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特許7181414液圧レギュレータを用いた塗装装置および塗装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】液圧レギュレータを用いた塗装装置および塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 12/00 20180101AFI20221122BHJP
   B05B 7/24 20060101ALI20221122BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20221122BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20221122BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221122BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B05B12/00 Z
B05B7/24
G06N20/00 160
G06Q50/04
B05D1/02 B
B05D3/00 B
B05D3/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021540603
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032806
(87)【国際公開番号】W WO2021033308
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】522066757
【氏名又は名称】株式会社水登社
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】下田 健太
(72)【発明者】
【氏名】池内 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】笠置 友久
(72)【発明者】
【氏名】玉井 浩二
(72)【発明者】
【氏名】泥谷 敏昌
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098303(JP,A)
【文献】特開2017-154091(JP,A)
【文献】特開2012-086150(JP,A)
【文献】特開2008-012406(JP,A)
【文献】特開2009-154042(JP,A)
【文献】特開平02-078462(JP,A)
【文献】特表2011-511909(JP,A)
【文献】特開平08-057372(JP,A)
【文献】特開2017-120996(JP,A)
【文献】特開2017-033525(JP,A)
【文献】特開2017-199074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-3/18
7/00-9/08
12/00-16/80
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00-7/26
F16K 31/12-31/165
31/36-31/42
G06N 20/00
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料タンクと定量ポンプと塗料を供給する塗料供給配管を備えた塗料供給手段と、
エアコンプレッサーとエア供給圧力を調整するエアレギュレータとエアを供給するエア供給配管を備えたエア供給手段と、
前記塗料供給手段の前記塗料供給配管から前記塗料の供給を受けるとともに、前記エア供給手段の前記エア供給配管から前記エアの供給を受け、前記塗料を所定のエア圧で噴射する塗装ガンを備えた装置構成において、
前記塗料供給手段の前記塗料供給配管の途中で前記塗装ガンに至る前の経路において、前記塗装ガンに供給する前記塗料を受け取り所定圧力にて前記塗装ガンに圧送する塗料液圧レギュレータと、
前記塗料液圧レギュレータの入力側の圧力と前記塗料液圧レギュレータの出力側の圧力との差分量を前記定量ポンプの作動量に対するフィードバック信号として帰還させるフィードバックループ制御を行うこと制御手段を備え、
前記塗料液圧レギュレータによって前記塗装ガンに供給する塗料の液圧を制御せしめることを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
前記塗料供給手段の経路中に前記塗料液圧レギュレータを複数個所に設置し、複数の前記塗料液圧レギュレータをカスケード接続したことを特徴とする請求項1に記載の塗装装置。
【請求項3】
複数設置した前記塗料液圧レギュレータのカスケード接続において、前記塗料タンクに近い方を一次側の前記塗料液圧レギュレータとし、前記塗装ガンに近い方を二次側の前記塗料液圧レギュレータとし、一次側の前記塗料液圧レギュレータの圧力制御の精度よりも二次側の前記塗料液圧レギュレータの圧力制御の精度が高いものとしたことを特徴とする請求項2に記載の塗装装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の塗装装置に対して、少なくとも1つの前記塗装ガンによる塗装実行中または塗装実行後の少なくとも一方において、塗装条件に関する少なくとも1つの物理量と、前記塗装条件から構成される少なくとも1つの状態変数を観測する状態観測部を備え、
前記塗装条件に関する少なくとも1つの物理量は、塗料密度、塗料粘度、塗料配管の長さ、塗料配管の径、塗料配管内の塗料の流体抵抗、定量ポンプの圧送量、塗料液圧レギュレータの塗料出力液圧のうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記少なくとも1つの塗装条件は、塗装ガンの塗料噴射圧力、塗装ガンの塗料噴射量、塗装ガンの塗料噴射広角、稼働する塗装ガンの数のうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記状態変数に基づいて、前記少なくとも1つの塗装条件を決定する行動価値関数を更新することによって、前記少なくとも1つの塗装条件を決定することを学習する学習部を備え、
前記学習部は、前記状態変数に基づいて、前記少なくとも1つの塗装条件を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部と、前記報酬計算部により計算された報酬に基づいて、前記行動価値関数を更新する関数更新部を含み、前記関数更新部による前記行動価値関数の更新を繰り返すことによって、前記報酬が最も多く得られる前記少なくとも1つの塗装条件を学習する、塗装装置に関するAI塗装システム。
