(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】果実日持ち向上剤液
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20221124BHJP
A23B 7/154 20060101ALI20221124BHJP
A23B 7/157 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A23B7/10 Z
A23B7/154
A23B7/157
(21)【出願番号】P 2018110598
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2017114458
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596177272
【氏名又は名称】株式会社サンアクティス
(73)【特許権者】
【識別番号】000219152
【氏名又は名称】東 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】金山 伸広
(72)【発明者】
【氏名】金山 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】東 順一
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-140365(JP,A)
【文献】特開昭60-114180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00-7/16
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性食品用酸化防止剤を0.03~0.8w/v%の量で含む水溶液から成る果実日持ち向上剤液であって、
6℃において50~250kPaのガス圧を提供する量の炭酸ガスを含み、酸性であ
り、
該水溶性食品用酸化防止剤が、L-アスコルビン酸及びピロ亜硫酸カリウムを組み合わせたものである、果実日持ち向上剤液。
【請求項2】
更に糖質を0.1~1.0w/v%の量で含む請求項1に記載の果実日持ち向上剤液。
【請求項3】
5.5以下のpHを有する請求項1又は2に記載の果実日持ち向上剤液。
【請求項4】
炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸及び水溶性食品用酸化防止剤を含む果実日持ち向上剤であって、
該水溶性食品用酸化防止剤が、L-アスコルビン酸及びピロ亜硫酸カリウムを組み合わせたものであり、
水に溶解させることで請求項1~
3のいずれか一項に記載の果実日持ち向上剤液を提供する、果実日持ち向上剤。
【請求項5】
更に糖質を含む請求項
4に記載の果実日持ち向上剤。
【請求項6】
カットフルーツの表面に請求項1~3のいずれか一項に記載の果実日持ち向上剤液を接触させる工程を包含する、カットフルーツの褐変防止期間を延長する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果実日持ち向上剤液に関し、特にカットフルーツの経時的な鮮度低下を防止する果実日持ち向上剤液に関する。
【背景技術】
【0002】
傷付き易く、過熟し易い果実は、選果場に集積された時点で約2/3が傷んだ部分を有している。そのような果実は不良品であり、そのまま販売することが困難である。傷んだ部分を除去し、カットフルーツとして商品化することも考えられるが、そのためには、少なくとも流通に要する期間は加工時の鮮度、外観を維持する必要があり、十分に日持ちする果実の種類は限られている。
【0003】
例えば、桃、西洋ナシ、バナナ、リンゴ、アボカド、ビワ、ナシ、柿、ネクタリン、ウメ、アンズ、スモモ等の果実は、皮を剥いてカットした後短期間のうちに褐変し、鮮度が低下するため、加工及び流通に要する期間日持ちしない。それゆえ、特に上記果実中の需要の高い桃、西洋ナシ、バナナ、アボガド、ビワはカットフルーツとして商品化することが困難である。
【0004】
特許文献1には、寒天、ゼラチン、ジェランガム、カラギーナン、キサンタンガム及びペクチンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを有効成分として配合することを特徴とする褐変抑制剤が記載されている(請求項1)。褐変抑制剤の適用対象としては、未加熱の果実、野菜、魚介類等が記載されている。この褐変抑制剤は保湿剤を主成分としているが、酸化防止剤を含んでおらず、果実に対する日持ち向上効果が不十分である。
