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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】止血器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/135 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
A61B17/135
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020509235
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013314
(87)【国際公開番号】W WO2019189438
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018069380
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河本 有真
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0190026(US,A1)
【文献】国際公開第2017/165108(WO,A1)
【文献】特開2003-135472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の手の甲の止血すべき部位に配置される孔部を備えた被覆部材と、
前記孔部が前記止血すべき部位に配置された状態で、前記止血すべき部位を圧迫する押圧部材と、
前記押圧部材が前記孔部に配置された状態で、前記被覆部材に前記押圧部材を固定する固定部材と、
前記押圧部材が前記止血すべき部位を圧迫する際、前記患者の手を支持する支持部材と、を備え、
前記被覆部材が前記手の甲に配置された状態で、前記支持部材の少なくとも一部は、前記手の甲を挟んで前記孔部と対向する、ことを特徴とする止血器具。
【請求項2】
前記被覆部材は、前記患者の前記手の甲に接触しつつ、前記手の甲の全体を包むように配置される袋体であり、
前記袋体は、第1領域と、前記第1領域よりも伸縮性が低い第2領域と、を備え、
前記第2領域は、前記孔部を通る前記患者の手の周方向に配置される、ことを特徴する請求項1に記載の止血器具。
【請求項3】
前記押圧部材は、拡張および収縮可能な拡張部材であり、
前記拡張部材の拡張した状態での外形は、前記支持部材の外形よりも小さい、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の止血器具。
【請求項4】
前記支持部材は、拡張及び収縮可能な拡張部材である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の止血器具。
【請求項5】
前記押圧部材は、前記止血すべき部位を押圧する押圧部と、前記被覆部材上での前記押圧部の位置を調節可能な位置調節部と、を備え、前記位置調節部の第1端部は、前記第2領域に固定されている、ことを特徴とする請求項2に記載の止血器具。
【請求項6】
前記位置調節部は、前記位置調節部の前記第1端部と前記押圧部を挟んで対向する第2端部を有し、
前記固定部材は、前記第2領域に位置し、
前記第2端部は、前記第2領域に固定可能である、請求項5に記載の止血器具。
【請求項7】
前記被覆部材は、スリットを備え、
前記スリットは、前記被覆部材の周縁部と前記孔部とを繋ぐ、請求項1~6のいずれか1項に記載の止血器具。
【請求項8】
前記被覆部材は、前記スリットの拡大を抑制する規制部材を有する、請求項7に記載の止血器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止血器具に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル手技の1つとして、患者の腕の血管(例えば、橈骨動脈)を穿刺し、患者の腕の血管に形成した穿刺部位を介して各種の医療用長尺体を血管内に導入し、病変部位に対する処置や治療を行う手技が知られている(下記特許文献1を参照)。
【0003】
人体の腕を走行する橈骨動脈は、手側を迂回する手掌動脈と繋がっている。そのため、近年、手に位置する手掌動脈を穿刺し、その穿刺部位を介して治療を行うdTRI(distal transradial intervantion)によるカテーテル手技が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-119517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手掌動脈は、指等の可動部位が多い手に位置する。そのため、カテーテル手技後、術者が手に位置する手掌動脈の穿刺部位を止血する際、既存の腕用や脚用の止血器具では適切に穿刺部位を圧迫することが難しい場合がある。そのため、手に位置する穿刺部位に対して、効果的な圧迫止血を行える止血器具が求められている。
