(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ティシュペーパー及びティシュペーパーの評価方法
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
A47K10/16 C
(21)【出願番号】P 2017216725
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保井 秀太
(72)【発明者】
【氏名】萬 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】堀切川 一男
(72)【発明者】
【氏名】山口 健
(72)【発明者】
【氏名】柴田 圭
(72)【発明者】
【氏名】山井 尚也
(72)【発明者】
【氏名】中根 理沙
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-055807(JP,A)
【文献】特開2017-055808(JP,A)
【文献】特開2005-124884(JP,A)
【文献】特開2006-045690(JP,A)
【文献】特開2013-236903(JP,A)
【文献】特開2017-192435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
G01N 33/34
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が付与されていない2プライの非保湿ティシュペーパーであって、
1枚当たりの坪量が10.0~18.0g/m
2であり、2プライの厚さが100~240μmであり、
紙の横方向の乾燥引張強度が70~180cN/25mmであり、
紙の横方向の湿潤引張強度が25~60.7cN/25mmであり、
次の式1において算出される自由官能評価値E
fが3.7~6.6であり、かつ、式2において算出される滑り官能評価値E
sが5.0~8.2であることを特徴とするティシュペーパー。
(式1)
自由官能評価値E
f=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
この式1における(紙の横方向の乾燥引張強度)及び(紙の横方向の湿潤引張強度)は単位をN/25mmとする。
(式2)
滑り官能評価値E
s=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【請求項2】
薬液が付与されている2プライの保湿ティシュペーパーであって、
1枚当たりの坪量が14.0~22.0g/m
2であり、厚さが120~250μmであり、
紙の横方向の乾燥引張強度が50~131.0cN/25mmであり、
紙の横方向の湿潤引張強度が30~90cN/25mmであり、
次の式1において算出される自由官能評価値E
fが6.0~8.4であり、かつ、式2において算出される滑り官能評価値E
sが5.3~8.0であることを特徴とするティシュペーパー。
(式1)
自由官能評価値E
f=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
この式1における(紙の横方向の乾燥引張強度)及び(紙の横方向の湿潤引張強度)は単位をN/25mmとする。
(式2)
滑り官能評価値E
s=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【請求項3】
ティシュペーパーに自由に触れてそのティシュペーパーを「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する自由官能評価ステップと、
水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせた際の滑り感を「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する滑り官能評価ステップと、
前記自由官能評価の結果を目的変数としティシュペーパー
の特性に影響する物性値である紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、自由官能評価分析ステップと、
前記滑り官能評価の結果を目的変数としティシュペーパー
の特性に影響する物性値である紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、滑り自由官能評価分析ステップと、
前記自由官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される自由官能評価値と、前記滑り官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される滑り官能評価値と、からティシュペーパーを評価する評価ステップと、
