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特許7181282急性及び慢性ミトコンドリア電子伝達系機能障害の治療法、及び同治療法に使用されるグラフェン材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】急性及び慢性ミトコンドリア電子伝達系機能障害の治療法、及び同治療法に使用されるグラフェン材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/69 20170101AFI20221122BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221122BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20221122BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20221122BHJP
   A61P 39/04 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20221122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221122BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20221122BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221122BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20221122BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K45/00
A61P39/06
A61P39/02
A61P39/04
A61K31/16
A61K47/60
A61P43/00 111
B82Y5/00
B82Y40/00
A61K9/51
C12N9/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020510507
(86)(22)【出願日】2018-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018030315
(87)【国際公開番号】W WO2018201157
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/491,995
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/556,719
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(73)【特許権者】
【識別番号】519385423
【氏名又は名称】ヒューストン メソジスト リサーチ インスティチュート
(73)【特許権者】
【識別番号】519385434
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステーツ ガバメント アズ リプリゼンテッド バイ ザ ディパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ツアー、ジェームズ、エム.
(72)【発明者】
【氏名】ニレフスキ、リザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】シッケマ、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】メンドーサ、キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ケント、トーマス、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ダルメイダ、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】デリー、ポール、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、ア-リム
(72)【発明者】
【氏名】ヘッジ、パバナ、ディクシット
(72)【発明者】
【氏名】ダーマリンガム、プラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッジ、ムラリダー、エル.
(72)【発明者】
【氏名】ミトラ、サンカル
(72)【発明者】
【氏名】ミトラ、ジョイ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/066398(WO,A1)
【文献】特表平11-514326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0184244(US,A1)
【文献】特表2009-518414(JP,A)
【文献】特表2016-529310(JP,A)
【文献】特開2011-136983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 -47/69
A61K 31/00 -31/327
A61P
B82Y 5/00 -99/00
C12N 9/00 - 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート化部分で共有結合により修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物であって、
(a)前記抗酸化性ナノ粒子が、PEG-HCC、PEG-GQD及びPEG-PDIからなる群より選択され
(b)前記キレート化部分が鉄キレート化部分であり
(c)前記治療用組成物が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも10倍高いキレート化効力を有する
治療用組成物。
【請求項2】
前記キレート化部分がDEFである、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記治療用組成物がDEF-PEG-HCCである、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記治療用組成物がDEF-PEG-GQDである、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項5】
PEG:キレート化部分の比率が1:3~3:1である、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項6】
PEG:キレート化部分の比率が1:1未満である、請求項5に記載の治療用組成物。
【請求項7】
前記治療用組成物が、ミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するための組成物である、請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項8】
前記治療用組成物が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記鉄キレート化部分と比較して少なくとも100倍高い鉄キレート化効力を有する、請求項1に記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許及び特許出願
本出願は(a)2017年4月28日に出願された「付属キレート化部分を有する抗酸化性ナノ粒子並びに同抗酸化性ナノ粒子の作製方法及び使用方法(Antioxidant Nanoparticles Having Attached Chelating Moieties And Methods Of Making And Using Same)」という標題の米国特許出願第62/491,995号、及び(b)2017年9月11日に出願された「急性及び慢性ミトコンドリア電子伝達系機能障害の治療向けのグラフェン材料(Graphenic Materials For The Treatment Of Acute And Chronic Mitochondrial Electron Transport Chain Dysfunction)」という標題の米国特許出願第62/556,719号という仮特許出願の優先権を請求するものである。それらの出願は共通して本発明の出願人に属するものであり、ここで参照によりそれらの出願の全体を全ての目的のために本明細書に援用する。
【0002】
政府の利害
本発明は助成番号第NS094535号、第NS084290号、及び第NS088645号の米国国立衛生研究所の研究助成を受けて行われた。米国政府は本発明についてある一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は概して急性及び慢性のミトコンドリア電子伝達系機能障害の治療法及び同治療法に使用されるグラフェン材料、例えば、相乗活性のために付着したキレート化部分を有する抗酸化性ナノ粒子をはじめとする修飾型抗酸化性ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0004】
米国では外傷性脳損傷(TBI)が主要な死亡及び身体障碍の原因である。毎年推定170万人がTBIの被害を受けており、52,000人が死亡し、275,000人が入院している。TBIは軽度、中程度、及び重度の損傷に分類され、毎年TBIによる損傷の約75%が脳震盪又は軽度外傷性脳損傷(MTBI)に分類されている。同時に起きた損傷からの出血に起因することが多い低血圧のために全ての重症度レベルのTBIが悪化する。特に出血性低血圧などの副次的外傷によって悪化するときには酸化ストレスがTBIの顕著な特徴である。
【0005】
酸化ストレスが虚血及び再灌流傷害の主要な病態生理学的因子であることは多数の証拠に基づいている。この証拠は、遺伝子導入された抗酸化物質を過剰発現する複数の虚血再灌流モデルにおける強固な神経保護によって示されている。しかしながら、あらゆる形態の脳損傷の抗酸化療法のうち治験で利益を示したものはない。2つの主要な要因のためにこのように不成功に終わったと考えられている。それらの要因とは、(1)現在利用可能な抗酸化薬には事前処理と対照的に虚血の後に用いられると有効性を減じる重大な限界が存在すること、及び(2)酸化ストレス損傷は特定の臨床状況下では量的に大きくなるため、最も適切な条件で検査されないと利益を見落とす可能性があることである。脳卒中ではそれらの条件は、典型的には、再灌流療法で治療されるときの脳卒中時の最悪の転帰、例えば高血糖症を有する条件である(6)。より具体的には、動物モデルはTBIの直後に抗酸化薬で試験されることが多かった。一方、クリニカルシナリオでは損傷の時点と根本治療の時点との間に遅れがあることが多い。したがって、より正確な動物モデルは損傷してから患者が救急施設で処置され得る時点までの典型的な時間をシミュレートするために60~90分の時間だけ治療レジメを遅らせるべきである。
【0006】
幾つかの保護機構が正常な生理機能の間に生成される酸化的ラジカルに対処するために存在する。これらの機構は、最終的には水に至る一連の工程においてラジカル種を修飾する酵素と他のタンパク質から構成されている。スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)によって触媒される不均化により2分子のSOが反応して1分子のOと1分子の過酸化水素(H)を形成する超酸化物ラジカル(O ・-、又はSOと略称される)の運命が例として挙げられる。そのHが遊離状態の鉄と出会うとその鉄はHがヒドロキシラジカル(HO)を生成するフェントン反応を触媒する。正常な状態ではこの過剰な遊離状態の鉄を除去することにより反応性の高いヒドロキシラジカルの形成を抑制する解毒作用のための充分なレベルの防御タンパク質が存在する。しかしながら病的状況下ではこれらの防御因子が失われている。急性損傷の後ではそれらの防御因子は充分に早く発現上昇することができない。その結果、多種多様な生命機能の損傷と破綻につながるラジカルカスケードの一部になる不安定な中間物が形成される。
【0007】
これらを考慮すると、一旦ラジカルカスケードが開始すると、以下の事項を含むものとして現在の抗酸化薬の限界をまとめることができる。
【0008】
(A)作用機序:
多くの抗酸化薬がラジカルを別の不安定な種に「伝達」する。SODはHを生成し、その過酸化水素は後にOHを生成することができる。正常な状況下ではその結果生じたラジカルを除去するために充分な量のカタラーゼとグルタチオンが存在する。病的状態下ではこのようにいかない可能性があり、実際にはSODがより有害な種を生成する可能性がある。
【0009】
(B)再生の必要性:
ビタミンE及びビタミンCなどの多くの抗酸化薬は再生される必要があり、且つ、酸化的環境で消費される因子(グルタチオン)を必要とする。
【0010】
(C)能力の限界:
最も新しい抗酸化薬が限られた能力しか持たず、ラジカルとそれらのその後の不安定な生成物の爆発的増加が始まった後に投与されるとそれらの抗酸化薬はその爆発的増加に対処できそうにない。高用量アルブミンは脳卒中における抗酸化薬として利益を示すことに最近失敗しており、その高用量アルブミンではラジカルを除去するチオール部分の数が限定されている。
【0011】
(D)選択性:
抗酸化薬の機序がラジカル伝達を含み、新規に形成されたラジカルに対処するために下流酵素に依存する場合に高い選択性は不利である。
【0012】
ほぼ全ての現在の抗酸化薬がこれらの限界のうちの1又は複数の限界を共有している。したがって、改良型の抗酸化薬が依然として必要である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は改変型親水性カーボンクラスター(HCC)、ポリ(エチレングリコール)-親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)、並びにグラフェン量子ドット(GQD)、PEG化GQD(PEG-GQD)、低分子抗酸化物質、及びPEG化低分子抗酸化物質のような類似構造物質を含む。具体的には、これらの物質は鉄キレート化部分、デフェロキサミン、又は類似のキレート化部分で修飾されている。カーボンナノ構造体は共通の結合部位を利用することによりミトコンドリア内の伝達を含む細胞内伝達を促進し、処理前の前記キレート剤部分の酸化的破損を抑制し、且つ、体内での金属誘導性酸化ストレスの原因と結果を減少させることで一連の酸素中毒及び金属関連中毒向けの新しい形の治療法を提供する。
【0014】
さらに本発明はミトコンドリア損傷時の電子伝達系「バイパス」機構としての新しい用途に合うグラフェン材料の新しく発見された機能に関し、その機能でグラフェン材料は既存の電子伝達系メンバーと直接的に置き換わらずに、又は既存の電子伝達系メンバーの代わりをせずに電子伝達系において超酸化物から電子を捕捉し、酸化種を還元する。これは本出願人が高力価抗酸化薬として機能することを以前に示した材料の新しい用途であり、ミトコンドリア損傷を含む症状にまでこれらの薬剤の潜在的な用途を拡大する。重要な代用物質とミトコンドリア電子伝達系のタンパク質との間で電子を伝達する新しいメカニズムが発見された。この新しいメカニズムの電子伝達シャトル(ETS)はケント電子伝達シャトル(KETS)と呼ばれている。
【0015】
概して、1つの実施形態では本発明は共有結合によりキレート化部分で修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物を特徴とする。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。この治療用組成物は前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも10倍高いキレート化効力を有する。
【0016】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0017】
前記治療用組成物は前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも100倍高いキレート化効力を有し得る。
【0018】
前記キレート化部分は金属キレート化部分であり得る。
【0019】
前記金属キレート化部分はアルミニウム、アメリシウム、ヒ素、カドミウム、セシウム、クロム、銅、キュリウム、鉄、鉛、水銀、プルトニウム、タリウム、ウラン、及び亜鉛からなる群より選択される金属のキレート剤であり得る。
【0020】
前記金属はヒ素、カドミウム、銅、鉄、鉛、セレン、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0021】
前記キレート化部分はDEFであり得る。
【0022】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0023】
前記治療用組成物はDEF-PEG-HCCであり得る。
【0024】
前記治療用組成物はDEF-PEG-GQDであり得る。
【0025】
PEG:キレート化部分の比率は1:3~3:1であり得る。
【0026】
PEG:キレート化部分の比率は1:1未満であり得る。
【0027】
前記治療用組成物はミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するように作用可能であり得る。
【0028】
前記キレート化部分はDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択され得る。
【0029】
概して、別の実施形態では本発明は上記治療用組成物のうちの1つを選択することを含む方法を特徴とする。その方法は対象にこの治療用組成物を投与することをさらに含む。投与されるこの治療用組成物中のキレート剤部分の量は、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない前記キレート剤部分が同程度のキレート化効力を得るために投与されることが必要な前記キレート剤部分の量の多くとも10%にまで減少する。この治療用組成物は前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0030】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0031】
投与される前記治療用組成物中のキレート剤部分の量は、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない前記キレート剤部分が同程度のキレート化効力を得るために投与されることが必要な前記キレート剤部分の量の多くとも1%にまで減少し得る。
【0032】
前記治療用組成物を投与する前記方法ステップはミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防することであり得る。
【0033】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における金属誘導性酸化ストレスが低減し得る。
【0034】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象の組織損傷が治療され得る。
【0035】
前記組織損傷は脳損傷であり得る。
【0036】
前記脳損傷は脳内出血であり得る。
【0037】
前記組織損傷は中枢神経系の一部である組織の損傷であり得る。
【0038】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程によりフェロトーシスが抑制され得る。
【0039】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における金属中毒が治療され得る。
【0040】
