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▶ フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】複式溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/067 20060101AFI20221122BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20221122BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20221122BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20221122BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20221122BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B23K9/067
B23K9/173 E
B23K9/12 305
B23K9/10 Z
B23K9/09
B23K9/073 545
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021559750
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020059899
(87)【国際公開番号】W WO2020208020
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】19168534.6
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘル・アンドレアス
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108176915(CN,A)
【文献】特表2015-518424(JP,A)
【文献】特開2001-113373(JP,A)
【文献】特開2008-126233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/067
B23K 9/173
B23K 9/12
B23K 9/10
B23K 9/09
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解する電極としての少なくとも二つの溶接ワイヤー(3A,3B)を用いて、一つの加工物(6)に対して、それぞれ一つの溶接プロセスを実施する複式溶接方法を実施する方法であって、第一の溶接ワイヤー(3A)がガイド電極として設けられるとともに、少なくとも一つの別の溶接ワイヤー(3B)が追従電極として設けられて、ガイド電極と追従電極の溶接プロセスがそれぞれ制御ユニット(9A,9B)によって制御される方法において、
ガイド電極の制御ユニット(9A)がガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始して、ガイド電極が所定の道程(zA)又は所定の時間(tA)だけ動かされた時に、同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9B)に送信することによって、この複式溶接方法のスタートオペレーションが実施されること、及び
追従電極の制御ユニット(9B)は、受信した同期信号(Y)に応じて、ガイド電極が加工物(6)に接触する前に追従電極の溶接ワイヤー送りを開始することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
ガイド電極が、追従電極よりも前に加工物(6)に接触し、その場合、ガイド電極では、加工物(6)との接触時にアークが点火され、追従電極では、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時にアークが点火されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
追従電極が、ガイド電極よりも前に加工物(6)に接触し、その場合、追従電極の制御ユニット(9B)が短絡(KSB)を検出して、同期信号(Y)をガイド電極の制御ユニット(9A)に送信し、そして、ガイド電極の制御ユニット(9A)がガイド電極の溶接ワイヤー送りを停止するとともに、追従電極の制御ユニット(9B)が追従電極の溶接ワイヤー送りを停止すること、
追従電極の制御ユニット(9B)が、加工物(6)から所定の電極間隔(EB)だけ離れた所に追従電極を動かして、同期信号(Y)をガイド電極の制御ユニット(9A)に送信すること、
ガイド電極の制御ユニット(9A)がガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始して、ガイド電極が加工物(6)に接触した時に、ガイド電極でのアークが点火され、ガイド電極の制御ユニット(9A)が、アークの点火時に同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9B)に送信すること、及び
追従電極の制御ユニット(9B)が、受信した同期信号(Y)に応じて追従電極の溶接ワイヤー送りを開始して、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、追従電極でアークが点火されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
追従電極がガイド電極よりも前に加工物(6)に接触し、その場合、追従電極がガイド電極として定められるとともに、ガイド電極が追従電極と定められること、及び
ガイド電極では、加工物(6)との接触時にアークが点火され、追従電極では、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極によりイオン化された周辺領域に進入した時に、アークが点火されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の方法において、
ガイド電極の制御ユニット(9A,9B)が、ガイド電極のアークの点火時に同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9A,9B)に送信することと、及び
追従電極の制御ユニット(9A,9B)が、同期信号(Y)の受信時に追従電極の溶接ワイヤー送りを停止して、追従電極が所定の待機時間(tW)だけ待機位置に留め置かれ、待機時間(tW)の経過後に、追従電極の制御ユニット(9A,9B)が追従電極の溶接ワイヤー送りを開始して、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、追従電極でアークが点火されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法において、
ガイド電極及び/又は追従電極の溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、溶接ワイヤー送りを逆転させる溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又はショートアーク溶接プロセスが実施されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法において、
ガイド電極と追従電極が、加工物(6)における一つの共通の溶湯(15)に対して送り出されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、
ガイド電極での溶接プロセスと追従電極での溶接プロセスを制御する一つの共通の制御ユニットが、ガイド電極の制御ユニット(9A)と追従電極の制御ユニット(9B)に対して配備されることを特徴とする方法。
【請求項9】
