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特許7181228電線、電線の製造方法及びマスターバッチ
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  • 特許-電線、電線の製造方法及びマスターバッチ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電線、電線の製造方法及びマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20221122BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B13/14 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019562884
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044146
(87)【国際公開番号】W WO2019130975
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-03-10
(31)【優先権主張番号】62/610,434
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510222590
【氏名又は名称】ダイキン アメリカ インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】DAIKIN AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】20 Olympic Drive,Orangeburg,New York 10962,U.S.A
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】シンプソン ウェイド マーティン
(72)【発明者】
【氏名】酒見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 眞司
(72)【発明者】
【氏名】河原 一也
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027702(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/004013(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098867(WO,A1)
【文献】特開2015-110716(JP,A)
【文献】特開2017-8123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と、前記芯線を被覆する被覆層とを備える電線であって、
前記被覆層は、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
前記非フッ素樹脂は、ポリアミド6であり、
前記結晶性含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記結晶性含フッ素重合体の含有量が、前記非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%であり、
前記結晶性含フッ素重合体の平均粒径が0.1~50.0μmである
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
前記結晶性含フッ素重合体は、溶融加工可能な結晶性含フッ素重合体である請求項1記載の電線。
【請求項3】
前記結晶性含フッ素重合体の融点が、前記ポリアミド6の融点より、20℃低い温度以上80℃高い温度以下である請求項1又は2記載の電線。
【請求項4】
非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含むマスターバッチと、非フッ素樹脂とを混合して被覆組成物を得る工程(1)、及び、
芯線上に前記被覆組成物を溶融押出することにより、前記芯線上に被覆層を形成する工程(2)を含み、
前記非フッ素樹脂は、ポリアミド6であり、
前記結晶性含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記マスターバッチ中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、前記マスターバッチ中の非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%であり、
前記被覆層中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、前記被覆層中の非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%であり、
前記結晶性含フッ素重合体の平均粒径が0.1~50.0μmである
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項5】
電線の芯線上に被覆層を形成するためのマスターバッチであって、
非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
前記非フッ素樹脂は、ポリアミド6であり、
前記結晶性含フッ素重合体は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記結晶性含フッ素重合体の含有量が、前記非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%であり、
前記結晶性含フッ素重合体の平均粒径が0.1~50.0μmである
ことを特徴とするマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線、電線の製造方法及びマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
電気通信分野、建設インフラ分野等に用いられる電力ケーブルの設置作業を行う際、配管への取り付け作業を行う必要がある。しかしながら、従来、上記ケーブルの外表面は摩擦係数が高く、配管へケーブルを取り付ける際に、抵抗が大きいため、作業中にケーブルが損傷するおそれがあり、取り付け作業性が悪かった。
【0003】
