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特許7181435炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法および炭化ケイ素繊維の製造方法
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  • 特許-炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法および炭化ケイ素繊維の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法および炭化ケイ素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/10 20060101AFI20221122BHJP
   C08G 77/60 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
D01F9/10 A
C08G77/60
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022107345
(22)【出願日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】内藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 惇基
(72)【発明者】
【氏名】井内 諒
(72)【発明者】
【氏名】山川 紘司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 建
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137935(JP,A)
【文献】特開昭64-085225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/10
C08G 77/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理とを繰り返し行うこと、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程と、
前記ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランを繊維状にする紡糸工程と、
前記紡糸工程によって生成されたポリカルボシラン繊維を焼成する焼成工程と、を含む、炭化ケイ素繊維の製造方法であり、
前記ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランから低分子量のポリカルボシランを除去して分子量を調整する工程を含まない、炭化ケイ素繊維の製造方法
【請求項2】
前記ポリカルボシラン合成工程において、分岐の程度の指標である下記式(1)で表される結合指数が2.52以上であるポリカルボシランを合成する、請求項1に記載の炭化ケイ素繊維の製造方法。
【数1】
[式(1)中、
CH3 、X CH2 、X CH 、およびX は、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級炭素原子の重量%を12で除した数値であり、
SiH3 、Y SiH2 、Y SiH 、およびY Si は、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級ケイ素原子の重量%を28.086で除した数値である。]
【請求項3】
前記ポリカルボシラン合成工程において、次の条件を満たすポリカルボシランを合成する、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維の製造方法:
合成したポリカルボシラン粉末を390℃で2分間加熱したときに、粉末の状態が維持される。
【請求項4】
前記環状シラン化合物がドデカメチルシクロヘキサシランである、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記環状シラン化合物がドデカメチルシクロヘキサシランである、請求項3に記載の炭化ケイ素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法および炭化ケイ素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液相-気相熱分解縮合法によりポリシランからポリカルボシランを合成し、合成したポリカルボシランから炭化ケイ素繊維を製造する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、超耐熱性炭化ケイ素繊維並びにその製造方法が開示されており、環状ポリシランを原料としたオートクレーブ法によるポリカルボシランの製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、セラミックス成形体の製造方法が開示されており、ポリシランを原料としたオートクレーブ法によるポリカルボシランの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-137935号公報
【文献】特開平4-194028号公報
