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特許7181166リコータ、及びこれを備えた積層造形装置、並びに積層造形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】リコータ、及びこれを備えた積層造形装置、並びに積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/60 20210101AFI20221122BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221122BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221122BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221122BHJP
   B29C 64/205 20170101ALI20221122BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B22F12/60
B33Y30/00
B33Y10/00
B29C64/153
B29C64/205
B22F9/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019152745
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021031726
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-10-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】初田 光嶺
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0079133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/60
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 9/08
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B29C 64/153
B29C 64/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形部に敷設された粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する末床溶融方式の積層造形装置に用いられ、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成するリコータであって、
前記粉末材料を収容する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上で前記リコータの移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
前記スリット部の前記移動方向の少なくとも一端に、前記スリット部から下方に突出して設けられ、前記リコータの移動により、前記造形部上の前記粉末材料の層を平滑化するブレードと、
を備え、
前記スリット部には、前記移動方向に隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記隙間が狭くなるように相互に傾斜して形成され、かつ、前記スリット部の下方に、前記スリット出口の前記移動方向の幅より広い幅の空間が形成され、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θは、下記(1)、(2)式を満たすリコータ。
d≧0.0024×(θ-75°)+4.5 ・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ ・・・(2)
【請求項2】
前記一対のスリット内壁面で形成される空間は、先細りしている請求項1に記載のリコータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリコータを備える積層造形装置。
【請求項4】
電子顕微鏡観察に基づく粒子径20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である水アトマイズ粉末からなる粉末材料を造形部に敷設して、前記粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する粉末床溶融方式の積層造形方法であって、
前記粉末材料を貯留する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上での移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
前記スリット部の前記移動方向の少なくとも一端に、前記スリット部から下方に突出して設けられ、前記移動方向の移動よって前記造形部上の前記粉末材料の層を平滑化するブレードと、
