(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】高分子アクチュエータ用組成物、高分子アクチュエータ部材の製造方法および高分子アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20221122BHJP
H02N 2/02 20060101ALI20221122BHJP
H01L 41/317 20130101ALI20221122BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
H02N2/02
H01L41/317
H01L41/047
(21)【出願番号】P 2019158169
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】田村 諭
(72)【発明者】
【氏名】平井 利博
(72)【発明者】
【氏名】清野 竜太郎
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059042(JP,A)
【文献】特開2017-031368(JP,A)
【文献】特開2013-225608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
H02N 2/02
H01L 41/317
H01L 41/193
H01L 41/09
H01L 41/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサン組成物と、シアノエチル基含有化合物と、含有することを特徴とする高分子アクチュエータ用組成物
(ただし、オルガノポリシロキサンとシアノエチル基含有化合物とが共有結合している場合を除く)。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン組成物が、付加硬化型オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含む請求項1に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
【請求項3】
前記シアノエチル基含有有機化合物が、シアノエチルサッカロース、シアノエチルプルラン、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルアミロース、シアノエチルスターチ、シアノエチルジヒドロキシプロピルスターチ、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、およびシアノエチルソルビトールからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
【請求項4】
前記シアノエチル基含有有機化合物が、高分子アクチュエータ用組成物の総量に対し、5~60質量%含まれる請求項1~3のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物を所望の形状に成形する工程と、
前記成形された組成物を硬化する工程と、
を含む高分子アクチュエータ部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物の硬化部材と、
前記部材の少なくとも一部表面と接触し、前記部材を挟んで離間して配置された少なくとも2つの電極と、
を備え、前記電極間に電圧を印加することにより前記部材が変形可能に構成されている高分子アクチュエータ。
【請求項7】
前記高分子アクチュエータ用組成物が、付加硬化型オルガノポリシロキサンと、硬化剤と、シアノエチル基含有有機化合物と、を含む請求項6に記載の高分子アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電場を印加することによって変形可能な部材を製造するための高分子アクチュエータ用組成物およびこの組成物を硬化してなる部材を用いた高分子アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを機械エネルギーに変換可能なアクチュエータ用材料は、マイクロロボット等の幅広い分野で必要とされている。高分子材料を利用したソフトアクチュエータは電磁モ-タ-等の駆動装置に代わって、環境やヒトに優しい装置として、人工筋肉への応用も含めて期待されている。高分子アクチュエータは、駆動原理からフッ素系高分子電解質等のイオン伝導性高分子;ポリピロ-ル、ポリチオフェン、ポリアニリンに代表される導電性高分子;カーボンナノチューブ;並びに誘電エラストマーを使用したアクチュエータ等がある。イオン伝導性高分子および導電性高分子等を用いた高分子アクチュエータは、数Vの低電圧で駆動し、フレキシブルで小型化に適しているが、基本的に電解液中または膨潤ないしは膨潤状態で動作する湿式システムである。
【0003】
