(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】自動車のフロントガラス用合せガラス、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20221124BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C03C27/12 R
B60J1/00 H
(21)【出願番号】P 2020530012
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020210
(87)【国際公開番号】W WO2020012783
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018133186
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 高幸
(72)【発明者】
【氏名】山北 裕紀
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525235(JP,A)
【文献】特表2017-518246(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054468(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/137742(WO,A1)
【文献】特表平08-501272(JP,A)
【文献】特開2007-197288(JP,A)
【文献】特開2016-008161(JP,A)
【文献】特表2016-530204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0207290(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/10
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフロントガラス用用合せガラスであって、
樹脂中間膜層、及び前記中間膜層を介して対向して配置された、室外側に配置される湾曲した第一ガラス板と、室内側に配置される湾曲した第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、厚みが0.7mm~3mmのガラス板であり、
前記第二ガラス板は、厚みが0.3mm~1.4mmのガラス板で、且つ前記第一ガラス板よりも薄い厚みであり、
前記第二ガラス板は、5MPa未満の圧縮応力を有する熱強化ガラスである、
前記フロントガラス用合せガラス。
【請求項2】
前記第一ガラス板は、5MPa未満の圧縮応力を有する熱強化ガラスである、
請求項1に記載のフロントガラス用合せガラス。
【請求項3】
前記第一ガラス板の厚みが1.3mm~3mmである、請求項1又は2に記載のフロントガラス用合せガラス。
【請求項4】
前記第二ガラス板の厚みが0.3mm~1.2mmである、請求項1乃至3のいずれかに記載のフロントガラス用合せガラス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の自動車のフロントガラス用合せガラスの製造方法であって、
第一主面と第二主面とを備える、厚みが0.7mm~3mmの平板の第一ガラス板と、第三主面と第四主面とを備える、厚みが0.3mm~1.5mmで、且つ第一ガラス板よりも厚みの薄い平板の第二ガラス板と、前記第二主面と接触し、且つ前記第三主面とも接触する、前記第二主面と前記第三主面との間に分散れた耐熱性粉体と空気とからなる離型剤層と、を備える積層体を加熱成形によって湾曲化する工程を有
し、
前記積層体を湾曲化する工程において前記積層体が加熱成形されるときの前記積層体の最高到達温度から、前記第一ガラス板の歪点温度と前記第二ガラス板の歪点温度のうち低い方の歪点温度まで、冷却速度40℃/分~120℃/分で冷却される、
前記フロントガラス用合せガラスの製造方法。
【請求項6】
前記離型剤層において、前記空気が65体積%~85体積%である、請求項5に記載のフロントガラス用ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記第一ガラス板の歪点温度と、前記第二ガラス板の歪点温度との差が、0℃~20℃である、請求項5
