IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧 ▶ 日本赤十字社の特許一覧

<>
  • 特許-T細胞レセプター 図1
  • 特許-T細胞レセプター 図2
  • 特許-T細胞レセプター 図3
  • 特許-T細胞レセプター 図4
  • 特許-T細胞レセプター 図5
  • 特許-T細胞レセプター 図6
  • 特許-T細胞レセプター 図7
  • 特許-T細胞レセプター 図8
  • 特許-T細胞レセプター 図9
  • 特許-T細胞レセプター 図10
  • 特許-T細胞レセプター 図11
  • 特許-T細胞レセプター 図12
  • 特許-T細胞レセプター 図13
  • 特許-T細胞レセプター 図14
  • 特許-T細胞レセプター 図15
  • 特許-T細胞レセプター 図16
  • 特許-T細胞レセプター 図17
  • 特許-T細胞レセプター 図18
  • 特許-T細胞レセプター 図19
  • 特許-T細胞レセプター 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】T細胞レセプター
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/725 20060101AFI20221124BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221124BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221124BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221124BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221124BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20221124BHJP
【FI】
C07K14/725
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
A61P31/14
A61P35/02
A61K48/00
A61K35/17 Z
A61K35/76
C12N5/0783
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018008947
(22)【出願日】2018-01-23
(65)【公開番号】P2019126276
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231729
【氏名又は名称】日本赤十字社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮原 慶裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】城 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岸 裕幸
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Virology,2017年,Vol.91, No.19, e00974-17,p.1-15
【文献】Journal of Clinical Immunology,2012年,Vol.32,p.1340-1352
【文献】Cancer Research,2010年,Vol.70, No.15,p.6181-6192
【文献】The Journal of Infectious Diseases,2002年,Vol.186,p.1231-1241
【文献】Journal of Virology,1996年,Vol.70, No.2,p.843-851
【文献】Journal of Virology,2001年,Vol.75, No.20,p.9836-9843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(B)、(D)、(I)、及び(J)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター:
(B)配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2、及び配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含み、且つHLA-A*02:01に拘束されたTax抗原を認識する
(D)配列番号31で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2、及び配列番号38で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含み、且つHLA-A*02:01に拘束されたTax抗原を認識する
(I)配列番号81で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、配列番号82で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、及び配列番号83で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号86で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、配列番号87で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2、及び配列番号88で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含み、且つHLA-A*24:02に拘束されたTax抗原を認識する、又は
(J)配列番号91で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、配列番号92で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、及び配列番号93で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号96で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、配列番号97で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2、及び配列番号98で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含み、且つHLA-A*24:02に拘束されたTax抗原を認識する
【請求項2】
前記特徴(I)又は(J)を有する、請求項に記載のT細胞レセプター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のT細胞レセプターをコードする、1種又は2種以上のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のT細胞レセプターが細胞膜上に発現している、請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞がリンパ球である、請求項又はに記載の細胞。
【請求項7】
前記細胞がCD8陽性細胞である、請求項のいずれかに記載の細胞。
【請求項8】
前記細胞がヒトT細胞白血病ウイルスを保持する生体由来の細胞である、請求項のいずれかに記載の細胞。
【請求項9】
請求項のいずれかに記載の細胞を含有する、ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患の予防又は治療剤。
【請求項10】
前記ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患が成人T細胞白血病である、請求項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞レセプター及びそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本には100万人程のヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)感染者が存在し、約2~5%が生涯中に成人T細胞白血病(ATL)を発症する。多剤併用化学療法や、同種幹細胞移植を中心とする治療法が試みられているものの、さらなる改善が必要である。また、近年承認された抗CCR4抗体単剤による治療は、移植との併用でGVHDが増悪したり、再発が必至である。そこで、安全かつより有効な、特に治癒を目指す治療法開発が喫緊の課題である。
【0003】
非特許文献1では、ATL患者におけるHTLV-1由来抗原(Tax)特異的細胞障害性T細胞(CTL)の細胞集団についてレパトア解析したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tanaka Y. et al., Single-cell analysis of T-cell receptor repertoire of HTLV-1 Tax-specific cytotoxic T cells in allogeneic transplant recipients with adult T-cell leukemia/lymphoma., Cancer Research. 2010 Aug 1;70(15):6181-92.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ATL等のHTLV-1関連疾患の予防又は治療技術、該技術に使用する材料、該材料のスクリーニング方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、HTLV-1保持患者由来から選別したHTLV-1由来抗原認識細胞をT細胞レセプター(TCR)レパトア解析し、TCRタイプを同タイプの細胞の数が多い順に順位付けし、該順位が上位のTCRを選択することにより、HTLV-1由来抗原に対して親和性のより高いTCRをスクリーニングできることを見出した。そして、得られたTCRが細胞内で効率的に発現可能であること、及び該TCR発現細胞が、HTLV-1感染細胞に対して細胞障害性を発揮することを見出した。これらの知見に基づいて鋭意研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 下記(A)~(J)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター:
