(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】成長障害を生じない小児骨粗鬆症治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221124BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P19/10
(21)【出願番号】P 2019527102
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2018025617
(87)【国際公開番号】W WO2019004487
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017129129
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大
(72)【発明者】
【氏名】太田 昌博
(72)【発明者】
【氏名】清水 智弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 千恵
(72)【発明者】
【氏名】津田 英資
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096510(JP,A)
【文献】国際公開第2015/192214(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147213(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/117011(WO,A1)
【文献】清水智弘ほか著,Siglec-15は小児ステロイド性骨粗鬆症治療ターゲットである,北海道整形災害外科学会雑誌,2016年,Vol.58, 130th suppl.71-71,1-III-1-5,特に、[目的]、[結果と考察]欄
【文献】Journal of Musculoskeletal and Neuronal Interactions,2012年,Vol.12, No.3,p.183-188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siglec-15に結合し、かつ破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体又はその機能性断片を含む、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
【請求項2】
成長障害、骨構造異常及び/又は骨質異常を生じない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
小児骨粗鬆症が、薬剤投与により発症する小児骨粗鬆症である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
小児骨粗鬆症が、小児ステロイド性骨粗鬆症である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗体が、配列表の配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列表の配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列表の配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列表の配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列表の配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列表の配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体の機能性断片が、Fab、F(ab’)
2、Fab’、Fv、又はscFvである、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための抗Siglec-15抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は骨量減少や骨質異常によって骨の強度が低下し、易骨折性を示す疾患であり、主に閉経後女性や高齢者に発生する。しかし、薬剤や疾患により成長期の小児にも骨粗鬆症が発生することがある。
【0003】
小児骨粗鬆症の発症例として最も頻度が高いのは、ステロイド薬や免疫抑制剤等の薬剤投与によるものである。ネフローゼ症候群をはじめとする炎症性疾患の治療において、これらの薬剤を投与された小児患者にて多数の発症例が報告されている。特に、ステロイド大量投与療法を受けた小児患者においては、著しい骨脆弱性が生じ、骨痛や脊椎多発骨折をきたすことがある。ステロイド薬の投与により起こる骨粗鬆症をステロイド性骨粗鬆症(glucocorticoid-induced osteoporosis:GIO)という。
【0004】
この他、小児骨粗鬆症の原因としては、骨形成不全症(指定難病であり、発生頻度は2~3万人に1人)等の先天性疾患によるものが挙げられる。この場合、繰り返す骨折や骨変形による運動発達遅延をきたすことがある。
【0005】
小児骨粗鬆症により、脊椎の圧迫骨折や四肢骨の骨折が多発すれば、骨格が変形し、その後、一生涯にわたり運動や体幹支持機能の障害が遺残する場合がある。また、徴小骨折を繰り返すことにより、慢性的な骨痛に悩まされることもある。
【0006】
現在、骨粗鬆症患者に対しては、骨吸収抑制剤を含む治療薬の投与が施されている。また、骨形成不全症患者に対してビスフォスフォネート製剤(骨吸収抑制剤)を投与することにより骨密度や骨痛等の改善が確認されており、小児ではビスフォスフォネート製剤としてパミドロネートの周期的静脈内投与が行われ、2014年から日本において保険適用となっている。
【0007】
しかしながら、ビスフォスフォネート製剤をはじめとする強力な骨吸収抑制剤を用いた治療には、成長障害や腎障害、長期内服に伴う骨質異常や尿管結石等の発症リスクがある。したがって、このような製剤を成長期の小児に使用することについては、成長障害や骨構造・骨質異常等の発生が危惧される。現時点において、小児骨粗鬆症患者に対して、安全に使用できる骨吸収抑制剤は存在しないといえる。
【0008】
シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Sialic-acid-binding immunoglobulin-like lectin、以下、「Siglec」という。)は、シアル酸含有糖鎖を認識して結合するI型膜タンパク質ファミリーである。当該ファミリーに属するSiglec-15は、魚類からヒトまで進化的な保存度が高く、ヒト脾臓及びリンパ節において、樹状細胞/マクロファージ系の細胞に強く発現することが確認されている。また、Siglec-15は、破骨細胞の分化、成熟に伴って発現が亢進し、RNA干渉を用いて発現を低下させると破骨細胞の分化が抑制されることが確認されている(特許文献1)。さらに、抗Siglec-15抗体が破骨細胞の形成や破骨細胞による骨吸収を抑制することができ、骨代謝異常疾患の治療剤及び/又は予防剤として利用し得ることが報告されている(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、抗Siglec-15抗体の小児骨粗鬆症におよぼす作用・効果については、これまで明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2007/093042
【文献】WO2009/048072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、小児骨粗鬆患者に投与したとしても、投与対象において成長障害を生じることなく、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防することができる医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Siglec-15に結合する抗体の投与により、投与対象において骨成長の障害を生じることなく、骨量や骨密度の改善をもたらすことから、骨成長の著しい成長期の小児における骨粗鬆症の治療薬及び予防薬としてSiglec-15に結合する抗体が有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] Siglec-15に結合し、かつ破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体又はその機能性断片を含む、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
[2] 前記抗体が、モノクローナル抗体である、[1]の医薬組成物。
[3] 前記抗体が、配列表の配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列表の配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列表の配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列表の配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列表の配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列表の配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖からなる、[1]の医薬組成物。
[4] 前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、[1]~[3]のいずれかの医薬組成物。
[5] 前記抗体の機能性断片が、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、又はscFvである、[1]~[4]のいずれかの医薬組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかの医薬組成物を投与することを含む、小児骨粗鬆症の治療及び/又は予防方法。
また、本発明は、以下の発明をも包含する。
[1] Siglec-15に結合し、かつ破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体又はその機能性断片を含む、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
[2] 成長障害、骨構造異常及び/又は骨質異常を生じない、[1]の医薬組成物。
[3] 小児骨粗鬆症が、薬剤投与により発症する小児骨粗鬆症である、[1]又は[2]の医薬組成物。
[4] 小児骨粗鬆症が、小児ステロイド性骨粗鬆症である、[1]又は[2]の医薬組成物。
[5] 前記抗体が、モノクローナル抗体である、[1]~[4]のいずれかの医薬組成物。
[6] 前記抗体が、配列表の配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列表の配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列表の配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む重鎖、並びに、配列表の配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列表の配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列表の配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含む軽鎖からなる、[1]~[4]のいずれかの医薬組成物。
[7] 前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、[1]~[6]のいずれかの医薬組成物。
[8] 前記抗体の機能性断片が、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、又はscFvである、[1]~[7]のいずれかの医薬組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかの医薬組成物を投与することを含む、小児骨粗鬆症の治療及び/又は予防方法。
[10] 小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための医薬組成物の製造における、Siglec-15に結合し、かつ破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体又はその機能性断片の使用。
[11] 小児骨粗鬆症の治療及び/又は予防方法において使用される、Siglec-15に結合し、かつ破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体又はその機能性断片。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2017-129129号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小児骨粗鬆患者に投与したとしても、投与対象において成長障害を生じることなく、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防することができる医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実験における各種操作の実施スケジュールを示す。
【
図2】
図2は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、投与観察期間にわたって縦断的に頭胴長、大腿骨長を計測した結果を示すグラフ図である。(A)投与観察期間の終了時における各動物の頭胴長及び大腿骨長の測定結果を示す。(B)投与観察期間(6~12週齢)にわたる各動物の頭胴長及び大腿骨長の変化量を示す。*:p<0.05(vs.Ctl)。
【
図3】
図3は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、投与の開始前と投与6週間後(12週齢の時点)に採血された血液サンプル中の骨形成マーカー(血清オステオカルシン)と骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)の測定結果を示すグラフ図である。(A)投与観察期間の終了時(12週齢の時点)における各動物の血清オステオカルシン量及び血清TRACP-5b量の測定結果を示す。(B)投与観察期間(6~12週齢)にわたる各動物の血清オステオカルシン量及び血清TRACP-5b量の変化量を示す。*:p<0.05(vs.Ctl)。
