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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20221122BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20221122BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
C08L23/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509062
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011242
(87)【国際公開番号】W WO2020195979
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019058840
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴広
(72)【発明者】
【氏名】大木 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 貞樹
(72)【発明者】
【氏名】一関 主税
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05061757(US,A)
【文献】特開昭58-023850(JP,A)
【文献】特開昭58-173154(JP,A)
【文献】特開昭60-069159(JP,A)
【文献】特開昭59-089353(JP,A)
【文献】特開昭59-215352(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073559(WO,A1)
【文献】特開平07-082480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、エチレン系重合体(C)と、を含有し、
前記ポリアミド樹脂(A)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%以上であり、
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%未満であり、
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、組成物全量に対して0質量%超4質量%以下であり、
前記エチレン系重合体(C)が、エチレン・不飽和エステル共重合体を含み、
JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される前記エチレン系重合体(C)のメルトフローレートが、25g/10分~600g/10分である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して、10質量%未満である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して、35質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して0質量%超4質量%以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のメルトフローレートが、0.1g/10分~100g/10分である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)における、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全量に対して5質量%~25質量%である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度が45モル%以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して、12.5質量%以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形物である成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド(ナイロン)樹脂の分野では、成形品に要求される耐衝撃性、成形性等の特性に応じて、種々の改質が行われている。成形品に求められる耐衝撃性を改良する方法としては、ポリアミド樹脂の種類を調整する方法や異種ポリマーを溶融混練する方法等が知られている。成形性を向上する方法としては、層状珪酸塩、アイオノマー等の改質剤を添加して溶融粘度を調整する方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、特定の相対粘度を有する高分子量のポリアミド樹脂と、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、又はアイオノマー等の重合体と、を含有するポリアミド樹脂組成物によって耐衝撃性が向上することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、耐衝撃性に優れるポリアミド樹脂組成物として、ポリアミド樹脂、共重合ポリオレフィン、及びアイオノマーを特定割合で含有するポリアミド樹脂組成物が記載されている。
【0005】
特許文献3には、食品包装部材等の樹脂フィルム作製用のポリアミド樹脂組成物として、熱的耐久性の向上を目的として、ポリアミド樹脂にオレフィン系エラストマーとアイオノマーを特定割合で配合したポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、いわゆる厚物(すなわち、厚みの大きい成形体)をブロー成形、射出成形によって成形する場合においては、溶融時の粘度を調整することが望まれる。一般的にポリアミド樹脂は溶融時の粘度が低いため、ブロー成形時にパリソンがドローダウンすることによる成形性の低下が問題となる。これに対し、改質剤を用いて低せん断域での粘度を高めることでドローダウンの発生を抑制する方法が探索されている。また、射出成形時には、金型の隙間に溶融樹脂が流入することで成形品にバリが生じることがある。バリを抑制するために、射出充填時の高せん断域においてはあまり増粘せずに冷却固化時の低せん断域で増粘させる方法が探索されている。
【0007】
ブロー成形におけるポリアミド樹脂の改質方法として、例えば特許文献4ではブロー成形に適した溶融粘度特性を得るため、ポリアミド樹脂に層状珪酸塩を添加する方法が記載されている。また、特許文献5には、ブロー成形における成形性と低温靭性を改善させるため、ポリアミド6樹脂とポリアミド610樹脂を特定割合で配合して溶融張力を改善し、さらに、アイオノマー及びエチレン系エラストマーを配合したポリアミド樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭54-28360号公報
【文献】特開昭58-29854号公報
【文献】国際公開第2017/073559号
【文献】特開2000-154315号公報
【文献】特開2007-204674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特にブロー成形、射出成形等の成形方法においては、ポリアミド樹脂組成物が適切な溶融粘度を有し、良好な成形性を有することが望ましい。しかしながら、成形性改良を目的としてアイオノマー樹脂を改質剤に用いて粘度調整する場合においては、増粘効果が高いと耐衝撃性は低下する傾向にあり、成形性と耐衝撃性はトレードオフの関係にある。したがって、成形性と耐衝撃性を両立させるためにはさらなる改良の余地がある。
【0010】
かかる状況に鑑み、本開示は優れた成形性と耐衝撃性を両立することができる樹脂組成物、及びその成形体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> ポリアミド樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、エチレン系重合体(C)と、を含有し、
前記ポリアミド樹脂(A)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%以上であり、
前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%未満である、
