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特許7181400蓄電デバイス電極用集電体、その製造方法、及び蓄電デバイス
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  • 特許-蓄電デバイス電極用集電体、その製造方法、及び蓄電デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】蓄電デバイス電極用集電体、その製造方法、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/68 20130101AFI20221122BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20221122BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20221122BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221122BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221122BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20221122BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221122BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221122BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221122BHJP
【FI】
H01G11/68
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/86
H01M4/485
H01M4/583
H01M4/587
H01M4/66 A
H01M10/052
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526925
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024169
(87)【国際公開番号】W WO2020256115
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2019113900
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 直哉
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-258348(JP,A)
【文献】特開2014-080685(JP,A)
【文献】特開平01-217854(JP,A)
【文献】特開2006-302671(JP,A)
【文献】特開2012-216330(JP,A)
【文献】特開2011-097118(JP,A)
【文献】特開2008-117905(JP,A)
【文献】特許第6167243(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/68
H01G 11/06
H01G 11/30
H01G 11/86
H01M 4/485
H01M 4/583
H01M 4/587
H01M 4/66
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材と、
前記アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜と、
を含む蓄電デバイス電極用集電体であって、
前記非晶質炭素被膜において、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(sp/(sp+sp))は0.35以上かつ0.6以下であって、
前記比率(sp/(sp+sp))は、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したものである
ことを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体。
【請求項2】
アルミニウム材と、
前記アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜と、
を含む蓄電デバイス電極用集電体であって、
前記非晶質炭素被膜において、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(sp/(sp+sp))は0.35以上であって、
前記比率(sp/(sp+sp))は、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したものであり、
前記蓄電デバイス電極用集電体は、ハイブリッドキャパシタ正極用集電体又はデュアルイオンバッテリ正極用集電体であって、
前記ハイブリッドキャパシタ正極又はデュアルイオンバッテリ正極は、正極活物質として黒鉛を含む
ことを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体。
【請求項3】
アルミニウム材と、
前記アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜と、
を含む蓄電デバイス電極用集電体であって、
前記非晶質炭素被膜において、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(sp/(sp+sp))は0.35以上であって、
前記比率(sp/(sp+sp))は、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したものであり、
前記蓄電デバイス電極用集電体は、ハイブリッドキャパシタ負極用集電体又はデュアルイオンバッテリ負極用集電体であって、
前記ハイブリッドキャパシタ負極又はデュアルイオンバッテリ負極は、負極活物質として活性炭、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、及びチタン酸リチウムからなる群から選択された1種を含む
ことを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス電極用集電体を製造する方法であって、
アルミニウム材に非晶質炭素被膜を形成する成膜工程と、
前記非晶質炭素被膜を400℃以上の温度で加熱処理する加熱処理工程と
を含む
ことを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体の製造方法。
【請求項5】
前記成膜工程の後に、前記加熱処理工程を行う
請求項4に記載の蓄電デバイス電極用集電体の製造方法。
【請求項6】
少なくとも正極、負極、及び電解質から構成される蓄電デバイスであって、
前記正極は正極活物質を含み、かつ、前記負極は負極活物質を含み、
前記正極活物質は、黒鉛を含み、
正極側の集電体は、請求項に記載の蓄電デバイス電極用集電体である
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項7】
前記黒鉛は菱面体晶を含む請求項に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
少なくとも正極、負極、及び電解質から構成される蓄電デバイスであって、
前記正極は正極活物質を含み、かつ、前記負極は負極活物質を含み、
前記正極活物質は、黒鉛を含み、
正極側の集電体は、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用集電体であり、
前記負極活物質は、活性炭、黒鉛、ハードカーボン、及びソフトカーボン、チタン酸リチウムからなる群から選択された1種を含み、
負極側の集電体は請求項1に記載の蓄電デバイス電極用集電体、エッチドアルミニウム、及び、アルミニウム材からなる群から選択された1種である
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項9】
前記黒鉛は菱面体晶を含む請求項8に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス電極用集電体、その蓄電デバイス電極用集電体の製造方法、及びその蓄電デバイス電極用集電体を用いた蓄電デバイスに関する。
本願は、2019年6月19日に、日本国に出願された特願2019-113900号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気エネルギーを貯蔵する技術として、電気二重層キャパシタ(例えば、特許文献1参照)や二次電池が知られている。電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric double-layer capacitor)は、寿命、安全性、出力密度が二次電池よりも格段に優れている。しかしながら、電気二重層キャパシタは、二次電池に比べてエネルギー密度(体積エネルギー密度)が低いという課題がある。
【0003】
ここで、電気二重層キャパシタに蓄積されるエネルギー(E)は、キャパシタの静電容量(C)と印加電圧(V)を用いてE=1/2×C×Vと表され、エネルギーは静電容量と印加電圧の二乗とに比例する。従って、電気二重層キャパシタのエネルギー密度を改善するために、電気二重層キャパシタの静電容量や印加電圧を向上する技術が提案されている。
【0004】
電気二重層キャパシタの静電容量を向上する技術としては、電気二重層キャパシタの電極を構成する活性炭の比表面積を増大させる技術が知られている。現在、知られている活性炭は、比表面積が1000m/g~2500m/gである。このような活性炭を電極に用いた電気二重層キャパシタでは、電解液として第四級アンモニウム塩を有機溶媒に溶解させた有機電解液や、硫酸等の水溶液電解液等が用いられている。
有機電解液は使用できる電圧範囲が広いため、印加電圧を高めることができ、エネルギー密度を向上することができる。
【0005】
