(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】平鋼製品の製造方法および平鋼製品
(51)【国際特許分類】
C21D 9/48 20060101AFI20221122BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221122BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20221122BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C21D9/48 E
C22C38/00 301S
C22C38/54
C23C2/06
(21)【出願番号】P 2019506647
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2017073027
(87)【国際公開番号】W WO2018054742
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/072281
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】フランク フリーデル
(72)【発明者】
【氏名】フリードヘルム マシュレー
(72)【発明者】
【氏名】リーナ ザットラー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ヤニク
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-324953(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01002884(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第1405352(CN,A)
【文献】特開平10-088233(JP,A)
【文献】特開2013-072110(JP,A)
【文献】特開2012-233255(JP,A)
【文献】国際公開第2016/055227(WO,A1)
【文献】特開2015-081359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延平鋼製品から形成される平鋼製品の製造方法であって、
前記平鋼製品が、5パーセントの二軸変形後に、前記平鋼製品の表面の少なくとも1つにおいて、0.35μm未満のWsa(1-5)値を示し、前記冷間圧延平鋼製品における面内異方性Δrが-0.5~+0.5を示し、各平鋼製品の表面から200μm未満の深さまで延びる領域において、0.1GPa超3.0GPa未満のナノ硬度Hを示し、
以下の加工工程:
a)(重量%で)、
C:0.0003~0.050%
Si:0.0001~0.20%
Mn:0.01~1.5%
P:0.001~0.10%
S:0.0005~0.030%
Al:0.001~0.12%
N:0.0001~0.01%
を含有し、ならびに群「Ti、Nb、B、Cu、Cr、Ni、Mo、Sn」から1種以上の元素を、各場合において任意に含有し、ただし、
Ti:0.0001~0.15%
Nb:0.0001~0.05%
B:≦0.005%
Cu:≦0.15%
Cr:≦0.15%
Ni:≦0.15%
Mo:≦0.10%
Sn:≦0.05%
であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼製のスラブを提供する、加工工程と、
b)前記スラブを炉内で1200~1270℃のスラブ引き抜き温度Bztに加熱し、前記スラブを前記炉の外へ引き抜く、加工工程と、
c)前記スラブを3~5mmの厚さの熱間圧延平鋼製品に熱間圧延する加工工程であり、前記熱間圧延が、厚さ減少が80~90%の粗圧延と、厚さ減少が85~95%の仕上圧延とを含んでなり、前記熱間圧延中に達成される総変形度が95~99.5%であり、最終ロールパスで1~25%の厚さ減少ΔdFが達成され、最終熱間圧延温度が850~950℃である、加工工程と、
d)前記得られた熱間圧延平鋼製品を620~780℃の巻き取り温度に冷却する加工工程であって、冷却速度が4~30K/秒である、加工工程と、
e)前記熱間圧延平鋼製品をコイルに巻き取る、加工工程と、
f)ホットストリップを酸洗し、スケールを取り除く、加工工程と、
g)前記熱間圧延平鋼製品を前記冷間圧延平鋼製品に冷間圧延する加工工程であり、前記冷間圧延によって達成される総変形度が70~90%である、加工工程と、
h)650~900℃の焼鈍温度で前記冷間圧延平鋼製品を再結晶焼鈍する加工工程であり、前記焼鈍を、必要に応じて、脱炭焼鈍雰囲気下で行う、加工工程と、
i)前記冷間圧延平鋼製品のスキンパスレベルが0.3~2.0%になる任意のスキンパス圧延を施す、加工工程と、
を有し、
前記スラブ引き抜き温度Bzt、前記スラブが押し込まれて引き抜かれるまでの間に前記焼鈍炉内で費やす総滞留時間GLZ、前記最終ホットロールパスにおける前記厚さ減少ΔdF、および前記巻き取り温度HTが、以下の条件:
-0.529653
*Q+0.944372
*HT_t+0.711559
*ΔdF_t<-0.1889459
ここで、Q=((Bzt/GLZ)-5.55281℃/分)/(1.777359℃/分)
Bzt:スラブ引き抜き温度(℃)
GLZ:総滞留時間(分)
HT_t=(HT-728.13030℃)/42.300114℃
HT:巻き取り温度(℃)
ΔdF_t=(ΔdF-12.43384%)/2.306328%
ΔdF:前記最終ホットロールパスにおける厚さ減少(%)
を満たす、平鋼製品の製造方法。
【請求項2】
前記スラブ引き抜き温度Bztが1250℃未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱間圧延工程中、前記スラブが最初に粗熱間圧延を受け、次いで仕上熱間圧延を受けることを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記再結晶焼鈍が、スルーフィード工程において、650~870℃の焼鈍温度、70~180m/分の処理速度、+15℃~-50℃の焼鈍雰囲気の露点で行われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
スキンパス圧延中に達成される変形度が0.5~2%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記平鋼製品を耐食コーティングで被覆することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングがZn系コーティングであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(重量%で)、
C:0.0003~0.050%
Si:0.0001~0.20%
Mn:0.01~1.5%
P:0.001~0.10%
S:0.0005~0.030%
Al:0.001~0.12%
N:0.0001~0.01%
を含有し、ならびに群「Ti、Nb、B、Cu、Cr、Ni、Mo、Sn」からの1種以上の元素を、各場合に任意に含有し、ただし、
Ti:0.0001~0.15%
Nb:0.0001~0.05%
B:≦0.005%
Cu:≦0.15%
Cr:≦0.15%
Ni:≦0.15%
Mo:≦0.10%
Sn:≦0.05%
であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼から構成され、
かつ、
5パーセントの二軸変形時に、前記平鋼製品の表面の少なくとも1つにおいて、0.35μm未満のWsa(1-5)値により特徴付けられる低いうねりを有し、-0.5~+0.5の面内異方性Δrを示し、各平鋼製品の当該表面から200μm未満の深さまで延びる領域において、0.1GPa超3.0GPa未満のナノ硬度Hを示す、冷間圧延平鋼製品。
【請求項9】
前記5パーセントの二軸変形後の前記平鋼製品の少なくとも1つの表面上で測定されたWsa(1-5)値が、変形前の当該表面のWsa(1-5)値よりも最大0.05μm高いことを特徴とする、請求項8に記載の平鋼製品。
【請求項10】
耐食コーティングで被覆されていることと、前記耐食コーティングのWsa
mod値が0.30μm未満であることとを特徴とする、請求項8または9のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【請求項11】