前記対象における前記金属中毒はアルミニウム、アメリシウム、ヒ素、カドミウム、セシウム、銅、クロム、銅、キュリウム、鉄、鉛、水銀、プルトニウム、タリウム、ウラン、及び亜鉛からなる群より選択される金属を含み得る。
【0041】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における酸素(O)化された血流が改善され得る。
【0042】
前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象の虚血及び再灌流傷害が治療、抑制、又は予防され得る。
【0043】
概して、別の実施形態では本発明は治療用組成物の作製方法を特徴とする。その方法は抗酸化性ナノ粒子を選択する工程を含む。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。この方法は共有結合によりキレート化部分で前記抗酸化性ナノ粒子を修飾する工程をさらに含む。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。この治療用組成物は前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも10倍高いキレート化効力を有する。
【0044】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0045】
前記治療用組成物は前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも100倍高いキレート化効力を有し得る。
【0046】
前記キレート化部分は金属キレート化部分であり得る。
【0047】
前記金属キレート化部分は、金属のキレート剤、例えば、アルミニウムキレート化部分、アメリシウムキレート化部分、ヒ素キレート化部分、カドミウムキレート化部分、セシウムキレート化部分、クロムキレート化部分、銅キレート化部分、キュリウムキレート化部分、鉄キレート化部分、鉛キレート化部分、水銀キレート化部分、プルトニウムキレート化部分、タリウムキレート化部分、ウランキレート化部分、又は亜鉛キレート化部分であり得る。
【0048】
前記金属はヒ素、カドミウム、銅、鉄、鉛、セレン、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0049】
前記キレート化部分はDEFであり得る。
【0050】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0051】
前記治療用組成物はDEF-PEG-HCCであり得る。
【0052】
前記治療用組成物はDEF-PEG-GQDであり得る。
【0053】
PEG:キレート化部分の比率は1:3~3:1であり得る。
【0054】
PEG:キレート化部分の比率は1:1未満であり得る。
【0055】
前記治療用組成物はミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するように作用可能であり得る。
【0056】
前記キレート化部分はDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択され得る。
【0057】
概して、別の実施形態では本発明は共有結合によりキレート化部分で修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物を特徴とする。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。このキレート化部分は鉄キレート化部分である。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0058】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0059】
前記鉄キレート化部分はDEFであり得る。
【0060】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0061】
概して、別の実施形態では本発明は上記治療用組成物のうちの1つを選択することを含む方法を特徴とする。その方法は対象にこの治療用組成物を投与することをさらに含む。この治療用組成物は前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0062】
概して、別の実施形態では本発明は治療用組成物の作製方法を特徴とする。その方法は抗酸化性ナノ粒子を選択する工程を含む。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。この方法は共有結合によりキレート化部分で前記抗酸化性ナノ粒子を修飾する工程をさらに含む。このキレート化部分は鉄キレート化部分である。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0063】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0064】
前記鉄キレート化部分はDEFであり得る。
【0065】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0066】
概して、別の実施形態では本発明は共有結合によりキレート化部分で修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物を特徴とする。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。このキレート化部分はこのキレート化部分によるキレート化のための活性部位ではない第1部分を有する。このキレート化部分はその第1部分において前記抗酸化性ナノ粒子に共有結合している。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0067】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0068】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0069】
概して、別の実施形態では本発明は上記治療用組成物のうちの1つを選択することを含む方法を特徴とする。その方法は対象にこの治療用組成物を投与することをさらに含む。この治療用組成物は前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0070】
概して、別の実施形態では本発明は治療用組成物の作製方法を特徴とする。その方法は抗酸化性ナノ粒子を選択する工程を含む。この抗酸化性ナノ粒子は酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する。この方法は共有結合によりキレート化部分で前記抗酸化性ナノ粒子を修飾する工程を含む。このキレート化部分はこのキレート化部分によるキレート化のための活性部位ではない第1部分を有する。このキレート化部分はその第1部分において前記抗酸化性ナノ粒子に共有結合している。この治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する。
【0071】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0072】
前記抗酸化性ナノ粒子はPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択され得る。
【0073】
概して、別の実施形態では本発明は対象における電子伝達の障害を治療する方法を特徴とする。その方法は電子伝達の障害を治療する必要がある対象を特定することを含む。その電子伝達の障害は電子伝達系のミトコンドリア複合体からの電子の漏出を含む。この方法はその対象に治療用組成物を投与することをさらに含む。この治療用組成物は酸化抑制特性と酸化促進特性を有する炭素材料を含む。この方法は、この治療用組成物を利用して前記対象内の活性酸素種(ROS)上のフリーラジカルを消滅させることをさらに含む。この方法は、この治療用組成物を利用して前記対象内の細胞のミトコンドリア膜内で電子を伝達することをさらに含む。
【0074】
本発明の実施態様は以下の特徴のうちの1又は複数の特徴を含み得る。
【0075】
前記方法は、生成した活性酸素種(ROS)又は生成した活性窒素種(RNS)を除去することにより電子伝達系のミトコンドリア複合体からの電子の漏出に直接的に対処するために前記治療用組成物を利用することをさらに含み得る。
【0076】
前記活性酸素種(ROS)は超酸化物を含み得る。
【0077】
前記活性酸素種(ROS)はヒドロキシラジカルを含み得る。
【0078】
前記方法は、活性窒素種上のフリーラジカルを消滅させるために前記治療用組成物を利用することをさらに含み得る。
【0079】
前記方法は、電子シャトルと電子伝達を回復させるために前記治療用組成物を利用することをさらに含み得る。
【0080】
電子シャトルと電子伝達を回復させるために前記治療用組成物を利用する前記工程は、前記対象の内在性電子シャトル能の機能不全からの保護を含み得る。
【0081】
前記対象においてプロトン濃度勾配の喪失、活性酸素種レベルの上昇、及び細胞損傷を引き起こす前記電子漏出を抑制することにより重要な細胞システムに対する損傷を治療することができる。
【0082】
前記電子の漏出は電子伝達タンパク質及びそれらのタンパク質の中間物に対する傷害から生じ得る。
【0083】
前記電子タンパク質及びそれらのタンパク質の中間物はNADPH、フラビン、シトクロムc、ミトコンドリア酵素、オルガネラ酵素、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0084】
電子シャトルと電子伝達の回復能は細胞のミトコンドリア膜、オルガネラ、又はそれらの組合せにおいて生じ得る。
【0085】
前記方法は、細胞のミトコンドリア膜内で電子を伝達するために前記治療用組成物を利用することをさらに含み得る。
【0086】
前記対象は哺乳類動物であり得る。
【0087】
前記哺乳類動物はヒトであり得る。
【0088】
前記治療用組成物の前記投与は静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、経口経路、皮膚経路、又は経鼻経路を介した投与を含み得る。
【0089】
前記電子伝達の方法障害は、先天性及び後天性のミトコンドリア損傷、神経系に対する急性損傷、末梢性損傷、全身性損傷、神経変性障害、全身性臓器障害、炎症性疾患、臓器移植、血流再開を伴う臓器移植、外傷、出血性ショックと血流再開を伴う外傷、脳卒中、脳への血流再開を伴う脳卒中、及びそれらの組合せからなる群より選択される症状に関連し得る。
【0090】
前記先天性及び後天性のミトコンドリア損傷はミトコンドリア遺伝子変異疾患、ウィルソン病、金属代謝遺伝子疾患、シアン化物又はヒ素を例とするミトコンドリア毒素による急性及び慢性の中毒、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。前記神経系に対する急性損傷は外傷性脳損傷、虚血、出血、無酸素性脳症、低酸素性又は虚血性脳症、再灌流、血流再開、脳卒中、脳血管機能不全、脊髄損傷、中枢神経系損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。前記末梢性損傷はニューロパチーからなる群より選択され得る。前記全身性損傷は出血性ショック、低酸素症、低血圧、心筋梗塞と心筋損傷、肺損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。前記神経変性障害はアルツハイマー病、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症、自閉症、ウィルソン病及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。前記全身性臓器障害は肝臓疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、糖尿病、心筋梗塞と心筋損傷、肺損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。前記炎症性疾患は炎症性腸疾患からなる群より選択され得る。
【0091】
前記電子伝達の障害は外傷性脳損傷後の脳血管機能不全に関連し得る。
【0092】
前記炭素材料は単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、三層ナノチューブ、多層ナノチューブ、超短ナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノリボン、グラファイト、グラフェンオキシド、グラフェンオキシドナノリボン、カーボンブラック、酸化カーボンブラック、親水性カーボンクラスター、グラフェン量子ドット、カーボンドット、石炭、コークス、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0093】
前記炭素材料にはヘテロ原子をドープすることができる。
【0094】
前記ヘテロ原子はO、N、S、P、B、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0095】
前記炭素材料に複数の可溶化基を持たせることができる。
【0096】
前記可溶化基はポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(p-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアミン)、ビニルポリマー、連鎖成長ポリマー、逐次成長ポリマー、縮合重合体、開環重合体、開環メタセシス重合体、リビングポリマー、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0097】
前記炭素材料は官能基を持たせたペリレンジイミド、又は官能基を持たせている多環式芳香族コアを含む小分子であり得る。
【0098】
前記小分子はヒドロキシル基、カルボキシル基、キノン基、エポキシ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、スルホン基、ヒドラジン基、イミン基、ヒドロキシイミン基の部分、又はそれらの組合せを有し得る。
【0099】
前記治療用組成物は標的薬剤をさらに含み得る。
【0100】
前記標的薬剤はオルガネラ、臓器、又は細胞種に対する標的薬剤であり得る。
【0101】
前記標的薬剤は、酸化ストレスに応答して上方制御される細胞表面部分を標的とするタンパク質であり得る。
【0102】
前記標的薬剤はp-セレクチン、トランスフェリン受容体、アンギオテンシン受容体、カンナビノイド受容体、上皮成長因子受容体、接着分子、チャネルタンパク質、及びそれらの組合せからなる群より選択されるタンパク質であり得る。
【0103】
前記標的薬剤は抗体、タンパク質、RNA、DNA、アプタマー、小分子、デンドリマー、炭水化物、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0104】
前記標的薬剤はキレート剤であり得る。
【0105】
前記キレート剤はDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択され得る。
【0106】
前記標的薬剤は前記炭素材料と共有結合し得る。
【0107】
前記炭素材料は輸送体部分と結合し得る。この輸送体部分は関門を通過する前記炭素材料の輸送を容易にし得る。
【0108】
前記関門は血液脳関門、血液脊髄関門、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0109】
前記輸送体部分はアダマンタン分子、アダマンタン分子誘導体、カンナビノイド分子、カンナビノイド分子誘導体、HU-210、及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0110】
前記輸送体部分は非天然エナンチオマーからなる群より選択され得る。
【0111】
前記炭素材料は抗酸化活性と併せて、電子シャトル及び電子伝達の修復能を有し得る。
【0112】
前記抗酸化活性は活性酸素種、活性窒素種、又はそれらの組合せに対しての活性であり得る。
【0113】
前記活性酸素種は超酸化物、又はヒドロキシラジカル、又はそれらの組合せを含み得る。
【0114】
前記抗酸化薬は一酸化窒素に対して非反応性であり得る。
【0115】
以下の発明を実施するための形態をより良く理解することができるように本発明の特徴と技術上の利点をこれまでにやや広範に概説してきた。本発明の請求項の主題を形成する本発明の追加の特徴と利点を本明細書においてこれより説明する。当業者は開示される概念と具体的な実施形態が本発明の同じ目的を改変するための基礎として、又は本発明の同じ目的を実施するための他の構成を設計するための基礎として容易に利用可能であることを理解する。当業者は添付されている特許請求の範囲において示されている本発明の主旨と範囲からそのような等価の構成が逸脱しないことも理解する。
【0116】
本発明の適用に際し、以下の説明で述べられる、又は図面において例示される詳細な構成及び要素の配置に本発明が限定されないことも理解される。本発明は他の実施形態を受け入れる余地を有し、様々な方法で実施実行され得る。また、本明細書において使用される表現と用語は説明を目的としたものであり、限定的であるとみなされるべきではないことも理解される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
添付図面に例示されている以下の実施形態の説明から本発明の前述の目的、特徴、及び利点、並びに他の目的、特徴、及び利点が明らかになる。これらの図面では参照文字は様々な図の中で同じ部分を指し示す。これらの図面は必ずしも正寸ではなく、代わりに本発明の原理を例示することに主眼が置かれている。
図1】発煙硫酸と発煙硝酸の1:1混合物を使用した無煙炭又は瀝青炭のどちらかからのグラフェン量子ドット(GQD)の合成を示す図である。
図2】デフェロキサミン(DEF)が末端アミンを介して結合して新しいアミド結合を形成しているデフェロキサミン-PEG-HCC(DEF-PEG-HCC)又はデフェロキサミン-PEG-GQD(DEF-PEG-GQD)の合成を示す図である。
図3】ROS及び酸化ストレスを介したゲノム損傷の媒介における鉄/ヘミンの役割を示す図である。ナノ粒子(キレート剤及び抗酸化薬と組み合わさっている)を使用する処置が脳卒中時にゲノムを損傷から守ると考えている。
図4A】培養血管内皮細胞における活性酸素種のレベルを反映しているCellROX(商標)蛍光を示す図である。
図4B】同上
図4C】同上
図5A】PEG-HCCに結合している親水性カーボンクラスターにより初代マウス皮質ニューロンにおける過酸化水素によるCellROX蛍光色素の酸化が低減することを示す図である。
図5B】同上
図5C】同上
図5D】同上
図5E図5A図5DのPEG-HCCに関した酸化型CellROX色素の未処理対照に対して正規化された蛍光を示すグラフである。
図6A】鉄と活性酸素毒性に対するDNA損傷応答の改善に関与する作用機序に関連する追加のインビトロデータ及びインビボデータを示す図である。図6A図6Bは神経細胞の鉄曝露から15分以内(図6Aは0分、図6Bは15分)のミトコンドリア特異的HセンサーpHyperの蛍光を示している。図6A図6Bはミトコンドリアでの活性酸素種の生成における培養神経細胞への鉄の添加の急速な作用を示している。
図6B】同上
図6C】DNAがヘモグロビンの分解生成物であるヘミンによってミトコンドリアと核の両方で損傷を受けている(レーン2)ことを示している図である。
図6D】マウスでの実験的脳内出血(ICH)の後のその脳の出血周辺領域にDNA損傷の証拠があることを示している図である。
図6E】そのICHの後にPEG-HCC又はデフェロキサミンで個々に処置されるときよりもDEF-PEG-HCCで処置されるときの方がこのDNA損傷が低減することを示している図である。