電気二重層キャパシタの原理を利用して印加電圧を向上させたキャパシタとして、リチウムイオンキャパシタが知られている。負極にリチウムイオンをインターカレート、ディインターカレートできる黒鉛あるいは炭素を用い、正極に電解質イオンを吸脱着できる電気二重層キャパシタの電極材と同等の活性炭を用いるものは、リチウムイオンキャパシタと呼ばれている。また、正極あるいは負極のいずれか一方に電気二重層キャパシタの電極材と同等の活性炭を用い、もう一方の電極にファラデー反応が起こる電極として、金属酸化物、導電性高分子を用いるものについては、ハイブリッドキャパシタと呼ばれている。リチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタを構成する電極のうち、負極がリチウムイオン二次電池の負極材料である黒鉛やハードカーボン、ソフトカーボン等で構成され、その黒鉛やハードカーボン、ソフトカーボン内にリチウムイオンが挿入された電極である。リチウムイオンキャパシタは、一般的な電気二重層キャパシタ、すなわち、両極が活性炭で構成されるものよりも印加電圧が大きくなるという特徴がある。
【0006】
しかし、電極に黒鉛を用いた場合、電解液の溶媒として知られる、プロピレンカーボネートを用いることができないという課題がある。電極に黒鉛を用いた場合、プロピレンカーボネートが電気分解して、黒鉛の表面にプロピレンカーボネートの分解生成物が付着し、リチウムイオンの可逆性が低下するためである。プロピレンカーボネートは、低温でも動作可能な溶媒である。プロピレンカーボネートを電気二重層キャパシタに適用した場合、その電気二重層キャパシタは-40℃でも作動することができる。そこで、リチウムイオンキャパシタでは、プロピレンカーボネートが分解し難いハードカーボンやソフトカーボンが電極材料に用いられている。しかし、ハードカーボンやソフトカーボンは、黒鉛に比べて電極の体積当たりの容量が低く、電圧も黒鉛に比べて低くなる(貴な電位になる)。そのため、リチウムイオンキャパシタのエネルギー密度が低くなる等の課題がある。
【0007】
新しい概念のキャパシタとして、活性炭の代わりに黒鉛を正極活物質に用いて黒鉛の層間に電解質イオンを挿入脱離する反応を利用したキャパシタが開発された(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、以下のことが記載されている。正極活物質に活性炭を用いる従来の電気二重層キャパシタでは正極に2.5Vを超える電圧を印加すると電解液の分解が生じてガスが発生する。これに対して、正極活物質に黒鉛を用いる新しい概念のキャパシタでは3.5Vの充電電圧でも電解液の分解を招来せず、正極活物質に活性炭を用いる従来の電気二重層キャパシタよりも高い電圧で動作できる。この技術を用いると、従来の電気二重層キャパシタに比べてエネルギー密度を2~3倍程度高めることができる。サイクル特性や低温特性、出力特性に関しても従来の電気二重層キャパシタと同等以上となる。黒鉛の比表面積は活性炭の比表面積の数百分の1であり、この電解液分解作用の違いはこの大きな比表面積の違いに起因する。
【0008】
黒鉛を正極活物質に用いる新しい概念のキャパシタでは、耐久性が十分ではないため、実用化が阻まれていた。しかし、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材を集電体に用いる技術(特許文献3参照)により、高温耐久性能を実用化レベルまで改善できることが分かっている。なお、この新しい概念のキャパシタは、正極に黒鉛の層間に電解質イオンを挿入脱離する反応を用いたキャパシタであり、厳密には電気二重層キャパシタではないが、特許文献3では広義の意味で電気二重層キャパシタと呼んでいる。
【0009】
さらに、負極においても活性炭の代わりにチタン酸リチウムやリチウム含有ニオブ酸化物などの金属酸化物を負極活物質に用いてチタン酸リチウムの層間にリチウムイオンを挿入脱離する反応を利用した蓄電デバイスが提案された(例えば、特許文献2と4参照)。充放電において、電解質に含まれている電解質アニオンとリチウムカチオンは、それぞれ反対方向で正極又は負極に向かって移動するので、デュアルイオンバッテリ(DIB)と呼ばれている。DIBは、リチウムイオンのみ移動するリチウムイオン二次電池に比べて出力特性と寿命が優れ、SOC(充電状態:state of charge)に制約を設ける必要がないものと期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-046584号公報
【文献】特開2010-040180号公報
【文献】特許第6167243号公報
【文献】特許第4465492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の2種類の蓄電デバイスである、ハイブリッドキャパシタ及びデュアルイオンバッテリは従来の電気二重層キャパシタ(EDLC)に比べてエネルギー密度を数倍以上向上できる。一方EDLCの大きな特徴である高出力特性に関して、ハイブリッドキャパシタ及びデュアルイオンバッテリもEDLC同様に高い出力特性を有する。しかし、さらなる高出力化を目指す課題がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ハイブリッドキャパシタやデュアルイオンバッテリなどの蓄電デバイスの電極に用いる集電体(蓄電デバイス電極用集電体)に着目し、蓄電デバイス電極用集電体に含まれている非晶質炭素被膜を高度化することで、さらなる高出力化を図り、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性が優れた蓄電デバイスを提供することを目的とする。また、本発明は、出力特性が優れた蓄電デバイスの電極用集電体、出力特性が優れた蓄電デバイスの電極用集電体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
[1] アルミニウム材と、アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜と、を含む蓄電デバイス電極用集電体であって、
非晶質炭素被膜において、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(sp/(sp+sp))は0.35以上であって、
比率(sp/(sp+sp))は、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したものであることを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体。
[2] 蓄電デバイス電極用集電体はハイブリッドキャパシタ正極用集電体又はデュアルイオンバッテリ正極用集電体であって、
ハイブリッドキャパシタ正極又はデュアルイオンバッテリ正極は、正極活物質として黒鉛を含む[1]に記載の蓄電デバイス電極用集電体。
[3] 蓄電デバイス電極用集電体はハイブリッドキャパシタ負極用集電体又はデュアルイオンバッテリ負極用集電体であって、
ハイブリッドキャパシタ負極又はデュアルイオンバッテリ負極は、負極活物質として活性炭、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、及びチタン酸リチウムからなる群から選択された1種を含む[1]に記載の蓄電デバイス電極用集電体。
[4] アルミニウム材に非晶質炭素被膜を形成する成膜工程と、
非晶質炭素被膜を400℃以上の温度で加熱処理する加熱処理工程と
を含むことを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体の製造方法。
[5] 成膜工程の後に、加熱処理工程を行う[4]に記載の蓄電デバイス電極用集電体の製造方法。
[6] アルミニウム材と、アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜と、を含む蓄電デバイス電極用集電体であって、
非晶質炭素被膜が[4]又は[5]に記載の製造方法で得られたものであることを特徴とする蓄電デバイス電極用集電体。
[7] 少なくとも正極、負極、及び電解質から構成される蓄電デバイスであって、
正極は正極活物質を含み、かつ、負極は負極活物質を含み、
正極活物質は、黒鉛を含み、
正極側の集電体は[1]又は[6]の何れかに記載の蓄電デバイス電極用集電体であり、
非晶質炭素被膜の厚みが60nm以上、300nm以下であることを特徴とする蓄電デバイス。
[8] 黒鉛は菱面体晶を含む[7]に記載の蓄電デバイス。
[9] 負極活物質は、活性炭、黒鉛、ハードカーボン、及びソフトカーボン、チタン酸リチウムからなる群から選択された1種を含み、
負極側の集電体は[1]及び[7]に記載の蓄電デバイス電極用集電体、エッチドアルミニウム、及び、アルミニウム材からなる群から選択された1種である[7]又は[8]に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蓄電デバイス電極用集電体に含まれている非晶質炭素被膜を高度化することにより、さらなる高出力化を図り、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性が優れた蓄電デバイスを提供することができる。また、本発明によれば、出力特性が優れた蓄電デバイスの電極用集電体、出力特性が優れた蓄電デバイスの電極用集電体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】XAFS測定法を説明するためのNEXAFSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
(蓄電デバイス電極用集電体)
本発明の蓄電デバイス電極用集電体は、アルミニウム材と前記アルミニウム材に形成された非晶質炭素被膜とを含む。前記非晶質炭素被膜において、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(「sp/(sp+sp)比率」をいう)が0.35以上であることを特徴とする。なお、前記sp/(sp+sp)比率は、X線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)法で測定したものである。XAFS法については後で詳細に説明する。また、非晶質炭素被膜と正極活物質との間、もしくは非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されていてもよい。
