(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】白金オルガノシロキサン錯体の調製プロセス
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20221122BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20221122BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221122BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C07F15/00 F
B01J31/22 Z
B01J37/04 102
B01J37/08
(21)【出願番号】P 2020502483
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(86)【国際出願番号】 US2018042586
(87)【国際公開番号】W WO2019018464
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-05
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダッシュ、アスウィニ
(72)【発明者】
【氏名】リー、チャンチエ
(72)【発明者】
【氏名】ミルウォード、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ツォウ、ミンシン
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-183291(JP,A)
【文献】特開平07-165775(JP,A)
【文献】特開平04-312594(JP,A)
【文献】特開平11-106388(JP,A)
【文献】特表2005-511750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 15/00
B01J 31/00
B01J 37/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金オルガノシロキサン錯体を含む生成物を形成するためのプロセスであって、
1)25℃~90℃で少なくとも2時間混合することによって、又は25℃~90℃で少なくとも1時間ミリングすることによって、
A)ハロゲン化白金と、
B)ケトンと、
を組み合わせる
工程であって、
前記ミリングは、工程1)での出発原料を含む容器に不活性粒子を添加し、前記容器を回転させること又は撹拌させることによっ
て実施する、組み合わせる
工程と、その後
の、
2)出発原料を添加する
工程であって、前記出発原料は、
C)1分子当たり、2~6個の炭素原子を有する2~4個のケイ素結合末端不飽和有機基、及び炭素原子1~12個の一価炭化水素基である任意の残りのケイ素結合有機基を有するポリオルガノシロキサン
を含
む、添加する工程と
、
を含み、
前記プロセスの収率が出発原料A)に選択されるハロゲン化白金の粒径及び/又は結晶サイズに依存しない
、プロセス。
【請求項2】
前記ハロゲン化白金が、二塩化白金である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ハロゲン化白金が、0.3%~10%のゼロ価白金を含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ケトンが、メチルエチルケトンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリオルガノシロキサンが、ビニル末端ポリジメチルシロキサンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
工程1)中にD)エノン添加剤を添加することを更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
D)前記エノン添加剤は、式(I)及び/又は式(II)の化合物であり、
式(I)は
【化1】
であり、式(II)は
【化2】
[式中、R1~R10は、水素、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、若しくはフェニル基から各々独立して選択され、又はR1~R10のうちのいずれか2つが結合して1つ以上の炭素環式基を形成してもよく、ただし、R1がメチルであり、R2及びR3の一方が水素であり、R2及びR3の他方がメチルであり、R5及びR6が両方とも水素である場合、R4はメチルではない]である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