(A)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(B)配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(C)配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(D)配列番号33で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号38で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(E)配列番号43で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号48で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(F)配列番号53で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号58で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(G)配列番号63で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号68で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(H)配列番号73で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号78で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、
(I)配列番号83で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号88で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、又は
(J)配列番号93で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号98で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む。
【0009】
項2. 前記特徴(A)において、前記β鎖が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2を含み、前記α鎖が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(B)において、前記β鎖が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(C)において、前記β鎖が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(D)において、前記β鎖が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(E)において、前記β鎖が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号46で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(F)において、前記β鎖が配列番号51で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号52で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号56で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号57で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(G)において、前記β鎖が配列番号61で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号62で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号66で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号67で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(H)において、前記β鎖が配列番号71で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号72で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号76で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号77で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(I)において、前記β鎖が配列番号81で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号82で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号86で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号87で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含み、
前記特徴(J)において、前記β鎖が配列番号91で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号92で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号96で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号97で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む、
項1に記載のT細胞レセプター。
【0010】
項3. Tax抗原を認識する、項1又は2に記載のT細胞レセプター。
【0011】
項4. 前記特徴(I)又は(J)を有する、項1~3のいずれかに記載のT細胞レセプター。
【0012】
項5. HLA-A*24:02に拘束されたTax抗原を認識する、項4に記載のT細胞レセプター。
【0013】
項6. 項1~6のいずれかに記載のT細胞レセプターをコードする、1種又は2種以上のポリヌクレオチド。
【0014】
項7. 項6に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【0015】
項8. 項1~6のいずれかに記載のT細胞レセプターが細胞膜上に発現している、項7に記載の細胞。
【0016】
項9. 前記細胞がリンパ球である、項7又は8に記載の細胞。
【0017】
項10. 前記細胞がCD8陽性細胞である、項7~9のいずれかに記載の細胞。
【0018】
項11. 前記細胞がヒトT細胞白血病ウイルスを保持する生体由来の細胞である、項7~10のいずれかに記載の細胞。
【0019】
項12. 項7~11のいずれかに記載の細胞を含有する、ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患の予防又は治療剤。
【0020】
項13. 前記ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患が成人T細胞白血病である、項12に記載の治療剤。
【0021】
項14. (i)ヒトT細胞白血病ウイルスを保持する生体からヒトT細胞白血病ウイルス由来抗原を認識する細胞集団を選別する工程、
(ii)前記細胞集団についてT細胞レセプターのレパトア解析を行い、各細胞のT細胞レセプターのタイプ、及び同タイプの細胞の数を決定する工程、
(iii)前記タイプを、同タイプの細胞の数が多い順に順位付けし、該順位が上位のT細胞レセプターを選択する工程、
を含む、T細胞レセプターのスクリーニング方法。
【0022】
項15. 前記工程(iii)において、前記順位が1~5位のT細胞レセプターからなる群より選択される少なくとも1種を選択する、項14に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ATL等のHTLV-1関連疾患の予防又は治療技術、該技術に使用する材料、該材料のスクリーニング方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】試験例1のテトラマー染色(検体番号2)の結果を示す。最上方に染色に用いたテトラマーを示す。Controlは染色していない場合、Tetramerは染色した場合を示す。各ヒストグラム中、縦軸は、テトラマー染色の程度を示し、横軸はCD8染色の程度を示す。