【文献】特開平1-257177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化ケイ素繊維製造用のポリカルボシランの製造方法において、工程数の多さが煩雑性や高価な製造費につながるため、より簡便で安価に炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造する技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、環状シラン化合物を原料として用いることにより、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維の製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程と、前記ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランを繊維状にする紡糸工程と、前記紡糸工程によって生成されたポリカルボシラン繊維を焼成する焼成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポリカルボシラン合成に使用可能な液相-気相熱分解装置10を示した図である。
図2】ポリカルボシランの溶融挙動と1000℃での焼成により得られたSiC繊維の引張強度とを示した図である。
図3】分子量調整回数と、合成工程後の総収率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔1.炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法〕
本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法(以下、「ポリカルボシランの製造方法」と称する。)は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理(以下、「第1加熱処理」と称する。)と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理(以下、「第2加熱処理」と称する。)と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理(以下、「高分子量化処理」と称する。)と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程を含む。このような構成によれば、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造することができる。
【0014】
その理由は、次の通りである。つまり、本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシラン製造方法によって製造されたポリカルボシランは、炭化ケイ素繊維を製造する過程において、焼成時に繊維が融着しにくいという特徴を有する。したがって、融着の原因となる低分子量のポリカルボシランを除去するために分子量を調整する工程を行う必要がなく、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造することができる。ここで、低分子量のポリカルボシランは、例えば、分子量5500以下のポリカルボシランを指す。
【0015】
本明細書において、「分子量を調整する工程」とは、ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランから低分子量のポリカルボシランを除去する工程を指す。低分子量のポリカルボシランを除去する方法としては、例えば、ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランに溶媒を加え、溶解成分を除去することにより、低分子量のポリカルボシランを除去する方法等が挙げられる。一般的に、ポリカルボシランに加える溶媒としては、低分子量のポリカルボシランを抽出し得る溶媒であれば特に制限されずに用いられ、除去したい分子量範囲に合わせて、適宜選択されるものである。
【0016】
(ポリカルボシラン合成工程)
ポリカルボシラン合成工程は、第1加熱処理と、第2加熱処理と、高分子量化処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する工程である。
【0017】
第1加熱処理は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理である。環状シラン化合物を含む原料は、固体であってもよく、液体であってもよく、液体と固体との混合物であってもよい。本明細書において、第1の温度は該原料を入れた反応容器の内部温度の測定結果を示している。つまり、第1の温度は、反応容器の内容物そのものの温度である。第1の温度は、環状シラン化合物の少なくとも一部を気化させて気相を生成できる温度であれば、特に限定されない。典型的には、100℃~500℃の範囲であり得、400℃~500℃の範囲であり得る。当該温度で加熱することにより、環状シラン化合物が熱分解されて気相を生じさせるとともに、環状シラン化合物の昇華もしくは液化からの気化によっても気相が生じる。
【0018】
