(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】過負荷安全装置および過負荷安全システム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20221124BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20221124BHJP
B25J 17/02 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
B25J19/06
B25J15/08 T
B25J15/08 M
B25J17/02 J
(21)【出願番号】P 2019005739
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100156649
【氏名又は名称】野原 淳史
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】見上 慧
(72)【発明者】
【氏名】沢戸 瑛昌
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-131491(JP,A)
【文献】特開昭64-016387(JP,A)
【文献】特開2011-240450(JP,A)
【文献】特開2009-107110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットと前記ロボットに取り付けられるエンドエフェクタとを吸着し、過負荷が加わった場合に吸着が外れる第1吸着手段と、
前記エンドエフェクタを過負荷の吸収方向に揺動させる揺動手段と、
を備え
、
前記ロボットと前記揺動したエンドエフェクタとを吸着する第2吸着手段をさらに備える過負荷安全装置。
【請求項2】
前記揺動手段が、前記エンドエフェクタを回転させる軸である請求項
1に記載の過負荷安全装置。
【請求項3】
前記吸着手段が、磁気吸着力である請求項1
または2に記載の過負荷安全装置。
【請求項4】
前記ロボットと前記エンドエフェクタとの吸着状態を検出する検出部をさらに備える請求項1から
3のいずれか一項に記載の過負荷安全装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の過負荷安全装置と、
前記検出部から得られる検出信号を用いて前記吸着手段の吸着力を調整する吸着力調整部と、
を備える過負荷安全システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過負荷安全装置に関し、より詳細には、ロボットに取り付けられるエンドエフェクタに過負荷が加わった場合にその過負荷を吸収する過負荷安全装置および過負荷安全システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットの安全装置として、エンドエフェクタをロボット本体に磁気吸着力で吸着し、過負荷が加わった際に吸着面における吸着が外れることで過負荷を吸収する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ロボット手首とエンドエフェクタとの間に継手用ブラケットを介在させ、この継手用ブラケット手段に磁気吸引力手段を設け、その磁気吸引力手段の磁気吸引力でエンドエフェクタを手首側に固定、保持するようにし、異常な外力がエンドエフェクタに作用した場合には、磁気吸引力手段の磁気吸引力結合部からエンドエフェクタが脱落し、ロボット機体に外部衝撃が及ぶのを回避できるようにした産業用ロボットの安全装置が記載されている。これにより、外部からの衝撃、種々の外力に対してロボット機体の安全、保護を図ることが可能であると同時に、ロボット動作過程におけるトラブルの発生を極力、抑止できるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、ロボットハンドの取り付け部に設けた第一磁気吸着座面に、ロボットハンドに設けた第二磁気吸着座面を磁気吸着して上記ロボットハンドを取り付け支持する構成を採用すると共に、上記第一、第二磁気吸着座面の一方の座面から突出する軸を他方の座面で開口せる孔又は溝内に嵌合し、上記ロボットハンドに加わる過負荷により同ロボットハンドが上記軸と孔又は溝の嵌合を介して上記磁気吸着力に抗し左右又は上下又は前後に動くことができる構成としたロボットハンドの過負荷安全装置が記載されている。これにより、上記第一、第二吸着座面を相互に磁気吸着し軸によって支持する、構造簡素にして小形、軽量且つ安価なる構成にて、ロボットハンドに加わる左右又は上下又は前後の過負荷に対し有効に機能せしめることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平第05-220691号
