状態を2時間保持した。その後、水素ガスの流通を継続しながら、触媒の温度を200℃/時間の速度で350℃まで昇温し、350℃で7時間保持することにより、触媒を還元処理した。
【0039】
反応試験
還元処理後、水素ガスを200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒を320℃に降温した。降温後、流通ガスの圧力を0.8MPaに昇圧した。昇圧後、二酸化炭素を67Ncc/分の流量で追加し、水素と二酸化炭素からなる原料ガスを6時間、反応管に流通させた(ガスの空間速度:4000Ncc・g-cat-1h-1)。6時間の間に反応管から流出した液状物を捕集した。また、反応管から流出したガスを、試験終了直前の5分間捕集した。液状物の上澄みの油分を、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器(GC-FID)によって分析した。ガスはガスクロマトグラフ/熱伝導度検出器(GC-TCD)および水素炎イオン化型検出器(GC-FID)によって分析した。分析結果から、原料ガス中の二酸化炭素の量に対する生成物の収率を求めた。
【0040】
(実施例2)
銅系触媒体1.0gと鉄系触媒体3.0gとを均一に混ぜ合わせた。得られた触媒混合物を固定床式反応管に充填した。その後は実施例1と同様の操作により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0041】
(実施例3)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)0.35gと純水4.45gを含む水溶液を含浸させたこと以外は実施例1と同様の手順により、Feとナトリウムを含有する鉄系触媒体を作製した。得られた鉄系触媒体におけるFeに対するナトリウムの割合は約2質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0042】
(実施例4)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)0.70gと純水4.10gを含む水溶液を含浸させたこと以外は実施例1と同様の手順により、Feとナトリウムを含有する鉄系触媒体を作製した。得られた鉄系触媒体におけるFeに対するナトリウムの割合は約4質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0043】
(実施例5)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)1.05gと純水3.75gを含む水溶液を含浸させたこと以外は実施例1と同様の手順により、第二の触媒の成形体を作製した。得られた第二の触媒におけるFeに対するナトリウムの割合は約6質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0044】
(実施例6)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)1.39gと純水3.41gを含む水溶液を含浸させたこと以外は実施例1と同様の手順により、Feとナトリウムを含有する鉄系触媒体を作製した。得られた鉄系触媒体におけるFeに対するナトリウムの割合は約8質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0045】
(実施例7)
実施例4と同じ触媒を用い、水素の流量を400Ncc/分、二酸化炭素の流量を134Ncc/分に変更したこと以外は実施例4と同様に反応試験を実施した。
【0046】
(実施例8)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化カリウム(和光純薬製)0.64gと純水4.18gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとカリウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するカリウムの割合は約4質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0047】
(実施例9)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化カリウム(和光純薬製)1.28gと純水3.52gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとカリウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するカリウムの割合は約8質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0048】
(実施例10)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化セシウム(和光純薬製)0.45gと純水4.35gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとセシウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するセシウムの割合は約4質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0049】
(実施例11)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化セシウム(和光純薬製)0.90gと純水3.90gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとセシウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するセシウムの割合は約8質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0050】
(実施例12)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化セシウム(和光純薬製)1.35gと純水3.45gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとセシウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するセシウムの割合は約12質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0051】
(実施例13)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体10gに、水酸化セシウム(和光純薬製)1.80gと純水3.00gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させることにより、Feとセシウムを含有する鉄系触媒体を作製した。Feに対するセシウムの割合は約16質量%と計算される。この鉄系触媒体を実施例1と同様の銅系触媒体と組み合わせて用いたこと以外は実施例7と同様の方法により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0052】
(比較例1)
硝酸鉄九水和物34.6gと硝酸銅三水和物2.3gを蒸留水に溶解させて、全容100mLの溶液を調製した。続いて、温度を70℃に保ったまま、5%アンモニア水をpH=8となるまで滴下した。滴下量は212mLであった。溶液を更に室温で15時間攪拌した後、生成した沈殿物を濾過により取り出し、これを蒸留水で洗浄した。沈殿物を120℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた粉体8gに、水酸化ナトリウム(和光純薬製)0.55gと純水3gを含む水溶液を含浸させ、60℃、18時間乾燥した。その後、粉体を350℃で3時間焼成して、鉄、銅とナトリウムを含有する鉄-銅系触媒を得た。鉄-銅系触媒に対するナトリウムの割合は約4質量%と計算される。この得られた粉体を40MPaの圧力で成形して、直径2mm、高さ2mmの円柱状の鉄-銅系触媒の成形体を得た。この鉄-銅系触媒成形体4.0gを固定床式反応管に充填した。その後は実施例1と同様の操作により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0053】
(比較例2)
鉄系触媒体4.0gだけを固定床式反応管に充填し、銅系触媒体を用いなかった。その後は実施例1と同様の操作により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0054】
(比較例3)
実施例1の鉄系触媒体と同様の方法で、Feを含有する円柱状の成形体を準備した。この成形体を、水酸化ナトリウムの水溶液を含浸させることなく、銅系触媒体とともに固定床式反応管に充填した。その後は実施例1と同様の操作により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0055】
(比較例4)
硝酸コバルト六水和物1.23gを純水1.50gに溶解させた。得られた水溶液を、球状アルミナ4g(住友化学製、KHA-24)に含侵し、110℃で一晩乾燥させた。この含浸及び乾燥を2回繰り返し、アルミナ担体に12.5質量%のコバルトが担持されたコバルト系触媒(Al担持Co系触媒)を得た。得られたコバルト系触媒を鉄系触媒の代わりに用い、還元処理のための加熱温度を400℃に変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、触媒の還元処理とそれに続く反応試験を実施した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1にCO、CH、炭素数2~4の炭化水素(C2-C4)と炭素数5以上の炭化水素(C5+)の収率を示す。銅系触媒体と鉄系触媒体との組み合わせにより、二酸化炭素と水素から炭素数5以上の液状の炭化水素が高い収率で生成することが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1…反応装置、3…反応容器、3A…ガス入口、3B…ガス出口、10…触媒層、11…第一の触媒層、12…第二の触媒層。
図1
図2