本発明の一態様に係るポリカルボシランの製造方法において、環状シラン化合物は、骨格がSi-Si結合のみからなる骨格を主鎖とし、主鎖が環状を形成している化合物である。ポリカルボシランの製造方法において使用する環状シラン化合物の員数は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは7以下である。また、環状シラン化合物は、単環でもよく、複数の環を有していてもよい。また、環状シラン化合物の側鎖は、任意の構造を有していてもよい。環状シラン化合物としては、オクタメチルシクロテトラシラン、デカメチルシクロペンタシラン、ドデカメチルシクロヘキサシラン、および、テトラデカメチルシクロヘプタシラン等が挙げられる。原料供給の観点からは、環状シラン化合物は、ドデカメチルシクロヘキサシランであることが好ましい。
【0019】
ポリカルボシラン合成工程に使用する環状シラン化合物の量は、ポリカルボシランを合成する装置および所望のポリカルボシランの合成量に合わせて、適宜調整することができる。
【0020】
第2加熱処理は、第1加熱処理において生成した気相を第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理である。第2加熱処理により、環状シラン化合物のSi-Si結合をラジカル開裂して転位させ、ポリカルボシランを生成することができる。本明細書において、第2の温度は、環状シラン化合物を含む原料から生成した気相を加熱した時の気相を入れた反応管の内部温度の測定結果を示している。つまり、第2の温度は、第2加熱処理で加熱した気相そのものの温度である。生成されたポリカルボシランは、冷却されて、第1加熱処理が行われている原料に戻される。
【0021】
合成したポリカルボシランの酸素含有量の観点からは、ポリカルボシランの酸素含有量が増加しにくいため、第2の温度は670℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることがさらに好ましい。検討の結果、環状ポリシランを原料に用いた本実施形態の方法では、第2の温度が高くなると、生成されたポリカルボシランの粘度が著しく増加することが確認され、装置によっては配管の詰まりが引き起こされる。したがって、ポリカルボシランを合成する装置の運転性の観点からは、合成したポリカルボシランによって装置の配管が詰まることを防ぐため、第2の温度は650℃以下であることが好ましい。また、第2の温度は、環状シラン化合物を転位させる観点からは、500℃以上であることが好ましく、ポリカルボシランの分岐を増加させる観点からは、600℃以上であることが好ましい。なお、ポリカルボシランの分岐については、後述する。
【0022】
高分子量化処理は、第2加熱処置にて生成したポリカルボシランを冷却して原料に戻し第1の温度で加熱することによりポリカルボシランの高分子量化を行う処理である。高分子量化処理により、第2加熱処理によって生成したポリカルボシランを縮合させて高分子量化することができる。冷却温度は、気体の状態であるポリカルボシランを液体にする程度に冷却できればよく、特に限定されない。第1の温度は、第1加熱処理における第1の温度の説明と同じである。
【0023】
これら一連の反応を繰り返し行うことで、ポリカルボシランの高分子量化が徐々に進んでより分子量の大きなポリカルボシランを得ることができる。
【0024】
ポリカルボシラン合成工程の合成時間は、第1の温度に応じて適宜調整することができる。第1の温度および合成時間を調整することにより、ポリカルボシランの重量平均分子量を調整することができる。重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを得る観点から、第1の温度が400~500℃である場合、合成時間は6時間以上であり得る。第1の温度が低くなるにつれて合成時間を長くし、第1の温度が高くなるにつれて、合成時間を短くすることができる。
【0025】
以上の通り、上述のポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランは、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランとなる。したがって、本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法によれば、分子量を調整する工程を行わなくとも、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造することができる。
【0026】
また、ポリカルボシラン合成工程によって製造されるポリカルボシランは、炭化ケイ素繊維の引張強度を向上する観点から、分岐の程度の指標である下記式(1)で表される結合指数が2.52以上であることが好ましい。
【数1】
[式(1)中、
CH3、XCH2、XCH、およびXは、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級炭素原子の重量%を12で除した数値であり、
SiH3、YSiH2、YSiH、およびYSiは、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級ケイ素原子の重量%を28.086で除した数値である。]
【0027】
本明細書における「結合指数」は、ポリカルボシランの分岐の程度の指標となるもので、上記式(1)により求められる値である。本明細書において「分岐」とは、炭素原子またはケイ素原子が、水素原子以外と結合している部分を指す。例えば、CH-CHの分岐は、左に記載した炭素原子が水素原子以外と結合している部分と、右に記載した炭素原子が水素原子以外と結合している部分とを指す。同様に、ケイ素原子の分岐は、すべてのケイ素原子が水素原子以外と結合している部分を指す。したがって、結合指数が大きいほど、高分岐のポリカルボシランとなる。