図7】DEF-PEG-HCC(701)、PEG-HCC(702)又はPEG-PDI(703)の添加から24時間後に測定された、100mMの過酸化水素で処理され、且つ、PEG-HCC、DEF-PEG-HCC、又はPEG化ペリレンジイミド(PEG-PDI)のいずれかでレスキューされた培養血管内皮細胞の生存度を示す図である。PEG-PDIはPEG化ペリレンジイミドのことである。過酸化水素の添加からの時間がX軸に示されている。過酸化水素と同時に添加されたときにDEF-PEG-HCCの優れた保護能力が特に顕著である。
図8A】10μMのヘミンへの曝露によるDNA損傷後のアルカリDNAコメットアッセイと中性DNAコメットアッセイの撮影された画像である。
図8B図8Aに示されているこれらのアッセイのDNA損傷の時間動特性を示すグラフである。
図9】ヘミン曝露後に二本鎖切断(DSB)マーカーがDEF-PEG-HCCにより減少することを示す図である。
図10】ミトコンドリア膜電位に対するヘミンの効果、及びレスキュー処置としてのDEF-PEG-HCCによるベースラインまでの回復作用を示すグラフである。
図11A】ヘミンとトリニトリロ三酢酸鉄の両方で処理したSHSY-5Y細胞への鉄(Fe)又はヘミンの添加後のDNA損傷タンパク質に対するPEG-HCCの効果をDEF-PEG-HCCの効果に対して比較する図である。
図11B】同上
図11C】細胞培養物へのヘミンの添加後のAnnexin V細胞生存度アッセイを用いる処理に対する細胞死のパーセンテージをPEG-HCC、DEF-PEG-HCC、及びデフェロキサミン単独と比較して示すグラフである。
図12】Y軸がUV分光学による262nmの吸光度のモニタリングを通して明らかになった溶液中の残存デフェロキサミンのユニット数を表すグラフである。近似直線1203はPBS溶液中でのデフェロキサミン分解(DEF/PBS)を示す。近似直線1201はPBSと希釈PEG-HCCの溶液中でのデフェロキサミンの分解(DEF/PEG)を示す。近似直線1202は窒素ガスを泡立たせたPBS中でのデフェロキサミンの分解(DEF/N)を示す。DEF/PEG及びDEF/Nの傾きは、Nパージされたとき、又は抗酸化薬PEG-HCCが存在するときのどちらかで溶液中に溶解してるデフェロキサミンの分解が検出できなかったことを示している。このDEF-PEG-HCCはPBS溶液中ではDEF単独よりもかなり安定性が高いはずである。
図13A】溶血血液を注入されたマウスの脳半球に注入された溶血血液を示す写真である。
図13B図13Aの溶血血液を注入されたマウスにおいてDNA損傷DEF-PEG-HCC関連タンパク質という存在で処理された、又は処理されていないマウス脳のホモジェナイズされた組織におけるDNA損傷マーカーであるγH2A.Xの発現を示す図である。
図14A】90分の虚血再灌流に続くPBS対照処置及びPEG-HCCに結合している親水性カーボンクラスターによる処置を経た梗塞体積を示す代表的なテトラゾリウムクロリド切片の図である。図14Aは全中大脳動脈(MCA)領域の梗塞を示しているPBS対照の図である。図14BはPEG-HCCによる処置後の図であって、かなり温存された皮質を示す図である。組織切片群は複数のラット個体に由来した。スケールバーは1cmである。
図14B】同上
図15】フェロトーシス経路、及びこの経路においてDEF-PEG-HCCがどのように複数の効果を有し得るのかを示す図である。
図16】還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)(0~5mM)によるフェリシトクロムC(酸化型シトクロムC)(40μM)の還元に対する4mg/Lの濃度のPEG-HCC及びメチレンブルー(MB)の比較を示すグラフである。
図17A】PEG-HCCが過酸化水素の毒性からbEnd.3細胞をレスキューすることを示すグラフである。
図17B】MBが本質的に有毒であることを示すグラフである。
図18】培養脳内皮細胞(b.End3)への過酸化水素の添加後の細胞生存度のグラフである。
図19】ポリ(エチレングリコール)結合親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)が処理したマウス皮質ニューロン(MCN)に対するHの細胞毒性を低下させることを示すグラフである。
図20A】プロトコルに従う2種類の処置に関する経時的脳血流(%)を示すグラフである。ライン2001とライン2005は脳血流に対する陰性ベヒクル対照(PBS)の効果を示している。ライン2002とライン2006は脳血流に対するPEG-HCCの効果を示している。ライン2003とライン2007は脳血流に対するPEG-GQDの効果を示している。矢印2004と矢印2008はベヒクル、PEG-HCC、又はPEG-GQDの注射間隔を表している。
図20B】同上
図21】代表的なキレート剤の構造の例とそれらのキレート剤の本記載のナノ材料への連結機構を示す図である。
図22】複合体I及びIIIにおける電子の漏出の起源を示す図である。
図23A】電子シャトル及びスーパーオキシドディスムターゼ模倣物としてのPEG-HCCの電子伝達系における役割を示す図である。KETS機構を示している。
図23B】モデル実験において利用される種であるレサズリンとレゾルフィンの構造と還元反応を示す図である。
図23C】PEG-HCCを介したレサズリンのフラビンモノヌクレオチド(リボフラビン、FMN)媒介性還元の作用機序を示す図である。
図24】レサズリン、PEG-HCC(図中でHCCとして示されている)、及びリボフラビン-5’-リン酸を含む溶液に対する460nm光への10分の曝露の効果を示すグラフである。
図25】PEG-HCC(図中でHCCとして示されている)とSODとの間での競合実験の模式図である。
図26】PEG-HCC(図中でHCCとして示されている)、レサズリン、及びFMNを含む溶液へのスーパーオキシドディスムターゼの添加を示すグラフである。
図27】リボフラビンによるシトクロムCの還元に対するPEG-HCC(図中でHCCとして示されている)濃度の効果を示すグラフである。
図28】550nmの光の吸収の増加として示されるレサズリンのレゾルフィンへの還元を示すグラフである。この実験ではPEG-HCC、レサズリン、及びNADPHを含む試料において550nmの吸収の強度を追跡し、後に元の吸収の強度と比較して変化のパーセント値を得た。
図29】一定の濃度のNADPH-キノンオキシドレダクターゼ(NQO)及びNADPHによる時間の関数としてのUV可視光の吸光度の変化を示すグラフである。
図30A】PEG-HCC及びレサズリンとのNADHの反応を示す模式図である。
図30B】NADHによるレサズリンのレゾルフィンへの還元とフェリシトクロムCのフェロシトクロムCへの還元に関するPEG-HCCの触媒飽和キネティクスを示すグラフである。
図31A】PEG-HCCによるPEG-HCC触媒性レサズリン還元の基質と生成物を示す模式図である。
図31B】レサズリン及びNADHに関するPEG-HCCの飽和キネティクスを示すグラフである。
図32】培養マウス脳内皮細胞へのシアン化ナトリウム(NaCN)の添加後の細胞死からのPEG-HCCによる保護を示すグラフである。
図33】培養ヒト神経芽細胞腫SHSY-5Y細胞におけるヘミン誘導性ミトコンドリア膜電位低下からのPEG-HCCによる保護を示すグラフである。
図34A】ヒトシトクロムcのサブユニットVIII由来のミトコンドリア標的配列を含む光励起可能GFPを発現するSHSY-5Y細胞のデコンボリューション顕微鏡法Z軸投影像を示す図である。DEF-PEG-HCCがマウス抗PEG一次抗体に対するAlexaFluor-647標識二次抗体として示されている。ミトコンドリア及び核に由来する蛍光シグナルも示されている。
図34B】DEF-PEG-HCCがSHSY-5Y細胞によって内部に取り込まれていることを示す図32Aの顕微鏡写真内の焦点面を示す図である。
図35】生理食塩水で処置された損傷ラット(ベヒクル処置、陰性対照)とPEG-HCCで処置された損傷ラットの試験群の平均台歩行試験での成績を示すグラフである。
図36】生理食塩水で処置された損傷ラット(ベヒクル処置、陰性対照)とPEG-HCCで処置された損傷ラットの試験群の平均台バランス試験での成績を示すグラフである。
図37】生理食塩水で処置された損傷ラット(ベヒクル処置、陰性対照)とPEG-HCCで処置された損傷ラットの試験群のモリス水迷路試験での成績を示すグラフである。
図38】生理食塩水で処置されたラット(ベヒクル処置、陰性対照)とPEG-HCCで処置されたラットの試験群の損傷2週間後の脳挫傷の体積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0118】
本発明は組織損傷、例えば分解したヘモグロビンから遊離状態の鉄が放出されている出血後の組織損傷、特に脳損傷を治療するための新規療法である。この損傷の一例は、鉄、並びにヘモグロビンの酸化的分解生成物によりDNA損傷修復(DDR)応答、細胞死、及び細胞機能不全などの細胞傷害が誘導される脳内出血(ICH)である。鉄は多数の有害作用、特にヒドロキシラジカル形成に起因する酸化ストレスを触媒する。鉄及び他の重金属は、鉄及び他の金属の過剰結合にも関係するアルツハイマー病毒性タンパク質の蓄積に起因する神経変性など、神経変性を含む多くの形態の損傷にも関係する。しかしながら、未だにこれらの知見は機能的転帰を改善する効果的な治療法につながっていない。
【0119】
この酸化ストレスの結果として酸化的DNA損傷とDNA修復阻害の両方が発生し、それらの両方が遺伝的完全性にとって重大な有害作用を有する。ICHの治療に関し、血液分解活性酸素種(ROS)に起因する神経細胞に対するDNA損傷の修復はICH後に存在することが予測される低濃度の鉄によって阻害される。神経細胞及び(血管)内皮細胞には不完全なDNA損傷応答(DDR)の他、複雑だが、それでも測定可能なヘム/鉄毒性、ROS、及びゲノム損傷蓄積の間での相互干渉が存在することが本発明に基づいて発見されている。これらの因子は治療介入を受け入れることができる共通の病因を有している。このため、驚異的なROS除去能をキレート化と組み合わせこれらの能力を不良転帰に対する新規炭素粒子薬を使用してROSを抑制し、且つ、DDRを回復する新しい薬理学的アプローチを提供する。
【0120】
重要な代用物質とミトコンドリア電子伝達系のタンパク質との間で電子を伝達する新しいメカニズムであるKETS機構が発見されている。抗酸化薬(PEG-HCC等)の還元電位はユビキノンの還元電位に似ており、抗酸化薬がNADH及びNADPHなどの低還元電位種からより高い電位の還元電子伝達系構成要素へ電子を伝達することを可能にする。PEG-HCCは溶液中のNADH及びアスコルビン酸によるレサズリン(ミトコンドリア生存度の試験指示薬)及びシトクロムcの還元を促進することを示した。PEG-HCCは、ピンポン様の機序と対照的な一時的な三次複合体を介してNADH及びアスコルビン酸の酸化とレサズリン及びシトクロムCの還元を触媒することがキネティクスから示された。PEG-HCCは培養内皮細胞及び培養神経細胞との短時間のインキュベーションの後にデコンボリューション蛍光顕微鏡観察によりミトコンドリアのすぐ近くに特定された。細胞培養ではPEG-HCCは過酸化水素とミトコンドリア毒素であるシアン化ナトリウムからの保護を行うことができた。原型の小分子電子伝達シャトル(ETS)であるPEG-HCCはメチレンブルーと比較して同じ質量濃度で10倍低いKを示し、これにより正常なミトコンドリア機能を妨げないこと、及び過酸化水素とMBとの間に観察される毒性を有しない比較的に良好な保護を示すことが明らかになった。この新たに記載されるKETS機構が既に強力な酸化抑制特性に寄与し、且つ、一連の酸化ストレスモデルにおけるPEG-HCCの顕著なインビボ効力を規定する。このKETS機構は抗酸化薬物質(例えばPEG-HCC、PEG-GQD等)の潜在的な用途を一連のミトコンドリア障害まで拡大するために使用可能である。すなわち、抗酸化薬物質がミトコンドリアの酸化的リン酸化の破綻に関連する状態で具体的には電子伝達シャトル(ETS)として生化学的に適切な経路で利用可能である。
【0121】
電子シャトルは細胞の呼吸において重要である。電子伝達系の構成要素はミトコンドリアの内膜内で空間的に分かれているため、電子の伝達を促進するために担体小分子が必要である。例えば、ユビキノンは0Vに近い還元電位を有し、複合体Iから複合体IIIまで電子を伝達する。シトクロムCはシトクロムc(+250mV、複合体IIIレダクターゼサブユニット)の還元電位とシトクロムb(+290mv、複合体IVオキシダーゼサブユニット)の還元電位との間である+280mVの還元電位を有する。
【0122】
(付着されたキレート化部分を有する抗酸化性ナノ粒子)
本発明の治療法は共有結合により鉄キレート化部分で修飾されたカーボンナノ粒子を含む。これらの粒子はDEF-PEG-HCC(デフェロキサミン-PEG化-親水性カーボンクラスター)と呼ばれ、PEG-HCCの巨大な酸化抑制能及び用途を範囲とする本出願人の以前の研究から拡張したものである。
【0123】
(合成)
本発明の実施形態ではPEG-HCCは、Samuelら著、「Highly efficient conversion of superoxide to oxygen using hydrophilic carbon clusters」、Proc Natl Acad Sci USA誌、2015年、第112巻(第8号):2343~8頁(「Samuel 2015」)、及びBitnerら著、「Antioxidant carbon particles improve cerebrovascular dysfunction following traumatic brain injury」、ACS Nano.誌、2012年、第6巻(第9号):8007~14頁など、以前に説明されたように合成される。
【0124】
例えば、PEG-HCCのカーボンコアは発煙硫酸(過剰SO、オレウム)と硝酸を使用する過酷な酸化方法に精製済みの(外来性カーボンブラック及び金属混入汚染物質全体を除去した)単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を適用することにより調製可能である。SWCNTを約35~40nmまで短くし、分断する切断及び酸化の過程が硝酸により開始され、そうして短くなった酸化HCCが生成する。過酷な酸性条件によって誘導結合プラズマ質量分析により測定されるような微量の金属汚染混入物質すら溶解及び除去される。HCCの表面がアルコール、ケトン、及びカルボン酸などの様々な酸素含有部分を官能基として持たされ、それらのHCCは多くの疎水性ドメインが残っているにもかかわらず水に不溶性となる。
【0125】
グラフェン量子ドット(GQD)は発煙硫酸と発煙硝酸の1:1混合物を使用して無煙炭又は瀝青炭のどちらかから合成される(図1)。これは発表されたものと比べてずっと過酷な酸化条件セットに類似しており、単なる濃酸ではなく発煙酸が使用されている。Ye, R.ら著、「Bandgap Engineering of Coal-Derived Graphene Quantum Dots」、ACS Appl. Mater. Interfaces誌、 2015年、第7巻、7041~7048頁、Ye, R.ら著、「Coal as an Abundant Source of Graphene Quantum Dots」、Nature Commun.誌、2013年、第4巻、第2943号、1~6頁を参照されたい。
【0126】
デフェロキサミンはその一級アミン基を用い、アミド結合を介してデフェロキサミンと結合しているDICと連結するカルボジイミド架橋剤によってHCC及びGQDに結合する。同様にメトキシ-PEG-アミンが結合し、図2に示されているようにアミノ-PEGとデフェロキサミンの両方とHCC又はGQDが共反応することによりデフェロキサミン-PEG-HCCが合成される。PEG:デフェロキサミンの比率は様々であり得、必要であれば最初の生物活性の結果に基づいて最適化され得る。例えば、PEG:DEFの比率は1:3~3:1であり得、たいてい1:1未満である。PEG-HCCと同様にクロスフロー(KrosFlow Instruments社)接線流濾過又は透析により精製が行われる。
【0127】
(特徴)
PEG-HCCは超酸化物に対する巨大な触媒能活性を有することで現行の抗酸化薬の大きな限界を克服している新規カーボンナノ粒子であり、ヒドロキシラジカルに対して同等に有効であり、一方で血管保護性分子である一酸化窒素には影響しない。これらの粒子はラットにおいて静脈内注射後に脳の自己調節機能喪失の回復、及び脳外傷に起因する転帰の改善に顕著な効力を示している。
【0128】
PEG-HCCはROSを除去しつつSOラジカルの消費と1:1の化学量論性で酸素を放出することが発見されており、それは酸化損傷、及び虚血と呼ばれる正常な血液供給の喪失という背景では特に有益である特性である。最後に説明すると、PEG-HCC上の利用可能な官能基により様々な部分の共有結合が可能になる。これらのナノ粒子は、ICH後の患者の治療において必要となるように、培養状態の神経細胞及び血管内皮細胞をヘム/鉄の致死性作用から、又は過酸化水素の直接適用の致死性作用からレスキューすることができることが結果から示された。ヘモグロビン及びその副生成物の存在による酸化的損傷が患者において進行するので、PEG-HCCの急性保護能にキレート化を加えることによる相乗的な利益が提供される(図3)。ICH又はくも膜下出血(SAH)の分解生成物は神経細胞、星状細胞、及び内皮細胞において特定の種類の酸化的DNA損傷とDNA修復阻害を引き起こすと考えられている。PEG-HCC及び金属のキレート化の組合せによってこれらの事象が改善されるとさらに考えられている。
【0129】
(CellROX ROSのDEF-PEG-HCC還元)
CellROX ROS蓄積アッセイ(トリニトリロ三酢酸鉄(III)を使用する)を使用してマウス脳内皮細胞においてDEF-PEG-HCCをヘミンに対して試験した。結果が図4A図4Cに示されている。図4Aは対照である。図4Bは鉄の投与がROSを上昇させることを追跡している細胞蛍光であり、その細胞蛍光は(図4Cでは)鉄投与後にインビボで達成可能な濃度(4mg/ml)でのPEG-HCCの添加により完全に元に戻っている(細胞をヘミンで処理し、1時間後にDEF-PEG-HCCで処理し、24時間の時点でアッセイした)。
【0130】
図4A図4Cに示されているように、PEG-HCCは静脈内注射の後にインビボで達成可能である濃度で培養内皮細胞(及び示していないが培養神経細胞)への鉄の直接適用により誘導されるROSの増加を元に戻すことができ、毒性の証拠はなかった。これらの結果はデフェロキサミンの共有結合によるPEG-HCCの新しいバリエーションの利用、及びマウスSAHにおけるそのバリエーションの使用を後押しする。
【0131】
(マウス皮質E17神経細胞におけるCellROX ROSアッセイ)
培養マウス神経細胞においてCellROXアッセイを用いてROSの形成を測定した。図5A図5Dはポリ(エチレングリコール)結合親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)が初代マウス皮質ニューロンにおける過酸化水素によるCellROX蛍光色素の酸化を減少させることを示している。図5Aは未処理のMCN(50,000細胞/ウェル)を示している。図5Bは50μMのHで45分間にわたって処理されたMCNを示している。図5Cは8mg/LのPEG-HCCで45分間にわたって処理されたMCNを示している。図5Dは50μMのHで15分間にわたって処理し、続いて8mg/LのPEG-HCCを添加してさらに30分にわたって曝露させたMCNを示している。図5E図5A図5Dの親水性カーボンクラスターに関した酸化型CellROX色素の未処理対照に対して正規化された蛍光を示すグラフである。条件ごとの総細胞数は次の通り。未処理(n=137)、50μM H(n=158)、8mg/LのPEG-HCC(n=150)、及びH+PEG-HCC(n=139)。