【0006】
手の穿刺部位は、指等の可動部位が多いため腕や脚の穿刺部位と比較して、穿刺部位に対して止血器具を固定することが難しい。そのため、手の穿刺部位を止血するための止血器具は、穿刺部位に対して圧迫力を付与する押圧部が、穿刺部位から位置ずれしないように配置する必要がある。特に、手は、患者が手を広げたり、手を握ったりすると、手の形状が容易に変化する。そのため、手の穿刺部位を止血するための止血器具は、止血を行っている最中に患者が手を動かすと、押圧部が位置ずれしやすい。従って、手の穿刺部位を止血するための止血器具は、手の動き等が生じた場合であっても、穿刺部位への圧迫を適切に維持することが重要である。
【0007】
本発明は、上記のような課題を鑑み、手の止血すべき部位に止血器具を簡便に固定できるとともに、押圧部材の止血すべき部位への圧迫力を維持できる止血器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る止血器具は、患者の手の甲の止血すべき部位に配置される孔部を備えた被覆部材と、前記孔部が前記止血すべき部位に配置された状態で、前記止血すべき部位を圧迫する押圧部材と、前記押圧部材が前記孔部に配置された状態で、前記被覆部材に前記押圧部材を固定する固定部材と、前記押圧部材が前記止血すべき部位を圧迫する際、前記患者の手を支持する支持部材と、を備え、前記被覆部材が前記手の甲に配置された状態で、前記支持部材の少なくとも一部は、前記手の甲を挟んで前記孔部と対向することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る止血器具は、支持部材と、支持部材と手の甲を挟んで対向する位置に存在する孔部と、を備える。支持部材と孔部とが手の甲を挟んで対向する位置に存在するため、術者が手に対して支持部材を押し付けることで、支持部材は、孔部が囲む止血すべき部位(穿刺部位)を支える。そのため、術者が手の穿刺部位に押圧部材を配置する際、指等の可動部位が多い手に穿刺部位が存在する場合であっても、支持部材が穿刺部位付近の動きを抑制する。従って、術者は、患者に簡便に止血器具を装着し、手の穿刺部位に押圧部材を配置することができる。また、止血器具は、押圧部材が配置される孔部と対向する位置に支持部材が存在するため、指等の可動部位が多い手の穿刺部位を止血する際、支持部材が押圧部材による手の甲側からの力を支えるため、支持部材が押圧部材による圧迫を支えつつ、かつ、手の動きによる押圧部材の位置ずれを抑制することができる。さらに、術者が患者に止血器具を装着する際、孔部が支持部材と対向する位置に存在するため、術者は、穿刺部位に孔部を配置する際、支持部材を穿刺部位の掌側に配置することで、患者に止血器具を簡単に装着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る止血器具の概観斜視図である。
図2】実施形態に係る止血器具を患者の手に装着する際の様子を示す斜視図である。
図3】実施形態に係る止血器具を患者の手に装着した状態を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る止血器具が装着された患者の手を掌側から見た平面図である。
図5図3に示す矢印5A-5A線に沿う止血器具の拡大断面図である。
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、止血器具10を説明するための図、図2および図3は、止血器具10の装着手順を説明するための図、図4は、止血器具10を装着した患者の手Hを掌Hp側から見た平面図、図5は、図3に示す矢印5A-5A線に沿う止血器具10の拡大断面図である。なお、図5において患者の手Hの図示は省略している。
【0013】
止血器具10は、例えば、図2および図3に示すように、患者の手Hの甲Hb側を走行する手掌動脈(深掌動脈)の橈骨動脈側(例えば、スナッフボックス周辺又はスナッフボックスよりも指先側を走行する遠位橈骨動脈)に形成された穿刺部位t1(「止血すべき部位」に相当)に留置していた長尺状の医療デバイス(例えば、イントロデューサー)を抜去する際、その穿刺部位t1を止血するために使用することができる。なお、実施形態の説明では、患者の左手に形成した穿刺部位t1の止血に止血器具10を使用する例を説明するが、止血器具10の使用対象となる手は、右手であってもよい。