互いに独立した溶接プロセスを実施する少なくとも二つの溶接機器(A,B)により一つの加工物(6)に対して複式溶接方法を実施するための溶接装置(1)であって、各溶接機器が、溶解する電極としての溶接ワイヤー(3A,3B)、溶接ワイヤー送りユニット(14A,14B)及び各溶接プロセスを制御する制御ユニット(9A,9B)を備え、一つの溶接ワイヤー(3A)がガイド電極として設けられていて、少なくとも一つの残りの溶接ワイヤー(3B)が追従電極として設けられている溶接装置において、
この複式溶接方法のスタートオペレーションを実施するために、ガイド電極の制御ユニット(9A)が、ガイド電極の溶接機器(A)の溶接ワイヤー送りユニット(14A)を駆動して、ガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始し、ガイド電極が決められた道程(zA)又は決められた時間(tA)だけ動かされた時に、同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9B)に送信するように構成されていること、及び
追従電極の制御ユニット(9B)が、追従電極の溶接機器(B)の溶接ワイヤー送りユニット(14B)を駆動して、受信した同期信号に応じて、ガイド電極が加工物(6)に接触する前に追従電極の溶接ワイヤー送りを開始するように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項10】
請求項9に記載の溶接装置(1)において、
ガイド電極が追従電極よりも前に加工物(6)に接触する場合に、ガイド電極の制御ユニット(9A)がガイド電極でアークを点火するように構成されていること、及び
追従電極の制御ユニット(9B)は、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、追従電極でアークを点火するように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項11】
請求項9に記載の溶接装置(1)において、
追従電極がガイド電極よりも前に加工物(6)に接触する場合に、追従電極の制御ユニット(9B)が、短絡(KSB)を検出して、同期信号(Y)をガイド電極の制御ユニット(9A)に送信するように構成されており、そして、ガイド電極の制御ユニット(9A)は、同期信号(Y)の受信時に、ガイド電極の溶接機器(A)の溶接ワイヤー送りユニット(14A)を駆動して、ガイド電極の溶接ワイヤー送りを停止するように構成され、追従電極の制御ユニット(9B)は、追従電極の溶接機器(B)の溶接ワイヤー送りユニット(14B)を駆動して、追従電極の溶接ワイヤー送りを停止するように構成されていること、
追従電極の制御ユニット(9B)は、追従電極の溶接機器(B)の溶接ワイヤー送りユニット(14B)を駆動して、追従電極を加工物(6)から所定の電極間隔(EB)だけ離れた所に動かして、同期信号(Y)をガイド電極の制御ユニット(9A)に送信するように構成されていること、
ガイド電極の制御ユニット(9A)は、同期信号(Y)の受信時にガイド電極の溶接機器(A)の溶接ワイヤー送りユニット(14A)を駆動して、ガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始し、ガイド電極が加工物(6)に接触した時に、ガイド電極でアークを点火するように構成され、そして、ガイド電極の制御ユニット(9A)は、アークの点火時に同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9B)に送信するように構成されていること、及び
追従電極の制御ユニット(9B)は、追従電極の溶接機器(B)の溶接ワイヤー送りユニット(14B)を駆動して、受信した同期信号(Y)に応じて追従電極の溶接ワイヤー送りを開始し、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、追従電極でアークを点火するように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項12】
請求項9に記載の溶接装置において、
追従電極がガイド電極よりも前に加工物(6)に接触する場合に、追従電極の溶接機器(B)の制御ユニット(9B)が、追従電極の溶接機器(B)の溶接ワイヤー(3B)を新たなガイド電極として定めて、同期信号(Y)をガイド電極の溶接機器(A)の制御ユニット(9A)に送信するように構成され、そして、ガイド電極の溶接機器(A)の制御ユニット(9A)は、同期信号(Y)の受信時に溶接機器(A)の溶接ワイヤー(3A)を新たな追従電極として定めるように構成されていること、及び
新たなガイド電極の溶接機器(B)の制御ユニット(9B)は、新たなガイド電極の溶接ワイヤー(3B)が加工物(6)に接触した時に、新たなガイド電極でアークを点火するように構成され、新たな追従電極の溶接機器(A)の制御ユニット(9A)は、新たな追従電極が加工物(6)に接触するか、或いは新たなガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、新たな追従電極の溶接ワイヤー(3B)でアークを点火するように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の溶接装置(1)において、
ガイド電極の制御ユニット(9A,9B)は、ガイド電極のアークの点火時に、同期信号(Y)を追従電極の制御ユニット(9A,9B)に送信するように構成され、そして、追従電極の制御ユニット(9A,9B)は、同期信号(Y)の受信時に、追従電極の溶接機器(A,B)の溶接ワイヤー送りユニット(14A,14B)を駆動して、ガイド電極のアークの点火時に追従電極の溶接ワイヤー送りを停止するとともに、所定の待機時間(tW)の経過後に再び開始して、追従電極が加工物(6)に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、追従電極でアークを点火するように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の溶接装置(1)において、
ガイド電極及び/又は追従電極に関する溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、溶接ワイヤー送りを逆転させる溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又はショートアーク溶接プロセスが設けられていることを特徴とする溶接装置。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか1項に記載の溶接装置(1)において、
ガイド電極と追従電極が、溶接ワイヤー送りユニット(14A,14B)によって加工物(6)における一つの共通の溶湯(15)に対して送り出されるように、互いに相対的に位置決めされることを特徴とする溶接装置。
【請求項16】
請求項9~15のいずれか1項に記載の溶接装置(1)において、
ガイド電極の制御ユニット(9A)と追従電極の制御ユニット(9B)が一つの共通の制御ユニットに統合されていることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複式溶接方法を実施する方法であって、加工物において溶解する電極としての少なくとも二つの溶接ワイヤーを用いて、それぞれ一つの溶接プロセスを実施し、第一の溶接ワイヤーがガイド電極として規定され、この少なくとも一つの別の溶接ワイヤーが追従電極として規定され、これらのガイド電極と追従電極の溶接プロセスが、それぞれ一つの制御ユニット又は一つの共通の制御ユニットによって制御される方法に関する。更に、本発明は、少なくとも二つの溶接機器を用いて加工物に対して複式溶接方法を実施するための溶接装置に関する。
【0002】