これに対し、誘電エラストマーを用いたアクチェータは、電圧駆動型で空気中での駆動が可能であり、エネルギー効率が高いなどの特徴があるが、駆動に要する電圧が高い等の欠点を有していた。シリコーンエラストマーを用いた高分子アクチュエータとしては、アクリルフィルムやシリコーンフィルムを延伸させ、表裏に電極を設けた駆動素子の研究報告がある(例えば、非特許文献1参照)。これは、電圧負荷下で電極間に静電引力(マックスウェル応力)を生じて圧縮変形するメカニズムであるが、駆動に要する電圧が高電圧になるという欠点を有していた。低電圧の駆動例としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とイオン液体を複合化して、低電圧駆動を検討した事例がある(例えば、非特許文献2参照)。アノード側とカソード側に電流に依存したイオン分極が誘起され、イオンサイズや電荷密度の非対称性を要因とする駆動である。
【0004】
誘電エラストマーの駆動メカニズムを空間電荷分布により評価した研究材料は少なく、例えば、NBR、アクリルエラストマーの空間電荷とシリコーンエラストマーの空間電荷分布を比較する事により、アクチュエータに適しているエラストマー材料は比較的低い電場下で誘電破壊を引き起こす材料であり、空間電荷の不均一な分布によって引き起こされることが報告されている(非特許文献3参照)。
【0005】
人工筋肉アクチュエータとして期待されている誘電性高分子材料にはポリ塩化ビニルやポリメタクリル酸メチルなどがある。中でも可塑剤を含有させたポリ塩化ビニルゲルは、生体筋肉に類似し、電気刺激によりクリープ変形もしくは屈曲あるいは折り畳み変形を生じる。しかし、一般的にこれらの誘電性高分子を用いたゲルアクチュエータの駆動には数百Vの高電圧の印加が必要であったところ、誘電性高分子としてのポリ塩化ビニルと、可塑剤と、ホスホニウム系カチオンおよびアンモニウム系カチオンから選ばれるイオン液体とを所定の割合で混合したゲルが、低電場で駆動でき、空気中で安定に作動することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hiari,T.,et al.,Chapter12,Dielectric Gels, in Soft Actuators - Materials, Modeling, Applications, and Future Perspectives,pp.169-182,Springer (2014). Hirai,T.,et al.,Chapter 1,Electric Functions of Textile Polymers,in Handbook of Smart Textiles,pp.3-29,Springer(2015)
【文献】井上幸彦、厳虎、奥崎秀典、イオン液体/ポリジメチルシロキサンの電気化学的特性とアクチュエータ挙動、高分子論文集、Vol.68,No.3、122-126(2011)
【文献】Tanaka,T.and Masuya,K.,Peculiar Space Charge Characteristics in Some Elastomers,Proceedings of 2008 International Symposium on Electrical Insulating Materials, September7-11,(2008)
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下において、本発明は、簡便に成形でき、生産効率も高い高分子アクチュエータを作製するための新規な組成物、およびその組成物を成形してなる高分子アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、化学架橋の代表的、且つ、電気的に安定した材料であるオルガノポリシロキサン組成物に、シアノエチル基含有有機化合物を含有させることにより直流電場下で当該材料からなる部材が変位することを確認し本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)オルガノポリシロキサン組成物と、シアノエチル基含有有機化合物と、を含有することを特徴とする高分子アクチュエータ用組成物。
(2)オルガノポリシロキサン組成物が、付加硬化型オルガノポリシロキサンと硬化剤とを含む(1)に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
(3)シアノエチル基含有有機化合物が、シアノエチルサッカロース、シアノエチルプルラン、シアノエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース、シアノエチルアミロス、シアノエチルスターチ、シアノエチルジヒドロキシプロピルスターチ、シアノエチルグリシドールプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルポリヒドロキシメチレン、およびシアノエチルソルビトールからなる群より選択される少なくとも一種である(1)または(2)に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
(4)シアノエチル基含有有機化合物が、高分子アクチュエータ用組成物の総量に対し、5~60質量%含まれる(1)~(3)のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物。
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物を所望の形状に成形する工程と、成形された組成物を硬化する工程と、を含む高分子アクチュエータ部材の製造方法。
