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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-22
(45)【発行日】2022-12-01
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/54 20060101AFI20221124BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20221124BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20221124BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C23C16/54
C23C16/50
H05H1/46 L
C23C16/27
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018199522
(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2019143233
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018025726
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】丹上 正安
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-172165(JP,A)
【文献】特開2011-162877(JP,A)
【文献】特開2000-038679(JP,A)
【文献】特開2004-232067(JP,A)
【文献】特開2017-110283(JP,A)
【文献】特開平02-043364(JP,A)
【文献】特開2000-261015(JP,A)
【文献】特開2009-052098(JP,A)
【文献】特開平08-063746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材をプラズマ処理するプラズマ処理室と、
前記プラズマ処理室内にプラズマを発生されるための高周波アンテナと、
前記シート状基材を上下方向に沿って前記プラズマ処理室内に送り出す送り出し機構と、
前記送り出し機構を収容する搬出室と、
前記プラズマ処理室及び前記搬出室の間に設けられて、前記プラズマ処理室及び前記搬出室よりも減圧された減圧室とを備え、
前記送り出し機構が、前記シート状基材と電気的に接続されるとともに、プラズマ処理における負のパルス電圧が印加される送り出しローラを備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記送り出し機構が、前記プラズマ処理室の上方に設けられていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ処理室を通過した前記シート状基材を上下方向に沿って巻き取る巻き取り機構をさらに備え、
前記送り出し機構及び前記巻き取り機構が、前記プラズマ処理室の下方に設けられていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記シート状基材を巻き取る巻き取りローラと、
プラズマ処理された前記シート状基材を前記巻き取りローラにガイドしつつ冷却する冷却ローラとを備えることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記プラズマ処理された前記シート状基材を前記冷却ローラにガイドするガイドローラをさらに備え、
前記ガイドローラが、下降する前記シート状基材の幅方向外側端部を当該シート状基材の幅方向中央部よりも先に受けるように構成されていることを特徴とする請求項4記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記巻き取りローラにより前記シート状基材に加わる張力を検出する張力検出手段と、
前記張力検出手段により検出された張力に基づいて、前記送り出し機構又は前記巻き取りローラの少なくとも一方を制御する制御装置とをさらに備えることを特徴とする請求項4又は5記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記プラズマ処理室に前記シート状基材を加熱するヒータが設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のうち何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記プラズマ処理室の互いに対向する対向壁に前記シート状基材が通過可能なスリットが形成されており、
