(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20221122BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20221122BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20221122BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B23K9/095 505C
B23K9/12 331K
(21)【出願番号】P 2019133528
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0021379(US,A1)
【文献】特開2018-183815(JP,A)
【文献】特開2005-152918(JP,A)
【文献】特開平06-039548(JP,A)
【文献】特開2018-023982(JP,A)
【文献】特開2016-030283(JP,A)
【文献】特開2012-210653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、10/00 - 10/02
B23K 26/342
B23K 15/00
B22F 3/105
B33Y 10/00、30/00、50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体が互いに接合された接合構造体を、ベース上に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して形成する積層構造体の製造方法であって、
複数の前記構造体のうち、いずれか1つの構造体の形状を有する基準積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記いずれか1つの構造体を除く他の構造体の形状を、前記基準積層体との接合端から後退させた形状の部分積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記基準積層体と前記部分積層体との間の溶着ビードのない間隙部を、前記基準積層体と前記部分積層体とを接続する溶着ビードで埋めて接合部を形成する工程と、
を有
し、
前記接合部を積層する工程では、前記間隙部に溶着ビードを形成するときの溶接入熱を、前記基準積層体及び前記部分積層体を形成するときの溶接入熱より大きくする積層構造体の製造方法。
【請求項2】
複数の構造体が互いに接合された接合構造体を、ベース上に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して形成する積層構造体の製造方法であって、
複数の前記構造体のうち、いずれか1つの構造体の形状を有する基準積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記いずれか1つの構造体を除く他の構造体の形状を、前記基準積層体との接合端から後退させた形状の部分積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記基準積層体と前記部分積層体との間の溶着ビードのない間隙部を、前記基準積層体と前記部分積層体とを接続する溶着ビードで埋めて接合部を形成する工程と、
を有
し、
軌道演算部が、
前記接合構造体の3次元形状データを積層方向に分割して複数層のスライスデータにする工程と、
前記スライスデータに応じた形状に溶着ビードを形成するビード形成パスを求める工程と、
前記ビード形成パス同士が交差する交差箇所を抽出する工程と、
抽出された前記交差箇所を含む前記ビード形成パスの少なくとも1つを、当該交差箇所に溶着ビードを形成しない前記間隙部を形成する修正ビード形成パスに変更する工程と、
前記間隙部に溶着ビードを形成する追加ビード形成パスを生成する工程と、
を実行する積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記交差箇所に含まれる複数の前記ビード形成パスのうち、いずれか1つの前記ビード形成パスをそのまま残し、他の前記ビード形成パスを、前記間隙部が設けられた修正ビード形成パスに変更する請求項
2に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記接合部を積層する工程では、前記間隙部に溶着ビードを形成するときの溶接入熱を、前記基準積層体及び前記部分積層体を形成するときの溶接入熱より大きくする
請求項2又は3に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項5】
前記接合部を積層する工程は、前記ベースの面方向と交差する方向に溶着ビードを形成する請求項1
~4のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項6】