工程1)を、工程2)の前に4~16時間実施する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
工程1)を、25~30℃の温度で少なくとも8時間加熱することによって実施する、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
工程1)を、85℃~90℃の温度で5~8時間加熱することによって実施する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
工程2)を、50℃~85℃の温度で2~12時間加熱することによって実施する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
工程1)によって形成された前記生成物を中和する工程3)を更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
4)前記白金オルガノシロキサン錯体を回収すること
工程、を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2017年7月20日出願の米国特許仮出願第62/534955号の利益を主張する。米国特許仮出願第62/534955号は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
プロセスによって、ヒドロシリル化反応触媒として有用な白金オルガノシロキサン錯体を形成する。より具体的には、プロセスは、ロバスト性があり、これまでの方法と比較して、出発原料の品質にかかわらず、より短い反応処理時間で白金オルガノシロキサン錯体を生成し、良好な収率を達成する。
【背景技術】
【0003】
白金オルガノシロキサン錯体を調製するための1つの方法は、ハロゲン化白金、極性有機液体、及び末端オレフィン性不飽和を有するケイ素結合有機基を有するオルガノシロキサンを、ハロゲン化白金とオルガノシロキサンとが反応する条件下で、同時に組み合わせること、を含む。この方法は、ハロゲン化白金の結晶サイズ及び/又は品質などの様々な要因が白金オルガノシロキサン錯体の収率を低下させ得る点で、ロバスト性に欠けることがある。
【発明の概要】
【0004】
プロセスは、白金オルガノシロキサン錯体を含む生成物を形成するために、使用することができる。プロセスは、
1)25℃~90℃で少なくとも2時間混合することによって、又は25℃~90℃で少なくとも1時間ミリングすることによって、
A)ハロゲン化白金と、
B)ケトンと、を組み合わせることと、その後、
2)出発原料を添加することであって、該出発原料は、
C)1分子当たり、2~6個の炭素原子を有する2~4個のケイ素結合末端不飽和有機基、及び炭素原子1~12個の一価炭化水素基である任意の残りのケイ素結合有機基を有するポリオルガノシロキサンを含む、添加することと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0005】
プロセス工程
本明細書に記載のプロセスは、ヒドロシリル化反応触媒として有用な白金オルガノシロキサン錯体を含む生成物を形成する。プロセスは、
1)出発原料A)及び出発原料B)を、25℃~90℃で少なくとも2時間混合することによって、又は25℃~90℃で少なくとも1時間ミリングすることによって組み合わせることであって、
出発原料A)は、ハロゲン化白金であり、
出発原料B)は、ケトンである、組み合わせることと、その後、
2)出発原料を添加することであって、該出発原料は、
1分子当たり、2~6個の炭素原子を有する2~4個のケイ素結合末端不飽和有機基を有し、任意の残りのケイ素結合有機基は、炭素原子1~12個の一価炭化水素基である、出発原料C)ポリオルガノシロキサンを添加すること、を含む。プロセスは、所望により、工程1)の間に、出発原料D)、エノン添加剤を添加することを更に含んでもよい。プロセスは、所望により、工程2)中及び/又は後に、出発原料E)、追加のポリオルガノシロキサンを添加することを更に含んでもよい。
【0006】
工程1)
