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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】圧電式バルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/02 20060101AFI20221124BHJP
   H02N 2/04 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
F16K31/02 A
H02N2/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018179492
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020051476
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(73)【特許権者】
【識別番号】502254796
【氏名又は名称】有限会社メカノトランスフォーマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100158702
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 卓也
(73)【特許権者】
【識別番号】000204240
【氏名又は名称】株式会社TAIYO
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100158702
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆文
(72)【発明者】
【氏名】松下 忠史
(72)【発明者】
【氏名】徐 世傑
(72)【発明者】
【氏名】水野 義宣
(72)【発明者】
【氏名】樋口 俊郎
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061412(JP,A)
【文献】特開平09-240773(JP,A)
【文献】特開2010-042683(JP,A)
【文献】特開2017-055114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/02
H02N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型圧電素子の変位を利用してバルブの開閉を行う圧電式バルブであって、
外部から供給される圧縮気体を受け入れる気体圧力室を有するバルブ本体と、
弁体、前記弁体の動作に必要な駆動力を変位として発生する積層型圧電素子、前記積層型圧電素子の変位を拡大して前記弁体に作用させる変位拡大機構を有し、前記バルブ本体の内部に配設されるアクチュエータと、を備える圧電式バルブにおいて、
前記積層型圧電素子は、前記アクチュエータに一体化された状態で低透湿性フィルムに表面を覆われ
前記積層型圧電素子は、前記変位拡大機構の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われ、
前記変位拡大機構は、前記積層型圧電素子の変位を拡大する変位拡大部と、前記積層型圧電素子の変位を前記変位拡大部に伝達する変位伝達部を有し、
前記積層型圧電素子は、前記変位伝達部の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われ、
前記バルブ本体の内部に配設されるプレートをさらに備え、前記アクチュエータは前記プレートに固定され、該プレートとともに前記バルブ本体の内部に配設されるものであって、
前記プレートの表面には、前記アクチュエータが前記プレートに固定された際、前記積層型圧電素子の長手方向両側に位置する一対の突条片が設けられ、
前記積層型圧電素子は、前記変位伝達部の表面に貼着され、前記一対の突条片により当該積層型圧電素子の表面に非接触状態に支持される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われることを特徴とする圧電式バルブ。
【請求項2】
前記変位拡大機構は金属材料により形成される一方で、前記プレートには前記積層型圧電素子に給電するための配線がモールドされてなり、
前記配線に接続される前記積層型圧電素子のリード線は、前記変位伝達部の表面後部に貼着される絶縁用低透湿性フィルム上に配置され、
前記積層型圧電素子は、前記リード線上から前記変位伝達部の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われる請求項記載の圧電式バルブ。