前記冷間圧延平鋼製品は、平均サイズが60~150nmである析出物を有する、請求項8
~10のいずれか一項に記載の平鋼製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平鋼製品の製造方法および対応する平鋼製品に関する。
【背景技術】
【0002】
以下で平鋼製品に言及がなされている場合、平鋼製品は、車体部品などの製造用にブランクカットまたはパネルが切り離される鋼ストリップまたはシートなどの圧延製品を意味する。
【0003】
材料の成分が以下に記載されている場合、それぞれにおいて記載されている個々の含有量は、別段の明記がない限り、重量を表す。対照的に、雰囲気の成分の列挙は体積を表す。
【0004】
車体の構築などに使用される部品のプライマーレス塗装への切り替えの結果として、自動車の車体外装部品における「長いうねり」というトピックにますます注目が集まっている。
【0005】
塗装されていない部品またはシートの長いうねりは、肉眼で見える1~5mmの波長の波の高さの差を包含するWsa値「Wsa(1-5)」によって特徴付けることができる。
【0006】
自動車の車体外装では、5%変形マルシニアック(Marciniak)カップで75/cm以上のピークカウントおよび0.3μm以下のWsa値を遵守する必要がある。シートサンプルを「マルシニアック(Marciniak)カップ」に成形するために必要な器具および当該サンプルを作製する際に従う手順は、ISO 12004-2:2008に記載されており(4.3.4; Forming Limit Curve, FLCを参照)、5%二軸変形シートで測定を実施する。
【0007】
最適化された表面特性を有する薄いシートを作製するための従来の方法は、製造工程を締めくくるスキンパス圧延の間に達成されるべき改良にのみ当初焦点をあてていた。しかしながら、特に軟らかいIF鋼または焼付硬化性を備えた鋼の場合、5%変形マルシニアック(Marciniak)カップで0.35μm以下のWsa値を確実に維持することは困難であることが明らかになった。対照的に、高強度鋼は問題が少ないことが分かっている。
【0008】
このような先行技術の一例は、特許文献1に記載されている。当該文献に記載されている方法により、最適化された成形性および塗装の適合性を有する、フェライトミクロ組織を有する冷間圧延および再結晶焼鈍された平鋼製品が得られる。本目的のために、平鋼製品は、(重量%で)C:0.0001~0.003%、Si:0.001~0.025%、Mn:0.05~0.20%、P:0.001~0.015%、Al:0.02~0.055%、およびTi:0.01~0.1%を含有し、かつ、各場合において、任意成分として、Cr:0.001~0.05%,V:0.005%以下、Mo:0.015%以下、N:0.001~0.004%を含有する鋼からなる。そのため、平鋼製品は、以下の機械的特性:Rp0.2≦180MPa、Rm≦340MPa、A80≦40%、n値≦0.23を有する。さらに、平鋼製品の表面の少なくとも1つにおいて、平鋼製品は、0.8~1.6μmの算術平均粗さRaおよび75/cmのピークカウントRPcを有する。製造では、平鋼製品をN2-H2焼鈍雰囲気下で連続スルーフィード工程で再結晶焼鈍し、時効硬化処理に付す。次いで、平鋼製品を0.4~0.7%のスキンパスレベルを有するワークロールで仕上げるが、ワークロールの周面は、1.0~2.5μmの平均粗さRaおよび≧100/cmのピークカウントを有し、スキンパスワークロールの表面に形成されたくぼみおよびピークは、確率的に分布している。この手順の目的は、未だ未変形状態にあるときにWsa1-5-0%値をできる限り低く保ち、後の成形中に、発生する応力の結果として、許容できない値まで劣化しないようにすることである。滑らかなスキンパスロールを使用しているため、それによって金属ストリップに移るうねりが少なくなると考えられる。しかしながら、非常に滑らかなスキンパスロールは平鋼製品に跡を残す傾向があることと、原則として、または他の技術的理由のため、特定の最低限の要件がスキンパスロールの表面集合組織(テクスチャ)に課せられることとより、当該アプローチは制限を受ける。
【0009】
この先行技術に加えて、(重量%で)0.0005~0.0035%のC、0.05%以下のSi、0.1~0.6%のMn、0.02%以下のP、0.02%未満のS、0.01%~0.10%のAl、0.0030%以下のN、および0.0010%以上のBを含有する鋼から冷間圧延平鋼製品を製造するための方法であって、B含有量およびN含有量が、条件B/N≦3.0を満たし、ここでB/N=(B(質量%))/10.81)/(N(質量%)/14.01)であり、鋼合金の残部がFeおよび不可避不純物からなる前記方法が、特許文献2から公知である。冷間圧延平鋼製品の構造は、平鋼製品の表面からの距離が平鋼製品の厚さの4分の1に相当する平鋼製品の表面に平行な平面内の(111)[1-10]から(111)[-1-12]方位の7.0以上の平均積分強度fによって特徴付けられる。同時に、圧延方向の断面におけるフェライト粒子の平均直径は、少なくとも6.0~10.0μmである。さらに、ヤング率「E」について、条件EAVE≧215GPa、E0≧210GPa、E45≧210GPa、E90≧210GPa、および-0.4≦Δr≦0.4が満たされる。一つの例示的な実施形態において、このようなシートを、スラブを1200℃に加熱し、次いで880~890℃の最終熱間圧延温度で熱間圧延することで作製する。得られたホットストリップを560~650℃で巻き取り、次いで酸洗処理後、冷間圧延する。その結果、冷間圧延によって達成される変形度は、86~93.5%に達し、そのため、得られるコールドストリップは、0.225~0.26mmの厚さを有する。次いで、コールドストリップを、30秒の期間にわたってスルーフィード工程で660~730℃で焼鈍する。最後に、焼鈍したコールドストリップは、2.0%の変形度でスキンパス圧延を受ける。この手順の目的は、より高い値のヤング率を有する平鋼製品を製造し、当該シートから形成される部品の高度の剛性を保証することである。しかしながら、このようにして製造された冷間圧延平鋼製品において生じる表面のうねりの問題または表面特性の他の側面は、考慮されていない。
【0010】
最後に、特許文献3は、以下の組成(質量%で):0.01~0.08%のC、0.10~0.80%のMn、0.60%以下のSi、0.015~0.08%のAl、0.005%以下のN、各場合において0.01~0.04%のTiおよび/またはNb、0.15%以下のCuおよび/またはVおよび/またはNiを含有し、残部が鉄である鋼から高い耐デント性を有するプレス部品を製造するための良好な成形性、特にストレッチフォーミング性を有する冷間圧延鋼シートまたはストリップを製造する方法であって、鋳片を1050℃を超える温度に予熱し、次いでAr3温度を超え950℃に達し得る最終温度で熱間圧延する前記方法を開示する。次いで、得られたホットストリップを550~750℃の温度で巻き取り、次いで40~85%の総変形度で冷間圧延する。冷間圧延に続いて、コールドストリップを連続炉内で720℃以上の温度で再結晶焼鈍する。最後に、5~70K/秒で冷却した後、得られたコールドストリップは、スキンパス圧延を受ける。この方法でも、表面特性の最適化ではなく、製造される平鋼製品で特定の機械的特性を達成することに重点が置かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2016/055227A1号
【文献】欧州第2700731A1号
【文献】ドイツ第19622164C1号
【発明の概要】
【0012】
上述した先行技術の背景に対して、本発明は、軟質IF鋼または焼付硬化型鋼に典型的な組成および最適化された表面特性を有する平鋼製品を提供し、このような平鋼製品を確実に製造する方法に言及するという課題を踏まえた。
【0013】
当該方法に関して、本発明は、平鋼製品の製造中に請求項1に記載の加工工程を行うことで、この課題を解決した。
【0014】
本発明に従って製造され、対応する特性を示す平鋼製品は、請求項8に記載の特徴を有する。