上記のプロセスの工程1)を、周囲温度又は高温で実施することができる。例えば、出発原料を、25℃の室温で組み合わせてもよい。あるいは、出発原料A)として選択されるハロゲン化白金を劣化させない温度まで、及び/又は出発原料B)として選択されるケトンを過度に除去しない温度まで(及び/又は存在する場合、出発原料D)として選択されるエノン添加剤を過度に除去しない温度まで)、出発原料を加熱しながら組み合わせてもよい。工程1)では、出発原料は、25℃~90℃で混合することによって、例えば、液相の出発原料B)(及び存在する場合、出発原料D))中に出発原料A)を浸漬することによって、及び/又は出発原料A)の存在下で、液体出発原料B)(及び存在する場合、出発原料D))を加熱することのいずれかによって組み合わせることができる。工程1)が、25℃の室温などのより低い温度で実施される場合、工程1)は、比較的長い時間、例えば、最大で数週間、あるいは最大24時間実施され得る。出発原料を30℃以下の温度で少なくとも8時間加熱することによって、工程1)を実施してもよい。あるいは、出発原料を85℃以上の温度で2~8時間、あるいは85℃の温度で2~5時間加熱することによって、工程1)を実施してもよい。工程1)での出発原料を含む容器に、ガラスビーズなどの不活性粒子を添加し、その容器を回転させること又は撹拌などの任意の都合のよい手段によって、ミリングを実施することができる。
【0007】
工程1)における出発原料は、ポリオルガノシロキサンを含まない。「ポリオルガノシロキサンを含まない」とは、本明細書に記載される出発原料C)及びE)などのポリオルガノシロキサン種は、工程1)中に添加されないこと、並びに/又は工程1)で使用される出発原料は、液体のGC及び/若しくはSEMによる任意の固体の濾過及び分析による検出可能な量のポリオルガノシロキサンを含有しないことを意味する。あるいは、工程1)後の反応混合物をFTIR分析により分析して、副生成物として形成される水の量及び未反応の二塩化白金の量を測定することができる。
【0008】
工程2)
工程2)は、典型的には、加熱により実施される。工程2)は、白金オルガノシロキサン錯体を劣化させない温度で実施される。正確な温度は、工程1)で選択された時間及び温度、ハロゲン化白金の品質、及びエノン添加剤を使用するかどうかなどの様々な要因に依存する。しかし、工程2)は、最大90℃の温度で加熱することによって実施されてもよい。あるいは、工程2)は、55℃~90℃の温度で1~8時間加熱することによって実施されてもよい。あるいは、工程2)は、50℃~85℃で2時間~12時間、あるいは2.5時間~4時間加熱することによって実施されてもよい。工程2)において、追加量の出発原料B)を添加してもよい。
【0009】
工程3)
プロセスの工程2)によって、反応混合物を生成する。本明細書に記載のプロセスの工程3)は、工程2)で形成された反応混合物を中和すること、を含む。反応生成物を、ヘプタン、トルエン、又はキシレンなどの炭化水素溶媒、及び塩基性緩衝溶液と、高温で混合することによって、混合物の中和を達成し得る。工程3)に選択される正確な温度は、出発原料B)に選択されるケトンの揮発性などの様々な要因に依存するが、工程3)を、40℃~50℃で実施してもよい。
【0010】
緩衝液は、脱イオン水と、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウムなどの塩とを含む。あるいは、緩衝液は、重炭酸ナトリウムを含む。
【0011】
工程4)
白金オルガノシロキサン錯体を、工程3)で形成された中和された反応生成物から、濾過、ストリッピング、及び/又は蒸留などの任意の都合のよい手段によって回収することができる。1つ以上の出発原料及び/又は副生成物を除去するのを容易にするために、圧力を下げてもよい。
【0012】
任意選択的な追加のプロセス工程
このプロセスでは、使用前に出発原料を乾燥させる必要はないが、工程1)及び/又は工程2)の前の追加の工程として、出発原料のうちの1つ以上を乾燥させることを実施してもよい。一実施形態では、工程1)及び/又は工程2)を、水を添加することなく実施する。工程2)の後、反応混合物をストリッピング及び/又は蒸留して、過剰な水、ケトン、及び/又は過剰なポリオルガノシロキサンを除去してもよい。ストリッピングは、工程3)の前、及び/又は工程3)の後に実施することができる。1つ以上の出発原料及び/又は副生成物を除去するのを容易にするために、圧力を下げてもよい。あるいは、反応混合物を、工程1)の後に(例えば、ミリングに使用される不活性粒子がある場合に除去するため)、並びに/又は工程2)の後に(例えば、未反応固体及び/若しくは固体副生成物がある場合に除去するため)濾過してもよい。
【0013】
以下の出発原料が本明細書に記載のプロセスで使用される。
【0014】
A)ハロゲン化白金
