(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】アクチュエータ及び光走査装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20221124BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20221124BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2018069569
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 崇弘
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-238581(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074256(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0078857(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/08,26/10
B81B 3/00
H02N 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象物を支持する捻れ梁と、
圧電素子である
駆動源が形成された駆動梁と、
前記捻れ梁と前記駆動梁を連結する連結梁と、
前記駆動梁が固定される枠体と、を備え、
前記駆動源に駆動される
前記駆動梁の共振駆動によって前記捻れ梁に所定の軸の周りを回転する方向の力を加えて前記駆動対象物を揺動させる、アクチュエータであり、
前記アクチュエータの構造非線形定数をβ[Nm/rad
3]とし、前記アクチュエータのばね定数をk[Nm/rad]としたときに、下記式(1)を満たす、アクチュエータ。
【数1】
ここで、3.5≦A≦15.5である。
【請求項2】
前記枠体の外周に設けられた固定枠と、
前記枠体と前記固定枠とを接続して設けられた第2の駆動梁と、を有する
請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記第2の駆動梁の駆動によって前記所定の軸と直交する第2の軸の周りを回転する方向に前記枠体を含む前記駆動対象物を揺動させる
請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記第2の駆動梁の表面に前記第2の駆動梁を駆動する
圧電素子である第2の駆動源が形成されている
請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記第2の駆動梁の根元に設けられた梁に前記第2の駆動梁を駆動する
圧電素子である第2の駆動源が形成されている
請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
光反射面を有するミラーと、
前記ミラーを支持するミラー支持部と、
前記ミラー支持部を支持する捻れ梁と、
圧電素子である
駆動源が形成された駆動梁と、
前記捻れ梁と前記駆動梁を連結する連結梁と、
前記駆動梁が固定される枠体と、を備え、
前記駆動源に駆動される
前記駆動梁の共振駆動によって前記捻れ梁に所定の軸の周りを回転する方向の力を加えて前記ミラー支持部を揺動させる、アクチュエータを含み、
前記アクチュエータの構造非線形定数をβ[Nm/rad
3]とし、前記アクチュエータのばね定数をk[Nm/rad]としたときに、下記式(1)を満たす、光走査装置。
【数1】
ここで、3.5≦A≦15.5である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ及び光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ミラー部を回転軸回りに回転させて光を走査する光走査装置が知られている。このような光走査装置の一つとして共振/非共振2軸駆動MEMSミラーが挙げられる。MEMSミラーを構成するアクチュエータは、水平駆動梁と垂直駆動梁を有する。水平駆動梁の共振駆動によって水平回転軸の周りを回転する方向にミラーを変位させ、さらに、垂直駆動梁の非共振駆動によって垂直回転軸の周りを回転する方向にミラーを変位させる。これにより、ミラーによって反射される光を水平及び垂直方向に走査する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の共振/非共振2軸駆動MEMSミラー等の光走査装置を構成するアクチュエータの周波数に対する振角の特性曲線において、一般に、圧電素子への印加電圧を高めて振角を拡大した時に共振点を結んだ曲線を背骨曲線と呼ぶ。周波数を固定して印加電圧を高めると、振角は拡大する。