本発明は、複数の溶解する電極を用いた複式溶接方法、特に、周知のMIG/MAG溶接に関する。この場合、例えば、少なくとも二つの電極が一つの共通の溶湯において溶解する複式パルス溶接方法が周知である。そのために、電極毎に、独自の溶接機器が、即ち、一つの電源、一つの溶接トーチ及び一つの溶接ワイヤー送りユニットが必要である。この場合、各溶接機器を用いて、パルス溶接プロセスが実現されるが、基本的に、別の溶接プロセスも、例えば、ショートアーク溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス、溶接ワイヤー送りを逆転させるショートアーク溶接プロセスなども実施可能である。この複式パルス溶接は、溶接プロセスを開始して、互いに独立して動作させる形で、即ち、溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数を溶接プロセス毎に独自に設定する形で動作させることができる。しかし、それは、全ての溶接機器において溶接パラメータを相応にセットしなければならないので、溶接工にとって、より大きな負担がかかる。それ以外に、それによって、同時に進行する溶接プロセスによる、起るかもしれない相互の干渉に対する影響に関して、多少の影響が発生し、そのことは、溶接の質を低下させる可能性がある。従って、一方の溶接機器がパルス周波数を規定して、他方の溶接機器がそれに追従する、溶接プロセスを同期させた複式パルス溶接方法も既に知られている。それによって、両方の溶接プロセスが互いに同期して、同じパルス周波数で溶接する。
【背景技術】
【0003】
複式溶接方法では、例えば、個々の溶接トーチが複数の、特に、二つの電極を備えることもできる。そして、有利には、加工物での一つの共通の溶湯において加工するために、それらの電極が、溶接トーチに対して互いに相対的に定義された固定の間隔及び角度で位置決めされる。しかし、それらの電極又は溶接ワイヤーは、必ずしも一つの共通の溶湯で溶解する必要はなく、二つの別個の溶湯が生じるように、間隔を開けて電極を配置することも考えられる。しかし、それにも関わらず、複式溶接プロセスについて述べる。二つの電極が、溶接トーチと一緒に加工物に対して相対的に動かされる。例えば、そのために、所与の溶接運動を実行する溶接ロボットに溶接トーチを配置することができる。しかし、二つの別個の溶接トーチが、それぞれ互いに相対的に位置決めされて、ほぼ一緒に動かされる少なくとも一つの電極を備えることもできる。その動きは、例えば、又もや溶接ロボットによって実施することができ、両方の溶接トーチは、溶接プロセス中に、有利には、互いに相対的に動かされない。
【0004】
通常、複式溶接方法の少なくとも二つの電極又は溶接ワイヤーの中の一つがガイド電極として使用され、第二の電極(又は別の複数の電極)が所謂追従電極として使用される。多くの場合、共通の溶接トーチの移動方向(又は別個の溶接トーチの共通の移動方向)に対して前方に配置された電極がガイド電極として使用され、移動方向に対して、その後方に配置された電極が追従電極として使用される。しかし、二つの溶接トーチを互いに逆の方向に動かす二つの溶接ロボットを配備することも考えられる。そして、一方の溶接トーチの電極がガイド電極として使用され、他方の溶接トーチの電極が追従電極として使用される。従来は、多くの場合、ガイド電極と追従電極のアークの点火が偶発的に行われていた。例えば、両方の電極の溶接ワイヤー送りが開始されて、最初に加工物に接触した電極が最初に点火される。しかし、そのことは、場合によっては、溶接の継ぎ目の位置決めを不正確にするか、材料の剥離を制御不能にするか、或いはその両方となる可能性があり、それが欠点である。
【0005】
特許文献1は、二つの溶接ワイヤーを備えた一つの溶接トーチによるタンデム式溶接方法のスタートオペレーションを開示している。先ずは、第一の溶接ワイヤー送りが開始される。第一の溶接ワイヤーが加工物に接触すると、短絡が生じて、アークが点火される。そのアークが安定して燃焼すると、第二の溶接ワイヤー送りが開始されて、第二の溶接ワイヤーが第一の溶接ワイヤーの燃焼しているアークに到達した時に、アークが点火される。
【0006】
特許文献2は、ガイド電極と追従電極による複式溶接方法を開示している。溶接プロセスを開始するために、先ずはガイド電極の送りだけが開始された後、その電極が加工物に接触して、短絡が生じ、それに続いて、アークが点火される。その後、ロボット制御ユニットが、溶接トーチを溶接速度で溶接方向に制御する。追従電極時間が経過すると、ロボット制御ユニットが追従電極の送りを開始する。
【0007】
特許文献3は、一つの加工物に対してそれぞれ一つの溶接プロセスを実施する二つの溶接機器による複式溶接方法を開示しており、溶接プロセスがそれぞれ一つの制御ユニットによって制御される。両方の溶接機器の制御ユニットは、溶接プロセスを、特に、溶接電流の位相シフトを時間的に同期させる同期制御ユニットを介して接続されている。
【0008】
特許文献4では、例えば、ガイド電極と追従電極を定めた後に、両方の電極のワイヤー送りを同時に開始することが提案されている。ガイド電極が加工物に接触すると、直ちにそれに対応する溶接機器によって、短絡が検出されて、アークが直ちに点火される。追従電極において、同じく加工物との接触時に短絡が検出されるが、その場合、アークが直ちに点火されるのではなく、追従電極が準備位置に移される。所定の待機時間後に、漸く追従電極が準備位置から加工物の方向に動かされて、接触時にアークが点火される。しかし、その方法は、溶接トーチに対して、加工物に向かう方向と加工物から離れる方向への極めてダイナミックなワイヤー送りを交互に実行可能な非常に高性能なワイヤー送りユニットを備えた、所謂プシュプルシステムに限定される。なぜなら、そのようなシステムでのみ、十分に短い時間でスタートプロセスを実行できるからである。溶接トーチに対して別個のワイヤー送りユニットを備えておらず、そのため、ワイヤー送り速度が比較的遅く、溶接ワイヤーの極めてダイナミックな送り運動と戻し運動を実行可能でない少数のダイナミックな溶接システム、特に、所謂プッシュシステムでは、点火プロセスが長く続き過ぎるので、その方法は適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】中国特許公開第108176915号明細書
【文献】特開2002-224833号公報
【文献】米国特許公開第2015/343549号明細書
【文献】欧州特許登録第2830807号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のことから、本発明の課題は、構造形式のためにワイヤー送り速度が相対的に遅い場合でも、速い再現可能なスタートを実現できる複式溶接方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本課題は、本発明に基づき、ガイド電極の制御ユニットがガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始して、ガイド電極が所定の道程又は所定の時間だけ動かされた時に、同期信号を追従電極の制御ユニットに送信することと、追従電極の制御ユニットが、受信した同期信号に応じて、ガイド電極が加工物に接触する前に、追従電極の溶接ワイヤー送りを開始することとによって、複式溶接方法のスタートオペレーションが実行されることによって解決される。
【0012】
ガイド電極が追従電極よりも前に加工物に接触する場合、ガイド電極では、加工物との接触時にアークが点火され、追従電極では、追従電極が加工物に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、アークが点火されるのが有利である。この場合、イオン化エネルギーは、アークを点火可能にするために十分に大きくなければならない。
【0013】
