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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20221124BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20221124BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221124BHJP
   C01F 7/78 20220101ALI20221124BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
B32B27/18 B
C01F7/78
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019550357
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039999
(87)【国際公開番号】W WO2019083046
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017208527
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「スーパークラスタープログラム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516018810
【氏名又は名称】NT&I株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】笹瀬 忠久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】細尾 昇平
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209489(JP,A)
【文献】特開2014-080713(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152279(WO,A1)
【文献】特開2010-077554(JP,A)
【文献】特開平02-264081(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00-7/06
B32B 1/00-43/00
C01F 7/00-7/788
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、前記基布上に、接着層と、表皮層と、難燃層とを、この順に備え、
前記難燃層が、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物であり、厚さ1μm~μmの層であり、前記ハイドロタルサイト様化合物が、下記一般式(I)で表される化合物である、
合成皮革。
【化1】



前記一般式(I)中、(A 2+ は、Ca 2+ 、Mg 2+ 、Fe 2+ 、Co 2+ 、Ni 2+ 、Cu 2+ 又はZn 2+ を表し、(A 3+ は、Al 3+ 、Ti 3+~4+ 、Cr 3+ 、Fe 3+ 、Co 3+ 又は(Mo 5+~6+ )を表す。
(B n- は、硫酸誘導体イオン、スルホン酸誘導体イオン、又はリン酸誘導体イオンを表す。
xは、0.20~0.33の数を表し、nは、陰イオンの価数を表し、mは、任意の数を表す。
【請求項2】
前記接着層、及び前記表皮層のうち少なくとも1つが、難燃剤を含有する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記接着層と、前記表皮層との間に、さらに中間層を備える請求項1又は請求項2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記中間層が、難燃剤を含有する請求項に記載の合成皮革。
【請求項5】
基布と、前記基布上に、樹脂層と、難燃層とを、この順に備え、
前記難燃層が、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物であり、厚さ1μm~μmの層であり、前記ハイドロタルサイト様化合物が、下記一般式(I)で表される化合物である、
合成皮革。
【化2】



前記一般式(I)中、(A 2+ は、Ca 2+ 、Mg 2+ 、Fe 2+ 、Co 2+ 、Ni 2+ 、Cu 2+ 又はZn 2+ を表し、(A 3+ は、Al 3+ 、Ti 3+~4+ 、Cr 3+ 、Fe 3+ 、Co 3+ 又は(Mo 5+~6+ )を表す。
(B n- は、硫酸誘導体イオン、スルホン酸誘導体イオン、又はリン酸誘導体イオンを表す。
xは、0.20~0.33の数を表し、nは、陰イオンの価数を表し、mは、任意の数を表す。
【請求項6】
前記樹脂層が、塩化ビニル樹脂を含む請求項に記載の合成皮革。
【請求項7】
前記基布が、アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリクラール繊維、塩化ビニリデン繊維、アクリル-塩化ビニル共重合体繊維、アクリル-塩化ビニリデン共重合体繊維、及びポリベンゾイミダゾール繊維から選ばれた1種以上の難燃繊維を含む請求項1~請求項のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項8】
前記基布が、非難燃性基布に難燃処理を施した基布である請求項1~請求項のいずれか1項に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内装部品(例えば、インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井など)、鉄道車両内装部品又は航空機内装部品(例えば、トリム、座席、天井など)、家具、靴等の履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材、衣類裏地、壁装材などには、天然皮革や繊維製シートに代えて、耐久性に優れる合成皮革が多用されている。例えば、航空機内装部品及び自動車内装品に適用される合成皮革については、軽量で耐久性があること、難燃性が良好であることが必要である。さらに、当該用途では、これらの基礎的な特性に加え、ある程度の厚みと適度の弾力性を有し、天然の皮革に近い感触をもつ合成皮革が求められている。
このような合成皮革は、寸法安定性及び加工性の観点から、基布などの繊維質シート表面に、適度の弾力性を調整するための柔軟な樹脂層と、皮革様の外観を有し、耐摩耗性に優れた表皮層を有するものが一般的である。
【0003】
自動車等の内装品、建装用内外装部材、衣類表装材、衣類裏地、壁装材に適用される合成皮革における難燃性としては、炎に接触しても燃え難いこと、一部が燃えても燃え広がり難いこと、燃えた場合に発煙し難いこと等が重要である。
【0004】
難燃性向上を目的として、合成皮革の樹脂に難燃剤を含有させることが行われている。例えば、ポリウレタン樹脂に特定の割合でホスフィン系金属塩を混合した難燃性ポリウレタン樹脂及び難燃性ポリウレタン樹脂層を有する合成皮革(特開2016-79375号公報参照。)、機材と表皮材との間に、リン酸エステル系難燃可塑材を含むポリウレタン接着層を設けた合成皮革(特開2013-189736号公報参照。)が提案されている。
また、合成皮革の基布を、難燃性向上を目的として、窒素-リン系の難燃剤を用いて難燃加工した合成皮革(特開2006-77349号公報参照。)、及び、リンを含有する難燃性付与剤を含む難燃性ポリエステル繊維と、非難燃性ポリエステル繊維とを用いて編製された難燃性の合成皮革用基布が提案されている(特開2010-77554号公報参照。)。
また、ポリウレタン樹脂の合成に際して、用いる鎖伸長剤として、リン含有鎖伸長剤を用いて、難燃剤をポリウレタン樹脂の分子内に導入してなる難燃性ポリウレタン樹脂を用いた合成皮革が提案されている(特許第5405383号公報参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2016-79375号公報、特開2013-189736号公報、特開2006-77349号公報及び特開2010-77554号公報に記載される難燃剤として汎用のリン系化合物は、管理、取り扱いが煩雑である。さらに、樹脂材料に十分な難燃性を与える量の難燃剤を添加すると、本来樹脂が有する風合いを損ねる場合があるか、或いは、難燃剤の影響により樹脂自体の耐久性が低下する場合がある、という問題があった。
また、特許第5405383号公報に記載の方法では、鎖伸長剤に難燃性の部分構造を有するため、難燃性ポリウレタンの合成が困難であり、得られたポリウレタン樹脂の種類も限定され、所望の風合い、耐久性を有する合成皮革用のポリウレタン樹脂は得難かった。
【0006】
本発明の一実施形態の課題は、難燃性が良好であり、難燃化処理に起因する風合い及び耐久性の低下が抑制された合成皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