樹脂組成物。
<2> 前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して、10質量%未満である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して、35質量%以下である、<1>又は<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 前記エチレン系重合体(C)が、エチレン・不飽和エステル共重合体を含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<5> JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定された前記エチレン系重合体(C)のメルトフローレートが、0.1g/10分~600g/10分である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<6> JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定された前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のメルトフローレートが、0.1g/10分~100g/10分である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<7> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)における、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全量に対して5質量%~25質量%である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<8> <1>~<7>のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形物である成形体。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、優れた成形性と耐衝撃性を両立することができる樹脂組成物、及びその成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0014】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0015】
≪樹脂組成物≫
本開示の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と、エチレン系重合体(C)と、を含有し、前記ポリアミド樹脂(A)の含有率が、前記ポリアミド樹脂(A)、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%以上であり、前記エチレン系重合体(C)の含有率が、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及び前記エチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%未満である。
【0016】
本開示の樹脂組成物によれば、成形性と耐衝撃性に優れる成形体を得ることができる。その作用は明確ではないが、以下のように推定される。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)をポリアミド樹脂(A)に添加すると、低せん断域での溶融粘度を上昇させることができる。これは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)がポリアミド樹脂(A)に分散された海島構造において、海部分(すなわちポリアミド樹脂(A)部分)と島部分(すなわちエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)部分)とが相互作用するためであると考えられる。この増粘作用は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の分散性が高いほど効果的である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の酸含量又は金属イオン量を調整することで分散性を調整でき、特に酸含量を増加させることによって分散性が高まり増粘作用が高まることがわかったが、これに伴い耐衝撃性が低下する傾向にあることがわかった。
そこで、さらにエチレン系重合体(C)を少量添加すると、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)による低せん断域での増粘効果を良好に維持しながら、耐衝撃性を改良できることがわかった。この効果はエチレン系重合体(C)とエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を最適な配合比でポリアミド樹脂(A)に添加した際に得られ、増粘効果と耐衝撃性の点においてエチレン系重合体(C)の添加量は可能な限り少ない方が望ましいことが分かった。即ち、エチレン系重合体(C)の添加量に応じて樹脂組成物の溶融粘度が低下するため、増粘効果の点においてエチレン系重合体(C)の添加量は少ない方が好ましい。また、耐衝撃性の点においてエチレン系重合体(C)は衝撃時の応力を緩和させる役割を担うが、比較的多量のエチレン系重合体(C)をポリアミド樹脂(A)に添加して樹脂組成物を成形すると、エチレン系重合体(C)の分散性が低下し、耐衝撃性が低下するため、少量添加が好ましい。また、エチレン系重合体(C)により形成される島構造は分散性の低下に伴い成形時の溶融樹脂の流動方向に配向する傾向にある。この様な分散相の配向は、成形体に衝撃が加わった際に応力の分散を阻害しうるため、耐衝撃性を低下させると考えられる。
このため、本開示の樹脂組成物では、増粘効果と耐衝撃性を考慮してエチレン系重合体(C)の含有量をエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)と比べて少量とすることで溶融粘度の減少を抑制しながら耐衝撃性を改善し、成形性と優れた耐衝撃性が両立できると考えられる。
【0017】
以下、本開示の樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0018】
<ポリアミド樹脂(A)>
本開示の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を含有する。ポリアミド樹脂(A)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%以上である。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の種類は特に制限されない。例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシレンジアミン等のジアミンと、の重縮合体;ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体;6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体;上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体などが挙げられる。ポリアミド樹脂(A)は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)は、市販されているものを用いてもよい。具体例としては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610等)、ナイロンMXD6、ナイロン46などが挙げられる。
これらのポリアミド樹脂の中でも、耐傷性の向上と入手容易性の観点から、ナイロン6、及びナイロン6/12が好ましい。
【0021】
ポリアミド樹脂(A)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%以上である。ポリアミド樹脂(A)の含有率を上記範囲とすることにより、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及びエチレン系重合体(C)の特性を良好に発揮し、成形性及び耐衝撃性を好適に両立できるものと考えられる。耐熱性及び耐傷性の向上の観点からは、ポリアミド樹脂(A)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。また、良好な改質効果を得る観点からは、上記含有率は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