前記スリットに前記シート状基材の搬送をガイドする一対のガイド板をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至7のうち何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記減圧室が、前記プラズマ処理室に供給される原料ガスとは異種のガスが供給される部屋であることを特徴とする請求項1乃至8のうち何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシート状基材に成膜等のプラズマ処理をするプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ処理装置としては、シート状基材を連続成膜することのできるロール・ツー・ロール方式と呼ばれるものがあり、この方式によれば、カセット・ツー・カセット方式と呼ばれる断続成膜に比べて、成膜速度が速く、生産性の向上を図れる。
【0003】
このロール・ツー・ロール方式のプラズマ処理装置としては、特許文献1に示すように、シート状基材を送り出す送り出しローラと、シート状基材を巻き取る巻き取りローラとを備え、シート状基材を水平方向に沿って搬送しながらプラズマ処理室でプラズマ処理するように構成されたものがある。
【0004】
しかしながら、上述した構成であると、プラズマ処理中にシート状基材がプラズマのイオンエネルギーで加熱されて軟化し、その軟化したシート状基材を撓まないように巻き取りローラによって引っ張られるので、シート状基材が幅方向中央部に向かって縮もうとする。これにより、シート状基材にシワが生じてしまう。かかる問題は、シート状基材が薄い場合により顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-185494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上述した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、生産性の向上を図りつつ、仮にシート状基材が薄い場合であっても、シワの発生を防止できるようにすることその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るプラズマ処理装置は、シート状基材をプラズマ処理するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内にプラズマを発生されるための高周波アンテナと、前記シート状基材を上下方向に沿って前記プラズマ処理室内に送り出す送り出し機構とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成されたプラズマ処理装置によれば、送り出し機構がシート状基材を上下方向に沿ってプラズマ処理室に送り出すので、プラズマ処理中のシート状基材の撓みを低減することができる。
これにより、シート状基材を連続的に送り出すことで生産性の向上を図りつつ、シート状基材に加わる張力を低減させることができるので、仮にシート状基材が薄い場合であっても、シワの発生を防止することができる。
【0009】
前記送り出し機構が、前記プラズマ処理室の上方に設けられていることが好ましい。
このように構成されたプラズマ処理装置によれば、プラズマ処理室の上方に設けられた送り出し機構が、シート状基材を下方に送り出すので、下方から引っ張らなくてもシート状基材は自重で降りていく。
これにより、シート状基材に加わる張力を可及的に小さくすることができ、シワの発生を防止することができる。
【0010】
一方、送り出し機構がプラズマ処理室の上方に設けられている場合、送り出し機構にシート状基材を取り付けたり取り外したりする作業が大変である。
そこで、作業性の向上を図るためには、前記プラズマ処理室を通過した前記シート状基材を上下方向に沿って巻き取る巻き取り機構をさらに備え、前記送り出し機構及び前記巻き取り機構が、前記プラズマ処理室の下方に設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、送り出し機構及び巻き取り機構に対するシート状基材の取り付けや取り外しを容易にすることができる。
【0011】
プラズマ処理されたシート状基材を巻き取りローラによって巻き取る場合には、プラズマ中のイオンエネルギーで加熱されたシート状基材に張力が加わることによりシワが生じやすい。
そこで、プラズマ処理されたシート状基材を巻き取るようにしつつも、シワの発生を防止できるようにするためには、前記シート状基材を巻き取る巻き取りローラと、プラズマ処理された前記シート状基材を前記巻き取りローラにガイドしつつ冷却する冷却ローラとを備えることが好ましい。
このような構成であれば、シート状基材に張力が加わったとしても、巻き取りローラによって巻き取られる前にシート状基材を冷却することでシワの発生を防止することができる。
【0012】
シート状基材にシワが生じてしまうのは、上述したように種々の要因で加熱さているシート状基材を引っ張る際にシート状基材が幅方向中央に向かって縮もうとするからである。
