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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】弾性針を備える計時器用表示機構
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/04 20060101AFI20221122BHJP
   G04B 19/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G04B19/04 Z
G04B19/00 B
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021047033
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2021189165
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】20176726.6
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ビフラール
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1710637(EP,A2)
【文献】特開2015-78983(JP,A)
【文献】特開昭62-30986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの弾性針(1)と表示インデックスを備え幾何学的構成が変わる計時器用表示機構(10)であって、
前記弾性針(1)は、フレキシブルブレード(3)の第1の端に剛結合される第1の駆動パイプ(2)と、及び前記フレキシブルブレード(3)の別の端に剛結合される第2の駆動パイプ(4)とを備え、
前記表示インデックスは、前記弾性針(1)に応力が与えられていない前記弾性針(1)の自由状態において、前記第1の駆動パイプ(2)からも前記第2の駆動パイプ(4)からも離れており、
この自由状態においては、前記第1の駆動パイプ(2)と前記第2の駆動パイプ(4)の両方にいずれの応力も与えられておらず前記第1の駆動パイプ(2)と前記第2の駆動パイプ(4)が互いに離れており、
前記弾性針(1)は、サービス位置において、出力軸(D)を中心として前記第1の駆動パイプ(2)と前記第2の駆動パイプ(4)どうしが同軸であるような応力が与えられている位置となっており、
前記表示機構(10)は、前記出力軸(D)を中心として前記第1の駆動パイプ(2)を駆動する第1の駆動手段と、及び前記出力軸(D)を中心として前記第2の駆動パイプ(4)を駆動する第2の駆動手段とを備え、
前記第1の駆動手段と前記第2の駆動手段は、前記出力軸(D)を中心とする前記第1の駆動パイプ(2)の角位置に対する前記第2の駆動パイプ(4)の角位置を変えることによって前記フレキシブルブレード(3)を変形させ、前記出力軸(D)に対する前記表示インデックスの半径方向の位置を変えるように構成しており、
前記表示機構は、前記第1の駆動パイプ(2)の駆動列及び前記第2の駆動パイプ(4)の駆動列に作用する少なくとも1つの差動タイプの機構を備え、
前記差動機構は、少なくとも、前記第1の駆動パイプ(2)を駆動する第1の遊星車(82)、及び/又は前記第2の駆動パイプ(4)を駆動する第2の遊星車(84)、及び前記弾性針を駆動するための動力化手段によって回転駆動される少なくとも1つの入力遊星キャリアシャシー(180)を備え、
前記表示機構は、前記入力遊星キャリアシャシー(180)に作用するトルク調整機構を備える
ことを特徴とする表示機構(10)。
【請求項2】
前記トルク調整機構は、前記入力遊星キャリアシャシー(180)とともに回転するように制約を受ける調整用カム(801)を備え、
前記調整用カム(801)のトラック(802)には、連続的な離間用側面と接近用側面があり、
前記トルク調整機構は、弾性アーム(803)を備え、
前記弾性アーム(803)の遠位端、又は前記遠位端によって前記弾性アーム(803)の後方部(805)の反対側にて前記遠位端によって担持されるランナー(804)は、前記トラック(802)と恒久的に連係し、
前記トラック(802)の前記離間用側面は、前記弾性アーム(803)を前記調整用カム(801)の回転軸から離れるように動かしてトルクを消費させ、