上記課題を解決するために、特許文献1及び2では、エルカ酸アミドといった脂肪族アミドやシリコーンオイルを、ケーブル成形時に添加し、脂肪族アミドやシリコーンオイルを表面にブリードさせることで摩擦係数を低下させ、配管との滑り性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2016/0012945号明細書
【文献】特開2013-251270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、滑り性、外観及び保存安定性に優れる電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、芯線と、上記芯線を被覆する被覆層とを備える電線であって、
上記被覆層は、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%である
ことを特徴とする電線に関する。
【0007】
上記結晶性含フッ素重合体は、溶融加工可能な結晶性含フッ素重合体であることが好ましい。
【0008】
上記ポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド12からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
上記ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
上記非フッ素樹脂がポリアミド樹脂であり、上記結晶性含フッ素重合体の融点が、上記ポリアミド樹脂の融点より、20℃低い温度以上80℃高い温度以下であることが好ましい。
【0011】
上記非フッ素樹脂がポリオレフィン樹脂であり、上記結晶性含フッ素重合体の融点が、上記ポリオレフィン樹脂の融点より、40℃高い温度以上160℃高い温度以下であることも好ましい。
【0012】
上記非フッ素樹脂がポリ塩化ビニル樹脂であり、上記結晶性含フッ素重合体の融点が150~300℃であることも好ましい。
【0013】
本開示は、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含むマスターバッチと、非フッ素樹脂とを混合して被覆組成物を得る工程(1)、及び、
芯線上に上記被覆組成物を溶融押出することにより、上記芯線上に被覆層を形成する工程(2)を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記マスターバッチ中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記マスターバッチ中の非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%であり、
上記被覆層中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記被覆層中の非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%である
ことを特徴とする電線の製造方法にも関する。
【0014】
本開示は、電線の芯線上に被覆層を形成するためのマスターバッチであって、
非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%である
ことを特徴とするマスターバッチにも関する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、滑り性、外観及び保存安定性に優れる電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の電線の製造方法において使用可能な装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を具体的に説明する。
【0018】
本開示は、芯線と、上記芯線を被覆する被覆層とを備える電線であって、
上記被覆層は、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%であることを特徴とする電線に関する。
本開示の電線は、表面の滑り性が良く、配管等への取り付け作業性(あるいは配管等からの引き抜き作業性)に優れる。
また、本開示の電線は、表面が平滑で、外観に優れる。
また、本開示の電線は、被覆層から成分がブリードアウトしにくく、保存安定性に優れる。したがって、ブリードアウトした成分による被覆層の触感悪化(表面のべたつき)や、電線成形機の汚染等の問題が起こりにくい。従来提案されていた脂肪族アミドやシリコーンオイルといった添加剤は、電線成形後にブリードアウトするので、被覆層の触感を悪化させたり、電線成形機を汚染したりするおそれがある。
【0019】
上記被覆層は、非フッ素樹脂を含み、上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
上記ポリアミド樹脂、上記ポリオレフィン樹脂及び上記ポリ塩化ビニル樹脂としては、電線の被覆材として使用可能な公知のものを使用してよい。
上記ポリアミド樹脂としては、なかでも、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド12からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミド6が特に好ましい。
上記ポリオレフィン樹脂としては、なかでも、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。上記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、超低密度ポリエチレン(V-LDPE)が挙げられる。その中でも特に、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、超低密度ポリエチレン(V-LDPE)が好ましい。
【0021】
上記非フッ素樹脂としては、なかでも、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0022】
上記被覆層は、結晶性含フッ素重合体を含む。上記結晶性含フッ素重合体としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕、TFE/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、エチレン〔Et〕/TFE共重合体〔ETFE〕、Et/TFE/HFP共重合体〔EFEP〕、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕等が挙げられる。
