(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】deNOX触媒を再生する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/92 20060101AFI20221122BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20221122BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20221122BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20221122BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20221122BHJP
B01J 38/06 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B01J23/92 A
B01J23/22 A
B01J38/12 A
B01D53/86 222
B01D53/96 500
B01J38/06 ZAB
(21)【出願番号】P 2019516229
(86)(22)【出願日】2017-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2017074241
(87)【国際公開番号】W WO2018055165
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-18
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002105
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ウェンジョン
(72)【発明者】
【氏名】バッケル,ヘールト・マルテン
(72)【発明者】
【氏名】リー,スティーブン・ラッセル
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-116443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0061906(US,A1)
【文献】特開昭60-048147(JP,A)
【文献】特開昭52-150795(JP,A)
【文献】特開昭55-167025(JP,A)
【文献】特開平09-225310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/74 - 53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
deNO
X触媒を再生するための方法であって、250~390℃の範囲の温度で前記触媒を、プロセスガス、水蒸気、および任意に空気を含む流れと接触させることを含み、前記水蒸気が全流れのうちの10~50体積%の量で存在し、前記再生が、5~168時間の期間にわたって実行され
、前記プロセスガスが、一酸化炭素、窒素酸化物、および硫黄化合物の混合物を含む、方法。
【請求項2】
前記触媒が、失活したdeNO
X
触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、290~350℃の範囲の温度で水蒸気と接触する、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が、310~350℃の範囲の温度で水蒸気と接触する、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項5】
前記再生が、24~48時間の期間にわたって実行される、請求項1~
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
プロセスガス流中の窒素酸化物成分の量を低減する方法であって、
a.窒素酸化物成分の転化ならびにdeNO
X触媒によるNO
X転化の減少をもたらす、前記プロセスガスをdeNO
X触媒と接触させることと、
b.前記プロセスガスの流量を低減し、250~390℃の範囲の温度で前記deNO
X触媒を、プロセスガス、水蒸気、および任意に空気を含む流れと接触させることによって、前記NO
X転化を改善するために前記deNO
X触媒を再生し、前記水蒸気が全流れのうちの10~50体積%の量で存在し、再生ステップが、5~168時間の期間にわたって実行されることと、を含む、方法。
【請求項7】
ステップa)が、140~300℃の範囲の温度で実行される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)が、アンモニアの存在下で接触させることをさらに含む、請求項
6または
7に記載の方法。
【請求項9】
前記NO
Xが、少なくとも部分的に水および窒素に転化される、請求項
6~
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップb)が、アンモニアの非存在下で実行される、請求項
6~
9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記プロセスガスが、硫黄化合物を追加で含む、請求項
6~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記硫黄化合物が、二酸化硫黄および/または三酸化硫黄を含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
NO
X転化の減少が、前記deNO
X触媒上の硫黄および/または硫黄化合物の存在によって少なくとも部分的に引き起こされる、請求項
11または
12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)の後の前記deNO
X触媒が、少なくとも1.3重量%の硫黄含有量を有する、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記deNO
X触媒上の前記硫黄含有量が、ステップb)において1.3重量%未満まで低減される、請求項
11~
14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