【0014】
図1には、止血器具10を患者の手Hに装着する前の状態における止血器具10の斜視図を示している。
【0015】
以下、明細書の説明において、被覆部材110の先端側とは、止血器具10を患者の手Hに装着した際、各指f1~f5の指先側に位置する側であり、被覆部材110の基端側とは、止血器具10を患者の手Hに装着した際、前腕A側(手首側)に位置する側である。図4において、先端側は図中の上側であり、基端側は図中の下側である。
【0016】
図1および図3に示すように、止血器具10は、患者の手Hの甲Hbの穿刺部位t1に配置される孔部115を備えた被覆部材110と、孔部115が穿刺部位t1に配置された状態(図3に示す状態)で、穿刺部位t1を圧迫する押圧部材140と、押圧部材140が孔部115に配置された状態で、被覆部材110に押圧部材140を固定する固定部材150と、押圧部材140が穿刺部位t1を圧迫する際、患者の手Hを支持する支持部材160(図5を参照)と、を備えている。
【0017】
止血器具10は、被覆部材110が患者の手Hの甲Hbに配置された状態で、支持部材160の少なくとも一部が、患者の手Hの甲Hbを挟んで孔部115と対向するように配置される。つまり、被覆部材110が患者の手Hの甲Hbに配置された状態で、支持部材160の少なくとも一部は、図4に示す平面図上において、孔部115と重なるように配置される。
【0018】
図1図3に示すように、被覆部材110は、患者の手Hの甲Hbに接触しつつ、手Hの甲Hbの全体を包むように配置される袋体120で形成している。
【0019】
袋体120は、患者の手Hが挿入可能な内部空間124(図5を参照)と、止血器具10を患者の手Hに装着した状態で袋体120の先端側に各指f1~f4(小指f1、薬指f2、中指f3、人差し指f4)を突出させる第1開口部121と、止血器具10を患者の手Hに装着した状態で袋体120の先端側に親指f5を突出させる第2開口部122と、患者の手Hを袋体120に挿入する際、手Hを通すための第3開口部123と、を有している。
【0020】
図2および図3に示すように、袋体120は、第1領域111と、第1領域111よりも伸縮性が低い第2領域112と、を備えている。第2領域112は、止血器具10を患者の手Hに装着した状態で、孔部115を通る患者の手Hの周方向に配置される。
【0021】
図2に示すように、第1領域111は、各指f1~f4の付け根よりも被覆部材110の基端側で手Hを包むように配置されている。また、第1領域111は、親指f5の付け根よりも先端側で親指f5の一部を包むように配置されている。また、第1領域111は、人差し指f4と親指f5の間の指間腔(指間みずかき)を覆うように配置される指掛け部125を備えている。
【0022】
止血器具10は、図3に示すように、止血器具10が患者の手Hに装着された状態で、各指f1~f4が第1領域111の第1開口部121から突出するように配置され、親指f5が第1領域111の第2開口部122から突出するように配置される。そのため、患者は、止血器具10による止血が行われている最中にておいても、各指f1~f5を動かすことができる。また、止血器具10は、指掛け部125により、各指f1~f5を動かした場合であっても、止血器具10の位置ずれを抑制することができる。
【0023】
図2に示すように、袋体120は、第2領域112の基端側に第3領域113を備える。第3領域113は、止血器具10を患者の手Hに装着した際、患者の手首と、前腕Aの一部を包むように配置される。
【0024】
図1に示すように、被覆部材110は、第3領域113と第2領域112に跨って形成されたスリット116を備える。スリット116は、被覆部材110の周縁部(第3領域113の基端の周縁)123と孔部115とを繋ぐように形成されている。術者は、止血器具10を患者の手Hに装着する際、スリット116を押し広げることにより、患者の手Hを袋体120の内部空間124に容易に挿入することが可能になる。
【0025】
図2および図3に示すように、被覆部材110は、スリット116の拡大を抑制する規制部材118を有する。規制部材118は、第3領域113に形成された第1接続部118aと、第3領域113に取り付けたベルト部126に形成された第2接続部118bと、を備える。
【0026】
第1接続部118aは、例えば、面ファスナーの雌側(または雄側)で構成することができ、第2接続部118bは、例えば、面ファスナーの雄側(または雌側)で構成することができる。ただし、各接続部118a、118bは、接続分離可能な構造を有する限り、具体的な構造は特に限定されない。