【0004】
ここで、光走査装置のアクチュエータの共振駆動時に振角を拡大していくと、周波数応答に非線形跳躍現象が現れることがある。非線形跳躍現象とは、振角の周波数応答において、ある周波数で振角が急激に変化する現象である。非線形跳躍現象は、圧電素子が持つ逆圧電特性の非線形性(圧電非線形性)と、アクチュエータが持つ構造非線形性の総和である非線形性に起因して出現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の光走査装置のアクチュエータにおいて非線形性が最適化されていない場合、周波数に対する振角の特性曲線において、非線形性に起因して背骨曲線が低周波数側あるいは高周波数側に傾く現象が生じていた。この場合、駆動電圧を高めても振角が飽和してしまい、大振角を実現できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、アクチュエータとそれを用いた光走査装置において、アクチュエータの共振駆動時の非線形振動による跳躍現象の発生を抑制し、大振角での安定な駆動を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るアクチュエータは、駆動対象物(120)を支持する捻れ梁(130A、130B)と、圧電素子である駆動源が形成された駆動梁(150A、150B)と、前記捻れ梁と前記駆動梁を連結する連結梁(140A、140B)と、前記駆動梁が固定される枠体(160)と、を備え、前記駆動源に駆動される前記駆動梁の共振駆動によって前記捻れ梁に所定の軸の周りを回転する方向の力を加えて前記駆動対象物を揺動させる、アクチュエータであり、前記アクチュエータの構造非線形定数をβ[Nm/rad3]とし、前記アクチュエータのばね定数をk[Nm/rad]としたときに、下記式(1)を満たす。
【0009】
【0010】
ここで、3.5≦A≦15.5である。
【0011】
なお、上記括弧内の参照符号は、理解を容易にするために付したものであり、一例にすぎず、図示の態様に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、アクチュエータとそれを用いた光走査装置において、アクチュエータの共振駆動時の非線形振動による跳躍現象の発生を抑制し、大振角での安定な駆動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る光走査装置の一例を示す斜視図(その1)である。
【
図2】実施の形態に係る光走査装置の一例を示す斜視図(その2)である。
【
図3】実施の形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す上面側の平面図である。
【
図4】実施の形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す下面側の平面図である。
【
図5】実施の形態に係る光走査装置の光走査部の駆動時の姿勢を示す斜視図である。
【
図6】従来例に係る光走査装置の光走査部の背骨曲線の特性図である。
【
図7】背骨曲線に関する問題点を説明するための図である。
【
図8】実施の形態に係る光走査装置の光走査部のk(バネ定数)に対するβ(構造非線形定数)の関係(非線形0ライン)を示す図である。
【
図9】実施例及び比較例に係る光走査装置の光走査部のk(バネ定数)に対するβ(構造非線形定数)の関係を示す図である。
【
図10】実施例1に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図11】実施例2に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図12】比較例1に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図13】実施例3に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図14】比較例2に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図15】実施例4に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図16】実施例5に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図17】実施例6に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。
【
図18】実施の形態に係る光走査装置の光走査部の要部を拡大した平面図である。
【
図19】変形例1に係る光走査装置の光走査部の斜視図である。
【