【文献】特開第2008-137109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、過負荷が加わった場合にエンドエフェクタが脱落するため、脱落したエンドエフェクタによって周辺の物体を損傷させてしまう可能性がある。また、ロボットの稼働復帰に際し、再度嵌合位置を合わせてロボット手首にエンドエフェクタを装着し直さなければならないという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、吸着座面から突出した軸によってロボットハンドの動作が拘束されているが、吸着座面から外れたロボットハンドを安定に保持または固定して、ロボットハンドの脱落を防止することまでは考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンドエフェクタに過負荷が加わった場合にロボット本体に衝撃が及ぶのを回避し、その後の復帰操作を容易に行うことが可能な過負荷安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る過負荷安全装置は、ロボットとロボットに取り付けられるエンドエフェクタとを吸着し、過負荷が加わった場合に吸着が外れる第1吸着手段と、エンドエフェクタを過負荷の吸収方向に揺動させる揺動手段と、を備える。
【0010】
また、本発明に係る過負荷安全システムは、ロボットとロボットに取り付けられるエンドエフェクタとを吸着し、過負荷が加わった場合に吸着が外れる第1吸着手段と、エンドエフェクタを過負荷の吸収方向に揺動させる揺動手段と、ロボットとエンドエフェクタとの吸着状態を検出する検出部と、を備える過負荷安全装置と、検出部から得られる検出信号を用いて第1吸着手段の吸着力を調整する吸着力調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る過負荷安全装置によれば、エンドエフェクタに過負荷が加わった場合にロボット本体に衝撃が及ぶのを回避し、その後の復帰操作を容易に行うことができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る過負荷安全システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る過負荷安全装置の動作を示す模式図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る過負荷安全システムの構成例を示す模式図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る過負荷安全装置の動作の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る過負荷安全装置の動作の他の例を示す模式図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る過負荷安全システムのシステム構成例を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る過負荷安全装置システムの制御動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する各実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。また、以下の各実施形態の構成は、いずれも他の実施形態の構成と組み合わせることが可能である。
【0014】
<第1実施形態>
まず、
図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る過負荷安全システムの全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る過負荷安全システム10の構成例を示す模式図である。
【0015】