【0015】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に規定されており、本発明の一般的概念と同様に、以下に詳細に説明されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、本発明に係る平鋼製品の製造方法であって、前記平鋼製品が、5パーセントの二軸変形後に、前記平鋼製品の表面の少なくとも1つにおいて、0.35μm未満のWsa(1-5)値、-0.5~+0.5の面内異方性Δrを示し、各平鋼製品の表面から200μm未満の深さまで延びる領域において、0.1GPa超3.0GPa未満のナノ硬度Hの変化ΔHを示す前記方法は、以下の加工工程:
a)(重量%で)、
C:0.0003~0.050%
Si:0.0001~0.20%
Mn:0.01~1.5%
P:0.001~0.10%
S:0.0005~0.030%
Al:0.001~0.12%
N:0.0001~0.01%
を含有し、ならびに群「Ti、Nb、B、Cu、Cr、Ni、Mo、Sn」から1種以上の元素を、各場合において任意に含有し、ただし、
Ti:0.0001~0.15%
Nb:0.0001~0.05%
B:≦0.005%
Cu:≦0.15%
Cr:≦0.15%
Ni:≦0.15%
Mo:≦0.10%
Sn:≦0.05%
であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼製のスラブを提供する加工工程と、
b)前記スラブを炉内で1200~1270℃のスラブ引き抜き温度Bztに加熱し、前記スラブを前記炉の外へ引き抜く加工工程と、
c)前記スラブを3~5mmの厚さの熱間圧延平鋼製品に熱間圧延する加工工程であり、前記熱間圧延が、厚さ減少が80~90%の粗圧延と、厚さ減少が85~95%の仕上圧延とを含んでなり、前記熱間圧延中に達成される総変形度が95~99.5%であり、最終ロールパスで1~25%の厚さ減少ΔdFが達成され、最終熱間圧延温度が850~950℃である、前記加工工程と、
d)得られた熱間圧延平鋼製品を620~780℃の巻き取り温度に冷却する加工工程であり、冷却速度が4~30K/秒である、前記加工工程と、
e)前記熱間圧延平鋼製品をコイルに巻き取る加工工程と、
f)ホットストリップを酸洗し、スケールを取り除く加工工程と、
g)前記熱間圧延平鋼製品を冷間圧延平鋼製品に冷間圧延する加工工程であり、前記冷間圧延によって達成される総変形度が70~90%である、前記加工工程と、
h)650~900℃の焼鈍温度で前記冷間圧延平鋼製品を再結晶焼鈍する加工工程であり、前記焼鈍を、必要に応じて、脱炭焼鈍雰囲気下で行う、前記加工工程と、
i)前記冷間圧延平鋼製品のスキンパスレベルが0.3~2.0%になる任意のスキンパス圧延を施す、加工工程と、
を有し、
前記スラブ引き抜き温度Bzt、前記スラブが押し込まれて引き抜かれるまでの間に前記焼鈍炉内で費やす総滞留時間GLZ、前記最終ホットロールパスにおける前記厚さ減少ΔdF、および前記巻き取り温度HTが、以下の条件:
-0.529653*Q+0.944372*HT_t+0.711559*ΔdF_t<-0.1889459
ここで、 Q=((Bzt/GLZ)-5.55281℃/分)/(1.777359℃/分)
Bzt:スラブ引き抜き温度(℃)
GLZ:総滞留時間(分)
HT_t=(HT-728.13030℃)/42.300114℃
HT:巻き取り温度(℃)
ΔdF_t=(ΔdF-12.43384%)/2.306328%
ΔdF:前記最終ホットロールパスにおける厚さ減少(%)
を満たす。
【0017】
したがって、本発明に係る平鋼製品は、冷間圧延平鋼製品であって、(重量%で)、
C:0.0003~0.050%,
Si:0.0001~0.20%,
Mn:0.01~1.5%,
P:0.001~0.10%,
S:0.0005~0.030%,
Al:0.001~0.12%,
N:0.0001~0.01%,
を含有し、ならびに群「Ti、Nb、B、Cu、Cr、Ni、Mo、Sn」から1種以上の元素を、各場合において任意に含有し、ただし、
Ti:0.0001~0.15%,
Nb:0.0001~0.05%,
B:≦0.005%,
Cu:≦0.15%,
Cr:≦0.15%,
Ni:≦0.15%,
Mo:≦0.10%,
Sn:≦0.05%,
であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼製であり、
かつ、
前記平鋼製品の表面の少なくとも1つにおいて、5パーセントの二軸変形時に、0.35μm未満のWsa(1-5)値によって特徴付けられる低いうねりを有し、-0.5~+0.5の面内異方性Δrを示し、各平鋼製品の当該表面から200μm未満の深さまで延びる領域において、0.1GPa超3.0GPa未満のナノ硬度Hを示す、前記冷間圧延平鋼製品である。
【0018】
後続のスキンパス圧延を伴う特別な焼鈍工程であって、後続のスキンパス圧延も特別に適合させられている前記焼鈍工程に実質的に基づく上記で評価した先行技術とは異なり、本発明は、基本的に製造法の各加工工程が、最終冷間圧延平鋼製品で測定することができるWsa(1-5)値に影響を及ぼすという知識に基づく。材料科学の観点から、方法全体にわたって基体内で行われる工程を総合的に考察することにより、本発明は、本発明に係る方法の個々の加工工程に関する仕様を開発し、それによって、Wsa(1-5)値に対するそれぞれの加工工程の負の影響を可能な限り排除する。したがって、本発明に係る個々の加工工程において遵守されるべき工程パラメータの相互従属性は、式の形式の条件により表される。
-0.529653*Q+0.944372*HT_t+0.711559*ΔdF_t<-0.1889459
当該条件は、スラブ引き抜き温度Bztおよび総滞留時間GLZを含む係数Q=((Bzt/GLZ)-5.55281℃/分)/(1.777359℃/分)を介して、スラブの加熱に関連するパラメータ、ならびにスラブの加熱に続いて行われる熱間圧延工程におけるWsa(1-5)値に影響を及ぼす重要な変数、すなわち巻き取り温度HT_tを考慮に入れ、パラメータΔdF_t=(ΔdF-12.43384%)/2.306328%を介して、熱間圧延工程の最終パスで達成される厚さ減少ΔdFを考慮に入れる。
【0019】
したがって、本発明に従って製造され、対応する特性を示す平鋼製品のうねりパラメータWsa(1-5)を、上記で説明した先行技術に関連して既に上述したように、5%変形マルシニアック(Marciniak)カップで測定する。うねりパラメータWsa(1-5)の測定を、Stahl-Eisen-Pruefblatt(鉄鋼試験仕様)SEP1941(第1版2012年5月)に従って行う。しかしながら、この場合、SEP1941の仕様から逸脱して、Wsa(1-5)値を圧延方向に対して横方向ではなく、圧延方向に沿って測定する。
【0020】
本発明の目標値として、5パーセントの二軸変形時に、Wsa(1-5)値が、最大0.05μmしか増加し得ないこと、すなわち、5%変形前後のWsa(1-5)値の差ΔWsaが最大0.05μmに達し得ることを規定した。ホットストリップ粒径、Wassermann, G. (1970), H.-J. Bunge, Mathematical Methods of Texture Analysis, Akademie-Verlag Berlin 1969, 330 pages Geb. M 68.-. Krist. Techn., 5: K23. doi :10.1002/crat.19700050319に従う集合組織解析で方法自体公知の方法で測定した集合組織{111}<110>のピーク、析出値、面内異方性Δr、HTC軟化、およびナノインデンテーション測定からの硬度曲線を、変形過程にわたるWsa(1-5)値の変化に決定的な影響を与える材料特性として求め、以下の条件をこれらの特性値について規定した。これらが満たされると、それぞれの場合において、本発明に係る冷間圧延平鋼製品が得られ、特に最適化された表面うねりが得られる。
【0021】
