(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ポリアミドの製造方法およびポリアミド
(51)【国際特許分類】
C08G 69/16 20060101AFI20221122BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08G69/16
C08L77/02
(21)【出願番号】P 2021555976
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039787
(87)【国際公開番号】W WO2021095482
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019204118
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】正木 崇士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0109338(KR,A)
【文献】国際公開第2012/161174(WO,A1)
【文献】特開平06-322109(JP,A)
【文献】特開2017-190449(JP,A)
【文献】国際公開第2021/095749(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186015(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/058019(WO,A1)
【文献】特許第3453600(JP,B2)
【文献】特開2017-124987(JP,A)
【文献】特開2016-145311(JP,A)
【文献】Norioki KAWASAKI,Syntheses, Properties, and Biodegradation of Aliphatic Polyamides,Osaka University Knowledge Archive,日本,Graduate School of Engineering, Osaka University,2015年11月,https://doi.org/10.18910/55962,DOI:10.18910/55962
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00-69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアルキレン基と少なくとも1つのアミド結合とを有する原料モノマーを、塩基性触媒および重合開始剤の存在下で重合する重合工程を含み、
前記アルキレン基の炭素数は、1以上3以下であり、
前記重合開始剤は、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルであることを特徴とするポリアミドの製造方法。
【請求項2】
前記第2級または第3級のアルコールの炭素数は8以下である、請求項1に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項3】
前記原料モノマーが2-ピロリドンである、請求項1または2に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項4】
前記重合開始剤の添加量が、前記原料モノマーに対して3.0mol%以下である、請求項1~3の何れか1項に記載のポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドの製造方法およびポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4は、非分解性のナイロン樹脂の代替となる可能性がある生分解性樹脂として検討が進められている。ポリアミド4を製造する際に使用される重合開始剤として、ピロリドンのイミド化合物、およびカルボン酸化合物が知られている。例えば、特許文献1には、ポリアミド4の製造に使用されるカルボン酸化合物の例として、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物およびカルボン酸エステルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
重合開始剤としてピロリドンのイミド化合物を使用する場合、ポリアミド4の重合の前段階としてイミド化合物の合成が必要となり、工程が増えることが課題である。また、イミド化合物の合成時に過剰量のピロリドンを使用するため、コストが増加するという課題がある。また、イミド化合物を用いて重合した、特に高分子量体のポリアミド4はポリマー鎖長の分布が大きく、均一性に欠ける課題がある。
【0005】
カルボン酸ハロゲン化物などのカルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物を重合開始剤として使用する場合、減圧下加熱条件でポリアミド4の重合を行う必要がある。カルボン酸エステルを重合開始剤として使用する場合も、減圧下加熱条件でポリアミド4の重合を行う必要があり得る。よって、重合装置が複雑になるという課題がある。