【0028】
式(1)中、XCH3、XCH2、XCH、およびXは、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級炭素原子の重量%を12で除した数値である。本明細書において、「第一級炭素」とは、三つの水素が結合している炭素を指す。「第二級炭素」とは、二つの水素が結合している炭素を指す。「第三級炭素」とは、一つの水素が結合している炭素を指す。「第四級炭素」とは、水素が結合していない炭素を指す。また、式(1)中、12は、炭素の原子量である。したがって、XCH3、XCH2、XCH、およびXは、詳細には、下記式(2)~(5)の通りである。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0029】
ここで、第一級、第二級および第三級炭素原子の重量%は、各炭素の水素原子の重量%を各炭素に結合する水素原子の数と水素の原子量との積で除し、炭素の原子量を掛けた値である。なお、本明細書において、水素の原子量は、1として計算に使用している。また、第四級炭素原子の重量%は、炭素原子の元素分析値から第一級、第二級および第三級炭素原子の重量%を減じた値である。したがって、第一級、第二級、第三級および第四級炭素原子の重量%は、詳細には、下記式(6)~(9)の通りである。炭素原子の元素分析値は、公知の方法によって求めることができる。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0030】
ここで、第一級、第二級および第三級炭素の水素原子の重量%は、第一級、第二級および第三級炭素のH-NMRの面積割合に水素原子の元素分析値をかけた値である。第一級、第二級および第三級炭素のH-NMRの面積割合は、H-NMRで測定したSi-H、並びに、第一級、第二級および第三級炭素の水素原子の面積値をSi-Hで規格化した面積割合の合計値に対する、第一級、第二級および第三級炭素の水素原子の各面積割合の比率である。したがって、第一級、第二級および第三級炭素の水素原子の重量%は、詳細には、下記式(10)~(12)の通りである。
【数10】
【数11】
【数12】
【0031】
H-NMRにおけるポリカルボシラン中の第一級、第二級および第三級炭素の水素原子の面積値は、5.5~3.5ppmのシグナルを第三級ケイ素上水素(-SiH<)由来シグナル、1.0~0ppmのシグナルを第一級炭素上水素(CH-)由来シグナル、0~-0.4ppmのシグナルを第二級炭素上水素(-CH-)由来シグナル、-0.4~-1.0ppmのシグナルを第三級炭素上水素(-CH<)由来シグナルとして積分値を算出することにより、求めることができる。また、水素原子の元素分析値は、公知の方法によって求めることができる。
【0032】
また、式(1)中、YSiH3、YSiH2、YSiH、およびYSiは、それぞれ第一級、第二級、第三級、および第四級ケイ素原子の重量%を28.086で除した数値である。本明細書において、「第一級ケイ素」とは、三つの水素が結合しているケイ素を指す。「第二級ケイ素」とは、二つの水素が結合しているケイ素を指す。「第三級ケイ素」とは、一つの水素が結合しているケイ素を指す。「第四級ケイ素」とは、水素が結合していないケイ素を指す。また、式(1)中、28.086は、ケイ素の原子量である。したがって、YSiH3、YSiH2、YSiH、およびYSiは、詳細には、下記式(13)~(16)の通りである。
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【0033】
ここで、第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の重量%は、第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の29Si-NMRの面積割合にケイ素原子の元素分析値をかけた値である。第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の29Si-NMRの面積割合は、第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の面積割合を第四級ケイ素原子で規格化した面積割合の合計値に対する、第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の各面積割合の比率である。したがって、第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の重量%は、詳細には、下記式(17)~(20)の通りである。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0034】
29Si-NMRにおけるポリカルボシラン中の第一級、第二級、第三級および第四級ケイ素原子の面積割合は、10~-8ppmのシグナルを第四級ケイ素(>Si<)由来シグナル、-8~-24ppmのシグナルを第三級ケイ素(-SiH<)由来シグナル、-30~-50ppmのシグナルを第二級ケイ素(-SiH-)由来シグナル、-40~-70ppmのシグナルを第一級ケイ素(-SiH)として積分値を算出することにより、求めることができる。また、ケイ素原子の元素分析値は、公知の方法によって求めることができる。