図2】試験例1のテトラマー染色(検体番号7)の結果を示す。最上方に染色に用いたテトラマーを示す。Controlは染色していない場合、Tetramerは染色した場合を示す。各ヒストグラム中、縦軸は、テトラマー染色の程度を示し、横軸はCD8染色の程度を示す。
図3】試験例1のレパトア解析の結果を示す。円グラフ全体は、レパトア解析に供した細胞数(試験例1のテトラマー染色で得られた細胞集団の細胞数)を表している。塗りつぶされた各扇形は、TCRが同タイプの集団の細胞数を示す。1-1、2-1、5-1、7-1等のTCRクローンを取得した集団を、該クローン番号の表記で示す。
図4】TCR1-1のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。罫線枠内が定常部を示し、それ以外が可変部を示し、下線はN末端側から順にCDR1、CDR2、CDR3を示す(図5~13においても同様である。)。
図5】TCR1-2のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図6】TCR2-1のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図7】TCR2-2のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図8】TCR5-1のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図9】TCR5-2のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図10】TCR5-3のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図11】TCR7-1のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図12】TCR7-2のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図13】TCR7-3のβ鎖及びα鎖のN末端側からのアミノ酸配列を示す。
図14】試験例2のHLA-A*24:02拘束性TCR発現解析結果を示す。左側2つのグラフは、テトラマー染色による発現解析結果を示し、右側1つのグラフは、GFP発現による発現解析結果を示す。凡例に、使用したテトラマー、解析対象の細胞(CD8陽性又はCD4陽性)を示す。
図15】試験例2のHLA-A*02:01拘束性TCR発現解析結果を示す。上段2つのグラフは、テトラマー染色による発現解析結果を示し、下段1つのグラフは、GFP発現による発現解析結果を示す。凡例に、使用したテトラマー、解析対象の細胞(CD8陽性又はCD4陽性)を示す。
図16】試験例3のTCR発現細胞(1-1及び1-2)の拡大培養の結果を示す。グラフ外に示される数値は、テトラマー陽性細胞又はGFP陽性細胞の割合を示す。
図17】試験例3のTCR発現細胞(2-1及び2-2)の拡大培養の結果を示す。グラフ外に示される数値は、テトラマー陽性細胞又はGFP陽性細胞の割合を示す。
図18】試験例3のTCR発現細胞(5-1)の拡大培養の結果を示す。グラフ外に示される数値は、テトラマー陽性細胞又はGFP陽性細胞の割合を示す。
図19】試験例3のTCR発現細胞(7-2及び7-3)の拡大培養の結果を示す。グラフ外に示される数値は、テトラマー陽性細胞又はGFP陽性細胞の割合を示す。
図20】試験例3の細胞障害アッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0027】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0028】
本明細書中において、「CDR」とは、Complementarity Determining Regionの略であり、相補性決定領域とも称される。CDRとは、TCRの可変部に存在する領域であり、MHCに拘束された抗原への特異的な結合に深く関与する領域である。そして、「α鎖CDR」とはTCRのα鎖の可変部に存在するCDRであり、「β鎖CDR」とはTCRのβ鎖の可変部に存在するCDRのことを意味する。
【0029】
本明細書中において、「可変部」とは、上述したCDR1~CDR3(以下、単に「CDRs1-3」という)を含む領域のことを意味する。これらのCDRs1-3の配置順序は特に限定はされないが、好ましくは、N末端側からC末端側の方向に、CDR1、CDR2、及びCDR3の順か、若しくはこの逆の順に、連続又は後述するフレームワーク領域(FR)と称される他のアミノ酸配列を介して、配置された領域を意味する。そして「α鎖可変部」とは、上述のα鎖CDRs1-3が配置された領域であり、「β鎖可変部」とは、上述の軽鎖CDRs1-3が配置された領域である。
【0030】
各可変部の上記CDR1-3以外の領域は、上述するようにフレームワーク領域(FR)と称される。特に可変部のN末端と上記CDR1との間の領域をFR1、CDR1とCDR2との間の領域をFR2、CDR2とCDR3との間の領域をFR3、CDR3と可変部のC末端との間をFR4とそれぞれ定義される。
【0031】
1.T細胞レセプター
本発明は、一態様において、(A)~(J)のいずれかの特徴を有するT細胞レセプター(本明細書において、「本発明のTCR」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0032】
特徴(A)は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(A)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2を含み、前記α鎖が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(A)において、より好ましくは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号9で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(A)において、定常部のアミノ酸配列は、定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号5で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号10で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(A)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR1-1が挙げられる。
【0033】
特徴(B)は、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(B)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(B)において、より好ましくは、配列番号14で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号19で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(B)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号15で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号20で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(B)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR1-2が挙げられる。
【0034】
特徴(C)は、配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(C)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号26で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(C)において、より好ましくは、配列番号24で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号29で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(C)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号25で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号30で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(C)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR2-1が挙げられる。
【0035】
特徴(D)は、配列番号33で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号38で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(D)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号31で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号37で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(D)において、より好ましくは、配列番号34で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号39で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(D)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号35で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号40で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(D)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR2-2が挙げられる。