【0132】
PEG-HCCで処理されたE17細胞は未処理対照と比べたCellROX蛍光の増加を示さなかった(100.1±8.8%)。50μMのHで15分間にわたって処理された細胞はCellROX蛍光の顕著な増加を示した(200±26.5%)。15分のH曝露後の30分間にわたる8mg/LのPEG-HCCでのMCNの処理は129±3.4%のCellROX蛍光の増加を示したが、Hのみでの処理よりも小さい値であった。細胞生存度は50μMのHの投与後に20%低下し、そしてPEG-HCC処理によって充分に回復した。
【0133】
(DNA損傷マーカーに対するDEF-PEG-HCCの効果)
図6A図6Eは鉄と活性酸素毒性に対するDNA損傷応答の改善に関与する作用機序に関連する追加のインビトロデータ及びインビボデータを示している。図6A図6Bは神経細胞の鉄曝露から15分以内(図6Aは0分、図6Bは15分)のミトコンドリア特異的HセンサーpHyperの蛍光を示している。図6A図6Bはミトコンドリアでの活性酸素種の生成における培養神経細胞への鉄の添加の急速作用を示している。
【0134】
図6CはDNAがヘモグロビンの分解生成物であるヘミンによってミトコンドリアと核の両方で損傷を受けている(レーン2)ことを示している。図6Dはマウスでの実験的脳内出血(ICH)の後のその脳の出血周辺領域にDNA損傷の証拠があることを示している。図6EはそのICHの後にPEG-HCC又はデフェロキサミンで個々に処置されるときよりもDEF-PEG-HCCで処置されるときの方がこのDNA損傷が低減することを示している。
【0135】
図7は培養bEnd.3マウス内皮腫細胞における100mMの過酸化水素に対して比較され、且つ、24時間後に測定された細胞生存度を示している。Y軸は過酸化水素単独と比較した生存率であり、X軸は過酸化水素に対する処理時間である。DEF-PEG-HCC(701)はPEG-HCC単独(702)及びPEG-PDI小分子(703)よりも優れており、過酸化水素と同時に添加されたとき(0時点)に明らかに保護が最大であった。3時間に添加されたときまで幾らか保護が証明された。
【0136】
図7は、過酸化水素が投与されてから24時間後の時点で培養脳内皮細胞(b.End3細胞)に適用されるとDEF-PEG-HCCが過酸化水素の致死性作用に対する保護についてPEG-HCC単独又はPEG-PDIグラフェン様小分子のどちらよりも優れていることを示している。過酸化水素と同時に添加されたとき(0時点)にこの保護は完璧であり(Y軸は過酸化水素で処理された細胞と比較した生存率)、過酸化水素の後に添加されたときでも幾らかの保護が続いており、このことにより治療を遅らせることができ、虚血性脳卒中などのある特定の損傷についての現実的な臨床時間ウインドウが提供されることが裏付けられた。
【0137】
分化したSHSY-5Y神経細胞において10μMのヘミンを使用するとDNA損傷が生じる。図8Aは10μMのヘミンを使用してアルカリDNAコメットアッセイと中性DNAコメットアッセイのために生じたDNA損傷を12時間にわたって撮影した画像である。図8BはこれらのアッセイのDNA損傷の時間動特性を示す(アルカリアッセイ及び中性アッセイについての曲線801と曲線802を含む)グラフである。
【0138】
ヘミン処理細胞のアルカリDNAコメットアッセイと中性DNAコメットアッセイは顕著な類似性を示し、ヘミンにより生じるDNA損傷の大半が二本鎖切断種であることを示唆した。ヘミン曝露の後に生じるDNA損傷は最初の傷害から少なくとも12時間にわたって維持された。これはDNA修復機構に障害があることを示唆している。DSBだけを示す傾向がある中性コメットアッセイよりも感度が高いアルカリコメットアッセイによりSSBとDSBの両方がDNA中に示された。
【0139】
図9もヘミン曝露後の二本鎖切断マーカーがDEF-PEG-HCCにより減少することを示している。DSBの2つのマーカーであるp53BP1とリン酸化γ-H2A.Xを未処理細胞、ヘミン処理細胞、及びヘミン-DEF-PEG-HCC処理細胞において測定した。ヘミンによる処理の後にそれらのDSBマーカーの発現が対照と比べて上昇している。ヘミン及びDEF-PEG-HCCで処理された細胞ではp53BP1及びγ-H2A.Xの発現が抑制されており、DSB形成の減少を示している。dsDNA鎖切断が起こるとH2A.Xがリン酸化される。53BP1はdsDNAの切離を抑制し、且つ、誤りがちであるが短時間で済む非相動性末端結合を促進する。相同組換えに好都合であるようにするにはp53BP1の減少が必要である。
【0140】
図10に示されているようにミトコンドリア膜電位に対するヘミンの効果を測定した。化学的酸化体はミトコンドリア膜電位の低下を引き起こすことが多く、その低下がATP合成の減少及びエネルギー飢餓につながる。ヘミンで処理された細胞はMMPの顕著な低下によりこの作用を示した。この作用はヘミン処理細胞をDEF-PEG-HCCで処理することにより軽減可能であり、ヘミンへの曝露から1時間後に処理された場合には未処理細胞と比較して顕著な差が無い。
【0141】
2種類のアッセイにおいてヘミンとトリニトリロ三酢酸鉄、PEG-HCCとデフェロキサミンで処理された培養SHSY-5Y細胞においてDEF-PEG-HCC及びPEG-HCCによるDNA損傷マーカーの減少を検査した。図11A図11Bではγ-H2A.X及びpATM(細胞老化促進因子)についてDEF-PEG-HCCがPEG-HCC単独よりも鉄に関して特に良好(及びヘミンに関しても同等に良好)であることが見られる。図11Cに示されているように細胞死アッセイではヘミンが細胞死を促進すること、及びDEF-PEG-HCCがPEG-HCC又はDEF単独のどちらよりも良好であることがわかった。DEF及びPEG-HCCの最大保護濃度ではDEF-PEG-HCCは細胞死の阻止の点でより良好である。
【0142】
この製剤がおそらくは親ナノ材料の酸化抑制能との相互作用によりデフェロキサミン分子の酸化的破損を防止することがこの製剤のその他の利点である(図12)。現在のデフェロキサミンは静脈内投与向けに調製されると短い有効期間しか持たないのでこのことは臨床的に大きな利点であり、この製剤により有効期間を劇的に延ばすことができ、それによって病院以外の設定、例えば戦地での設定、自動車事故での外傷、又は組織損傷を直ぐに治療する必要がある他の設定に有用であり得る。
【0143】
(脳H2A.Xリン酸化(γH2A.X)のDEF-PEG-HCCによる減少)
インビボではDEF-PEG-HCCはマウス内で溶血血液の脳注入から1時間後に投与されると24時間の時点で脳H2A.Xリン酸化(γH2A.X)を減少させることがわかった。脳の半球に溶血血液を定位的に注入されたマウス(図13A参照)を使用してインビボのDEF-PEG-HCC及びγH2A.Xの発現を検査した。この実験ではヘモグロビンの分解生成物を比較的に短時間で模倣するために溶血血液を使用した。
【0144】
溶血血液の注入から1時間後にDEF-PEG-HCCの腹膜内投与でマウスを処置した。24時間の時点で注射部位の周りの領域のγH2A.Xを見るためにその脳を試料とした。図13Bに示されているようにDEF-PEG-HCCを受けなかったマウスと比較してDEF-PEG-HCCを受けたマウスに二本鎖切断マーカーの減少が存在する。
【0145】
(インビボtMCAO)
72匹のラットがこの処置を受けた。58匹がアウトカム分析のための評価基準に合致した。主に結果の評価前に実施者によって特定された早期の病気/死亡又は実験上の問題のために90分閉塞群では4匹のPBS処置ラットと1匹のPEG-HCC処置ラットを除外し、120分閉塞群では7匹のPBS処置ラットと2匹のPEG-HCC処置ラットを除外した。
【0146】
90分群では300mg/dLの術前血糖値という目標が達成された。PBS処置ラットは全MCA領域の梗塞(図14A)を示し、一方でPEG-HCC処置ラットは大部分が皮質下梗塞(図14B)を示した。PEG-HCC処置により梗塞体積、出血性転換、半球腫脹、及びベダーソンスコアが改善すること、及びそれと共に死亡率が低下する傾向があることが評価項目の(表1に示される)定量から示された。
【表1】

平均全生存期間は2.8日であった。各群の試料から測定されたtMCAO直前のベースライン血糖値又は血中ガスパラメーターに関して群間で差がなかった。対照と比較してPEG-HCC処置により全ての結果が改善に向かった。P<0.05
【0147】
PBS処置対照では120分の時点で生存率が顕著に低下し、元の目標血糖値(300mg/dL)では処置日を越えて生き残るラットがいなかった。その後、tMCAO処置の開始時点で200mg/dLの血糖値という目標が達成されるまでストレプトゾトシンを投与した。PBS処置対照では少なくとも24時間まで明らかに不快な様子を見せずに生存率がほんのわずかに改善した。しかしながら、これにより対照群から得ることができる情報が限定された。したがって、完全達成のためにこの時点を追求することをしなかった。術後12時間の前に殺処理を必要としたラットは信頼できないと考えられたので梗塞の特徴について評価されなかった。表2に示されるようにこの時点において全ての測定項目について正の傾向が観察され、梗塞体積について有意性が達成された。
【表2】

平均全生存期間は2.1日であった。本処置の生存性を改善するために目標血糖値を低くした。PBS群においてより低いpHに向かう傾向を除き、代表的な試料のtMCAO直前のベースライン血糖値又は血中ガスパラメーターに関して群間で差がなかった。対照と比較してPEG-HCC処置により全ての結果が改善に向かい、改変型ベダーソンスコアについて有意性が達成された。NDは実験の中途での停止のための未決を表す(本文参照)。P<0.05
【0148】
(フェロトーシスにおけるDEF-PEG-HCCの作用)
DEF-PEG-HCCは触媒作用的に超酸化物を不均化することができ、ヒドロキシラジカルを根絶することができ、ミトコンドリア分極を防護することができ、且つ、鉄をキレートすることができるのでDEF-PEG-HCCは曝露に続く後の段階でフェロトーシスを抑制することがある。図15に示されているようにDEF-PEG-HCCはフェロトーシス経路に対して複数の作用、すなわち(a)超酸化物の不均化、(b)ヒドロキシラジカルの根絶、(c)、ミトコンドリア分極の保護、及び(d)鉄のキレート化を有し得る。
【0149】
(MB及びPEG-HCCのETSキネティクスの比較とH保護アッセイにおける効力)
メチレンブルー(MB)は原型的電子シャトルであり、メトヘモグロビンをヘモグロビンに還元するために赤血球中でNADPHを酸化することによりメトヘモグロビン血症を治療するという点で臨床効果が示されている。PEG-HCCはずっと広い還元電位の幅を有しているがPEG-HCC及びMBはそれぞれ+11mV及び約0mVという中間還元電位を有している点で電気化学的に似ている。PEG-HCCはMBについて述べられているように類似の作用を電子伝達系に対して有しているようである。
【0150】
より直接的にMBをPEG-HCCと比較するために固定濃度のMB(4mg/L、12.5μM)と酸化型シトクロムC(40μM)を使用してNADHと酸化型シトクロムCに関してMBのミカエリス・メンテンパラメーターを収集した。
【0151】
図16に示されているように0~5mMの間のNADH濃度を用いてPEG-HCC及びMBの別個の飽和曲線1601と1602をそれぞれ得た。MBのVmaxの計算値はPEG-HCCのVmaxよりも有意に高く(1.432×10-7M/秒対2.27×10-8M/秒)、KはPEG-HCCのものよりも1桁近く低かった(3.78×10-4M対3.35×10-3M)。質量濃度基準ではメチレンブルーはPEG-HCCよりも1桁近く高いVmaxを有している。NADHが無いときはPEG-HCCもメチレンブルーもシトクロムCを還元していない。
【0152】
MBの前記電気化学的特性から質量濃度基準における比較的に高い親和性と電子伝達速度が示された。しかしながら、これらの特性が細胞損傷に対するより高い効力につながるかどうかは明らかではない。より高い親和性が通常のミトコンドリア呼吸と競合する場合もあり得る。メトヘモグロビン血症のエピソード時にそれらの活性は有益であり得るが、そのことが過剰な活性酸素種の生成を伴う症状などの他の症状につながらない場合もある。MBは超酸化物又はヒドロキシラジカル除去機能性を有しない。他方、PEG-HCCは比較的に時間がかかる電子シャトルであるようだが、それらは超酸化物及びヒドロキシラジカルを除去する。
【0153】
過酸化水素曝露アッセイを培養細胞に用いることでMB及びPEG-HCCの特性の差を検討した。過酸化水素は少なくとも4種類の経路、すなわち還元種との反応によるヒドロキシラジカルと超酸化物ラジカルの形成、一酸化窒素シンターゼ(NOS)とNADPHオキシダーゼ(NOX)の刺激と非共役化、ミトコンドリア透過性の調節、及びフェントン反応を介して内皮細胞に対して中毒作用を発揮する。受傷後の状況下での効力が臨床応用に重要であるのでこのアッセイは過酸化水素の後の試験薬剤の投与を用いる。
【0154】
2種類の標準的な過酸化水素曝露アッセイでPEG-HCCとMBを比較した。1番目の実験ではbEnd.3マウス脳血管内皮細胞を8mg/LのPEG-HCC、100μMのH、及びそれらの濃度の過酸化水素とPEG-HCCで処理した。それらの細胞を一晩にわたって培養し、その後で細胞を剥離し、血球計算板と生細胞を標識するためのカルセインAMを使用して計数した(生存細胞数n=32)。図17Aに示されているように、PEG-HCCのみで処理された細胞は生存率が94.8%になり、100μMのHでは61.5%の細胞が生存し、8mg/LのPEG-HCCとの共処理では93.8%の生存率になった。
【0155】
最初の100μMのHへの曝露の15分間後にMBを0μM、5μM、10μM、及び20μMで使用して類似のアッセイを実施した。図17Bに示されているようにこの2番目の曝露アッセイでは細胞生存率の用量依存的な低下があった。100μMのHを含むことにより生存率がさらに低下した。
【0156】
このアッセイにおけるMBの細胞毒性は他の条件下で報告されている作用と一致した。ミトコンドリア膜電位と活性酸素種生成に対する作用によって毒性が説明されている。第1に、MBはNADPHによってMBHに還元されるのでそれにより生じるMBHは二酸素によって酸化されてその場で超酸化物を生じることができる。第2に、MBは共役が密なミトコンドリアにおいて電子伝達系を脱共役し、且つ、酸化的リン酸化の低下を引き起こすことができる場合がある。第3に、MBは過酸化水素中間物無しで直接的にグルタチオンをグルタチオンジスルフィドに酸化することが知られている。最後に、第4の経路が存在する場合もあり、MBはNADHをNAD+に酸化し、NADHはトリカルボン酸(TCA)サイクルの阻害剤であるためMBが間接的に解糖を促進し、且つ、細胞内のグルコースとグリコーゲンの枯渇を導く場合がある。この特性の臨床的に見られる1つの作用は、溶血発作につながり得るグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)欠損を有する個体における後期解糖生成物の枯渇である。さらに、貯蔵グルコースの枯渇は最終的にROS誘導性細胞毒性を介した細胞死につながる。
【0157】
PEG-HCC及びMBが無細胞系において類似の電子伝達特性を有しているにもかかわらず2つの重要な差異がPEG-HCCとMBとの間に存在する。第1に、PEG-HCCは超酸化物と反応して過酸化水素を生成し、一方でMBはその還元状態で二酸素から活性酸素種を生成する傾向がある。第2に、PEG-HCCはMBと同じ質量濃度でそのVmaxの概ね0.1倍を有するのでそれほど強力な電子伝達系脱共役剤ではない。
【0158】
(Hからのインビボ保護)
培養マウス皮質内皮bEnd.3細胞と培養初代マウス皮質E17神経細胞の両方の細胞においてPEG-HCCによる過酸化水素からの保護を測定した。生細胞/死細胞アッセイによって明らかにされる場合、図18に示されるように100μMのHにより24時間の時点でbEnd.3細胞の細胞生存度が約50%低下することが観察された。この図18ではウェル当たりの生存細胞数(生細胞/死細胞細胞生存アッセイ)が複製実験の平均値とSDとしてY軸に提示されている。100μMのHを添加し、15分後に培地又はポリ(エチレングリコール)結合親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)(8mg/mL)のどちらかを添加し、そして翌日にウェル当たりの生細胞数を評価した。Hにより細胞生存度が50%低下したがそれはPEG-HCCによって完全に回復した。
【0159】
15分後のPEG-HCCの添加により細胞数がベースラインまで回復した(Hに対してp<0.001)。E17神経細胞では100μMのHの致死性がb.End3細胞よりも神経細胞において高く、それにもかかわらずPEG-HCCでの後処理により部分的な回復が達成されることがわかった。図19を参照されたい。図19では曝露及び一晩の培養後直ぐに処置された8mg/Lの濃度で投与されたPEG-HCCが50μMのHの後ではベースラインまで細胞数を回復し、ずっと毒性が高い100μMの後では細胞数を二倍にして細胞死を低下させる。
【0160】
(脳血流)
以下の(a)50分の低血圧/出血性ショック期、(b)30分の乳酸リンゲル液(蘇生期)、及び最後に(c)最終入院期というプロトコルに従った。軽いTBI衝突損傷の後の80分と200分の時点でこのプロトコルに基づいて投薬を行った。図20A図20Bはプロトコルに従う2種類の処置に関する経時的脳血流(%)を示すグラフである。
【0161】
図20Aでは曲線2001~曲線2003はそれぞれPBS(n=10)、PEG-HCC(n=10)、及びPEG-GQD(n=1)に関するものである。図20Aに反映される処置ではPEG-GQDで処置された1匹の動物が(PBS処置動物と比較したときに)ベースラインレベルの脳血液灌流への復帰と回復を示した。矢印2004は動物にPEG-GQDを投与した2回の投与時間を示している(1回目の投与は80分であり、2回目の投与は200分である)。投与量は(80分での)1回目の投与には4mg/kgであり、(200分での)2回目の投与には2mg/kgであった。PEG-QGDを与えられた1匹の動物はPBS又はPEG-HCCで処置された他の動物よりも高い回復度を示した。
【0162】
図20Bでは曲線2005~曲線2007はそれぞれPBS(n=10)、PEG-HCC(n=10)、及びPEG-GQD(n=6)に関するものである。図20Bに反映される処置では6匹の動物をPEG-GQDで処置した。矢印2008はラットにPEG-GQDを投与した2回の投与時間を示している(これも1回目の投与は80分であり、2回目の投与は200分である)。両方の投薬で投与量は2mg/kgであった。PEG-GQDを与えられた6匹の動物はPEG-HCCで処理された動物に等しいレベルにまで脳血液灌流を回復していることを示した。
【0163】
(バリエーション)
金属中毒は体全体で様々な病気に関与しており、その主要な有害作用は過剰な酸化的ラジカルの刺激を介したものである。しかしながら、細胞又は組織への浸透の低さ、高い治療用量、及び短い半減期がキレート剤を使用することの妨げになっている。静脈内経路又は他の何らかの経路により体内に投与された後に本発明の新規製剤はそのキレート剤を重要な作用部位まで送達する活発な細胞取り込み、並びに親ナノ材料の複合作用を介した酸化的損傷への対処を兼ね備える。これらの様々な状況下で効用の違いを生じさせるために特定の組織又はミトコンドリアなどの細胞内オルガネラへの標的化が追加で用いられる。虚血性損傷に使用されるとき、これらのナノ粒子はO ・-をOに変換し、これによりこれらのナノ粒子がスーパーオキシド酸素ジェネレーター(SOG)になる。この挙動は、O ・-が体の生来の酸化抑制防御系を圧倒している虚血組織を治療するときに非常に有益であり得る。Samuel 2015を参照されたい。
【0164】
本発明の製剤は多くが過剰な遊離金属を伴っている種々の急性損傷及び慢性損傷に対する新しいアプローチであり得る。アルツハイマー病のtauなどの高リン酸化タンパク質への鉄及び銅の結合の増加が例に挙げられる。