【0035】
以上の算出方法により、結合指数を算出することができる。
【0036】
また、ポリカルボシラン合成工程によって製造されるポリカルボシランは、環状ではないポリシランを用いて得られるポリカルボシランに比して、軟化点が高くなっている。本明細書において、「軟化点」とは、ポリカルボシランが融解し始める温度を指す。これにより、本実施形態におけるポリカルボシランは、焼成時における繊維の融着を防ぐことができる。具体的には、本実施形態におけるポリカルボシランは、該ポリカルボシラン粉末を390℃で2分間加熱した場合、好ましくは、部分的には融解するものの粉末の状態が維持されており、より好ましくは完全に粉末の状態として維持されている。より具体的には、本実施形態における軟化点は、400℃以上であることが好ましく、ポリカルボシランが活発に高分子量化および架橋する500℃以上であることがより好ましく、ポリカルボシランから炭化ケイ素への熱分解が活発に生じる600℃以上であることがさらに好ましい。
【0037】
図1を参照して、ポリカルボシラン合成工程の一実施形態について説明する。図1は、ポリカルボシラン合成に使用する液相-気相熱分解装置10を示す図である。
【0038】
液相-気相熱分解装置10は、液相反応容器1と、液相ヒーター2と、液相熱電対3と、気相反応管4と、気相ヒーター5と、気相熱電対6と、第1冷却管7と、流量計8と、バルブ9と、を備える。
【0039】
まず、環状シラン化合物を液相反応容器1に入れ、不活性ガス下において、液相ヒーター2を用いて第1の温度で加熱することにより気相を生成させる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、およびアルゴン等が用いられ得る。第1の温度は、液相熱電対3を用いて測定する。また、不活性ガスの量は、流量計8を用いて調整する。
【0040】
次に、生成した気相は、気相反応管4に移動し、気相ヒーター5を用いて第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する。第2の温度は、気相熱電対6を用いて測定する。
【0041】
次に、生成したポリカルボシランを第1冷却管7で冷却して液相を液相反応容器1に戻し、液相ヒーター2を用いて第1の温度で加熱することによりポリカルボシランの高分子量化を行う。
【0042】
これら一連の反応を繰り返し行い、所定の合成時間経過後、液相および気相を冷却したのち液相反応装置1から合成したポリカルボシランを収集する。これによって、ポリカルボシランが得られる。
【0043】
(他の工程)
本発明の一態様に係る製造方法は、ポリカルボシラン合成工程以外の他の工程を含んでいてもよい。他の工程は、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されない。
【0044】
本発明の一態様に係る製造方法は、ポリカルボシラン合成工程後に、合成したポリカルボシランに溶媒を加え、不溶成分を除去する除去工程を含んでいてもよい。除去工程により、ポリカルボシランに含まれる不純物を除去することができる。不溶成分は、例えば、ろ過により除去すればよい。溶媒は、ポリカルボシランを抽出し得る溶媒であれば、特に制限されない。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、および、メシチレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、および、ノナン等の脂肪族炭化水素、並びに、クロロホルム、および、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。添加する溶媒の量は、ポリカルボシランが溶解する量であればよく、当業者が適宜設定することができる。抽出温度は、当業者が適宜設定することができ、例えば、室温(22℃)であり得る。
【0045】
また、本発明の一態様に係る製造方法によって製造されるポリカルボシランは、分子量を調整する工程を経て製造されたポリカルボシランと比較して、分子量調整後のポリカルボシランの収率が高くなる。なお、本明細書において、「分子量調整後のポリカルボシランの収率」は、合成されたPCSからの分子量調整に続く不溶成分除去後のPCSの収率を指す。
【0046】
〔2.炭化ケイ素繊維の製造方法〕
本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維(以下、「SiC繊維」とも称する。)の製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程と、前記ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランを繊維状にする紡糸工程と、前記紡糸工程によって生成されたポリカルボシラン繊維を焼成する焼成工程と、を含む。このような構成により、引張強度が高いSiC繊維を製造することができる。
【0047】
また、本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維の製造方法によれば、分子量調整後のポリカルボシランの収率が向上するため、合成工程後の総収率が向上する。したがって、本発明の一態様に係る炭化ケイ素の製造方法によれば、ポリカルボシランからの炭化ケイ素繊維の歩留まりを向上することができる。本明細書において、「合成工程後の総収率」とは、分子量調整後のPCS収率(%)とセラミック収率(%)との積を指す。「セラミック収率(%)」とは、生糸からの焼成後のSiC繊維の収率を指す。