前記間隙部の溶着ビードを、ウィービング溶接により形成する請求項1
~5のいずれか1項に記載の積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、特に金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタでは、レーザ、電子ビーム、アーク等の熱源を用い、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで積層構造体を作製する。
【0003】
このような造形技術において、溶加材を溶融及び固化させた溶着ビードを繰り返し積層して得られた複数の積層体を、互いに溶接継手を介して溶接して一体の接合構造体にする技術が、例えば特許文献1に開示されている。
この接合方法では、積層体同士の突き合わせ位置に開先を形成して、この開先に溶着ビードを形成することで、各積層体を互いに接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、
図9に示すように、ベース81上で一対の構造体(第1構造体83、第2構造体85)が平面視でT字形に接合された接合構造体Wでは、第2構造体85の長手方向一端部85aが第1構造体83の側面中央部83aに接合される。この接合構造体Wを積層造形法で作製する場合、第1構造体83、第2構造体85を、
図10に示すように、それぞれ複数の溶着ビードBが積層された第1積層体93、第2積層体95で構成する。第1積層体93と第2積層体95との接合部99では、第1積層体93のビード側面93aに、第2積層体95のビード端部95aが突き合わされて接合される。
【0006】
しかし、
図11に示すように、個々の溶着ビードBの表面は、不規則な凹凸面であって、しかも、溶接トーチが既設の溶着ビードと干渉して、所望の適正位置に配置できないことがある。そのため、ビード側面93aとビード端部95aとの接合部99には、空洞G等の未溶着部となる内部欠陥が発生しやすくなり、接合品質が低下する。また、内部欠陥によって第1積層体93と第2積層体95との接合強度が低下する。
【0007】
そこで本発明は、溶着ビードを積層した積層体同士を接続する場合に、接合部に内部欠陥が発生することを防止して、複数の積層体を高品質かつ高強度に接合できる積層構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
複数の構造体が互いに接合された接合構造体を、ベース上に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して形成する積層構造体の製造方法であって、
複数の前記構造体のうち、いずれか1つの構造体の形状を有する基準積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記いずれか1つの構造体を除く他の構造体の形状を、前記基準積層体との接合端から後退させた形状の部分積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層
する工程と、
前記基準積層体と前記部分積層体との間の溶着ビードのない間隙部を、前記基準積層体と前記部分積層体とを接続する溶着ビードで埋めて接合部を形成する工程と、
を有する積層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶着ビードを積層した積層体同士を接続する場合に、その接合部に内部欠陥が発生することを防止できる。これにより、複数の積層体が高品質かつ高強度に接合された積層構造体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】積層構造体の製造システムの模式的な概略構成図である。
【
図2】積層構造体を形成する工程説明図であって、ベース上に一対の積層体を互いに離間して形成した様子を示す斜視図である。
【
図3】積層構造体を作製する工程説明図であって、一対の積層体を接合した様子を示す斜視図である。
【
図5】交差箇所に間隙部を形成した修正ビード形成パスを模式的に示す平面図である。
【
図6】
図5に示す交差箇所の間隙部に追加ビード形成パスを設けた各ビード形成パスを模式的に示す平面図である。
【
図7】(A)~(F)は枠片と補強部との接合部における溶着ビードの形成手順を示す工程説明図である。
【
図8】接合部の溶着ビードを形成する際のトーチ移動軌跡の一例を示す説明図である。
【
図10】
図9に示す接合構造体を積層造形する場合の積層体を示す斜視図である。
【
図11】
図9の第1積層体と第2積層体との接合部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本発明の積層構造体の製造方法が適用される積層構造体の製造システムについて説明する。
【0012】
図1は積層構造体の製造システム100の模式的な概略構成図である。