[1] 基布と、前記基布上に、接着層と、表皮層と、難燃層とを、この順に備え、前記難燃層が、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物であり、厚さ1μm~20μmの層である、合成皮革。
【0008】
[2] 前記ハイドロタルサイト様化合物が、下記一般式(I)で表される化合物である[1]に記載の合成皮革。
【0009】
【化1】


前記一般式(I)中、(A2+は、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+又はZn2+を表し、(A3+は、Al3+、Ti3+~4+、Cr3+、Fe3+、Co3+又は(Mo5+~6+)を表す。
(Bn-は、硫酸誘導体イオン、スルホン酸誘導体イオン、又はリン酸誘導体イオンを表す。
xは、0.20~0.33の数を表し、nは、陰イオンの価数を表し、mは、任意の数を表す。
【0010】
[3] 前記接着層、及び前記表皮層のうち少なくとも1つが、難燃剤を含有する[1]又は[2]に記載の合成皮革。
[4] 前記接着層と、前記表皮層との間に、さらに中間層を備える[1]~[3]のいずれか1つに記載の合成皮革。
[5] 前記中間層が、難燃剤を含有する[4]に記載の合成皮革。
【0011】
[6] 基布と、前記基布上に、樹脂層と、難燃層とを、この順に備え、前記難燃層が、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物であり、厚さ1μm~20μmの層である、合成皮革。
[7] 前記樹脂層が、塩化ビニル樹脂を含む[6]に記載の合成皮革。
[8] 前記基布が、アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリクラール繊維、塩化ビニリデン繊維、アクリル-塩化ビニル共重合体繊維、アクリル-塩化ビニリデン共重合体繊維、及びポリベンゾイミダゾール繊維から選ばれた1種以上の難燃繊維を含む[1]~[7]のいずれか1つに記載の合成皮革。
[9] 前記基布が、非難燃性基布に難燃処理を施した基布である[1]~[7]のいずれか1つに記載の合成皮革。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、難燃化処理に起因する風合い及び耐久性の低下が抑制された合成皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示における合成皮革の一態様を示す概略断面図である。
図2】本開示における合成皮革の別の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の合成皮革の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示の各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0017】
<合成皮革>
以下、本開示の合成皮革の好ましい実施形態について説明する。以下に示す実施形態は一例であり、本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0018】
〔第1の実施形態に係る合成皮革の層構成〕
図1は、本開示の合成皮革10の一態様を示す概略断面図である。
図1に示す実施形態の合成皮革(第1の実施形態と称することがある)10は、基布12の一方の面に、接着層14、表皮層16及び難燃層18をこの順に備える。なお、本開示において「この順に備える」とは、基布12上に、接着層14、及び表皮層16がこの順に存在していること意味し、所望により設けられる他の層の存在を否定するものではない。
前記難燃層は、後述するように、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物であり、厚さ1μm~20μmの難燃層である。
【0019】
本開示の合成皮革は、難燃層を備えるため、目的に応じた種々の層構成を有する合成皮革に、その風合い、耐久性などの利点を損なうことなく、高度の難燃性を付与することができる。
本開示において、合成皮革の基布とは、合成皮革における各層を形成するための基材であって、編製体、織物、不織布などから選ばれる布を指す。本開示における基布は編製体であることが好ましい。
【0020】
〔基布〕
本開示の合成皮革に用いられる基布には特に制限はなく、合成皮革に用いられる基布であれば特に制限なく使用することができる。
本開示の合成皮革は最表面層又は最表面層に隣接する層として後述の難燃層を有するため、用いる基布は、特に難燃処理されたり、難燃繊維を使用した基布を用いたりする必要はない。しかし、後述のように、合成皮革の難燃性をより高めるために難燃性の基布を使用することもできる。
【0021】
基布は、合成皮革に用いられる公知の基布を制限なく使用することができる。
基布に用いられる繊維としては、例えば、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、高強度ポリアミド繊維であるケブラー繊維、レーヨン繊維、綿繊維等が挙げられる。これらは合成皮革の使用目的に応じて適宜選択される。
基布を構成する繊維は1種であってもよく、2種以上を併用してもよい。
例えば、ポリエステル繊維等と、ポリウレタン繊維とを併用することで、基布の伸縮性が向上する。また、ポリエステル繊維等と、ケブラー繊維とを併用することで、基布の機械的強度が向上する。
【0022】
基布は、柔軟性の観点から編製体であることが好ましく、公知の編製体である、緯編み、経編み、ラッセル編み、両面編み、パイル編み等の基布が挙げられる。しかし、基布として用いる編製体の編み方はこれらに制限されない。
なかでも、基布は、経編み、両面編み等の組織を有することが好ましい。基布としての編製体を、経編み又は両面編の組織とすることで、基布が適度な伸びを有し、基布に起因する風合い、弾力性がより良好になる。
【0023】
なお、より高い難燃繊維を実現できる観点から、難燃性の基布を用いてもよい。
難燃性の基布としては、限界酸素指数(LOI値)が25以上で難燃繊維を用いて作製した基布、及び、公知の基布に難燃剤を浸漬させた基布を挙げることができる。
【0024】
LOI値とは、物が燃え続けるのに必要な酸素濃度を示し、JIS K7201(2006年)に記載の方法で測定される。通常、空気中の酸素濃度が21.2%程度であるため、LOI値が25以上であれば、難燃性が良好であるといえる。
【0025】
(難燃繊維)
基布に使用することができる難燃繊維としては、LOI値が25以上の繊維が挙げられる。なお、難燃繊維とは不燃繊維ではなく、例えば、繊維又は繊維の編製体に炎が接触したとき、焦げたり、炎の接触部分が燃焼したりした場合でも、燃え広がらず、炎が離れた場合には速やかに燃焼が止む繊維を指す。
難燃繊維としては、柔軟な基布を形成し得るという観点からは、難燃性の合成繊維が好ましく、具体的には、メタ系アラミド繊維を含むアラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリクラール繊維、塩化ビニリデン繊維、アクリル-塩化ビニル共重合体繊維、アクリル-塩化ビニリデン共重合体繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、塩化ビニリデン繊維、及び塩化ビニル系繊維が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む基布が好ましい。
なかでも、難燃性、基布に編製したときの強度及び風合いに優れるという観点から、基布に用いられる難燃繊維は、アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリクラール繊維、塩化ビニリデン繊維、アクリル-塩化ビニル共重合体繊維、及びアクリル-塩化ビニリデン共重合体繊維から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
本開示における難燃繊維は、LOI値が25以上であることが好ましい。難燃繊維のLOI値は、より好ましくは26以上であり、さらに好ましくは28以上である。
【0026】
また、編製体の編製に難燃繊維を含む糸を使用する場合には、難撚繊維を含む糸の太さは、16番手~40番手程度の太さであることが、車両用内装材などに使用される合成皮革用の基布に用いる場合には好ましい。
なお、本開示における「番手」とは「綿番手(cotton yarn count)」を意味する。
綿番手における1番手とは、長さ840ヤード(1yard:768.096m)の糸の重さが1ポンド(1lb:0.45259237kg)であることを表す。従って、番手の数値が小さいほど、太い繊維であることを示す。
【0027】
また、難燃繊維を含む基布に換えて、非難燃性基布を難燃剤に浸漬し、乾燥する難燃処理を施した基布を用いてもよい。ここで、難燃処理に使用する難燃剤として、ハイドロタルサイト様化合物以外の公知の難燃剤を用いてもよく、後述する本開示の難燃層の形成用組成物を難燃剤として用いてもよい。
