(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用電極
(51)【国際特許分類】
H01G 9/052 20060101AFI20221122BHJP
H01G 9/055 20060101ALI20221122BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20221122BHJP
H01G 9/07 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01G9/052 509
H01G9/055
H01G9/048 G
H01G9/07
(21)【出願番号】P 2021144553
(22)【出願日】2021-09-06
(62)【分割の表示】P 2017022060の分割
【原出願日】2017-02-09
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】榎 修平
(72)【発明者】
【氏名】片野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】平 敏文
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和也
(72)【発明者】
【氏名】曾根 慎也
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-184301(JP,A)
【文献】特開平9-275040(JP,A)
【文献】特開2003-193260(JP,A)
【文献】特開2007-324151(JP,A)
【文献】特開平6-342740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/052
H01G 9/055
H01G 9/048
H01G 9/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電極に400V以上の耐電圧を有する化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極であって、
前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm
2以下であり、
前記空孔の大きさが数nmから数10nmであることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項2】
アルミニウム電極に400V以上の耐電圧を有する化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極であって、
前記化成皮膜を切断した際の切断面をFE-SEMで観察した際、前記切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm
2以下であることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項3】
前記空孔の数が100個/μm
2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項4】
前記アルミニウム電極は、アルミニウム箔をエッチングしたエッチド箔からなることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項5】
エッチングにより生じたトンネル状のピットを横断するように前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm
2以下であることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項6】
前記アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層が積層された多孔性アルミニウム電極であることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【請求項7】
前記多孔質層を横断するように前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm
2以下であることを特徴とする請求項6に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電極に化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサ用陽極箔の製造工程では、多孔質層を有するアルミニウム電極を高温の純水等の水和処理液に浸漬してアルミニウム電極の表面に水和皮膜を形成した後(水和工程)、有機酸や無機酸およびそれらの塩を含む化成液中で化成を行い(化成工程)、酸化アルミニウムからなる化成皮膜を表面に形成する。化成工程の前に水和皮膜を形成することによって、化成に要する電気量を削減できるとともに、単位面積当たりの静電容量を向上させることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水和工程の後に400V以上の化成電圧で化成を行った場合に形成される化成皮膜中には、直径数nmから数10nmの空孔からなる欠陥が多数存在する。これは、水和皮膜が脱水して酸化アルミニウムに変化する際に体積収縮を起こすために生じると考えられている。これらの欠陥が存在する化成皮膜は、表面から水が浸入しやすいため、化成皮膜が水和劣化しやすいという欠点を有する。