【請求項3】
前記積層型圧電素子は、前記変位伝達部を構成するU字状のベース部材の空間内に配設され、前記ベース部材の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われる請求項1又は2に記載の圧電式バルブ。
【請求項4】
前記低透湿性フィルムは、低透湿性材料からなる樹脂フィルムである請求項1乃至のいずれかに記載の圧電式バルブ。
【請求項5】
前記低透湿性フィルムは、低透湿加工を施した樹脂フィルムである請求項1乃至のいずれかに記載の圧電式バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電素子の変位を利用してバルブの開閉を行う圧電式バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層型圧電素子の変位を利用してバルブの開閉を行い、圧縮気体を噴出する圧電式バルブが知られている(特許文献1を参照。)。
【0003】
特許文献1に記載された圧電式バルブは、高速応答性能に優れる積層型圧電素子の特性を利用するものであり、前記積層型圧電素子の小さな変位をテコの原理に基づき拡大する変位拡大機構を備えるものである。
【0004】
前記圧電式バルブは、前記積層型圧電素子に電圧を印加すると、該積層型圧電素子の伸長方向への変位が前記変位拡大機構を介して弁体に伝わり、該弁体を速やかに移動させて開弁する。
また、前記圧電式バルブは、前記積層型圧電素子への電圧印加を解除すると、該積層型圧電素子の原状復帰に伴う復帰力が前記変位拡大機構を介して前記弁体に伝わり、該弁体を速やかに弁座に当接させて閉弁する。
【0005】
ところで、積層型圧電素子は、動作に伴う消費エネルギーが少なく、高速動作に適し、小型である等の優れた特長をもつ。
しかしながら、前記積層型圧電素子は、圧電セラミック層を有するために構造的に脆く、前記圧電式バルブの使用に際し、圧縮気体とともに破損片が噴出するおそれがある。
【0006】
また、前記積層型圧電素子は、高湿環境に弱いため、前記圧電式バルブを高湿環境下で使用する場合には、前記積層型圧電素子に湿気が侵入して該圧電式バルブの寿命が短くなるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明者らは、前記積層型圧電素子の表面をポリオレフィン系樹脂により被覆することを提案した(特許文献2を参照。)。
【0008】
特許文献2に記載された圧電式バルブは、ヤング率が小さく柔軟性に優れる特性を有し、かつ、透湿度が小さく耐水性に優れる特性を有するポリオレフィン系樹脂により覆われる積層型圧電素子を利用するので、当該圧電式バルブの使用に際し圧縮気体とともに前記積層型圧電素子の破損片が噴出することがなく、高湿環境下で使用した場合でも前記積層型圧電素子に湿気が侵入して寿命が短くなるおそれがない。
【0009】
ところが、前記積層型圧電素子の高温・高湿環境下での絶縁抵抗の低下を防ぐため、前記ポリオレフィン系樹脂による被覆層の厚みを増す場合には、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-124695号公報
【文献】特開2016-61412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、使用に際し圧縮気体とともに積層型圧電素子の破損片が噴出したり、高湿環境下で使用した場合でも前記積層型圧電素子に湿気が侵入して寿命が短くなるおそれがなく、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない圧電式バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、
積層型圧電素子の変位を利用してバルブの開閉を行う圧電式バルブであって、
外部から供給される圧縮気体を受け入れる気体圧力室を有するバルブ本体と、
弁体、前記弁体の動作に必要な駆動力を変位として発生する積層型圧電素子、前記積層型圧電素子の変位を拡大して前記弁体に作用させる変位拡大機構を有し、前記バルブ本体の内部に配設されるアクチュエータと、を備える圧電式バルブにおいて、
前記積層型圧電素子は、前記アクチュエータに一体化された状態で低透湿性フィルムに表面を覆われることを特徴とする。
【0013】
本発明は、
前記積層型圧電素子が、前記変位拡大機構の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われる前記低透湿性フィルムは前記積層型圧電素子の表面には貼着されない。