【0165】
全身性ショックは酸化的反応、特に蘇生時の酸化的反応であって、院外で利用可能な複合薬によって軽減可能な酸化的反応を伴う。この製剤は、デフェロキサミンの分解を低下させ、それにより有効期間を延ばし、且つ、現時点では実現できていない新しい設定でその潜在的有用性を増加させることが示されている。
【0166】
本明細書において記載及び教示されているナノ粒子の細胞内酸化抑制能とキレート化を組み合わせるための方法は既存の文献の中には存在しない。細胞取り込みを向上させるために使用されているキレート剤の製剤、例えば脳への取り込みを向上させるための付着ポリマー並びに内因的に細胞取り込みを向上させた分子が存在するが、これらのバリエーションのうちで酸化的反応に対処するものもなければ、これらのキレート剤の潜在的な毒性がこれらの製剤によって対処されていることもない。その毒性は、関係する作用部位で作用する単一分子の中のその組み合わせの抗酸化性ナノ材料とキレート剤を介して金属の存在とその金属の有害な作用の両方に対処することによって軽減され得る。従来のキレート化方法を超える幾つかの大きな利点が本発明には存在する。第1に、細胞取り込みが向上しているので比較的に少ない用量のキレート剤が有効であり、それにより肝毒性などの有害作用を有するキレート剤の高血中レベルの必要性が最低限になる。特に静脈内に投与されるDEFは非常に高い用量(50mg/kg)で使用されなければならず、且つ、循環中で短い半減期(t1/2=約0.3時間)を有し、それにより望まれない毒性が生じる可能性がある。第2に、この新規組合せはDEFの主要な限界のうちの1つである有効期間の向上を示す。第3に、本発明はミトコンドリア膜などの重要な構造体へのDEF-PEG-HCCの局在が細胞取り込みの結果として起こることを示すことができている。また、酸化ストレスの触媒におけるFeの重要な役割を考慮するとキレート剤とHCCの内在性抗酸化能の共局在によってどちらか単独よりも良好な細胞保護が示されている。キレート剤をカーボンナノ材料骨格と組み合わせる他の利点には特定の治療部分を標的とする能力が挙げられ、その能力により本材料の用途は有害転帰に酸化ストレスと重金属の両方が寄与している多数の症状にまで拡大する。
【0167】
本発明では様々なキレート剤が利用可能である。特に金属イオン当たりわずか1分子のデフェロキサミンしか必要とされないのでデフェロキサミンの使用には一定の利点があり、様々な金属に対する様々なキレート能により他の金属を優先的に標的とすることができる他のキレート剤が利用可能である。
【0168】
キレート剤としてのデフェロキサミンと標的としての鉄に加えて様々な金属及びイオンに対して親和性を有する複数の他のキレート剤が本発明に適している。例えば、ヒト及び動物が汚染された環境から鉛及び水銀などの金属を摂取することがあり得る。金属銅は体の中で過剰であると有毒であり得、ウィルソン病などの病気を起こす。これらの中毒の多くに共通していることは、反応性種が生成し、次にそれらの反応性種が膜、DNA、ミトコンドリア、及び他の生命維持に必要な細胞構造体に損傷を与えることである。現在のところこれらの中毒はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びD-ペニシラミンなどの様々なキレート剤を高用量で経口投与、腹腔内投与、又は静脈内投与することを必要とするアプローチによって治療されなければならない。これらの薬剤の多くが低調な細胞内取り込み、又は非効率的な細胞内取り込みのために高用量を必要とすることが多い。損傷の重要なメカニズムに対処しつつ細胞取り込みを促進する新しいアプローチであることが大きく進歩したところである。
【0169】
本発明は、原料カーボンナノ材料とEDTAなどのキレート剤との複合体化について説明する。この新規アプローチは、PEG-HCC又はPEG-GQDの短時間での取り込みに起因して必要な作用部位への細胞内輸送が促進されること、比較的に低い全用量(したがって全身性毒性が低い)での使用を可能にすること、一方で同時に電子伝達の重要なミトコンドリア機能を支援すること、及びカーボンナノ材料の電子伝達シャトル特性並びにその抗酸化薬に起因して酸化的ラジカルを除去することという明瞭でユニークな利点を有している。重要な細胞内作用部位でのこの構造体のこのユニークな作用のためにこの構造体は金属中毒の複数の重要な面に対処する全く新しいアプローチになっている。これらのカーボン粒子はこれらのキレート剤を目的のミトコンドリア部位まで送達するのでそれらのキレート剤の各々を通常よりもずっと低い投与量で使用することができる。
【0170】
ナノ材料に結合される代表的なキレート剤の構造の例が図21に示されている。
【0171】
表3は様々な金属中毒に対して臨床的に有用と報告されているキレート剤のリストを提供する。Wax, P.著、「Current Use Of Chelation in American Health Care」、J. Med. Toxicol.誌、2013年、第9巻:303~307頁も参照されたい。
【表3】
【0172】
このようなキレート剤を本発明の実施形態において使用することができる。
【0173】
幾つかの実施形態ではPEG:キレート剤(例えばPEG:DEF)の比率は1:3~3:1の範囲内であり、たいてい1:1未満である。
【0174】
(急性及び慢性ミトコンドリア電子伝達系機能障害の治療用のグラフェン材料)
プロトン共役電子伝達は酸化的リン酸化(OXPHOS)にとって重要であり、様々な障害が酸化的リン酸化機能の破綻を伴っている。多くの形態のミトコンドリア損傷で電子伝達が破綻しており、そして超酸化物アニオン(O -・)及びヒドロキシラジカル(OH)を含むフリーラジカルの生成を引き起こし、内在性抗酸化因子の枯渇が細胞損傷及び最終的には細胞死を引き起こす。合成グラフェン材料がシアン化物中毒及びヒ素中毒を含む急性ミトコンドリア損傷からの保護を実施できることが発見された。この発見にはこれらの材料がフラビン含有ミトコンドリア複合体(複合体I及びIII)の阻害後に電子伝達系における電子伝達の代替経路又はバイパスとして機能し、そうして活性酸素種(ROS)及び/又は活性窒素種(RNS)の形成を最小限にするという機構的な証拠が含まれる。
【0175】
これらの材料はミトコンドリア内の内在性還元性因子に対しては活性が弱い。しかしながら細胞損傷時にはこれらの材料は、重要なことに、生じた超酸化物を電子供与源として利用して超酸化物を過酸化水素に変換するだけでなく、シトクロムCなどの電位がより高い酸化性物質へ電子を伝達することもできる。本発明の目的は欠陥のあるミトコンドリア複合体を取り換えることではなく、フラビン含有電子伝達系メンバーにより放出された電子のための代替経路又はバイパスを提供することである。
【0176】
グラフェン材料は電子伝達の破綻を伴う急性又は慢性のミトコンドリア障害を単独で、又は複合療法の一部として治療することができる。これらの材料は電子伝達の代替経路を提供し、且つ、同時にそれらの優れた酸化抑制特性及び活性酸素種や活性窒素種の除去を介して重要なミトコンドリア機能を維持する。
【0177】
本発明はグラフェン材料の使用についてであり、急性シアン化物中毒(及びヒ素中毒)を典型とする電子伝達の破綻の治療におけるポリ(エチレングリコール)官能化親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)として原型になる。これらの特性はサイズに関係なくグラフェン構造物質に当てはまるが、ミトコンドリア構造体及び電子と相互作用する官能基に左右される可能性があると考えられている。高力価の触媒性スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)模倣物であることが以前に示されており、且つ、ヒドロキシラジカルの除去にほぼ有効である原型のグラフェン材料であるポリ(エチレングリコール)官能化親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)の活性に関してデータが示されている[2017年2月21日に登録された「酸化ストレス治療のための酸化抑制特性を有するカーボンナノ材料の使用(Use of carbon nanomaterials with antioxidant properties to treat oxidative stress)」という標題のTourらの米国特許第9572834号(「Tour ’834特許」)]。Tour ’834特許の全体が参照により本明細書に援用される。(PEG-HCCを使用するSO不均化のメカニズムを示している)Samuel 2015も参照されたい。
【0178】
PEG-HCCは外傷性脳損傷の動物モデルにおいて再灌流傷害を減少させる。ここでPEG-HCCは超酸化物(O )と還元型ニコチンアミドジヌクレオチド(リン酸)(NADPH)の両方からレサズリン又はシトクロムCなどのより高位の還元電位種へ電子を伝達することができることが示されている。
【0179】
電子伝達系(ETC)では幾つかの構成要素がROSの生成による「電子の漏出」を介して超酸化物の生成を促進することが知られている。例えば、複合体IではフラビンモノヌクレオチドがNADPHにより二電子還元を介して還元されてI結合部位においてFMNHを形成する。通常条件下ではユビキノンがミトコンドリア内膜(MIM)近くのI結合部位に結合し、FMNHにより供与される電子を使用して七員鎖の末端でN2 Fe鉄硫黄クラスターにより実行される2回の一電子還元を受ける(図22A)。図22Aは生理的条件下の複合体Iを示している。電子が還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)からフラビンモノヌクレオチド(FMN)へ伝達され、そして鉄硫黄ブリッジ上を経て複合体Iのキノン結合部位(I)部位まで伝達され、そこで電子がユビキノンに供与される。
【0180】
典型的には病的状態はロテノンなどの阻害剤によるI部位の封鎖(図22C)として現れるか、又は後期ミトコンドリア複合体での下流封鎖によって現れるかのどちらかであり、その下流封鎖はフェロシトクロムC、ユビキノール、還元型フラビンモノヌクレオチド(FMNH)、若しくは還元型フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH)などの還元型電子シャトルの過剰につながる。超酸化物又はヒドロキシラジカルによるFeクラスターの酸化が第3の可能性である。図22CはFMNHの蓄積及び活性酸素種(ROS)の生成につながるI部位の封鎖がロテノンなどの阻害剤によって可能であることを示している。これらのタイプのミトコンドリア損傷は膜間腔へのプロトン移動の喪失によるミトコンドリア膜電位及びATP合成の低下も引き起こす。
【0181】
図22Bは前記鉄硫黄鎖の酸化により還元型フラビンモノヌクレオチド(FMNH)が通常よりも長く複合体Iフラビン部位(I)に留まる原因となる封鎖が生じ、且つ、ROSが生成されることを示している。Fe鎖の連続性の喪失により電子がI部位からI部位へ移動することができず、I部位において過剰還元状態が生じる(図22B)。I封鎖の例では還元型FMNHは二酸素の一電子還元を実施して超酸化物を形成することができる。
【0182】
正しい阻害剤が使用される場合には、ミトコンドリア内膜の両側で両方のキノン部位からROSが生成可能であるのでROS生成における複合体IIIの役割も重要である(図22D図22F)。図22Dは通常条件下ではユビキノールが複合体III中の2つのシトクロム鉄複合体を介してユビキノンを還元すること、及びプロトンがミトコンドリア内膜を横断して移送されることを示している。図22Eは阻害剤を使用するより高い電位のキノン部位の阻害によりROSの形成がミトコンドリア内膜の両側で起こることを示している。図22FはシトクロムC部位の阻害がより低い電位のキノン部位からの電子の漏出につながり得ることを示している。
【0183】
フラビン介在性の超酸化物生成のモデルを作り、且つ、PEG-HCCがどのようにそのようなシナリオの裏をかくのか示すために無細胞環境において超酸化物を生成させるリボフラビンの光励起を利用した(図23C)。図23Cに示されているように光励起を受けるとFMNは超酸化物を生成し、次にPEG-HCCが未知の過程を介して超酸化物からレサズリンへ電子を伝達してレゾルフィンを生成する可能性がある。レサズリンからレゾルフィンを生成するためにNADPHも使用可能であり、FMNの反応のような二段階反応を伴うことが予測されている。
【0184】
460nmの光源(この事例では発光ダイオードアレイ)によるフラビンモノヌクレオチド(リボフラビン-5’-リン酸、FMN)の励起により一重項酸素と超酸化物が結果として生成される。UV可視光による570nmの吸光度の変化から明らかなように、光励起を受けたリボフラビンは親水性カーボンクラスターの存在下でレサズリンをレゾルフィンに還元可能であることが観察された。
【0185】
図24に示されているように親水性カーボンクラスター、FMN、及びレサズリンを含む溶液はレゾルフィンの形成を表す570nmの吸光度の変化がある。570nmで測定される吸光度の上昇によって示されるように、PEG-HCC(図中でHCCとして示されている)を含む溶液中においてのみレサズリンがレゾルフィンに還元される。レサズリンはFMNによってジヒドロレゾルフィンに直接還元される場合もあるが、しかしながら分光学的な証拠は現在のところ存在しない。PEG-HCCが存在しないときにFMNはレサズリンを無色の種、おそらくはジヒドロレゾルフィン(図23B)又はペルオキソ化合物に変換するようである。図23Bはモデル実験において利用される種であるレサズリンとレゾルフィンの構造と還元反応を示す図である。
【0186】
超酸化物は電子をPEG-HCCに供与することができ、次に還元されたPEG-HCCがそれらの電子をレサズリンに伝達し、それが還元されたレゾルフィンの形成につながる(図23Bに示されている構造体)と考えられている。この過程に関する理論的根拠の基礎は2つの重要な実験/観察を含んでいる。第1に、光励起を受けたFMNの存在下でPEG-HCCはレサズリンをレゾルフィンに還元可能であることが観察された(図24)。
【0187】
次に図25に示されるようにPEG-HCCとスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)との間で競合実験を実施した。図25はPEG-HCC(図中でHCCとして示されている)とSODとの間での競合実験の模式図である。SODは超酸化物に関してPEG-HCCと競合する。超酸化物の利用可能な供給を減らすことによりレサズリン還元の速度低下が引き起こされる。SODはレサズリンの結合ポケットを有していないので電子をPEG-HCCに、さらにレサズリンに供与する代わりにSOがHに変換される。図25の実験ではスーパーオキシドディスムターゼ及び親水性カーボンクラスターがレサズリン及びFMNを含む溶液の中に存在した。SODはキノン又はキノン様種向けの正規の結合部位を有しておらず、したがってレサズリンはSOD不均化サイクルに関係することができないはずである。
【0188】
SODとPEG-HCCの両方がSOを二酸素と過酸化水素に不均化することができるがPEG-HCCだけがレサズリンをレゾルフィンに還元することができるため、反応混合物へのSODの添加によってより多くのSO不均化触媒(SOD及びPEG-HCC)が存在するが、同量の超酸化物がFMNによって生成されるのでレサズリン還元の速度が遅くなる。したがって、PEG-HCCが電子源として使用するために利用可能な超酸化物の濃度が比較的に低く、且つ、レサズリンのレゾルフィンへの還元が比較的に遅い(図26)。図26はPEG-HCC(グラフ中でHCCとして示されている)、レサズリン、及びFMNを含む溶液へのスーパーオキシドディスムターゼの添加により570nmでの吸収が減少し、且つ、460nmの光への10分間にわたる曝露の後に600nmでの酸化レサズリンからの吸収が比例して増加することを示している。未反応のレサズリンの量がSODの濃度と直接的に増加する。
【0189】
PEG-HCCが存在しないときよりも低濃度(4mg/L)のPEG-HCCが存在するときにフェリシトクロムCが速い速度で還元し得ることも示されている。フェリシトクロムC(Fe3+)は+250mVの還元電位を有し、一電子還元を経てフェロシトクロムC(Fe2+)を形成することができる。フェロシトクロムCはその電子を複合体IVに供与し、且つ、電子が複合体IIIから離れるときの電子を伝達するためのシャトルとして作用する(図22A)。超酸化物はシトクロムCを還元することができるがPEG-HCCの添加によってこの反応がより速く進むようになることが分かっている。
【0190】
しかしながら、この効果は濃度依存的であり、4mg/Lを超える濃度ではこの促進効果があまり顕著ではなくなることも分かっている(図27)。図27はFMNが光曝露下で超酸化物の生成を介してシトクロムCを還元することを示している。シトクロムC還元の速度は溶液中に存在しているPEG-HCC(図中でHCCとして示されている)の濃度に依存する。最大速度が4mg/Lのときに繰り返し現れており、濃度が高くても低くてもその速度が遅くなる。
【0191】
ある濃度より低いときにPEG-HCCは、それらが電子シャトルであるのと同じくらい効率的なSOD模倣物であるわけではないと考えられている。しかしながら、PEG-HCCは光を吸収するので溶液中のリボフラビンを励起する光の量を減らすことができ、そうして速度が低いように見せている。低濃度ではこの効果は明らかに優勢ではなく、しかしながら4mg/Lより高い濃度ではこの効果はより重要になる可能性があり、さらに調査されることを必要とする。この発見は複合体IのFMN又は複合体I、II、若しくはIIIのセミユビキノンが生成した超酸化物からフェリシトクロムCの間を電子が伝達され得ることを示している(図22A)。
【0192】
PEG-HCCは電子源として超酸化物を使用することに加えてNADPHを使用してレサズリンを還元することができることが示されている。この効果は図28に示されるようにNADPHを還元剤として使用し、且つ、ユビキノンに代わってレサズリンを最終的な電子受容体として使用することにより親水性カーボンクラスターと共に複合体I中のNADPH-鉄硫黄クラスター経路のモデルを大まかに作っている。
【0193】
この2番目のモデルでは電子がおそらくは一電子ずつ親水性カーボンクラスターに供与され、続いて水素原子(H)が供与されて、その後で第2段階として2回の一電子還元を介してレサズリンを還元してレゾルフィンを形成する。PEG-HCCがフラビン又はFe鎖を介する代わりにミトコンドリアのNADPHにより直接的にMIMに沿ってユビキノンを還元することで複合体I伝達系のFMNH-Fe部分の役割を果たすことが可能であり得ると考えられている。
【0194】
NQOによるレサズリン還元の速度はHCCよりもずっと速いようである(図29)。図29は一定の濃度のNADPH-キノンオキシドレダクターゼ(NQO)(0.005U/mL)及びNADPH(5.0×10-4M)による時間の関数としてのUV可視光の吸光度の変化を示している。570nmでの吸収の増加はレゾルフィン濃度の上昇に起因する。NQOがキノン結合ポケットを有しているのでレサズリンはそのポケットに結合し、その部位で還元を受けるようである。NQO又は複合体Iと異なり親水性カーボンクラスターはNADH又はNADPHの存在下でユビキノン-1をユビキノールに還元することができない。これはPEG-HCC及びユビキノンの還元電位の類似性を原因とするエネルギー障壁に起因すると考えられている。この反応が起こるためには比較的に高い還元電位が必要な場合があり、このことが自発的なレサズリンの還元を説明している。しかしながら、酸化されたグルタチオンジスルフィドなどの抗酸化薬の還元に必要であることが典型的なミトコンドリアの内在性NADPHの供給をミトコンドリアから取り尽くすことがないため、NADPH及びNADHの酸化に時間がかかることが有益であり得る。
【0195】