上記のプロセスで使用される出発原料A)は、ハロゲン化白金である。ハロゲン化白金は、一般式PtaXb[式中、下付き文字aは1~6であり、下付き文字bは2~12である]を有する。各Xは、独立して、Br、Cl、F又はIなどのハロゲン原子であり、あるいはBr、Cl又はFであり、あるいはCl又はBrであり、あるいはClである。出発原料A)の粒径及び/又は結晶サイズは、重要ではない。出発原料A)は、不純物を含んでもよく、例えば、出発原料A)は、最大10%のゼロ価白金(Pt0)を含んでもよい。あるいは、出発原料A)は、最大5%、あるいは最大0.6%、あるいは最大0.3%のゼロ価白金(Pt0)を含んでもよい。あるいは、出発原料A)は、0.3%~1%、あるいは0.3%~0.6%のゼロ価白金(Pt0)を含んでもよい。出発原料A)に好適なハロゲン化白金の例としては、式Pt6Cl12の二塩化白金が挙げられる。二塩化白金などのハロゲン化白金は、Heraeus、Johnson Matthey、又はSigma Aldrichから市販されている。
【0015】
B)ケトン
出発原料B)は、ケトンである。ケトンは、4~8個の炭素原子を有し得る。出発原料B)は、アセトン及び/又はメチルエチルケトンであってもよい。あるいは、出発原料B)はメチルエチルケトンであってもよい。出発原料B)は、ハロゲン化白金1モル当たり1~20モルのケトンの量で使用され得る。
【0016】
C)ポリオルガノシロキサン
出発原料C)は、1分子当たり、炭素原子2~6個を有するケイ素結合末端不飽和炭化水素基を2~4個、及び炭素原子1~12個の一価炭化水素基である任意の残りのケイ素結合有機基を有するポリオルガノシロキサンである。このような不飽和基としては、ビニル、アリル、ブテニル、及び/若しくはヘキセニルなどのアルケニル基、あるいはビニル、又はプロピニル及び/若しくはブチニルなどのアルキニル基が挙げられる。ポリオルガノシロキサン中の残りのケイ素結合有機基は、アルキル基、アリール基、及び/又はフェニル基であり得る。アルキル基は、メチル、エチル、プロピル及びブチルにより例示され、あるいはメチル又はエチル、あるいはメチルである。ポリオルガノシロキサンは、直鎖状、分枝状、環状又は樹脂性であってよく、あるいは直鎖状又は環状であってよく、あるいは樹脂性であってよく、あるいは直鎖状であってよい。ポリオルガノシロキサンは、例えば、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、メチル-ビニルシクロテトラシロキサン、トリメチルシロキシ末端(ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン)コポリマー、及び/又は(ジメチルシロキサン/メチルビニルフェニルシロキサン)コポリマーであってもよい。具体例としては、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが挙げられる。ポリオルガノシロキサンは、隣接するケイ素原子上に存在する不飽和基を有し得る。出発原料C)に好適な樹脂性ポリオルガノシロキサンは、単位式:
(HO1/2)v(R11
3SiO1/2)x(R12
wR11
(3-w)SiO1/2)y(SiO4/2)z[式中、各R11は、独立して、炭素原子1~12個の一価炭化水素基であり(上記のとおり)、各R12は、独立して、末端不飽和炭化水素基であり(上記のとおり)、下付文字vは0以上であり、下付き文字wは1~3であり、下付き文字xは0以上であり、下付き文字yは0より大きく、下付き文字zは0より大きい]を有し得る。あるいは、下付き文字xは0~200であり、下付き文字yは1~202であり、下付き文字zは1~100である。あるいは、各R11はメチル基又はフェニル基であり、各R12はビニル基である。
【0017】
樹脂性ポリオルガノシロキサンは、平均3~30モルパーセント、あるいは0.1~30モルパーセント、あるいは0.1~5モルパーセント、あるいは3~100モルパーセントの不飽和基を含み得る。不飽和基のモルパーセントは、樹脂性ポリオルガノシロキサン中のシロキサン単位の総モル数に対する、樹脂性ポリオルガノシロキサン中の不飽和基含有シロキサン単位のモル数の比に、100を乗じたものである。
【0018】
樹脂性ポリオルガノシロキサンの調製方法は、当該技術分野において公知である。例えば、樹脂性ポリオルガノシロキサンは、少なくとも1つのアルケニル含有末端保護試薬を用いるDaudtらのシリカヒドロゾル末端保護プロセスによって生成される樹脂コポリマーを処理することによって調製され得る。Daudtらの方法は、米国特許第2,676,182号に開示されている。
【0019】
Daudtらの方法は、酸性条件下でシリカヒドロゾルをトリメチルクロロシランなどの加水分解性トリオルガノシラン、ヘキサメチルジシロキサンなどのシロキサン又はこれらの混合物と反応させることと、M単位及びQ単位を有するコポリマーを回収することと、を伴う。得られるコポリマーは、2~5重量%のヒドロキシル基を含有し得る。
