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特許7181181抗HER3抗体-薬物コンジュゲート投与によるEGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】抗HER3抗体-薬物コンジュゲート投与によるEGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20221122BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221122BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221122BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K31/4745
A61K31/506
A61K31/517
A61K31/5377
A61K39/395 T
A61P11/00
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019503002
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007152
(87)【国際公開番号】W WO2018159582
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017035919
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017199883
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米阪 仁雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 賢志
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503784(JP,A)
【文献】米阪仁雄,非小細胞肺癌における抗HER3抗体patritumabによるEGFR阻害剤耐性の克服について,肺癌,2015年,第55巻,第948-955頁,第949頁左欄第1段落、第951頁左欄第2段落
【文献】JANNE, P et al.,Phase 1 study of the anti-HER3 antibody drug conjugate U3-1402 in metastatic or unresectable EGFR-mu,Journal of Thoracic Oncology,2017年11月,Vol.12, No.11, Supp. Supplement 2,pp.S2290, Abstract No.:P3.04-013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/68
A61K 31/4745
A61K 31/506
A61K 31/517
A61K 31/5377
A61K 39/395
A61P 11/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤であって、
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【化1】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートであり、抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、前記治療剤
【請求項2】
非小細胞肺癌がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項4】
EGFR-TKIが、オシメルチニブである、請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項5】
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブである、請求項2に記載の治療剤。
【請求項6】
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである、請求項2に記載の治療剤。
【請求項7】
非小細胞肺癌がHER3を発現している、請求項1~6のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項8】
抗HER3抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、請求項1~7のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項9】
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項10】
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項11】
第二の薬剤と併用して投与されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項12】
第二の薬剤がゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、請求項11に記載の治療剤。
【請求項13】
第二の薬剤がエルロチニブである、請求項12に記載の治療剤。
【請求項14】
第二の薬剤がオシメルチニブである、請求項12に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とする、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に有効なEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)を使用する治療では、多くの場合、治療を継続するうちに治療対象癌における当該阻害薬に対する薬剤抵抗性が増強され、結果的に病勢が進行する。第一世代のEGFR-TKIであるゲフィチニブ(Gefitinib)及びエルロチニブ(Erlotinib)、並びに第二世代のEGFR-TKIであるアファチニブ(Afatinib)に抵抗性の癌のうち、約半数がEGFR遺伝子上にT790M変異を有することが知られている。EGFR T790M変異が陽性であることが確認された非小細胞肺癌に有効な薬剤として第三世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブ(Osimertinib)が知られている(非特許文献1)。しかし、オシメルチニブに抵抗性の非小細胞肺癌に対して至適な薬剤は未だに承認されていない。また、EGFR-TKIに抵抗性を示しEGFR T790M変異が陰性であることが確認された非小細胞肺癌に対して至適な薬剤も未だに承認されていない。
【0003】
ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3, ErbB3としても知られる)は、受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する、膜貫通受容体である。癌細胞におけるHER3の発現量の増加はEGFR-TKIに対する抵抗性の獲得と関連性があることが知られている(非特許文献2)。また非小細胞肺癌に対する抗HER3抗体の効果を検証する研究が行われている(非特許文献3)。
【0004】
癌細胞表面に発現し、かつ細胞に内在化できる抗原に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体-薬物コンジュゲート(Antibody-Drug Conjugate; ADC)は、癌細胞に選択的に薬物を送達できることによって、癌細胞内に薬物を蓄積させ、癌細胞を死滅させることが期待できる(非特許文献4~8)。
【0005】
抗体-薬物コンジュゲートの一つとして、抗HER3抗体とトポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカンを構成要素とする抗体-薬物コンジュゲートが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/155998号
【非特許文献】
【0007】
【文献】I. Sullivan et al. Ther Adv Respir Dis 2016, Vol. 10(6) 549-565.
【文献】N.V. Sergina et al. Nature 2007 January 25; 445(7126): 437-441.
【文献】K Yonesaka et al., Oncogene (2016) 35, 878-886.
【文献】Ducry, L., et al., Bioconjugate Chem. (2010) 21, 5-13.
【文献】Alley, S. C., et al., Current Opinion in Chemical Biology (2010) 14, 529-537.
【文献】Damle N. K. Expert Opin. Biol. Ther. (2004) 4, 1445-1452.
【文献】Senter P. D., et al., Nature Biotechnology (2012) 30, 631-637.
【文献】Howard A. et al., J Clin Oncol 29: 398-405.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤及び治療方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌に対し、優れた抗腫瘍効果を示すことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを有効成分として含有する、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤。
【0011】
[2]
非小細胞肺癌がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である、[1]に記載の治療剤。
【0012】
[3]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[1]又は[2]に記載の治療剤。
【0013】
[4]
EGFR-TKIが、オシメルチニブである、[1]又は[2]に記載の治療剤。
【0014】
[5]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブである、[2]に記載の治療剤。
【0015】
[6]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである、[2]に記載の治療剤。
【0016】
[7]
非小細胞肺癌がHER3を発現している、[1]~[6]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0017】
[8]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0018】
【化1】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[1]~[7]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0019】
[9]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0020】
[10]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0021】
[11]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0022】
[12]
抗HER3抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[11]に記載の治療剤。