本構成の積層構造体の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0013】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材Mを供給する溶加材供給部21とを有する。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0014】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0015】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17は、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0016】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層構造体Waに応じて適宜選定される。
【0017】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベース25上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0018】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層構造体Wa(目標形状)の形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0019】
制御部37を含むコントローラ15は、CPU、メモリ、I/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置であって、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡(後述するビード形成パス)に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。
【0020】
これにより、ベース25上に複数の溶着ビードBが積層された積層構造体Waが形成される。ところで、積層構造体Waが複数の積層体が接合された接合体である場合、積層体同士の接合部で未溶着部が発生するおそれがある。そこで、本積層構造体の製造方法では、以下に説明する手順によって未溶着部の発生を防止している。
【0021】
積層構造体の製造方法の基本的な工程として、
図9に示す第1構造体83と第2構造体85とが、平面視でT字形に接続された構造体を積層造形により製造する場合を例に説明する。
図2は積層構造体を形成する工程説明図であって、ベース25上に一対の積層体を互いに離間して形成した様子を示す斜視図である。
図3は積層構造体を作製する工程説明図であって、一対の積層体を接合した様子を示す斜視図である
【0022】
積層構造体を作製するには、
図2に示すように、
図9に示す接合構造体Wの第1構造体83の形状に応じて、ベース25上に溶着ビードBを積層して第1積層体(基準積層体)43を形成する。また、第1積層体43(第1構造体83)の形状を第1積層体43との接合端からビード形成方向で後退させた形状に、ベース25上に溶着ビードBを積層して第2積層体(部分積層体)45を形成する。このときの溶着ビードBの形成方向は、ベース25の面方向に沿った方向となる。なお、第1積層体43と第2積層体45の形成順はどちらが先であってもよい。
【0023】
これにより、第2積層体45はビード形成方向(第2構造体85の長手方向)に短縮した形状となり、第1積層体43と第2積層体45との間に、溶着ビードが形成されない間隙部47が設けられる。
【0024】
次に、
図3に示すように、第1積層体43と第2積層体45との間の溶着ビードが形成
されていない間隙部47(
図2参照)に、第1積層体43と第2積層体45とを接続する溶着ビードBを形成する。これにより、間隙部47を埋める接合部49が形成される。接合部49は、複数層の溶着ビードBが積層された積層体である。ここでは、接合部49の溶着ビードBの形成方向を、ベース25の面方向に沿った方向で示しているが、ベース25の面方向と交差する方向にすることもできる。その場合の溶着ビードBの形成方向は、ベース25側から第1積層体43及び第2積層体45の積層方向先方側(
図3では上側)に向かう方向とするのが好ましい。溶着ビードBの形成方向を、接合部49と、第1積層体43,第2積層体45とで異ならせることで、第1積層体43と第2積層体45との接合状態がより良好となり、双方の接合強度をより向上できる。
【0025】
接合部49を形成する際の溶接入熱は、第1積層体43及び第2積層体45を形成する際の溶接入熱より大きくすることが好ましい。これによれば、接合部49の形成時に、第1積層体43と第2積層体45との接続部分を確実に溶融させて、第1積層体43と第2積層体45とを一体に繋ぐことができる。また、未溶着部分が生じないため、接合部49の溶着ビードは均質に形成される。そして、接合部49に積層される溶着ビード同士は、前層の溶着ビードと次層の溶着ビードとが、互いの接合面で共に溶融して凝固する。その結果、ビード層間の接合強度が高くなり、第1積層体43と第2積層体45との接合強度が向上する。