【0048】
(ポリカルボシラン合成工程)
ポリカルボシラン合成工程は、〔1.炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法〕におけるポリカルボシラン合成工程の説明と同じである。
【0049】
(紡糸工程)
紡糸工程は、ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランを繊維状にする工程である。
【0050】
紡糸の方法としては、溶融紡糸法、乾式紡糸法、および、湿式紡糸法等が挙げられる。高温条件下でなくとも紡糸が可能であり、紡糸後に急激な温度低下が生じないため繊維径のばらつきを低減できる観点から、乾式紡糸法が好ましい。乾式紡糸法を行う場合、例えば、以下の方法によって紡糸することができる。つまり、本発明の一態様に係るポリカルボシランを溶媒に溶解し、乾式紡糸溶液を調整する。次に、乾式紡糸溶液を紡糸装置に供し、ポリカルボシラン繊維を生成する。
【0051】
ポリカルボシランを溶解する溶媒は、ポリカルボシランを溶解できればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、および、メシチレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、および、ノナン等の脂肪族炭化水素、並びに、クロロホルム、および、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。ポリカルボシランの溶解性および揮発性に優れるため、トルエンまたはキシレンを使用することが好ましい。
【0052】
乾式紡糸溶液の濃度は、当業者が適宜調整することができ、例えば、50~70%であり得る。
【0053】
乾式紡糸溶液の粘度は、紡糸装置のノズル径に合わせて、当業者が適宜調整することができ、例えば、65μmのノズル径の場合、25℃において10~30Pa・sであり得る。粘度は、溶液の粘度を測定する公知の方法によって求めることができ、例えば、E型粘度計を用いて測定することができる。
【0054】
紡糸に使用する紡糸装置は、本技術分野で通常使用されている装置を使用すればよい。例えば、乾式紡糸溶液を紡糸装置に供し、紡糸ノズル径65μm、吐出圧力2~3.5MPa、紡糸速度10~30mg/minの条件下で紡糸することで、生糸を得ることができる。このような条件下で生成した生糸は、例えば、生糸径が17.0~19.0のポリカルボシラン繊維であり得る。
【0055】
(焼成工程)
焼成工程は、紡糸工程によって生成されたポリカルボシラン繊維を焼成する工程である。ポリカルボシラン繊維を焼成してセラミックス化することにより、炭化ケイ素繊維を生成することができる。
【0056】
焼成の条件は、当業者が適宜設定することができる。例えば、後述する表1に記載の条件で焼成し得る。また、表1の最高温度を1400℃に変更した条件で焼成し得る。引張強度が高いSiC繊維が得られる観点から、最高温度を1000℃にすることが好ましい。
【0057】
引張強度は、公知の方法によって測定することができる。例えば、モノフィラメントの引張試験を行って破断応力を測定し、破断応力をSiC繊維の断面積で除することで引張強度とすることができる。
【0058】
弾性率は、得られた引張強度を引張試験時のゲージ長に対する伸び率で除することで算出した値である。
【0059】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程を含む。
【0060】
本発明の態様2に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法は、前記態様1において、前記環状シラン化合物がドデカメチルシクロヘキサシランであることが好ましい。
【0061】
本発明の態様3に係る炭化ケイ素繊維の製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程と、前記ポリカルボシラン合成工程によって合成されたポリカルボシランを繊維状にする紡糸工程と、前記紡糸工程によって生成されたポリカルボシラン繊維を焼成する焼成工程と、を含む。
【0062】
また、本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランは、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理で製造した、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを含む。
【実施例
【0063】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。なお、実施例において製造元を記載していない試薬および装置は、当技術分野で通常用いられるものを使用した。
【0064】
〔1.ポリカルボシラン(PCS)合成〕
[合成例1]
ドデカメチルシクロヘキサシラン(DMCHS)を図1に示すような液相-気相熱分解装置の液相反応容器に入れた。次いで、液相反応容器中の液相を400~500℃に加熱し、気相反応管中の気相を600℃に加熱して、6時間30分反応させ、PCSを合成した。DMCHSは、公知の製造方法に従って製造したものを使用した。