を有することを特徴とするティシュペーパーの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシュペーパー及びティシュペーパーの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパーの使用感を評価するにあたっては、「柔らかさ」、「滑らかさ」、「丈夫さ」、「嵩高さ」といった各評価項目を設定し、その項目毎に基準試料との比較で複数の被験者が使用感を判断し、項目毎に数値化して評価する手法の官能評価によるのが一般的である。
【0003】
一方で、ティシュペーパーの特性は、乾燥時や湿潤時の乾燥引張強度、破断伸び、坪量、紙厚、水分量さらにソフトネス(曲げ抵抗)、MMD、摩擦係数、表面粗さ等の紙質パラメータによって定まる。
【0004】
しかし、ティシュペーパーの紙質パラメータと官能評価値との関係は不明な点も多く、ティシュペーパーの使用感を定量的に評価することは難しかった。また、従来の官能評価は、被験者毎の各項目の基準の異なりについて詳細に検討されておらず、特に、「柔らかさ」と「滑らかさ」については、ある被験者が「柔らかさ」と感じている感覚を、他の被験者が「滑らかさ」として感じている場合を多く含みうるため、個別の項目として判断すると精度が低くなるおそれがある。
【0005】
このため、ティシュペーパーの設計・開発は、上記の「柔らかさ」、「滑らかさ」、「丈夫さ」、「嵩高さ」等の項目毎の官能評価に影響を与えると思われる物性値が変化するよう原料の調整や製法の調整を繰り返し行なわれている。しかし、ティシュペーパーは、非常に薄いクレープ紙であり、大規模な製造設備で試料を作製しなければならないことが多い。ゆえに、開発速度を速めることが難しく、コストがかかっている。
【0006】
このように、従来の官能評価に基づくティシュペーパーの評価方法は、精度、開発速度、コストといった点に改善すべき点があり、また、ティシュペーパーの設計、開発には、ティシュペーパーの使用感を評価する新たな方法が求められている。特に、消費者が、製品としてのティシュペーパーを評価する際に重要視するのは価格と柔らかさ及び肌ざわりの良さである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-55807号公報
【文献】特開平10-226986号公報
【文献】特開2003-24282号公報
【文献】特開2008-64722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の主たる課題は、柔らかさ及び滑らかさに優れるティシュペーパー及び、ティシュペーパーの柔らかさ及び滑らかさを評価するティシュペーパーの評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は次記のとおりである。
【0010】
〔第一の手段〕
薬液が付与されていない2プライの非保湿ティシュペーパーであって、
1枚当たりの坪量が10.0~18.0g/m2であり、2プライの厚さが100~240μmであり、
紙の横方向の乾燥引張強度が70~180cN/25mmであり、
紙の横方向の湿潤引張強度が25~60.7cN/25mmであり、
次の式1において算出される自由官能評価値Efが3.7~6.6であり、かつ、式2において算出される滑り官能評価値Esが5.0~8.2であることを特徴とするティシュペーパー。
(式1)
自由官能評価値Ef=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
この式1における(紙の横方向の乾燥引張強度)及び(紙の横方向の湿潤引張強度)は単位をN/25mmとする。
(式2)
滑り官能評価値Es=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【0011】
〔第二の手段〕
薬液が付与されている2プライの保湿ティシュペーパーであって、
1枚当たりの坪量が14.0~22.0g/m2であり、厚さが120~250μmであり、
紙の横方向の乾燥引張強度が50~131.0cN/25mmであり、
紙の横方向の湿潤引張強度が30~90cN/25mmであり、
次の式1において算出される自由官能評価値Efが6.0~8.4であり、かつ、式2において算出される滑り官能評価値Esが5.3~8.0であることを特徴とするティシュペーパー。
【0012】
(式1)
自由官能評価値Ef=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
この式1における(紙の横方向の乾燥引張強度)及び(紙の横方向の湿潤引張強度)は単位をN/25mmとする。
(式2)
滑り官能評価値Es=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【0013】
〔第三の手段〕