【0005】
特許文献2には、Brix糖度が5以上、酸度が0.2以上、pHが4.6以下の果汁を含むカットフルーツを、当該果汁と実質的に同等の糖度、酸度およびp H を有する保存液中に浸漬することを特徴とするカットフルーツの保存方法が記載されている(請求項1)。この保存方法は、保存期間にわたってカットフルーツを保存液に浸漬しておく必要があり、流通時の商品運搬作業、包装作業が繁雑になる。
【0006】
特許文献3には、45~1分間加熱水蒸気処理後、1分間冷水に浸漬し、果皮を擦り落として12分割した桃、ネクタリン、アプリコットの果実を1~2w/v%の食塩、0.4~0.5w/v%アスコルビン酸、二酸化硫黄(SO2)換算で300~1000ppm(w/vの濃度換算*で0.0445~0.1484w/v%)のピロ亜硫酸ナトリウムを含む水溶液に2分間浸漬することにより果実の褐変を防止する方法が記載されている(請求項1)。ピロ亜硫酸ナトリウムの濃度は、桃果実では0.0445~0.0742w/v%、アプリコットでは0.1187~0.1484w/v%が適当であるとされている。
【0007】
この方法は、加熱処理で生果実の果皮に存在する褐変に関係する酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ等)が熱失活することと、残存する酵素の作用をピロ亜硫酸ナトリウムが阻害する作用を期待しており、剥皮した生果実の褐変を阻害するためには不十分であり、現実的でない。また、加熱処理を含むので、果肉が熱変性し軟弱化するとともに、食塩を含む液に浸漬するために、処理した果実は塩っぽいので、カットフルーツへの利用はできない。
【0008】
ピロ亜硫酸ナトリウムは、式
【0009】
[化1]
Na2S2O5 → Na2O + 2SO2 (1)
【0010】
に示される通り、二酸化硫黄を発生させる。式(1)中、Na2S2O5の分子量は190.107であり、SO2の分子量は64.066である。
【0011】
1gのピロ亜硫酸ナトリウムから二酸化硫黄の発生量は以下の通り計算される。
【0012】
[数1]
二酸化硫黄の発生量(g)=2×64.066/190.107=0.674
【0013】
ピロ亜硫酸カリウム(分子量222.32)の場合は1gから同様に、128.132/222.32=0.576(g)の二酸化硫黄が発生すると計算される。
【0014】
特許文献4には、リンゴの3品種(赤及びゴールデン・デリシャス、ニュートンリンゴ)、ナシ、桃及びニンジンを剥皮し、カット加工した果実をpH4~7.5の高濃度(3.5~10w/v%)のビタミンC水溶液に1.5~2分間浸漬あるいは噴霧して同様の時間放置することによる褐変の防止法が記載されている。処理温度は55°F(12.78℃)で、リンゴの場合は0.25w/v%の食塩を単独か0.08w/v%のソルビン酸カリウムを併用した方が望ましい。桃の場合の浸漬液はビタミンC、食塩及びソルビン酸カリウムの濃度がそれぞれ4.6w/v%、0.26w/v%及び0.12w/v%で、pH5.3に調整した水溶液を利用する。浸漬したカット果実は高密度ポリエチレンのトレーに入れ、酸素透過性のフィルムで包装し、35~37°F(1.67~2.78℃)で保存した。リンゴの場合では1~2週間は香りとテクスチァーを維持できた。加工後日持ちが悪いことで知られているナシでは保存期間は1日であった。
【0015】
非特許文献1には、剥皮したりんご、桃果実やにんじんをα-シクロデキストリン、0.25%の食塩と3.5%あるいは5.5%のビタミンCを含むpHが4~7.5の液に1.5~2分間浸漬すると果汁の褐変が抑制されることが記載されている。マルトシル-β-シクロデキストリンはα-シクロデキストリンに次ぐ作用が認められているが、β-シクロデキストリンでは酵素的褐変を防止することはできなかった。いずれも果汁の褐変防止が目的であり、果実そのものの褐変防止策を目的としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2010-268689号公報
【文献】特開2004-129625号公報
【文献】米国特許第2475838号