【0020】
ポリオルガノシロキサンは、ハロゲン化白金1モル当たり少なくとも3.5モルのポリオルガノシロキサンの量で使用され得る。あるいは、ハロゲン化白金1モル当たり3.5モル~150モルのポリオルガノシロキサンで使用され得る。あるいは、ハロゲン化白金1モル当たり3.5モル~130モルのポリオルガノシロキサンで使用され得る。あるいは、ハロゲン化白金1モル当たり3.5モル~20モルのポリオルガノシロキサン、あるいはハロゲン化白金1モル当たり5モル~15モルのポリオルガノシロキサンで使用され得る。
【0021】
D)エノン添加剤
出発原料D)は、工程1)のプロセス中に所望により含まれ得るエノン添加剤であり、他の出発原料に追加するものであり、出発原料B)に選択されるケトンの転位/反応によって形成し得る任意のエノン化合物に追加するものである。出発原料D)のためのエノン添加剤は、ケトンの転位/反応によって形成される任意の化合物とは別個のものでもよく、ケトン及び/又はエノン添加剤は、出発原料B)に選択されるケトンの転位/反応生成物と同じである追加の量の化合物であってもよい。エノン添加剤は、式(I)及び/又は式(II)の化合物の化合物であり、
式(I)は
【化1】
であり、式(II)は
【化2】
[式中、R1~R10は、水素、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、及びフェニル基から各々独立して選択され、又はR1~R10のうちのいずれか2つが結合して1つ以上の環式基を形成してもよく、ただし、R1がメチルであり、R2及びR3の一方が水素であり、R2及びR3の他方がメチルであり、R5及びR6が両方とも水素である場合、R4はメチルではない]である。あるいは、R1~R10の各々は、H及びメチル基から独立して選択される。あるいは、R5及びR6の一方は水素であり、R5及びR6の他方はメチルなどのアルキル基である。エノン添加剤は、4~20個の炭素原子を有し得る。あるいは、R1及びR2は、結合して炭素環式基を形成し得る。あるいは、R4及びR6は、結合して炭素環式基を形成し得る。あるいは、R1とR2及びR4とR6の両方が、結合して炭素環式基を形成してもよい。好適なエノン添加剤の例としては、(C1)(4E)-3,4-ジメチル-4-ヘキセン-2-オン;(C2)(5E)-5-メチル-5-ヘプテン-3-オン;(C3)4-ペンテン-2-オン;(C4)3-メチル-4-ペンテン-2-オン;(C5)4-メチル-4-ペンテン-2-オン;(C6)3,3-ジメチル-4-ペンテン-2-オン;(C7)3,3,4-トリメチル-4-ペンテン-2-オン;(C8)(4Z)-3,4-ジメチル-4-ヘキセン-2-オン;(C9)2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノン(Alfa Aesarから市販);(C10)3-ブテン-2-オン(Aldrichから市販);(C11)(3E)-3-ペンテン-2-オン(Aldrichから市販);(C12)(3E)-3-メチル-3-ペンテン-2-オン(Aldrichから市販);(C13)4-メチル-3-ペンテン-2-オン(Aldrichから市販);並びに(C1)、(C2)、(C3)、(C4)、(C5)、(C6)、(C7)、(C8)、(C9)、(C10)、(C11)、(C12)、及び(C13)のうちの2つ以上が挙げられる。メチルエチルケトンが出発原料B)として使用される場合、エノン添加剤は、(C3)、(C4)、(C5)、(C6)、(C7)、(C8)、(C9)、(C10)、(C11)、(C12)、(C13)、並びにC3)、(C4)、(C5)、(C6)、(C7)、(C8)、(C9)、(C10)、(C11)、(C12)、及び(C13)のうちの2つ以上からなる群から選択されてもよい。式(I)の好適なエノン添加剤としては、(C1)、(C2)、(C3)、(C4)、(C5)、(C6)、(C7)、(C8)、及び(C9)が挙げられる。式(II)の好適なエノン添加剤としては、(C10)、(C11)、(C12)、及び(C13)が挙げられる。出発原料D)は、液体出発原料の合計重量(例えば、以下に記載の出発原料B)、C)、D)、及び存在する場合E)の合計量)に基づいて、0.1%~50%、あるいは1%~10%の量で使用される。
【0022】
E)追加のポリオルガノシロキサン