【0036】
特徴(E)は、配列番号43で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号48で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(E)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号46で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(E)において、より好ましくは、配列番号44で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号49で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(E)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号45で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号50で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(E)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR5-1が挙げられる。
【0037】
特徴(F)は、配列番号53で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号58で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(F)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号51で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号52で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号56で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号57で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(F)において、より好ましくは、配列番号54で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号59で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(F)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号55で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号60で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(F)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR5-2が挙げられる。
【0038】
特徴(G)は、配列番号63で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号68で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(G)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号61で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号62で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号66で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号67で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(G)において、より好ましくは、配列番号64で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号69で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(G)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号65で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号70で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(G)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR5-3が挙げられる。
【0039】
特徴(H)は、配列番号73で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号78で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(H)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号71で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号72で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号76で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号77で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(H)において、より好ましくは、配列番号74で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号79で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(H)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号75で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号80で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(H)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR7-1が挙げられる。
【0040】
特徴(I)は、配列番号83で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号88で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(I)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号81で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号82で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号86で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号87で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(I)において、より好ましくは、配列番号84で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号89で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(I)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号85で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号90で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(I)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR7-2が挙げられる。
【0041】
特徴(J)は、配列番号93で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR3を含むβ鎖、並びに配列番号98で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR3を含むα鎖を含む、という特徴である。
特徴(J)において、好ましくは、前記β鎖が配列番号91で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR1、及び配列番号92で示されるアミノ酸配列を含むβ鎖CDR2、を含み、前記α鎖が配列番号96で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR1、及び配列番号97で示されるアミノ酸配列を含むα鎖CDR2を含む。