【0023】
[13]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[1]~[12]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0024】
[14]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[1]~[12]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0025】
[15]
第二の薬剤と併用して投与されることを特徴とする、[1]~[14]のいずれか一項に記載の治療剤。
【0026】
[16]
第二の薬剤がゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[15]に記載の治療剤。
【0027】
[17]
第二の薬剤がエルロチニブである、[16]に記載の治療剤。
【0028】
[18]
第二の薬剤がオシメルチニブである、[16]に記載の治療剤。
【0029】
[19]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とする、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療方法。
【0030】
[20]
非小細胞肺癌がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である、[19]に記載の治療方法。
【0031】
[21]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[19]又は[20]に記載の治療方法。
【0032】
[22]
EGFR-TKIが、オシメルチニブである、[19]又は[20]に記載の治療方法。
【0033】
[23]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブである、[20]に記載の治療方法。
【0034】
[24]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである、[20]に記載の治療方法。
【0035】
[25]
非小細胞肺癌がHER3を発現している、[19]~[24]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0036】
[26]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0037】
【化2】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[19]~[25]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0038】
[27]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[19]~[26]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0039】
[28]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[19]~[26]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0040】
[29]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[19]~[26]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0041】
[30]
抗HER3抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[29]に記載の治療方法。
【0042】
[31]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[19]~[30]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0043】
[32]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[19]~[30]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0044】
[33]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、第二の薬剤と併用して投与されることを特徴とする、[19]~[32]のいずれか一項に記載の治療方法。
【0045】
[34]
第二の薬剤がゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[33]に記載の治療方法。
【0046】
[35]
第二の薬剤がエルロチニブである、[34]に記載の治療方法。
【0047】
[36]
第二の薬剤がオシメルチニブである、[34]に記載の治療方法。
【0048】
[37]
EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療のための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0049】
[38]
非小細胞肺癌がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である、[37]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0050】
[39]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[37]又は[38]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0051】
[40]
EGFR-TKIが、オシメルチニブである、[37]又は[38]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0052】
[41]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブである、[38]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0053】
[42]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである、[38]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0054】
[43]
非小細胞肺癌がHER3を発現している、[37]~[42]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0055】
[44]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0056】
【化3】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[37]~[43]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0057】
[45]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[37]~[44]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0058】
[46]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[37]~[44]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0059】
[47]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[37]~[44]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0060】
[48]
抗HER3抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[47]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0061】
[49]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[37]~[48]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0062】
[50]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[37]~[48]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0063】
[51]
第二の薬剤と併用して投与されることを特徴とする、[37]~[50]のいずれか一項に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0064】
[52]
第二の薬剤がゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[51]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0065】
[53]
第二の薬剤がエルロチニブである、[52]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0066】
[54]
第二の薬剤がオシメルチニブである、[52]に記載の抗HER3抗体-薬物コンジュゲート。
【0067】
[55]
EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療用の医薬を製造するための、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの使用。
【0068】
[56]
非小細胞肺癌がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である、[55]に記載の使用。
【0069】
[57]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[55]又は[56]に記載の使用。
【0070】
[58]
EGFR-TKIが、オシメルチニブである、[55]又は[56]に記載の使用。
【0071】
[59]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブである、[56]に記載の使用。
【0072】
[60]
EGFR-TKIが、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである、[56]に記載の使用。
【0073】
[61]
非小細胞肺癌がHER3を発現している、[55]~[60]のいずれか一項に記載の使用。
【0074】
[62]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、式
【0075】
【化4】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである、[55]~[61]のいずれか一項に記載の使用。
【0076】
[63]
抗HER3抗体が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体である、[55]~[62]のいずれか一項に記載の使用。
【0077】
[64]
抗HER3抗体が、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体である、[55]~[62]のいずれか一項に記載の使用。
【0078】
[65]