本発明の蓄電デバイス電極用集電体は、特に効果を発揮できるため、正極活物質として黒鉛を含むハイブリッドキャパシタ正極に用いられること、あるいは、正極活物質として黒鉛を含むデュアルイオンバッテリ正極用集電体に用いられることが好ましい。また、本発明の蓄電デバイス電極用集電体は、ハイブリッドキャパシタ負極用集電体に用いられること、あるいはデュアルイオンバッテリ負極用集電体に用いられることができる。
【0017】
ここで、本発明の「ハイブリッドキャパシタ」とは、負極には電解質のカチオンの吸脱着という電気二重層の原理を用い、正極には黒鉛への電解質アニオンの挿入脱離(インターカレーション-ディインターカレーション)の原理を用いた蓄電デバイスである。例えば、負極に活性炭、正極に黒鉛を用いたものが挙げられる。
【0018】
ここで、本発明の「デュアルイオンバッテリ」とは、負極にリチウムイオンを挿入脱離(インターカレーション-ディインターカレーション)させる原理を用い、正極も黒鉛への電解質アニオンの挿入脱離(インターカレーション-ディインターカレーション)させる原理を用いた蓄電デバイスである。「ハイブリッドキャパシタ」も「デュアルイオンバッテリ」も、電解質のアニオンとカチオンが、充電時には正極及び負極へ挿入あるいは吸着し、放電時には脱離あるいは放出される蓄電デバイスである。これは、リチウムイオン電池のように正極中にリチウムイオンが充放電中に移動する原理とは異なるものである。より具体的には、リチウムイオン電池は充電時に正極中のリチウムイオンが負極へ移動(リチウムイオン挿入反応)され、放電(リチウムイオン脱離反応)されるものである。
【0019】
本発明の蓄電デバイス電極用集電体は、後述の製造方法で得られたものであることが好ましい。
【0020】
<アルミニウム材>
基材であるアルミニウム材としては、一般的に集電体用途で使用されるアルミニウム材を用いることができる。
アルミニウム材の形状としては、箔、シート、フィルム、メッシュなどの形態をとることができる。集電体としては、アルミニウム箔を好適に用いることができる。
また、アルミニウム材としてプレーンなものの他、後述するエッチドアルミニウムを用いてもよい。
【0021】
アルミニウム材が箔、シートまたはフィルムである場合の厚みについては、特に限定されないが、セル自体のサイズが同じ場合、薄いほどセルケースに入れる活物質を多く封入できるというメリットはあるが、強度が低下するため、適正な厚みを選択する。実際の厚みとしては、10μm~40μmが好ましく、15μm~30μmがより好ましい。厚みが10μm未満の場合、アルミニウム材の表面を粗面化する工程、または、他の製造工程中において、アルミニウム材の破断または亀裂を生じるおそれがある。
【0022】
アルミニウム材として、エッチドアルミニウムを用いてもよい。
エッチドアルミニウムは、エッチングによって粗面化処理されたものである。エッチングは一般的に塩酸等の酸溶液に浸漬(化学エッチング)したり、塩酸等の酸溶液中でアルミニウムを陽極として電解(電気化学エッチング)する方法等が用いられる。電気化学エッチングでは、電解の際の電流波形、溶液の組成、温度等によりエッチング形状が異なるので、蓄電デバイス性能の観点で選択できる。
【0023】
アルミニウム材は、表面に不動態層を備えているもの、備えていないもののいずれも用いることができる。アルミニウム材は、その表面に自然酸化膜である不動態膜が形成されている場合、非晶質炭素被膜層をこの自然酸化膜の上に設けてもよいし、自然酸化膜を例えば、アルゴンスパッタリングにより除去した後に設けてもよい。
アルミニウム材上の自然酸化膜は不動態膜であり、それ自体、電解液に浸食されにくいという利点がある一方、集電体の抵抗の増大につながるため、集電体の抵抗の低減の観点では、自然酸化膜がない方が好ましい。
【0024】
<非晶質炭素被膜>
本明細書において、用語としての「非晶質炭素被膜」とは、非晶質(アモルファス構造)の炭素膜または水素化炭素膜である。通常、sp結合炭素及びsp結合炭素を一定の比率で含む。本発明の蓄電デバイス電極用集電体に用いる非晶質炭素被膜(今後、「本発明の非晶質炭素被膜」をいう)は、sp結合炭素及びsp結合炭素の総量に対するsp結合炭素の比率(sp/(sp+sp)比率とも呼ぶ)が0.35以上であることを特徴とする。なお、(sp/(sp+sp))比率は、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したものである。sp/(sp+sp)比率が0.40以上であることが好ましい。
また、高い耐薬品性を維持しつつ、より高い導電性を得ることができ、さらにsp比率が高い方が柔らかくなり活物質層との密着性が高まる等の観点から、sp/(sp+sp)比率は、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
本発明の非晶質炭素被膜を有する蓄電デバイス電極用集電体(今後、「本発明の蓄電デバイス電極用集電体」をいう)を用いる蓄電デバイスは、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性を向上させることができる。特に、黒鉛活物質からなる正極の集電体として、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いる蓄電デバイスは、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性をさらに向上させることができるため、好適である。
【0025】
ここで、XAFS法について説明する。
一般的に、各元素は、内殻電子の結合エネルギーに相当するエネルギーのX線を強く吸収するという性質を持っている。ここで、物質においてX線の吸収係数が大きく上昇する部分を吸収端といい、この吸収端に相当するX線のエネルギーをX線吸収端エネルギーという。各元素は異なる内殻電子の結合エネルギーを持ち、それより大きいエネルギーを持つX線が照射されると、内殻電子の放出にともないX線の吸収係数が上昇する。そのため、ある元素についてX線吸収スペクトルを測定し、吸収端を観測することで、その元素の周囲の環境・構造を反映したX線吸収微細構造(XAFS振動)の情報が得られる。このXAFS振動を解析することにより着目する元素の周囲の局所構造を知ることができる。さらに、元素の電子状態の変化により吸収端の位置がシフトすることが知られており、吸収端を比較することで着目する元素の価数を知ることができる。XAFS法を用いて、上記で説明したような試料中の平均的なX線吸収スペクトルを得るための測定方法は、透過法と蛍光収量法とがある。透過法は、試料にX線を照射した際に、試料の前後のX線強度を計測して直接X線吸収量を測定する方法である。蛍光収量法は、試料にX線を照射した際に、X線を吸収して励起した原子から放出される蛍光X線を測定する方法である。どちらの方法を用いても、対象元素の局所構造や価数を解析して同様の結果を得ることができる。
【0026】
XAFSは、吸収端から50eV程度の領域に現れる吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS:Near Edge X-ray Absorption Fine Structure、またはXANES:X-ray Absorption Near Edge Structure)と、それ以上のエネルギーで現れる広域X線吸収微細構造(EXAFS: Extended X-ray Absorption Fine Structure)に分けられる。一方、吸収端から50eVくらいの範囲にある領域で現れるNEXAFSのピークは内殻電子が空軌道非占有軌道に遷移するエネルギーに対応し、着目元素の価数や配位構造等に依存したスペクトル構造を取る。このように空軌道への励起を観測できるのがNEXAFSの特徴である。本出願のXAFS測定法は、後述するように高い精度でダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜のsp2/(sp+sp)比率を決定できるため、NEXAFSを用いる。
【0027】
図1に一般的なDLC膜の炭素原子K端NEXAFSスペクトルを示す。炭素のイオン化エネルギーは295eVであるので、このエネルギーより高いエネルギーでは直接光イオン化で生じた光電子が含まれる。図1のDirect ionizationと示した部分には光電子とその後続反応である正常オージェ電子、及びそれらに起因して放出される2次電子が含まれる。290~310eVに存在するブロードなピークはC1s->σ共鳴オージェ電子放出過程に由来するオージェ電子及びそれに起因して放出される2次電子を反映している。285.4eV付近に観測されるピークは1s→π*共鳴オージェ電子放出過程に由来するオージェ電子及びそれに起因して放出される2次電子を反映している。NEXAFS測定法において、1s→π*離して観測することで、sp/(sp+sp)比率を高い精度で決定できる。実際には定めた領域の吸収強度の積分値(Iall)と1s→π*のピーク面積(Iπ*)の比(Iπ*/Iallを算出し、sp組成が100%であるHOPGのIπ*/Iallと比較してsp/(sp+sp)比率を決定する。詳細な測定方法及び解析方法については実施例に記載する。
【0028】
sp/(sp+sp)比率が0.35以上の本発明の非晶質炭素被膜は、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、カーボン硬質膜、アモルファスカーボン(a-C)膜、水素化アモルファスカーボン(a-C:H)膜等を含む。
【0029】
例示した非晶質炭素被膜の材料のうち、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜であることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは、ダイヤモンド結合(sp)とグラファイト結合(sp)の両方が混在したアモルファス構造を有する材料であり、高い耐薬品性を有する。XAFS法で測定したsp/(sp+sp)比率が0.35以上である本発明の非晶質炭素被膜は、黒鉛構造が発達したDLC膜であることが好ましい。