なお、本開示において基布などの難燃処理に用いることができるハイドロタルサイト様化合物以外の公知の難燃剤については後述する。
【0028】
基布は、少なくとも片面に起毛を有していてもよい。起毛は常法により形成することができる。基布の起毛を有する面と、後述する接着層又は樹脂層とを接触させることで、基布と、接着層又は樹脂層との密着性、密着強度等がより良好となる。
合成皮革に用いられる基布は、基布のみである単層の基材であってもよく、目的に応じた物性を有するシートと基布とを積層した重層構造を有する基材であってもよい。
【0029】
以下、本開示の第1の実施形態の合成皮革が有する各層について説明する。
【0030】
〔表皮層〕
本開示の表皮層は、合成皮革に用いられる公知の表皮層であれば制限なく適用することができる。
なかでも、耐傷性、加工性に優れるという点からは、表皮層はポリウレタンを含むことが好ましい。
以下に詳述するように、表皮層は、離型剤層を有する仮支持体の離型剤層表面に、樹脂を含む表皮層形成用組成物を塗布し、乾燥して形成することができる。
【0031】
表皮層形成用組成物に使用できるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカプロラクタン系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられ、長期耐久性が必要な場合、ポリカーボネート系ポリウレタン、シリコン変性ポリカーボネート系ポリウレタン等が好適である。
表皮層形成用組成物に含まれるポリウレタンは、水系であっても、溶剤系であってもよい。また、表皮層形成用組成物に含まれるポリウレタンとして、無溶剤の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)を用いてもよい。
表皮層形成用組成物に使用されるポリウレタンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。例えば、好ましいポリウレタンであるポリカーボネート系ポリウレタンと、ポリカーボネート系ポリウレタン以外のポリウレタンとを併用してもよい。
【0032】
水系ポリウレタンとしては、ポリエーテル系ポリウレタン(単独重合体)又はポリカーボネート系ポリウレタン(単独重合体)、若しくはポリエーテル系ポリウレタンとポリカーボネート系ポリウレタンとの混合物又は共重合体を用い、既述のポリウレタン主剤の分子鎖の一部に、ポリウレタン主剤に対して、質量比で0.01%~10%、好ましくは0.05%~5%、より好ましくは0.1%~2%のカルボキシル基が導入された水系ポリウレタンが挙げられる。既述の質量比の範囲でカルボキシル基が導入された場合、カルボキシル基の存在に起因して、水系ポリウレタンは、充分な水分散性と乾燥成膜性とを有することができる。
【0033】
溶剤系ポリウレタンとしては、有機溶剤に溶解可能なポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物からなる群より選択される少なくとも1種の溶剤系ポリウレタンが挙げられる。溶剤系ポリウレタンは1液系であっても、2液系であってもよい。
【0034】
表皮層の膜強度がより良好となるという観点からは、表皮層は架橋構造を有することが好ましい。
水系ポリウレタンに架橋構造を導入する態様を例に挙げれば、例えば、ポリウレタン主剤にカルボキシル基が導入されたものを用いることにより、カルボキシル基と架橋剤とが反応して架橋構造を形成することができる。
架橋構造を形成するために表皮層形成用組成物に用い得る架橋剤としては、従来公知の架橋剤を挙げることができる。例えば、イソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。なかでも、カルボジイミド架橋剤を用いることが、ポリウレタンの加水分解を抑制する観点から好ましい。
【0035】
また、溶剤系ポリウレタンに架橋構造を導入する態様を例に挙げれば、例えば、溶剤系ポリウレタンを主剤として用い、架橋成分としてのポリジイソシアネートと併用する態様が挙げられる。ポリジイソシアネートを併用することで、ポリウレタンの加熱硬化時に架橋構造を形成することができる。
【0036】
表皮層の形成に使用するポリウレタンは、JIS K6772(1994年)で測定した硬さが、100%モジュラスで2MPa~40MPaの範囲にあるフィルムを形成し得るポリウレタンであることが好適であり、3MPa~10MPaの範囲にあるフィルムを形成し得ることがより好ましい。
なお、上記表皮層におけるポリウレタンの好ましい硬さは、表皮層において、架橋構造を形成した後の硬さを示す。
【0037】
表皮層形成用組成物に含まれるポリウレタンは市販品を用いてもよい。表皮層形成用組成物に用い得る市販品としては、例えば、DIC(株)のクリスボン(登録商標)NY-324(商品名)などが挙げられる。
【0038】
表皮層は、主剤となるポリウレタン等の樹脂及び樹脂を溶解する溶剤に加え、さらに他の成分を含んでもよい。
表皮層に含まれ得る他の成分としては、例えば、既述の架橋剤の他、架橋促進剤、着色剤、光輝剤(例えば、パール剤、メタリック顔料等)、耐光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、感触向上剤、成膜助剤、発泡剤、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物以外の公知の難燃剤等が挙げられる。
【0039】
着色剤としては、例えば、ウレタン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、シリコン系樹脂粒子などから選ばれる有機樹脂微粒子に着色剤が含まれてなる着色有機樹脂粒子などが挙げられる。なかでも、分散媒となるポリウレタン系樹脂に対する親和性、均一分散性の観点から、着色剤として、ポリカーボネート系の着色樹脂粒子を含有することが好ましい。
このような有機樹脂微粒子の平均粒径は、一般的には、0.01μm~1.0μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.05μm~0.8μmの範囲である。
例えば、表皮層が着色剤を含有することで意匠性が向上する。
【0040】
本開示の合成皮革は、難燃層を有するため、表皮層は必ずしも難燃剤を含む必要はないが、例えば、表皮層が、ハイドロタルサイト様化合物以外の公知の難燃剤を含むことで合成皮革の難燃性がより向上する。本開示の合成皮革に使用しうる公知の難燃剤については、後述する。
【0041】
表皮層の膜厚には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。一般的には、強度及び外観の観点から、表皮層の乾燥後の膜厚は、5μm~100μm程度が好ましく、10μm~50μm程度がより好ましい。
【0042】
〔接着層〕
本開示の合成皮革は、表皮層の一方の面に接着層を有する態様をとることができる。
接着層の形成には、例えば、ポリウレタン接着剤を使用することができる。接着層の形成に用い得るポリウレタン接着剤としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物を含む接着剤が挙げられ、長期耐久性がより向上するという観点からポリカーボネート系ポリウレタンを含む接着剤が好適である。
接着層の形成に用いられる接着剤に含まれるポリウレタンも、前記表皮層に用いられるポリウレタンと同様、水系であっても、溶剤系であってもよい。
接着層の形成に使用する接着剤に含まれるポリウレタンは、JIS K6772(1994年)で測定した硬さが、100%モジュラスで2MPa~20MPaの範囲であるフィルムを形成し得るポリウレタンであることが好ましく、2MPa~8MPaの範囲であるフィルムを形成し得るポリウレタンであることがより好ましい。
接着層に用いるポリウレタンは、得られる合成皮革の柔軟性をより向上する観点から、表皮層に用いるポリウレタンと同等の柔軟性を有する膜を形成しうるポリウレタンであるか、または、より柔軟な膜を形成し得るポリウレタンであることが好ましい。
【0043】
接着層の形成に用いられるポリウレタンは市販品を用いてもよい。接着層の形成に用い得る市販品としては、例えば、DIC(株)製のクリスボン(登録商標)TA-205などが挙げられる。
【0044】
後述するように、表皮層の一方の面に接着層を形成する場合、仮支持体上に、表皮層を形成した後、表皮層の表面に、接着層形成用組成物(例えば、ポリウレタン接着剤を含む組成物)を塗布し、加熱乾燥して、所望の厚みの接着層形成用組成物層を形成して表皮層の一方の面に接着層が形成された積層体を得る方法をとることができる。
その後、既述の基布と、得られた積層体とを、前記基布と前記積層体の接着層形成用組成物層とが接するようにして熱圧着させ、接着層形成用組成物層に含まれる接着剤を反応硬化させて、接着層の形成と、接着層と基布との密着とを同時に行い、その後、仮支持体を剥離することで、合成皮革を得ることができる。