特徴(J)において、より好ましくは、配列番号94で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖可変部を含み、配列番号99で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖可変部を含む。
特徴(J)において、定常部のアミノ酸配列は定常部の機能(例えば、細胞膜を貫通し、可変部を細胞表面上に露出させる機能)を有する限りにおいて特に制限されないが、好ましくは、配列番号95で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むβ鎖定常部を含み、配列番号100で示されるアミノ酸配列又はその変異配列を含むα鎖定常部を含む。
特徴(J)を有するTCRとして、より具体的には、実施例におけるTCR7-3が挙げられる。
【0042】
可変部について、上記特定の配列番号で示されるアミノ酸配列の変異配列は、該特定の配列番号で示されるアミノ酸配列に対して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上の同一性を有する。変異部位は、任意であってもよいが、CDR以外の部位であることが好ましい。
【0043】
定常部について、上記特定の配列番号で示されるアミノ酸配列の変異配列は、該特定の配列番号で示されるアミノ酸配列に対して、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する。変異部位は、任意であってもよいが、細胞膜貫通部以外の部位であることが好ましい。
【0044】
本発明のTCRはHTLV-1由来の抗原であるTax抗原を認識する(好ましくは、特異的に認識する)ことができる。より具体的な態様において、特徴(A)~(G)のいずれかを有するTCRは、HLA-A*02:01に拘束されたTax抗原(より具体的には、Taxp11-19 (LLFGYPVYV)(配列番号101))を認識することができ、特徴(H)~(J)のいずれかを有するTCRは、HLA-A*24:02に拘束されたTax抗原(より具体的には、Taxp301-309 (SFHSLHLLF)(配列番号102))を認識することができる。
【0045】
本発明のTCRは、Tax抗原に対して高い親和性を有する。本発明のTCRは、例えば、後述の試験例3における段階的ペプチド希釈法による親和性の検討試験において、例えば1nM以上、好ましくは500pM以上、より好ましくは200pM以上、さらに好ましくは100pM以上、よりさらに好ましくは50pM以上、特に好ましくは10pM以上のTaxペプチド濃度でIFN-γの産生が起こる程度の親和性を有する。
【0046】
特徴(A)~(J)の中でも好ましくは、特徴(B)、特徴(C)、特徴(D)、特徴(G)、特徴(I)、特徴(J)等が挙げられ、より好ましくは特徴(B)、特徴(D)、特徴(I)、特徴(J)等が挙げられ、さらに好ましくは特徴(I)、特徴(J)等が挙げられる。
【0047】
本発明のTCRは、Tax抗原を認識することができる限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。本発明のTCRの各鎖は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。本発明のTCRの各鎖は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。さらに、本発明のTCRの各鎖には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものも包含される。
【0048】
本発明のTCRは、Tax抗原を認識することができる限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドや、標識物質が付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。シグナル配列としては、例えば核移行シグナル等が挙げられる。
【0049】
本発明のTCRは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0050】
本発明のTCRは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0051】
本発明のTCRの製造方法は特に制限されない。本発明のTCRは、例えば、本発明のTCRをコードするポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)により形質転換させた宿主を培養し、本発明のTCRを含む画分を回収する工程を含む方法によって製造することができる。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のTCRを発現可能な状態で含む限りにおいて特に制限されず、本発明のTCRのコード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、本発明のTCRコード配列に隣接して配置される分泌シグナルペプチドコード配列、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。これらの中でも、本発明のポリヌクレオチドが導入された細胞を簡便に(FACS解析等により)検出、選別、濃縮等できるという観点から、本発明のポリヌクレオチドは、レポータータンパク質コード配列を含むことが好ましい。また、本発明のポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。ベクターとして、好適にはウイルスベクター、さらに好適にはレトロウイルスベクターを使用することができる。また、本発明のポリヌクレオチドは、レトロウイルス等のウイルスに包含された状態であってもよい。
【0053】
本発明のポリヌクレオチドの具体例としては、(I)本発明のTCRのβ鎖、β鎖可変領域、及びβ鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(II)本発明のTCRのα鎖、α鎖可変領域、及びα鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(III)本発明のTCRのβ鎖、β鎖可変領域、及びβ鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含む核酸、並びに本発明のTCRのα鎖、α鎖可変領域、及びα鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(IV)上記(I)と上記(II)とからなる2種以上の組み合わせなどが挙げられる。
【0054】
上記(III)の場合において、本発明のポリヌクレオチドでコードされる本発明のTCRがより効率的に発現できるように、β鎖等をコードする領域及びα鎖等をコードする領域が、一本のポリペプチドとして発現し、発現後に切断される様なリンカーをコード領域を介して連結されていることが好ましい。また、同様の理由により、本発明のポリヌクレオチドは、内在性のTCRの発現を抑制する短鎖RNA(例えばsiRNA、miRNA等)をコードする領域を備えることが好ましい。これらの技術は公知であり、既報の情報に従って利用することができる。
【0055】
宿主は、特に制限されず、例えば昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。
【0056】
形質転換、培養、及び回収の方法は、特に制限されず、TCR製造における公知の方法を採用することができる。
【0057】
回収後は、必要に応じて本発明のTCRを精製してもよい。精製は、タンパク質製造における公知の方法、例えばクロマトグラフィー、透析などにより行うことができる。
【0058】
2.細胞
本発明は、一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含有する、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0059】
本発明の細胞の由来細胞は、特に制限されない。本発明の細胞を、本発明のTCRの上記製造方法において使用する目的であれば、由来細胞としては、タンパク質発現に使用できる細胞(例えば、昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等)等が挙げられる。或いは、本発明の細胞を、後述のHTLV-1関連疾患の予防又は治療剤として使用する目的であれば、由来細胞としては、例えば末梢血単核細胞、好ましくはリンパ球、より好ましくはT細胞、さらに好ましくはCD8又はCD4(好ましくはCD8)陽性T細胞が挙げられる。また、後者の目的の場合、由来細胞は、好ましくはHTLV-1を保持する生体、より好ましくはHTLV-1関連疾患の患者、さらに好ましくはALT患者に由来する細胞である。
【0060】
本発明の細胞は、本発明のTCRが発現していることが好ましい。より具体的な態様においては、本発明の細胞は、本発明のTCRが細胞膜上に発現しており、好ましくは本発明のTCRがその可変部を細胞膜外に露出した状態で発現している。
【0061】
本発明の細胞は、本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入することによって得ることができる。必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞を濃縮してもよいし、特定のマーカー(CD8等のCD抗原)を指標として濃縮してもよい。
【0062】
3.ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患の予防又は治療剤