そこで、シート状基材の幅方向中央への縮みを抑えるためには、前記プラズマ処理された前記シート状基材を前記冷却ローラにガイドするガイドローラをさらに備え、前記ガイドローラが、下降する前記シート状基材の幅方向外側端部を当該シート状基材の幅方向中央部よりも先に受けるように構成されていることが好ましい。
ガイドローラがこのような形状であれば、ガイドローラに到達したシート状基材は幅方向外側に引っ張れるので、幅方向中央への縮みを抑えることができ、シワを発生されることなく、シート状基材を冷却ローラに導くことができる。
【0013】
前記巻き取りローラにより前記シート状基材に加わる張力を検出する張力検出手段と、前記張力検出手段により検出された張力に基づいて、前記送り出し機構又は前記巻き取りローラの少なくとも一方を制御する制御装置とをさらに備えることが好ましい。
このような構成であれば、シート状基材を送り出す速度や巻き取る速度をシワが発生しない速度に制御することができる。
【0014】
上述した作用効果がより顕著に発揮される具体的な実施態様としては、前記プラズマ処理室に前記シート状基材を加熱するヒータが設けられている構成が挙げられる。
【0015】
ところで、プラズマ処理室には、送り出し機構により送り出されたシート状基材をプラズマ処理室に搬入するためのスリットや、プラズマ処理されたシート状基材をプラズマ処理室から搬出するためのスリットが形成されている。これらのスリットは、プラズマ処理室に供給される原料ガスの漏れ量を少なくすべく、幅が狭い方が好ましい。
しかしながら、シート状基材を自重で降ろそうとすると、シート状基材がぶれてしまい、スリットに擦れて傷つくという問題が生じる。
そこで、前記プラズマ処理室の互いに対向する対向壁に前記シート状基材が通過可能なスリットが形成されており、前記スリットに前記シート状基材の搬送をガイドする一対のガイド板が設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、シート状基材がぶれたとしても、ガイド板によってシート状基材がスリットに擦れることを防ぐことができ、シート状基材の損傷を防止できる。
【0016】
前記プラズマ処理室に供給される原料ガスとは異種のガスが供給される部屋と、当該部屋と前記プラズマ処理室との間に介在するとともに、当該部屋及び前記プラズマ処理室よりも減圧された減圧室とを備えることが好ましい。
このような構成であれば、両部屋の間に減圧室を介在させているので、原料ガス及び異種のガスが混ざり合うことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、生産性の向上を図りつつ、仮にシート状基材が薄い場合であっても、シワの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
図2】本実施形態に係る第1ガイドローラの構成を示す模式図。
図3】その他の実施形態におけるプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
図4】その他の実施形態におけるプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
図5】その他の実施形態における第1ガイドローラの構成を示す模式図。
図6】その他の実施形態におけるプラズマ処理装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態のプラズマ処理装置100は、例えば燃料電池用セパレータを製造するために用いられるものであり、ここではシート状基材Zに酸やアルカリに対する耐食性を有するガスバリヤ被膜を成膜するものである。
ここでのシート状基材Zは、例えば厚みが20μm程度のアルミニウムであり、ガスバリヤ被膜は、導電性を有し、且つ、酸素及び水蒸気の浸透を抑制する例えば導電性DLC被膜である。ただし、シート状基材Zやガスバリヤ被膜としては、上記のものに限らず、種々のものを選択して構わない。
【0021】
具体的にプラズマ処理装置100は、所謂ロール・ツー・ロール方式のものであり、図1に示すように、シート状基材Zを送り出す送り出し機構10と、送り出されたシート状基材Zをプラズマ処理するプラズマ処理室Xと、プラズマ処理されたシート状基材Zを巻き取る巻き取り機構20とを具備している。
【0022】
送り出し機構10は、シート状基材Zが巻回されてなるコイル材からシート状基材Zを送り出すものであり、コイル材がセットされる送り出しローラ11を少なくとも備えたものである。この送り出しローラ11は、セットされたコイル材と電気的に接続されており、後述のプラズマ処理における負の直流電圧又は負のパルス電圧が図示しないバイアス電源から印加される。
【0023】
この送り出し機構10は、例えばターボン分子ポンプTMPやロータリーポンプRP等を備えた第1排気系E1により排気された搬出室Mに収容されており、この搬出室Mには送り出しローラ11により送り出されたシート状基材Zが通過する第1スリットS1が形成されている。本実施形態の搬出室Mには、例えば窒素ガスが供給されて1Paに保たれているが、供給するガス種や保持する圧力はこれに限るものではない。