また、カルボン酸塩化物およびカルボン酸無水物、その重合反応副生物である塩酸およびカルボン酸は腐食性を有するため、耐食性の反応容器を用いてポリアミド4の重合を行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、常圧下室温条件でポリアミドを簡便に高い収率で製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のカルボン酸エステルを重合開始剤として使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明に係るポリアミドの製造方法は、少なくとも1つのアルキレン基と少なくとも1つのアミド結合とを有する原料モノマーを、塩基性触媒および重合開始剤の存在下で重合する重合工程を含み、前記アルキレン基の炭素数は、1以上3以下であり、前記重合開始剤は、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るポリアミドは、少なくとも1つのアルキレン基と、少なくとも1つのアミド結合とを有する構造単位の繰り返しからなり、前記アルキレン基の炭素数はそれぞれ、1以上3以下であり、重量平均分子量は50,000以上であり、多分散度(Mw/Mn)は3以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、常圧下室温条件でポリアミドを簡便かつ高収率で製造することができる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔ポリアミドの製造方法〕
本実施形態に係るポリアミドの製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」と略記する場合がある)で得られるポリアミドは、-CONH-で表される構造単位を有する高分子化合物である。本実施形態の製造方法で得られるポリアミドについては後述する。
【0012】
本実施形態の製造方法は、原料モノマーを、塩基性触媒および重合開始剤の存在下で重合する重合工程を含む。
【0013】
<原料モノマー>
本実施形態の製造方法で使用する原料モノマーは、少なくとも1つのアルキレン基と、少なくとも1つのアミド結合とを有しており、少なくとも1つのアルキレン基の炭素数それぞれが1以上3以下のアルキレン基である、重合可能な化合物であれば特に限定されるものではない。原料モノマーは、少なくとも1つのアルキレン基を有していればよいが、アルキレン基を1つまたは2つ有していることが好ましい。また、原料モノマーは、少なくとも1つのアミド結合を有していればよいが、アミド結合を1つまたは2つ有していることが好ましい。
【0014】
原料モノマーの一態様としては、例えば、カプロラクタム、2-ピロリルピロリドン、γアミノブタン酸、ωアミノヘキサン酸、εアミノペンタン酸、および2-ピロリドン等が挙げられ、中でも2-ピロリドンが好ましい。原料モノマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<塩基性触媒>
本実施形態の製造方法で使用する塩基性触媒は、原料モノマーにアニオン種を発生させることができるのであれば特に限定されるものではない。塩基性触媒としては、アニオン重合の重合触媒として用いられるものが挙げられ、例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、ならびにこれら金属の水素化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、アルキル化物およびアルコキシド等が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いの観点からアルカリ金属のアルコキシドが好ましく、3級アルコールのアルコキシドがより好ましい。塩基性触媒としては、これら1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
塩基性重合触媒の使用量(添加量)は特に限定されないが、供給される原料モノマーの総量に対して好ましくは0.1mol%以上10mol%以下、より好ましくは1mol%以上4mol%以下、さらに好ましくは2mol%以上4mol%以下である。塩基性重合触媒の使用量が上記範囲であれば、得られるポリアミドの収率が高くなる。
【0017】
<重合開始剤>
本実施形態の製造方法で使用する重合開始剤は、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルである。本明細書において、鎖状カルボン酸エステルとは、ラクトン以外、すなわち、環内にエステル結合を有する化合物である環状エステル以外のカルボン酸エステルを指す。したがって、エステル結合が鎖状構造部分に存在してさえいれば、環状構造を有する基が鎖状構造に結合している化合物も、鎖状カルボン酸エステルに包含される。
【0018】
副生するアルコールの除去の点から、上記第2級または第3級のアルコールの炭素数が8以下であることが好ましい。炭素数が8以下である第2級アルコールの例として、2-プロパノール(イソプロパノール)、ジイソプロパノール、2-ブタノール(secブタノール)、2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール、2-ヘプタノール、5-メチル-2-ヘキサノール、2-オクタノール、シクロペンタノール、およびシクロヘキサノール等が挙げられる。炭素数が8以下である第3級アルコールの例として、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブタノール)、ジtert-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(tert-アミルアルコール)、1-エチニル-1-シクロプロパノール、および1-アダマンタノール等が挙げられる。生成するポリマーの熱安定性の点から、第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルが好ましい。