【文献】米国特許第4011348号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Jose M. Lopez-Nicolas, Antonio J. Perez-Lopez, Angel Carbonell-Barrachina, and Francisco Garcia-Carmona, Use of natural and Modified cyclodextrins as inhibiting agents of peach juice enzymatic browning, J. Agric. Food Chem., 2007, 55, 5312-5319.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、カットフルーツの褐変を従来よりも長期間防止することができる果実日持ち向上剤液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、水溶性食品用酸化防止剤を0.03~0.8%の量で含む水溶液から成る果実日持ち向上剤液であって、6℃において50~250kPaのガス圧を提供する量の炭酸ガスを含み、酸性である果実日持ち向上剤液を提供する。
【0020】
ある一形態において、上記果実日持ち向上剤液は、更に糖質を0.1~1.0w/v%の量で含む。
【0021】
ある一形態においては、前記水溶性食品用酸化防止剤が、L-アスコルビン酸及びピロ亜硫酸カリウムから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0022】
ある一形態においては、前記水溶性食品用酸化防止剤が、L-アスコルビン酸及びピロ亜硫酸カリウムを組み合わせたものである。
【0023】
また、本発明は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸及び水溶性食品用酸化防止剤を含む果実日持ち向上剤であって、水に溶解させることで上記いずれかの果実日持ち向上剤液を提供する、果実日持ち向上剤を提供する。
【0024】
ある一形態においては、前記果実日持ち向上剤は、更に糖質を含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明の果実日持ち向上剤液は、カットフルーツの褐変を従来よりも長期間防止することができ、そのため、加工及び流通に要する期間にわたってカットフルーツの鮮度を維持することができる。それゆえ、傷付き易く、過熟し易いために、従来カットフルーツとして商品化することが不可能であった果実も商品化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】カットした白桃を常温下30分間大気中で放置した後の外観を示す写真であり、(a)は未処理品、(b)は実施例1の手順に従って日持ち向上剤に浸漬処理した品である。
【
図2】実施例2のカットした桃果実の外観を示す写真であり、(a)は処理後包装した状態、(b)は処理後包装しないで3日間冷蔵保存後の状態、(c)は処理後包装して6日間冷蔵保存後の状態である。
【
図3】実施例3のカットした西洋ナシの外観を示す写真であり、(a)は処理直後の状態であり、(b)は処理後3日間冷蔵保存後の状態である。
【
図4】実施例4のカットしたバナナの外観を示す写真であり、(a)は未処理のまま3日間冷蔵保存後の状態であり、(b)は処理後3日間冷蔵保存後の状態である。
【
図5】実施例5のカットした桃の外観を示す写真であり、(a)は処理後5ヶ月間真空パック袋内で冷凍保存後冷蔵庫中で解凍した状態であり、(b)処理後5ヶ月間真空パック袋内で冷凍保存後果実日持ち向上剤液に浸漬した状態で解凍した状態である。
【
図6】実施例6のカットした桃の外観を示す写真であり、(a)は処理後1年間真空パック袋内で冷凍保存後冷蔵庫中で解凍した状態であり、(b)処理後1年間真空パック袋内で冷凍保存後果実日持ち向上剤液に浸漬した状態で解凍した状態である。
【
図7】実施例7のカットした桃の外観を示す写真であり、(a)は処理後被覆前の状態であり、(b)は処理後被覆後5日間冷蔵庫保存した状態である。
【
図8】参考例1のカットした桃の外観を示す写真であり、(a)は処理後2日間冷蔵庫保存した状態であり、(b)は未処理のまま2日間冷蔵保存後の状態である。
【
図9】参考例2のカットした桃の外観を示す写真であり、処理後2日間冷蔵庫保存した状態である。
