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特許7181361物体の蛍光領域及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセット、蛍光観察システム及び方法
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  • 特許-物体の蛍光領域及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセット、蛍光観察システム及び方法 図1
  • 特許-物体の蛍光領域及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセット、蛍光観察システム及び方法 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】物体の蛍光領域及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセット、蛍光観察システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221122BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021153554
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2022051725
(43)【公開日】2022-04-01
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】10 2020 124 686.2
(32)【優先日】2020-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502303382
【氏名又は名称】カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ビットナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン べッダー
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-200208(JP,A)
【文献】特表平11-511369(JP,A)
【文献】特表2006-526428(JP,A)
【文献】特表2009-525495(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080215(WO,A1)
【文献】特開2014-087661(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008045671(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(15)の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセットであって、
照明フィルタ(9)と観察フィルタ(27)
を含み、
波長λVIS.MINから波長λのまでの第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第一の値W1より大きく、
波長λから波長λVIS.MAXまでの第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第二の値W2より小さく、
前記第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は前記第二の値W2より小さく、
前記第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は前記第一の値W1より大きく、
前記第一及び前記第二の波長範囲の組合せである第三の波長範囲の
【数1】

の平均値は第三の値W3より小さく、式中、μWLB3は前記第三の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値であり、その結果、前記物体を高い色忠実性で観察でき、
Τ(λ)は前記照明フィルタの波長依存透過率であり、
Τ(λ)は前記観察フィルタの波長依存透過率であり、
λVIS.MIN<λ<λ<λVIS.MAX、λVIS.MIN=380nm、及びλVIS.MAX=780nmであり、
W1>100・W2であり、
W3<1.5である
フィルタセット。
【請求項2】
W3<1.0である、請求項1に記載のフィルタセット。
【請求項3】
前記第三の波長範囲内の各波長λについて、
【数2】

ここで、W4=1.5である、
請求項1又は2に記載のフィルタセット。
【請求項4】
μWLB3>0.00001、及び/又は
μWLB3<0.01である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項5】
|λ-λ|≦100nm、及び/又は
|λ-λ|≧10nmである、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項6】
μWLB3>K1・μWLB4
ここで、K1=10であり、
μWLB4は前記波長λから前記波長λまでの第四の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項7】
四の波長範囲内の各波長λについて、
K2・μWLB3>Τ(λ)・Τ(λ)