【0027】
規制部材118は、止血器具10を患者の手Hに装着した状態で、第1接続部118aと第2接続部118bとが接続されることにより、スリット116が拡大するのを抑制する。止血器具10は、止血器具10が患者に装着された後、スリット116が拡大するのを抑制することにより、被覆部材110が位置ずれすることを防止できる。また、止血器具10は、第1接続部118aと第2接続部118bとが接続されることにより、袋体120の第3領域113を患者の前腕Aに締め付けるようにして保持することが可能になる。そのため、患者の前腕Aの太さに合わせて適切に止血器具10を装着できるため、被覆部材110が位置ずれすることをさらに防止できる。
【0028】
図5に示すように、袋体120の第2領域112は、袋体120の内部空間124を形成する手の甲側覆い部112aと手の掌側覆い部112bとを有する。孔部115は、甲側覆い部112aに形成している。
【0029】
手の甲側覆い部112aは、止血器具10を患者の手Hに装着した際、患者の手Hの甲Hbと対向するように配置される。また、手の掌側覆い部112bは、止血器具10を患者の手Hに装着した際、患者の手Hの掌Hpと対向するように配置される。
【0030】
図2に示すように、袋体120は、袋体120が患者の手Hに配置され、かつ、押圧部材140が穿刺部位t1に配置されていない状態において、孔部115を介して穿刺部位t1を外部に露出させる。そのため、医師等の術者は、穿刺部位t1を目視により容易に確認することが可能になる。また、支持部材160は、孔部115と対向する位置に配置されている。そのため、術者が手Hの甲Hb側で孔部115を穿刺部位t1に配置すると、支持部材160が手Hの掌Hp側で穿刺部位t1と重なる位置に配置される。
【0031】
図1および図3に示すように、押圧部材140は、穿刺部位t1を押圧する押圧部141と、被覆部材110上での押圧部141の位置を調節可能な位置調節部145と、を備えている。
【0032】
位置調節部145は、帯状の部材で形成している。位置調節部145の第1端部145aは、袋体120の第2領域112に固定している。また、位置調節部145は、位置調節部145の第1端部145aと押圧部141を挟んで対向する第2端部145bを有している。
【0033】
固定部材150は、袋体120の第2領域112に配置している。固定部材150は、位置調節部145の第2端部145bを固定可能である。図1に示すように、位置調節部145の第2端部145bには、固定部材150に対する固定および固定の解除が可能な固定部146を配置している。固定部146は、例えば、面ファスナーの雌側(または雄側)で構成することができ、固定部材150は、例えば、面ファスナーの雄側(または雌側)で構成することができる。ただし、固定部146および固定部材150は、固定および分離可能な構造を有する限り具体的な構造は特に限定されない。なお、固定部材150は、例えば、袋体120の第2領域112の比較的広い範囲に亘って設けることも可能である。
【0034】
術者は、止血器具10を患者の手Hに装着する際、位置調節部145の向きや、固定部146が固定部材150に対して固定される位置などを調整することができる。それにより、術者は、位置調節部145に設けられた押圧部141の穿刺部位t1に対する向きや位置を容易に調整することが可能になる。例えば、術者は、止血器具10を使用した止血を行う際に、患者の手Hが広げられた状態や握られた状態である場合に、患者の手Hの状態に合わせて押圧部141の位置や向きを自由に調整することが可能になる。したがって、押圧部141の穿刺部位t1に対する圧迫位置を正確に調整することができる。
【0035】
なお、位置調節部145は、止血器具10を患者の手Hに装着して止血が行われている間、押圧部141が穿刺部位t1から位置ずれするのを防止する観点より、伸縮性の低い材料で構成されることが好ましい。
【0036】
図1および図5に示すように、押圧部材140が備える押圧部141は、拡張および収縮可能な拡張部材(バルーン)で構成している。
【0037】
図4および図5には、拡張した状態における押圧部141を示している。押圧部141は、押圧部141が拡張した状態での外形は、支持部材160の外形よりも小さい。なお、拡張した状態とは、止血器具10を使用した止血を行っている最中に押圧部141が拡張されている状態を意味する。
【0038】