ティシュペーパーに自由に触れてそのティシュペーパーを「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する自由官能評価ステップと、
水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせた際の滑り感を「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する滑り官能評価ステップと、
前記自由官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、自由官能評価分析ステップと、
前記滑り官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、滑り自由官能評価分析ステップと、
前記自由官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される自由官能評価値と、前記滑り官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される滑り官能評価値と、からティシュペーパーを評価する評価ステップと、
を有することを特徴とするティシュペーパーの評価方法。
【発明の効果】
【0014】
以上の本発明によれば、柔らかさ及び滑らかさに優れるティシュペーパー及び、ティシュペーパーの柔らかさ及び滑らかさを評価するティシュペーパーの評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る動摩擦係数の測定方法を説明するための図である。
【
図2】自由官能評価の「好み」と「滑りやすさ」の結果を示す図である。
【
図3】自由官能評価の「好み」と「柔らかさ」の結果を示す図である。
【
図4】滑り官能評価の「好み」と「滑りやすさ」の結果を示す図である。
【
図5】滑り官能評価の「好み」と「柔らかさ」の結果を示す図である。
【
図6】本発明に係る相関式(式1)を説明するための図である。
【
図7】本発明に係る相関式(式2)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
〔ティシュペーパーの評価方法〕
本発明に係るティシュペーパーの評価方法から説明する。
【0018】
本発明に係るティシュペーパーの評価方法は、(1)ティシュペーパーに自由に触れてそのティシュペーパーを「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する自由官能評価ステップと、(2)水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせた際の滑り感を「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する方法により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する滑り官能評価ステップと、(3)前記自由官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、自由官能評価分析ステップと、(4)前記滑り官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う、滑り官能評価分析ステップと、(5)前記自由官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される自由官能評価値と、前記滑り官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される滑り官能評価値と、からティシュペーパーを評価する評価ステップの、主に5つのステップを含む。なお、上記(1)の自由官能評価ステップと(2)の滑り官能評価ステップとはいずれを先に行ってもよい。また、(1)の自由官能評価ステップと(3)の自由官能評価分析ステップとを一連に行ってもよい。同様に、(2)の滑り官能評価ステップと(4)の滑り官能評価ステップとを一連に行ってもよい。
【0019】
自由官能評価ステップは、従来のように「柔らかさ」、「滑らかさ」、「丈夫さ」、「嵩高さ」等の各項目に官能評価を行なったうえで、それぞれについて評価するのではなく、ティシュペーパーに自由に触れてそのティシュペーパーについて「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する自由官能評価を行う。なお、評価者は9人以上とするのが望ましい。また、一人の評価者について同一の試料(ただし表記は変更する)について5回評価し、異常値を省いて評価点の平均値をその評価者の評価値とするのが望ましい。自由官能評価における点数付けは、市場でもっとも汎用されている試料(表中では試料A)の点数を4点として、各試料1~7点で点数付けし各評価者の平均値を算出して点数化すればよい。