【
図4-1】
図4-1は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による成長への影響を組織学的に分析した結果を示す。(A)12週齢の時点の脛骨近位部の3D-CT画像の冠状断面写真を示す。(B)安楽死7日前及び3日前にカルセインでラベリングして得られた脛骨近位部組織より作製された非脱灰組織標本におけるVillanueva染色の結果を示す。矢印(上側)が当該3日前にラベリングされた領域であり、矢印(下側)が当該7日前にラベリングされた領域をそれぞれ示す。(C)12週齢の時点の成長軟骨及び成長軟骨直下の一次海綿骨領域の組織標本におけるサフラニンO染色(酸性ムコ多糖類を染色)の結果を示す。
【
図4-2】
図4-2は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による成長への影響を組織学的に分析した結果を示す。(D)12週齢の時点の脛骨近位部一次海綿骨領域の組織標本におけるTRACP染色及びメチルグリーン染色の結果を示す。(E)非脱灰組織標本を用いて計測された骨成長速度及び成長軟骨幅、ならびに(F)一次海綿骨領域の骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))の測定結果を示す。*:p<0.05(vs.Ctl)。
【
図5-1】
図5-1は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による骨量及び力学的強度への影響を、腰椎を用いて分析した結果を示す。(A)12週齢の時点の第5腰椎の3D-CT画像の冠状断面写真を示す。(B)12週齢の時点の第5腰椎の一次及び二次海綿骨領域、椎体腹側の組織標本におけるTRACP染色及びメチルグリーン染色の結果を示す。
【
図5-2】
図5-2は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による骨量及び力学的強度への影響を、腰椎を用いて分析した結果を示す。(C)12週齢の時点の第1~第3腰椎のDXA法を用いた骨密度の測定結果を示す。(D)12週齢の時点の第5腰椎の一次海綿骨領域及び二次海綿骨領域における骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))の測定結果を示す。(E)12週齢の時点の腰椎椎体の圧縮力学試験の結果(最大破断強度、剛性、靱性)を示す(第2,3,4,6椎体の平均値)。*:p<0.05(vs.Ctl)。
【
図6-1】
図6-1は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による骨量及び力学的強度への影響を、長管骨を用いて分析した結果を示す。(A-1)12週齢の時点の大腿骨遠位部の3D-CT画像の冠状断面写真を示す。(A-2)12週齢の時点の同部位のDXA法を用いた骨密度の測定結果を示す。(B-1)12週齢の時点の脛骨近位部の二次海綿骨領域の組織標本におけるTRACP染色及びメチルグリーン染色の結果を示す。(B-2)12週齢の時点の同部位の骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))の測定結果を示す。
【
図6-2】
図6-2は、コントロール群(Ctl)、抗Siglec-15抗体投与群(Sig-15 Ab)、ビスフォスフォネート投与群(ALN)について、薬剤による骨量及び力学的強度への影響を、長管骨を用いて分析した結果を示す。(C)12週齢の時点の大腿骨遠位骨幹端部の圧縮力学試験の結果(最大破断強度、剛性、靱性)を示す(第2,3,4,6椎体の平均値)。*:p<0.05(vs.Ctl)。
【
図7】
図7は、実験における各種操作の実施スケジュールを示す。
【
図8】
図8は、Sham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、投与観察期間にわたって縦断的に体重、頭胴長、大腿骨長を計測した結果を示すグラフ図である。(A)投与観察期間及び終了時における各動物の(i)体重、(ii)頭胴長及び(iii)大腿骨長の測定結果を示す。(B)投与観察期間(6~12週齢)にわたる各動物の(i)体重、(ii)頭胴長及び(iii)大腿骨長の変化量を示す。#;p<0.05(vs.sham群)。
【
図9】
図9は、Sham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、投与の開始前と投与6週間後(12週齢の時点)に採血された血液サンプル中の骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)と骨形成マーカー(血清オステオカルシン)の測定結果を示すグラフ図である。(A)投与観察期間の終了時(12週齢の時点)における各動物の血清TRACP-5b量及び血清オステオカルシン量の測定結果を示す。(B)投与観察期間(6~12週齢)にわたる各動物の血清TRACP-5b量及び血清オステオカルシン量の変化量を投与開始時(6週齢)からの変化率として示す。#;p<0.05(vs.Sham群)、*;p<0.05(vs.GC群)。
【
図10-1】
図10-1はSham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、薬剤による成長への影響を組織学的に分析した結果を示す。(A)12週齢の時点の脛骨近位部の3D-CT画像の冠状断面写真を示す。(B)安楽死5日前にテトラサイクリン及び2日前にカルセインでラベリングして得られた脛骨近位部組織より作製された非脱灰組織標本におけるVillanueva染色の結果を示す。矢印(上側)が当該2日前にラベリングされた領域であり、矢頭(下側)が当該5日前にラベリングされた領域をそれぞれ示す。(C)12週齢の時点の成長軟骨及び成長軟骨直下の一次海綿骨領域の組織標本におけるサフラニンO色(酸性ムコ多糖類を染色)の結果を示す。
【
図10-2】
図10-2はSham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、薬剤による成長への影響を組織学的に分析した結果を示す。(D)12週齢の時点の脛骨近位部一次海綿骨領域の組織標本におけるTRACP染色及びメチルグリーン染色の結果を示す。非脱灰組織標本を用いて計測された(E)成長軟骨幅、(F)骨成長速度、ならびに(G)一次海綿骨領域の骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))の測定結果を示す。#;p<0.05(vs.Sham群)、*;p<0.05(vs.GC群)。
【
図11-1】
図11-1は、Sham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、薬剤による骨量及び力学的強度への影響を、長管骨を用いて分析した結果を示す。(A)12週齢の時点の大腿骨遠位部の3D-CT画像の冠状断面写真を示す。四角で囲った領域は、二次海綿骨領域を示す。(B)12週齢の時点の前記二次海綿骨領域の骨量BV/TV(%)、骨梁幅Tb.Th(μm)、及び骨梁数Tb.N(N/mm)の測定結果を示す。(C)DXA法を用いた大腿骨遠位部の骨密度BMDの測定結果を示す。#;p<0.05(vs.Sham群)、*;p<0.05(vs.GC群)。
【
図11-2】
図11-2は、Sham群、GC群(Vehicle)、GC+Siglec-15Ab群(抗Siglec-15抗体を低用量(low)又は高用量(high)にて投与)、GC+ALN群(ALNを低用量(low)又は高用量(high))にて投与)について、(D)12週齢の時点の大腿骨遠位骨幹端部の圧縮力学試験の結果(最大破断強度、剛性、弾性率、靱性)を示す。#;p<0.05(vs.Sham群)、*;p<0.05(vs.GC群)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中において、「遺伝子」という語には、DNAのみならずmRNA、cDNA及びcRNAも含まれるものとする。
【0016】
本明細書中において、「ポリヌクレオチド」という語は核酸と同じ意味で用いており、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーも含まれている。
【0017】
本明細中においては、「ポリペプチド」と「タンパク質」は区別せずに用いている。
【0018】
本明細書中において、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
【0019】
本明細書中において、「Siglec-15」は、Siglec-15タンパク質と同じ意味で用いている。
【0020】
本明細書中において、「破骨細胞の形成」は、「破骨細胞の分化」又は「破骨細胞の成熟」と同じ意味で用いている。
【0021】
本明細書中における「抗体の機能性断片」とは、抗原との結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2、scFv等を含む。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の機能性断片に含まれる。但し、抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。また、これらの機能性断片には、抗体タンパク質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生されたタンパク質も含まれる。
【0022】
本明細書における、「エピトープ」とは、特定の抗Siglec-15抗体の結合するSiglec-15の部分ペプチドを意味する。前記のSiglec-15の部分ペプチドであるエピトープは、免疫アッセイ法等当業者によく知られている方法によって決定することができるが、例えば以下の方法によって行うことが出来る。Siglec-15の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリゴペプチド合成技術を用いることが出来る。例えば、Siglec-15のC末端あるいはN末端から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組み換え技術を用いて作製した後、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定した後に、さらに短いペプチドを合成してそれらのペプチドとの反応性を検討することによって、エピトープを決定することが出来る。第一の抗Siglec-15抗体の結合する部分ペプチドに第二の抗Siglec-15抗体が結合すれば、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。また、第一の抗Siglec-15抗体のSiglec-15に対する結合に対して第二の抗Siglec-15抗体が競合する(すなわち、第二の抗体が第一の抗体とSiglec-15の結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列が決定されていなくても、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。さらに、第一の抗体と第二抗体が共通のエピトープに結合し、かつ第一の抗体が抗原の中和活性等の特殊な効果を有する場合、第二の抗体も同様な活性を有することが期待できる。
【0023】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(TAKARA BIO INC.)中、68℃でハイブリダイズすること、又は、DNAを固定したフィルターを用いて0.7~1.0MのNaCl存在下68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0024】
1.Siglec-15
Siglec-15遺伝子は巨細胞腫(Giant cell tumor;GCT)において有意に発現量が増加していることが確認された遺伝子であり、また、単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加することが確認されている遺伝子である(WO2009/048072)。
【0025】
本発明で用いるSiglec-15は、ヒト、非ヒト哺乳動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)あるいはニワトリの単球細胞あるいは骨髄細胞から直接精製して使用するか、あるいは上記の細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、Siglec-15をin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、Siglec-15 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってSiglec-15を発現させることにより、該タンパク質を得ることができる。
【0026】
ヒトSiglec-15のcDNAのヌクレオチド配列は、GenBankにアクセッション番号:NM_213602で登録され、配列表の配列番号1にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示されている。マウスSiglec-15のcDNAのヌクレオチド配列は、GenBankにアクセッション番号:XM_884636で登録され、配列表の配列番号3にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号4に示されている。シグナル配列が除かれた成熟ヒトSiglec-15は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の21番目から328番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。また、シグナル配列が除かれたマウスSiglec-15は、配列番号4に示されるアミノ酸配列の21番目から341番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。なお、Siglec-15は、CD33 antigen-like 3、CD33 molecule-like 3、CD33-like 3又はCD33L3と呼ばれることがあり、これらは全て同じ分子を示している。
【0027】