図20】変形例2に係る光走査装置の光走査部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0015】
<実施の形態>
まず、実施の形態に係る光走査装置について説明する。
図1及び
図2は、実施の形態に係る光走査装置の一例を示す斜視図であり、
図1はパッケージカバーを取り外した状態の光走査装置を示し、
図2はパッケージカバーを取り付けた状態の光走査装置を示している。
【0016】
図1及び
図2に示されるように、光走査装置1000は、光走査部100と、光走査部100を搭載するセラミックパッケージ200と、セラミックパッケージ200上に配されて光走査部100を覆うパッケージカバー300とを有する。光走査装置1000は、セラミックパッケージ200の下側に、基板や制御回路等を備えてもよい。
【0017】
光走査装置1000において、パッケージカバー300の略中央部には光反射面を有するミラー110の近傍を露出する開口部300Aが設けられている。開口部300Aは、ミラー110へのレーザ入射光Li及びミラー110からのレーザ出射光Lo(走査光)を遮らない形状とされている。
【0018】
なお、開口部300Aにおいて、レーザ入射光Liが通る側は、レーザ出射光Loが通る側よりも小さく開口されている。すなわち、レーザ入射光Li側が略半円形状に狭く開口しているのに対し、レーザ出射光Lo側は略矩形状に広く開口している。これは、レーザ入射光Liは一定の方向から入射するのでその方向のみを開口すればよいのに対し、レーザ出射光Loは2次元に走査されるため、2次元に走査されるレーザ出射光Loを遮らないように、走査される全範囲を開口する必要があるためである。
【0019】
次に、光走査装置1000の光走査部100について説明する。
図3は、実施の形態に係る光走査装置の一例に係る光走査部100Aを示す上面側の平面図である。
図4は実施の形態に係る光走査装置の光走査部の一例を示す下面側の平面図である。
【0020】
図3及び
図4に示されるように、光走査部100Aは、ミラー110を揺動させて光源から照射されるレーザ入射光を走査する部分である。光走査部100Aは、例えば圧電素子によりミラー110を駆動させるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等である。
【0021】
光走査部100Aは、ミラー110と、ミラー支持部120と、捻れ梁130A、130Bと、連結梁140A、140Bと、水平駆動梁150A、150Bと、可動枠160と、垂直駆動梁170A、170Bと、固定枠180とを有する。ミラー支持部120の上面にミラー110が支持されている。本実施の形態においては、ミラー支持部120と、捻れ梁130A、130Bと、連結梁140A、140Bと、水平駆動梁150A、150Bと、可動枠160をまとめて、ミラー110を支持するミラー支持体161と称する。
【0022】
ミラー支持体161の両側に、ミラー支持体161に接続される一対の垂直駆動梁170A、170Bが配置されている。ミラー支持体161と垂直駆動梁170Aは、ミラー支持体接続部A11により接続される。固定枠180と垂直駆動梁170Aは、固定枠接続部A12により接続される。ミラー支持体161と垂直駆動梁170Bは、ミラー支持体接続部A13により接続される。固定枠180と垂直駆動梁170Bは、固定枠接続部A14により接続される。垂直駆動梁170A、170Bの詳細については後述する。
【0023】
図3及び
図4に示されるように、ミラー110を支持するミラー支持部120の両側に、ミラー支持部120に接続される一対の水平駆動梁150A、150Bが配置されている。また、水平駆動梁150A、150B、連結梁140A、140B、捻れ梁130A、130B、ミラー支持部120及びミラー110は、可動枠160によって外側から支持されている。即ち、水平駆動梁150A、150Bは、可動枠160にそれぞれの一方の側が支持されている。水平駆動梁150Aの他方の側は内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。水平駆動梁150Bの他方の側も同様に、内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。連結梁140A、140Bは、水平回転軸H方向に延びる捻れ梁130A、130Bに接続されており、捻れ梁130A、130Bは水平回転軸H方向の両側からミラー支持部120を支持している。上記のように、水平駆動梁150A、150Bは、捻れ梁130A、130Bの延びる水平回転軸H方向と直交する方向に、ミラー110及びミラー支持部120を挟むように、対をなして設けられている。水平回転軸H方向については後述する。
【0024】