抗HER3抗体が、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖、を含む抗体である、[55]~[62]のいずれか一項に記載の使用。
【0079】
[66]
抗HER3抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している、[65]に記載の使用。
【0080】
[67]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7から8個の範囲である、[55]~[66]のいずれか一項に記載の使用。
【0081】
[68]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数が7.5から8個の範囲である、[55]~[66]のいずれか一項に記載の使用。
【0082】
[69]
抗HER3抗体-薬物コンジュゲートが、第二の薬剤と併用して投与されることを特徴とする、[55]~[68]のいずれか一項に記載の使用。
【0083】
[70]
第二の薬剤がゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブである、[69]に記載の使用。
【0084】
[71]
第二の薬剤がエルロチニブである、[70]に記載の使用。
【0085】
[72]
第二の薬剤がオシメルチニブである、[70]に記載の使用。
に関する。
【発明の効果】
【0086】
本発明により、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とする、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤及び治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】抗HER3抗体(1)の重鎖アミノ酸配列を示す図である。
図2】抗HER3抗体(1)の軽鎖アミノ酸配列を示す図である。
図3】HER3-ADC(1)の、HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株に対する細胞増殖抑制活性を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(n=6)を示す。
図4】HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株におけるHER3のmRNA量を示す図である。
図5】HER3-ADC(1)単剤、エルロチニブ単剤、又はHER3-ADC(1)とエルロチニブの併用による、HCC827GR5細胞株に対する細胞増殖抑制活性を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(n=6)を示す。
図6】HER3-ADC(1)単剤、エルロチニブ単剤、又はHER3-ADC(1)とエルロチニブの併用治療による、ヌードマウス移植HCC827GR5細胞株に対する抗腫瘍効果を示す図である。図中のエラーバーは標準偏差(n=10)を示す。
図7】PC9細胞株及びPC9AZDR7細胞株に対するオシメルチニブの細胞増殖抑制活性を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(n=6)を示す。
図8】PC9細胞株及びPC9AZDR7細胞株におけるHER3の蛋白質量を示す図である。図中のエラーバーは標準偏差(n=3)を示す。
図9】ヌードマウス移植PC9細胞株に対するHER3-ADC(1)単剤での抗腫瘍効果を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(コントロール群n=8、HER3-ADC(1)群n=9)を示し、矢印は薬剤の投与を示す。
図10】ヌードマウス移植PC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)単剤での抗腫瘍効果を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(コントロール群n=8、HER3-ADC(1)群n=9)を示し、矢印は薬剤の投与を示す。
図11】ヌードマウス移植PC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)とオシメルチニブ併用での抗腫瘍効果を示す図である。図中のエラーバーは標準誤差(コントロール群n=11、HER3-ADC(1)単剤群n=12、オシメルチニブ単剤群n=12、HER3-ADC(1)とオシメルチニブとの併用群n=10)を示し、矢印は薬剤の投与を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これによって本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0089】
本発明において、「EGFR-TKI」とは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のことを示し、例えば、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、及びオシメルチニブを挙げることができる。
【0090】
本発明において、ゲフィチニブ及びエルロチニブを第一世代のEGFR-TKI、アファチニブを第二世代のEGFR-TKI、更に、オシメルチニブを第三世代のEGFR-TKIと呼ぶこともある。
【0091】
本発明において、「EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌」とは、EGFR-TKIに抵抗性を示すことが確認された非小細胞肺癌、並びにEGFR-TKIに抵抗性を示すことが合理的に認識又は予測できる非小細胞肺癌のことを示す。
【0092】
本発明において、「EGFR T790M変異」とは、EGFRチロシンキナーゼドメインのATP結合部位のゲートキーパー領域に位置する790番目のアミノ酸トレオニンがメチオニンへ変換された変異のことを示す(Pao W, et al., PLoS Med. 2(3):e73, 2005、Kobayashi S, et al., N Engl J Med. 352(8):786-792, 2005)。EGFR T790M変異の有無は、非小細胞肺癌の患者から組織検体又は血漿検体を採取し、リアルタイムPCR法等の方法により確認することができる。
【0093】
本発明において、「EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺癌」とは、EGFR T790M変異が陽性であることが確認された非小細胞肺癌、並びにEGFR T790M変異が陽性であることが合理的に認識又は予測できる非小細胞肺癌のことを示す。
【0094】
EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺癌は、EGFRのATP結合部位の立体構造に変化が生じ、立体障害などの機序で、第一世代のEGFR-TKI及び第二世代のEGFR-TKIに対して抵抗性を示すと考えられており、第一世代のEGFR-TKI及び第二世代のEGFR-TKIの抵抗性例の約半数の症例で認められている。EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺癌に有効な薬剤として、第三世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブが知られている。
【0095】
オシメルチニブ抵抗性の非小細胞肺癌に対して至適な薬剤は未だに承認されておらず、アンメット・メディカルニーズが存在する。
【0096】
オシメルチニブ抵抗性の非小細胞肺癌に相当する細胞株として、例えば、PC9AZDR7細胞株を挙げることができる。PC9AZDR7細胞株は、ヒト非小細胞肺癌の細胞株であるPC9を親株とし、オシメルチニブへの抵抗性を獲得した細胞株であり、本願明細書の実施例3-1に記載の方法により、樹立することができる。
【0097】
オシメルチニブ抵抗性の非小細胞肺癌に対する薬剤の抗腫瘍効果は、上記細胞株に対するin vitroでの細胞増殖抑制活性や、ヌードマウスに上記細胞株を移植したモデルでのin vivoでの腫瘍増殖抑制率等を試験することにより、確認することができる。
【0098】
本発明において、「EGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌」とは、EGFR T790M変異が陰性であることが確認された非小細胞肺癌、並びにEGFR T790M変異が陰性であることが合理的に認識又は予測できる非小細胞肺癌のことを示す。
【0099】
EGFR-TKI抵抗性の症例においては、EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺癌以外の症例がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に相当する。このようなEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌は、EGFR T790M変異以外の変異(例えばMET遺伝子の増幅)等により抵抗性を獲得したと考えられているが、未知の抵抗性メカニズムの存在も示唆されている。
【0100】
EGFR-TKIに抵抗性を示すEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に対して至適な薬剤は未だに承認されておらず、アンメット・メディカルニーズが存在する。
【0101】
EGFR-TKIに抵抗性を示すEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に相当する細胞株として、例えば、HCC827GR5細胞株(Engelman JA et al., Science 2007, 316(5827), 1039-1043)を挙げることができる。HCC827GR5細胞株は、ヒト非小細胞肺癌の細胞株であるHCC827を親株とし、EGFR-TKIであるゲフィチニブへの抵抗性を獲得した細胞株である。また、11-18細胞株(Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jul 31;109(31):E2127-33)や、Ma70GR細胞株(K Yonesaka et al., Oncogene (2016) 35, 878-886)も、EGFR-TKIに抵抗性を示すEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に相当する細胞株として使用することができる。
【0102】
EGFR-TKIに抵抗性を示すEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に対する薬剤の抗腫瘍効果は、上記細胞株に対するin vitroでの細胞増殖抑制活性や、ヌードマウスに上記細胞株を移植したモデルでのin vivoでの腫瘍増殖抑制率等を試験することにより、確認することができる。
【0103】
本発明において、「HER3」とは、ヒト上皮増殖因子受容体3(ErbB3と呼ばれることもある)と同義であり、HER1,HER2及びHER4とともに受容体蛋白質チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体サブファミリーに属する、膜貫通受容体である。HER3は乳癌、胃腸癌及び膵臓癌等、いくつかの種類の癌において発現しており、EGFRやHER2等のチロシンキナーゼ受容体等とヘテロ二量体を形成することによって、自身がリン酸化を受け、癌細胞の増殖やアポトーシス抑制シグナルを誘導することが知られている。
【0104】