【0019】
上記鎖状カルボンエステルのカルボン酸に由来する構造の炭素数は特に限定されないが、原料モノマーへの溶解性の点で、18以下が好ましい。当該カルボン酸はモノカルボン酸であっても、ジカルボン酸であってもよい。炭素数18以下のモノカルボン酸の例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸およびイソ酪酸等が挙げられる。炭素数18以下のジカルボン酸の例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸およびマレイン酸等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の製造方法で使用する重合開始剤の一例として、酢酸tert-ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸シクロヘキシル、アジピン酸ジイソプロピル、ラウリン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、およびマロン酸ジtert-ブチル等が挙げられる。
【0021】
重合開始剤の使用量(添加量)は特に限定されないが、供給される原料モノマー総量に対して0.01mol%以上3.0mol%以下が好ましく、0.1mol%以上2.0mol%以下がより好ましく、0.2mol%以上1.5mol%以下がさらに好ましい。重合開始剤の使用量が上記範囲であれば、高分子量であるポリアミドを得ることができる。
【0022】
<重合促進剤>
本実施形態の製造方法において、重合促進剤を使用してもよい。重合促進剤を使用することにより、重合工程を加速し、重合工程の時間を短縮することが可能である。重合促進剤の例として、オニウム塩、クラウンエーテル、および二酸化炭素等が挙げられる。
【0023】
<その他の材料>
重合反応において、必要に応じて添加剤を加えてもよい。添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、安定剤、染料および顔料等が挙げられ、これらは2種以上配合してもよい。使用する添加剤の量は、本発明の目的および効果が損なわれない範囲内で調整すればよい。
【0024】
<重合工程>
本実施形態の製造方法における重合工程は、例えば、以下のようにして行ってもよい。まず、原料モノマーに塩基性触媒を加えることによって、原料モノマーにおいてアニオン種を発生させる。そこに重合開始剤を添加することで重合反応させ重合工程を開始する。原料モノマーの添加は一括に反応系に供給してもよいし、複数回に分けて反応系に添加してもよい。
【0025】
上記重合工程における反応系内の温度(重合温度)は、例えば、15~70℃の範囲であり得、20~60℃の範囲であることが好ましく、25~50℃の範囲であることがより好ましい。上記重合工程は室温で行うことができる。室温で行われる場合、重合工程は、特に反応容器の制限はない。例えば、プラスチック容器、ガラス容器、または金属容器内で反応液を攪拌するのみの簡便な反応系内で、重合工程を実施することができる。重合温度が上記範囲より低いと、原料モノマーが固化し易く、反応が遅くなることがある。重合温度が上記範囲より高いと、重合工程によって得られたポリマーが着色することがある。
【0026】
重合工程における反応時間(重合時間)は、反応温度または原料の量比等に応じて、適宜調整することが可能である。重合反応は重合開始剤の添加によって開始される。また、公知の重合停止剤の添加により、重合反応を停止させてもよい。
【0027】
上記重合工程は、常圧で行うことができる。常圧で行われる場合、重合工程は、開放された系内でも閉鎖された系内でも実施することができる。
【0028】
原料モノマーの転化率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上になるまで重合工程を行ってもよい。原料モノマーの転化率は、反応混合物中に残存する原料モノマーの量をガスクロマトグラフィーにより求め、その残存量と原料モノマーの仕込み量に基づいて算出することができる。
【0029】
実施例に示すように、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルを重合開始剤として使用することにより、常圧下室温においても重合反応を進行させることができる。よって、特に反応容器の制限はなく、例えば、プラスチック容器、ガラス容器、または金属容器内で反応液を攪拌するのみの簡便な装置でポリアミドを得ることができる。また、当該重合開始剤は腐食性がないため、耐食性の反応容器を用いる必要がない。
【0030】
<その他の工程>
本実施形態の製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述の重合工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例として、重合工程で得られたポリアミドを架橋する架橋工程等が挙げられる。
【0031】
〔ポリアミド〕
本実施形態の製造方法によって得られるポリアミドも本実施形態に含まれる。ポリアミドは、少なくとも1つのアルキレン基と、少なくとも1つのアミド結合とを有する構造単位の繰り返しからなるものであれば特に限定されない。この構造単位は、アルキレン基を1つ以上2つ以下有していることが好ましい。また、この構造単位は、アミド結合を1つ以上2つ以下有していることが好ましい。この構造単位の繰り返し単位の数は、ポリアミドの重量平均分子量に応じて適宜定めればよい。
【0032】