【0014】
本発明は、
前記変位拡大機構が、前記積層型圧電素子の変位を拡大する変位拡大部と、前記積層型圧電素子の変位を前記変位拡大部に伝達する変位伝達部を有し、
前記積層型圧電素子が、前記変位伝達部の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われる
【0015】
本発明は、
前記バルブ本体の内部に配設されるプレートをさらに備え、前記アクチュエータは前記プレートに固定され、該プレートとともに前記バルブ本体の内部に配設されるものであって、
前記プレートの表面には、前記アクチュエータが前記プレートに固定された際、前記積層型圧電素子の長手方向両側に位置する一対の突条片が設けられ、
前記積層型圧電素子が、前記変位伝達部の表面に貼着され、前記一対の突条片により当該積層型圧電素子の表面に非接触状態に支持される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われる
【0016】
本発明は、
前記変位拡大機構が金属材料により形成される一方で、前記プレートには前記積層型圧電素子に給電するための配線がモールドされてなり、
前記配線に接続される前記積層型圧電素子のリード線が、前記変位伝達部の表面後部に貼着される絶縁用低透湿性フィルム上に配置され、
前記積層型圧電素子が、前記リード線上から前記変位伝達部の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われることが好ましい。
【0017】
本発明は、
前記積層型圧電素子が、前記変位伝達部を構成するU字状のベース部材の空間内に配設され、前記ベース部材の表面に貼着される前記低透湿性フィルムにより表面を覆われることが好ましい。
【0018】
ここで、本発明において、低透湿性フィルムとは、厚み1mmの材料の温度40℃、相対湿度95%の環境下における透湿度が0.5g/m・24hr以下の樹脂フィルムをいう。
本発明は、
前記低透湿性フィルムが、低透湿性材料からなる樹脂フィルムであることが好ましい。
前記低透湿性材料からなる樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリオレフィン系樹脂フィルムを用いることができる。
【0019】
本発明は、
前記低透湿性フィルムが、低透湿加工を施した樹脂フィルムであることが好ましい。
前記低透湿加工を施した樹脂フィルムとしては、フッ素等の低透湿剤をコーティングする等、低透湿加工を施した樹脂フィルムを用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の圧電式バルブは、積層型圧電素子が、アクチュエータに一体化された状態で低透湿性フィルムに表面を覆われるので、使用に際し圧縮気体とともに前記積層型圧電素子の破損片が噴出するおそれがなく、高湿環境下で使用した場合でも前記積層型圧電素子に湿気が侵入して寿命が短くなるおそれがない。
【0021】
また、本発明の圧電式バルブは、積層型圧電素子が、従来のようにポリオレフィン系樹脂により表面を覆われるのでなく、前記アクチュエータに一体化された状態で低透湿性フィルムに表面を覆われるので、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない。
【0022】
本発明の圧電式バルブは、積層型圧電素子が、変位拡大機構の表面に貼着されるが当該積層型圧電素子の表面に貼着されない低透湿性フィルムにより表面を覆われることとすれば、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない。
【0023】
本発明の圧電式バルブは、バルブ本体の内部に配設されるプレートをさらに備え、前記アクチュエータは前記プレートに固定され、該プレートとともにバルブ本体の内部に配設されるものであって、前記プレートの表面には、前記アクチュエータが前記プレートに固定された際、前記積層型圧電素子の長手方向両側に位置する一対の突条片が設けられ、前記積層型圧電素子が、変位伝達部の表面に貼着され、一対の突条片により当該積層型圧電素子の表面に非接触状態に支持される低透湿性フィルムにより表面を覆われるので、前記積層型圧電素子と前記低透湿性フィルムが接触しないため、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない。
【0024】