Siglec-15のcDNAは例えば、Siglec-15のcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、Siglec-15のcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki,R.K.,et al.,Science,(1988)239,487-49)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0028】
なお、配列表の配列番号1及び3から選択される少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、Siglec-15と同等の生物活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドもSiglec-15のcDNAに含まれる。さらに、ヒト若しくはマウスSiglec-15遺伝子座から転写されるスプライシングバリアント又はこれにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつ、Siglec-15と同等の生物活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドもSiglec-15のcDNAに含まれる。
【0029】
また、配列表の配列番号2及び4から選択される少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列、又はこれらの配列からシグナル配列が除かれたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、Siglec-15と同等の生物活性を有するタンパク質もSiglec-15に含まれる。さらに、ヒト若しくはSiglec-15遺伝子座から転写されるスプライシングバリアントにコードされるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、Siglec-15と同等の生物活性を有するタンパク質もSiglec-15に含まれる。
【0030】
2.抗Siglec-15抗体の製造
本発明のSiglec-15に対する抗体は、常法を用いて、Siglec-15又はSiglec-15のアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原となるSiglec-15の生物種はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来するSiglec-15を動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種Siglec-15に結合する抗体とヒトSiglec-15との交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
【0031】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature (1975)256,p.495-497、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibody,p.365-367,Prenum Press,N.Y.(1980))に従って、Siglec-15に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0032】
抗原となるSiglec-15はSiglec-15遺伝子を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
【0033】
具体的には、Siglec-15遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現したSiglec-15を精製すればよい。以下、具体的にSiglec-15に対する抗体の取得方法を説明する。なお、以下において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)第4版」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold Spring Harbor Laboratory Pressより2012年に発刊)に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0034】
(1) 抗原の調製
抗Siglec-15抗体を作製するための抗原としては、Siglec-15又はその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。このような抗原としては、例えば、以下の(a)~(i)に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドから選択することができる;
(a)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列;
(b)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の21番目から328番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の1番目から260番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(d)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の21番目から260番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列;
(f)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列の21番目から341番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(g)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列の1番目から258番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(h)配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列の21番目から258番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(i)(a)~(h)に記載のアミノ酸配列に1~数アミノ酸残基の置換、欠失又は付加を伴うアミノ酸配列。
【0035】
また、抗原として、以下の(j)~(n)に示すヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列からなるポリペプチドを利用することができる;
(j)配列番号1に示されるヌクレオチド配列;
(k)配列番号3に示されるヌクレオチド配列;
(l)配列番号5に示されるヌクレオチド配列;
(m)配列番号6に示されるヌクレオチド配列;
(n)(j)~(m)に記載のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドが保有するヌクレオチド配列。
【0036】
なお、配列表の配列番号2に記載アミノ酸配列の1番目から20番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドはヒトSiglec-15のシグナルペプチドに相当し、21番目から260番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドはヒトSiglec-15の成熟タンパク質の細胞外領域に相当する。また、配列表の配列番号4に記載のアミノ酸配列の1番目から20番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドはマウスSiglec-15のシグナルペプチドに相当し、21番目から258番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドはマウスSiglec-15の成熟タンパク質の細胞外領域に相当する。さらに、配列番号6に示されるヌクレオチド配列は配列番号1に示されるヌクレオチド配列にコードされるヒトSiglec-15の細胞外領域をコードしており、配列番号5に示されるヌクレオチド配列は配列番号3に示されるヌクレオチド配列にコードされるマウスSiglec-15の細胞外領域をコードしている。
【0037】
Siglec-15は、ヒトの腫瘍組織あるいは腫瘍細胞から直接精製して使用することができ、また、Siglec-15をin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
【0038】
遺伝子操作では、具体的には、Siglec-15のcDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってSiglec-15を発現させることにより、抗原を得ることが出来る。
【0039】
また、膜タンパク質であるSiglec-15の細胞外領域と抗体の定常領域とを連結した融合タンパク質を適切な宿主・ベクター系において発現させることによって、分泌タンパク質として抗原を得ることも可能である。
【0040】
Siglec-15のcDNAは例えば、Siglec-15のcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、Siglec-15 cDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki,R.K.,et al.Science(1988)239,p.487-489)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0041】
ポリペプチドのイン・ビトロ(in vitro)合成としては、例えばロシュ・ダイアグノスティックス社製のラピッドトランスレーションシステム(RTS)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0042】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などを挙げることができる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0043】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G. and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,p.4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0044】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、又は細胞外に目的のポリペプチドが産生される。
【0045】
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、大腸菌であれば、例えば、LB培地に必要に応じて、アンピシリン等の抗生物質やIPMGを添加して用いることができる。
【0046】
上記培養により、形質転換体の細胞内又は細胞外に産生される組換えタンパク質は、該タンパク質の物理的性質や化学的性質などを利用した各種の公知の分離操作法により分離・精製することができる。
【0047】
該方法としては、具体的には例えば、通常のタンパク質沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せなどを例示できる。
【0048】
また、発現させる組換えタンパク質に6残基からなるヒスチジンを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。あるいは、発現させる組換えタンパク質にIgGのFc領域を繋げることにより、プロテインAカラムで効率的に精製することができる。上記方法を組合せることにより容易に高収率、高純度で目的とするポリペプチドを大量に製造できる。
【0049】
(2) 抗Siglec-15モノクローナル抗体の製造
Siglec-15と特異的に結合する抗体の例として、Siglec-15と特異的に結合するモノクローナル抗体を挙げることができるが、その取得方法は、以下に記載する通りである。
【0050】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、一般に下記のような作業工程が必要である。すなわち、
(a)抗原として使用する生体高分子の精製、
(b)抗原を動物に注射することにより免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、
(d)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、
(g)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、又はハイブリドーマを移植した動物の飼育、
(h)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性、及びその結合特異性の検討、あるいは標識試薬としての特性の検定、等である。
【0051】
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。
【0052】
(a)抗原の精製
抗原としては、前記したような方法で調製したSiglec-15又はその一部を使用することができる。
【0053】
また、Siglec-15発現組換え体細胞より調製した膜画分、又はSiglec-15発現組換え体細胞自身、さらに、当業者に周知の方法を用いて、化学合成した本発明のタンパク質の部分ペプチドを抗原として使用することもできる。
【0054】
(b)抗体産生細胞の調製
工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全又は不完全アジュバント、又はカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法に用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、たとえばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウス又はラットを被免疫動物とするのが好ましい。
【0055】
また、実際に使用するマウス及びラットの系統は特に制限はなく、マウスの場合には、たとえば各系統A、AKR、BALB/c、BDP、BA、CE、C3H、57BL、C57BL、C57L、DBA、FL、HTH、HT1、LP、NZB、NZW、RF、R III、SJL、SWR、WB、129等が、またラットの場合には、たとえば、Wistar、Low、Lewis、Spraque、Daweley、ACI、BN、Fischer等を用いることができる。