【0020】
背景技術の欄でも述べたとおり、従来の複数の項目で官能評価を行なう場合、特にティシュペーパーのようなものでは、ある被験者が感じる「柔らかさ」を、他の被験者が「滑らかさ」として、感じていることがあり、この被験者間における基準の感覚のズレがある中、「柔らかさ」と「滑らかさ」とを別の評価とすると評価結果の精度・信頼を低下させる要因の一つとなる。本発明に係る自由官能評価ステップで行なう自由官能評価は、まず一項目で評価するため、項目毎の被験者間の感覚のズレが内在する余地がない。本発明に係るこの自由官能評価は、従来の「柔らかさ」等の具体的な項目毎に行なうのではなく、そのティシュペーパーに自由に触れて「好む」又は「好まない」という判断基準で点数化するところが特徴的である。その一方で、この自由官能評価の結果は、主には被験者が「柔らかさ」として感じる感じ方にちかい。この自由官能評価が主に「柔らかさ」として感じる感じ方にちかいことは次のようにして確かめられている。
【0021】
下記表1に示す、市販の保湿ティシュペーパー5種、非保湿ティシュペーパー高級品3種及び非保湿ティシュペーパー汎用品7種について、ティシュペーパーに自由に触れてそのティシュペーパーについて「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化すると同時に「柔らかさ」及び「滑りやすさ」についても点数化し、「好む」又は「好まない」の判断に対する「滑りやすさ」および「柔らかさ」の関係についてみてみると、
図2及び
図3のような結果となり、自由官能評価の「好む」又は「好まない」の判断を説明するためには「滑りやすさ」よりも「柔らかさ」がより当てはまることがしめされる。なお、ティシュペーパーは、通常、保湿ティシュペーパーと非保湿ティシュペーパー高級品と非保湿ティシュペーパー汎用品という製品カテゴリーがある。
【0022】
他方、滑り官能評価ステップは、水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせた際の滑り感を「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化する滑り官能評価により、異なる物性値の複数のティシュペーパーを点数化する。なお、評価者は9人以上とするのが望ましい。また、一人の評価者について同一の試料(ただし表記は変更する)について5回評価し、異常値を省いて評価点の平均値をその評価者の評価値とするのが望ましい。自由官能評価における点数付けは、市場でもっとも汎用されている試料(表中では試料A)の点数を4点として、各試料1~7点で点数付けし各評価者の平均値を算出して点数化すればよい。
【0023】
この滑り官能評価は、水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせるという操作を行うため、基準となるティシュペーパーの曲げに関する感覚が排除され、被験者が「柔らかさ」と感じる感じ方が相当に排除され、ほぼ「滑りやすさ」を評価できる。また、本発明に係る滑り官能評価ステップは、特に、操作を滑りに限定するようにする一方で、評価基準については、「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化するため、単に滑りがよいか悪いかを判断せずに、ティシュペーパーの肌触りの視点からの評価となる。この滑り官能評価の結果が、主には被験者が「滑りやすさ」として感じる感じ方に近いことは、自由官能評価と同様に確かめられている。すなわち、下記表1に示すとおり、市販の保湿ティシュペーパー5種、非保湿ティシュペーパー高級品5種及び非保湿ティシュペーパー汎用品5種について、水平台上に固定されたティシュペーパーの上を指で滑らせた際の滑り感を「好む」又は「好まない」の判断基準で点数化すると同時に「柔らかさ」及び「滑りやすさ」についても点数化し、この滑り官能評価における「好む」又は「好まない」の判断に対する「滑りやすさ」および「柔らかさ」の関係についてみてみると、
図4及び
図5のような結果となり、滑り官能評価の「好む」又は「好まない」の判断を説明するためには「柔らかさ」よりも「滑りやすさ」がより当てはまることが示される。
【0024】
自由官能評価分析ステップは、前記自由官能評価ステップにおける自由官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う。具体的には、ティシュペーパーの特性は、概ね乾燥時や湿潤時の乾燥引張強度、破断伸び、坪量、紙厚、水分量さらにソフトネス(曲げ抵抗)、MMD、動摩擦係数、表面粗さの紙質パラメータによって特徴づけられるため、目的変数を上記自由官能評価の結果とし、説明変数を乾燥時や湿潤時の乾燥引張強度、破断伸び、坪量、紙厚、水分量さらにソフトネス(曲げ抵抗)、MMD、摩擦係数、表面粗さとして、重回帰分析を行なう。個々の目的変数と説明変数の間の相関係数の高いものを見つけ、2つの説明変数間で相関係数の高いものはそのうちの1つの説明変数を除き再度重回帰分析を実施する。これを繰り返すことにより、説明変数を絞り込み、評価式を決定する。