前記トラック(802)の前記接近用側面は、前記弾性アーム(803)を前記調整用カム(801)の回転軸の方へ動かしてトルクを回復させる
ことを特徴とする請求項1に記載の表示機構(10)。
【請求項3】
前記トルク調整機構は、前記入力遊星キャリアシャシー(180)とともに回転するように制約を受ける調整用カム(801)を備え、
前記調整用カム(801)のトラック(802)は、前記入力遊星キャリアシャシー(180)の前記出力軸(D)を通り抜ける平面に対して対称である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示機構(10)。
【請求項4】
前記トラック(802)は、卵形の輪郭を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の表示機構(10)。
【請求項5】
前記入力遊星キャリアシャシー(180)は、前記出力軸(D)を中心として回転するように自由に取り付けられ、
第1のピボット(183)と第2のピボット(181)を備え、
前記第1のピボット(183)と前記第2のピボット(181)はそれぞれ、中間車(103)と遊星車(101)を担持しており、前記中間車(103)と前記遊星車(101)は、自身の歯列(1039、1019)によって互いに噛み合い、
前記遊星車(101)は、固定カムプレート(104)の内側トラック(105)を動くように構成している偏心フィンガー(1010)を備え、
前記偏心フィンガー(1010)は、前記弾性針(1)の弾性によって前記内側トラック(105)の方に戻され、
前記入力遊星キャリアシャシー(180)には、入力歯列(182)と軸(185)があり、
前記軸(185)は、前記出力軸(D)にしたがって同軸に、前記第1の駆動パイプ(2)を備える第1のキャノンピニオン(1020)と、及び前記第2の駆動パイプ(4)を備える第2のキャノンピニオン(1040)を担持し、
前記第1のキャノンピニオン(1020)と前記第2のキャノンピニオン(1040)の一方の歯列(1049)は、前記中間車(103)の歯列(1039)と噛み合い、
前記第1のキャノンピニオン(1020)と前記第2のキャノンピニオン(1040)の他方の歯列(1029)は、前記遊星車(101)の歯列(1019)と噛み合う
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の表示機構(10)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の表示機構(10)を少なくとも1つ備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(900)。
【請求項7】
請求項6に記載のムーブメント(900)を少なくとも1つ、及び/又は
請求項1~5のいずれか一項に記載の表示機構(10)を少なくとも1つ
備えることを特徴とする携行型時計(1000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの弾性針と表示インデックスを備え幾何学的構成が変わる計時器用表示機構に関する。前記弾性針は、フレキシブルブレードの第1の端に剛結合される第1の駆動パイプと、及び前記フレキシブルブレードの別の端に剛結合される第2の駆動パイプとを備え、前記表示インデックスは、前記弾性針に応力が与えられていない前記弾性針の自由状態において、前記第1の駆動パイプからも前記第2の駆動パイプからも離れており、この自由状態においては、前記第1の駆動パイプと前記第2の駆動パイプの両方にいずれの応力も与えられておらず前記第1の駆動パイプと前記第2の駆動パイプが互いに離れており、前記弾性針は、サービス位置において、出力軸を中心として前記第1の駆動パイプと前記第2の駆動パイプどうしが同軸であるような応力が与えられている位置となっている。
【0002】
本発明は、少なくとも1つのこのような表示機構を備える計時器用ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、少なくとも1つのこのようなムーブメント及び/又は少なくとも1つのこのような表示機構を備える携行型時計(例、腕時計、懐中時計)に関する。
【0004】