(6)(1)~(4)のいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ用組成物の硬化部材と、この部材の少なくとも一部表面と接触し、部材を挟んで離間して配置された少なくとも2つの電極と、を備え、電極間に電圧を印加することにより部材が変形可能に構成されている高分子アクチュエータ。
(7)高分子アクチュエータ用組成物が、付加硬化型オルガノポリシロキサンと、硬化剤と、シアノエチル基含有有機化合物と、を含む(6)に記載の高分子アクチュエータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便に成形でき、生産効率も高い高分子アクチュエータを作製するための新規な組成物、およびその組成物を成形してなる高分子アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における高分子アクチュエータの作動原理を示す。
【
図2】
図2は、実施例で作製した駆動素子を用いた変位測定用実験装置の概略を示す。
【
図3】
図3は、実施例で作製した試料の空間電荷分布評価に用いたPEA装置の概略を示す。
【
図4】
図4は、実施例で作製した駆動素子の変位量および誘電率のCR-U濃度依存性を調べた結果を示す。
【
図5】
図5は、42.9質量%のCR-Uを導入した試料(#407ST)を用いて作成した駆動素子変位量の負荷電圧依存性を示す。
【
図6】
図6は、各種CR-U濃度の試料について、-3KV/mm下の試料全体の空間電荷分布を示す。
【
図7】
図7は、
図6の陽極付近における電極/試料界面付近の空間電荷分布状態を示す。
【
図8】
図8は、
図7で示したヘテロ電荷蓄積ピ-ク値と変位量について、負荷電圧との関係を示す。
【
図9】
図9は、CR-U濃度と変位量、空間電荷分布のヘテロ電荷蓄積のピ-ク値との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に本発明の一実施形態における高分子アクチュエータの動作原理を、
図1を参照して説明し、続いて、この高分子アクチュエータを構成する部材を製造するための組成物および当該部材を用いて構成される高分子アクチュエータについて説明する。なお、以下に説明する動作原理は、本発明者らの推定メカニズムであって、本発明は何らこのメカニズムに拘束されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態における高分子アクチュエータの作動原理を示す。
図1に示す高分子アクチュエータ1は、アクチュエータ部材10とその表面11、12に配設された電極(図示せず)から構成されている。アクチュエータ部材10は、電圧を印加すると陰極方向に変位(屈曲)する。
図1中における陽極/部材界面11付近の空間電荷の分布状態は、模式図に示すように、陽極と部材との界面11に正の電荷が蓄積し、その近傍の部材内部13に負のヘテロ電荷が蓄積している。この界面近傍部材内部13に蓄積された負電荷の反発により陽極側部材表面が伸びて陰極側に変位したものと考えられる。本明細書において、「ヘテロ電荷」とは、電極の近傍に存在する当該電極と逆極性の電荷のことをいう。ヘテロ電荷の原因としては、電界を与えたとき、双極子をもつ分子が回転し、配向分極することや不純物イオンが移動することが考えられる。いかなる理論にも拘束されないが、アクチュエータ部材10は、電場下で双極子が配向し、結合の回転等が誘導され、高分子のコンフォメーションの変化が誘起され、高分子間の距離が変化し変形すると推測される。
【0015】
<高分子アクチュエータ用組成物>
本発明の一実施形態に係る高分子アクチュエータ用組成物は、オルガノポリシロキサン組成物と、シアノエチル基含有有機化合物とを含有する。以下、ベースポリマーであるオルガノポリシロキサン組成物、および空間電荷の非対称性をもたらすシアノエチル基含有化合物について詳細に説明する。
【0016】
(オルガノポリシロキサン組成物)
オルガノポリシロキサン組成物は、オルガノポリシロキサンを主成分(ベースポリマー)とするものであるが、その硬化方式は特に制限されず、例えば、従来公知の縮合硬化型、付加硬化型、有機過酸化物による硬化型、放射線硬化型等が挙げられる。特に、付加硬化型が好ましい。以下、本実施形態にて好適に使用可能なオルガノポリシロキサン組成物について詳細に説明する。
【0017】
(1)付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物
ベースポリマーとしてのオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で示されるものが好ましい。
【0018】
RaSiO(4-a)/2 (1)