【0023】
上記結晶性含フッ素重合体は、融点が100~360℃であることが好ましく、140~350℃であることがより好ましく、160~320℃であることが更に好ましく、180~300℃であることが特に好ましい。
本明細書において、融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0024】
上記非フッ素樹脂がポリアミド樹脂である場合、上記結晶性含フッ素重合体の融点は、上記ポリアミド樹脂の融点より、20℃低い温度以上80℃高い温度以下であることが好ましく、10℃低い温度以上50℃高い温度以下であることがより好ましい。
【0025】
上記非フッ素樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、上記結晶性含フッ素重合体の融点は、上記ポリオレフィン樹脂の融点より、40℃高い温度以上160℃高い温度以下であることが好ましく、80℃高い温度以上160℃高い温度以下であることがより好ましい。
【0026】
上記非フッ素樹脂がポリ塩化ビニル樹脂である場合、上記結晶性含フッ素重合体の融点は、150~300℃であることが好ましく、190~270℃であることがより好ましい。
【0027】
上記結晶性含フッ素重合体は、溶融加工可能な結晶性含フッ素重合体であることが好ましい。本明細書において、溶融加工可能であるとは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
上記溶融加工可能な結晶性含フッ素重合体は、メルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~50g/10分であることがより好ましい。
本明細書において、MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサーを用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃、PTFEの場合は380℃)、荷重(例えば、PFA、FEP、ETFE及びPTFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0028】
上記溶融加工可能な結晶性含フッ素重合体としては、上述したPFA、FEP、ETFE、EFEP、PVdF等が挙げられる。
【0029】
上記結晶性含フッ素重合体としては、なかでも、FEP、ETFE、EFEP及びPVdFからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、FEP、ETFE及びEFEPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、FEP及びETFEからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、FEPが最も好ましい。
【0030】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、75/25以上98/2以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上95/5以下である。TFE単位が少なすぎると滑り性が悪化する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ外観が悪化する傾向がある。上記FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0031】
上記FEPは、融点が150~324℃未満であることが好ましく、200~320℃であることがより好ましく、210~280℃であることが更に好ましい。
【0032】
上記FEPは、MFRが0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~50g/10分であることがより好ましい。
【0033】
上記ETFEとしては、TFE単位とエチレン単位とのモル比(TFE単位/エチレン単位)が20/80以上90/10以下である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は37/63以上85/15以下であり、更に好ましいモル比は38/62以上80/20以下である。ETFEは、TFE、エチレン、並びに、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH=CXRf、CF=CFRf、CF=CFORf、CH=C(Rf
(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、Rfはエーテル結合を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す。)で表される単量体が挙げられ、なかでも、CF=CFRf、CF=CFORf及びCH=CXRfで表される含フッ素ビニルモノマーが好ましく、HFP、CF=CF-ORf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)及びRfが炭素数1~8のフルオロアルキル基であるCH=CXRfで表される含フッ素ビニルモノマーがより好ましい。また、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体は、イタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。TFE及びエチレンと共重合可能な単量体は、含フッ素重合体に対して0.1~10モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましく、0.2~4モル%が特に好ましい。
【0034】
上記ETFEは、融点が150~324℃未満であることが好ましく、200~320℃であることがより好ましく、210~280℃であることが更に好ましい。
【0035】
上記ETFEは、MFRが0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~50g/10分であることがより好ましい。
【0036】
上述した共重合体の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0037】