【0026】
上記の工程により、
図8に示す第1構造体83と第2構造体85との接合部に未溶着部を生じさせることなく、第1積層体43と第2積層体45とを高強度に接合できる。
【0027】
次に、上記の基本工程によって積層構造体を製造する他の例を説明する。
図4は他の積層構造体Wbの構成を示す平面図である。
積層構造体Wbは、ベース25上に積層造形された枠体51と、枠体51に接続された複数の補強部53A,53B,53C,53Dとを有する。枠体51は、全体が矩形環状に形成され、枠体51の4辺のそれぞれ中間部分には、補強部53A,53B,53C,53Dが接合される。
【0028】
補強部53A,53B,53C,53Dは、枠体51の外側から枠体51の内側に向かう長さが、枠体51の厚さより長く、枠体51と同じ高さにまで積層造形される。よって、枠体51は、4辺のそれぞれで補強部53A,53B,53C,53Dにより分断され、平面視でL字形となる4つの枠片51A,5B,51C,51Dから構成される。
【0029】
補強部53Aでは、
図4に矢印で示すP1方向に沿って溶着ビードを形成する。また、枠片51Aでは、P1方向に直交するP2方向に沿って溶着ビードを形成する。他の補強部53B,53C,53Dについても同様に、各溶着ビードの形成方向は、枠片51B,51C,51Dの溶着ビードの形成方向に直交する。なお、ここではP1方向とP2方向が直交する例を示しているが、これに限らず、直交以外の交差角となるように各補強部を設けてあってもよい。
【0030】
以下、上記構成の積層構造体Wbを、上述した積層構造体Waの製造方法と同様に製造する工程を具体的に説明する。
図1に示す積層構造体の製造システム100のコントローラ15には、上記した積層構造体Wbの3次元形状データが入力され、3次元形状データが記憶部35に記憶される。
【0031】
制御部37は、記憶部35から積層構造体Wbの3次元形状データを読み出し、3次元形状データをその積層方向(鉛直方向)に分割して、複数層のスライスデータにする。制御部37はスライスデータを軌道演算部33に出力する。
【0032】
軌道演算部33は、入力された複数層のスライスデータに対して、それぞれビード形成パスを求める。ビード形成パスは、形成する溶着ビードが、スライスデータに応じた形状(積層構造体Wbの各層における断面形状)になるように、溶着ビードを配列するための情報であって、具体的には、個々の溶着ビードの形状を想定したビードモデルの配置、形成順を表す情報である。ビード形成パスは、トーチ17(
図1)の移動軌跡を決定する情報として用いられる。なお、ここで求めるビード形成パスは、ビード形成の連続性を重視して、ビード形成パス同士が、互いに重なる重なり部を有していてもよい。
【0033】
つまり、スライスデータに含まれる枠体51については、環状に連続したビード形成パスが生成され、補強部53A,53B,53C,53Dについては、それぞれ枠体51に対するビード形成パスと交差する直線状のビード形成パスが生成される。
【0034】
次に、軌道演算部33は、枠体51及び補強部53A,53B,53C,53Dに対応して生成した各ビード形成パスの、ビード形成パス同士が交差する交差箇所を抽出する。ここでは、
図4に示す交差箇所C1,C2,C3,C4が抽出される。
【0035】
そして、抽出された交差箇所C1,C2,C3,C4を含む各ビード形成パスを、その交差箇所C1,C2,C3,C4に、溶着ビードを形成しない間隙部を形成するように、修正ビード形成パスに変更する。
【0036】
図5は交差箇所C1,C2,C3,C4に間隙部55を形成した修正ビード形成パスを模式的に示す平面図である。
ここでは、補強部53A,53B,53C,53D(
図4参照)のビード形成パス57A,57B,57C,57Dはそのまま残し、ビード連続形成長の長い枠体51のビード形成パスを分断して、補強部との間に間隙部55を設ける。その結果、枠体51のビード形成パスは、枠片51A,5B,51C,51D(
図4参照)よりもビード形成方向に短縮された修正ビード形成パス59A,59B,59C,59Dとなる。
【0037】
次に、交差箇所C1,C2,C3,C4に設けた間隙部55に溶着ビードを形成する追加ビード形成パスを生成する。
図6は
図5に示す交差箇所C1,C2,C3,C4の間隙部に追加ビード形成パス61を設けた各ビード形成パスを模式的に示す平面図である。
【0038】
図6に示すように、交差箇所C1においては、補強部53A(
図4参照)に対応するビード形成パス57Aと、修正ビード形成パス59Aとの間、及びビード形成パス57Aと、修正ビード形成パス59Bとの間に、それぞれ追加ビード形成パス61が生成される。同様に、交差箇所C2,C3,C4においても、それぞれの間隙部55に追加ビード形成パス61が生成される。