ここで、Rは、同一または異種の置換または非置換の好ましくは炭素数1~12、特に1~10の1価炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルブチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、ヘキセニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジフェニル基等のアリ-ル基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換した基、更にはアミノ基、エ-テル基(-O-)、カルボニル基(-CO-)、カルボキシル基(-COOH)、スルフォニル基(-SO2-)等で置換したまたは含有する基、例えばクロロメチル基、トリフロロプロピル基、2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基等が挙げられ、メチル基、ビニル基、フェニル基、トリフロロプロピル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。中でも、Rの80モル%以上、特に90モル%以上がメチル基であることが好ましい。aは1.90~2.05である。
【0019】
この場合、オルガノポリシロキサンとしては、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基、好ましくはビニル基を有するオルガノポリシロキサンが用いられる。アルケニル基は、分子鎖末端でも分子鎖中に有していてもよい。
【0020】
架橋剤としては、1分子中にSiH基を少なくとも2個、特に3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、公知のものを使用することができ、例えば下記平均組成式(2):
【0021】
R’bHcSiO(4-b-c)/4 (2)
(式中、R’は、上記Rと同様の炭素数1~12、特に1~10の置換もしくは非置換の1価炭化水素基を示すが、脂肪族不飽和結合を有さないものが好ましい。bは0≦b<3、特に0.7≦b≦2.1、cは0<c≦3、特に0.002≦c≦1、b+cは0<b+c≦3、特に0.8≦b+c≦3の正数である。)で示されるものが挙げられる。その使用量は、主成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基1モル当たりSiH基が0.3~10モル、特に0.5~5モルとすることが好ましい。
【0022】
付加反応触媒としては公知のものでよく、第VIII族の金属またはその化合物、特には白金化合物が好適に用いられる。この白金化合物としては、塩化白金酸、白金とオレフィン等との錯体等を挙げることができる。付加反応触媒の添加量は、ベースポリマーのオルガノポリシロキサンに対して、第VIII族の金属として、0.1~2000ppm、特に1~500ppmである。
【0023】
(2)縮合反応型のオルガノポリシロキサン組成物
オルガノポリシロキサン組成物が縮合硬化型の場合には、ベースポリマーは分子鎖両末端が水酸基または炭素数1~4のアルコキシ基等のオルガノオキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0024】
この縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤としては、加水分解性の基を1分子中に2個以上有するシランあるいはシロキサン化合物が好ましい。この場合、上記加水分解性の基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基等のアミノ基、N-メチルアセトアミド基等のアミド基等が挙げられる。なお、この架橋剤の配合量は、上記両末端水酸基(またはオルガノオキシ基)封鎖オルガノポリシロキサン100質量部に対し、2~50質量部、特に5~20質量部とすることが好ましい。
【0025】
縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、通常、硬化触媒が使用される。硬化触媒としては、ジブチル錫ジアセテト、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート等のアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコ-ル等のチタン酸エステルまたはチタンキレート化合物、ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエ-ト、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、アルコキシアルミニウム化合物等の有機金属化合物、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン、ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物及びその塩、ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩、ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシランまたはシロキサン等が例示されるが、これらはその1種に限定されず、2種以上の混合物として使用してもよい。なお、これら硬化触媒の配合量は、上記オルガノポリシロキサン100質量部に対して0~10質量部、特に0.01~5質量部が好ましい。
【0026】
(3)その他硬化型のオルガノポリシロキサン組成物
オルガノポリシロキサン組成物が、有機過酸化物による硬化型シリコーンゴム組成物である場合、ベースポリマーとして使用されるオルガノポリシロキサンとしては、ガム状のものが好ましく、分子鎖末端及び/または分子鎖中にビニル基等のアルケニル基を少なくとも2個有するものが好ましい。