- 本発明に係る方法において中間製品として得られる熱間圧延平鋼製品の構造でDIN EN ISO 643に従って測定される平均粒径は、好ましくは10~18μmであるべきである。スラブ引き抜き温度Bztが高いほど、その後のホットストリップがより粗い粒径を有する可能性が高くなる。したがって、ホットストリップの粒径は、過度に高いスラブ引き抜き温度Bztの指標である。スラブ引き抜き温度Bztが高いと、製鋼所における製鋼工程から生じるより多くの析出物、好ましくは炭化物、炭窒化物、および硫化物が溶解する。これらは溶解するため、もはや、スラブおよびホットストリップの構造の粒子の成長に対する障害として機能することはできない。したがって、粒子は支障なく成長することができる。より粗いホットストリップ粒子は、より小さなホットストリップ粒子よりも再結晶化が遅く、この特性をコールドストリップの構造に移す。より粗いホットストリップ粒子は、その後の再結晶焼鈍に必要とされる冷間圧延工程において引き起こされるエネルギー吸収において、より小さなホットストリップ粒子よりも著しく効率性が低い。これは、焼鈍中の再結晶化を著しく緩慢にし、延いては高いΔr値をもたらす。粒径が減少するにつれて平鋼製品がより高い強度を示し、その成形性に悪影響を及ぼすため、粒径は、10μm未満ではない必要がある。粒径は、18μmを超えない必要があるが、これは、粒径が大きくなると、冷間圧延工程中のエネルギーの吸収が損なわれるためである。これは、その後の再結晶化の推進力の低下をもたらし、集合組織に負の影響を及ぼし、そのため、延いてはΔr値が高くなり過ぎることになる。
【0022】
- ガンマ繊維の方位が{111}<110>であるコールドストリップの集合組織のピークは、好ましくは8.5~10.5にあるべきである。この範囲が維持されると、最小化されたΔr値が達成される。平面異方性を表すΔr値は、以下のように計算される:
Δr=(r_長手+r_横-2*r_対角)/2
これに関して、r_長手は圧延方向に対して長手方向に測定したr値であり、r_横は圧延方向に対して横方向に測定したr値であり、r_対角は圧延方向に対して45°の角度で測定したr値である。圧延方向に対するr値r_長手、r_横、およびr_対角の差は互いに大きく異なり、表面組織ピークが8.5未満または10.5超である場合、Δr値を確実に-0.5~+0.5の間で調整することができないことが、研究により示されている。
【0023】
集合組織を測定するための標準化された測定方法は利用可能ではない。しかしながら、集合組織は、X線回折計を用いた極点図の測定と、それに続くBunge(H.-J. Bunge: “Mathematical Methods of Texture Analysis”, Akademie-Verlag Berlin, 1969およびH.-J. Bunge: “Texture Analysis in Material Science”, Butterworth London, 1983)による級数展開法による数学的計算によって決定することができる。
【0024】
- DIN EN ISO 10247に従って測定したコールドストリップ中の析出物の平均サイズは、好ましくは60~150nmであるべきである。再結晶焼鈍の前に存在する析出物が微細であるほど、焼鈍で意図された再結晶化を妨げる危険性が高くなる。したがって、析出物は60nmより小さくはない必要がある。しかしながら、150nmより大きい析出物は表面状態に負の影響を及ぼす。0.35μm以下のWsa値を達成するためには、析出物は150nmの平均サイズを超えない必要がある。
【0025】
- DIN EN ISO 6892-1:2009に従って測定した平鋼製品の平面異方性は、好ましくは-0.5~0.5に達するべきである。
【0026】
- ナノインデンテーション、すなわち平鋼製品の表面から始まり25μmの深さまでの領域のナノ硬度と、平鋼製品の表面から25μmを超えて離れたより深い領域のナノ硬度との差ΔHは、本発明に係る平鋼製品において、-0.3MPa~0.4MPaであることが最適である。垂直異方性は、シート厚みに対する、またはシート厚みの方向の異方性である。
【0027】
垂直異方性の1つの尺度は、シート厚みにわたって求めた硬度曲線の局所的な差である。本出願では、2つの領域を区別する:1)鋼基体表面上で始まり、表面からシート厚みへ0~25μm延びる表面近傍領域;2)表面から25μmの距離からシート厚みの中程に延び、シート厚みの残部を含むより深い領域。このより深い領域は、バルクとも呼ばれる。
【0028】
「H」は、GPaで測定される絶対ナノ硬度を指すと理解される。これに関して、ナノインデンテーションをDIN EN ISO 14577-1/-2/-4に従って測定する。表面近傍領域内で、少なくとも1つのナノ硬度値Hを測定する。しかしながら、典型的には、原則として、3つ以上のナノ硬度値をシート厚みにわたって等間隔で測定し、算術平均し、全ての測定値を粒内に記録する。少なくとも1つのナノ硬度値を、より深い領域内でも測定する。典型的には、この場合にも、5つ以上の粒内ナノ硬度値を、シート厚みにわたって等間隔で測定し、算術平均する。本明細書において単に「ナノ硬度」に言及している場合、「ナノ硬度」は、少なくとも1つの測定値を意味するが、通常、いくつかの個々の測定値からの平均値を意味する。
【0029】
それぞれの平鋼製品の表面から200μm未満の深さまで延びる領域において、ナノ硬度Hは、0.1GPa超3.0GPa未満、好ましくは1.0GPa~2.5GPaの値を有するべきである。局部的な材料のネッキングを回避し、それによって表面のうねりを低減するために、充分に良好な流動性および成形性を確保するために、ナノ硬度は、この領域で3.0GPaを超えない必要がある。
【0030】
「ΔH」は、表面近傍領域のナノ硬度H_25μmと、バルク硬度とも呼ばれる、より深い領域のナノ硬度H_バルクとから計算される差を示す。表面硬度がバルク硬度より大きい場合、ΔHは正である。バルク硬度が表面硬度より大きい場合、ΔHは負である。変形中のコールドストリップの不規則な流動性状および結果として生じるうねりを回避するために、ΔHは-0.3MPa以上0.4MPa以下であるべきである。硬度差がより大きい場合には、成形中の表面近傍領域(深さ:0~25μm)およびより深い(深さ:>25μm)領域の流動性状に差が見られ得る。硬度が低い領域は、硬度が高い領域と比較してより変形し、その結果、表面にうねりの形態の不均一性を生じさせ得る。
【0031】
- 2000秒かつ650℃で測定したHTC軟化は、好ましくは86~100%に達するべきである。「HTC軟化」は、再結晶工程中の材料の軟化を意味すると理解されるべきである。HTC軟化は鋼の再結晶挙動の尺度である。サンプルの再結晶が不充分であるほど、または遅いほど、材料が異方性特性を示す可能性が高くなる。顕著なうねりの危険性は、異方性が増加すると増加する。
【0032】
HTC軟化は、フルハードコールドストリップ上で行われる高温伝導率測定(HTC測定)によって測定する。測定方法はどの規格にも含まれていない。HTC測定を実施するために、1mmのウェブ幅を有するU字形のサンプルを、ワイヤーエロージョンによってシートから分離する。スポット溶接法によりサンプルの各末端にワイヤーを取り付ける。焼鈍工程中、所定の温度で、アルゴン保護ガス雰囲気下で、これらの測定ワイヤーを介してサンプルの電圧を測定し、これから電気伝導率を計算する。再結晶中に、電気導電率が増加し、これは軟化の尺度を表す。このようにして2000秒かつ650℃で測定したHTC軟化は、-0.5~+0.5のΔr値を保証し、それにより低いうねりを保証するために、86%以上に達するべきである。
【0033】
本発明に係る方法は、特にZn系耐食コーティングを備えた、最適化されたうねりを有する冷間圧延平鋼製品の製造に特に適している。
【0034】
別段の明記がない限り、本明細書に記載の知見および条件は、被覆されていない平鋼製品にも、Zn系保護コーティングを備えた平鋼製品にも適用される。
【0035】
Znコーティングは、従来の方法で塗布された実質的にZnのみからなるコーティング(コーティングタイプ「Z」)、またはZn合金、特にZnMg合金(コーティングタイプ「ZM」)からなることができる。コーティングは、溶融コーティング、または電解コーティングによって施すことができる。さらに、対応する組成を考慮すると、コーティングは、ガルバニーリング処理に付されていてもよい(コーティングタイプ「ZF」。)本発明に従って製造された平鋼製品を本発明に従って提供される種類のZnコーティングで被覆することができる溶融浴の可能な成分の例には、以下が含まれる(含有量は重量%で記載されており、本明細書で指定されている含有量については、それぞれの場合において、実際問題として典型的な許容誤差が適用される指標値が記載されている):
a)0.2%のAl、微量のFeおよびPb、残部のZnおよび不可避不純物(コーティングタイプ「Z」)、
b)1%のAl、1%のMg、微量のFeおよびPb、残部のZnおよび可避不純物(コーティングタイプ「ZM」)、
c)ガルバニーリングしたシートでは、0.1%のAl、微量のFeおよびPb、残部のZnおよび不可避不純物(コーティングタイプ「ZF」)。