本発明は、計時器用表示機構の分野に関し、特に、複雑機構を備える計時器に関する。本発明に係る機構の寸法が小さいために、振り子式時計や置き時計のような静的な時計と、携行型時計との両方に本発明を用いることができる。
【背景技術】
【0005】
ユーザーにとって計時器における表示要素が良く見えることは重要である。
【0006】
多くの計時器の表盤は環状ではなく、良好に見えるようにするために利用可能な表面の全体を利用することが可能になる解決策が求められている。
【0007】
幾何学的構成が変わるように表示機構を設計することによって、表示が単調となることをある程度防ぎ、日における時間や特定の時間に応じて外観を変えて表示を活性化させることが可能になる。例として、非常に多くの他の可能な使用形態のうち、午前/午後表示を単純に針の形状を変えて、この針が午前中の12時間には第1の外観を有し、1日のうちの残りの時間には第2の外観を有するようにする。また、昼/夜の表示、タイムゾーン表示なども特徴的なものとなる。
【0008】
このような幾何学的構成が変わる表示機構は、計時器、特に、携行型時計、を複雑にする。そのような表示機構の体積を抑え、例えば、女性向け携行型時計で用いられるような小型の携行型時計ケース内へと挿入することを可能にしたり、表示機構を単純にして、部品の数を減らし、製造や組み付けのコストを抑えたり、そして、トルク消費を調整して、これによって、携行型時計の動作に最小限の阻害因子しか発生させないようにしたりすることが有利となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
欧州特許文献EP2863274、EP3159751、EP3605244及びEP3605243に、弾性針及びこのような弾性針を備える表示機構や多くの代替構成が記載されており、これらの文献を参照によって本明細書に組み込む。
【0010】
本発明は、このような弾性針を備える表示機構について、さらに単純化し、小型化し、製造を経済的にし、トルク消費の最適化を図ることを意図している。
【0011】
本発明は、さらに、この弾性針を備える表示機構において、車を押すことを避けて、車を引きずり型の形態で取り付けるようにすることによって、いずれの干渉をも防ぐことを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような状況で、本発明は、請求項1に記載の、幾何学的構成が変わる計時器用表示機構に関する。
【0013】
本発明は、少なくとも1つのこのような表示機構を備える計時器用ムーブメントに関する。
【0014】
本発明は、少なくとも1つのこのようなムーブメント及び/又は少なくとも1つのこのような表示機構を備える携行型時計に関する。
【0015】
添付の図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】弾性針を備える表示機構を示している部分的かつ概略的な分解図である。弾性針はパイプまでしか示しておらず、弾性針の本体は示していない。この表示機構は、遊星キャリアシャシーによって担持される差動タイプの機構を備える。このようにして示しているアセンブリーは、既存のムーブメントに適応可能な付加的なブロックを形成する。ここで、弾性針の2つのパイプどうしは、このようなムーブメントの出力を形成するように構成しているキャノンピニオンを中心として同軸である。
図2】遊星キャリアプレートなしで、組み付けられた図1の機構についての部分的かつ概略的な斜視図を示している。
図3図2の機構を横から見た部分的かつ概略的な図を示している。
図4】楕円状の表盤を上から見た概略的な図を示しており、この表盤の手前において、当該表示機構を備える弾性針が動き、この弾性針については、実線で12時の位置にあるものと、点線で2時の位置にあるものの2つの異なる位置のものを示している。
図5】弾性針がそのパイプ上にあるような本発明に係る表示機構についての部分的かつ概略的な斜視図を示している。
図6図4と同様の形態で、弾性針の先端に関連づけられた卵形の軌跡を示している。
図7図4と同様の形態で、弾性針の先端に関連づけられた軌跡を示しており、この弾性針は順次的にアーモンドと心臓の形となる。
図8図4と同様な形態で、正午における差動プレートの位置及び弾性針のアームの位置を示している。
図9図4と同様な形態で、4時における差動プレートの位置及び弾性針のアームの位置を示している。