以上の観点から、ポリアミド樹脂(A)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~95質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることがさらに好ましく、80質量%~85質量%であることが特に好ましい。
【0022】
樹脂組成物全体に対するポリアミド樹脂(A)の含有率は、上記と同様の観点から、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。また、上記と同様の観点から、樹脂組成物全体に対するポリアミド樹脂(A)の含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
以上の観点から、樹脂組成物全体に対するポリアミド樹脂(A)の含有率は、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~95質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることがさらに好ましく、80質量%~85質量%であることが特に好ましい。
【0023】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)>
本開示の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を含有する。樹脂組成物が、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を含有することで、低せん断域での溶融粘度を上昇させ、成形性を向上させることができる。
本開示において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーとは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を示す。
【0024】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、が共重合した共重合体である。該共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した2元共重合体であってもよく、エチレンと不飽和カルボン酸と第3の共重合成分とが共重合した3元共重合体であってもよく、さらにその他の共重合成分が共重合した多元共重合体であってもよい。
【0025】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。入手容易性の観点からは、2元ランダム共重合体、3元ランダム共重合体、2元ランダム共重合体のグラフト共重合体、又は3元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、2元ランダム共重合体又は3元ランダム共重合体がより好ましい。
【0026】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中に含まれる酸基が金属イオンで中和された化合物であるため、当該エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は分子内に少なくとも1種の酸基を有している。酸基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。当該酸基は、アイオノマーの共重合成分である不飽和カルボン酸由来のカルボキシ基であってもよく、その他の酸基であってもよい。
【0027】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の共重合成分である不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸又はその酸無水物などが挙げられる。中でも、当該不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0028】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン及び不飽和カルボン酸以外の共重合成分としては、例えば、不飽和カルボン酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等);不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等);ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等);ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物;ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等);ビニル基含有1級アミン化合物又はビニル基含有2級アミン化合物;一酸化炭素;二酸化硫黄などが挙げられる。
これらの共重合成分の中でも、不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が3元共重合体である場合は、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの3元共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和炭化水素との3元共重合体などが好適に挙げられる。
【0029】
不飽和カルボン酸エステルとしては、不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。不飽和カルボン酸アルキルエステルにおけるアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。当該アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、2-エチルヘキシル、イソオクチル等が挙げられる。
【0030】
不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、アルキル基の炭素数が1~12の不飽和カルボン酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸アルキルエステル)などが挙げられる。
好ましい不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アルキル部位の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、2元共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられ、3元共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸n-ブチル共重合体等)が挙げられる。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体に含まれる、不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有率は、共重合体全体に対して、5質量%~25質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましく、15質量%~25質量%であることがさらに好ましい。不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有率が5質量%以上であると、成形体の耐衝撃性及び増粘効果の点で有利である。また、不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有率が25質量%以下であると、工業上入手しやすい点で有利である。