【請求項5】
前記報酬計算部は、報酬条件を設定する報酬条件設定部を含んでおり、前記報酬計算部は、前記報酬条件設定部により設定された報酬条件に基づいて報酬を計算する機械学習装置を含む請求項に記載のAI塗装システム。
【請求項6】
塗料タンクと定量ポンプと塗料を供給する塗料供給配管を備えた塗料供給手段と、エアコンプレッサーとエア供給圧力を調整するエアレギュレータとエアを供給するエア供給配管を備えたエア供給手段と、前記塗料供給手段の前記塗料供給配管から前記塗料の供給を受けるとともに、前記エア供給手段の前記エア供給配管から前記エアの供給を受け、前記塗料を所定のエア圧で噴射する塗装ガンを備えた装置構成において、
前記塗料供給手段の前記塗料供給配管の途中で前記塗装ガンに至る前の経路において、前記塗装ガンに供給する前記塗料を受け取り所定圧力にて前記塗装ガンに圧送する塗料液圧レギュレータを配置し、前記塗料液圧レギュレータの入力側の圧力と前記塗料液圧レギュレータの出力側の圧力との差分量を前記定量ポンプの作動量に対するフィードバック信号として帰還させるフィードバックループ制御を行うこと制御手段を備え、
前記塗料液圧レギュレータにより前記塗装ガンに供給する塗料の液圧を制御せしめることを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料を噴射して塗装を行う塗装装置に関する。特に、塗料の塗装に好適な液圧を制御する液圧レギュレータを適用した塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装作業は様々な用途で必要とされる。配管塗装、部品塗装、壁面塗装など塗装装置が必要とされる技術分野は多い。機械的なプロセス塗装では、数多くの塗料を必要とし、かつ各塗料が常に同じ色調で塗装されることが必要とされている。塗装は塗装ガンとよばれる塗料噴射装置を介して行われるが、それぞれの塗装ガンに対して色調や品質が同じ塗料を適切な圧力で供給する必要がある。
【0003】
もしも、複数の塗装ガンを使用して複数の塗装作業を並行して行う場合、塗料ガンに対して安定した所定圧力で塗料を供給する必要ある。そのため、各塗装ガンを配管で接続するようにし、その配管に対する圧力を制御する必要がある。
塗装ガンにおいて多少の圧力調整は可能であるが、やはり配管に印加する圧力を調整することが重要である。しかし、従来技術において、この塗装ガンへ塗料を供給する配管における塗料圧力を精細に調整することが難しかった。
【0004】
図7は、従来技術における塗装システム50を簡単に示した図である。
図7に示した従来技術における塗装システム50の構成例では、塗料タンク1、ギヤポンプ2、リリーフ弁10、トリガダンプバルブ3および塗装ガン4が塗料供給管5,6,7および9で接続されている。
【0005】
塗料タンク1は、バルブボディ1-1に多数の切替バルブ1-2が設けられたバルブユニットを備えており、バルブボディ1-1の基端の切替バルブ1-2には、洗浄用シンナと洗浄用エアが供給される。その他の切替バルブ1-2には、各塗色の塗料(A色、B色…、Z色)が供給される。これら洗浄用シンナおよび各塗色の塗料は、塗料圧送ポンプにより塗料タンク1のカラーチェンジバルブに圧送される。
カラーチェンジバルブ1にて選択された塗料は、塗料供給管5を介してギヤポンプ2に送られ、当該ギヤポンプ2によって定量の塗料がリリーフ弁10を介して塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブおよび塗装ガン4に供給される。
【0006】
塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブはバルブボディ31に複数(ここでは4つ)の切替バルブ32が設けられたバルブユニットを備えており、バルブボディ31の基端の切替バルブ32,32には、洗浄用シンナと洗浄用エアが供給される。他の2つの切替バルブ32,32の一方には、ギヤポンプ2から供給される塗料が供給され、他方にはリリーフ弁10を介して廃液タンク8へ導くための塗料管9が接続されている。なお、塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブからの塗料は塗料管7を介して塗装ガン4に送られる。
【0007】
ギヤポンプ2は、塗料タンク1から供給された塗料を下流側へ定量圧送するものであり、これにより塗料ホース6を介して塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブに定量の塗料が供給される。
正常時において塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブに供給された塗料は塗装ガン4に供給され、被塗物に塗布される。
【0008】
リリーフ弁10は、塗料混合ユニット3のトリガダンプバルブの動作不良などによって塗料ホース6内の塗料圧力が上昇し、ギヤポンプ2による塗料の定量圧送が過負荷となった場合などに、塗料を一時的に逃がす弁である。リリーフ弁10にはコイルスプリングが仕込まれており、塗料圧力がコイルスプリングの荷重に打ち勝つまでは、弁口は閉じた状態とされるが、塗料ホース6内の塗料圧力が上昇し、これがコイルスプリングの荷重を超えると、ニードル弁が上昇して弁口が開き、塗料ホース6内の塗料がオーバーフロー用の塗料ホース9を介して廃液タンク8へ導かれる仕組みなっている。その検出信号がコントローラ12に送出され、コントローラ12は、このリミットスイッチ11からの検出信号を受けて、ギヤポンプ2に停止信号を送出する。この結果、ギヤポンプ2が停止してそれ以上の塗料の供給を停止するとともに、塗料ホース6内の塗料が廃液タンク8側へ逃がされて塗料圧力が調整される。
【0009】
次に、従来技術において、噴射をエア圧力で制御するタイプとして、エアレギュレータを加えた構成は、図8のように示される。
図8に示すように、塗料供給系として、図7に示した塗料タンク1、ギヤポンプ2、塗料混合ユニット3、リリーフ弁10、コントローラ12があり、ギヤポンプ2の圧送により塗料が塗装ガン4に供給される。
一方、エア供給系として、図8に示すように、エアコンプレッサー21から供給されたエアがオイルミストセパレータで余分なオイル成分を除去したあと、エアレギュレータ24に圧送される。エアレギュレータ24で所定のエア圧に調整されたエアが塗装ガン4に供給される。