図1に示すように、過負荷安全システム10は、一例として、ロボットアーム部11と、ロボットアーム部11が設置されたベース部12と、ロボットアーム部11の先端に取り付けられたハンド部13と、ハンド部13の先端に取り付けられたフィンガ部14と、を備えている。過負荷安全システム10は、例えば、天板17と天板17を支える複数の脚部18を有する台座16の天板17上に配置された把持対象物であるワーク15を把持して移動させることができる。
【0016】
次に、
図2Aを用いて、ワーク15を把持するフィンガ部14の構成について説明する。
図2Aは、フィンガ部14の各部の構成例を示す模式図である。
【0017】
図2Aに示すように、フィンガ部14は、人の指先に相当する先端部分の第1フィンガ21と、第1フィンガ21に連結される第2フィンガ22と、を備えている。本実施形態では、第1フィンガ21がエンドエフェクタに相当するが、第1フィンガ21および第2フィンガ22をエンドエフェクタとすることもできる。
【0018】
第1フィンガ21は、ワーク15の把持方向に回転可能に軸23で第2フィンガ22と連結され、軸23を回転中心として揺動運動をすることができる。軸23は、過負荷が加わった場合に第2フィンガ22との吸着が外れた第1フィンガ21を過負荷の吸収方向に揺動させる揺動手段である。また、第1フィンガ21は、第2フィンガ22が延在する向きと同方向に配置されワーク15を把持する姿勢のときに第2フィンガ22に吸着して固定させる第1ストッパ部24と、第2フィンガ22に対して揺動運動して屈折した姿勢のときに第2フィンガ22に吸着して固定させる第2ストッパ部25と、を有する。
【0019】
第2フィンガ22は、軸23周りに回転する第1フィンガ21の回転を抑制し、第1フィンガ21の第1ストッパ部24と吸着する第1吸着手段である第1吸着面26と、第1フィンガ21の第2ストッパ部25と吸着する第2吸着手段である第2吸着面27と、を有する。第1吸着面26および第2吸着面27における吸着力は、一例として、磁気吸着力によって与えられている。
【0020】
次に、
図2Aから
図2Cを用いて、ワーク15を把持するフィンガ部14の動作について説明する。
図2Bは、フィンガ部14が揺動運動した後の状態を示す模式図である。
図2Cは、フィンガ部14が揺動運動した後から元の姿勢に復帰した状態を示す模式図である。
【0021】
まず、
図2Aに示すように、ロボットアーム11で作業を遂行する過程において、ワーク15や周辺環境に接触するなどの意図しない事態によって、第1ストッパ部24側からフィンガ部14の第1フィンガ21の側面に衝撃などの大きな外力(過負荷)F1が加わったとする。この場合、
図2Bに示すように、第1フィンガ21の第1ストッパ部24が第2フィンガ22の第1吸着面26から外れる。これにより、第1フィンガ21およびフィンガ部14に加わる過負荷が吸収され、フィンガ部14を介して過負荷安全システム10に大きな衝撃が及ぶことを防止することができる。
【0022】
そして、
図2Bに示すように、第1吸着面26から外れた第1フィンガ21は、軸23を回転中心として揺動運動する。揺動運動した後に、第1フィンガ21は、第2ストッパ部25が第2フィンガ22の第2吸着面27と吸着することによって停止する。停止後、第1フィンガ21は、第2吸着面27における磁気吸着力によって第2フィンガ22から脱落することなくロボットアーム11に吸着される。
【0023】
また、
図2Cに示すように、外力F1が除去された後、第1フィンガ21が揺動運動した方向と逆方向に力F2を第1フィンガ21に加えることで、第2ストッパ部25が第2吸着面27から外れる。そして、第1フィンガ21は、軸23の拘束に従って回転運動して元の姿勢位置に復帰し、第1ストッパ部24が第2フィンガ22の第1吸着面26に吸着される。このように、過負荷安全システム10は、第1フィンガ21を脱落させることなく容易かつ効率的に第1フィンガ21の復帰作業を行うことができる。
【0024】
ここで、第2吸着面27の磁気吸着力は、第1吸着面26の磁気吸着力と同一である必要はなく、無負荷状態で姿勢を保持できる程度であればよい。第2吸着面27の磁気吸着力をこのように制限することで、人力で第1フィンガ21の姿勢を復帰させることも容易となる。
【0025】
また、磁気吸着力を与える手段として、第1ストッパ部24および第2ストッパ部25と、第1吸着面26および第2吸着面27と、の両方を磁石で構成する手段がある。さらに、第1ストッパ部24および第2ストッパ部25と、第1吸着面26および第2吸着面27と、のいずれかを磁性体で構成して第1ストッパ部24および第2ストッパ部25と、第1吸着面26および第2吸着面27と、の一方または両方に磁石を埋設して構成する手段がある。