上記結晶性含フッ素重合体の含有量は、上記非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%である。電線が滑り性、外観及び保存安定性に一層優れる点で、上記含有量は、上記非フッ素樹脂に対して0.5~3.0質量%であることが好ましく、0.5~2.5質量%であることがより好ましく、0.5~2.0質量%であることが更に好ましく、0.5~1.5質量%であることが特に好ましい。
【0038】
上記被覆層は、外観に一層優れる点で、表面粗さ(Ra)が5.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることが更に好ましい。上記表面粗さの下限は、0.1μmであってよい。
上記表面粗さは、上記被覆層の表面をレーザー顕微鏡を用いて倍率110倍で観察することにより測定する値である。
【0039】
上記非フッ素樹脂がポリアミド樹脂である場合、上記被覆層は、表面の静摩擦係数が0.32以下であることが好ましく、0.29以下であることがより好ましく、0.28以下であることが更に好ましい。上記静摩擦係数の下限は、低い方が好ましく、例えば0.01であってよい。
上記非フッ素樹脂がポリオレフィン樹脂である場合、上記被覆層は、表面の静摩擦係数が0.22以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0.19以下であることが更に好ましい。上記静摩擦係数の下限は、低い方が好ましく、例えば0.01であってよい。
上記非フッ素樹脂がポリ塩化ビニル樹脂である場合、上記被覆層は、表面の静摩擦係数が0.36以下であることが好ましく、0.34以下であることがより好ましく、0.32以下であることが更に好ましい。上記静摩擦係数の下限は、低い方が好ましく、例えば0.01であってよい。
静摩擦係数が上記範囲内にあると、上記被覆層が滑り性に一層優れる。
上記静摩擦係数は、表面性測定機を用いて、摩擦子としてSUS板(1cm)を用いて、ASTM D1894に準拠して測定する値である。
【0040】
上記被覆層の厚みは、特に限定はなく、好ましくは50μm以上である。
【0041】
上記被覆層は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、架橋剤、架橋補助剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、潤滑剤、加工助剤、紫外線安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、光安定剤、強化剤、耐衝撃性向上剤、顔料等の添加剤等を挙げることができる。
【0042】
上記芯線の形成材料としては、導電性が良好な材料であれば特に制限されず、例えば、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、銀、金、亜鉛めっき鉄等が挙げられる。上記芯線は、単線でも単線を複数撚り合わせた撚り線でもよい。
【0043】
上記芯線は、その形状に特に限定はなく、円形であっても平形であってもよい。円形導体である場合、芯線の直径は、特に限定しないが、AWG54よりも太い芯線が適している。
【0044】
本開示の電線において、上記芯線と上記被覆層との間には他の層、例えば他の樹脂層が設けられていてもよい。また、上記電線の効果を顕著に発揮させるためには、上記被覆層の周囲に他の層が設けられていないこと、すなわち、上記被覆層が最外層であることが好ましい。
【0045】
本開示の電線において、上記被覆層は、絶縁層を構成してもよく、シース層を構成してもよい。
【0046】
本開示の電線は、電力ケーブル、特に低圧用電力ケーブルとして好適に使用できる。なお、「低圧」とは、1000V以下、好ましくは10~600Vを意味する。
【0047】
本開示は、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含むマスターバッチと、非フッ素樹脂とを混合して被覆組成物を得る工程(1)、及び、
芯線上に上記被覆組成物を溶融押出することにより、上記芯線上に被覆層を形成する工程(2)を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記マスターバッチ中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記マスターバッチ中の非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%であり、
上記被覆層中の結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記被覆層中の非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%であることを特徴とする電線の製造方法にも関する。
上記製造方法によれば、上述した本開示の電線を好適に製造できる。
【0048】
工程(1)で使用するマスターバッチは、非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含む。上記非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体としては、本開示の電線について説明した非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体と同様のものを使用することができ、好ましい例も本開示の電線について説明したのと同様である。
【0049】
上記マスターバッチ中の結晶性含フッ素重合体の含有量は、上記マスターバッチ中の非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%である。上記含有量は、8.0~40.0質量%であることが好ましく、10.0~20.0質量%であることがより好ましい。
【0050】
上記マスターバッチに用いる結晶性含フッ素重合体は、平均粒径が0.1~500.0μmの粉末であることが好ましい。これにより、滑り性、外観及び保存安定性に一層優れた電線が得られる。上記平均粒径は、1.0~50.0μmであることがより好ましく、3.0~10.0μmであることが更に好ましい。
上記平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定して得られた粒度分布積算の50%に対応する値である。