上記アルキレン基のそれぞれの炭素数が1以上3以下であれば特に限定されない。また、上記アルキレン基は、鎖状または分枝鎖状であってもよい。また、上記構造単位にアルキレン基が複数含まれている場合、それぞれの炭素数は独立して1以上3以下であることが好ましい。
【0033】
上記構造単位の一態様は、例えば、下記式(1)で表される構造単位である。
【0034】
-(CH2)x-1-CONH-・・・(1)
式(1)中、xは2以上4以下の整数であり、2または3であることが好ましい。本明細書では、式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミドを、式(1)中のxの数に応じて「ポリアミドx」と称することがある。例えば、式(1)においてxが4のポリアミドであるとき、「ポリアミド4」と称する。本実施形態の製造方法で得られるポリアミドの一例は、ポリアミド4である。
【0035】
本実施形態の製造方法で得られるポリアミドの重量平均分子量(Mw)の下限値は、好ましくは50,000以上、より好ましくは55,000以上、さらに好ましくは60,000以上である。また、この重量平均分子量の上限値は好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。重量平均分子量は例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。重量平均分子量が上記数値範囲内であるポリアミドは、成型品の材料として好適である。
【0036】
また、本実施形態の製造方法で得られるポリアミドの多分散度の上限値は3以下、好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2以下である。本明細書において多分散度とは、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)で表される数値であり、分子量分布とも称される。数平均分子量は例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。多分散度が上記数値範囲内であるポリアミドは、低分子量体であるオリゴマーが少ないため、使用環境での溶出成分が少なく安定した性質を示す。また、熱分解を促進する末端基の含有量が少ないことから、溶融成形においてのポリアミドの安定加工性が向上する。さらに、上記数値範囲内の多分散度を有するポリアミドから成形された成形体は高い機械強度を示すという効果を奏する。
【0037】
〔まとめ〕
本実施形態に係るポリアミドの製造方法は、少なくとも1つのアルキレン基と少なくとも1つのアミド結合とを有する原料モノマーを、塩基性触媒および重合開始剤の存在下で重合する重合工程を含み、前記アルキレン基の炭素数は、1以上3以下であり、前記重合開始剤は、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルであることを特徴とする。
【0038】
本実施形態に係るポリアミドの製造方法において、前記第2級または第3級のアルコールの炭素数は8以下であってもよい。
【0039】
本実施形態に係るポリアミドの製造方法において、前記原料モノマーが2-ピロリドンであってもよい。
【0040】
本実施形態に係るポリアミドの製造方法において、前記重合開始剤の添加量が、前記原料モノマーに対して3.0mol%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態に係るポリアミドは、少なくとも1つのアルキレン基と、少なくとも1つのアミド結合とを有する構造単位の繰り返しからなり、前記アルキレン基はそれぞれ炭素数1以上3以下であり、重量平均分子量が50,000以上であり、多分散度(Mw/Mn)が3以下であることを特徴とする。
【0042】
本実施形態に係るポリアミドは、ポリアミド4であってもよい。
【0043】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0044】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0045】
〔実施例1〕
ガラス製容器中に、原料モノマーとして2-ピロリドン(2PDN)を30g仕込んだ。さらに、塩基性触媒としてtert-ブトキシカリウムを0.791g(2PDNに対して2.0mol%)、および重合開始剤として酢酸tert-ブチルを0.205g(2PDNに対して0.5mol%)加えて、攪拌した。ガラス製容器中の混合物が反応の進行に伴い固化した段階で攪拌を停止した。そして、反応開始から24時間経過するまで混合物を静置し、ポリアミドを得た。すなわち、重合時間は24時間だった。すべての操作は、露点-40℃以下に管理された常圧の空気雰囲気下、室温で実施した。
【0046】
〔実施例2〕
重合開始剤を酢酸sec-ブチル(0.5mol%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0047】
〔実施例3〕
重合開始剤を酢酸イソプロピル、重合開始剤の量を1.0mol%、触媒の量を4.0mol%、および重合時間を4時間にした以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0048】
〔実施例4〕
重合開始剤を酢酸sec-ブチル(1.0mol%)に変更した以外は、実施例3と同様にして、ポリアミドを得た。
【0049】
〔実施例5〕
重合開始剤を酢酸シクロヘキシル(1.0mol%)に変更した以外は、実施例3と同様にして、ポリアミドを得た。
【0050】
〔実施例6〕
重合開始剤をアジピン酸ジイソプロピル(1.0mol%)に変更した以外は、実施例3と同様にして、ポリアミドを得た。