【0005】
かかる欠陥に対して、本発明者等が種々検討した結果、水和工程を行った後に化成を行った際、300V以上の電圧から前記欠陥が生じ始め、それは特に400V以上、さらには500V以上で顕著になることを見出した。また、本発明者等は、実験と考察とを繰り返した結果、300V以下の電圧で化成する場合には、前記欠陥が生じた場合でも、化成工程において欠陥に化成液あるいは水が浸透することにより、欠陥が再び化成されて修復される。しかしながら、400V以上の電圧で化成する場合には、化成皮膜で発生する熱が甚大であるため、化成工程において欠陥に化成液あるいは水が浸透する前に、皮膜の表面で化成液あるいは水が沸騰、蒸発してしまい、欠陥の修復が進みにくいとの知見を得た。
【0006】
上記問題点に鑑みて、本発明の課題は、耐電圧が400V以上の化成皮膜の耐水性を向上させることのできるアルミニウム電解コンデンサ用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、アルミニウム電極に400V以上の耐電圧を有する化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極であって、前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔の数が150個/μm2以下であることを特徴とする。
また、本発明の別態様は、アルミニウム電極に400V以上の耐電圧を有する化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極であって、前記化成皮膜を切断した際の切断面をFE-SEMで観察した際、前記切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm2以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明では、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔(欠陥)の数が150個/
μm2以下であり、化成皮膜中の欠陥が少ない。このため、化成皮膜の表面から水が浸入しにくいので、化成皮膜が水和劣化しにくく、化成皮膜の耐水性を向上することができる。
【0009】
本発明において、前記空孔の数が100個/μm2以下であることが好ましい。
本発明において、前記アルミニウム電極は、アルミニウム箔をエッチングしたエッチド箔からなる態様を採用することができる。
この場合、エッチングにより生じたトンネル状のピットを横断するように前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm2以下である。
本発明において、前記アルミニウム電極は、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層が積層された多孔性アルミニウム電極である態様を採用することができる。
この場合、前記多孔質層を横断するように前記化成皮膜を切断した際に切断面で露出する前記化成皮膜内部に存在する空孔の数が150個/μm2以下である。
【0010】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、アルミニウム電極を温度が78℃から92℃までの水和処理液と接触させて前記アルミニウム電極に水和皮膜を形成する水和工程と、温度が58℃から78℃までの化成液中で400V以上の化成電圧で化成を行い、前記アルミニウム電極に化成皮膜を形成する化成工程と、を有し、前記水和皮膜の質量の前記アルミニウム電極の前記水和工程前の質量に対する割合をxwt%としたとき、皮膜耐電圧Vf(V)および割合xwt%が、以下の条件式
(0.01×Vf)≦x≦(0.017×Vf+28)
を満たすことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法においては、水和皮膜に含まれる水が60℃~90℃で脱離しやすいという知見に基づき、水和工程を比較的低い温度の78℃から92℃で行う。このため、水和皮膜中の水が脱離し難く、水分量の多い水和皮膜が形成される。そのため、化成工程において水和皮膜が脱水して酸化アルミニウムに変化する際の体積収縮に起因して欠陥(空孔)が発生しても、化成皮膜中に水分が十分に存在するので、化成工程において欠陥を効果的に修復することができる。また、化成工程では、化成液の温度を58℃から78℃とするため、水和工程で水和皮膜から水が脱離しにくい。このため、化成途中でも水和皮膜中に水分が十分に存在するので、化成工程において欠陥を効果的に修復することができる。従って、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔(欠陥)の数を150個/μm2以下まで低減することができるので、化成皮膜の表面から水が浸入しにくい。それ故、化成皮膜が水和劣化しにくく、化成皮膜の耐水性を向上することができる。
【0012】