水平駆動梁150A、150Bは、それぞれ水平駆動源151A、151Bを有する。また、垂直駆動梁170A、170Bは、それぞれ垂直駆動源171A、171Bを有する。捻れ梁130A、130B、捻れ梁130A、130Bに連結梁140A、140Bを介して接続された水平駆動梁150A、150B、水平駆動梁150A、150Bに接続された枠体である可動枠160、可動枠160に接続された垂直駆動梁170A、170B、及び垂直駆動梁170A、170Bに接続された固定枠180は、ミラー支持部120上のミラー110を上下又は左右に揺動してレーザ光を走査するアクチュエータとして機能する。
【0025】
水平駆動梁150A、150Bの上面には、水平駆動源151A、151Bがそれぞれ形成されている。水平駆動源151A、151Bは、水平駆動梁150A、150Bの上面の圧電素子の薄膜(以下「圧電薄膜」ともいう。)の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。水平駆動源151A、151Bは、上部電極と下部電極に印加する駆動電圧の極性に応じて伸長したり縮小したりする。
【0026】
このため、水平駆動梁150Aと水平駆動梁150Bとで逆位相となる正弦波の駆動電圧を印加すれば、ミラー110の左側と右側で水平駆動梁150Aと水平駆動梁150Bとが上下反対側に交互に振動する。これにより、捻れ梁130A、130Bを揺動軸又は回転軸として、ミラー110を水平回転軸Hの軸周りに揺動させることができる。ミラー110が捻れ梁130A、130Bの軸周りに揺動する方向を水平方向と呼び、ミラー110の光反射面の中心を通る上記の揺動軸を水平回転軸Hという。例えば水平駆動梁150A、150Bによる水平駆動には、共振振動が用いられ、高速にミラー110を揺動駆動することができる。
【0027】
ミラー支持部120には、ミラー110の円周に沿うようにスリット122が形成されている。スリット122により、ミラー支持部120を軽量化しつつ捻れ梁130A、130Bによる捻れをミラー110へ伝達することができる。
【0028】
また、
図3及び
図4に示されるように、垂直駆動梁170Aは、水平回転軸H方向に延在する複数の矩形状の垂直梁を有し、隣接する垂直梁の端部同士が連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。
【0029】
例えば、ミラー支持体161側から数えて1番目の垂直梁173X1の端部と2番目の垂直梁173X2の端部とが折り返し部171X1により連結されている。又、2番目の垂直梁173X2の端部と3番目の垂直梁173X3の端部とが折り返し部171X2により連結されている。又、3番目の垂直梁173X3の端部と4番目の垂直梁173X4の端部とが折り返し部171X3により連結されている。又、4番目の垂直梁173X4の端部と5番目の垂直梁173X5の端部とが折り返し部171X4により連結されている。又、5番目の垂直梁173X5の端部と6番目の垂直梁173X6の端部とが折り返し部171X5により連結されている。
【0030】
垂直駆動梁170Bも同様に、水平回転軸H方向に延在する複数の矩形状の垂直梁を有し、隣接する垂直梁の端部同士が連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。
【0031】
例えば、ミラー支持体161側から数えて1番目の垂直梁173Y1の端部と2番目の垂直梁173Y2の端部とが折り返し部171Y1により連結されている。又、2番目の垂直梁173Y2の端部と3番目の垂直梁173Y3の端部とが折り返し部171Y2により連結されている。又、3番目の垂直梁173Y3の端部と4番目の垂直梁173Y4の端部とが折り返し部171Y3により連結されている。又、4番目の垂直梁173Y4の端部と5番目の垂直梁173Y5の端部とが折り返し部171Y4により連結されている。又、5番目の垂直梁173Y5の端部と6番目の垂直梁173Y6の端部とが折り返し部171Y5により連結されている。
【0032】
垂直駆動梁170A、170Bの上面には、それぞれ曲線部を含まない矩形単位である垂直梁173X1、173X2、173X3、173X4、173X5、173X6、173Y1、173Y2、173Y3、173Y4、173Y5、173Y6ごとに垂直駆動源171A、171Bが形成されている。垂直駆動源171Aは、垂直駆動梁170Aを構成する1番目から6番目の各垂直梁の上にそれぞれ形成された6つの垂直駆動源171A1、171A2、171A3、171A4、171A5及び171A6を含む。また、垂直駆動源171Bは、垂直駆動梁170Bを構成する1番目から6番目の各垂直梁の上にそれぞれ形成された6つの垂直駆動源171B1、171B2、171B3、171B4、171B5及び171B6を含む。垂直駆動源171Aは、垂直駆動梁170Aの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。垂直駆動源171Bは、垂直駆動梁170Bの上面の圧電薄膜の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。