【0065】
[合成例2]
反応時間を6時間とする以外は、合成例1と同様にPCSを合成した。
【0066】
[合成例3]
DMCHSの代わりにポリジメチルシラン(PDMS)を液相反応容器に入れ、反応時間を8時間とする以外は、合成例1と同様にPCSを合成した。
【0067】
[合成例4]
反応時間を5時間とする以外は、合成例1と同様にPCSを合成した。
【0068】
〔2.分子量調整および不純物の除去〕
[実施例1~2および比較例1~2]
合成例1~4で合成したPCSを、分子量調整はせずに、それぞれ室温でトルエンに溶解させた。ろ過によって不溶成分を除去した後、溶媒を除去して得たPCSを実施例1~2および比較例1~2とした。
【0069】
[比較例3~4]
合成例3~4で合成したPCSに対して5倍重量の酢酸エチルを用いて、50℃で4回洗浄することにより、溶解成分と不溶成分に分離することで分子量調整した。その後、不溶成分を室温でトルエンに溶解させた。ろ過によって不溶成分を除去した後、溶媒を除去して得たPCSを比較例3~4とした。
【0070】
[参考例1]
合成例1で合成したPCSに対して5倍重量の酢酸エチルを用いる以外は、比較例3~4と同様にPCSを得た。
【0071】
[参考例2~5]
合成例2で合成したPCSに対して5倍重量の酢酸エチルを用いて、50℃でそれぞれ1~4回洗浄し分子量調整すること以外は、比較例3~4と同様にPCSを得た。
【0072】
〔3.紡糸〕
不溶成分を除去したPCSを25℃における紡糸液粘度が16~25Pa・sとなるようにキシレンに溶解させ、乾式紡糸溶液を調製した。その後、調製した溶液をノズル径65μmの紡糸口金(ノズル)から押し出し、巻き取って、糸径17~19μmのポリカルボシラン繊維(生糸)を得た。
【0073】
〔4.焼成〕
実施例1~2、比較例1~4、および参考例1~5のPCSの生糸を、表1で示す条件にて最高温度1000℃で焼成し、炭化ケイ素繊維を得た。
【表1】
【0074】
実施例1および参考例1のPCSの生糸は、最高温度を1400℃に変更した条件で焼成した炭化ケイ素繊維も得た。
【0075】
〔5.評価〕
(PCSの溶融挙動の確認)
実施例1~2および比較例1~2のPCSを、それぞれガラスチューブに充填し、チューブ内をアルゴン置換し封止した。これを、予め装置内温度を390℃に昇温した融点測定機(Buchi製、B-545)中に投入し、2分間静置した。静置後、チューブ内に充填したPCSの状態を目視で確認した。PCS粉末のまま保持しているほど軟化点が高く、融解している量が多いほど軟化点が低いといえる。
【0076】
(元素分析)
合成例1~4で合成されたPCS、並びに、実施例1~2、比較例1~4、および参考例1~5のPCSの酸素含有量は、株式会社堀場製作所製EMGA-930、炭素原子の元素分析値は、LECO社製 炭素硫黄分析装置 CS844型装置、水素原子の元素分析値は、Perkin Elmer社製 Series II CHNS/O ANLYZER 2400を用いて測定した。ケイ素原子の元素分析値は、炭素、水素の各元素分析値、および酸素含有量を全割合(100%)から除いた残量とした。
【0077】
(分子量の測定)
合成例1~4で合成されたPCS、並びに、実施例1~2、比較例1~4、および参考例1~5のPCSの分子量を、以下の条件でGPC測定により求めた。
装置名:株式会社島津製作所製HPLC
カラム:KF-60、KF-602、KF-60 各1本をポンプ側からこの順番で通液されるように連結し使用(いずれも昭和電工株式会社製)
測定溶媒:トルエン
流速:分析部およびリファレンス:0.40mL/min
オーブン:40℃
検出器:示差屈折計(株式会社島津製作所製RID―20A)
サンプル溶液:0.5重量%
【0078】
H-NMR分析)
合成例1~4で合成されたPCS、並びに、実施例1~2、比較例1~4、および参考例1~5のPCSを、重クロロホルムに溶解し、以下の条件でH-NMR分析した。5.5~3.5ppmのシグナルを第三級ケイ素上水素(-SiH<)由来シグナル、1.0~0ppmのシグナルを第一級炭素上水素(CH-)由来シグナル、0~-0.4ppmのシグナルを第二級炭素上水素(-CH-)由来シグナル、-0.4~-1.0ppmのシグナルを第三級炭素上水素(-CH<)由来シグナルとして積分値を算出した。なお、第一級、および第二級ケイ素上水素に由来するシグナルは確認できなかった。
測定機器:JNM-ECZ600R/S1(日本電子株式会社製)
積算回数:8回
【0079】
29Si-NMR分析)
合成例1~4で合成されたPCS、並びに、実施例1~2、比較例1~4、および参考例1~5のPCSを、重クロロホルムに溶解し、以下の条件で29Si-NMR分析した。10~-8ppmのシグナルを第四級ケイ素(>Si<)由来シグナル、-8~-24ppmのシグナルを第三級ケイ素(-SiH<)由来シグナルとして積分値を算出した。なお、第一級および第二級ケイ素に由来するシグナルは確認できなかった。
測定機器:JNM-ECZ600R/S1(日本電子株式会社製)
測定方法詳細:回転なし;45度パルスの照射;取込み時間0.659秒;ディレイ間隔16秒のパルスシーケンスで測定
積算回数:512回
【0080】
(紡糸溶液粘度測定)
乾式紡糸溶液の粘度を、E型粘度計(ティー・エイ・インスツルメント社製ARES-G2)を用いて、温度25℃、せん断速度200sec-1の条件下で測定した。