本発明の圧電式バルブは、前記変位拡大機構が金属材料により形成される一方で、前記プレートには前記積層型圧電素子に給電するための配線がモールドされてなり、前記配線に接続される前記積層型圧電素子のリード線が、前記変位伝達部の表面後部に貼着される絶縁用低透湿性フィルム上に配置され、前記積層型圧電素子が、前記リード線上から前記変位伝達部の表面に貼着される低透湿性フィルムにより表面を覆われることとすれば、リード線の金属材料への接触を防ぐことができるとともに、前記リード線が固定されるため前記リード線が微妙な振動で揺れて前記配線との接続部の半田が外れることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】積層型圧電素子の断面図。
図2】圧電式バルブの斜視図。
図3】圧電式バルブの組立分解図。
図4】アクチュエータの説明図。
図5】弁座プレートにアクチュエータを固定した状態の説明図。
図6】圧電式バルブの断面図であって、弁座プレートをバルブ本体内部に配設した状態の説明図。
図7】実施例1の圧電式バルブにおけるアクチュエータの平面図。
図8】低透湿性フィルムの平面図。
図9】実施例2の圧電式バルブにおけるアクチュエータの平面図(その1)。
図10】絶縁用低透湿性フィルムの平面図。
図11】実施例2の圧電式バルブにおけるアクチュエータの平面図(その2)。
図12】実施例2の圧電式バルブにおける弁座プレートにアクチュエータを固定した状態の平面図。
図13図12のA-A断面図。
図14】実施例2の圧電式バルブから噴出するエアの噴出圧特性を示すグラフ。
図15】比較例の圧電式バルブから噴出するエアの噴出圧特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、積層型圧電素子(以下、「圧電素子」という)の代表例であって断面図を示す。
本発明の実施の形態において、圧電素子1は、圧電セラミック層2と内部電極層3を交互に積層した積層体4を有する。前記積層体4は、対向する側面に前記内部電極層3が露出し、前記各側面のそれぞれにおいて前記露出した内部電極層3が一層おきに絶縁層5で被覆され、さらに、前記絶縁層5を覆いかつ前記絶縁層5によって被覆されていない前記内部電極層3と導通する外部電極6を有する。
【0027】
図2は圧電式バルブの斜視図を示す。図3は圧電式バルブの組立分解図を示す。図4はアクチュエータの説明図を示す。図5は弁座プレートにアクチュエータを固定した状態の説明図を示す。図6は圧電式バルブの断面図であって、弁座プレートをバルブ本体内部に配設した状態の説明図を示す。
本発明の実施の形態において、圧電式バルブ10は、バルブ本体20、前記バルブ本体20の内部に配設されるとともに該バルブ本体20に固定される弁座プレート25、前記弁座プレート25の両面にネジで固定されるアクチュエータ30を備える。
【0028】
前記バルブ本体20は、前面が開口するケースであって、内部には外部の圧縮気体供給源(図示せず)から圧縮気体の供給を受ける気体圧力室を備える。
また、前記バルブ本体20の前面には、コネクタ部50が設けられる。前記コネクタ部50の前面には、該バルブ本体20内に圧縮気体を吸入する気体吸入口51及び前記圧縮気体を排出する気体排出口52が開口する。
【0029】
前記バルブ本体20と前記コネクタ部50の間には、圧電素子32に給電するための配線基板55が配設され、前記コネクタ部50の一側端であって前記バルブ本体20の側方位置に、前記配線基板55を介して前記圧電素子32に給電するための配線コネクタ29が配設される。
【0030】
前記弁座プレート25は、前記アクチュエータ30の取り付け部を両面に備えるとともに、前記アクチュエータ30の後述する弁体31が当接する弁座26を有する。また、前記弁座プレート25の前面には、前記ケースの開口を閉鎖する蓋材28が取り付けられる。当該蓋材28には、前記弁座26の弁座面から前記コネクタ部50の前面に開口する前記排出口52へ連通する気体排出路が形成される。さらに、前記蓋材28には、前記コネクタ部50の前面に開口する吸入口51から前記バルブ本体20内に連通する気体吸入路が形成される。
前記弁座プレート25は、例えば合成樹脂材料により成形され、前記配線基板55から前記圧電素子32への配線がモールドされる。
【0031】
前記アクチュエータ30は、図4に示すように、ゴム製好ましくは滑性ゴムの弁体31、該弁体31の動作に必要な駆動力を変位として発生する圧電素子32、前記圧電素子32の変位を拡大して前記弁体31に作用させる変位拡大機構33を備える。
【0032】
前記変位拡大機構33は、前記圧電素子32の変位を拡大する変位拡大部34と、前記圧電素子32の変位を前記変位拡大部34に伝達する変位伝達部35を有し、前記弁体31の動作方向の軸線、ここでは、前記弁体31と前記圧電素子32の長手方向軸線を結ぶ直線(以下、「中心線」という。)に対して対称に配置される。