【0033】
垂直駆動梁170A、170Bは、垂直梁ごとに隣接している垂直駆動源171A、171B同士で、駆動波形の中央値を基準に上下反転した波形の駆動電圧を印加することにより、隣接する垂直梁の上方向への変形量を変化させ、各垂直梁の上下動の蓄積を可動枠160に伝達する。垂直駆動梁170A、170Bの動作によりミラー110及びミラー支持部120が水平回転軸Hの方向と直交する方向に揺動され、この揺動する方向を垂直方向と呼び、ミラー110の光反射面の中心を通る上記の揺動軸を垂直回転軸Vという。例えば垂直駆動梁170A、170Bによる垂直駆動には、非共振振動を用いることができる。
【0034】
例えば、垂直駆動源171A1、171B1、171A3、171B3、171A5、171B5を同波形、垂直駆動源171A2、171B2、171A4、171B4、171A6及び171B6を前者と位相の異なる同波形で駆動することで、ミラー110及びミラー支持体161を垂直方向へ揺動できる。
【0035】
また、光走査部100Aは、水平駆動源151A、151Bに駆動電圧が印加されてミラー110が水平方向に揺動している状態におけるミラー110の水平方向の傾き具合(水平方向の振角)を検出する水平振角センサとして、圧電センサ191、192を有する。圧電センサ191は連結梁140Aに設けられ、圧電センサ192は連結梁140Bに設けられている。
【0036】
また、光走査部100Aは、垂直駆動源171A、171Bに駆動電圧が印加されてミラー110が垂直方向に遥動している状態におけるミラー110の垂直方向の傾き具合(垂直方向の振角)を検出する垂直振角センサとして、圧電センサ195、196を有する。圧電センサ195は垂直駆動梁170Aを構成する垂直梁の一つに設けられており、圧電センサ196は垂直駆動梁170Bを構成する垂直梁の一つに設けられている。
【0037】
本実施の形態の光走査装置において、光走査部は、例えば、活性層、埋め込み酸化(BOX)膜及び支持層を有するSOI(Silicon on Insulator)基板から形成されている。固定枠180と可動枠160、及びリブの部分は、活性層、埋め込み酸化膜及び支持層から構成される。一方で、捻れ梁130A、130B、水平駆動梁150A、150B及び垂直駆動梁170A、170Bは、活性層により構成されている。あるいは、捻れ梁130A、130B、水平駆動梁150A、150B及び垂直駆動梁170A、170Bは、活性層及び埋め込み酸化膜から構成されていてもよい。従って、固定枠180と可動枠160及びリブは、捻れ梁130A、130B、水平駆動梁150A、150B及び垂直駆動梁170A、170Bよりも重い部分となっている。
【0038】
本実施の形態の光走査装置は、垂直駆動梁170Aの裏面において、垂直梁の連結位置にリブが形成されている。最も内側の垂直梁173X1が可動枠160に連結する位置にリブ174X0が形成されている。垂直梁173X1、173X2と折り返し部171X1の連結位置にリブ174X1が形成されている。垂直梁173X2、173X3と折り返し部171X2の連結位置にリブ174X2が形成されている。垂直梁173X3、173X4と折り返し部171X3の連結位置にリブ174X3が形成されている。垂直梁173X4、173X5と折り返し部171X4の連結位置にリブ174X4が形成されている。垂直梁173X5、173X6と折り返し部171X5の連結位置にリブ174X5が形成されている。ここで、リブ174X5は折り返し部171X5側に幅広に形成されており、垂直梁173X5、173X6と折り返し部171X5の連結位置が他の連結位置に比べて重量化されている。
【0039】
また、垂直駆動梁170Bの裏面において、同様に、垂直梁の連結位置にリブが形成されている。最も内側の垂直梁173Y1が可動枠160に連結する位置にリブ174Y0が形成されている。垂直梁173Y1、173Y2と折り返し部171Y1の連結位置にリブ174Y1が形成されている。垂直梁173Y2、173Y3と折り返し部171Y2の連結位置にリブ174Y2が形成されている。垂直梁173Y3、173Y4と折り返し部171Y3の連結位置にリブ174Y3が形成されている。垂直梁173Y4、173Y5と折り返し部171Y4の連結位置にリブ174Y4が形成されている。垂直梁173Y5、173Y6と折り返し部171Y5の連結位置にリブ174Y5が形成されている。ここで、リブ174Y5は折り返し部171Y5側に幅広に形成されており、垂直梁173Y5、173Y6と折り返し部171Y5の連結位置が他の連結位置に比べて重量化されている。
【0040】