このように塗装ガン4には、所定の液圧で塗料が供給され、所定の圧力で噴射用のエアが供給され、塗装ガン4から塗料混合エアが所定圧力で所定量噴射される仕組みとなっている。
【0010】
【文献】特開2001-104849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
塗装ガンを用いた塗料塗布装置は、上記従来のものなど多様なものがあるが、下記の条件を踏まえて設計することとなり、塗料の種類、配管の長さや規模、噴霧に求められる圧力制御の精度などにより、細かく設定を変更し、試行錯誤しながら塗装ガンの噴射を制御する必要があった。
【0012】
まず、塗料の密度や粘性などの物理的な特性の考慮がある。塗料の種類としても用途に応じて多種多様のものがあり、溶媒の中に粒子状の塗料物質が混入されているタイプのものも多い。このように塗料が変更されるたび、その密度や粘性などの物理的な特性も考慮しなければならない。そのため、塗料として異なるものを使用すると、塗料の粘性などの物理的な特性を織り込んだ制御が必要となってくるが、その調整は一般には困難で試行錯誤的にならざるを得なかった。
【0013】
また、配管の塗料循環における全体のエネルギー制御が必要である。近年においては、環境負荷の低減のため塗料の水系化が進められている。この水系の塗料は一般に溶剤系に比較して粘度が高いため、循環に必要なエネルギーが大きく高圧で送り出す必要がある。大規模工場で用いられる塗装装置においては、塗装ガンの総数が数百にもなるものがあり、その規模に応じて塗料循環の配管の総延長が相当長くなる場合もあり得る。塗料に対して適切な圧力をかけてこれらの配管の中を循環させ続けるためには多くのエネルギーを必要としている。
【0014】
上記問題点に鑑み、本発明は、従来のように、塗料の密度や粘性などの物理的な特性、配管の塗料循環におけるエネルギー制御などを的確に行い、コストを低減せしめた塗装装置および塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(この段落0015は、特許独特の文章部分ですので、特許請求の範囲の請求項1と併せて後で読んでください。)
上記目的を達成するため、本発明の塗装装置は、塗料タンクと定量ポンプと塗料を供給する塗料供給配管を備えた塗料供給手段と、エアコンプレッサーとエア供給圧力を調整するエアレギュレータとエアを供給するエア供給配管を備えたエア供給手段と、前記塗料供給手段の前記塗料供給配管から前記塗料の供給を受けるとともに、前記エア供給手段の前記エア供給配管から前記エアの供給を受け、前記塗料を所定のエア圧で噴射する塗装ガンを備えた装置構成において、前記塗料供給手段の前記塗料供給配管の途中で前記塗装ガンに至る前の経路において、前記塗装ガンに供給する前記塗料を受け取り、所定圧力にて前記塗装ガンに圧送する塗料液圧レギュレータを備え、前記塗装ガンに供給する塗料の液圧を制御せしめることを特徴とする塗装装置である。
【0016】
上記構成により、塗装ガンに至る前の経路中、例えば、塗装ガンに近い付近において、塗料液圧レギュレータを配置し、塗料液圧レギュレータにより所定圧力にて塗装ガンに塗料を圧送することができ、塗装ガンに対する塗料圧力を正確に制御できるようになる。
特に、塗料の配管が長大な場合、経路中の1つの定量ポンプによる正確な圧送が難しく、かつ、塗装ガンが複数あり、塗装ガンからの塗料噴射が任意に行われる環境下では、塗料配管中の塗料の圧送を正確に制御することが難しいところ、本発明であれば、塗装ガンに近い付近に塗料液圧レギュレータがあって、塗装ガンへの塗料液圧を制御するので、上記環境であっても塗料配管中の塗料の圧送を正確に制御することが可能となる。
【0017】
次に、上記構成において、塗料供給手段の経路中に塗料液圧レギュレータを複数個所に設置し、複数の塗料液圧レギュレータをカスケード接続した構成も可能である。
特に、この塗料液圧レギュレータのカスケード接続において、塗料タンクに近い方を一次側の塗料液圧レギュレータとし、塗装ガンに近い方を二次側の塗料液圧レギュレータとし、一次側の塗料液圧レギュレータの圧力制御の精度よりも二次側の塗料液圧レギュレータの圧力制御の精度が高いものとする構成が可能である。
【0018】
上記構成は、特に、精密塗装用途において有利である。精密塗装の場合、つまり、塗装ガンへの塗料の供給圧力の精密な制御が求められる場合、例えば、1パスカル単位での塗料供給圧力の制御が求められる場合、塗料配管全体にわたって1パスカル単位での制御は困難である。例えば、ダイヤフラム型の液圧レギュレータでは、ダイヤフラム変移の精度が高くなると、対応できる液圧の変動幅が小さくなり、長大な塗料配管全体にわたる制御は難しくなる。しかし、本発明のバリエーションのように、塗料液圧レギュレータをカスケード接続し、一次側の塗料液圧レギュレータまでの一次側の塗料配管では10パスカル単位までの精度で制御をし、二次側の塗料液圧レギュレータを1パスカル単位での高精度のレギュレータとすれば、二次側の塗料配管においては1パスカル単位での制御が行いやすくなる。
上記数値は一例であるが、長大な塗料配管であっても、一次側は全体としてラフな塗料液圧制御を担い、二次側において、精密塗装が求められる塗装ガンに対する精密な塗料液圧制御を担わせることが可能となる。
【0019】
次に、さらなるバリエーションとして、塗料液圧レギュレータの入力側の圧力と塗料液圧レギュレータの出力側の圧力との差分量を定量ポンプの作動量に対するフィードバック信号として帰還させるフィードバックループ制御を行うこと制御手段を備えることも好ましい。
塗装作業の工程において、塗装ガンでの噴射圧力を変えたり、塗装ガンの稼働数を変えたり、使用する塗料の種類を変えたりすると、ベースとなる定量ポンプの圧送量を変更する必要が生じる場合があるが、従来技術であれば、ベースとなる定量ポンプの圧送量が適しているかどうか試行錯誤しなければならなかった。作業工程を止めるほどの大きな変動でない場合でも、試行錯誤がうまく行かない場合、作業工程を止める事態もあり得た。そこで、本発明のバリエーションのように、塗料液圧レギュレータと定量ポンプの間に塗料の圧送量に関する帰還フィードバックループを形成すれば、塗装作業の工程に影響を与え得る物理量の変化があっても、精度良く追随できるようになる。作業工程を止めることなく、ベースとなる定量ポンプの圧送量の調整が可能となる。
【0020】
(この段落0020は、特許独特の文章部分ですので、特許請求の範囲の請求項5と併せて後で読んでください。)
次に、塗装作業の工程に影響を与え得る物理量の変化を考慮して塗装ガンによる塗装条件を決定することを学習する学習部を備えた機械学習装置を組み込むことも可能である。いわゆるAI機能付きの塗装作業システムの構築である。