を備えるリコータにより、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成する工程を有し、
前記スリット部には、隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記移動方向の隙間が狭くなるように相互に傾斜して設けられ、かつ、前記スリット部の下方に、前記スリット出口の前記移動方向の幅より広い幅の空間が形成され、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θを、下記(1)、(2)式を満たすようにする積層造形方法。
d≧0.0024×(θ-75°)+4.5・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコータ、及びこれを備えた積層造形装置、並びに積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元CAD(Computer Aided Design)データを層分割し、分割した層に、更に上の層を積層させて3次元の造形物を製造する方法が、「Additive Manufacturing」の技術として知られている。この技術によれば、3次元CADデータがあれば、金型を使わずに複雑な形状を容易に製造することができる。
このような造形方法の一つに、敷き詰められた金属材料の粉末を選択的に加熱して、粉末を溶融・凝固、又は焼結させて積層構造物を造形する粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)方式がある。粉末床溶融結合方式では、加熱源としてレーザビームを用いるレーザビーム方式(SLM:Selective Laser Melting)が多用されている。
【0003】
粉末床溶融結合方式の積層造形装置は、典型的には、粉末材料を貯留する貯留部と、粉末材料が供給されて造形が行われる造形部と、粉末材料の移送及び平坦化を行うリコータとを備える。造形部は、その底部を昇降駆動するテーブルの側方に隣接して、粉末材料を貯留する貯留部が配置される。リコータは、貯留部の下方とテーブルとの間を往復動可能に設けられ、貯留部から供給された粉末材料を収容して、造形部のテーブル上に粉末材料の層を形成する。
【0004】
リコータは、粉末収容部に粉末材料を収容し、粉末収容部のスリット部から粉末材料を下方に向けて排出することで、粉末材料を造形部に供給している。
【0005】
ところで、このようなリコータに供給される粉末材料は、スリット部で目詰まりが生じないように流動性が良いことが求められる。このような粉末材料の流動性を高める技術が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1には、使用する粉末材料を、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20[μm]以下の粒子の数が全体の15個数%以下にすることで、高い流動性を確保できる、と記載されている。
【0006】
しかし、上記の条件を満たす粉末材料であっても、粉末材料の製法によっては個々の粉体の表面形状が、球体に近いものから凹凸を有するいびつな形状まで多様である。特に、粉体がいびつな粒形状である場合には、粉体表面の凹凸同士が絡み合うことや、粉体相互間の静電気のよって流動性が低下し、リコータのスリット部で目詰まりを生じさせることがある。例えば、水アトマイズ法により製造された粉末は、ガスアトマイズ法により製造された粉末よりも粒形状がいびつになる傾向があり、スリット部で目詰まりが生じやすくなる。
【0007】
表1に流動性の試験結果の一例を示す。これによれば、同じステンレス鋼材(SUS 316L)の粉末材料であっても、ガスアトマイズ法で製造された粉末材料では、FR値(JIS 2504に準じた測定方法において、50gの粉末材料が流れ落ちるために要する時間(秒))が18.93秒であるところ、水アトマイズ法で製造された粉末材料では、目詰まりを生じた。粉末材料の安息角は、ガスアトマイズ法による粉末よりも水アトマイズ法による粉末が大きく、水アトマイズ法による粉末は、ガスアトマイズ法による粉末より流動性が低くなっている。
【0008】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-172739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、供給される粉末材料の製法によらず、常に良好な流動性が得られるスリット部を有するリコータ、及びこれを備えた積層造形装置、並びに積層造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は下記構成からなる。
[1] 電子顕微鏡観察に基づく粒子径20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である水アトマイズ粉末からなる粉末材料を造形部に敷設して、前記粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する粉末床溶融方式の積層造形装置に用いられ、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成するリコータであって、