【0025】
【0026】
上記表1に示す各試料における自由官能評価ステップ及び自由官能評価分析ステップの結果からは、
図4にも示すように下記の相関式(式1)が得られる。
(式1)
自由官能評価値E
f=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
【0027】
滑り官能評価分析ステップは、前記滑り官能評価ステップにおける滑り官能評価の結果を目的変数としティシュペーパーの紙質パラメータを説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行う。紙質パラメータ及び評価式の決定方法は、上記自由官能評価分析ステップと同様である。
【0028】
上記表1に示す各試料における滑り官能評価ステップ及び滑り官能評価分析ステップの結果からは、
図5にも示すように下記の相関式(式2)が得られる。
(式2)
滑り官能評価値E
s=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【0029】
ここで、なお、ティシュペーパーの主たる紙質パラメータの、測定方法は次記のとおりである。
【0030】
〔坪量〕
JIS P 8124(1998)に基づいて測定する。複数プライの場合は、各プライ毎に測定する。
【0031】
〔紙厚〕
試験片をJIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定する。複数プライの場合は、複数プライのまま測定する。より具体的な手順は、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試料を試験台の上におき、プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき、プランジャーをのせるだけとする。プランジャーの端子は金属製で直径10mmの円形の平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし、この紙厚測定時の荷重は、約70gfである。測定を10回行って得られる平均値とする。
【0032】
〔水分量(水分率)〕
JIS P 8111(1998)の条件下で試料を調湿した後、JIS P 8127(1998)に基づいて測定する。
【0033】
〔乾燥引張強度〕
JIS P 8113(1998)の引張試験に基づいて測定する。
【0034】
試験片は縦・横方向ともに巾25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いる。ティシュペーパーは複数プライの場合は複数プライのまま測定する。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200Nを用いる。つかみ間隔が100mmに設定する。測定は、試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、紙片を上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で行う。引張速度は100mm/minとする。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の乾燥引張強度とする。(試料の調整は、JIS P 8111(1998))
【0035】
なお、式1における(紙の横方向の乾燥引張強度)は、単位をN/25mmとする。
【0036】
〔湿潤引張強度〕
JIS P 8135(1998)の引張試験に基づいて測定する。
【0037】
試験片は縦・横方向ともに幅25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いる。ティシュペーパーは複数プライの場合は複数プライのまま測定する。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200Nを用いる。つかみ間隔が100mmに設定する。測定は、105℃の乾燥機で10分間のキュアリングを行った試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、次に、水を含ませた平筆を用い、試験片の中央部に約10mm幅で水平に水を付与し、その後、直ちに紙片に対して上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で行う。引張速度は50mm/minとする。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の湿潤引張強度とする。