図5に示すように、支持部材160は、拡張及び収縮可能な拡張部材(バルーン)で構成している。前述したように、支持部材160は、押圧部141よりも外形が大きい。なお、支持部材160が押圧部141で構成されている場合における上記の外形の大小関係は、止血器具10を使用した止血を行っている状態での押圧部141の外形と、止血器具10を使用した止血を行っている状態での支持部材160の外形との比較で定義される。
【0039】
支持部材160は、図5に示すように、袋体120の第2領域112の手の掌側覆い部112bの内面(止血器具10を手Hに装着した状態で手Hの掌Hpと対向する側の面)に設けている。支持部材160は、袋体120の第2領域112の孔部115と対向する位置に配置されている。そのため、図1に示すように、袋体120に患者の手Hを挿入していない状態において、支持部材160が孔部115を介して外部から視認可能となる。なお、手の掌側覆い部112bにおいて支持部材160が配置された部分は、透明、半透明、または有色透明に形成されることが好ましい。このように手の掌側覆い部112bを形成することにより、支持部材160の位置を手Hの掌Hp側から容易に確認することが可能になる。
【0040】
図1に示すように、押圧部141には、押圧部141の拡張および収縮を操作するための注入部170が接続されている。
【0041】
注入部170は、図1および図5に示すように、押圧部141の拡張空間141aと連通する可撓性を有するチューブ171と、チューブ171の内腔と連通するようにチューブ171の一端部に配置された袋部172と、袋部172に接続された逆止弁(図示せず)を内蔵する管状のコネクタ173と、を有している。術者等は、押圧部141を拡張させる際、コネクタ173にシリンジ(図示せず)の先筒部を挿入して逆止弁を開き、シリンジの押し子を押して、シリンジ内の空気を押圧部141の拡張空間141aに注入する。上記の操作によって押圧部141が拡張すると、チューブ171を介して押圧部141の拡張空間141aと連通している袋部172が膨張する。術者は、袋部172の膨張を確認することにより、空気が漏れずに、押圧部141を加圧できていることを目視で容易に確認できる。なお、押圧部材140の拡張に使用される流体は、空気のみに限定されない。また、チューブ171は、図示省略するコネクタを介して、押圧部141の拡張空間141aと液密に接続している。
【0042】
押圧部141は、図5に示すように、止血器具10が患者の手Hに装着された状態で押圧部141が拡張変形することにより、孔部115を介して患者の手Hに形成した穿刺部位t1に圧迫力を付与する。
【0043】
術者は、押圧部141を収縮させる際(または、押圧部141の圧迫力を小さくさせる際)、コネクタ173にシリンジを接続する。術者は、シリンジを操作して押圧部141の拡張空間141aの空気を排出させることにより、押圧部141を収縮させることができる。術者は、止血器具10を使用して止血を行っている最中に押圧部141を収縮させて圧迫力を低下させることにより、血管(例えば、手の遠位橈骨動脈)が閉塞することを防止できる。
【0044】
図4に示すように、支持部材160には、支持部材160の拡張および収縮を操作するための注入部180が接続されている。支持部材160は、注入部180のチューブ181を介して支持部材160の拡張空間160a(図5を参照)に空気等の流体が流入することにより拡張する。なお、注入部180は、注入部170と実質的に同一に構成することが可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
押圧部材140および支持部材160は、拡張部材(バルーン)に限定されることはない。押圧部材140および支持部材160は、例えば、回転等の外部からの操作により手Hに対する押し込み量を可変自在な機械式の部材、面圧を付与するように手Hに対して押し込まれるプラスチック等の樹脂材料やゲル等で構成された部材、手Hに接触させる親水性ゲルや創傷材(ドレッシング材)を備える部材、時間経過に応じて含水率が低下して圧迫力を徐々に減少させるゲルを含む部材、スポンジ状の物質等の弾性材料、綿(わた)のような繊維の集合体、金属、所定の立体形状を備える部材(球状、楕円体、三角錐等)、これらを適宜組み合わせたもの等で構成することも可能である。
【0046】
押圧部141は、接着や融着等の公知の方法により位置調節部145に固定することができる。また、支持部材160は、接着や融着等の公知の方法により袋体120の第2領域112に固定することができる。
【0047】
図3に示すように、位置調節部145は、止血器具10を患者の手Hに装着した際、押圧部材140を穿刺部位t1と重ねるように位置合わせするためのマーカー部147を有している。マーカー部147は、押圧部141の平面視上の略中心位置に配置している。