前記粉末材料を収容する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上で前記リコータの移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
前記スリット部の前記移動方向の少なくとも一端に、前記スリット部から下方に突出して設けられ、前記リコータの移動により、前記造形部上の前記粉末材料の層を平滑化するブレードと、
を備え、
前記スリット部には、前記移動方向に隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記隙間が狭くなるように相互に傾斜して形成され、かつ、前記スリット部の下方に、前記スリット出口の前記移動方向の幅より広い幅の空間が形成され、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θは、下記(1)、(2)式を満たすリコータ。
d≧0.0024×(θ-75°) +4.5 ・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ ・・・(2)
[2] [1]に記載のリコータを備える積層造形装置。
[3] 電子顕微鏡観察に基づく粒子径20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である水アトマイズ粉末からなる粉末材料を造形部に敷設して、前記粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する粉末床溶融方式の積層造形方法であって、
前記粉末材料を貯留する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上での移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
前記スリット部の前記移動方向の少なくとも一端に、前記スリット部から下方に突出して設けられ、前記リコータの移動により、前記造形部上の前記粉末材料の層を平滑化するブレードと、
を備えるリコータにより、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成する工程を有し、
前記スリット部には、隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記移動方向の隙間が狭くなるように相互に傾斜して設けられ、かつ、前記スリット部の下方に、前記スリット出口の前記移動方向の幅より広い幅の空間が形成され、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θ、下記(1)、(2)式を満たすようにする積層造形方法。
d≧0.0024×(θ-75°) +4.5・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ・・・(2)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、供給される粉末材料の製法によらず、常に良好な流動性が得られるスリット部を有するリコータが得られる。これにより、低コストで安定した積層造形が行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】粉末造形装置の概略構成図である。
図2】リコータの要部断面図である。
図3】(A)~(D)は、各造形工程を順に示す工程説明図である。
図4】(A)~(C)は、各造形工程を順に示す工程説明図である。
図5】使用した粉末材料の粒径の累積度数分布を、粒径を対数軸で示した片対数グラフである。
図6】治具のスリット傾斜角と、スリット出口幅とを変化させて粉末材料の流動性を確認した結果を示すグラフである。
図7図6の横軸と縦軸を延長して示したグラフである。
図8】スリット出口幅とスリット傾斜角を変化させて粉末材料の供給性を確認した試験結果を示すグラフである。
図9】リコータの寸法を異ならせた場合の限界曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<粉末造形装置の構成>
図1は粉末造形装置の概略構成図である。
粉末造形装置100は、ハウジング10に設けられた造形部11と、パウダーポッド13と、リコータ155と、光走査部17とを備える。
造形部11は、ハウジング10に形成されたスライド孔10a内に昇降自在に配置されたベースプレート21を有する。ベースプレート21は、不図示の上下方向駆動機構によってスライド孔10a内で昇降駆動される。ベースプレート21は、ハウジング10の上方からの平面視で長方形であり、その上面が平坦面にされている。
【0015】
パウダーポッド13は、ハウジング10の上方に設けられ、粉末材料23を貯留する。また、粉末材料23を下方に排出する不図示のノズルを有する。
【0016】