図10】ムーブメントと当該表示機構を備える計時器のブロック図である。
図11】遊星キャリアシャシーに作用するトルク調整機構を備える、組み付けられた本発明に係る表示機構についての部分的かつ概略的な斜視図を示している。
図12図11の機構を上から見た部分的かつ概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
欧州特許出願EP3605244は、弾性針を備え幾何学的構成が変わる計時器用表示機構に関連しており、成形歯を備える車を介して動作する第1の機構について開示している。このような形態によって、計時器において非常に革新的な表示が可能になるが、高コストとなり、高級品に限定されてしまう。
【0018】
同じ出願は、さらに、第1のパイプの車列にある第1の差動機構と、第2のパイプの車列にある第2の差動機構とを介して動作する第2の機構と、そして、このような差動機構の入力を形成する少なくとも1つのカムについて記載している。したがって、適切な(差動)遊星ギヤを見つけて寸法構成を決める必要がある。遊星ギヤには、小さな体積しか占めないのに大きな変速比を発生させるという利点がある。入力軸と出力軸は互いの延長線上にある。ギヤの組み合わせには、非常に多くの可能性がある。このことによって、特に、関心のあるギヤボックスを作ることが可能になる。本事例においては、このことは、針の両端のそれぞれにおいて、等価な特定値を有する進み及び遅れを発生させるように、差動機構の入力のうちの1つを制御することを意味する。そして、この値がゼロであれば、伝達比1を達成しなければならない(正の値は方向も同じでなければならないことを意味する)。
【0019】
本発明は、機構をさらに単純化し、さらに小型化して、製造を経済的にすることを意図している。特に、弾性針を、女性向け携行型時計、さらには分針、のような小さなものに埋め込む必要がある場合を意図している。主な課題は、利用可能なトルクが小さいことに関係している。したがって、可能なかぎりエネルギー消費が少なく、特に、可能なかぎり規則的な機構を作る必要性がある。
【0020】
本発明は、弾性針を備える表示機構に関する。欧州特許文献EP2863274、EP3159751、EP3605244及びEP3605243に、このような弾性針及びこのような弾性針を備える表示機構について記載されており、これらは多くの別の形態、特に、一又は複数の差動機構を備えるもの、についても記載している。これらの文献を参照によって本明細書に組み入れる。
【0021】
このような機構の動作を最適化するには、動作トルクの平滑化が必要である。系が消費するトルクは、1つ又は2つの遊星車を備えるかどうかにかかわらず、比較的大きい。回転の開始時に角トラベルの最初の30°において消費のピークがあり、その後に、トルクが急に減少し、120°の回転角度から始まり360°の角トラベルの終わりまで、ピーク時に消費される最大トルクの20%未満の比較的小さいレベルに、トルクが小さくなる。このことには、共振器、特に、バランス、の慣性錘の振幅を小さくする効果があり、このことによって、クロノメトリーとパワーリザーブを変えることができる。
【0022】
このために、本発明は、特に、少なくとも1つの弾性針1を備え幾何学的構成が変わる計時器用表示機構10に関する。
【0023】
この弾性針1は、フレキシブルブレード3の第1の端に剛接続される第1の駆動パイプ2と、フレキシブルブレード3の他の端に剛接続される第2の駆動パイプ4とを備える。
【0024】
このフレキシブルブレード3は、図5及び6に示しているように、連続的なブレードであることができ、又はいくつかの先端6において2つどうしが結合される一連の区画5があるようなブレードであることができる。
【0025】
このフレキシブルブレード3には、表示インデックスがあり、この表示インデックスは、第1のパイプ2と第2のパイプ4の両方にいずれの応力も与えられておらずこれらが互いに離れているような弾性針1の応力が与えられていない状態において、第1のパイプ2からも第2のパイプ4からも離れている。この弾性針1のサービス位置は、第1のパイプ2と第2のパイプ4が出力軸Dを中心として互いに同軸であるような応力が与えられている位置である。特に、区画5の端どうしが結合している別の形態においては、表示インデックスは、好ましくは、先端6によって構成している。なお、必ずしもそうではない。