【0081】
(結合指数の算出)
上述の実施形態に記載の式(1)~(20)に従って、算出した。ただし、第一級および第二級ケイ素は確認されなかった。
【0082】
(収率)
ポリカルボシラン合成工程における収率は、液相反応容器から取得したPCS重量を反応容器内に仕込んだ原料重量で除し、百分率とした重量収率として算出した。
【0083】
分子量調整後のPCS収率は、分子量調整に続く不溶成分の除去後に得られたPCSの乾燥重量を分子量調整前のPCS重量で除し、百分率とした重量収率として算出した。
【0084】
焼成工程におけるセラミック収率は、焼成後のSiC繊維の重量を焼成装置に仕込んだ生糸重量で除し、百分率とした重量収率として算出した。
【0085】
合成工程後の総収率は分子量調整後のPCS収率とセラミック収率との積として算出した。ただし、分子量調整を行っていない場合、分子量調整後のPCS収率は100%として計算に用いた。
【0086】
(糸径)
株式会社キーエンス製の光学顕微鏡 VHX-5000を用い、倍率2000倍でSiC繊維の直径を測定した。
【0087】
(引張強度)
株式会社オリエンテック製 STA-1150を用いてモノフィラメントの引張試験をゲージ長25mm、クロスヘッド速度5mm/minで行い、破断応力を測定した。測定した破断応力をSiC繊維の断面積で除することで引張強度とした。本願の引張強度は引張試験を10回実施した平均値とした。
【0088】
(弾性率)
弾性率は得られた引張強度を引張試験時のゲージ長に対する伸び率で除することで算出した。
【0089】
〔6.結果〕
以上の評価結果を表2~5に示した。具体的には、合成後のPCSの評価結果を表2に、分子量調整および不溶成分除去工程後のPCSの評価結果を表3に、紡糸後のPCS繊維の評価結果を表4に、焼成後のSiC繊維の評価結果を表5に示した。また、PCSの溶融挙動の確認結果と1000℃での焼成により得られたSiC繊維の引張強度を図2に示した。なお、表2~5及び図2中、データを測定しなかった項目には、棒線を記載し、データが測定できなかった項目には、測定不可と記載した。また、「分子量調整後のPCS収率(%)」、「セラミック収率(%)」、および「合成工程後の総収率(%)」は、〔1.炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法〕および〔2.炭化ケイ素繊維の製造方法〕に記載における説明を同じである。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0090】
また、合成例1および合成例2で合成したポリカルボシランの分子量調整回数と合成工程後の総収率(%)の関係を示した図を図3に示した。図3において、横軸は分子量調整回数を表し、縦軸は合成工程後の総収率(%)を表す。
【0091】
表2~5および図3から、本発明の一態様に係るポリカルボシランの製造方法によって製造されたポリカルボシランは、分子量調整工程を行わずに炭化ケイ素繊維を製造できることが明らかになった。また、図2から、本発明の一態様に係るポリカルボシランの製造方法によって製造されたポリカルボシランは、軟化点が高いことが明らかになった。したがって、本発明の一態様に係るポリカルボシラン製造方法によって製造されたポリカルボシランは、炭化ケイ素繊維を製造する過程において、焼成時に繊維が融着しにくいことが示された。以上のことから、本発明の一態様に係るポリカルボシランの製造方法によれば、液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造できることが示された。
【0092】
また、表3、表5、および図3から、本発明の一態様に係るポリカルボシランの製造方法によって製造されたポリカルボシランは、分子量を調整する工程を経て製造されたポリカルボシランと比較して、分子量調整後のポリカルボシランの収率が増加することが明らかとなった。したがって、合成工程後の総収率が増加することが明らかとなった。以上のことから、本発明の一態様に係る炭化ケイ素の製造方法によれば、ポリカルボシランからの炭化ケイ素繊維の歩留まりを向上できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、炭化ケイ素繊維の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 液相反応容器
2 液相ヒーター
3 液相熱電対
4 気相反応管
5 気相ヒーター
6 気相熱電対
7 第1冷却管
8 流量計
9 バルブ
10 液相-気相熱分解装置
【要約】
【課題】液相-気相熱分解縮合法によるポリカルボシランの製造方法において、従来の製造方法より少ない工程数で、炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る炭化ケイ素繊維製造用ポリカルボシランの製造方法は、環状シラン化合物を含む原料を第1の温度で加熱することにより気相を生成する処理と、前記気相を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱してポリカルボシランを生成する処理と、前記ポリカルボシランを冷却して前記原料に戻し前記第1の温度で加熱することにより前記ポリカルボシランの高分子量化を行う処理と、を含む、重量平均分子量が9000以上のポリカルボシランを合成する、ポリカルボシラン合成工程を含む。
【選択図】なし
図1
図2
図3