図4に示されるように、固定枠180の固定枠の回収側の固定枠接続部A12、A14の内側に固定部181X、181Yが張り出しており、垂直梁173X6、173Y6に接続されている。固定部181X、181Yは固定枠180と同様にSOI基板の活性層、埋め込み酸化膜、支持層の3層で形成されており、垂直駆動梁170A、170Bより重い部分であり、垂直駆動梁170A,170Bの振動の起点となる。
【0041】
本実施の形態の光走査装置において、垂直梁173X5、173X6と折り返し部171X5の連結位置と、垂直梁173Y5、173Y6と折り返し部171Y5の連結位置が、他の連結位置に比べて重量化されている。垂直駆動梁が共振振動する時、重量化した折り返し部に位相遅れが発生し、他の梁の振動を抑制するカウンター効果がある。
【0042】
また、本実施の形態に係る光走査装置において、ミラー110とミラー支持体161の重心は垂直回転軸V上に位置する。これは、可動枠160が、垂直回転軸Vに対して一方の側よりも一方の側の反対側(ミラー支持体接続部A11、A13が設けられている側)で重く形成されていること等で実現されている。さらに、上記のようにミラー110を垂直回転軸V方向と水平回転軸H方向に揺動させることができる本実施の形態の光走査装置においては、ミラー110及びミラー支持部120の重心は、垂直回転軸Vと水平回転軸Hの交点に位置する。これにより、ミラー110とミラー支持体161の重量バランスが最適化され、垂直駆動時のリンギングの発生を抑制することができる。
【0043】
図5は本実施の形態に係る光走査装置の光走査部の駆動時の姿勢を示す斜視図である。上記の本実施の形態に係る光走査装置の光走査部において、水平駆動梁150Aと水平駆動梁150Bに所定の電圧を印加することで、捻れ梁130A、130Bを揺動軸又は回転軸として、ミラー支持部120に設けられたミラー110を水平共振駆動HRにより揺動させることができる。
【0044】
図6は、従来例に係る光走査装置の光走査部の背骨曲線(圧電素子への印加電圧を高めて振角を拡大した時に共振点を結んだ曲線)の特性図である。周波数を固定して印加電圧を高めると、振角は拡大する。ここで、従来例の光走査装置のアクチュエータでは非線形性が最適化されておらず、共振駆動時に振角を拡大していくと背骨曲線をBCは低周波数側あるいは高周波数側に傾く。図面上は高周波数側に傾いている。背骨曲線BCが大きく傾くと、周波数応答に非線形跳躍現象NLが現れやすくなる。非線形跳躍現象NLは、振角の周波数応答において、ある周波数で振角が急激に変化する現象である。非線形跳躍現象NLは、圧電素子が持つ逆圧電特性の非線形性(圧電非線形性)と、アクチュエータが持つ構造非線形性の総和である非線形性に起因して出現する。
【0045】
上記のように非線形性が最適化されていない従来例では、周波数に対する振角の特性曲線において、非線形性に起因して背骨曲線が低周波数側あるいは高周波数側に傾く現象が生じていた。この場合、駆動電圧を高めても振角が飽和してしまい、大振角を実現できない。
【0046】
また、上記の従来例では、背骨曲線で示される通り、共振点で駆動させようとすると振角拡大により共振周波数がシフトしてしまう。さらに、少しでも振角を拡大するため非線形跳躍現象発生付近の周波数帯で駆動すると、外部温度変化や経年劣化により周波数変化が発生した際、急激に振角が減少してしまう。
【0047】
図7は背骨曲線に関する問題点を説明するための図である。背骨曲線は、
図7(A)に示されるように圧電非線形性が強いと周波数が高い側へ傾き、
図7(B)に示されるように構造非線形性が強いと周波数が低い側へ傾く。圧電非線形性と構造非線形性のつり合いが取れれば、アクチュータ全体としての非線形がなくなる。
【0048】
しかしながら、ある一定値を取る圧電非線形に対し、アクチュエータは構造非線形を変化させると、同時にばね定数kも変化するため、構造非線形定数βに応じたばね定数kの最適値が存在する。
【0049】
非線形方程式の理論式としてのダフィング方程式を下記式(2)に示す。
【0050】
【0051】
ここで、J:イナーシャ、θ:ミラー振角、t:時間、C:減衰係数、k:バネ定数、β:構造非線形定数、T:トルク(逆電圧による回転力)、ω:角周波数である。
【0052】
ダフィング方程式を用いてβとkの関係式として、実験的に求めた周波数が高い側へ傾く圧電非線形背骨曲線とつり合うように周波数が低い側へ傾く構造非線形を求めた結果を下記式(3)に示す。
【0053】
【0054】
図8は、上記の式(3)をグラフ化したものであり、本実施の形態に係る光走査装置の光走査部のk(バネ定数)に対するβ(構造非線形定数)の関係を示す図である。横軸はk[Nm/rad]、縦軸はβ[Nm/rad
3]である。式(3)に対応する直線を非線形0ラインとして示している。図中、非線形0ラインよりもβが大きい領域A1では、背骨曲線が低周波数側へ傾く。非線形0ラインよりもβが小さい領域A2では、背骨曲線が高周波数側へ傾く。