【0048】
マーカー部147の具体的な形状、色、位置調節部145への形成方法等は特に限定されない。また、押圧部材140および位置調節部145においてマーカー部147と平面視上において重なる部分及びその周囲は、半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、術者は、マーカー部147を穿刺部位t1に重ね合わせた状態においても、マーカー部147の外面側から穿刺部位t1を視認することが可能になる。
【0049】
マーカー部147は、例えば、押圧部材140に設けることも可能である。なお、押圧部材140が拡張部材の場合、マーカー部147は、例えば、押圧部材140の内面において位置調節部145側に近接する側の面や、押圧部材140の内面において位置調節部145から離間する側の面(穿刺部位t1に近接して配置される側の面)に設けることができる。これにより、押圧部材140に配置されたマーカー部147が穿刺部位t1に直接接触することを防止できる。
【0050】
押圧部材140および支持部材160は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)を用いることができる。
【0051】
また、被覆部材110の第1領域111は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、シリコーン、ウレタン等の樹脂材料を用いることができる。例えば、第1領域111の樹脂材料は、ポリエステル等の樹脂材料から化学繊維を作製し、その化学繊維を編み込むことで形成した材料を用いてもよい。また、被覆部材110の第1領域111は、木綿綿、絹綿、羊毛綿等の天然繊維を編み込むことで形成した材料を用いてもよい。なお、第1領域111は、第2領域112よりも伸縮性が高い材料により形成することが好ましい。また、被覆部材110の第3領域113は、第1領域111の構成材料として例示したものと同一の材料で構成することができる。
【0052】
なお、被覆部材110の第1領域111の材料は、吸湿性を備えることが好ましい。具体的には、第1領域111の材料は、吸湿性を備える樹脂材料や化学繊維や天然繊維を編み込むことで形成された材料が好ましい。例えば、化学繊維や天然繊維を編み込むことで形成された材料は、編み込まれた繊維同士の間に空間を有する場合、吸湿性を備える。第1領域111の材料が吸湿性を備える場合、第1領域111は、患者が止血器具10を装着した状態で、患者の手Hの皮膚から発散される汗等を吸収し、皮膚に密着する。そのため、第1領域111の材料が吸湿性を備える場合、止血器具10は、汗による押圧部材140の位置ずれが生じることを防止できる。
【0053】
また、被覆部材110の第2領域112の構成材料としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂等の樹脂材料を用いることができる。なお、第2領域112は、第1領域111よりも伸縮性が低い材料により形成することが好ましい。
【0054】
次に、図2および図3を参照して、止血器具10の使用例を説明する。以下では、止血器具10を患者の手Hに装着する手順について主に説明する。
【0055】
図2には、患者の手Hの甲Hbに形成した穿刺部位t1を介して遠位橈骨動脈にイントロデューサー等の医療デバイスを挿入して各種の手技を実施し終えた後に、穿刺部位t1の止血を開始する際の様子を示している。なお、図2図3では医療デバイスの図示を省略している。
【0056】
医師等の術者は、図2に示すように、被覆部材110を患者の手Hに配置する。術者は、患者の手Hに被覆部材110を配置する際、被覆部材110の第3領域113に形成さえた第3開口部123から手Hを挿入することができる。術者は、被覆部材110を手Hに配置する際、スリット116を拡大させることにより、袋体120の内部空間124に手Hを容易に挿入することができる。
【0057】
術者は、被覆部材110の孔部115を手Hの甲Hbに形成された穿刺部位t1に配置する。支持部材160は、孔部115が手Hの甲Hb側で穿刺部位t1に配置されることにより、孔部115と手Hの甲Hbを隔てて対向するように手Hの掌Hp側に配置される。
【0058】
次に、術者は、手Hの掌Hpに支持部材160を押し付けつつ、押圧部141を手Hの甲Hb側から穿刺部位t1に重ねるように配置する。この際、術者は、位置調節部145の向きや、位置調節部145に配置された押圧部141の位置等を調整しながら、位置調節部145の第2端部145bに形成された固定部146を固定部材150に固定する。術者は、穿刺部位t1とマーカー部147の位置を確認することにより、押圧部141を穿刺部位t1に容易に配置することができる。