【0024】
さらに送り出し機構10は、送り出しローラ11から送り出されたシート状基材Zをスリットに導く複数のガイドローラ12を備えている。これらのガイドローラ12は、回転自在なものであり、ここでは3つのガイドローラ12を示しているが、ガイドローラ12の数はこれに限られるものではないし、必ずしもガイドローラ12を用いる必要はない。
【0025】
然して、本実施形態の送り出し機構10は、プラズマ処理室Xの上方に設けられており、シート状基材Zを下方に送り出すものである。具体的には、上述した搬出室Mがプラズマ処理室Xの上方に位置しており、この搬出室Mの下壁Maに形成された第1スリットS1を通過したシート状基材Zが、鉛直方向に沿って自重で下降して、プラズマ処理室Xに向かうように構成されている。
【0026】
このようにシート状基材Zを自重で下降させると、シート状基材Zがぶれ易く、第1スリットS1に擦れて傷つく恐れがある。そこで、第1スリットS1にはシート状基材Zの搬送をガイドする一対のガイド板Pが設けられている。これらのガイド板Pは、第1スリットS1を通過するシート状基材Zを挟むように対向して設けられており、シート状基材Zの搬送方向、すなわち鉛直方向に沿って第1スリットS1の上方及び下方に延びている。これらのガイド板Pの間隔は、狭すぎるとシート状基材Zがガイド板Pに触れてしまい、広すぎると搬出室Mに供給されたガスが漏れやすくなることから、1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mmである。なお、ガイド板Pの間隔と第1スリットS1の幅とはほぼ等しい。
【0027】
プラズマ処理室Xは、上述した第1排気系E1により排気されており、当該プラズマ処理室Xにプラズマを発生させるための高周波アンテナ3と、当該プラズマ処理室Xに搬送されたシート状基材Zを加熱するヒータ4とが設けられている。このプラズマ処理室Xには、プラズマの原料ガスが供給されて所定の圧力に保持されている。なお、プラズマ処理室Xに供給するガス種や保持する圧力は、後述するものに限るものではなく、適宜変更して構わない。
【0028】
本実施形態では、異なるプラズマ処理を行う2つのプラズマ処理室Xが、シート状基材Zの搬送方向に沿って直列に設けられている。これらのプラズマ処理室Xは、仕切り壁Xaを介して上下に隣り合っており、以下では上側のプラズマ処理室Xを第1プラズマ処理室X1と呼び、下側のプラズマ処理室Xを第2プラズマ処理室X2と呼ぶ。なお、第1プラズマ処理室X1及び第2プラズマ処理室X2は共通の第1排気系E1により排気されているが、別々の排気系を用いて排気しても構わない。また、ここでは第1プラズマ処理室X1の高周波アンテナ3と、第2プラズマ処理室X2の高周波アンテナ3とが、いずれもシート状基材Zの一方の面側(表面側)に設けられているが、第1プラズマ処理室X1の高周波アンテナ3がシート状基材Zの一方の面側(表面側)に設けられ、第2プラズマ処理室X2の高周波アンテナ3がシート状基材Zの他方の面側(裏面側)に設けられていても良い。
【0029】
第1プラズマ処理室X1は、後述する導電性DLC被膜の密着性を向上させるべく、シート状基材Zに核(云わば髪の毛でいう毛根のようなもの)を形成する部屋である。より具体的に説明すると、第1プラズマ処理室X1には例えばメタン等の炭素化合物ガスが原料ガスとして供給されて1Paに保持されており、高周波アンテナ3に図示しない整合器を介して高周波電源5からの高周波電力を印加することで、シート状基材Zの表面近傍には炭素イオンを含む放電プラズマが発生する。そして、上述した送り出しローラ11を介して、負の直流電圧又は負のパルス電圧をシート状基材Zに印加することで、シート状基材Zの表面に炭素イオンが注入されて核が形成される。
【0030】
この第1プラズマ処理室X1は、搬出室Mの下方に位置しており、搬出室Mから下降してきたシート状基材Zが上壁Xbに形成された第2スリットS2を通過して搬入され、核の形成されたシート状基材Zが下壁である仕切り壁Xaに形成された第3スリットS3を通過して搬出されるように構成されている。なお、これらの第2スリットS2及び第3スリットS3には、上述した第1スリットS1と同様、一対のガイド板Pが設けられており、これらのガイド板Pの間隔は、上述した理由で1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mmである。
【0031】
ところで、第1プラズマ処理室X1に供給される原料ガスと、上述した搬出室Mに供給されるガスとは、互いに異なる種類である。そのため、仮に第1プラズマ処理室X1と搬出室Mとが、スリットが形成された仕切り壁を介して隣り合っていると、各部屋の圧力に差がある場合に、圧力の高い部屋のガスがスリットを介して圧力の低い部屋へ流れ込み、異なる種類のガスが混ざり合ってしまう。これにより、例えば原料ガスであるメタンが搬出室Mに流れ込んで場合には、シート状基材Zに上述した負の直流電圧又は負のパルス電圧が印加されることによりプラズマが発生して、シート状基材Zに被膜が形成される。この被膜は、第1プラズマ処理室X1よりも搬出室Mの方が低温であることに起因して絶縁膜となり、後述するガスバリヤ被膜の導電性の低下を招来する。