であり、ここでK2=1.5である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項8】
W1>200・W2である、請求項1~7のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項9】
W1≧0.1、及び/又は
W2≦0.05である、
請求項1~8のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項10】
前記フィルタセットのプロトポルフィリンIXへの使用について、
400nm≦λ≦650nm且つλ≦650nm
である、請求項1~9のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項11】
前記フィルタセットのフルオレセインへの使用について、
450nm≦λ≦510nm且つλ≦600nm
である、請求項1~9のいずれか一項に記載のフィルタセット。
【請求項12】
物体(15)の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察するための蛍光観察システム(1)であって、
物体(15)を照明するための光源(5)を有する照明系(3)と、前記物体(15)を画像化するための観察系(17)と、請求項1~11のいずれか一項に記載のフィルタセットと、を含み、前記フィルタセットの前記照明フィルタ(9)は前記光源(5)と前記物体(15)との間の照明ビーム経路(11)内に配置され、前記フィルタセットの前記観察フィルタ(27)は前記観察系(17)のビーム経路(25)内に配置される
蛍光観察システム。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の前記フィルタセットを使って物体(15)の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察する方法であって、
前記物体(15)に向けられる照明光ビーム(11)を前記フィルタセットの前記照明フィルタ(9)を使ってフィルタ処理するステップと、
前記物体(15)から発せられた光(25)を前記フィルタセットの前記観察フィルタ(27)を使ってフィルタ処理するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察するためのフィルタセット、蛍光観察システム及び方法に関する。フィルタセット、蛍光観察システム、及び方法は、特に380nm~780nmの可視波長範囲内の吸収スペクトル及び発光スペクトルを有する蛍光色素に好適である。
【背景技術】
【0002】
蛍光観察は、テクノロジ、生物学、及び医学の多数の分野において、物体の異なる種類の構造を相互に区別できるように可視化するために使用される。典型的に、照明フィルタが照明光源と観察対象物体との間のビーム経路内に配置され、観察フィルタが観察対象物体と観察者(例えば、眼、画像検出器)との間に配置される。
【0003】
従来のフィルタセットにおいて、照明フィルタは実質的に蛍光色素の蛍光を励起可能な光だけを通過させる。観察フィルタは観察光学ユニットのビーム経路内に配置され、この観察フィルタは蛍光を通過させるが、照明フィルタが通過させる光は実質的に通過させない。すると、観察光学ユニットを見ている目によって直接認識されるか、又は観察光学ユニットを介して画像検出器により記録される画像の中で、物体の蛍光構造は明るい領域として認識できるが、その物体の非蛍光構造は暗い。したがって、物体の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察することはできない。
【0004】
例えば腫瘍検出の分野等の幾つかの分野においては、物体の非蛍光領域もまた画像中で認識でき、それによって非蛍光構造に関する蛍光構造の空間位置をよりよく捕捉できることが望ましい。これに対応する特性を有するフィルタセットは特許文献1に記載されている。しかしながら、このフィルタセットはほぼ色忠実な再現を提供しない。
【0005】
特許文献2は、物体の蛍光及び非蛍光領域を同時に観察できる別のフィルタセットを開示している。それに加えて、フィルタセットはほぼ色忠実な再現を提供する。この目的のために、相互にマッチングされ、部分的に比較的狭帯域である、複数の高透過波長範囲が照明フィルタと観察フィルタの両方に提供される。このようなフィルタは、複雑な波長依存透過率により、製造が難しく、高コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国公開特許第195 48 913 A1号明細書
【文献】独国公開特許第10 2010 033 825 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、製造が容易で低コストのフィルタを使って、最大の色忠実性で物体の蛍光及び非蛍光領域の観察を可能にするフィルタセット、蛍光観察システム、及び蛍光観察を実行するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、照明フィルタと観察フィルタを含むフィルタセットであって、波長λVIS.MINから波長λのまでの第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第一の値W1より大きく、波長λから波長λVIS.MAXまでの第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第二の値W2より小さく、第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第二の値W2より小さく、第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は第一の値W1より大きく、第一と第二の波長範囲の組合せである第三の波長範囲の