【0039】
上記したビード形成パス57A,57B,57C,57Dにより補強部53A,53B,53C,53Dとなる溶着ビードが形成され、修正ビード形成パス59A,59B,59C,59Dと、追加ビード形成パス61によって枠片51A,5B,51C,51Dとなる溶着ビードが形成される。
そして、上記した各ビード形成パスにより形成される溶着ビードを、積層方向に順次積層することで、枠体51と補強部53A,53B,53C,53Dが積層造形される。
【0040】
図7の(A)~(F)は枠片51Aと補強部53Aとの接合部における溶着ビードの形成手順を示す工程説明図である。
まず、
図7の(A)に示すように、ベース25上に溶着ビードB1(
図4に示す枠片51Aに相当)を、修正ビード形成パス59A(
図6参照)に沿って形成し、溶着ビードB
2(
図4に示す補強部53Aに相当)を、ビード形成パス57A(
図6参照)に沿って形成する。溶着ビードB1と溶着ビードB2との間には、間隙部55が設けられる。
【0041】
そして、
図7の(B),(C)に示すように、溶着ビードB1と溶着ビードB2をそれぞれ順次積層して、所定の高さの積層体(枠片51A)65と積層体(補強部53A)67を形成する。
【0042】
次に、
図7の(D)に示すように、積層体65の1層目の溶着ビードB1と、積層体67の1層目の溶着ビードB2との間の間隙部55に、溶着ビードB3を追加ビード形成パス61(
図6参照)に沿って形成する。
【0043】
さらに、
図7の(E),(F)に示すように、間隙部55に溶着ビードB3を追加ビード形成パス61(
図6参照)に沿って形成し、溶着ビードB3を積層体65,67の高さまで順次に積層して、接合部69を形成する。これにより、積層体65と積層体67とが接合部69によって一体にされた積層構造体Wbが得られる。
【0044】
図7においては、溶着ビードB1,B2を3層形成した後に、1層目の溶着ビードB3の形成を開始しているが、
図1に示す溶接ロボット19のトーチ17が、間隙部55の溶接位置に配置可能な範囲であれば、溶着ビードB3の形成を開始する層数は適宜変更できる。つまり、積層構造体Wbの全積層高さが、トーチ17を所望の溶接位置に所望の姿勢で配置可能となる範囲であれば、積層体65,67を積層構造体Wbの全積層高さまで連続して形成できる。一方、積層途中でトーチ17が所望の溶接位置に届かなくなる場合や、所望の溶接姿勢を採れなくなる場合には、積層構造体Wbの全積層高さを複数の高さ範囲に分割し、分割された高さ範囲毎に、積層体65,67の形成と接合部69の形成とを繰り返せばよい。これにより、所定の層数の溶着ビードにより形成される積層体65,67と接合部69とが、繰り返し積層されて、最終的に積層構造体Wbの全積層高さにまで形成される。
【0045】
また、間隙部55の溶着ビードB3の形成方向は、ベース25の面方向に交差する方向(
図7においては鉛直方向上向きの方向)にしてもよい。
【0046】
以上説明した、複数の積層体が接合された積層構造体の製造方法では、積層体同士の接合部に間隙部を設け、積層体を溶着ビードで形成する工程とは別に、間隙部に溶着ビードを形成する工程を設けて積層体同士を接合する。これによれば、積層体同士の接合部に空洞の形成等の未溶着部が生じることを防止できる。また、接合部を形成する際に、積層体に予め溶接用の開先を設けて開先溶接する必要がなく、下処理を不要にでき、溶着ビードの形成を煩雑にすることがない。
【0047】
上記した溶接ビードは、直線又は曲線状の溶接線に沿ったトーチ移動軌跡で形成するものとして説明したが、ウィービング動作を伴うトーチ移動軌跡であってもよい。
図8は接合部69の溶着ビードを形成する際のトーチ移動軌跡の一例を示す説明図である。
【0048】
積層体65と積層体67との間の間隙部55で、トーチを積層体67の長手方向に平行な溶接線Lに対して直角に動かしながら溶接線Lに沿って進行させることで、ウィービング溶接を行う。溶接線Lの方向は、積層体65,67の厚さや間隙部55の大きさ等に応じて適宜に設定でき、積層体65の長手方向等、任意の方向に設定できる。
【0049】
ウィービング溶接で接合部を形成することで、溶着ビードを任意の幅に簡単、且つ均質に形成できる。また、複数パスで接合部を形成する場合に、前述した追加ビード形成パス
61を生成する際のパス計算を簡単化できる。
【0050】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0051】
例えば、上記例のビード形成パスの交差箇所は、2つのビード形成パスが交差した例であるが、3つ以上のビード形成パスが交差していてもよい。その場合、いずれか1つのビード形成パスをそのまま残し、他のビード形成パスに間隙部を設ければよい。また、必要に応じて全てのビード形成パスに間隙部を設けてもよい。さらに、上記例では枠体51のビード形成パスを、複数のビード形成パスに分断したが、枠体51の形状通りに周方向に連続した環状のビード形成パスにして、補強部を複数のビード形成パスに分断する形態としてもよい。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数の構造体が互いに接合された接合構造体を、ベース上に溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して形成する積層構造体の製造方法であって、