【0045】
接着層形成用組成物には、硬化性向上を目的として、架橋剤、及び架橋促進剤を添加してもよい。
架橋剤及び架橋促進剤は、接着層に用いられるポリウレタンの種類に応じて選択される。接着層形成用組成物に用い得る架橋剤及び架橋促進剤は、既述の表皮層形成用組成物において説明したものと同様のものが挙げられる。
架橋剤は、架橋剤に適する架橋促進剤と併用してもよい。
接着層形成用組成物における架橋剤の含有量は、接着層に求められる強度、柔軟性などを考慮して適宜選択すればよい。
なお、接着剤にも難燃剤を含有することができる。
【0046】
接着層の乾燥後の厚みは、20μm~100μm程度であることが好ましく、より好ましくは30μm~80μmの範囲である。接着層の厚みが上記範囲において、充分な弾力性と強度を有する合成皮革が形成される。
【0047】
〔中間層〕
本開示の合成皮革は、表皮層の強度をさらに向上させたり、合成皮革の柔軟性、クッション性を向上させたりするなどの目的に応じて、既述の表皮層と接着層との間に中間層を有していてもよい。
【0048】
中間層の構成には特に制限はない。強度と柔軟性の観点からはポリウレタンを含有する中間層が好ましい。
中間層に用いられるポリウレタンも、前記表皮層に用いられるポリウレタンと同様、水系であっても、溶剤系であってもよい。
中間層の形成に使用するポリウレタンは、JIS K6772(1994年)で測定した硬さが、100%モジュラスで2MPa~20MPaの範囲であるフィルムを形成し得るポリウレタンであることが好ましく、3MPa~10MPaの範囲であるフィルムを形成し得るポリウレタンであることがより好ましい。
中間層はクッション性向上などの目的で、気泡を内包するポリウレタン中間層であってもよい。
【0049】
中間層の形成に用い得るポリウレタンは市販品を用いてもよい。中間層の形成に用い得るポリウレタンの市販品としては、例えば、DIC(株)製のクリスボン(登録商標)S121などが挙げられる。
【0050】
中間層の厚みは、目的に応じて適宜調整することができる。一般的には、乾燥後の中間層の厚みは、30μm~350μmが好ましく、50μm~250μmがより好ましい。
【0051】
また、中間層には、さらに、成膜助剤、顔料、難燃剤、充填材、老化防止剤、紫外線吸収剤、芳香剤等の成分を添加することができる。
なかでも、中間層には難燃剤を含むことが好ましい。接着層と中間層との双方が難燃剤を含むことで、合成皮革の難燃性がより向上する。
【0052】
〔難燃層〕
本開示の合成皮革における難燃層は、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、平均粒径が10nm以上2500nm以下の粒子と、バインダーとを含む組成物の硬化物である。
なお、以下、本開示においては、難燃層を形成する組成物を難燃層形成用組成物と称することがある。また、ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を、特定無機層状化合物と総称することがある。
【0053】
難燃層に含まれるハイドロタルサイトは、無機層状化合物であって、天然にも産出される粘土鉱物として知られている。
ハイドロタルサイトは、層状の結晶構造を有しており、各層は2価のMgイオンの一部を3価のAlイオンで置換した構造を持つ一方、層間に陰イオンを取り込むことにより、全体として静電気的な中性を保っている。
ハイドロタルサイトは複層構造を有するため、難燃層に多く添加した場合、層の透明性を損なうことがある。このため、複層構造を持つハイドロタルサイトの各層を鱗片状に剥離させ、かつ当該層を微細化した状態で難燃層に含有させることが、形成される難燃層の透明性の観点から好ましい。ハイドロタルサイトの微細化に際しては、乳酸を共存させて微細化することが好ましい。
乳酸を含有させてハイドロタルサイトを微細化する方法については、特開2013-209488号公報に詳細に記載され、その方法を本開示の合成皮革にも適用することができる。
【0054】
本開示におけるハイドロタルサイト様化合物は、ハイドロタルサイトと同様に、層状の結晶構造を有し、個々の結晶片は葉片状又は鱗状の構造の無機層状化合物であることから、難燃層に用いることでハイドロタルサイトと同様の効果を奏すると考えられる。
ハイドロタルサイト様化合物は、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
即ち、下記一般式(I)で表される化合物に代表されるハイドロタルサイト様化合物は、特定無機層状化合物に含まれる。
【0055】
【化2】

【0056】
前記一般式(I)中、(A2+は、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+又はZn2+を表し、(A3+は、Al3+、Ti3+~4+、Cr3+、Fe3+、Co3+又は(Mo5+~6+)を表す。
(Bn-は、硫酸誘導体イオン、スルホン酸誘導体イオン、又はリン酸誘導体イオンを表す。
xは、0.20~0.33の数を表し、nは、陰イオンの価数を表し、mは、任意の数を表す。
nは、(Bn-で表される陰イオンの価数を表し、価数に応じて決定される特に限定されない整数である。
mは、特に限定されない任意の数を表し、整数ではない数も含む。一般的には、mは0を超え、5以下程度である。
【0057】
一般式(I)における(A2+及び(A3+はホスト元素であり、(B x/nはゲストイオンである層間イオンである。
【0058】
層間イオンとしては、硫酸誘導体イオン、スルホン酸誘導体イオン等の硫黄化合物、又は、リン酸誘導体イオン等のリン化合物を採用している。これらから選ばれる1又は2以上の化学種が採用される。
【0059】
硫酸誘導体イオンとしては、スルファミン酸イオン(SONH )、ペルオキソ二硫酸イオン(S 2-)、硫酸イオン、過硫酸イオン、二硫酸イオン、亜硫酸イオン、二亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、亜ジチオン酸イオン、硫酸水素イオン、フルオロスルホン酸イオン等を挙げることができる。また、スルホン酸誘導体イオンとしては、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン等の脂肪族スルホン酸;パラトルエンスルホン酸イオン、パラフェノールスルホン酸イオン、スルホフタル酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン等の芳香族スルホン酸イオンを挙げることができる。なかでも、スルファミン酸イオン(SONH )、ペルオキソ二硫酸イオン(S )、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(SOCF )が好ましい。
【0060】
リン酸誘導体イオンとしては、リン酸イオン、二リン酸イオン、酸性リン酸エステルイオン、リン酸アミドイオン、ポリリン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、過リン酸イオン、三リン酸イオン、ホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオン、ペルオキソ一リン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、チオリン酸イオン、チオリン酸エステルイオン等を挙げることができる。
【0061】
ホスト元素は、(A2+としては、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+等を挙げることができる。また、(A3+はとしては、Al3+、Ti3+~4+、Cr3+、Fe3+、Co3+、(Mo5+~6+)等を挙げることができる。
なかでも、(A2+がMg2+であり、かつ、(A3+はAl3+である組み合わせ、(A2+がZn2+であり、かつ、(A3+はAl3+である組み合わせが好ましい。
【0062】
ホスト元素を含む水酸化物は層状に複数枚重なってハイドロタルサイト様化合物の層状構造が形成され、そのシート間(層間)には、既述のゲストイオンと水分子が入る。層間の厚さは、ほぼ層間のゲストイオンの大きさに一致する。なお、ハイドロタルサイト様化合物は、シートの積み重なり方によって、菱面体晶系と六方晶系のポリタイプがある。菱面体晶系では単位胞中のシートが3枚、六方晶系では2枚となっている。
なお、ハイドロタルサイト様化合物については、特許第6012905号公報に詳細に記載され、ここに記載されたハイドロタルサイト様化合物は、本開示に適用することができる。
一般式(I)で表される化合物などのハイドロタルサイト様化合物も、また、既述のハイドロタルサイトと同様に微粒子化されて難燃層に含まれることが、難燃層の透明性がより良好であり、難燃層が合成皮革の外観に影響を与えることが抑制されるという観点から好ましい。ハイドロタルサイト様化合物の微粒子化は、既述のハイドロタルサイトの微粒子化と同様の方法で行うことができる。
【0063】