例えば、塗装実行中または塗装実行後の少なくとも一方において、塗装条件に関する少なくとも1つの物理量と、当該塗装条件から構成される少なくとも1つの状態変数を観測する状態観測部を備えた構成とする。少なくとも1つの物理量は、塗料密度、塗料粘度、塗料配管の長さ、塗料配管の径、塗料配管内の塗料の流体抵抗、定量ポンプの圧送量、塗料液圧レギュレータの塗料出力液圧のうちの少なくとも1つを含んでいる。少なくとも1つの塗装条件は、塗装ガンの塗料噴射圧力、塗装ガンの塗料噴射量、塗装ガンの塗料噴射広角、稼働する塗装ガンの数のうちの少なくとも1つを含んでいる。学習部は、状態変数に基づいて、少なくとも1つの塗装条件を決定する行動価値関数を更新することによって、少なくとも1つの塗装条件を決定することを学習するものとする。学習部は、状態変数に基づいて、少なくとも1つの塗装条件を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部と、報酬計算部により計算された報酬に基づいて、行動価値関数を更新する関数更新部を含み、関数更新部による行動価値関数の更新を繰り返すことによって、報酬が最も多く得られる少なくとも1つの塗装条件を学習する。このような機械学習装置を組み込めば、いわゆるAI機能付きの塗装システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の塗装装置によれば、塗装ガンに至る前の経路中、例えば、塗装ガンに近い付近において、塗料液圧レギュレータを配置し、塗料液圧レギュレータにより所定圧力にて塗装ガンに塗料を圧送することができ、塗装ガンに対する塗料圧力を正確に制御できるようになる。
本発明のバリエーションとして、塗料供給手段の経路中に塗料液圧レギュレータを複数個所に設置し、複数の塗料液圧レギュレータをカスケード接続した構成では、一次側は全体としてラフな塗料液圧制御を担い、二次側において、精密塗装が求められる塗装ガンに対する精密な塗料液圧制御を担わせることが可能となる。
本発明のバリエーションとして、塗料液圧レギュレータの入力側の圧力と塗料液圧レギュレータの出力側の圧力との差分量を定量ポンプの作動量に対するフィードバック信号として帰還させるフィードバックループ制御を導入すれば、塗装作業の工程に影響を与え得る物理量の変化があっても、精度良く追随できるようになる。作業工程を止めることなく、ベースとなる定量ポンプの圧送量の調整が可能となる。
また、 本発明のバリエーションとして、塗装作業の工程に影響を与え得る物理量の変化を考慮して塗装ガンによる塗装条件を決定することを学習する学習部を備えた機械学習装置を組み込めば、いわゆるAI機能付きの塗装作業システムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1にかかる本発明の塗装装置100の全体の構造例を示す図である。
図2】塗装ガン140に対する塗料圧力の計測値を比較して表にまとめた図である。
図3】実施例2にかかる本発明の塗装装置100aの全体の構造例を示す図である。
図4】実施例3にかかる本発明の塗装装置100bの全体の構造例を示す図である。
図5】実施例4にかかる塗装作業に関するAI塗装システム200の構成例を簡単に示した図である。
図6】機械学習装置180の動作を示すフローチャートである。
図7】従来の特許文献1(特開2001-104849号公報)に開示された従来技術における塗装システム50を簡単に示した図である。
図8】従来技術における噴射をエア圧力で制御するタイプとして、エアレギュレータを加えた構成例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の塗装装置の実施例を説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例に示した具体的な用途、形状、個数などには限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0024】
実施例1は、本発明の塗装装置の基本形である。
図1は、実施例1にかかる本発明の塗装装置100の全体の構造例を示す図である。
図1は簡単なブロック図となっており、各構成要素の細かい構造については図示していない。
図1に示す構成例では、本実施形態1の塗装装置100は、液体供給路としての塗料供給配管110と、エア供給路としてのエア供給配管120と、塗料液圧レギュレータ130と、塗装ガン140を中心に描いており、塗料を循環させるための液体戻し路としての液体戻し配管などは設けていないが、液体戻し配管を設けて全体を塗料循環系としても良い。
本実施例1の構成例にかかる塗装装置100は、塗料供給手段110、エア供給手段120、塗料液圧レギュレータ130、塗装ガン140を備えた構成となっている。
【0025】
塗料供給手段110は、塗料タンク111と定量ポンプ112と塗料を混合する塗料混合ユニット113とリリーフ弁114とドレンタンク115とコントローラ116を含み、それらを接続して塗料を供給する塗料供給配管を備えている。
【0026】
塗料タンク111は、塗料供給手段110の基端部にあり、塗料タンク111に貯留された塗料が定量ポンプ112により予め設定された所定の圧力で加圧供給されるようになっている。なお、フィルタ類は図示していないが、フィルタを通すことにより主として塗料に含まれている異物の除去が可能となる。
【0027】
定量ポンプ112は、塗料タンク111から供給された塗料を下流側へ定量分を圧送するものであり、これにより塗料供給配管を介して定量の塗料が供給される。
定量ポンプ112としては、様々なものが適用可能であり、例えば、ギヤポンプ、ロータリーポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、さらにダイヤフラムポンプもあり得る。
【0028】
塗料混合ユニット113は、塗装ガン140から噴射する塗料が、複数種類の塗料を動的に混合して供給する必要がある場合に用いられるものであり、この例では、3つの塗料タンク111から供給される3種類の塗料を混合するものとなっている。
【0029】
リリーフ弁114は、定量ポンプ112により塗料供給手段110の塗料供給配管に圧送される塗料液圧が設定値に達したら、塗料の一部または全量をドレンタンク115に排出させ、塗料供給配管内の圧力を設定値に保持する圧力制御弁である。
ただし、塗料は所定圧力で圧送されるので、リリーフ弁114が弁口を開いてドレンタンク115に塗料の一部を逃がしても、塗装ガン140へ向かう塗料は確保され、余剰分のみがドレンタンク115に回収される仕組みとすることがこのましい。