【数1】

の平均値は第三の値W3より小さく、式中、μWLB3は第三の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値であり、Τ(λ)は照明フィルタの波長依存透過率であり、Τ(λ)は観察フィルタの波長依存透過率であり、λVIS.MIN<λ<λ<λVIS.MAXであり、λVIS.MIN=380nmであり、λVIS.MAX=780nmであり、W1>100・W2であり、W3<1.5であるフィルタセットにより達成される。
【0009】
この目的はさらに、蛍光観察システムであって、物体を照明するための光源を有する照明系と、物体を画像化するための観察系と、フィルタセットと、を含み、フィルタセットの照明フィルタは光源と物体との間の照明ビーム経路内に配置され、フィルタセットの観察フィルタは観察系のビーム経路内に配置される蛍光観察システムによって達成される。
【0010】
この目的はさらに、物体に向けられる照明光ビームをフィルタセットの照明フィルタを使ってフィルタ処理するステップと、物体から発せられた光をフィルタセットの観察フィルタを使ってフィルタ処理するステップと、を含む方法によって達成される。
【0011】
提案されたフィルタセットは照明フィルタを含む。照明フィルタは、可視光のためのローパスフィルタとして、すなわち短い波長を有する光の大部分が照明フィルタを透過し、より長い波長を有する光の大部分は照明フィルタを透過しないように設計される。
【0012】
λVIS/MIN=380nmからλまでの第一の波長範囲において、照明フィルタは高い透過率を有し、その結果、短い波長を有する光の大部分が照明フィルタを透過できる。λからλVIS.MAX=780nmまでの第二の波長範囲において、照明フィルタは低透過率を有し、その結果、長い波長を有する光の大部分は照明フィルタを透過できない。これはW1>100・W2で表現され、W1は第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値の下限を表し、W2は第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値の上限を表す。第四の波長範囲と呼ばれるλからλの範囲において、照明フィルタの透過率は第一の波長範囲の大きい値(又は大きい平均値)から第二の波長範囲の小さい値(又は小さい平均値)へと推移する。
【0013】
提案されるフィルタセットはさらに、観察フィルタを含む。観察フィルタは可視光のためのハイパスフィルタとして、すなわち短い波長を有する光の大部分は観察フィルタを透過せず、より長い波長を有する光の大部分は観察フィルタを透過するように設計される。第一の波長範囲において、観察フィルタは低透過率を有し、その結果、短い波長を有する光の大部分は観察フィルタを透過できない。第二の波長範囲では、観察フィルタは高透過率を有し、その結果、長い波長を有する光の大部分は観察フィルタを透過できる。これはW1<100・W2で表現され、W1は第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値の上限を表し、W2は第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値の下限を表す。λからλの第四の波長範囲において、観察フィルタの透過率は第一の波長範囲の小さい値(又は小さい平均値)から第二の波長範囲の大きい値(又は大きい平均値)へと推移する。
【0014】
照明フィルタと観察フィルタの透過率は、第一及び第二の波長範囲が人間の目に見る波長範囲内にあり、重複しないように相互にマッチングされ、これはλVIS.MIN<λ<λ<λVIS.MAXで表される。
【0015】
第三の波長範囲は、第一及び第二の波長範囲の組合せとして定義される。したがって、第三の波長範囲はλVIS/MIN=380nmからλVIS.MAX=780nmにわたり、λからλの第四の波長範囲を含まない。照明フィルタとの透過率と観察フィルタの透過率の積(すなわち、Τ(λ)・Τ(λ))は第三の波長範囲全体でできるだけ一定である。これは照明フィルタの透過率Τ(λ)と観察フィルタの透過率Τ(λ)が第三の波長範囲にわたり相互に適当にマッチングされることにより達成される。これは、第三の波長範囲の
【数2】

の平均値が第三の値W3より小さいことにより表現され、W3<1.5である。
【0016】
Δ(λ)は、波長λでの積Τ(λ)・Τ(λ)の、第三の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)の平均値μWLB3からの偏差の程度である。したがって、Δ(λ)は波長λでの局所的偏差の程度である。第三の波長範囲のΔ(λ)の平均値は、第三の波長範囲内の全体的偏差の程度である。第三の波長範囲のΔ(λ)の平均値が小さいほど、第三の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)はより一定となる。平均値は例えば、波長λでの算術平均として計算することができる。
【0017】
上述のフィルタセットを使用すると、以下の効果が得られる。ここで、波長λ及びλは、蛍光色素の吸収スペクトルの少なくとも一部が第一の波長範囲内にあり、蛍光色素の発光スペクトルの少なくとも一部が第二の波長範囲内にあるように選択されていることを前提とする。