または6に記載のフロントガラス用合せガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロントガラス用合せガラス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、年々、ガソリン燃料や、電気などのエネルギー効率向上が要求されてきており、それに使用される部材の軽量化が求められてきている。この背景のもと、特許文献1では、自動車の窓ガラスに使用される、自動車用合せガラスでは、各ガラス板の厚みが異なる合せガラスであって、室外側に配置されるガラス板の厚みを1.45mm~1.8mm、室内側に配置されるガラス板の厚みを1.0mm~1.4mmとし、室内側に配置されるガラス板の方の厚みを薄いものとする、構造が提案されている。
【0003】
また、特許文献2、3では、室外側ガラス板と、室内側ガラス板とを備える合せガラスにおいて、室外側ガラス板の湾曲形状に合せて、極薄の平板ガラス板を矯正させた状態で、樹脂中間膜層を介して合せ化した合せガラスが開示されている。特許文献4は、自動車用合せガラスの軽量化を背景に、異なる厚さの平板ガラス板を、同時に湾曲加工するときの、2枚のガラス板の曲げ挙動が異なるという課題を解決するために、2枚のガラス板は、厚いガラス板の徐冷点と軟化点との間の任意の温度において、厚いガラス板が薄いガラス板よりも低い粘度を有するものとする手法を開示している。
【0004】
そして、特許文献5は、加熱による曲げ成形時には、薄いガラス板は、厚いガラス板よりも変形しやすいことを課題とし、ガラス板を曲げ成形する温度雰囲気下で、厚いガラス板の粘度が、薄いガラス板の粘度よりも低い粘度となるように各ガラス板のガラス組成を調整し、かつ成形工程にて各ガラス板の主表面に不均一な温度分布を形成することを提案している。
【0005】
他方で、薄いガラス板は、合せガラスの機械的強度の低下をもたらす。そのため、特許文献6は、非化学強化室外側ガラス板と、厚みや、圧縮応力値が規定された化学強化室内側ガラス板を備える自動車用合せガラスが開示されている。さらには、特許文献7は、室内外のガラス板をアルミノシリケートガラスからなる化学強化ガラス板とした自動車用合せガラスを開示している。
【0006】
室内側に配置されるガラス板は、自動車が事故に遭遇したときに乗員による衝撃にも注目される必要がある。例えば、特許文献8に開示された、室内側に薄いガラス板が配置される合せガラスでは、同ガラス板側に、重量2260gの剛球を4mの高さから落下して、乗員の頭部が合せガラスに衝突したことを模擬した試験がなされている。剛球が貫通しなかった合せガラスが合格品となる。特許文献8に開示された合せガラスの、室内側に配置される薄いガラス板は化学強化ガラスである。また、特許文献9に開示された、室内側に薄いガラス板が配置される合せガラスでも、特許文献8と同様に室内側からの衝撃が、内部衝撃事象として検討されている。特許文献9に開示された合せガラスの、室内側に配置される薄いガラス板も化学強化ガラスである。
【0007】
特許文献10に開示された合せガラスでも、特許文献8、9同様に、室内側からの衝撃が、内部衝撃事象として検討されている。特許文献10に開示された合せガラスは、前述された合せガラスとは異なり、室外側に配置されるガラス板が、0.5~1mmの薄い厚みの300~800MPaの表面圧縮応力を持つ化学強化ガラスで、室内側に配置されるガラス板は、1mm~2.5mmの厚さの未強化ガラスとなっている。また、特許文献10での合せガラスの別構成にて、室内側に配置されるガラス板に、熱強化ガラスの使用もまた提案されている。また、特許文献11には、0.8mm~3.5mmの厚さのガラス板を含む合せガラスにおいて、該ガラス板が中央部において2MPa~39MPaの圧縮応力を持つ構成のサイドガラス用の合せガラスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2013-525235号公報
【文献】特表2014-527011号公報
【文献】特開2007-197288号公報
【文献】WO2012/137742号
【文献】WO2014/054468号
【文献】特表2016-530190