【0032】
そこで、第1プラズマ処理室X1と搬出室Mとの間には、これらの部屋よりも減圧された第1減圧室D1を介在させている。この第1減圧室D1は、上壁D1aに上述した第1スリットS1が形成されるとともに、下壁D1bに上述した第2スリットS2が形成されており、例えばターボン分子ポンプTMPやロータリーポンプRP等を備えた第2排気系E2により排気されて例えば10-3Paに保たれている。このように第1減圧室D1を第1プラズマ処理室X1や搬出室Mとは異なる圧力に保てるのは、これらの部屋を連通する第1スリットS1や第2スリットS2の幅を極めて狭くするとともに(1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm)、搬出室Mや第1プラズマ処理室X1を排気する第1排気系E1と、第1減圧室D1を排気する第2排気系E2とを別々にしているからである。
これにより、第1プラズマ処理室X1に供給された原料ガスは、第1減圧室D1に流れ込んだとしても第1減圧室D1から排気されるので、搬出室Mには流れ込まず、搬出室Mに供給されたガスは、第1減圧室D1に流れ込んだとしても第1減圧室D1から排気されるので、第1プラズマ処理室X1に流れ込まない。従って、各部屋M、X1に供給されたガスが混ざり合うことを防ぐことができる。これにより、原料ガスであるメタンが搬出室Mに流れ込むことによるシート状基材Zへの絶縁膜の形成を防ぐことができ、後述するガスバリヤ被膜の導電性を担保することができる。
【0033】
第2プラズマ処理室X2は、第1プラズマ処理室X1においてプラズマ処理されたシート状基材Zにガスバリヤ被膜たる導電性DLC被膜を形成する部屋である。より具体的に説明すると、第2プラズマ処理室X2には例えばメタンとアセチレンの混合ガスが原料ガスとして供給されて1Paに保持されており、高周波アンテナ3に図示しない整合器を介して高周波電源5からの高周波電力を印加することで、シート状基材Zの表面近傍には炭素イオンを含む放電プラズマが発生する。このとき、導電性DLC被膜を導電化すべく、ここではヒータ4によって例えば150~400℃にシート状基材Zを下地加熱している。そして、上述した送り出しローラ11を介して、負の直流電圧又は負のパルス電圧をシート状基材Zに印加するとともに、ヒータ4やプラズマ中のイオンエネルギーによりシート状基材Zが追加加熱されることで、シート状基材Zの表面に導電性DLC被膜が形成される。なお、プラズマ中のイオンエネルギーによる加熱は、プラズマ中のイオンがシート状基材Zに注入されることにより、そのイオンの運動エネルギーが熱に変換されることで生じており、シート状基材Zが例えば20μm程度の薄い場合に、シート状基材Zの熱容量が小さく、より加熱が顕著となる。
【0034】
この第2プラズマ処理室X2は、第1プラズマ処理室X1の下方に位置しており、第1プラズマ処理室X1でプラズマ処理されたシート状基材Zが上壁である仕切り壁Xaに形成された第3スリットS3を通過して搬入され、導電性DLC被膜が形成されたシート状基材Zが下壁Xcに形成された第4スリットS4を通過して搬出されるように構成されている。なお、第4スリットS4には、上述した第1スリットS1と同様、一対のガイド板Pが設けられており、これらのガイド板Pの間隔は、上述した理由で1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mmである。
【0035】
このようにプラズマ処理されたシート状基材Z、すなわち導電性DLC被膜が形成されたシート状基材Zは、第2プラズマ処理室X2の下方に設けられた巻き取り機構20によって巻き取られる。
【0036】
巻き取り機構20は、シート状基材Zをコイル状に巻き取る巻き取りローラ21を少なくとも備えたものであり、第2プラズマ処理室X2の下方に位置する巻取室Nに収容されている。この巻取室Nは、上述した第1排気系E1により排気されており、上壁Naには、プラズマ処理されたシート状基材Zが通過する第5スリットS5が形成されている。なお、巻取室Nを排気する排気系は、第1排気系E1と別であっても良い。本実施形態の巻取室Nには、例えば窒素ガスが供給されて1Paに保てれているが、供給するガス種や保持する圧力はこれに限られるものではない。
【0037】
また、巻取室Nと第2プラズマ処理室X2との間には、上述した第1プラズマ処理室X1と搬出室Mとの間と同様、第2減圧室D2を介在させている。この第2減圧室D2は、上壁D2aに上述した第4スリットS4が形成されるとともに、下壁D2bに上述した第5スリットS5が形成されており、例えばターボン分子ポンプTMP等を備えた第3排気系E3により排気されて例えば10-3Paに保たれている。ここでは、第2減圧室D2を第1減圧室D1と共通の第3排気系E3により排気している。なお、第2減圧室D2を第2プラズマ処理室X2や巻取室Nとは異なる圧力に保てる理由は、上述した第1減圧室D1と同様である。