【0038】
なお、式1における(紙の横方向の湿潤引張強度)は、単位をN/25mmとする。
【0039】
〔引張破断伸(伸び率)〕
JIS P 8113(1998)の引張試験に基づいて測定する。ミネベア株式会社製「万能引張圧縮試験機 TG-200N」が用いられる。
【0040】
〔ソフトネス〕
JIS L 1096 E法に準じたハンドルオメータ法に基づいて測定する。但し、試験片は100mm×100mmの大きさとし、クリアランスは5mmとする。1プライで縦方向、横方向の各々5回ずつ測定し、その全10回の平均値を、cN/100mmを単位として表す。
【0041】
〔MMD〕
摩擦子の接触面を所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させ、このときの、摩擦係数を、摩擦感テスター KES-SE(カトーテック株式会社製)を用いて測定する。その摩擦係数を摩擦距離(移動距離=2cm)で除した値がMMDである。摩擦子は、直径0.5mmのピアノ線Pを20本隣接させてなり、長さ及び幅がともに10mmとなるように形成された接触面を有するものとする。接触面には、先端が20本のピアノ線P(曲率半径0.25mm)で形成された単位膨出部が形成されているものとする。
【0042】
〔動摩擦係数(平均摩擦係数μ)〕
株式会社テック技販社販売の触覚フォースプレートTF-2020(図中符号5で示す)及びその相当品を用いて、滑り官能評価試験と同様の操作を行った際の摩擦係数を測定する。
図1に示すようにロードセル5A上のプレート6の上にティシュペーパー3を生成状態で置き、その一端を接着テープ1等によって前記プレート6上に固定する。次いで、右手の人差し指2で、ティシュペーパー3の上をなぞるように、指長手方向と垂直方向の一方向に滑らせて摩擦試験を行い摩擦係数を測定する。なお、このティシュペーパーの固定は、このすべり方向が紙の横方向となるようにする。また、測定時の垂直荷重は約0.34±0.09N、滑り速度は76±23mm/S、滑り距離は103±15mmとするように試験を行う。なお、測定者は、事前に数回の練習を行ってもよい。
【0043】
上記垂直荷重及び滑り速度はティシュペーパーの表面性を安定して感知する平均的な垂直荷重と平均的な滑り速度である。右手の人差し指で、ティシュペーパーの上をなぞる方向は、最初に指先が感じる摩擦の方向である。なお、測定者は9人で行い、同一の試料(ただし表記は変更する)について5回繰り返し測定する。異常値を省いた平均値を摩擦係数とする。
【0044】
〔表面粗さ〕
ISO 25178-2:2012による表面粗さを計測する。JIS P 8111条件である室温23℃、相対湿度50%にコントロールされた人工気象室内にて、10cm角に裁断した試験片を、株式会社キーエンス社製のレーザー顕微鏡VR-3200及びその相当機を用い、ISO 25178に従い、算術平均粗さRa(表面粗さ、μm)を算出する。なお、レーザー顕微鏡の画像の観察・測定・画像解析ソフトウェアとしては、株式会社キーエンス社製の「VR-H1A」を使用することができる。なお、測定条件は、倍率12倍、視野面積24mm×18mmの条件で測定する。ただし、測定倍率と視野面積は、適宜変更しても良い。
【0045】
評価ステップは、前記自由官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される自由官能評価値と、前記滑り官能評価分析ステップで得られた回帰式から算出される滑り官能評価値と、からティシュペーパーを評価する。
【0046】
自由官能評価値は、「柔らかさ」との相関がみられ、滑り官能評価値は、上記のとおり「滑りやすさ」との相関がみられる。したがって、紙質パラメータから各評価値を算出し、その双方の評価値に基づけば、ティシュペーパーの「柔らかさ」及び「滑りやすさ」の好み、すなわち「滑らかさ」を評価することができる。特に「柔らかさ」と「滑らかさ」とが双方に優れるものである場合には、使用感に優れるものと評価できる。
【0047】
〔ティシュペーパー〕
(第一実施形態)
本発明に係る第一の実施形態に係るティシュペーパーは、薬液が付与されていない2プライの非保湿ティシュペーパーであって、1枚当たりの坪量が10.0~18.0g/m2であり、2プライの厚さが100~240μmであって 下記の(式1)において算出される自由官能評価値Efが3.7~6.6であり、かつ、(式2)において算出される滑り官能評価値Esが5.0~8.2であるティシュペーパーである。
【0048】
ティシュペーパーは、通常、坪量が10.0~18.0g/m2程度の薬液が付与されていない非保湿タイプと、坪量が14.0~22.0g/m2程度と高く通常は薬液が付与されている保湿タイプといった製品群に大別されることが多く、その製品群を前提として設計することが多い。坪量が10.0~18.0g/m2の薬液が付与されていない非保湿タイプであれば従来と同様のティシュペーパーの抄紙技術で製造がしやすい。