【0018】
蛍光色素を励起させ、その結果、蛍光色素が蛍光を発出できるようにするための照明光を効率よく透過させることは、第一の波長範囲内での照明フィルタの高い透過率の効果である。蛍光は、観察フィルタの高い透過率によって効率よく透過する。
【0019】
第一及び第二の波長範囲を第四の波長範囲で分離することにより、可視波長範囲内には、照明フィルタと観察フィルタの両方が高い透過率を有する波長範囲がない。したがって、蛍光は照明フィルタにより透過させられた光に過剰にさらされず、物体により反射され、その後、観察フィルタを透過する。このため、蛍光をよく観察することができる。
【0020】
フィルタセットの別の効果は、照明フィルタと観察フィルタの相互作用から得られる。透過の積Τ(λ)・Τ(λ)は、可視波長範囲全体の大部分を含む第三の波長範囲にわたりほぼ一定である。これは、照明フィルタを透過し、物体で反射され、その後観察フィルタを透過した光の強度が、第三の波長範囲にわたりほぼ一定の係数で減衰することを意味する。それが今度は、物体が高い色忠実性で観察できることを意味する。
【0021】
物体で反射した光の強度の減衰は、蛍光効率に関して設定できる。例えば、蛍光色素を励起させる役割を果たす光の強度はそれによって生成される蛍光の強度より100~1000倍高い。物体で反射した光の強度はフィルタセットによって同等又はさらにはそれ以上の係数で減衰させられるため、フィルタセットを透過して物体で反射した光は蛍光にさらされすぎず、その結果、物体の蛍光領域を物体の非蛍光領域と同時に観察できる。
【0022】
光学フィルタの波長依存透過率Τ(λ)は、通常通り、光学フィルタを透過した波長λの光の強度と光学フィルタに入射する波長λの光の強度との比と定義される。
【0023】
本明細書で開示される光学フィルタは、比較的製造しやすい。様々な種類の光学フィルタが知られている。1つ例は干渉フィルタであり、これは異なる材料の層の積層体によって特定の光学特性を提供する。積層体の詳細(材料の選択、各層の厚さ等)はシミュレーションプログラムによって計算できることが知られており、望ましい光学特性はシミュレーションプログラムへの境界条件として入力される。異なる機能を有する数多くのシミュレーションプログラムが存在する。このようなシミュレーションプログラムの1つは、ミュンヘンに近いガルヒンクのWatzmannring 71,85748のOptiLayer社から市販されている「OptiLayer Thin Film Software」である。干渉フィルタは例えば、「スパッタリング」によって製造できることが知られている。例えば、米国の10 Imtec Lane,Bellows Falls,VT 05101のChroma Technology社はこのようにして光学フィルタを製造する。
【0024】
本発明の実施形態を、下記のような図面を参照しながら以下により詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態による蛍光観察システムを示す。
図2A】例示的な蛍光色素の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す。
図2B】本発明の1つの実施形態によるフィルタセットの照明フィルタの波長依存透過率を示す。
図2C】そのフィルタセットの観察フィルタの波長依存透過率を示す。
図2D図2Bに示される照明フィルタの透過率と図2Cに示される観察フィルタの透過率の積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、蛍光観察システム1の実施形態を示す。蛍光観察システム1は、照明系3を含み、これは少なくとも1つの光源5と1つの照明光学ユニット7を含む。少なくとも1つの光源5は、照明光を生成できるように複数の異なる光源を含んでいてもよい。照明系3は、照明光学ユニット7によって照明ビーム経路11を提供し、それにより照明光を物体領域13へと向けることができる。光源5により生成される光は例えば白色光である。
【0027】
ビーム経路11内にフィルタセットの照明フィルタ9が配置され、それを通じて、照明系3により生成された照明光がフィルタ処理される。図1に示されるように、照明フィルタ9は照明系3の中に配置されてもよい。しかしながら、照明フィルタ9はまた、照明系3の外部に配置することもできる。さらに、照明フィルタ9は任意選択により、例えばアクチュエータ(図1では図示せず)を使ってビーム経路11の中に挿入され、またビーム経路11の外へと出すことができる。
【0028】
物体15は、蛍光色素、特にプロトポルフィリンIX(PpIX)、フルオレセイン又はその他を含んでいてよく、物体領域13内に配置できる。蛍光色素の吸収スペクトル及び発光スペクトルは、人間の目に見える波長範囲内とすることができる。
【0029】
物体15の中の蛍光色素は、照明フィルタ9を使ってフィルタ処理される照明光によって励起させることができ、その結果、蛍光色素は蛍光を発する。さらに、照明フィルタ9を使ってフィルタ処理され、物体15に入射する照明光は、少なくとも一部がそれによって反射される。したがって、物体15から発せられる光は蛍光と反射した照明光の両方を含む。
【0030】
物体15から発せられる光は、観察系17によって検出される。例えば、観察系17は、レンズ19と、レンズ素子21及び22からなるズーム系と、空間分解カメラ23と、を含んでいてよい。フィルタセットの観察フィルタ27は物体領域13とカメラ23との間のビーム経路25内に配置される。