【
図10】参考例3のカットした桃の外観を示す写真であり、処理後2日間冷蔵庫保存した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の果実日持ち向上剤液は、溶媒としての水中に食品用酸化防止剤及び炭酸ガスを含有する。果実日持ち向上剤液の溶媒としての水は人が飲んで安全なものであれば足り、例えば、水道水及び蒸留水などを使用できる。
【0028】
食品用酸化防止剤は、食品衛生法第10条に基づいて厚生労働大臣の指定を受けた添加物(指定添加物)に含まれる酸化防止剤をいう。食品用酸化防止剤の具体例には、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、エリソルビン酸(イソアスコルビン酸)、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、ピロ亜硫酸力リウム及びピロ亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも好ましいものは、L-アスコルビン酸及びピロ亜硫酸カリウムである。
【0029】
食品用酸化防止剤は0.03~0.8w/v%の量で含有される。食品用酸化防止剤の含有量が上記範囲内にあることでカットフルーツの褐変が長期間防止され、日持ち向上効果が十分になる。食品用酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.07~0.5w/v%、より好ましくは0.1~0.3w/v%である。
【0030】
食品用酸化防止剤としてL-アスコルビン酸を使用する場合、その含有量は0.005~0.05w/v%、好ましくは0.01~0.04w/v%、より好ましくは0.015~0.03w/v%である(参考例1)。食品用酸化防止剤としてピロ亜硫酸カリウムを使用する場合、その含有量は0.01~0.5w/v%、好ましくは0.03~0.3w/v%、より好ましくは0.1~0.2w/v%である(参考例2)。
【0031】
炭酸ガスは、炭酸飲料の製造に使用することができる純度の二酸化炭素をいう。炭酸ガスは、6℃の水温において約50~約250kPaのガス圧を提供する量で使用される。炭酸ガスの含有量が上記範囲内にあることでカットフルーツの褐変が長期間防止され、日持ち向上効果が十分になる。炭酸ガスの含有量は、好ましくは、6℃の水温において、約80~約170kPa、より好ましくは約100~約130kPaのガス圧を提供する量である。
【0032】
炭酸ガスは、二酸化炭素を水中に溶解することで含有させて良く、又は水中で化合物の二酸化炭素生成反応を行うことで含有させてもよい。水中で反応することにより二酸化炭素を発生させる化合物には、炭酸水素塩及び炭酸塩等がある。これらは水中で酸と反応した場合に、二酸化炭素を発生させる。炭酸水素塩の具体例には炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。炭酸塩の具体例には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。酸の具体例には、クエン酸、酢酸、塩酸などが挙げられる。
【0033】
水中で化合物の二酸化炭素生成反応を行うことで炭酸ガスを含有させる場合、本発明の日持ち向上剤液は、使用する前までは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸及び水溶性食品用酸化防止剤を含み、水を含まない果実日持ち向上剤(即ち、中間剤)として保管、流通させることができる。本発明の果実日持ち向上剤は、本発明の果実日持ち向上剤液が含有する成分を全て含有し、加えて、水中で反応することにより二酸化炭素を発生させる化合物及び酸を含有する。
【0034】
本発明の果実日持ち向上剤液は、更に、糖質を含んでよい。糖質とは、食物繊維を除く炭水化物をいう。糖質の種類は、食品添加物であれば特に限定されない。糖質の具体例には、ジーランガム、ペクチン等の多糖類及びシクロデキストリン、トレハロース等のオリゴ糖類が挙げられる。
【0035】
糖質は0.1~1.0w/v%の量で含有される。糖質の含有量が上記範囲内にあることでカットフルーツの果肉の経時的な安定性が強化され、日持ち向上効果が十分になる。糖質として食品用トレハロースを用いると処理後香り・味に変化をもたらすこと無く、見栄えがソフトになり、日持ち効果も増進される。その含有量は、好ましくは0.07~0.5w/v%、より好ましくは0.1~0.3w/v%である(参考例3)。