【0056】
これらのマウス及びラットは例えば日本クレア、日本チャ-ルスリバー等の実験動物飼育販売業者より入手することができる。
【0057】
このうち、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスではBALB/c系統が、ラットではWistar及びLow系統が被免疫動物として特に好ましい。
【0058】
また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。
【0059】
なお、これらマウス又はラットの免疫時の週齢は、好ましくは5~12週齢、さらに好ましくは6~8週齢である。
【0060】
Siglec-15又はこの組換え体によって動物を免疫するには、例えば、Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois(1964)等に詳しく記載されている公知の方法を用いることができる。
【0061】
これらの免疫法のうち、本発明において好適な方法を具体的に示せば、たとえば以下のとおりである。
【0062】
すなわち、まず、抗原である膜タンパク質画分、もしくは抗原を発現させた細胞を動物の皮内又は腹腔内に投与する。
【0063】
ただし、免疫効率を高めるためには両者の併用が好ましく、前半は皮内投与を行い、後半又は最終回のみ腹腔内投与を行うと、特に免疫効率を高めることができる。
【0064】
抗原の投与スケジュールは、被免疫動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、抗原投与回数3~6回、投与間隔2~6週間が好ましく、投与回数3~4回、投与間隔2~4週間がさらに好ましい。
【0065】
また、抗原の投与量は、動物の種類、個体差等により異なるが、一般には0.05~5mg、好ましくは0.1~0.5mg程度とする。
【0066】
追加免疫は、以上の通りの抗原投与の1~6週間後、好ましくは2~4週間後、さらに好ましくは2~3週間後に行う。
【0067】
なお、追加免疫を行う際の抗原投与量は、動物の種類、大きさ等により異なるが、一般に、例えばマウスの場合には0.05~5mg、好ましくは0.1~0.5mg、さらに好ましくは0.1~0.2mg程度とする。
【0068】
上記追加免疫から1~10日後、好ましくは2~5日後、さらに好ましくは2~3日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞又はリンパ球を無菌的に取り出す。
【0069】
なお、その際に抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効率を高めることができる。
【0070】
ここで用いられる抗体価の測定法としては、例えば、RIA法又はELISA法を挙げることができるがこれらの方法に制限されない。
【0071】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。
【0072】
まず、精製又は部分精製した抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗体を結合させる。
【0073】
さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0074】
これらの脾臓細胞又はリンパ球からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法(例えば、Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495;Kohler et al.,Eur.J.Immnol.(1977)6,p.511;Milstein et al.,Nature(1977),266,p.550;Walsh,Nature(1977)266,p.495)に従って行うことができる。
【0075】
例えば、脾臓細胞の場合には、脾臓を細切して細胞をステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0076】
(c)骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)の調製
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hipoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。
【0077】
すなわち、マウス由来のX63-Ag8(X63)、NS1-ANS/1(NS1)、P3X63-Ag8.Ul(P3Ul)、X63-Ag8.653(X63.653)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、MPC11-45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)等、ヒト由来のU266AR(SKO-007)、GM1500・GTG-A12(GM1500)、UC729-6、LICR-LOW-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)等である。
【0078】
これらのHGPRT欠損株は例えば、American Type Culture Collection(ATCC)等から入手することができる。
【0079】
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[RPMI-1640培地にグルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、及びウシ胎児血清(以下「FCS」という)を加えた培地に8-アザグアニンを加えた培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)で継代培養するが、細胞融合の3~4日前に正常培地[例えば、10%FCSを含むASF104培地(味の素(株)社製)]で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0080】
(d)細胞融合
抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois(1964)等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で適宜実施することができる。
【0081】
そのような方法は、例えば、ポリエチレングリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。
【0082】
このうち、上記化学的方法の具体例を示せば以下のとおりである。すなわち、高濃度ポリマー溶液としてポリエチレングリコールを用いる場合には、分子量1500~6000、好ましくは2000~4000のポリエチレングリコール溶液中で、30~40℃、好ましくは35~38℃の温度で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを1~10分間、好ましくは5~8分間混合する。
【0083】
(e)ハイブリドーマ群の選択
上記細胞融合により得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノブテリン・チミジン)選択法(Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495;Milstein etval.,Nature(1977)266,p.550)が用いられる。
【0084】
この方法は、アミノブテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。
【0085】
すなわち、未融合細胞及びハイブリドーマをHAT培地で培養することにより、アミノブテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0086】
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えばメチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができる(例えば、Barbara,B.M. and Stanley,M.S.:Selected Methods in Cellular Immunology,W.H.Freeman and Company,San Francisco(1980))。これらの方法のうち、特に限界希釈法が好適である。
【0087】
この方法では、マイクロプレートにラット胎児由来線維芽細胞株、あるいは正常マウス脾臓細胞、胸腺細胞、腹水細胞などのフィーダー(feeder)を接種しておく。
【0088】
一方、あらかじめハイブリドーマを0.2~0.5個/0.2mlになるように培地中で希釈し、この希釈したハイブリドーマの浮遊液を各ウェルに0.1mlずつ入れ、一定期間毎(例えば3日毎)に約1/3の培地を新しいものに交換しながら2週間程度培養を続けることによってハイブリドーマのクローンを増殖させることができる。
【0089】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2~4回繰返し、安定して抗体価の認められたものを抗Siglec-15モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0090】
このようにしてクローニングされたハイブリドーマ株の例としては、ハイブリドーマ#32A1及びハイブリドーマ#41B1を挙げることができる。ハイブリドーマ#32A1及びハイブリドーマ#41B1は、2008年8月28日付けで日本国独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現:日本国独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター)に寄託され、ハイブリドーマ#32A1はanti-Siglec-15 Hybridoma #32A1の名称で寄託番号FERM BP-10999が付与され、ハイブリドーマ#41B1はanti-Siglec-15 Hybridoma #41B1の名称で寄託番号FERM BP-11000が付与されている。
【0091】
(g)ハイブリドーマの培養によるモノクローナル抗体の調製
このようにして選択されたハイブリドーマは、これを培養することにより、モノクローナル抗体を効率よく得ることができるが、培養に先立ち、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが望ましい。
【0092】
このスクリーニングにはそれ自体既知の方法が採用できる。
【0093】
本発明における抗体価の測定は、例えば上記(b)の項目で説明したELISA法により行うことができる。
【0094】
以上の通りの方法によって得たハイブリドーマは、液体窒素中又は-80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。
【0095】
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHT培地から正常培地に換えて培養される。
【0096】
大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、あるいはスピナー培養で行われる。この大量培養における上清から、ゲル濾過等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明の蛋白質に特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0097】
また、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/c)、あるいはNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド-マを増殖させることにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
【0098】
腹腔内に投与する場合には、事前(3~7日前)に2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(2,6,10,14-tetramethyl pentadecane)(プリスタン)等の鉱物油を投与すると、より多量の腹水が得られる。
【0099】
たとえば,ハイブリドーマと同系統のマウスの腹腔内に予め免疫抑制剤を注射し、T細胞を不活性化した後、20日後に106~107個のハイブリドーマ・クローン細胞を、血清を含まない培地中に浮遊(0.5ml)させて腹腔内に投与し、通常腹部が膨満し、腹水がたまったところでマウスより腹水を採取する。
【0100】
この方法により、培養液中に比べて約100倍以上の濃度のモノクローナル抗体が得られる。
【0101】
上記方法により得たモノクローナル抗体は、例えばWeir,D.M.:Handbook of Experimental Immunology,Vol.I,II,III,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1978)に記載されている方法で精製することができる。
【0102】
すなわち、硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等である。
【0103】
精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット等を利用することもできる。
【0104】
かくして得られるモノクローナル抗体は、Siglec-15に対して高い抗原特異性を有する。
【0105】
(h)モノクローナル抗体の検定
かくして得られたモノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスの決定は以下のように行うことができる。
【0106】
まず、同定法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、又はRIA法を挙げることができる。
【0107】
オクテルロニー法は簡便ではあるが、モノクローナル抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。
【0108】
一方、ELISA法又はRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに第二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、モノクローナル抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。