【0026】
表示機構10は、出力軸Dを中心として第1のパイプ2を駆動する第1の駆動手段と、出力軸Dを中心として第2のパイプ4を駆動する第2の駆動手段とを備える。
【0027】
第1のパイプ2と第2のパイプ4が同軸ではない別の形態は、ここでは説明しない。これらは、特定の特別な表示、特に、レトログレード表示などのように通常の回転を行わないもの、のためには依然として有効である。
【0028】
第1の駆動手段と第2の駆動手段は、出力軸Dを中心とする第1のパイプ2の角位置に対する第2のパイプ4の角位置を変えることによってフレキシブルブレード3を変形させ、出力軸Dを中心とする表示インデックスの半径方向の位置を変えるように構成している。動作を改善させエネルギー消費の規則性を確実にするための良好な手法の1つは、トルクレギュレータを備える弾性針を表示機構が備えること、具体的には、特に出力軸Dを中心として、回転可能に、差動遊星キャリアシャシー、特に入力遊星キャリアシャシー180、を備える調整用カム801を結合させることを伴うものである。このカム801は、弾性アーム803と連係する。この弾性アーム803は、特に、予応力ばねである。なお、これに限定されない。この調整用カム801のトラック802には、連続的な離間用側面と接近用側面があり、特に、卵形の輪郭を有する。
【0029】
したがって、本発明によると、表示機構は、第1のパイプ2の駆動列及び第2のパイプ4の駆動列に作用する差動タイプの少なくとも1つの機構を備える。また、差動機構は、第1のパイプ2及び/又は第2のパイプ4を駆動する第2の遊星車84を駆動するための少なくとも第1の遊星車82と、弾性針1を駆動するための動力化手段によって回転駆動される少なくとも1つの入力遊星キャリアシャシー180とを備え、この表示機構は入力遊星キャリアシャシー180に作用するトルク調整機構を備える。
【0030】
特に、このトルク調整機構は、入力遊星キャリアシャシー180とともに回転するように制約を受け、連続的な離間用側面及び接近用側面を備える調整用カム801を備える。表示機構のトルク調整機構は、弾性アーム803、すなわち、その遠位端、すなわち、その後方部805と反対側の遠位端によって担持されるランナー804が、トラック802と恒久的に連係し、その離間用側面は、カム801の回転軸から離れてトルクを消費するように弾性アーム803を動かし、その接近用側面は、弾性アーム803をカム801の回転軸の方へと戻して、系にトルクを回復させる。
【0031】
特に、トラック802は、入力遊星キャリア180の回転軸を通り抜ける平面に対して対称であり、特に、トラック802は卵形の輪郭を有する。
【0032】
後方部805とは反対側の弾性アーム803の遠位端、又は弾性アーム803のこの遠位端によって担持されるランナー804は、トラック802と恒久的に連係し、その離間用側面は、トルクを消費するカム801の回転軸から弾性アーム803を離すように動かし、接近用側面によって、系にトルクを回復させるカム801の回転軸の方へと弾性アーム803を戻す。
【0033】
図示している例において、調整用カム801は、約70°~360°にて、具体的にはランナー804において、弾性アーム803を離すように動かし、したがって、トルクを消費する。0°~70°にて、弾性アーム803は、カム803の側面802上を近づくように動き、系にトルクを与える。このことによって、系の総消費の曲線が非常に規則的となり最大消費が小さくなる。図示している例において、前記トルクは、本発明を実装していない機構の消費のピーク時の最大トルクの値の0.3~0.4倍にて変動する。
【0034】
この機構を古い時計仕掛けのスタックフリードと比べることができる。スタックフリードは、16世紀に発明された系であり、メインばね、特にバレルばね、が緩むときのその力の調整に対してレオナルド・ダ・ヴィンチによって既に言及されており、これは、ばねブレードと偏心カムを備えて、メインばねのトルクを調整し、置き時計ないし携行型時計の精度を改善させる。スタックフリードは、バレルの軸によって担持されるカムの輪郭に多かれ少なかれ強く支持されるばねブレードを備える。このカムの最も突き出る部分は、スタックフリードが、緩みの開始時に強く制動し、この制動がバレル内でばねが緩むにしたがって減少するように配置される。したがって、ばねによって与えられるトルクを時間が経過するにしたがって等化することができ、したがって、時間の測定の精度を改善させることができる。