リコータ15は、ハウジング10上に配置され、不図示の水平方向駆動機構によって、パウダーポッド13の下方から造形部11までの間を含む領域を、水平方向に移動自在となっている。リコータ15は、水平移動方向に交差する方向(図1の奥行き方向)に延びる細長状であって、水平移動によってベースプレート21の全面を走査可能な奥行き長さに形成される。
【0017】
ここで、本明細書では、図1に示す上下方向をZ方向、リコータ15の移動方向をX方向、また、X方向及びZ方向に直交する奥行き方向をY方向と定義する。なお、リコータ15の移動方向は必ずしも水平方向に限らず、粉末造形装置100の構造等に応じて適宜設定される。
【0018】
光走査部17は、入力された3次元形状データに応じて、レーザ光Lを造形部11に向けて照射する。レーザ光Lは、粉末材料23の溶融熱源であり、レーザ光Lの照射領域内の粉末材料23を選択的に溶融接合させ、溶融結合体41を形成する。この溶融結合体41を順次に積層することで造形物が得られる。
【0019】
図2はリコータ15の要部断面図である。
リコータ15は、粉末材料23を収容される収容空間を画成する粉末収容部25と、収容空間の底部に設けられたスリット部27と、ブレード29とを備える。スリット部27は、リコータ15の移動方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に延びる部材であって、下方に向けて粉末材料23を排出するスリット出口27aが形成されている。このスリット部27において、スリット出口27aに対向する位置に設けられ、粉末材料23を受け入れる開口を、スリット入口27bと称する。ブレード29は、粉末収容部25とスリット部27におけるX方向の両端に設けられ、リコータ15が移動することで、造形部11上の粉末材料23を平滑化する。ブレード29の形状は任意であり、リコータ15のX方向の一端にだけブレード29を設けた構成であってもよい。
【0020】
粉末収容部25は、リコータ15のY方向に沿って形成され、互いに対向する一対の内壁面25aの内側に粉末の収容空間が画成される。粉末収容部25は、内壁面25aがリコータ15のY方向の一端から他端まで連続して形成された単一の構造であってもよく、内壁面25aを所定の長さ毎に分割して複数の収容空間を画成し、これら複数の収容空間が一列に配置された構造であってもよい。
【0021】
スリット部27は、粉末収容部25の下側を塞ぐ底板31に形成される。底板31の下側面には、板厚方向に貫通し、Y方向に沿って連続して形成された前述のスリット出口27aが開口する。スリット出口27aには、互いに対向する一対のスリット内壁面33,35が板厚方向に接続されている。一対のスリット内壁面33,35の少なくとも一方は、鉛直方向(Z方向)から傾斜した傾斜面であり、スリット部27の対向面33,35同士間のX方向の隙間は、スリット出口27aに向かうほど狭くなっている。つまり、スリット内壁面33,35は、下方に向けて先細りとなる隙間を挟んで配置されている。底板31は、一枚の板材にスリット部27を形成した構成であってもよく、複数枚の板材を組み合わせてスリット部27を形成した構成であってもよい。
【0022】
ここで、粉末収容部25のスリット部27との接続位置における内壁面25a,25b同士のX方向の幅を収容部幅Lc[mm]、一対のスリット内壁面33,35で形成されるスリット出口27aからスリット入口27bまでの最短距離(図2においてはスリット内壁面33,35の鉛直方の高さ)をスリット高さh、スリット出口27aにおけるX方向の幅をスリット出口幅d[mm]、少なくとも一方のスリット内壁面35とスリット出口27aが形成されているスリット出口面27c(粉末収容部25の下面に形成されるスリット出口27aを仮想的に拡張させた面。なお、図2においては、スリット出口面27cは、底板31にてスリット出口27aの形成された平面に重畳し、この平面は水平方向とも一致しているため水平面とも称せる)とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]と定義する。なお、本構成ではスリット内壁面33も同じスリット傾斜角θとなる。スリット出口幅dとスリット傾斜角θとは、リコータ15のY方向に沿って一定となっている。
【0023】
本構成のリコータ15では、詳細を後述するが、スリット出口幅dとスリット傾斜角θが下記(1)、(2)式を満たしている。
d≧0.0024×(θ-75°) +4.5 ・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ ・・・(2)
【0024】
<粉末造形装置による造形工程>
次に、上記構成の粉末造形装置100による造形工程を説明する。
図3の(A)~(D)、及び図4の(A)~(C)は、各造形工程を順に示す工程説明図である。以下に説明する各工程の動作は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置からなる不図示の制御部からの指令によって行われる。
【0025】
まず、図3の(A)に示すように、リコータ15をパウダーポッド13の下方に配置して、パウダーポッド13から所定量の粉末材料23をリコータ15の粉末収容部25(図2参照)に供給する。
【0026】