硫酸アンモニウムおよび/または重硫酸アンモニウムの形態の硫黄が、ステップb)において前記触媒から除去される、請求項
6~
15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記deNO
X触媒が、チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム、または窒素酸化物の窒素および水への転化に適していることが知られている他の化合物の要素のうちの1つまたは複数を含む、請求項1~
16のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、deNOX触媒を再生する方法と、プロセスガス流中の窒素酸化物成分の量を低減するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼排ガス流および他の工程、例えばカプロラクタムプラントにおける工程からのプロセスガス等のプロセスガスは、典型的には、工程または燃焼中に生成される窒素酸化物、NOXを含有する。窒素酸化物値を低減するための1つの工程として、選択的触媒還元(SCR)法がある。この工程では、窒素酸化物は、SCR条件下でアンモニアまたはアンモニアを形成する物質を使用して、deNOX触媒による窒素および水に転化される。
【0003】
プロセスガス流は、工程または燃焼ステップの結果である様々な汚染物質、例えば、二酸化硫黄、三酸化硫黄、リン、重金属、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属も含み得る。これらの汚染物質は、触媒によるNOX転化の低減をもたらすdeNOX触媒の汚れおよび/または被毒を引き起こし得る。触媒性能は、NOX転化率の損失を取り戻すために再生ステップが必要とされる程度あるいは触媒を交換しなければならない程度まで低下し得る。様々なdeNOX触媒再生方法が、先行技術に記載されているが、これらは、典型的には液体で洗浄するための工程または400℃を超える高温で熱処理するための工程から触媒を除去することを必要とする。触媒をオフラインにせずに、または触媒をより低い温度もしくはより短い時間で熱的に再生させずに実行され得る再生方法を開発することが有利であろう。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、250~390℃の範囲の温度で触媒を蒸気と接触させることを含む、deNOX触媒を再生するための方法を提供する。
【0005】
本発明は、プロセスガス流中の窒素酸化物成分の量を低減する方法であって、a)窒素酸化物成分の転化ならびにdeNOX触媒によるNOX転化の減少をもたらす、プロセスガスをdeNOX触媒と接触させることと、b)250~390℃の範囲の温度でdeNOX触媒を蒸気と接触させることによって、NOX転化を改善するためにdeNOX触媒を再生することと、を含む、方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、deNOX触媒、特に、プロセスガス中の硫黄含有化合物により引き起こされるNOX転化の低減を示すdeNOX触媒を再生するための改善された方法を提供する。これにより、触媒寿命を延ばし、かつdeNOXユニットの停止時間を短縮した、改善されたNOX低減工程が提供される。
【0008】
deNOX触媒は、プロセスガス流中の窒素酸化物の濃度を低減するための当技術分野で既知の任意のdeNOX触媒であり得る。deNOX触媒は、チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム、または窒素酸化物の窒素および水への転化に適していることが知られている他の化合物を含有し得る。触媒は、任意の適している形状であってもよく、または基材上のウォッシュコートであってもよく、例えば触媒は、押出ハニカム、ウォッシュコート金属板、ウォッシュコート波形板、またはフォーム基材上であってもよい。別の実施形態では、触媒は、ペレットの形態であってもよい。
【0009】
プロセスガスは、加熱器、炉、直接燃焼ボイラーにおいて、または任意の他の燃焼工程もしくは他の工程によって生成されてもよい。プロセスガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄化合物、ならびにリン、重金属、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属を含有し得る微粒子に加えて、燃焼または処置される供給流中に存在する他の汚染物質を含む、任意の数の生成物を含有してもよい。硫黄化合物は、硫黄酸化物、例えば二酸化硫黄および三酸化硫黄であり得る。硫黄化合物は、典型的には、硫黄が供給流中に存在する結果として発生し、供給流は、重油または他の炭化水素流、石炭または都市廃棄物、産業廃棄物、および病院廃棄物等の廃棄物を含んでもよい。
【0010】
プロセスガスは、これらの生成物および汚染物質のいずれかまたは全てを除去するために処理されてもよく、その処理は、典型的には、関連する環境規制によって決定される。プロセスガスは、1つ以上の触媒を含み得る1つ以上の処理ゾーンを通過する。例えば、プロセスガスを電気集塵器または布地フィルタに通過させて微粒子の一部分を除去し、酸性ガス除去システムを通過させて二酸化硫黄および三酸化硫黄を含む酸性ガスの一部分を除去され得る。
【0011】
プロセスガスは、典型的にはアンモニアの存在下でdeNOX触媒と接触して、窒素酸化物を窒素および水に転化する。触媒は、触媒モジュール、例えばハニカムまたはプレート型触媒モジュールならびにラテラルフロー反応器、ラジアルフロー反応器、またはアキシャルフロー反応器中に存在し得る。deNOX反応は、140~300℃の温度で実行され得る。
【0012】
経時的に、deNOX触媒上のNOX転化は低減する。これは、活性部位が物理的に覆われている、すなわち、窒素酸化物転化に対して活性ではないという点において微粒子および/または活性部位が他のプロセスガス成分と化学的に反応しているという結果であり得る。プロセスガスからの塵埃および/または他の微粒子が触媒表面に物理的に堆積する可能性があり、経時的により多くの部位が隠される。硫酸アンモニウム、重硫酸アンモニウム、ならびに塩化アンモニウムおよび硝酸アンモニウム等の他のアンモニウム塩は、注入されたアンモニアとプロセスガス中の成分との反応によって形成し得る。これらのアンモニウム塩は、触媒上に凝縮または堆積し、触媒上の硫黄濃度を増加させ得る。