【文献】特開2016-8161号公報
【文献】特表2017-518246号公報
【文献】特表2016-530190号公報
【文献】特表2014-523389号公報
【文献】特表2004-508995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動車用合せガラス板の軽量化のためには、車外側に配置されるガラス板の剛性を下げないために、室内側に配置されるガラス板を薄いものとすることが好ましい。しかしながら、薄いガラス板の使用は、合せガラス板の機械的強度の低下につながるので、これを補うために、薄いガラス板は圧縮応力を備えることが好ましい。この観点からすると、特許文献6~9に開示されている合せガラスのように、室内側に配置される薄いガラス板を化学強化ガラス板とすることは合理的なように思われる。
【0010】
しかしながら、化学強化ガラスの表面は、250MPaよりも大きな圧縮応力を備えているため、ガラス板表面の耐衝撃性は比較的高いものとなる。自動車が事故に遭遇したときの乗員によるガラス板への衝撃発生などの内部衝撃事象発生時は、乗員の安全確保のため、衝撃時のエネルギーをガラス板が吸収し、その結果としてガラス板が破損することが好ましい。このことは、自動車の前面のウィンドシールドとして配置されるフロントガラスには重要な観点である。この観点からすると、室内側に配置されるガラス板として、化学強化ガラスを使用する場合、合せガラスに何等か構成上の工夫が必要なように思われる。他方で、強化ガラスとして使用されている風冷強化ガラスは、そのような薄いガラス板で実現することが難しい。また、特許文献11では、ガラス板の中央部において2MPa~39MPaの圧縮応力を持つガラス板を合せガラスの構成部材とするものを開示しているが、機械的特性を鑑みて、5MPa以上、好ましくは20MPaの圧縮応力のものが推奨されている。
【0011】
以上から、本発明者らは、室内側に薄いガラス板が配置されるフロントガラス用合せガラスにおいて、内部衝撃事象発生時を想定しての合せガラスの安全性を改善できる合せガラスを提供することを課題とする。具体的には、重量2260gの剛球を4mの高さから、薄いガラス板に向けて落下しても、前記剛球が前記合せガラスを貫通せず、前記剛球の衝撃によって、適度なガラスの破損の広がりを示す、フロントガラス用合せガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る自動車のフロントガラス用合せガラスは、樹脂中間膜層、及び前記中間膜層を介して対向して配置された、室外側に配置される湾曲した第一ガラス板と、室内側に配置される湾曲した第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板は、厚みが0.7mm~3mmのガラス板であり、
前記第二ガラス板は、厚みが0.3mm~1.4mmのガラス板で、且つ前記第一ガラス板よりも薄い厚みであり、
前記第二ガラス板は、5MPa未満の圧縮応力を有する熱強化ガラスである、
ことを特徴とする。
【0013】
前記熱強化ガラスは、JIS R 3222(2003年)でいうところの倍強度ガラスと類似した特性を有するものと言えるかしれない。しかしながら、市中に流通している倍強度ガラスは、通常、30Ma程度以上の圧縮応力を有するものであるが、本発明の態様での熱強化ガラスの圧縮応力は、それもずっと小さいものである点に大きな相違点がある。前記JISでは、「倍強度ガラスとは、板ガラスを熱処理してガラス表面に適切な大きさの圧縮応力層をつくり、破壊強度を増大させ、かつ、破損したときに、材料の板ガラスに近い割れ方となるようにしたもの。」と定義されている。
【0014】
本発明の態様に係るフロントガラス用合せガラスでは、薄いガラス板である第二ガラス板が、5MPa未満の微小な圧縮応力が備わっている熱強化ガラスである。この構成によって、前記合せガラスは、乗員の頭部が合せガラスに衝突したことを模擬した試験、すなわち、重量2260gの剛球を4mの高さから落下して、前記第四主面に前記剛球を衝突させる試験(以下、単に「落球試験」と表記する場合有)において、前記剛球の前記合せガラスへの貫通を防止せしめる。
【0015】