【0036】
本出願においてWsa値に言及がなされている場合、Wsa値は、SEP1941に従って5%二軸変形状態で測定された被覆されていない、または被覆されているシートのWsa(1-5)値を意味する。また、本出願の例示的な実施形態において「Wsa0%」および「Wsa5%」に言及がなされている限り、「Wsa5%」は、SEP1941による5%二軸変形状態におけるWsa(1-5)値を意味する。同様に、「Wsa0%」は、SEP1941による、0%二軸変形状態、すなわち未変形状態におけるWsa(1-5)値である。
【0037】
Wsa1-5値は、算術平均粗さ値(同じ計算)に本質的に類似しているうねりパラメータであるが、Wsa1-5値では、後者とは対照的に、0.8mm以下の非常に短い波長は考慮されず、1~5mmの波長のみが考慮される。平均粗さ値を求めるときのように、Wsa1-5値を求めるために、プロファイルセンターラインから開始してプロファイルセンターラインより上の波の山およびプロファイルセンターラインより下の波の谷を積分によって合計し、次いで、このようにして求めた総面積を測定する長さで割る。これにより、1mm~5mmの波長範囲の平均波高に相当する、μmで表される一次元値が得られる。Wsa1-5値は、平らな未変形シート(Wsa1-5-0%値)でも5%二軸変形シート(Wsa1-5-5%値)でも測定することができる。
【0038】
本出願においてWsamod値への言及がなされている場合、Wsamod値は、耐食層、すなわちコーティングされているシートのコーティングの固有のうねりのみを指す。被覆されていない、または被覆されているシートのWsa(1-5)値とは対照的に、Wsamod値は、20×20mm寸法の表面で実施する、DIN EN ISO 3497に従った、空間分解走査X線蛍光分析(Fischerscope X-ray)による耐食層の塗布分布の測定から得られる。したがって、Wsamod値は、純粋なコーティングのWsa1-5値を表し、コーティングで被覆された平鋼製品全体の値ではない。このように、鋼基体による影響を受けない純粋なコーティングの影響は、Wsamod値を求めることにより推定することができる。X線蛍光分析により表面全体にわたって走査ごとに測定したコーティング厚は、次いで、現在市販されている公知の画像処理ソフトウェアを使用してコーティングのWsa1-5値に変換することができる。
【0039】
Wsa値およびWsamod値を求めるためのカットオフ波長は、λc=1mmおよびλf=5mmである。カットオフ波長は、プロファイルフィルターが正弦波の振幅を50%に減少させる波長である。カットオフ波長は、粗さとうねりの間の境界の尺度として理解することができる。カットオフ波長λfは、より長い波長に関してうねりの境界を定める。
【0040】
本発明は、軟質IF鋼または焼付硬化型鋼製の平鋼製品の成形後のWsa値の劣化が不均一な材料特性に起因するという知見に基づいている。これに対処するために、本発明は、このような平鋼製品の異方性および表面測定可能なうねりを最適化するための手段を提案した。
【0041】
平面異方性Δrは、主に、厚みの外側からの圧延方向に対して異なる方向でのシートの平面内での材料の異なる塑性流動挙動の尺度として使用されてきた。平面異方性Δrは、DIN EN ISO 6892-1:2009に従って求められる。したがって、機械的引張試験片を圧延方向に対して「長手方向」、「横方向」および「対角線方向」の3方向で試験し、次いで平面異方性を式Δr=(r0°+r90°-2×r45°)/2により求める。この値が0に近いほど、成形中の材料の挙動がより等方性になる。したがって、このようにして求めたΔr値は、本発明に従って制限されるべきΔWsa値と相関することが示され得る。
【0042】
「垂直異方性」も考慮される。ナノ硬度曲線は、この特性値の尺度と見なすことができる。本目的のために、成形に起因するWsa値(=ΔWsa)の劣化が、材料の内部と比較して硬化しているか、またはより強い局所的に制限された表面近傍領域に起因すると考えられるため、シート厚みにわたる材料の機械的特性の曲線を知ることが必要である。したがって、例えば、脱炭表面層の場合のように、表面近傍層を、より深い層よりも軟らかくすることができる。しかしながら、表面近傍層は、例えば肌焼材料の場合のように、より深い層よりも大きな硬度を示すこともできる。
【0043】
表面近傍領域における硬度差ΔHが大きいほど、最大硬度が存在する表面近傍領域が薄いほど(=急峻な「硬度曲線のバスタブプロファイル」)、成形によるWsa値の劣化の可能性が高くなる。この原因は様々であり、スキンパス工程などによる表面近傍領域における転位密度の上昇、特に軟質のTi-安定化IF鋼の場合の不完全に再結晶化された第1粒子層、表面での酸化物および同様の析出物による固溶強化、ならびにBH鋼の場合の表面での炭素富化に起因する。
【0044】
特に、本発明に係る平鋼製品が、金属耐食コーティング、特にZnコーティングで被覆されている場合、基体を考慮するのに加えて、基体コーティング系を全体で判断できるようにするため、長いうねりに対するコーティングの影響を考慮することも必要である。本目的のための好適な方法は、DIN EN ISO 3497に従うX線蛍光(Fischerscope X-Ray)であり、当該方法では、所定の表面領域にわたる亜鉛層分布を走査し、基体の影響を好適なフィルターを使用して遮断する。このようにして、ノズルパラメータおよびスキンパス工程により直接影響を受けるコーティングの長いうねりの成分のみを考慮する。特別な数学的アルゴリズムを使用して、肉眼で見えるうねりを評価のために客観的な特性値(SEP1941を参照)に変換する。
【0045】
スラブ引き抜き温度Bztは、最高1270℃に達し、下限は、1200℃以上である。このようにスラブ引き抜き温度Bztが1200~1270℃の範囲内に制限されていると、スラブの鋼に含まれる硫化マンガンは溶解されない。MnS析出物の溶解は、スラブ引き抜き温度Bztが1250℃未満の場合に特に防止することができる。スラブ引き抜き温度は下限が1200℃であり、これは、当該温度未満では、この場合では温度緩衝剤がないために、既に熱間圧延ラインの仕上セクションにおいてフェライト変態の危険性があるからである。これは、機械的特性に対する負の効果と関連するため、望ましくない。さらに、炉内の軸受ブロックの摩耗が著しく増加する可能性がある。炉内のスラブの総滞留時間GLZは、その長さに依存する。180分未満の総滞留時間では充分なヒートスルーが達成されず、延いては、仕上セクションでのフェライト変態の危険性を生じさせ得る。対照的に、400分を超える総滞留時間では、製鋼所でのスラブの製造に起因するスラブ中の多すぎる析出物が溶解され得る。
【0046】
したがって、比較的低いスラブ引き抜き温度を設定することによって、スラブ炉内で溶解されなかった析出物、特に硫化マンガン、炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタン、硫化銅、および硫化マンガンなどを、その後の熱間圧延工程中でも溶解させず、その後にホットストリップ中に微細析出物を形成することが達成される。このような微細析出物の生成を回避するべきである。再結晶工程は微細析出物の存在によって影響を受け得るため、析出物のサイズおよびそれらの分布は、本発明の成功にとって決定的に重要である。ホットストリップ中の析出物がより小さく、より微細に分布していると、より多くの再結晶化が妨げられ、その結果、r値と、Δr値と、最終的には、Δr値に直接依存する平鋼製品のΔWsa値も、劣化する。
【0047】
したがって、本発明は、一方で、本発明に係る範囲内のスラブ引き抜き温度Bztとスラブが押し込まれて引き抜かれるまでの間に焼鈍炉内で費やす総滞留時間GLZとの間、および他方で、最終ホットロールパスにおける厚さ減少ΔdFと巻き取り温度HTとの間の複雑な相互作用が、本発明により得られる最終製品の質、特にそのナノ硬度(バルクおよび表面)に与える影響を、本発明において満たされなければならない以下の条件を通じて、考慮に入れる。
-0.529653*Q+0.944372*HT_t+0.711559*ΔdF_t<-0.1889459
式中、 Q=((Bzt/GLZ)-5.55281℃/分)/(1.777359℃/分)
Bzt:スラブ引き抜き温度(℃)
GLZ:総滞留時間(分)
HT_t=(HT-728.13030℃)/42.300114℃
HT:巻き取り温度(℃)
ΔdF_t=(ΔdF-12.43384%)/2.306328%