【0109】
また、さらに簡便な方法として、市販の同定用のキット(例えば、マウスタイパーキット;バイオラッド社製)等を利用することもできる。
【0110】
さらに、タンパク質の定量は、フォーリンロウリー法、及び280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml]より算出する方法により行うことができる。
【0111】
(3)その他の抗体
本発明の抗体には、上記Siglec-15に対するモノクローナル抗体に加え、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト抗体等も含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0112】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851-6855(1984))。
【0113】
ヒト化抗体としては、相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986)321,p.522-525)、CDR移植法によって、CDR の配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(WO90/07861)を挙げることができる。
【0114】
さらに、ヒト抗体を挙げることができる。抗Siglec-15ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗Siglec-15ヒト抗体は、ヒト抗体のH鎖とL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133-143;Kuroiwa,Y.et.al.,Nuc.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-73(Kitagawa,Y.,Matuda,T. and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722-727)によって取得することができる。
【0115】
このようなトランスジェニック動物は、具体的には、非ヒト哺乳動物の内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりにヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物及びトランスジェニック動物の作製、及びこれらの動物同士を掛け合わせることにより作り出すことができる。
【0116】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。
【0117】
ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0118】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology & Visual Science.(2002)43(7),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,Opthalmology(2002)109(3),p.427-431)も知られている。
【0119】
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いることができる。
【0120】
抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。
【0121】
抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる(WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388、Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0122】
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0123】
真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。
【0124】
動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G. and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)を挙げることができる。
【0125】
原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌を挙げることができる。
【0126】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
【0127】
本発明の抗体のアイソタイプとしての制限はなく、例えばIgG(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(IgA1,IgA2)、IgDあるいはIgE等を挙げることができるが、好ましくはIgG又はIgMを挙げることができ、より好ましくはIgG2を挙げることができる。
【0128】
また本発明の抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の機能性断片又はその修飾物であってもよい。抗体をパパイン、ペプシン等のタンパク質分解酵素で処理するか、あるいは抗体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し適当な培養細胞において発現させることによって、該抗体の断片を得ることができる。このような抗体断片のうちで、抗体全長分子の持つ機能の全て又は一部を保持している断片を抗体の機能性断片と呼ぶことができる。抗体の機能としては、一般的には抗原結合活性、抗原の活性を中和する活性、抗原の活性を増強する活性、抗体依存性細胞障害活性、補体依存性細胞傷害活性及び補体依存性細胞性細胞傷害活性を挙げることができる。本発明における抗体の機能性断片が保持する機能は、好ましくは破骨細胞の形成を抑制する活性であり、より好ましくは破骨細胞の細胞融合の過程を抑制する活性である。
【0129】
例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv、又は重鎖及び軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody(diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体などを挙げることができる。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の断片に含まれる。
【0130】
さらに、本発明の抗体は少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する多特異性抗体であってもよい。
【0131】
通常このような分子は2個の抗原を結合するものであるが(即ち、二重特異性抗体(bispecific antibody))、本発明における「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類)の抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。
【0132】
本発明の抗体は、多特異性抗体は全長からなる抗体、又はそのような抗体の断片(例えば、F(ab’)2二特異性抗体)でもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(HL対)を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することによっても、作製することができる(Millstein et al.,Nature(1983)305,p.537-539)。
【0133】
本発明の抗体は一本鎖抗体(scFvとも記載する)でもよい。一本鎖抗体は、抗体の重鎖V領域と軽鎖V領域とをポリペプチドのリンカーで連結することにより得られる(Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,113(Rosenburg及びMoore編、Springer Verlag,New York,p.269-315(1994)、Nature Biotechnology(2005),23,p.1126-1136)。また、2つのscFvをポリペプチドリンカーで結合させて作製されるBiscFv断片を二重特異性抗体として使用することもできる。
【0134】
一本鎖抗体を作成する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖V領域と軽鎖V領域は、コンジュゲートを作らないようなリンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988),85,p.5879-5883)。scFvにおける重鎖V領域及び軽鎖V領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の抗体に由来してもよい。V領域を連結するポリペプチドリンカーとしては、例えば12~19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0135】
scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖又は重鎖V領域をコードするDNA、及び軽鎖又は軽鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにポリペプチドリンカー部分をコードするDNA、及びその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。
【0136】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0137】
これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。
【0138】
本発明の抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFvとの結合、ストレプトアビシンとの結合、ヘリックスーターン-ヘリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
【0139】
本発明の抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗Siglec-15抗体の混合物である、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体としては、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、該培養物から精製された抗体を用いることが出来る(WO2004/061104号参照)。
【0140】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0141】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。
【0142】
例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization:A Laboratoy Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
【0143】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【0144】
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0145】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムを挙げることができる。
【0146】
例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、POROS,Sepharose F.F.等を挙げることができる。
【0147】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0148】
好ましくは、本発明における抗Siglec-15抗体は、破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を有する抗体である。
【0149】
抗Siglec-15抗体が有する当該活性は、in vitroにおいて、Siglec-15を過剰発現している細胞の破骨細胞への分化を抑制する活性を測定することによって評価することができる。例えば、マウス単球由来細胞株RAW264.7細胞又はRAW264細胞に種々の濃度で抗Siglec-15抗体を添加し、RANKL(receptor activator of NF-κB)あるいはTNF-α刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。また、骨髄由来の初代培養細胞に種々の濃度で抗Siglec-15抗体を添加し、RANKL、TNF-αあるいは活性型ビタミンD3刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。さらに、正常ヒト破骨前駆細胞に種々の濃度で抗Siglec-15抗体を添加し、RANKLおよびM-CSF刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。このような破骨細胞の分化抑制効果は、破骨細胞の酒石酸耐性酸性フォスファターゼ(TRACP)活性の抑制を指標として測定できる。また、TRACP陽性多核破骨細胞の形成の抑制、すなわち破骨細胞の細胞融合の抑制を指標としても、破骨細胞の分化抑制効果を測定することができる。例えば、上記の破骨細胞分化の試験系において、30μg/ml以下の濃度で細胞融合の抑制効果を示す、あるいは3μg/ml以下、又は1μg/ml以下の濃度において抑制効果を示す抗体を選択することができる。また、より低濃度側での効果を試験した場合に、例えば、63ng/mlから1μg/mlの範囲で破骨細胞の分化抑制効果を示す抗体を選択してもよい。さらに、大腿骨及び/又は脛骨由来の細胞を用いたピットアッセイ(Takada et al.,Bone and Mineral(1992)17,347-359)実験において、大腿骨及び/又は脛骨由来の細胞に種々の濃度で抗Siglec-15抗体を添加して象牙切片上のピットの形成を観察することによっても、in vitroにおける破骨細胞による骨吸収の抑制活性を測定することができる。さらに、in vitroにおける破骨細胞による骨吸収の抑制活性を測定系としては、ユーロピウムが結合したヒトコラーゲンをコーティングしたプレートを使用することも可能である(WO2009/048072の実施例37)。例えば、上記の破骨細胞による骨吸収の試験系において、3μg/ml以下の濃度、すなわち0.3μg/mlから3μg/mlの範囲で骨吸収の抑制効果を示す抗体を選択することができる。一方、in vivoでの実験動物を利用した場合には、抗Siglec-15抗体が有する当該活性は、二次海面骨領域における破骨細胞の変化を測定することで確認することができる。