出発原料E)は、出発原料C)に選択されるポリオルガノシロキサン以外の追加のポリオルガノシロキサンである。追加のポリオルガノシロキサンは、上記のプロセスの工程1)で形成された反応混合物の重量に基づいて最大25%の量で添加されてもよい。出発原料E)は、出発原料C)として選択される追加の量のポリオルガノシロキサンであってもよい。あるいは、出発原料E)は、トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンなどの非官能性ポリオルガノシロキサンであってもよい。あるいは、非官能性ポリオルガノシロキサンと、出発原料C)として選択される追加の量のポリオルガノシロキサンとの混合物を、出発原料E)として使用してもよい。出発原料E)は、存在する場合、全ての出発原料の重量に基づいて最大25%の量で使用され得る。
【実施例】
【0023】
これらの実施例は、本発明のいくつかの実施形態を説明することを意図しており、本特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するかのように解釈してはならない。本明細書で使用される略語は、以下の表1に定義される。
【表1】
【0024】
比較例1では、100mLの三つ口フラスコに、12”の水ジャケット付き還流カラム、熱電対、ガラス栓、磁気撹拌棒及び加熱マントルを組み立て(グリースなし)、窒素を充填した。PtCl2、MEK及びDVTMDSを、フラスコ内で1:5:10の重量比で組み合わせた。2℃を超えてオーバーシュートしないようにしながら、混合物を85℃まで撹拌加熱した。次いで、カラム上で水冷しながら、混合物を8時間(混合物が84℃に達したときの開始時間)還流させた。8時間後、断熱材を取り外して、フラスコの内容物を冷却した。30℃未満まで冷却したとき、フラスコの内容物を予め秤量した0.45umの膜を通して濾過した。乾燥させた膜及び固体を秤量して、捕捉された固体の正味重量を得た。残渣の重量をPtCl2の出発重量で除算し、得られた値を100%から減算した。結果を収率%として記録した。この実施例は、供給業者から入手した19個の異なるPtCl2のバッチを使用して繰り返した。
【0025】
この比較例2では、還流を8時間行い、最大13時間継続した以外は、PtCl2のバッチ21を用いて比較例1を繰り返した。
【0026】
この比較例3では、異なるPtCl2のバッチ(20)を用いて比較例1を繰り返し、85℃で1時間~12時間加熱した。フラスコ内容物を、磁気撹拌棒を用いて500RPMで混合した。
【表2】
【0027】
比較例1は、収率%が異なるPtCl2のバッチで広く変化することを示す。理論に束縛されるものではないが、PtCl2のバッチの品質は、このプロセスで白金オルガノシロキサン錯体を形成する出発原料の転化率に影響を及ぼす可能性があり、より低いバッチ品質によりプロセス時間を遅らせる及び/又は収率%を低減すると考えられる。比較例3は、試験した条件下で高い収率%を達成するためには長いプロセス時間(12時間)が必要であることを示す。
【0028】
この実施例1では、MEK(5g)をバイアル瓶中でPtCl2(1g)と穏やかに混合し、撹拌することなく周囲温度で1又は3週間静置した。このPtCl2及びMEKを、DVTMDS(10g)が入った100mlフラスコに移し、85℃でRadleyの平行反応器内で加熱した。溶液を磁気撹拌棒を用いて500RPMで撹拌した。フラスコを反応中に点検し、溶液が半透明の液体に変わったかどうかを確認した。
【0029】
実施例2では、100mLの三つ口フラスコに、12”の水ジャケット付き還流カラム、熱電対、ガラス栓、磁気撹拌棒及び加熱マントルを組み立て(グリースなし)、窒素を充填した。PtCl2(2g)及びMEK(10g)をフラスコ内で組み合わせた。混合物をRTで16時間撹拌した。次いで、DVTMDS(20g)を加え、フラスコ内容物を85℃に加熱し、2℃を超えてオーバーシュートしないようにした。次いで、カラム上で水冷しながら、混合物を8時間(混合物が84℃に達したときの開始時間)還流させた。8時間後、断熱材を取り外して、フラスコの内容物を冷却した。30℃未満まで冷却した後、フラスコの内容物を予め秤量した0.45umの膜を通して濾過した。乾燥させた膜及び固体を秤量して、捕捉された固体の正味重量を得た。残渣の重量をPtCl2の出発重量で除算し、得られた値を100%から減算した。結果を収率%として記録した。
【0030】
この実施例3では、本明細書に記載のプロセスの工程1)は、最初に20mLのバイアル瓶内又は直接Radleyの平行反応器内の100mLのフラスコ内のいずれかで行われた。混合工程が20mLのバイアル瓶で行われる場合、最初にPtCl2(1.000±0.002g)を20mLのバイアル瓶中で予め計量し、続いて5gのMEKと混合し、25℃、55℃、又は85℃で4~16時間撹拌棒によって撹拌した。工程1)の後、PtCl2/MEK溶液を100mLのRadleyフラスコに移し、続いてバイアル瓶を10gのDVTMDSですすぎ、任意の残留したPtCl2を移した。次に、工程2)を85℃で1~12時間加熱することにより実施した。溶液を磁気撹拌棒で500RPMで撹拌した。得られた反応生成物を濾過し、上記のように収率%を算出した。実施例1~3の結果を下記の表3に示す。