【0026】
なお、本実施形態では、磁気吸着力を与える手段を永久磁石とした場合について説明するが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、永久磁石に代えて電磁石を用いて第1および第2吸着面の磁気吸着力を調整できる構成にしてもよい。
【0027】
本実施形態の過負荷安全システム10によれば、フィンガ部14の第1フィンガ21に過負荷が加わった場合に、ロボットアーム11に対する第1フィンガ21の第1吸着面26との吸着が外れることで、ロボットアーム11等のロボット本体に衝撃が及ぶのを回避することができる。
【0028】
さらに、過負荷安全システム10によれば、フィンガ部14に過負荷が加わり第2フィンガ22の第1吸着面26の吸着が外れた場合においても、第2ストッパ部25によりロボットアーム11に衝撃が及ぶのを回避する動作の方向が制限されるとともに、回避動作完了後に第2吸着面27と吸着することで第1フィンガ21がロボットアーム11から脱落することを防止することができる。これにより、過負荷安全システム10がロボットアーム11とフィンガ部14とが吸着している状態に復帰させる場合も、軸23の拘束に従って揺動方向に操作することで容易にフィンガ部14を復帰することができる。
【0029】
以上より、本実施形態の過負荷安全システム10によれば、第1フィンガ21を脱落させることなく簡易な構成でロボットアーム11の安全性を向上させることができる。
【0030】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る過負荷安全システムについて説明する。
図3は、本実施形態に係る過負荷安全システム30の構成例を示す模式図である。本実施形態が第1実施形態と相違する主な点は、ハンド部がエンドエフェクタとしての役割を担う点である。本実施形態に係る過負荷安全システム30のハンド部以外の構成は、第1実施形態に係る過負荷安全システム10と同様の構成である。
【0031】
図3に示すように、過負荷安全システム30は、第1実施形態の過負荷安全システム10と同様に、ロボットアーム部11と、ロボットアーム部11が設置されたベース部12と、ロボットアーム部11の先端に接続された手首部33と、手首部33の先端に接続されたハンド部34と、を備えている。
【0032】
次に、
図4Aを用いて、ワーク15を把持するハンド部34の構成について説明する。
図4Aは、ハンド部34の各部の構成例を示す模式図である。
【0033】
図4Aに示すように、ハンド部34は、ワーク15を把持するフィンガが取り付けられた第1揺動部41と、第1揺動部41に連結された第2揺動部42と、一端が第2揺動部42に連結され他端が手首部33に接続される手首接続部43と、を備えている。本実施形態では、第1揺動部41がエンドエフェクタに相当するが、第1揺動部41だけでなく、第2揺動部42および手首接続部43をエンドエフェクタとすることもできる。
【0034】
第1揺動部41は、ワーク15を把持する姿勢から一方向に回転可能に第1軸44で第2揺動部42と連結され、第1軸44を回転中心として揺動運動をすることができる。また、第1揺動部41は、ワーク15を把持する姿勢のときに第2揺動部42に固定させる第1ストッパ部45と、第2揺動部42に対して揺動運動して屈折した姿勢のときに第2揺動部42に固定させる第2ストッパ部46と、を有する。
【0035】
第2揺動部42は、第1軸44周りに回転する第1揺動部41の回転を抑制し、第1揺動部41の第1ストッパ部45と吸着する第1吸着面47と、第1揺動部41の第2ストッパ部46と吸着する第2吸着面48と、を有する。第1吸着面47および第2吸着面48における吸着力は、一例として、磁気吸着力によって与えられている。
【0036】