【0033】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル3元共重合体である場合、不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の3元共重合体中における含有率は、柔軟性確保の観点から、3質量%~25質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の含有率は、3質量%以上であると、柔軟性確保の点で有利であり、25質量%以下であると、ブロッキング防止の点で有利である。
【0034】
酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。中でも、入手容易性の観点から、亜鉛イオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンが好ましく、亜鉛イオン及びナトリウムイオンがより好ましく、亜鉛イオンがさらに好ましい。金属イオンの価数は特に限定されず、良好な耐衝撃性改良及び増粘効果を得る観点からは2価の金属イオンが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンは、1種であっても2種以上であってもよい。
【0035】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、10モル%~85モル%であることが好ましい。増粘効果の点において中和度が10モル%以上であることで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の分散性が向上し、より良好な増粘効果が得られる傾向にある。また、耐衝撃性改良の点において中和度が高く、金属イオン量が多い程好ましい。さらに中和度が85モル%以下であることで、加工性及び成形性に優れる傾向にある。中和度は、15モル%~82モル%であることがより好ましく、30モル%~75モル%であることがさらに好ましい。
中和度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基、特にカルボキシ基のモル数に対して、金属イオンによって中和されたカルボキシ基の配合比率(モル%)である。
【0036】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率が35質量%以下であると、増粘効果により成形性を改善しつつ、エチレン系重合体(C)との併用効果により良好な耐衝撃性を好適に得ることができる傾向にある。
また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、成形性の向上の観点から、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、5質量%~35質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましく、15質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、樹脂組成物の全量に対して、35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率が35質量%以下であると、増粘効果により成形性を改善しつつ、エチレン系重合体(C)との併用効果により良好な耐衝撃性を好適に得ることができる傾向にある。
また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、成形性の向上の観点から、樹脂組成物の全量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)の含有率は、樹脂組成物の全量に対して、5質量%~35質量%であることが好ましく、10質量%~25質量%であることがより好ましく、15質量%~20質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定されるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のメルトフローレート(MFR)は、流動性及び成形性の観点から、0.1g/10分~100g/10分であることが好ましく、0.1g/10分~60g/10分であることがより好ましく、0.1g/10分~30g/10分であることがさらに好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)のMFRは、異なるMFRを有するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを複数ブレンドして調整してもよい。
【0039】
<エチレン系重合体(C)>
本開示の樹脂組成物は、エチレン系重合体(C)を含有する。本開示において、エチレン系重合体(C)とは、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を除く、エチレン重合体、及びエチレンを主成分とする(すなわち、エチレン成分を50質量%以上含む)共重合体を意味する。なお、本開示において、エチレン系重合体(C)には、ポリアミド樹脂と反応し、共有結合を形成するもの(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸若しくはその酸無水物)により変性したエチレン系重合体は含まない。
【0040】
増粘効果と耐衝撃性の観点から、JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、エチレン系重合体(C)のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分~600g/10分であることが好ましく、0.1g/10分~300g/10分であることがより好ましく、0.1g/10分~100g/10分であることがさらに好ましい。エチレン系重合体(C)のMFRは、異なるMFRを有するエチレン系重合体(C)を複数ブレンドして調整してもよい。
【0041】
より具体的には、エチレン系重合体(C)としては、エチレン単独重合体;エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン(プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等)との共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体;エチレン・不飽和エステル共重合体などが挙げられる。エチレン系重合体(C)は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。なかでも、増粘効果と成形体の耐衝撃性とのバランスの観点から、エチレン・不飽和エステル共重合体が好ましい。以下、エチレン・不飽和エステル共重合体について詳述する。
【0042】
-エチレン・不飽和エステル共重合体-
エチレン・不飽和エステル共重合体は、エチレンと不飽和エステルとの共重合体である。不飽和エステルは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。エチレン・不飽和エステル共重合体は、エチレン・ビニルエステル共重合体、及びエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体を含むことがより好ましい。
【0043】
エチレン・不飽和エステル共重合体は、エチレン及び不飽和エステル以外の重合性モノマーを共重合成分として含んでいてもよい。エチレン及び不飽和エステル以外の重合性モノマーとしては、例えばプロピレン、ブテン、ヘキセン等のオレフィンが挙げられる。
【0044】
エチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンとビニルエステルの共重合体である。ビニルエステルは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。エチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンとビニルエステルを共重合成分とする2元共重合体であってもよく、エチレンとビニルエステルとその他の共重合成分とが共重合した多元共重合体であってもよい。