本発明で用いるHER3蛋白質は、ヒトのHER3発現細胞から直接精製して使用するか、或は、抗原として使用する際には、当該細胞の細胞膜画分をHER3蛋白質として使用することができ、また、HER3をin vitroにて合成する、又は遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、HER3 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、当該ベクターを転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中でインキュベートすることにより、HER3を合成することができる。或は他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を当該ベクターにて形質転換させ、HER3を発現させることによって、該蛋白質を得ることができる。また、前記の遺伝子操作によるHER3発現細胞、又はHER3を発現している細胞株をHER3蛋白質抗原として使用することも可能である。
【0105】
HER3のRNA配列、cDNA配列及びアミノ酸配列は公的データベース上に公開されており、例えばAAA35979(アミノ末端19アミノ酸残基からなるシグナル配列を含む前駆体)、M34309(NCBI)等のアクセッション番号により参照可能である。
【0106】
また、上記HER3のアミノ酸配列において、1乃至10個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、当該蛋白質と同等の生物活性を有する蛋白質もHER3に含まれる。
【0107】
本発明において、「抗HER3抗体」とは、HER3に特異的に結合し、好ましくは、HER3と結合することによってHER3発現細胞に内在化する活性を有する抗体、言い換えれば、HER3と結合した後、HER3発現細胞内に移動する活性を有する抗体を示す。
【0108】
本発明で使用される抗HER3抗体は、公知の手段によって取得することができる。例えば、この分野で通常実施される方法を用いて、抗原となるHER3又はHER3のアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原の由来はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来する抗原を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種抗原に結合する抗体とヒト抗原との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗HER3抗体を選別できる。
【0109】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature (1975) 256, p.495-497;Kennet, R. ed., Monoclonal Antibodies, p.365-367, Plenum Press, N.Y.(1980))に従って、抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによってハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0110】
なお、抗原は抗原蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子操作によって宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、抗原遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現した抗原を精製すればよい。上記の遺伝子操作による抗原発現細胞、又は抗原を発現している細胞株、を動物に免疫する方法を用いることによっても抗体を取得できる。
【0111】
本発明で使用される抗HER3抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体であることが好ましく、又はヒト由来の抗体の遺伝子配列のみを有する抗体、すなわちヒト抗体であることが好ましい。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0112】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, 6851-6855,(1984))。
【0113】
ヒト化抗体としては、異種抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986) 321, p.522-525)、CDR移植法によって、異種抗体のCDRの配列に加えて、異種抗体の一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第90/07861号)、遺伝子変換突然変異誘発(gene conversion mutagenesis)ストラテジーを用いてヒト化した抗体(米国特許第5821337号)を挙げることができる。
【0114】
ヒト抗体としては、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いて作成した抗体(Tomizuka, K. et al., Nature Genetics(1997) 16, p.133-143;Kuroiwa, Y. et. al., Nucl. Acids Res.(1998) 26, p.3447-3448;Yoshida, H. et. al., Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10, p.69-73(Kitagawa, Y., Matsuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers, 1999;Tomizuka, K. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2000) 97, p.722-727等を参照。)を挙げることができる。或いは、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイにより取得した抗体(Wormstone, I. M. et. al, Investigative Ophthalmology & Visual Science. (2002)43 (7), p.2301-2308;Carmen, S. et. al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002), 1(2), p.189-203;Siriwardena, D. et. al., Ophthalmology(2002) 109(3), p.427-431等参照。)も挙げることができる。
【0115】
本発明で使用される抗HER3抗体には、抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明に係る抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖への化学部分の結合を有する化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合型糖鎖の付加、N末端又はC末端のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化等)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによってN末端にメチオニン残基が付加されたもの等が含まれる。また、本発明で使用される抗HER3抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾体の意味に含まれる。この様な本発明で使用される抗HER3抗体の修飾体は、抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
【0116】
また、本発明で使用される抗HER3抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコース化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、国際公開第99/54342号、国際公開第00/61739号、国際公開第02/31140号等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明で使用される抗HER3抗体には当該糖鎖修飾が調節された抗体も含まれる。
【0117】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体では、その重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A, 705: 129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リシンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry, 360: 75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用等)には影響を及ぼさない。したがって、本発明で使用される抗HER3抗体には、当該修飾を受けた抗体及び当該抗体の機能性断片も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2のアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等も包含される。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明で使用される抗HER3抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明で使用される抗HER3抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であってもよいし、いずれか二種を組み合わせたものであってもよい。各欠失体の量比は本発明で使用される抗HER3抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明で使用される抗HER3抗体は、好ましくは、2本の重鎖の双方でカルボキシル末端のひとつのアミノ酸残基が欠失しているものを挙げることができる。
【0118】
本発明で使用される抗HER3抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。また、これらの改変体も本発明にかかる抗HER3抗体として利用することができる。
【0119】
本発明において使用できる抗HER3抗体としては、パトリツマブ(Patritumab, U3-1287)、U1-59(国際公開第2007/077028号)、AV-203(国際公開第2011/136911号)、LJM-716(国際公開第2012/022814号)、Duligotumab(MEHD-7945A)(国際公開第2010/108127号)、Istiratumab(MM-141)(国際公開第2011/047180号)、Lumretuzumab(RG-7116)(国際公開第2014/108484号)、Setibantumab(MM-121)(国際公開第2008/100624号)、REGN-1400(国際公開第2013/048883号)、ZW-9(国際公開第2013/063702)、及びそれらの改変体、活性断片、修飾体等を挙げることができ、好適には、パトリツマブ、及びU1-59を挙げることができる。これらの抗HER3抗体は、上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0120】