【0033】
前記変位伝達部35は、前記圧電素子32の一端が接合されるU字状のベース基板36と、前記圧電素子32の他端が接合されるキャップ部材37を有する。前記圧電素子32が前記U字状のベース基板36の空間内に配設されることで、前記変位拡大機構33は前記圧電素子32の長手方向軸線を中心として対称な配置とされる。
【0034】
ここで、前記圧電素子32は、前記U字状のベース基板36の空間内であって該ベース基板36のU字状底部と前記キャップ部材37との間に組み込まれ、前記ベース基板36のU字状底部を塑性変形させることで、前記一端が前記ベース基板36のU字状底部に接合され、前記他端が前記キャップ部材37に接合される。
【0035】
前記変位拡大部34は、前記中心線に対して対称な配置とされる第1及び第2変位拡大部34a,34bから構成される。
前記第1変位拡大部34aは、第1及び第2ヒンジ39,40、第1アーム41及び第1板バネ42を有する。前記第1ヒンジ39の一端は前記U字状のベース基板36の一方側先端に対し一体とされ、前記第2ヒンジ40の一端は前記キャップ部材37に対し一体とされる。前記第1アーム41の外側先端部には、前記第1板バネ42の一端が接合され、該第1板バネ42の他端には前記弁体31の一方側の側端部が接合される。
【0036】
他方、前記第2変位拡大部34bは、第3及び第4ヒンジ43,44、第2アーム45及び第2板バネ46を有する。前記第3ヒンジ43の一端は前記U字状のベース基板36の他方側先端に対し一体とされ、前記第4ヒンジ44の一端は前記キャップ部材37に対し一体とされる。前記第2アーム45の外側先端部には、前記第2板バネ46の一端が接合され、該第2板バネ46の他端には前記弁体31の他方側の側端部が接合される。
ここで、前記変位拡大機構33は、例えばインバー材を含むステンレス材等の金属材料を打ち抜いて一体に成形することができる。
【0037】
上記アクチュエータ30は、閉弁状態において前記圧電素子32に通電すると、当該圧電素子32が伸長する。当該圧電素子32の伸長に伴う変位は、前記変位拡大機構33において、前記第1及び第3ヒンジ39,43を支点、前記第2及び第4ヒンジ40,44を力点、前記第1及び第2アーム41,45の外側先端部を作用点としてテコの原理により拡大され、前記第1及び第2アーム41,45の外側先端部を大きく変位させる。
【0038】
そして、前記第1及び第2アーム41,45の外側先端部の変位は、前記第1及び第2板バネ42,46を介して前記弁体31を前記弁座26から離間させ、前記気体排出路を開放する。
【0039】
他方、上記アクチュエータ30は、前記圧電素子32への通電が解除されると該圧電素子32が収縮し、当該収縮が前記変位拡大機構33を介して前記弁体31を前記弁座26に着座させ、前記気体排出路を閉鎖する。
【0040】
[実施例1]
図7は実施例1の圧電式バルブにおけるアクチュエータの平面図を示す。図8は低透湿性フィルムの平面図を示す。
図7に示すように、実施例1の圧電式バルブにおけるアクチュエータ30は、変位拡大機構33における変位伝達部35の表面に低透湿性フィルム61が貼着され、前記低透湿性フィルム61により圧電素子32の表面が覆われる。
【0041】
図8に示すように、前記低透湿性フィルム61の片面には、当該低透湿性フィルム61が前記変位伝達部35の表面に貼着される際、U字状のベース基板36の表面に貼着されるが前記圧電素子32の表面には貼着されないよう、斜線で示す位置にアクリル系貼着剤塗布層611が設けられている。
そのため、実施例1の圧電式バルブにおけるアクチュエータ30は、前記圧電素子32が、当該圧電素子32の表面に貼着されない前記低透湿性フィルム61により表面を覆われている。
【0042】
なお、前記低透湿性フィルム61は、前記圧電素子32の長手方向前方に位置する前記変位伝達部35のキャップ部材37、及びベース基板36の前記圧電素子32の長手方向後方に位置する表面には貼着されないが、前記低透湿性フィルム61と、前記キャップ部材37及び前記ベース基板36の前記圧電素子32の長手方向後方に位置する表面との間を隙間のない状態とすることで、破損片が噴出することを防止できる。
【0043】
[実施例2]
図9及び図11は実施例2の圧電式バルブにおけるアクチュエータの平面図を示す。図10は絶縁用低透湿性フィルムの平面図を示す。
図9に示すように、実施例2の圧電式バルブにおけるアクチュエータ30は、変位拡大機構33における変位伝達部35の表面後部位置に絶縁用低透湿性フィルム62が貼着される。