また、本発明では、水和工程で生成する水和皮膜の量が適切である。すなわち、水和工程で生成する水和皮膜の量が少なすぎる場合には化成時に発生する熱が大きくなるので、化成工程において欠陥の修復が進み難くなる。これに対して、水和工程で生成する水和皮膜の量が多すぎる場合には、厚く形成した水和皮膜によって化成液あるいは水が欠陥に浸透することが妨げられるので、欠陥の修復が妨げられる。従って、本発明によれば、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔(欠陥)の数を150個/μm2以下まで低減することができるので、化成皮膜の表面から水が浸入しにくい。それ故、化成皮膜が水和劣化しにくく、化成皮膜の耐水性を向上することができる。なお、欠陥は、化成工程において、デポラリゼーションを行った後に再化成をすることでもある程度取り除くことは可能であるが、400V以上の化成電圧においては十分に取り除くことができない。これは化成皮膜が厚く形成しているためにデポラリゼーションを行っても皮膜の内部の欠陥が取り残されてしまうためである。
【0013】
本発明において、前記化成工程では、前記アルミニウム電極の移動速度を3次元の速度ベクトルAで表し、前記アルミニウム電極の表面から前記アルミニウム電極の表面に対して垂直な方向に10cmまでの範囲における前記化成液の平均流速を3次元の速度ベクトルBで表し、前記アルミニウム電極に対する前記化成液の相対速度を3次元の速度ベクトルB-Aで表し、前記速度ベクトルB-Aの絶対値を|B-A|と表したとき、
前記速度ベクトルの絶対値|B-A|は、以下の条件式
3cm/s≦|B-A|≦100cm/s
を満たすことが好ましい。かかる構成によれば、化成液のアルミニウム電極表面に対する相対速度が適正であるため、化成時にアルミニウム電極から発生する熱を化成液中に効率的に逃がすことができる。このため、化成電圧が400V以上であっても、化成工程では、化成皮膜中の欠陥に化成液あるいは水が浸透することができるので、欠陥の修復が行われる。従って、静電容量が高く、化成皮膜中の欠陥が少ないので、化成皮膜が水和劣化し難い。ここで、|B-A|が3cm/s未満の場合には、アルミニウム電極表面からの熱を十分に逃がすことができないことや、イオンの拡散が不十分になること等の理由から、化成皮膜中の欠陥が十分に修復されず、漏れ電流が高く、水和劣化し易いアルミニウム電解コンデンサ用電極となってしまう。これに対して、|B-A|が100cm/sを超える場合、アルミニウム電極表面からのアルミニウムイオン溶出が過剰になるために、静電容量が低下しやすい。
【0014】
本発明において、前記速度ベクトルの絶対値|B-A|は、以下の条件式
5cm/s≦|B-A|≦30cm/s
を満たすことが好ましい。
【0015】
本発明において、前記速度ベクトルAおよびBの絶対値を各々、|A|および|B|と表したとき、
前記速度ベクトルの絶対値|A|および|B|は各々、以下の条件式
0cm/s≦|A|≦100cm/s
3cm/s≦|B|≦100cm/s
を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極では、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔(欠陥)の数が150個/μm2以下であり、化成皮膜中の欠陥が少ない。このため、化成皮膜の表面から水が浸入しにくいので、化成皮膜が水和劣化しにくく、化成皮膜の耐水性を向上することができる。また、本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、水和皮膜に含まれる水が60℃~90℃で脱離しやすいという知見に基づき、水和工程を比較的低い温度の78℃から92℃で行う。このため、水和皮膜中の水が脱離し難く、水分量の多い水和皮膜が形成される。また、化成工程では、化成液の温度を58℃から78℃とするため、水和工程で水和皮膜から水が脱離しにくい。このため、水和皮膜中に水分が十分に存在するので、化成工程において欠陥を効果的に修復することができる。また、水和工程で形成する水和皮膜の量が適正である。従って、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔(欠陥)の数を150個/μm2以下まで低減することができるので、化成皮膜の表面から水が浸入しにくい。それ故、化成皮膜が水和劣化しにくく、化成皮膜の耐水性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜中の空孔(欠陥)の検査方法を示す説明図である。
【
図2】アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜中の空孔(欠陥)の説明図である。
【
図3】本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法において水和工程で生成する水和皮膜量の適正な範囲を示すグラフである。
【
図4】本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の化成工程を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(アルミニウム電解コンデンサ用電極)