【0035】
スタックフリードは、特に、固定点とは反対側の遠位端にランナーを備える張り出している弾性アームを備える。このランナーは、スネール状の偏心カムトラックに支えられる。カムは、メインばねの軸によって駆動される車列の一部である車とともに回転するように制約を受ける。この車列は、メインばねが緩む持続時間の間にカムを少なくとも1回転させるような寸法構成になっている。弾性アームによってカムに与えられる力は、メインばねに制動トルクを与え、このことによって、メインばねのトルクが小さくなり、このトルクは、カムの半径に応じて変わる。メインばねが完全にワインドされたときには、弾性アームはカムの最大半径に支えられ、したがって、発生する制動トルクは最大になる。メインばねが緩む間に、カムは回転し、カムのますます小さい半径に沿って弾性アームが支えられるようになり、このことによって、制動トルクが徐々に小さくなり、このことは、メインばねが発生させるトルクの減少を補償する。1つの別の形態において、カム車には止め面があり、これによって、仕上げ列に与えられるトルクが実質的に一定である有用な範囲の終わりにてメインばねの緩みを止める。
【0036】
スタックフリードによってはたらく制動は、論理的に効率が低下し、メインばねが非常に大きいことを必要とし、伝達比が高くなることを意味する。したがって、その寸法構成は、携行型時計での使用を難しくし、このことによって、1630年からスタックフリードが全体的に廃れ始め、均力車(フュージー)機構のようにエネルギーを少ししか消費しない他の機構に置き換えられた。
【0037】
しかし、スタックフリード機構は単純であり、スタックフリード機構には均力車機構よりも厚みの点でかさばらないという大きな利点がある。しかし、主な課題として、安全にトルクを伝達させるための動力化手段と車列が非常に大きくなってしまうということがある。
【0038】
古い機構のスネール状のカムとは対照的な、しきい値による輪郭の断絶がなく連続的な離間用側面と接近用側面があるカムを用いることによって、弾性アームを備えるスタックフリードのこの新しい代替形態を用いて、本発明に係る表示機構の入力におけるトルク調整を確実にすることが可能になる。
【0039】
また、差動機構の通常の動作から逸脱することによって、遊星車を制御することが可能となる。フィーラースピンドルを遊星車に埋め込み、遊星車を丸まったカムで制御することによって、太陽ギヤと遊星車を担持するシャシーとの間に、1に等しいギヤ比が得られる。したがって、このアセンブリーは車のようにふるまう。
【0040】
この例の丸まったカムを適当な形のカムに置き換えることによって、パイプ上にて得たい進み又は遅れを制御することができる。なお、ここでも、当該機構は、カムに対するフィーラースピンドルの接触を保持するための戻りばねを備えない。なぜなら、弾性針がその機能を行うことを可能にするからである。
【0041】
引きずり型の車(ドラッグタイプの車)、具体的には遊星車、を使用することによって、いずれの干渉の現象も避け、押される車の使用を避けることが可能となる。
【0042】
針の特定の作動においては、各針のパイプを対称的に動かすような形態で、差動遊星キャリアプレートを基準フレームとして用いることを伴うことができる。図8及び9は、針1のパイプ2及び4における回転角度を示している。図8においては、針1は正午を示している。これにおいて、線Aは、差動プレートの位置を示しており、この例において、この差動プレートは、1時間当たり1回転で回転し、線B及びCは、針1のアームの位置を示している。図9において、針1は4時を示しており、差動プレートの線Aは、表盤上の4時の位置にあるマークを指しており、各アームB、Cは、遊星キャリアに対して、同じ角度θの進みと、それと対称的な反跳を有する。
【0043】