また、集電体の被膜に用いるには導電性を高めるため、ホウ素や窒素をドーピングすることができる。
【0030】
非晶質炭素被膜の厚みは60nm以上、300nm以下であることが好ましい。非晶質炭素被膜の厚みは、60nm未満であると薄すぎて非晶質炭素被膜の被覆効果が小さくなり、定電流定電圧連続充電試験での集電体の腐食を十分抑制できない。また、非晶質炭素被膜の厚みは、300nmを超えて厚すぎると非晶質炭素被膜が抵抗体となって活物質層との間の抵抗が高くなるので、適正な厚みを適宜選択する。非晶質炭素被膜の厚みは80nm以上、300nm以下であればより好ましく、120nm以上、300nm以下であればさらに好ましい。
【0031】
本発明の一実施形態の蓄電デバイスの集電体はアルミニウム材の表面に非晶質炭素被膜を有するので、アルミニウム材が電解液に接することを阻止して、電解液による集電体の腐食を防止することができる。また、X線吸収微細構造(XAFS)法で測定したsp/(sp+sp)比率が0.35以上である本発明の非晶質炭素被膜であるため、一定の導電性を有し、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性が向上される。
【0032】
本発明の非晶質炭素被膜は、後述の製造方法で得られたものが好ましい。例えば、加熱処理温度が400℃以上、好ましく500℃以上である後述の製造方法で得られたものが好ましい。また、本発明の非晶質炭素被膜を含む蓄電デバイス電極用集電体、例えば、DLC膜を有するアルミニウム箔(今後、「DLCコートAl箔」をいう)の量産化の観点より、非晶質炭素被膜(DLC膜)をロールツーロール法で行う場合、成膜しながら温度を高くする加熱処理工程を行うと、皺が生じやすくなる課題がある。そこで、鋭意検討した結果、例えば、室温などで成膜工程の後に、成膜工程で得られた非晶質炭素被膜(未加熱処理のDLC膜)に対して、400℃以上、好ましく500℃以上で加熱処理を行う製造方法がより好ましい。この製造方法で得られた本発明の非晶質炭素被膜(加熱処理後のDLC膜)は、sp/(sp+sp)比率が0.35以上となるためである。
【0033】
<導電性炭素層>
本発明の一実施形態の蓄電デバイス電極用集電体は、非晶質炭素被膜と正極活物質との間、もしくは非晶質炭素被膜と負極活物質との間に、さらに、導電性炭素層が形成されていることが好ましい。例えば従来の蓄電デバイスで用いられる活性炭負極に比べて、より卑な電極電位に長くさらされるので、導電性炭素層の厚みは5μm以下であれば好ましく、3μm以下であればより好ましい。厚みが5μmを超えると、セルや電極になったとき、エネルギー密度が小さくなるからである。導電性炭素層の材料としては、導電性が高い炭素ならば種類を問わないが、導電性が高い炭素として黒鉛が含まれていることが好ましく、黒鉛のみであればより好ましい。
【0034】
導電性炭素層の材料の粒径は、活物質である黒鉛等の大きさに比べて1/10以下であることが好ましい。これは、粒径がこの範囲にあれば、導電性炭素層と活物質層が接する界面での接触性が高くなり、界面(接触)抵抗を低減できるからである。具体的には導電性炭素層の炭素材料の粒径が、1μm以下であれば好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。
導電性炭素層を備えることにより、非晶質炭素被膜にピンホールがある場合でも、そのピンホールを封孔して、アルミニウム材が電解液に接することを阻止して、電解液による集電体の腐食を防止することができる。
また、導電性炭素層を備えることにより、集電体を被覆する非晶質炭素被膜と正極活物質、又は非晶質炭素被膜と負極活物質との接触抵抗を低減し、放電率を高め、出力特性を高めるとともに高温耐久性を高めることができる。
【0035】
また、導電性炭素層を形成する際、溶媒と共にバインダーを加えて塗料化し、DLCコーティングしたアルミニウム箔上に塗布する。塗布方法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷、コンマコーター(登録商標)、スピンコーター等を用いることができる。バインダーとしては、セルロース、アクリル、ポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂、ゴム、有機樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としてはポリエチレンやポリプロピレン、ゴムとしてはSBR(スチレンーブタジエンラバー)やEPDM、有機樹脂としてはフェノール樹脂やポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0036】
導電性炭素層は、粒子間の隙間が少なく、接触抵抗が低い方が好ましい。また、上記の導電性炭素層を形成するためのバインダーを溶かすための溶剤としては、水溶液と有機溶剤の2種類がある。電極活物質層を形成するためのバインダーが有機溶剤に溶解するものであれば、導電性炭素層には水溶液に溶解するバインダーを用いるのが好ましい。逆に電極活物質層を形成するためのバインダーが水溶液の場合は導電性炭素層には有機溶剤に溶解するバインダーを用いるのが好ましい。これは同種の溶剤を電極活物質層と導電性炭素層に用いると、電極活物質層を塗布する際に導電性炭素層のバインダーが溶けやすく、不均一になりやすいからである。
【0037】
(蓄電デバイス電極用集電体の製造方法)
本発明の蓄電デバイス電極用集電体の製造方法は、アルミニウム材に非晶質炭素被膜を形成する成膜工程と、非晶質炭素被膜を400℃以上の温度で加熱処理する加熱処理工程とを含むことを特徴とする。成膜工程及び加熱処理工程の順序は任意であってもよい。例えば、成膜工程と加熱処理工程とが同時に進行する製造方法(直接成膜法ともいうことがある。)、あるいは、成膜工程の後に、加熱処理工程を行う製造方法(後加熱処理成膜法ともいうことがある。)のいずれも可能である。加熱処理工程の処理温度は、300℃以上が好ましく、また、600℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましい。加熱温度を高くする方がsp/(sp+sp)比率が高くなり、抵抗が小さくなるので好ましい。一方、基材のアルミニウムの融点は660℃である。融点に近づくほどアルミニウム材が軟化し易くなり、アルミニウム材に皺が入り、基材の平坦性がなくなるので、皺が入りにくい温度が上限値となる。なお、他の金属やアルミニウム合金を基材として用いた場合の上限温度は異なり、各々の融点以下で基材の皺が発生しない温度が上限温度となる。
【0038】
成膜工程と加熱処理工程とが同時に進行する製造方法(直接成膜法)とは、アルミニウム材に非晶質炭素被膜を形成しながら、同じ雰囲気において、例えば、アルミニウム材などを400℃以上に加熱処理する方法である。
【0039】
成膜工程の後に、加熱処理工程を行う製造方法(後加熱処理成膜法)とは、アルミニウム材に非晶質炭素被膜を形成してから、非晶質炭素被膜が形成されているアルミニウム材などを400℃以上に加熱処理する方法である。加熱処理の雰囲気は、例えば、原料ガスを供給しない雰囲気、好ましくアルゴン雰囲気であってもよい。成膜工程で得られた非晶質炭素被膜を有するアルミニウム材を、成膜工程と異なる別の容器において、例えば、窒素、アルゴンなどの雰囲気で400℃以上に加熱処理する方法である。その際、成膜工程の処理温度は、200℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。室温であることがもっとも好ましい。
【0040】
本発明の蓄電デバイス電極用集電体の製造方法としては、量産化の観点から、上記後加熱処理成膜法が好ましい。例えば、DLCコートAl箔などの本発明の蓄電デバイス電極用集電体をロールツーロール法で行う場合、上記直接成膜法を用いると、皺が生じやすくなる問題があるからである。
【0041】
非晶質炭素被膜の成膜方法としては、炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法等の公知の方法を用いることができる。炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法が好ましい。なお、非晶質炭素被膜は、集電体として機能する程度の導電性を有することが好ましい。
炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって非晶質炭素被膜を成膜した場合、非晶質炭素被膜の厚みはアルミニウム材へ注入するエネルギー、具体的には印加電圧、印加時間、温度で制御することができる。
【0042】
より具体的には、本発明の蓄電デバイス電極用集電体において、400℃以上の温度で成膜した本発明の非晶質炭素被膜(例えば、DLCコートAl箔)を用いると、XAFS法で測定したsp/(sp+sp)比率が0.35以上になる。黒鉛構造が発達した非晶質炭素被膜(DLC膜)が得られる。また、非晶質炭素被膜(DLCコートAl箔)の量産化の観点より、非晶質炭素被膜(DLCコートAl箔)をロールツーロール法で行う場合、成膜温度を高くすると皺が生じやすくなる課題がある。一方、室温成膜の場合は皺の発生を抑制できるが黒鉛構造が発達しにくい課題があった。その未加熱処理の非晶質炭素被膜(DLCコートAl箔)は、sp/(sp+sp)比率が0.29以下であり、ハイブリッドキャパシタ及びデュアルイオンバッテリ用の電極へ適用した場合、集電体と活物質層の界面抵抗が高くなり、出力特性が低下する恐れがある。そこで、鋭意検討した結果、前述の後加熱処理成膜法において、室温成膜した後、非晶質炭素被膜(DLCコートAl箔)に対して、不活性雰囲気下で400℃以上の加熱処理を行うことで、sp/(sp+sp)比率が0.35以上にできることを見出した。これは400℃以上で成膜を直接行った直接成膜法の場合と同等以上のsp/(sp+sp)であった。得られる非晶質炭素被膜(DLCコートAl箔)を黒鉛からなる正極の集電体として用いることで、出力特性をさらに向上させることができる。
【0043】