本発明では、アルミニウム電解コンデンサ用電極を製造するにあたって、アルミニウム電極の表面に化成を行ってアルミニウム電解コンデンサ用電極を製造する。アルミニウム電極としては、アルミニウム箔をエッチングしたエッチド箔や、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の両面に積層された多孔性アルミニウム電極等を用いることができる。エッチド箔は、トンネル状のピットが形成された多孔質層を備えている。多孔性アルミニウム電極は、例えば、厚さが10μm~50μmのアルミニウム芯材の両面の各々に1層当たりの厚さが150μm~3000μmの多孔質層30が形成されている。かかる多孔質層は、アルミニウム粉体を焼結してなる層であり、アルミニウム粉体は、互いに空隙を維持しながら焼結されている。
【0019】
(アルミニウム電解コンデンサの構成)
化成済みのアルミニウム電極(アルミニウム電解コンデンサ用電極)を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成済みのアルミニウム電極(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて巻回してコンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後には、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。かかる構成のアルミニウム電解コンデンサにおいて、化成皮膜の耐水性が低いと、アルミニウム電解コンデンサ用電極を保存中に化成皮膜が空気中の水分によって劣化し、アルミニウム電解コンデンサの特性が低下することがある。また、アルミニウム電解コンデンサを製造した後、化成皮膜が電解液中の水分によって劣化すると、アルミニウム電解コンデンサの信頼性が低下する。従って、アルミニウム電解コンデンサ用電極には高い耐水性が要求される。
【0020】
また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合、化成済みのアルミニウム電極(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。かかる構成のアルミニウム電解コンデンサでは、アルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性が低いと、樹脂等の外装を介して侵入した水分によって化成皮膜が劣化することから、アルミニウム電解コンデンサ用電極には高い耐水性が要求される。
【0021】
(アルミニウム電解コンデンサ用電極)
図1は、アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜中の空孔(欠陥)の検査方法を示す説明図である。
図2は、アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜中の空孔(欠陥)の説明図である。なお、
図2では、空孔の存在が分かりやすいように、空孔の多い化成皮膜の断面をFE-SEMで観察した写真を示してある。
【0022】
アルミニウム電解コンデンサ用電極において、化成皮膜中に空孔(欠陥)が多いと、表面から水が浸入しやすいために、化成皮膜が水和劣化しやすい。従って、化成皮膜中の欠陥が少ない方がアルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性が高い。そこで、本形態では、
図1および
図2を参照して説明するように、化成皮膜中の空孔の数を所定値以下に制御する。より具体的には、アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜を切断した際、切
断面で露出する空孔の数を所定値以下に制御することにより、化成皮膜中の空孔の数を所定値以下に制御する。
【0023】
図1(a)および
図2には、エッチド箔に化成皮膜を形成したアルミニウム電解コンデンサ用電極に対して、表面に沿うように化成皮膜を切断した場合を示してあり、トンネル状のピットが黒色領域として示されている。また、ピットの周りに化成皮膜が存在している。また、
図2に示すように、化成皮膜の切断面では空孔(欠陥)が露出するので、1μm
2当たりの空孔の数を計測することができる。
【0024】
なお、
図1(b)に示すように、化成皮膜をピットに沿うように切断してもよく、この場合も、化成皮膜の切断面では空孔(欠陥)が露出するので、1μm
2当たりの空孔の数を計測することができる。
【0025】
本形態では、アルミニウム電解コンデンサ用電極の化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔の数を150個/μm2以下に設定してある。このため、化成皮膜中の欠陥が少ない。従って、化成皮膜の表面から水が浸入しにくいので、水和劣化しにくく、耐水性が高い。なお、空孔の数は、100個/μm2以下であることがより好ましく、かかる態様によれば、アルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性を大幅に向上することができる。