本発明で検討される小さな圧縮応力を有するガラス板の、当試験での破砕領域の大きさは、前記剛球によるガラス板への衝撃を、ガラス板側がどの程度吸収したかを示していると考えることができる。なぜなら、そのガラス板の内部の引張応力の値が小さく、引張応力が破砕挙動に与える影響が小さいからである。前記第二ガラス板の圧縮応力が小さい程、破砕領域が広がる傾向がある。そして、本発明の検討では、前記第二ガラス板が5MPa未満の圧縮応力を有している場合でも、意外なことに、前記落球試験にて、剛球の貫通が見られなかった。前記第二ガラス板が5MPa未満の圧縮応力を有している、前記合せガラス構造は、破砕領域の広がりの程度が改善される。破砕領域の広がりについては、「発明を実施するための形態」にて詳述される。
【0016】
また、前記自動車のフロントガラス用合せガラスの好適な製造方法は、第一主面と第二主面とを備える、厚みが0.7mm~3mmの平板の第一ガラス板と、第三主面と第四主面とを備える、厚みが0.3mm~1.5mmで、且つ第一ガラス板よりも厚みの薄い平板の第二ガラス板と、前記第二主面と接触し、且つ前記第三主面とも接触する、前記第二主面と前記第三主面との間に分散れた耐熱性粉体と空気とからなる離型剤層と、を備える積層体を加熱成形によって湾曲化する工程を有する、というものである。そして、前記積層体を湾曲化する工程において前記積層体が加熱成形されるときの前記積層体の最高到達温度から、前記第一ガラス板の歪点温度と前記第二ガラス板の歪点温度のうち低い方の歪点温度まで、冷却速度40℃/分~120℃/分で冷却される。
【0017】
このような製造方法とすることで、前記自動車用合せガラスを提供することができる。
【0018】
本発明での圧縮応力の値は、ガラス板の最表面での応力値であり、ガラス板がフロートプロセスで製造された際に、錫浴と接した面、所謂、錫面で、当該面の中央部にて計測されもので、JIS R 3222(2003年)に規定された測定方法からの改良測定方法にて、計測されたものである。これら測定方法は、光弾性効果を利用したもので、前記JISでは、測定時に観測される干渉縞の距離を測るのに対し、前記改良測定方法では、測定時に観測される干渉縞の角度が計測されて圧縮応力の値が求められる。前記改良測定方法の詳細については、特開平11-281501号公報を参照されたい。前記改良測定方法による測定は、市販されているバビネ式表面応力計によって行うことができ、例えば、「折原製作所製、バビネ型表面応力計、model:BTP-H(L)」を活用すれば、ガラス板の圧縮応力を求めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自動車用合せガラスは、内部衝撃事象発生時を想定しての合せガラスの安全性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動車用合せガラスを概略的に説明する断面図である。
【
図2】主面が湾曲化した曲面からなる合せガラス板を形成する前の、第一ガラス板と第二ガラス板との積層体を概略的に説明する断面図である。
【
図3】第一ガラス板と第二ガラス板との積層体を曲げ成形により湾曲化する状態を模式的に説明する図である。
【
図4】検証の合せガラスに対する落球試験の概略を説明する図である。
【
図5】検証用の合せガラスに対する破砕試験の結果を示す、図面代用写真である。
【
図6】検証用の合せガラスに対する破砕試験の結果を示す、図面代用写真である。
【
図7】検証用の合せガラスに対する破砕試験の結果を示す、図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る自動車用合せガラス1を図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、自動車用合せガラス1の断面を概略的に説明するものである。自動車用合せガラス1は、樹脂中間膜層3、及び前記樹脂中間膜層3を介して対向して配置された、主面が湾曲した曲面からなる第一ガラス板21と、主面が湾曲した曲面からなる第二ガラス板22とを備え、前記第一ガラス板21は、凸面側第一主面211と、前記樹脂中間膜層3と面する凹面側第二主面212とを備える、厚みが0.7mm~3mmのガラス板であり、前記第二ガラス板22は、前記樹脂中間膜層3と面する凸面側第三主面223と、凹面側第四主面224とを備える、厚みが0.3mm~1.4mmで、且つ前記第一ガラス板21よりも薄い厚みのガラス板である。