【0036】
本発明の果実日持ち向上剤液は、好ましくは、水溶性無機塩を実質的に含まない。水溶性無機塩は塩味、苦味が強いので、処理後の果実の味に悪影響を与える。水溶性無機塩の具体例としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。実質的に含まないとは、果実日持ち向上剤液に浸漬した場合に、果実の味が変化する程度の量で含まないことをいう。
【0037】
本発明の果実日持ち向上剤は食品用固体状の粉末で、水に溶かした液(日持ち向上剤液)は酸性である。本発明の果実日持ち向上剤液がアルカリ性であると、処理した果実は軟化し変色する。
【0038】
本発明の果実日持ち向上剤液は、好ましくは5.5以下のpH、より好ましくは4~5のpHを有する。本発明の果実日持ち向上剤液のpHは、食品添加物である酸、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、リン酸、塩酸などを添加することにより調節される。
【0039】
本発明の果実日持ち向上剤を使用する場合、まず水に可溶化して果実日持ち向上剤液を作製する。次いで、剥皮し、適当な大きさにカットした果実の表面全体に本発明の果実日持ち向上剤液を接触させる。本発明による果実日持ち向上剤液は、果実の表面に塗布、噴霧してよく、果実を浸漬し、引き上げることで接触させてよい。その際に、果実日持ち向上剤液は一般に2~10℃、好ましくは2~7℃、より好ましくは2~3℃の温度に調節しておく。
【0040】
カットした果実は、カットしてから約30~60秒が経過する前に日持ち向上剤液に接触させることが好ましい。また、カットした果実を果実日持ち向上剤液に浸漬する場合は、浸漬時間は約30~60秒以内に制限することが好ましい。
【0041】
本発明の果実日持ち向上剤(液)で処理される果実としては、例えば、桃、西洋ナシ、バナナ、リンゴ、アボカド、ビワ、ナシ、柿、ネクタリン、ウメ、アンズ、スモモ等が好ましい。上記果実中でも、特に、桃、西洋ナシ、バナナ、ビワは鮮度寿命が短く、処理による効果が顕著に現れるため好ましい。
【0042】
本発明の果実日持ち向上剤液を使用して表面処理したカットフルーツは、例えば、乾燥防止のためにクリーンカップ容器に入れて、2~5℃の冷蔵庫で保存した場合、長期間保存することができ、褐変が発生しない。褐変が発生しない期間は、最低約3日、長いもので約6日である。クリーンカップ容器を防曇性で微生物の侵入のない気体制御保持機能を有する透明フィルムを用いて包装することにより、2~5℃の冷蔵庫で保存した場合、さらに褐変が発生しない状態で長期間保存することができる。褐変が発生しない期間は、最低6日、長いもので10日である。果実日持ち向上剤を使用後、ゲル状物質で被覆すれば食材としての外観は向上する。
【0043】
本発明の果実日持ち向上剤を使用して調製した液を用いて表面処理したカットフルーツは、例えば、真空パック袋に入れて-20~40℃の冷凍庫で急速冷凍し、-20~30℃の冷凍庫中で保存した場合、長期間保存することができる。褐変が発生しない冷凍保存期間は最低5か月、長いもので1年である。冷凍保存したカットフルーツは解凍することで、加工時の鮮度、外観を維持した状態に復元される。冷凍保存したカットフルーツの解凍は、本発明の果実日持ち向上剤液に浸漬した状態で行うことが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0045】
<実施例1>
水道水を密閉されていない容器に入れ、冷蔵庫中で水温を約6℃に調節した。これに表1に示す成分を所定の濃度になる量で溶解させて、日持ち向上剤液を得た。
【0046】
【0047】
得られた日持ち向上剤液は、液温約6℃において炭酸ガス圧約120kPa、pH4.5を示した。
【0048】
白桃(和歌山県産「清水白桃」(商品名))の果実を剥皮し、花梗部を切取り1/8大に縦にカットした。カットした白桃は、カットしてから速やか(約30~60秒経過前)に、約6℃の日持ち向上剤液に浸漬し、約30~60秒静置し、日持ち向上剤液から引き上げた。引き上げた白桃は、キッチンペーパー等で果実についた溶液を拭き取った後に、乾燥防止のために、蓋付きのPET製クリーンカップ容器に入れて5℃の冷蔵庫で3日間保存した。冷蔵保存後の白桃を目視観察したところ、褐変は認められなかった。容器の密閉が甘いとカット白桃に乾燥による変性が認められた。