図10に示すように、前記絶縁用低透湿性フィルム62の片面には、斜線で示す全体位置にアクリル系貼着剤塗布層621が設けられている。
【0044】
前記アクチュエータ30が取り付けられる弁座プレートには、配線基板55から圧電素子32への配線がモールドされており、前記絶縁用低透湿性フィルム62上に前記アクチュエータ30の変位拡大機構33を構成する金属材料との接触を防ぐよう前記圧電素子32の図示しないリード線が配置され、前記配線と半田により接続される。
【0045】
そして、図11に示すように、前記リード線が微妙な振動で揺れて前記半田が外れないよう、前記リード線上から図8に示す低透湿性フィルム61が前記変位伝達部35の表面に貼着され、前記低透湿性フィルム61により圧電素子32の表面が覆われる。
【0046】
図12は実施例2の圧電式バルブにおける弁座プレートにアクチュエータを固定した状態の平面図を示す。図13図12のA-A断面図を示す。
図12に示すように、弁座プレート25の表面におけるアクチュエータ30の取り付け部には、前記アクチュエータ30が当該弁座プレート25にネジで固定された際、前記圧電素子32と前記変位伝達部35の間であって、前記圧電素子32の長手方向(伸縮方向)両側に隙間を空けて位置する一対の突条片27が設けられる。
【0047】
図13に示すように、前記一対の突条片27は、前記弁座プレート25に固定された前記アクチュエータ30の変位拡大機構33における変位伝達部35のU字状のベース基板36の表面の高さよりも高く形成されている。
そのため、実施例2の圧電式バルブは、前記圧電素子32が、前記一対の突条片27により当該圧電素子32の表面に非接触状態に支持される前記低透湿性フィルム61により表面を覆われている。
【0048】
ここで、本発明の実施の形態において、低透湿性フィルム61とは、厚み1mmの材料の温度40℃、相対湿度95%の環境下における透湿度が0.5g/m・24hr以下の樹脂フィルムをいう。
本発明の実施の形態において、低透湿性フィルム61には、低透湿性材料からなる樹脂フィルム、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリオレフィン系樹脂フィルムを用いることができる。
また、本発明の実施の形態において、低透湿性フィルム61には、フッ素等の低透湿剤をコーティングするなどの低透湿加工を施した樹脂フィルムを用いることもできる。
【0049】
本発明の実施の形態における圧電式バルブは、圧電素子32が、アクチュエータ30に一体化された状態で、変位拡大機構33における変位伝達部35の表面に貼着される低透湿性フィルム61により表面を覆われるので、使用に際し圧縮気体とともに前記圧電素子32の破損片が噴出するおそれがなく、高湿環境下で使用した場合でも前記圧電素子32に湿気が侵入して寿命が短くなるおそれがない。
【0050】
また、本発明の実施の形態における圧電式バルブは、圧電素子32が、従来のようにポリオレフィン系樹脂により表面を覆われるのでなく、アクチュエータ30に一体化された状態で低透湿性フィルム61により表面を覆われるので、前記圧電素子32の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない。
【0051】
さらに、本発明の実施の形態における圧電式バルブは、弁座プレート25の表面におけるアクチュエータ30の取り付け部には、前記アクチュエータ30が前記弁座プレート25にネジで固定された際、圧電素子32の長手方向両側に隙間を空けて位置する一対の突条片27が設けられ、前記圧電素子32が、前記一対の突条片27により当該圧電素子32の表面に非接触状態に支持される低透湿性フィルム61により表面を覆われるので、前記圧電素子32と前記低透湿性フィルム61が接触しないため、前記圧電素子32の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがない。
【0052】
図14は、実施例2の圧電式バルブから噴出するエアの噴出圧特性を示すグラフであって、低透湿性フィルムにより圧電素子の表面が覆われない場合と比較するグラフを示す。
実施例2の圧電式バルブには、低透湿性フィルム61として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート製のフィルムを用いた。また、前記低透湿性フィルム61の圧電素子32の表面からの高さが25μmとなるよう、前記低透湿性フィルム61を変位伝達部35に貼着した。
【0053】