次に、図3の(B)に示すように、ベースプレート21をΔtだけ降下させ、ハウジング10の上面とベースプレート21の上面との間に厚さΔtの段差を形成する。そして、図3の(C)に示すように、リコータ15をパウダーポッド13の下方から造形部11に向けて移動させる。これにより、リコータ15におけるスリット出口27aから粉末材料23が流れ落ち、ベースプレート21上に、粉末材料23の層が敷設される。粉末材料23の層の厚さは、一般的な粉末造形法で採り得る厚さであるが、特に限定されない。ここでは薄層37として示している。
【0027】
その後、図3の(D)に示すように、光走査部17が、ベースプレート21上に敷設された薄層37に向けてレーザ光Lを照射する。レーザ光Lは、目標形状の3次元形状データに応じて、薄層37の所定の位置へ選択的に照射される。レーザ光Lが照射された領域では、粉末材料の薄層37が溶融して1層分の溶融結合体41が形成される。
【0028】
さらに、図4の(A)に示すように、ベースプレート21を更にΔtだけ降下させ、ハウジング10の上面とベースプレート21上の薄層37との間に厚さΔtの段差を形成する。そして、図4の(B)に示すように、リコータ15を移動先からパウダーポッド13側に移動させ、段差内の薄層37上に粉末材料23の薄層39を形成する。その後、図4の(C)に示すように、形成された薄層39に向けて光走査部17から3次元形状データに応じてレーザ光Lを照射する。
【0029】
上記の粉末材料23の敷設とレーザ光Lの照射とを繰り返し、造形部11で溶融結合体41を順次に積層することで、3次元形状データに応じた形状の造形物が得られる。
【0030】
<スリット部における粉末材料の流動性>
上記構成の粉末造形装置100を用いた造形物の積層造形工程には、リコータに収容された粉末材料を、ハウジングの上面に供給する工程がある。この工程で、リコータのスリット部の形状を変更し、スリット部における粉末材料の流動性(詰まり)を評価した結果を以下に説明する。
【0031】
ここでは、リコータのスリット部の形状パラメータとして、図2に示すスリット傾斜角θと、スリット出口幅dを用いる。そして、スリット高さhと、収容部幅Lcがそれぞれ異なる各種サイズのリコータを模擬したモデル(治具)を用い、形状パラメータ(θ、d)を変化させて、スリット部27を通過する粉末材料の流動性を確認した。ここで、上記治具を取り付ける積層造形装置として、金属粉末積層造形装置(松浦機械製作所製 LUMEX Avance-25)を用いた。
【0032】
図5は使用した粉末材料の粒径の累積度数分布を、粒径を対数軸で示した片対数グラフである。
ここで用いた粉末材料は、材質がSUS 316Lであって、粒子径が45[μm]を超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上であり、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20[μm]以下の粒子の数が全体の15個数%以下の粉末である。また、全体の約90%が粒度10~45[μm]の粉末で構成される。この粉末材料は、水アトマイズ法により製造された粉末である。粉末材料の粒度は、例えば、レーザ回折/散乱式粒度測定器(堀場製作所製 LA-300)等により測定できる。
【0033】
流動性の試験手順は次の通りである。
(1)リコータを模擬して製作した治具を、図2に示すスリット部27のスリット出口面27cからハウジング10の上面までの距離Lsと同等になるように配置する。つまり、ハウジング10の平坦面から距離Lsに対応する15[mm]の高さに治具を配置する。
(2)治具の粉末収容部に粉末材料を供給する。
(3)治具を平坦面上で移動させる。
(4)平坦面上で治具が通過した部分に粉末材料が均一な厚さでムラなく供給できていれば「良」と判定し、供給できていない部分があれば「不可」と判定する。
(5)スリット傾斜角θとスリット出口幅dの各組み合わせについて、上記(1)~(4)の工程を3回ずつ実施して粉末材料の流動性を判定する。3回とも「良」であれば流動性の判定を「○」とし、一回でも「不可」が生じたら「×」とする。
【0034】
図6は治具のスリット傾斜角θと、スリット出口幅dとを変化させて粉末材料の流動性を確認した結果を示すグラフである。このグラフには、スリット傾斜角θとスリット出口幅dとの対応するプロット位置に、流動性の判定結果を「○」又は「×」で示してある。
【0035】
図6には、上記の判定結果の情報から流動性の限界曲線CAを曲線近似と所定の演算により求めた結果を示してある。限界曲線CAは、スリット出口幅dが限界曲線CAの値以上であれば粉末材料の流動性が良好となることを示す。ここで用いた近似式は2次関数であって、d=a×(θ-θ+b(a,b,θは係数)で表される。各係数a,bは、最小自乗法や最急降下法等の公知の近似アルゴリズムを用いた演算により求められる。しかし、曲線近似のみで係数a,b,θを決定すると、場合によっては判定結果「×」となる領域に近似曲線がはみ出すこともある。そこで、求める限界曲線CAは、判定結果「×」である点が近似曲線より上方(スリット出口幅d以上)にならないように、近似した曲線を更にシフトさせている。このシフト処理は、上記の係数bを増減することでもよいが、係数a,b,θの少なくとも2つを共に変更する処理等としてもよい。