【0030】
塗装ガン140は、塗料供給手段の終端部にあり、塗装ガン140にはハンドルなどの塗料噴射操作部が設けられており、塗装ガン140の塗料噴射操作部を操作することにより、塗料を噴射することができる。塗装ガン140は、移動自由に配設されている。
塗装ガン140は、塗料供給手段110の塗料供給配管から塗料の供給を受けるとともに、後述するエア供給手段120のエア供給配管からエアの供給を受け、塗料を所定のエア圧で噴射する。
液体の戻り経路が形成されている場合、塗装ガン140付近まで供給され、塗料供給配管を通過した塗料は、塗料供給配管の先端部分に配設された背圧弁(図示せず)を介して塗料タンク111に戻されるようになっている。
【0031】
塗料液圧レギュレータ130は、塗料供給手段110の塗料供給配管の途中で塗装ガン140に至る前の経路において、塗料を受け取って所定圧力に整えて塗装ガン140に圧送するものである。本発明の塗装装置100では、この塗料液圧レギュレータ130を設けることにより、塗装ガン140に供給する塗料の液圧を精度よく制御せしめることができる。
【0032】
塗料供給手段110の塗料供給配管は、適用する塗料装置によりその長さや径が多様である。例えば、大規模な塗装工場に適用される塗装装置となると、塗料供給配管は長大なものとなる場合があり、その径も多様となる。一般には、塗料の種類や粘性などの物理的性質も異なれば、そのような長大で径が多様な塗料供給配管を介して塗装ガン140における塗料圧力を正確に制御することが困難である。しかし、本発明の塗装装置100によれば、定量ポンプ112により圧送される塗料は、ある程度ラフな値やラフな精度で良く、塗料液圧レギュレータ130に対してそのラフな値やラフな精度で供給されれば良い。本発明の塗装装置100では、この塗料液圧レギュレータ130が塗装ガン140に実際に供給される塗料圧力を精度良く整えて供給することができるため、塗料供給配管の長さや径、塗料の種類や粘性などによる影響を受けにくいものとすることができる。
【0033】
次に、エア供給手段120を説明する。
エア供給手段120は、エアコンプレッサー121と、オイルミストセパレータ122と、エア供給圧力を調整するエアレギュレータ123と、エアを供給するエア供給配管を備えたものとなっている。
【0034】
エアコンプレッサー121は所定圧力でエアを圧縮し、圧縮エアを所定圧力で噴射するものであれば種類などは限定されない。
【0035】
オイルミストセパレータ122は、塗装工場には微細な塗料溶剤であるオイルが浮遊している場合もあり、このエアに混在するオイルはエア圧力制御の阻害要因となったり、配管の目詰まりの原因になったりするため、エアからオイル成分を除去するものである。回収したオイル成分はドレイン(図示せず)により回収すれば良い。
【0036】
エアレギュレータ123は、エア供給手段120のエア圧を整えるものであり、塗装ガン140に所定のエア圧を供給するものとなる。
上記構成による本発明の塗装装置100を用いれば、従来技術では難しかった塗料供給配管の長さや径や塗料の種類や粘性などによる影響を受けにくくし、塗装ガン140に至る前の塗料供給経路中の塗料液圧レギュレータ130により所定圧力にて塗装ガンに塗料を圧送することができ、塗装ガン140に対する塗料圧力を正確に制御できるようになる。
【0037】
本発明の塗装装置100による塗装ガン140に対する塗料圧力の制御の精度向上について検証してみた。
比較上、本発明の塗装装置100による塗装ガン140に対する塗料圧力のほか、塗料液圧レギュレータ130を設けない図7に示した従来構成による塗装ガン140に対する塗料圧力についても測定して検証した。
【0038】
図2は、塗装ガン140に対する塗料圧力の計測値を比較して表にまとめた図である。
比較条件として、定量ポンプ112の出力値を100,000Paおよび120,000Paとなるよう設定し、塗装ガン140での塗料噴射圧力がどのような値になるかを検証した。
なお、塗料液圧レギュレータ130を用いて塗装ガン140の噴射圧力値の方を設定してしまうと、定量ポンプ112に多少の変動幅があっても塗装ガン140の噴射圧力値が整うため、塗料液圧レギュレータ130を用いない従来構成の場合の比較が定まりにくいため、定量ポンプ112の出力値を決めた場合に、塗装ガン140の噴射圧力がどの程度ばらつくのかという観点で検証した。
【0039】
塗装ガン140を用いて噴射実験を5回行った。理想的には塗装ガン140噴射圧力はすべて同じ値に揃うはずであるが、実測値は図2に示すようなばらつきがあった。
1回目の実験では、図2に見るように、定量ポンプ112の出力値を100,000Paとしたところ、塗料液圧レギュレータ130を用いない従来構成では、最小値が105,287Pa、最大値が109,885Paと、約4,600Paのばらつきが生じた。しかし、塗料液圧レギュレータ130を用いた本発明の構成では、最小値が102,069Pa、最大値が105,287Paと、約3,200Paのばらつきに抑えることができた。なお、塗料液圧レギュレータ130を作動させるため、若干の昇圧となるよう3,000Pa上昇するよう設定した。
【0040】
2回目の実験では、図2に見るように、定量ポンプ112の出力値を120,000Paとしたところ、塗料液圧レギュレータ130を用いない従来構成では、最小値が119,540Pa、最大値が125,057Paと、約5,500Paのばらつきが生じた。しかし、塗料液圧レギュレータ130を用いた本発明の構成では、最小値が114,023Pa、最大値が116,321Paと、約2,200Paのばらつきに抑えることができた。なお、塗料液圧レギュレータ130を作動させるため、若干の減圧となるよう5,000Pa降下するよう設定した。
【0041】
以上の検証実験から、塗料液圧レギュレータ130を用いることで、本発明の塗装装置100では、塗装ガン140の噴射圧力が整いやすくなり、精度よく塗料噴射圧を設定値に近づけることができることが分かる。
【0042】
以上、実施例1にかかる本発明の塗装装置100によれば、塗料液圧レギュレータ130を用いることで、定量ポンプ112の出力値が塗装ガン140の塗料噴射圧力の設定値に対してある程度ラフな値であっても、精度よく塗料噴射圧を設定値に近づけることができる。また、塗装ガン140からの塗料の噴射圧力のばらつきを抑えることができる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、本発明の塗装装置のバリエーションであり、塗料供給手段の経路中に塗料液圧レギュレータを複数に設置し、それら複数の塗料液圧レギュレータをカスケード接続した塗装装置である。