ロールツーロール法で直接成膜の際に課題であった箔の皺に関しても、本発明の後加熱処理によって防止することができる。これは、ロールツーロール法で直接成膜では成膜温度(成膜時の雰囲気温度)に加えて、プラズマによるエネルギーによってAl箔の温度が高くなることで雰囲気温度以上になることによる影響があった。しかし、本発明の後加熱処理成膜法では、成膜した箔に対して雰囲気温度だけしかかからないので皺の発生を抑制できる。
【0044】
(蓄電デバイス)
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、正極と負極とセパレータと電解質とを有する。
本発明の蓄電デバイスはハイブリッドキャパシタ又はデュアルイオンバッテリであることが好ましい。
【0045】
(ハイブリッドキャパシタ)
以下、本発明の蓄電デバイスの一実施形態であるハイブリッドキャパシタを詳細に説明する。
【0046】
本実施形態のハイブリッドキャパシタの負極側の集電体、正極側の集電体の少なくとも1つは、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることが好ましい。正極が黒鉛を含む場合、少なくとも正極側の集電体は、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いるが好ましい。負極側の集電体及び正極側の集電体のいずれも、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることがより好ましい。
【0047】
<正極>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる正極は、集電体(正極側の集電体)とその上に形成されている正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極活物質とバインダーと導電材とを含む。
正極活物質層は主に、正極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の正極材料を、正極側の集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0048】
[正極活物質]
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる正極活物質は、黒鉛を含むものである。黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれも用いることができる。また、天然黒鉛としては鱗片状のものと土状のものが知られている。天然黒鉛は、採掘した原鉱石を粉砕し、浮遊選鉱と呼ばれる選鉱を繰り返すことによって得られる。また、人造黒鉛は例えば、高温度によって炭素材料を焼成する黒鉛化工程を経て製造されるものである。より具体的には例えば、原料のコークスにピッチなどの結合剤を加えて成形し、1300℃付近まで加熱することで一次焼成し、次に一次焼成品をピッチ樹脂に含浸させ、さらに3000℃に近い高温で二次焼成することで得られる。また、黒鉛粒子表面を炭素でコーティングしているものも用いることができる。
【0049】
黒鉛の結晶構造は大きく分けて、ABABからなる層構造の六方晶と、ABCABCからなる層構造の菱面体晶がある。これらは条件によってそれらの構造単独、あるいは混合状態になるが、いずれの結晶構造のものも混合状態のものも用いることができる。例えば、後述する実施例で用いたイメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製KS-6(商品名)の黒鉛は菱面体晶の比率が26%であり、大阪ガスケミカル株式会社製の人造黒鉛であるメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は菱面体晶の比率0%である。
【0050】
本発明の他の実施形態で用いている黒鉛は、従来のEDLCで用いられている活性炭とは静電容量の発現メカニズムが異なる。活性炭の場合には、比表面積が大きいことを活かし、その表面に電解質イオンが吸脱着することにより、静電容量を発現するものである。これに対して黒鉛の場合は、その層間において、電解質イオンであるアニオンが挿入脱離(インターカレーション-ディインターカレーション)することにより、静電容量を発現するものである。このような違いから、本実施形態に係る黒鉛を用いる蓄電デバイスは、特許文献3においては広義の意味で電気二重層キャパシタと呼んでいたが、ハイブリッドキャパシタと呼ぶことができ、電気二重層を有する活性炭を用いるEDLCと区別されるものである。
【0051】
[正極側の集電体]
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる正極側の集電体は、耐食性を向上させたアルミニウム材である非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材を用いることが好ましく、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることがより好ましい。
正極側の集電体はさらに、非晶質炭素被膜と正極活物質との間に導電性炭素層が形成されていることが好ましい。
【0052】
<負極>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる負極は、集電体(負極側の集電体)とその上に形成されている負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極活物質とバインダーと導電材とを含む。
負極活物質層は主に、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の負極材料を、負極側の集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0053】
[負極活物質]
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる負極活物質は、耐電圧が高い蓄電デバイスを得るため、電解質イオンであるカチオンを吸脱着できる炭素質材料である。
負極活物質としては、電解質イオンであるカチオンを吸脱着できる材料を用いることができ、例えば、活性炭、黒鉛、ハードカーボン、及び、ソフトカーボンからなる群から選択された炭素質材料を用いることができる。
【0054】
[負極側の集電体]
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる負極側の集電体としては、公知のものを用いることができるが、非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されているアルミニウム材、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材、エッチドアルミニウム、及び、アルミニウム材からなる群から選択されたものを用いることができる。非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されているアルミニウム材や非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材が好ましい。これらのアルミニウム材は耐食性を向上させたアルミニウム材である。これらのアルミニウム材を用いる場合、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることができ、ハイブリッドキャパシタを高電圧で作動させたときに、高温耐久性能を向上できる。
本実施形態のハイブリッドキャパシタは、非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されているアルミニウム材や非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材を用いる場合、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることが好ましい。
【0055】
<バインダー>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる電極は、さらにバインダーを含むことが好ましい。
バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂、ゴム、アクリル系樹脂、オレフイン系樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)系樹脂、天然高分子を用いることができる。フッ素樹脂の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。ゴムの例としては、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。天然高分子の例としては、ゼラチン、キトサン、アルギン酸が挙げられる。これらのバインダーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
<導電材>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる導電材は、負極活物質層又は正極活物質層の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電材を用いることができる。例えば、カーボンブラック、炭素繊維を用いることができる。炭素繊維の例としては、カーボンナノチューブ(CNT)、VGCF(登録商標)が挙げられる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであってもよいし、多層カーボンナノチューブであってもよい。これらの導電材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
<電解液>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いる電解質としては、例えば有機溶媒を用いた有機電解液を用いることができる。電解質イオンを含んでいれば、有機電解液に限らない。また、例えばゲルでもよい。電解液は、電極に吸脱着可能な電解質イオンを含む。電解質イオンは、そのイオン径ができるだけ小さいものの方が好ましい。具体的には、アンモニウム塩やホスホニウム塩、あるいはイオン液体、リチウム塩等を用いることができる。