【0150】
本発明において利用可能な抗Siglec-15抗体の例としては、WO2009/048072、WO2010/117011、WO2013/147212、WO2013/147213、WO2012/045481等に開示される抗Siglec-15抗体を挙げることができる。例えば、本発明において利用可能な抗Siglec-15抗体として、上記ハイブリドーマ#32A1(FERM BP-10999)の産生する抗体(以下「#32A1抗体」という)が挙げられ、#32A1抗体は配列番号21の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号22の21~132番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する。また、本発明において利用可能な抗Siglec-15抗体としては、Siglec-15への結合において、#32A1抗体と競合し又は共通のエピトープを有し、破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制するモノクローナル抗体であって、3μg/ml以下の濃度において、in vitroでの破骨細胞による骨吸収を抑制することを特徴とする抗体等が挙げられる。#32A1抗体のエピトープは、ヒトSiglec-15 V-setドメイン((NCBIのタンパク質データベースのACCESSION番号NP_998767のアミノ酸配列又は配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の39~165番目のアミノ酸残基からなるドメイン)である。
【0151】
本発明において利用可能な抗Siglec-15抗体としては、好ましくは、#32A1抗体のヒト化抗体、又はそのCDR改変体を挙げることができる。#32A1抗体のヒト化抗体の実例としては、配列番号7の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8の21~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8の21~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号10の21~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号11の21~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せを挙げることができる。
【0152】
より好ましいヒト化抗体としては、配列番号7の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号8の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号10の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せ、配列番号9の20~466目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号11の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せを挙げることができる。
【0153】
但し、#32A1抗体のヒト化抗体としては、#32A1抗体の6種全てのCDR配列を保持し、破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を持つ限り、上記のヒト化抗体に限定されない。なお、#32A1抗体の重鎖可変領域は、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(DYFMN)、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(QIRNKIYTYATFYA)、及び配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(SLTGGDYFDY)を保有している。また、#32A1抗体の軽鎖可変領域は、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(RASQSVTISGYSFIH)、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(RASNLAS)、及び配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(QQSRKSPWT)を保有している。
【0154】
#32A1抗体のヒト化抗体のCDR改変体としては、#32A1抗体のヒト化抗体において、配列番号14のCDRH3の3番目のスレオニン残基をグルタミン酸残基に置換した抗体を挙げることができる。Siglec-15は塩基性のタンパク質であり、アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸残基の抗体配列への導入により、抗原-抗体間のイオン結合が形成されて結合能が向上することが期待される。抗体の認識部位で最も重要と考えられるCDRH3ループの中央に位置し、X線結晶構造解析により抗原側に向いていると予想されるスレオニン残基に酸性アミノ酸で側鎖の長いグルタミン酸残基を導入する置換体を設計した。前記の置換を有するCDRH3(SLEGGDYFDY)は、配列表の配列番号18のアミノ酸配列に相当する。
【0155】
CDR改変体の実例としては、配列番号19の20~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖、及び配列番号20の21~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の組合せを挙げることができる。
【0156】
より好ましいCDR改変体としては、配列番号19の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号20の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0157】
但し、#32A1抗体のヒト化抗体のCDR改変体は、配列番号18のCDRH3配列を保有し、破骨細胞の形成及び/又は破骨細胞による骨吸収を抑制する活性を持つ限り、上記のCDR改変体に限定されない。
【0158】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リジンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用など)には影響を及ぼさない。従って、本発明には当該修飾を受けた抗体も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等を挙げることができる。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に係る抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に係る抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であっても良いし、いずれか二種を組み合わせたものであっても良い。各欠失体の量比は本発明に係る抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明に係る抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0159】
3.抗Siglec-15抗体を含有する医薬
上述の抗Siglec-15抗体は、小児骨粗鬆症を治療及び/又は予防するための医薬の有効成分として用いることができる。
【0160】
小児骨粗鬆症とは、成長期にある小児(およそ17歳くらいまで)において発症する骨粗鬆症を意味する。小児骨粗鬆症の原因は様々であり、骨形成不全又は特発性小児骨粗鬆症を原因とする小児骨粗鬆症(原発性骨粗鬆症に分類される)、ならびに神経疾患、内分泌・炎症性疾患、血液疾患、又は薬剤投与を原因とする小児骨粗鬆症(続発性骨粗鬆症に分類される)がある。好ましくは本発明において「小児骨粗鬆症」とは、薬剤投与により発症する小児骨粗鬆症である。小児骨粗鬆症の原因となる薬剤としては、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン等のステロイド薬、タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート等の免疫抑制剤を挙げることができるがこれらに限定されない。より好ましくは本発明において「小児骨粗鬆症」とは、ステロイド薬の投与により発症する小児ステロイド性骨粗鬆症である。小児は骨形成・成長の著しい時期であることから、骨粗鬆症の治療を目的として投与されたビスフォスフォネート製剤をはじめとする既存の強力な骨吸収抑制剤の影響を受けやすい。そのため小児骨粗鬆症は、骨吸収抑制剤を用いて治療した場合に、深刻な成長障害、骨構造異常、骨質異常の発生が危惧される疾患である。
【0161】
本発明において上述の抗Siglec-15抗体は、薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤と共に、医薬組成物の形態で提供することができる。当該医薬組成物には、上述の抗Siglec-15抗体を治療及び/又は予防に有効な量を含めることができる。
【0162】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては好ましくは投与量や投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0163】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、安定性、溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、保持したりするための製剤用の物質を含むことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗Siglec-15抗体の重量に対して0.01~100倍、特に0.1~10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0164】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0~8.5のTrisバッファーやpH4.0~5.5の酢酸バッファーやそれらにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。本発明の医薬組成物は選択された組成と必要な純度を持つ薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。本発明の医薬組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもできる。
【0165】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができるし、本発明の医薬組成物に含まれる、抗Siglec-15抗体のSiglec-15に対する親和性、即ち、Siglec-15に対する解離定数(Kd値)に対し、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、ヒトへの投与量を少なく薬効を発揮することができるので、この結果に基づいて本発明の医薬組成物の人に対する投与量を決定することもできる。投与量は、ヒト型抗Siglec-15抗体をヒトに対して投与する際には、約0.1~100mg/kgを1~180日間に1回投与すればよい。
【0166】
本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などを挙げることができる。
【0167】
本発明の医薬組成物には、抗Siglec-15抗体と共に、骨疾患の治療及び/又は予防に有効な一又は複数の成分を含めることができる。このような成分としては、活性型ビタミンD3、カルシトニン及びその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)製剤、非ステロイド性抗炎症剤、可溶性TNFレセプター製剤、抗TNFα抗体又は該抗体の機能性断片、抗PTHrP(parathyroid hormone-related protein)抗体又は該抗体の機能性断片、IL-1レセプターアンタゴニスト、抗IL-6レセプター抗体又は該抗体の機能性断片等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0168】
当該成分は、抗Siglec-15抗体と同じ製剤の中に含めてもよいし、抗Siglec-15抗体とは異なる製剤の中に含めて一緒に又は別々に供給されてもよい。あるいは、当該成分は抗Siglec-15抗体又はその機能的断片に結合させた形態で供給されてもよい。抗Siglec-15抗体又はその機能的断片と当該成分との結合様式は、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates:principles and progress」,Advanced Drug Delivery Reviews,(2001)53,171-216、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press,California(1996)、Putnam and J.Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123等に記載される種々の形態を利用することができる。
【実施例】
【0169】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
A.成長期健常ラットを用いた評価
I.実験方法
【0170】
(1)使用動物
6週齢の成長期雄性F344 Ratを用いた。
【0171】