【0049】
<実施例2>
実施例1と同様にして剥皮した桃果実(長野県産「日川白鳳」)を剥皮、カット、日持ち向上剤液に浸漬した後、PET製クリーンカップ容器に入れ、さらに防曇性で微生物の侵入のない気体制御保持機能を有する通気性透明フィルム(例えば、フタムラ化学(株)製ポロフレッシュ)を用いて包装することにより2℃の冷蔵庫で保存した場合、褐変が発生しない状態でさらに長期間保存することができた。褐変が発生しない期間は、最低6日である。通気性確保のためにレーザー処理で微細な微孔(約口径100μm)を空けた包装フィルム(ツミヤマ(株))では容器の密閉が甘いとカット白桃に乾燥による変性が認められた。カットした桃果実の外観を
図2に示す。
【0050】
<実施例3>
水道水を密閉されていない容器に入れ、冷蔵庫中で水温を約6℃に調節した。これに表2に示す成分を所定の濃度になる量で溶解させて、日持ち向上剤液を得た。
【0051】
【0052】
得られた日持ち向上剤液は、液温約6℃において炭酸ガス圧約122kPa、pH4.3を示した。
【0053】
白桃の代わりに西洋ナシ(山形県産「ラ・フランス」)を使用し、日持ち向上剤液の組成を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして剥皮し、カット、日持ち向上剤液への浸漬、及び保存を行った。3℃の冷蔵庫で5日間保存した。冷蔵保存後の西洋ナシを目視観察したところ、褐変は認められなかった。カットした西洋ナシの外観を
図3に示す。
【0054】
<実施例4>
白桃の代わりにバナナ(フィリピン産「高地バナナ」(商品名))を使用すること以外は実施例1と同様にして皮剥き、カット、日持ち向上剤液への浸漬、及び保存を行った。冷蔵保存後のバナナを目視観察したところ、褐変は認められなかった。カットしたバナナの外観を
図4に示す。
【0055】
<実施例5>
桃(福島県産「ゆうぞら」)を使用すること以外は実施例3と同様にして剥皮、カット、日持ち向上剤液への浸漬処理を行った。その後、ナイロン製真空パック袋(福助工業(株))に入れて-35℃で急速冷凍し、-20~30℃で冷凍保存した場合、長期間保存することができた。褐変が発生しない冷凍保存期間は最長5か月である。冷凍保存したカットフルーツは氷温近辺の温度で解凍することで、加工時の鮮度、外観を維持した状態に冷凍保存復元された。カットした桃の外観を
図5に示す。
【0056】
<実施例6>
桃(福島県産「ゆうぞら」)を使用して、実施例5と同様に剥皮、カット、日持ち向上剤液への浸漬処理を行った。その後、(内側)ポリエチレン/(外側)ナイロン製の低酸素透過性の真空パック袋(スケーター(株))に入れて-35℃で急速冷凍し、-20~30℃で冷凍保存した場合、はるかに長期間保存することができた。褐変が発生しない冷凍保存期間は最長実験期間の1年である。冷凍保存したカットフルーツは実施例5と同様に解凍することで、加工時の鮮度、外観を維持した状態に冷凍保存復元された。カットした桃の外観を
図6に示す。
【0057】
<実施例7>
桃(山梨県産「みさか白鳳」)を使用して、実施例2と同様に剥皮、カット、日持ち向上剤液への浸漬処理を行った。その後、浸漬したカット果実の約半分を引き続いてパット(例えば、容量約3L)に入れた冷水で洗浄した。水洗後のカット果実は未水洗の果実と同様に、キッチンペーパー等で果実についた溶液を拭き取り、ナパーム・ルージュで表面を被覆したところ、食材としての外観は向上した。2~3℃の冷蔵庫で冷蔵する場合、10日間長期間保存することができた。カットした桃の外観を
図7に示す。
【0058】
<実施例8>
実施例1と同様にして、桃(和歌山県産「白鳳」(商品名)、山梨県産「川中島白桃」(商品名))とりんご(長野県産「サンふじ」(商品名))の果実を剥皮し、カット、日持ち向上剤液への浸漬を行った。その後、浸漬したカット果実の約半分を引き続いて実施例7と同様にして水洗した。水洗前後のカット果実についてピロ亜硫酸カリウムの残存量を二酸化硫黄の濃度(第2版 食品添加物分析法2000 「二酸化硫黄(試験法B))として測定した。
【0059】