【0051】
〔実施例7〕
重合開始剤をミリスチン酸イソプロピル(1.0mol%)に変更した以外は、実施例3と同様にして、ポリアミドを得た。
【0052】
〔実施例8〕
重合開始剤をマロン酸ジtert-ブチル(0.5mol%)、および、重合時間を72時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0053】
〔比較例1〕
重合開始剤を酢酸ブチル(0.5mol%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0054】
〔比較例2〕
重合開始剤を酢酸イソブチル(0.5mol%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0055】
〔比較例3〕
重合開始剤をアジピン酸ジメチル(0.5mol%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0056】
〔比較例4〕
重合開始剤をアジポイルジピロリドン(0.5mol%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0057】
〔比較例5〕
重合開始剤をアセチルピロリドン、重合開始剤の量を1.0mol%、触媒の量を2.5mol%、および重合時間を48時間にした以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドを得た。
【0058】
実施例1~8および比較例1~5のポリアミドの調製に使用した重合開始剤、重合開始剤の量、触媒の量、および、重合時間を表1に示す。
【0059】
〔ポリアミドの評価〕
(重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定)
トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、ポリアミド試料10mgを溶解させて10cm3とした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得た。この試料溶液10μLを以下に示す分析装置に注入し、後述する測定条件でポリアミドの重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnを測定した。
・分析装置:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置(昭和電工株式会社製、GPC104)
・測定条件:
A)SHODEX 104システム
B)カラム:昭和電工HFIP 606×2本 直列、40℃
C)5mM CF3COONa/HFIP、0.1mL/min
D)Detector:RI
E)サンプル10mg/5mM CF3COONa/HFIP 10mL
F)PMMA標準物質(150 E4, 65.9 E4, 21.8 E4, 4.96 E4, 2.06 E4, 0.68 E4, 0.2 E4)による校正(PMMA換算)法
【0060】
(転化率の測定)
重合反応後のポリアミド約0.1~0.2gを10mLのHFIPに溶解させた。そして、10mLのHFIPに対し40mLのアセトンを加えることでポリマーを析出させた。ポリマーを析出させた後のアセトン液をメンブレンフィルターでろ過したろ液をガスクロマトグラフィー(GC)分析することで2-ピロリドン量を求めた。GC分析における測定条件は以下の通りである。
測定装置:GC-2010Plus(株式会社島津製作所)
カラム:Rxi-5ms 15m, 0.25mm ID 0.25μm
カラム温度:50℃
昇温プログラム:50℃(5min)→20℃/min→250℃(5min)
FID温度:250℃
キャリアガス:He
【0061】
残モノマーの重量とサンプリングポリマー重量との比率から残2-ピロリドン率を求め、転化率を以下のように計算した。
転化率(%)=100-{残2-ピロリドン率}(%)
【0062】
実施例1~8および比較例1~5のポリアミドの転化率、重量平均分子量(Mw)、および多分散度(Mw/Mn)の測定結果を表2に示す。
【0063】
(重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定)
重合して得られたポリアミド試料を粉砕後、イオン交換水中で複数回洗浄し、2-ピロリドンと触媒を除去した後、120℃で8時間真空乾燥することでポリアミド紛体を得た。得られたポリアミド紛体10~11mgを熱重量測定(TGA)し、重量保持率から熱安定性を評価した。TGAにおける測定条件は以下のとおりである。
測定装置:TGA/DSC 2(メトラー・トレド株式会社)
温度条件:25℃→20℃/min→270℃(5min)
測定雰囲気:N2
【0064】
測定後の重量保持率は実施例1のポリアミドにおいて72.3%、比較例4のポリアミドにおいて30.4%であった。この結果から、実施例1で得られたポリアミドは熱安定性に優れていることが分かった。
【0065】
【0066】
【0067】
〔結果〕
実施例1~8のポリアミドは、常圧下室温においても重合反応を進行させることができ、簡便にポリアミドを得ることができることが分かった。また、実施例1~8のポリアミドの多分散度(Mw/Mn)は低かった。この結果から、第2級または第3級のアルコールに由来する構造を有する鎖状カルボン酸エステルを重合開始剤として使用することによって、多分散度が低いポリアミドを簡便に得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリアミドは、化粧品分野、医療分野および工業製品分野等、幅広い分野において利用できる。