微粒子化された特定無機層状化合物は分散組成物として難燃層の形成に用いられ、特定無機層状化合物を含有する分散組成物を難燃層形成用組成物として用いることで、合成皮革に緻密であり、透明性に優れた難燃層が形成される。
緻密な難燃性被膜を形成するためには、特定無機層状化合物の平均粒径は、2500nm以下程度であることが好ましく、1000nm以下がより好ましく、800nm以下がさらに好ましい。一方、特定無機層状化合物の平均粒径は、10nm以上であることが好ましく、50nm以上がより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。
特定無機層状化合物の平均粒子径が上記範囲において、難燃性が良好であり、透明性に優れた難燃層を形成することができる。
特定無機層状化合物の粒子は、直接合成してもよいし、合成した後に微粒子化してもよい。なお、本開示における特定無機層状化合物の粒子の平均粒径の測定は、特定無機層状化合物の粒子を含む分散組成物を試料とし、動的光散乱法測定装置(マルバーン(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定した数値を採用している。
【0064】
なお、特定無機層状化合物の粒子の形状は、既述のように葉片状又は鱗状であり、特定の規則的な形状ではなく不定形である場合がある。そのため、上記した平均粒径の測定にあたっては、測定対象とする葉片状又は鱗状の粒子について、厚さは除き、長径と短径の平均で表すものとする。
特定無機層状化合物は、炎が接触し、加熱された後も、緻密な層状構造が維持される。加熱後も残存する層状構造により酸素が遮断されるため、良好な難燃性を発現すると考えられる。また、無機化合物が主体である特定無機層状化合物は、それ自体は炭化しても燃焼はせず、有毒なガスなども発生しないことから、安全性の高い難燃層となると考えられる。
【0065】
難燃層形成用組成物に含まれる特定無機層状化合物の含有量は、前記難燃層形成用組成物の全固形分に対し、20質量%~80質量%の範囲が好ましく、35質量%~65質量%の範囲がより好ましい。
【0066】
(バインダー)
本開示における難燃層はバインダーを含む組成物の硬化物である。
難燃層形成用組成物がバインダーを含有することで、難燃層と、隣接する表皮層又は後述の樹脂層との密着性が良好となり、膜強度が向上し、難燃性と耐傷性とが、より良好となる。
バインダーには特に制限はなく、難燃層と隣接する層との密着性が良好であれば、種々の有機化合物や無機化合物を用いることができる。
なかでも、密着性、及び安定な層形成性の観点から、バインダーは有機化合物を含むことが好ましい。バインダーに好適に用いうる有機化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリアルキレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、尿素樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、アクリル酸系ポリマー、メラミン樹脂、でんぷん、糖類、ポリエチレンイミン、ポリアミジン、オキサゾリン基含有水溶性ポリマー、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、アミド系樹脂、イミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル、シリコン等を挙げることができる。
また、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)等の如き、熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0067】
なかでも、隣接する層が含む樹脂と同様の樹脂を難燃層におけるバインダーとして用いることが好ましい。隣接する層が含む樹脂と同様の樹脂とは、隣接する層において主剤として含まれる樹脂と、主骨格が同じ樹脂、主剤である樹脂に含まれる構造単位と同じ構造単位を含む樹脂、及び主剤である樹脂が変性樹脂である場合、同様に変性された樹脂などが挙げられる。
主剤である樹脂と同じ樹脂を用いる例を挙げれば、例えば、既述のポリウレタン樹脂を含む表皮層の一方の面に難燃層を形成する場合には、難燃層は、バインダーとしてポリウレタン樹脂を含有することが好ましく、後述のポリ塩化ビニルを含む樹脂層の一方の面に難燃層を形成する場合には、難燃層は、バインダーとしてポリ塩化ビニルを含むことが好ましい。
【0068】
難燃層形成用組成物に含まれるバインダーの含有量は、前記難燃層形成用組成物の全固形分に対し、20質量%~80質量%の範囲が好ましく、35質量%~65質量%の範囲がより好ましい。
【0069】
(難燃層形成用組成物の調製)
難燃層形成用組成物は、まず、特定無機層状化合物に、水を加え沈殿しないように高分散化させ、分散組成物を得て、その後、得られた分散組成物にバインダーを添加して調製することができる。分散組成物又は難燃層形成用組成物は、さらに分散剤等の任意の成分を含有してもよい。
なお、難燃層形成用組成物中での特定無機層状化合物の均一分散性をより良好とし、塗布性をより良好とするという観点からは、難燃層形成用組成物の粘度(25℃)は、100mPa~2000mPaの範囲であることが好ましく、300mP~600mPaの範囲であることがより好ましい。
難燃層形成用組成物の粘度を調整する方法としては、公知の希釈剤、増粘剤を適宜使用する方法が挙げられる。
粘度の調整に用い得る希釈剤としては、ブチルセロソルブ、イソプロピルアルコール(IPA)、その他、水溶性の有機溶媒などが挙げられる。
増粘剤としては、水溶性セルロース、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、セルロース系ナノファイバー、キチン、キトサン系ナノファイバーなどが挙げられる。
難燃層形成用組成物の粘度の測定は、DV-I Prime(ブルックフィールド社製)を用いて行なうことができる。
【0070】
(難燃層の形成)
難燃層形成用組成物を、合成皮革の表皮層上に塗布し、乾燥させることで、難燃層を形成することができる。
難燃層の乾燥後の厚さは、難燃効果及び合成皮革の感触の維持という観点から、1μm~20μmであり、2μm~10μmであることが好ましく、2μm~5μmであることがより好ましい。
厚みが上記範囲において、合成皮革に十分な難燃性を付与することができ、難燃層による合成皮革の外観、感触、及び柔軟性へ影響を抑制しうる。
合成皮革における難燃層の厚さは、合成皮革を厚さ方向に切断し、得られた断面を電子顕微鏡で観察して測定することができる。
【0071】
難燃層は、燃焼試験時には、炎と接する側に位置する。難燃層の厚みが1μm以上である場合、表皮層から発生した燃焼ガスにより、難燃層に裂け目が生じることを抑制することができる。
【0072】
難燃層形成用組成物の硬化物である難燃層は、例えば、加熱されると、脱水炭化してホスト化合物による[(A2+ 1-x(A3+ (2+x)/2]が残ると考えられ、加熱後も、緻密な層状構造が維持される。加熱後も残存する脱水炭化した層状構造は、酸素を遮断し得ることから、燃焼或いは延焼を効果的に防止しうると考えられる。
【0073】
以下、図1に示す如き層構成を有する合成皮革を例に挙げて製造方法について説明する。
〔表皮層の形成〕
表皮層は、離型剤層を有する仮支持体の離型剤層表面に、樹脂、好ましくは、ポリウレタンを含む表皮層形成用組成物を、例えば、密閉式もしくは開放式コーティングヘッドにて塗布し、加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより得られる。
仮支持体は、表面に離型剤層を有し、表皮層を形成する側の表面には所望のシボ型(凹凸模様)が形成された仮支持体を用いることができる。
例えば、図1に示す如き合成皮革10を天然皮革様の外観を有する表皮層を備えるものとする場合には、予め仮支持体の離型剤層を形成する側の表面に皮革様の凹凸模様、所謂シボ型を形成すればよい。仮支持体の表面にシボ型を形成する際に、仮支持体の離型剤層が形成された側の表面に表皮層形成用組成物を塗布することで、形成される表皮層16には皮革様の凹凸模様が転写される。
なお、表皮層へのシボ型の形成方法は、上記に限定されず、例えば、表皮層を含む複数の層を熱圧着する際にエンボス加工によりシボ型を形成することもできる。
表皮層形成用組成物に使用できるポリウレタンは既述の通りである。
【0074】
表皮層16の塗布量、及び膜厚には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、強度及び外観の観点から、乾燥後の膜厚は、5μm~100μm程度が好ましく、10μm~50μm程度がより好ましい。
【0075】
〔接着層の形成〕
仮支持体上に形成された表皮層16の表面、即ち、前記仮支持体側とは反対側の面に接着層14を設ける。
【0076】