【0051】
上記マスターバッチは、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、本開示の電線の被覆層が含むことができる他の成分と同様のものが挙げられる。
【0052】
上記マスターバッチは、上記非フッ素樹脂、上記結晶性含フッ素重合体、及び必要に応じて他の成分を混合することにより製造することができる。上記混合は、単軸及び二軸押出機、オープンロール、ニーダー、バンバリーミキサー等を用いて行うことができる。
【0053】
上記マスターバッチは、粉末、顆粒、ペレット等の形態の別を問わないものであるが、上記結晶性含フッ素重合体が上記非フッ素樹脂中で微分散された状態で保持される点で、溶融混練することで得られるペレットであることが好ましい。
上記溶融混練する温度は、上記非フッ素樹脂の融点より高いことが好ましく、上記非フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度であることがより好ましい。
【0054】
工程(1)では、上記マスターバッチと非フッ素樹脂とを混合して被覆組成物を得る。上記マスターバッチと混合する非フッ素樹脂は、上記マスターバッチに含まれる非フッ素樹脂と同じ種類の非フッ素樹脂であることが好ましい。上記マスターバッチと非フッ素樹脂とは、得られる電線の被覆層における結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記被覆層中の非フッ素樹脂に対して0.5~4.0質量%となる比率で混合される。
【0055】
上記マスターバッチと非フッ素樹脂との混合は、公知の方法により行ってよい。また、必要に応じて他の成分を混合してもよい。他の成分としては、本開示の電線の被覆層が含むことができる他の成分と同様のものが挙げられる。
【0056】
工程(2)では、芯線上に上記被覆組成物を溶融押出することにより、上記芯線上に被覆層を形成する。上記芯線としては、本開示の電線に使用可能な芯線と同様のものが挙げられる。
【0057】
上記溶融押出は、単軸及び二軸押出機等の公知の押出機を使用して行うことができる。上記溶融押出の温度は、非フッ素樹脂の融点より高く、かつ320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。
【0058】
図1に、本開示の電線の製造方法において使用可能な装置の一例を示す。電線2を製造する装置1は、芯線4を押出ヘッド5に供給するリール3を含んでおり、更に、非フッ素樹脂7用のタンク6と、非フッ素樹脂7と混合されるマスターバッチ9用のタンク8と、芯線4上で溶融又は半溶融の状態である非フッ素樹脂7とマスターバッチ9との混合物(被覆組成物)の外表面を冷却する冷却ボックス10と、得られた電線2を巻き取るリール11とを含んでいる。
更に図1に示すように、タンク8は、マスターバッチ9がタンク6に入り、非フッ素樹脂7と混合される際に通過するセクション12と、非フッ素樹脂7が押出ヘッド5に導入された後の段階で、マスターバッチ9を押出ヘッド5に直接導入するセクション13とを含んでいる。
【0059】
本開示は、電線の芯線上に被覆層を形成するためのマスターバッチであって、
非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体を含み、
上記非フッ素樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記結晶性含フッ素重合体の含有量が、上記非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%であることを特徴とするマスターバッチにも関する。
【0060】
本開示のマスターバッチに含まれる非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体は、本開示の電線(あるいは本開示の電線の製造方法で使用するマスターバッチ)について説明した非フッ素樹脂及び結晶性含フッ素重合体と同様のものを使用することができ、好ましい例も本開示の電線について説明したのと同様である。
【0061】
上記マスターバッチ中の結晶性含フッ素重合体の含有量は、上記マスターバッチ中の非フッ素樹脂に対して5.0~50.0質量%である。上記含有量は、8.0~40.0質量%であることが好ましく、10.0~20.0質量%であることがより好ましい。
【0062】
上記マスターバッチに用いる結晶性含フッ素重合体は、平均粒径が0.1~500.0μmの粉末であることが好ましい。これにより、滑り性、外観及び保存安定性に一層優れた電線が得られる。上記平均粒径は、1.0~50.0μmであることがより好ましく、3.0~10.0μmであることが更に好ましい。
上記平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定して得られた粒度分布積算の50%に対応する値である。
【0063】
上記マスターバッチは、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、本開示の電線の被覆層が含むことができる他の成分と同様のものが挙げられる。
【0064】
上記マスターバッチは、上記非フッ素樹脂、上記結晶性含フッ素重合体、及び必要に応じて他の成分を混合することにより製造することができる。上記混合は、単軸及び二軸押出機、オープンロール、ニーダー、バンバリーミキサー等を用いて行うことができる。
【0065】
上記マスターバッチは、粉末、顆粒、ペレット等の形態の別を問わないものであるが、上記結晶性含フッ素重合体が上記非フッ素樹脂中で微分散された状態で保持される点で、溶融混練することで得られるペレットであることが好ましい。
上記溶融混練する温度は、上記非フッ素樹脂の融点より高いことが好ましく、上記非フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度であることがより好ましい。
【0066】
本開示のマスターバッチは、上述した本開示の電線を製造するために好適に使用できる。例えば、上述した本開示の電線の製造方法の工程(1)におけるマスターバッチとして好適に使用できる。
【実施例
【0067】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
以下の実施例及び比較例の各数値は以下の方法により測定した。
(融点)
DSC装置(セイコー社製)を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度を融点とした。