ミトコンドリアに対する酸化的損傷の場合では複合体I、複合体III、及びアコニターゼ中のFeクラスター内の鉄がFe2+からFe3+に酸化し、そうしてそれらの酵素を介して電子を伝達するそれらのクラスターの仕事を実施できなくすることができる。親水性カーボンクラスターはこれらの複合体の外側で必要な電子伝達を行うことによりこれらのFeS鎖の喪失をバイパスすることができると考えられる。これまでに示されたように、FMNが生成した超酸化物、及び複合体IのNADPHからシトクロムCに電子が供与され得る。まとめると、親水性カーボンクラスターはNADPH、又はフラビンが生成した超酸化物のどちらかを電子源として使用することにより電子の漏出に対するバイパス機構として機能することが可能であり得る。
【0196】
(レサズリンに対するPEG-HCCの化学的作用機序)
最初の機械論は前記還元剤の還元電位に集中していた。しかしながら、エタノールによるレサズリンの還元(エタノール→アセチルアルデヒド、E=-197mV;ΔE=+183mV)もPEG-HCCを使用して、及び使用せずに検討されており、正のΔEを有しているにもかかわらず還元が25℃で起こらないことがわかった。エタノールの酸化は2回の連続した一電子酸化と対照的な二電子過程を介している。
【0197】
NADH及びNADPHは典型的には一電子還元を行うと考えられていないが、これはいつも事実であるわけではないことが少数の文献により示唆されている。Gebickiらによって概説されているように、一段階ヒドリド移動、二段階電子-水素原子移動、及び三段階電子-プロトン-電子移動を含む復習の酸化機構がNADHについて存在する[Gebicki, J.ら著、「Transient Species in the Stepwise Interconversion of NADH and NAD+」、Acc. Chem. Res.誌、2004年、第37巻、379~386頁]。NADPHの一電子酸化はまれであるが前代未聞ではなく、例えばAlmarssonらによってNADPHはカタラーゼ中の化合物IIの電子-プロトン-電子還元を行うことが示された[Almarsson, O.ら著、「Mechanism of One-Electron Oxidation of NAD(P)H and Function of NADPH Bound to Catalase」、J. Am. Chem. Soc.誌、1993年、第115巻、7093~7102頁]。Grodkowskiらは一電子還元を介してNADHにより10~10の間の速度定数で数種類の有機ラジカルが還元されることを示した[Grodkowskl, J.ら著、「One-Electron Transfer Reactions of the Couple NAD/NADH」、J. Phys. Chem.誌、1983年、第87巻、3135~3138頁]。Grodkowskiらによると、最初の一電子酸化に律速段階があるが後の段階はそれより著しく速い。
【0198】
PEG-HCCは安定なラジカルを有しているので、PEG-HCCが最初の一電子移動を介してNADPHにより還元されることはありそうにない。Samuelらによって考察されている主張されたスーパーオキシドディスムターゼ機構は超酸化物によるPEG-HCCの最初の一電子還元とそれに続く超酸化物によるPEG-HCCの一電子酸化を含むことで過酸化水素を形成する(図27)[Samuel 2015]。NADPHは一電子をPEG-HCCに供与し、次に酸化された基質に供与することがあり得る。
【0199】
レサズリンの場合では第1段階がレサズリンのアニオン性ラジカルへの還元であり、このラジカルをレゾルフィンアニオンに還元する2回目の電子供与がこれに続く。これまでにKhazalpour及びNematollahiによりガラス状の炭素電極を使用してこの二段階還元が観察されている[Khazalpour, S.ら著、「Electrochemical study of Alamar Blue (resazurin) in aqueous solutions and room-temperature ionic liquid 1-butyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate at a glassy carbon electrode」、RSC Adv.誌、2004年、第4巻、8431頁]。さらに、NADH及びNADPHは光が存在しないと容易にレサズリンをレゾルフィンに還元しない。Candeiasらは一電子移動を行うことができる触媒として機能するN-メチルフェナジニウムメトサルフェート(PMS)がNADH又はNADPHを用いたレサズリンのレゾルフィンへの還元のために必要であることを示した[Candeias, L.P.ら著、「The catalysed NADH reduction of resazurin to resorufin」、J. Chem. Soc. Perkin Trans.誌、1998年、第2巻、2333~2334頁]。したがって、PEG-HCCの2回の一電子還元によりレサズリンの2回の一電子還元が生じてレゾルフィンが形成されることが予測される。PEG-HCCの延長芳香族ドメインが粒子上の遠位の反応性部位への電子移動を容易にする場合があるように見える。先に述べたように超酸化物もリボフラビンとの光化学反応において寄与する場合がある(図27)。PEG-HCCはPBS中のNADHによるレサズリンの還元を触媒してNAD+とレゾルフィンを生成する(図30A)。PEG-HCCはNADHによるレサズリンとシトクロムCの還元に関して酵素様キネティクスを有する飽和触媒として機能する(図30B;レサズリン及びシトクロムCに関してそれぞれ曲線3001と曲線3002)。さらに、PEG-HCCがアスコルビン酸によるレサズリンの還元の飽和触媒としても機能することが観察された(図31A図31B;40μM、20μM、及び10μMの濃度に関してそれぞれ曲線3101~曲線3102)。
【0200】
(組織培養におけるシアン化物の毒性作用に対するPEG-HCCの有効性)
PEG-HCCは急性シアン化物中毒からの保護を行うことができるように見える。複数の毒性レベルのシアン化ナトリウム(NaCN)を培養脳内皮細胞(bEnd.3)に添加し、NaCNの添加から24時間後に評価した。PEG-HCCの濃度は中毒を示しておらず、且つ、よく忍容したマウス及びラットでの先行データに基づいている。
【0201】
図32は培養マウス脳内皮細胞へのシアン化ナトリウム(NaCN)の添加後の細胞死からのPEG-HCCによる保護を示している。NaCNの添加から24時間後に細胞生存を評価している。Y軸中に生き残っている細胞の割合((NaCNが存在しない状態での)ベースラインに対して24時間で比較した生細胞の割合)が示されている。X軸はPEG-HCC処理か無処理を示している。0時点はNaCN添加直後のNaCNの結果を示している。15分はNaCNの15分後に添加されたPEG-HCCの結果を示している。30分はPEG-HCCの30分後に添加されたPEG-HCCの結果を示している。ライン3201~ライン3203は1mM、5mM、及び10mMのNaCNの濃度のラインである。これらの結果は1mMでの処理後の長い時間ウインドウ、5mMでの処理後のそれより短い時間ウインドウ、及び10mMで同時に処理されたときの有効性を示している。
【0202】
前記データよりPEG-HCCが急性シアン化物中毒保護性であることが示されており、且つ、シアン化物濃度が高くなるほど早期のPEG-HCC投与が必要になる用量応答曲線が示されている。これらの実験では1mMのCNがヒトにおけるCN曝露のLD50に近いのでこの濃度を最小用量として利用した。30分の時点で保護が続いていた結果から時間ウインドウがLD50近くのCNに対する実験の範囲から外れている可能性があることが示唆される。NaCNが5mMのときに最大で15分間にわたってLD50の5倍近くのものに対して部分的な保護がなお存在している。NaCNの直後に投与されるときには部分的な保護が10mMのNaCNに対して存在する。NaCNの後に投与されるときにこの高用量に対する保護が非常に顕著である。
【0203】
複合療法により、例えばPEG-HCCと併せてCN結合剤(例えばコバラミン誘導体)を利用する場合に比較的に高用量のNaCNでの有効性と保護のウインドウが延長可能であると考えられている。
【0204】
(組織培養におけるヘミンの毒性作用に対するミトコンドリア膜電位のレスキューに関するPEG-HCCの有効性)
出血性卒中における主要な毒性物質は血中ヘモグロビン由来生成物であるヘミンであり、それは酸化促進性ヘム鉄複合体である。図33は培養ヒト神経芽細胞腫SHSY-5Y細胞におけるヘミン誘導性ミトコンドリア膜電位低下からのPEG-HCCによる保護を示している。細胞を96ウェルプレート中に播種し、10μMのヘミンで1時間にわたって処理し、続いて24時間にわたってPEG-HCCと共に、又はPEG-HCC無しで培養した。製造業者のプロトコルに従ってTMREミトコンドリア膜電位アッセイキット(カタログ番号ab113852、Abcam社)を使用する蛍光分光学により膜電位を測定した。エラーバーは3回の独立した測定に由来するSDを表し、*はp<0.01を表す。
【0205】
図33に示されているように、ヘミンは5分の曝露で神経細胞のミトコンドリアにおける急速なROSストレスの原因となり、ヘミン介在性神経細胞毒性の重要な病理過程であるミトコンドリア膜電位の著しい低下を引き起こす。ここでPEG-HCCは24時間の時点でのヘミン介在性ミトコンドリア膜電位の低下をほぼベースレベルまでレスキューすることができた。
【0206】
(SHSY-5Y細胞によるDEF-PEG-HCCの取り込み)
DEF-PEG-HCCの取り込みが図34A図34Bに示されている。シトクロムC標的配列を有するGFPを発現するSHSY-5Y細胞が蛍光ミトコンドリア3402を有しており、既知の標的においてマーカーを有するミトコンドリア3402の構造を示すためにそれらの細胞を使用することができる。これらの細胞をDEF-PEG-HCC3401で処理し、細胞内及び細胞外のDEF-PEG-HCC3401の位置を示すためにそれらの粒子を抗ポリエチレングリコール[PEG-B-47]ウサギモノクローナル抗体、続いてAlexaFluor-647結合抗ウサギ二次抗体ラベルで標識した。図34Aはデコンボリューション顕微鏡を使用した100倍の倍率でのそれらの細胞のZ投影像を示している。ミトコンドリア3401、DEF-PEG-HCC3402、及び核3403が示されている。図34Bは細胞体を横断している焦点面の切片を示しており、取り込みを表すDEF-PEG-HCC3401シグナルがその細胞体の中から発生し得ることを示している。
【0207】
DEF-PEG-HCC3401粒子が前記細胞によって食されていることを示していることに加え、前記粒子のミトコンドリア3402との共局在からそれらの粒子がミトコンドリア3402と同じ容積内に存在し、したがってDEF-PEG-HCC3401がおそらくはミトコンドリア3402により内部に取り込まれていることが示唆され、図23Aに示される機構を裏付けている。
【0208】
図23AはKETS機構を例示している。電子伝達系(ETC)における病的な電子の漏出源が破線矢印2301に示されている。PEG-HCC2302はミトコンドリア2304内でのそれらの位置といった要因に応じて電子シャトル(実線矢印2303により示されている)としてもスーパーオキシドディスムターゼ2315の模倣物(2303)としても機能し得るようである。超酸化物2305は複合体I、複合体II、及び複合体III(それぞれ2310~2312)によって生成され、ミトコンドリアマトリックス2306及び膜間腔2307の中に放出される。PEG-HCC2302は超酸化物2305から電子を受領し、そして(a)その他の超酸化物2305を不均化するか、又は(b)膜間腔2306内に存在するときには電子をシトクロムC2308に伝達するかのどちらかを行うことができる。PEG-HCC2302は、複合体I2301よりもずっと遅い速度ではあるが、マトリックス内でNADPH2309により電子を受領することもできる。NADPH、NADH、超酸化物、又はユビキノン、から電子を受領した後にPEG-HCC2302は電子をシトクロム2308に伝達する場合があり、又は複合体IV2312に伝達する可能性もある。別の電子源はアスコルビン酸であり、それは膜間腔2307内に見られる。アスコルビン酸はPEG-HCCが超酸化物を過酸化水素2316に還元するために電子源として使用可能である。
【0209】
(実用性)
高力価抗酸化薬として作用するだけでなく直接的に電子を伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元することができる本発明の材料の実用性にはまれなミトコンドリア障害、ミトコンドリア内の複合体を害する毒素への偶然又は故意の曝露、並びに虚血性及び再灌流性の傷害及び出血などの非常に一般的な症状といった広範囲の症状であって、全てがミトコンドリア損傷を生じさせるこれらの症状について潜在的な治療上の利点がある。
【0210】
米国の食品医薬品局(FDA)はシアン化物中毒を孤立した障害と考えている。シアン化物はミトコンドリア電子伝達系タンパク質であるシトクロムCオキシダーゼを阻害する。したがって、シトクロムcを直接的に還元することができる治療法により治療が実現する可能性がある原則状態の証拠としてシアン化物中毒が選択された。上で考察及び教示されているように、シアン化物中毒に関して、及びヘミンなどの有毒なヘモグロビンの分解生成物を生成する脳出血における潜在的な利益に関して証拠が示されている。
【0211】
米国の食品医薬品局(FDA)はシアン化物中毒を孤立した障害と考えている。シアン化物中毒は自殺と他殺の両方で故意に起こるが、住宅又は工場の火災からの、金の採鉱作業の近くで見られる水などの汚染水からの、及び食物からの致死量以下の曝露でもシアン化物中毒が起こる。シアン化物中毒の生存者はパーキンソン病を思わせる重い神経障害を発症し、且つ、同じく他の全身性障害も発症することが多い。本発明の実施形態ではグラフェン材料は、電子がミトコンドリア複合体間を流れること、及び電子シャトル又はミトコンドリア複合体内の補欠分子族のどちらかとして見られるフラビン及びキノールにより生成される超酸化物及びヒドロキシラジカルを除去することの両方を可能にする電子伝達系のバイパスとして機能する。
【0212】
本発明は恒久的な細胞損傷を減らすための代替的な電子伝達源を提供することによりシアン化物中毒を治療するための現行の治療方法の短所のうちの1つに対処する。さらに、酸化的リン酸化を介した電子伝達の代替経路を提供することにより他の慢性ミトコンドリア障害もこれらの材料で治療可能な場合がある。
【0213】
通常の電子伝達経路をバイパスする能力は、高力価の超酸化物及びヒドロキシラジカルの除去能力を有していることがこれまでに明らかになっている本発明の材料の全く新しい特性である。しかしながら、本発明の材料がこの追加の機能を有していることは知られていなかった。この新発見は一次的損傷とこの一次的損傷のフリーラジカル損傷の結果の両方に対処するのでこの新発見はOXPHOS機能不全が障害の中心である症状の治療にとって重大な意味を有する。
【0214】
これらの材料の電子バイパス特性が電子を捕捉するための、又は酸化された抗酸化性種に電子を伝達するための代替源を実現し、一方でそれらの材料の内在的な酸化抑制特性のためにミトコンドリアは内在性の抗酸化性の補因子、タンパク質、及び酵素を補充することができるまで維持される。この発見によりミトコンドリア障害の治療における新しい刺激的なツールが提供される。
【0215】
現在のシアン化物中毒の治療技術は主としてシアン化物を直接結合すること、又はシアン化物の鉄への親和性を低下させることに焦点を当てている。ヒドロキソコバラミンがシアン化物の結合のために使用されるがヒドロキソコバラミン自体はフリーラジカル除去特性を有していない。本明細書において記載及び教示されているアプローチは不可避的に生成されるROSの除去により電子伝達系のミトコンドリア複合体からの電子の漏出に直接的に対処するので現在の技術より改善されている。
【0216】
本発明の実施形態の1つの新しい点は、ヒドロキソコバラミンと共に用いられる従来のリガンド親和性法と対照的に、ROSを除去し、且つ、電子向けの二次経路を提供することによりシアン化物の毒性を低下させることである。さらに、シアン化物を結合するためであり、且つ、それにより生じる活性酸素種を除去するための二分岐型防御においてシアン化物中毒を単独で治療するためにも、ヒドロキソコバラミン誘導体などの現行の治療法との併用により治療するためにも本グラフェン炭素材料を急性に使用することができる。このカクテルアプローチは単一の治療段階で複数の原因に対処することにより非常に有効な抗レトロウイルス療法(HAART)の歩みをたどっており、そのため優れた併用療法であり得る。
【0217】
現在の慢性ミトコンドリア障害の治療技術はユビキノン若しくはカルジオリピンなどの必須の補因子、又はメチレンブルー及びその誘導体などの電子伝達メディエーターによりミトコンドリア機能を補うことである。
【0218】
(工程とバリエーション)
シアン化物曝露の治療の最も典型的な適用例ではヒト、動物、又は培養細胞が最初にいずれかの送達機構により故意又は偶然にシアン化物含有又はシアン化物生成物質に曝露される。曝露後、本グラフェン材料が中毒の個体に可能であれば静脈内投与され、静脈内投与が利用可能でなければ筋肉内投与される。遺伝性又は他の獲得性慢性ミトコンドリア障害の場合ではその個体にはグラフェン材料が限定的に、且つ、好都合な慢性形態を提供するために側鎖の操作とPEG化により最適化して投与されることになる。
【0219】
前記電子伝達シャトル自体はミトコンドリア機能に必要なプロトン濃度勾配を生成しない。しかしながら、本発明の材料はこのような優れた有効性を示すので本発明の材料がプロトン生成種と相互作用することができないのか不確かである。本発明の材料自体がミトコンドリア内でプロトン濃度勾配を回復しないとしてもミトコンドリア生存の長期化により内在性の複合体、因子及び抗酸化因子が回復し、それによりプロトン濃度勾配を徐々に回復すると考えられている。
【0220】
中毒の治療ではシアン化物は速効性の毒なので治療期間が短い。しかしながら、致死量以下による中毒でも恒久的な損傷が生じるのでこの介入により多くの生命が救われ、転帰が改善される。
【0221】
PEG-HCCはミトコンドリアを含む細胞内に(且つ/又はその近傍に)広く分布していることが顕微鏡観察から示されている。おそらく最終的に必要な濃度よりも高い濃度が使用された。この濃度は有効なミトコンドリア標的を用いて低下させることができただろう。ミトコンドリア標的化リガンドを含むバリエーションのグラフェン材料を開発し、検査する。
【0222】
様々な物質がPEG-HCCと同じ役割を果たすことができるかもしれないと予測されている。
【0223】
グラフェン材料、又はSOD様の挙動と200~500,000ダルトンの分子量を有する材料が本発明において有用であり得ることがさらに予測されている。
【0224】
本グラフェン材料は単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、三層ナノチューブ、多層ナノチューブ、超短ナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノリボン、グラファイト、グラフェンオキシド、グラフェンオキシドナノリボン、カーボンブラック、酸化カーボンブラック、親水性カーボンクラスター、グラフェン量子ドット、カーボンドット、石炭、コークス、又はそれらの組合せの形態の材料であり得る。そのようなグラフェン材料にはヘテロ原子をドープすることができる。それらのヘテロ原子はO、N、S、P、B、及びそれらの組合せであり得る。
【0225】
これらの材料はこれらの材料の還元酸化電位を調整する官能基を含むように合成後の修飾を受けることがさらに予測されている。
【0226】