ΔdF:最終ホットロールパスでの厚さ減少(%)
【0048】
この条件の立式は、一方で、熱間圧延に先行するいわゆる粗列圧延におけるスラブの加工の重要な影響を与えるパラメータである、スラブ引き抜き温度Bzt、および総滞留時間GLZ、ならびに、他方で、熱間圧延および冷却セクションパラメータが、最終平鋼製品の特定の集合組織の形成に関与し、そして特定の集合組織は、特定のΔr値で表されるという知見に基づいている。
【0049】
スラブ引き抜き温度Bztと総滞留時間GLZとの組み合わせは、スラブ中の析出物の溶解および形成に影響を与えるが、これは、非常に高い温度と、また実際の熱間圧延工程と比較して、数時間という非常に長い工程所要時間とが、ここでは優先するからである。例えば、スラブへの溶融物の固化の間に早期に生成した析出物は、スラブの焼鈍の過程で溶解し、他の新しい析出物が形成され、他の析出物は再び存在したままであり、すなわちそれらは溶解しない。析出物のこの溶解、形成、および非溶解は、熱間圧延のパラメータ、および冷却セクションパラメータと直接相互作用し、したがって、ホットストリップの構造に決定的な影響を及ぼす。
【0050】
炉内滞留時間GLZおよびスラブ引き抜き温度Bztについて本発明において規定された条件は、スラブ中の粗い析出物が溶解しないように選択される。対照的に、過度に高いスラブ引き抜き温度または過度に長い焼鈍時間では、固化工程から生じるスラブ中の比較的粗い析出物が溶解するであろう。結果として、ホットストリップ粒子は、最初は、圧延工程中に支障なく成長することができるだろう。スラブが炉から引き出された後、最初にスラブの温度、次にスラブから圧延されたホットストリップの温度は、着実に低下する。結果として、加工された鋼材中に析出物を形成するための圧力が増加し、その結果、炉内のスラブ中に以前に溶解した析出物が再び形成されるが、もはや粗くはなく、溶鋼の固化後よりもはるかに微細な形態である。この微細化は、熱間圧延工程において、溶融物がスラブに鋳造されるときよりも温度が著しく低いということに起因する。
【0051】
対照的に、本発明に係るスラブ引き抜き温度Bztおよび総滞留時間GLZは、微細析出物、すなわち平均サイズが例えば60nm未満の析出物が再結晶化を妨げるため、粗い析出物の溶解およびその結果としての微細析出物の形成が防止されるように慎重に選択される。
【0052】
ナノ硬度(バルクおよび表面)もまた、粗列圧延パラメータである、スラブ引き抜き温度Bzt、および総滞留時間GLZによる影響を受ける傾向がある。再加熱炉内でのスラブの焼鈍は、典型的には65~75体積%の窒素からなる雰囲気下で、高温で行われる。アレニウスのアプローチに基づいて、これらの条件下で、Γ-Fe中のNの拡散が起こり、したがってスラブの表面で窒化、すなわち窒素富化が起こる。窒化によって影響を受ける厚み領域は、スラブの露出表面から始まり約3mmの深さまで延びる。この領域で起こる窒素富化は表面の硬化と関連している。本発明に係る方法で得られる厚さ0.65mmの平鋼製品において、窒素富化領域の厚さが3mmである255mmの典型的なスラブ厚から出発すると、これは、平鋼製品の表面に隣接する約8μmの硬化層をもたらす。
【0053】
さらに、焼鈍処理中の本発明に係る条件の遵守は、窒素含有炉雰囲気によるスラブ表面の窒化の最小化に対して正の効果を有する。典型的な炉雰囲気は、65~75体積%の窒素、5~15体積%のCO2、15~25体積%のH2O、および1~2体積%の酸素を含有する。窒素富化の程度が高すぎるスラブ表面は、冷間圧延ストリップ中に表面近傍硬化層をもたらし得、ここでも、「表面近傍」とは、典型的には、露出表面から始まり0~25μmの深さまで延びる層を指す。本発明に係る条件により、不可避の窒化は、本発明に従って製造される最終製品への悪影響が最小限に抑えられる程度に制限される。
【0054】
本発明によれば、熱間圧延は、いくつかの熱間圧延段階で従来のように実施することができる。例えば、実際には、ホットストリップを熱間圧延し、5または7つの熱間圧延段階で仕上げる熱間圧延機を本目的のために使用する。
【0055】
それぞれの場合に利用可能な熱間圧延技術に応じて、熱間圧延を、従来のように、粗熱間圧延と仕上熱間圧延とに分けることができる。したがって、仕上圧延に先行する粗圧延は、スラブから仕上熱間圧延に適した厚さを有する粗ストリップを製造するために、同様に従来のように、反転オペレーションで実施することができる。粗圧延の間、粗圧延ストリップが粗圧延列を離れる出力温度は、早すぎるフェライト変態を防ぐために、1050℃未満にならないようにするべきである。
【0056】
本発明に従って提供される鋼スラブの合金は、いわゆる「軟質IF鋼」および焼付硬化性を有する超低C含有量を有する鋼(「ULC鋼」)を含んでなる。
【0057】
表1において、典型的な合金の仕様は、それぞれの場合において、軟質IF鋼「軟質IF」について、焼付硬化性を有するULC鋼「ULC-BH」(「ULC」=超低炭素)および著しい焼付硬化性を有するELC鋼「ELC」(「ELC」=極低炭素)について記載されており、これらは、本発明に従って加工されるスラブおよび本発明に係る特性を有する平鋼製品について、本発明により規定される合金の仕様により包含される。
【0058】
本発明に従って提供される合金成分は、以下の効果を有する。
【0059】
炭素(C):
本明細書で対象とする種類のIF鋼の場合、炭素および窒素は、チタンおよび/またはニオブなどのミクロ合金化元素を介して完全に結合している。このようにして、低い降伏強度が達成され、フローラインからの自由が保証される。これに関連して、C含有量は0.05重量%まで達することができ、0.0003重量%以上のC含有量では、IF鋼に関して炭素の存在の有利な効果を特に確実に達成することができる。したがって、0.005重量%以上または0.045重量%以下のC含有量が達成されることが好ましい。
【0060】
焼付硬化性を有するULC鋼の場合には、成形特性の制御に加えて、C含有量(および場合によりN含有量)によるBH効果の制御も非常に重要である。KTL工程中の変形に続いて、自由炭素は、成形によって生じた転位で拡散する。その後の流動工程(成形工程)では、炭素が転位運動を妨げ、降伏強度が増大する。このようにして、プレス工場での加工中の良好な成形特性は、ストーブ焼付(「KTL」)後の部品で、より高い降伏強度と組み合わされる。したがって、本発明に従って加工された種類のULC鋼のC含有量は、0.0025重量%の領域内にあることが最適であり、0.0015重量%以上または0.0035重量%以下の含有量が実際に特に適していることが分かった。
【0061】
窒素(N):
炭素に関して上記で説明した効果を補助するために、本発明にしたがってそれぞれの場合において加工された鋼中に窒素を0.01重量%以下の含有量で存在させることができる。鋼の良好な成形特性および良好な時効硬化挙動を保証するために、この上限を超えない必要がある。実際に確実に補助的効果の達成を可能にするためには、0.0001重量%以上のN含有量が有利であり得る。本発明に従って加工された鋼中のNの存在は、0.0008重量%以上のN含有量で、特に好影響を有し得る。Nの存在の悪影響は、Nの含有量が0.008重量%以下に制限されることで、特に確実に回避され得る。
【0062】
ケイ素:
ケイ素は、0.2重量%以下の含有量で、本発明に従って提供されたスラブの鋼中に存在する。Siは固溶体硬化剤として作用する。Siは鋼の降伏強度および引張強度を増大させる。しかしながら、ケイ素含有量の増加は、成形挙動を損なう。本発明に従って加工された鋼中のSiの正の効果がある確実な使用は、0.0001重量%以上の含有量でなされ得る。本発明に従って加工された鋼中のSiの存在は、0.0005重量%以上のSi含有量で、特に正の効果を有する。Siの存在の悪影響は、Siの含有量が0.15重量%以下に制限されることで、特に確実に回避され得る。
【0063】
マンガン:
マンガンは、硫黄と共にMnSを形成し、それにより、存在し得る硫黄の負の効果を低減する。同時に、Mnは固溶体硬化剤としても作用し、この点でSiと同じ効果を有する。本発明に従って加工された鋼の特性に対するMnの正の効果がある特に確実な使用は、Mn含有量が0.01重量%以上、特に0.03重量%以上に達することでなされ得る。Mnの存在の正の効果がある効果的使用は、1.5重量%以下、特に0.8重量%以下の含有量でなされ得る。
【0064】
リン:
リンも、本明細書で対象とする種類の鉄合金の降伏強度および引張強度を増大させる。しかしながら、リンは、溶融物の固化中に一次偏析を引き起こし、ガンマ相の著しい狭小化により固体状態で二次偏析を引き起こす傾向がある。アルファ固溶体およびガンマ固溶体の両方における比較的遅い拡散速度の結果として、いかなる偏析も困難を伴ってのみ再び補うことができるだけであり、これは、本発明に従って加工された鋼のP含有量が、0.1重量%、特に0.08重量%以下に制限されているためである。本発明に従って加工された鋼の特性に対するPの正の効果がある特に確実な使用は、P含有量が0.001重量%以上、特に0.002重量%以上に達することでなされ得る。
【0065】
硫黄:
硫黄は、本明細書で対象とする種類の鋼において、かなりの程度まで偏析を引き起こす鋼の副元素である。同時に、硫黄は、鋼における赤熱脆性の要因である。これらの負の結果を回避するために、S含有量は、0.03重量%以下、特に0.025重量%以下に制限され、製造工程の結果として、0.0005重量%以上、特に0.001%以上のS含有量が、本発明に係る鋼の特性に典型的である。
【0066】
アルミニウム:
アルミニウムは、鋼の脱酸用の強力な脱酸剤として製鋼に使用されている。アルミニウムも窒素と窒化物を形成する。結果として、アルミニウムはまた、鋼の時効硬化に対する鈍感性を改良する。少量の添加では、アルミニウムは、微粒子の形成にも役立つ。したがって、本発明に従って加工された鋼は、0.001~0.12重量%のAlを含有する。本発明に従って加工された鋼の特性に対するAlの正の効果がある特に確実な使用は、Al含有量が0.005重量%以上に達することでなされ得る。したがって、本発明に従って加工された鋼のAl含有量が0.09重量%以下に制限されることで、Alの存在の負の効果が確実に回避され得る。
【0067】
チタンおよびニオブ(任意添加):
本発明に従って加工されたスラブの鋼に、0.15重量%以下、特に0.13重量%以下の含有量のチタン、または0.05重量%以下、特に0.01重量%以下の含有量のニオブが単独で存在していること、または互いに組み合わされて存在していることができる。チタンおよびニオブは、CおよびNを部分的または完全に結合するという目的を果たし、それにより材料の時効硬化の可能性を低減する。さらに、チタンおよびニオブは、析出物の形成および固溶体硬化の両方により材料の強度に影響を及ぼす。本発明に従って加工された鋼中のTiの存在は、0.0001重量%以上のTi含有量で、特に正の効果を有する。また、0.0005重量%以上のNb含有量が、実際には特に有利であることが分かっている。
【0068】
ホウ素(任意添加):
本明細書で対象とする種類の鋼中で、Bは本発明に係る鋼の成形性、特にr値を損なうため、ホウ素の含有量は0.005重量%、特に0.004重量%に制限される。しかしながら、Bの少量の添加は、脆性破壊を受けにくくすることに役立ち得る。本目的のために、0.0002重量%以上のBを本発明に係る鋼中に与えることができる。
【0069】
銅、クロム、ニッケル、モリブデン、およびスズ(任意添加):
本発明に従って加工されたスラブの鋼において、Cu、Cr、Ni、Mo、またはSnは、製造工程中に鋼中に取り込まれる技術的に不可避の不純物の中に分類され得る。これらの含有量は、他の不純物の含有量と同様に、技術的に有利で実現可能な範囲内で、本発明に従って加工された鋼の特性に悪影響を及ぼさないほど低く保たれなければならない。この点に関して、本発明は、Cu、Cr、およびNi含有量については、上限をそれぞれ0.15重量%以下、特に0.12重量%以下、Mo含有量については、上限を0.10重量%以下、特に0.08重量%以下、Sn含有量については、上限を0.05重量%以下、特に0.03重量%以下に規定する。
【0070】
本発明に係る方法で予熱されたスラブの熱間圧延は、本質的に公知の方法で実施することができる。熱間圧延の過程で、スラブは粗圧延を受けることができ、粗圧延で初期の厚さ減少80~90%が達成される。また、典型的には220~280mmの初期厚さで粗圧延セクションに入るスラブは、典型的には30~50mmの粗圧延ストリップ厚さに粗圧延される。
【0071】
粗圧延スラブは、本質的に公知の方法で、従来装備されている熱間圧延仕上列で数パス、典型的には5または7パスで、典型的には3~5mmの必要とされる最終厚さのホットストリップに仕上熱間圧延され得る。その結果、熱間圧延仕上列で達成される変形度は、典型的には85~95%に達する。
【0072】
熱間圧延の最終ロールパスでは、1~25%、特に5~20%の厚さ減少ΔdFが最終ホットロールパスで達成されるように圧延パラメータが調整され、ここでは、8~17%の厚さ減少ΔdFが特に好ましいことが分かっている。したがって、最終仕上スタンドにおける厚さ減少ΔdFは、変形度の直接的指標であり、フェライト変態前の最終動的再結晶化工程を表す。この変形度が低いほど、冷却によるフェライト変態の直前の再結晶化の推進力は低く、すなわち、凍結強制状態は回避される。さらに、低い変形度は、より球状のオーステナイト粒をもたらす傾向がある。この形状は、その後、変態後にフェライト粒子に受け継がれる。球状粒子はより等方性である傾向がある。
【0073】
そして、熱間圧延(粗+仕上)により達成される総変形度は、最終熱間圧延温度で典型的には95~99.5%に達し、また、最終熱間圧延温度は、典型的には850~950℃、特に910~950℃に達する。最終熱間圧延温度は、ホットストリップの粒径に影響を与える。粒径は、核形成および粒成長によって制御される。析出物の形態でより多くの核がホットストリップ中に存在するほど、これらの核は成長時にブレーキとして作用するため、粒径はより小さくなる。最終熱間圧延温度が低いほど、より多くの変態核が析出物の形態で形成され、ホットストリップの粒径がより小さくなる。したがって、本発明によれば、最終熱間圧延温度は950℃に制限される。
【0074】
熱間圧延の終了後、熱間圧延列の最終スタンドから出るホットストリップは、4~30K/秒の冷却速度で冷却される。10~22K/秒の冷却速度は、本発明に従って達成される、製造される平鋼製品の特性のプロファイルに関して、ここでは特に有利であることが分かっている。ここで、冷却速度がより速く、より高くなるほど、ホットストリップ中の粒成長が抑制され、さらに酸化がより少なくなるため、最終製品においてより良好な特性を達成することができるという傾向がある。ホットストリップ粒子が小さいほど、後続の冷間圧延工程中にエネルギーをよりよく吸収し、結果として、後続の再結晶化工程のより高い推進力も示し、等方性が改善され、そのためΔr値が減少する。さらに、表面近傍領域で妨害する酸化物が少ない。したがって、冷間圧延工程後に行われる再結晶化は、当該領域ではほとんど妨げられない。これは、表面近傍領域でより球状の粒子をもたらし、結果としてシート厚みにわたって均一なナノ硬度をもたらす傾向がある。>30K/秒の過度に高い冷却速度では、材料は、より硬くなり、<4K/秒の過度に低い冷却速度では、より軟らかくなり、機械的性質に悪影響を及ぼし得る。
【0075】
熱間圧延後の冷却は、「正面から」、すなわち、熱間圧延後できる限り直ちに、例えば、熱間圧延終了後0~4秒以内に行われることが、好ましい。しかしながら、「後ろから」、すなわち、熱間圧延後ある時間の間隔をおいて冷却を行うこと、例えば、4秒を超える休止時間後に冷却を開始することも可能である。
【0076】
冷却の過程で、ホットストリップは、典型的には620~780℃の巻き取り温度に冷却される。また、この温度範囲は、巻き取り温度もホットストリップの粒径に影響を与えるため、ホットストリップ中の粒成長を考慮して選択されている。過度に高い巻き取り温度では、粒成長が促進される。したがって、700~750℃の巻き取り温度範囲が、本発明に係る目的に特に有利であることが分かっている。これに関して、本発明に従って規定される巻き取り温度の範囲も、本発明において使用され、本発明に従って適用されるスラブ引き抜き温度BZTと総滞留時間GLZとの間の関係を通して達成される析出条件を考慮して選択されている。さらに、表面近傍領域における非常に微細に分布したTi析出物の形成は、高い巻き取り温度によって促進される。これらの析出物は、主に、冷間圧延工程後に適所に残るTi酸化物からなる。次いで、これらは、後続の再結晶焼鈍中に、再結晶化中の表面近傍の粒子配向を妨げるため、高い転位密度を有する回収される比較的細長い粒子のみが表面近傍に存在する傾向があり、これにより表面近傍領域において強度が高められ、延いては硬度も高められる。