【0023】
第一、第二ガラス板21、22としては、平板状の第一ガラス板21、22が湾曲形状に加工され、主面が湾曲した曲面からなるガラス板とされたものを好適に使用することができる。第一ガラス板21の材質としては、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスの他、アルミノシリケートガラスやホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等の公知のガラス組成のものを使用することができる。また、第一ガラス板21の材質として、鉄やコバルト等の着色成分がガラス組成の成分として適宜調整され、グレー、緑、青などの色調を呈するものも使用してもよい。また、第一、第二ガラス板は、フロートプロセスによって得られたもので、当該プロセスにおいて、錫浴面と接した面を有しているものが好ましい。
【0024】
第一ガラス板21は、第二ガラス板22よりも高い剛性を持つように、第二ガラス板22の厚みよりも厚いものとし、その厚みを、0.7mm~3mmとすることが好ましい。前記第一ガラス板の厚みは、前記第二ガラス板の厚みよりも、0.2mm以上、さらには0.5mm以上とすることが好ましい。第一ガラス板21の厚みが0.7mm未満の場合、ガラス板の剛性が低くなるので、自動車合せガラス1を所定の湾曲形状に保ちにくくなる。他方、第一ガラス板21の厚みが3mm超の場合、自動車合せガラス1を構成する部材として、当該材料の重量の比率が高くなり、自動車用合せガラス1の軽量化の観点からは好ましいものではなくなる。これらを考慮すると、第一ガラス板21の厚みは、好ましくは1.3mm~3mm、より好ましくは1.3mm~2.2mmとされる。
【0025】
第二ガラス板22は、第一ガラス板21よりも薄いものとし、厚みが、0.3mm~1.4mmとすることで、自動車用合せガラス1を所定の湾曲形状に保つことと、軽量化させることのバランスを図りやすくなる。これらを考慮すると、第二ガラス板22の厚みは、好ましくは0.3mm~1.1mm、より好ましくは0.5mm~1.1mmとしてもよい。
【0026】
前記第二ガラス板22は、5MPa未満、好ましくは4.5MPa以下の圧縮応力を有する熱強化ガラスである。これら圧縮応力であれば、内部衝撃事象発生時を想定しての合せガラスの安全性が改善される。前記圧縮応力の下限は特に限定するものではないが、圧縮応力の下限は0.1MPa、好ましくは0.5Ma、より好ましは1MPa、さらに好ましくは2MPaとしてもよい。圧縮応力が形成された領域は、ガラス板の厚みの1/5~1/7としてもよい。
【0027】
前述のような応力条件は、平板状のガラス板の加熱による湾曲化のための成形条件を調整することでなすことができる。平板状のガラス板を該ガラス板の軟化点近くで加熱時に、該ガラス板への重力の印加や、モールド成形などによってガラス板の曲げ成形がなされる。
【0028】
この圧縮応力層は、ガラス板が軟化された状態から、ガラス板内の塑性流動が止まって固化される状態まで冷却されるまでの、ガラス板の主面付近の冷却速度と、ガラス板の中央部の冷却速度の違いによって生じるものである。本実施形態では、前記第二ガラス板22の曲げ成形温度から、前記第二ガラス板22の歪点温度までの冷却速度を、40℃/分~120℃/分とすることで、ガラス板の主面の冷却速度を、ガラス板の中央部の冷却速度よりもわずかに速くすることで、ガラス板の主面に5MPa未満の圧縮応力を形成することができる。
【0029】
また、ガラス板21と、ガラス板22とを重ねた状態で、且つガラス21と、22との間隔を、わずかに空隙を設けた状態、例えば、10μm~20μmの空隙を設けた状態にして、ガラス板21と、ガラス板22とを同時に曲げ成形すると、曲げ成形後の第三主面側の冷却速度もガラス板の中央部の冷却速度よりもわずかに速くなるので、第三主面側にも5MPa未満の圧縮応力とすることができる。前記第三主面側の冷却速度が、空隙が十分に設けられていないなどによって、ガラス板の中央領域の冷却速度と同等となる場合、ガラス板22の中央の引張応力層が第三主面側まで到達することも懸念される。このような構成を備える自動車用合せガラスでは、前記落球試験での剛球の耐貫通性が低下しやすいものとなる。