合成後修飾にはキノン、安定ラジカル、ハライド、ニトラート、ジヒドリド、水素原子供与体、硫黄含有基、リン含有基、アミン、芳香族基、及びカルボニル含有基を含めることが挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0227】
血清中での溶解性と安定性を修飾するためにポリ(エチレングリコール)を他の重合体と置き換えることができる。PEG-HCC及びGQDの追加の機能性を単純なアミド結合化学により達成することができる。小分子キノン及びペリレンジイミド(PDI)はこれらのPEG-HCCと同じことをすることが可能である。
【0228】
それらの小分子系の混合物は0V近く~-1Vまでの広範囲の還元電位に対処するために有利である可能性がある。
【0229】
より高いレベルの標的特異性を得るためにミトコンドリア標的標識を使用してミトコンドリアによるこれらの化合物の選択的取り込みを向上させることができる。さらに、発現した受容体に応じた特定の細胞種の指向性標的化が追加の標的化部分により可能になってこれらの材料の効果が特定の組織に限定される場合がある。
【0230】
細胞及び無細胞培養物内において電子を伝達する能力が示されている。インビトロでのシアン化物毒性からの培養マウスbEnd.3内皮腫細胞のレスキューも示されている(実験室スケールの適用)。
【0231】
プロトン濃度勾配についての効果に関し、単離されたミトコンドリア(又は亜ミトコンドリア粒子)について特定の阻害剤を含めて、又は含めずにステージI~IV呼吸における酸素消費とATP形成活性を測定すること、及び電子伝達をバイパスし、且つ、部分的なATP形成活性を維持する本ナノ材料の潜在的な役割を評価すること、及びミトコンドリア病を治療するために使用される他の薬剤と比べて本発明のナノ抗酸化薬の効力を示すことが重要であり得る。
【0232】
(軽度の実験的外傷性脳損傷における触媒性カーボンナノ抗酸化薬)
潜在的な貢献因子である脳の自己調節機能喪失により全ての重症度の外傷性脳損傷(TBI)の後の転帰が低血圧のために悪化する。最初の損傷に伴う活性酸素種の発生には複数の段階が存在し、最初は低血圧ショックの時であり、その後では輸血したときの蘇生時である。これも現実的には薬物治療を行うことができる時期であることを考えるとその後の超酸化物ラジカルの爆発的増加は治療的に適切な時期に生じている。低血圧により悪化するこの軽度TBIモデルで誘導された神経損傷の大部分が臨床的に現実的な時点で処置されるカーボンナノ材料、すなわちポリ(エチレン)グリコール結合親水性カーボンクラスター(PEG-HCC)により予防されることがわかった。したがって、臨床的に妥当性の高いこの例においてPEG-HCCを使用して転帰を改善することにより先行抗酸化戦略の限界の多くを克服することができる。
【0233】
(作業手順)
体重300~350gの合計38匹のロングエバンス・ラットを使用した。使用したTBIモデルは軽度の皮質衝突損傷(3M/秒、2.5mmの変形)とその後の50分の出血性低血圧であった。PEG-HCC(2mg/kg、n=21)又はプラセボとしての生理食塩水(n=17)のどちらかを受けるようにそれらのラットを無作為に割り当てた。割り当てられた被検薬は蘇生開始時に静脈内投与され、最初の投与から2時間後に再び静脈内投与された。
【0234】
前記ラットを約3~5分間にわたって通気麻酔箱に入れて100%酸素中に5%のイソフルランを使用して全身麻酔を誘導した。麻酔誘導後に14ゲージのアンジオカットをそれらの動物に挿管し、体積制御式人工呼吸器を使用して機械的に換気を行った。2%イソフルランを使用して衝突損傷と低血圧期を通して外科的麻酔水準を維持した。
【0235】
無菌操作下で血管内留置カテーテルを尾動脈と大腿静脈に留置した。尾の近位部分に2~4mmの長さの切れ込みを入れて尾動脈を解剖し、血圧をモニターするために22ゲージのアンジオカットテフロンカテーテルを使用してカニューレ処置を行った。左鼠径部に5~8mmの長さの切れ込みを入れて大腿静脈を切開し、乳酸リンゲル液又は脱血血液を使用して出血性ショックと蘇生を制御するために22ゲージのアンジオカットテフロンカテーテルを使用してカニューレ処置を行った。それらのカテーテルはナイロン縫合糸で皮膚に固定された。カテーテル留置の後に外耳棒と切歯棒により頭部を固定して前記動物を伏臥位で定位固定フレームに固定した。体温をモニターし、直腸プローブにより制御された加熱パッドにより体温を36~37℃に保った。
【0236】
頭皮を毛刈りし、ヨウ素ベースの溶液を使用して清潔にした。手術する部分を滅菌したリネンで覆った。中間矢状皮膚切開を行い、頭皮(骨膜を含む)と側頭筋を反転させた。衝突損傷用に脳を露出させるために歯科ドリルを使用してブレグマとラムダとの間の右頭頂皮質に対して10mmの直径の骨切除開頭術を実施した。硬膜表面を傷つけないように注意した。熱による脳組織の損傷を防ぐためにドリルしている部位に少量の生理食塩水溶液を向けた。延伸した位置でインパクターロッドを固定してインパクターの先端を垂直に対して約45°の角度の脳の露出した表面に対し直角に位置する骨切除開頭部位の中央に置き、その後でその先端が硬膜表面に触れるまでその先端を下げた。その後、そのインパクターロッドを引き戻し、衝突時に2.5mmの脳変形が生じるように先端をさらに進めた。その制御皮質衝突装置を約3M/秒の衝突速度を生じる30psiに調節して軽いレベルの外傷性損傷を誘導した。動物の頭部に狙いを定めたヒーティングランプの助けを借りて側頭筋に配置された温度プローブを使用して脳の温度を36~37℃の間に保った。皮質損傷後に脳組織が押し出されることを回避するために歯科用アクリルから構成される人口骨片を使用することにより頭蓋骨の欠損を閉じた。
【0237】
機械式の標準的な注入/回収ポンプ(Harvard Pump Dual RS-232)を使用して50分の期間にわたって平均動脈圧(MAP)を約40mmHgまで低下させるために採血した。そのようなレベルにまでMAPを低下させるために必要な血液の体積は体重100g当たり約2mLであった。最初の5分間にこの体積の半分を採血し、さらに25%を次の5分間に採血し、そして最後の25%を次の5分間に採血した。この減速性血液喪失率は外傷性の血液喪失の臨床状況を模倣している。必要であれば断続的な出血を続けることで残りの低血圧期にわたって動物を低血圧に保った。その脱血血液をクエン酸リン酸デキストロース溶液中に収集し、低血圧期と輸液による蘇生期の間に4℃で保存した。その脱血血液を再注入の直線に体温(36~37℃)まで温めなおした。指定された低血圧期の後に少なくとも50mmHgというMAPが得られるまで1mL/分という一定の注入速度を維持するための輸液ポンプを使用して乳酸リンゲル液で動物を最初に蘇生した。脱血血液の再注入と100%酸素の換気の提供により最終的な蘇生を達成した。
【0238】
最終的な蘇生の後に麻酔を停止して動物を回復させた。ラットが麻酔停止の後に抜管され、自発的に呼吸するようになったところで30分間にわたって1分毎に回避反射、立ち直り反射、頭部支持反射、角膜反射、耳介反射、四肢引っ込め反射、及び尾部反射を評価した。それらの動物が完全に目覚めたところでそれらの動物をケージに戻し、自由に飲食させた。損傷後の最初の3日間にわたって鎮痛のためにそれらの動物にブプレノルフィンを0.1mg/kgの用量で1日2回筋肉内投与し、術後感染症を予防するためにエンロフロキサシンを5mg/kgの用量で1日1回筋肉内投与した。
【0239】
デジタル式天秤を使用して平均台歩行事前トレーニングの当日、手術の当日、術後1~5日目、及び術後11~15日目に各ラットの体重を量った。術後1~5日目に平均台歩行試験と平均台バランス試験で動物を試験した。術後11~15日目にモリス水迷路試験で動物を試験した。最後の行動評価の後に動物を安楽死処理し、組織学的検査のために脳を取り出した。
【0240】
(運動試験)
平均台歩行試験
各ラットを、1mの長さ、2.5cmの幅、及び地上から1m上の平均台上を歩いて薄暗くしたゴールの箱の中に入って90dbのホワイトノイズを避けるように手術の2日前に事前トレーニングさせた。各トレーニング試行と検査試行の開始時に30秒間にわたってゴールの箱の中にラットを座らせた。トレーニング試行の間にラットが平均台全体を歩行することを学ぶまでゴールの箱から徐々に距離を長くしてラットを配置した。ラットが平均台をゴールの箱の中まで歩かないどの距離でもラットがゴールの箱の中まで歩くまで反復して練習した。ラットには試行と試行の間に30秒間の休憩時間が与えられた。ラットが連続して3回の試行で5秒以内に平均台を移動した後に端から端まで交互に約20cmの間隔で平均台の端から5mm内側にある平均台の穴に4本のプラスチックペグ(7.5cmの高さ)を配置した。その後、3回連続の試行で10秒以内に完了という別の基準に合わせてラットをトレーニングした。30回の試行までのこれらの基準の両方が満たされなかった場合、そのラットは失格と判断された。本試験に含めるための最終的な基準は、手術当日にペグが存在する状態で15回の試行以内の3回の連続した試行で5秒以内という平均台歩行時間であった。ペグが存在する状態での平均台歩行を術後1~5日目に評価した。
【0241】
平均台バランス試験
各動物を1.5cmの幅、1mの長さ、及び地上から1m上の平均台の中央に沿って長さ方向に配置した。ラットは手術の当日と術後1~5日目の3回の試験の各々において最大で60秒間にわたって平均台上でバランスを取ろうと試みた。試験と試験の間にラットを平均台から取り除き、ゴールの箱の中に30秒間にわたって入れた。
【0242】
(組織学)
衝突から2週間後の時点で前記動物に深麻酔を施し、そして0.9%生理食塩水、続いて10%リン酸緩衝ホルムアルデヒドを使用する経心腔的灌流を施した。脳全体を取り出し、4%ホルマリン中で固定した。固定した脳を挫傷、血種、及びヘルニア形成の存在について肉眼で検討した。それらの脳を写真撮影し、2mmの間隔の薄片に切り分け、その後でパラフィン中に包埋した。ヘマトキシリンエオシン染色した切片を0.9%生理食塩水で洗浄し、続いて10%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで洗浄した。PathScan Enabler(Meyer Instruments社、ヒューストン、テキサス州)を搭載した切片スキャナー(Polaroid社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を使用してそれらの脳切片を写真撮影した。各冠状画像中の損傷部分の断面積を決定し、スライスとスライスとの間の組織の厚さを掛けることにより損傷の体積を測定した。この平板体積法を画像処理プログラムOptimas 5.2(Optimas社、シアトル、ワシントン州)に実装した。
【0243】
海馬のCA1領域とCA3領域の中央部の1mm厚のセグメント中に存在する神経細胞の数を200倍の倍率で計数した。核と細胞質の形態から神経細胞を特定し、個々の細胞を正常細胞又は損傷細胞として計数した。細胞質の縮小、好塩基球増加、又は好酸球増加を有する神経細胞、又は核の細部が失われた神経細胞を損傷細胞と見なした。測定した領域は1mmの長さで1mmの幅(その区域の長軸の両側に0.5mmの幅)であった。ミリメートル正方当たりの神経細胞数として神経細胞の総数と正常に見える神経細胞の数を表した。
【0244】
(結果)
これらの結果は低血圧と蘇生を組み合わせた軽度TBIモデルにおいて「根本蘇生」時のPEG-HCC処置により機能的転帰と脳構造が改善されることを反映している。
【0245】
図35は検査群のラットの平均台歩行試験での成績をグラフ表示している(対照とPEG-HCCで処理されたラットをそれぞれ(TBI)3501と3502によりグラフ表示している)。平均台歩行試験の成績はPEG-HCC処置群において有意に良好であった(治療効果、p=0.007;治療と日数の交互作用、p<0.001)。図35上の星印は対照群と有意に異なる値を表している(p<0.05、ホルム・シダック法)。
【0246】
図36は検査群のラットの平均台バランス試験での成績をグラフ表示している(対照とPEG-HCCで処理されたラットをそれぞれ3601と3602によりグラフ表示している)。平均台バランス試験の成績はPEG-HCC処置群において有意に良好であった(治療効果、p<0.001;治療と日数の交互作用、p<0.001)。図36上の星印は対照群と有意に異なる値を表している(p<0.05、ホルム・シダック法)。
【0247】
図37は検査群のラットのモリス水迷路試験での成績をグラフ表示している(対照とPEG-HCCで処理されたラットをそれぞれ3701と3702によりグラフ表示している)。モリス水迷路試験の成績は早期の検査期間ではPEG-HCC処置群において有意に良好であった(治療効果、p=0.010;治療と日数の交互作用、p<0.001)。図35上の星印は対照群と有意に異なる値を表している(p<0.05、ホルム・シダック法)。
【0248】
図38は検査群のラットの損傷2週間後での脳挫傷の体積をグラフ表示している。脳挫傷の体積はPEG-HCC処置群においてずっと小さかった(したがって有意に良好であった)。
【0249】
これらの結果が示すように、PEG-HCCが根本蘇生の開始時に投与され、2時間後に投与が繰り返されると機能的転帰の測定値が改善し、病変のサイズが減少した。低血圧によって引き出されるTBIに対する重大な血管性の要素が存在することが症状を悪化させる低血圧の効果から明らかになった。軽度のTBIでもそれによる脳の自己調節機能の喪失がおそらく一つの要因であり、酸化ストレスがこの現象に寄与することが抗酸化薬の事前処置を介して証明されている。「根本」蘇生時に処置されるとその処置は構造的にも機能的にも非常に有効であることが示されており、このことは生存組織がレスキュー可能であることを示している。
【0250】
本発明の実施形態を示し、説明してきたが、当業者は本発明の主旨と教示から逸脱することなくそれらの実施形態の改変を行うことができる。本明細書の中で説明した実施形態と提供した例は例示のみを目的としており、限定を意図したものではない。本明細書において開示された本発明の多くの変形と改変が可能であり、且つ、本発明の範囲内である。したがって、他の実施形態は以下の特許請求の範囲内である。保護の範囲は上で述べた説明によって限定されない。
【0251】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、及び刊行物の開示は、本明細書において明らかにされた詳細を補う実施例の詳細、手順の詳細、又は他の詳細を提供する限りにおいて全体がここに参照により本明細書に援用される。
【0252】
特定の系の要素を指すために様々な用語が使用されている。異なる会社が一つの要素を異なる名前で呼ぶこともある。この文書は名前が異なるが機能は異ならない要素を区別することを意図していない。以下に続く考察と特許請求の範囲の中では「含む(including)」という用語と「含む(comprising)」という用語はオープンエンド様式でしようされ、したがって「を含むが限定されない」という意味であると解釈されるべきである。また、「対(couple)」又は「連結する(couples)」という用語は間接的であるか、又は直接的であるかどちらかでの接続を意味するものとする。したがって、第1の装置が第2の装置に連結している場合、その接続は直接的な接続と考えられても他の装置及び他の接続を介した間接的な接続と考えられてもよい。
【0253】
本明細書において使用される場合、値、又は質量、重量、時間、体積、濃度、若しくはパーセンテージを指すときの「約」という用語は特定の量からの変化を包含するという意味であり、それはそのような変化が本開示の方法を実施するために適切であるからであり、その変化は幾つかの実施形態では±20%の変化、幾つかの実施形態では±10%の変化、幾つかの実施形態では±5%の変化、幾つかの実施形態では±1%の変化、幾つかの実施形態では±0.5%の変化、及び幾つかの実施形態では±0.1%の変化である。
【0254】
本明細書において使用される場合、実在物のリストという文脈の中で使用されるときの「及び/又は」という用語は個々に、又は組み合わせて存在している実在物を指す。したがって、例えば、「A、B、C、及び/又はD」という言い回しにはA、B、C、及びDが個々に含まれるが、A、B、C、及びDのありとあらゆる組合せと部分組合せも含まれる。
【0255】
範囲形式で濃度、量、及び他の数値データが本明細書において提示される場合がある。そのような範囲形式は単に利便性と簡潔性のために使用されており、且つ、そのような範囲形式にはその範囲の境界として明白に列挙されている数値が含まれるだけでなく、その範囲内に含まれる個々の数値又は部分範囲があたかも明白に列挙されているかのようにその各数値と部分範囲の全てが含まれると柔軟に解釈されるべきであることを理解されたい。例えば、約1~約4.5という数値範囲は明白に列挙されている1~約4.5という境界を含むだけでなく、2、3、4などの個々の数値、及び1~3、2~4、等のような部分範囲も含むと解釈されるべきである。1つの数値だけを挙げている範囲、例えば「約4.5未満」にも同じ原則が当てはまり、その範囲は先に挙げた値と範囲の全てを含むと解釈されるべきである。さらに、範囲の広がり、又は記載されている特性に関わらずそのような解釈が当てはまるべきである。
【0256】
昔からの特許法の慣習に従い、「単数(a)」という用語と「単数(an)」という用語は特許請求の範囲を含む本出願において使用されるときは「1又は複数の」を意味する。
【0257】
別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されている成分、反応条件等の量を表す全ての数は全ての場合に「約」という用語で修飾されているものと理解されたい。したがって、異なるという指摘が無い限り、本明細書及び添付されている特許請求の範囲において示されている数値パラメーターは、本開示の内容によって得ることが求められている所望の特性に応じて変化し得る近似値である。
なお、本発明は以下の態様を含む。
<1> キレート化部分で共有結合により修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物であって、
(a)前記抗酸化性ナノ粒子が酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有し、
(b)前記治療用組成物が対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元し、且つ
(c)前記治療用組成物が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも10倍高いキレート化効力を有する、
治療用組成物。
<2> 前記治療用組成物が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも100倍高いキレート化効力を有する、前記<1>に記載の治療用組成物。
<3> 前記キレート化部分が金属キレート化部分である、前記<1>に記載の治療用組成物。
<4> 前記金属キレート化部分がアルミニウム、アメリシウム、ヒ素、カドミウム、セシウム、クロム、銅、キュリウム、鉄、鉛、水銀、プルトニウム、タリウム、ウラン、及び亜鉛からなる群より選択される金属のキレート剤である、前記<3>に記載の治療用組成物。
<5> 前記金属がヒ素、カドミウム、銅、鉄、鉛、セレン、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<4>に記載の治療用組成物。
<6> 前記キレート化部分がDEFである、前記<3>に記載の治療用組成物。
<7> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<1>に記載の治療用組成物。
<8> 前記治療用組成物がDEF-PEG-HCCである、前記<7>に記載の治療用組成物。
<9> 前記治療用組成物がDEF-PEG-GQDである、前記<7>に記載の治療用組成物。
<10> PEG:キレート化部分の比率が1:3~3:1である、前記<7>に記載の治療用組成物。
<11> PEG:キレート化部分の比率が1:1未満である、前記<10>に記載の治療用組成物。