本発明は、一態様において、本発明の細胞を含有する、HTLV-1関連疾患の予防又は治療剤(本明細書において、「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0063】
本態様において使用される細胞については、上記「2.細胞」における、本態様の目的に使用する場合の細胞と同様である。細胞は、予防又は治療対象の患者由来の細胞であることが好ましい。
【0064】
HTLV-1関連疾患としては、ATL、HAM(HTLV-1 associated myelopathy)、HAB(HTLV-I associated bronchitis)、HAU(HTLV-I associated uveitis)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはATLが挙げられる。
【0065】
本発明の剤は、HTLV-1関連疾患の他の予防又は治療薬と併用して用いることもできる。他の予防又は治療薬としては、例えば抗CCR4抗体等が挙げられる。
【0066】
本発明の剤中の有効成分(本発明の細胞)の含有量は、対象とする疾患の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。例えば、本発明の剤中の有効成分の含量は、本発明の剤全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0067】
本発明の剤の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されないが、通常、非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与)である。好ましい投与形態は静脈注射である。剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、有効成分を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0068】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、本発明の細胞を注射用蒸留水に懸濁して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。
【0069】
本発明の剤の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0070】
本発明の剤の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。本発明の剤の投与量は、例えば、一日当たりで、1μg/kg(体重)~10g/kg(体重)程度とすることができる。本発明の剤の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【0071】
4.T細胞レセプターのスクリーニング方法
本発明は、一態様において、工程(i)~(iii)を含む、T細胞レセプターのスクリーニング方法(本明細書において、「本発明のスクリーニング方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0072】
4-1.工程(i)
工程(i)は、HTLV-1を保持する生体からHTLV-1由来抗原を認識する細胞集団を選別する工程である。
【0073】
HTLV-1を保持する生体は、特に制限されないが、好ましくはHTLV-1関連疾患の患者又は以前患者であった生体、より好ましはATL患者又は以前患者であった生体、さらに好ましくは長期間(例えば1年以上、好ましくは3年以上、より好ましくは6年以上、さらに好ましくは10年以上)寛解を維持しているATL患者又は以前患者であった生体である。
【0074】
HTLV-1由来抗原を認識する細胞集団とは、換言すればHTLV-1に対して結合する細胞集団である。この細胞集団には、HTLV-1由来抗原に対するTCRを有する細胞が含まれる。
【0075】
HTLV-1由来抗原は、好ましくはTax抗原である。該抗原としては、好ましくはHLA-A(例えばHLA-A*24:02、HLA-A*02:01、HLA-A*11:01、HLA-A*40:02、HLA-A*26:01、HLA-A*40:06、HLA-A*02:07、HLA-A*39:01等、好ましくはHLA-A*24:02、HLA-A*02:01、HLA-A*11:01、HLA-A*40:02、HLA-A*26:01、より好ましくはHLA-A*24:02、HLA-A*02:01、さらに好ましくはHLA-A*24:02)に拘束されるTax抗原が挙げられる。
【0076】
前記細胞集団の選別は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、前記生体由来の、HTLV-1由来抗原に対するTCRを有する細胞を含み得る細胞集団(例えばPBMC等)を出発材料として用いて、これを、標識とHTLV-1由来抗原(或いは、HTLV-1由来抗原及びHLAを含む複合体)とを含む複合体で標識し、該標識を指標としてFACSにより細胞を分離することにより行うことができる。前記のHTLV-1由来抗原(或いは、HTLV-1由来抗原及びHLAを含む複合体)は、特異的結合物質(例えば、ストレプトアビジンとビオチン)を利用して多量体化(例えば4量体化)して使用することが好ましい。
【0077】
得られた細胞集団は、工程(ii)に供される。
【0078】
4-2.工程(ii)
工程(ii)は、前記細胞集団についてTCRのレパトア解析を行い、各細胞のTCRのタイプ、及び同タイプの細胞の数を決定する工程である。
【0079】
レパトア解析は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、工程(i)で得られた細胞集団のそれぞれの細胞からRNAを抽出して、TCR遺伝子の塩基配列を決定することにより、行うことができる。
【0080】
レパトア解析の結果、同じタイプ(=アミノ酸配列)のTCRを持つ細胞が複数ある場合はその数を計測する。互いに同じタイプ(=アミノ酸配列)のTCRを持つ細胞が一切無い場合は、そこでスクリーニングを中止し、HTLV-1を保持する別の生体から、再度工程(i)を行う。
【0081】
得られた情報を、工程(iii)で利用する。
【0082】
4-3.工程(iii)
工程(iii)は、前記タイプを、同タイプの細胞の数が多い順に順位付けし、該順位が上位のTCRを選択する工程である。
【0083】
順位付けは、同タイプの細胞の数が多い順に行う。即ち、タイプAのTCRを有する細胞が8つ、タイプBのTCRを有する細胞が5つ、タイプCのTCRを有する細胞が4つ、タイプDのTCRを有する細胞が4つ、タイプEのTCRを有する細胞が3つ、タイプFのTCRを有する細胞が2つ・・・である場合、TCRタイプの順位は、1位から、タイプA、タイプB、タイプC、タイプD、タイプE、タイプFの順である。
【0084】
順位付け後、該順位が上位のTCRタイプを選択する。ここで、「上位」とは、特に制限されないが、好ましくは1~5位、より好ましくは1~3位である。
【0085】
選択するTCRタイプは必ず順位が最上位のものでなくともよいし、順位が上のものからTCRタイプを選択しなくともよい。例えば、1~3位のTCRタイプを選択するのであれば、2位と3位を選択してもよいし、1位と3位を選択してもよいし、もちろん1~3位全てのTCRタイプを選択してもよい。
【0086】
本発明のスクリーニング方法でTCRを選択することにより、HTLV-1抗原に対する親和性がより高いTCRを、より高確率で得ることができる。
【0087】
選択したタイプのTCRは、上記「1.T細胞レセプター」に記載の方法に従って製造することができる。また、上記「2.細胞」、「3.ヒトT細胞白血病ウイルス関連疾患の予防又は治療剤」に記載の方法に従って、本発明の細胞、本発明の剤等に利用することもできる。
【実施例
【0088】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0089】
材料と方法
以下の各試験例で行った各実験の材料及び方法は、特に制約しない限り、以下に示す方法で行った。
【0090】
材料と方法1.リンパ球調整
ヒトリンパ球は、健康なドナーから提供を受けた血液より、Ficoll-Paque(登録商標) PLUS(17-1440-03、GE Healthcare)を用いて、PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cells)を分離することによって得た。本研究に用いたヒト末梢血等の検体の採集、解析はヘルシンキ宣言にのっとり行なわれ、全て三重大学医学部研究倫理委員会にて承認されたプロトコールに従い、被験者本人の書面による同意書を得て実施された。採取した検体は本人特定不可能な暗号化がなされ盗難防止処置を施した冷蔵庫、液体窒素タンクに保存した。被験者個人情報に関しては匿名化され、個人のプライバシー、遺伝子解析の結果が外部に漏洩されないよう厳重な注意、処置が施行された。
【0091】
材料と方法2.細胞への遺伝子導入
ヒトリンパ球へのTCR遺伝子導入には、レトロウイルスベクターを使用した。ヒト用TCR遺伝子発現ベクターへは、患者末梢血からex vivo にテトラマー陽性CD8陽性T細胞の single-cell sorting により取得した、HLA-A*02:01またはHLA-A*24:02拘束性Tax特異的TCRの遺伝子を導入した。構造は、エンハンサー、プロモーターなど含む両端のLTR(Long Terminal Repeat)の間に、TCRのα鎖遺伝子とβ鎖遺伝子が組み込まれた構造となっている。
【0092】