【0030】
室外側に配置されるガラス板21も、ガラス板22と同等の応力構成を備えたものとしてもよい。すなわち、前記第一ガラス板21は、好ましくは5MPa未満、好ましくは4.5MPa以下の圧縮応力を有する熱強化ガラスであってもよい。前記圧縮応力の下限は特に限定するものではないが、圧縮応力の下限は0.1MPa、好ましくは0.5Ma、より好ましくは1MPa、さらに好ましくは2MPaとしてもよい。また、ここでの圧縮応力層は、ガラス板の厚みの1/5~1/7としてもよい。
【0031】
尚、ガラス板21、22の歪点温度は、JIS R 3103-2(2001年)に基づいて測定でき、この規定に基づくガラス試料は、ガラス板21、22からサンプリングされたものでもよいし、ガラス板21、22と同じ組成のガラスのものを使用してもよい。また、ガラス板21、22の軟化点温度は、JIS R 3103-1(2001年)に基づいて測定でき、この規定に基づくガラス試料は、ガラス板21、22からサンプリングされたものでもよいし、ガラス板21、22と同じ組成のガラスが再現されたものを使用してもよい。曲げ成形温度は、ガラス板の軟化点温度の±100℃で調整することができ、本実施形態では、前記曲げ成形温度は、ガラス板が加熱されたときの最高到達温度として考えるものとする。
【0032】
ガラス板21と、ガラス板22とを重ねた状態で曲げ成形する場合、薄いガラス板の曲率は、もう一方のガラス板よりも大きくなることがある。ガラス板21と、ガラス板22とは同じ曲率となることが理想的ではあるが、ガラス板の曲げ成形の熱処理条件の設定を簡易的なものとし、曲げ成形後の、ガラス板21の曲率と、ガラス板22の曲率とが異なるものとなるような条件でガラス板21、22が曲げ成形されてもよい。
【0033】
この場合、ガラス板21、22と、樹脂中間膜層3との熱圧着時に前記ガラス板22の曲率を前記ガラス板21の曲率を同等となるように、前記ガラス板22が押圧され矯正された状態で、合せガラス1としてもよい。熱圧着時におけるガラス板22の曲率の矯正前において、ガラス板22の曲率が、ガラス板21の曲率よりも大きい場合、曲率の矯正によって、主面224には圧縮応力がかかり圧縮応力が向上、主面223には引張応力がかかり圧縮応力が低下する。他方で、熱圧着時におけるガラス板22の曲率の矯正前において、ガラス板22の曲率が、ガラス板21の曲率よりも小さい場合、曲率の矯正によって、主面224には引張応力がかかり圧縮応力が低下、主面223には圧縮応力がかかり圧縮応力が向上する。自動車ガラス1の露出する面の強度を向上させたい場合は、熱圧着時におけるガラス板22の曲率の矯正前において、ガラス板22の曲率が、ガラス板21の曲率よりも大きいものであることが好ましい。
【0034】
矯正による圧縮応力値の調整は、合せガラス1の製造時のガラス板22の割れを誘発し、合せガラス1の製造の歩留まりを低下させることがあるので、矯正前後での圧縮応力値の調整は、20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内としてもよい。
【0035】
樹脂中間膜3は加熱することで、第一ガラス板21と、第二ガラス板22とを合せ化するもので、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を使用することができる。なお、中間膜層3は複数の樹脂層で構成されていても良い。
【0036】
次にガラス板に形成された応力の違いによる、ガラス板の破砕挙動の違いを検討する。
【0037】
図4は、検証の合せガラス100に対する落球試験の概略を説明する図である。検証用の合せガラス100として、30cm×30cm角の平板状の合せガラス100が準備された。該合せガラス100では、第二ガラス板22に相当するガラス板として、厚さ1.1mmのガラス板220、第一ガラス板に相当するガラス板として、厚さ1.8mmのガラス板210が準備された。ガラス板210、220とも、歪点は500℃のフロートプロセスによるソーダ石灰ガラスからなるものである。
【0038】