したがって、表示機構10は、出力軸Dを中心として自由に回転するように取り付けられた入力遊星キャリアシャシー180を備える差動機構を備える。この入力遊星キャリアシャシー180には、第1のピボット183と第2のピボット181があり、これらの第1のピボット183と第2のピボット181はそれぞれ、中間車103と遊星車101を担持しており、これらの中間車103と遊星車101どうしは、それらの歯列1039、1019によって噛み合っている。この遊星車101には、偏心フィンガー1010があり、この偏心フィンガー1010は、固定カムプレート104の内側トラック105上を動くように構成しており、弾性針1自体の弾性によってこの内側トラック105に戻される。この入力遊星キャリアシャシー180には、入力歯列182と軸185があり、この軸185は、出力軸Dにしたがって同軸に、第1のパイプ2を備える第1のキャノンピニオン1020と、第2のパイプ4を備える第2のキャノンピニオン1040とを担持し、一方のキャノンピニオンの歯列1049は、中間車103の歯列1039と噛み合い、他方のキャノンピニオンの歯列1029は、遊星車101の歯列1019と噛み合う。
【0044】
したがって、この構造は、与えられる角度デルタθの情報を感知する単一のカムを用いることによって単純化することができる。この情報は、第1のキャノンピニオン1020に直接伝達される。第2のキャノンピニオン1040は、図2及び3に示しているように、与えられる角度デルタθの方向を反転させる中間車103を介してこの情報を受ける。遊星キャリアプレート180によって担持される単一の遊星車101は、フランジ104にある単一のカムトラック105上にて、単一の角度デルタθを感知し、これが針1の2つのパイプに与えられる。
【0045】
遊星車101は、第1のパイプ2を担持する第1のキャノンピニオン1020に直接回転を与える。第2のキャノンピニオンのために、遊星車101は、第2のパイプ4を担持する第2のキャノンピニオン1040に中間車103を介して回転を伝達し、これによって、回転方向を反転させる。
【0046】
遊星車101は、カムトラック105を感知するフィンガー1010を担持する。
【0047】
ここで、遊星キャリアプレート180には、キャノンピニオン1040、そして間接的にキャノンピニオン1020をガイドするための管185と、計時器用ムーブメントによって駆動される外側歯列182と、遊星車101と中間車103をガイドするためのピボット181及び183がある。遊星車101の歯列1019は、一方で、第1のキャノンピニオン1020の歯列1029と噛み合い、他方で、第2のキャノンピニオン1040の歯列1049と噛み合う中間車103の歯列1039と噛み合う。
【0048】
図3は、この機構が非常にコンパクトであり、小型の携行型時計ケース内に収容することができるように厚みが薄いことを示している。
【0049】
部品の数が少なくなり、製造が複雑な部品は特にない。したがって、アセンブリーのコストが適度なものとなる。
【0050】
本発明は、さらに、少なくとも1つのこのような表示機構10を備える計時器用ムーブメント900に関する。
【0051】
本発明は、さらに、少なくとも1つのこのようなムーブメント900及び/又は少なくとも1つのこのような表示機構10を備える携行型時計1000に関する。
【0052】
短く書くと、本発明によって、弾性針の2つのパイプ上に進み及び/又は遅れを発生させて、トルクをほとんど消費せず、したがって、非常に信頼性が高いような非常に単純でコンパクトな形態で複雑な軌跡を発生させることが可能になる。
【0053】
このような単一の遊星車と単一のカムを備える構造には、以下のような多くの利点がある。付加的なプレートは、非常に単純である。単一の遊星車が引きずり型の形態で取り付けられ、時計回りにおいて干渉することはない。摩擦が小さいためにエネルギー消費が少ない。共振器における振幅の損失は非常に小さい。当該機構は、少しの部品数しかなく、体積をあまり占めず、組み付けは依然として容易である。
【符号の説明】
【0054】
1 弾性針
2 第1の駆動パイプ
3 フレキシブルブレード
4 第2の駆動パイプ
10 表示機構
82、84、101 遊星車
103 中間車
105 内側トラック
180 入力遊星キャリアシャシー
181 第2のピボット
183 第1のピボット
801 調整用カム
802 トラック
803 弾性アーム
804 ランナー
900 計時器用ムーブメント
1000 携行型時計
1010 偏心フィンガー
1020 第1のキャノンピニオン
1040 第2のキャノンピニオン
図1
図2
図3
図4
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図6
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図12