【0055】
<第1実施例>
図9は実施例1~6及び比較例1~2に係る光走査装置の光走査部のk(バネ定数)に対するβ(構造非線形定数)の関係を示す図である。
図9に示されるβとkの関係を有する光走査装置の光走査部について、振角の周波数応答(周波数に対する振角の特性)をシミュレーションにより算出した。
【0056】
図10は実施例1に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例1は、背骨曲線の傾きは見られず、非線形振動は生じていない。尚、以下の実施例2~6と比較例1~2に関する背骨曲線は、実施例1の最大振角で規格化した振角により示している。
【0057】
図11は実施例2に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例2は、構造非線形性が強めで、背骨曲線は低周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。
【0058】
図12は比較例1に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。比較例1は、構造非線形性が強く、背骨曲線は低周波数側に大きく傾き、非線形跳躍現象が発生している。
【0059】
図13は実施例3に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例3は、圧電非線形性が強めで、背骨曲線は高周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。
【0060】
図14は比較例2に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。比較例2は、圧電非線形性が強く、背骨曲線は高周波数側に大きく傾き、非線形跳躍現象が発生している。
【0061】
図15は実施例4に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例4は実施例1とほぼ同等の特性であり、背骨曲線の傾きは見られず、非線形振動は生じていない。
【0062】
図16は実施例5に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例5は実施例2とほぼ同等の特性であり、構造非線形性が強めで、背骨曲線は低周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。
【0063】
図17は実施例6に係る光走査装置の光走査部の周波数に対する振角の特性を示す図である。実施例6は実施例3とほぼ同等の特性であり、圧電非線形性が強めで、背骨曲線は高周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。
【0064】
実施例1と実施例4は、上記の半実験、半理論的に求めた下記式(3)で示される非線形0ライン上に乗ったβとkの組み合わせを有する。実施例1と実施例4では、背骨曲線の傾きは見られず、非線形振動は生じていない。
【0065】
【0066】
実施例2と実施例5は、下記式(4)で示される非線形上限ライン上に乗ったβとkの組み合わせを有する。実施例2と実施例5では、構造非線形性が強めで、背骨曲線は低周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。非線形上限ラインよりの上方の領域においては、比較例1にように、背骨曲線は低周波数側に大きく傾き、非線形跳躍現象が発生している。
【0067】
【0068】
実施例3と実施例6は、下記式(5)で示される非線形下限ライン上に乗ったβとkの組み合わせを有する。実施例3と実施例6では、圧電非線形性が強めで、背骨曲線は低周波数側に傾いているが、非線形跳躍現象は発生していない。非線形下限ラインよりの下方の領域においては、比較例2にように、背骨曲線は高周波数側に大きく傾き、非線形跳躍現象が発生している。
【0069】
【0070】
上記の式(3)、式(4)及び式(5)をまとめて、非線形下限ラインと非線形上限ラインで挟まれた領域を示す式として、以下のように記載できる。
【0071】
【0072】
ここで、3.5≦A≦15.5である。
【0073】
上記の本実施の形態に係る光走査装置の光走査部を構成するアクチュエータは、アクチュエータの共振駆動時の非線形振動による跳躍現象の発生を抑制し、大振角での安定な駆動が可能である。背骨曲線の傾きがない、あるいは非常に小さく、共振点で駆動させて振角拡大したとき共振周波数のシフトがない、あるいは非常に小さい。非線形跳躍現象が発生しないので、外部温度変化や経年劣化による周波数変化が発生した際の急激に振角減少を抑制できる。
【0074】
<第2実施例>