追従電極がガイド電極よりも前に加工物に接触する場合、追従電極の制御ユニットが短絡を検出して、同期信号をガイド電極の制御ユニットに送信し、そして、ガイド電極の制御ユニットがガイド電極の溶接ワイヤー送りを停止するとともに、追従電極の制御ユニットが追従電極の溶接ワイヤー送りを停止することと、追従電極の制御ユニットが追従電極を加工物から所定の電極間隔だけ離れた所に動かして、同期信号をガイド電極の制御ユニットに送信することと、ガイド電極の制御ユニットがガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始して、ガイド電極が加工物に接触した時に、ガイド電極でアークが点火され、そして、ガイド電極の制御ユニットがアークの点火時に同期信号を追従電極の制御ユニットに送信することと、追従電極の制御ユニットが、受信した同期信号に応じて、追従電極の溶接ワイヤー送りを開始し、そして、追従電極が加工物に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、追従電極でアークが点火されることとが有利である。それによって、追従電極が最初に加工物に接触する場合でも、ガイド電極で最初にアークが点火されることが保証される。
【0014】
別の有利な実施形態では、追従電極がガイド電極よりも前に加工物に接触する場合に、追従電極がガイド電極として定められるとともに、ガイド電極が追従電極として定められることと、ガイド電極では、加工物との接触時にアークが点火され、追従電極では、追従電極が加工物に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、アークが点火されることとが規定される。それによって、ガイド電極と追従電極の割り当てを簡単に置き換えることができ、それによって、スタートオペレーションが加速される。
【0015】
ガイド電極の制御ユニットは、ガイド電極のアークの点火時に、同期信号を追従電極の制御ユニットに送信することと、追従電極の制御ユニットが、同期信号の受信時に追従電極の溶接ワイヤー送りを停止して、追従電極が所定の待機時間だけ待機位置に留め置かれて、待機時間の経過後に、追従電極の制御ユニットが追従電極の溶接ワイヤー送りを開始し、そして、追従電極が加工物に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時に、追従電極でアークが点火されることとが有利である。それによって、二つ又はそれを上回る数の電極の点火の間のより長い時間を実現することもできる。
【0016】
有利には、ガイド電極及び/又は追従電極の溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、溶接ワイヤー送りを逆転させる溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又はショートアーク溶接プロセスが実施される。これらの周知の溶接プロセスにより、良好な溶接結果を実現することができ、そして、複数の溶接プロセスを組み合わせることもできる。
【0017】
有利には、ガイド電極と追従電極は、加工物における一つの共通の溶湯に対して送り出される。それによって、より高い溶解パワー又はより大きな材料塗布量を実現することができ、追従電極がガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入し、そのため点火に必要なエネルギーが少なくなる、特に、溶接電流が低下するので、追従電極の点火に必要な点火エネルギーがより少なくなる。
【0018】
有利には、ガイド電極での溶接プロセスと追従電極での溶接プロセスを制御する一つの共通の制御ユニットが、ガイド電極の制御ユニットと追従電極の制御ユニットに対して配備される。それによって、例えば、同期信号の伝送時の遅延時間を短縮することができる。
【0019】
本課題は、更に、溶接装置に関して、複式溶接方法のスタートオペレーションを実施するために、ガイド電極の制御ユニットが、ガイド電極の溶接機器の溶接ワイヤー送りユニットを駆動して、ガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始し、ガイド電極が所定の道程又は所定の時間だけ動かされた時に、同期信号を追従電極の制御ユニットに送信するように構成されることと、追従電極の制御ユニットが、追従電極の溶接機器の溶接ワイヤー送りユニットを駆動して、受信した同期信号に応じて追従電極の溶接ワイヤー送りを開始するように構成されることとによって解決される。
【0020】
以下において、本発明の有利な実施形態の例を模式的に本発明を制限しない形で図示した図1~4を参照して、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】複式溶接プロセスを実施する二つの溶接機器を備えた溶接装置の模式図
図2a】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの進行図
図2b】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの進行図
図2c】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの進行図
図2d】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの進行図
図3a】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの別の進行図
図3b】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの別の進行図
図3c】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの別の進行図
図3d】複式溶接プロセスのスタートオペレーションの別の進行図
図4】時間に関するガイド電極の溶接電流と追従電極の溶接電流の推移のグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、二つの互いに独立した溶接機器A,Bを備えた溶接装置1が簡略化された形で図示されている。ここで、溶接機器A,Bは、溶解する電極を備えた溶接機器として構成されている(MIG/MAG溶接)。しかし、基本的に、添加部材の溶接ワイヤー送りが自動的である、溶解しない電極(WIG溶接)を備えた一つ又は複数の溶接機器を使用することもできる。図示された例では、二つの溶接機器A,Bを用いて、それぞれ一つの溶接プロセスが一つの共通の加工物6に対して実施される。当然のことながら、三つ以上の溶接機器A,Bを配備することもできるが、本発明の理解のためには、二つの溶接機器A,Bから成る装置で十分である。溶接機器A,Bは、必ずしも別個のユニットとして実現する必要はなく、例えば、一つの共通の筐体内に、二つ(又はそれを上回る数)の溶接機器A,Bを配置することも考えられる。しかし、そのことは、各溶接機器A,Bが溶接プロセスを実施するための独自の溶接電流回路を個々に形成するとの形態を何ら変更しない。
【0023】
溶接機器A,Bは、周知の通り、それぞれ溶接電源2A,2B、溶接ワイヤー送りユニット14A,14B及び溶接トーチ4A,4Bを有する(MIG/MAG溶接機器)。溶接電源2A,2Bは、それぞれ所要の溶接電圧UA,UBを提供し、これらの電圧は、それぞれ溶解する電極としての溶接ワイヤー3A,3B(或いは、例えば、WIG溶接などの溶解しない電極を用いた溶接方法の場合には、溶解しない電極)に印加される。溶接ワイヤー3A,3Bは、溶接ワイヤー送りユニット14A,14Bを用いて、各溶接トーチ4A,4Bに対して所定の溶接ワイヤー送り速度vA,vBで送り出される。この送りは、例えば、チューブパック5A,5Bの中で、或いはその外でも行うことができる。溶接ワイヤー送りユニット14A,14Bは、それぞれ溶接機器A,Bに統合することができるが、図1に図示されている通り、別個のユニットにすることもできる。溶接ワイヤー送りユニット14A,14Bの中には、例えば、溶接ワイヤー3A,3Bが巻かれたワイヤーロール16A,16Bを配備することができる。しかし、例えば、溶接ワイヤー3A,3Bは、例えば、樽などの容器に配置して、そこから溶接トーチ4A,4Bに送り出すこともできる。更に、ワイヤーロール16A,16B又は容器から溶接ワイヤー3A,3Bを巻き戻して、溶接ワイヤー送り速度vA,vBで溶接トーチ4A,4Bに送り出すために、制御ユニット9A,9Bによって駆動される好適な駆動ユニット17A,17Bを配置することができる。