【表3】
【0031】
表2の比較例3と表3の実施例3の結果を比較すると、本明細書に記載のプロセスを使用して、総プロセス時間を短縮することができる、及び/又は収率を増加させることができることを示している。PtCl2バッチ1を使用する表2の比較例1は、特定の実施において収率が低いことを示している。不透明な反応生成物は、高い量の、反応して白金オルガノシロキサン錯体を形成しなかった固体を示す。対照的に、表3の実施例2は、PtCl2の同じバッチを使用して比較例3よりも良好な収率を達成した。PtCl2バッチ20を使用する表2の比較例3は、高収率(98%)を達成するために長いプロセス時間(12時間)が必要であったことを示す。同じPtCl2のバッチを使用する表3の実施例3は、本明細書に記載のプロセスを使用して、より短い合計プロセス時間で、98%よりも高い収率が得られたことを示した。例えば、工程1)において85℃で4時間の混合時間、及び工程2)において4時間の加熱時間で、より短い(8時間)プロセス時間で、より良好な収率(99%)が得られた。
【0032】
この実施例4では、ミリングを試験した。10gのPtCl2、20gのMEK及び40gの2mmホウケイ酸ガラスビーズ(Chemglass)を、屋外のベンチトップ上の250mLの首付きホウケイ酸瓶に量り入れた。瓶をテフロンで裏打ちしたキャップで閉じ、キャップを電気テープで所定の位置に固定した。瓶を、60~100RPMの圧延装置上に4~24時間置いた。次いで、フラスコの内容物をビーズから分離し、濾過した。
【0033】
100mLの三つ口フラスコに、12”の水ジャケット付き還流カラム、熱電対、ガラス栓、磁気撹拌棒及び加熱マントルを組み立て(グリースなし)、窒素を充填した。この湿った濾過材を、フラスコ中でMEK及びDVTMDSと1:5:10の重量比で組み合わせた。2℃を超えてオーバーシュートしないようにしながら、フラスコの内容物を85℃まで撹拌加熱した。次いで、カラム上で水冷しながら、フラスコの内容物を4時間(フラスコ内容物が84℃に達したときの開始時間)還流させた。
【0034】
この実施例5では、ミリングを試験した。10gのPtCl2、20gのMEK及び50gの2mmホウケイ酸ガラスビーズ(Chemglass)を、屋外のベンチトップ上の250mLの首付きホウケイ酸瓶に量り入れた。瓶をテフロンで裏打ちしたキャップで閉じ、キャップを電気テープで所定の位置に固定した。瓶を、60~100RPMの圧延装置上に4~24時間置いた。次いで、フラスコの内容物をビーズから分離し、濾過した。濾過した材料を、窒素を流しながら一晩乾燥させた。
【0035】
100mLの三つ口フラスコに、12”の水ジャケット付き還流カラム、熱電対、ガラス栓、磁気撹拌棒及び加熱マントルを組み立て(グリースなし)、窒素を充填した。この乾燥した濾過材を、フラスコ中でMEK及びDVTMDSと1:5:10の重量比で組み合わせた。2℃を超えてオーバーシュートしないようにしながら、フラスコの内容物を85℃まで撹拌加熱した。次いで、カラム上で水冷しながら、混合物を4~5時間(混合物が84℃に達したときの開始時間)還流させた。次いで、断熱材を取り外して、フラスコの内容物を冷却した。温度が30℃未満になると、フラスコの内容物を予め秤量した0.45umの膜を通して濾過した。乾燥した膜及び固体を秤量して捕捉した固体の正味重量を得、上記のように収率%を算出した。
実施例4及び5の結果を下の表4に示す。
【表4】
【0036】
実施例4及び5は、MEKの存在下でPtCl2をミリングすることにより、試験された条件下で短い処理時間で収率が向上することを示す。
【0037】
産業上の利用可能性
これまでのプロセスと比較して相対的に短い処理時間で、本明細書に記載のプロセスによって、白金オルガノシロキサン錯体を形成する出発原料の高い転化率を達成することができる。理論に束縛されるものではないが、本プロセスは、出発原料A)に選択されるハロゲン化白金の品質が本プロセスの収率の達成に重要ではないという点で、ロバスト性があると考えられる。出発原料A)として有用なハロゲン化白金は、最大10%のゼロ価白金(Pt0)を含有してもよく、本プロセスで達成される転化率に有害な影響を与えることは予想されない。更に、本プロセスの収率は、これまでのプロセスで必要とされることがあったようには、出発原料A)に選択されるハロゲン化白金の粒径及び/又は結晶サイズに依存しない。
【0038】
用語の定義及び使用