以下の例では、塗料液圧レギュレータ130aは塗料液圧レギュレータ131と塗料液圧レギュレータ132の2つとし、その2つをカスケード接続したものを例に説明する。
【0044】
図3は、実施例2にかかる本発明の塗装装置100aの全体の構造例を示す図である。
図3は簡単なブロック図となっており、各構成要素の細かい構造については図示していない。
図3に示す構成例では、本実施例2の塗装装置100aは、図1と同様、液体供給路としての塗料供給配管110と、エア供給路としてのエア供給配管120と、塗料液圧レギュレータ130と、塗装ガン140を中心に描いており、塗料を循環させるための液体戻し路としての液体戻し配管などは設けていないが、液体戻し配管を設けて全体を塗料循環系としても良い。
【0045】
本実施例2の構成例にかかる塗装装置100aは、実施例1と同様、塗料供給手段110、エア供給手段120、塗料液圧レギュレータ130a、塗装ガン140を備えた構成となっているが、塗料液圧レギュレータ130aが、塗料液圧レギュレータ131と塗料液圧レギュレータ132の2つをカスケード接続した構成となっている。
【0046】
塗料供給手段110は、実施例1と同様であり、塗料タンク111と定量ポンプ112と塗料を混合する塗料混合ユニット113とリリーフ弁114とドレンタンク115とコントローラ116を含み、それらを接続して塗料を供給する塗料供給配管を備えているが、その先にある塗料液圧レギュレータ130aに特徴がある。
【0047】
図3の構成例では、塗料液圧レギュレータ130aのうち、一次側(上流側)にある方が塗料液圧レギュレータ131であり、二次側(下流側)にある方が塗料液圧レギュレータ132である。つまり、複数設置した塗料液圧レギュレータのカスケード接続において、塗料タンク111に近い方を一次側の塗料液圧レギュレータ131とし、塗装ガン140に近い方を二次側の塗料液圧レギュレータ132としている。
【0048】
ここで、工夫として、本実施例2では、一次側の塗料液圧レギュレータ131の圧力制御の精度よりも二次側の塗料液圧レギュレータ132の圧力制御の精度が高いものとしている。
塗料液圧レギュレータ130は、入力された塗料圧力に対して、昇圧したり降圧したり塗料圧力を調整して整える能力があるが、一般に、高精度な圧力調整ができるものは、高精度になる代わりに圧力の調整幅が狭くなるため、逆に大きな変動には対応しづらくなる。ここで、本発明では、複数の塗料液圧レギュレータ130をカスケード接続し、さらに、一次側の塗料液圧レギュレータ131の圧力制御は比較的大きな圧力変動に耐え得る仕様のものを採用する一方、二次側の塗料液圧レギュレータ132の圧力制御の精度が高い仕様のものを採用することにより、塗料供給手段110全体としては、定量ポンプ112による圧力制御はある程度ラフな値としても、一次側の塗料液圧レギュレータ131により対応可能であり、ラフな幅で変動する圧力に対する圧力制御を行う。そして、一次側の塗料液圧レギュレータ131によってある程度の変動幅に整えられた塗料圧力に対して、二次側の塗料液圧レギュレータ132により精度の高い圧力制御を行うことができる。
【0049】
もし、1つの塗料液圧レギュレータ130によって、入力値がラフな変動幅の圧力であっても対応でき、かつ、高精度な圧力制御を行おうとすると、特殊な塗料液圧レギュレータ130を開発しなければならないが、それは設計コスト、製造コストが高くついてしまう。その一方、本実施例2のように、ある程度ラフな塗料圧力の変動にも対応できる塗料液圧レギュレータ131を一次側に配置し、カスケード接続により、高精度な塗料圧力の調整が可能な塗料液圧レギュレータ132を二次側に配置することにより、比較的安価に塗装装置100aを製作することができる。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、本発明の塗装装置のバリエーションであり、塗料液圧レギュレータ130の入力側の圧力と塗料液圧レギュレータ130の出力側の圧力との差分量を定量ポンプ111の作動量に対するフィードバック信号として帰還させるフィードバックループ制御を行うこと制御手段を備えた塗装装置である。
【0051】
図4は、実施例3にかかる本発明の塗装装置100bの全体の構造例を示す図である。
図4は簡単なブロック図となっており、各構成要素の細かい構造については図示していない。
図4に示す構成例では、本実施例3の塗装装置100bは、図1と同様、液体供給路としての塗料供給配管110と、エア供給路としてのエア供給配管120と、塗料液圧レギュレータ130bと、塗装ガン140を中心に描いており、塗料を循環させるための液体戻し路としての液体戻し配管などは設けていないが、液体戻し配管を設けて全体を塗料循環系としても良い。
本実施例3の構成例にかかる塗装装置100bは、実施例1と同様、塗料供給手段110、エア供給手段120、塗料液圧レギュレータ130b、塗装ガン140を備えた構成となっているが、塗料液圧レギュレータ130bが、フィードバックループ135を備えた構成となっている。
【0052】
塗料供給手段110は、実施例1と同様であり、塗料タンク111と定量ポンプ112bと塗料を混合する塗料混合ユニット113とリリーフ弁114とドレンタンク115とコントローラ116を含み、それらを接続して塗料を供給する塗料供給配管を備えているが、その先にある塗料液圧レギュレータ130bから定量ポンプ112bに対してのフィードバックループ135が設けられている点に特徴がある。
【0053】
図4の構成例では、塗料液圧レギュレータ130bが単数であり、実施例1の構成例として描いているが、実施例2のように、塗料液圧レギュレータ130bが複数の塗料液圧レギュレータ131と塗料液圧レギュレータ132を備えた構成であっても可能である。この場合、一次側の塗料液圧レギュレータ131、二次側の塗料液圧レギュレータ132のいずれからのフィードバックでも良い。
【0054】
図4に示すように、本実施例3の構成例では、定量ポンプ112bと塗装ガン140との間に配置された塗料液圧レギュレータ130において、塗料圧力が、予め設定された設定値と比較して偏差がある場合、塗料液圧レギュレータ130bは、その偏差がゼロとなるようにフィードバック信号(制御信号)を定量ポンプ112bに帰還させる。定量ポンプ112bには図示しないサーボモータなどがありその回転により定量の塗料が圧送される仕組みとなっているが、定量ポンプ112bはこのフィードバック信号に基づいて圧送する塗料の流量の増減の制御が可能となり、より適正な流量の塗料の圧送を行うことができる。つまり、ベースとなる定量ポンプ112bからの塗料吐出圧力が大きい傾向にあれば、圧送する流量を減少させ、ベースとなる定量ポンプ112bからの塗料吐出圧力が小さい傾向にあれば、圧送する流量を増加させる。この結果、本実施例3では、塗料供給手段110全体の圧送エネルギーを抑制することができ、塗装装置の各所における圧力損失も抑制することができる。