第二ガラス板220の圧縮応力は、次の手順にて形成された。平板状の第一ガラス板210と、平板状の第二ガラス板220と、前記第一、第二ガラス板の間に配置された、絶対値において粒径が10μm~20μmの範囲内にある窒化ホウ素の粉体と、70体積%の空気とで構成された離型剤層とでなる積層体を準備する。該積層体を、自動車用の曲げガラスを生産している加熱炉内で、炉内設定温度600℃で加熱し、該温度から、前記歪点温度まで冷却速度70℃/分以上の速度で冷却した。冷却速度の違いによって、4MPaの応力が形成された第二ガラス板220、15MPaの応力が形成された第二ガラス板220、25MPaの応力が形成された第二ガラス板220を得た。
【0039】
樹脂中間膜層にPVBからなる中間膜層4が、両ガラス板と熱圧着されて、検証用の合せガラス100とされた。検証用の合せガラス100において、中間膜層の厚さは0.8mmであった。検証の合せガラスのガラス板220の主面に対して、4mの高さから、2268gの鋼球6を落して生じた、ガラス破砕の様子を観察した。その結果を、
図5~
図7の図面代用写真にして示す。尚、
図5~
図7中の打撃点60、円形破砕領域61を示す符号、線、円は、写真上への加工で付されたものである。
【0040】
図5は、厚さ1.1mmの第二ガラス板の露出している面に4MPaの圧縮応力が形成されたときの結果を示すものである。
図6の結果は、厚さ1.1mmの第二ガラス板の露出している面に15MPaの圧縮応力が形成されたときの結果を示すものである。そして、
図7の結果は、厚さ1.1mmの第二ガラス板の露出している面に25MPaの圧縮応力が形成されたときの結果を示すものである。
【0041】
いずれの試料でも、前記剛球の前記合せガラスの貫通は生じなかった。また、円形状破砕領域61をみると、25MPaの圧縮応力時の試料(
図7)で、前記剛球によるガラス板への打撃点60と比べて、直径において、6倍程度の広がりが見られた。前記剛球の衝撃によって、適度なガラスの破損の広がりを示していることがわかる。15MPaの圧縮応力時の試料(
図6)では、円形状破砕領域61は、打撃点60と比べて、直径において、7倍程度の広がりであった。そして、4MPaの圧縮応力時の試料(
図5)では、円形状破砕領域61は、打撃点60と比べて、直径において、10倍程度の広がりであった。
このことから、内部衝撃事象発生時には、5MPa未満の圧縮応力を有するガラス板はより衝撃を吸収し、乗員に対する安全性が改善されることがわかる。平板状のガラスは、湾曲したガラス板よりも機械的強度は不利であり、また、剛球によるガラス板の破砕の広がりに与える主要因は、同厚であれば、ガラス板が備える応力なので、この検証結果は、湾曲したガラス板を備える、自動車用合せガラス1にも適用される。
【0042】
前記自動車用合せガラス1の好適な製造方法は、
第一主面211と第二主面212とを備える、厚みが0.7mm~3mmの平板の第一ガラス板21と、第三主面223と第四主面224とを備える、厚みが0.3mm~1.5mmで、且つ第一ガラス板よりも厚みの薄い平板の第二ガラス板22と、前記第二主面と接触し、且つ前記第三主面とも接触する、前記第二主面と前記第三主面との間に分散れた耐熱性粉体と空気とからなる離型剤層4と、を備える積層体10を準備する工程(A)と、
前記積層体10を、前記第一主面211を下向きに水平又は略水平にして成形リング5に配置して加熱炉内で搬送し、前記第一、第二ガラス板21、22を曲げ成形温度まで加熱する工程(B)と、
前記曲げ成形温度まで加熱された前記積層体を湾曲化する工程(C)と、
湾曲化された前記積層体を、前記曲げ成形温度から、前記第一ガラス板の歪点温度と前記第二ガラス板の歪点温度のうち低い方の歪点温度まで、冷却速度40℃/分~120℃/分で冷却する工程(D)と、
前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とを分離する工程(E)と、
樹脂中間膜層と、前記凹面側第二主面と、前記凸面側第三主面とを対向して配置し、樹脂中間膜層と、第一ガラス板と、第二ガラス板とを熱圧着する、工程(F)とを備え、
前記工程(A)~(D)において、前記第二主面と前記第三主面との間隔を10μm~20μmとする、ものである。
【0043】
【0044】
図2は、湾曲化したガラス板を形成する前の、第一ガラス板21と第二ガラス板22との積層体10(断面)を概略的に説明する図である。そして、
図3は、前記積層体10を曲げ成形により湾曲化する状態を模式的に説明する図である。
【0045】