【0036】
上記のように係数a,b,θを決定した限界曲線CAは、前述した(1)式で示すスリット出口幅dとスリット傾斜角θとで決定される限界値のラインである。
【0037】
図7図6の横軸と縦軸を延長して示したグラフである。
図7には上記した流動性の限界曲線CAと、スリット形状に起因する限界曲線CLとを示している。限界曲線CLは、前述したスリット高さh、及び収容部幅Lcと、スリット部の幾何学的な形状の制約によって決定される。
【0038】
限界曲線CLは、以下の(3)式により表されるスリット出口幅dとスリット傾斜角θの限界値のラインである。
d+2h/tanθ ≦ Lc ・・・(3)
【0039】
つまり、スリット部27を形成する底板31(図2参照)の下側のスリット出口幅dと、上側のスリット内壁面33,35の縁部33a,35aの離間距離(2h/tanθ)との合計幅を、粉末収容部の幅Lc以下にする。上記の(3)式をdについて纏めると前述の(2)式となる。
【0040】
よって、粉末材料がスリット部で詰まらずに良好な流動性を発揮するリコータの形状は、スリット部27の形状を、限界曲線CAを下限、限界曲線CLを上限とする領域A内で、スリット傾斜角θとスリット出口幅dを決定すればよい。
【0041】
図8はスリット出口幅dとスリット傾斜角θとを変化させて粉末材料の供給性を確認した試験結果を示すグラフである。
流動性の試験手順、及び「○」、「×」の判定基準は、前述した図6の場合と同様である。また、図8には、図6の試験結果と、これにより求めた限界曲線CA,CL、及び領域Aとを合わせて示している。
【0042】
ここでは、領域Aに含まれるスリット出口幅dとスリット傾斜角θとの異なる組み合わせの試験例1、試験例2で試験を行った。
試験例1では、スリット出口幅dを10.18[mm]、スリット傾斜角θを80[°]とし、試験例2では、スリット出口幅dを6.00[mm]、スリット傾斜角θを80[°]とした。また、試験例1,2ともに、スリット高さhを8[mm]、収容部幅Lcを25[mm]とした。
【0043】
上記条件で試験した結果、試験例1(図8に示すE1),試験例2(図8に示すE2)では、流動性の判定結果は共に「○」であった。このように、限界曲線CA,CLを用いて領域Aを決定し、領域Aに含まれるスリット出口幅dとスリット傾斜角θとを選定することで、水アトマイズ法により製造した粉末であっても、粉末供給不良の発生を未然に防止できる。これにより、粉末材料自体の特別な改良(添加物、粒径調整、粒形状調整等)を要することなく、低コストで安定した積層造形が行えるようになる。また、水アトマイズ法は、例えばガスアトマイズ法と比較して低コストで粉末を製造できるため、造形物の材料コストを低減できる。なお、金属粉末積層造形装置(松浦機械製作所製 LUMEX Avance-25)に付属のリコータでは、スリット出口幅dが1~2[mm]程度で、スリット傾斜角θは60[°]程度であり、限界曲線CA,CLで囲まれる領域Aには含まれない。
【0044】
次に、各種のリコータの寸法に応じた限界曲線CLの変化について説明する。
図9はリコータの寸法を異ならせた場合の限界曲線CL1~CL5を示すグラフである。
ここでは、スリット高さhと、収容部幅Lcを、以下の5種類のサイズにして、限界曲線CL1~CL5を上記の(3)式を用いて求めた。
【0045】
CL1: h=8[mm]、 Lc=35[mm]
CL2: h=4[mm]、 Lc=25[mm]
CL3: h=8[mm]、 Lc=25[mm]
CL4: h=12[mm]、Lc=25[mm]
CL5: h=8[mm]、 Lc=15[mm]
【0046】
例えば、リコータのスリット高さhが8[mm]、収容部幅Lcが25[mm]である場合、スリット傾斜角θの限界値は42.5[°]となる。このとき、スリット傾斜角θの採用可能な角度範囲を拡大するには、スリット高さh、収容部幅Lcの値を大きくすればよい。ただし、h、Lcの値は、リコータへの粉末材料の供給過多を生じない範囲で大きくすることが好ましい。
【0047】
以上のように、リコータの寸法を限界曲線CA,CLで定義される領域A内で決定することで、例えば、水アトマイズ法により製造された粉末材料のように流動性が比較的低いものであっても、リコータのノズル部で粉末材料が詰まることがなくなる。
【0048】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0049】
上記の光走査部から照射するレーザ光は、加熱源として用いていたが、粉末材料が光硬化性組成物を含む場合には、例えば、紫外線レーザ等の光硬化性組成物に応じた硬化用の光ビームを使用すればよい。
また、粉末材料の製造には、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法の他、プラズマアトマイズ法、粉砕法、パウダースプレー法等の各種の製法を採用することができる。
【0050】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