また、第1吸着面47には、一例として、第1揺動部41と第2揺動部42とが吸着し、または外れたことを検出する検出部である第1近接センサ49が埋設されている。これにより、検出した状態に応じてロボットの制御装置が停止指令または停止解除指令が発生されるようにすることができる。過負荷安全システム30は、第1近接センサ49を有することにより、ハンド部34に過負荷が加わって姿勢が変化すると、第1近接センサ49が前方に近接体を失うことから姿勢変化を検出できる。そして、過負荷安全システム30は、姿勢変化の検出に応じてロボットの動作を停止させるように制御する。過負荷安全システム30が元の姿勢に戻ったことを検出した場合は、停止解除が可能な状態となる。なお、第1近接センサ49は、第2吸着面48に埋設することもでき、第1揺動部41の第1ストッパ部45または第2ストッパ部46に設けることもできる。また、検出部は、近接センサに限らず、フォトセンサやタッチセンサ等のセンサであってもよい。
【0037】
さらに、第2揺動部42は、ワーク15を把持する姿勢から第1揺動部41の回転方向と逆方向に回転可能に第2軸50で手首接続部43と連結され、第2軸50を回転中心として揺動運動をすることができる。また、第2揺動部42は、手首接続部43の向きと同方向に配置されたワーク15を把持する姿勢のときに手首接続部43に固定させる第3ストッパ部51と、手首接続部43に対して揺動運動して屈折した姿勢のときに手首接続部43に固定させる第4ストッパ部52と、を有する。
【0038】
手首接続部43は、第2軸50周りに回転する第2揺動部42の回転を抑制し、第2揺動部42の第3ストッパ部51と吸着する第3吸着手段である第3吸着面53と、第2揺動部42の第4ストッパ部52と吸着する第4吸着手段である第4吸着面54と、を有する。第3吸着面53および第4吸着面54における吸着力は、一例として、磁気吸着力によって与えられている。また、一例として、第3吸着面53には、第2近接センサ55が埋設されている。なお、第2近接センサ55は、第4吸着面54に埋設することもでき、第2揺動部42の第3ストッパ部51または第2ストッパ部52に設けることもできる。
【0039】
次に、
図4Aおよび
図4Bを用いて、ハンド部34の回転方向に力が加わったときの揺動運動の一例について説明する。
図4Bは、ハンド部34の一回転方向から外力(過負荷)F3が加わって第1揺動部41が揺動運動した後の状態を示す模式図である。
【0040】
まず、
図4Aに示すように、ロボットアーム11で作業を遂行する過程において、ワーク15や周辺環境に接触するなどの意図しない事態によって、第1ストッパ部45側からハンド部34の第1揺動部41の側面に衝撃などの大きな外力(過負荷)F3が加わったとする。この場合、
図4Bに示すように、第1揺動部41の第1ストッパ部45が第2揺動部42の第1吸着面47から外れる。これにより、第1揺動部41に加わる過負荷が吸収され、ハンド部34を介して過負荷安全システム30に大きな衝撃が及ぶことを防止することができる。
【0041】
そして、
図4Bに示すように、第1吸着面47から外れた第1揺動部41は、第1軸44を回転中心として揺動運動する。揺動運動した後に、第1揺動部41は、第2ストッパ部46が第2揺動部42の第2吸着面48と吸着することによって停止する。停止後、第1揺動部41は、第2吸着面48における磁気吸着力によって第2揺動部42から脱落することなくロボットアーム11に吸着される。
【0042】
また、外力F3が除去された後、第1揺動部41が揺動運動した方向と逆方向に力を第1揺動部41に加えることで、第2ストッパ部46が第2吸着面48から外れる。そして、
図4Aに示すように、第1揺動部41が第1軸44の拘束に従って回転運動して元の姿勢位置に復帰し、第1ストッパ部45が第2揺動部42の第1吸着面47に吸着される。このように、過負荷安全システム30は、第1揺動部41を脱落させることなく容易かつ効率的にハンド部34の復帰作業を行うことができる。
【0043】
次に、
図5Aから
図5Cを用いて、ハンド部34の回転方向に力が加わったときの揺動運動の他の例について説明する。
図5Aは、
図4Aと同様に、ハンド部34の各部の構成例を示す模式図である。
図5Bは、ハンド部34の上記一回転方向と逆方向から外力(過負荷)F4が加わって第1揺動部41および第2揺動部42が一体となって揺動運動した後の状態を示す模式図である。
図5Cは、ハンド部34に外力F4が加わって揺動運動した後に、さらに外力F4による回転方向と逆方向から外力(過負荷)F5が加わって第1揺動部41のみが揺動運動した後の状態を示す模式図である。
【0044】
まず、
図5Aに示すように、ロボットアーム11で作業を遂行する過程において、ワーク15や周辺環境に接触するなどの意図しない事態によって、第2ストッパ部46側からハンド部34の第1揺動部41等の側面に衝撃などの大きな外力(過負荷)F4が加わったとする。この場合、