本発明において、「抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体に、細胞毒性を有する薬物を、リンカーを介して結合させた複合体のことを示す。抗体-薬物コンジュゲートとしては、例えば、米国特許第6214345号、国際公開第2002/083067号、国際公開第2003/026577号、国際公開第2004/054622号、国際公開第2005/112919号、国際公開第2006/135371号、国際公開第2007112193号、国際公開第2008/033891号、国際公開第2009/100194号、国際公開第2009/134976号、国際公開第2009/134977号、国際公開第2010/093395号、国際公開第2011/130613号、国際公開第2011/130616号、国際公開第2013/055993号、国際公開第2014/057687号、国際公開第2014/061277号、国際公開第2014/107024号、国際公開第2014/134457号、及び国際公開第2014/145090号に記載のものを挙げることができ、好適には、国際公開第2014/057687号、及び国際公開第2014/061277号に記載のものであり、より好適には、国際公開第2014/057687号に記載のものである。これらの抗体-薬物コンジュゲートは上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0121】
細胞毒性を有する薬物としては、抗腫瘍効果を有し、リンカーに結合できる置換基や部分構造を有するものであれば特に制限はないが、例えば、カンプトテシン(Camptothecin)、カリチアマイシン(Calicheamicin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ダウノルビシン(Daunorubicin)、マイトマイシンC(Mitomycin C)、ブレオマイシン(Bleomycin)、シクロシチジン(Cyclocytidine)、ビンクリスチン(Vincristine)、ビンブラスチン(Vinblastine)、メトトレキセート(Methotrexate)、シスプラチン(Cisplatin)、アウリスタチンE(Auristatin E)、メイタンシン(Maytansine)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ピロロベンゾジアゼピン(Pyrrolobenzodiazepine)、及びこれらの誘導体を挙げることができ、好適には、カンプトテシン誘導体を挙げることができ、より好適には、エキサテカン(Exatecan)誘導体を挙げることができる。トポイソメラーゼI阻害剤であるエキサテカン(IUPAC名:(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン、(化学名:((1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-2,3-ジヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13(9H,15H)-ジオン)として表すこともできる))は、次式
【0122】
【化5】
で表される化合物である。
【0123】
本発明において、「薬物リンカー」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける薬物とリンカー部分、言い換えれば、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体以外の部分構造を示す。
【0124】
本発明において、「抗HER3抗体-薬物コンジュゲート」とは、抗体-薬物コンジュゲートにおける抗体が抗HER3抗体である抗体-薬物コンジュゲートを示す。抗HER3抗体-薬物コンジュゲートとしては、例えば、国際公開第2012/019024号、国際公開第2012/064733号、及び国際公開第2015/155998号に記載のものを挙げることができ、好適には、国際公開第2015/155998号に記載のものを挙げることができる。これらの抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、上記文献に記載の方法により製造することができる。
【0125】
本発明においてより好適に使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、式
【0126】
【化6】
(式中、Aは抗HER3抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートである。この薬物リンカーは、抗体の鎖間のジスルフィド結合部位(2箇所の重鎖-重鎖間、及び2箇所の重鎖-軽鎖間)において生じたチオール基(言い換えれば、システイン残基の硫黄原子)に結合している。
【0127】
本発明においてより好適に使用される、上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、次式で示すこともできる。
【0128】
【化7】
【0129】
ここで、薬物リンカーは抗体とチオエーテル結合によって結合している。また、nはいわゆる平均薬物結合数(DAR; Drug-to-Antibody Ratio)と同義であり、1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数を示す。
【0130】
本発明においてより好適に使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、腫瘍細胞内に移行した後にリンカー部分が切断され、式
【0131】
【化8】
で表される化合物を放出する。
【0132】
上記化合物は、本発明においてより好適に使用される、上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗腫瘍活性の本体であると考えられ、トポイソメラーゼI阻害作用を有することが確認されている(Ogitani Y. et al., Clinical Cancer Research, 2016, Oct 15;22(20):5097-5108, Epub 2016 Mar 29)。
【0133】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗HER3抗体部分は、好適には、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるCDRH2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるCDRL2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖、を含む抗体であり、
より好適には、配列番号7で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖、を含む抗体であり、
更により好適には、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗体、又は、前記抗体の重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している抗体である。
【0134】
上記の抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの製造に使用される薬物リンカー中間体は、次式で示される。
【0135】
【化9】
【0136】
上記の薬物リンカー中間体は、N-[6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロール-1-イル)ヘキサノイル]グリシルグリシル-L-フェニルアラニル-N-[(2-{[(1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル]アミノ}-2-オキソエトキシ)メチル]グリシンアミド、という化学名で表すことができ、国際公開第2014/057687号及び国際公開第2015/155998号等の記載を参考に製造することができる。
【0137】
本発明で好適に使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、前述の薬物リンカー中間体と、チオール基(又はスルフヒドリル基とも言う)を有する抗HER3抗体を反応させることによって製造することができる。
【0138】
スルフヒドリル基を有する抗HER3抗体は、当業者周知の方法で得ることができる(Hermanson, G. T, Bioconjugate Techniques, pp.56-136, pp.456-493, Academic Press(1996))。例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)等の還元剤を、抗体内鎖間ジスルフィド1個当たりに対して0.3乃至3モル当量用い、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含む緩衝液中で、抗HER3抗体と反応させることで、抗体内鎖間ジスルフィドが部分的若しくは完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗HER3抗体を得ることができる。
【0139】
さらに、スルフヒドリル基を有する抗HER3抗体1個あたり、2乃至20モル当量の薬物リンカー中間体を使用して、抗体1個当たり2個乃至8個の薬物が結合した抗HER3抗体―薬物コンジュゲートを製造することができる。
【0140】
製造した抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数は、例えば、280nm及び370nmの二波長における抗HER3抗体-薬物コンジュゲートとそのコンジュゲーション前駆体のUV吸光度を測定することにより算出する方法(UV法)や、抗体-薬物コンジュゲートを還元剤で処理し得られた各フラグメントをHPLC測定により定量し算出する方法(HPLC法)により行うことができる。
【0141】
抗HER3抗体と薬物リンカー中間体のコンジュゲーション、及び抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの抗体一分子あたりの平均薬物結合数の算出は、国際公開第2015/155998号等の記載を参考に実施することができる。
【0142】
本発明において使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの1抗体あたりの薬物リンカーの平均結合数は、好適には2から8であり、より好適には3から8であり、更により好適には7から8であり、更により好適には7.5から8であり、更により好適には約8である。
【0143】
本発明の治療剤及び治療方法は、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することを特徴とし、EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌の治療のために使用することができる。前記「非小細胞肺癌」はEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌であっても良いし、EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺癌であっても良い。
【0144】
前記「EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌」における「EGFR-TKI」は、好適には、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブであり、より好適には、オシメルチニブである。また、前記「EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌」における「非小細胞肺癌」がEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌である場合は、前「EGFR-TKI」は、好適には、ゲフィチニブ、エルロチニブ、又はアファチニブであり、より好適には、ゲフィチニブ、又はエルロチニブである。
【0145】