実験は、特開2017-160973号公報の[実施例]に記載された方法に基づいて行われた。実験条件は以下のとおりである。
(1)圧縮エア供給圧力:0.20MPa(大気圧下のゲージ圧値)
(2)駆動電圧:72V
(3)圧縮エア設定流量:52L/min
(4)入力信号:第1プレパルス時間 t1=0.145ms
第1休止時間 t2=0.065ms
第2プレパルス時間 t3=0.450ms
第2休止時間 t4=0.040ms
メインパルス時間 t5=0.300ms
(圧電素子の通電時間:1ms)
(5)エア噴出圧検出位置:気体排出路先端より2mm
【0054】
図14において、破線は、低透湿性フィルムにより圧電素子の表面を覆う実施例2の圧電式バルブの結果を示す。また、実線は、低透湿性フィルムにより圧電素子の表面を覆わない圧電式バルブの結果を示す。
両者を比較した場合、エアの噴出圧特性はほぼ一致しており、実施例2の圧電式バルブでは圧電素子の動きが妨げられていないことが分かる。
【0055】
[比較例]
図15は、特許文献2に記載された、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面が覆われた比較例の圧電式バルブから噴出するエアの噴出圧特性を示すグラフであって、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面が覆われない場合と比較するグラフを示す。
実験は、特開2017-160973号の[比較例]に記載された方法に基づいて行われた。実験条件は以下のとおりである。
(1)圧縮エア供給圧力:0.20MPa
(2)駆動電圧:72V
(3)圧縮エア設定流量:52L/min
(4)入力信号:プレパルス時間 t6=0.152ms
休止時間 t7=0.07ms
メインパルス時間 t8=0.778ms
(圧電素子の通電時間:1ms)
(5)エア噴出圧検出位置:気体排出路先端より2mm
【0056】
図15において、破線は、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面を覆う比較例の圧電式バルブの結果を示す。また、実線は、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面を覆わない圧電式バルブの結果を示す。
両者を比較した場合、比較例の圧電式バルブにおいてエアの噴出圧特性が劣っており、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面を覆うことで、圧電素子の動きが影響を受けていることが分かる。
【0057】
図14及び図15の結果から、本発明の実施の形態における圧電式バルブは、特許文献2に記載された、ポリオレフィン系樹脂により圧電素子の表面が覆われた圧電式バルブと異なり、低透湿性フィルムにより圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがないことが確認できた。
【0058】
本発明は、上記実施の形態に限るものでなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいてその構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の圧電式バルブは、使用に際し圧縮気体とともに積層型圧電素子の破損片が噴出したり、高湿環境下で使用した場合でも前記積層型圧電素子に湿気が侵入して寿命が短くなるおそれがなく、前記積層型圧電素子の動きが妨げられてストロークが小さくなったり、正確な動作をしなくなったりするおそれがないため、極めて有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 積層型圧電素子
2 セラミック層
3 内部電極層
4 積層体
5 絶縁層
6 外部電極
7 リード線
10 圧電式バルブ
20 バルブ本体
25 弁座プレート
26 弁座
27 突条片
28 蓋材
29 配線コネクタ
30 アクチュエータ
31 弁体
32 積層型圧電素子
33 変位拡大機構
34 変位拡大部
35 変位伝達部
36 ベース基板
37 キャップ部
39 第1ヒンジ
40 第2ヒンジ
41 第1アーム
42 第1板バネ
43 第3ヒンジ
44 第4ヒンジ
45 第2アーム
46 第2板バネ
50 コネクタ部
51 気体吸入口
52 気体排出口
55 配線基板
61 低透湿性フィルム
611 アクリル系貼着剤塗布層
62 絶縁用低透湿性フィルム
621 アクリル系貼着剤塗布層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15