【0024】
溶接プロセスを実施するために、溶接ワイヤー3A,3Bと加工物6の間で、それぞれ(ここでは、稲光によって記号化されている通りの)アークが点火される。このアークによって、一方において、加工物6の材料が局所的に溶かされて、所謂溶湯15が生成される。他方において、溶接ワイヤー3A,3Bが、所定の溶接ワイヤー送り速度vA,vBで溶湯15に送り出されて、溶接添加物(ここでは、溶解する電極としての溶接ワイヤー3A,3B)の材料を加工物6上に塗布するために、アークによって溶解される。溶接トーチ4A,4Bが加工物6に対して相対的に動いた時に、それによって、(図1で、図面の面に対して垂直な方向に)溶接の継ぎ目を形成することができる。
【0025】
各チューブパック5A,5B内に、場合によっては、溶接機器A,Bと各溶接トーチ4A,4Bの間に別の配線(例えば、図示されていない制御配線又は冷媒配管)を配備することもできる。多くの場合、周囲の空気、特に、そこに含まれる酸素に対して溶湯15を保護して、酸化を防止するために、保護ガスを使用することもできる。この場合、通常は不活性ガス(例えば、アルゴン)、活性ガス(例えば、CO)又はそれらの混合気が用いられ、このガスは、同じくチューブパック5A,5Bを介して好適な保護ガス配管12A,12Bを用いて溶接トーチ4A,4Bに供給することができる。これらの保護ガスは、一般的に別個の(圧力)容器7A,7Bに貯蔵されており、例えば、好適な配管を介して溶接機器A,Bに(或いは直に溶接トーチ4A,4Bに)供給することができる。同じ保護ガスを使用する場合、両方(全て)の溶接機器A,Bに対して一つの共通の容器を配備することもできる。当然のことながら、場合によっては、保護ガス無しに溶接することもできる。チューブパック5A,5Bは、例えば、好適な連結器を介して、溶接トーチ4A,4B及び溶接機器A,Bに連結することができる。
【0026】
それぞれ溶接機器A,Bの溶接電流回路を形成するために、溶接電源2A,2Bが、それぞれアース配線8A,8Bにより加工物6と接続される。溶接電源2A,2Bの一方の極(一般的にはマイナス極)がアース配線8A,8Bと接続される。溶接電源2A,2Bの他方の極(一般的にはプラス極)が好適な電流配線13A,13Bを介して溶接電極4A,4Bと接続される(或いはその逆)。それにより、溶接プロセス毎に、アークと加工物6を介して溶接電流回路が形成される。
【0027】
溶接機器A,Bには、それぞれ各溶接ワイヤー送りを含む各溶接プロセスを制御して監視する制御ユニット9A,9Bも配備される。そのために、制御ユニット9A,9Bには、例えば、溶接ワイヤー送り速度vA,vB、溶接電流IA,IB、溶接電圧UA,UB、パルス周波数、パルス電流継続時間などの溶接プロセスに必要な溶接パラメータが予め与えられるか、或いは設定可能である。溶接プロセスを制御するために、制御ユニット9A,9Bは、溶接電源2A,2B及び溶接ワイヤー送りユニット14A,14B(例えば、特に、駆動ユニット17A,17B)と接続される。或る溶接パラメータ又は溶接ステータスを入力又は表示するために、制御ユニット9A,9Bと接続されたユーザーインタフェース10A,10Bを配備することもできる。更に、(図示されていない)好適なインタフェースを溶接機器A,Bに配備することもでき、そのインタフェースを介して、溶接機器A,Bを制御する外部制御ユニットと溶接機器A,Bを接続することができる。例えば、両方の溶接機器A,B(又は複数の溶接機器)と接続された(図示されていない)中央制御ユニットを配備することができ、その中央制御ユニットによって、溶接機器A,Bの溶接プロセスを制御することができる。ここで述べる溶接機器A,Bは、当然のことながら、十分に知られており、そのため、ここでは、更に詳しく取り上げない。
【0028】
両方の溶接トーチ4A,4Bは、図1に図示されている通りの加工物6における一つの共通の溶湯15の代わりに、それらの溶接ワイヤー3A,3Bが二つの別個の溶湯に対して動作するように、場所的に互いに相対的に配置することもできる。そのような相互の配置形態は、固定的であるとすることができ、例えば、両方の溶接トーチ4A,4Bを案内する(図示されていない)一つの溶接ロボットに両方の溶接トーチ4A,4Bが配置される。しかし、配置形態が可変であるとすることもでき、例えば、それぞれ一つの溶接トーチ4A,4Bが一つの溶接ロボットによって案内される。溶接ロボットの代わりに、別の好適な操縦機器、例えば、有利には、複数軸の、有利には、三軸の動きを実現できる一種のガントリークレーンを配備することもできる。しかし、図1に破線で表示されている通り、両方の溶接ワイヤー3A,3Bに対して、一つの共通の溶接トーチを設けることもできる。この場合、溶接トーチ4A,4Bを用いて、継手溶接、肉盛り溶接又はそれ以外の溶接方法を実現するのかは重要でない。当然のことながら、人の手による手動式溶接も可能である。
【0029】
溶接機器A,Bは、溶接機器A,Bの間で交互に同期情報Yを交換可能とする通信接続部11を用いて接続される。この通信接続部11は、例えば、制御ユニット9A,9Bの間又はユーザーインタフェース10A,10Bの間の有線接続部又は無線接続部であるとすることができる。一般的に、複式溶接方法では、一方の電極がガイド電極として規定され、それぞれ一つ(又は複数)の他方の電極が所謂追従電極として規定される。多くの場合、溶接方向に、即ち、溶接トーチ(又は共通の溶接トーチ)の移動方向に対して前方に配置されている電極がガイド電極として選定され、溶接方向に対して、その後方に配置された電極が追従電極として選定される。ガイド電極と追従電極の選定は、例えば、複式溶接方法の開始前に、例えば、ユーザーインタフェース10A,10B又は一つの共通のユーザーインタフェースを介して、ユーザーによって手動で設定することができるが、固定的に規定することもできる。例えば、一つの溶接機器A,Bに対して、一つの溶接ロボットが配備されている場合、一つの好適なインタフェースを介して、各溶接機器A,Bを溶接ロボットの制御ユニットと接続することができる。そして、溶接機器A,Bの操作及びガイド電極と追従電極の選定も、例えば、溶接ロボットのユーザーインタフェースを介して行うことができる。溶接中のガイド電極と追従電極の割り当ての変更も、排除されず、例えば、自動的に、例えば、溶接トーチ4A,4Bの溶接運動の方向を変えることにより行うことができる。ガイド電極と追従電極の自動的な割り当ても可能である。例えば、溶接トーチ4A,4Bを動かす溶接機器A,B及び/又は溶接ロボットは、好適な通信接続部を介して互いに通信するとともに、中央制御ユニットに繋ぐことができる。ガイド電極と追従電極の決定は、例えば、中央制御ユニットに実装されたプログラムに応じて、例えば、所定のパラメータ、例えば、溶接トーチ4A,4Bの位置などに応じて、自律的に行うことができる。図示された例では、(溶解する電極としての)溶接ワイヤー3Aがガイド電極として定められ、(溶解する電極としての)溶接ワイヤー3Bが追従電極として定めらている。しかし、当然のことながら、その逆も可能である。例えば、選定された、或いは予め設定された溶接プログラムを最初にロードした溶接機器A,Bの制御ユニット9A,9Bが各溶接機器A,Bの溶接ワイヤー3A,3Bをガイド電極として定めることによって、ガイド電極の自動的な決定を行うことができる。そして、それに対応する制御ユニット9A,9Bが、同期信号Yをそれぞれ他方の溶接機器A,Bの制御ユニット9A,9Bに送信することができ、その制御ユニットがそれに対応する溶接ワイヤー3A,3Bを追従電極として定める。
【0030】