【0059】
術者は、押圧部141を穿刺部位t1に配置する前に、支持部材160を拡張させることができる。術者は、支持部材160を拡張させることにより、支持部材160により手Hの掌Hp側から穿刺部位t1を支えることができる。そのため、押圧部141を穿刺部位t1に配置する際、止血器具10が大きく位置ずれするのを防止することができ、押圧部141を穿刺部位t1に容易に配置することが可能になる。なお、支持部材160の拡張は、注入部180およびシリンジ(図示省略)を使用して行うことができる。
【0060】
次に、術者は、注入部170およびシリンジ(図示省略)を使用して、押圧部141を拡張させる。押圧部141は、押圧部141が拡張することにより、穿刺部位t1に対して圧迫力を付与する。術者は、穿刺部位t1に対して押圧部141が圧迫力を付与した状態を維持しながら、イントロデューサー等の医療デバイスを穿刺部位t1から抜去する。
【0061】
本実施形態に係る止血器具10の作用効果を説明する。
【0062】
本実施形態に係る止血器具10は、患者の手Hの甲Hbの穿刺部位t1に配置される孔部115を備えた被覆部材110と、孔部115が穿刺部位t1に配置された状態で穿刺部位t1を圧迫する押圧部材140と、押圧部材140が孔部115に配置された状態で被覆部材110に押圧部材140を固定する固定部材150と、押圧部材140が穿刺部位t1を圧迫する際、患者の手Hを支持する支持部材160と、を備えている。止血器具10は、被覆部材110が手Hの甲Hbに配置された状態で、支持部材160の少なくとも一部が手Hの甲Hbを挟んで孔部115と対向する。
【0063】
止血器具10は、支持部材160と、支持部材160と手Hの甲Hbを挟んで対向する位置に存在する孔部115と、を備える。支持部材160と孔部115とが手Hの甲Hbを挟んで対向する位置に存在するため、術者が手Hに対して支持部材160を押し付けることで、支持部材160は孔部115が囲む穿刺部位を支える。そのため、術者が手Hの穿刺部位t1に押圧部材140を配置する際、指等の可動部位が多い手Hに穿刺部位t1が存在する場合であっても、支持部材160が穿刺部位t1付近の動きを抑制する。従って、術者は、患者に簡便に止血器具10を装着し、手Hの穿刺部位t1に押圧部材140を配置することができる。また、止血器具10は、押圧部材140が配置される孔部115と対向する位置に支持部材160が存在するため、指等の可動部位が多い手Hの穿刺部位t1を止血する際、支持部材160が押圧部材140による手Hの甲Hb側からの力を支えるため、支持部材160が押圧部材140による圧迫を支えつつ、かつ、手Hの動きによる押圧部材140の位置ずれを抑制することができる。さらに、術者が患者に止血器具10を装着する際、孔部115が支持部材160と対向する位置に存在するため、術者は、穿刺部位t1に孔部115を配置する際、支持部材160を穿刺部位t1が形成された手Hの掌Hp側に配置することで、患者に止血器具10を簡単に装着させることができる。
【0064】
また、被覆部材110は、患者の手Hの甲Hbに接触しつつ、手Hの甲Hbの全体を包むように配置される袋体120である。袋体120は、第1領域111と、第1領域111よりも伸縮性が低い第2領域112と、を備えている。第2領域112は、孔部115を通る患者の手Hの周方向に配置される。止血器具10は、被覆部材110が患者の手Hの甲Hbの全体を包むように配置される袋体120であるため、患者の手Hと接触する面積が大きい。そのため、止血器具10を患者の手Hに装着した状態で、患者が手Hに汗をかくような場合にも、汗による押圧部材140の位置ずれが生じることを防止できる。また、袋体120は、第1領域111よりも伸縮性が低い第2領域112が孔部115を通る患者の手Hの周方向に配置される。そのため、止血器具10を患者の手Hに装着して穿刺部位t1の止血を行っている間、患者が手Hを動かした場合であっても、第2領域112が伸縮することにより穿刺部位t1に付与される圧迫力が低下してしまうことを防止できる。
【0065】
また、押圧部材140は、拡張および収縮可能な拡張部材(押圧部141)であり、拡張部材の拡張した状態での外形は、支持部材160の外形よりも小さい。押圧部材140は、拡張部材が穿刺部位t1に対して圧迫力を付与した状態で、支持部材160により手Hの掌Hp側から局所的に支えられるため、押圧部材140が穿刺部位t1から位置ずれすることをより好適に防止することができる。
【0066】