【実施例4】
【0055】
実施例4は、本発明の塗装装置100を含むいわゆるAI塗装システム200としたものである。実施例1から実施例3に記載した本発明の塗装装置100、100a、100bに対して、少なくとも1つの塗装ガン140による塗装条件を決定することを学習する学習部170を備えた機械学習装置180を伴う、塗装作業に関するAI塗装システム200を構築した例である。
この例では、塗装ガン140はロボットアームにより自動塗装の操作が可能となっている。
【0056】
現在、ディープラーニング理論に基づくAI(人工知能)システムが普及し始めている。
しかし、ディープラーニング理論は一般的な理論であり、各技術分野において如何にAIシステムを組み上げれば良いかまでは必ずしも明らかでなく創作容易のレベルにはない。
実施例4は、実施例1から実施例3に記載した本発明の塗装装置100、100a、100bを用いつつ、機械学習装置180を用いて塗装作業に関するAI塗装システム200を構築するものである。
【0057】
図5は、実施例4にかかる塗装作業に関するAI塗装システム200の構成例を簡単に示した図である。
図5に示すように、塗装作業に関するAI塗装システム200は、制御対象として、実施例1から実施例3に記載した本発明の塗装装置100、100a、100bが採用されている。
【0058】
機械学習装置180として、状態観測部160と学習部170を備えたものとなっている。
状態観測部160は、塗装装置100、100a、100bにおいて、塗装実行中または塗装実行後の少なくとも一方において、塗装ガン140における塗装条件に関する少なくとも1つの物理量と、塗装条件から構成される少なくとも1つの状態変数を観測するものである。
なお、この例では、状態観測部160によって観測される「少なくとも1つの物理量」は、塗料密度、塗料粘度、塗料配管の長さ、塗料配管の径、塗料配管内の塗料の流体抵抗、定量ポンプの圧送量、塗料液圧レギュレータの塗料出力液圧のうちの少なくとも1つを含むものとする。また、状態観測部160によって観測される「少なくとも1つの塗装条件」は、塗装ガンの塗料噴射圧力、塗装ガンの塗料噴射量、塗装ガンの塗料噴射広角、稼働する塗装ガンの数のうちの少なくとも1つを含むものとする。
これらは、塗装において考慮すべき物性であり、これらのどれに注目するかにより塗装条件を如何に調整するかという学習の観点が変わってくる。
【0059】
学習部170には、塗装条件を決める行動価値関数を格納した行動価値関数部173と、状態観測部160で得られた状態変数に基づいて、少なくとも1つの塗装条件を決定する行動価値関数を更新する関数更新部172と、関数更新部172においてどのように少なくとも1つの塗装条件を決定することを学習する。
【0060】
ここで、学習部170は、その行動価値関数更新の良否を学習する指標として、報酬というスコアを用いる。この報酬は、状態観測部160で得られた状態変数に基づいて少なくとも1つの塗装条件を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部171により行う。結局、報酬は、行動価値関数を更新することにより、塗装ガン140の塗装条件が設計値に対して如何に効率よく収束するかというスコアであり、この報酬の大きさが学習成果の良否を決めるように学習部170は学習を進めてゆくこととなる。ここで、学習部170は、教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習、トランスダクション、マルチタスク学習など各種の機械学習を行い得る。以下においては、学習部170はQ学習(Q-learning)により強化学習を行うものとして説明を続ける。
なお、報酬計算部171は、報酬条件を設定する報酬条件設定部を含んでおり、報酬計算部171は、報酬条件設定部により設定された報酬条件に基づいて報酬を計算する。
【0061】
報酬条件設定部により設定される報酬条件としては、例えば物理量の安定度、塗装サイクル時間、塗装品質、塗料消費量、エネルギー消費量の度合いに応じて定まる。例えば物理量が安定、つまり物理量の変動が小さいと判断されれば、報酬が増え、そうでない場合には報酬は減る。さらに、塗装サイクル時間が長ければ報酬は減り、短ければ増える。さらに、塗装品質が高ければ報酬が増え、低ければ減る。さらに、塗料ワイヤ消費量が多ければ報酬は減り、少なければ増える。エネルギー消費量が多ければ報酬は減り、少なければ増える。このような判定については、それぞれのデータを取得する手段が設けられ、それぞれについて個別の閾値などが予め設定されているものとする。
【0062】
さらに、機械学習装置180は、学習部170の学習結果に基づいて、現在の状態変数から少なくとも一つの塗装条件と、該少なくとも一つの塗装条件の最適調整量とを決定する意思決定部を含んでいるものとする。この意思決定部は、より良い行動の選択(意思決定)を学習するものである。なお、意思決定部が機械学習装置180に含まれなくて外部のコントローラ(図示せず)に含まれていてもよい。さらに、機械学習装置180は得られた結果に基づいて塗装を実行する塗装ガン140を自動的に作動させるロボットアームの動作を決定する。
【0063】
なお、関数更新部172は、この報酬計算部171により計算された報酬に基づいて、行動価値関数を更新する仕組みとなっており、この関数更新部172による行動価値関数部173の行動価値関数の更新を繰り返すことによって、報酬が最も多く得られる少なくとも1つの塗装条件を学習するものである。
学習部170は、関数更新部172が学習した結果を記憶する学習結果記憶部を含んでいる。
その結果、本実施例4に示すAI塗装システム200は、機械学習装置180を用いたディープラーニングにより、人手で調整するよりも効率的に、塗装装置100,100a,100bにおける塗装条件の調整を行うことが可能となる。
【0064】
図6は機械学習装置180の動作を示すフローチャートである。図6に示される動作は、塗装ガン140のロボットアームが塗装する毎に実施されるものとする。
はじめに、図6のステップS1において、少なくとも一つの塗装条件およびその内容(値など)が選択される。少なくとも一つの塗装条件の内容はそれぞれの所定範囲からランダムに選択される。
【0065】