図5Bに示すように、第2揺動部42の第3ストッパ部51が手首接続部43の第3吸着面53から外れる。これにより、第1揺動部41および第2揺動部42に加わる過負荷が吸収され、ハンド部34を介して過負荷安全システム30に大きな衝撃が及ぶことを防止することができる。
【0045】
そして、
図5Bに示すように、第3吸着面53から外れた第1揺動部41および第2揺動部42は、一体となって第2軸50を回転中心として揺動運動する。揺動運動した後に、第2揺動部42は、第4ストッパ部52が手首接続部43の第4吸着面54と吸着することによって停止する。停止後、第2揺動部42は、第4吸着面54における磁気吸着力によって手首接続部43から脱落することなくロボットアーム11に吸着される。
【0046】
また、外力F4が除去された後、第1揺動部41および第2揺動部42が揺動運動した方向と逆方向に力を第2揺動部42に加えることで、第4ストッパ部52が第4吸着面54から外れる。そして、
図5Aに示すように、第1揺動部41および第2揺動部42が一体となって第2軸50の拘束に従って回転運動して元の姿勢位置に復帰し、第3ストッパ部51が手首接続部43の第3吸着面53に吸着される。このように、過負荷安全システム30は、第1揺動部41および第2揺動部42を脱落させることなく容易かつ効率的にハンド部34の復帰作業を行うことができる。
【0047】
一方、
図5Bに示すように、ハンド部34に外力F4が加わって揺動運動した後に、さらに第1ストッパ部45側から第1揺動部41の側面に衝撃などの大きな外力(過負荷)F5が加わったとする。この場合、
図5Cに示すように、第1揺動部41の第1ストッパ部45が第2揺動部42の第1吸着面47から外れる。これにより、第1揺動部41に加わる過負荷が吸収され、ハンド部34を介して過負荷安全システム30に大きな衝撃が及ぶことを防止することができる。
【0048】
そして、
図5Cに示すように、第1吸着面47から外れた第1揺動部41は、第1軸44を回転中心として揺動運動する。揺動運動した後に、第1揺動部41は、第2ストッパ部46が第2揺動部42の第2吸着面48と吸着することによって停止する。停止後、第1揺動部41は、第2吸着面48における磁気吸着力によって第2揺動部42から脱落することなくロボットアーム11に吸着される。
【0049】
また、外力F5が除去された後、上記復帰動作と同様に、第2ストッパ部46を第2吸着面48から外し、第4ストッパ部52を第4吸着面54から外す。そして、第1揺動部41および第2揺動部42をそれぞれ第1軸44および第2軸50の拘束に従って回転運動して元の姿勢位置に復帰し、
図5Aに示すように、第1ストッパ部45を第1吸着面47に吸着させ、第3ストッパ部51を第3吸着面53に吸着させる。この場合も、過負荷安全システム30は、第1揺動部41および第2揺動部42を脱落させることなく容易かつ効率的にハンド部34の復帰作業を行うことができる。
【0050】
次に、
図6および
図7を用いて、本実施形態に係る過負荷安全システムの制御動作の例について説明する。
図6は、本実施形態に係る過負荷安全システム30のシステム構成例を示すブロック図である。
【0051】
図6に示すように、過負荷安全システム30は、一例として、ハンド部34に設置された過負荷安全装置601と、過負荷安全装置601の動作を制御する制御ユニット602と、ロボットアーム部11、ベース部12および手首部33を含むロボット603と、を備えている。過負荷安全装置601、制御ユニット602およびロボット603は、相互に通信接続されている。
【0052】
過負荷安全装置601は、第1近接センサ49および第2近接センサ55を含む状態検出部604と、第1吸着面47から第4吸着面54に配置された電磁石等の吸着手段605と、を備えている。
【0053】
制御ユニット602は、入出力部606と、制御部607と、を備えている。入出力部606は、状態検出部604から検出信号を受信し、吸着手段605へ電流等を流し、ロボット603へ停止信号や解除許可信号を送信する。制御部607は、姿勢判断部611と、停止信号出力部612と、吸着力調整部613と、を有している。
【0054】
姿勢判断部611は、例えば、現在のハンド部34の姿勢が、ワーク15を把持する姿勢なのか、第1揺動部41および/または第2揺動部42が揺動運動して屈折した姿勢なのか、を判断する。
【0055】