これにより、第2プラズマ処理室X2に供給された原料ガスは、第2減圧室D2に流れ込んだとしても第2減圧室D2から排気されるので、巻取室Nには流れ込まず、巻取室Nに供給されたガスは、第2減圧室D2に流れ込んだとしても第2減圧室D2から排気されるので、第2プラズマ処理室X2に流れ込まない。従って、各部屋X2、Nに供給されたガスが混ざり合うことを防ぐことができる。
【0038】
本実施形態の巻き取り機構20は、第5スリットS5を通過したシート状基材Zを巻き取りローラ21に導く複数のガイドローラ22を備えている。ここでは3つのガイドローラ22を示しているが、ガイドローラ22の数はこれに限られるものではない。以下、これらのガイドローラ22を区別すべく、搬送方向上流側から第1ガイドローラ22a、第2ガイドローラ22b、及び第3ガイドローラ22cと呼ぶ。
【0039】
第1ガイドローラ22aは、第5スリットS5を通過したシート状基材Zを受けて第2ガイドローラ22bにガイドする回転自在なローラである。この第1ガイドローラ22aは、下降するシート状基材Zの幅方向外側端部を当該シート状基材Zの幅方向中央部よりも先に受けるように湾曲している。具体的にこの第1ガイドローラ22aは、図2に示すように、下方に膨出するように弓形状に湾曲した状態を保ちながら回転するものであり、シート状基材Zを幅方向外側に拡げる、或いは、拡げようとするものである。
【0040】
第2ガイドローラ22bは、シート状基材Zを第3ガイドローラ22cにガイドするとともに、シート状基材Zに加わる張力を検出する図示しない張力検出機構を構成するものである。具体的にこの第2ガイドローラ22bは、シート状基材Zに加わる張力に応じて例えば径方向に移動するように構成された所謂テンションローラであり、その移動量を検出する例えばピエゾ素子などの図示しない検出素子とともに張力検出手段を構成している。
【0041】
この張力検出手段により検出された検出張力は、図1に示すように、制御装置6に出力され、その制御装置6が検出張力と予め設定された目標張力とを比較して、検出張力が目標張力に近づくように、例えば送り出しローラ11の回転速度を制御する。なお、制御装置6としては、検出張力が目標張力に近づくように、巻き取りローラ21の回転速度を制御するように構成されていても良い。
【0042】
第3ガイドローラ22cは、シート状基材Zを巻き取りローラ21にガイドしつつ、該シート状基材Zを冷却するための回転自在なローラである。具体的に第3ガイドローラ22cは、内部に例えば水などの冷却液が流れる流路が形成された冷却(水冷)ローラである。
【0043】
このように構成された本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、プラズマ処理室Xの上方に設けられた送り出し機構10が、シート状基材Zを鉛直方向に沿って下方に送り出しており、シート状基材Zは自重で降りていくので、シート状基材Zに加わる張力を可及的に小さくすることができる。
これにより、シート状基材Zが薄い場合にはヒータ4に加えてプラズマ中のイオンエネルギーやバイアス電圧によってイオンが加速されて増大化されたイオンエネルギーによってもシート状基材Zが追加加熱されるものの、プラズマ処理されたシート状基材Zを巻き取るための張力をごく僅かに抑えることができる。その結果、ロール・ツー・ロール方式による生産性の向上を図りつつ、シート状基材Zに形成した膜にシワが発生することを防止することができる。
【0044】
また、第1ガイドローラ22aが、下降するシート状基材Zの幅方向外側端部を当該シート状基材Zの幅方向中央部よりも先に受けるように湾曲しているので、第1ガイドローラ22aに到達したシート状基材Zを幅方向外側に引っ張ることができ、シワの発生を抑えつつシート状基材Zを第2ガイドローラ22bに導くことができる。
【0045】
さらに、第2ガイドローラ22bとしてテンションローラを用いることで、シート状基材Zに加わる張力を検出し、その検出張力に基づいて送り出しローラ11の回転速度を制御しているので、シート状基材Zに加わる張力をシワが発生しない程度に抑えつつ、シート状基材Zを送り出すことができる。
【0046】
加えて、第3ガイドローラ22cとして冷却ローラを用いているので、巻き取りローラ21によって巻き取られる前に、ヒータによる加熱やプラズマ中のイオンエネルギーにより加熱されたシート状基材Zを冷却することができ、シート状基材Zを巻き取る際のシワの発生をより確実に防ぐことができる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、前記実施形態では、2つのプラズマ処理室Xを直列に配置していたが、図3に示すように、プラズマ処理室Xは1つであっても良い。この場合、前記実施形態の第1プラズマ処理室Xで行ったイオン注入が不要であれば、イオン注入の工程を省略しても良い。また、図示していないが3つ以上のプラズマ処理室Xを設けても良い。さらには、搬出室Mにおいてシート状基材Zにプラズマ処理をしても良い。