仮支持体上に、表皮層16を形成した後、表皮層16の表面にポリウレタンと接着層形成用組成物を、密閉式もしくは開放式コーティングヘッドにて塗工し、加熱乾燥して所望の厚みの接着層形成用組成物層を形成する。
その後、仮支持体上に、表皮層16と、形成された接着層形成用組成物層とを有する積層体の、接着層形成用組成物層側と、既述の基布12と、が接するようにして熱圧着させ、接着層形成用組成物層に含まれる接着剤を反応硬化させて、接着層14の形成と、接着層14と基布12との密着とを同時に行い、その後、仮支持体を剥離する。このようにして、基布12上に、接着層14と、表皮層16と、をこの順に有する積層体を得る。
【0077】
〔難燃層の形成〕
その後、表皮層16の面上に、特定無機層状化合物とバインダーとを含む難燃層形成用組成物を塗布し、乾燥して難燃層18を形成する。
【0078】
既述の如く、仮支持体上に表皮層16、及び接着層14が形成され、かつ、接着層14と基布12とが接着層14の硬化により密着、固定化されたのち、離型層を有する仮支持体を剥離することで、弾力性、強度、及び外観を損なうことなく、良好な難燃性が付与された、図1に示す如き層構成の合成皮革10を得ることができる。
難燃層形成用組成物には、さらに、溶剤、成膜助剤、顔料、特定無機層状化合物以外の難燃剤、充填材、老化防止剤、紫外線吸収剤、芳香剤等の成分を添加することができる。
【0079】
〔その他の層〕
本開示の合成皮革は、接着層と表皮層に加え、他の層を有していてもよい。
例えば、接着層と表皮層との間に、中間層を有していてもよい。
合成皮革の使用態様に応じて、所望により接着層と表皮層との間に中間層を設けることで、合成皮革の弾力性、柔軟性、及び形状追随性等がより良好となる。
【0080】
〔中間層の形成〕
中間層の構成には特に制限はない。強度と柔軟性の観点からはポリウレタンを含有する中間層が好ましい。
【0081】
中間層は、既述の如くして仮支持体上に表皮層16を形成した後、表皮層16の仮支持体とは反対側の面上に、好ましくはポリウレタンを含む中間層形成用組成物を塗布し、塗布後、加熱乾燥を行うことで形成することができる。この塗布及び加熱乾燥を2回以上繰り返すことで、任意の厚さの中間層を形成することもできる。
【0082】
中間層はクッション性向上などの目的で、気泡を内包するポリウレタン中間層であってもよい。気泡を内包するポリウレタン中間層の形成方法の一例を挙げて説明する。
例えば、ポリウレタンを含有する中間層形成用組成物に、溶剤、増粘剤を適宜用いて粘度を調整し、撹拌して機械発泡させることで、気泡を内包したクリーム状の中間層形成用組成物を調製することができる。得られたクリーム状の中間層形成用組成物を、既述の表皮層上に塗布し、乾燥硬化することで気泡を内包するポリウレタン中間層を形成することができる。
機械発泡を行う中間層形成用組成物には、起泡剤、整泡剤、架橋剤、増粘剤等を含有させてもよい。
【0083】
通常のバッチ式撹拌機、例えばホバートミキサー、ホイッパーなどを用いて、空気を巻き込みながら中間層形成用組成物を機械的に撹拌することができ、クリーム状に機械発泡した気泡を内包する中間層形成用組成物を得ることができる。量産化においては、気泡を内包する中間層形成用組成物を製造する際に、オークスミキサー、ピンミキサーなどにて定量の空気量を送り込みながら連続的に撹拌する方法をとることができる。
機械発泡させてクリーム状の中間層形成用組成物を表皮層上に塗布する方法としては、ナイフコーター、コンマコーター、ロールコーター、リップコーターなどの公知の塗工装置が使用できる。
【0084】
また、中間層形成用組成物に、熱膨張マイクロカプセル、4,4”-オキシビズ(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム等の化学発泡剤を含有させ、既述の表皮層上に塗布し、その後、加熱乾燥して化学発泡剤を発泡させ、気泡を内包する中間層を形成することができる。
【0085】
形成された中間層の、表皮層とは反対側の面に、既述の接着層形成用組成物を塗布して接着層形成用組成物層を形成し、形成された接着層形成用組成物層を有する面と基布とを密着させて接着層を硬化させ、その後、仮支持体を剥離して積層体を形成し、その表面に難燃層を形成することで、本開示の別の層構成を有する合成皮革を得ることができる。
【0086】
化学発泡剤を用いる場合には、中間層形成用組成物に、化学発泡剤に加え、起泡剤、整泡剤、架橋剤、増粘剤等を含有させてもよい。
【0087】
また、中間層形成用組成物には、さらに、成膜助剤、顔料、難燃剤、充填材、老化防止剤、紫外線吸収剤、芳香剤等の成分を添加することができる。
【0088】
(表面処理層)
本開示の合成皮革は、既述の難燃層の表面に、さらに表面処理層を設けてもよい。
表面処理層は、例えば、光沢を与える樹脂層、水系エマルジョン樹脂を含む表面処理剤組成物や有機溶剤系表面処理剤組成物を、既述の難燃層の表面に塗布することで形成される表面処理層等が挙げられる。
表面処理層の形成に使用される樹脂としては、いずれの樹脂を用いてもよい。表面処理層の形成に使用される樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル、エラストマー等が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
難燃層の表面に表面処理剤層を形成することで、外観がより良化する。
表面処理層には、架橋剤、有機フィラー、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。例えば、表面処理層に有機フィラー、滑剤等を含有することで、合成皮革に滑らかな感触が付与され、合成皮革の耐摩耗性がより向上する。
【0089】
本開示の合成皮革は、難燃層が、特定無機層状化合物を含むため、たとえ表面処理層が燃焼しても、表皮層と表面処理層との間には、特定無機層状化合物を含む難燃層が存在し、燃焼は難燃層にて遮断され、表皮層に至ることはない。
さらに、好ましい特定無機層状化合物である一般式(I)で表される化合物は、ゲストイオンである層間イオンが結晶水を含む。このため、難燃層は、燃焼試験開始時の加熱により、まず、化合物に含まれる結晶水が分解され、炭化層を形成する前に、吸熱反応を生じていると考えられる。従って、可燃性の樹脂を含む表面処理層を難燃層の表面に有していても、難燃層の吸熱反応により、表面処理層の燃焼温度の上昇が抑制されて着火、即ち燃焼の開始にまでは至らない。さらに、加熱が進むと、ゲストイオンによる脱水炭化作用により炭化層が形成され、その結果、上記いずれの場合においても、本開示の合成皮革の難燃性が損なわれないと考えられる。
【0090】
〔第2の実施形態に係る合成皮革の層構成〕
図2は、本開示の合成皮革の別の態様である合成皮革20を示す概略断面図である。
図2に示す実施形態の合成皮革(第2の実施形態と称することがある)20は、基布12と、基布12上に、樹脂層22と難燃層18とをこの順に備える。
図2に示す合成皮革20では、基布12上に、湿式法又は乾式法により形成された樹脂層22を有し、樹脂層22の基布12側とは反対側の面に既述の難燃層18を備える。
樹脂層22は、合成皮革20に必要な強度と柔軟性とを付与できれば特に制限はない。樹脂層22の形成には、前記表皮層の形成に用いうる樹脂を同様に使用することができる。
【0091】
なかでも、柔軟性と耐久性の観点から、樹脂層22の形成には、塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。
樹脂層に用いられる塩化ビニル樹脂は、従来、塩化ビニルレザーに使用されているものであれば特に制限なく使用できる。
具体的には、平均重合度800~2000、好ましくは800~1500程度のポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルを主体とする、エチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸エステル等と塩化ビニルとの共重合樹脂、塩化ビニル樹脂とポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリロニトリル、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、部分ケン化ビニルアルコール等から選ばれる樹脂との混合樹脂等が挙げられる。
塩化ビニルを含む樹脂層は気泡を内包する発泡層であってもよい。樹脂層を発泡樹脂層とする場合には、樹脂層は、塩化ビニル樹脂に、可塑剤、発泡剤等を含有させた組成物を、カレンダー法、又は、キャスティング法により基布に適用して層を形成することで作製できる。
発泡は、樹脂層形成用の組成物を基布上に適用した後行ってもよく、また、予め発泡させた樹脂層(発泡樹脂シート)を形成し、これを基布に接着させてもよい。
塩化ビニル発泡樹脂層と基布との間には、両者の接着性を向上させるため、後述する塩化ビニル接着層を設けることができる。
塩化ビニル樹脂を用いて樹脂層を形成する場合、樹脂層の厚みは20μm~500μmであることが好ましく、100μm~300μmであることがより好ましい。この厚みの範囲で合成皮革として最適な柔軟性とボリューム感が達成される。