ヒト遺伝子導入細胞は、末梢血よりFicollを用いて分離したPBMCに、Anti-CD3抗体(OKT-3、ebio株式会社)5 μg/mL、RetroNectin(登録商標)25μg/mLにて4日間刺激を行い、調整した。RetroNectin(登録商標)20 μg/mL in ACD-A液(TERUMO(登録商標))500 mL/wellによりコーティング(4℃で16h、又は25℃で2h)を行った浮遊細胞用マルチディッシュに、レトロウイルスベクターのウイルス液を1 mL/wellで添加し、遠心分離(2000 xg、2h、32℃)にてpreloadingを行った。続いてこれを1.5%HSA入り PBS 1 mLで2度洗い、そこへヒトリンパ球を3.8 x 105以下/0.95mL/wellで播種し、遠心分離(1000 xg、10 min、32℃)で細胞を沈降させた。その後検鏡し、IL-2 600IU/mL存在下において37℃、5% CO2インキュベータで1日培養した。24時間後に細胞を4/3倍希釈し、全量を用いて1度目と同様の方法で2度目の遺伝子導入を行った。その後培養し、4時間後に6.8 mLの培地で希釈を行い、再度37℃、5%CO2にて培養した。実験には、遺伝子導入後6日目以降の細胞を用いた。培地にはGT-T551(KB503、タカラバイオ)を用い、IL-2 600IU/mL、アルブミナー 0.2%、健常人ドナー由来の血漿0.6%となるよう調製したものを用いた。非遺伝子導入細胞は、遺伝子導入細胞と同様にanti-CD3抗体とRetroNectin(登録商標)で4日間刺激を行った後、IL-2 600IU/mL存在下で6日以上培養することにより、調製した。
【0093】
レトロウイルスを用いたヒト末梢血単核球への腫瘍抗原特異的TCRの導入実験は、三重大学の組換えDNA実験審査委員会及び三重大学医学部研究倫理委員会において承認されている。これらの実験は三重大学において承認を受けたP2レベルの研究室にて行なわれた。
【0094】
材料と方法3.Flow cytometryとcell sorting
染色を行った細胞は、BD FACS CantoTMIIFlow Cytometry(Becton Dickinson)により解析を行った。Cell sortingにはBD FACSAriaTMCell Sorter(Becton Dickinson)を用いた。
【0095】
材料と方法4.テトラマー染色法
In vitro刺激PBMCにレトロウイルスを感染させ、目的のTCR遺伝子を発現させた培養8~11日後の細胞を2% FCS-PBSで2回洗浄した。その後、Tax tetramerを2% FCS-PBSで50倍希釈したものを細胞に添加し、37℃、15分、遮光下で反応させた。そしてFITC conjugated Human Anti-CD8抗体(Becton Dickinson)により細胞を染色(4℃、15分、遮光)し、2% FCS-PBS で2回洗浄した後に、BD FACS CantoTMFlow Cytometerにより解析を行った。
【0096】
材料と方法5. 51 Cr遊離試験( 51 Cr release assay)
標的細胞を100%FCSにて1 x 106細胞/100μL に懸濁し、そこへ51Crを添加し、CO2インキュベーターにて1時間培養した後、細胞を培地(10%FCS in RPMI1640)で洗浄した。その細胞を1 x 105/mLとなるように培地(10%FCS in RPMI1640)にて懸濁し、1 x 104/100μL L/wellとなるように播種した。エフェクター細胞を2 x 105/100μLとなるように培地(10%FCS in RPMI1640)で懸濁したものを100μLで標的細胞に混ぜ、CO2インキュベーターにて4時間培養した。反応終了後、細胞混合液の上清をオーバーナイトで乾燥させ、シンチレーションカウンターで標的細胞から遊離した51Cr量を測定した。
【0097】
材料と方法6.使用した患者検体
日本赤十字社 長崎原爆病院より供与された患者PBMCを使用した。患者はATL発症後、化学療法により症状が安定化し長期に寛解を維持している。下表は患者検体情報をまとめたものである。
【0098】
【表1】
【0099】
材料と方法7.取得したTax特異的TCRの命名
上記患者4症例から10種類のTCRを取得した。便宜上、検体No.5から得られたTCR遺伝子を5-1,5-2,5-3と名付けた。同様に検体No.1から得られたTCR遺伝子を1-1,1-2、検体No.2から得られたTCR遺伝子を2-1,2-2、検体No.7から得られたTCR遺伝子を7-1,7-2,7-3とした。
【0100】
材料と方法8.リアルタイムPCR法
(1) 細胞のサンプリング
細胞をPBS(-)で洗浄した後、RLTバッファーを加えて、細胞懸濁液を作成した。RNA抽出を行うまで、-80℃ディープフリーザで保存した。Rneasy Mini kitとRnse-free DNase Setを用いて、RNAを抽出した。
【0101】
(2) 逆転写反応(Reverse Transcription;RT)
各サンプルにつき、reverse transcriptaseを加えてRT反応を行ったサンプルRT
を調整する。(サンプル調整は反応液Oligo dT primer,Template RNA,dNTP mixture(10mM)を混ぜた。) 調整済みのチューブをサーマルサイクラーにセットし、65℃、10分間インキュベートした後、氷上で冷却した。変性・アニーリング済溶液に試薬5×Primescript buffer RNase Inhibitor,Primescript RTase,RNase free dH2O
を添加し、逆転写反応を行った。
【0102】
(3) PCR反応
10×PCR Buffer dNTP mixture,上流Primer,下流Primer、滅菌水、(2)の逆転写
反応液、滅菌水を混合して、PCRを行った。
【0103】
材料と方法9.TCRレパトア解析
単離した個々のCD8陽性T細胞から抽出したRNAをcDNAに変換し、Va及びVb領域を増幅後にシークエンス解析を行った。得られたデータより、テトラマー陽性細胞集団がどのようなTCRレパトアを持つかを決定した。
【0104】
材料と方法10.Gibson assembly法
3つの異なる酵素反応を一つのバッファーで行うことで、DNA断片のサイズや末端形状に関わらず、複数のDNA断片を繋ぎ合わせることができる方法である。末端に15塩基の相同配列があるDNA断片とGibson Assemblyマスターミックスを混合して、160分間インキュベーションを行う。エキソヌクレアーゼが一本鎖の3’オーバーハングを作成し、他方の相補鎖(オーバーラップする部位)とアニーリングできるようにし、ポリメラーゼでそれぞれのアニーリングした断片の間のギャップを埋め、DNA ligaseでニックを繋ぎ合わせてDNAを繋いだ。
【0105】
材料と方法11.レトロウイルスベクター
pMXs-IRES-GFP Retroviral Vector(コスモバイオ株式会社)を使用した。Gibson assembly法によって、制限酵素処理で調整したベクター、PCRで増幅したTCR Vα, Vβ, Cα, Cβ遺伝子を繋いだ。
【0106】
材料と方法12.ELISA
eBioscience社のKitを用いた。Coating bufferを10xCoating bufferをDWにより10倍希釈し調整した。一次抗体をCoating buffer 12mLに48μL添加し、96well平底プレートに100μL/wellずつ添加し、4℃、オーバーナイトで静置した。0.05% PBS-Tで5回洗浄した。Assay diluentsを5xAssay diluentsをDWにて5倍希釈し調整した。Assay diluents 200μL/wellずつ加えた。1時間、室温でブロッキングした。0.05% PBS- Tで5回洗浄した。スタンダードの調整は、IFN-γは最高濃度を1000pg/mLに調整し、2倍ずつ7段階で希釈した。サンプルとスタンダードをプレートにのせた。2時間、室温で反応させた。0.05% PBS-Tで5回洗浄した。二次抗体をAssay diluents 12mLに48μL添加し、100μLずつwellに加えた。1時間、室温で反応させた。0.05% PBS-Tで5回洗浄した。Streptavidin-HRPをAssay diluents 12mLに48μL添加し、100μL/wellずつ加えた。暗所、室温で30分反応させた。0.05% PBS-Tで7回洗浄した。TMB substrate solutionを100μLずつ加えた。暗所、室温で15分反応させ、0.18M H2SO4を50μLずつ加えて反応を止めた。直ちに、microplate reader Model 680(Bio-Rad)にて波長450nmにて計測した。
【0107】
材料と方法13.テトラマー陽性T細胞の単離
患者末梢血を融解後、2% FCS-PBSで2回洗浄を行った。その後、チューブを用いてPEラベルHLA-A*02:01/Taxp11-19 (LLFGYPVYV)(配列番号101)あるいはHLA-A*24:02/Taxp301-309 (SFHSLHLLF)(配列番号102)テトラマーを添加し、37℃15分遮光にて反応させた。その後、FITCラベル抗ヒトCD8抗体を添加し4℃15分遮光にて反応し、2% FCS-PBS で2回洗浄した後にBD FACS AriaTM Cell Sorter(Beckton Dickinson)によりCD8陽性テトラマー陽性T細胞の単離を行った。細胞は96ウェルプレートに1 cell/wellとなるようにPBS(-)溶液に懸濁した。
【0108】
材料と方法14.単離T細胞からのTCRα鎖及びβ鎖遺伝子配列の取得
単離された細胞のTCR α及びβ遺伝子配列を取得するため、既報(WO 2014017533)の方法を利用して取得した。塩基配列はPCR産物のシークエンス解析を行うことにより決定した。そのTCRレパートリーはIMGT/V-Questツール(http://www.imgt.org/)を用いて分析した。
【0109】
試験例1.Tax特異的CD8陽性細胞集団のTCRレパトア解析