また、カット加工後の変色の程度が低く、カット加工品が市販されているパイナップルについても日持ち向上剤液への浸漬前後におけるピロ亜硫酸カリウムの残存量の変化を二酸化硫黄の濃度として分析した。すなわち、パイナップル(フィリピン産ゴールデンパイン(商品名))を実施例1と同様に剥皮し、芯の部分を除去し、果肉の厚さが約1cmのスライス加工品を作成した。このスライス果実を実施例1の日持ち向上液の2倍希釈液に浸漬し、上記したように水洗スライス果実を作成して比較分析した。
【0060】
いちご(福岡県産「あまおう」(商品名))の果実はがく片を除去したが、剥皮、カット加工を行わず日持ち向上剤液への浸漬と水洗を行い、二酸化硫黄としての残留量を測定した。
【0061】
また、西洋ナシ(山形県産「ラ・フランス」)の果実については、剥皮、カット加工後日持ち向上剤液への浸漬と水洗を行ったカット果実について、二酸化硫黄としての残留量を測定した。
【0062】
その結果を表1に示す。水洗の有無を問わず、食品添加物としてのピロ亜硫酸カリウムの残存量は使用基準値(0.030g/kg:第9版食品添加物公定書 厚生労働省消費者庁 2018年02月01日掲載)を満たしている。水洗を施した加工果実では、いずれの場合も二酸化硫黄として定量下限値、0.003g/kg、以下の「検出せず」であることが確認できた。
【0063】
【0064】
<参考例1>
L-アスコルビン酸含有量の調節
食品用L-アスコルビン酸(ビタミンC)を水道水に0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、及び0.05w/v%になる量で溶解し、6種類の処理液を調製した。これらは6℃に冷却した。実施例1と同様にして、カットした白桃を準備し、上記処理液に浸漬し、約30~60秒静置し、処理液から引き上げた。引き上げた白桃は、果実についた溶液を拭き取った後に、蓋付きのPET製クリーンカップ容器に入れて5℃の冷蔵庫で2日間保存した。保存後の白桃の外観を
図8(a)に示す。
【0065】
他方、カットした桃(福岡県産「ちよひめ」)をそのまま、上記処理液に浸漬せず、蓋付きのPET製クリーンカップ容器に入れて5℃の冷蔵庫で2日間保存した。保存後の桃の外観を
図8(b)に示す。
【0066】
L-アスコルビン酸溶液に浸漬せずに保存した場合、果実には褐変が認められた。これに対し、L-アスコルビン酸の0.002~0.05w/v%水溶液に浸漬処理した果実は、未処理のものよりも褐変の程度が明確に軽減された。
【0067】
<参考例2>
ピロ亜硫酸力リウム含有量の調節
食品用L-アスコルビン酸(ビタミンC)を水道水に0.02w/v%になる量で溶解し、追加して、食品用ピロ亜硫酸力リウムを0.05、0.10、0.20、0.30、0.40、及び0.50w/v%になる量で溶解し、6種類の処理液を調製した。これらは6℃に冷却した。実施例1と同様にして、カットした白桃を準備し、上記処理液に浸漬し、約30~60秒静置し、処理液から引き上げた。引き上げた白桃は、果実についた溶液を拭き取った後に、蓋付きのPET製クリーンカップ容器に入れて5℃の冷蔵庫で2日間保存した。保存後の白桃の外観を
図9に示す。
【0068】
L-アスコルビン酸の0.02w/v%及びピロ亜硫酸カリウムの0.05~0.50w/v%併用水溶液に浸漬処理された果実は、L-アスコルビン酸水溶液に浸漬処理されたものよりも褐変の程度が明確に軽減された。尚、ピロ亜硫酸力リウムの代替としてピロ亜硫酸ナトリウムを用いることは可能であるが、日持ち向上作用はピロ亜硫酸力リウムの方が優れている。
【0069】
<参考例3>
トレハロース含有量の調節
食品用L-アスコルビン酸(ビタミンC)を水道水に0.02w/v%になる量で溶解し、食品用ピロ亜硫酸力リウムを0.10w/v%になる量で溶解し、トレハロースを0.05、0.10、0.20、0.50、1.00、2.00w/v%になる量で溶解し、6種類の処理液を調製した。これらは6℃に冷却した。
【0070】
桃(佐賀県産「ちよひめ」(商品名))の果実を剥皮し、実施例1と同様にして、カット、上記処理液に浸漬し、約30~60秒静置し、処理液から引き上げた。引き上げた桃カットフルーツは、果実についた溶液を拭き取った後に、蓋付きのPET製クリーンカップ容器に入れて5℃の冷蔵庫で2日間保存した。保存後の外観を
図10に示す。
【0071】
L-アスコルビン酸の0.02w/v%、ピロ亜硫酸カリウムの0.10w/v%及びトレハロースの0.1~1.0w/v%水溶液に浸漬処理された果実は、しっとり感が出て見栄えが良くなった。