(2)実験群(各n=10)
(i)コントロール群(以下、「Ctl群」と記載)
(ii)抗Siglec-15抗体投与群(以下、「Sig-15 Ab投与群」と記載):抗Siglec-15抗体は、上記#32A1抗体を用いた。抗Siglec-15抗体は0.25、1、4mg/kgの用量にて、3週間に一度、皮下投与した。
(iii)ビスフォスフォネート投与群(以下、「ALN投与群」と記載):Alendronate(ALN)(LKT Laboratories社製)を0.028、0.140mg/kgの用量にて、1週間に2度皮下投与した。
各薬剤の投与量は、1週間に一度行った体重の測定結果に基づいて調整した。
【0172】
(3)投与観察期間
投与開始から6週間(6週齢から12週齢)。当該期間の終了後(12週齢)に安楽死させて評価を行った。
各実験群のラットは、Specific-pathogen free (SPF)環境下で、通常飼料にて飼育した。餌、水へはアクセスフリーとした。
骨ラベリングのために、安楽死の7日前と3日前(4日間のインターバル)にカルセインを投与した。カルセインは、1.4%重曹溶液中に、10mg/mlの濃度で溶解し、10mg/kgの用量で各動物に皮下注射した。
【0173】
(4)評価項目
<縦断的評価>
(i)頭胴長及び体重
頭胴長の測定は投与0、3、6週間後に行った。体重測定は、1週間に一度行った。
(ii)大腿骨長
大腿骨長の測定は、麻酔下、マイクロCT撮影により3週間毎に行った。
(iii)骨形成マーカーと骨吸収マーカー
投与開始前と投与6週間後、安楽死前に尾静脈から採血し、血中の骨形成マーカー(血清オステオカルシン)と骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)の値をELISA法により測定した。
各種操作は、
図1に記載のスケジュールに従って実施した。
【0174】
<検体摘出後評価>
安楽死させた後、解剖して大腿骨、脛骨、腰椎を採取して評価サンプルとした。
(i)骨形態計測
大腿骨、脛骨、第5腰椎のマイクロCT撮影を行い、右大腿骨長軸長を測定した。
【0175】
(ii)組織学的検討
非脱灰硬組織標本:左脛骨近位1/2(長さ約1.5cm)の冠状断組織を利用した。70%エタノールに浸漬固定した後、冷暗所に保存した。得られた非脱灰硬組織標本は、Villanueva染色、明視野観察及び蛍光観察、ならびに定量的骨形態計測に用いた。
脱灰組織標本:膝関節離断し、脛骨近位部の冠状断組織(右膝脛骨近位1/2)、ならびに第5腰椎冠状断組織の標本を作製した。
上記非脱灰硬組織標本および脱灰組織標本より、成長軟骨板幅の計測と長軸方向への成長速度計測を組織学的に行い、成長障害を評価した(「新しい骨形態計測」、2014年、ウイネット出版)。
【0176】
破骨細胞は、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(Tartrate-Resistant Acid Phosphatase;TRACP)に対する化学染色(以下、「TRACP染色」と記載)とメチルグリーンによる対比染色により検出・評価した。
成長軟骨部は、サフラニンO染色(酸性ムコ多糖類を染色)により検出・評価した。
【0177】
(iii)力学試験
第2、3、4、6腰椎椎体と左大腿骨遠位骨幹端部について、圧縮試験を行い、最大破断強度(破断するまでに耐えた最大の荷重)、剛性(変形しにくさ)、及び靱性(破断までに要したエネルギー)について評価した。
【0178】
(iv)骨密度測定
骨密度測定装置(日立アロメディカル社製)を用いて、Dual Energy X-Ray Absorptiometry(DXA)法により、腰椎(第1~3腰椎)、左大腿骨遠位端のBMD測定を行った。
【0179】
II.実験結果
(1)薬剤による頭胴長及び体重への影響
投与観察期間の開始から縦断的に頭胴長及び大腿骨長を計測した結果を
図2に示す。投与観察期間の終了時(12週齢の時点)で、Sig-15 Ab投与群はCtl群と比較して、頭胴長及び大腿骨長に有意な差は認められなかった。一方、ALN投与群はCtl群と比較して、頭胴長及び大腿骨長の低下が認められた(
図2(A)。同様の傾向が、投与観察期間にわたる頭胴長及び大腿骨長の変化量についても認められた(
図2(B))。
【0180】
この結果は、ビスフォスフォネートと異なり、抗Siglec-15抗体の投与により投与対象の成長障害が生じないことを示す。
【0181】
(2)薬剤による骨代謝(骨形成マーカーと骨吸収マーカー)への影響
投与観察期間の開始前後に採血された血液サンプル中の骨形成マーカー(血清オステオカルシン)と骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)の測定結果を
図3に示す。投与観察期間の終了時(12週齢の時点)における血清TRACP-5b量は、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、投与した薬剤の用量依存的に低下することが認められた(
図3(A))。一方、血清オステオカルシン量については、いずれの投与群においてもCtl群と有意な差は認められなかった。同様の傾向が、投与観察期間にわたる変化量についても認められた(
図3(B))。
【0182】
この結果は、抗Siglec-15抗体の投与及びビスフォスフォネート投与のいずれにおいても、用量依存的に骨吸収が抑制されることを示す。
【0183】
(3)薬剤による成長への影響の組織学的評価
投与観察期間の終了時(12週齢の時点)の脛骨近位部について、薬剤による成長への影響を組織学的に評価した結果を
図4-1、
図4-2に示す。
図4-1(A)は、当該脛骨近位部をマイクロCT撮影し、取得データを3次元再構築して得られた画像(3D-CT画像)の冠状断面写真を示す。Sig-15 Ab投与群はいずれも、Ctl群と比較して大きな変化は認められなかった。一方、ALN投与群においては、特に高用量投与群において、カップ状の形態(すなわち、近位部から遠位側にかけて骨の太さの変化量が少ない)を呈し(正常ではラッパ状の形態)、また成長軟骨板幅(矢頭)の減少が認められた。
【0184】
図4-1(C)には、軟骨の評価に用いるサフラニンO染色(酸性ムコ多糖類を染色)標本を用いて、成長軟骨及び成長軟骨直下の一次海綿骨領域の観察を行った結果を示す。成長軟骨の幅は上記3D-CT画像と同様に、ALN投与群で減少していることが認められた。また、一次海綿骨領域の骨内に認められるサフラニンO染色陽性(赤色)の領域について、Siglec-15抗体投与群ではCtl群との差は認められないが、ALN投与群では当該領域が増大していることが認められた。さらに、サフラニンO染色陽性の成長軟骨領域を詳細に観察すると、Ctl群及びSiglec-15抗体投与群では、当該領域が増殖層から肥大化軟骨細胞層、石灰化軟骨細胞層にかけて、長軸方向に沿って整然と配列されているのに対して、ALN投与群では当該領域が不整然な配列を有する傾向を示した。
【0185】
図4-1(B)には、安楽死7日前及び3日前にカルセインでラベリングして得られた脛骨近位部の非脱灰組織標本を作製しVillanueva染色を行った結果を示す。成長軟骨と平行にラベルされる部位が2箇所に見られ、近位にあるラベル部位(矢印(上))が当該3日前にラベリングされた領域であり、より遠位にある部位(矢印(下))が当該7日前にラベリングされた領域をそれぞれ示す。当該2箇所のラベルされた領域の間の距離に基づいて、骨成長速度を評価した。結果、Sig-15 Ab投与群における当該距離は、Ctl投与群のそれと差はなく、両者の骨成長速度に違いが認められないことが確認された。一方、ALN投与群(特に高用量投与群)における当該距離は、Ctl投与群のそれと比べて減少しており、ALN投与群においては骨成長速度が小さくなっていることが確認された。
【0186】
図4-2(D)には、破骨細胞の評価に用いるTRACP染色標本を用いて、脛骨近位部の一次海綿骨領域の観察を行った結果を示す。Siglec-15抗体投与群におけるTRACP陽性細胞の数はCtl群におけるその数と差は認められないが、ALN投与群におけるTRACP陽性細胞の数は明らかに減少していることが認められた。
【0187】
さらに、骨成長速度、成長軟骨幅、一次海綿骨領域の骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))について定量的評価を行った結果を
図4-2(E)、(F)に示す。Siglec-15抗体投与群では、骨成長速度、成長軟骨幅、破骨細胞面のいずれも、Ctl群と比較して有意差は認められなかった。一方、ALN投与群(特に高用量投与群)では、骨成長速度、成長軟骨幅、一次海綿骨領域の破骨細胞面のいずれにおいても、Ctl群と比較して有意に低下していることが認められた。
【0188】
以上の結果より、成長軟骨直下の骨吸収は長管骨の成長に重要な役割を担っているが、ALN投与によってその骨吸収が阻害されるために、骨の正常な発育、モデリング過程に障害を生じることが示唆される。一方、Siglec-15抗体投与は、当該領域の骨吸収を阻害しないことから、骨成長に影響を及ぼさないことが示唆された。
【0189】
(4)薬剤による骨量及び力学的強度への影響
海綿骨の豊富な腰椎を用いて、薬剤投与による影響を評価検証した結果を
図5-1、
図5-2に示す。投与観察期間の終了時(12週齢の時点)の腰椎についてマイクロCT撮影を行い、作製された3D-CT画像より得られた腰椎の冠状断面写真を
図5-1(A)に示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、投与薬剤の用量依存的に海綿骨骨量の増加が認められた。ALN投与群では、一次海綿骨での骨量増加がとくに顕著であった。
【0190】
図5-2(C)には、DXA法を用いた腰椎の骨密度の測定結果を示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、投与薬剤の用量依存的に腰椎のBMD値の増大が認められた。
【0191】
図5-1(B)には、腰椎組織のTRACP染色による一次及び二次海綿骨領域の破骨細胞の観察結果を示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、二次海綿骨領域のTRACP陽性細胞の減少が認められ、骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))についても、Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても低下が認められた(
図5-2(D))。この結果は、Sig-15 Ab投与及びALN投与のいずれにおいても、二次海綿骨(リモデリング骨)の骨吸収が阻害されることを示唆する。
【0192】
図5-2(E)には、腰椎の圧縮試験の測定結果を示す。最大破断強度、剛性、靱性に関し、Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群においてはいずれも有意差は認められなかった。一方、ALN投与群(特に高用量投与群)においては、最大破断強度及び剛性について、Ctl群と比較して有意な増加が認められた。これは海綿骨骨量の変化だけでなく、骨吸収の阻害に伴い一次海綿骨の骨量増加によって生じたものと示唆される。
【0193】
(5)薬剤による長管骨への影響
海綿骨量の多い脛骨近位部、及び大腿骨遠位骨幹端部を用いて、薬剤投与による長管骨への影響を評価検証した結果を
図6-1、
図6-2に示す。投与観察期間の終了時(12週齢の時点)の大腿骨遠位端部についてマイクロCT撮影を行い、作製された3D-CT画像より得られた大腿骨の冠状断面写真を
図6-1(A-1)に示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、投与薬剤の用量依存的に海綿骨骨量の増加が認められた。
図6-1(A-2)には、DXA法を用いた同部位の骨密度の測定結果を示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、投与薬剤の用量依存的にBMD値の増大が認められた。組織学的にも用量依存的に骨量の増加が認められ、ALN投与群(特に高用量投与群)では骨梁幅の増加が認められた。
【0194】
図6-1(B-1)には、12週齢の脛骨近位部のTRACP染色による二次海綿骨領域の破骨細胞の観察結果を示す。Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても、TRACP陽性細胞の減少が認められ、骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))はCtl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても低下していた(
図6-1(B-2))。
【0195】
図6-2(C)には、12週齢の大腿骨遠位骨幹端部の圧縮試験の測定結果を示す。最大破断強度、剛性、靱性に関し、Ctl群と比較して、Sig-15 Ab投与群及びALN投与群のいずれにおいても用量依存的に増大することが認められた。
【0196】
以上のとおり、抗Siglec-15抗体及びビスフォスフォネートはいずれも、投与対象における海綿骨骨量、骨密度、力学的特性の増大を生じることから、骨粗鬆症の治療薬及び予防薬として有用であることを示すが、抗Siglec-15抗体の投与においては、ビスフォスフォネートの投与において認められた、成長軟骨直下(一次海綿骨領域)における骨吸収の阻害、その結果もたらされる骨の発育及びモデリングの障害が確認されなかった。この結果は、抗Siglec-15抗体が、特に、骨成長の著しい成長期の小児における骨粗鬆症の治療薬及び予防薬として有用であることを示す。
【0197】
B.小児ステロイド性骨粗鬆症モデルラットを用いた評価
I.実験方法
【0198】
(1)使用動物
6週齢の成長期雌性LEW/CrlCrlj Ratを用いた。
【0199】
(2)小児ステロイド性骨粗鬆症モデル動物
骨粗鬆症モデル動物として、げっ歯類ではマウスにGlucocorticoidsを投与するモデルが用いられることが多いが、Glucocorticoids投与によって、ヒトと同じ様に骨量減少を示す系統はSwiss Webster及びFVB/Nの2つの系統に限られている(Thiele S,et al.Bone KEy Reports 3:552(2014))。しかし、これらの系統でも20週齢以前の骨成長が完了していない若いマウスでは骨量減少は起こらないとされており、小児骨粗鬆症モデルとして確立されたマウスは存在しない。また、薬剤の骨量や構造、骨成長に対する影響を観察するには、マウスは小さく適当でない場合がある。
【0200】