【0027】
硬化触媒としては、有機過酸化物が使用される。有機過酸化物の例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等のアルキル系有機過酸化物、ベンゾイルパ-オキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパ-オキサイド等のアシル系有機過酸化物が好適な化合物として用いられる。その配合量は、ベースポリマーのオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~10質量部、特に0.2~5質量部が好ましい。
【0028】
オルガノポリシロキサン組成物が、放射線硬化型シリコーンゴム組成物である場合、ベースポリマーとして使用されるオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖末端及び/または分子鎖中にビニル基、アリル基、アルケニルオキシ基、アクリル基、メタクリル基等の脂肪族不飽和基、メルカプト基、エポキシ基、ヒドロシリル基等を2個以上有するものが用いられる。
【0029】
また、反応開始剤としては、公知のアセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサント-ル、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、4-メチルアセトフェノン、3-ペンチルアセトフェノン、4-メトキシアセトフェノン、3-ブロモアセトフェノン、4-アリルアセトフェノン、p-ジアセチルベンゼン、3-メトキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4-クロロ-4’-ベンジルベンゾフェノン、3-クロロキサント-ル、3,9ジクロロキサント-ル、3-クロロ-8-ノニルキサントール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエ-テル、ベンゾインブチルエ-テル、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2-クロロチオキサントール等が挙げられる。その配合量は、ベースポリマーのオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部、特に0.5~10質量部であることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態中のオルガノポリシロキサン組成物には、添加剤として、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、酸化アンチモン、塩化パラフィン等の難燃剤などを配合することができる。更に、チクソ性向上剤としてのポリエ-テル、防かび剤、抗菌剤、接着助剤としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-2-(アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類等が挙げられる。
【0031】
本実施形態中のオルガノポリシロキサン組成物は、上記各成分、更にはこれに充填剤および上記各種添加剤を、乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。なお、本実施形態のオルガノポリシロキサン組成物の硬化条件については、その硬化型に応じた常法が採用される。
【0032】
このようなオルガノポリシロキサン組成物の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKE-1800T-A/B、KE-1031-A/B、KE-103、KE-1051J-A/B、KE-1012-A/B、KE-106、KE-1282-A/B、KE-1283-A/B等、東レ・ダウコーニング株式会社製のSILPOT184、東芝シリコーン株式会社製の商品YSR-3022、TPR-6700、TPR-6720、TPR-6721等が挙げられる。
【0033】
(シアノエチル基含有有機化合物)
本実施形態の高分子アクチュエータ用組成物に含まれる、「シアノエチル基含有有機化合物」としては、分子内にシアノエチル基を有する化合物であれば特に限定されないが、シアノエチル基を含有する有機ポリマーまたは有機オリゴマーを用いることが好ましい。シアノエチル基含有有機化合物は、極性の大きなシアノエチル基を分子内に有するため、これを電界中におくと大きな双極子モーメントを形成し、高い誘電率を示す。典型的には、水酸基を有する有機化合物にアクリロニトリルを反応させることにより合成される。
【0034】