また、支持部材160は、拡張及び収縮可能な拡張部材である。そのため、術者は、支持部材160を拡張および収縮させることにより、支持部材160の外形や押圧部材140を支える支持力を容易に調整することができる。
【0067】
また、押圧部材140は、穿刺部位t1を押圧する押圧部141と、被覆部材110上での押圧部141の位置を調節可能な位置調節部145と、を備えている。位置調節部145の第1端部145aは、袋体120の第2領域112に固定されている。そのため、術者は、押圧部141を穿刺部位t1に配置する際、袋体120の第2領域112に固定された位置調節部145の第1端部145aを基準にして、位置調節部145の向き等を調整することにより、穿刺部位t1に押圧部141を適切に配置することができる。また、位置調節部145は、第1端部145aが第2領域112に固定されているため、患者が手H等を動かした場合であっても、第2領域112が伸縮することにより位置調節部145が動き、穿刺部位t1に対する押圧部141の位置がずれることを防止できる。
【0068】
また、位置調節部145は、位置調節部145の第1端部145aと押圧部141を挟んで対向する第2端部145bを有している。固定部材150は、袋体120の第2領域112に位置し、第2端部145bは、袋体120の第2領域112に固定可能である。そのため、術者は、位置調節部145の第2端部145bを固定部材150に固定することにより、被覆部材110を手Hに固定することができ、かつ、第1端部145aと第2端部145bとの間に配置された押圧部141を穿刺部位t1に配置することができる。その際、位置調節部145の第2端部145bは、第1領域111よりも伸縮性が低い第2領域112に固定されるため、第2領域112が伸縮することにより位置調節部145が動き、穿刺部位t1に対する押圧部141の位置がずれることを防止できる。
【0069】
また、被覆部材110は、スリット116を備え、スリット116は、被覆部材110の周縁部117と孔部115とを繋ぐ。術者は、被覆部材110を手Hに配置する際、スリット116を拡大させることにより、袋体120の内部空間124に手Hを容易に挿入することができる。また、スリット116が孔部115と繋がっているため、孔部115が形成された位置まで被覆部材110の内部空間124を広げることができる。そのため、止血器具10は、被覆部材110が患者の手Hにより一層装着し易くなる。
【0070】
被覆部材110は、スリット116の拡大を抑制する規制部材118を有する。止血器具10は、規制部材118により、スリット116が拡大することを抑制できる。そのため、止血器具10は、患者の手Hに止血器具10が配置された状態で、スリット116が不用意に拡大するのに伴って被覆部材110が位置ずれしてしまうことを防止できる。
【0071】
以上、実施形態を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は明細書において説明した内容のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0072】
例えば、実施形態の説明では、左手に形成した穿刺部位を止血するための止血器具を例示したが、止血器具は、右手に形成された穿刺部位を止血するために使用することも可能である。止血器具を右手で使用する場合、被覆部材の形状や押圧部材の位置等は、右手に形成した穿刺部位を止血可能となるように適宜変更することができる。
【0073】
また、スリットや孔部の形状(平面視における形状)は図示により説明した形状に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、被覆部材の具体的な形状は図示により説明した形状に限定されることはない、被覆部材は、例えば、親指を含む任意の指を包むようなグローブ形状を有していてもよい。
【0074】
本出願は、2018年3月30日に出願された日本国特許出願第2018-069380号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0075】
10 止血器具、
110 被覆部材、
111 第1領域、
112 第2領域、
112a 手の甲側覆い部、
112b 手の掌側覆い部、
113 第3領域、
115 孔部、
116 スリット、
117 周縁部、
118 規制部材、
120 袋体、
124 内部空間、
140 押圧部材、
141 押圧部(拡張部材)、
145 位置調節部、
145a 第1端部、
145b 第2端部、
150 固定部材、
160 支持部材(拡張部材)、
170、180 注入部、
H 手、
Hb 甲、
Hp 掌、
A 前腕、
t1 穿刺部位(止血すべき部位)。
図1
図2
図3
図4
図5