複式溶接方法の定義された出来る限り恒常的に再現可能なスタートオペレーションを保証するために、以下において、図2a~2d及び図3a~3cに基づき詳しく説明する通り、ガイド電極の制御ユニット(ここでは、制御ユニット9A)がガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始して、ガイド電極が定められた道程zA又は定められた時間tAだけ動かされた時に、同期信号Yを追従電極の制御ユニット(ここでは、制御ユニット9B)に送信することと、追従電極の制御ユニット9Bが、受信した同期信号Yに応じて追従電極の溶接ワイヤー送りを開始することとが規定される。
【0031】
図2a~2dには、複式溶接方法のスタートオペレーションの進行例が図示されている。この溶接装置1は、基本的に図1に図示された溶接装置に相当するが、簡略化されて模式的に図示されている。図2aでは、初期位置での溶接装置1が図示されており、その位置では、溶接ワイヤー3A,3Bが、有利には、加工物6から同じ大きさの電極間隔EA=EBだけ離れるとともに、溶接ワイヤー送り速度vA=vB=0を有する。例えば、好適な工具を用いて手動で溶接ワイヤー3A,3Bを同じ長さに調整することによって、同じ電極間隔EA=EBを実現することができる。しかし、例えば、所定の予め与えられた、或いは設定可能な初期電極間隔EA,EBを制御ユニット9A,9Bによって自動的に設定することもできる。しかし、これは、必ずしも必要ではなく、以下において、図3a~3cに基づき更に詳しく説明する通り、異なる電極間隔EA≠EBを規定することもできる。しかし、有利には、溶接ワイヤー送りユニット14A,14Bは、各複式溶接プロセスの最後に(例えば、溶接の継ぎ目の最後で)溶接ワイヤー3A,3Bが同じ長さを有するように制御される。
【0032】
ここで、図2aに図示された初期位置では、先ずはガイド電極、ここでは、溶接ワイヤー3Aの溶接ワイヤー送りが開始される。そのために、(図示されていない)溶接ワイヤー送りユニット14Aが、溶接ワイヤー3Aを所定の予め与えられた、或いは設定可能な溶接ワイヤー送り速度vAで加工物6の方向に動かすように、制御ユニット9Aによって駆動される。この場合、追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bは停止している、即ち、溶接ワイヤー送り速度vB=0である。ガイド電極又は溶接ワイヤー3Aが所定の予め与えられた、或いは設定可能な道程zA又は時間tAだけ動かされた後、図2bに図示されている通り、ガイド電極の溶接機器Aの制御ユニット9Aが同期信号Yをデータ通信接続部11を介して追従電極の溶接機器Bの制御ユニット9Bに伝送する。制御ユニット9Bは、受信した同期信号Yを処理して、同期信号Yに応じて、所定の予め与えられた、或いは設定可能な溶接ワイヤー送り速度vBで追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bの溶接ワイヤー送りを開始する。データ通信接続部の簡単な実施形態では、同期信号Yが、例えば、電流パルス又は電圧パルスの形の同期パルスであるとすることができる。データ通信接続部11がデータバスとして構成される場合、同期信号Yは、例えば、それに対応するバス情報であるとすることもできる。
【0033】
例えば、制御ユニット9Bは、同期信号Yを受信すると直ちに(ガイド電極、即ち、溶接ワイヤー3Aの溶接ワイヤー送りが中断されること無く)溶接ワイヤー3Bの溶接ワイヤー送りを開始することができる。例えば、溶接ワイヤー3Bは、溶接ワイヤー送り速度vB=vAで加工物6の方向に動かすか、さもなければガイド電極と異なる溶接ワイヤー送り速度vB≠vAで動かすことができる。道程zAは、例えば、制御ユニット9Aによって、溶接ワイヤー送り速度vAと時間tAから算出することができる。しかし、当然のことながら、所定の進行した道程zAを検出するために、別個の測定機器、例えば、好適なセンサーを配備することもできる。
【0034】
図2bに図示されている通り、同期信号Yが制御ユニット9Bに送信された時点では、ガイド電極、ここでは、溶接ワイヤー3Aは、追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bの電極間隔EBよりも短い電極間隔EAだけ加工物6から離れている(EA<EB)。ここで、同期信号Yを受信したら直ちに、追従電極又は溶接ワイヤー3Bの溶接ワイヤー送りが開始される場合、両方の溶接ワイヤー3A,3Bは、図2bに示されている通り、加工物6の方向に同時に、有利には、同じ溶接ワイヤー送り速度(vB=vA)で動かされる。それにより、溶接ワイヤー3A又はガイド電極は、ほぼtAだけ時間的にリードした形、或いは道程zAだけリードした形で、溶接ワイヤー3B又は追従電極に先行する。
【0035】
図2cに図示されている通り、溶接ワイヤー3Aが、最初に、即ち、溶接ワイヤー3Bよりも前に加工物6に接触し、その場合、追従電極又は溶接ワイヤー3Bの電極間隔EBは、(溶接ワイヤー送り速度が等しい場合、vA=vB)図2bに図示されているガイド電極が進行した道程zAに等しい。溶接ワイヤー3Aが加工物に接触すると、稲光により示されている通り、溶接ワイヤー3Aと加工物6の間でアークが点火される。そのために、例えば、制御ユニット9Aが、溶接電流IAの急上昇によって、溶接機器Aの溶接電流回路での短絡を検知し(図4のスタートフェーズPST)、それに対して、制御ユニット9Aは、スタートフェーズPST後に、それに対応して実行する溶接プロセスの溶接パラメータを設定する、特に、調節する。パルス溶接プロセスの場合、それは、例えば、図4に図示されている通り、所定の基本電流IG、パルス電流IP、溶接電圧U、パルス周波数f、溶接ワイヤー送り速度vなどによる周期的な溶接サイクルである。ガイド電極又は溶接ワイヤー3Aでのアークの点火後に、溶接ワイヤー3Aは、場合によっては、アークの点火前と異なる溶接ワイヤー送り速度vAで溶湯15に対して送り出すことができる。特に、点火前の溶接ワイヤー送り速度vAは、例えば、溶接プロセス中よりも遅くすることができる。例えば、アークの点火前の溶接ワイヤー送り速度vAは、0.5m/分の範囲内とし、点火後に20m/分の範囲内とすることができる。
【0036】
ガイド電極において、アークが点火されて、それに対応する予め与えられた、或いは設定可能な溶接プロセスが既に実行される一方、図示された例の追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bは、引き続き溶接ワイヤー送り速度vBで加工物6に対してほぼ連続的に送り出され、この送り速度は、又もや溶接ワイヤー送り速度vAと等しいか、或いは異なる速度とすることができる。図2dの時点で、追従電極3Bが加工物6に到達して、第二の稲光により示されている通り、同じくアークが点火される。更に続いて、溶接ワイヤー3Bの制御ユニット9Bも、設定された溶接プロセスの溶接パラメータを設定する。ここで、それによって、両方の溶接機器A,Bにより、二つの別個の溶接プロセスが並列的に実施される。
【0037】
図示された例では、両方の溶接トーチ4A,4Bは、溶接ワイヤー3A,3Bが一つの共通の溶湯15に送り出されるように、互いに相対的に配置されている。それによって、溶接ワイヤー3Bが溶接ワイヤー3Aと加工物6の間で既に燃焼しているアークに到達する、加工物6に接触する前に、溶接ワイヤー3Bにおいてアークを事前に点火することができる。この場合、特に、アークの周りの空気がガイド電極のアークによってイオン化されるとの効果を利用することができ、それによって、溶接ワイヤー3Bでアークを点火するのに必要な溶接機器Bの点火エネルギーを低減することができる。しかし、溶接トーチ4A,4Bは、二つの別個の溶湯が加工物6で生じるように、互いに相対的に配置することもできる。追従電極又は溶接ワイヤー3Bと加工物6の間のアークは、有利には、溶接ワイヤー3Bが加工物6に接触した時に、即ち、ほぼ従来通りの手法で、即ち、ガイド電極の場合と同様に点火される。
【0038】