【0058】
アンモニウム塩としては、テトラエチルアンモニウム(TEA)塩、トリエチルアンモニウム(TEMA)塩等を用いることができる。また、ホスホニウム塩としては、二つの五員環を持つスピロ化合物等を用いることができる。
【0059】
イオン液体としては、その種類は特に問わないが、電解質イオンを移動し易くする観点から、粘度ができる限り低く、また、導電性(導電率)が高い材料が好ましい。イオン液体を構成するカチオンとしては、例えばイミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。イミダゾリウムイオンとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(1-ethyl-3-methylimidazolium)(EMIm)イオン、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム(1-methyl-1-propylpyrrolidinium)(MPPy)イオン、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム(1-methyl-1-propylpiperidinium)(MPPi)イオン等が挙げられる。また、リチウム塩としては四フッ化ホウ酸リチウムLiBF、六フッ化リン酸リチウムLiPF等を用いることができる。
【0060】
ピリジニウムイオンとしては、例えば、1-エチルピリジニウム(1-ethylpyridinium)イオン、1-ブチルピリジニウム(1-buthylpyridinium)イオン等が挙げられる。
【0061】
イオン液体を構成するアニオンとしては、BFイオン、PFイオン、[(CFSON]イオン、FSI(ビス(フルオロスルホニル)イミド、bis(fluorosulfonyl)imide)イオン、TFSI(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、bis(trifluoromethylsulfonyl)imide)イオン等が挙げられる。
【0062】
溶媒としてはアセトニトリルやプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、γブチロラクトン、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
<セパレータ>
本実施形態のハイブリッドキャパシタで用いるセパレータとしては、正極と負極の短絡防止や電解液保液性の確保等の理由から、セルロース系の紙状セパレータや、ガラス繊維セパレータ、ポリエチレンやポリプロピレンの微多孔膜等が好適である。
【0064】
以上のように、本実施形態のハイブリッドキャパシタは、本発明の非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材(本発明の蓄電デバイス電極用集電体)を、黒鉛を含む正極の側の集電体として用いる。このことにより、本実施形態のハイブリッドキャパシタは、高出力化を図り、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性向上を図るものである。
また、本実施形態のハイブリッドキャパシタに係るその他の実施形態のハイブリッドキャパシタは、本発明の非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材(本発明の蓄電デバイス電極用集電体)を、負極側の集電体として用いる。このことにより、本実施形態のハイブリッドキャパシタに係るその他の実施形態のハイブリッドキャパシタは、さらに高出力化を図り、高エネルギー密度を維持しつつ、出力特性をさらに向上したものである。
【0065】
本発明の非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材(本発明の蓄電デバイス電極用集電体)は、黒鉛を含む正極を有するハイブリッドキャパシタの電極用集電体として使用することが好ましい。また、本発明の非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材(本発明の蓄電デバイス電極用集電体)は、EDLC等の蓄電デバイスの電極用集電体としても、使用することができる。
【0066】
(デュアルイオンバッテリ)
本発明の蓄電デバイスのその他の実施形態であるデュアルイオンバッテリ(DIB)は、正極側の集電体とその上に形成された正極活物質層とを含む正極と、負極側の集電体とその上に形成された負極活物質層とを含む負極と、を有する。正極活物質は黒鉛を含み、負極活物質はカチオンを吸蔵放出し得る金属酸化物を含む。正極側の集電体及び負極側の集電体は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材からなる。
【0067】
以下、本発明の蓄電デバイスのその他の実施形態としてデュアルイオンバッテリを詳細に説明するが、前述のハイブリッドキャパシタと共通する構成については省略する。
【0068】
本実施形態では、負極を従来の蓄電デバイスの活性炭負極から、本実施形態のデュアルイオンバッテリのリチウムを含有する金属酸化物あるいはリチウムを含有しない金属酸化物(以後、単に「MO」とする)としたことによって負極の充放電容量が大きくなった。リチウムを含有する金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウムが挙げられる。従来の蓄電デバイスにおいて負極の活性炭が律速となってエネルギー密度向上を阻んでいた課題を解決した。正極の黒鉛の容量をより使えるようにしたことによって、理論的にはエネルギー密度を高めることができたが、今度は、サイクル寿命特性が低下するという課題が現れた。この課題の原因は、負極にチタン酸リチウムなどのMOを用いると、活性炭を用いた場合の電極電位が斜めに直線状に減少変化するのに比べて、チタン酸リチウムなどのMOの電位曲線が平坦になることである。このため、負極にチタン酸リチウムなどのMOを用いた場合の電位曲線は、活性炭の電位曲線よりも、より卑な電位でさらされる時間が長くなる。これによって、本実施形態のデュアルイオンバッテリの負極側の集電体は、従来の蓄電デバイスの負極側の集電体より溶解し易くなる。この結果、高温耐久性能が低下したり、充放電サイクル寿命特性が低下したりする。この課題に対して、本実施形態の耐食性を高めた集電体を負極側の集電体に用いることで、集電体の溶解を抑制できることを見出した。すなわち、充放電容量が活性炭よりも大きな負極活物質を用いることで、セルのエネルギー密度を向上できたが、負極側の集電体が溶解する影響が顕在化した。本実施形態の耐食性を高めた集電体を適用することでその課題を解決することができる。
【0069】
本実施形態のデュアルイオンバッテリの負極側の集電体、正極側の集電体の少なくとも1つは、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることが好ましい。正極が黒鉛を含む場合、少なくとも正極側の集電体は、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることが好ましい。負極側の集電体及び正極側の集電体のいずれも、前述の本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることがより好ましい。
【0070】
<負極>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極は、集電体(負極側の集電体)とその上に形成されている負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極活物質とバインダーと導電材とを含む。
負極活物質層は主に、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の負極材料を、負極側の集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0071】
[負極活物質]
本実施形態のデュアルイオンバッテリの負極活物質としては、後述する電解液に含まれる電解質イオンであるカチオンを吸蔵放出し得る金属酸化物を含むものである。すなわち、カチオンを可逆的に挿入脱離できる材料であれば用いることができる。カチオンとしては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Mg、Ca等のアルカリ土類金属イオン等を用いることができる。
ここで、リチウムを用いた例を例示する。例えば、リチウムを挿入脱離できる金属酸化物を用いることができる。より具体的には、リチウムを含有する金属酸化物あるいはリチウムを含有しない金属酸化物を用いることができる。リチウムを挿入脱離できる金属酸化物の金属としては、周期律表の4、5、6周期の4、5、6族を用いることができる。具体的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)等の遷移金属を用いることが好ましい。リチウムを含有する金属酸化物としては、例えばリチウム含有チタン酸化物であるLiTi12やリチウム含有ニオブ酸化物であるLiNbO、リチウム含有バナジウム酸化物であるLi1.10.9等を用いることができる。また、リチウムを含有しない金属酸化物としては、例えばTiO、NbO、V等を用いることができる。
【0072】