【0013】
加えて、硫黄酸化物等の硫黄化合物は、触媒上に堆積し、触媒上の硫黄濃度を増加させてNOX転化の低減をもたらし得る。プロセスガスがdeNOX触媒を通過するとき、触媒上に堆積した硫黄の濃度が増加する。硫黄含有量は、触媒の総重量の百分率としての元素硫黄として計算された、触媒上の0.2重量%を超える濃度まで増加し得る。触媒上の硫黄の量は、1.0重量%または2重量%またはさらに高い濃度までさらに高く増加し得る。触媒上のこの硫黄の濃度の結果として、触媒によるNOX転化は低減する。
【0014】
deNOX触媒を再生するために、deNOX触媒を再生条件下で蒸気と接触させる。これらの再生条件は、所望の温度、流速、蒸気含有量、および再生時間を含む。蒸気は、近くの高圧ボイラーで生成されてもよく、蒸気利用システムの一部であってもよく、または処理するプロセスガスを生成するのと同じ工程で生成されてもよい。この最後の実施形態は、蒸気を再生に使用する必要がある場所とほぼ同じ場所で生成されるため、特に有用である。
【0015】
再生は、プロセスガスが触媒に接触する同じ温度で実行されてもよく、または蒸気は、再生中により高い温度まで触媒を加熱するのに十分な熱を提供してもよい。代替として、熱は、加熱器または他の熱源によって提供されてもよい。再生温度は、好ましくは250~390℃の範囲、より好ましくは250~370℃の範囲、およびさらにより好ましくは290~350℃の範囲である。別の実施形態では、温度は、310~350℃の範囲であってもよい。
【0016】
再生ステップにおける圧力は、典型的には、周囲圧力またはそれに近い圧力である。
【0017】
再生ステップ中、蒸気に加えて、触媒を空気流と接触させてもよい。
【0018】
別の実施形態では、再生ステップ中に触媒をプロセスガスと継続して接触させてもよい。本実施形態では、必要とされる蒸気の量は、プロセスガス中に既に存在し得る蒸気の量に依存する。プロセスガスが触媒を継続して通過する場合、再生ステップ中に基礎となる工程を停止する必要はない。
【0019】
プロセスガスの流量は、再生ステップ中に低減され得る。流量は、その通常の流量の50%、好ましくはその通常の流量の25%、より好ましくはその通常の流量の10%、および最も好ましくはその通常の流量の5%まで低減されてもよい。流量は、通常の流量の2~5%に低減されてもよい。一実施形態では、プロセスガスの流量を停止してもよい。再生ステップ中に蒸気および/または空気が供給されるときにプロセスガスの流量を停止してもよい。
【0020】
触媒は、再生ステップ中の全ガス流の10~50体積%の量の蒸気と接触し得る。全ガス流は、15~40体積%の蒸気を含み得る。
【0021】
再生中に、典型的にはdeNOX操作中の触媒およびプロセスガスと接触するアンモニアを停止してもよいか、または低減流速で継続して流してもよい。好適な実施形態では、アンモニア流は、再生中に停止される。
【0022】
再生ステップ中に触媒を通る蒸気および任意選択で空気流は、アンモニウム塩を解放し、次いでアンモニウム塩は分解されて触媒から除去され得る。これは、触媒の性能を改善し、フレッシュ触媒のNOX転化率の少なくとも50%までNOX転化率を戻すことに役立つ。
【0023】
再生ステップは、触媒上に存在する硫黄化合物も除去する。再生は、触媒上の硫黄値を、触媒上の硫黄の1.3重量%未満、好ましくは0.9重量%未満、およびより好ましくは0.6重量%未満まで低減し得る。
【0024】
再生は、触媒をその元々のNOX転化率の少なくとも50%、好ましくはその元々のNOX転化率の少なくとも80%、より好ましくはその元々のNOX転化率の少なくとも90%、およびさらにより好ましくはその元々のNOX転化率の少なくとも95%まで回復させるのに十分な時間にわたって実行され得る。再生は、5~168時間、好ましくは12~72時間、およびより好ましくは24~48時間の期間にわたって実行され得る。
【実施例】
【0025】
実施例では、プロセスガスを処理するために2つの異なる産業立地で使用されたdeNOX触媒を試験し、次いで異なる条件下で再生して触媒のNOX転化に対する効果を決定した。
【0026】
実施例1
本実施例では、産業用deNO
X触媒を使用してプロセスガスを処理した後に、deNO
X触媒を再生した。触媒は、三裂の形態のバナジウム含有deNO
X触媒であった。表1に示す4つの異なる組の条件下で触媒を再生した。測定された触媒のNO
X転化は、表2ならびに転化回復を示す欄に示されている。転化回復は、フレッシュ触媒のNO
X転化で割った再生触媒のNO
X転化として定義される。表2は、触媒上の硫黄の量も示す。表2は、フレッシュ触媒について、プロセスガスを処理するために使用された後の触媒について、および表1に示す各再生条件の後の触媒についての上記データを示す。
【表1】
【表2】
【0027】
表から分かるように、再生条件下で蒸気を使用する再生工程は、deNOX触媒のNOX転化率を、その元々のNOX転化率まで、またはそれに近いNOX転化率まで回復するのに有効である。
【0028】
実施例2
本実施例では、同じ種類の触媒を、異なる産業条件下で異なるプロセスガスと接触させた。本実施例では、触媒は異なる条件下で再生され、その条件うちのいくつかは、プロセスガス(またはNO
XおよびSO
2等のプロセスガス成分)との継続的接触を含んだ。表3は、異なる再生条件を示す。表4は、SCR工程での使用後、次いで表3に示す各再生条件の後の、フレッシュ触媒の触媒性能および他のデータを示す。
【表3】
【表4】
【0029】
実施例2から分かるように、再生ステップ中のNOXおよびSO2の流量によって示されるように、再生工程は、触媒を通してプロセスガスを継続して流すときであっても有効である。
【0030】
実施例3
本実施例では、deNO
X触媒を7ppmのSO2を含有するプロセスガスと接触させた。その後失活した触媒を260℃の温度で蒸気と24時間接触させることによって再生した。再生中、触媒を40体積%の蒸気を含む流れと接触させた。
図1は、フレッシュ触媒(A)、プロセスガスと48時間接触させた後の触媒(B)、プロセスガスと96時間接触させた後の触媒(C)、および再生ステップ後の触媒(D)の160℃~200℃の多数の温度でのNO
X転化を示す。
図1から分かるように、再生は、触媒のNO
x転化率を、フレッシュ触媒と実質的に同一のNO
X転化率まで回復するのに有効であった。