エチレン・ビニルエステル共重合体としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・酪酸ビニル共重合体、エチレン・ステアリン酸ビニル共重合体等から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0045】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体である。不飽和カルボン酸エステルは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとを共重合成分とする2元共重合体であってもよく、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとその他の共重合成分とが共重合した多元共重合体であってもよい。
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、共重合成分としてエチレンと不飽和カルボン酸アルキルエステルとを含む共重合体を例示することができる。
【0046】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における、不飽和カルボン酸エステルの不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-エチル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物等が挙げられる。これらの中でも、上記不飽和カルボン酸は、エチレン・不飽和エステル共重合体の生産性、衛生性等の観点から、(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における、不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基を挙げることができ、より具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、2-エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステルにおけるアルキルエステルのアルキル基の炭素数は、1~8が好ましく、1~4がより好ましい。
【0048】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルから選択される少なくとも1種が好ましい。不飽和カルボン酸エステルは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、及び(メタ)アクリル酸n-ブチルから選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0049】
好ましいエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。共重合成分である(メタ)アクリル酸エステルは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、1種の(メタ)アクリル酸エステルを用いたエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体が好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の具体例としては、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸n-ブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸イソオクチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体等が挙げられる。中でも、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体が好ましく、エチレン・アクリル酸エチル共重合体がより好ましい。
【0050】
エチレン・不飽和エステル共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸n-プロピル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸イソブチル共重合体、及びエチレン・(メタ)アクリル酸n-ブチル共重合体から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0051】
エチレン・不飽和エステル共重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0052】
増粘効果と耐衝撃性の観点から、JIS K7210-1:2014に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、エチレン・不飽和エステル共重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分~600g/10分であることが好ましく、0.1g/10分~300g/10分であることがより好ましく、0.1g/10分~100g/10分であることがさらに好ましい。エチレン・不飽和エステル共重合体のMFRは、異なるMFRを有するエチレン・不飽和エステル共重合体を複数ブレンドして調整してもよい。
【0053】
エチレン・不飽和エステル共重合体において、エチレン・不飽和エステル共重合体を構成する構成単位の全体に対するエチレン由来の構成単位の含有率は、好ましくは50質量%~95質量%、より好ましくは60質量%~93質量%、さらに好ましくは62質量%~92質量%である。エチレン由来の構成単位の含有率が上記範囲内であると、耐衝撃性改良の点で良好である。
【0054】
エチレン・不飽和エステル共重合体において、エチレン・不飽和エステル共重合体を構成する構成単位の全体に対する不飽和エステル由来の構成単位の含有率は、好ましくは5質量%~50質量%、より好ましくは7質量%~40質量%、さらに好ましくは8質量%~38質量%である。不飽和エステル由来の構成単位の含有率が上記範囲内であると、耐衝撃性改良の点で良好である。
【0055】
エチレン・不飽和エステル共重合体の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、各重合成分を高温及び高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。また、エチレン・不飽和エステル共重合体は市販されているものを用いてもよい。
【0056】
-エチレン系重合体(C)の含有量-
本開示の樹脂組成物において、エチレン系重合体(C)の含有率は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して50質量%未満である。当該含有率は40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有率が50質量%未満であることで、樹脂組成物の成形時にエチレン系重合体(C)が配向することを抑制することができ、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を添加した場合であっても、耐衝撃性向上効果が好適に得られると考えられる。
また、成形体の耐衝撃性効果を好適に得る観点から、エチレン系重合体(C)の含有率は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、5質量%以上であることが好ましい。なお、エチレン系重合体(C)による増粘効果の減少を抑制するために、エチレン系重合体(C)の含有率はより少ない方が好ましい。
以上の観点から、エチレン系重合体(C)の含有率は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、5質量%以上50質量%未満であることが好ましく、5質量%~40質量%であることがより好ましく、5質量%~30質量%であることがさらに好ましく、5質量%~20質量%であることが特に好ましい。
【0057】
エチレン系重合体(C)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、10質量%未満であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。当該含有率が10質量%未満であることによって、ポリアミド樹脂(A)に対するエチレン系重合体(C)の分散性が向上し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を添加した場合であっても、耐衝撃性改良効果が好適に得られると考えられる。
また、成形体の耐衝撃性効果を好適に得る観点から、エチレン系重合体(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、1質量%以上であることが好ましい。