前記「EGFR-TKI抵抗性の非小細胞肺癌」は、好適にはHER3を発現しており、より好適にはHER3を高発現している。HER3の発現は、例えば、免疫組織化学法(IHC)やフローサイトメーター、western blot法等によるHER3の遺伝子産物(蛋白質)レベルでの検出、又は、in situ ハイブリダイゼーション法(ISH)や定量的PCR法(q-PCR)による遺伝子の転写レベルでの検出により確認することができる。HER3が高発現しているか否かは、当業者に周知の方法を用いて判定することができる。
【0146】
本発明の治療剤及び治療方法は、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲート以外の1以上の他の薬剤(例えば、第二の薬剤)を含んでいてもよい。すなわち、本発明の治療剤又は本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートは、他の薬剤と併用して投与することもでき、これによって抗癌効果を増強させることができる。この様な目的で使用される他の薬剤は、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートと同時に、別々に、或は連続して個体に投与されてもよいし、それぞれの投与間隔を変えて投与されてもよい。他の薬剤または第二の薬剤は、好ましくは、癌治療剤である。この様な癌治療剤としては、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば限定されることはないが、例えば、EGFR-TKI、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、パクリタキセル(Paclitaxel)、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、カペシタビン(Capecitabine)、イリノテカン(Irinotecan)(CPT-11)、エトポシド(Etoposide)、シクロフォスファミド(Cyclophosphamide)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、ビンブラスチン(Vinblastin)、及びビンクリスチン(Vincristine)からなる群より選択される少なくとも一つであり、好適には、EGFR-TKIである。
【0147】
上記のEGFR-TKIとしては、好適には、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、又はオシメルチニブであり、より好適には、エルロチニブ、又はオシメルチニブであり、更により好適には、オシメルチニブである。
【0148】
本発明の治療剤及び治療方法は、癌治療の主要な治療法である薬物療法のための薬剤として選択して使用することができ、その結果として、癌細胞の成長を遅らせ、増殖を抑え、さらには癌細胞を破壊することができる。これらの作用によって、癌患者において、癌による症状からの解放や、QOLの改善を達成でき、癌患者の生命を保って治療効果が達成される。癌細胞の破壊には至らない場合であっても、癌細胞の増殖の抑制やコントロールによって癌患者においてより高いQOLを達成しつつより長期の生存を達成させることができる。
【0149】
このような薬物療法においての薬物単独での使用の他、本発明の治療剤及び治療方法は、アジュバント療法において他の療法と組み合わせる薬剤としても使用でき、外科手術や、放射線療法、ホルモン療法等と組み合わせることができる。さらにはネオアジュバント療法における薬物療法の薬剤として使用することもできる。
【0150】
以上のような治療的使用の他、本発明の治療剤及び治療方法は、微細な転移癌細胞の増殖を押さえ、さらには破壊するといった予防効果も期待することができる。例えば、転移過程で体液中にある癌細胞を抑制し破壊する効果や、いずれかの組織に着床した直後の微細な癌細胞に対する抑制、破壊等の効果が期待できる。したがって、特に外科的な癌の除去後においての癌転移の抑制、予防効果が期待できる。
【0151】
本発明の治療剤及び治療方法は、患者に対しては全身療法として適用する他、癌組織に局所的に適用して治療効果を期待することができる。
【0152】
本発明の治療剤及び治療方法は、哺乳動物に対して好適に使用することができるが、より好適にはヒトに対して使用することができる。
【0153】
本発明の治療剤は、1種以上の薬学的に適合性の成分を含む医薬組成物として投与され得る。本発明の医薬組成物において使用される物質としては、投与量や投与濃度において、この分野において通常使用される製剤添加物その他から適宜選択して適用することができる。例えば、上記医薬組成物は、代表的には、1種以上の薬学的キャリア(例えば、滅菌した液体)を含む。ここで液体には、例えば、水及び油(石油、動物起源、植物起源、又は合成起源の油)が含まれる。油は、例えば、ラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であってよい。水は、上記医薬組成物が静脈内投与される場合に、より代表的なキャリアである。食塩水溶液、並びにデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液もまた、液体キャリアとして、特に、注射用溶液のために使用され得る。適切な薬学的賦形剤は、この分野で公知のものから適宜選択することができる。上記医薬組成物はまた、所望であれば、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝化剤を含み得る。適切な薬学的キャリアの例は、E. W. Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。その処方は、投与の態様に対応する。
【0154】
種々の送達システムが公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る。導入経路としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、及び皮下の経路を挙げることができるが、これらに限定されることはない。投与は、例えば、注入又はボーラス注射によるものであり得る。特定の好ましい実施形態において、上記抗体-薬物コンジュゲートの投与は、注入によるものである。非経口的投与は、好ましい投与経路である。
【0155】
代表的実施形態において、上記医薬組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した組成物として、常習的手順に従って処方される。代表的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌の等張性の水性緩衝液中の溶液である。必要である場合、上記医薬組成物はまた、可溶化剤及び注射部位での疼痛を和らげるための局所麻酔剤(例えば、リグノカイン)を含み得る。一般に、上記成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプル又はサシェ等に密封してシールされた容器中の乾燥凍結乾燥粉末又は無水の濃縮物として、別個に、又は単位剤形中で一緒に混合して、のいずれかで供給される。上記医薬組成物が注入によって投与される形態の場合、それは、例えば、滅菌の製薬グレードの水又は食塩水を含む注入ボトルで投薬され得る。上記医薬が注射によって投与される場合、注射用滅菌水又は食塩水のアンプルは、例えば、上記成分が投与前に混合され得るように、提供され得る。
【0156】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量は、好適には、1.6mg/kgから12.4mg/kgの範囲であり、より好適には、3.2mg/kg、4.8mg/kg、6.4mg/kg、8mg/kg、9.6mg/kg、又は12.4mg/kgであり、更により好適には、4.8mg/kg、6.4mg/kg、8mg/kg、9.6mg/kg、又は12.4mg/kgである。
【0157】
また、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを第二の薬剤(好適にはEGFR-TKIであり、より好適にはエルロチニブ又はオシメルチニブであり、更により好適にはオシメルチニブである)と併用する場合、本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの1回あたりの投与量は、好適には、0.8mg/kgから12.4mg/kgの範囲であり、より好適には、1.6mg/kg、3.2mg/kg、4.8mg/kg、6.4mg/kg、8mg/kg、9.6mg/kg、又は12.4mg/kgであり、更により好適には、3.2mg/kg、4.8mg/kg、6.4mg/kg、8mg/kg、9.6mg/kg、又は12.4mg/kgである。
【0158】
本発明で使用される抗HER3抗体-薬物コンジュゲートの投与間隔は、好適には、1週に1回(q1w)、2週に1回(q2w)、3週に1回(q3w)、又は4週に1回(q4w)であり、より好適には、3週に1回(q3w)である。
【実施例
【0159】
以下に示す例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。
【0160】
実施例1:抗体-薬物コンジュゲートの調製
国際公開第2015/155998号に記載の製造方法に従って、配列番号9で示されるアミノ酸配列からなる重鎖(図1)、及び配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖(図2)、を含む、抗HER3抗体(本発明において、「抗HER3抗体(1)」と称する)を用いて、式
【0161】
【化10】
(式中、Aは抗体との結合位置を示す)
で示される薬物リンカーと、抗HER3抗体とがチオエーテル結合によって結合した抗HER3抗体-薬物コンジュゲート(本発明において「HER3-ADC(1)」と称する)を製造した。HER3-ADC(1)における1抗体あたりの平均薬物結合数は7.6である。
【0162】
実施例2:HCC827GR5細胞株に対するHER3-ADC(1)の感受性試験
【0163】
実施例2-1:HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株に対する細胞増殖抑制活性
HCC827細胞株をR10培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製))を含有するRPMI1640培地(シグマ製)で培養した。HCC827GR5細胞株は、上記の培地に最終濃度1μMのゲフィチニブを含む培地で培養した。なお、HCC827GR5細胞株は、エルロチニブ単剤及び抗HER3抗体(1)(HER3-ADC(1)の抗体部分)の単剤治療に対して強い感受性を示さないことが報告されている(K Yonesaka et al., Oncogene (2016) 35, 878-886)。HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株を培養後、トリプシン処理によって剥離し、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地に懸濁し、100000個/mLの濃度に調製した。各細胞懸濁液50μLをスミロン96wellプレート(住友ベークライト製)の各wellに添加し(5000個/well)、培養を行なった。培養開始3日後に、R10培地に溶解したHER3-ADC(1)希釈液、又は陰性コントロールとして薬剤を含有しないR10培地を添加し、培養を行った(最終の溶液量は各well 100μl、また培養液の最終濃度は0、0.0033、0.01、0.033、0.1、0.33、1、3.3、10μg/mLとした)。治療開始7日目に、CellTiter Glo(プロメガ社製)を各wellに50μLずつ添加後、プレートミキサーで2分間の攪拌し、遮光条件で30分間静置した。各wellから120μLを分取し、黒色のマイクロプレートに移し、ルミノメーターで発光値を測定した。
【0164】
各薬剤の細胞増殖抑制活性(% Control)は、以下の式を用いて算出した。
【0165】
% Control=(検体添加wellにおける発光値の平均値 ÷ 陰性コントロールwellにおける発光値の平均値)×100