【0092】
〔難燃層〕
基布上に樹脂層を有する第2の実施形態に係る合成皮革における難燃層の構成、形成方法は、既述の第1の実施形態に係る合成皮革における難燃層と同じであり、好ましい態様も同様である。
第2の実施形態の合成皮革においても、柔軟性に優れた樹脂層の表面に難燃層を設けたことから、合成皮革本来の外観、感触、柔軟性を損なうことなく、良好な難燃性を有する合成皮革となる。
【0093】
(難燃剤)
本開示の合成皮革は、難燃層を備えることで良好な難燃性を有する。
しかし、合成皮革に、さらに高度の難燃性を付与したい場合には、既述の各層に特定無機層状化合物以外の難燃剤を含有させることができる。
例えば、第1の実施形態に係る合成皮革の表皮層、接着層、及び任意に設けられる中間層は、それぞれ難燃剤を含有することができる。
また、第2の実施形態に係る合成皮革の樹脂層は難燃剤を含有することができる。
それぞれの層に難燃剤を含有させることで、合成皮革の難燃性をさらに向上させることができ、高度の難燃性を要求される航空機や車輌用等の内装材などに好適に用いられる合成皮革となる。
なかでも、難燃層以外の層にさらに難燃剤を含有させる場合、外観の維持と難燃性向上効果との両立を達成する観点から、接着層または中間層に難燃剤を含有させることが好ましい。
【0094】
各層に使用し得る特定無機層状化合物以外の難燃剤には特に制限はなく、公知の難燃剤を適宜使用することができる。特定無機層状化合物以外の難燃剤としては、例えば、金属水酸化物、リン系難燃剤、及び、窒素-リン系難燃剤などが挙げられる。
難燃剤は市販品としても入手可能であり、例えば、アークロマジャパン(株)製のPEKOFLAM(登録商標) STCパウダー等が挙げられる。
通常、難燃剤の含有量は、各層の主剤となる樹脂100質量部に対して、5質量部~40質量部の範囲であることが好ましい。しかし、本開示の合成皮革は、難燃層を有することから、難燃剤を用いる場合でも、含有量を通常より少なくすることができる。本開示の合成皮革における表皮層、接着層、中間層または樹脂層に難燃剤を含有させる場合、含有量が、各層の主剤となる樹脂100質量部に対して、1質量部~20質量部の範囲であっても、有効な難燃性向上効果を得ることができる。
【0095】
合成皮革の厚みは、目的に応じて適宜選択することができる。
一般的には、第1の実施形態に係る合成皮革では、0.3mm~1.0mmとすることができる。しかし、合成皮革の厚みは上記に限定されない。
また、第2の実施形態に係る合成皮革では、0.8mm~1.5mmとすることができる。
しかし、合成皮革の厚みは上記に限定されない。
【0096】
本開示の合成皮革は、合成皮革の層構成に拘わらず、合成皮革の有する耐久性、柔軟性、外観などを損なうことなく、良好な難燃性を有する。このため、自動車用内装材、鉄道車両内装部品、航空機内装部品、家具、靴等の履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材、衣類裏地など種々の分野に好適に使用することができる。さらに、本開示の合成皮革は、シートや椅子などの複雑な立体形状を有する部材の表面を被覆するような場合においても、天然皮革を用いた場合と同様の感触と外観を達成することができるという効果をも奏する。
【実施例
【0097】
以下、実施例を挙げて本開示の合成皮革を具体的に説明するが、本開示は以下の実施例には制限されず、その主旨の範囲で種々の変型例を実施することができる。
【0098】
〔実施例1〕
絞(シボ)付き離型紙上に、表皮層形成用樹脂として100%モジュラスが60kg/cmのシリコン変性ポリカーボネート系ポリウレタン(DIC(株)製:クリスボン(登録商標)NY-324を乾燥厚みが30μmとなる様にナイフコーターにて塗布し、100℃で2分間熱風乾燥し、離型紙上に、シリコン変性ポリウレタン表皮層を形成した。
次いで、得られた表皮層の面上に、100%モジュラスが20kg/cmのポリカーボネート系ポリウレタンよりなるウレタン系2液接着剤(DIC(株)製:クリスボン(登録商標)TA-205)を、乾燥厚みが30μmとなるようナイフコーターにて塗布し、100℃で2分間熱風乾燥させてポリウレタン接着層を形成し、基布として、非難燃のポリエステルトリコットを貼り合わせ、離型紙上に、表皮層、接着層及び基布を有する積層体を得た。
得られた積層体の離型紙を剥離し、露出した表皮層の面上に、下記処方の難燃層形成用組成物Aを、リバースコーターにて30g/m塗布し、120℃の加熱炉にて2分間乾燥し、難燃層を形成した。形成された難燃層の厚みは5μmであった。こうして、基布上に、接着層、表皮層及び難燃層をこの順に有する実施例1の合成皮革を作製した。
【0099】
(難燃層形成用組成物Aの調製)
特定無機層状化合物として、一般式;MgAl(OH)(CO 2-0.5・2HOで示される市販の炭酸型LDH(層状複水酸化物:Layerd Double Hydroxide)であるハイドロタルサイト(商品名:DHT-6、協和化学工業(株)製、平均粒径:約1μm)を700℃、2時間の条件で焼成して、特定無機層状化合物の焼成物を得た。
得られた特定無機層状化合物の焼成物34.4質量部を、スルファミン酸アンモニウム(NHSONH)25.1質量部と脱炭酸イオン交換水1500質量部との混合液中に投入し、60℃で2時間撹拌し、ゲスト化合物である硫黄化合物を含有する特定無機層状化合物を生成した。
溶液中で生成した硫黄化合物含有特定無機層状化合物の沈殿物を、遠心分離した後に水洗した。
得られた特定無機層状化合物の沈殿物に、水を加え、沈殿しないように高分散化させ、硫黄化合物含有特定無機層状化合物を含む分散組成物(1)を得た。
分散組成物(1)に含まれる硫黄化合物含有特定無機層状化合物の平均粒径を、動的光散乱法測定装置(マルバーン(株)製)によって測定したところ、210nmであった。
【0100】
さらに、得られた分散組成物(1)50質量部に、バインダーとしてAQナイロンA-90(東レ(株)製)39質量部、デナコールEX-521(ナガセケムテックス(株)製)10質量部、アミン化合物:1, 4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)1質量部を加え、特定無機層状化合物が沈殿しない条件で、撹拌、分散させ、グラビアプリントに適する粘度である500mPa~2000mPaの範囲となるよう粘度を調整し、難燃層形成用組成物Aを得た。
なお、粘度の調整には、ブチルセロソルブ、イソプロピルアルコール(IPA)などの希釈剤、水溶性セルロース、アクリル樹脂などの増粘剤を用いた。
【0101】
[実施例2]
非難燃性の基布であるポリエステルトリコット上に、100%モジュラスが35kg/cmのポリカーボネート系ポリウレタン(DIC(株)製:クリスボンMP-120)(固形分12%ジメチルホルムアミド配合液)を、質量が1000g/mになる量で塗布し、水中で凝固し、脱溶媒させ、脱水後、120℃の熱風下で乾燥して表面平滑性に優れる微多孔性組織からなる湿式ミクロポーラス層を形成した基材を得た。
実施例1で用いた非難燃性のポリエステルトリコット基布に代えて、上記で得た湿式ミクロポーラス層を有する基材を用いた以外は、実施例1と同様の湿式ミクロポーラス層を形成した基布上に、接着層、表皮層及び難燃層をこの順に有する実施例2の合成皮革を得た。なお、表皮層と接着層との積層体における接着層は、基材のミクロポーラス層の面上に貼り合せた。形成された難燃層の厚みは、実施例1と同じく5μmであった。
【0102】
[実施例3]
実施例1において難燃層(厚み:5μm)を形成した後、さらに、難燃層の面上に、ツヤ調整剤として、ウレタン樹脂(大日精化工業(株)製,商品名:レザロイド(登録商標)LU-4164)と、プライマー(商品名:レザロイド(登録商標)LU-4003)とを質量比で8:2の割合で混合した塗料を、グラビアロールにて15g/m塗布し、120℃の加熱炉で、2分間乾燥して表面処理層を形成した。このようにして、基布上に、接着層、表皮層、難燃層及び表面処理層をこの順で有する実施例3の合成皮革を得た。
【0103】
[実施例4]
(樹脂層形成用組成物の調製)
重合度1,300のストレートPVC(ポリ塩化ビニル、(株)カネカ製)20質量部、および重合度1,050のストレートPVC(ポリ塩化ビニル、(株)カネカ製)80質量部を、混合して混合物を調製した。
以下の試薬を、上記で得た100質量部のPVC混合物に添加した。
試薬:a)DINP((株)ジェイ・プラス製)90質量部の可塑剤、
b)潤滑剤として5.0質量部のブチルステアレート(川研ファインケミカル(株)製)2.0質量部の亜鉛タイプ安定剤、充填剤として20質量部の炭酸カルシウムで混合して調製した。
得られた試薬とPVC混合物とを混合し、5分間~10分間スーパーミキサーで可塑化した。
その後、ミキシングロールにて、得られた混合物を5分間~10分間混練し、樹脂層形成用組成物を得て、カレンダーロールに送った。
【0104】
(合成皮革の形成)