ATL発症後、化学療法後に長期寛解を維持しているATL患者(4症例)末梢血を用いて、フローサイトメトリーにてテトラマー染色を行った(図1及び2)。テトラマーとして、HLA-A02:01/Taxp11-19 (LLFGYPVYV) 及びHLA-A*24:02/Taxp301-309 (SFHSLHLLF)を作製し使用した。4症例ともにCD8陽性T細胞中のテトラマー陽性率は0.1~1%であった。次に、テトラマー染色で検出されたテトラマー陽性CD8陽性T細胞からTCR遺伝子の取得を行った。単離した各患者のテトラマー陽性細胞を用いて、T細胞のレパトアの解析を行った。各細胞のTCRのタイプ、及び同タイプの細胞の数を決定し、該タイプを、同タイプの細胞の数が多い順に順位付けた。その結果、各患者において、テトラマー陽性CD8陽性T細胞には偏りのあるTCRのタイプが認められ、オリゴクローナルな細胞集団であることが明らかとなった(図3)。同タイプの細胞数の順位が上位のTCRを選択し、検体No.1、No.2(HLA-A*02:01)それぞれからは2種類(1-1、1-2、2-1、及び2-2)、検体No.5(HLA-A*02:01), 検体No.7(HLA-A*24:02)それぞれからは3種類(5-1、5-2、5-3、7-1、7-2、及び7-3)のTCRクローンを取得した(図3)。
【0110】
これら4症例から得られた10種類のTCRそれぞれのアミノ酸配列(N末端→C末端)を図4~13に示す。図中、罫線枠内が定常部を示し、それ以外が可変部を示し、下線はN末端側から順にCDR1、CDR2、CDR3を示す。配列番号は、図4のβ鎖のCDR1の配列番号1とし、以降、β鎖CDR1、β鎖CDR2、β鎖CDR3、β鎖可変部、β鎖定常部、α鎖CDR1、α鎖CDR2、α鎖CDR3、α鎖可変部、α鎖定常部の順に連続番号で示す。具体的に、各領域のアミノ酸配列の配列番号は以下のとおりである。
【0111】
TCR1-1(図4):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号1、β鎖CDR2が配列番号2、β鎖CDR3が配列番号3、β鎖可変部が配列番号4、β鎖定常部が配列番号5、α鎖CDR1が配列番号6、α鎖CDR2が配列番号7、α鎖CDR3が配列番号8、α鎖可変部が配列番号9、α鎖定常部が配列番号10である。
【0112】
TCR1-2(図5):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号11、β鎖CDR2が配列番号12、β鎖CDR3が配列番号13、β鎖可変部が配列番号14、β鎖定常部が配列番号15、α鎖CDR1が配列番号16、α鎖CDR2が配列番号17、α鎖CDR3が配列番号18、α鎖可変部が配列番号19、α鎖定常部が配列番号20である。
【0113】
TCR2-1(図6):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号21、β鎖CDR2が配列番号22、β鎖CDR3が配列番号23、β鎖可変部が配列番号24、β鎖定常部が配列番号25、α鎖CDR1が配列番号26、α鎖CDR2が配列番号27、α鎖CDR3が配列番号28、α鎖可変部が配列番号29、α鎖定常部が配列番号30である。
【0114】
TCR2-2(図7):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号31、β鎖CDR2が配列番号32、β鎖CDR3が配列番号33、β鎖可変部が配列番号34、β鎖定常部が配列番号35、α鎖CDR1が配列番号36、α鎖CDR2が配列番号37、α鎖CDR3が配列番号38、α鎖可変部が配列番号39、α鎖定常部が配列番号40である。
【0115】
TCR5-1(図8):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号41、β鎖CDR2が配列番号42、β鎖CDR3が配列番号43、β鎖可変部が配列番号44、β鎖定常部が配列番号45、α鎖CDR1が配列番号46、α鎖CDR2が配列番号47、α鎖CDR3が配列番号48、α鎖可変部が配列番号49、α鎖定常部が配列番号50である。
【0116】
TCR5-2(図9):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号51、β鎖CDR2が配列番号52、β鎖CDR3が配列番号53、β鎖可変部が配列番号54、β鎖定常部が配列番号55、α鎖CDR1が配列番号56、α鎖CDR2が配列番号57、α鎖CDR3が配列番号58、α鎖可変部が配列番号59、α鎖定常部が配列番号60である。
【0117】
TCR5-3(図10):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号61、β鎖CDR2が配列番号62、β鎖CDR3が配列番号63、β鎖可変部が配列番号64、β鎖定常部が配列番号65、α鎖CDR1が配列番号66、α鎖CDR2が配列番号67、α鎖CDR3が配列番号68、α鎖可変部が配列番号69、α鎖定常部が配列番号70である。
【0118】
TCR7-1(図11):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号71、β鎖CDR2が配列番号72、β鎖CDR3が配列番号73、β鎖可変部が配列番号74、β鎖定常部が配列番号75、α鎖CDR1が配列番号76、α鎖CDR2が配列番号77、α鎖CDR3が配列番号78、α鎖可変部が配列番号79、α鎖定常部が配列番号80である。
【0119】
TCR7-2(図12):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号81、β鎖CDR2が配列番号82、β鎖CDR3が配列番号83、β鎖可変部が配列番号84、β鎖定常部が配列番号85、α鎖CDR1が配列番号86、α鎖CDR2が配列番号87、α鎖CDR3が配列番号88、α鎖可変部が配列番号89、α鎖定常部が配列番号90である。
【0120】
TCR7-3(図13):配列番号は、β鎖CDR1が配列番号91、β鎖CDR2が配列番号92、β鎖CDR3が配列番号93、β鎖可変部が配列番号94、β鎖定常部が配列番号95、α鎖CDR1が配列番号96、α鎖CDR2が配列番号97、α鎖CDR3が配列番号98、α鎖可変部が配列番号99、α鎖定常部が配列番号100である。
【0121】
試験例2.TCR遺伝子導入細胞の作製と抗原特異的反応性の確認
ヒト遺伝子導入細胞の調製は、血液よりFicollを用いて分離したPBMCを使用した。Anti-CD3抗体とレトロネクチンを用いて刺激し、刺激から4日後にTax特異的TCR遺伝子を導入し、8~11日後にフローサイトメトリーにて解析を行った。
【0122】
使用したレトロウイルスベクターはGFPを共発現するため、導入効率の検討として、GFPの発現を指標に検討を行った。結果を図14~15に示す。HLA-A2拘束性Tax特異的TCR遺伝子を導入した細胞では、CD8陽性GFP陽性細胞は20%以上検出された。また、CD4陽性GFP陽性細胞は15%以上検出された。HLA-A24拘束性Tax特異的TCR遺伝子を導入した細胞では、CD8陽性GFP陽性細胞は25%以上検出され、CD4陽性GFP陽性細胞は15%以上検出された。
【0123】
次に、テトラマーを用いて導入したTCR遺伝子の発現の有無を検討した。結果を図14~15に示す。HLA-A2拘束性TCR陽性CD8陽性細胞は10%程度以上、TCR陽性CD4陽性細胞は5%程度以上検出された。同様に、HLA-A24拘束性TCR陽性CD8陽性細胞では15%程度、TCR陽性CD4陽性細胞は1%程度を示した。
【0124】
これらの結果から、レトロウイルスベクターを用いた目的TCR遺伝子の導入及び発現が可能であることが明らかとなった。
【0125】
試験例3.Tax特異的TCR遺伝子を導入したT細胞の機能検討
よりテトラマー陽性率の高い細胞集団を準備し、Tax特異的TCR遺伝子導入細胞の機能解析を行うため、テトラマー陽性細胞をBD FACSAriaTM Cell Sorter(Becton Dickinson)を用いてsortingを行い、拡大培養を行った。培養8日後、テトラマー染色を行ったところ、細胞分離/拡大培養後にはTax特異的CD8陽性T細胞のテトラマー陽性率およびGFP発現率は高い細胞集団が得られた。結果の一部を図16~19に示す。
【0126】
また、培養9~11日後に機能解析を行い、Taxペプチドに対するTCRの親和性を検討した。標的細胞としてLCLを用い、段階希釈したペプチドを添加し、上述の遺伝子導入細胞と18時間混合培養し、IFN-γ ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)を用いて検討した。IFN-γ濃度の測定結果を表2に示す。表2中、最上行はTCRクローン番号を示し、最左列はペプチド濃度を示し、
【0127】
【表2】
【0128】
表2より、各TCRは、非常に低濃度のペプチドを認識することが可能な、高親和性TCRであることが分かった。
【0129】
次に、培養9~11日後に、特異的な細胞傷害性の有無の検討のため51Crを利用した細胞傷害性アッセイを行った。標的細胞に51Crを添加し、さらにエフェクター細胞を添加して4時間の培養後、上清中の51Crの量をシンチレーションカウンターを用いて測定した。標的細胞として、ILT#37(HTLV-1陽性細胞株,HLA-A0201陽性)およびILT#Hod(HTLV-1陽性細胞株,HLA-A2402陽性)を使用し、エフェクター細胞には上述した遺伝子導入細胞を使用した。結果を図20に示す。
【0130】
図20に示されるように、HLA-A2拘束性TCR, HLA-A24拘束性TCRともにHTLV-1陽性細胞を認識し、傷害可能であることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
0007181517000001.app