【0031】
蛍光観察システム1はコントローラ29をさらに含んでいてよく、これは第一に接続31を介して照明系3に、第二に接続33を介してカメラ23に接続される。コントローラ29は、接続31を介して照明系3を制御できる。例えば、コントローラ29は、少なくとも1つの光源5の発光強度を制御するか、各光源5を制御し、及び/又はこれらのオンオフを切り替えてもよい。複数の照明フィルタ9がフィルタチェインジャ、特にフィルタホイール内に提供される場合、コントローラ29は、ビーム経路11内に挿入すべき照明フィルタを選択することができ、前記照明フィルタがビーム経路11内に導入されるようにすることができる。
【0032】
コントローラ29は、カメラ23により検出された画像を接続33を介して受信する。コントローラ29は、受信した画像を処理し、その表現を表示装置上でプロンプトする。例えば、スクリーン又はその他の画像提示装置を表示装置と考えてよい。
【0033】
カメラ23の代わりとして、又はそれに加えて、アイピースが提供されてよく、観察者はそれを使って観察系17により生成された物体15の画像を直接観察できる。この目的のために、別のビーム経路をビーム経路25から分岐させることができ、この別のビーム経路がアイピース又はカメラ23へと案内される。
【0034】
図2A~2Dは、蛍光色素PpIXを観察するのに適したフィルタセットの実施形態を説明する。しかしながら、本明細書に記載のフィルタセットの概念は、別の蛍光色素、例えばそれぞれが少なくとも部分的にλVIS,MIN=380nmからλVIS.MAX=780nmの可視波長範囲内にある吸収スペクトル及び発光スペクトルを有する蛍光色素にも当てはめることかできる。
【0035】
図2Aは、蛍光色素PpIXの吸収スペクトル(A)と発光スペクトル(E)を示す。蛍光色素PpIXの吸収スペクトル(A)は、約405nmで極大を有する。発光スペクトル(E)は、約635nmで第一極大、約705nmで第二極大を有する。吸収スペクトル(A)と発光スペクトル(E)は、それぞれの極大吸収及び発光に正規化されている。
【0036】
図2Bは、照明フィルタ9のΤ(λ)と省略される波長依存透過率をグラフ37として示す。横軸は単位ナノメートル(nm)の波長λを表す。縦軸は、対数目盛で透過率を表す。照明フィルタ9の透過率Τ(λ)は、λVIS.MIN=380nmからλ≒510nmまでは約1であり、λ≒510nmからλ≒580nmまで徐々に約10-4まで低下し、λ≒580nmからλVIS.MAX=780nmまでは約10-4である。
【0037】
図2Cは、観察フィルタ27のΤ(λ)と省略される波長依存透過率をグラフ39として示す。横軸は単位ナノメートル(nm)の波長λを表す。縦軸は、対数目盛で透過率を表す。観察フィルタ27の透過率Τ(λ)は、λVIS.MIN=380nmからλ≒510nmまでは約10-4であり、λ≒510nmからλ≒580nmまで徐々に約1まで上昇し、λ≒580nmからλVIS.MAX=780nmまでは約10-4である。
【0038】
図2Dは、照明フィルタ9の波長依存透過率と観察フィルタ27の、Τ(λ)・Τ(λ)と省略される波長依存透過率の積をグラフ41として示す。横軸は単位ナノメートル(nm)の波長λを表す。縦軸は、対数目盛で透過率を表す。Τ(λ)・Τ(λ)は、λVIS.MIN=380nmからλ≒510nmまでは約10-4であり、λ≒510nmから約10-8に低下し、その後、λ≒580nmまで約10-4に上昇し、λ≒580nmからλVIS.MAX=780nmまでは約10-4である。
【0039】
λVIS.MIN=380nmからλ≒510nmまでの波長範囲を第一の波長範囲と呼ぶ。第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は、第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値の下限である第一の値W1より大きい。第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値は、第一の波長範囲のΤ(λ)の平均値の上限である第二の値W2より小さい。第一の波長範囲の反射照明光を十分に抑制するために、W1>100・W2、特にW1>200・W2又はW1>500・W2又はW1>1000・W2又はW1>10000・W2又はW1>100000・W2である。好ましくは、W1≧0.1、特にW1≧0.5、さらに特にW1≧0.9である。好ましくは、W2≦0.05、特にW2≦0.01、さらに特にW2≦0.005である。
【0040】
λ≒580nmからλVIS.MAX=780nmまでの波長範囲を第二の波長範囲と呼ぶ。第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は、第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値の上限である第二の値W2より小さい。第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値は、第二の波長範囲のΤ(λ)の平均値の下限である第一の値W1より大きい。
【0041】
第一及び第二の波長範囲の組合せを第三の波長範囲と呼ぶ。λ≒510nmからλ≒580nmまでの波長範囲を第四の波長範囲と呼ぶ。第四の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)は第三の波長範囲より有意に小さい値を有する。第四の波長範囲は、第一の波長範囲での照明フィルタの高透過率領域を第二の波長範囲の観察フィルタの高透過率領域から分離する役割を果たす。これによって、蛍光の過剰露光が回避される。