【0077】
冷間圧延の前に、通常通り、ホットストリップからスケールおよびホットストリップに付着している他の残留物を除去し、本目的のために、例えば、従来の酸洗処理を使用する。
【0078】
その後の冷間圧延は、通常の方法で行うことができる。その結果、総変形度は、70~90%の範囲内で達成される。
【0079】
本発明に従って行われる再結晶焼鈍の間、650~900℃、特に720~880℃の焼鈍温度が維持される。
【0080】
-15℃を超える比較的高い露点を有する焼鈍雰囲気下で焼鈍を行うことで、成形中のWsa値の増加を特に効果的に防ぐことができるが、これは、この場合、約10ppmの炭素が、10~50μmの深さにわたる表面近傍領域で除去されるからである。本目的のために、再結晶焼鈍を、スルーフィード工程において、650~870℃の焼鈍温度、70~180m/分の処理速度、+15℃~-50℃の焼鈍雰囲気の露点で行うことができる。
【0081】
スラブが最小化されたC含有量を有する焼付硬化鋼またはULC鋼などに典型的な成分からなる場合に、たとえ焼付硬化特性に悪影響を及ぼし得るとしても、Wsa値を最適化するために、表面近傍領域の強度特性をシートの体積に合わせるように、表面の遊離C含有量を低減することが有利であり得る。これは、スルーフィード工程で、再結晶焼鈍と組み合わせて行われることが最適である、脱炭焼鈍により達成することができ、この場合、冷間圧延平鋼製品を、650℃~870℃の範囲にある、特に800℃以上の焼鈍温度で、露点が+15℃~-50℃、例えば-15℃~-50℃の範囲内にある焼鈍雰囲気下で、70~180m/分の処理速度で焼鈍する。このようにして、870℃の焼鈍温度、70m/分の処理速度、および0℃の露点で、>60%の脱炭を達成することができる。対照的に、830℃の焼鈍温度、90m/分の処理速度、および-50℃の焼鈍雰囲気の露点は、約30%の脱炭を達成する。
【0082】
スラブがIF鋼に典型的な成分からなる場合、650~870℃の焼鈍温度では、焼鈍雰囲気の露点を、典型的には、-10℃~-50℃で選択することができる。IF鋼の場合、炭素は、析出物の形態で結合している。結果として、IF鋼は、遊離炭素を含まず、そのため、全く脱炭が起こらないことがあり得る。したがって、焼鈍雰囲気の露点を自由に選択することができる。
【0083】
寸法公差を改善し、表面性状を最適化するために、本発明に従って製造された平鋼製品を、本質的に公知の方法でスキンパス圧延に付し、典型的には、0.3%以上、特に0.5%以上、かつ2.0%以下のスキンパスレベルで仕上げる。焼付硬化鋼に典型的な組成を有する鋼を加工する場合、より高いスキンパスレベルで、例えば0.75%超、特に1%超のスキンパスレベルで、スキンパス圧延を行うことができる。一方、軟質IF鋼に典型的な組成を有する鋼を加工する場合、典型的には0.5~1%、特に0.7%以下にスキンパスレベルを設定することができる。
【0084】
0.5%以上のスキンパスレベルで本発明に係るスキンパス工程により本発明に係る表面性状を確実に達成するために、2.7μm未満のRa値および70 1/cmを超えるピークカウントによって特徴付けられる、放電テクスチャリング(「EDT」)により作製された粗さを有するワークロールを使用することができる。
【0085】
亜鉛系もしくは亜鉛-マグネシウム系の溶融コーティング、またはガルバニーリング処理を意図した溶融コーティングの場合、冷間圧延工程の後かつスキンパス工程の前にコーティングを施すことができる。電着塗装平鋼製品の場合、コーティングはスキンパス工程の後に行うことができ、この場合、スキンパスは焼鈍処理後に行う。焼鈍処理は、ベル型炉内で、または連続焼鈍として行うことができる。対応して塗布されたコーティングを備えた本発明に係る平鋼製品は、0.30μm未満、特に0.25μm未満のWsamod値を有する。
【0086】
本発明によれば、目的は、それぞれのWsa値、「Wsa1-5」または「Wsa_mod」を可能な限り低く保つことである。いずれの場合も、本発明に従って製造され、対応する特性を有する平鋼製品のそれぞれのWsa(1-5)は、それぞれの場合において、0.35μm未満であるため、自動車の車体外装部品の製造を意図した平鋼製品に実際に適用される仕様が確実に満たされる。この仕様は、5%変形マルシニアック(Marciniak)カップについて上記で説明した方法で求めたWsa(1-5)値に特にあてはまる。本発明に係る平鋼製品のWsa(1-5)値が低いほど、本発明に係る平鋼製品から成形により製造された部品に許容し得る程度を超えるうねりが生じる確率が低くなる。したがって、0μmにできるだけ近いWsa1-5値が最適と見なされるべきである。そのため、本発明において許容されるWsa(1-5)値の数値は、0μm~<0.35μmの範囲にわたり、Wsamod値については、0μm~<0.3μmの範囲にわたる。範囲限界の記載は常に、それぞれのWsa値について本発明により規定される範囲の下限についての条件「0μm」などは、技術的意味において理解されるべきであり、すなわち、関連する限界値が記載されている精度の範囲内で公差に関連する偏差も含まれることが、当業者には明らかである。典型的には、実際には、それぞれのWsa値について求められる値の下限は、約0.2μm、特に0.22μmである。
【実施例】
【0087】
本発明の効果を証明するために、試験1~8、10~25、および27~30では、表2に記載の組成を有する溶融物を溶融し、スラブに鋳造した。
【0088】
表2において、鋼種「A」は、表1に記載の鋼合金に該当する軟質IF鋼の組成を表し、鋼種「B」は、表1に記載のULC-BH鋼合金に該当する組成を表し、鋼種「C」は、表1に記載のELC鋼合金に該当する組成を表す。
【0089】
スラブを、それぞれ、表3に記載の総滞留時間GLZにわたって、同様に表3に記載のスラブ引き抜き温度Bztまで炉内で加熱した。その後、スラブを熱間圧延してそれぞれ熱間圧延ストリップにするために、スラブは従来の熱間圧延プログラムを受けた。熱間圧延の最終ロールパス、すなわち熱間圧延仕上列の最終ロールスタンドで達成される変形ΔdFも表3に記載されている。
【0090】
このようにしてそれぞれの場合に得られたホットストリップ「WB」を、次いで、同様に本質的に従来の方法で、表3にそれぞれ記載されている対象の種類の鋼に典型的な巻き取り温度HTまで冷却し、熱間圧延の終了後、冷却を0~4秒以内(冷却法「V」)または4秒超15秒以内(冷却法「H」)に開始した。それぞれの冷却法も表3に示されている。
【0091】
次いで、このようして得られた熱間圧延ストリップを冷間圧延ストリップKBに連続的に冷間圧延した。冷間圧延レベルは70~90%に達した。得られたコールドストリップの厚さは0.5~1.1mmであった。
【0092】
冷間圧延後、得られたコールドストリップを溶融亜鉛めっきラインで溶融めっきした。本目的のために、ストリップの表面から塵、油脂、スケール、およびエマルション残留物を除去するためにストリップを最初に洗浄した。次いで、コールドストリップを連続炉で再結晶焼鈍し、次いで、0.2重量%のAl、微量のFeおよびPb、残部のZnおよび不可避不純物を含む亜鉛浴でコーティングした。従来のエアーナイフシステムによってコーティング厚を1~15μmの値に調整した。
【0093】
5%変形後のうねりに著しい影響を及ぼす対照値および特性値: ホットストリップ粒径「WB粒径」、コールドストリップ集合組織{111}<110>「KB集合組織{111}<110>」、コールドストリップ中の析出物の平均サイズ「KB中の析出物の平均サイズ[nm]」、コールドストリップの平均Δr値「平均Δr KB」、未変形平鋼製品のWsa(1-5)値「Wsa0%」;5%変形でマルシニアック(Marciniak)カップに変形した平鋼製品のWsa(1-5-5%)値「Wsa5%」、Wsa-0%とWsa-5%との差「ΔWsa」、コーティングのWsa値「Wsamod」、表面下領域H_バルクのナノ硬度「ナノ硬度H_バルク」;「ナノインデンテーションΔH」、冷間圧延されコーティングされたストリップKBでそれぞれの場合において測定した、HTC測定で測定した650℃で2000秒後に起きる軟化「650℃で2000秒後の軟化のHTC測定」が表4に記載されている。該当する試験の評価で何の値も求められなかった表の位置には、「\」のマークが付けられている。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】