停止信号出力部612は、例えば、ロボット603へ送信する停止信号や停止解除許可信号を入出力部606へ出力する。
【0056】
吸着力調整部613は、例えば、状態検出部604から得られる検出信号を用いて吸着手段605へ流す電流値等を調整することにより、吸着手段605の吸着力を調整する。
【0057】
次に、
図7を用いて、過負荷安全システム30の制御動作の例について説明する。
図7は、本実施形態に係る過負荷安全システム30の制御動作の例を示すフローチャートである。
【0058】
S701において、状態検出部604は、ハンド部34の姿勢等の状態を第1近接センサ49で検出した結果を取得し、ステップS702へ進む。
【0059】
S702において、状態検出部604は、ステップS701で取得した検出結果に基づいて、第1ストッパ部45が第1吸着面47から外れているか否かを判定する。外れている場合(YESの場合)はステップS706へ進み、外れていない場合(NOの場合)は、ステップS703へ進む。
【0060】
S703において、状態検出部604は、ハンド部34の姿勢等の状態を第2近接センサ55で検出した結果を取得し、ステップS704へ進む。
【0061】
S704において、状態検出部604は、ステップS703で取得した検出結果に基づいて、第3ストッパ部51が第3吸着面53から外れているか否かを判定する。外れている場合(YESの場合)はステップS706へ進み、外れていない場合(NOの場合)は、ステップS705へ進む。
【0062】
S705において、姿勢判断部611は、ハンド部34がワーク15を把持する元の姿勢であると判断し、ステップS708へ進む。
【0063】
S706において、姿勢判断部611は、ハンド部34の姿勢が元の姿勢から変化していると判断し、ステップS707へ進む。
【0064】
S707において、停止信号出力部612は、例えば、ロボット603へ送信する停止信号を入出力部606へ出力する。入出力部606がその停止信号をロボット603へ送信した後、ステップS701へ戻る。
【0065】
S708において、停止信号出力部612は、停止解除許可信号を入出力部606へ出力する。入出力部606がその停止解除許可信号をロボット603へ送信した後、処理を終了する。
【0066】
本実施形態の過負荷安全システム30によれば、第1実施形態の過負荷安全システム10と同様の効果を奏することができる。また、過負荷安全システム30は、揺動可能な構成を交互に配置することで複数方向の過負荷を吸収することができる。また、磁気吸着力を電磁石で与えた場合は、元の姿勢の復帰操作が完了するまで第1吸着面47の磁気吸着力を弱めるまたは0とすることで、人力による姿勢復帰作業を行う場合も挟み込みなどの危険を低減させることができる。
【0067】
以上より、本実施形態に係る過負荷安全システム30によれば、複数方向の過負荷を吸収できるとともに、第1揺動部41および第2揺動部42を脱落させることなく、状態検出によってより安全性を向上させることができる。
【0068】
なお、第1実施形態および第2実施形態では、吸着面における吸着手段として磁気吸着力により吸着力を得るものを示しているが、吸着手段はこれに限らず、負圧吸着によるもの、粘着剤によるもの、クラッチなどの機械的な噛み合いや摩擦を用いたもの、などで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば、生産工場などで把持対象物を把持するロボットの先端とエンドエフェクタとの吸着部分に適用される過負荷安全装置に関するものであり、産業上の利用可能性を有するものである。
【符号の説明】
【0070】
10、30 過負荷安全システム
11 ロボットアーム部
12 ベース部
13、34 ハンド部
14 フィンガ部
15 ワーク
16 台座
17 天板
18 脚部
21 第1フィンガ
22 第2フィンガ
23 軸
24、45 第1ストッパ部
25、46 第2ストッパ部
26、47 第1吸着面
27、48 第2吸着面
33 手首部
41 第1揺動部
42 第2揺動部
43 手首接続部
44 第1軸
49 第1近接センサ
50 第2軸
51 第3ストッパ部
52 第4ストッパ部
53 第3吸着面
54 第4吸着面
55 第2近接センサ
601 過負荷安全装置
602 制御ユニット
603 ロボット
604 状態検出部
605 吸着手段
606 入出力部
607 制御部
611 姿勢判断部
612 停止信号出力部
613 吸着力調整部