【0026】
(アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法)
本形態のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、アルミニウム電極を純水等の水和処理液と接触させてアルミニウム電極に水和皮膜を形成する水和工程と、化成液中で400V以上の化成電圧でアルミニウム電極に化成を行い、アルミニウム電極に化成皮膜を形成する化成工程とを行う。本形態において、水和工程では、温度が78℃から92℃までの純水(水和処理液)にアルミニウム電極を浸漬して水和皮膜を形成する。化成工程では、温度が58℃から78℃までの化成液中で400V以上の化成電圧でアルミニウム電極に化成を行う。
【0027】
このような製造方法において、水和工程の後に化成工程を行うと、水和皮膜の脱水反応と、アルミニウムの陽極酸化反応の両方によって化成皮膜が形成される。水和皮膜の脱水反応においては、水の脱離によって体積が収縮するので空孔(欠陥)が発生する。かかる欠陥の一部は陽極酸化反応によって修復されるが、欠陥中に化成液や水が存在しないと修復されないため、修復されなかった欠陥は、最終的に化成皮膜中に残存し、漏れ電流の増加や耐水和性の低下の原因となる。本発明者等が化成皮膜の断面を詳細に観察した結果、化成皮膜中の欠陥の大きさは数nm~数10nmであり、400V以上の耐電圧まで化成する場合に特に多く発生することが分かった。また、水和工程の液温が高く、かつ、化成液温度が高温である場合により多くの欠陥が発生することが分かった。
【0028】
より具体的には、水和皮膜に含まれる水は約60℃~90℃と、95℃~150℃、200℃~450℃の3段階で脱離することが分かった。従来技術のように、沸騰純水中でボイルを行った場合、水が脱離してしまうので、同じ量のアルミニウムを反応させた場合であっても、水和皮膜中の水分量が少なくなる。そのため、その後の化成工程で化成皮膜中の水分が不足して欠陥を十分に修復することができない。しかるに本発明では、水和工程を比較的低い温度の78℃から92℃で行うため、水和皮膜中の水が脱離し難く、水分量の多い水和皮膜が形成される。そのため、その後の化成工程において化成皮膜中の水分が十分に存在するので効果的に欠陥を修復することができる。
【0029】
また、化成工程では、化成液の温度を58℃から78℃とするため、水和皮膜から水が脱離しにくい。それ故、化成皮膜中の水分が十分に存在するので効果的に欠陥を修復する
ことができる。
【0030】
よって、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔の数を150個/μm2以下、好ましくは、100個/μm2以下にまで減らすことができるので、アルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性を向上することができる。
【0031】
なお、欠陥は、デポラリゼーションを行った後に再化成をすることでもある程度取り除くことは可能であるが、400V以上の化成電圧においては十分に取り除くことができない。これは化成皮膜が厚く形成しているためにデポラリゼーションを行っても皮膜の内部の欠陥が取り残されてしまうためである。しかるに本形態によれば、化成電圧が400V以上の化成皮膜であっても、欠陥の低減でき、アルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性を向上することができる。
【0032】
(水和皮膜量)
図3は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法において水和工程で生成する水和皮膜量の適正な範囲を示すグラフである。本形態では、水和工程で生成する水和皮膜の量は、水和工程によって増加した質量の割合xを以下の式(数1)で表したとき、
図1に実線L11で示すxの下限から、
図1に破線L12で示すxの上限までの範囲とする。
【0033】
【0034】
より具体的には、化成皮膜の最終的な皮膜耐電圧をVf(V)とし、水和工程によって増加した質量の割合をxとしたとき、xの下限を示す実線L11は、以下の式
x=(0.01×Vf)
で表される。また、xの上限を示す破線L12は、以下の式
x=(0.017×Vf+28)
で表される。
【0035】
従って、本形態では、皮膜耐電圧Vf(V)および割合x(質量%)が、以下の条件式
(0.01×Vf)≦x≦(0.017×Vf+28)
を満たすように水和工程の条件を設定する。
【0036】
かかる構成によれば、水和工程で生成する水和皮膜の量が適切であるため、欠陥を減らすことができる。すなわち、水和工程で生成する水和皮膜の量が、上記条件式の下限より少ない場合には化成時に発生する熱が大きくなるので欠陥の修復が進み難くなる。これに
対して、水和工程で生成する水和皮膜の量が、上記条件式の上限より多い場合には、厚く形成した水和皮膜によって化成液あるいは水が欠陥に浸透することが妨げられるので、欠陥の修復が妨げられる。よって、上記条件を満たせば、化成皮膜を切断した際に切断面で露出する空孔の数を150個/μm2以下、好ましくは、100個/μm2以下にまで減らすことができるので、アルミニウム電解コンデンサ用電極の耐水性を向上することができる。