複数の前記構造体のうち、いずれか1つの構造体の形状を有する基準積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記いずれか1つの構造体を除く他の構造体の形状を、前記基準積層体との接合端から後退させた形状の部分積層体を、前記ベースの面方向に沿って溶着ビードを形成して積層する工程と、
前記基準積層体と前記部分積層体との間の溶着ビードのない間隙部を、前記基準積層体と前記部分積層体とを接続する溶着ビードで埋めて接合部を形成する工程と、
を有する積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、基準積層体と、基準積層体に間隙部をあけて配置される部分積層体と積層した後に、間隙部を埋める接合部を積層することで、複数の積層体が接合される接合部に未溶着部が生じることを防止できる。
【0053】
(2) 前記接合部を積層する工程は、前記ベースの面方向と交差する方向に溶着ビードを形成する(1)に記載の積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、積層体を形成した溶着ビードの積層方向に沿って接合部の溶着ビードを形成することで、積層体同士を高強度に接合できる。
【0054】
(3) 前記間隙部の溶着ビードを、ウィービング溶接により形成する(1)又は(2)に記載の積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、溶着ビードを任意の幅に簡単、且つ均質に形成できる。
【0055】
(4) 前記間隙部に溶着ビードを形成するときの溶接入熱を、前記基準積層体及び前記部分積層体を形成するときの溶接入熱より大きくする(1)~(3)のいずれか1つに記載の積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、間隙部に溶着ビードを形成する際に、既に形成された積層体や前層の溶着ビードの一部を溶融させて、より確実に積層体同士を繋ぐ溶着ビードを形成できる。
【0056】
(5) 軌道演算部が、
前記接合構造体の3次元形状データを積層方向に分割して複数層のスライスデータにする工程と、
前記スライスデータに応じた形状に溶着ビードを形成するビード形成パスを求める工程
と、
前記ビード形成パス同士が交差する交差箇所を抽出する工程と、
抽出された前記交差箇所を含む前記ビード形成パスの少なくとも1つを、当該交差箇所に溶着ビードを形成しない前記間隙部を形成する修正ビード形成パスに変更する工程と、
前記間隙部に溶着ビードを形成する追加ビード形成パスを生成する工程と、
を実行する(1)~(4)のいずれか1つに記載の積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、交差箇所を含む少なくとも1つのビード形成パスを、間隙部が形成される修正形成パスに変更することで、交差箇所には、複数の積層体が間隙部を有して形成される。この間隙部に追加ビード形成パスに沿って溶着ビードを形成することで、複数の積層体が接合された接合構造体が得られる。よって、接合構造体全体のビード形性パスを変更することなく、交差箇所のビード形成パスの一部だけを変更するだけで、交差箇所の溶着ビードに未溶着部が生じることを防止できる。
【0057】
(6) 前記交差箇所に含まれる複数の前記ビード形成パスのうち、いずれか1つの前記ビード形成パスをそのまま残し、他の前記ビード形成パスを、前記間隙部が設けられた修正ビード形成パスに変更する(5)に記載の積層構造体の製造方法。
この積層構造体の製造方法によれば、交差箇所では1つのビード形成パスはそのまま使用して、他のビード形成パスにのみ間隙部を設けることで、ビード形成パスの変更が必要最小限で済む。
【符号の説明】
【0058】
11 積層造形装置
15 コントローラ
17 トーチ
19 溶接ロボット
21 溶加材供給部
25 ベース
31 CAD/CAM部
33 軌道演算部
35 記憶部
37 制御部
43 第1積層体(基準積層体)
45 第2積層体(部分積層体)
47 間隙部
49 接合部
51 枠体
51A,51B,51C,51D 枠片
53A,53B,53C,53D 補強部
55 間隙部
57A,57B,57C,57D ビード形成パス
59A,59B,59C,59D 修正ビード形成パス
61 追加ビード形成パス
65,67 積層体
69 接合部
100 積層構造体の製造システム
B,B1,B2,B3 溶着ビード
M 溶加材
Wa,Wb 積層構造体
W 接合構造体