【0049】
他方、本発明の第一実施形態に係るティシュペーパーは、紙の横方向の乾燥引張強度が70~180cN/25mmであり、紙の横方向の湿潤引張強度が25~60.7cN/25mmである。ティシュペーパーはクレープ紙であるため、紙の横方向は、縦方向に比して紙力が弱くなる。横方向の乾燥及び湿潤時の引張強度がこの範囲であれば十分に使用に耐える。
【0050】
(式1)
自由官能評価値Ef=-2.879×(紙の横方向の乾燥引張強度)+6.55×(紙の横方向の湿潤引張強度)+5.36
(式2)
滑り官能評価値Es=-8.80×(動摩擦係数)-0.41×(算術平均表面粗さ)+13.58
【0051】
この(式1)及び(式2)の範囲が上記範囲である場合には、表1及び
図6及び
図7に示されるように従来にないきわめて「柔らかさ」及び「滑らかさ」に優れる非保湿のティシュペーパーとなる。
【0052】
これら各相関式は、本発明に係るティシュペーパーの評価方法に基づいて、上記表1に示す従来品の各試料について、自由官能評価ステップ及び自由官能評価分析ステップ、及び、滑り官能評価ステップ及び滑り官能評価分析ステップの結果として得られる。なお、これらの官能評価は、評価者9名で行い、評価者1名あたり各試料について5回評価し、異常値点数を排除したその平均をある試料におけるその評価者の点数とした。また、市場でもっとも汎用されている試料Aの点数を4点として、各試料1~7点で点数付けし各評価者の平均値を算出して点数化した。官能評価は、評価者9名で、評価者1名あたり各試料について5回評価すれば、十分に偏りのない評価が可能である。また、ティシュペーパーは、通常、保湿ティシュペーパーと非保湿ティシュペーパー高級品と非保湿ティシュペーパー汎用品という製品カテゴリーがあり、保湿ティシュペーパー5種、非保湿ティシュペーパー高級品3種、非保湿ティシュペーパー汎用品7種、合計15種の試料を採れば既知のティシュペーパーを概ね評価でき、相関式を得ることができる。基準試料となる試料Aは、最もシェアの高い非保湿ティシュペーパーで、最も多くの消費者が触れているものである。
【0053】
(式1)における自由官能評価値Efは、横方向の乾燥引張強度及び湿潤引張強度により定まるため特に自由官能評価値Efを3.7~6.6の範囲にするには、乾燥紙力剤と湿潤紙力剤の紙力剤及びパルプ配合及び抄紙時における抄紙原料の吐出によって調整することができる。特に、横方向の紙力は、クレープによる依存が少ないため紙力剤による調整が効果的である。ここで、乾燥紙力剤としては、カチオン化デンプンやカチオン性や両性のポリアクリルアミド系コポリマーが挙げられ、湿潤紙力剤としては、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(PAE)、ポリビニルアミン(PVAm)が挙げられる。また、原料パルプは、NBKPと略される針葉樹クラフトパルプとLBKPと略される広葉樹クラフトパルプとを配合したものである。配合割合としては、NBKP:LBKP=20:80~80:20から選択されるが、特に、NBKP:LBKP=50:50~45:55が望ましい。一般的な非保湿タイプのティシュペーパーにおけるパルプの配合割合よりもややNBKPを多くすると紙力が本発明の範囲に調整しやすい。
【0054】
(式2)において算出される滑り官能評価値Esは、動摩擦係数及び算術平均粗さによって定まるため特に滑り官能評価値Esを5.0~8.2の範囲にするには、クレープ率、クレーピンドクターの調整、パルプ配合比、さらにパルプ繊維をコーティングする内添柔軟剤などによって調整することができる。
【0055】
(第二実施形態)
他方、本発明に係る第二の実施形態に係るティシュペーパーは、薬液が付与されている2プライの保湿ティシュペーパーであって、1枚当たりの坪量が14.0~22.0g/m2であり、厚さが120~250μmであり、上記(式1)において算出される自由官能評価値Efが6.0~8.4であり、かつ、上記(式2)において算出される滑り官能評価値Esが5.3~8.0である。
【0056】
坪量が14.0~22.0g/m2の薬液が付与されている保湿タイプであれば従来と同様のティシュペーパーの抄紙技術で製造がしやすい。
【0057】
他方、本発明の第二実施形態に係るティシュペーパーは、紙の横方向の乾燥引張強度が50~131.0cN/25mmであり、紙の横方向の湿潤引張強度が30~90cN/25mmである。ティシュペーパーはクレープ紙であるため、紙の横方向は、縦方向に比して紙力が弱くなる。横方向の乾燥及び湿潤時の引張強度がこの範囲であれば十分に使用に耐える。
【0058】
この(式1)及び(式2)の範囲が上記範囲である場合には、従来にないきわめて「柔らかさ」及び「滑らかさ」に優れる保湿ティシュペーパーとなる。