シアノエチル基含有有機化合物は、比誘電率が10以上の有機誘電材料であることが好ましい。具体的には、例えば、シアノエチルサッカロース(シアノエチルスクロース、比誘電率24)、シアノエチルプルラン(比誘電率18)、シアノエチルセルロース(比誘電率16)、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース(比誘電率18)、シアノエチルヒドロキシプロピルセルロース(比誘電率14)、シアノエチルアミロース(比誘電率17)、シアノエチルスターチ(比誘電率17)、シアノエチルジヒドロキシプロピルスターチ(比誘電率18)、シアノエチルグリシドールプルラン(比誘電率20)、シアノエチルポリビニルアルコール(比誘電率20)、シアノエチルポリヒドロキシメチレン(比誘電率10)、シアノエチルソルビトール(比誘電率40)等のシアノエチル基含有高分子を挙げることができる。なお、本発明の目的に反しない限り、これら以外の比誘電率が10以上の有機電気絶縁材料であってもかまわない。
【0035】
シアノエチル基含有有機化合物は、本発明に係る高分子アクチュエータ用組成物の総量に対し、5~60質量%含まれることが好ましく、25~45質量%含まれていることがより好ましい。シアノエチル基含有有機化合物の含有量が5質量%以上では、アクチェータとしての変位向上の効果が高く、60質量%以下では、アクチュエータ部材の安定性が高くなるからである。これらのシアノエチル基含有有機化合物は、例えば、製品名:シアノレジン(登録商標)として信越化学工業株式会社から販売されている。
【0036】
<高分子アクチュエータ部材およびそれを用いた高分子アクチュエータ>
本発明の他の実施形態に係る高分子アクチュエータ部材は、上記組成物を所望の形状に成形し、この成形された組成物を硬化することにより製造することができる。成形方法は、成形型を用いる方法や、厚さの小さいものではスペーサーを有する離型処理したフィルム間に高分子アクチュエータ用組成物を挟んで所望の厚さに間隙を制御したニップロールを通す方法を用いることができる。上記組成物の硬化条件としては、温度70~200℃、好ましくは80~160℃で15分~24時間が望ましい。上記組成物の硬化温度が70℃以上では高分子アクチュエータ部材の硬化性が高く、200℃以下では副生成物の生成を低減することができる。また、上記組成物の硬化時間が15分以上では高分子アクチュエータ部材の硬化性が十分であり、24時間以下では高分子アクチュエータ部材の劣化を低減することができる。
【0037】
このようにして得られた高分子アクチュエータ部材の形状は、薄膜、フィルム、シートであってよく、厚さは0.01~1.2mm、好ましくは0.05~1.0mmであることが望ましい。上記部材の厚さが0.01mm以上では部材内の欠陥に起因する絶縁破壊が起こりにくく、1.2mm以下では印加される電界強度が高くなり、アクチュエータが駆動しやすくなるからである。
【0038】
上記部材の両面に、電極を形成することにより、高分子アクチュエータを作製することができる。上記電極の材質としては、例えば、金、白金、アルミニウム、銀、銅などの金属、カーボン、カーボンナノチューブまたは、それらを樹脂に分散した導電性樹脂や導電性エラストマーも用いることができる。電極を形成する方法としては、例えば、プラズマCVD法、イオンスパッタ被覆法、真空蒸着法、スクリーン印刷などを使用することができる。
【0039】
本発明の高分子アクチュエータは、前述のような産業用や介護用のロボット、医療機器などアクチュエータとしての用途に用いられるだけでなく、その変形から電圧変化を検知するセンサとしても用いることができる。
【0040】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に制約されるものではない。
【実施例】
【0041】
[試料作製]
1.材料
(1)主材料
付加反応型シリコーンエラストマー(DV-PDMS/PMHS)として、信越化学工業株式会社製KE106/CAT-RGおよび東レ・ダウコーニング株式会社製SILPOT184/CAT184を用いた。以下、これらを総称してPDMSと称する。
【0042】
(2)シアノサッカロース:信越化学工業株式会社製CR-U(シアノレジン)をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し50%溶液を予め調製した。尚、混合、溶解は自転公転ミキサーを使用し、2000rpm×1時間の条件下により混合溶解して調製した。
【0043】
2.混合攪拌
上記PDMSとシアノサッカロースを所定重量で調製し、シンキー自転公転ミキサー大気圧タイプ:ARE-310を用いて、2000rpm×2分の条件により混合攪拌した。
【0044】
3.成膜
上記材料を4面式フィルムアプリケーター(オールグッド製)にて、ガラス板上に125μmPETフィルムをセットし、PETの艶面上に150~250μmになるよう成膜し、150℃×30分の硬化条件により硬化合成した。尚、キャスト面(PET艶面)を、空間電荷分布測定および誘電率測定においては下部電極側に接触させた。また、変位測定時にはマイナス側(
図1の部材表面12)をPET艶面とした。
【0045】
[駆動実験(変位測定)]
1.駆動用実験用サンプル
上記硬化合成した幅5mm、長さ20mmのサンプル部材表裏に幅4mm、厚さ0.1μm金箔(Au箔:カタニ産業株式会社製、一号色109mm裁切)を貼り、駆動用素子を作製した。
【0046】
2.駆動実験用高電圧電源装置
仕様:出力電圧30~800V(矩形波出力)
出力電流:5mA
間欠出力機能:0.2~15Hz
【0047】
3.変位測定