次いで、ステップS2においては、少なくとも一つの物理量が選択され、その物理量について連続する複数データが検出され、それら複数データの変動が大きいか否かが判定される。変動が小さい場合、つまり物理量が安定している場合には(ステップ2:Y)、ステップS3において報酬が増える。これに対し、変動が大きい場合には(ステップ2:N)、物理量が安定していないと判断され、ステップS12において報酬が減るかまたはそのままとなる。
【0066】
次いで、ステップS4においては、塗装サイクル時間が検出され、それらが、それぞれの規定値と比較される。そして、塗装サイクル時間がそれぞれの規定値よりも小さい場合には(ステップ4:Y)、ステップS5において報酬が増え、塗装サイクル時間がそれぞれの規定値よりも小さくない場合には(ステップ4:N)、ステップS12において報酬が減るかまたはそのままとなる。
【0067】
次いで、ステップS6においては、塗装ガン140から噴射された塗料消費量が検出され、それらが、それぞれの規定値と比較される。そして、塗料消費量がそれぞれの規定値よりも小さい場合には(ステップ6:Y)、ステップS7において報酬が増え、塗装サイクル時間がそれぞれの規定値よりも小さくない場合には(ステップ6:N)、ステップS12において報酬が減るかまたはそのままとなる。
【0068】
次いで、ステップS8においては、塗装品質が高いか否かが判定される。そして、塗装品質が高い場合には(ステップ8:Y)、ステップS9において報酬が増え、塗装品質が高くない場合には(ステップ8:N)、ステップS12において報酬が減るかまたはそのままとなる。なお、塗装品質が高いか否かは、塗装状態の画像などで判断してもよい。あるいは、塗装不良の有無を通じて塗装品質が高いか否かを判断してもよい。塗装の画像が、例えばピット、塗装抜け、塗装ムラの有無、予め設定された塗装厚の不足、予め設定された塗装盛り高さの有無などを含んでいる場合には、塗装不良であると判断する。
【0069】
次いで、ステップS10においては、エネルギー消費量が検出され、それらが、それぞれの規定値と比較される。そして、エネルギー消費量がそれぞれの規定値よりも小さい場合には(ステップ10:Y)、ステップS11において報酬が増え、エネルギー消費量がそれぞれの規定値よりも小さくない場合には(ステップ10:N)、ステップS12において報酬が減るかまたはそのままとなる。
【0070】
このような報酬の増減は報酬計算部71によって算出される。また、報酬の増減の額については、ステップに応じてその値が異なるように設定されていても良い。また、ステップS2、S4、S6、S8、S10のうちの少なくとも一つの判定ステップおよび関連する報酬増のステップを省略することもできる。
【0071】
その後、ステップS21においては、関数更新部72が行動価値関数73を更新する。ここで、学習部170が実施するQ学習は、或る環境状態sの下で、行動aを選択する価値(行動の価値)Q(s、a)を学習する方法である。そして、Q学習では、或る状態sのときに、Q(s、a)の最も高い行動aを選択する。Q学習では、試行錯誤により、或る状態sの下で様々な行動aをとり、そのときの報酬を用いて正しいQ(s、a)を学習する。
行動価値関数Q(s、a)の更新式は以下の数(1)で表される。
【数1】
【0072】
ここで、ここでst,atは、時刻tにおける環境と行動を表す。行動atにより、環境はst+1に変化し、その環境の変化によって、報酬rt+1が算出される。また、maxの付いた項は、環境st+1の下で、最も(その時に分かっている)Q値の高い行動aを選んだ場合のQ値にγを掛けたものになる。ここでγは0<γ≦1(通常は0.9~0.99)の割引率であり、αは0<α≦1(通常は0.1程度)の学習係数である。
この更新式は、状態sに於ける行動aの評価値Q(st,at)よりも、aによる次の環境状態に於ける最良の行動の評価値Q(st+1,maxat+1)の方が大きければ、Q(st,at)を大きくするし、逆に小さければ、Q(st,at)も小さくする事を示している。つまり、或る状態に於ける或る行動の価値を、それによる次の状態に於ける最良の行動の価値に近づけるようにしている。言い換えれば、学習部170は、ロボットアームによる塗装を実行するのに最も適した状態、つまり少なくとも一つの最適な塗装条件を更新する。
【0073】
このようにして、ステップS13においては、前述した数(1)を用いて関数更新部72が行動価値関数73を更新する。そして、ステップS1に戻り、少なくとも一つの塗装条件の他の内容が選択され、同様にして行動価値関数73が更新される。なお、行動価値関数73の代わりに、行動価値テーブルを更新するようにしてもよい。
【0074】
図6に示される処理が多数回にわたって繰返し行われることにより、行動価値関数73の信頼度が高められる。そして、ステップS11において、信頼性の高い行動価値関数73に基づいて、例えばQ値が高くなるように少なくとも一つの塗装条件の内容をより最適に決定することが可能となる。
このようにして、本発明の機械学習装置180の関数更新部72により更新された内容を、塗装を実行するときの、より最適な塗装条件の内容として自動的に決定することができる。そして、そのような機械学習装置180をロボットアームにより作動する塗装ガン140に導入することによって、最適な溶接条件を自動的に作成することができる。その結果、生産効率を向上させられる。
【0075】
本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
以上、本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明は、塗装装置として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
100 塗装装置
110 塗料供給手段
111 塗料タンク
112 定量ポンプ
113 塗料混合ユニット
114 リリーフ弁
115 ドレンタンク
116 コントローラ
120 エア供給手段
130 塗料液圧レギュレータ
150 塗装ガン
121 エアコンプレッサー
122 オイルミストセパレータ
123 エアレギュレータ
130 塗料液圧レギュレータ
131 一次側の塗料液圧レギュレータ
132 二次側の塗料液圧レギュレータ
135 フィードバックループ
140 塗装ガン
160 状態観測部
170 学習部
171 報酬計算部
172 関数更新部
173 行動価値関数部
180 機械学習装置
200 AI塗装システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8