【0059】
これら各相関式は、第一の実施形態のティシュペーパーと同様にして求められる。ここで、(式1)における自由官能評価値Efは、横方向の乾燥引張強度及び湿潤引張強度により定まるため特に自由官能評価値Efを6.0~8.4の範囲にするには、乾燥紙力剤と湿潤紙力剤の紙力剤及びパルプ配合及び抄紙時における抄紙原料の吐出によって調整することができる。特に、横方向の紙力は、クレープによる依存が少ないため紙力剤による調整が効果的である。乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の具体例及び原料パルプは、第一実施形態と同様である。さらに、保湿ティシュペーパーの場合には、特に、紙の横方向の乾燥引張強度及び紙の横方向の湿潤引張強度との差を小さくするのが望ましい。具体的には、紙の横方向の乾燥引張強度及び紙の横方向の湿潤引張強度との差を19~44cN/25mmとするのが望ましい。また、原紙の乾燥引張強度及び湿潤引張強度と高めて、保湿剤量を20.0~30.0%と多い傾向にするのがよい。
【0060】
(式2)において算出される滑り官能評価値Esは、動摩擦係数及び算術平均粗さによって定まるため特に滑り官能評価値Esを5.0~8.2の範囲にするには、第一実施形態と同様に、クレープ率、クレーピンドクターの調整、パルプ配合比、さらにパルプ繊維をコーティングする内添柔軟剤などによって調整することができる。
【実施例】
【0061】
次いで、上記式(1)及び式(2)に基づいて、製造した本発明に係る保湿ティシュペーパー(実施例1)と非保湿ティシュペーパー(実施例2)とについて、自由官能評価及び滑り官能評価を行った。実施例1及び実施例2の物性値、評価値を下記表2に示す。なお、表2中には、表1で示した従来例に係る各試料についての物性値、評価値も合わせて示す。なお、表2中の(「滑りやすさ」の好みの評価(滑り官能評価))の欄における従来例に係る各試料の数値は、「滑り官能評価ステップ」において「滑りやすさ」を判断した際の数値である。
【0062】
ここで、実施例1は薬液が付与されている2プライの保湿ティシュペーパーである。実施例1は、原料パルプをNBKP:LBKPの比率を50:50としてややNBKPの比率を高いように配合して、円網ヤンキードライヤー抄紙機で抄造した。摩擦係数を調整するために、ドクターブレードの角度及びクレープ率の調整を行った。
【0063】
このティシュペーパー原紙を二枚積層して積層ティシュペーパー原紙としたものに薬液をフレキソ印刷方式により、両面に対し合計25.5%付与した。
【0064】
薬液はグリセリンを主成分とする水系薬液であり、グリセリン85質量%、水を10質量%、柔軟剤や流動パラフィンなどの機能性薬剤を5質量%含むものを用いた。水系薬液の粘度は40℃で110mPa・sであった。
【0065】
薬液を付与した積層連続シートをロータリー式インターフォルダにて加工し、カットシートを得た。なお、ロータリー式インターフォルダにおいてはテンション調整をした。
【0066】
作成したティシュペーパー製品の1プライの坪量は17.6g/m2、2プライの紙厚138μm、紙の横方向の乾燥引張強度が131cN/25mmであり、紙の横方向の湿潤引張強度が85cN/25mmであった。なお、紙力につては公知の紙力剤の含有量を調整することでおこなった。含有量は、内添で12.0kg/パルプトン程度であった。
【0067】
この実施例1における式1において算出される自由官能評価値Efは7.2であり、式2において算出される滑り官能評価値Esは6.3である。
【0068】
実施例2は薬液が付与されていない2プライの非保湿ティシュペーパーである。実施例2は、NBKP:LBKPの比率を50:50として円網ヤンキードライヤー抄紙機で抄造した。このティシュペーパー原紙を二枚積層して積層ティシュペーパー原紙とした積層連続シートをロータリー式インターフォルダにて加工し、カットシートを得た。
【0069】
作成したティシュペーパー製品の1プライの坪量は14.9g/m2、2プライの紙厚181μm、紙の横方向の乾燥引張強度が109cN/25mmであり、紙の横方向の湿潤引張強度が60.7cN/25mmであった。
【0070】
この実施例1における式1において算出される自由官能評価値Efは6.2であり、式2において算出される滑り官能評価値Esは6.1である。紙力及び摩擦係数の調整は実施例1と同様の調整を行った。
【0071】
【0072】
これらの実施例1及び実施例2における自由官能評価及び滑り官能評価の値は、従来の各試料より格段によい結果となっている。つまり、本発明に係るティシュペーパーは、従来製品にない柔らかさ及び滑らかさのあるティシュペーパーであるといえる。
【符号の説明】
【0073】
1…接着テープ、2…人差し指、3…ティシュペーパー、5…触覚フォースプレート、5A…ロードセル、6…プレート。