高温耐久性をより向上させる観点から、負極活物質の単位重量当たりの容量は、後述する正極活物質(黒鉛)の単位重量当たりの容量よりも高いことが好ましい。正極に用いる黒鉛の理論容量は、372mAh/gである。しかし、リチウムイオンに比べて大きなアニオンを挿入脱離する本発明の黒鉛正極の容量は、サイクル寿命や黒鉛正極の膨張度合の観点から50mAh/g~100mAh/gが好ましい。一方、負極に用いる活物質の理論容量は各々次のとおりである。LiTi12は175mAh/g、LiNbOは203mAh/g、Li1.10.9は313mAh/g、TiOは335mAh/g、NbOは214mAh/g、Vは147mAh/gである。これらの負極活物質を用いた負極は上記黒鉛正極とは異なり、理論容量近くまで充放電することができる。したがって、上記負極活物質の実用容量は、上記黒鉛正極の実用容量(50mAh/g~100mAh/g)よりも大きい。すなわち、本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g~100mAh/gである黒鉛であり、本発明の負極活物質は、その黒鉛正極の実用容量より高いことが好ましい。本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g~100mAh/gである黒鉛であることがより好ましい。本発明の負極活物質は、LiTi12、LiNbO、Li1.10.9、TiO、NbO、及びVからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g~100mAh/gである黒鉛であり、本発明の負極活物質は、LiTi12であることがさらに好ましい。
【0073】
[負極側の集電体]
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極側の集電体は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材を用いることが好ましい。この非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材は、耐食性を向上させたアルミニウム材である。また、本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極側の集電体は、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることがより好ましい。
【0074】
負極側の集電体はさらに、非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されていることが好ましい。
【0075】
<正極>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる正極は、集電体(正極側の集電体)とその上に形成されている正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極活物質とバインダーと導電材とを含む。
正極活物質層は主に、正極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の正極材料を、正極側の集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0076】
[正極活物質]
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる正極活物質は、耐電圧が高いデュアルイオンバッテリを得るため、電解質イオンであるアニオンを挿入脱離できる炭素質材料である黒鉛を含むものである。
黒鉛の詳細については、前述の本発明の一実施形態の蓄電デバイスであるハイブリッドキャパシタの[正極活物質]での記載のとおりである。
【0077】
[正極側の集電体]
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる正極側の集電体は、上記負極側の集電体と同様に、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材を用いることが好ましい。この非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材は、耐食性を向上させたアルミニウム材である。また、本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる正極側の集電体は、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いることがより好ましい。
正極側の集電体はさらに、上記負極側の集電体と同様に、非晶質炭素被膜と正極活物質との間に導電性炭素膜が形成されていることが好ましい。
【0078】
<バインダー>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極又は正極は、さらにバインダーを含むことが好ましい。
バインダーは、前述の本発明の一実施形態の蓄電デバイス(ハイブリッドキャパシタ)と同様な類型のものを用いることができる。
【0079】
<導電材>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる導電材は、負極活物質層又は正極活物質層の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電材を用いることができる。例えば、前述の本発明の一実施形態の蓄電デバイス(ハイブリッドキャパシタ)と同様な類型のものを用いることができる。
【0080】
<電解液>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる電解液としては、例えば、有機溶媒に電解質を溶解した有機電解液を用いることができる。電解液としては、電極に挿入脱離可能な電解質イオンを含む。具体的には、リチウム塩等を用いることができる。
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等が挙げられる。
また、高温耐久性能や充放電サイクル特性、入出力特性等を高めるために、電解液に添加剤を用いてもよい。
【0081】
<セパレータ>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いるセパレータとしては、前述の本発明の一実施形態の蓄電デバイス(ハイブリッドキャパシタ)と同様な類型のものを用いることができる。
【実施例
【0082】
(製造例1)集電体の製造
DLCコーティングしたアルミニウム箔からなる集電体の作製
DLCコーティングしたアルミニウム箔(「DLCコートアルミニウム箔」、「DLCコートAl箔」ということがある)は正極側の集電体及び負極側の集電体であり、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材に相当する。DLCコートアルミニウム箔の製造法は以下のとおりである。純度99.99%のアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)に対して、アルゴンスパッタリングでアルミニウム箔表面の自然酸化膜を除去した。その後、そのアルミニウム箔表面近傍にメタン、アセチレン及び窒素の混合ガス中で放電プラズマを発生させ、アルミニウム材に負のバイアス電圧を印加することによりDLC膜を生成させた。
成膜時の雰囲気温度を25℃にて成膜したDLCコートAl箔を、アルゴン雰囲気炉に移し、アルゴンフロー(500mL/分)下で加熱処理温度である500℃まで昇温した。その後、この温度で1時間保持した後、室温まで自然冷却させ、DLCコートAl箔(A)を製造した。ここで、DLCをコーティング(被覆)したアルミニウム箔上のDLC膜の厚みを、ブルカー(BRUKER)社製触針式表面形状測定器DektakXTを用いて計測したところ、150nmであった。DLCコートAl箔(A)を後述のXAFS法で測定した結果、sp/(sp+sp)比率は0.43であった。結果を表1に示す。
【0083】
<評価方法:XAFS法>
NEXAFS分析は立命館大SRセンターBL-2超軟X線分光ラインにて実施し、スペクトルは試料電流測定による全電子収量法(TEY:Total Electron Yield)により取得した。測定したNEXAFSスペクトルはC K-edge(260~345eV)である。スリットサイズは25×25μm、試料に対するX線の入射角は90°であり、スペクトルの積算時間を各30分とした。
エネルギー軸校正は、標準試料である高配向熱分解グラファイト(HOPG:Highly oriented pyrolytic graphite)の文献値で行った。また、同日に測定したHOPGのスペクトルを基準にsp/(sp+sp)比率を算出した。
【0084】
(製造例2~5)
加熱処理温度がそれぞれ100℃、200℃、300℃、400℃であること以外は、製造例1と同様の後加熱処理方法で、DLCコートAl箔(B)、DLCコートAl箔(C)、DLCコートAl箔(D)、DLCコートAl箔(E)をそれぞれ製造した。得られたDLCコートAl箔に関して、製造例1と同様の方法で、sp/(sp+sp)比率を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
(製造例6)
成膜時の雰囲気温度を25℃にて成膜したDLCコートAl箔を加熱処理せず、室温まで自然冷却させた以外は製造例1と同様の方法でDLCコートAl箔(F)を製造した。得られたDLCコートAl箔に関して、製造例1と同様の方法で、sp/(sp+sp)の比率を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
(合成例1)負極活物質の合成
チタン酸リチウムの合成
平均粒径が3μmのアナターゼ型酸化チタンと水酸化リチウムをチタンとリチウムの化学量論比が5:4モルになるように秤量した。それらをるつぼに入れ、電気式雰囲気炉に投入した。大気中800℃で5時間焼成して、チタン酸リチウム(LiTi12、LTO)が得られた。
【0088】
「ハイブリッドキャパシタの作製」
(実施例1)
(1)蓄電デバイス電極用ペーストの調製
正極活物質としてイメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製黒鉛(商品名:KS-6、平均粒径6μm)、アセチレンブラック(導電材)、ポリフッ化ビニリデン(有機溶剤系バインダー)を、重量パーセント濃度(wt%)の比率が80:10:10となるように秤量した。それらをN-メチルピロリドン(有機溶剤)で溶解混合し、本実施例の正極用ペーストを調整した。
負極活物質として株式会社クラレ製活性炭YP-50Fと、アセチレンブラック(導電材)と、カルボキシメチルセルロース(水溶液系バインダー1)と、ポリアクリル酸(水溶液系バインダー2)と、が85wt%:5wt%:5wt%:5wt%の比率になるように秤量した。その後、それらを純水で溶解混合し、本実施例の負極用ペーストを調整した。
【0089】
(2)蓄電デバイス電極の作製