カレンダーロールを用い、樹脂層形成用組成物を厚み0.3mmにシート状に圧延した。圧延により得られるシート状の樹脂層形成用組成物層の厚みが安定したら、シート状の樹脂層形成用組成物層が柔らかいうちに裏打ち用の基布をラミネートし、基布上に、樹脂層を有する積層体を得た。基布は、実施例1で用いたものと同様の非難燃性の基布であるポリエステルトリコットを用いた。
その後、前記難燃層形成用組成物Aをリバースコーターにて樹脂層の面上に30g/m 塗布し、120℃の加熱炉にて2分間乾燥し、基布上に、樹脂層と、難燃層とを有する実施例4の合成皮革(塩ビレザー)を得た。形成された難燃層の厚みは、5μmであった。
【0105】
[比較例1]
絞付き離型紙上に、100%モジュラスが60kg/cmのシリコン変性ポリカーボネート系ポリウレタン(DIC(株)製:クリスボンNY-324)を乾燥厚みが30μmとなる量でナイフコーターにて塗布し、100℃で2分間熱風乾燥し、シリコン変性ポリウレタン表皮層を形成した。
次いで、表皮層上に、前記難燃層形成用組成物Aをリバースコーターにて30g/m塗布し、120℃の加熱炉にて2分間乾燥させて、表皮層の面上に難燃層を形成した。
次いで、形成された難燃層上に100%モジュラスが20kg/cmのポリカーボネート系ポリウレタンよりなるウレタン系2液接着剤(DIC(株)製:クリスボンTA-205)を乾燥厚みが30μmとなるようナイフコーターにて塗布し、100℃で2分間熱風乾燥させてポリウレタン接着層を形成し、基布としての非難燃のポリエステルトリコットを貼り合わせ、基布上に、接着層、難燃層及び表皮層をこの順に有する比較例1の合成皮革を得た。
【0106】
[比較例2]
実施例1で用いた非難燃性の基布であるポリエステルトリコットを、前記難燃層形成用組成物Aを満たした浴中に浸漬し、マングルにて絞った後、140℃で2分間架橋乾燥を行う難燃加工を施して、難燃性の基布を得た。
基布として、上記難燃加工を施した基布を用い、難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、難燃加工を施した基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例2の合成皮革を得た。
【0107】
[比較例3]
実施例1で作成した合成皮革の基布の、接着層と接する側とは反対側の面に、前記難燃層形成用組成物Aをグラビアコーターにて50g/m塗布し、120℃の加熱炉にて2分間乾燥し、裏面に難燃層を有する基布を得た。基布として、上記裏面に難燃加工を施した基布を用い、難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、難燃層を裏面に有する基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例3の合成皮革を得た。
【0108】
[比較例4]
実施例1のポリウレタン接着剤の中にリン酸エステル系難燃剤(大八化学工業(株)製:PX-200)を30質量部添加し、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、基布上に、難燃剤を含む接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例4の合成皮革を得た。
【0109】
[比較例5]
実施例1の基布をリン酸エステル系難燃剤(日華化学株式会社製:ニッカファインP-3)を適量添加した水浴中に浸漬し、マングルにて絞った後140℃で2分間架橋乾燥を行う難燃加工を施した。
上記の難燃加工を施した基布を用い、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、難燃加工を施した基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例5の合成皮革を得た。
【0110】
[比較例6]
実施例1で用いた表皮層形成用樹脂に代えて、U365(商品名:日本合成化工(株)製、難燃性ポリウレタン樹脂)を用いて表皮層を形成し、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、基布上に、接着層、及び難燃性樹脂を用いた表皮層をこの順に有する層構成の比較例6の合成皮革を得た。
【0111】
[比較例7]
実施例1の基布に代えて、カネカロン(登録商標、(株)カネカ製、アクリル系難燃性繊維)で織った難燃性基布を用い、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、難燃性基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例7の合成皮革を得た。
【0112】
[比較例8]
実施例1において、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例8の合成皮革を得た。
【0113】
[比較例9]
実施例2において、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例2と同様にして、湿式ミクロポーラス層を形成した基布上に、接着層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例9の合成皮革を得た。
【0114】
[比較例10]
実施例4で用いた樹脂層形成用混合物に、難燃剤である濃度80%の三酸化アンチモンを含むゲルバッチを8.0質量部添加して樹脂層を形成し、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例4と同様にして、基布上に、難燃剤を含む樹脂層、及び表皮層をこの順に有する層構成の比較例10の合成皮革(塩ビレザー)を得た。
【0115】
[比較例11]
実施例4において、表皮層上に難燃層を形成しなかった以外は、実施例4と同様にして、基布上に、樹脂層、及び表皮層をこの順に有する比較例11の合成皮革(塩ビレザー)を得た。
【0116】
(得られた合成皮革の評価)
得られた合成皮革について、以下の方法で評価した。結果を下記表1に示す。
1.難燃性
得られた各合成皮革について、JIS-D1201(1998年)に準拠して難燃性を評価した。以下に示す基準にて、難燃性を評価した。
合成皮革に着火してから燃焼が拡がる速度を計測して燃焼性の指標とした。基準では、100mm/min以下であれば難燃性があると評価する。
なお、不燃は、炎を近づけても着火しないことを示し、0は炎が触れた箇所には着火するが燃え拡がらない状態を示す。本開示においては、評価結果が不燃又は0を好適であると評価した。
【0117】
2.剛軟度
JIS-L1096(2010年)A法に準じて、合成皮革の剛軟度を評価した。結果を下記表1に示す。
なお、剛軟度は、ウレタン樹脂を含む合成皮革では40mm~80mmの範囲を好適であると評価し、PVCを含む合成皮革では、50mm~120mmの範囲を好適であると評価した。
【0118】
3.風合い
得られた合成皮革について、モニター10名により風合いを官能評価した。
天然皮革に近い、しっとりした、柔軟な感触を有するものを「良好」とし、良好よりもやや低いが許容の範囲であるものを「やや良」とし、それ以外のものを「やや悪」と評価した。
評価結果は、10名のモニターの一番多かった評価結果を採用し、同数である場合には、よりよい評価結果を採用した。
【0119】
4.材料コスト比
各合成皮革の調製に用いた材料の、合成皮革1m当たりの現時点でのコストを算出し、以下の基準で評価した。ランクAを好適であると評価した。
A:60円/m以下
B:60円/mを超え、100円/m以下
C:100円/mを超える
【0120】
5.総合評価
総合評価は、上記の1.難燃性、2.剛軟度、3.風合い、及び4.材料コスト比の各評価結果を総合し、以下の基準にて評価した。
A:すべての評価結果が「好適」である
B:「好適」範囲をはずれた項目が2つ以下である
C:1.難燃性評価で、基準の燃焼速度を超えるか、または、各評価結果にて「好適」範囲をはずれた項目が3つ以上ある
【0121】
【表1】
【0122】
表1の結果より、本開示に係る難燃層を最表面に備えるか、又は表面処理層の下に備える実施例1~実施例4の合成皮革は、難燃性が良好であり、感触及び柔軟性も良好であった。さらに、材料コストも好適であり、いずれも総合評価がAランクであった。
他方、本開示に係る難燃層を、最表面ではなく、表皮層の下部又は基布の裏面に有する比較例1及び比較例3では、良好な難燃性は得られなかった。また、本開示に係る難燃層を有しない比較例は、いずれも、難燃性及び感触の少なくともいずれかが劣るものであった。
【0123】
2017年10月27日に出願された日本国特許出願2017-208527の開示は参照により本開示に取り込まれる。
本開示に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示中に参照により取り込まれる。
【0124】
(符号の説明)
10、20 合成皮革
12 基布
14 接着層
16 表皮層
18 難燃層
22 樹脂層
図1
図2