なお、図3に示すプラズマ処理室Xには、一対の高周波アンテナ3と、各高周波アンテナ3に対向した一対のヒータ4とが設けられており、これらの高周波アンテナ3は、シート状基材Zの一方の面側(表面側)と、他方の面側(裏面側)とに設けられている。これにより、シート状基材Zの表面及び裏面に連続的に成膜することができる。
【0049】
さらに、前記実施形態のプラズマ処理室Xにはヒータ4が設けられていたが、必ずしもプラズマ処理室Xにヒータ4を設ける必要はない。この場合にシート状基材Zが加熱されるのは、シート状基材Zに負の直流電圧又は負のパルス電圧を印加することでシート状基材Zにイオンが注入されるからであり、特にシート状基材Zが例えば20μm程度の薄い場合にはシート状基材Zの熱容量が小さく加熱されやすい。
【0050】
また、送り出し機構10としては、図4に示すように、少なくとも一部、具体的には送り出し機構10を構成するローラの少なくとも1つがプラズマ処理室Xの上方に設けられていれば良い。言い換えれば、例えば送り出しローラ11は、図4に示すように、必ずしもプラズマ処理室Xの上方に位置している必要はない。
【0051】
巻き取り機構20についても同様に、少なくとも一部、具体的には巻き取り機構20を構成するローラの少なくとも1つがプラズマ処理室Xの下方に設けられていれば良く、図4に示すように、例えば巻き取りローラ21は必ずしもプラズマ処理室Xの下方に位置している必要はない。
【0052】
前記実施形態では、第1ガイドローラ22aを下方に膨出するように湾曲したものとして説明したが、図5に示すように、軸方向端部の外径よりも軸方向中央部の外径の方が小さい形状であっても良い。
【0053】
さらに、送り出し機構10は、必ずしもプラズマ処理室Xの上方に設けられている必要はなく、図6に示すように、プラズマ処理室Xの下方に設けられていても良い。つまり、送り出し機構10は、シート状基材Zを上下方向に沿ってプラズマ処理室X内に送り出すものであれば良い。
このような構成であれば、送り出し機構10及び巻き取り機構20がプラズマ処理室Xの下方に設けられているので、これらの送り出し機構10及び巻き取り機構20にシート状基材Zを取り付けたり取り外したりする作業を簡便にすることができる。
【0054】
加えて、プラズマ処理装置は、前記実施形態ではシート状基材を上方から下方に送り出すように構成されていたが、シート状基材を下方から上方に送り出すように構成されていても良い。
つまり、送り出し機構10がプラズマ処理室Xの下方に設けられており、巻き取り機構20がプラズマ処理室Xの上方に設けられていても良い。
【0055】
また、前記実施形態では炭素イオンの注入により核を形成していたが、窒素イオンの注入により核を形成しても構わない。
さらに、核を形成するプラズマ処理を省き、或いは、核を形成するプラズマ処理に加えて、シート状基材の酸化被膜(Al)を除去するプラズマ処理を行っても良い。具体的にかかるプラズマ処理としては、プラズマ処理室Xに例えばアルゴンガスを導入して1Paに保ち、プラズマを発生させることにより酸化被膜を除去するアルゴンガスクリーニングを挙げることができる。
【0056】
そのうえ、前記実施形態では、プラズマ処理したシート状基材を巻き取り機構20によって巻き取っていたが、例えばプラズマ処理されたシート状基材を切断したり、折り畳んだりすれば、必ずしも巻き取り機構20をプラズマ処理装置に備えさせる必要はない。
【0057】
シート状基材は、アルミニウムに限らず、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタニウム(Ti)又はこれらの金属を含むステンレス等の合金のうち、少なくとも1種類の金属を有するものであっても良い。
【0058】
ガスバリヤ被膜は、導電性DLC被膜に限らず、導電性炭素被膜たる導電性アモルファスカーボン被膜であっても良いし、金属カーバイド被膜、金属オキシカーバイド被膜、金属ナイトライド被膜、金属ボライド被膜及び金属シリサイド被膜などであっても良い。
【0059】
ガスバリヤ被膜の形成には、前記実施形態で述べたものに限らず、例えば、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いても良い。
【0060】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
100・・・プラズマ処理装置
X ・・・プラズマ処理室
3 ・・・高周波アンテナ
4 ・・・ヒータ
5 ・・・高周波電源
P ・・・ガイド板
Z ・・・シート状基材
10 ・・・送り出し機構
20 ・・・巻き取り機構
D1 ・・・第1減圧室
D2 ・・・第2減圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6