【0037】
(化成工程)
図4は、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の化成工程を模式的に示す説明図である。化成工程では、例えば、
図4に示すように、化成槽(図示せず)に貯留された「化成液20にアルミニウム電極10を浸漬する。化成液20中には、1対の対極30が配置されており、アルミニウム電極10の両面が各々、対極30と対向する状態となる。この状態で、アルミニウム電極10を陽極とし、対極30を負極として化成を行い、アルミニウム電極10を化成する。その結果、アルミニウム電極10の両面に酸化アルミニウム(化成皮膜)が形成される。その際、水和工程で形成した水和皮膜の一部が脱水して酸化アルミニウムに変化し、化成皮膜の一部に含まれる。
【0038】
かかる化成工程では、例えば、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩の水溶液を化成液20として用いる。例えば、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩を含み、50℃で測定した比抵抗が5Ωmから500Ωmの水溶液(有機酸系の化成液20)中において、液温が40℃から90℃の条件下でアルミニウム電極10に化成を行う。その際、アルミニウム電極10と対極30との間に印加した電源電圧が、最終的な化成電圧Vfになるまで昇圧を行い、その後、化成電圧Vfでの保持を行う。
【0039】
また、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩を用いた化成液20に代えて、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含む水溶液を化成液20として用いてもよい。例えば、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を含み、90℃で測定した比抵抗が10Ωmから1000Ωmの水溶液(無機酸系の化成液20)中において、液温が40℃から95℃の条件下でアルミニウム電極10に化成を行う。
【0040】
また、最終的な化成電圧Vfになるまでは、アジピン酸等の有機酸あるいはその塩を用いた化成液20によって化成を行い、その後、硼酸やリン酸等の無機酸あるいはその塩を用いた化成液20によって化成電圧Vfでの保持(定電圧化成)を行ってもよい。
【0041】
いずれの化成液20を用いた場合も、化成工程の途中に、アルミニウム電極10を加熱する熱デポラリゼーション処理や、リン酸イオンを含む水溶液等にアルミニウム電極10を浸漬する液中デポラリゼーション処理等のデポラリゼーション処理を行う。熱デポラリゼーション処理では、例えば、処理温度が450℃~550℃であり、処理時間は2分~10分である。液中デポラリゼーション処理では、20質量%~30質量%リン酸の水溶液中において、液温が60℃~70℃の条件で皮膜耐電圧に応じて5分~15分、アルミニウム電極10を浸漬する。なお、液中デポラリゼーション処理では、アルミニウム電極10に電圧を印加しない。
【0042】
また、化成電圧まで昇圧する途中に、リン酸イオンを含む水溶液中にアルミニウム電極10を浸漬するリン酸浸漬工程を行ってもよい。かかるリン酸浸漬工程では、液温が40℃から80℃であり、60℃で測定した比抵抗が0.1Ωmから5Ωmであるリン酸水溶液にアルミニウム電極10を3分から30分の時間で浸漬する。かかるリン酸浸漬工程によれば、化成工程で析出した水酸化アルミニウムを効率よく取り除くことができるとともに、その後の水酸化アルミニウムの生成を抑制することができる。また、リン酸浸漬工程によって、化成皮膜内にリン酸イオンを取り込むことができるので、沸騰水や酸性溶液へ
の浸漬に対する耐久性を向上することができる等、化成皮膜の安定性を効果的に向上することができる。
【0043】
(アルミニウム電極に対する化成液の相対速度)
本形態では、
図2に示す状態で化成工程を行う際、アルミニウム電極10および化成液20については静止させた状態、あるいは移動させた状態とする。アルミニウム電極10を移動させた状態で化成を行うとは、アルミニウム電極10を化成液20に浸漬した状態のまま、移動させた状態で化成を行う。化成液20を移動させた状態で化成を行うとは、アルミニウム電極10を浸漬した化成液20を循環あるいは撹拌によって移動させて化成を行う。
【0044】
本形態では、アルミニウム電極10の移動速度を3次元の速度ベクトルAで表し、アルミニウム電極10の表面からアルミニウム電極10の表面に対して垂直な方向に10cmまでの範囲Z0における化成液20の平均流速を3次元の速度ベクトルBで表し、アルミニウム電極10に対する化成液20の相対速度を3次元の速度ベクトルB-Aで表し、速度ベクトルB-Aの絶対値を|B-A|と表したとき、
速度ベクトルの絶対値|B-A|は、以下の条件式
3cm/s≦|B-A|≦100cm/s
を満たしている。
【0045】
本形態において、速度ベクトルの絶対値|B-A|は、以下の条件式
5cm/s≦|B-A|≦30cm/s
を満たしている。
【0046】
また、速度ベクトルAおよびBの絶対値を各々、|A|および|B|と表したとき、