【0166】
各群6 wellで実験を行なった。
【0167】
その結果を図3に示す。HCC827GR5細胞株に対して、HER3-ADC(1)の10、3.3、1μg/mL添加群においてそれぞれ41.3、40.0及び50.0%の細胞増殖抑制活性が認められた。一方、HCC827細胞株に対しては3.3μg/mL以下の濃度では細胞増殖抑制活性は認められなかった。
【0168】
以上の結果から、HER3-ADC(1)は、HCC827GR5細胞株に対して細胞増殖抑制活性を示すことが明らかとなった。
【0169】
実施例2-2:HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株におけるHER3 mRNAの発現
1.Total RNAの調製
Total RNAの調製は、Rneasy Mini Kit(Qiagen製)を用いて行なった。HCC827細胞株をR10培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製))を含有するRPMI1640培地(シグマ製)で培養した。HCC827GR5細胞株は、上記の培地に最終濃度1μMのゲフィチニブを含む培地で培養した。HCC827細胞株及びHCC827GR5細胞株を培養後、トリプシン処理によって剥離し、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地に懸濁した。各細胞5000000個を回収し、遠心分離後、Buffer RLT(100:1でβメルカプトエタノール含有)600μLを加え30秒間攪拌後、-80°Cで保存した。調製した溶液を溶解後、QIAShredderに添加し、15000 rpmで2分間の遠心分離を行ない、抽出液に70%エタノール600μLを添加し、攪拌した。この溶液をSpin columnに添加後、12000rpmで15秒間遠心分離した。Spin columnに80μLのDNase(+)(70μL BufferRDD、10μL DNaseI stock solution)を添加し、室温にて15分間静置後、700μLのBufferRWを添加し、10000rpm以上で15秒間遠心分離を行なった。Collection tubeを付け替え、500μLのBuffer RPE 添加後、10000rpm以上で15秒間遠心分離し、抽出液を廃棄した。再度500μLのBuffer RPEを加え2分間の遠心分離後、回収用チューブに付け替えSpin columnにRnase-free water 100μLを添加し5分間静置した。12000rpm以上で15秒間の遠心分離を行なった後に、回収用チューブ内のTotal RNA量を測定した。
【0170】
2.cDNAの調製
cDNAの調製は、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems製)を用いて行なった。2x RT Buffer、20x RT Enzyme Mix、Nuclease-free H20で調製した溶液に、上記操作で調製したRNA 2μgを添加し、Total volume 20μLの溶液を調製した。遠心分離を行い気泡を除去した後にサーマルサイクラーに装着し、37°Cで60分間、95°Cで5分間反応後、4°Cに冷却することによって逆転写反応を行い、cDNAを調製した。
【0171】
3.定量的PCR反応
定量的ポリメラーゼチェーンリアクション(qPCR)反応は、MicroAmp Optical96-well Reaction Plateを用いて行なった。上記操作で調製したcDNA 50ngをプレートに添加し、12.5μLのSoraris qPCR Master Mix(2x)、(Thermo Fisher Scientific製)及びHER3のmRNA増幅用のSoraris Primer/Probe set(20x) (Thermo Fisher Scientific製)12.5μL、及び蒸留水を添加した。mRNA量を算出する検量線作成のため、ヒト大腸癌細胞HCT116から同様の手法によって調製したcDNA200、100、20ngについても同様の操作を行なった。各種検体を添加したプレートをABI 7900HT(Applied Biosystems製)に装着し、95°Cで15分間反応後、95°Cで15秒、60°Cで60秒の反応を60サイクル行い、その後4°Cで10分間冷却した後に、各wellの蛍光強度を測定し、PCR産物量を定量することによって、各検体のmRNA量を測定した。
【0172】
その結果を図4に示す。HCC827GR5細胞株中のHER3のmRNA量は、HCC827細胞株由来のHER3のmRNA量と比較して有意に高い値であった(student t-test、 p<0.05)。
【0173】
実施例2-3:HCC827GR5細胞株に対する細胞増殖抑制活性
HCC827GR5細胞株は、R10培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリンーストレプトマイシンB(和光純薬製))を含有するRPMI1640培地(シグマ製)に最終濃度1μMのゲフィチニブを含む培地で培養した。HCC827GR5細胞株を培養後、トリプシン処理によって剥離後、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地に懸濁し、100000個/mLの濃度に調整した。細胞懸濁液50μLをスミロン96wellプレート(住友ベークライト製)の各wellに添加し(5000個/well)、培養を行なった。培養3日後に、R10培地に溶解したHER3-ADC(1)希釈液(培養液の最終濃度:0、0.0033、0.01、0.033、0.1、0.33、1、3.3、10μg/mL)、エルロチニブ希釈液(培養液の最終濃度:0、0.0033、0.01、0.033、0.1、0.33、1、3.3、10μM)、エルロチニブ(培養液の最終濃度1μM)を含有するR10培地に溶解したHER3-ADC(1)希釈液(培養液の最終濃度:0、0.0033、0.01、0.033、0.1、0.33、1、3.3、10μg/mL)、並びに陰性コントロールとしての薬剤を含有しないR10培地を加え、各wellの最終培養液量100μLとし、培養を行なった。治療開始7日目に、CellTiter Glo(プロメガ社製)を各wellに50μLずつ添加後、プレートミキサーで2分間の攪拌し、遮光条件で30分間静置した。各wellから120μLを分取し、黒色のマイクロプレートに移し、ルミノメーターで発光値を測定した。
【0174】
各薬剤のHCC827GR5細胞株に対する細胞増殖抑制活性(% Control)は、以下の式を用いて算出した。
【0175】
% Control=(検体添加wellにおける発光値の平均値 ÷ 陰性コントロールwellにおける発光値の平均値)×100
【0176】
各群 6 wellで実験を行なった。
【0177】
その結果を図5に示す。HCC827GR5細胞株に対して、HER3-ADC(1)の10、3.3、1μg/mL添加群においてそれぞれ41.3、40.0及び50.0%の細胞増殖抑制活性が、エルロチニブの10、3.3、1μg/mL添加群においてそれぞれ31.7、52.6及び69.2%の細胞増殖抑制活性が認められた。一方、エルロチニブ1μMとHER3-ADC(1)の10、3.3、1μg/mLの併用群においてはそれぞれ3.1、3.2及び3.0%の細胞増殖抑制活性が認められた。
【0178】
以上の結果から、HER3-ADC(1)は、HCC827GR5細胞株に対して、エルロチニブとの併用によって、HER3-ADC(1)又はエルロチニブ単剤での処理時と比較して高い細胞増殖抑制活性を示した。
【0179】
実施例2-4:ヌードマウス移植HCC827GR5細胞株に対する抗腫瘍効果
HCC827GR5細胞株をR10培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリンーストレプトマイシンB(和光純薬製))及び最終濃度1μMのエルロチニブを含有するRPMI1640培地(シグマ製)で培養後、トリプシン処理によって剥離後、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、R10培地に懸濁し、75000000個/mLの濃度に調製した。6週齢の雌性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)の腹側部皮下に調製した細胞懸濁液100μL(7500000個)を移植後、移植した腫瘍の推定腫瘍体積の平均値が110mm 3 となった、腫瘍移植7日後に群分けを行ない、薬剤の投与を開始した(0日目)。HER3-ADC(1)はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解し、1 mg/mLの濃度に調製した。エルロチニブはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液に溶解し、2.75mg/mLに調製した。各薬剤の単剤治療群は0日目から最大49日目まで、調製したHER3-ADC(1)を200μL/マウス(10 mg/kg)で週に一回(合計7回)腹腔内に、調製したエルロチニブを0.18mL/マウス(25 mg/kg)で週に6回(合計19)経口で投与を行った。また、併用治療群においては0日目からHER3-ADC(1)及びエルロチニブを単剤治療群と同じ投与量及びスケジュールでの投与を行った。Control群として投与を行わない群を設定した。いずれの群も一群10匹のマウスを用いた。投与開始後、週二回(0、3、7、10、14、17、21、24、28、31、35、38、41、45、49日目)、腫瘍径(長径、短径)を測定し、下記に示す式にしたがって各群の推定腫瘍体積を算出し、その後、各群の推定腫瘍体積の平均値を算出した。
【0180】
推定腫瘍体積(Volume,mm3) =長径(mm) ×短径(mm)2 ÷2
【0181】
また、各群のコントロール群と比較した腫瘍増殖抑制率を下記に示す式にしたがって算出した。
【0182】
腫瘍増殖抑制率(%) = 100 -(治療群の推定腫瘍体積の平均値 ÷コントロール群の推定腫瘍体積の平均値 ×100)
【0183】
なお、Control群及びエルロチニブ単剤治療群においては21日目の時点で推定腫瘍体積が1200から1500mmに達したため、動物倫理の観点から測定を終了した。これに伴い、腫瘍増殖抑制率(%)の算出は21日目までとした。
【0184】
その結果を表1、表2、及び図6に示す。HCC827GR5細胞株に対してエルロチニブは有効性を示さなかった。これに対して、HER3-ADC(1)治療群及びHER3-ADC(1)とエルロチニブとの併用での治療群においては有意な抗腫瘍効果が認められた(Day21においてDunnet’s Multiple Comparison test p<0.001)。
【0185】
以上の結果から、HER3-ADC(1)は、ヌードマウス移植HCC827GR5細胞株に対して、単剤又はエルロチニブとの併用によって、無処置又はエルロチニブ単剤での治療時と比較して有意に高い抗腫瘍効果を示した(Day 21においてDunnet’s Multiple Comparison test p<0.001)。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
実施例2の結果から、HER3-ADC(1)のHCC827GR5細胞株に対する抗腫瘍効果が確認された。HCC827GR5細胞株は、ヒト非小細胞肺癌の細胞株であるHCC827を親株とし、EGFR-TKIへの抵抗性を獲得した細胞株であり、EGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌に相当する細胞株である。
【0189】
以上により、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することにより、EGFR-TKI抵抗性であり、なおかつEGFR T790M変異陰性の非小細胞肺癌の治療剤及び治療方法を提供できることが示された。
【0190】