全ての量、比及び百分率は、特に指示しない限り、重量に基づく。組成物中の全ての成分の量は、合計100重量%である。発明の概要及び要約書は、参照により本明細書に組み込まれる。冠詞「a」、「an」、及び「the」は、それぞれ明細書の文脈によって特に指示されない限り、1つ以上を指す。範囲の開示は、その範囲自体及び範囲内に包含される任意のもの、並びに端点を含む。例えば、2.0~4.0の範囲の開示は、2.0~4.0の範囲だけでなく、2.1、2.3、3.4、3.5、及び4.0も個別に含み、並びに範囲内に包含される任意の他の数も含む。更に、例えば、2.0~4.0の範囲の開示は、例えば、2.1~3.5、2.3~3.4、2.6~3.7、及び3.8~4.0の部分集合、並びにその範囲内に包含される任意の他の部分集合も含む。同様に、マーカッシュ群の開示は、その群全体を含み、そこに包含される任意の個別の要素及び部分集合も含む。例えば、マーカッシュ群「水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアリール基」の開示には、その要素である個々のアルキル、部分集合であるアルキル及びアリール、並びに任意の他の個々の要素及びその中に包含される部分集合を包含する。
【0039】
「アルキル」は、非環状、分枝状又は非分枝状の飽和一価炭化水素基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、オクチル、ノニル、及びデシル、並びに6個以上の炭素原子を有する他の分枝状飽和一価炭化水素基が挙げられる。アルキル基は、少なくとも1個の炭素原子を有する。あるいは、アルキル基は、1~12個の炭素原子、あるいは1~10個の炭素原子、あるいは1~6個の炭素原子、あるいは1~4個の炭素原子、あるいは1~2個の炭素原子、あるいは1個の炭素原子を有してもよい。
【0040】
「アルケニル」は、二重結合を有する、非環状、分枝状又は非分枝状の一価炭化水素基を意味する。アルケニル基としては、エテニル、アリル、プロペニル、ブテニル、及びヘキセニルが挙げられる。アルケニル基は少なくとも2個の炭素原子を有する。あるいは、アルケニル基は、2~12個の炭素原子、あるいは2~10個の炭素原子、あるいは2~6個の炭素原子、あるいは2~4個の炭素原子、あるいは2個の炭素原子を有してもよい。
【0041】
「アルキニル」は、三重結合を有する、非環状、分枝状又は非分枝状の一価炭化水素基を意味する。アルキニル基としては、エチニル、プロピニル、及びブチニルが挙げられる。アルキニル基は、少なくとも2個の炭素原子を有する。あるいは、アルキニル基は、2~12個の炭素原子、あるいは2~10個の炭素原子、あるいは2~6個の炭素原子、あるいは2~4個の炭素原子、あるいは2個の炭素原子を有してもよい。
【0042】
「アリール」とは、環炭素原子からの水素原子の除去により、アレーンから誘導された炭化水素基を意味する。アリールは、フェニル及びナフチルによって例示されるが、これらに限定されない。アリール基は、少なくとも5個の炭素原子を有する。単環式アリール基は、5~9個の炭素原子、あるいは6~7個の炭素原子、あるいは6個の炭素原子を有してもよい。多環式アリール基は、10~17個の炭素原子、あるいは10~14個の炭素原子、あるいは12~14個の炭素原子を有してもよい。
【0043】
「炭素環」及び「炭素環式」は、炭化水素環を指す。炭素環は、単環式でも多環式でもよく、例えば、2環式又は2個を超える環を有するものでもよい。2環式炭素環は、縮合環、橋かけ環又はスピロ多環式環でもよい。炭素環は、少なくとも3個の炭素原子を有する。単環式炭素環は、3~9個の炭素原子、あるいは4~7個の炭素原子、あるいは5~6個の炭素原子を有してもよい。多環式炭素環は、7~17個の炭素原子、あるいは7~14個の炭素原子、あるいは9~10個の炭素原子を有してもよい。炭素環は、飽和(例えば、シクロペンタン又はシクロヘキサン)、部分不飽和(例えば、シクロペンテン又はシクロヘキセン)、又は完全不飽和(例えば、シクロペンタジエン又はシクロヘプタトリエン)であってもよい。
【0044】
「シクロアルキル」は、炭素環を含む飽和炭化水素基を指す。シクロアルキル基は、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びメチルシクロヘキシルによって例示される。シクロアルキル基は、少なくとも3個の炭素原子を有する。単環式シクロアルキル基は、3~9個の炭素原子、あるいは4~7個の炭素原子、あるいは5~6個の炭素原子を有してもよい。多環式シクロアルキル基は、7~17個の炭素原子、あるいは7~14個の炭素原子、あるいは9~10個の炭素原子を有してもよい。