以上の観点から、エチレン系重合体(C)の含有率は、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、及びエチレン系重合体(C)の合計量に対して、1質量%以上10質量%未満であることが好ましく、1質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~6質量%であることがさらに好ましく、1質量%~4質量%であることが特に好ましい。
【0058】
エチレン系重合体(C)の含有率は、樹脂組成物全量に対して、10質量%未満であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。当該含有率が10質量%未満であることによって、ポリアミド樹脂(A)に対するエチレン系重合体(C)の分散性が向上し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)を添加した場合であっても、耐衝撃性向上効果が好適に得られると考えられる。
また、成形体の耐衝撃性効果を好適に得る観点から、エチレン系重合体(C)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。
以上の観点から、エチレン系重合体(C)の含有率は、樹脂組成物全量に対して、1質量%以上10質量%未満であることが好ましく、1質量%~8質量%であることがより好ましく、1質量%~6質量%であることがさらに好ましく、1質量%~4質量%であることが特に好ましい。
【0059】
<その他の添加剤>
本開示の樹脂組成物には、本開示の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤の一例として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材、帯電防止剤などを挙げることができる。このような添加剤は樹脂組成物の調製時に配合してもよく、調製後に配合してもよい。また、ポリアミド樹脂(A)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(B)、又はエチレン系重合体(C)に予め配合しておいてもよい。
【0060】
〔樹脂組成物の調製方法〕
樹脂組成物の製造方法は特に制限されない。樹脂組成物は、例えば、タンブラーやミキサーを用いて、特定の割合になるように均一にドライブレンドする方法、ドライブレンドで得られた混合物を溶融混練機を用いて溶融混練する方法、一部を溶融混練機にて混練したうえで、残りとドライブレンドする方法等により製造することができる。溶融混練は、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を使用して行うことができる。
【0061】
≪成形体≫
本開示の成形体は、前述の本開示の樹脂組成物の成形物である。成形方法及び成形体の形状は特に制限されず、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの各種成形方法により、各種形状の成形体とすることができる。なかでも、本開示の樹脂組成物は、低せん断域の溶融粘度が良好である観点から、ブロー成形及び射出成形に好適である。
【実施例
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例の樹脂組成物の原料を以下に示す。
【0064】
(A)ポリアミド樹脂
a1)ナイロン6(商品名1022B、宇部興産株式会社製、相対粘度3.4、融点215℃~225℃)
【0065】
(B)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー
b1)エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン:メタクリル酸(質量比)=80:20、MFR=60g/10分)を構成するメタクリル酸のカルボキシ基の45モル%を金属イオン中和したZn型アイオノマー。表1中、「Zn-IO(20%MAA、45%中和)」と略記する。なお、中和前のエチレン・メタクリル酸共重合体1kgに対する亜鉛(II)イオンのモル数(以下、Zn量と表記する)は、0.52mol/kgであった。
b2)エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン:メタクリル酸(質量比)=85:15、MFR=60g/10分)を構成するメタクリル酸のカルボキシ基の59モル%を金属イオン中和したZn型アイオノマー。表1中、「Zn-IO(15%MAA、59%中和)」と略記する。なお、Zn量は、0.52mol/kgであった。
【0066】
(C)エチレン系重合体
c1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体(エチレン:アクリル酸エチル(質量比)=66:34、MFR=25g/10分)。表1中、「EEA(34%EA、MFR25)」と略記する。
【0067】
<実施例1>
(A)ポリアミド樹脂、(B)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー、及び(C)エチレン系重合体を表1の質量比でドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機でシリンダー温度250℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をペレタイズし、75℃の窒素雰囲気下で終夜乾燥した後、120℃で3時間乾燥した。なお、表1中、「-」は成分が配合されないことを表す。
【0068】
〔溶融粘度の評価〕
得られたペレットの250℃、せん断速度13.7sec-1及び1374sec-1における溶融粘度[Pa・s](η13.7及びη1374)をJIS K7199:1999に準拠したキャピラリーレオメーターを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0069】
〔耐衝撃性の評価〕
長さ64mm×厚さ12.7mm×幅3.2mmの試験片を260℃で射出成形し、得られた試験片を用いてJIS K7110:1999に準拠してアイゾット衝撃試験を行った。なお、試験片には深さ2.54mm、先端半径0.25mmのノッチを入れて、試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<実施例2、3、比較例1~4>
(A)ポリアミド樹脂、(B)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー、及び(C)エチレン系重合体の種類及び配合比を表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様の条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて溶融粘度及びアイゾット衝撃値を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示されるように、実施例1~3では、低せん断域での溶融粘度(η13.7)及び耐衝撃性が良好であった。一方、(B)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー及び(C)エチレン系重合体のいずれも含有しない比較例1では、低せん断域での溶融粘度が低く、耐衝撃性にも劣っていた。また、(C)エチレン系重合体を含有しない比較例2及び3では、耐衝撃性に劣っていた。さらに、(B)エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーと(C)エチレン系重合体を含有し、(C)エチレン系重合体が10部配合されている比較例4では、実施例と比べて耐衝撃性が劣っていた。
なお、アイゾット衝撃試験において、実施例1及び実施例2では延性的な破壊を起こし、その他の実施例及び比較例では脆性的な破壊が観察された。このことから、実施例1及び実施例2では特に耐衝撃性に優れていた。
【0073】
日本国特許出願第2019-058840号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
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