実施例3:PC9細胞株及びPC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)の感受性試験
【0191】
実施例3-1:オシメルチニブ抵抗性PC9細胞株の作成
非小細胞肺癌株であるPC9を、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製)を含有するRPMI-1640培地(シグマ製)で培養した。培養液中に1 nMのオシメルチニブを添加後に培養し、オシメルチニブの添加濃度を段階的に上昇させて継代培養を行い、最終的に100 nMのオシメルチニブを含有する培地で培養することによって、オシメルチニブ抵抗性PC9細胞株(PC9AZDR7)を樹立した。
【0192】
実施例3-2:PC9及びPC9AZDR7細胞株に対する細胞増殖抑制活性
PC9及びPC9AZDR7細胞株を10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製)を含有するRPMI1640培地(シグマ製)で培養した。PC9AZDR7は100 nMのオシメルチニブを添加して培養した。PC9及びPC9AZDR7細胞株を培養後、トリプシン処理によって剥離し、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、2%ウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地に懸濁後、各細胞懸濁液50μLをスミロン96wellプレート(住友ベークライト製)の各wellに添加し(10000個/well)、培養を行なった。培養開始1日後に各種濃度に調製したオシメルチニブ希釈液、又は陰性コントロールとして薬剤を含有しないRPMI-1640培地を添加し、培養を行った。オシメルチニブの最終濃度は0、0.001、0.0033、0.01、0.033、0.1、0.33、1、3.3μMとした。治療開始3日目に、CellTiter Glo(プロメガ社製)を各wellに50μLずつ添加後、プレートミキサーで2分間の攪拌し、遮光条件下で30分間静置した。各wellから120μLを分取し、黒色のマイクロプレートに移し、ルミノメーターで発光値を測定した。
【0193】
各薬剤の細胞増殖抑制活性(% of Control)は、以下の式を用いて算出した。
【0194】
% of Control=(検体添加wellにおける発光値の平均値 ÷ 陰性コントロールwellにおける発光値の平均値)×100
【0195】
各群6 wellで実験を行なった。
【0196】
その結果を図7に示す。PC9細胞株に対して、オシメルチニブの0.01μM以上の添加群において強い細胞増殖抑制活性が認められた。一方、PC9AZDR7細胞株に対しては1μM以下の濃度では細胞増殖抑制活性は認められなかった。
【0197】
以上の結果からPC9AZDR7はオシメルチニブに対して薬剤抵抗性を示すことが明らかとなった。
【0198】
実施例3-3:PC9細胞株及びPC9AZDR7細胞株におけるHER3蛋白質の発現
PC9及びPC9AZDR7各細胞株におけるHER3蛋白質の発現はQIFIKIT(Dako製)を用いて測定した。PC9及びPC9AZDR7を培養後、マウス抗ヒトHER3抗体(Clone 1B4C3、Dako製)あるいはマウスIgG2aアイソタイプコントロール抗体を添加後に培養し、FITC複合抗マウスIgG抗体(Dako製)で培養した。各検体をLSRFortessaX-20(BD Biosciences製)を用いて蛍光強度を測定することにより、各細胞株でのHER3蛋白質の発現量を測定した。
【0199】
その結果を図8に示す。PC9におけるHER3蛋白質の発現量は5,088個/細胞であったのに対して、PC9AZDR7における発現量は15,469個/細胞と、PC9と比較して3倍以上高いHER3蛋白質の発現が認められた(unpaired T test、p<0.001)。
【0200】
以上の結果から、非小細胞肺癌株であるPC9から樹立したオシメルチニブに対して抵抗性を示すPC9AZDR7におけるHER3蛋白質の発現量は親株であるPC9と比較して顕著に高いものであることが明らかとなった。
【0201】
実施例3-4:ヌードマウス移植PC9及びPC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)の抗腫瘍効果
PC9及びPC9AZDR7細胞株を10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製)含有RPMI1640培地(シグマ製)で培養した。PC9AZDR7細胞株は最終濃度100nMのオシメルチニブを含有する培地で培養した。培養後、トリプシン処理によって剥離後、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、各細胞懸濁液を調製した。6週齢の雌性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)の腹側部皮下に調製した各細胞懸濁液100μL(5000000個)を移植後、移植した腫瘍の推定腫瘍体積の平均値が約200mm3となった時点で群分けを行ない、薬剤の投与を開始した(0日目)。HER3-ADC(1)はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解し、0.6 mg/mLの濃度に調製した。調製したHER3-ADC(1)を100μL/マウス(3 mg/kg)でDay 0に単回の腹腔内で投与を行った。Control群としてPBSのみの投与群を設定した。Control群は8匹、HER3-ADC(1)群は9匹のマウスを用いた。投与開始後、週二回、腫瘍径(長径、短径)を測定し、下記に示す式にしたがって各群の推定腫瘍体積を算出し、その後、各群の推定腫瘍体積の平均値を算出した。
【0202】
推定腫瘍体積(Volume,mm3) =長径(mm) ×短径(mm)2 ÷2
【0203】
また、各群のコントロール群と比較した腫瘍増殖抑制率を下記に示す式にしたがって算出した。
【0204】
腫瘍増殖抑制率(%) = 100 -(治療群の推定腫瘍体積の平均値 ÷コントロール群の推定腫瘍体積の平均値 ×100)
【0205】
PC9細胞株に対するHER3-ADC(1)の抗腫瘍効果を表3及び図9に、PC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)の抗腫瘍効果を表4及び図10に示す。PC9細胞株に対してHER3-ADC(1)は有効性を示さなかった(Day21における腫瘍増殖抑制率17%)。これに対して、PC9AZDR7のHER3-ADC(1)治療群においては有意な抗腫瘍効果(Day18における腫瘍増殖抑制率72%)が認められた(Day18においてunpaired t test p<0.05)。
【0206】
【表3】
【0207】
【表4】
【0208】
以上の結果から、HER3-ADC(1)は、ヌードマウス移植PC9AZDR7細胞株に対してコントロール群と比較して有意に高い抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0209】
以上により、抗HER3抗体-薬物コンジュゲートを投与することにより、オシメルチニブ抵抗性の非小細胞肺癌の治療剤及び治療方法を提供できることが示された。
【0210】
実施例3-5:ヌードマウス移植PC9AZDR7細胞株に対するHER3-ADC(1)とオシメルチニブ併用での抗腫瘍効果
PC9AZDR7細胞株を10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンB(和光純薬製)および100 nMのオシメルチニブを含有するRPMI1640培地(シグマ製)で培養した。PC9AZDR7細胞株を培養後、トリプシン処理によって剥離し、細胞を回収し、細胞懸濁液中の細胞数を測定し、各細胞懸濁液を調製した。6週齢の雌性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)の腹側部皮下に調製した各細胞懸濁液100μL(34000000個)を移植後、移植した腫瘍の推定腫瘍体積の平均値が約60 mm3となった時点で群分けを行ない(0日目)、群分け翌日(1日目)から薬剤の投与を開始した。HER3-ADC(1)はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解し、0.1 mg/mLの濃度に調製した。オシメルチニブは0.1%ジメチルスルフォキシドおよび30%ポリエチレングリコール300を含有する注射用蒸留水に溶解し、0.2 mg/mLの濃度に調製した。各薬剤の単剤群では、HER3-ADC(1)を200μL/マウス(1 mg/kg)でDay 1に腹腔内で投与を行い、オシメルチニブを100μL/マウス(1 mg/kg)でDay 1、2、3、4、5, 8、9、10、11、12, 15、16、17, 18および19に経口で投与を行った。HER3-ADC(1)とオシメルチニブとの併用群は、各薬剤を各単剤群と同一の投与量および投与スケジュールで投与を行った。Control群として投与を行わない群を設定した。Control群は11匹、HER3-ADC(1)単剤群は12匹、オシメルチニブ単剤群は12匹、HER3-ADC(1)とオシメルチニブ併用群は10匹のマウスを用いた。投与開始後、週二回、腫瘍径(長径、短径)を測定し、下記に示す式にしたがって各群の推定腫瘍体積を算出し、その後、各群の推定腫瘍体積の平均値を算出した。
【0211】
推定腫瘍体積(Volume,mm3) =長径(mm) ×短径(mm)2 ÷2
【0212】
また、各群のコントロール群と比較した腫瘍増殖抑制率を下記に示す式にしたがって算出した。
【0213】
腫瘍増殖抑制率(%) = 100 -(治療群の推定腫瘍体積の平均値 ÷コントロール群の推定腫瘍体積の平均値 ×100)
【0214】
その結果を表5及び図11に示す。PC9AZDR7細胞株に対してHER3-ADC(1)1 mg/kgおよびオシメルチニブ1 mg/kg各単剤治療群では高い有効性を示さなかった(Day21における腫瘍増殖抑制率:HER3-ADC(1)、25.3%、オシメルチニブ、27.7%)。これに対して、HER3-ADC(1) 1 mg/kgとオシメルチニブ1 mg/kgの併用治療群においては有意な抗腫瘍効果(Day21における腫瘍増殖抑制率66.6%、Day 21においてHER3-ADC(1)単剤治療群に対して p = 0.0057、オシメルチニブ単剤治療群に対して p = 0.0092、Dunnett’s test)が認められた。
【0215】
【表5】
【0216】
【表6】
【0217】
以上の結果から、HER3-ADC(1)とオシメルチニブとの併用による治療は、ヌードマウス移植PC9AZDR7細胞株に対して、HER3-ADC(1)単剤又はオシメルチニブ単剤での治療と比較して有意に高い抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【配列表フリーテキスト】
【0218】
配列番号1:抗HER3抗体(1)のCDRH1のアミノ酸配列
配列番号2:抗HER3抗体(1)のCDRH2のアミノ酸配列
配列番号3:抗HER3抗体(1)のCDRH3のアミノ酸配列
配列番号4:抗HER3抗体(1)のCDRL1のアミノ酸配列
配列番号5:抗HER3抗体(1)のCDRL2のアミノ酸配列
配列番号6:抗HER3抗体(1)のCDRL3のアミノ酸配列
配列番号7:抗HER3抗体(1)の重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号8:抗HER3抗体(1)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号9:抗HER3抗体(1)の重鎖のアミノ酸配列
配列番号10:抗HER3抗体(1)の軽鎖のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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