前記製造例1で得られたDLCコートAl箔(A)を正極側の集電体として用い、卓上コーターを用いて、調製した正極用ペーストをその上に塗布した後、100℃で1時間乾燥し、本実施例の正極を作製した。
マイクロメーターを用いて正極の厚みを計測したところ、68μmであった。
日本蓄電器工業株式会社製エッチドアルミニウム箔(厚さ20μm)を負極側の集電体として用い、卓上コーターを用いて、調製した負極用ペーストをその上に塗布した後、100℃で1時間乾燥し、本実施例の負極を作製した。
マイクロメーターを用いて負極の厚みを計測したところ、88μmであった。
【0090】
<コインセル型ハイブリッドキャパシタの作製>
次に、得られた正極を直径16mm、得られた負極を直径14mmの円板状に打ち抜いたものを150℃で24時間真空乾燥した。その後、アルゴングローブボックスへ移動した。乾燥後の正極と負極を、ニッポン高度紙工業株式会社製紙セパレータ(商品名:TF4540)を介して積層した。電解質に1MのSBP-BF(四フッ化ホウ酸5-アゾニアスピロ[4.4]ノナン)、溶媒にPC(プロピレンカーボネート)を用いた電解液0.1mLを加えて、アルゴングローブボックス中で本実施例のハイブリッドキャパシタである2032型コインセルを作製した。
得られたハイブリッドキャパシタは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表2に示す。
【0091】
(実施例2)
前記製造例5で得られたDLCコートAl箔(E)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の正極を作製した。また、実施例2の正極を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でハイブリッドキャパシタを作製した。得られたハイブリッドキャパシタは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表2に示す。
【0092】
(比較例1)
前記製造例6で得られたDLCコートAl箔(F)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の正極を作製した。また、この正極を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でハイブリッドキャパシタを作製した。得られたハイブリッドキャパシタは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表2に示す。
【0093】
(比較例2~4)
前記製造例2~4で得られたDLCコートAl箔(B)、DLCコートAl箔(C)、DLCコートAl箔(D)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2~4の正極を作製した。また、この正極を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でハイブリッドキャパシタを作製した。得られたハイブリッドキャパシタは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
「デュアルイオンバッテリの作製」
(実施例3)
<負極の作製>
負極活物質として合成1で得られたチタン酸リチウム(LiTi12、LTO)、アセチレンブラック(導電材)、ポリフッ化ビニリデン(有機溶剤系バインダー)を、重量パーセント濃度(wt%)の比率が80:10:10となるように秤量した。これらをN-メチルピロリドン(有機溶剤)で溶解混合することで得た負極用ペーストを、プレーンAl(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)上に、ドクターブレードを用いて塗布した。その後、乾燥させ、本実施例の負極が得られた。マイクロメーターを用いて負極の厚みを計測したところ、48μmであった。
【0096】
<コインセル型デュアルイオンバッテリの作製>
作製した本実施例の負極を用い、電解液として3-LiPF/EMCを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、本実施例のデュアルイオンバッテリである2032型コインセルを作製した。得られたデュアルイオンバッテリは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表3に示す。
【0097】
(実施例4)
負極側の集電体として製造例1で得られたDLCコートAl箔(A)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でコインセルを作製した。得られたデュアルイオンバッテリは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表3に示す。
【0098】
(比較例5)
比較例1と同様な正極を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でコインセルを作製した。得られたデュアルイオンバッテリは、後述の評価方法で放電率特性及び放電容量改善率を評価した。結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
(試験1)蓄電デバイスの評価
<放電率特性>
得られたセルについて、株式会社ナガノ製充放電試験装置BTS2004を用いて、25℃の恒温槽中で、0.2mA/cmあるいは14mA/cmの電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行なった。その後、電流密度0.2mA/cmの放電電流値で所定の終止電圧まで放電を行なう充放電試験を行なった。ここで、実施例1~4及び比較例1~4のハイブリッドキャパシタの場合の放電の終止電圧は0Vで、実施例5、6及び比較例5のデュアルイオンバッテリの場合の放電の終止電圧は2Vで行った。その結果として得られた0.2mA/cmの電流密度で充放電試験を行なった場合の放電容量に対する14mA/cmでの放電容量の比率を算出し、放電率を得た。その結果を表2と表3に示す。表2においては、実施例1、2及び比較例2、3の放電率特性の結果は、比較例1の放電率の値を100として規格化した値を示す。例えば、比較例1の放電率がXであり、実施例1の放電率がYである場合、比較例1の放電率特性が100となり、実施例1の放電率特性が100Y/Xとなる。表3においては、実施例3、4の放電率特性の結果は、比較例5を100として規格化した値を示す。
【0101】
(試験2)蓄電デバイスの評価
<放電容量改善率>
得られたセルについて、株式会社ナガノ製充放電試験装置BTS2004を用いて、25℃の恒温槽中で、0.2mA/cmの電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行なった。その後、電流密度0.2mA/cmの放電電流値で所定の終止電圧まで放電を行なう充放電試験を行った。また、定電流定電圧連続充電試験前の放電容量を計測した。ここで、ハイブリッドキャパシタの場合の放電の終止電圧は0Vで、デュアルイオンバッテリの場合の放電の終止電圧は2Vで行った。
次に充放電試験装置BTS2004を用いて、60℃の恒温槽中で、電流密度0.2mA/cm、電圧3.5Vで連続充電試験(定電流定電圧連続充電試験)を行った。具体的には、充電の途中、所定の時間で充電を止め、セルを25℃の恒温槽に移した後、上記と同様に0.2mA/cmの電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行なった。その後、電流密度0.2mA/cmの放電電流値で所定の終止電圧まで放電を行なった。この充放電試験を5回行うことで放電容量を得た。ここで、ハイブリッドキャパシタの場合の放電の終止電圧は0Vで、デュアルイオンバッテリの場合の放電の終止電圧は2Vで行った。その後、60℃の恒温槽に戻して連続充電試験を再開し、連続充電試験時間の総計が2000時間になるまで試験を実施した。その際の放電容量を計測した。
放電容量改善率とは、定電流定電圧連続充電試験開始前の放電容量に対して、定電流定電圧連続充電試験後の放電容量維持率が80%以下になった充電時間を寿命とし、比較対象の比較例での寿命になった時間を100として規格化した値である。
【0102】
表2においては、実施例1、2及び比較例2、3の放電容量改善率の結果は、比較例1の放電容量改善率の値を100として規格化した値を示す。表3においては、実施例3、4の放電容量改善率の結果は、比較例5の放電容量改善率を100として規格化した値を示す。
【0103】
表2に示したとおり、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いた実施例1、2は、比較例1~4に比べ、優れた放電率特性及び放電容量改善率が得られた。同様に、表3に示したとおり、本発明の蓄電デバイス電極用集電体を用いる実施例3、4は、比較例5に比べ、優れた放電率特性及び放電容量改善率が得られた。400℃以上の温度で成膜したDLCコートAl箔(A)、DLCコートAl箔(E)、DLCコートAl箔(F)、DLCコートAl箔(G)は、XAFS法で測定したsp/(sp+sp)比率が0.35以上を示した。そのため、黒鉛構造が発達したDLC膜であった。そのDLC膜を含む蓄電デバイス電極用集電体を、実施例1~4のハイブリッドキャパシタ及び実施例5、6のデュアルイオンバッテリ用の正極へ適用した場合、集電体と活物質層の界面抵抗が低くなり、出力特性を向上させることができたと考えられる。
【0104】
実施例1の蓄電デバイスは、500℃以上の処理温度で得られたDLCコートAl箔(A)のsp/(sp+sp)比率が0.40以上であるため、実施例2の蓄電デバイスに比べさらに優れた特性を示したことが分かった。
【0105】
実施例4は、負極側の集電体と正極側の集電体のいずれも本発明の蓄電デバイス電極用集電体(DLCコートAl箔(A)を用いる。実施例3は、正極側の集電体のみ本発明の蓄電デバイス電極用集電体(DLCコートAl箔(A)を用いる。実施例4は、実施例3と比較し、放電率特性は同程度であったが、放電容量改善率がさらに向上した。本発明の蓄電デバイス電極用集電体は、負極に適用しても、有効であることがわかった。
図1