一方、ラットではステロイド性骨粗鬆症モデルは確立していない。そこで、本実施例では、LEW/CrlCrlj Rat雌6週齢にPrednisolone 25mg/pellet/60daysを皮下に埋め込むモデルラットを、小児ステロイド性骨粗鬆症モデルとして採用した。このモデルではPrednisolone埋め込み後、2,4,6週時に大腿骨BMDの低下が認められ、また、大腿骨と腰椎の最大破断強度も低下することが確認されている。
なお、Prednisolone 25mg/pellet/60daysは1日当たり0.42mgの投与となる。この量は、6週齢のラット(体重120g)では3.5mg/kg/dayとなり、体重30kgの小児に換算すると105mg/dayに相当する投与量である。
【0201】
(3)実験群(各n=10)
(i)Sham群:Sham手術+Vehicle(PBS)(皮下投与)
(ii)GC群:Prednisolone(PSL)ペレット 25mg/pellet/60days皮下埋入手術(GC)+Vehicle(PBS)(皮下投与)
(iii)GC+Siglec-15Ab群:GC処理と共に、抗Siglec-15抗体を1mg/kgの用量(低用量)又は10mg/kgの用量(高用量)にて、3週間に一度、皮下投与した。抗Siglec-15抗体は上記#32A1抗体を用いた。
(iv)GC+ALN群:GC処理と共に、ALNを0.014mg/kgの用量(低用量)又は0.140mg/kgの用量(高用量)にて、1週間に2度皮下投与した。
PSL皮下埋入手術と、抗Siglec-15抗体又はALNの投与は同時に開始した。
各薬剤の投与量は、1週間に一度行った体重の測定結果に基づいて調整した。
【0202】
(4)投与観察期間
投与開始から6週間(6週齢から12週齢)。当該期間の終了後(12週齢)に安楽死させて評価を行った。
各実験群のラットは、SPF環境下で、通常飼料にて飼育した。餌、水へはアクセスフリーとした。
骨ラベリングのために、安楽死の5日前にテトラサイクリン、さらに2日前にカルセイン(3日間のインターバル)を投与した。カルセイン投与の36時間後に屠殺した。テトラサイクリンは、PBS中に10mg/mlの濃度で溶解し、25mg/kgの用量で各動物に皮下注射した。また、カルセインは、1.4%重曹溶液中に、10mg/mlの濃度で溶解し、10mg/kgの用量で各動物に皮下注射した。
【0203】
(5)評価項目
<縦断的評価>
(i)頭胴長及び体重
頭胴長の測定は投与0、3、6週間後に行った。体重測定は、1週間に一度行った。
(ii)大腿骨長
大腿骨長の測定は、麻酔下、マイクロCT撮影により3週間毎に行った。
(iii)骨形成マーカーと骨吸収マーカー
投与開始前と投与6週間後の安楽死前に尾静脈から採血し、血中の骨形成マーカー(血清オステオカルシン)と骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)の値をELISA法により測定した。
各種操作は、
図7に記載のスケジュールに従って実施した。
【0204】
<検体摘出後評価>
安楽死させた後、解剖して大腿骨、脛骨、第5腰椎を採取して評価サンプルとした。
(i)骨形態計測
大腿骨、脛骨のマイクロCT撮影を行い、右大腿骨長を測定した。
【0205】
(ii)組織学的検討
非脱灰硬組織標本:左脛骨近位1/2(長さ約1.5cm)の冠状断組織を利用した。70%エタノールに浸漬固定した後、冷暗所に保存した。得られた非脱灰硬組織標本は、Villanueva染色、明視野観察及び蛍光観察、ならびに定量的骨形態計測に用いた。
脱灰組織標本:膝関節離断し、脛骨近位部の冠状断組織(右膝脛骨近位1/2)、ならびに第5腰椎冠状断組織の標本を作製した。
成長障害に関しては、6週間の投与期間では大腿骨長に違いがでるほどの変化が生じない可能性があったため、成長軟骨板幅の計測と長軸方向への成長速度計測を上記非脱灰及び脱灰組織を用いて組織学的に行い、成長障害を評価した(「新しい骨形態計測」、2014年、ウイネット出版)。
【0206】
(iii)力学試験
左大腿骨骨幹部について3点曲げ試験を行い、また第3腰椎と左大腿骨遠位端について、圧縮試験を行い、最大破断強度、剛性、弾性率及び靱性について評価した。
【0207】
(iv)骨密度測定
骨密度測定装置(日立メディカル社製)を用いて、DXA法により、腰椎、左大腿骨遠位端BMD及びBMC測定を行った。
【0208】
II.実験結果
(1)薬剤による成長への影響
投与観察期間の開始から縦断的に体重、頭胴長、大腿骨長を計測した結果を
図8に示す。8週齢時にGC群、GC+Siglec-15 Ab群、GC+ALN群では体重減少のピークがあり、その後徐々に体重は回復、増加した(
図8A(i))。頭胴長、大腿骨長は9週齢から12週齢にかけて体重と同様に増加する傾向にあった(
図8A(ii),(iii))。
6週齢から12週齢までの体重、頭胴長、大腿骨長の変化量については、Sham群と比較してGC群では有意に低下したが、GC群とGC+Siglec-15 Ab群及びGC+ALN群との間に有意な差は認められなかった(
図8B)。
【0209】
(2)薬剤による骨代謝(骨形成マーカーと骨吸収マーカー)への影響
投与観察期間の開始前及び6週間後に採血された血液サンプル中の骨形成マーカー(血清オステオカルシン)と骨吸収マーカー(血清TRACP-5b)の測定結果を
図9に示す。
GC群では骨吸収マーカーであるTRACP-5bが6週間後(12週齢)において、75%増加した(
図9A、B)。
これに対し、GC+Siglec-15 Ab群やGC+ALN群では、血清TRACP-5bは有意に減少した(
図9A,B)。
一方、骨形成マーカーであるオステオカルシンはSham群においても6週齢から12週齢にかけて27%程度低下した(
図9A,B)。血清オステオカルシンはGC群において若干の低下傾向を示したが、Sham群やGC+Siglec-15 Ab群、GC+ALN群と比べて、有意な差は認められなかった(
図9A,B)。
【0210】
(3)薬剤による一次海綿骨領域への影響
投与観察期間の終了時(12週齢の時点)の脛骨近位部について、薬剤による成長への影響を組織学的に評価した結果を
図10-1、
図10-2に示す。
図10-1(A)は、当該脛骨近位部をマイクロCT撮影し、取得データを3次元再構築して得られた画像(3D-CT画像)の冠状断面写真を示す。3D-CT画像をみると、Sham群と比較してGC+Siglec-15 Ab群では形態に大きな変化はなかったが、GC+ALN群(高用量)では、骨端部から骨幹端部にかけて丸みを帯びた盃状(カッピング)の形態を呈していた(正常ではラッパ状の形態)。
【0211】
さらに詳細に各薬剤の一次海綿骨領域への効果を検討するために、組織学的検討を行った。
安楽死5日前にテトラサイクリン、続いて2日前にカルセインでラベリングした非脱灰組織標本を蛍光顕微鏡で観察し(
図10-1(B))、成長速度を評価した(
図10-2(F))。
図10-1(B)中、成長軟骨と平行に遠位にラベルされる部位が2日前に標識した領域(白下矢印)を示し、さらに遠位に平行にラベルされる部位が5日前に標識した領域(白上矢頭)を示す。当該2箇所のラベルされた領域の間の距離に基づいて、骨成長速度を評価した。
結果、Sham群、GC群、GC+Siglec-15 Ab群、GC+ALN群の間に有意な差は認められなかった(
図10-2(F))。
【0212】
また、軟骨の評価に用いるサフラニンO染色(酸性ムコ多糖類を染色)標本を用いて、成長軟骨及び成長軟骨直下の一次海綿骨領域の観察を行った結果を
図10-1(C)に示す。一次海綿骨領域の骨内のサフラニンO染色陽性(赤色)の領域(軟骨基質)は、GC+ALN群において、Sham群、GC群、GC+Siglec-15Ab群と比較して、サフラニンO染色陽性の領域が多くかつ遠位まで広く分布していることが認められた。成長軟骨幅はGC+ALN群では若干低下する傾向を示すもののSham群、GC群、GC+Siglec-15 Ab群と比較して統計学的有意差は認められなかった(
図10-2(E))。
【0213】
さらに、一次海綿骨領域の骨吸収を評価する目的でTRACP染色標本を観察した結果を
図10-2(D)に示す。GC群では、Sham群と比較して一次海綿骨領域のTRACP陽性細胞の増加が認められた。GC+Siglec-15 Ab群におけるTRACP陽性細胞は、GC群と同程度であった。一方、GC+ALN群におけるTRACP陽性細胞は、Sham群やGC群と比べて、顕著な減少が認められた。さらに、一次海綿骨領域の骨表面に対する破骨細胞面(Oc.Pm/B.Pm(%))について定量的評価を行った結果、GC+Siglec-15 Ab群とGC群との間で有意な差はなかったが、GC群と比べてALN投与群では有意な低下が認められた(
図10-2(G))。
【0214】
(4)薬剤による二次海綿骨への影響
投与観察期間の終了時(12週齢の時点)の大腿骨遠位骨幹端部について、薬剤による成長への影響を組織学的に評価した結果を
図11-1、
図11-2に示す。
図11-1(A)は、当該大腿骨遠位骨幹端部をマイクロCT撮影した画像(3D-CT画像)の冠状断面写真を示す。3D-CT画像をみると、Sham群と比較してGC群では成長帯直上領域では骨量の増加が認められたが、成長帯から近位側に離れた二次海綿骨領域(枠内)では骨量の低下が認められた(
図11-1(A))。
GC+Siglec-15 Ab群及びGC+ALN群では、ともに成長帯直上から大腿骨の近位にむけた領域において用量依存的に骨量の増加が認められた。さらに、興味深いことに、GC+ALN群と比較してGC+Siglec-15 Ab群においては、より近位に近い領域まで骨量の増加が認められた。この結果は、長軸方向の成長がALNの投与によって障害されることを示唆している。
【0215】
また、二次海綿骨領域(枠内)を関心領域として骨微細構造解析を行い、骨量の変化を定量的に評価した(
図11-1(B))。骨量(BV/TV(%))は、Sham群と比較してGC群で低下する傾向が認められ、GC+Siglec-15 Ab群とGC+ALN群(高用量)ではGC群と比較して有意な増加が認められた。骨梁幅(Tb.Th(μm))は、Sham群と比較してGC群では有意差は認められなかったが、GC+Siglec-15 Ab群の骨梁数(Tb.N(N/mm))はGC群と比較して有意な増加が認められた。また、DXA法を用いた同部位の骨密度測定において、大腿骨遠位部のBMDはSham群と比較してGC群において低下が認められ、GC+Siglec-15 Ab群及びGC+ALN群ではGC群と比較して、用量依存的な増加が認められた(
図11-1(C))。
【0216】
さらに、大腿骨遠位端部の圧縮試験を行い、大腿骨遠位部の力学的強度を評価した(
図11-2(D))。GC+Siglec-15 Ab群では最大破断強度及び靱性のいずれにおいても用量依存的な増強が認められた。GC+ALN群においては、最大破断強度及び靱性のいずれにおいても増加傾向を示したがGC群と比較して有意な差は認められなかった。大腿骨骨幹端部圧縮試験におけるGC+Siglec-15 Ab群とGC+ALN群の力学的強度の差は、Siglec-15 Ab群がより近位に近い領域まで広い範囲で骨量が増加したのに対し、GC+ALN群では骨量が増加した範囲が狭いことによるものと考えられる。
【0217】
(5)結論
以上の結果より、二次海綿骨のリモデリングに働く破骨細胞は、抗Siglec-15抗体、ビスフォスフォネートのいずれの薬剤によっても著明に減少し、これが骨量増加効果をもたらすことが確認された。特に興味深い点はビスフォスフォネートで治療された場合と比較して、抗Siglec-15抗体で治療された場合には骨量増加の範囲が長軸方向に広い範囲で確認されたことである。成長期の小児では、成長帯直下で形成された一次海綿骨は次第に二次海綿骨にモデリングされるとともに押し出されるように骨幹部の方向に移動してゆく。ビスフォスフォネートで治療された場合はこの海綿骨の移動が遅くなるのに対し、抗Siglec-15抗体ではそのような遅延が生じないことによって広い範囲で骨量増加が効率的に生じると考えられる。この結果は、小児骨粗鬆症において抗Siglec-15抗体がビスフォスフォネートと同等あるいはそれ以上の骨量増加効果を発揮する可能性を示唆するものであり、当該疾患の治療における有用性を示すものであるといえる。
【0218】
骨の成長障害については、上記「A.成長期健常ラットを用いた評価」の成長期健常ラットを用いた実験では、ビスフォスフォネートの投与により長管骨成長障害が生じた一方で、抗Siglec-15抗体の投与ではそのような障害は生じないことが確認された。また、組織学的には、ビスフォスフォネートの投与により成長帯軟骨の吸収や骨幹端部の一次海綿骨及び皮質骨のモデリングに働く破骨細胞が著明に減少した一方で、抗Siglec-15抗体の投与では減少しないことが確認された。この結果より、ビスフォスフォネートは成長帯近傍組織のモデリングに負の影響を及ぼす可能性があることが示唆された。なお、上記「B.小児ステロイド性骨粗鬆症モデルラットを用いた評価」の小児ステロイド性骨粗鬆症モデルラットを用いた実験では、ビスフォスフォネートの投与によって骨幹端付近の骨の形態異常が生じるものの、長軸方向の成長については有意な成長障害は観察されなかった。これは本骨粗鬆症モデルラットではステロイドによって重篤な成長障害が引き起こされ、その影響に比べてビスフォスフォネートによる影響が小さく目立たないものであることによると考えられる。実際に、ビスフォスフォネート高用量投与群では頭胴長や大腿骨長のいずれも低下する傾向が観察されている。
【0219】
ビスフォスフォネート投与による骨幹端付近の骨の形態異常については、実際のヒト小児に対する使用例でも報告されており、長期使用による影響が懸念されている(Michael P,et al.N Engl J Med,2003)。今日までに、小児ステロイド性骨粗鬆症に対するビスフォスフォネート製剤の長期使用に関する効果や安全性について、データはほとんど得られていないため、その使用については十分に注意が必要とされている(Cochrane Database Syst Rev.2007 Oct 17;(4):CD005324.,Marini JC.Nat Rev Endocrinol.2009 May;5(5):241-3.;米国National Institute of Health(https://www.bones.nih.gov/health-info/bone/bone-health/juvenile/juvenile-osteoporosis#a))。
【0220】
一方、上記の結果は、骨の成長帯近傍ではSiglec-15の代償機構が存在すること、また抗Siglec-15抗体による治療は二次海綿骨におけるリモデリング破骨細胞を抑制するが、骨の成長に関わるモデリング破骨細胞は抑制しないことを示すものである。故に、抗Siglec-15抗体療法は小児骨粗鬆症患者にも比較的安全に使用することができ、成長障害、骨構造異常、骨質異常等が生じないきわめて合目的な治療法であるといえる。
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