速度ベクトルの絶対値|A|および|B|は各々、以下の条件式
0cm/s≦|A|≦100cm/s
3cm/s≦|B|≦100cm/s
を満たしている。ここで、アルミニウム電極10を静止させた状態で化成を行う場合、速度ベクトルの絶対値|A|は0となる。
【0047】
かかる構成によれば、化成液のアルミニウム電極表面に対する相対速度が適正であるため、化成時にアルミニウム電極から発生する熱を化成液中に効率的に逃がすことができる。従って、化成皮膜が高温になって水和皮膜から水が必要以上に脱離するという事態を回避することができる。そのため、化成電圧が400V以上であっても、欠陥の修復が行われる。従って、本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極は、静電容量が高く、化成皮膜中の欠陥が少ないので、水和劣化し難い。ここで、|B-A|が3cm/s未満の場合には、アルミニウム電極表面からの熱を十分に逃がすことができないことや、イオンの拡散が不十分になること等の理由から、化成皮膜中の欠陥が十分に修復されず、漏れ電流が高く水和劣化し易いアルミニウム電解コンデンサ用電極となる。これに対して、|B-A|が100cm/sを超える場合、アルミニウム電極表面からのアルミニウムイオン溶出が過剰になるために、静電容量が低下しやすい。
【0048】
図2には、アルミニウム電極10の両面に沿う方向のうち、左右方向(水平方向)をX方向とし、上下方向(垂直方向)をY方向としてある。また、アルミニウム電極10と対極30とが対向する方向をZ方向としてある。従って、アルミニウム電極10の移動速度の3次元の速度ベクトルAは、X方向の速度ベクトルAXと、Y方向の速度ベクトルAYと、Z方向の速度ベクトルAZとを合成したベクトルに相当する。また、速度ベクトルAの絶対値|A|は、以下の式で表される。
|A|=√(AX
2+AY
2+AZ
2)
【0049】
化成液20の移動速度の3次元の速度ベクトルBは、X方向の速度ベクトルBXと、Y方向の速度ベクトルBYと、Z方向の速度ベクトルBZとを合成したベクトルに相当する。また、速度ベクトルBの絶対値|B|は、以下の式で表される。
|B|=√(BX2+BY2+BZ2)
【0050】
アルミニウム電極10に対する化成液20の相対速度の3次元の速度ベクトルB-Aの絶対値|B-A|は、以下の式で表される。
|B-A|=√((BX-AX)2+(BY-AY)2+(BZ-AZ)2)
【0051】
(実施例)
次に、本発明の実施例等を説明する。表1に本発明の実施例1、2、および比較例1、2に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造条件を示す。表2に本発明の実施例1、2、および比較例1、2に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の特性を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
表1に示すように、実施例1、2、および比較例1、2のいずれにおいても、アルミニウム電極として、エッチング処理で拡面処理された高純度アルミニウムのエッチド箔を用いた。また、表1に示す各温度で、水和工程により形成された水和皮膜の質量のアルミニウム電極のボイル工程前の質量に対する割合が20%となるように、純水中で水和処理を行った後、表1に示す各種類の化成液で化成を行った。その際、化成工程では、リン酸水溶液浸漬や、熱処理によるデポラリゼーション処理を行った。化成電圧は600Vである。また、アルミニウム電極に対する化成液の相対速度の3次元の速度ベクトルB-Aの絶対値|B-A|を10cm/sとした。
【0055】
次に、アルミニウム電極に対して、耐水和性を測定した。耐水和性の測定は、EIAJ
RC 2364Aに規定された「アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の試験方法」に従って測定した結果であり、例えば、耐水和性は、95℃以上の純水中に60±1分間浸漬した後に定電流を印加した際の皮膜耐電圧まで昇圧するまでの時間(秒)で示してある。また、化成皮膜の断面をFE-SEMで観察し、画像解析を行うことで、化成皮膜1μm2の欠陥個数を計測した。
【0056】
実施例1、2は、水和工程の温度および化成液の温度が適正であるので、耐水和性が良い。比較例1は、水和工程の温度は適正であるが、化成液の温度が高いので、水和皮膜からの脱水が多くなる。その結果、欠陥の多い化成皮膜となるため、耐水和性が悪い。比較例2は、化成液の温度は適正であるが、水和工程の温度が高いので、水和皮膜中の水分が少なくなる。その結果、欠陥の多い化成皮膜となるため、耐水和性が悪い。
【0057】
(その他の実施の形態)
上記実施例では、アルミニウム電極として、エッチド箔を用いたが、アルミニウム粉体を焼結してなる多孔質層がアルミニウム芯材の両面に積層された多孔性アルミニウム電極等を用いた場合も同様な結果が得られている。また、上記実施例以外にも各種条件を検討した結果、上述した条件を満たしていれば、化成電圧が400V以上の化成皮膜であっても、化成皮膜内の欠陥を低減させることができる結果が得られている。
【符号の説明】
【0058】
10・・アルミニウム電極、20・・化成液、30・・対極