図18は実施の形態に係る光走査装置の光走査部の要部を拡大した平面図である。非線形0ライン上の実施例1の光走査装置に対して、非線形上限ライン上の実施例2は、以下の点のサイズを変更して実現した。(1)領域T1における捻れ梁の最小部の幅を小さくする。(2)領域T2における連結梁の最小部の幅を大きくする。(3)領域T2における連結梁の長さを短くする。(4)水平駆動梁の幅WDBを大きくする。
【0075】
非線形0ライン上の実施例1の光走査装置に対して、非線形下限ライン上の実施例3は、以下の点のサイズを変更して実現した。(1)領域T1における捻れ梁の最小部の幅を大きくする。(2)領域T2における連結梁の最小部の幅を小さくする。(3)領域T2における連結梁の長さを長くする。(4)水平駆動梁の幅WDBを小さくする。
【0076】
上記のように、領域T1の捻れ梁の剛性が高く、領域T2の連結梁および水平駆動梁の剛性が低いとβは小さくなる傾向がある。逆に、領域T1の捻れ梁の剛性が低く、領域T2の連結梁および水平駆動梁の剛性が高いとβは大きくなる傾向がある。
【0077】
また、βとkを変化させると、(1)駆動共振周波数、(2)駆動電圧感度、(3)ミラーの静的/動的平面度、(4)使用振角と最大振角(応力限界)、(5)垂直駆動源の共振周波数との整合性の各特性も変化するため、光走査装置の仕様を考慮しながら、最適なβとkの組み合わせを導出する必要がある。
【0078】
<変形例1>
図19は変形例1に係る光走査装置の光走査部の斜視図である。
図19に示される光走査装置の光走査部は、共振1軸駆動MEMSミラーである。光走査部は、ミラー1110を支持するミラー支持部1120の両側に捻れ梁1130A、1130Bが接続され、捻れ梁1130A、1130Bは連結梁を介して水平駆動梁1150A、1150Bが接続され、水平駆動梁1150A、1150Bは固定枠に接続されている。上記の
図3及び
図4に示される構成の光走査装置の光走査部に対して、垂直駆動梁をなくし、可動枠を固定枠に変更した構成に相当する。変形例1の光走査部の水平駆動梁は、共振駆動によりミラー支持部を駆動する。
図19に示される光走査装置の光走査部であるアクチュエータにおいても、上記の式(1)を満たす構成とすることで、アクチュエータの共振駆動時の非線形振動による跳躍現象の発生を抑制し、大振角での安定な駆動が可能である。
【0079】
<変形例2>
図20は変形例2に係る光走査装置の光走査部の斜視図である。
図20に示される光走査装置の光走査部は、共振/共振2軸駆動MEMSミラーである。光走査部は、ミラーを支持するミラー支持部1120の両側に捻れ梁1130A、1130Bが接続され、捻れ梁1130A、1130Bは連結梁を介して水平駆動梁1150A、1150Bが接続され、水平駆動梁1150A、1150Bは可動枠1160に接続されている。可動枠1160には垂直駆動梁1170A、1170Bが接続され、水平駆動源1171A、1171Bが形成された梁を介して固定枠に接続されている。変形例2の光走査部の水平駆動梁は、水平駆動部の共振駆動により水平回転軸の周りを回転する方向にミラー支持部を駆動し、さらに、垂直駆動部及び垂直駆動源170の共振駆動により垂直回転軸の周りを回転する方向にミラー支持部を含む可動枠を駆動する。
図20に示される光走査装置の光走査部であるアクチュエータにおいても、上記の式(1)を満たす構成とすることで、アクチュエータの共振駆動時の非線形振動による跳躍現象の発生を抑制し、大振角での安定な駆動が可能である。
【0080】
以上、好ましい実施の形態について説明したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、上記の実施の形態では、ミラーを有する光走査装置にアクチュエータを適用した形態を説明しているが、アクチュエータの駆動対象物はミラーでなくてもよく、本発明はミラーを持たないアクチュエータにも適用することが可能である。また、本発明の光走査装置は、プロジェクション装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
100、100A 光走査部
110 ミラー
120 ミラー支持部
122 スリット
130A、130B 捻れ梁
140A、140B 連結梁
150A、150B 水平駆動梁
151A、151B 水平駆動源
160 可動枠
161 ミラー支持体
170A、170B 垂直駆動梁
171A、171B 垂直駆動源
171X1~171X5、171Y1~171Y5 折り返し部
173X1~173X6、173Y1~173Y6 垂直梁
174X0~174X5、174Y0~174Y5 リブ
181X、181Y 固定部
180 固定枠
191、192、195、196 圧電センサ
200 セラミックパッケージ
300 パッケージカバー
300A 開口部
1000 光走査装置