[1]造形部に敷設された粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する粉末床溶融方式の積層造形装置に用いられ、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成するリコータであって、
前記粉末材料を収容する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上で前記リコータの移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
を備え、
前記スリット部には、前記移動方向に隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記隙間が狭くなるように相互に傾斜して形成され、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θは、下記(1)、(2)式を満たすリコータ。
d≧0.0024×(θ-75°) +4.5 ・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ ・・・(2)
このリコータによれば、スリット出口幅dとスリット傾斜角θによって定まる粉末材料の流動性を良好に保ちつつ、スリット高さhと収容部幅Lcに応じて形成することが可能なスリット形状となるように、スリット出口幅dとスリット傾斜角θを決定する。これにより、粉末材料がスリット部で詰まることのない、良好な流動性を維持して、円滑な積層造形を行うことが可能となる。
【0051】
[2] 前記粉末材料は、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20[μm]以下の粒子の数が全体の15個数%以下である[1]に記載のリコータ。
このリコータによれば、粉末材料を積層造形に適した流動性を維持できる。
【0052】
[3] 前記一対のスリット内壁面で形成される空間は、先細りしている[1]又は[2]に記載のリコータ。
このリコータによれば、リコータが往復動するいずれの移動方向に対しても、スリットを通過する粉末材料の流動性が良好となる。
【0053】
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載のリコータを備える積層造形装置。
この積層造形装置によれば、供給される粉末材料の製法によらず、常に良好な流動性が得られるスリット部が形成されるため、円滑に積層造形を行うことができる。
【0054】
[5] 造形部に敷設された粉末材料を選択的に溶融接合させて溶融結合体を形成し、該溶融結合体を順次に積層する粉末床溶融方式の積層造形方法であって、
前記粉末材料を貯留する粉末収容部と、
前記粉末収容部に設けられ、前記造形部上での移動方向と交差する方向に延びる部材であって、前記粉末収容部から前記粉末材料を受け入れるスリット入口、及び前記粉末材料を排出するスリット出口が形成されたスリット部と、
を備えるリコータにより、前記造形部上を移動して前記造形部に前記粉末材料の層を形成する工程を有し、
前記スリット部には、隙間を有して互いに対向する一対のスリット内壁面が、前記スリット出口に向かうほど前記移動方向の隙間が狭くなるように相互に傾斜して設けられ、
少なくとも一方の前記スリット内壁面と前記スリット部のスリット出口面とが成す鋭角側の角をスリット傾斜角θ[°]、前記一対のスリット内壁面により形成される前記スリット出口の前記移動方向の幅をスリット出口幅d[mm]、前記スリット出口から前記スリット入口までの最短距離をスリット高さh[mm]、前記粉末収容部の前記スリット部との接続位置における前記移動方向の幅を収容部幅Lc[mm]としたときに、
前記スリット出口幅dと前記スリット傾斜角θは、下記(1)、(2)式を満たす積層造形方法。
d≧0.0024×(θ-75°) +4.5・・・(1)
d≦Lc-2h/tanθ・・・(2)
この積層造形方法によれば、スリット出口幅dとスリット傾斜角θ によって定まる粉末材料の流動性を良好に保ちつつ、スリット高さhと収容部幅Lcに応じて形成することが可能なスリット形状となるように、スリット出口幅dとスリット傾斜角θを決定する。これにより、粉末材料がスリット部で詰まることのない良好な流動性を維持して、円滑な積層造形を行うことが可能となる。
【0055】
[6] 前記粉末材料には、水アトマイズ法により製造された粉末を用いる[5]に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、表面形状がいびつで、流動性の比較的低い水アトマイズ法により製造された粉末材料であっても、スリット部で詰まりが生じることなく、良好な流動性が得られる。
【符号の説明】
【0056】
10 ハウジング
11 造形部
13 パウダーポッド
15 リコータ
17 光走査部
21 ベースプレート
23 粉末材料
25 粉末収容部
27 スリット部
27a スリット出口
27c スリット出口面
29 ブレード
31 底板(部材)
33、35 スリット内壁面
37,39 薄層(層)
41 溶融結合体
100 粉末造形装置
L レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9