<12> 前記治療用組成物がミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するように作用可能である、前記<1>に記載の治療用組成物。
<13> 前記キレート化部分がDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択される、前記<1>に記載の治療用組成物。
<14> (a)前記<1>~<12>までのいずれか一項、又は前記<13>に記載の治療用組成物を選択すること、及び
(b)前記治療用組成物を対象に投与すること、
を含む方法であって、
(i)投与された前記治療用組成物中のキレート剤部分の量が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない前記キレート剤部分が同程度のキレート化効力を得るために投与されることが必要な前記キレート剤部分の量の多くとも10%にまで減少し、且つ
(ii)前記治療用組成物が前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する、
方法。
<15> 投与された前記治療用組成物中のキレート剤部分の量が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない前記キレート剤部分が同程度のキレート化効力を得るために投与されることが必要な前記キレート剤部分の量の多くとも1%にまで減少する、前記<14>に記載の方法。
<16> 前記治療用組成物を投与する前記工程がミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するための工程である、前記<14>に記載の方法。
<17> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における金属誘導性酸化ストレスが低減する、前記<16>に記載の方法。
<18> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象の組織損傷が治療される、前記<16>に記載の方法。
<19> 前記組織損傷が脳損傷である、前記<18>に記載の方法。
<20> 前記脳損傷が脳内出血である、前記<19>に記載の方法。
<21> 前記組織損傷が中枢神経系の一部である組織の損傷である、前記<18>に記載の方法。
<22> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程によりフェロトーシスが抑制される、前記<14>に記載の方法。
<23> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における金属中毒が治療される、前記<14>に記載の方法。
<24> 前記対象における前記金属中毒がアルミニウム、アメリシウム、ヒ素、カドミウム、セシウム、銅、クロム、銅、キュリウム、鉄、鉛、水銀、プルトニウム、タリウム、ウラン、及び亜鉛からなる群より選択される金属を含む、前記<23>に記載の方法。
<25> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象における酸素(O )化された血流が改善する、前記<14>に記載の方法。
<26> 前記対象に前記治療用組成物を投与する前記工程により前記対象の虚血及び再灌流傷害が治療、抑制、又は予防される、前記<14>に記載の方法。
<27> (a)酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する抗酸化性ナノ粒子を選択すること、及び
(b)共有結合によりキレート化部分で前記抗酸化性ナノ粒子を修飾すること、を含む治療用組成物を作製する方法であって、
(i)対象に投与されると高性能の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する前記治療用組成物であり、且つ
(ii)前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも10倍高いキレート化効力を有する前記治療用組成物、
を作製する方法。
<28> 前記治療用組成物が、前記抗酸化性ナノ粒子を含まない同量の前記キレート化部分と比較して少なくとも100倍高いキレート化効力を有する、前記<27>に記載の方法。
<29> 前記キレート化部分が金属キレート化部分である、前記<27>に記載の方法。
<30> 前記金属キレート化部分が、アルミニウム、アメリシウム、ヒ素、カドミウム、セシウム、クロム、銅、キュリウム、鉄、鉛、水銀、プルトニウム、タリウム、ウラン、又は亜鉛の金属キレート剤である、前記<29>に記載の方法。
<31> 前記金属がヒ素、カドミウム、銅、鉄、鉛、セレン、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<30>に記載の方法。
<32> 前記キレート化部分がDEFである、前記<29>に記載の方法。
<33> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<27>に記載の方法。
<34> 前記治療用組成物がDEF-PEG-HCCである、前記<33>に記載の方法。
<35> 前記治療用組成物がDEF-PEG-GQDである、前記<33>に記載の方法。
<36> PEG:キレート化部分の比率が1:3~3:1である、前記<33>に記載の方法。
<37> PEG:キレート化部分の比率が1:1未満である、前記<36>に記載の方法。
<38> 前記治療用組成物がミトコンドリア損傷を治療、抑制、又は予防するように作用可能である、前記<27>に記載の方法。
<39> 前記キレート化部分がDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択される、前記<27>に記載の方法。
<40> 共有結合によりキレート化部分で修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物であって、
(a)前記抗酸化性ナノ粒子が酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有し、
(b)前記キレート化部分が鉄キレート化部分であり、且つ
(c)前記治療用組成物は対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する、
治療用組成物。
<41> 前記鉄キレート化部分がDEFである、前記<40>に記載の治療用組成物。
<42> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<40>に記載の治療用組成物。
<43> (a)前記<40>~<41>、又は前記<42>に記載の治療用組成物を選択すること、及び
(b)前記治療用組成物を対象に投与することを含む方法であって、
前記治療用組成物が前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する方法。
<44> (a)酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する抗酸化性ナノ粒子を選択すること、及び
(b)共有結合によりキレート化部分で前記抗酸化性ナノ粒子を修飾すること、を含む治療用組成物を作製する方法であって、
(i)前記キレート化部分が鉄キレート化部分であり、且つ
(ii)対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する前記治療用組成物、
を作製する方法。
<45> 前記鉄キレート化部分がDEFである、前記<44>に記載の治療用組成物。
<46> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<44>に記載の治療用組成物。
<47> 共有結合によりキレート化部分で修飾された抗酸化性ナノ粒子を含む治療用組成物であって、
(a)前記抗酸化性ナノ粒子が酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有し、
(b)前記キレート化部分が前記キレート化部分によるキレート化のための活性部位ではない第1部分を有し、
(c)前記キレート化部分が前記第1部分において前記抗酸化性ナノ粒子に共有結合しており、且つ
(d)前記治療用組成物が対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する、
治療用組成物。
<48> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<47>に記載の治療用組成物。
<49> (a)前記<47>又は<48>に記載の治療用組成物を選択すること、及び
(b)前記治療用組成物を対象に投与すること、
を含む方法であって、
前記治療用組成物が前記対象に投与されると高力価の酸化体として機能し、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する方法。
<50> (a)酸化抑制特性と酸化促進特性の両方を有する抗酸化性ナノ粒子を選択すること、及び
(b)キレート化部分で共有結合により前記抗酸化性ナノ粒子を修飾すること、を含む治療用組成物を作製する方法であって、
(i)前記キレート化部分が前記キレート化部分によるキレート化のための活性部位ではない第1部分を有し、
(ii)前記キレート化部分が前記第1部分において前記抗酸化性ナノ粒子に共有結合しており、且つ
(iii)対象に投与されると高力価の酸化体として機能するように作用可能であり、且つ、電子を直接伝達し、且つ、重要なミトコンドリア酵素を還元する前記治療用組成物、
を作製する方法。
<51> 前記抗酸化性ナノ粒子がPEG-HCC、PEG-GQD、及びPEG-PDIからなる群より選択される、前記<50>に記載の治療用組成物。
<52> 対象における電子伝達の障害を治療する方法であって、
(a)電子伝達系のミトコンドリア複合体からの電子の漏出を含む電子伝達の障害を治療する必要がある対象を特定すること、
(b)酸化抑制特性と酸化促進特性を有する炭素材料を含む治療用組成物を前記対象に投与すること、
(c)前記治療用組成物を利用して前記対象内の活性酸素種(ROS)上のフリーラジカルを消滅させること、及び
(d)前記治療用組成物を利用して前記対象の細胞のミトコンドリア膜内で電子を伝達すること、
を含む方法。
<53> 生成した活性酸素種(ROS)又は生成した活性窒素種(RNS)を除去することにより電子伝達系のミトコンドリア複合体からの電子の漏出に直接的に対処するために前記治療用組成物を利用することがさらに含まれる、前記<52>に記載の方法。
<54> 前記活性酸素種(ROS)が超酸化物を含む、前記<52>に記載の方法。
<55> 前記活性酸素種(ROS)がヒドロキシラジカルである、前記<52>に記載の方法。
<56> 活性窒素種のフリーラジカルを消滅させるために前記治療用組成物を利用することがさらに含まれる、前記<52>に記載の方法。
<57> 電子シャトルと電子伝達を回復させるために前記治療用組成物を利用することをさらに含む、前記<52>に記載の方法。
<58> 電子シャトルと電子伝達を回復させるために前記治療用組成物を利用する前記工程が前記対象の内在性電子シャトル能の機能不全からの保護を含む、前記<57>に記載の方法。
<59> 前記対象においてプロトン濃度勾配の喪失、活性酸素種レベルの上昇、及び細胞損傷を引き起こす前記電子漏出を抑制することにより重要な細胞システムに対する損傷を治療する、前記<53>に記載の方法。
<60> 前記電子漏出が電子伝達タンパク質及びそれらのタンパク質の中間物に対する傷害から生じる、前記<59>に記載の方法。
<61> 前記電子タンパク質及びそれらのタンパク質の中間物がNADPH、フラビン、シトクロムc、ミトコンドリア酵素、オルガネラ酵素、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<60>に記載の方法。
<62> 電子シャトルと電子伝達の回復能が細胞のミトコンドリア膜、オルガネラ、又はそれらの組合せにおいて生じる、前記<57>に記載の方法。
<63> 細胞のミトコンドリア膜内で電子を伝達するために前記治療用組成物を利用することをさらに含む、前記<52>に記載の方法。
<64> 前記対象が哺乳類動物である、前記<52>に記載の方法。
<65> 前記哺乳類動物がヒトである、前記<64>に記載の方法。
<66> 前記治療用組成物の前記投与が静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、経口経路、皮膚経路、又は経鼻経路を介した投与を含む、前記<52>に記載の方法。
<67> 前記電子伝達の障害が、先天性及び後天性のミトコンドリア損傷、神経系に対する急性損傷、末梢性損傷、全身性損傷、神経変性障害、全身性臓器障害、炎症性疾患、臓器移植、血流再開を伴う臓器移植、外傷、出血性ショックと血流再開を伴う外傷、脳卒中、脳への血流再開を伴う脳卒中、及びそれらの組合せからなる群より選択される症状に関連する、前記<52>に記載の方法。
<68> (a)前記先天性及び後天性のミトコンドリア損傷がミトコンドリア遺伝子変異疾患、ウィルソン病、金属代謝遺伝子疾患、シアン化物又はヒ素を例とするミトコンドリア毒素による急性及び慢性の中毒、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
(b)前記神経系に対する急性損傷が外傷性脳損傷、虚血、出血、無酸素性脳症、低酸素性又は虚血性脳症、再灌流、血流再開、脳卒中、脳血管機能不全、脊髄損傷、中枢神経系損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
(c)前記末梢性損傷がニューロパチーからなる群より選択され、
(d)前記全身性損傷が出血性ショック、低酸素症、低血圧、心筋梗塞と心筋損傷、肺損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
(e)前記神経変性障害がアルツハイマー病、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症、自閉症、ウィルソン病及びそれらの組合せからなる群より選択され、
(f)前記全身性臓器障害が肝臓疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、糖尿病、心筋梗塞と心筋損傷、肺損傷、及びそれらの組合せからなる群より選択され、且つ
(g)前記炎症性疾患が炎症性腸疾患からなる群より選択される、
前記<67>に記載の方法。
<69> 前記電子伝達の障害が外傷性脳損傷後の脳血管機能不全に関連する、前記<52>に記載の方法。
<70> 前記炭素材料が単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、三層ナノチューブ、多層ナノチューブ、超短ナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノリボン、グラファイト、グラフェンオキシド、グラフェンオキシドナノリボン、カーボンブラック、酸化カーボンブラック、親水性カーボンクラスター、グラフェン量子ドット、カーボンドット、石炭、コークス、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<52>に記載の方法。
<71> 前記炭素材料にヘテロ原子がドープされている、前記<70>に記載の方法。
<72> 前記ヘテロ原子がO、N、S、P、B、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<71>に記載の方法。
<73> 前記炭素材料に複数の可溶化基で官能化する、前記<52>に記載の方法。
<74> 前記可溶化基がポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(p-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアミン)、ビニルポリマー、連鎖成長ポリマー、逐次成長ポリマー、縮合重合体、開環重合体、開環メタセシス重合体、リビングポリマー、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<73>に記載の方法。
<75> 前記炭素材料が官能化されたペリレンジイミド、又は官能化された多環式芳香族コアを含む小分子である、前記<52>に記載の方法。
<76> 前記小分子が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、キノン基、エポキシ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、スルホン基、ヒドラジン基、イミン基、ヒドロキシイミン基、又はそれらの組合せの部分を有する、前記<75>に記載の方法。
<77> 前記治療用組成物が標的薬剤をさらに含む、前記<52>に記載の方法。
<78> 前記標的薬剤がオルガネラ、臓器、又は細胞種に対する標的薬剤である、前記<77>に記載の方法。
<79> 前記標的薬剤が酸化ストレスに応答して上方制御される細胞表面部分を標的とするタンパク質である、前記<77>に記載の方法。
<80> 前記標的薬剤がp-セレクチン、トランスフェリン受容体、アンギオテンシン受容体、カンナビノイド受容体、上皮成長因子受容体、接着分子、チャネルタンパク質、及びそれらの組合せからなる群より選択されるタンパク質である、前記<77>に記載の方法。
<81> 前記標的薬剤が抗体、タンパク質、RNA、DNA、アプタマー、小分子、デンドリマー、炭水化物、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<77>に記載の方法。
<82> 前記標的薬剤がキレート剤である、前記<77>に記載の方法。
<83> 前記キレート剤がDEF、DTPA、ジメルカプロール、サクシマー、ユニチオール、プルシアンブルー、D-ペニシラミン、トリエンチン、デフェラシロクス、デフェリプロン、エデト酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)、ヒドロキシピリドネート、テトラチオモリブデート、ペンテト酸、及びトリエンチンからなる群より選択される、前記<82>に記載の方法。
<84> 前記標的薬剤が前記炭素材料と共有結合している、前記<77>に記載の方法。
<85> (a)前記炭素材料が輸送体部分と結合しており、且つ
(b)前記輸送体部分により関門を通過する前記炭素材料の輸送が促進される
前記<52>に記載の方法。
<86> 前記関門が血液脳関門、血液脊髄関門、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<85>に記載の方法。
<87> 前記輸送体部分がアダマンタン分子、アダマンタン分子誘導体、カンナビノイド分子、カンナビノイド分子誘導体、HU-210、及びそれらの組合せからなる群より選択される、前記<85>に記載の方法。
<88> 前記輸送体部分が非天然エナンチオマーからなる群より選択される、前記<85>に記載の方法。
<89> 前記炭素材料が抗酸化活性と併せて電子シャトルと電子伝達の修復能を有する、前記<52>に記載の方法。
<90> 前記抗酸化活性が活性酸素種、活性窒素種、又はそれらの組合せに対しての活性である、前記<89>に記載の方法。
<91> 前記活性酸素種が超酸化物、又はヒドロキシラジカル、又はそれらの組合せを含む、前記<90>に記載の方法。
<92> 前記抗酸化薬が一酸化窒素に対して非反応性である、前記<89>に記載の方法。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23A
図23B
図23C
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30A
図30B
図31A
図31B
図32
図33
図34A
図34B
図35
図36
図37
図38