前記工程(A)において、ガラス板21と、ガラス22とは、離型剤層4を介して積層され、積層体10が形成される。前記離型剤層4は、前記第二主面212と接触し、且つ前記第三主面223とも接触する、前記第二主面と前記第三主面との間に分散れた耐熱性粉体と空気とからなる。前記耐熱性粉体としては、窒化ホウ素、珪藻土、酸化マグネシウムなどのセラミック粉体が好適に利用できる。そして、該粉体の粒径が、絶対値において、10μm~20μm内にあるものを使用することで、前記工程(A)~(D)において、前記第二主面と前記第三主面との間隔を10μm~20μmとすることができる。
【0046】
また、前記工程(D)での主面212、223の冷却効率と、主面212と主面223との間隔保持のバランスを考慮すると、前記離型剤層での前記空気は、65体積%~85体積%、好ましくは70体積%~80体積%となるように調整されることが好ましい。
【0047】
前記工程(B)では、前記積層体10が、前記第一主面211を下向きにして、水平又は略水平にして成形リング5に配置される。成形リング5は、前記積層体5の外周部を主面211側から保持できるようにしたもので、ステンレス鋼、鉄鋼などの金属鋼からなるものを使用することができる。積層体10を保持した成形リング5は、加熱炉内で搬送され、前記第一、第二ガラス板21、22は曲げ成形温度まで加熱される。
【0048】
次いで、工程(C)にて、前記積層体が湾曲化される。この工程では、積層体10の成形リング5で保持されていない部位が、重力によって所定の形状に曲げ成形されてもよい(所謂、自重曲げ成形)。さらには、積層体10を、成形リング5と、図示しないプレス型との間に挟んで加圧して成形してもよい(所謂、プレス成形)。
【0049】
曲げ成形により湾曲化された積層体10は、冷却される、工程(D)を経る。工程(D)では、前記曲げ成形温度から、前記第一ガラス板の歪点温度と前記第二ガラス板の歪点温度のうち低い方の歪点温度まで、冷却速度40℃/分~120℃/分、好ましくは、50℃/分~100℃/分、より好ましくは、60℃/分~90℃/分で冷却される。積層体10は、加熱炉内を搬送され、加熱されて冷却される。加熱炉は、積層体10の進行方向で徐々に温度が上昇し、曲げ成形温度に到達した後、徐々に冷却される温度プロファイルを備える。その温度プロファイルと、積層体10の搬送速度を調整することで、積層体10の曲げ成形後の冷却速度を調整することができる。
【0050】
この工程の後、工程(E)となり、積層された、第一ガラス板21と第二ガラス板22とは、一旦分離される。
【0051】
そして、樹脂中間膜層3と、前記凹面側第二主面212と、前記凸面側第三主面223とを対向して配置し合せガラス前駆構造体を形成し、樹脂中間膜層3と、第一ガラス板21と、第二ガラス板22とを熱圧着する、工程(F)となる。樹脂中間膜層3と、第一ガラス板21と、第二ガラス板22との熱圧着は、例えば、合せガラス前駆構造体を1.0~1.5MPaで加圧しながら、100~150℃で15~60分保持することで、
図1に示すような自動車用合せガラス1が得られる。熱圧着は、例えば、オートクレーブ内で行うことができる。また、樹脂中間膜層3と、第一ガラス板21と、第二ガラス板22とを熱圧着を行う前に、可塑性中間層3と、各ガラス板21、22との間を脱気しておくことが好ましい。
【0052】
前記工程(D)後の積層体において、第二ガラス板の曲率を、前記第一ガラス板の曲率よりも大きいものとし、前記工程(F)時に、前記第二ガラス板を前記第一ガラス板の曲率と同等となるように矯正して、合せガラス1を形成してもよい。前記第二ガラス板22の矯正は、前記第一ガラス板21と、前記樹脂中間膜層3と、前記第二ガラス板とを積層して積層体を形成したときに、その積層体の周縁をクリップなどで挟むことによってなしてもよい。
【0053】
また、前記第一ガラス板21、前記第二ガラス板22の曲げ成形時の挙動、冷却時の挙動を近いものとするために、前記第一ガラス板の歪点温度と、前記第二ガラス板の歪点温度との差を、0℃~20℃としてもよい。
【0054】
尚、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1: 自動車用合せガラス
21: 第一ガラス板
22: 第二ガラス板
3: 樹脂中間膜層
4: 離型剤層
5: 成形リング