(平均粒径)
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定して得られた粒度分布積算の50%に対応する値を平均粒径とした。
【0069】
以下の実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
(非フッ素樹脂(ベース樹脂))
ポリアミド:BASF社製 Ultramid(R) B29HM01(融点220℃)
ポリエチレン:株式会社NUC製 NUC-9060(融点109℃)
ポリ塩化ビニル:カネカ社製 カネエース1003N(平均重合度1300)
可塑剤:フタル酸ジイソノニル(DINP)
熱安定剤:株式会社アデカ製 アデカスタブRUP-109
難燃剤:堺化学工業株式会社製 SZB-2335
(含フッ素重合体)
PTFE:ダイキン工業社製 低分子量PTFE ルブロンL5F
PFA:ダイキン工業社製 ネオフロンPFA AD-2
FEP:ダイキン工業社製 ネオフロンFEP NP-20
低融点FEP(融点225℃)
ETFE:ダイキン工業社製 ネオフロンETFE EP-521
ダイキン工業社製 ネオフロンETFE EP-620
EFEP:ダイキン工業社製 ネオフロンEFEP RP-5000
PVdF:クレハ社製 KF-7200
上記PFA、FEP、ETFE、ETFE、EFEP及びPVdFは、平均粒径20μmとなるように粉砕した。
なお、NP-20は、同様の方法で粉砕し、平均粒径5μmのものも作成した。
表1に、含フッ素重合体の融点及び平均粒径を示す。
【表1】
(シリコーンオイル)
シリコーンオイル:東レ・ダウコーニング株式会社製 SH200-1000CS(重量平均分子量1,000~10,000)
【0070】
以下の方法により、各ベース樹脂について実施例及び比較例のサンプルを作製した。
(ポリアミド)
[マスターバッチの作製]
ポリアミド6(BASF社製、B29 HM01)に上記含フッ素重合体又はシリコーンオイルを、ポリアミド6 100重量部に対して上記含フッ素重合体又はシリコーンオイルが20重量%となるように混合し、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)に投入し、スクリュー回転数100rpmで含フッ素重合体又はシリコーンオイルを含有するペレットを得た。押出における温度条件は以下の通りである。
シリンダー温度:230、240、250℃
ダイ温度:250℃
[ストランドの作製]
ポリアミド6(BASF社製、B29 HM01)と上記で作製したマスターバッチを、含フッ素重合体又はシリコーンオイルが、ポリアミド100重量部に対して、表2に記載の配合量となるように混合し、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)に投入し、ストランドを作製した。押出温度及びスクリュー回転数は以下のとおりである。
シリンダー温度:230、240、250℃
ダイ温度:270℃
スクリュー回転数:10rpm
【0071】
(ポリエチレン)
[マスターバッチの作製]
ポリエチレン(株式会社NUC製 NUC-9060)に上記含フッ素重合体又はシリコーンオイルを、ポリエチレン100重量部に対して上記含フッ素重合体又はシリコーンオイルが20重量%となるように混合し、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)に投入し、スクリュー回転数100rpmで含フッ素重合体又はシリコーンオイルを含有するペレットを得た。押出における温度条件は以下の通りである。
シリンダー温度:200、200、200℃
ダイ温度:200℃
[ストランドの作製]
ポリエチレン(株式会社NUC製 NUC-9060)と上記で作製したマスターバッチを、含フッ素重合体又はシリコーンオイルが、ポリエチレン100重量部に対して、表3に記載の配合量となるように混合し、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)に投入し、ストランドを作製した。押出温度及びスクリュー回転数は以下のとおりである。
シリンダー温度:200、200、210℃
ダイ温度:220℃
スクリュー回転数:10rpm
【0072】
(ポリ塩化ビニル)
[ストランドの作製]
ポリ塩化ビニル(カネカ社製 カネエース1003N)、可塑剤(DINP)、熱安定剤(株式会社アデカ製 アデカスタブRUP-109)、難燃剤(堺化学工業株式会社製 SZB-2335)、含フッ素重合体又はシリコーンオイルをポリ塩化ビニル100重量部に対して表4に記載の配合量となるように混合し、混練(ロール温度160℃ 5分)を行い、混練物をペレット状に裁断した後、上記ペレットを二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)に投入し、ストランドを作製した。押出温度及びスクリュー回転数は以下のとおりである。
シリンダー温度:160、170、180℃
ダイ温度:180℃
スクリュー回転数:10rpm
【0073】
上記で作製したサンプルについて、静摩擦係数、配管への取り付け作業性、表面粗さRa、外観及び保存安定性を以下の方法により測定・評価した。結果を表2~4に示す。
(静摩擦係数)
表面性測定機を用いて、摩擦子としてSUS板(1cm)を用いて、ASTM D1894に準拠して測定した。
(配管への取り付け作業性)
ベース樹脂がポリアミドである場合は、静摩擦係数が0.28以下であれば◎、0.28を超え、0.32以下であれば○、0.32を超えていれば×と評価した。
ベース樹脂がポリエチレンである場合は、静摩擦係数が0.20以下であれば◎、0.20を超え、0.22以下であれば○、0.22を超えていれば×と評価した。
ベース樹脂がポリ塩化ビニルである場合は、静摩擦係数が0.32以下であれば◎、0.32を超え、0.36以下であれば○、0.36を超えていれば×と評価した。
(表面粗さRa)
サンプルの表面をレーザー顕微鏡((株)キーエンス製)を用いて倍率110倍で観察し、表面粗さRa(単位μm)を測定した。
(外観)
表面粗さRaが2.0μm以下であれば◎、2.0を超え、5.0μm以下であれば○、5.0μmを超えていれば×と評価した。
(保存安定性)
サンプルを室温で24時間保存後、作製したサンプル表面に手で触れた際に、べたつきがなければ○、べたつきがあれば×と評価した。
【0074】
【表2】
【表3】
【表4】
図1