【0042】
物体15を最大の色忠実性で観察できることを確実にするために、第三の波長範囲のΤ(λ)とΤ(λ)は、第三の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)ができるだけ一定となるように相互にマッチングされる。これは例えば、第三の波長範囲の
【数3】

の平均値が第三の値W3より小さいことによって達成され、式中、μWLB3は第三の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値であり、W3<1.5である。この表現は、積Τ(λ)・Τ(λ)と平均μWLB3との比である係数を101.5の極大の上限に制限する。この表現の値が小さいほど、第三の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)は値μWLB3の付近でより一定となる。好ましくは、W3<1.0、特にW3<0.7、さらに特にW3<0.4である。さらに好ましくは、W3<0.1又はW3<0.05又はW3<0.01又はW3<0.001である。
【0043】
代替的又は追加的に、第三の波長範囲の積Τ(λ)・Τ(λ)の一定性は、第三の波長範囲内の各波長λについて、
【数4】

で表現することができ、W4=1.5である。この表現は、第三の波長範囲内に、Τ(λ)・Τ(λ)>10W4・μWLB3又はΤ(λ)・Τ(λ)>10-W4・μWLB3が満たされる波長が一切あってはならないことを意味する。好ましくは、W4=1.0又はW4=0.7又はW4=0.1又はW4=0.05又はW4=0.01である。
【0044】
1つの例示的な実施形態によれば、Τ(λ)とΤ(λ)は、μWLB3>0.00001、特にμWLB3>0.0001、さらに特にμWLB3>0.0005となるように相互にマッチングされ、μWLB3は第三の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値である。これによって、照明フィルタ9を透過し、物体15で反射し、その後、観察フィルタ27を透過する光が観察可能となるように十分に高い強度を有することが確実となる。強度は蛍光の強度の領域内にあり、これは、物体15の蛍光領域と物体15の非蛍光領域が同程度の強度で認識できることを意味する。
【0045】
1つの例示的な実施形態によれば、Τ(λ)とΤ(λ)は、μWLB3<0.01、特にμWLB3<0.001となるように相互にマッチングされる。これによって、照明フィルタ9を透過し、物体15で反射し、その後、観察フィルタ27を透過する光が、蛍光に過剰にさらされないように十分に小さい強度を有することが確実となる。
【0046】
1つの例示的な実施形態によれば、Τ(λ)とΤ(λ)は、|λ-λ|≦100nm、特に|λ-λ|≦50nm、さらに特に|λ-λ|≦30nm、及び/又は|λ-λ|≧10nm、特に|λ-λ|≧20nm、さらに特に|λ-λ|≧30nmとなるように相互にマッチングされる。λとλとの間の距離が小さいほど、物体15を観察する際の色忠実性がより高くなり、これは第三の波長範囲がより大きいバンド幅を有するからである。λとλとの間の距離が非常に短いと、製造はより難しくなるかもしれない。前述の範囲では、フィルタは製造しやすく、しかも良好な色忠実性を提供する。それに加えて、距離がより長いと、照明フィルタが高い透過率を有する波長範囲と観察フィルタが高い透過率を有する波長範囲が確実に重複しないようにすることはより容易になる。
【0047】
1つの例示的な実施形態によれば、Τ(λ)とΤ(λ)は、μWLB3>K1・μWLB4、ここで、K1=10となるように相互にマッチングされ、式中、μWLB3は第三の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値であり、μWLB4は波長λから波長λまでの第四の波長範囲のΤ(λ)・Τ(λ)の平均値である。これによって、第四の波長範囲内の積Τ(λ)・Τ(λ)は第三の波長範囲内の積Τ(λ)・Τ(λ)より十分に小さいことが確実となる。好ましくは、K1=100又はK1=1000又はK1=10000又はK1=100000である。
【0048】
1つの例示的な実施形態によれば、Τ(λ)とΤ(λ)は、第四の波長範囲内の各波長λについて、K2・μWLB3>Τ(λ)・Τ(λ)、ここでK2=1.5、特にK2=1.1、さらに特にK2=1.0となるように相互にマッチングされる。これによって、第四の波長範囲内の積Τ(λ)・Τ(λ)が第三の波長範囲内の積Τ(λ)・Τ(λ)より十分に小さいことが確実となる。
【0049】
以上、フィルタセットの概念をPpIXの例を使って説明した。PpIXでの応用の場合、波長λ及びλは例えば以下の範囲から選択できる:400nm≦λ≦650nm、特に420nm≦λ≦600nm;λ≦650nm、特にλ≦600nm。
【0050】
フルオレセインでの応用では、波長λ及びλは例えば以下の範囲から選択できる:450nm≦λ≦510nm、特に470nm≦λ≦510nm;λ≦530nm、特にλ≦600nm。
【符号の説明】
【0051】
1 蛍光観察システム
3 照明系
5 光源
9 照明フィルタ
11 照明ビーム経路
15 物体
17 観察系
25 ビーム経路
27 観察フィルタ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D