本方法の別の有利な実施形態では、同期信号Yの受信後の追従電極又は溶接ワイヤー3Bの溶接ワイヤー送りは、これまで述べてきたように、溶接ワイヤー3Bがガイド電極のアーク又は加工物6に接触するまで連続的に、或いは絶え間なく行われるのではない。この場合、制御ユニット9Aが、ガイド電極でのアークの点火時に同期信号Yを制御ユニットBに送信して、追従電極の溶接ワイヤー送りが制御ユニット9Bによって停止される。その後、追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bは、所定の予め与えられた、或いは設定可能な待機時間tWだけ待機位置に留め置かれる。待機時間tWの経過後に、制御ユニット9Bが追従電極の溶接ワイヤー送りを再び開始して、追従電極が加工物6に接触するか、或いはガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、溶接電流IBを印加することによって、追従電極でアークが点火される。それによって、追従電極でのアークは、ガイド電極よりも任意の時間だけ遅く、特に、ガイド電極が追従電極よりも先行して進む道程zA又は時間tAに関係無く点火することができる。待機時間tWは、例えば、ユーザーインタフェース10Bで設定されるか、或いは実施される溶接プロセスに応じて予め与えることができる。既に言及した通り、例えば、好適なインタフェースを介して溶接機器A,Bと接続された溶接ロボットが配備される場合、例えば、溶接ロボットのユーザーインタフェースを介して、待機時間tWを予め与えることもできる。しかし、当然のことながら、溶接機器A,Bと接続された別の外部の制御ユニットを介して、この制御を行うこともできる。例えば、複数の溶接ロボットと複数の溶接機器を制御する中央制御ユニットを配備することができる。
【0039】
例えば、(図示されていない)別の電極、例えば、第二の追従電極が配備されている場合、同期信号Yは、当然のことながら、有利には、溶接機器Aの制御ユニット9Aから別の溶接機器Nの制御ユニット9Nに伝送することもできる。そして、例えば、第一の追従電極(ここでは、溶接ワイヤー3B)と同様に、第二の追従電極を駆動することができる。それによって、例えば、第一及び第二の追従電極のアークをほぼ同時に点火して、溶接プロセスを同時に開始することができる。しかし、例えば、別の同期信号Yを溶接機器Bの制御ユニット9Bから別の溶接機器Nの制御ユニット9Nに送信し、又もや第一の追従電極の溶接機器Bの受信した同期信号Yに応じて、第二の追従電極(溶接ワイヤー3N)の溶接ワイヤー送りを漸く開始することもできる。それによって、三つの溶接プロセスが、互いに相前後して所定の時間間隔で開始される。当然のことながら、第二の追従電極でも、又もや第一の追従電極でのアークの点火後に第二の追従電極が待機位置に留め置かれる待機時間tWを規定することができる。有利には、溶接トーチ4A,4B,...4Nは、制御された再現可能な材料の塗布を保証するために、スタートオペレーション中、互いに相対的に動かされない、有利には、加工物6に対しても相対的に動かされない(或いは非常に緩慢にしか動かされない)。
【0040】
図3a~3cには、複式溶接方法のスタートオペレーションの別の変化形態が図示されている。図3aには、又もや溶接方法を開始する初期位置での溶接装置1が図示されている。しかし、前の図2aと異なり、ガイド電極(溶接ワイヤー3A)と追従電極3B(溶接ワイヤー3B)が異なる電極間隔EA,EBを有する。特に、追従電極が加工物6により近い所に有る、即ち、より短い電極間隔EBを有する(EB<EA)。ここで、制御ユニット9Aがガイド電極の溶接ワイヤー送りを開始することによって、スタートオペレーションが、前とほぼ変わらない形で行われる。所定の時間tAの経過又は所定の道程zAの進行後に、前と同様に同期信号Aが制御ユニット9Aから第二の溶接機器Bの制御ユニット9Bに送信される。ここで、場合によっては、ガイド電極の溶接ワイヤー送りのより早い開始にも関わらず、追従電極が最初に、即ち、ガイド電極よりも前に加工物に接触することが起こり得る。それは、特に、初期位置での電極間隔EA,EBの間の差が、ガイド電極が追従電極に先行すべき設定された、或いは予め与えられた道程zAよりも大きい場合である。
【0041】
図3bに図示された時点では、確かにガイド電極が先行するために、電極間隔EA,EBの間の差が小さくなっているが、それにも関わらず追従電極がガイド電極よりも前に加工物6に接触する。それは通常望ましくないので、この場合、追従電極又は溶接ワイヤー3Bでアークが点火されない。溶接ワイヤー3Bの接触時に、制御ユニット9Bが溶接ワイヤー3Bの溶接電流回路での短絡を検出し、溶接ワイヤー3Bの溶接ワイヤー送りを停止して、同期信号Yを制御ユニット9Aに送信する。制御ユニット9Aは、同期信号Yを受信すると、ほぼ直ちにガイド電極又は溶接ワイヤー3Aの溶接ワイヤー送りを停止する。
【0042】
それにより、ガイド電極と追従電極の溶接ワイヤー送りがほぼ同時に停止される。その後、溶接ワイヤー3Bが、加工物6から所定の予め与えられた、或いは設定可能な電極間隔EBだけ離れた所に、例えば、図3cに図示されている通り、例えば、0.1~1mmの予め与えられた初期電極間隔EBの所に動かされるように、追従電極の溶接ワイヤー送りユニット14Bが制御ユニット9Bによって駆動される。この電極間隔EBに到達すると、追従電極の制御ユニット9Bが同期信号Yをガイド電極の制御ユニット9Aに送信する。制御ユニット9Aは、同期信号Yを受信すると、ガイド電極又は溶接ワイヤー3Aの溶接ワイヤー送りを開始して、図3dで稲光により示されている通り、ガイド電極が加工物6に接触した時にアークを点火する。アークの点火時に、ガイド電極の制御ユニット9Aが又もや同期信号Yを追従電極の制御ユニット9Bに送信する。設定された電極間隔EBに応じて、追従電極の制御ユニット9Bが追従電極で直にアークを点火するか、或いは追従電極又は溶接ワイヤー3Bが先ずは加工物6の方向に動かされて、加工物6に接触した時(或いは溶接ワイヤー3Bがガイド電極のアークによりイオン化されたガイド電極の周辺領域に進入した時)に、アークを点火することができる。当然のことながら、又もや待機時間tWを規定して、追従電極が、同期信号Yを受信した時に、待機時間tWの経過後に漸くアークの点火及び/又は溶接ワイヤー送りの開始を行うこともできる。
【0043】
それに代わって、追従電極での加工物との接触及び短絡KSの検知後(図3b)に、両方の溶接ワイヤー3A,3Bの溶接ワイヤー送りを停止して、溶接ワイヤー3A,3Bを手動で同じ長さに調整することによって、制御ユニット9Bによる追従電極の自動的な追従運動を実施することなく、図2aによる有利な初期位置を作り出すこともできる。そして、又もやスタートオペレーションを図2a~2dに基づき述べた通りに実施することができる。
【0044】
本方法の別の実施構成では、(図3bと同様に)追従電極(ここでは、溶接ワイヤー3B)がガイド電極(溶接ワイヤー3A)よりも前に加工物6に接触した時に、追従電極又は溶接ワイヤー3Bをガイド電極として定めるとともに、ガイド電極又は溶接ワイヤー3Aを追従電極として定めると規定することができる。即ち、基本的に溶接ワイヤー3A,3Bへのガイド電極と追従電極の割り当てが置き換えられる。そして、溶接ワイヤー3Bが加工物6に接触すると、直ちにガイド電極(ここでは、溶接ワイヤー3B)でアークが点火される。その間、追従電極(ここでは、溶接ワイヤー3A)は、加工物6の方向に動かされて、追従電極(溶接ワイヤー3A)が加工物6に接触するか、或いはガイド電極(溶接ワイヤー3B)のアークによりイオン化された周辺領域に進入した時に、追従電極でアークが点火される。それによって、複式溶接方法のスタートオペレーションを加速することができ、それは、例えば、ガイド電極と追従電極の割り当てが問題にならない用途において有利である。有利には、追従電極が最初に加工物6に接触するケースに関するスタートオペレーションのモードは、溶接機器A,Bにおけるユーザーインタフェース10A,10B又は中央制御ユニットを介して選定することができる。当然のことながら、それに対応するモードを予めセットしておくこともできる。