図2は、上記で作製した駆動素子を用いた変位測定実験用ケルビンクリップセットの状態を示す。駆動用サンプル部材30の両側に貼り付けた金箔31からなる駆動素子を、銅箔32を介してケルビンクリップ33で挟み(片持ち梁状態でクリップからサンプル先端迄12mm設定)DC電源34を用いて電圧を印加し、0.2Hz(ON/OFF)負荷条件下の変位量を顕微鏡500倍率で上部から観察し、マイクロルーラ(ケニス株式会社MR-2:50μ)を隣接させた。また、変位測定は動画を撮影し、ディスクトップ上でピクセル定規により変位量を測定した。
【0048】
[空間電荷分布評価]
ファイブラボ株式会社製のパルス静電応力(PEA:Pulsed Electroacoustic)法による空間電荷測定装置により測定した。
図3に本測定評価に用いたPEA装置の概略を示す。PEA法では試料42を接地電極43と電圧印加電極41との間に挟み込み、電極間にバイアス直流電圧を印加し、さらに高電圧パルスを重畳することにより絶縁体中の蓄積電荷がマクスウエル応力により圧縮される。そのときに試料内部の電界が大きくなり、弾性波が発生し試料内部を伝達し、その信号45を圧電素子44が受け、電圧信号に変換し、オシロスコープで観測する原理である。測定はAuto機能を使用し、パルス条件200V×400Hz下でバイアスをプラスからマイナスに変化させ、3分間の測定値を用いた。
【0049】
[誘電率の評価]
Solartron社製インピーダンスアナライザーSI1260、1296により測定した。なお、測定に使用した電極はφ20mmを用いた。また、誘電率は周波数に依存するが、高周波領域の値は本測定が駆動アクチュエータを目標としているため低周波領域0.1Hzの誘電率を採用した。
【0050】
【0051】
なお、表1の配合表に示した各成分の数値は重量(g)であり、試料番号#405STと#405AT中のCR-U濃度は、17.8 質量%であり、#406STと#406AT中のCR-U濃度は、26.2質量%であり、#407STと#407AT中のCR-U濃度は、42.9質量%である。
【0052】
[結果と考察]
1.シアノエチルサッカロース(CR-U)
本実施例において用いた信越化学工業株式会社製CR-Uは可塑剤系の比誘電率が25(20℃)のシアノエチルサッカロースである。-CN基の配向により高い誘電性能を保有しており、従来からフィルムコンデンサー用材料、液晶材料等に使用されている高誘電材料である。本実施例では、シアノエチルサッカロースとPDMSを合成した材料に関するアクチュエータ性能を、電気化学的挙動に基づいて調べた。なお、本実施例においてCR-Uを溶解する溶剤として1-メチル-2-ピロリドン、アセトン、THFの3種類の溶剤を試みたが1-メチル-2-ピロリドンは付加型硬化への触媒毒により硬化が不安定であり除外した。結果的に溶解度が高いTHFを選択した。
【0053】
図4に、実施例で作製した駆動素子の変位量および誘電率のCRーU濃度依存性を示す。変位量はCRーU濃度が20%以内では顕著な変位が認められないが、25%を超える領域からマイナス方向(図中の矢印方向)への変位が顕著に認められ、CRーU濃度の増加と共に増加傾向を示し、誘電率も増加した。
【0054】
一般にマクスウェル応力σは
ρ=ε0εγE2=(V/t)2
で表され、電場E、高分子誘電率εγと真空誘電率ε0、の関数であり、負荷電圧V、膜厚tを示される関数でもある。負荷電圧、誘電率の増加と共に変位量が増加していることを証明している。
【0055】
図5に、43質量%のCRーUを導入した試料(#407)を用いて作成した駆動素子変位量の負荷電圧依存性を示す。負荷電圧の増加と共に変位量は増加し、4KV/mm下ではBlankに比較して45倍の475μmを観測した。また、東レ製SILPOT184の方が信越化学工業株式会社製KE106に比較して大きく変位することが分かった。
【0056】
図6に、各種CRーU濃度の試料について、-3KV/mm下の試料全体の空間電荷分布を示し、
図7は、
図6の陽極付近における電極/試料界面付近の空間電荷分布状態を示す。陽極電極/試料界面はホモ電荷蓄積が認められるが、陽極近傍の試料内部は逆電荷であるヘテロ電荷蓄積(
図7破線部分)が認められる。陰極/試料界面はホモ電荷蓄積が観測された。
【0057】
図8に、
図7で示したヘテロ電荷蓄積ピーク値と変位量について、負荷電圧との関係を示す。ヘテロ電荷ピーク値は負荷電圧の増加と共に、徐々に増加傾向にあり、変位量は急激に増加する。なお、陽極/試料界面近傍のヘテロ電荷蓄積はマイナス値のため、増加の傾きは右肩下がりになる。
【0058】
図9は、CR-U濃度と変位量、空間電荷分布のヘテロ電荷蓄積のピーク値との関係を示す。CR-U濃度の増加と共に変位量とピーク値は増加することが明確であり、試料内のヘテロ電荷蓄積量と変位は完全に相関があることが認められた。これらの結果より、極性基である-CN基を保有した極性分子が電場下で分極し、電荷の偏りが発生し変位したものと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 高分子アクチュエータ
10 アクチュエータ部材
11 陽極/部材界面
12 キャスト面(PET艶面)
13 界面近傍部材内部
20 陰極
21 陽極
23 極性分子
30 駆動用サンプル部材
31 金箔
32 銅箔
33 ベーク板
34 DC電源
41 電圧印加電極
42 試料
43 接地電極
44 圧電素子
45 信号