【0045】
図4には、ガイド電極の溶接電流IAと追従電極の溶接電流IBの推移が時間に関するグラフで図示されている。この例では、両方の溶接機器A,Bを用いて、それぞれパルス溶接プロセスが実施されるが、当然のことながら、例えば、ショートアーク溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス、溶接ワイヤー送りを逆転させる溶接プロセス(所謂冷間金属移行溶接プロセス)などのそれ以外の周知の溶接プロセスを実施することもできる。異なる溶接プロセスを組み合わせる、即ち、例えば、パルス溶接プロセスをガイド電極で実施するとともに、スプレーアーク溶接プロセスを追従電極で実施することも考えられる。様々な溶接プロセスが当業者に周知である。実線がガイド電極(溶接機器A)の溶接電流IAの推移を表し、破線(マークを付けた線)が追従電極(溶接機器B)の溶接電流IBの推移を表す。
【0046】
例示したパルス溶接中に、基本電流IGとそれに対して上昇するパルス電流IPとが所与のパルス周波数fで周期的に交替する。このパルス周波数fは、パルス電流IPに関するパルス電流フェーズPPと基本電流IGに関する基本電流フェーズPGから成る溶接サイクルSA,SBの周期時間長tSA,tSBの逆数として得られる。有利には、パルス電流フェーズPPの期間中、それぞれ溶接ビードが溶湯15に剥がれ落ちる。溶接中に、パルス周波数f及び/又は基本電流IG又はパルス電流IPの値を変化させることもできる。図4では、当然のことながら、溶接電流IG,IPの時間的な推移が理想化され、簡略化されて図示されている。多くの場合、基本電流フェーズPGでは、プロセスの安定性を高めるために、(図示されていない)短い中間電流パルスが規定される。しかし、それは、溶接サイクルSA,SBの周期時間長tSA,tSB及びそれらから得られるパルス周波数fA,fBを何ら変化させない。
【0047】
有利には、ワイヤーの直径と電極の素材に応じて、各パルス溶接プロセスの溶接ワイヤー送り速度vA,vB、溶接電流IA,IB、基本電流の時間長、パルス電流の時間長及びパルス周波数fA,fBは、各電流パルスにおいて、一つのビードが生成されて、剥がれ落ちるように互いに調整される。この場合、溶接ワイヤー送り速度vA,vBとパルス周波数fA,fBは、通常互いに依存し合う。簡単にするために、図4では、溶接電流IA,IBの推移が、同じ大きさの基本電流IGA=IGB及びパルス電流IPA=IPBで、所定の位相シフトtPだけ時間的にずれた形で、ほぼ同じに図示されている。しかし、当然のことながら、異なる推移にすることもできる、特に、異なるパルス周波数fA,fB、異なる大きさの溶接電流IA,IB又はパルス時間長を規定することができる。同様に、当然のことながら、別の位相シフトtPを規定することも、当然のことながら、位相シフトtPを規定しないこともできる。
【0048】
別個の溶湯による二つの独立した溶接プロセスの代わりに、例えば、(図1に図示されているように)両方の溶接ワイヤー3A,3Bが一つの共通の溶湯15に対して動作する複式パルス溶接プロセスを使用する場合、有利には、両方のパルス溶接プロセスを互いに同期させる。そして、有利には、両方のパルス溶接プロセスのパルス周波数fA=1/tSA,fB=1/tSBが、互いに所定の予め与えられた関係を有し、それらから得られる溶接サイクルSA,SBが、互いに所定の予め与えられた位相関係を有する。パルス周波数fA,fBが互いに整数の比率を有するのが有利である。
【0049】
スタートフェーズPSTにおいて、複式溶接プロセスのスタートオペレーションが、既に図2a~2dに基づき詳しく述べた通り実行され、そのため、ここでは、最早詳しく立ち入らない。時点t1で、ガイド電極、ここでは、溶接ワイヤー3Aが加工物6に接触する(図2cを参照)。制御ユニット9AがスタートフェーズPST後にパルス溶接プロセスの溶接パラメータ(溶接電流IA、溶接電圧UA、溶接ワイヤー送り速度vA、パルス周波数fAなど)を設定する、特に、調整することによって、アークの点火時に、溶接電流IAが点火電流IZAにまで急激に上昇して、溶接プロセス、ここでは、パルス溶接プロセスが周知の手法により開始される。そのために、制御ユニット9Aは、場合によっては、溶接プロセスの実際値としての一つ又は複数の測定量、例えば、溶接電圧UA、溶接電流IA、溶接抵抗などを検出することができる。或る程度のアーク長でアークを安定させるために、基本電流IG及びパルス電流IPと比べて点火電流IZAを高くすることによって、アークの点火が支援される。ガイド電極でのアークの点火が不完全又は不十分である場合、有利には、追従電極で点火する資格が授与されない。そのために、例えば、それに対応する同期信号Yがガイド電極の制御ユニット9Aから追従電極の制御ユニット9Bに送信することができる。
【0050】
ガイド電極が道程zA又は時間tAだけ追従電極に先行するので、追従電極、ここでは、溶接ワイヤー3Bは、時間zAだけ時間的に遅れた時点t2で漸くガイド電極のアークによりイオン化された周辺領域に進入する。この場合、制御ユニット9Bは、短絡を検出する必要はなく、追従電極でのアークの点火が、溶接機器Bのフリーホイール溶接電圧でも、ほぼ自動的に開始される。アークの点火後に、所与の溶接プロセス、ここでは、ガイド電極と同様にパルス溶接プロセスを実施することができる。それ故、図4で破線で表示されている通り、追従電極のパルス溶接プロセスの溶接パラメータ(溶接電流IB、溶接電圧UB、溶接ワイヤー送り速度vB、パルス周波数fBなど)が、制御ユニット9Bによって設定されるか、或いは特に、調整される。ガイド電極のアークを取り囲む空気がアークのエネルギーによってイオン化されるので、より少ない点火電流IZBにより明らかな通り、追従電極を点火するために、より少ない点火エネルギーが必要である。ガイド電極と追従電極が共通の溶湯15にではなく、それぞれ(図示されていない)独自の溶湯に送り出される場合、追従電極での点火が、有利には、加工物に接触した時に、ガイド電極と同様にほぼ従来通り、例えば、溶接機器Bの溶接電流回路での短絡の検出後に行われる。
【0051】
しかし、既に述べた通り、所定の予め与えられた、或いは設定可能な待機時間tWを設けることもでき、その待機時間中、追従電極は、制御ユニット9Bによって待機位置に留め置かれる。図示された例では、そのことが、スタートフェーズPSTにおけるマークを付けた線で表されている。それは、時点t1でのガイド電極でのアークの点火後に、追従電極が、前と同様にほぼ連続して中断されずに加工物6の方向に動かされないことを意味する。この場合、ガイド電極の制御ユニット9Aは、ガイド電極でのアークの点火時に、同期信号Yを追従電極の制御ユニット9Bに送信し、それに応じて、制御ユニット9Bが、追従電極の溶接ワイヤー送りを停止する。予め与えられた、或いは設定可能な待機時間tWの経過後に、制御ユニット9Bが、追従電極の溶接ワイヤー送りを続行して、追従電極がガイド電極のアークを取り囲む空気(又は加工物6)に接触し、それに応じて、追従電極でのアークが点火されて、それに対応する溶接プロセスが実施される。それにより、ガイド電極(溶接ワイヤー3A)でのアークの点火と追従電極(溶接ワイヤー3B)でのアークの点火の間の全体的な時間が、図4に図示されている通り、(ガイド電極が追従電極に先行する)時間tAと待機時間tWから構成される。それによって、スタートオペレーションをより柔軟に開始することができる。特に、それは、追従電極が複数である場合に、各追従電極のアークの点火の開始を例えば、個々に設定できるので有利である。しかし、基本的に、ガイド電極のイオン化エネルギーが十分である限り、追従電極でのアークをより早く、例えば、ガイド電極の点火(図4の時点t1)とほぼ同時に、或いは点火後直ぐに点火することも可能である。しかし、それは、追従電極でのアーク長を比較的長くすることとなり、それは、場合によっては望ましくない。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図4